説明

単結晶ダイヤモンド層成長用基板及び単結晶ダイヤモンド基板の製造方法

【課題】均一で結晶性の高い単結晶ダイヤモンドを再現性良く、低コストで製造することができる単結晶ダイヤモンド層成長用基板及び単結晶ダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
【解決手段】単結晶ダイヤモンド層を成長させるための基板12は、材質が単結晶ダイヤモンドである基材10と、基材10の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜11とからなり、基材10の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶ダイヤモンド基板を製造するための単結晶ダイヤモンド層成長用基板及び単結晶ダイヤモンド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、5.47eVのワイドバンドギャップで、絶縁破壊電界強度も10MV/cmと非常に高い。更に物質としては最高の熱伝導率を有することから、電子デバイスに用いれば、高出力電力デバイスとして有利である。また、ダイヤモンドは、ドリフト移動度も高く、Johnson性能指数を比較しても、半導体の中で高速電力デバイスとして最も有利である。
従って、ダイヤモンドは、高周波・高出力電子デバイスに適した究極の半導体と云われている。そのため、基板として単結晶のダイヤモンドを利用した各種電子デバイスの研究が進められている。
【0003】
現在、ダイヤモンド半導体作製用の単結晶ダイヤモンド基板は、多くの場合が高温高圧法(HPHT)で合成されたIb型もしくは純度を高めたIIa型と呼ばれるダイヤモンドである。
しかしながら、HPHTダイヤモンドは結晶性が高いものが得られる一方で大型化が困難で、サイズが大きくなると極端に価格が高くなり、デバイス用基板としての実用化を困難としている。
そこで、大面積でかつ安価な基板を提供するために、気相法によって合成されたCVD単結晶ダイヤモンドも研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】第20回ダイヤモンドシンポジウム講演要旨集(2006), pp.6−7.
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)pp.L1072−L1074
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では単結晶ダイヤモンドとして、HPHT単結晶ダイヤモンド基材上に直接気相合成法でホモエピタキシャル成長させたホモエピタキシャルCVD単結晶ダイヤモンドも報告されている(非特許文献1参照)。
しかし、当該方法では、基材と成長した単結晶ダイヤモンドとが同材料のためそれらの分離が困難で、そのために、基材に予めイオン注入が必要であることや、成長後も長時間のウエットエッチング分離処理が必要なことなどコストの面で課題がある。また、得られる単結晶ダイヤモンドの結晶性も基材へのイオン注入があるため、ある程度の低下は生じてしまう問題がある。
【0006】
他の方法としては、単結晶MgO基材にヘテロエピタキシャル成長させた単結晶Ir膜上に、CVD法でヘテロエピタキシャル成長させたヘテロエピタキシャルCVD単結晶ダイヤモンドも報告されている(非特許文献2参照)。
しかし、当該方法では、単結晶MgO基材と単結晶イリジウム(Ir)膜を介して成長させた単結晶ダイヤモンド間で発生する応力(内部応力と熱応力の和)のため、基材と成長させた単結晶ダイヤモンドが細かく割れてしまう問題がある。また、得られる単結晶ダイヤモンドの結晶性も、基材である入手可能な単結晶MgOの結晶性が充分で無いため、満足のできるレベルではない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、均一で結晶性の高い単結晶ダイヤモンドを再現性良く、低コストで製造することができる単結晶ダイヤモンド層成長用基板及び単結晶ダイヤモンド基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、単結晶ダイヤモンド層を成長させるための基板であって、少なくとも、材質が単結晶ダイヤモンドである基材と、該基材の前記単結晶ダイヤモンド層を成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜とからなり、前記基材の前記単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであることを特徴とする単結晶ダイヤモンド層成長用基板を提供する。
【0009】
このような材質が単結晶ダイヤモンドである基材にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜を有する成長用基板であれば、その上に単結晶ダイヤモンド層を成長させることで、結晶性良くエピタキシャル成長させることができ、また、基材の材質も同じ単結晶ダイヤモンドであるため、熱膨張によって、成長させる層、基材ともに応力が過剰にかからない。これにより、結晶性良く成長させながら、たとえ大面積であっても単結晶ダイヤモンドである層、基材ともに傷や割れがほとんど生じない。そして、単結晶ダイヤモンド層の成長後にはイリジウム膜、ロジウム膜には適当な応力がかかって良好な剥離層として機能し、容易に単結晶ダイヤモンド層を剥離させて単結晶ダイヤモンド基板を得ることができる。また、剥離後の基材は傷や割れ等のダメージがほとんどないため、基材として再利用することができる。また、基材の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであれば、イリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層を確実に結晶性良く成長させることができる。
