説明

圧電振動片の製造方法、圧電振動片の製造装置、圧電振動子、発振器、電子機器および電波時計

【課題】絶縁膜の成膜時における温度上昇を抑制でき、電極の金属拡散を抑制できる圧電振動片の製造方法と、この方法で製造された圧電振動片を備えた圧電振動子、発振器、電子機器および電波時計を提供する。
【解決手段】パッシベーション膜成膜工程は、ターゲット77と、回転可能な回転ドラム71と、を備えたスパッタリング装置70を用いて行い、パッシベーション膜成膜工程は、回転ドラム71の外周面71aにウエハWを取り付けるウエハ取付工程と、ウエハWがターゲット77に対向する位置を通過するように回転ドラム71を回転させてパッシベーション膜を成膜する回転成膜工程と、を備え、回転成膜工程は、ウエハWがターゲット77に対向する位置を複数回通過するように回転ドラム71を回転させることによりパッシベーション膜を成膜することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電振動片の製造方法、圧電振動片の製造装置、圧電振動子、発振器、電子機器および電波時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や携帯情報端末機器には、時刻源や制御信号のタイミング源、リファレンス信号源等として、水晶等を利用した圧電振動子が用いられている。この種の圧電振動子は、様々なものが提供されているが、いわゆるATカット型の圧電振動片や音叉型の圧電振動片等をパッケージに封入した圧電振動子が知られている。
【0003】
例えば、音叉型の圧電振動片は、幅方向に並んで配置された一対の振動腕部と、一対の振動腕部の長手方向の基端側を一体的に固定する基部とを有する、薄板状の水晶片である。
圧電振動片の各振動腕部の主面上には、それぞれ所定のギャップを隔てて一対の励振電極が形成されている。基部の主面上には、一対の励振電極とそれぞれ電気的に接続された一対のマウント電極が形成されている。
【0004】
励振電極は、例えば水晶と密着性の良いクロム等の単層膜であり、一対の励振電極の短絡防止を目的とする絶縁膜で覆われている。
マウント電極は、例えばクロム等の下地層と、ハンダ等に対する濡れ性に優れた金等の仕上層とを備えた多層の積層膜である。マウント電極は絶縁膜から露出されており、パッケージの内部電極にハンダ等を介して接合されることで、圧電振動片がパッケージに実装される。
【0005】
絶縁膜は、例えば酸化シリコン(SiO2)等の絶縁物により形成されており、スパッタリング法やCVD法等の成膜方法により成膜される。
ところで、スパッタリング法やCVD法等により絶縁膜を成膜する際、成膜される基板の温度が非常に高温(CVD法で例えば1000℃程度)となるため、基板等に損傷を与えるおそれがある。したがって、基板の温度をなるべく上昇させることなく絶縁膜を成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0006】
特許文献1では、プラズマ生成用ガスとして炭酸ガス(CO2)または希ガスと炭酸ガスの混合ガスを用いてシリコンターゲットをスパッタリングすることで絶縁膜を成膜している。特許文献1によれば、Si−O結合はプラズマ中でできるため、高温を必要とせず、200℃程度の基板温度で絶縁膜を成膜できるとされている。
【0007】
また、特許文献2では、ECRプラズマによって基板上にSiO2絶縁膜を堆積させる時に、該基板の温度を200〜400℃の範囲に制御し、かつ供給ガスの供給速度を1.5sccm以下としている。特許文献2によれば、膜堆積温度を軽減させ、信頼性の高い高品質膜を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−269706号公報
【特許文献2】特開平9−306906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、圧電振動片に絶縁膜を成膜する場合には、以下の問題がある。
