説明

回路基板及びそれを用いた電力変換装置

【課題】電力変換装置に用いられるパワーモジュールに搭載する絶縁基板を介し、その筐体と接続した接地面へと流出するコモンモード電流(漏洩電流)に起因する電磁界放射を抑制する。
【解決手段】電力変換装置のパワーモジュールに搭載されパワー半導体素子を実装する絶縁基板において、絶縁基板に寄生する容量を意図的に用い、インダクタと並列共振器を形成する。インダクタは外付部品実装もしくは絶縁基板内の配線パターンにより構成する。この構成により、絶縁基板に電気的に高インピーダンス特性を持たせられ、絶縁基板を介して流出するコモンモード電流すなわちそれに起因する電磁界放射を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板、特に電力変換装置に用いられるパワーモジュールの回路基板の実装に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化が進むにつれて、自動車への搭載品数が多くなっている電気電子装置に対する電磁環境適合性への規制が厳しくなっている。そのため、車載インバータ等のあらゆる電気装置もしくはそれらを構成するハーネスからの放射ノイズの低減が求められている。
【0003】
特に、インバータ装置に搭載するパワーモジュールに用いられるパワー半導体の技術革新により、高速スイッチングが実現される反面、インバータ出力端子電圧の高速スイッチング変動に応じ、当該パワーモジュールに寄生する容量を介し接地面へ流れ出るコモンモード電流が増大するという問題が生じる。このコモンモード電流が、各装置で共有する接地面を迷走することにより、大きな電流ループを形成し、放射ノイズを増大させてしまう。
【0004】
特許文献1では、ノイズ経路となる絶縁基板の誘電損失が高くなるよう、その材料にエポキシ樹脂に無機材を充填した熱硬化性組成物を使用することにより、絶縁基板のインピーダンスを高め、コモンモード電流を流れ難くするという材料視点での対策が記載されている。
【0005】
しかしながら、絶縁基板の材質を工夫した対策のみにおいては、高周波におけるコモンモードノイズ対策が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−35657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたもので、パワーモジュールから漏洩する高周波のコモンモード電流を抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による電力変換装置は、その構成要素であるインバータ装置に搭載するパワーモジュールの絶縁基板(絶縁層)を媒体とし、当該絶縁基板の上面に位置するIGBT等のパワー半導体と、下面に位置する金属ベースの実装面間に寄生する容量を経由し、接地面(アース)へ流出するコモンモード電流(漏洩電流)を低減させる機能を備える。それは、前記絶縁基板の寄生容量と並列にインダクタを接続することで、当該絶縁基板に並列共振器を形成する構造を有する(請求項1の発明)。この並列共振器は、先述の寄生容量とインダクタで定まる共振周波数において、電気的に高インピーダンスの特性を持つため、絶縁基板を流出するコモンモード電流の経路を遮断する効果を有する。
【0009】
ここで、請求項1の発明において、上述の並列共振器を構成する箇所を、インバータのスイッチング動作により急峻かつ高電圧で変動する各相交流出力端子、すなわちパワーモジュールの各相下アームのコレクタ電極に接着する配線パターンと、絶縁基板を介してその反対側に面する金属ベース板の間に施すことで最大限のノイズ低減効果を発揮する。
【0010】
請求項2及び請求項3の発明は、絶縁基板の上下面に配線パターン層を有する2層配線絶縁基板における本発明の応用例であり、下アームの配線パターンと金属ベースの間に外付け用チップインダクタを挿入することにより並列共振器を構成する。ここで、直流において下アームの配線パターンと金属ベースが導通しないように、当該インダクタと直列に直流カット用の外付け用チップコンデンサを接続する。
【0011】
請求項4及び請求項7及びそれらに付随する請求項の発明は、絶縁基板の配線パターンを用いて絶縁基板内に並列共振器を構成する。この際、絶縁基板は2層以上の配線パターンを有する多層配線用絶縁基板を用いる。その並列共振器を構成するインダクタは、絶縁基板の配線パターン層を用いて、当該インダクタの一端部から伸びる配線パターンが、他端部を中心として当該他端部に近づくように屈曲しながら渦状に形成することにより実現する。以降の記述において、この配線パターンにより形成されたインダクタを、平型インダクタと称することにする。
【0012】
また、平型インダクタを第2の絶縁基板上の配線パターンで形成した構成を挙げる。共振器の共振周波数は、平型インダクタのインダクタンスと、下アームパワー半導体を実装する第1の絶縁基板上の配線パターンと第2の絶縁基板上の配線パターン間に形成する寄生容量、及び第2の絶縁基板上の配線パターンと金属ベース間に形成する寄生容量により決まる。所望の共振周波数となるように、各基板間に形成する寄生容量を、各配線パターン層のオーバーラップ面積及び間隔により適宜調整する。共振器を構成する平型インダクタ及び寄生容量を、第2の絶縁基板の配線パターンを用い、下アームのパワー半導体の下層に形成することで、パワーモジュールの大きさは従来と同等の大きさで実現することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、パワーモジュールから漏洩する高周波のコモンモード電流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【図2】インバータ装置140や142あるいはインバータ装置43の電気回路構成図である。
【図3(a)】本実施形態に関するパワーモジュール300の上方斜視図である。
【図3(b)】当該パワーモジュール300の上視図である。
【図3(c)】当該パワーモジュール300の横視図である。
【図4】本実施形態に関するパワーモジュール300の直流端子の分解斜視図である。
【図5】上下アーム直列回路150を構成する回路パターンを示した分解斜視図である。
【図6】インバータに搭載するパワーモジュールの一般的な実装の構成断面図である。
【図7】本実施形態に係るパワーモジュール300の部分拡大図である。
