説明

半導体基板の再生方法、再生半導体基板の作製方法、及びSOI基板の作製方法

【課題】半導体基板の再生に適した方法、半導体基板の再生に適した方法を用いた再生半導体基板の作製方法、及び当該再生半導体基板を用いたSOI基板の作製方法の提供を目的とする。
【解決手段】損傷した半導体領域と絶縁層とを含む凸部が周縁部に存在する半導体基板に対し、絶縁層が除去されるエッチング処理と、半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、半導体材料の酸化の速度及び酸化された半導体材料の溶解の速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域が優先的に除去されるエッチング処理と、レーザ光照射工程と、を行うことで半導体基板を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、半導体基板の再生方法に関する。または、半導体基板の再生方法を利用した再生半導体基板の作製方法、SOI(Silicon on Insulator)基板の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク状のシリコンウエハに代わり、絶縁表面に薄い単結晶シリコン層が設けられたSOI(Silicon on Insulator)基板を使った集積回路が開発されている。絶縁表面上に形成された薄い単結晶シリコン層を用いれば、集積回路を構成する各トランジスタを容易に分離できることに加え、完全空乏型とすることができる。従って、高集積、高速駆動、低消費電力など、付加価値の高い半導体集積回路を実現することができる。
【0003】
SOI基板を作製する方法の一つとして、水素イオン注入剥離法が知られている。水素イオン注入剥離法は、水素イオンを注入した単結晶シリコン基板(ボンド基板)を絶縁層を介して別の基板(ベース基板)に貼り合わせ、その後の熱処理によって単結晶シリコン基板(ボンド基板)をイオン注入領域において分離することで、単結晶シリコン層を得る方法である。上記水素イオン注入剥離法を用いることで、ガラス基板等の絶縁基板上に単結晶シリコン層を有するSOI基板を作製することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−87606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素イオン注入剥離法を用いるSOI基板の作製方法では、一つのボンド基板から複数のSOI基板を作製できるため、SOI基板の作製に占めるボンド基板のコストを圧縮できるというメリットがある。単結晶シリコン層が分離された後のボンド基板に対して再生処理を施すことで、使用後のボンド基板を再度SOI基板の作製に用いることができるためである。
【0006】
ここで、上記水素イオン注入剥離法に用いられるボンド基板の周縁部には、CMP(Chemical Mechanical Polishing)処理に起因したエッジロールオフ(E.R.O.:Edge Roll Off)と呼ばれる領域(エッジロールオフ領域ともいう)が存在する。当該領域は、研磨布によってボンド基板のエッジが研磨されることにより形成されるものである。ボンド基板のエッジロールオフ領域では、その表面が曲面状になっており、ボンド基板の中央部よりも板厚が薄くなっている。
【0007】
水素イオン注入剥離法を用いたSOI基板の作製方法では、ボンド基板とベース基板の貼り合わせを行う。当該貼り合わせは、分子間力やファン・デル・ワールス力をメカニズムとするものであるため、貼り合わせ表面には所定の平坦性が求められる。従って、表面の平坦性が確保できないエッジロールオフ領域では、ボンド基板とベース基板との貼り合わせは行われない。
【0008】
このため、単結晶シリコン層を分離した後のボンド基板において、上記エッジロールオフ領域が存在する半導体基板周縁部には、単結晶シリコン層領域及び絶縁層が凸部として残存することになる。そして、当該凸部は、ボンド基板の再生処理の段階において問題となる。当該凸部と、それ以外の領域(貼り合わせが適切になされた領域)との高低差は、僅か数百nm程度である。しかしながら、CMP処理による表面研磨により当該凸部を除去して新たなボンド基板として再生するには、基板を板厚方向に10μm前後除去しなければならず、ボンド基板の再生回数、使用回数を十分に確保できないという問題を有している。
【0009】
従って、本明細書で開示する本発明の一態様は、上記課題の解決に関し、半導体基板の再生に適した方法、半導体基板の再生に適した方法を用いた再生半導体基板の作製方法、及び当該再生半導体基板を用いたSOI基板の作製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書で開示する本発明の一態様は、イオンの添加等により損傷した半導体領域を優先的、言い換えると選択的に除去することが可能な方法を用いて凸部を除去する。または、上記方法を用いて再生半導体基板を作製し、当該再生半導体基板を用いてSOI基板を作製することに関する。
【0011】
本明細書で開示する本発明の一態様は、損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が周縁部に存在する半導体基板に対し、絶縁層を除去するエッチング処理と、半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理と、損傷半導体領域が優先的に除去された面側から半導体基板にレーザ光を照射するレーザ光照射処理と、を有することを特徴とする半導体基板の再生方法である。
【0012】
また、本明細書で開示する本発明の他の一態様は、イオンの照射及び熱処理を経て一部が半導体層として分離することにより、周縁部に損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が残存した半導体基板に対し、絶縁層を除去するエッチング処理と、半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理と、損傷半導体領域が優先的に除去された面側から半導体基板にレーザ光を照射するレーザ光照射処理と、を有することを特徴とする半導体基板の再生方法である。
【0013】
また、本明細書で開示する本発明の他の一態様は、イオンの照射及び熱処理を経て一部が半導体層として分離することにより、周縁部に損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が残存し、それ以外の領域にも損傷半導体領域が残存する半導体基板に対し、絶縁層を除去するエッチング処理と、半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理と、損傷半導体領域が優先的に除去された面側から半導体基板にレーザ光を照射するレーザ光照射処理と、を有することを特徴とする半導体基板の再生方法である。
【0014】
上記イオンの照射は、質量分離を行わないイオンドーピング法で行うことが好ましい。イオンドーピング装置は廉価で、大面積処理に優れている。また、イオンドーピング装置を用いてHを照射することで、水素イオンを効率よく、半導体基板に添加することができる。
【0015】
また、損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理では、未損傷の半導体領域に対する損傷半導体領域のエッチング選択比が2以上で処理することが好ましい。また、未損傷の半導体領域に対する上記凸部のエッチング選択比が2未満に低下した後でエッチング処理を停止させることが好ましい。
【0016】
また、損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理によって、凸部の接平面と半導体基板の裏面とのなす角が0.5°以下の領域を少なくとも除去することが好ましい。更に、その後に半導体基板の表面を研磨しても良い。
【0017】
また、半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質としては硝酸が好ましく、酸化された半導体材料を溶解する物質としてはフッ酸が好ましく、半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質としては酢酸が好ましい。
【0018】
また、レーザ光照射処理には、パルス発振のレーザだけでなく、連続発振のレーザを用いることもできる。
【0019】
以上の方法を用いて、再生半導体基板を作製することができる。また、該方法で作製された再生半導体基板中にイオンを添加して脆化領域を形成し、絶縁層を介して、再生半導体基板とベース基板を貼り合わせ、熱処理によって再生半導体基板を分離して、ベース基板上に半導体層を形成することにより、SOI基板を作製することができる。
【0020】
なお、本明細書等において、SOI基板とは、絶縁表面上に半導体層が形成された基板を指し、絶縁層上にシリコン層が設けられた構成には限定されない。例えば、ガラス基板上に直接シリコン層が形成された構成や、絶縁層上に炭化シリコン層が形成されたものなども含む。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で開示する発明の一態様では、損傷していない半導体領域または損傷度合いが小さい半導体領域に対して、損傷した半導体領域を優先的に除去することができる。そのため、半導体基板の再生処理において研磨等で除去されていた損失分を抑制することができ、半導体基板の再生回数、使用回数を増加させることができる。
【0022】
また、上記再生半導体基板を用いてSOI基板を作製することで、SOI基板の作製に掛かるコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】半導体基板の再生処理方法を説明する断面図。
【図2】半導体基板の再生処理方法を説明する断面図。
【図3】SOI基板の作製方法を説明する断面図。
【図4】SOI基板の作製方法を説明する断面図。
【図5】SOI基板の作製方法を説明する断面図。
【図6】SOI基板の作製工程を説明する図。
【図7】SOI基板を用いた半導体装置を示す断面図。
【図8】半導体基板の光学顕微鏡写真を示す図。
【図9】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図10】半導体基板の光学顕微鏡写真を示す図。
【図11】半導体基板の光学顕微鏡写真を示す図。
【図12】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図13】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図14】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図15】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図16】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図17】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図18】エッチング時間とエッチング量の関係を示す図。
【図19】半導体基板の光学顕微鏡写真を示す図。
【図20】半導体基板の段差を示すグラフ。
【図21】半導体基板の断面TEM写真を示す図。
【図22】半導体基板の光学顕微鏡写真を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者にとって自明である。従って、発明は、実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本明細書等において、同一または同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する場合がある。
【0025】
(実施の形態1)
本実施の形態では、半導体基板の再生方法について、図1を用いて説明する。
【0026】
図1(A)に再生処理前の半導体基板121(半導体層が分離された後の半導体基板)の構成の一例を示す。
【0027】
半導体基板121の周縁部には凸部126が存在する。当該凸部126は、絶縁層123、未分離の半導体領域125、イオンが添加された半導体領域127を含む。なお、未分離の半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127は、SOI基板の作製工程におけるイオンの添加処理などによって、いずれも損傷し、結晶欠陥やボイドなどを多く含んでいる。このため、未分離の半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127をまとめて、損傷半導体領域と呼ぶことができる。
【0028】
なお、例えば単結晶半導体基板の場合、損傷半導体領域とは、結晶を構成している原子が空間的に規則的に配列されている単結晶半導体領域に対し、イオン等の添加に起因して、結晶を構成している原子の配列(結晶構造)の乱れ、結晶欠陥、または結晶格子の歪み等を一部に含む領域のことをいう。また、未損傷半導体領域とは、イオン等の添加のない単結晶半導体領域と同等の領域のことをいう。
【0029】
上述の凸部126は、半導体基板のエッジロールオフ領域を含んでいる。エッジロールオフ領域は、半導体基板の表面処理(CMP処理)に起因して生じるものである。CMP処理とは、被処理物の表面を化学的・機械的な複合作用により平坦化する処理である。当該エッジロールオフ領域近傍の板厚は、半導体層が分離される前の半導体基板の中央部の板厚と比べて薄くなっており、当該エッジロールオフ領域は、SOI基板の作製の際に貼り合わせが行われない領域となる。その結果、半導体基板121のエッジロールオフ領域には、上記凸部126が残存することになる。
【0030】
なお、半導体基板121の凸部126以外の領域(特に、上記エッジロールオフ領域に囲まれる領域)には、イオンが添加された半導体領域129が存在している。イオンが添加された半導体領域129は、SOI基板の作製工程において形成されるイオンが添加された領域が、半導体層が分離された後の半導体基板121に残存することで形成されるものである。
【0031】
ここで、イオンが添加された半導体領域129は、凸部126における半導体領域(半導体領域125及び半導体領域127)と比較して十分に薄い。また、イオンが添加された半導体領域129は、イオンによる損傷で発生した結晶欠陥等を多く含んでいる。このため、イオンが添加された半導体領域129も、半導体領域125及び半導体領域127と同様に、損傷半導体領域と呼ぶことができる。
