説明

半導体装置及び半導体装置の作製方法

【課題】半導体デバイスに用いるのに好適な酸化物半導体の提供を目的の一とする。又は、それを用いた半導体装置の提供を目的の一とする。
【解決手段】In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層をトランジスタのチャネル形成領域に用いた半導体装置であって、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層は、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
酸化物半導体を用いた半導体装置及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果型トランジスタは、現在、最も広く用いられている半導体素子である。電界効果型トランジスタに用いられる材料は、その用途に応じて様々であるが、特に、シリコンを含む半導体材料が多く用いられている。
【0003】
上記シリコンを用いた電界効果型トランジスタは、多くの用途に対して要求される特性を満たす。例えば、高速動作が必要な集積回路などの用途には単結晶シリコンを用いることで、その要求が満たされる。また、表示装置などの大面積用途に対しては、非晶質シリコンを用いることで、その要求を満たすことができる。
【0004】
このように、シリコンは汎用性が高く、様々な用途に用いることが可能であるが、近年では半導体材料に対して、汎用性と共に一層の性能を求める傾向にある。例えば、大面積表示装置の高性能化という観点からは、スイッチング素子の高速動作を実現するために、大面積化が容易で、且つ非晶質シリコンを超える性能を有する半導体材料が求められている。
【0005】
このような状況において、酸化物半導体を用いた電界効果型トランジスタ(FETとも呼ぶ)に関する技術が注目されている。例えば、特許文献1には、ホモロガス化合物InMO(ZnO)(M=In、Fe、Ga、又はAl、m=1以上50未満の整数)を用いた透明薄膜電界効果型トランジスタが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、In、Ga、Znを含む非晶質酸化物半導体であって電子キャリア濃度が1018/cm未満であるものを用いた電界効果型トランジスタが開示されている。なお、当該文献において、非晶質酸化物半導体の原子数の比は、In:Ga:Zn=1:1:m(m<6)である。
【0007】
さらに、特許文献3には、微結晶を含む非晶質酸化物半導体を活性層とする電界効果型トランジスタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−103957号公報
【特許文献2】国際公開第05/088726号
【特許文献3】特開2006−165529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3においては、結晶状態における組成をInGaO(ZnO)(m=6未満の整数)とする旨の開示がある。また、特許文献3の実施例1においては、InGaO(ZnO)の場合について開示されている。しかしながら、このような酸化物半導体を用いる場合であっても、十分な特性が得られていないというのが実情であった。
【0010】
上記問題点に鑑み、半導体デバイスに用いるのに好適な酸化物半導体の提供を目的の一とする。又は、それを用いた半導体装置の提供を目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示する発明においては、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含ませて半導体装置を作製する。より具体的には、以下の通りである。
【0012】
開示する発明の一は、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層をトランジスタのチャネル形成領域に用いた半導体装置であって、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層は、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む構造を有することを特徴としている。
【0013】
上記において、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層中のZnの含有量(原子%)を、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満とすることが好ましい。また、酸化物半導体層は、Znの含有量(原子%)がInの含有量(原子%)以下かつGaの含有量(原子%)以下のターゲットを用いたスパッタリング法により形成されたものであることが好ましい。また、上記において、結晶粒はm=1に係る構造のみで形成されていることが好ましいが、m=1に係る構造が結晶粒の80体積%以上を占める状況では、所定の特性を得ることが可能である。
【0014】
開示する発明の他の一は、スパッタリング法を用いて、基板上に非晶質構造を有するIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層を形成し、酸化物半導体層に熱処理を施すことで、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む酸化物半導体層を形成し、結晶粒を含む酸化物半導体層をトランジスタのチャネル形成領域として用いることを特徴とする半導体装置の作製方法である。
【0015】
上記において、非晶質構造を有するIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層中のZnの含有量(原子%)が、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満となるように形成されることが好ましい。また、非晶質構造を有するIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層は、Znの含有量(原子%)がInの含有量(原子%)以下かつGaの含有量(原子%)以下のターゲットを用いたスパッタリング法により形成されることが好ましい。また、熱処理は、350℃以上の温度で行われることが好ましい。