圧電振動片のマウント電極は、前述のとおりクロム等の下地層と金等の仕上層とが積層されて形成されている。ここで、マウント電極が高温になると、下地層と仕上層との間で互いの金属が溶融しあう、いわゆる金属拡散が発生する。
【0010】
金属拡散が進行すると、仕上層の表面に下地層の材料が析出し、仕上層のハンダ等に対する濡れ性を悪化させるおそれがある。これにより、パッケージの内部電極にハンダ等を介してマウント電極を接合した際、圧電振動片の実装強度が低下するおそれがある。従来技術では、200℃〜400℃程度まで温度上昇を抑制して絶縁膜を成膜する方法が提案されているが、特に金属拡散を抑制するには更なる温度上昇の抑制が必要である。
【0011】
そこで本発明は、絶縁膜の成膜時における温度上昇を抑制でき、電極の金属拡散を抑制できる圧電振動片の製造方法と、この方法で製造された圧電振動片を備えた圧電振動子、発振器、電子機器および電波時計の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の圧電振動片の製造方法は、ウエハから形成される圧電板と、前記圧電板を振動させる励振電極と、前記励振電極に電気的に接続され金属膜を積層して形成されたマウント電極と、を有する圧電振動片の製造方法であって、前記ウエハの第1面および第2面のうち少なくとも一方に対して、少なくとも前記励振電極を覆う絶縁膜をスパッタリング法により成膜する絶縁膜成膜工程を備え、前記絶縁膜成膜工程は、前記絶縁膜の原料となるターゲットと、回転軸周りに回転可能な回転ドラムと、を備えたスパッタリング装置を用いて行い、前記絶縁膜成膜工程は、前記回転ドラムの外周面に前記ウエハを取り付けるウエハ取付工程と、前記ウエハが前記ターゲットに対向する位置を通過するように前記回転ドラムを回転させて前記絶縁膜を成膜する回転成膜工程と、を備え、前記回転成膜工程は、前記ウエハが前記ターゲットに対向する位置を複数回通過するように前記回転ドラムを回転させることにより前記絶縁膜を成膜することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、回転成膜工程では、ウエハがターゲットに対向する位置を複数回通過することにより、絶縁膜の成膜を複数回に分けて行うことができる。これにより、ウエハがターゲットに対向する一回当りの時間を短縮できるので、絶縁膜の成膜時におけるウエハの温度上昇を抑制できる。また、ターゲットに対向する位置をウエハが通過した後、再度ターゲットに対向する位置をウエハが通過するまでの間に、ウエハの温度が低下するので、ウエハの温度上昇を抑制できる。したがって、マウント電極の金属拡散を防止できる。
また、回転成膜工程では、回転ドラムの回転途中において、ウエハがターゲットと対向する前後に、圧電板の側面をターゲットに対向させることができる。したがって、圧電板の主面に加えて圧電板の側面にも確実に絶縁膜を成膜できる。特に、振動腕部が基部に接続された音叉型の圧電板の場合には、振動腕部と基部との接続部に形成された又部にも確実に絶縁膜を成膜できる。
【0014】
また、前記マウント電極は、積層された前記金属膜の最外層に、金を主成分とした仕上層を備えていることを特徴としている。
【0015】
本発明によれば、金属拡散を抑制できる製造方法により圧電振動片を製造しているので、仕上層の表面に下層の金属膜の材料が析出するのを防止できる。これにより、金を主成分とした仕上層の良好な濡れ性を維持できるので、金を主成分とした仕上層を備えた圧電振動片の製造に特に好適である。
【0016】
また、前記スパッタリング装置は、複数の前記ウエハを取付可能なウエハ固定治具を備え、前記ウエハ取付工程は、前記ウエハ固定治具に前記ウエハを複数取り付け、前記ウエハ固定治具ごと前記複数のウエハを前記回転ドラムに取り付けることを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、回転ドラムに複数のウエハを短時間で容易に取り付けることができるので、ウエハ取付工程の工数を短縮できる。
【0018】