【0032】
図1(B)に凸部126を拡大した模式図を示す。凸部126は、上記エッジロールオフ領域に対応する領域と面取部に対応する領域とを含む。本実施の形態では、エッジロールオフ領域を、上記凸部126の表面における接平面と、基準面とのなす角θが0.5°以下となる点が集合した領域をいうものとする。ここで、基準面としては、半導体基板の表面または裏面に平行な平面が採用される。
【0033】
また、面取部を基板の端からの距離が0.2mm未満の領域とし、エッジロールオフ領域をこれより内側の貼り合わせが行われなかった領域と規定することもできる。具体的には、基板の端からの距離が0.2mm以上0.9mm以下の領域をエッジロールオフ領域と呼ぶことができる。
【0034】
なお、面取部はベース基板とボンド基板との貼り合わせには関与しないため、面取部の平坦性は基板の再生処理において問題とならない。一方で、エッジロールオフ領域の近傍はベース基板とボンド基板との貼り合わせに関与する。よって、エッジロールオフ領域の平坦性次第では、再生半導体基板をSOI基板の作製工程に用いることができないこともある。このような理由から、半導体基板の再生処理において、エッジロールオフ領域における凸部126を除去し、平坦性を向上させることが極めて重要となる。
【0035】
半導体基板の再生処理は、少なくとも、絶縁層123を除去するエッチング処理(以下、第1のエッチング処理と呼ぶ)及び、損傷半導体領域を除去するエッチング処理(以下、第2のエッチング処理)の二つのエッチング処理を含む。以下、これらについて詳述する。
【0036】
はじめに、第1のエッチング処理について図1(C)を参照して説明する。第1のエッチング処理は、上述のように、半導体基板121の絶縁層123を除去するエッチング処理である。
【0037】
ここで、絶縁層123は、フッ酸を含む溶液をエッチャントとするウェットエッチング処理によって除去することができる。フッ酸を含む溶液としては、フッ酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤を含む混合溶液(例えば、ステラケミファ社製、商品名:LAL500)などを用いることが好ましい。当該ウェットエッチング処理は、120秒間から1200秒間程度行うことが好ましく、例えば、600秒間程度行うことが好適である。
【0038】
なお、ウェットエッチング処理は、半導体基板121を処理槽内の溶液に浸漬することによって行うことができるため、複数の半導体基板121を一括処理することが可能である。このため、再生処理の効率化を図ることができる。
【0039】
また、第1のエッチング処理として、ドライエッチング処理を行っても良い。また、ウェットエッチング処理とドライエッチング処理とを組み合わせて用いても良い。ドライエッチング処理としては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法などを用いることができる。
【0040】
次に、第2のエッチング処理について説明する。第2のエッチング処理では、損傷半導体領域、すなわち、凸部126を構成する未分離の半導体領域125、イオンが添加された半導体領域127、及び、イオンが添加された半導体領域129を優先的、言い換えると選択的に除去する。
【0041】
より具体的には、半導体材料を酸化する物質と、酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化の速度及び酸化された半導体材料の溶解の速度を制御する物質を含む混合液をエッチャントとしたウェットエッチング処理を行う。当該エッチング処理は、1分間以上10分間以下程度行うことが好ましく、例えば、後述するフッ酸と硝酸と酢酸の体積比が1:3:10の混合液を用いる場合は、2分間以上4分間以下程度行うことが好適である。また、混合液の温度は、10℃以上30℃以下程度とすることが好ましく、例えば、25℃とすることが好適である。
【0042】
ここで、半導体材料を酸化する物質としては、硝酸を用いることが好ましい。また、酸化された半導体材料を溶解する物質としては、フッ酸を用いることが好ましい。また、半導体材料の酸化の速度及び酸化された半導体材料の溶解の速度を制御する物質としては、酢酸を用いることが好ましい。
【0043】
上記エッチャントとして、硝酸(濃度:70重量%)、フッ酸(濃度:50重量%)及び酢酸(濃度:97.7重量%)の混合液を用いる場合、硝酸の体積は、酢酸の体積の0.01倍より大きく1倍未満とし、かつ、フッ酸の体積の0.1倍より大きく100倍未満とし、フッ酸の体積は、酢酸の体積の0.01倍より大きく0.5倍未満とすることが好ましい。例えば、フッ酸と硝酸と酢酸の体積比を1:3:10とすることが好ましい。当該構成を、構成分子のモル比で表現すると、HF:HNO:CHCOOH:HO=2.1:3.3:12:7.5となる。なお、他の分子の構成については、特に限定する必要はない。
【0044】
損傷半導体領域には、イオンの添加に伴って形成された結晶欠陥やボイドなどが存在しており、エッチャントが浸透しやすい。このため、損傷半導体領域では、表面のみでなく、内部からもエッチングが進行することになる。
【0045】
具体的には、エッチングは基板平面に垂直な方向に深い縦穴を形成するように進行し、その縦穴を拡大するように行われる傾向にある。つまり、損傷半導体領域では、低損傷の半導体領域または未損傷の半導体領域と比較して大きなエッチングレートでエッチング処理が進行することになる。
【0046】
具体的には、上記エッチャントを用いた場合の損傷半導体領域のエッチングレートは、未損傷の半導体領域(または低損傷の半導体領域)のエッチングレートの2倍以上となる。すなわち、未損傷の半導体領域(または低損傷の半導体領域)に対する損傷半導体領域のエッチング選択比は2以上になる。
【0047】
ここで、「エッチングレート」とは、単位時間あたりのエッチング量(被エッチング量)をいう。つまり、「エッチングレートが大きい」とは、よりエッチングされやすいことを意味し、「エッチングレートが小さい」とは、よりエッチングされにくいことを意味する。また、「エッチング選択比がとれる」とは、例えば、A層とB層をエッチングする場合に、A層のエッチングレートとB層のエッチングレートに十分な差が存在する条件を意味する。また、低損傷の半導体領域とは、未分離の半導体領域125やイオンが添加された半導体領域127、イオンが添加された半導体領域129等と比較して、相対的に損傷の程度が小さい半導体領域をいう。
【0048】
このように、半導体材料を酸化する物質と、酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化の速度及び酸化された半導体材料の溶解の速度を制御する物質と、を含む混合液をエッチャントとしてウェットエッチング処理を行うことにより、損傷半導体領域を優先的、言い換えると選択的に除去することができる。
【0049】
故に、基板の再生処理において、これまで研磨等により除去されていた損失分を大幅に低減することができ、再生使用回数を増加させることができる。また、ウェットエッチング処理を用いることで、複数の半導体基板121を一括処理することが可能になるため、基板の再生処理の効率化を図ることができる。更に、第2のエッチング処理はCMP処理などに比べて短時間で行うことが可能であり、この点においても基板の再生処理の効率化が達成される。
【0050】
なお、凸部126における損傷半導体領域(半導体領域125及び半導体領域127)の厚さと、それ以外の領域における損傷半導体領域(半導体領域129)の厚さは、大きく異なっている。このため、凸部126(周縁部)と、それ以外の領域(中央部)とのエッチング選択比は、第2のエッチング処理の間において一定ではない。
【0051】
具体的には、次の通りである。まず、第2のエッチング処理を開始した直後は、凸部126及びそれ以外の領域において、いずれも損傷半導体領域がエッチングされることになり、エッチング選択比は1前後となる。そして、凸部126以外の損傷半導体領域(半導体領域129)が除去された後には、当該領域に低損傷の半導体領域または未損傷の半導体領域が現れることになる。そのため、凸部126の損傷半導体領域が優先的に除去されることになり、エッチング選択比は2以上となる。そして、凸部126の損傷半導体領域(半導体領域125、半導体領域127)が除去されると、当該領域にも低損傷の半導体領域または未損傷の半導体領域が表れることになるため、エッチング選択比は再び1前後となる。
【0052】
このように、第2のエッチング処理の間でエッチング選択比は変動するため、この選択比の変化をエッチング終了時の目安とすることが可能である。例えば、エッチング選択比が2未満に低下した段階で、エッチング処理を停止させることで、第2のエッチング処理における不必要なオーバーエッチングを抑制しつつ、損傷半導体領域を除去することができる。
【0053】
なお、エッチング選択比は、所定時間(例えば、30秒、1分など)における凸部126(周縁部)と、それ以外の領域(中央部)のそれぞれの膜厚の減少量を比較して求めたもの(差分値)であっても良いし、瞬間の膜厚の減少量を比較して求めたもの(微分値)であっても良い。
【0054】
次に、半導体基板の表面を平坦化させるレーザ光照射処理について図1(D)を参照して説明する。レーザ光照射処理では、第2のエッチング処理が行われた後に損傷半導体領域が優先的に除去された面側から半導体基板にレーザ光134を照射する。
【0055】
イオン照射によって形成された損傷半導体領域は、深さ方向に一様に形成されていないため、第2のエッチングが終了した段階では、半導体基板の表面平坦性が失われている状態である。
【0056】
表面平坦性が失われている状態では、ボンド基板としての再利用に不具合を生じるため、表面を平坦化させるレーザ光照射処理を行う。
【0057】
レーザ光134としては、例えばパルスレーザを用いることができる。また、擬似CWレーザを用いても良く、例えば、エキシマレーザ、Arレーザ、Krレーザ、COレーザ、YVOレーザ、YLFレーザ、YAlOレーザ、GdVOレーザ、KGWレーザ、KYWレーザ、アレキサンドライトレーザ、Ti:サファイアレーザ、Yレーザ、色素レーザ、半導体レーザ等を用いることができる。なお、疑似CWレーザは、CWレーザと同様にレーザ光が照射されている部分を完全溶融状態に保つことができる。
【0058】
レーザ光134を照射することにより、半導体基板が部分溶融する。なお、部分溶融とは、溶融している部分と、固体の部分がある状態をいう。部分溶融させることによって、溶融領域下部の固体部分が種となり、表面は単結晶に再結晶化する。このとき、製造過程に生じた結晶欠陥は減少し、かつ半導体基板表面は平坦化する。
【0059】
以上により半導体基板121が再生され、図1(E)に示すように再生半導体基板132が完成する。
【0060】
なお、上記第2のエッチング処理によって、イオンが添加された半導体領域129の大部分は除去されることになるが、その一部が残存する場合もある。このような場合には、第2のエッチング処理後に別の表面処理を行ってイオンが添加された半導体領域129を完全に除去することが好ましい。上記表面処理としては、CMP処理を代表とする研磨処理などがある。
【0061】
また、研磨処理やレーザ光の照射処理は、複数回行っても良い。処理工程の順序も限定されず適宜選択することができる。レーザ光の照射に代えて、ランプ光の照射処理を行っても良い。
【0062】
本実施の形態で示したように、第1のエッチング処理で絶縁層を除去した後、半導体材料を酸化する物質と、酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化の速度及び酸化された半導体材料の溶解の速度を制御する物質を含む混合液を用いて第2のエッチング処理を行うことにより、半導体基板の周縁部に残存する損傷半導体領域を優先的に除去することができる。従って、これまで研磨等により除去されていた基板の損失分を大幅に低減することができ、半導体基板の再生回数、使用回数を増加させることができる。
【0063】
また、本実施の形態で示したように、レーザ光照射処理を行うことにより、第1のエッチング処理及び第2のエッチング処理後の半導体基板の表面の平坦性を向上させることができる。
【0064】
また、レーザ光照射処理を行うことにより、半導体基板が部分溶融するため、製造過程に生じた欠陥が減少し、半導体基板の表面の結晶性を向上させることができる。
【0065】
なお、最終の表面処理に研磨処理を行っても良い。該研磨処理の前にレーザ光照射処理を行うことにより、研磨処理による研磨量を低減することができ、レーザ光照射処理を行わない場合と比較して製造コストを低減することができる。
【0066】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0067】
(実施の形態2)
本実施の形態では、半導体基板の再生処理方法の別の一例について、図2を用いて説明する。
【0068】
まず、半導体基板121に、第1のエッチング処理を行う(図2(A)参照)。詳細については実施の形態1を参酌すればよい。これによって、半導体基板121の表面に存在する絶縁層が除去される。
【0069】
次に、半導体基板121に第2のエッチング処理を行う(図2(B)参照)。第2のエッチング処理の詳細についても実施の形態1を参酌できる。これによって、半導体領域125、半導体領域127及び半導体領域129が除去された半導体基板130が形成される。
【0070】
本実施の形態では、第2のエッチング処理の後の半導体基板130に平坦化処理を行い、再生半導体基板132を作製する(図2(C)参照)。これは、図2(B)に示す場合のように、第2のエッチング処理後の半導体基板130表面の平坦性が十分でない場合には、当該半導体基板をSOI基板の作製工程に用いることができないためである。
【0071】
なお、本実施の形態では、第2のエッチング処理で半導体領域129が完全に除去される場合を示しているが、第2のエッチング処理で半導体領域129を十分に除去することができなかった場合には、以下に示す平坦化処理によって残存した半導体領域129を併せて除去すると良い。
【0072】
本実施の形態においては、平坦化処理に研磨処理を用いる手段を説明する。もちろん、実施の形態1で説明したレーザ光照射処理を行っても良い。また、これらの処理を組み合わせても良く、処理の順序や回数も限定されない。また、レーザ光の照射処理に代えてランプ光の照射処理を行うこともできる。
【0073】
半導体基板130の研磨処理としては、CMP処理を用いることが好ましい。