【0016】
なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、表示装置、半導体回路および電子機器は全て半導体装置に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含ませることで、酸化物半導体の電気的特性を向上させることができる。また、当該酸化物半導体を用いることで、優れた半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1に係る酸化物半導体層の作製工程を説明する図である。
【図2】非単結晶半導体層の組成分析結果を示す図である。
【図3】非単結晶半導体層の組成分析結果を示す図である。
【図4】酸化物半導体層のBright−field−STEM像である。
【図5】酸化物半導体層のBright−field−STEM像とHAADF−STEM像である。
【図6】結晶構造の拡大写真とモデル図である。
【図7】酸化物半導体層(ターゲットB)のHAADF−STEM像である。
【図8】酸化物半導体(InGaZnO)の結晶構造を示す図である。
【図9】(Ga、Zn)OレイヤーにおけるGa及びZnの配置を示す図である。
【図10】元素の配置に関するエネルギーの比較結果を示す図である。
【図11】電子のDOSとPDOSの計算結果を示す図である。
【図12】伝導帯の底における電子の分布図である。
【図13】EVOの幾何学的最適値の計算結果を示す図である。
【図14】計算に係る具体的な組み合わせ(原子の配置)を示す図である。
【図15】各組み合わせのエネルギーを示す図である。
【図16】最も可能性が高い配置のモデル図である。
【図17】実施の形態2に係る半導体装置の作製工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定されず、発明の趣旨から逸脱することなく形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者にとって自明である。また、異なる実施の形態に係る構成は、適宜組み合わせて用いることができる。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
(実施の形態1)
本実施の形態では、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む酸化物半導体層(In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層)を作製する方法について、図面を参照して説明する。
【0021】
はじめに、被形成面上(ここでは基板100上)にIn−Ga−Zn−O系の非単結晶半導体層102を形成する(図1(a)参照)。例えば、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び亜鉛(Zn)を含む酸化物半導体ターゲットを用いたスパッタ法により、非単結晶半導体層102を形成することができる。スパッタの条件は、例えば、基板100と酸化物半導体ターゲットとの距離を30mm〜500mm、圧力を0.1Pa〜2.0Pa、直流(DC)電源を0.2kW〜5.0kW(直径8インチのターゲット使用時)、雰囲気をアルゴン雰囲気、酸素雰囲気、又はアルゴンと酸素の混合雰囲気とすればよい。
【0022】
ここでは、酸化物半導体ターゲットの組成比がIn:Ga:ZnO=1:1:1、基板100と酸化物半導体ターゲットとの距離が170mm、圧力が0.4Pa、直流(DC)電源が0.5kW、アルゴンガスの流量が10sccm、酸素ガスの流量が5sccmの条件で非単結晶半導体層102を形成した。
【0023】
その後、上記の方法で作製した試料につき、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP−MS分析法)を用いて組成分析を行った。アルゴンガスの流量が10sccm、酸素ガスの流量が5sccmの条件で得られる非単結晶半導体層102の組成は、InGa0.94Zn0.403.31であった。上記分析結果と併せて、アルゴンガスの流量が40sccm、酸素ガスの流量が0sccmの条件で作製した非単結晶半導体層の分析結果を図2に示す。
【0024】
また、分析方法としてラザフォード後方散乱分析法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS分析法)を用いた場合の結果を図3に示す。
【0025】
図2及び図3から、非単結晶半導体層では、ターゲットの組成と比較して、Ga及びZnの含有量が小さくなる傾向にあることが分かる。また、作製条件や分析方法等によって、非単結晶半導体層の分析結果が異なっている。
【0026】
次に、上記非単結晶半導体層に対して、350℃〜800℃(好ましくは500〜750℃)で10分〜200分程度の熱処理を施す。これにより、非晶質構造中に、結晶粒104を含む酸化物半導体層106が得られる(図1(b)参照)。上記酸化物半導体層106を用いて作製される薄膜トランジスタの電気特性は、ゲート電圧±20Vにおいて、オンオフ比が10以上、移動度が10cm/Vs以上と良好である。なお、ここでは、700℃、1時間の条件で熱処理を行っている。
【0027】
上記熱処理の後、酸化物半導体層106の構造を分析した。具体的には上記試料の断面につき、STEM(scanning transmission electron microscope)像の観察を行った。
【0028】
図4に、上記試料のBright−field−STEM像を示す。図4(a)は、In:Ga:ZnO=1:1:1(In:Ga:Zn=1:1:0.5)のターゲット(以下、ターゲットA)を用いて作製した試料のSTEM像であり、図4(b)は、上記試料との比較のため、ターゲットのみをIn:Ga:ZnO=1:1:2(In:Ga:Zn=1:1:1)(以下、ターゲットB)に変更して作製した試料のSTEM像である。
【0029】
図4から、上記の方法で作製した酸化物半導体層106は、非晶質構造中に結晶粒104を含む構造を有していることが分かる。