また、前記ウエハ固定治具は、前記ウエハの前記第1面および前記第2面を露出する開口部を有し、前記絶縁膜成膜工程は、前記回転成膜工程を行った後に、前記ウエハ固定治具ごと前記複数のウエハの前記第1面および前記第2面の表裏を反転させて、再度前記回転成膜工程を行うことを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、ウエハ固定治具がウエハの第1面および第2面を露出する開口部を有しているので、ウエハ固定治具ごと複数のウエハの表裏を反転させることで、ウエハ固定治具からウエハを外すことなく、ウエハの第1面および第2面に絶縁膜を成膜できる。しかも、複数のウエハの表裏を一度に容易に反転させることができる。したがって、複数のウエハの第1面および第2面に効率よく絶縁膜を成膜できるので、絶縁膜成膜工程の工数を短縮できる。
【0020】
また、前記絶縁膜成膜工程における前記ウエハの温度は、100℃以下であることを特徴としている。
【0021】
本発明によれば、従来のスパッタリング法よりもウエハ温度が極めて低温の状態で絶縁膜を成膜できる。したがって、マウント電極の金属拡散を確実に防止できる。
【0022】
また、本発明の圧電振動片の製造装置は、ウエハから形成される圧電板と、前記圧電板を振動させる励振電極と、前記励振電極に電気的に接続され金属膜を積層して形成されたマウント電極と、を有する圧電振動片の製造装置であって、前記ウエハの第1面および第2面のうち少なくとも一方に対して、少なくとも前記励振電極を覆う絶縁膜をスパッタリング法により成膜するスパッタリング装置を備え、前記スパッタリング装置は、前記絶縁膜の原料となるターゲットと、回転軸周りに回転可能な回転ドラムと、を備え、前記ウエハは、前記回転ドラムの外周面に取り付けられ、前記回転ドラムが回転することにより、前記ターゲットに対向する位置を複数回通過するように形成されていることを特徴としている。
【0023】
本発明によれば、ウエハがターゲットに対向する位置を複数回通過することにより、絶縁膜の成膜を複数回に分けて行うことができる。これにより、ウエハがターゲットに対向する一回当りの時間を短縮できるので、絶縁膜の成膜時におけるウエハの温度上昇を抑制できる。また、ターゲットに対向する位置をウエハが通過した後、再度ターゲットに対向する位置をウエハが通過するまでの間に、ウエハの温度が低下するので、ウエハの温度上昇を抑制できる。したがって、マウント電極の金属拡散を防止できるスパッタリング装置を提供できる。
また、回転ドラムの回転途中において、ウエハがターゲットと対向する前後に、圧電板の側面をターゲットに対向させることができる。したがって、圧電板の主面に加えて圧電板の側面にも確実に絶縁膜を成膜できる。
【0024】
また、複数の前記ウエハを取り付けた状態で、前記回転ドラムの外周面に取り付けられるウエハ固定治具を備え、前記ウエハ固定治具は、前記ウエハの前記第1面および前記第2面を露出する開口部を有することを特徴としている。
【0025】
本発明によれば、回転ドラムに複数のウエハを短時間で容易に取り付けることができる。
また、ウエハ固定治具がウエハの第1面および第2面を露出する開口部を有しているので、ウエハ固定治具ごと複数のウエハの表裏を反転させることで、ウエハ固定治具からウエハを外すことなく、ウエハの第1面および第2面に絶縁膜を成膜できる。しかも、複数のウエハの表裏を一度に容易に反転させることができる。したがって、複数のウエハの第1面および第2面に効率よく絶縁膜を成膜できるスパッタリング装置を提供できる。
【0026】
また、本発明の圧電振動子は、上述した製造方法により製造された圧電振動片を備えたことを特徴としている。
【0027】
本発明によれば、圧電振動片は、マウント電極の金属拡散を防止できる上記製造方法で製造されているので、マウント電極の表面に下層の金属膜材料が析出することがない。したがって、マウント電極の濡れ性が良好に維持されるので、圧電振動片の実装強度が確保された圧電振動子を得ることができる。
【0028】
また、本発明の発振器は、上述した圧電振動子が、発振子として集積回路に電気的に接続されていることを特徴とする。
本発明の電子機器は、上述した圧電振動子が、計時部に電気的に接続されていることを特徴とする。