【0074】
例えば、研磨ステージの上に研磨布を貼り付け、被処理物と研磨布との間にスラリー(研磨剤)を供給しながら、研磨ステージと被処理物を各々回転または揺動させることにより行われる。これによって、スラリーと被処理物表面との間の化学反応、及び、研磨布による被処理物の機械的研磨の作用によって、被処理物の表面が研磨される。
【0075】
CMP処理を用いた研磨処理の回数は、1回であっても良いし、複数回としても良い。研磨処理を複数回行う場合には、例えば、高い研磨レートの一次研磨を行った後に、低い研磨レートの仕上げ研磨を行うことが好ましい。一次研磨には、ポリウレタン研磨布を用いることが好ましく、スラリーの粒径は120nm以上180nm以下とし、例えば、150nm程度とすることが好ましい。仕上げ研磨には、スウェード地の研磨布を用いることが好ましく、スラリーの粒径は45nm以上75nm以下とし、例えば、60nm程度とすることが好ましい。
【0076】
このように、上述の再生方法に加えて、半導体基板130にCMP処理を用いた研磨処理を行うことによって、平均表面粗さ0.2nm以上0.5nm以下程度に平坦化された再生半導体基板132を形成することができる。また、研磨レートの異なる複数回の研磨処理を行うことによって、短時間での半導体基板130の平坦化が実現できる。
【0077】
以上の通り、第1のエッチング処理及び第2のエッチング処理で半導体領域125、半導体領域127、及び、半導体領域129を除去した後、CMP処理による表面の研磨処理を行うことで、より平坦性の良好な再生半導体基板132を得ることができる。
【0078】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0079】
(実施の形態3)
本実施の形態に係るSOI基板の製造方法は、ボンド基板である半導体基板から分離させた半導体層をベース基板に接合してSOI基板を製造するものである。そして、半導体層を分離した後の半導体基板に再生処理を施して、ボンド基板として再利用する。以下、本形態に係るSOI基板の製造方法の一例について説明する。
【0080】
はじめに、半導体基板100に脆化領域104を形成し、ベース基板120との貼り合わせの準備を行う工程について説明する。当該工程は、半導体基板100に対する処理に関するものであり、図6に示すSOI基板作製工程図の工程Aに相当する。
【0081】
まず、半導体基板100を準備する(図3(A)、及び図6の工程(A−1)参照)。半導体基板100としては、例えば、シリコンなどの単結晶半導体基板または多結晶半導体基板を用いることができる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(約125mm)、直径6インチ(約150mm)、直径8インチ(約200mm)、直径12インチ(約300mm)、及び直径16インチ(約400mm)サイズの円形のものが代表的である。
【0082】
また、シリコン基板の周縁部には、図3(A)に示すような、欠けやひび割れを防ぐための面取り部が存在する。なお、形状は円形に限られず矩形状等に加工したシリコン基板を用いることも可能である。以下の説明では、半導体基板100として、矩形状の単結晶シリコン基板を用いる場合について示す。
【0083】
なお、半導体基板100の表面は、硫酸過水(SPMともいう)、アンモニア過水(APMともいう)、塩酸過水(HPMともいう)、希フッ酸(DHFともいう)などを用いて適宜洗浄しておくことが好ましい。また、希フッ酸とオゾン水を交互に吐出して半導体基板100の表面を洗浄してもよい。
【0084】
次に、半導体基板100の表面を洗浄した後、半導体基板100上に絶縁層102を形成する(図3(B)及び、図6の工程(A−2)参照)。絶縁層102は、単層だけでなく、複数の絶縁膜の積層でも良い。絶縁層102は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、または窒化酸化シリコン膜などのシリコンを組成に含む絶縁膜を用いて形成することができる。本実施の形態では、一例として、酸化シリコンを絶縁層102として用いる場合について説明する。
【0085】
なお、本明細書等において、酸化窒化シリコン膜とは、その組成として、窒素原子よりも酸素原子の数が多く、ラザフォード後方散乱法(RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry)及び水素前方散乱法(HFS:Hydrogen Forward scattering Spectrometry)を用いて測定した場合に、濃度範囲として酸素が50原子%以上70原子%以下、窒素が0.5原子%以上15原子%以下、シリコンが25原子%以上35原子%以下、水素が0.1原子%以上10原子%以下の範囲で含まれるものをいう。
【0086】
また、窒化酸化シリコン膜とは、その組成として、酸素原子より窒素原子の数が多く、RBS及びHFSを用いて測定した場合に、濃度範囲として酸素が5原子%以上30原子%以下、窒素が20原子%以上55原子%以下、シリコンが25原子%以上35原子%以下、水素が10原子%以上30原子%以下の範囲で含まれるものをいう。但し、酸化窒化シリコンまたは窒化酸化シリコンを構成する原子の合計を100原子%としたとき、窒素、酸素、シリコン、及び水素の含有比率が上記の範囲内に含まれるものとする。
【0087】
酸化シリコンを絶縁層102として用いる場合、絶縁層102はシランと酸素、テトラエトキシシラン(TEOS)と酸素等の混合ガスを用い、熱CVD、プラズマCVD、常圧CVD、バイアスECRCVD等の化学気相成長法によって形成することができる。この場合、絶縁層102の表面を酸素プラズマ処理で緻密化しても良い。
【0088】
また、有機シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコンを絶縁層102として用いても良い。有機シランガスとしては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメチルシラン(TMS)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(TRIES)、トリスジメチルアミノシラン(TDMAS)等のシリコン含有化合物を用いることができる。
【0089】
また、半導体基板100を酸化することで得られる酸化膜で、絶縁層102を形成することもできる。該酸化膜は熱酸化処理で形成することができ、このとき、酸化雰囲気中にハロゲンまたはハロゲンを含むガスを添加しても良い。ハロゲンまたはハロゲンを含むガスとしては、HCl、HF、NF、HBr、Cl、ClF、BCl、F、Brなどから選ばれた一種または複数種のガスを用いることができる。
【0090】
なお、図3(B)では、半導体基板100を覆うように絶縁層102が形成されているが、本実施の形態はこれに限定されない。半導体基板100にCVD法等を用いて絶縁層102を設ける場合は、半導体基板100の一方の面のみに絶縁層102が形成されていても良い。
【0091】
上記酸化膜の形成条件の一例としては、酸素に対しHClを0.5体積%以上10体積%以下(好ましくは3体積%)の割合で含む雰囲気中で、700℃以上1100℃以下(代表的には、950℃程度)で熱処理を行うというものがある。処理時間は0.1時間以上6時間以下、好ましくは0.5時間以上1時間以下とすればよい。形成される酸化膜の膜厚は、10nm以上1100nm以下(好ましくは50nm以上150nm以下)であり、例えば100nmとすることができる。
【0092】
このような、ハロゲン元素を含む雰囲気での熱酸化処理により、酸化膜にハロゲン元素を含ませることができる。ハロゲン元素を1×1017atoms/cm以上1×1021atoms/cm以下の濃度で酸化膜に含ませることにより、外因性の不純物である重金属(例えば、Fe、Cr、Ni、Mo等)が酸化膜中に捕獲されるため、後に形成される半導体層の汚染を防止することができる。
【0093】
また、絶縁層102中に塩素等のハロゲン元素を含ませることにより、半導体基板100に悪影響を与える不純物(例えば、Na等の可動イオン)をゲッタリングすることができる。
【0094】
具体的には、絶縁層102を形成した後に行われる熱処理により、半導体基板100に含まれる不純物が絶縁層102中に析出し、ハロゲン原子(例えば塩素原子)と反応して捕獲される。そのため、当該不純物は絶縁層102中に固定され、半導体基板100の汚染を防ぐことができる。また、絶縁層102はガラス基板と貼り合わせた場合に、ガラスに含まれるNa等の不純物を固定する膜としても機能する。
【0095】
特に、上記プロセスにおいて絶縁層102中に塩素等のハロゲンを含ませることは、半導体基板100の洗浄が不十分である場合や、繰り返し再生処理を施して用いられる半導体基板の汚染除去において有効である。
【0096】
また、酸化処理雰囲気に含まれるハロゲン元素により、半導体基板100の表面の欠陥が終端されるため、酸化膜と半導体基板100との界面の局在準位密度を低減することができる。
【0097】
また、絶縁層102中に含まれるハロゲン元素は、絶縁層102に歪みを形成する。その結果、絶縁層102の水分に対する吸収率が向上し、水分の拡散速度が増加する。つまり、絶縁層102の表面に水分が存在する場合に、当該表面に存在する水分を絶縁層102中に素早く吸収し、拡散させることができる。
【0098】
また、ベース基板として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属などの半導体装置の信頼性を低下させる不純物を含むガラス基板を用いる場合は、絶縁層102に該不純物の半導体層への拡散を防止できる絶縁膜を1層以上含むことが好ましい。このような絶縁膜には、窒化シリコン膜や窒化酸化シリコン膜などがある。該絶縁膜を有する絶縁層102は、バリア膜(ブロッキング膜とも呼ぶ)として機能させることができる。
【0099】
窒化シリコン膜は、例えば、シランとアンモニアの混合ガスを用い、プラズマCVD等の化学気相成長法によって形成することができる。また、窒化酸化シリコン膜は、例えば、シランとアンモニアと一酸化二窒素の混合ガスを用い、プラズマCVD等の化学気相成長法によって形成することができる。
【0100】
例えば、絶縁層102を単層構造のバリア膜として形成する場合、厚さ15nm以上300nm以下の窒化シリコン膜、または窒化酸化シリコン膜で形成することができる。
【0101】
絶縁層102を2層構造のバリア膜として形成する場合、上層にはバリア機能の高い絶縁膜を用いる。上層の絶縁膜は、例えば厚さ15nm以上300nm以下の窒化シリコン膜、または窒化酸化シリコン膜で形成することができる。これらの膜は、不純物の拡散を防止するブロッキング効果が高いが、内部応力が高い。そのため、半導体基板100と接する下層の絶縁膜には、上層の絶縁膜の応力を緩和する効果のある膜を選択することが好ましい。上層の絶縁膜の応力を緩和する効果のある絶縁膜として、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜及び半導体基板100を熱酸化して形成した酸化膜などがある。下層の絶縁膜の厚さは5nm以上200nm以下とすることができる。
【0102】
例えば、絶縁層102をバリア膜として機能させるために、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜と窒化シリコン膜、酸化シリコン膜と窒化酸化シリコン膜、または酸化窒化シリコン膜と窒化酸化シリコン膜などの組み合わせで絶縁層102を形成すると良い。
【0103】
次に、電界で加速されたイオンでなるイオンビームを矢印で示すように絶縁層102を介して半導体基板100に照射し、半導体基板100の表面から所望の深さの領域に脆化領域104を形成する(図3(C)及び、図6の工程(A−3)参照)。脆化領域104が形成される深さは、イオンの平均侵入深さとほぼ同じ深さであり、これは、イオンビームの加速エネルギーとイオンビームの入射角によって調節することができる。イオンビームの加速エネルギーは、加速電圧やドーズ量などにより調節できる。
【0104】
脆化領域104が形成される深さによって、後に半導体基板100から分離される半導体層124の厚さが決定される。脆化領域104が形成される深さは、例えば半導体基板100の表面から10nm以上500nm以下とすることができ、好ましい深さの範囲は、50nm以上200nm以下であり、例えば100nm程度である。なお、本実施の形態では、イオンの照射を絶縁層102の形成後に行っているが、これに限られず、絶縁層102の形成前にイオンの照射を行っても良い。
【0105】
脆化領域104の形成は、イオンドーピング装置を用いたイオンドーピング法で行うことができる。イオンドーピング装置の代表的な例としては、プラズマ中のイオン種を質量分離せず、全てのイオン種を被処理体に照射する非質量分離型の装置が知られている。
【0106】
イオンドーピング装置の主要な構成は、被処理物を配置するチャンバー、所望のイオンを発生させるイオン源、及びイオンを加速し照射するための加速機構である。
【0107】
イオン源は、所望のイオン種を生成するためのソースガスを供給するガス供給装置、ソースガスを励起してプラズマを生成させるための電極などで構成される。プラズマを形成するための電極としては、フィラメント型の電極や容量結合高周波放電用の電極などが用いられる。
【0108】
加速機構は、引出電極、加速電極、減速電極、及び接地電極などの電極と、これらの電極に電力を供給するための電源などで構成される。加速機構を構成する電極には複数の開口やスリットが設けられており、イオン源で生成されたイオンは、電極に設けられた開口やスリットを通過して加速される。なお、イオンドーピング装置の構成は上述したものに限定されず、必要に応じてその構成を変更することができる。
【0109】
本実施の形態では、イオンドーピング装置を用い、水素ガスから生成されるイオンを半導体基板100に添加する場合について説明する。プラズマソースガスとしては、水素または水素を含むガスを供給する。例えば、水素ガスを励起してプラズマを生成し、質量分離せずに、プラズマ中に含まれるイオンを加速し、加速されたイオンを半導体基板100に照射する。
【0110】
上記イオンの添加処理においては、水素ガスから生成されるイオン種(H、H、H)の総量に対してHの割合を50%以上とする。より好ましくは、Hの割合を80%以上とする。プラズマ中のHイオンの割合を高くすることで、半導体基板100に水素イオンを効率良く添加することができる。
【0111】