【0030】
なお、図4(a)と図4(b)との比較から分かるように、ターゲット中のZnの含有量が少ない場合には、ターゲット中のZnの含有量が多い場合と比較して結晶成長の速度が緩やかである。これを利用することにより、結晶成長の制御性を向上させることができる。例えば、非単結晶半導体層102中のZnの含有量(原子%)を、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満としてやれば、良好な酸化物半導体層106を制御性良く形成することができる。一方で、結晶成長速度を重視する場合には、非単結晶半導体層102中の亜鉛の含有量を増加させてやればよい。
【0031】
次に、より微細な領域のSTEM像観察を行った。図5に、ターゲットAを用いて作製した試料のSTEM像を示す。図5(a)がBright−field−STEM像、図5(b)がHAADF(high−angle annular dark field)−STEM像である。図5(a)からは規則的な構造が読み取れるが、各原子の位置を特定する事は困難であり、結晶方位も判別できない。一方、図5(b)では、各原子に対応する白い点の位置が明確に判別できる。また、図5(b)中の右下の領域には、非晶質構造が残存していることが分かる。
【0032】
HAADF−STEM像においては、原子番号の2乗に比例したコントラストが得られるため、明るい点ほど重い原子を示すことになる。図5(b)においては明るい点がIn、暗い点がGa又はZnである。
【0033】
次に、図6を参照して、上記結晶構造についての考察を行う。ここで、図6中の左図(写真)は、図5(b)の拡大図(拡大写真)である。また、図6中の右図は、InGaZnO(InGaO(ZnO)におけるm=1に対応)を[100]方向から見た結晶構造のモデル図である。図6中の左図と右図との対比により、ターゲットAを用いて作製した試料における結晶粒は、InGaO(ZnO)の結晶構造を有していることが分かる。なお、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体においては、In及びGaが電気伝導に寄与していると考えられるため、電気的特性を良好に保つためには、In及びGaの比率が高い結晶構造、すなわち、InGaO(ZnO)においてm=1である結晶構造の比率が高いほど好ましいといえる。
【0034】
図7に、ターゲットBを用いて作製した試料のHAADF−STEM像を示す。明るい点が規則的に配列され、線状になっている様子が分かる。該明るい点によって形成される線と線との間隔は、約0.9nm、約1.15nm、約1.4nmである。これは、それぞれ、m=1、m=2、m=3の結晶構造におけるインジウムの間隔に相当する。すなわち、ターゲットBを用いて作製した試料においては、少なくともm=1〜3までの複数の組成の結晶を有しているといえる。
【0035】
上述したように、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体においてはIn及びGaが電気伝導に寄与しているため、In及びGaの比率が低い状況(すなわち、mが大きい状況)では、その電気的特性は悪化する。そこで、m=1に係る構造の割合を高めておくことで、電気的特性を良好に保つことが可能である。具体的には、m=1である結晶構造が、結晶構造全体の80体積%以上を占めることが好ましい。より好ましくは90体積%以上である。
【0036】
m=1である結晶構造の割合を高める方法の一としては、Znの含有量が小さいターゲットを用いて、Znの含有量が小さい非単結晶半導体層102を形成する方法がある。例えば、非単結晶半導体層102中のZnの含有量(原子%)を、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満としてやれば良い。このように、非単結晶半導体層102中のZnの含有量を低減しておくことで、電気的に良好な特性の結晶構造を得ることができる。
【0037】
In−Ga−Zn−O系酸化物半導体の電子状態は十分に解明されておらず、この電子状態の解明が酸化物半導体の電気特性の理解へとつながるものと考えられる。そこで、以下においては、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体について行った第一原理計算の計算結果及び考察を示す。なお、以下の計算結果は結晶構造に基づいて行ったものであるが、非晶質構造中に結晶粒が含まれる構造においても同様に理解することができる。
【0038】
図8に、計算によるIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体(InGaZnO)の結晶構造を示す。InGaZnO結晶構造の単位格子は21個の原子によって構成されるが、ここではGaの配置を調べるため、84個の原子で構成される単位(2×2×1)にまで拡張して計算を行った。
【0039】
計算は、CASTEPを用いて行っている。CASTEPは、密度汎関数理論(DFT)と平面波−擬ポテンシャル法に基づいた第一原理計算プログラムである。ここでは交換相関汎関数として、GGA(一般化勾配近似(generalized−gradient approximation)及びPBE(Perdew−Burke−Ernzerhof)を選択した。また、カットオフエネルギー(cut−off energy)を500eV、k−pointを3×3×1とした。
【0040】
図8から、単位格子は、2つの(Ga、Zn)Oレイヤーと1つのInOレイヤーから構成されていることが分かる。なお、ここでは簡単のため、所定の原子配置を有する単位格子の繰り返しによる結晶構造を想定した。
【0041】
図9に、単位格子中の2つの(Ga、Zn)OレイヤーにおけるGa及びZnの配置を示す。図9では、単位格子を2×2倍に拡張した構造を示している。また、図中の太線は単位格子を示す。図9(a)は上部レイヤー(Upper Layer)及び下部レイヤー(Lower Layer)にそれぞれ2つのGaが配置された場合を示しており、図9(b)は上部レイヤーに一つのGaが配置され、下部レイヤーに3つのGaが配置された場合を示している。
【0042】