【図8(a)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。
【図8(b)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上視図である。
【図8(c)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した横視図である。
【図8(d)】本実施形態の構成を用いた上下アーム直列回路150を回路的に表現した図である。
【図9(a)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。
【図9(b)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上視図である。
【図9(c)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した横視図である。
【図10(a)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。
【図10(b)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上視図。
【図10(c)】下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した横視図である。
【図11】各実施形態に対応する等価回路図である。
【図12】共振器のインピーダンス概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態を説明する前に、本実施形態に係る課題及び原理を説明する。
【0016】
図6を用いて、上記のパワーモジュールから絶縁基板(絶縁層)の寄生容量を介してコモンモード電流が流れる原理を説明する。図6はインバータに搭載するパワーモジュールの一般的な実装の構成断面図である。本例においては、インバータを構成する各相及び各アームの素子が個別の基板上に独立して実装する場合で説明するが、1つもしくは複数の基板上に実装する場合であっても同様である。尚、図中の符号は、断り無い限り上アームと下アームでそれぞれ対応するものは同符号とする。
【0017】
スイッチング素子である上アームIGBT328及び下アームIGBT330は、各々の絶縁基板(絶縁層)334上の配線パターン(第1配線導体)334kにコレクタ電極を下向きに実装される。配線パターンへの実装の際は、はんだ337を用いて接着する。IGBTと並列配置するダイオード156,166の実装に関しても、上述と同じ様にはんだを用いて配線パターン上に接着される。絶縁基板334上のもう一方の配線パターン(第2配線導体)334rは、絶縁基板334を介して上側の配線パターン334kと反対側に対面配置している。
【0018】
金属ベース304は、配線パターン334rにはんだ337を用いて接着され、絶縁基板334に実装されたパワー半導体を冷却する。ここで、コモンモード電流経路となる絶縁基板の寄生容量350は、当該絶縁基板334を挟んで上側の配線パターン334kと下側の配線パターン334rのオーバーラップする部分にて形成される。
【0019】
また、金属ベース304、及び当該金属ベース304にインバータ装置の金属筐体を介して接続された接地面160は、寄生インダクタ349を有する。ここでの接地面とは、車両用インバータを例に挙げるとシャーシに相当する。
【0020】
以上より、パワーモジュールは、寄生容量350と寄生インダクタ349が直列接続した構造を取るため、当該パワーモジュールは絶縁基板を介した直列共振器と見なされる。
この直列共振器は、図12に示される、共振器のインピーダンス概略図に破線で示したような特性を持つ。共振周波数fresoにおいて低インピーダンスとなる領域が存在し、fresoを境界にして低域側で容量性、高域側で誘導性に振舞う。このfresoは絶縁基板の寄生容量350と金属ベース及び接地面の寄生インダクタ349により定まる。
【0021】
ここで、インバータ回路からのコモンモード電流すなわち漏洩電流が問題となるのは、インバータの動作周波数もしくはその高調波が、パワーモジュールの絶縁基板334が低インピーダンスになる周波数、すなわちfreso周辺に位置するときである。このとき、絶縁基板334を貫通して接地面160に流れ出るコモンモード電流が過大になるという現象が起きる。
【0022】
また別の表現をすると、下アームIGBT330のコレクタ電極に接続した配線パターン334kの電位は、インバータの出力端子159と同電位であり、上アームIGBT328と下アームIGBT330のスイッチングに応じて急峻な電位変動をする方形波である(図6左上の方形波を参照)。図6に示されるiは絶縁基板を流れるコモンモード電流を示し、Cpは絶縁基板334の寄生容量350、vはインバータ出力端子159の電位である。急峻変動するインバータ出力電位vにより、下アームに寄生する容量350に流れる電流は、i=Cp(dv/dt)で表される。これより、その方形波vの急峻変動する立上り及び立下り部分において、絶縁基板334を介して流れ出るコモンモード電流iが過大となる。以上が、絶縁基板334を貫通するコモンモード電流の発生原理である。
【0023】
なお、チップサイズ,周波数,寄生容量,インピーダンスに関する具体的な数値を用いて、ノイズの発生要因を説明する。図6において、アーム1相分のIGBT330及びダイオード166が、寸法が50mm×30mm程度の絶縁基板334に形成された配線パターン334k上に実装される場合を例に挙げる。絶縁基板334に熱伝導性の良いセラミックス基板を用いた場合、寄生容量(Cp)350は100pF程度を有す。これは、絶縁基板334のインピーダンス|Z|が100MHzにおいて約16Ωとなり、さらに数100MHzを超えると|Z|は10Ω以下の低インピーダンスとなる。以上より、絶縁基板を介して流れる漏洩電流のノイズ問題は高周波において顕在化することがわかる。
【0024】
上述したノイズ発生の要因を解消するためには、ノイズ発生の主要箇所であるパワーモジュール内部で形成されるノイズ経路を遮断することが非常に効果的である。そこで、ノイズ低減のため、ノイズ経路となる絶縁基板に対策を施すことを考える。例えば、絶縁基板の誘電損失が高くなるよう、その材料にエポキシ樹脂に無機材を充填した熱硬化性組成物を使用することにより、絶縁基板のインピーダンスを高め、コモンモード電流を流れ難くするという材料視点での対策が記載されている。