なお、HイオンはHイオンの3倍の質量を持つことから、同じ深さに水素原子を1つ添加する場合、Hイオンの加速電圧は、Hイオンの加速電圧の3倍にすることが可能である。これにより、イオンの照射工程のタクトタイムを短縮することが可能となり、生産性やスループットの向上を図ることができる。また、同じ質量のイオンを照射することで、半導体基板100の同じ深さに集中させてイオンを添加することができる。
【0112】
イオンドーピング装置は比較的廉価であり、大面積処理に優れているため、イオンドーピング装置を用いてHを照射することで低コスト化、及び生産性向上などの効果を得ることができる。また、イオンドーピング装置を用いた場合には、重金属も同時に半導体基板に添加される場合もあるが、前述したハロゲンを含有する絶縁層102を介してイオンの照射を行うことによって、重金属による半導体基板100の汚染を防ぐことができる。
【0113】
また、脆化領域104の形成は、イオン注入装置を用いて行っても良い。イオン注入装置は、ソースガスをプラズマ励起して生成された複数のイオン種を質量分離し、チャンバー内に配置された被処理体に特定のイオン種を照射する質量分離型の装置である。イオン注入装置を用いる場合には、水素ガスやPHを励起して生成されたHイオン、Hイオン、Hイオンを質量分離して、これらのいずれかを半導体基板100に照射する。
【0114】
イオン注入装置では、半導体基板100に対して単一のイオンを照射することが可能であり、半導体基板100の同じ深さに集中させてイオンを添加することができる。このため、半導体基板100に添加されるイオンのデプスプロファイルはシャープとなり、分離される半導体層の表面平坦性が比較的良好となる。また、その電極構造から、半導体層の重金属による汚染は比較的少ないという特徴を持つ。
【0115】
次に、絶縁層102が形成された半導体基板100を洗浄する工程を行う。この洗浄工程は、純水による超音波洗浄や、純水と窒素による2流体ジェット洗浄などで行うと良い。超音波洗浄としては、メガヘルツ超音波洗浄(メガソニック洗浄)を用いることが好ましい。半導体基板100は、超音波洗浄や2流体ジェット洗浄の後にオゾン水で洗浄しても良い。オゾン水で洗浄することで、有機物の除去と、絶縁層102表面の親水性を向上させる表面の活性化処理を行うことができる。
【0116】
絶縁層102の表面の活性化処理は、オゾン水による洗浄の他、原子ビームまたはイオンビームの照射処理、紫外線処理、オゾン処理、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理またはラジカル処理で行うことができる(図6の工程(A−4)参照)。原子ビームまたはイオンビームを利用する場合には、アルゴン等の不活性ガス中性原子ビームまたは不活性ガスイオンビームを用いることができる。
【0117】
ここで、オゾン処理の一例を説明する。例えば、酸素を含む雰囲気下で紫外線(UV)を照射することにより、被処理体表面にオゾン処理を行うことができる。酸素を含む雰囲気下で紫外線を照射するオゾン処理は、UVオゾン処理または紫外線オゾン処理などとも呼ばれる。酸素を含む雰囲気下において、紫外線のうち200nm未満の波長を含む光と200nm以上の波長を含む光を照射することにより、オゾンを生成させるとともに、オゾンから一重項酸素を生成させることができる。また、紫外線のうち180nm未満の波長を含む光を照射することにより、オゾンを生成させるとともに、オゾンから一重項酸素を生成させることもできる。
【0118】
酸素を含む雰囲気下で、200nm未満の波長を含む光及び200nm以上の波長を含む光を照射することにより起きる反応例を以下に示す。
+hν(λnm)→O(P)+O(P) (1)
O(P)+O→O (2)
+hν(λnm)→O(D)+O (3)
【0119】
上記反応式(1)において、酸素(O)を含む雰囲気下で200nm未満の波長(λnm)を含む光(hν)を照射することにより基底状態の酸素原子(O(P))が生成される。
【0120】
次に、反応式(2)において、基底状態の酸素原子(O(P))と酸素(O)とが反応してオゾン(O)が生成される。
【0121】
そして、反応式(3)において、生成されたオゾン(O)を含む雰囲気下で200nm以上の波長(λnm)を含む光(hν)が照射されることにより、励起状態の一重項酸素O(D)が生成される。
【0122】
酸素を含む雰囲気下において、紫外線のうち200nm未満の波長を含む光を照射することによりオゾンを生成させるとともに、200nm以上の波長を含む光を照射することによりオゾンを分解して一重項酸素を生成する。上記のようなオゾン処理は、例えば、酸素を含む雰囲気下での低圧水銀ランプの照射(λ=185nm、λ=254nm)により行うことができる。
【0123】
また、酸素を含む雰囲気下で、180nm未満の波長を含む光を照射することにより起きる反応例を示す。
+hν(λnm)→O(D)+O(P) (4)
O(P)+O→O (5)
+hν(λnm)→O(D)+O (6)
【0124】
上記反応式(4)において、酸素(O)を含む雰囲気下で180nm未満の波長(λnm)を含む光(hν)を照射することにより、励起状態の一重項酸素(O(D))と基底状態の酸素原子(O(P))が生成する。
【0125】
次に、反応式(5)において、基底状態の酸素原子(O(P))と酸素(O)とが反応してオゾン(O)が生成する。
【0126】
反応式(6)において、生成されたオゾン(O)を含む雰囲気下で180nm未満の波長(λnm)を含む光(hν)が照射されることにより、励起状態の一重項酸素(O(D))と酸素(O)が生成される。
【0127】
酸素を含む雰囲気下において、紫外線のうち180nm未満の波長を含む光を照射することによりオゾンを生成させるとともに、オゾンまたは酸素を分解して一重項酸素を生成する。上記のようなオゾン処理は、例えば、酸素を含む雰囲気下でのXeエキシマUVランプの照射(λ=172nm)により行うことができる。
【0128】
上記200nm未満の波長を含む光を照射することにより、被処理体表面に付着する有機物の化学結合は切断される。そして、オゾンまたはオゾンから生成された一重項酸素により被処理体表面に付着する有機物、または化学結合を切断した有機物などを酸化分解して除去することができる。上記のようなオゾン処理を行うことで、被処理体表面の親水性及び清浄性を高めることができ、接合を良好に行うことができる。
【0129】
酸素を含む雰囲気下で紫外線を照射することによりオゾンが生成される。オゾンは、被処理体表面に付着する有機物の除去に効果を奏する。また、一重項酸素もオゾンと同等またはそれ以上に、被処理体表面に付着する有機物の除去に効果を奏する。オゾン及び一重項酸素は、活性状態にある酸素の例であり、総称して活性酸素とも言われる。上記反応式等で説明したとおり、一重項酸素を生成する際にオゾンが生じる、またはオゾンから一重項酸素を生成する反応もあるため、ここでは一重項酸素が寄与する反応も含めて、便宜的にオゾン処理と称する。
【0130】
次に、ベース基板120に対し、半導体基板100との貼り合わせの準備を行う工程について説明する。当該工程は、ベース基板120に対する処理に関するものであり、図6の工程Bに相当する。
【0131】
まず、ベース基板120を準備する(図6の工程(B−1)参照)。ベース基板120としては、アルミノシリケートガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラスなどの電子工業用に使われる各種ガラス基板の他、石英基板、セラミック基板、サファイア基板などを用いることができる。更に、ベース基板120として単結晶半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板)や多結晶半導体基板(例えば、多結晶シリコン基板)を用いてもよい。例えば、多結晶シリコン基板は、単結晶シリコン基板より安価であり、ガラス基板より耐熱性が高いという利点を有している。
【0132】
ベース基板120としてガラス基板を用いる場合には、例えば、液晶パネルの製造用に開発されたマザーガラス基板を用いることが好ましい。マザーガラスとしては、第3世代(550mm×650mm)、第3.5世代(600mm×720mm)、第4世代(680mm×880mmまたは、730mm×920mm)、第5世代(1100mm×1300mm)、第6世代(1500mm×1850mm)、第7世代(1870mm×2200mm)、第8世代(2200mm×2400mm)、第9世代(2400mm×2800mm)、第10世代(2850mm×3050mm)などのサイズのものが知られている。大面積のマザーガラス基板をベース基板120として用いてSOI基板を製造することで、SOI基板の大面積化が実現できる。SOI基板の大面積化が実現すれば、一度に複数の半導体装置を製造することができ、1枚の基板から製造される半導体装置の取り数が増加するため、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0133】
また、ベース基板120上には、絶縁層122を形成しておくことが好ましい(図6の工程(B−2)参照)。ここで、ベース基板120上に形成する絶縁層122は必須の構成ではないが、バリア膜としても機能する窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、または窒化酸化アルミニウム膜などを形成しておくことが好ましい。バリア膜は、ベース基板120から半導体基板100への不純物の拡散を防ぐことができる。
【0134】
また、絶縁層122は接合層として用いるため、接合不良を抑制するためには絶縁層122の表面を平滑とすることが好ましい。具体的には、絶縁層122の表面の平均面粗さ(Ra)を0.50nm以下、自乗平均粗さ(Rms)を0.60nm以下、より好ましくは、平均面粗さを0.35nm以下、自乗平均粗さを0.45nm以下となるように絶縁層122を形成する。膜厚は、10nm以上200nm以下、好ましくは50nm以上100nm以下の範囲で適宜設定する。
【0135】
貼り合わせを行う前に、ベース基板120の表面を洗浄する。ベース基板120の表面の洗浄は、塩酸と過酸化水素水を用いた洗浄や、メガヘルツ超音波洗浄、2流体ジェット洗浄、オゾン水による洗浄などを用いて行うと良い。また、絶縁層102と同様に、絶縁層122の表面に、原子ビームまたはイオンビームの照射処理、紫外線処理、オゾン処理、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理またはラジカル処理などの表面活性化処理を行ってから貼り合わせを行うと良い(図6の工程(B−3)参照)。
【0136】
次に、半導体基板100とベース基板120を貼り合わせ、半導体基板100を半導体層124と半導体基板121に分離する工程について説明する。当該工程は、図6の工程Cに相当する。
【0137】
まず、上述の工程を経た半導体基板100とベース基板120を貼り合わせる(図4(A)及び、図6の工程(C−1)参照)。ここでは、絶縁層102及び絶縁層122を介して、半導体基板100とベース基板120を貼り合わせるが、絶縁層が形成されていない場合はこの限りでない。
【0138】
貼り合わせは、ベース基板120の端の一箇所に0.1N/cm以上500N/cm以下、好ましくは1N/cm以上20N/cm以下程度の圧力を加えることで実現される。ベース基板120の一部に圧力をかけると、その部分から半導体基板100との接合が始まり、更に自発的に接合が全面に広がってベース基板120と半導体基板100との貼り合わせが完了する。当該貼り合わせは、ファン・デル・ワールス力などを原理とするものであり、室温でも強固な接合状態が形成される。
【0139】
なお、半導体基板100の周縁部にはエッジロールオフ領域が存在し、当該領域では、半導体基板100上に形成された絶縁層102とベース基板120上に形成された絶縁層122が接触しないことがある。また、エッジロールオフ領域より外側(半導体基板100の端寄り)に存在する面取部でも同様である。
【0140】
半導体基板100の作製に用いられるCMP処理では、原理的に半導体基板周縁部の研磨が中央部より早く進む傾向がある。そのため、半導体基板100の周縁部には、半導体基板100の中央部より板厚が薄く、平坦性の低い領域が形成される。当該領域がエッジロールオフ領域である。半導体基板100の端部が面取加工されていない場合であっても、このようなエッジロールオフ領域では、ベース基板120との貼り合わせができないことがある。
【0141】
また、一つのベース基板に複数の半導体基板を貼り合わせる場合には、半導体基板毎に個別の圧力がかかるような機構を用いることが好ましい。この機構を用いることで、半導体基板の厚さが異なっていたとしても、ベース基板と複数の半導体基板を良好に貼り合わせることができる。なお、複数の半導体基板の厚さが異なる場合でも、単一の機構で複数の半導体基板とベース基板とを密着させることができる場合には、この限りでない。
【0142】
ベース基板120に半導体基板100を貼り合わせた後には、接合を強化するための熱処理を行うことが好ましい(図6の工程(C−2)参照)。当該熱処理の温度は、脆化領域104に亀裂を発生させない温度、例えば、200℃以上450℃以下とすることが好ましい。
【0143】
また、この温度範囲で加熱した状態でベース基板120に半導体基板100を貼り合わせることでも同様に接合を強化することができる。なお、上述の熱処理は、搬送等の振動による基板の剥離を防止するため、貼り合わせを行った装置または場所において連続的に行うことが好ましい。
【0144】
なお、半導体基板100とベース基板120とを貼り合わせる際に、接合面にパーティクルなどが付着すると、その部分では貼り合わせが行われない。パーティクルの付着を防ぐためには、半導体基板100とベース基板120との貼り合わせは、気密性が確保された処理室内で行うことが好ましい。更に、半導体基板100とベース基板120とを貼り合わせる際に、処理室内を減圧状態(例えば、5.0×10−3Pa程度)とし、貼り合わせ処理の雰囲気を清浄にするようにしても良い。
【0145】
次いで、熱処理を行うことで、脆化領域104において半導体基板100を分離し、ベース基板120上に半導体層124を形成するとともに、半導体基板121を形成する(図4(B)及び、図6の工程(C−3)参照)。上述のエッジロールオフ領域及び面取部以外の領域では、半導体基板100とベース基板120とは接合されているため、ベース基板120上には、半導体基板100から分離された半導体層124が固定されることになる。
【0146】