図9(a)に示す場合には、各レイヤー内におけるGaの配置は縞状となる。つまり、各レイヤー内においてGaは互いに平行な線状の配置をとる。
【0043】
また、上部レイヤーと下部レイヤーの組み合わせを考えると、Gaの配置は平行配置と交差配置の2つのパターンに分けられる。平行配置とは、上部レイヤーと下部レイヤーのGaによるラインが互いに平行となる場合をいい、交差配置とは、上部レイヤーと下部レイヤーのGaによるラインが交差する場合をいう。平行配置の場合には、例えば、U1+L1やU1+L4のような2通りの組み合わせが考えられる。一方で、交差配置の場合には、回転対称となるため、例えばU1+L2のような1通りの組み合わせが存在するに過ぎない。つまり、図9(a)に示す場合には、計3通りの組み合わせがあるということになる。
【0044】
図9(b)に示す場合、上部レイヤーと下部レイヤーの組み合わせとしては、例えばU7+L7やU7+L10のような2通りが考えられる。なお、全てのGaが上部レイヤー又は下部レイヤーのいずれか一方に入る場合、その組み合わせは1通りである(U11+L11:図示せず)。よって、Gaの配置については計6通りの組み合わせを考えればよい。
【0045】
次に、上記の6通りの配置に関するエネルギーの比較結果を図10に示す。InGaZnOの最低エネルギーは、上部レイヤー及び下部レイヤーにそれぞれ2つのGaが配置される場合に現れる。より具体的には、U1+L1のような構造である。
【0046】
この構造(最低エネルギーとなる構造)に係る電子状態に関して、より詳細な計算を行った。図11に、上記構造における電子のDOS(density of state)とPDOS(projected density of state)の計算結果を示す。図11より、Gaが最も支配的であり、次いでInの影響が大きいことが分かる。
【0047】
次に、伝導帯の底の軌道関数Ψから、伝導帯の底における電子の存在確率|Ψ|を計算した。図12にその分布図を示す。ここで、図12(a)はIn面(InOレイヤー中)における電子の存在確率を表し、図12(b)は(Ga、Zn)Oレイヤーにおける電子の存在確率を表している。Inの軌道が分離している点が興味深い。
【0048】
図12(b)から、Ga周辺では電子の存在確率が高く、Zn周辺では電子の存在確率が低くなっていることが分かる。また、電気伝導のパスはIn面のみでなく、(Ga、Zn)Oレイヤー中にも存在しているように見える。このことから、InGaZnOの電気伝導にはGaが大きく寄与しているものと考察される。Gaの軌道は、Inの軌道に作用し、また、(Ga、Zn)Oレイヤーに係る電気伝導に寄与するようである。
【0049】
InGaZnOの特徴の一として、電気伝導率の許容度の高さが挙げられる。これは、酸素空孔(欠陥)の発生確率に起因するものと思われる。プロセスにおいて加えられる酸素の量によって電気伝導度が様々に変化するためである。そこで、このメカニズムを解明すべく、酸素空孔の生成エネルギーを計算した。
【0050】
なお、密度汎関数理論(DFT)に基づく計算においては、酸素空孔欠陥のエネルギー準位は未だ議論の対象となっている。例えば、LDA(局所密度近似(Local density approximation))やGGAのような関数によって得られるバンドギャップは、実測値より小さくなる傾向にある。このように、スケーリング法については未だ議論がなされているため、ここでは単純にスケーリング法無しのGGA関数を用いることとした。これにより、人為的な現象が除去されて、現象の本質を把握し得ると考えられる。
【0051】
酸素空孔のエネルギー(EVO)は次のように定義される。
VO=E(An―1)+E(O)−E(A
ここで、EVOは酸素分子のエネルギーの1/2であり、E(An―1)は酸素空孔を有するAn―1のエネルギーを意味する。Aは任意の元素を表している。
【0052】
図13に、酸素空孔を有する構造におけるEVOの幾何学的最適値の計算結果を示す。ここで、格子定数は理想的な結晶のものを用いた。EVOが高いということは、すなわち、熱平衡状態における酸素空孔の密度が低いことを意味する。なお、図13においては、In、ZnO、GaのEVOについても併せて示している。In、ZnO、Gaの結晶構造はそれぞれ、ビックスバイト(bixbyte)型、ウルツ鉱(wurtzite)型、β−Ga型である。
【0053】
InGaZnOにおけるEVOは酸素空孔周辺の元素によって変化する。具体的には、以下の3通りの構造モデルが考えられる。モデル1は、ある酸素空孔が、1個のZnと3個のIn原子によって囲まれているモデルである。モデル2は、ある酸素空孔が、1個のGaと3個のIn原子によって囲まれているモデルである。モデル3は、ある酸素空孔が、2個のZnと2個のGa原子によって囲まれているモデルである。図13からは、InGaZnOにおけるEVOが、酸素空孔周辺のGa数の増加と共に増大することが読み取れる。また、GaのEVOが最も大きくなっており、GaとOとは強固に結合していると言える。
【0054】
InGaZnOが非晶質の状態にある場合には、上記3通りのモデルに加え、より可能性の高い構造が存在する。そして、各構造におけるEVOはわずかに異なる。InGaZnO中のGaの割合が増大することにより、酸素空孔の密度は低下し、InGaZnO中のGaの割合が低下することにより、酸素空孔の密度は増大する。
【0055】
このように、非単結晶半導体層102中のGaの割合を高めることにより、酸素空孔の密度を低減することができる。つまり、電気的特性の良好なIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体を得ることができる。電気伝導に寄与するInの存在を考えると、Inの割合を低減することは好ましくないから、非単結晶半導体層102中のZnの割合を低くしてやることが好ましい。例えば、非単結晶半導体層102中のZnの含有量(原子%)を、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満としてやれば良い。このように、非単結晶半導体層102中のZnの含有量を低減しておくことで、電気的に良好な特性の酸化物半導体層を得ることができる。
【0056】