【0025】
しかし、絶縁基板に高抵抗となる特殊材料を用いた対策では、その材質の誘電損失を利用してインピーダンスを高めているが、当該絶縁基板のインピーダンスの抵抗成分は周波数に反比例する値を持つため、高周波のコモンモード電流への対策には、より大きな誘電損失を持つ材質を使用する必要がある。しかし、実際に誘電正接(tanδ)が10%を超えるような絶縁基板を創生することは困難である。従って、絶縁基板の材質を工夫した対策のみにおいては、高周波におけるコモンモードノイズ対策が十分でない。そこで、以下の実施形態にて説明する構成により高周波におけるコモンモードノイズを低減するようにしている。
【0026】
本実施形態に係る電力変換装置について、図面を参照しながら以下詳細に説明する。本実施形態に係る電力変換装置は、ハイブリッド用の自動車や純粋な電気自動車に適用可能であるが、代表例として、ハイブリッド自動車に適用した場合における制御構成と回路構成について、図1と図2を用いて説明する。
【0027】
図1は、ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。本実施形態に係る電力変換装置では、車両駆動用電機システムに用いられ、搭載環境や動作的環境などが大変厳しい車両駆動用インバータ装置を例に挙げて説明する。
【0028】
車両駆動用インバータ装置は、車載電源を構成する車載バッテリ或いは車載発電装置から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を車両駆動用電動機に供給して車両駆動用電動機の駆動を制御する。また、車両駆動用電動機は発電機としての機能も有しているので、車両駆動用インバータ装置は運転モードに応じ、車両駆動用電動機が発生する交流電力を直流電力に変換する機能も有している。
【0029】
なお、本実施形態の構成は、自動車やトラックなどの車両駆動用電力変換装置として最適であるが、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶,航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする家庭用電力変換装置に対しても適用可能である。
【0030】
図1において、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」と記述する)110は1つの電動車両であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記す。
【0031】
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支され、前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸が回転可能に軸支され、後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている(図示省略)。本実施形態のHEVでは、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。前輪車軸114の中央部には前輪側デファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪側DEF116の入力側には変速機118の出力軸が機械的に接続されている。変速機118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。尚、モータジェネレータ192,194及び動力分配機構122は、変速機118の筐体の内部に収納されている。
【0032】
インバータ装置140,142にはバッテリ136が電気的に接続されており、バッテリ136とインバータ装置140,142との相互において電力の授受が可能である。本実施形態では、モータジェネレータ192及びインバータ装置140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及びインバータ装置142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備え、運転状態に応じてそれらを使い分けている。すなわち、エンジン120からの動力によって車両を駆動している場合において、車両の駆動トルクをアシストする場合には第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。また、同様の場合において、車両の車速をアシストする場合には第1電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第2電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。
【0033】
また、本実施形態では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136の充電ができる。
【0034】
バッテリ136はさらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機としては例えば、エアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータであり、バッテリ136からインバータ43装置に直流電力が供給され、インバータ装置43で交流の電力に変換されてモータ195に供給される。前記インバータ装置43はインバータ装置140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数,電力を制御する。例えばモータ195の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ195はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ195は発電機として作用し、モータ195は回生制動状態の運転となる。このようなインバータ装置43の制御機能はインバータ装置140や142の制御機能と同様である。モータ195の容量がモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、インバータ装置43の最大変換電力がインバータ装置140や142より小さいが、インバータ装置43の回路構成は基本的にインバータ装置140や142の回路構成と同じである。