ここで、半導体層124を分離するための熱処理の温度は、ベース基板120の歪み点を越えない温度とする。当該熱処理は、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、抵抗加熱炉、またはマイクロ波加熱装置などを用いて行うことができる。
【0147】
RTA装置には、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などがある。GRTA装置を用いる場合には、温度550℃以上650℃以下で、処理時間を0.5分以上60分以内とすることができる。抵抗加熱炉を用いる場合は、温度200℃以上650℃以下で、処理時間を2時間以上4時間以内とすることができる。
【0148】
また、上記熱処理は、マイクロ波などの照射によって行っても良い。具体的には、例えば、2.45GHzのマイクロ波を900W、5分以上30分以下程度で照射することにより、半導体基板100を分離させることができる。
【0149】
半導体層124と半導体基板121には、それぞれイオンが添加された領域である半導体領域129と半導体領域133が残存する。当該領域は、分離前の脆化領域104に対応する。このため、半導体領域129及び半導体領域133は、多くの水素を含み、多くの結晶欠陥が存在する。
【0150】
また、半導体基板121の貼り合わせが行われなかった領域(具体的には、半導体基板100のエッジロールオフ領域及び面取部に対応する領域)は、凸部126になる。凸部126は、イオンが添加された半導体領域127、未分離の半導体領域125、及び絶縁層123で構成されている。半導体領域127は、半導体領域129などと同様に脆化領域104の一部であったものであるため多くの水素を含み、多くの結晶欠陥を有する。また、半導体領域125は、半導体領域127などと比較して水素の含有量は小さいが、イオンの添加などで生成した結晶欠陥を含んでいる。
【0151】
次に、ベース基板120に貼り合わせられた半導体層124の表面を平坦化し、結晶性を回復する工程について説明する。当該工程は、図6の工程Dに相当する。
【0152】
ベース基板120に密着された半導体層124上の半導体領域133は、結晶欠陥を含む脆化領域104の一部であったものであり、平坦性が損なわれている。よって、半導体領域133を研磨などによって除去し、半導体層124の表面を平坦化しても良い(図4(C)及び、図6の工程(D−1)参照)。
【0153】
平坦化は必須ではないが、平坦化を行うことで、半導体層と、後に半導体層表面に形成される層(例えば、絶縁層)との界面の特性を向上させることができる。具体的に研磨は、CMP処理または液体ジェット研磨などにより行うことができる。ここで、半導体領域133を除去する際に半導体層124の一部も研磨され、半導体層124が薄膜化されることもある。
【0154】
また、半導体領域133をエッチングによって除去し、半導体層124を平坦化することもできる。上記エッチングには、例えば、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)エッチング法、平行平板型(容量結合型)エッチング法、マグネトロンプラズマエッチング法、2周波プラズマエッチング法またはヘリコン波プラズマエッチング法等のドライエッチング法を用いることができる。なお、上記研磨と上記エッチングの両方を用いて、半導体領域133を除去し、半導体層124の表面を平坦化してもよい。
【0155】
また、上記研磨及び上記エッチングにより、半導体層124の表面を平坦化するとともに、後に形成される半導体素子にとって最適な厚さまで半導体層124を薄膜化することができる。
【0156】
また、結晶欠陥の低減及び平坦性向上のために、半導体領域133及び半導体層124にレーザ光を照射しても良い(図6の工程(D−2)参照)。
【0157】
なお、ドライエッチングにより半導体領域133を除去し、半導体層124の表面を平坦化している場合は、半導体層124の表面付近では欠陥が生じていることがある。このような場合には、上記レーザ光の照射により、該欠陥を補修することが可能である。
【0158】
レーザ光の照射工程では、ベース基板120の温度上昇を小さくできるため、耐熱性の低い基板をベース基板120として用いることが可能になる。当該レーザ光の照射によって、半導体領域133を完全溶融し、半導体層124は部分溶融させることが好ましい。
【0159】
半導体層124を完全溶融させると、液相となった半導体層124での無秩序な核発生によって半導体層124が再結晶化することとなり、半導体層124の結晶性が低下してしまう。半導体層124を部分溶融させることで、溶融されていない固相部分から結晶成長が進行し、半導体層124の結晶欠陥が減少され、結晶性が回復する。
【0160】
なお、半導体層124が完全溶融するとは、半導体層124が絶縁層102との界面まで溶融され、液体状態になることをいう。一方、半導体層124が部分溶融するとは、半導体層124の一部(ここでは上層)が溶融して液相となり、別の一部(ここでは下層)が固相を維持することをいう。
【0161】
ここで、レーザ光を照射する工程の前後のどちらかで半導体層124の表面をエッチングしても良い。当該エッチングにより、半導体層124の表面を平坦化するとともに、後に形成される半導体素子にとって最適な厚さまで半導体層124を薄膜化することができる。
【0162】
レーザ光を照射した後には、半導体層124に500℃以上650℃以下の熱処理を行うことが好ましい(図6の工程(D−3)参照)。この熱処理によって、半導体層124の欠陥をさらに低減させ、また、半導体層124の歪みを緩和させることができる。
【0163】
熱処理には、RTA装置、抵抗加熱炉、またはマイクロ波加熱装置などを用いることができる。RTA装置には、GRTA装置やLRTA装置などがある。例えば、抵抗加熱炉を用いる場合には、600℃で4時間程度の熱処理を行えばよい。
【0164】
上述の工程により得られたSOI基板を、その後の半導体装置の製造工程に用いて、各種の半導体装置を作製することができる(図6参照)。
【0165】
次に、半導体基板121に再生処理を施し、再生半導体基板を製造する工程について説明する。当該工程は、図6の工程Eに相当する。なお、当該工程の詳細については、実施の形態1を参酌することができるため、ここでは当該工程の概略を説明する。
【0166】
半導体基板121の周縁部には凸部126が形成されている(図5(A)参照)。当該凸部126は、イオンが添加された半導体領域127、未分離の半導体領域125、絶縁層123によって構成されている。半導体領域125及び半導体領域127は、上述のイオン照射により結晶欠陥が形成されている。また、半導体基板121の半導体領域129にも結晶欠陥が形成されており、その平坦性は損なわれている。このため、半導体領域125、半導体領域127、及び半導体領域129をまとめて損傷半導体領域と呼ぶことができる。
【0167】
上記半導体基板121に対して、第1のエッチング処理を行って、半導体基板121の絶縁層123を除去する(図5(B)及び、図6の工程(E−1)参照)。当該工程の詳細については実施の形態1を参酌することができる。
【0168】
次に、第2のエッチング処理を行って、半導体基板121の凸部126を形成する半導体領域125及び半導体領域127を優先的に除去し、再生半導体基板132を形成する(図5(B)及び、図6の工程(E−2)参照)。また、このとき同時に半導体領域129の除去も行われる。当該工程の詳細についても、実施の形態1を参酌することができる。
【0169】
ここで、第2のエッチング処理後の半導体基板121の平坦性が十分でない場合には、半導体基板121を研磨して平坦化することができる(図6の工程(E−3)参照)。詳細については実施の形態1を参酌することができる。
【0170】
このように、第1のエッチング処理及び第2のエッチング処理で半導体基板121の凸部126を除去した後、研磨処理を行うことによって、平坦性の高い再生半導体基板132を得ることができる。
【0171】
以上により、半導体基板121は再生半導体基板132へと再生する。得られた再生半導体基板132は工程Aにおいて半導体基板100として再度利用することができる。
【0172】
本実施の形態で示したように、再生処理工程を経た半導体基板を繰り返し使用することによって、SOI基板の製造コストを抑制することができる。特に、本実施の形態等において説明する方法を用いる場合には、損傷半導体領域を優先的に除去することができるため、これまで研磨等で除去されていた基板の損失分を抑制することができ、半導体基板の再生回数、使用回数を増加させることができる。
【0173】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0174】
(実施の形態4)
本実施の形態では、耐熱性の高いシリコン基板等をベース基板として用いてSOI基板を作製する場合について説明する。なお、本実施の形態において示す方法は、多くの部分で先の実施の形態と共通している。よって、本実施の形態では、主に相違点について説明することとする。図面については、先の実施の形態と共通であるため、ここでは特に示さない。
【0175】
ボンド基板として用いられる半導体基板に絶縁層及び脆化領域を形成する。絶縁層、脆化領域の形成を含む半導体基板に対する処理等については、先の実施の形態に示したものと同様である。よって、これらの詳細に関しては、先の実施の形態の記載を参酌できる。
【0176】
本実施の形態では、ベース基板として耐熱性の高い基板を用いる。耐熱性の高い基板の例としては、石英基板、サファイア基板、または半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板)などがある。本実施の形態では、ベース基板として単結晶シリコン基板を用いる場合について説明する。
【0177】
単結晶シリコン基板としては、直径5インチ(約125mm)、直径6インチ(約150mm)、直径8インチ(約200mm)、直径12インチ(約300mm)、直径16インチ(約400mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、形状は円形に限られず矩形状等に加工したシリコン基板を用いることも可能である。以下の説明では、ベース基板として、矩形状の単結晶シリコン基板を用いる場合について説明する。なお、ベース基板とボンド基板の大きさは、同程度としても良いし、異なっていても良い。
【0178】
ベース基板の表面は、硫酸過水、アンモニア過水、塩酸過水、希フッ酸などを用いて適宜洗浄しておくことが好ましい。また、希フッ酸とオゾン水を交互に吐出してベース基板の表面を洗浄してもよい。
【0179】
ベース基板上には、絶縁層を形成しても良い。ベース基板上に絶縁層を形成する場合には、ボンド基板側の絶縁層を省略した構成とすることもできる。絶縁層は、単層だけでなく、複数の絶縁膜の積層でも良い。絶縁層には、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、または窒化酸化シリコン膜などのシリコンを組成に含む絶縁膜を用いることができる。
【0180】
一例として、上記絶縁層を熱酸化処理によって形成することができる。熱酸化処理としては、ドライ酸化を用いることが好ましく、酸化雰囲気中にハロゲンまたはハロゲンを含むガスを添加しても良い。ハロゲンまたはハロゲンを含むガスとしては、HCl、HF、NF、HBr、Cl、ClF、BCl、F、Brなどから選ばれた一種または複数種のガスを用いることができる。
【0181】
貼り合わせを行う前には、ベース基板の表面を洗浄する。ベース基板の表面の洗浄は、塩酸と過酸化水素水を用いた洗浄や、メガヘルツ超音波洗浄、2流体ジェット洗浄、またはオゾン水による洗浄などを用いて行うと良い。また、表面に、原子ビームまたはイオンビームの照射処理、紫外線処理、オゾン処理、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理またはラジカル処理などの表面活性化処理を行ってから貼り合わせを行っても良い。
【0182】
次に、半導体基板(ボンド基板)とベース基板とを貼り合わせ、半導体基板を分離する。これにより、ベース基板上には、半導体層が形成されることになる。当該工程の詳細については、先の実施の形態を参酌できる。
【0183】
本実施の形態では、ベース基板として耐熱性の高い単結晶シリコン基板を用いている。このため、各種熱処理温度の上限を、単結晶シリコン基板の融点付近まで引き上げることが可能である。
【0184】
例えば、半導体基板を分離するための熱処理温度の上限を1200℃程度とすることができる。また、当該熱処理の温度を700℃以上とすることにより、ベース基板との接合が一層強化される。
【0185】
次に、ベース基板に貼り合わせられた半導体層の表面を平坦化し、結晶性を回復させる。
【0186】
ベース基板に密着された半導体層の表面は、結晶欠陥を含む脆化領域の一部であったものであり、その平坦性は損なわれている。よって、熱処理を行って、結晶欠陥を低減させるとともに、表面の平坦性を向上させることが好ましい。
【0187】
上記熱処理は、800℃以上1300℃以下、代表的には、850℃以上1200℃以下の温度条件で行うことが好ましい。このような比較的高温の条件での熱処理を行うことにより、結晶欠陥を低減し、表面の平坦性を向上させることが可能である。
【0188】
熱処理には、RTA装置、抵抗加熱炉、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。例えば、抵抗加熱炉を用いる場合には、950℃以上1150℃以下で1分以上4時間以下程度の熱処理を行えばよい。なお、半導体基板を分離させる際の熱処理を高温で行って、当該熱処理に代えることもできる。
【0189】
熱処理前または熱処理後において、半導体層にレーザ光を照射しても良い。レーザ光を照射することによって、熱処理では修復しきれない結晶欠陥をも修復することが可能である。レーザ光照射の詳細については、先の実施の形態を参酌できる。
【0190】
また、熱処理の前後を問わず、半導体層上方の半導体領域を研磨等によって除去し、表面を平坦化しても良い。当該平坦化処理によって、半導体層表面を一層平坦にすることができる。具体的に研磨は、CMP処理または液体ジェット研磨などにより、行うことができる。なお、当該処理によって、半導体層が薄膜化されることもある。
【0191】
また、半導体層上方の半導体領域をエッチングによって除去し、平坦化することもできる。上記エッチングには、例えば、反応性イオンエッチング法、ICPエッチング法、ECRエッチング法、平行平板型エッチング法、マグネトロンプラズマエッチング法、2周波プラズマエッチング法またはヘリコン波プラズマエッチング法等のドライエッチング法を用いることができる。なお、上記研磨と上記エッチングの両方を用いて平坦化してもよい。