本実施の形態により、高性能な酸化物半導体層を提供することができる。なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0057】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1において行ったIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層に関する考察をさらに進めた結果について、図面を参照して説明する。
【0058】
実施の形態1において、InGaZnO結晶構造の単位格子は、2つの(Ga、Zn)Oレイヤーと1つのInOレイヤーから構成されていることが示された。これを受け、本実施の形態では、Ga及びZnの配置についてのより詳細な検討を行った。具体的には、図9に示したように上部レイヤーと下部レイヤーの組み合わせをいくつか考え、2つの(Ga、Zn)OレイヤーにおけるGa及びZnの配置と、エネルギーとの関係について、計算及び考察を行った。
【0059】
計算を行った具体的な組み合わせ(原子の配置)を図14に示す。本実施の形態においては、最近接に係る同種原子の数に着目してこれらの組み合わせを選択した。例えば、図14(a)の組み合わせは、上部レイヤーと下部レイヤーにそれぞれGaとZnが分離して配置されることにより、最近接に係る同種原子の数をゼロとしたものである。また、図14(b)の組み合わせは、最近接位置に同種原子が2個存在する場合であり、図14(c)の組み合わせは、最近接位置に同種原子が1.5個存在する場合であり、図14(d)の組み合わせは、最近接位置に同種原子が1個存在する場合である。計算条件は実施の形態1において示したものと同じとした。
【0060】
計算結果を図15に示す。図15では、最もエネルギーの低い構造を原点(エネルギーが0eV)として、各構造のエネルギーを示している。
【0061】
本実施の形態において調査した配置は、多数の配置のうちのごく一部であるが、図15の結果から、GaとZnの配置の傾向を読み取ることができる。図15の結果は、同種元素の凝集度合が小さくなるに従って、エネルギー的に安定になる事を示すものと考えられる。つまり、InGaZnO結晶構造において、GaやZnは、GaOやZnOとして凝集するのではなく、GaとZnが互いに混ざり合った配置を取ると結論できる。図16には、最も可能性が高い配置(図15(d)に対応)のモデル図を示す。
【0062】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0063】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1などに示す方法を用いて作製した酸化物半導体層を用いた半導体装置の作製工程の一例について、図17を参照して説明する。なお、本実施の形態において、実施の形態1などと同様の内容についての詳細な説明は省略する。
【0064】
はじめに、絶縁表面を有する基板200上にゲート電極202を形成し、続いて当該ゲート電極202上にゲート絶縁層204を形成した後、酸化物半導体層206と酸化物半導体層207を積層して形成する(図17(a)参照)。
【0065】
絶縁表面を有する基板200としては、例えば、液晶表示装置などに使用される可視光透過性を有するガラス基板を用いることができる。上記のガラス基板は無アルカリガラス基板であることが好ましい。無アルカリガラス基板には、例えば、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスなどのガラス材料が用いられている。他にも、絶縁表面を有する基板200として、樹脂基板、セラミックス基板、石英基板やサファイア基板などの絶縁体でなる絶縁性基板、珪素などの半導体材料でなる半導体基板の表面を絶縁材料で被覆したもの、金属やステンレスなどの導電体でなる導電性基板の表面を絶縁材料で被覆したもの、などを用いることができる。半導体装置の大面積化という観点からは、特に、ガラス基板を用いることが好ましい。また、所定の耐熱性を有していることが好ましい。
【0066】
ゲート電極202は、導電層を基板200全面に形成した後、フォトリソグラフィ法により形成されたレジストマスクを用いて、該導電層を選択的にエッチングすることにより形成することができる。この際、後に形成されるゲート絶縁層204の被覆性を向上し、段切れを防止するために、ゲート電極202の端部がテーパー形状となるようエッチングすることが好ましい。なお、ゲート電極202にはゲート配線等、上記導電層によって形成される電極や配線が含まれるものとする。
【0067】
ゲート電極202は、アルミニウム(Al)や銅(Cu)などの低抵抗導電性材料で形成することが望ましい。なお、配線及び電極としてアルミニウムを用いる場合、アルミニウム単体では耐熱性が低く、腐蝕しやすい等の問題点があるため、耐熱性導電性材料と組み合わせて形成することが好ましい。
【0068】
上記の耐熱性導電性材料としては、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、Nd(ネオジム)、スカンジウム(Sc)から選ばれた元素、または上述した元素を成分とする合金か、上述した元素を組み合わせた合金、または上述した元素を成分とする窒化物などを用いることができる。これらの耐熱性導電性材料からなる膜とアルミニウム(又は銅)を積層させて、配線や電極を形成することができる。
【0069】
ゲート絶縁層204は、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜等で形成することができる。また、これらの膜を積層させて設けてもよい。これらの膜は、スパッタ法等を用いて20nm以上250nm以下の膜厚で形成することができる。例えば、ゲート絶縁層204として、スパッタ法により酸化シリコン膜を100nmの厚さで形成する。なお、ゲート絶縁層204はトランジスタのゲート絶縁層として機能すればよく、作製方法や膜厚などについても上記の数値範囲に限定して解釈されるものではない。
【0070】
なお、ゲート絶縁層204上に酸化物半導体層206を形成する前に、ゲート絶縁層204の表面にプラズマ処理を行ってもよい。プラズマ処理を行うことにより、ゲート絶縁層204の表面に付着しているゴミを除去することができる。