本発明の電波時計は、上述した圧電振動子が、フィルタ部に電気的に接続されていることを特徴とする。
【0029】
本発明の発振器、電子機器および電波時計によれば、圧電振動片の実装強度が確保された圧電振動子を備えているので、信頼性の高い発振器、電子機器および電波時計を提供できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、回転成膜工程では、ウエハがターゲットに対向する位置を複数回通過することにより、絶縁膜の成膜を複数回に分けて行うことができる。これにより、ウエハがターゲットに対向する一回当りの時間を短縮できるので、絶縁膜の成膜時におけるウエハの温度上昇を抑制できる。また、ターゲットに対向する位置をウエハが通過した後、再度ターゲットに対向する位置をウエハが通過するまでの間に、ウエハの温度が低下するので、ウエハの温度上昇を抑制できる。したがって、マウント電極の金属拡散を防止できる。
また、回転成膜工程では、回転ドラムの回転途中において、ウエハの第1面または第2面がターゲットと対向する前後に、圧電板の側面をターゲットに対向させることができる。したがって、圧電板の主面に加えて圧電板の側面にも確実に絶縁膜を成膜できる。特に、振動腕部が基部に接続された音叉型の圧電板の場合には、振動腕部と基部との接続部に形成された又部にも確実に絶縁膜を成膜できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】圧電振動片の平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】又部の拡大斜視図である。
【図4】シリンダーパッケージタイプの圧電振動子の外観斜視図である。
【図5】図4のB−B線に沿った断面図である。
【図6】圧電振動片の製造工程のフローチャートである。
【図7】外形形成工程の説明図である。
【図8】電極形成工程における図7のC−C線に沿った断面図である。
【図9】スパッタリング装置の外観斜視図である。
【図10】回転ドラムの平面図である。
【図11】ウエハ固定治具の正面図である。
【図12】図11のD−D線に沿った断面図である。
【図13】ウエハ取付工程の説明図である。
【図14】回転成膜工程の説明図である。
【図15】回転成膜工程時のマウント電極の断面図である。
【図16】表面実装型の圧電振動子の外観斜視図である。
【図17】表面実装型の圧電振動子の内部構成図であって、リッド基板を取り外した状態の平面図である。
【図18】図17のE−E線における断面図である。
【図19】図16に示す圧電振動子の分解斜視図である。
【図20】発振器の一実施形態を示す構成図である。
【図21】電子機器の一実施形態を示す構成図である。
【図22】電波時計の一実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(圧電振動片)
最初に、本発明の実施形態に係る圧電振動片を、図面を参照して説明する。
図1は圧電振動片4の平面図である。なお、以下の説明では、図1における紙面手前側の面を第1面Fとし、紙面奥側の面を第2面Sとして説明する。
図2は図1のA−A線に沿った断面図である。
図1に示すように、本実施形態の圧電振動片4は、水晶やタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電材料から形成された音叉型の振動片であり、所定の電圧が印加されたときに振動するものである。圧電振動片4は、平行に配置された一対の振動腕部10,11(第1の振動腕部10および第2の振動腕部11)と、前記一対の振動腕部10,11の基端側を一体的に固定する基部12と、一対の振動腕部10,11の第1面Fおよび第2面S上に形成された溝部18とを備えている。この溝部18は、振動腕部10,11の長手方向に沿って振動腕部10,11の基端側から略中間付近まで形成されている。
【0033】
図3は、又部25の拡大斜視図である。