以上より、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板であれば、均一で結晶性の高い大面積の単結晶ダイヤモンド基板を再現性良く、低コストで製造することができる。
【0010】
このとき、前記基材が、円形であることが好ましい。
このような形状の基材であれば、イリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層をより容易に結晶性良く成長させることができる。
【0011】
このとき、前記材質が単結晶ダイヤモンドである基材は、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド又は気相合成単結晶ダイヤモンドであることが好ましい。
このような単結晶ダイヤモンドであれば、結晶性が良いため、その基材上にイリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層をより結晶性良く成長させることができる。
【0012】
このとき、前記基材の厚さが、0.03mm以上15.00mm以下であることが好ましい。
このように、基材の厚さが、0.03mm以上であればハンドリングが容易であり、また、15.00mm以下のものは比較的入手が容易であるため、製造が簡便で低コストの成長用基板とすることができる。
【0013】
このとき、前記ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜が、前記基材上にスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものであることが好ましい。
このように、スパッター法でヘテロエピタキシャル成長されることで、十分な成長速度で成長させることができるため、より生産性高く製造できる安価な成長用基板とすることができる。
【0014】
このとき、前記ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜の厚さが、5Å〜100μmであることが好ましい。
このように、厚さが5Å以上あれば膜の結晶性がより良く、厚さが100μm以下であれば基材や単結晶ダイヤモンド層との間に発生する応力が小さいためより確実に単結晶ダイヤモンド層を成長させることができ、さらには安価である。
【0015】
また、単結晶ダイヤモンド基板の製造方法であって、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板上に単結晶ダイヤモンド層を成長させて、該成長させた単結晶ダイヤモンド層をイリジウム膜又はロジウム膜の部分で剥離させることにより単結晶ダイヤモンド基板とすることを特徴とする単結晶ダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
このように、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板を用いれば、低コストで、大面積で結晶性の良い単結晶ダイヤモンド基板を製造することができる。
【0016】
また、本発明は、単結晶ダイヤモンド層を成長させてから剥離することにより単結晶ダイヤモンド基板を製造する方法であって、材質が単結晶ダイヤモンドであり、前記単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされた基材上にイリジウム膜又はロジウム膜をヘテロエピタキシャル成長させて、該ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜上に前記単結晶ダイヤモンド層を成長させて、その後該成長させた単結晶ダイヤモンド層を前記イリジウム膜又はロジウム膜の部分で剥離させることにより単結晶ダイヤモンド基板とすることを特徴とする単結晶ダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
【0017】
このように、基材上にイリジウム膜又はロジウム膜をヘテロエピタキシャル成長させて、その上に単結晶ダイヤモンド膜を成長させることで、イリジウム膜又はロジウム膜が良好な剥離層として機能して、容易に単結晶ダイヤモンド層を剥離させることができ、単結晶ダイヤモンド基板を簡便な方法で製造することができる。また、基材の材質が単結晶ダイヤモンドで、成長させる層と同じ材質であるため、熱膨張しても基材と成長させた層には過剰な応力はかからず、さらには層を結晶性良く成長させることができる。また、基材は過剰な応力がかからないため、割れや傷は生じにくく、大面積なものとすることができるとともに再利用することもできる。また、基材の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであれば、イリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層を確実に結晶性良く成長させることができる。
以上より、本発明の製造方法であれば、均一で結晶性の良い大面積の単結晶ダイヤモンド基板を低コストで製造することができる。
【0018】
このとき、前記ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜の表面に、バイアス処理を行ってダイヤモンド成長核を形成し、前記バイアス処理を行った表面に、マイクロ波CVD法又は直流プラズマCVD法により単結晶ダイヤモンド層を成長させることが好ましい。