【0071】
上記のプラズマ処理は、真空状態のチャンバーにアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを導入し、被処理物(ここでは、ゲート絶縁層204が形成された基板200)にバイアス電圧を印加してプラズマ状態を形成することにより行うことができる。この場合、プラズマ中には電子とArの陽イオンが存在し、陰極方向(基板200側)にArの陽イオンが加速される。加速されたArの陽イオンがゲート絶縁層204の表面に衝突することによって、当該ゲート絶縁層204の表面がスパッタエッチングされ、その表面を改質することができる。なお、アルゴンガスに代えて、ヘリウムガスを用いてもよい。また、アルゴン雰囲気に酸素、水素、窒素等を加えた雰囲気で行ってもよい。また、アルゴン雰囲気に塩素(Cl)や四弗化炭素(CF)などを加えた雰囲気で行ってもよい。このようなプラズマ処理を「逆スパッタ」と呼ぶこともある。
【0072】
酸化物半導体層206は、In−Ga−Zn−O系非単結晶半導体層で形成することができる。例えば、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、及び亜鉛(Zn)を含む酸化物半導体ターゲット(In:Ga:ZnO=1:1:1)を用いたスパッタ法で、酸化物半導体層206を形成する。スパッタの条件等については実施の形態1などを参照すればよい。
【0073】
なお、上記スパッタにおいてパルス直流(DC)電源を用いると、ごみが軽減でき、膜厚分布も均一となるため好ましい。また、上述したプラズマ処理を行った後、大気に曝すことなく酸化物半導体層206を形成することにより、ゲート絶縁層204と酸化物半導体層206の界面にゴミや水分が付着することを抑制することができる。酸化物半導体層206の膜厚は、5nm〜500nm程度とすればよい。
【0074】
酸化物半導体層207は、酸化物半導体層206と同様にIn−Ga−Zn−O系非単結晶半導体層で形成することができる。例えば、In、Ga、及びZnを含む酸化物半導体ターゲット(In:Ga:ZnO=1:1:1)を用いたスパッタ法で、酸化物半導体層206上に酸化物半導体層207を形成することができる。この際に、酸化物半導体層206を大気に曝すことなく酸化物半導体層207を連続して形成することが好ましい。スパッタの条件は、例えば、温度を20℃〜100℃、圧力を0.1Pa〜2.0Pa、電力を250W〜3kW(8インチφ時)とすることができる。また、雰囲気中にアルゴンガスを導入すると良い。
【0075】
酸化物半導体層206と酸化物半導体層207の成膜条件は異ならせることが好ましい。例えば、酸化物半導体層206の成膜条件においては、酸化物半導体層207の成膜条件より、アルゴンガスの流量に対する酸素ガスの流量の比を大きくする。具体的には、酸化物半導体層207の成膜条件は、希ガス(アルゴン、又はヘリウムなど)雰囲気下、または、酸素ガス10%以下、希ガス90%以上の雰囲気下とし、酸化物半導体層206の成膜条件は、酸素雰囲気下、または、希ガスに対する酸素ガスの流量比が1以上の雰囲気下とする。このようにすることで、酸化物半導体層206より電気伝導の高い酸化物半導体層207を形成することができる。
【0076】
酸化物半導体層206や酸化物半導体層207を形成する際のスパッタ法としては、スパッタ用電源に高周波電源を用いるRFスパッタ法や、DCスパッタ法、パルス的に直流バイアスを加えるパルスDCスパッタ法などを用いることができる。
【0077】
また、材料の異なるターゲットを複数設置できる多元スパッタ装置を用いてもよい。多元スパッタ装置では、同一チャンバーで異なる膜を積層形成することも、同一チャンバーで複数種類の材料を同時にスパッタして一の膜を形成することもできる。さらに、チャンバー内部に磁界発生機構を備えたマグネトロンスパッタ装置を用いる方法(マグネトロンスパッタ法)や、マイクロ波を用いて発生させたプラズマを用いるECRスパッタ法等を用いてもよい。また、成膜中にターゲット物質とスパッタガス成分とを化学反応させてそれらの化合物を形成するリアクティブスパッタ法や、成膜中に基板にも電圧をかけるバイアススパッタ法等を用いてもよい。
【0078】
なお、本実施の形態では、酸化物半導体層206と酸化物半導体層207を積層させる場合の一例について説明しているが、開示する発明はこれに限定されない。例えば、酸化物半導体層207を設けない構成(酸化物半導体層206のみを形成する構成)としても良い。
【0079】
次に、酸化物半導体層207上にレジストマスク208を形成し、当該レジストマスク208を用いて酸化物半導体層206及び酸化物半導体層207を選択的にエッチングして島状の酸化物半導体層210及び島状の酸化物半導体層211を形成する(図17(b)参照)。
【0080】
上記のエッチングとしては、ウエットエッチングを用いると良い。例えば、ITO07N(関東化学社製)、又は酢酸と硝酸と燐酸との混合液を用いたウエットエッチングにより、酸化物半導体層206及び酸化物半導体層207の不要な部分を除去して、島状の酸化物半導体層210及び島状の酸化物半導体層211を形成する。なお、上記エッチングの後にはレジストマスク208は除去する。また、ウエットエッチングに用いるエッチャントは酸化物半導体層206及び酸化物半導体層207をエッチングできるものであればよく、上述したものに限られない。もちろん、上記のエッチングとしてドライエッチングを用いても良い。
【0081】
次に、島状の酸化物半導体層211上に導電層212を形成する(図17(c)参照)。
【0082】
導電層212は、スパッタ法や真空蒸着法等を用いて、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、Nd(ネオジム)、スカンジウム(Sc)から選ばれた元素を含む金属、上述の元素を成分とする合金、上述した元素を組み合わせた合金、または、上述の元素を成分とする窒化物等からなる材料で形成することができる。なお、本実施の形態においては、導電層212の形成後に熱処理(例えば、350℃〜800℃(好ましくは500〜750℃))を行うから、導電層212に所定の耐熱性を持たせることが好ましい。
【0083】