【0035】
次に、図2を用いてインバータ装置140や142あるいはインバータ装置43の電気回路構成を説明する。尚、図1,図2に示す実施形態では、インバータ装置140や142あるいはインバータ装置43は同様の構成で同様の作用を為し、同様の機能を有しているので、ここでは、代表例としてインバータ装置140の説明を行う。
【0036】
本実施形態に係る電力変換装置200は、インバータ装置140とコンデンサモジュール500とを備え、インバータ装置140はインバータ回路144と制御部170とを有している。また、インバータ回路144は、上アームとして動作する上アームIGBT328(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)及びダイオード156と、下アームとして動作する下アームIGBT330及びダイオード166と、からなる上下アーム直列回路150をモータジェネレータ192の電機子巻線の各相巻線に対応して3相(U相,V相,W相)分設けられ、それぞれの上下アーム直列回路150の中点部分(中間電極169)から交流端子159及び交流コネクタ188を通してモータジェネレータ192への交流電力線(交流バスバー)186と接続する構成である。上アームIGBT328のコレクタ電極153は正極端子(P端子)157を介してコンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極に、下アームIGBT330のエミッタ電極は負極端子(N端子)158を介してコンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にそれぞれ電気的に接続(直流バスバーで接続)されている。
【0037】
また、制御部170はインバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。
【0038】
上アームIGBT328や下アームIGBT330は、スイッチング用パワー半導体素子であり、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力はモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される。
【0039】
インバータ回路144は3相ブリッジ回路により構成されており、3相分の上下アーム直列回路150がそれぞれ、バッテリ136の正極側と負極側に電気的に接続されている直流正極端子314と直流負極端子316の間に電気的に並列に接続されている。上アームIGBT328は、コレクタ電極153、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子155)、ゲート電極(ゲート電極端子154)を備えている。上アームIGBT328のコレクタ電極153とエミッタ電極との間にはダイオード156が図示するように電気的に接続されている。スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。この場合はダイオード156やダイオード166は不要となる。
【0040】
コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極にはバッテリ136の正極側が、コンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にはバッテリ136の負極側がそれぞれ直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。
【0041】
制御回路172は、IGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が入力されている。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0042】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相,V相,W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相,V相,W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路174に出力する。
【0043】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する下アームIGBT330のゲート電極に、上アームを駆動する場合、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームIGBT328のゲート電極にそれぞれ出力する。
【0044】
また、制御部170は、異常検知(過電流,過電圧,過温度など)を行い、上下アーム直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば各アームの信号用エミッタ電極端子155,165からは各IGBT328,330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,330を過電流から保護する。上下アーム直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アーム直列回路150の温度の情報がマイコンに入力されている。また、マイコンには上下アーム直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、上下アーム直列回路150(引いては、この回路150を含む半導体モジュール)を過温度或いは過電圧から保護する。
【0045】
図3(a)は本実施形態に関するパワーモジュール300の上方斜視図であり、図3(b)は当該パワーモジュール300の上視図、図3(c)は当該パワーモジュール300の横視図である。図4は、本実施形態に関するパワーモジュール300の直流端子の分解斜視図である。
【0046】
図4に示されるように、パワーモジュール300は、大きく分けて、例えば樹脂材料のパワーモジュールケース302内の配線を含めた上アーム回路151,下アーム回路152の半導体モジュール部と、金属材料例えばCu,Al,AlSiCなどからなる金属ベース304と、外部との接続端子としてモータと接続するためのU,V,W相の交流端子159と、コンデンサモジュール500と接続する直流正極端子314及び直流負極端子316とが絶縁紙318(図4参照)を介在して構成される。