このように、予めバイアス処理を行って、ダイヤモンド成長核を形成しておくことで、単結晶ダイヤモンド層を結晶性よく、十分な成長速度で成長させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板又は単結晶ダイヤモンド基板の製造方法によれば、均一で結晶性の良い大面積の単結晶ダイヤモンド基板を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板の実施態様の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法の実施態様の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板及び単結晶ダイヤモンド基板の製造方法について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板の実施態様の一例を示す概略図である。図2は、本発明の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法の実施態様の一例を示すフロー図である。
【0022】
まず、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板は、図1に示すように、単結晶ダイヤモンド層を成長させるための基板12であって、材質が単結晶ダイヤモンドである基材10と、基材10の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム(Ir)膜又はロジウム(Rh)膜11とからなり、基材10の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものである。
このように、材質が単結晶ダイヤモンドである基材にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜を有する成長用基板であれば、その上に単結晶ダイヤモンド層を成長させることで、結晶性良くエピタキシャル成長させることができ、また、材質も同じ単結晶ダイヤモンドであるため、熱膨張によって、成長させる層、基材ともに応力が過剰にかからない。これにより、結晶性良く大面積の単結晶ダイヤモンド層を成長させながら、単結晶ダイヤモンドである層、基材ともに傷や割れがほとんど生じない。そして、単結晶ダイヤモンド層の成長後にはイリジウム膜、ロジウム膜に適当な応力がかかって良好な剥離層として機能し、容易に単結晶ダイヤモンド層を剥離させて単結晶ダイヤモンド基板を得ることができる。また、剥離後の基材は傷や割れ等のダメージがほとんどないため、基材として再利用することができる。従って、単結晶ダイヤモンド基板の製造コストを著しく低減できる。さらに、基材の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであれば、イリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層を確実に結晶性良く成長させることができる。
【0023】
この基材10の形状としては、図1に示すような、上記の基材10の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであり、さらに円形であることが好ましい。
通常、材質が単結晶ダイヤモンドである基材は、その製造段階において結晶の方向によって成長速度が異なるために、多角形でしかも端部に大きなテーパーがあることが多い。この傾向は、5mmを超える大型のものでは顕著となる。このような形状の基材に対して、その後の加工工程において、製膜や前処理などの電気的放電処理を行う場合には、プラズマが不安定でかつ不均一になってしまい、充分な処理効果が得られないことがある。そこで、基材は、平行度の高い、即ちテーパーの無い円形とし、また、基材の製膜や前処理などの放電処理を行いたい側の面に対しては、その周端部を面取り加工する。このような形状の基材であれば、イリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層をより容易に結晶性良く成長させることができる。
本発明者らは、特に、単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされていない基材は、たとえその材質が単結晶ダイヤモンドであったとしても、基材上にイリジウム膜、ロジウム膜や単結晶ダイヤモンド層を結晶性良く成長させることは困難であり、また所望の大面積の単結晶ダイヤモンド基板を得ることはほとんど不可能であることを見出し、基材の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部を曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものとすることを見出した。
【0024】
基材10の加工方法としては、特に限定されないが、例えばレーザー切断法や研磨法で成形し、周端部を砥石で面取りする。
【0025】
このとき、材質が単結晶ダイヤモンドである基材10は、例えば、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド又は気相合成単結晶ダイヤモンドであることが好ましい。
このような単結晶ダイヤモンドであれば、結晶性が良いため、その基材上に単結晶ダイヤモンド層をより結晶性良く成長させることができる。
【0026】
また、基材10の厚さとしても、特に限定されないが、0.03mm以上15.00mm以下であることが好ましい。
このように、基材の厚さが、0.03mm以上であればハンドリングが容易であり、また、15.00mm以下のものは比較的入手が容易であるため、製造が簡便で低コストの成長用基板とすることができる。
【0027】
このとき、ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜11が、基材10上にスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものであることが好ましい。