【0192】
また、上記研磨及び上記エッチングにより、半導体層の表面を平坦化するとともに、後に形成される半導体素子にとって最適な厚さまで半導体層を薄膜化することができる。
【0193】
上述の工程により得られたSOI基板を、その後の半導体装置の製造工程に用いて、各種の半導体装置を作製することができる。
【0194】
再生処理の詳細については、先の実施の形態を参酌することができる。
【0195】
本実施の形態で示したように、再生処理工程を経た半導体基板を繰り返し使用することによって、SOI基板の製造コストを抑制することができる。特に、本実施の形態等において示すような高温での熱処理を用いる場合には、ボンド基板に極僅かな欠陥が残存する場合であっても、良好な特性を有するSOI基板を製造することが可能である。
【0196】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0197】
(実施の形態5)
本実施の形態では、先の実施の形態において作製されたSOI基板を用いて形成した半導体装置の一例を説明する。
【0198】
図7は、nチャネル型トランジスタであるトランジスタ280、及びpチャネル型トランジスタであるトランジスタ281を有する半導体装置の一例である。トランジスタ280及びトランジスタ281は、絶縁層102及び絶縁層122を介してベース基板120上に形成されている。このような複数のトランジスタを組み合わせることで、各種の半導体装置を形成することができる。以下、図7に示す半導体装置の作製方法について説明する。
【0199】
はじめに、SOI基板を用意する。SOI基板としては、先の実施の形態で作製したSOI基板を用いることができる。
【0200】
次に、エッチングにより、半導体層を分離して島状の半導体層251、及び半導体層252を形成する。半導体層251はnチャネル型のトランジスタを構成し、半導体層252はpチャネル型のトランジスタを構成する。
【0201】
半導体層251、半導体層252上に絶縁層254を形成した後、絶縁層254を介して、半導体層251上にゲート電極255を形成し、半導体層252上にゲート電極256を形成する。
【0202】
なお、半導体層には、トランジスタのしきい値電圧を制御するために、ホウ素、アルミニウム、ガリウムなどのアクセプタとなる不純物元素、またはリン、ヒ素などのドナーとなる不純物元素を適量添加しておくことが好ましい。例えば、nチャネル型トランジスタが形成される領域にアクセプタとなる不純物元素を添加し、pチャネル型トランジスタが形成される領域にドナーとなる不純物元素を添加する。
【0203】
次に、半導体層251にn型の低濃度不純物領域257を形成し、半導体層252にp型の高濃度不純物領域259を形成する。具体的には、まず、pチャネル型トランジスタとなる半導体層252をレジストマスクで覆い、不純物元素を半導体層251に添加して、半導体層251にn型の低濃度不純物領域257を形成する。添加する不純物元素としては、リンまたはヒ素を用いればよい。ゲート電極255がマスクとなることにより、半導体層251に自己整合的にn型の低濃度不純物領域257が形成される。また、半導体層251のゲート電極255と重なる領域はチャネル形成領域258となる。
【0204】
次に、半導体層252を覆うマスクを除去した後、nチャネル型トランジスタとなる半導体層251をレジストマスクで覆う。そして、不純物元素を半導体層252に添加する。添加する不純物元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム等を用いればよい。ここでは、ゲート電極256がマスクとして機能して、半導体層252に自己整合的にp型の高濃度不純物領域259が形成される。半導体層252のゲート電極256と重なる領域はチャネル形成領域260となる。なお、ここでは、n型の低濃度不純物領域257を形成した後、p型の高濃度不純物領域259を形成する方法を説明したが、先にp型の高濃度不純物領域259を形成することもできる。
【0205】
次に、半導体層251を覆うレジストマスクを除去した後、プラズマCVD法等によって、窒化シリコン等の窒化物や酸化シリコン等の酸化物を含む単層構造または積層構造の絶縁層を形成する。そして、当該絶縁層に垂直方向の異方性エッチングを適用することで、ゲート電極255、ゲート電極256の側面に接するサイドウォール絶縁層261、サイドウォール絶縁層262を形成する。なお、上記異方性エッチングにより、絶縁層254もエッチングされる。
【0206】
次に、半導体層252をレジストマスクで覆い、半導体層251に高ドーズ量で不純物元素を添加する。これにより、ゲート電極255及びサイドウォール絶縁層261がマスクとなり、n型の高濃度不純物領域267が形成される。
【0207】
不純物元素の活性化処理(熱処理)の後、水素を含む絶縁層268を形成する。絶縁層268を形成後、350℃以上450℃以下の温度による熱処理を行い、絶縁層268中に含まれる水素を半導体層251、及び半導体層252中に拡散させる。絶縁層268は、プロセス温度が350℃以下のプラズマCVD法により窒化シリコンまたは窒化酸化シリコンを堆積することで形成できる。半導体層251、及び半導体層252に水素を供給することで、半導体層251や半導体層252中、またはこれらと絶縁層254との界面での捕獲中心となるような欠陥を効果的に補償することができる。
【0208】
その後、層間絶縁層269を形成する。層間絶縁層269は、酸化シリコン、BPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)などの無機材料を含む絶縁膜、または、ポリイミド、アクリルなどの有機材料を含む絶縁膜、を用いた単層構造または積層構造とすることができる。層間絶縁層269にコンタクトホールを形成した後、配線270を形成する。配線270の形成には、例えば、アルミニウム膜またはアルミニウム合金膜などの低抵抗金属膜をバリアメタル膜で挟んだ3層構造の導電膜を用いることができる。バリアメタル膜には、モリブデン、クロム、チタンなどを用いることができる。
【0209】
以上の工程により、nチャネル型トランジスタとpチャネル型トランジスタを有する半導体装置を作製することができる。本実施の形態の半導体装置に用いるSOI基板は、先の実施の形態で示したように、非常に低コストに製造される。このため、半導体装置の製造に係るコストを抑制することが可能である。
【0210】
なお、本実施の形態では、図7に係る半導体装置及びその作製方法について説明したが、本発明の一態様に係る半導体装置の構成はこれに限定されない。半導体装置は、トランジスタの他、容量素子、抵抗素子、光電変換素子、発光素子などを有していても良い。
【0211】
なお、本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例1】
【0212】
本実施例では、SOI基板の作製で生じる半導体基板に対して、絶縁層の除去、及び各種エッチャントを用いるウェットエッチングを行った。以下に、その結果を示す。
【0213】
まず、本実施例で用いた半導体基板について説明する。
【0214】
本実施例では、半導体基板として5インチ角の矩形状単結晶シリコン基板を用いた。まず、半導体基板をHClを含む雰囲気下で熱酸化し、基板表面に100nmの厚さの酸化膜を形成した。熱酸化の条件は、950℃で4時間であり、熱酸化の雰囲気は、HClが酸素に対して3体積%の割合で含まれるものとした。
【0215】
次に、酸化膜の表面からイオンドーピング装置を用いて半導体基板にイオンを添加した。本実施例では、水素をイオン化して照射することで、半導体基板に脆化領域を形成した。イオンドーピングの条件は、加速電圧を40kV、ドーズを2.0×1016ions/cmとした。
【0216】
そして、半導体基板を、酸化膜を介してガラス基板に貼り合わせた。その後、200℃で120分の熱処理を行い、更に、600℃で120分の熱処理を行って、脆化領域を境に半導体基板から単結晶シリコン層を分離した。これにより、SOI基板が作製されるとともに、周縁部に凸部を有する半導体基板が作製された。
【0217】
次に、上述の半導体基板に対する処理について説明する。
【0218】
まず、半導体基板を覆うように形成されている絶縁層を除去するために、半導体基板にフッ酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤を含む混合液(ステラケミファ社製、商品名:LAL500)を用いたウェットエッチング処理を施した。このとき、液温は室温、エッチング時間は5分とした。
【0219】
次に、絶縁層を除去した半導体基板に対して、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:3:10の体積比で混合した混合液(以下、混合液A)、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:100:100の体積比で混合した混合液(以下、混合液B)、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:0.1:10の体積比で混合した混合液(以下、混合液C)、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:10:10の体積比で混合した混合液(以下、混合液D)、フッ酸と過酸化水素水とを1:5の体積比で混合した混合液(以下、混合液E)、TMAH(Tetra Methyl Ammonium Hydroxide)を2.38重量%含む水溶液(TMAH水溶液ともいう)のいずれかをエッチャントとして用いてウェットエッチングを行った。
【0220】
上記混合液の作製においては、濃度50重量%のフッ酸(ステラケミファ社製)、濃度70重量%の硝酸(和光純薬株式会社製)、濃度97.7重量%の酢酸(キシダ化学株式会社製)、濃度31重量%の過酸化水素水(三菱ガス化学株式会社製)を用いた。また、エッチャントの液温は室温とし、エッチング時間は30秒、1分、2分、4分、6分、8分のいずれかとした。上記エッチャントの詳細を表1に示す。
【0221】
【表1】

【0222】
上述の6種類のエッチャントを用いてそれぞれの時間でウェットエッチングを行った半導体基板に、半導体基板周縁部の段差測定(小坂研究所株式会社製サーフコーダー(段差測定装置)ET4100を使用)、及び、半導体基板中央部のエッチング量測定(ラップマスターSFT株式会社製Sorter1000及びキーエンス社製LK−G30を使用)を行った。また、混合液Aを用いてエッチングを行った基板に対しては、半導体基板周縁部の写真撮影(オリンパス株式会社製光学顕微鏡MX61Lを使用、ノマルスキー像)を行った。ここで、半導体基板中央部とは段差の形成された半導体基板周縁部を除く領域を指すものとする。
【0223】
図8(A)に半導体基板が分離した直後の周縁部の光学顕微鏡写真、図8(B)に絶縁層を除去した後の光学顕微鏡写真を示す。また、図9(A)及び図9(B)には、それぞれ図8(A)及び図8(B)に対応する半導体基板周縁部の段差測定の結果を示す。ここで、段差測定結果のグラフは、縦軸が半導体基板中央部を0(基準)としたときの段差(μm)を示し、横軸が半導体基板の幅(mm)を示す。これは、以降の段差測定のグラフについても同様である。
【0224】
図8(A)及び図8(B)では、写真左側が基板周縁の凸部、右側が単結晶シリコン層を分離した分離部、それらの境界が段差部分に対応する。図8(A)では、残存した絶縁層が観察され、図8(B)では、除去された絶縁層の下層に残存したシリコンが観察されている。また、半導体基板周縁部では、微小ボイドによる凹凸が形成されており、平坦性が低いことがわかる。写真右側では、半導体基板中央部に続くシリコンが観察される。
【0225】
図9(A)及び図9(B)の段差測定のグラフからも同様のことが言える。図9(A)では、半導体基板周縁部と半導体基板中央部の段差が0.2μm程度あるのに対し、図9(B)では、絶縁層を除去しているため、半導体基板周縁部と半導体基板中央部の段差が0.1μm程度となっている。
【0226】
次に、混合液Aを用いてウェットエッチングを行った半導体基板の周縁部の光学顕微鏡写真を図10及び図11に示す。ここで、それぞれの光学顕微鏡写真とエッチング時間は次のように対応する。図10(A1)及び図10(A2)は30秒、図10(B1)及び図10(B2)は1分、図10(C1)及び図10(C2)は2分、図11(A1)及び図11(A2)は4分、図11(B1)及び図11(B2)は6分、図11(C1)及び図11(C2)は8分である。また、図10及び図11において、(A1)、(B1)、(C1)は倍率50倍、(A2)、(B2)、(C2)は倍率500倍である。
【0227】
図12には、混合液Aを用いてウェットエッチングを行った半導体基板周縁部の段差測定の結果を示す。それぞれの図とエッチング時間は次のように対応する。図12(A)は30秒、図12(B)は1分、図12(C)は2分、図12(D)は4分、図12(E)は6分、図12(F)は8分である。
【0228】
更に、図13乃至図17には、混合液B、混合液C、混合液D、混合液E、TMAH水溶液のいずれかを用いて、30秒、1分、2分、4分、6分、8分のウェットエッチングを行った半導体基板周縁部の段差測定の結果を示す。それぞれの図とエッチャントは次のように対応する。図13は混合液B、図14は混合液C、図15は混合液D、図16は混合液E、図17はTMAH水溶液を用いた場合の結果である。また、図13乃至図17の各図とエッチング時間は次のように対応する。(A)は30秒、(B)は1分、(C)は2分、(D)は4分、(E)は6分、(F)は8分である。
【0229】
また、図18に、混合液Aと混合液Dを用いてウェットエッチングを行った場合の、半導体基板中央部のエッチング量測定の結果を示す。図18において、黒丸は混合液Aを用いた場合の、白丸は混合液Dを用いた場合の結果である。図18に示すグラフの縦軸は、半導体基板中央部における半導体基板のエッチング量(μm)を示し、横軸は、エッチング時間(分)を示している。
【0230】
ここで、半導体基板中央部のエッチング量の測定は、エッチング前後における半導体基板中央部の基板厚みの変化から算出している。また、基板厚みは、測定ステージ(ラップマスターSFT株式会社製Sorter1000)の上下に設けたレーザ変位計(キーエンス社製LK−G30)の差分により求めた。基板厚みの測定は、半導体基板中央部の107mm角の領域において、測定点数を10点×10点として行った。また、それらの平均値の比較により半導体基板中央部のエッチング量を求めた。レーザ変位計の繰り返し精度は±0.05μmであり、基板厚みの繰り返し精度は±0.5μmである。