【0047】
また、前記半導体モジュール部は、絶縁基板334の配線パターン334k上の実装面に上アームIGBT328,下アームIGBT330、ダイオード156,166等が接着され、レジン又はシリコンゲル(不図示)によって保護されている。ここで、絶縁基板334は熱伝導性の良いセラミック基板を用いているが、樹脂基板であっても良い。また、絶縁基板334の配線パターン334rと放熱用の金属ベース304ははんだ337を用いて接続している。
【0048】
図3(c)に示されるように、金属ベース304は、冷却水流路に浸されて冷却水(冷却媒体)へ効率良く放熱するために、絶縁基板334の反対側にフィンの形状305を有している。また、金属ベース304は、その一方の面にインバータ回路を構成するIGBTやダイオードを実装し、当該金属ベース304の外周に樹脂製のパワーモジュールケース302を備える。
【0049】
図4に示すように、パワーモジュール300に内蔵された直流端子313は、絶縁紙318を挟んで、直流負極端子316,直流正極端子314の積層構造を成す。また、直流負極端子316,直流正極端子314の端部を互いに反対方向に屈曲させ、積層構造の直流バスバーとパワーモジュール300とを電気的に接続するための負極接続部316a及び正極接続部314aを形成する。
【0050】
また、直流正極端子314及び直流負極端子316は、回路配線パターン334kと接続するための接続端314k,316kを有する。また、各接続端314k,316kは、回路配線パターン334kの方向に向かって突出し、かつ回路配線パターン334kとの接合面を形成するために、その先端部が屈曲している。接続端314k,316kと回路配線パターン334kは、はんだなどを介して接続されるか、もしくは直接金属どうしを超音波溶接により接続される。
【0051】
図5(a)に示すように、上下アーム直列回路150は、上アーム回路151,下アーム回路152、これら上アーム回路151,下アーム回路152を結線するための端子370、及び交流電力を出力するための交流端子159を備える。また、図5(b)に示すように、上アーム回路151,下アーム回路152は、金属ベース304の上に、回路配線パターン334kを形成した各々の絶縁基板334、さらに、この回路配線パターン334kの上にIGBT328,330、ダイオード156,166を備える。
【0052】
上アーム回路151において、上アームIGBT328及びダイオード156は、当該上アームIGBT328の裏面側に位置するコレクタ電極及びダイオード156の裏面側に位置するカソード電極が、回路配線パターン334kとはんだ337により接合される。回路配線パターンを形成した絶縁基板334は、回路配線パターン334kと反対面(裏面)334rが、パターンの無い、いわゆるベタパターンを形成している。この絶縁基板の裏面のベタパターンと、金属ベース304とが、はんだ337で接合される。下アーム回路152も上アームと同様に、金属ベース304の上に配置された絶縁基板334と、この絶縁基板334の上に配線された回路配線パターン334kと、この回路配線パターン334kの上に実装された下アームIGBT330,ダイオード166を備える。
【0053】
尚、本実施形態における各相の各アームは、IGBTとダイオードを並列接続した回路を一組として、この回路を2組並列に接続して構成される。この回路を何組並列に接続するかは、モータ192に通電される電流量によって決定され、本実施形態に係るモータ192に通電される電流よりも大電流が必要な場合には、回路を3組、もしくはそれ以上を並列接続して構成される。逆に、モータを小さい電流で駆動することができる場合には、各相の各アームは、一組の回路のみで構成される。
【実施例1】
【0054】
図7は、本実施形態に係るパワーモジュール300の部分拡大図である。図3に示されるパワーモジュール300の各相出力交流端子159の電位がバッテリ電圧136の大きさで急峻に変動する際、図7(c)に示される絶縁基板334の寄生容量(Cp)350を介して金属ベース304もしくは特に車両用である場合に当該金属ベース304に接続するシャーシ等の接地面160へコモンモード電流(漏洩電流)が流れる。
【0055】
本実施形態では、当該コモンモード電流の主要流出経路となる下アームの各相絶縁基板334のインピーダンスを高く見せることにより、コモンモード電流の流出を抑制している。
【0056】
図7(a)は下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。ここで、表記の煩雑さを避けるため主要パーツのみ記載している。また、図7(b)は上視図、図7(c)は横視図である。
【0057】
絶縁基板334の寄生容量(Cp)350は、下アームIGBT330のコレクタ面が接触する配線パターン334kと金属ベース304側の配線パターン334rのオーバーラップ部分によって形成される。本実施形態の特徴は、絶縁基板334のインピーダンスを電気的に高めるため、当該寄生容量(Cp)350と並列に外付け用チップインダクタ(L)352が配置するように、絶縁基板334上の配線パターン334kを用いて表面実装する点にある。尚、配線パターン334kと金属ベース304が直流で導通するのを防ぐため、外付け用チップインダクタ352と直列に外付け用チップコンデンサ(Cs)351を接続させる。
【0058】
外付け用チップインダクタ352は、一端が配線パターン334kと接続され、かつ他端が中継配線導体361aと接続される。外付け用チップコンデンサ(Cs)351は、一端が中継配線導体361aと接続され、かつ他端が中継配線導体361bと接続される。中継配線導体361bは、配線パターン334kと配線パターン334rとを繋ぐためのスルーホール(接続導体)357と接続される。つまり、外付け用チップインダクタ352と外付け用チップコンデンサ(Cs)351と中継配線導体361aと中継配線導体361bは電気的に直列に接続される。なお、中継配線導体361aと中継配線導体361bは、配線パターン334kが配置された側の絶縁基板334の面上に配置される。
【0059】
上述の構成により、絶縁基板334は、図11(a)に示す直並型のLC共振器を形成することになる。その共振器のインピーダンス特性|Z|は図12の概略図中の実線で示すように、高インピーダンスになる極周波数