例えば、上記導電層212をチタン膜の単層構造で形成することができる。また、導電層212を積層構造としても良く、例えば、アルミニウム膜とチタン膜との積層構造とすることができる。また、チタン膜と、ネオジムを含むアルミニウム(Al−Nd)膜と、チタン膜の3層構造としてもよい。さらに、導電層212を、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造としてもよい。
【0084】
次に、導電層212上にレジストマスク214a、レジストマスク214b、レジストマスク214cを形成し、導電層212を選択的にエッチングして、導電層216a、導電層216b、導電層218を形成すると共に、島状の酸化物半導体層211をエッチングして導電率の高い半導体領域215a、導電率の高い半導体領域215bを形成し、島状の酸化物半導体層210の一部(表面付近の一部)を除去(チャネルエッチ)する(図17(d)参照)。
【0085】
島状の酸化物半導体層210の一部、及び島状の酸化物半導体層211の一部が除去されて形成される凹部220は、導電層216aと導電層216bの間、及び導電率の高い半導体領域215aと導電率の高い半導体領域215bの間の領域にあたる。そのため、導電層216aはトランジスタのソース電極又はドレイン電極の一方として機能し、導電層216bはトランジスタのソース電極又はドレイン電極の他方として機能する。図17(d)に示すように、酸化物半導体層210の一部、及び島状の酸化物半導体層211の一部を除去して凹部220を形成することにより、導電層216aと導電層216bとの絶縁を確実なものとすることができる。また、導電層218は、トランジスタ等を電気的に接続する配線として機能する。
【0086】
上記のエッチングとしては、ドライエッチングを用いると良い。ドライエッチングを用いることで、ウエットエッチングを用いる場合と比較して配線構造などの微細化が可能となる。また、ドライエッチングを用いることにより、エッチングの制御性が良いため、島状の酸化物半導体層210の除去(凹部220の形成)を制御性良く行うことができる。ドライエッチングに用いることができるガスとしては、塩素(Cl)、塩化硼素(BCl)、塩化珪素(SiCl)、四塩化炭素(CCl)などの塩素系ガスや、四弗化炭素(CF)、弗化硫黄(SF)、弗化窒素(NF)、トリフルオロメタン(CHF)などのフッ素系ガス、臭化水素(HBr)、酸素(O)、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスを添加したガス、などがある。もちろん、上記エッチングとしてウエットエッチングを用いても良い。
【0087】
また、導電層212の材料として、島状の酸化物半導体層210、又は島状の酸化物半導体層211よりエッチングレートが高い材料を用いることが好ましい。これは、導電層212、島状の酸化物半導体層210、及び島状の酸化物半導体層211を一回でエッチングする場合、島状の酸化物半導体層210、又は島状の酸化物半導体層211のエッチングレートを導電層212のエッチングレートより小さくすることで、島状の酸化物半導体層210が過度にエッチングされることを抑制することができるためである。
【0088】
なお、上記エッチングの後にはレジストマスク214a、レジストマスク214b、レジストマスク214cは除去する。
【0089】
その後、所定の温度条件(例えば、350℃〜800℃(好ましくは500〜750℃))で熱処理を行う。なお、絶縁表面を有する基板200としてガラス基板を用いる場合には、ガラス基板の歪み点以下の温度条件で熱処理を行う必要がある。熱処理の雰囲気は、大気雰囲気や窒素雰囲気とすれば良い。この熱処理により、島状の酸化物半導体層210中に酸化物半導体の結晶粒が成長し、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む酸化物半導体層(In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層)を得ることができる。
【0090】
なお、非晶質構造の酸化物半導体は熱などによって容易に結晶構造の酸化物半導体へと変化するため、非晶質構造の比率が高い場合には、トランジスタの信頼性が低下する傾向にある。信頼性向上の観点からは、非晶質構造が90体積%以下(好ましくは80体積%以下、より好ましくは60体積%以下)となるように熱処理を行う。
【0091】
熱処理の時間は熱処理の温度との関係で適宜変更することができるが、例えば、700℃の温度条件においては、0.5〜2時間程度とすればよい。また、熱処理に適した温度条件は目的とする酸化物半導体の組成によって異なるから、所望の酸化物半導体層が得られる条件であれば特に限定されない。
【0092】
上記の熱処理は、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いて行うことができる。酸化物半導体に吸収される波長の光(電磁波)を照射することで熱処理に代えても良い。つまり、光(電磁波)の照射によって、非晶質構造中に結晶粒を含む構造を実現しても良い。この場合、光源としては、短波長を発振できるレーザー発振器や、紫外線ランプ等を用いればよい。
【0093】
このように、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む酸化物半導体層をトランジスタのチャネル形成領域として用いることで、高性能な半導体装置を提供することができる。
【0094】
ここで、電気的に良好な特性の酸化物半導体層を実現するためには、例えば、酸化物半導体中のZnの含有量(原子%)を、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満としてやることが好ましい。このような組成とすることにより、良好な特性を有する酸化物半導体層を得ることができる。
【0095】