このように、例えば、R.F.マグネトロンスパッター法のようなスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されることで、十分な成長速度で成長させることができるため、より生産性高く製造できる成長用基板とすることができる。
【0028】
このとき、ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜11の厚さが、5Å〜100μmであることが好ましい。
このように、厚さが5Å以上あれば膜の結晶性がより良く、厚さが100μm以下であれば基材や単結晶ダイヤモンド層との間に発生する応力が小さいためより確実に単結晶ダイヤモンド層を成長させることができ、さらには安価である。また、このような厚さであれば、成長後の単結晶ダイヤモンド層の剥離も容易となる
【0029】
上述した本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板を製造し、さらにそれを用いて単結晶ダイヤモンド基板を製造する実施態様の一例として、以下本発明の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法を説明する。
【0030】
本発明の製造方法では、まず図2(a)に示すように、材質が単結晶ダイヤモンドである基材10として、例えば高温高圧合成単結晶ダイヤモンド又は気相合成単結晶ダイヤモンドを準備する。そして、この基材10の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部を曲率半径(r)≧50μmで面取りする。
この基材10の形状等としては、特に限定されないが、上述した本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板の基材と同様に円形であるものを準備することができる。面取り形状、基材厚さ等も前述したものが好ましい。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、基材10上にイリジウム膜又はロジウム膜11を、例えばスパッター法を用いて5Å〜100μmの厚さでヘテロエピタキシャル成長させることにより、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長用基板12を作製する。
基材の材質が単結晶ダイヤモンドであり、結晶性が良いため、その上に成長させるイリジウム膜、ロジウム膜も結晶性よく成長させることができる。また、本発明の曲率半径である面取り部を有するため、処理や成長を均一にできる。
【0032】
次に、図2(c)に示すように、ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜11上に単結晶ダイヤモンド層13を成長させる。
基材の材質が単結晶ダイヤモンドで、成長させる層と同じ材質であるため、熱膨張しても基材と成長させた層には過剰な応力はかからず、また、基材の単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであるため、大面積の単結晶ダイヤモンド層を結晶性良く成長させることができる。
【0033】
このとき、予めヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜11の表面に、バイアス処理を行ってダイヤモンド成長核を形成し、そのバイアス処理を行った表面に、マイクロ波CVD法又は直流プラズマCVD法により単結晶ダイヤモンド層13を成長させることが好ましい。
このバイアス処理は、例えば、特開2007−238377に記載の様な方法で、先ず、予め基材側電極をカソードとした直流放電でダイヤモンド成長核を形成する前処理を行って、イリジウム(Ir)膜又はロジウム(Rh)膜の表面に方位の揃ったダイヤモンド成長核を形成する。続いて、当該バイアス処理済み基板に対して、マイクロ波CVD法あるいは直流プラズマCVD法により単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることができる。
このように、予めバイアス処理を行って、ダイヤモンド成長核を形成しておくことで、目的の単結晶ダイヤモンド層を結晶性よく、十分な成長速度で成長させることができる。
【0034】
次に、図2(d)に示すように、成長させた単結晶ダイヤモンド層13をイリジウム膜又はロジウム膜11の部分で剥離させることにより単結晶ダイヤモンド基板14とする。
単結晶ダイヤモンド層成長後には、イリジウム膜又はロジウム膜には適当な応力が層と基材からかかっているため良好な剥離層として、CVD装置等の単結晶ダイヤモンド層の成長装置内から取り出す時に容易に剥離する。
また、装置から取り出した後にも、基材(又はイリジウム膜、ロジウム膜)と単結晶ダイヤモンド層との間に付着力が残っている場合は、純水に浸けることや更にはリン酸溶液などのウエットエッチ液に浸けると容易に剥離させることが出来る。
【0035】
このように、本発明の単結晶ダイヤモンド層成長基板又は単結晶ダイヤモンド基板の製造方法であれば、高結晶性でデバイス用途でも使用可能である単結晶ダイヤモンド基板を低コストで製造することができる。
一方、剥離後の残った基材は、イリジウム膜又はロジウム膜の除去及び基材である単結晶ダイヤモンドのきれいな面を出すための研磨加工を行うことで、単結晶ダイヤモンドの基材として再利用できる。再利用することにより、さらにコストを低減することができる。
【0036】
なお、上述した本発明の単結晶ダイヤモンド層成長基板又は単結晶ダイヤモンド基板の製造方法の説明では、基材、イリジウム膜又はロジウム膜、単結晶ダイヤモンド層をそれぞれの上に直接成長させる場合を説明したが、これに限定されず、イリジウム膜、ロジウム膜又は単結晶ダイヤモンド層の成長前にバッファ層等の別の層を成長させることもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