図3に示すように、基部12は、振動腕部10,11に隣接し、振動腕部10,11の一端側が接続されて支持している。基部12と振動腕部10,11との接続部には、基部12、振動腕部10の内側面10bおよび振動腕部11の内側面11bに囲まれて又部25が形成される。又部25は、平面視略U字形状に形成されている。
【0034】
図1に示すように、圧電振動片4は、圧電振動片4をパッケージに実装するために基部12に形成されたマウント電極16,17と、一対の振動腕部10,11の外表面上に形成されて一対の振動腕部10,11を振動させる第1の励振電極13および第2の励振電極14からなる励振電極15と、マウント電極16,17と第1の励振電極13および第2の励振電極14とを電気的接続する引き出し電極19,20と、を有している。
【0035】
マウント電極16,17は、クロムと金との積層膜であり、水晶と密着性の良いクロム膜を下地層84a(図5参照)として成膜した後に、表面に金の薄膜を仕上層84b(図5参照)として成膜することにより形成される。ただし、この場合に限られず、例えば、ニッケルやアルミニウム、チタン等を下地層84aとして成膜した後に、金の薄膜を仕上層84bとして成膜しても構わない。
【0036】
励振電極15は、一対の振動腕部10,11を互いに接近又は離間する方向に所定の共振周波数で振動させる電極である。励振電極15を構成する第1の励振電極13および第2の励振電極14は、一対の振動腕部10,11の外表面に、それぞれ電気的に切り離された状態でパターニングされて形成されている。
【0037】
具体的には、図2に示すように、第1の励振電極13は、主に第1の振動腕部10の溝部18内、第2の振動腕部11の外側面11a上、および第2の振動腕部11の内側面11b上に形成されている。第2の励振電極14は、主に第2の振動腕部11の溝部18内、第1の振動腕部10の外側面10a上、および第1の振動腕部10の内側面10b上に形成されている。第1の励振電極13および第2の励振電極14は、基部12の第1面Fおよび第2面S上において、それぞれ引き出し電極19,20を介してマウント電極16,17に電気的に接続されている。
【0038】
また、図3に示すように、第2の振動腕部11の内側面11b上に形成された第1の励振電極13と、第1の振動腕部10の内側面10b上に形成された第2の励振電極14とは、又部25を挟んで対向した状態となっている。又部25の表面の一部には第1の励振電極13および第2の励振電極14が形成されており、又部25において電気的に切り離された状態でパターニングされている。
【0039】
図1に示すように、励振電極15および引き出し電極19,20は、マウント電極16,17の下地層と同じ材料のクロムにより単層膜で形成されている。これにより、マウント電極16,17の下地層を成膜するのと同時に、励振電極15および引き出し電極19,20を成膜することができる。ただし、この場合に限られず、例えば、ニッケルやアルミニウム、チタン等により励振電極15および引き出し電極19,20を成膜しても構わない。励振電極13,14および引き出し電極19,20は、後述するパッシベーション膜24(請求項の「絶縁膜」に相当。)で覆われている。
【0040】
一対の振動腕部10,11の先端には、所定の周波数の範囲内で振動するように調整(周波数調整)を行うための重り金属膜21が被膜されている。この重り金属膜21は、周波数を粗く調整する際に使用される粗調膜21aと、微小に調整する際に使用される微調膜21bとに分かれている。これら粗調膜21aおよび微調膜21bを利用して周波数調整を行うことで、一対の振動腕部10,11の周波数をデバイスの公称周波数の範囲内に収めることができる。
【0041】
(パッシベーション膜)
圧電振動片4は、励振電極13,14および引き出し電極19,20を覆うパッシベーション膜24を備えている。パッシベーション膜24は、SiO2等の電気絶縁材料からなる絶縁膜である。パッシベーション膜24は、圧電振動片4にマウント電極16,17、励振電極13,14および引き出し電極19,20の各電極を形成した後に、後述するスパッタリング装置70(図9参照)を用いて、スパッタリング法により成膜される。
【0042】