と低インピーダンスになる零周波数


を持つ。共振器のQ値が無限大であると仮定した場合、LC共振器の|Z|は、極周波数fにおいて極大値(並列共振に見える)、零周波数fzeroにおいて極小値(直列共振に見える)を示すことになり、極周波数fでは絶縁基板334を介したコモンモード電流(漏洩電流)を無限小まで低減できるが、零周波数fzeroにおいてはこの周波数成分を持ったコモンモード電流が絶縁基板を貫通して流れる危険性がある。
【0060】
しかし、実際のインダクタは抵抗成分を持つため共振器のQ値は有限となる。本実施形態におけるLC共振器は、零周波数fzeroにおいて低インピーダンスになる周波数領域が存在してしまうが、共振器すなわちインダクタのQ値を意図的に低下させることにより、低インピーダンスになる周波数領域においてインピーダンスの大きさ|Z|を増大させることが可能である。この処置により、零周波数fzeroに等しい周波数成分を持ったコモンモード電流が過大に流れるという危険性を防ぐことが可能である。
【0061】
実際に共振器のQ値を低下させる方法としては、外付け用チップインダクタ352に直列にチップ抵抗を接続する、もしくは外付け用チップインダクタを実装する際の配線パターン334kの線幅を狭くすることで可能である。ここで、共振器のQ値を意図的に低下させることにより、高インピーダンスになる極周波数fにおける|Z|は低下することになり、インピーダンス特性|Z|が周波数に対して平坦化する働きがある。これより、絶縁基板334のインピーダンスを、直流から高周波まで広帯域に渡って従来より高くすることが可能である。あるいは、高周波におけるコモンモード電流を抑制することが主目的であり、その着目する周波数領域において絶縁基板334を高インピーダンスに保つ必要がある場合、低インピーダンスになる零周波数fzeroがノイズ規格で定められていない周波数帯になるよう、外付け用チップインダクタ(L)352及び外付け用チップコンデンサ(Cs)351の最適化を行うことにより、絶縁基板334に構成する共振器の零周波数fzeroにおける問題点を防ぐことが可能である。
【実施例2】
【0062】
図8(a)は、下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。また、図8(b)は上視図、図8(c)は横視図、図8(d)は本実施形態の構成を用いた上下アーム直列回路150を回路的に表現した図である。
【0063】
本実施形態の特徴は、絶縁基板334のインピーダンスを電気的に高めるため、絶縁基板の配線パターンを用いて絶縁基板内に並列共振器を構成した点にある。本構成を用いることにより、従来のパワーモジュールと同等の表面積で、コモンモードノイズ対策機能を持ったパワーモジュールが実現できる。
【0064】
その並列共振器に用いるインダクタ(L)355は、絶縁基板内の配線パターン層を用いて、当該インダクタの一端部390から伸びる配線パターンが、他端部392を中心として当該他端部392に近づくように屈曲または湾曲しながら渦状に形成することにより実現する。この配線パターンにより形成されたインダクタ(L)355を、平型インダクタと称することにする。
【0065】
尚、本実施形態は、絶縁基板(絶縁層)表面の上下面及びその間に形成する計3層の配線パターンを備えた2層の絶縁基板を用いて実現され、下アームIGBT330を実装する上方の絶縁基板を第一の絶縁基板334−1、金属ベースと接する下方の絶縁基板を第二の絶縁基板334−2とする。
【0066】
平型インダクタ(L)355は、(絶縁層内である)第二の絶縁基板334−2の上側に位置する配線パターン(中間導体)334−2kを用いて構成しており、そのインダクタンスは渦形状の外径,巻数,線幅,線間隔によって定められる。平型インダクタ355の一方の取出し口は、後述する第一の絶縁基板間の寄生容量(Cp)353と平型インダクタ355が並列配置するように、第一の絶縁基板の配線パターン(第1配線導体)334−1kにスルーホール(接続導体)357で導通させる。そして、もう一方の平型インダクタ355の取出し口は、同一層にある第二の絶縁基板の配線パターン334−2kで形成する平板356に接続する。
【0067】
また、図8(c)に示されるように、LC共振器を構成する絶縁基板内の容量はCpとCsが存在するが、前者のCpは、第一の絶縁基板の配線パターン334−1kと、第二の絶縁基板の配線パターン334−2kで形成した平板356がオーバーラップする面積及び間隔すなわち第一の絶縁基板334−1の厚さによって定まる。後者のCsは、第二の絶縁基板上方の配線パターン334−2kで形成した平板356と、第二の絶縁基板下方の配線パターン(第2配線導体)334−2rがオーバーラップする面積及び間隔すなわち第二の絶縁基板334−2の厚さによって定まる。なお、構成要素の寸法,周波数,寄生容量,インピーダンスに関する具体的な数値を用いて、ノイズの発生要因を説明する。本実施例では、絶縁基板334が高インピーダンスとなる周波数fを100MHzと設定し、先述した従来構造と同じ寸法(50mm×30mm程度)の絶縁基板内に並列共振器を構成することを前提に、各構成素子の設計値を決める。図8(c)に示す寄生容量(Cp)353は、配線パターン334−1kと平板356のオーバーラップ面積により任意に与えられ、従来構造の例より100pF以下に設定される。当該寄生容量(Cp)353と100MHzの共振周波数を持つ並列共振器を構成するためには、平型インダクタ(L)355は数10nHである必要がある。先述した絶縁基板の寸法内で当該平型インダクタ(L)355は、一例として最外径25mm,線幅3mm,線間隔0.7mm,巻数3の屈曲した渦形状で形成することで、約70nHのインダクタンスを実現する。本実施例において、この形状のインダクタを用いて設計すると、当該インダクタ355と並列に寄生する容量(Cp)353は、約36pFとなるよう平板356を配置する。また、直列に寄生する容量(Cs)354は低インピーダンスとなる直列共振器の共振周波数fzeroを決めるため、fzeroがインバータ出力電位の持つスペクトルが小さい周波数帯もしくはノイズ規格で規制されていない周波数帯となるよう設計する必要がある。ここでは、fzeroを60MHzと設定すると、当該寄生容量(Cs)354は約65pFとなるように配線パターン334−2rと平板356のオーバーラップ面積または絶縁基板の厚さを調整することで設計可能である。
【0068】
上記構成によるLC共振器は、図11(b)に示すような並直型のLC共振器となる。
その共振器のインピーダンス特性|Z|は図12の概略図中の実線で示すよう、高インピーダンスになる極周波数