7.0mm径程度のテーパー有りの八面体で、厚みが1.0mm、方位(100)の粗研磨済みHPHT単結晶ダイヤモンドを基材として用意した。レーザー法及び研磨法を用いて、当該基材からテーパーなし6.0mm径の円形で厚み0.7mmに成形後、ダイヤモンドを形成する側の面の周端部を、曲率半径(r)=150μmで面取り加工した。その後、上面をRa≦1nmに仕上げ研磨加工した。
【0038】
そして、この基材の単結晶ダイヤモンド成長を行う側の面にIr膜をヘテロエピタキシャル成長させて単結晶ダイヤモンド層成長用の基板を作製した。製膜は、Irをターゲットとした、R.F.マグネトロンスパッター法で、Arガス6×10−2Torr(8Pa)、基板温度700℃の条件で単結晶Ir膜厚が1.5μmになるまでスパッターして仕上げた。
また、バイアス処理及びDCプラズマCVDを行う際の電気的導通のために、基板温度を100℃とした他は同じ条件で、裏面にもIr膜を1.5μm成長させた。
【0039】
次に、この基板の単結晶Ir膜の表面にダイヤモンドの核を形成するためのバイアス処理を行った。
先ず、基板をバイアス処理装置の負電圧印加電極(カソード)上にセットし、真空排気を行った。次に、基材を600℃に加熱してから、3vol.%水素希釈メタンガスを導入し、圧力を120Torr(160hPa)とした。それから、バイアス処理を行った。すなわち、両電極間にDC電圧を印加して、所定の直流電流を流した。
【0040】
そして最後に、このバイアス処理済みの基板上に、DCプラズマCVD法によって900℃で30h単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させた。
成長終了後、製造物が室温程度に冷えたのを確認してからチャンバー内に大気を導入して、ベルジャーを開けた。正電圧印加電極(アノード)上の製造物は、ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンド部分と基板部分とで分離していた。
成長させた単結晶ダイヤモンド部分は、表面研磨加工を行って、基板とほぼ同サイズの約6mm径厚み150μmに仕上がった。
【0041】
得られた単結晶ダイヤモンドは、ラマン分光、XRDロッキングカーブ、断面TEM、カソードルミネッセンス(CL)で評価したところ、充分な結晶性であることが確認できた。
一方、基板はIr除去及び基材の単結晶ダイヤモンドのきれいな面が出る程度に研磨加工して、基材の単結晶ダイヤモンドとして再利用できた。
【0042】
(実施例2)
実施例1の最後のDCプラズマCVD法による単結晶ダイヤモンドの成長時間を9hとする他は実施例1と同様の条件で製造した後、製造物が室温程度に冷えたのを確認してからチャンバー内に大気を導入してベルジャーを開けた。この場合、アノード上の製造物は、ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンド部分と基板部分とが、弱い付着力で貼り付いていた。そこで、製造物を沸騰した純水中に1h浸けて取り出しところ、単結晶ダイヤモンド部分と基板部分とを分離できた。分離した単結晶ダイヤモンドのIr側の面には僅かにIrが付着している部分もあったが、引き続き行った研磨加工で容易に除去できた。
成長させた単結晶ダイヤモンド部分は、表面研磨加工を行って、基板とほぼ同サイズの約6mm径、厚み50μmに仕上がった。
【0043】
得られた単結晶ダイヤモンドは、ラマン分光、XRDロッキングカーブ、断面TEM、カソードルミネッセンス(CL)で評価したところ、充分な結晶性であることが確認できた。
一方、基板はIr除去及び基材の単結晶ダイヤモンドのきれいな面が出る程度に研磨加工して、基材の単結晶ダイヤモンドとして再利用できた。
【0044】
(比較例1)
基材として、7.0mm径程度のテーパー有りの八面体、厚みが1.0mm、方位(100)の粗研磨済みHPHT単結晶ダイヤモンドを用意した。単結晶ダイヤモンドを成長させる側の面をRa≦1nmに仕上げ研磨加工した。当該基材(面取り無し)を使用することの他は実施例1と同様に、Ir成長、バイアス処理を行って、その上にDCプラズマCVD法での単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を行った。
【0045】
バイアス処理においては、放電が安定せず、発光部が基板上部の角部分を移動したり、基板の下面とステージとの隙間でも発光した。また、基板の上面でも放電の不安定が影響してプラズマの均一性は低く、充分な処理効果が得られなかった。その後、DCプラズマCVD法での単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を行った。ベルジャーを開けて、チャンバー内の製造物を見ると、基板の中心約2mm径の単結晶ダイヤモンドが成長し、その他は多結晶ダイヤモンドであった。また、この場合には基板上面周端部には多結晶ダイヤモンドが異常成長している大形粒子も確認された。
従って、実施例1、2に比べ、結晶性、生産性ともに悪化が見られ、所望の大面積単結晶ダイヤモンドを得ることは出来なかった。
【0046】
(比較例2)
基材として、6.0mm径で厚みが0.7mm、方位(100)、上側周端部の面取りr=150μmの片面仕上げ研磨加工の単結晶MgOを使用することの他は実施例1と同様に、Ir成長、バイアス処理を行って、その上にDCプラズマCVD法での単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を行った。その後、ベルジャーを開けて、チャンバー内の製造物を見ると、基板及び成長させた単結晶ダイヤモンド部分が共に1mm角程度の細かい破片に割れていた。
【0047】
この破片一つを取って、結晶性を評価したところ、ラマン半値幅も広く、断面TEMでも転位欠陥が多く存在するなど、デバイス用途では不充分なレベルであった。