パッシベーション膜24は、マウント電極16,17および重り金属膜21の形成領域を除く領域において、励振電極13,14および引き出し電極19,20を覆って形成されている。
具体的には、パッシベーション膜24は、振動腕部10,11および基部12において、励振電極13,14および引き出し電極19,20を覆って形成されている。これにより、パッシベーション膜24は、励振電極13,14および引き出し電極19,20の短絡を防止している。
また、図2に示すように、パッシベーション膜24は、振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11bにおいて、励振電極13,14を覆って形成されている。これにより、パッシベーション膜24は、振動腕部10,11の内側面10b,11bに形成された対向する励振電極13,14の短絡を防止している。
さらに、図3に示すように、パッシベーション膜24は、又部25において、励振電極13,14を覆って形成されている。これにより、狭小な又部25においても、励振電極13,14の短絡を防止している。
【0043】
(シリンダーパッケージタイプの圧電振動子)
次に、上述した圧電振動片4を備えたシリンダーパッケージタイプの圧電振動子について説明する。
図4は、シリンダーパッケージタイプの圧電振動子51の外観斜視図である。
図5は、図4のB−B線に沿った断面図である。
図4に示すように、圧電振動子51は、シリンダーパッケージタイプの圧電振動子51であって、音叉型の圧電振動片4と、圧電振動片4がマウントされたプラグ52と、プラグ52とともに圧電振動片4を気密封止するケース53とを備えている。
【0044】
ケース53は、有底円筒状に形成されており、圧電振動片4を内部に収納した状態でプラグ52の後述するステム54の外周に対して圧入されて、嵌合固定されている。なお、このケース53の圧入は、真空雰囲気下で行われており、ケース53内の圧電振動片4を囲む空間が真空に保たれた状態となっている。
【0045】
プラグ52は、ケース53を密閉させるステム54と、このステム54を貫通するように平行配置され、ステム54を間に挟んで一端側が圧電振動片4をマウント(機械的に接合および電気的に接続)するインナーリード55aとされ、他端側が外部に電気的に接続されるアウターリード55bとされた2本のリード端子55と、ステム54の内側に充填されてステム54とリード端子55とを固定させる絶縁性の充填材56とを有している。
ステム54は、金属材料で環状に形成されたものである。また、充填材56の材料としては、例えばホウ珪酸ガラスである。また、リード端子55の表面およびステム54の外周には、それぞれ同材料のめっき層が施されている。
【0046】
2本のリード端子55は、ケース53内に突出している部分がインナーリード55aとなり、ケース53外に突出している部分がアウターリード55bとなっている。リード端子55は、その直径が例えば約0.12mmであり、リード端子55の母材の材質としては、コバール(FeNiCo合金)が慣用されている。また、リード端子55の外表面には、めっき層57(図5参照)が被覆されている。被膜させるめっきの材質としては、下地膜に銅(Cu)めっき等が用いられ、仕上膜にハンダめっきが用いられる。
また、ステム54の外周にも同様にめっきが施されており、ステム54の外周のめっきを介在させながらケース53の内周に真空中で冷間圧接させることにより、ケース53の内部を真空状態で気密封止できるようになっている。
【0047】
図5に示すように、インナーリード55aとマウント電極16,17とは、めっき層57が溶融して形成されたハンダの接合部Kを介して仕上層84b上にマウントされている。すなわち、ハンダの接合部Kを介してインナーリード55aとマウント電極16,17とが機械的に接合されていると同時に、電気的に接続されている。その結果、圧電振動片4は、2本のリード端子55にマウントされた状態となっている。
【0048】
なお、上述した2本のリード端子55は、アウターリード55b側が外部に電気的に接続され、インナーリード55a側が圧電振動片4に対してマウントされる外部接続端子として機能する。