と低インピーダンスになる零周波数


を持つ。
【0069】
ここで留意することは、図12に示す極周波数fと零周波数fzeroの周波数間隔を決める独立変数となる第二の絶縁基板内の寄生容量(Cs)354の、第一の絶縁基板内の寄生容量(Cp)353に対する大小関係であり、f≫fzeroとするためにはCs≫Cpでなければならない。これより、CsがCpに対し大きくなるためには、第一の絶縁基板内の寄生容量(Cp)353を決める第一の絶縁基板の配線パターン334−1kと第二の絶縁基板334−2の配線パターンで形成した平板356の間でオーバーラップする面積及び間隔、並びに、第二の絶縁基板内の寄生容量(Cs)354を決める第二の絶縁基板で形成した平板356と配線パターン334−2rの間でオーバーラップする面積及び間隔を、この平板356の水平方向の配置調整、加えて垂直方向の間隔を考慮することにより、Cs≫Cpの大小関係を実現させる。
【0070】
本構成によると、平型インダクタ(L)355の形状寸法、第一の絶縁基板内の寄生容量(Cp)353と第二の絶縁基板内の寄生容量(Cs)354の大きさを決める各配線パターン間のオーバーラップ面積を適宜調整可能である。上記の各パラメータを最適化することで、極周波数f及び零周波数fzeroを任意に設定可能であり、周波数に関し自由度のあるコモンモードノイズ対策を行えるという利点がある。
【0071】
また、前述した第一の発明構成で述べた通り、本発明構成においても同様に高インピーダンスになる極周波数fと低インピーダンスになる零周波数fzeroが存在するが、零周波数fzeroの周波数領域における低インピーダンス特性に関する対策も同様に行うことで対処できる。ここで、本発明構成における並列共振器のインダクタに配線パターンを用いた場合に、共振器のQ値を意図的に低下させるための手段としては、平型インダクタ355を形成する際に用いる、配線パターン334−2kの線幅を狭くすることにより実現可能である。
【実施例3】
【0072】
図9(a)は下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。また、図9(b)は上視図、図9(c)は横視図である。本実施形態と前記第2実施形態との相違箇所は、平型インダクタ(L)355を第一の絶縁基板の配線パターン334−1kに形成している点である。平型インダクタ355の一方の取出し口は、同一層の配線パターン334−1kに接続し、もう一方の取出し口は、第二の絶縁基板の配線パターン334−2kで形成する平板356にスルーホール357を用いて導通する構成を持つ。
【0073】
ここで構成されるLC共振器は、前記第二の発明構成と同様で図11(b)に示す並直型のLC共振器となる。その共振器のインピーダンス特性|Z|は図12の概略図中の実線で示すよう、高インピーダンスになる極周波数