当然、粉々となった基材の再利用は不可能であった。
【0048】
(実施例3、比較例3)
実施例1の基材のダイヤモンドを形成する側の面の周端部を、曲率半径(r)=30、40、50、60、70μmで面取り加工したことの他は実施例1と同様に、Ir成長、バイアス処理を行って、その上にDCプラズマCVD法での単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を行った。以下、結果を表1に示す。面取り加工を行わなかった比較例1と結晶性、得られた単結晶ダイヤモンドの径が同程度であったものを×とし、所望の径の単結晶ダイヤモンド基板を得ることができたものを○とした。
【0049】
【表1】

【0050】
表1からもわかるように、曲率半径30、40μmで面取り加工を行った基材(比較例3)は、放電が不均一で成長も十分にできず、わずかに成長した単結晶ダイヤモンド部分も結晶性が悪かった。一方、曲率半径50、60、70で面取り加工を行った基材(実施例3)は、所望の6mm径の単結晶ダイヤモンド基板を得ることができた。ただし、曲率半径50μmの場合には、実施例1の曲率半径150μmに比べ、結晶性は劣っていたが、曲率半径70μmの場合には実施例1と同程度の結晶性の単結晶ダイヤモンド基板を得ることができた。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0052】
10…基材、 11…イリジウム膜又はロジウム膜、
12…単結晶ダイヤモンド層成長用基板、
13…単結晶ダイヤモンド層、 14…単結晶ダイヤモンド基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶ダイヤモンド層を成長させるための基板であって、少なくとも、材質が単結晶ダイヤモンドである基材と、該基材の前記単結晶ダイヤモンド層を成長させる側にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜とからなり、前記基材の前記単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされたものであることを特徴とする単結晶ダイヤモンド層成長用基板。
【請求項2】
前記基材が、円形であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶ダイヤモンド層成長用基板。
【請求項3】
前記材質が単結晶ダイヤモンドである基材は、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド又は気相合成単結晶ダイヤモンドであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の単結晶ダイヤモンド層成長用基板。
【請求項4】
前記基材の厚さが、0.03mm以上15.00mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の単結晶ダイヤモンド層成長用基板。
【請求項5】
前記ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜が、前記基材上にスパッター法でヘテロエピタキシャル成長されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の単結晶ダイヤモンド層成長用基板。
【請求項6】
前記ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜の厚さが、5Å〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の単結晶ダイヤモンド層成長用基板。
【請求項7】
単結晶ダイヤモンド基板の製造方法であって、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の単結晶ダイヤモンド層成長用基板上に単結晶ダイヤモンド層を成長させて、該成長させた単結晶ダイヤモンド層をイリジウム膜又はロジウム膜の部分で剥離させることにより単結晶ダイヤモンド基板とすることを特徴とする単結晶ダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項8】
単結晶ダイヤモンド層を成長させてから剥離することにより単結晶ダイヤモンド基板を製造する方法であって、材質が単結晶ダイヤモンドであり、前記単結晶ダイヤモンド層を成長させる側の面の周端部が、曲率半径(r)≧50μmで面取りされた基材上にイリジウム膜又はロジウム膜をヘテロエピタキシャル成長させて、該ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜上に前記単結晶ダイヤモンド層を成長させて、その後該成長させた単結晶ダイヤモンド層を前記イリジウム膜又はロジウム膜の部分で剥離させることにより単結晶ダイヤモンド基板とすることを特徴とする単結晶ダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項9】
前記ヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜又はロジウム膜の表面に、バイアス処理を行ってダイヤモンド成長核を形成し、前記バイアス処理を行った表面に、マイクロ波CVD法又は直流プラズマCVD法により単結晶ダイヤモンド層を成長させることを特徴とする請求項8に記載の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−269962(P2010−269962A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122415(P2009−122415)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】