【0049】
このように構成された圧電振動子51を作動させる場合には、2本のリード端子55のアウターリード55bに対して、所定の駆動電圧を印加する。これにより、インナーリード55a、接合部K、マウント電極16,17および引き出し電極19,20を介して、第1の励振電極13および第2の励振電極14からなる励振電極15に電流を流すことができ、一対の振動腕部10,11を接近および離間させる方向に所定の周波数で振動させることができる。そして、この一対の振動腕部10,11の振動を利用して、時刻源、制御信号のタイミング源やリファレンス信号源等として利用することができる。
【0050】
(圧電振動片の製造方法)
次に、上述した圧電振動片4の製造工程について、フローチャートを参照しながら以下に説明する。
図6は、圧電振動片4の製造工程のフローチャートである。
図6に示すように、圧電振動片4の製造工程は、外形形成工程S110と、電極形成工程S120と、パッシベーション膜成膜工程(請求項の「絶縁膜成膜工程」に相当。)S130と、周波数調整工程S140と、小片化工程S150とを備えている。以下に各工程の詳細を説明する。
【0051】
(外形形成工程)
図7は、外形形成工程S110の説明図である。
まず、図7に示すように、水晶のウエハWに圧電振動片4(図1参照)の外形形状を有する圧電板4aと、圧電板4aに後の溝部18(図1参照)となる凹部(不図示)を形成する外形形成工程S110を行う。外形形成工程S110では、まず、ポリッシングが終了し、所定の厚みに高精度に仕上げられたウエハWを準備する。続いて、このウエハWをフォトリソグラフィ技術によってエッチングして、ウエハWに圧電振動片4の外形形状に形成された圧電板4aと、後の溝部18となる凹部を形成する。なお、圧電板4aは、エッチング後のウエハWと、連結部4bによって連結されている。以上で、外形形成工程S110が終了する。
【0052】
(電極形成工程)
図8は、電極形成工程S120における図7のC−C線に沿った断面図である。
次に、圧電板4aが形成されたウエハWの表面に、励振電極13,14、引き出し電極19,20およびマウント電極16,17(いずれも図1参照)の各電極を形成する電極形成工程S120を行う。
【0053】
図8に示すように、電極形成工程S120では、ウエハWの第1面Fおよび第2面Sからスパッタリング法や真空蒸着法等により金属材料を塗布して、のちの各電極となる金属膜84を成膜している。金属膜84は下地層84aと仕上層84bとが積層されて形成される。本実施形態では、下地層84aとして、水晶と密着性の良いクロムを成膜している。また、下地層84aの表面には、仕上層84bとして、ハンダ等に対して良好な濡れ性を有する金を成膜している。
【0054】
続いて、金属膜84に重ねてフォトレジスト膜85を成膜し、フォトレジスト膜85を露光および現像してマスクパターン(不図示)を形成する。続いて、マスクパターンを介して電極用金属膜のエッチングを行い、励振電極13,14、引き出し電極19,20およびマウント電極16,17(図1参照)の各電極パターンを形成する。
【0055】
最後に、励振電極13,14および引き出し電極19,20の形成領域の仕上層84bを剥離する。これにより、励振電極13,14および引き出し電極19,20は、クロムの下地層84aのみにより形成される。これにより、励振電極13,14および引き出し電極19,20とパッシベーション膜24との密着性を高めることができる。
また、マウント電極16,17は、クロムの下地層84aおよび金の仕上層84bにより形成される。励振電極13,14、引き出し電極19,20およびマウント電極16,17が形成された時点で、電極形成工程S120が終了する。
【0056】
(パッシベーション膜成膜工程)
次に、励振電極13,14および引き出し電極19,20を覆うパッシベーション膜24(図1参照)を成膜するパッシベーション膜成膜工程S130を行う。パッシベーション膜成膜工程S130は、ウエハ取付工程S131と、回転成膜工程S133と、表裏反転工程S137と、を備えている。パッシベーション膜成膜工程S130では、スパッタリング装置70(図9参照)を用いて、スパッタリング法により複数のウエハWにパッシベーション膜24を成膜している。以下では、まずスパッタリング装置70を説明した後に、パッシベーション膜成膜工程S130の各工程について詳述する。