と低インピーダンスになる零周波数


を持つ。また、極周波数f及び零周波数fzeroを決定するための、平型インダクタ(L)355及び第一の絶縁基板内の寄生容量(Cp)353と第二の絶縁基板内の寄生容量(Cs)354の構造上の決定法は、前記第二の発明構成と同様である。本発明構成によると、実装面積が増大するという欠点はあるが、第二の発明構成で前述したf≫fzeroとするためのCs≫Cpとなる条件の適合範囲が広がるという利点がある。
【実施例4】
【0074】
図10(a)は下アームIGBT330を搭載した下アーム回路152部分を切り出した上方斜視図である。また、図10(b)は上視図、図10(c)は横視図である。本実施形態は、前記第3実施形態においてLC共振器を構成するために第一の絶縁基板の配線パターン334−1kを用いていた平型インダクタ355を、外付け用チップインダクタ352に変更し、第一の絶縁基板の配線パターン334−1kを用いて表面実装していることを特徴とする。その他、第一の絶縁基板内の寄生容量(Cp)353と第二の絶縁基板内の寄生容量(Cs)354の構造上の決定法は、前記第二の発明構成と同様である。本実施形態の並列共振器に外付け用チップインダクタを用いることにより、平型インダクタを用いる第三の発明構成に比べ、パワーモジュールの面積を過度に費やすことなく実現することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動用モータに交流電流を出力するインバータ装置に備えられる回路基板であって、
絶縁層と、
インバータ回路を構成する上アーム及び下アームのうち下アームを構成する半導体チップを実装し、かつ前記絶縁層の一方の面に形成された第1配線導体と、
前記絶縁層を挟んで、前記第1配線導体とは反対側の他方の面に形成され、かつ前記車両のアースに接続される第2配線導体と、
前記第1配線導体と前記第2配線導体との間に発生する寄生容量と並列に接続されることにより、当該寄生容量と並列共振器を構成するためのインダクタと、
を備える回路基板。
【請求項2】
請求項1に記載された回路基板であって、
前記絶縁層の前記一方の面に形成された中継配線導体を備え、
前記インダクタは、当該インダクタの一方の端子が前記第2配線導体に接続され、当該インダクタの他方の端子が前記中継配線導体に接続される外付け用チップインダクタである回路基板。
【請求項3】
請求項2に記載された回路基板であって、
前記中継配線導体に、前記インダクタと直列に接続される外付け用チップコンデンサを接続する回路基板。
【請求項4】
請求項1に記載された回路基板であって、
前記インダクタは、前記絶縁層の一方側の表面に形成され、当該インダクタの一端部から伸びる配線パターンが、他端部を中心として当該他端部に近づくように屈曲又は湾曲しながら渦状に形成されることによりインダクタンス成分を有するように構成される回路基板。
【請求項5】
請求項2または3に記載されたいずれかの回路基板であって、
前記絶縁層の一方の面に形成された前記中継配線導体と、前記絶縁層の他方の面に形成する前記第2配線導体と、を電気的に接続し、かつ前記絶縁層を貫通させる接続導体を備える回路基板。
【請求項6】
請求項5に記載された回路基板であって、
前記接続導体は、前記絶縁層の一方の導体面側から他方の導体面側に伸びるスルーホールである回路基板。
【請求項7】
車両の駆動用モータに交流電流を出力するインバータ装置に備えられる回路基板であって、
絶縁層と、
インバータ回路部を構成する上アーム及び下アームのうち下アームを構成する半導体チップを実装し、かつ前記絶縁層の一方の面に形成された第1配線導体と、
前記絶縁層を挟んで、前記第1配線導体とは反対側の他方の面に形成され、かつ前記車両のアースに接続される第2配線導体と、
前記絶縁層内に形成され、かつ一方の面が前記第1配線導体と対向され、さらに他方の面が前記第2配線導体と対向するように配置される中間導体と、
前記第1配線導体と前記中間導体との間に蓄えられる寄生容量と並列に接続され、かつ前記第2配線導体と前記中間導体との間に発生する寄生容量と直列に接続されることにより、当該寄生容量と並列共振器を構成するためのインダクタと、
を備えた回路基板。
【請求項8】
請求項7に記載された回路基板であって、
前記インダクタは、前記絶縁層の一方の面に形成された第1配線導体を用いて形成され、当該インダクタの一端部から伸びる配線パターンが、他端部を中心として当該他端部に近づくように屈曲または湾曲しながら渦状に形成されることによりインダクタンス成分を有するように構成される回路基板。
【請求項9】
請求項7に記載された回路基板であって、
前記インダクタは、前記絶縁層内に形成された中間導体を用いて形成され、当該インダクタの一端部から伸びる配線パターンが、他端部を中心として当該他端部に近づくように屈曲または湾曲しながら渦状に形成されることによりインダクタンス成分を有するように構成される回路基板。
【請求項10】
請求項9に記載の回路基板であって、
前記絶縁層の前記一方の面に形成された中継配線導体と、
一方の端子が前記中間導体に接続され、かつ他方の端子が前記中継配線導体に接続され、前記インダクタと直列に接続される外付け用チップインダクタと、
を備える回路基板。
【請求項11】
車両の駆動用モータに交流電流を出力するインバータ回路と、
前記インバータ回路を実装するための回路基板と、
前記インバータ回路と前記回路基板を収納し、かつ前記車両のアースに接続される金属筐体と、を備え、
前記回路基板は、
絶縁層と、
インバータ回路を構成する上アーム及び下アームのうち下アームを構成する半導体チップを実装し、かつ前記絶縁層の一方の面に形成された第1配線導体と、
前記絶縁層を挟んで、前記第1配線導体とは反対側の他方の面に形成され、かつ前記金属筐体に接続される第2配線導体と、
前記第1配線導体と前記第2配線導体との間に発生する寄生容量と並列に接続されることにより、当該寄生容量と並列共振器を構成するためのインダクタと、
を備える電力変換装置。
【請求項12】
車両の駆動用モータに交流電流を出力するインバータ回路と、
前記インバータ回路を実装するための回路基板と、
前記インバータ回路と前記回路基板を収納し、かつ前記車両のアースに接続される金属筐体と、を備え、
前記回路基板は、
絶縁層と、
インバータ回路を構成する上アーム及び下アームのうち下アームを構成する半導体チップを実装し、かつ前記絶縁層の一方の面に配線された第1配線導体と、
前記絶縁層を挟んで、前記第1配線導体とは反対側の他方の面に形成され、かつ前記車両のアースに接続される第2配線導体と、
前記絶縁層内に形成され、かつ一方の面が前記第1配線導体と対向され、さらに他方の面が前記第2配線導体と対向するように配置される中間導体と、
前記第1配線導体と前記中間導体との間に発生する寄生容量と並列に接続され、かつ前記第2配線導体と前記中間導体との間に発生する寄生容量と直列に接続されることにより、当該寄生容量と並列共振器を構成するためのインダクタと、
を備える電力変換装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載のいずれかの電力変換装置であって、
絶縁材を介して前記回路基板を搭載し、かつ前記インバータ回路を構成する半導体素子を冷却するための冷却媒体に当該半導体素子の発生熱を伝達する金属ベースを備え、前記金属ベースは、前記第2配線導体と前記金属筐体と接続される電力変換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3(a)】
image rotate

【図3(b)】
image rotate

【図3(c)】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8(a)】
image rotate

【図8(b)】
image rotate

【図8(c)】
image rotate

【図8(d)】
image rotate

【図9(a)】
image rotate

【図9(b)】
image rotate

【図9(c)】
image rotate

【図10(a)】
image rotate

【図10(b)】
image rotate

【図10(c)】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−172329(P2011−172329A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31930(P2010−31930)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】