【0231】
図10及び図11に示す光学顕微鏡写真の比較から、写真左側の凸部による段差が、エッチング時間が増えるにつれて低減されている様子が分かる。例えば、図11(A)に示すエッチング時間が4分の場合には、段差はほとんど存在しない。図12に示す段差測定のグラフからも同様のことが言える。
【0232】
また、図12より、混合液Aを用いたウェットエッチングでは、まず、半導体基板周縁部の段差に、基板平面に対して垂直な方向に縦穴が形成され、その縦穴を拡大するようにエッチングが進行することがわかる。これは、半導体基板周縁部の段差を形成する半導体領域(結晶欠陥や微小ボイドを有する損傷半導体領域)に混合液Aが浸透し、当該半導体領域の内部から段差が除去されることを示している。このような混合液Aによるウェットエッチングの様子は、後述する他のエッチャントの場合とは異なる傾向にある。
【0233】
また、図18に示す半導体基板中央部の半導体基板のエッチング量のグラフから、少なくともエッチング時間6分までは、半導体基板のエッチング量は十分に小さく、基板厚み測定における誤差の範囲内にある。
【0234】
表2には、エッチング時間と、半導体基板中央部のエッチング量(μm)、半導体基板周縁部のエッチング量(μm)、との関係を示す。また、半導体基板中央部のエッチング量と半導体基板周縁部のエッチング量とから求めたエッチング選択比(選択比1)と、差分の選択比(選択比2)を合わせて示す。
【0235】
【表2】

【0236】
ここで、選択比1は、半導体基板周縁部の段差(幅0.1mmの領域)におけるエッチング量の平均値を半導体基板中央部のエッチング量の平均値で割ったものである。また、差分の選択比(選択比2)は、それぞれ、0分から1分の間におけるエッチング量、1分から2分の間におけるエッチング量、2分から4分の間におけるエッチング量、4分から6分の間におけるエッチング量から求めた選択比である。例えば、1分から2分の間における半導体基板中央部のエッチング量は、0.14−0.096=0.044(μm)であり、半導体基板周縁部のエッチング量は、0.225−0.101=0.124(μm)であるから、この場合の選択比2は、0.124/0.044=2.818となる。
【0237】
表2より、差分の選択比(選択比2)は、エッチング時間とともに変動することが分かる。具体的には、エッチング開始から間もない時点では1程度であった選択比が、2以上となり、再び1程度に戻る。これは、次の理由によるものと考察される。
【0238】
まず、エッチング開始時には、半導体基板周縁部の損傷半導体領域が除去されるとともに、半導体基板中央部に残存する損傷半導体領域が除去されることになるため、半導体基板周縁部と半導体基板中央部では、エッチングレートは大きく異ならない。つまり、選択比は1程度となる。半導体基板中央部の損傷半導体領域が除去された後には、半導体基板中央部ではエッチングレートが低下するのに対して、半導体基板周縁部では未だ損傷半導体領域が残存しており、エッチングレートは低下しない。このため、選択比は大きくなる(具体的には、2以上となる)。その後、半導体基板周縁部における損傷半導体領域が除去されることにより、半導体基板周縁部と半導体基板中央部のエッチングレートが同程度となる。つまり、選択比は1程度に戻る。このような選択比の変動を伴い、損傷半導体領域が優先的に除去されるといえる。
【0239】
また、エッチング時間2分及び4分の選択比1はそれぞれ、1.607、1.748と高い。そして、1分から2分、2分から4分の選択比2についても、それぞれ、2.818、2.609と高い。このように、エッチャントとして混合液A(フッ酸と硝酸と酢酸とを1:3:10の体積比で混合した混合液)を用いることにより、短時間で半導体基板周縁部の段差(凸部)を優先的に除去できる。
【0240】
混合液Bを用いたエッチングでは、エッチングの進行が遅く、エッチング時間を8分としても段差は除去されない(図13参照)。また、混合液Aの場合と異なり、半導体基板周縁部の段差は表面から徐々にエッチングされ、深い縦穴は形成されない。このように、混合液Bを用いて半導体基板をエッチングしても、半導体基板周縁部の段差は除去されない、または、段差の除去に長時間を要することが分かった。
【0241】
混合液Cを用いたエッチングでは、半導体基板周縁部の段差は除去されない(図14参照)。このように、混合液Cを用いて半導体基板をエッチングしても、半導体基板のエッチングはほとんど進行しないことが分かった。
【0242】
混合液Dを用いたエッチングでは、図18に示すように半導体基板中央部のエッチング量はエッチング時間に比例して増加するが、半導体基板周縁部の段差は、維持されたままである(図15参照)。このように、混合液Dをエッチング液として用いても、半導体基板全体が一様にエッチングされ、半導体基板周縁部の段差を優先的に除去することができないことが分かった。
【0243】
混合液Eを用いたエッチングでは、混合液Cを用いた場合と同様に、半導体基板周縁部の段差は除去されない(図16参照)。このように、混合液Eを用いて半導体基板をエッチングしても、半導体基板のエッチングはほとんど進行しないことが分かった。
【0244】
TMAH水溶液を用いたエッチングでは、エッチングの進行が遅く、エッチング時間を8分としても段差が除去されていない(図17参照)。このように、TMAH水溶液を用いて半導体基板をエッチングしても、半導体基板周縁部の段差は除去されない、または、段差の除去に長時間を要することが分かった。
【0245】
ここで、混合液A、混合液B、混合液C、混合液Dは、フッ酸、硝酸、酢酸からなる3元系の混合液であり、各要素の役割及び反応は次の通りである。
【0246】
硝酸はシリコンを酸化する。当該反応は、式(1)のように表される。
3Si+4HNO → 3SiO+2HO+4NO (1)
【0247】
フッ酸は、酸化シリコンを溶解する。当該反応は、式(2)のように表される。
SiO+6HF → 2H+〔SiF2−+2HO (2)
【0248】
酢酸は混合液の安定化を行うとともに、急激なエッチングを抑制する。
【0249】
このように、フッ酸、硝酸、酢酸からなる3元系の混合液は、式(1)に示すシリコンの酸化と、式(2)に示す酸化シリコンの溶解を繰り返すことにより、シリコンをエッチングする機能を有する。つまり、フッ酸、硝酸、酢酸からなる3元系の混合液において、フッ酸の量が多い場合には、式(1)に示す硝酸によるシリコンの酸化が律速となり、硝酸の量が多い場合には、式(2)に示すフッ酸による酸化シリコンの溶解が律速となる。
【0250】
このことから、混合液Cでは、硝酸の量が少ないためにシリコンの酸化が律速となり、ウェットエッチングが進行しなかったと考察される。これは、過酸化水素がシリコンを酸化する混合液Eについても同様である。混合液Eでは過酸化水素の酸化力が小さいために、ウェットエッチングが進行しなかったと考察される。
【0251】
また、混合液Dでは、フッ酸及び硝酸の量が多いために、式(1)及び式(2)の反応が急速に進行し、結果として、半導体基板周縁部と半導体基板中央部との選択比がとれず、基板全体で一様にウェットエッチングされたものと考察される。
【0252】
また、混合液Bでは、フッ酸の量が少ないために酸化シリコンの溶解が律速となり、ウェットエッチングが進行しなかったと考察される。フッ酸の量が少なくなると、結晶欠陥や微小ボイドに起因する損傷半導体領域内部からのエッチングが起こりにくく、損傷半導体領域表面からのエッチングが優先的に進行するためである。
【0253】
一方で、混合液Aでは、フッ酸、硝酸、酢酸のバランスが良いため、式(1)または式(2)のいずれかの反応が律速となることがない。また、酢酸によるエッチング抑制の効果が得られるため、基板全体が一様にエッチングされることもない。
【0254】
このように、混合液A(フッ酸、硝酸、酢酸の体積比が1:3:10の混合液)を用いて半導体基板周縁部の段差をエッチングすることによって、半導体基板周縁部と半導体基板中央部の選択比をとりながら、半導体基板周縁部に存在する凸部を短時間で除去することができる。このため、半導体基板の再生処理を確実に、かつ、効率的に行うことが可能である。
【0255】
なお、本実施例に示す構成は、他の実施の形態や他の実施例に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例2】
【0256】
本実施例では、再生処理として、フッ酸と硝酸と酢酸の混合液を用いたウェットエッチング処理とCMP処理とを組み合わせて用いた場合と、前述のウェットエッチング処理を用いず、主にCMP処理を用いた場合について、比較した結果を示す。
【0257】
CMP処理としては、研磨レートの高い処理の後に、研磨レートの低い処理(仕上げ研磨)を用いた。なお、上述のウェットエッチング処理を用いない場合においては、ウェットエッチング処理を用いる場合と同等の再生処理を実現するために、CMP処理の時間を長時間にした。
【0258】
再生処理の対象となる半導体基板は、先の実施例と同様にして作製した。詳細については先の実施例を参酌できる。
【0259】
上述のウェットエッチング処理と研磨時間の短いCMP処理を用いた再生半導体基板(以下、基板A)は、以下のように作製した。
【0260】
まず、半導体基板を覆うように形成されている絶縁層を除去するために、半導体基板にフッ酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤を含む混合液(ステラケミファ社製、商品名:LAL500)を用いたウェットエッチング処理を施した。このとき、液温は室温、エッチング時間は300秒とした。
【0261】
次に、絶縁層を除去した半導体基板に対して、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:3:10の体積比で混合した混合液(先の実施例における、混合液Aに相当)を用いたウェットエッチング処理を施した。このとき、液温は室温、エッチング時間は2分とした。なお、上記混合液の作製においては、濃度50重量%のフッ酸(ステラケミファ社製)、濃度70重量%の硝酸(和光純薬株式会社製)、濃度97.7重量%の酢酸(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0262】
次に、半導体基板に高い研磨レートのCMP処理を行った。当該CMP処理では、ポリウレタン地の研磨布、及び、シリカ系スラリー液(ニッタ・ハース株式会社製ILD1300、粒径150nm、20倍希釈)を用いた。また、スラリー流量を200ml/min、研磨圧を0.02MPa、スピンドル回転数を30rpm、テーブル回転数を30rpm、処理時間を3分とした。
【0263】
その後、半導体基板に低い研磨レートのCMP処理を行った。当該CMP処理では、スウェード地の研磨布(ニッタ・ハース株式会社製supreme)、及び、シリカ系スラリー液(ニッタ・ハース株式会社製NP8020、粒径60nm、20倍希釈)を用いた。また、スラリー流量を200ml/min、研磨圧を0.01MPa、スピンドル回転数を30rpm、テーブル回転数を30rpm、処理時間を3分とした。
【0264】
一方で、上述のウェットエッチング処理を用いない再生半導体基板(以下、基板B)は、以下のように作製される。
【0265】
まず、半導体基板を覆うように形成されている絶縁層を除去するために、半導体基板にフッ酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤を含む混合液(ステラケミファ社製、商品名:LAL500)を用いたウェットエッチング処理を施した。このとき、液温は室温、エッチング時間は300秒とした。
【0266】
次に、半導体基板に高い研磨レートのCMP処理を行った。当該CMP処理では、ポリウレタン地の研磨布、及び、シリカ系スラリー液(ニッタ・ハース株式会社製ILD1300、粒径150nm、20倍希釈)を用いた。また、スラリー流量を200ml/min、研磨圧を0.02MPa、スピンドル回転数を30rpm、テーブル回転数を30rpm、処理時間を12分とした。
【0267】
その後、半導体基板に低い研磨レートのCMP処理を行った。当該CMP処理では、スウェード地の研磨布(ニッタ・ハース株式会社製supreme)、及び、シリカ系スラリー液(ニッタ・ハース株式会社製NP8020、粒径60nm、20倍希釈)を用いた。また、スラリー流量を200ml/min、研磨圧を0.01MPa、スピンドル回転数を30rpm、テーブル回転数を30rpm、処理時間を10分とした。
【0268】
上述の方法により作製された2種類の再生半導体基板につき、光学顕微鏡による観察と、段差測定装置による段差測定(小坂研究所株式会社製サーフコーダーを使用)、走査型プローブ顕微鏡による平坦性の評価(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPA−500及びエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPI3800Nを使用)、及び再生処理における半導体基板の厚さの減少量の測定(ラップマスターSFT株式会社製Sorter1000を使用)を行った。
【0269】
図19(A)に再生処理前の半導体基板周縁部、図19(B)に上述のウェットエッチング処理後の半導体基板周縁部の光学顕微鏡写真(倍率50倍のノマルスキー像)を示す。また、同様に、段差測定の結果を図20(A)及び図20(B)に示す。
【0270】
図19(A)に示すように、再生処理を行う前の半導体基板は、周縁部に段差(凸部)が存在しており、周縁部の表層には絶縁層が、中央側の表層にはシリコンが観察される。図20(A)からも、再生処理の前には、半導体基板の周縁部には0.2μm程度の段差が存在していることが分かる。
【0271】
一方で、図19(B)に示す半導体基板では、周縁部に存在した段差(凸部)が消失し、全面においてシリコンが観察されている。なお、図19(B)の左側に縦に走る白い線は、半導体基板の端を表している。図20(B)からも、段差が消失していることが確認できる。
【0272】
次に、走査型プローブ顕微鏡を用いて2種の再生半導体基板の平坦性評価を行った結果を示す。走査型プローブ顕微鏡による測定条件は、走査速度を1.0Hz、測定面積を1μm×1μm、測定点数を2点とした。また、当該測定には、ダイナミックフォースモード(DFM:dynamic force mode)を用いた。ここで、ダイナミックフォースモードとは、カンチレバーを共振させた状態で、レバーの振動振幅が一定になるように探針と試料との間の距離を制御しながら、表面形状を測定する方法である。