なお、上述のような、Znの含有量(原子%)がInの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満である酸化物半導体層は、目的とする組成に近いターゲットを用いたスパッタリング法によって形成することができる。この場合、図2及び図3を考慮すると、ターゲットの組成と比較して、形成された酸化物半導体層中におけるZnが低下する割合はIn及びGaよりも大きいから、例えば、Znの含有量(原子%)が、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満である酸化物半導体層を形成するためには、Znの含有量(原子%)とIn又はGaの含有量(原子%)が等しいターゲットを用いてもよい。つまり、ターゲットとしては、Znの含有量(原子%)がInの含有量(原子%)以下かつGaの含有量(原子%)以下のものを用いればよい。
【0096】
ここで、本実施の形態においては、上記熱処理を島状の酸化物半導体層210の形成後に行う場合の一例について示しているが、熱処理を行うタイミングは、酸化物半導体層206の形成後であれば特に限定する必要はない。また、成膜の段階で非晶質構造中に複数の結晶粒を含む構造(非晶質構造中に複数の結晶粒が分散された構造)が得られるのであれば、熱処理は不要である。
【0097】
なお、露出している島状の酸化物半導体層210の凹部220に対しては、酸素ラジカル処理を行ってもよい。酸素ラジカル処理を行うことにより島状の酸化物半導体層210をチャネル形成領域とする薄膜トランジスタをノーマリーオフとすることが容易になる。また、ラジカル処理を行うことにより、島状の酸化物半導体層210のエッチングによるダメージを回復することができる。ラジカル処理は、O、NO、酸素を含むN、He、Arなどの雰囲気下で行うことが好ましい。また、上記雰囲気にCl、CFを加えた雰囲気下で行ってもよい。なお、ラジカル処理は、基板200側にバイアス電圧を印加せずに行うことが好ましい。
【0098】
次に、ゲート電極202、島状の酸化物半導体層210、導電率の高い半導体領域215a、導電率の高い半導体領域215b、導電層216a、導電層216b等を含む薄膜トランジスタ250を覆うように、保護絶縁層222を形成する(図17(e)参照)。保護絶縁層222としては、スパッタ法などを用いて、窒化シリコン、酸化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタルなどの材料を含む層を形成すればよい。
【0099】
その後、各種電極や配線を形成することで半導体装置が完成する。
【0100】
本実施の形態により、高性能な半導体装置を提供することができる。なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
100 基板
102 非単結晶半導体層
104 結晶粒
106 酸化物半導体層
200 基板
202 ゲート電極
204 ゲート絶縁層
206 酸化物半導体層
207 酸化物半導体層
208 レジストマスク
210 酸化物半導体層
211 酸化物半導体層
212 導電層
214a レジストマスク
214b レジストマスク
214c レジストマスク
215a 半導体領域
215b 半導体領域
216a 導電層
216b 導電層
218 導電層
220 凹部
222 保護絶縁層
250 薄膜トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層をトランジスタのチャネル形成領域に用いた半導体装置であって、
前記In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層は、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む構造を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記In−Ga−Zn−O系酸化物半導体層中のZnの含有量(原子%)を、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満としたことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記酸化物半導体層は、Znの含有量(原子%)がInの含有量(原子%)以下かつGaの含有量(原子%)以下のターゲットを用いたスパッタリング法により形成されたものであることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
スパッタリング法を用いて、基板上に非晶質構造を有するIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層を形成し、
前記酸化物半導体層に熱処理を施すことで、InGaO(ZnO)(m>0)で表される非晶質構造中に、InGaO(ZnO)(m=1)で表される結晶粒を含む酸化物半導体層を形成し、
前記結晶粒を含む酸化物半導体層をトランジスタのチャネル形成領域として用いることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記非晶質構造を有するIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層中のZnの含有量(原子%)が、Inの含有量(原子%)未満かつGaの含有量(原子%)未満となるように形成されることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、
前記非晶質構造を有するIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体層は、Znの含有量(原子%)がInの含有量(原子%)以下かつGaの含有量(原子%)以下のターゲットを用いたスパッタリング法により形成されることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一において、
前記熱処理は、350℃以上の温度で行われることを特徴とする半導体装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−153802(P2010−153802A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251725(P2009−251725)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】