【0273】
再生半導体基板の平坦性は、平均面粗さ(Ra)及び最大高低差(P−V)によって評価した。ここで、平均面粗さ(Ra)は、JISB0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値で表現される。また、最大高低差(P−V)は、指定面において、最も高い山頂の標高と最も低い谷底の標高の差で表現される。山頂と谷底は、JISB601:2001(ISO4287:1997)で定義されている「山頂」「谷底」を三次元に拡張したものであり、山頂とは指定面の山において最も標高の高い点を、谷底とは指定面において最も標高の低い点をいう。
【0274】
走査型プローブ顕微鏡による再生半導体基板の平坦性の評価結果を表3に示す。
【0275】
【表3】

【0276】
基板A、基板B、いずれに関しても中央部と周縁部の段差はなくなっており、中央部と周縁部の平坦性もほぼ同程度である。基板Aと基板Bとを比較すると、基板Aでは周縁部においてRaが0.05nm、P−Vが0.393nmであるのに対して、基板Bでは、周縁部においてRaが0.06nm、P−Vが0.47nmである。このことから、基板Aの方が平坦性は良好であるといえる。
【0277】
次に、再生処理における半導体基板の厚さの減少量を測定した結果について示す。ここでは、再生処理工程の前後における厚みの変化から、半導体基板中央部の減少量(半導体の除去量)を測定した。基板A及び基板Bの作製における減少量(除去量)を表4に示す。
【0278】
【表4】

【0279】
基板Aの作製において、半導体基板の厚さの減少量は1.38μmであった。一方、基板Bの作製において、半導体基板の厚さの減少量は6.96μmであった。このことから、基板Aの作製における減少量は、基板Bの作製における減少量の約4分の1であることが分かる。特に、基板Aの作製におけるエッチングでの減少量は、わずか0.41μmであった。
【0280】
以上より、上記エッチング処理とCMP処理を組み合わせた再生処理を行うことによって、再生半導体基板の平坦性を同等に保ちつつ、再生処理における半導体基板の減少を抑制することができる。
【0281】
なお、本実施例に示す構成は、他の実施の形態や他の実施例に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例3】
【0282】
本実施例では、半導体基板に酸化膜を形成した後、水素イオンを照射して、該半導体基板の断面を観察した結果を示す。
【0283】
本実施例では、半導体基板として5インチ角の矩形状単結晶シリコン基板を用いた。まず、半導体基板を、HClを含む雰囲気下で熱酸化し、基板表面に100nmの厚さの酸化膜を形成した。熱酸化の条件は、950℃で4時間であり、熱酸化の雰囲気は、HClが酸素に対して3体積%の割合で含まれるものとした。
【0284】
次に、酸化膜の表面からイオンドーピング装置を用いて半導体基板に水素を添加した。本実施例では、水素をイオン化して照射することで、半導体基板に脆化領域を形成した。イオンドーピングの条件は、加速電圧を50kV、ドーズを2.0×1016ions/cmとした。これにより、酸化膜の表面から約250nm前後の深さに脆化領域が形成された。
【0285】
図21(A)には、上述の処理を施した半導体基板の断面TEM像を示す。また、図21(B)には、該半導体基板に熱処理を施して、脆化領域で分離した後の断面TEM像を示す。
【0286】
図21(A)及び図21(B)から、単結晶基板表面付近には、多くの結晶欠陥が形成されていることが分かる。また、図21(B)から、半導体基板は、その表面から深さ約139nmの位置で分離していることが分かる。
【0287】
ここで、上述の分離後の半導体基板の周縁部には、ベース基板との貼り合わせがなされないことに起因して凸部が形成される。そして、凸部を構成する残存した半導体層(損傷半導体領域)は、分離された半導体層と同様に結晶欠陥や微小ボイドを有する。このため、先の実施例で示したようなフッ酸、硝酸、酢酸を含む混合液を用いてエッチングを行うことにより、分離後の半導体基板の周縁部に形成される凸部を優先的に除去しやすくなる。
【0288】
なお、本実施例に示す構成は、他の実施の形態や他の実施例に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例4】
【0289】
本実施例では、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:3:10の体積比で混合した混合液(混合液A)と、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:2:10の体積比で混合した混合液(以下、混合液A+)をエッチャントとして用いる場合の調査結果について示す。
【0290】
なお、本実施例で用いた半導体基板は、実施例1において用いたものと同様であり、その詳細については省略する。
【0291】
上述の半導体基板に対する処理は、次の通りである。
【0292】
まず、半導体基板を覆うように形成されている絶縁層を除去するために、半導体基板にフッ酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤を含む混合液(ステラケミファ社製、商品名:LAL500)を用いたウェットエッチング処理を施した。このとき、液温は室温、エッチング時間は300秒とした。
【0293】
次に、絶縁層を除去した半導体基板に対して、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:3:10の体積比で混合した混合液(混合液A)、または、フッ酸と硝酸と酢酸とを1:2:10の体積比で混合した混合液(混合液A+)をエッチャントとして用いてウェットエッチングを行った。混合液A及び混合液A+の作製においては、濃度50重量%のフッ酸(ステラケミファ社製)、濃度70重量%の硝酸(和光純薬株式会社製)、濃度97.7重量%の酢酸(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0294】
図22(A)には、混合液A+を用いたウェットエッチング後の半導体基板周縁部の様子を観察した光学顕微鏡写真(倍率50倍のノマルスキー像)を示す。また、図22(B)には、倍率を500倍とした光学顕微鏡写真(ノマルスキー像)を示す。図22から分かるように、混合液A+を用いたウェットエッチングの場合、混合液Aを用いたウェットエッチングにおいてエッチング残渣が生じうる条件であっても、残渣は確認されなかった。硝酸に対するフッ酸の割合を、1:3(フッ酸:硝酸)から僅かに高めることで、形成される酸化膜を素早く除去し、残渣の発生を抑制しているものと考察される。
【0295】
このように、混合液A+(フッ酸、硝酸、酢酸の体積比が1:2:10の混合液)を用いて半導体基板周縁部の段差をエッチングする場合には、混合液A(フッ酸、硝酸、酢酸の体積比が1:3:10の混合液)を用いる場合と比較して残渣の発生を抑制できることが分かった。これは、フッ酸、硝酸、酢酸の体積比が1.5:3:10の混合液を用いる場合においても同様である。一方で、フッ酸、硝酸、酢酸の体積比が1:1:10の混合液のように、フッ酸、硝酸、酢酸の体積比が1:3:10の混合液と比較して硝酸に対するフッ酸の割合を高めすぎた場合には、表面荒れ、段差の残存などが確認された。
【0296】
本実施例により、硝酸に対するフッ酸の割合を1:3(フッ酸:硝酸)から僅かに高めることで、半導体基板の再生処理をより確実に、より効率的に行うことが可能であることが理解される。
【0297】
なお、本実施例に示す構成は、他の実施の形態や他の実施例に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0298】
100 半導体基板
102 絶縁層
104 脆化領域
120 ベース基板
121 半導体基板
122 絶縁層
123 絶縁層
124 半導体層
125 半導体領域
126 凸部
127 半導体領域
129 半導体領域
130 半導体基板
132 再生半導体基板
133 半導体領域
134 レーザ光
251 半導体層
252 半導体層
254 絶縁層
255 ゲート電極
256 ゲート電極
257 低濃度不純物領域
258 チャネル形成領域
259 高濃度不純物領域
260 チャネル形成領域
261 サイドウォール絶縁層
262 サイドウォール絶縁層
267 高濃度不純物領域
268 絶縁層
269 層間絶縁層
270 配線
280 トランジスタ
281 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が周縁部に存在する半導体基板に対し、
前記絶縁層を除去するエッチング処理と、
前記半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、前記酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、前記半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理と、
前記損傷半導体領域が優先的に除去された面側から前記半導体基板にレーザ光を照射するレーザ光照射処理と、
を有することを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項2】
イオンの照射及び熱処理を経て一部が半導体層として分離することにより、周縁部に損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が残存した半導体基板に対し、
前記絶縁層を除去するエッチング処理と、
前記半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、前記酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、前記半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理と、
前記損傷半導体領域が優先的に除去された面側から前記半導体基板にレーザ光を照射するレーザ光照射処理と、
を有することを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項3】
イオンの照射及び熱処理を経て一部が半導体層として分離することにより、周縁部に損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が残存し、それ以外の領域にも損傷半導体領域が残存する半導体基板に対し、
前記絶縁層を除去するエッチング処理と、
前記半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質、前記酸化された半導体材料を溶解する物質、及び、前記半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質、を含む混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理と、
前記損傷半導体領域が優先的に除去された面側から前記半導体基板にレーザ光を照射するレーザ光照射処理と、
を有することを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、前記イオンの照射は、イオンドーピング法を用いて行うことを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、前記イオンは、Hを含むことを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項において、前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理は、前記未損傷の半導体領域に対する前記損傷半導体領域のエッチング選択比が2以上であることを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項において、前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理を、前記未損傷の半導体領域に対する前記凸部のエッチング選択比が2未満に低下した後に停止させることを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項において、前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理によって、前記凸部の接平面と前記半導体基板の裏面とのなす角が0.5°以下の領域を少なくとも除去することを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項において、前記損傷半導体領域を優先的に除去するエッチング処理の後に、前記半導体基板の表面を研磨することを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項において、前記半導体基板を構成する半導体材料を酸化する物質として硝酸を、
前記酸化された半導体材料を溶解する物質としてフッ酸を、
前記半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質として酢酸を、
用いることを特徴とする半導体基板の再生方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の方法を用いて、前記半導体基板から再生半導体基板を作製することを特徴とする再生半導体基板の作製方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法で作製された再生半導体基板中にイオンを添加して脆化領域を形成し、
絶縁層を介して、前記再生半導体基板とベース基板を貼り合わせ、
熱処理によって前記再生半導体基板を分離して、前記ベース基板上に半導体層を形成することを特徴とするSOI基板の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−228651(P2011−228651A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65371(P2011−65371)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】