【0057】
(スパッタリング装置)
図9は、スパッタリング装置70の外観斜視図である。
図10は、回転ドラム71の平面図である。
なお、図9では、成膜室90を2点鎖線で模式的に図示している。また、以下の説明では、回転ドラム71の回転方向をθ方向とし、正回転側を+θ側とし、反対側を−θ側とする。また、回転ドラム71の回転軸Pに沿った方向をH方向とし、図9における上側を+H側とし、下側を−H側とする。
【0058】
図9に示すように、スパッタリング装置70は、主に成膜室90と、成膜室90内に設けられたターゲット77(本実施形態では2個のターゲット77)と、回転ドラム71と、ウエハ固定治具80とにより構成されている。
【0059】
成膜室90には、反応ガスを導入するガス導入管91と、不図示の吸引ポンプと連通するガス排出管92が設けられている。
ガス導入管91からは、成膜室90内に例えばアルゴンガス等のプラズマ生成用ガスが導入される。ガス導入管91の吹出口91aは、後述するターゲット77の近傍に配置されており、イオン化したプラズマ生成用ガスがターゲット77に確実に衝突できるようになっている。本実施形態では、ターゲット77の個数にあわせてガス導入管91は2本設けられている。ガス導入管91からは、例えば27sccm程度のガス流量でアルゴンガスが成膜室90内に導入される。
【0060】
ガス排出管92は、不図示の吸引ポンプに接続されている。吸引ポンプを稼動させて成膜室90内のプラズマ生成用ガスGを吸引することで、成膜室90内が所定の成膜圧力に維持されている。本実施形態では、成膜圧力は、例えば0.4Paに維持されている。
【0061】
(ターゲット)
ターゲット77は、パッシベーション膜24(図1参照)の原料であるSiO2により形成されている。ターゲット77は、回転ドラム71を挟んで両側に2個配置されている。ターゲット77の主面77aは、角柱状の回転ドラム71の周面を構成する複数の平面71a(以下、単に「外周面71a」という。)より大きい面積を有している。これにより、回転ドラム71が回転したとき、回転ドラム71の外周面71aに取り付けられた複数のウエハWが、ターゲット77と対向して通過できる。したがって、複数のウエハWに対してパッシベーション膜24を成膜できる。
【0062】
(回転ドラム)
回転ドラム71は、回転軸Pに垂直な断面形状が略正十角形をした角柱状の部材である。回転ドラム71は、回転軸Pが鉛直方向に設置されており、不図示の駆動モータにより駆動されて回転軸P周りに回転する。
【0063】
回転ドラム71の外周面71aには、後述するウエハ固定治具80を回転ドラム71の外周面71aに取付可能な取付金具73が設けられている。
図9に示すように、取付金具73は、回転ドラム71の外周面71aの法線方向から見て略U字状に形成されている。取付金具73は、回転ドラム71の外周面71aの+θ側および−θ側においてH方向に沿って略並行に延設された一対の側部74と、一対の側部74の−H側端部を接続する底部75とで形成されている。
【0064】
図10に示すように、側部74は、回転軸Pに垂直な断面が略L字形状に形成されており、回転ドラム71の外周面71aと離間して略平行に形成された押え部74aと、回転ドラム71の外周面71aに対して略垂直に形成された規制部74bとを有している。
押え部74aと回転ドラム71の外周面71aと離間距離は、ウエハ固定治具80の厚さよりも若干広く形成されている。また、回転ドラム71の外周面71aにおける+θ側および−θ側に配置された一対の規制部74bの離間距離は、ウエハ固定治具80のθ方向における幅よりも若干広く形成されている。
取付金具73の+H側は開口しており、取付金具73の一対の側部74、底部75および回転ドラム71の外周面71aで囲まれた領域に、+H側の開口からウエハ固定治具80を挿入することで、ウエハ固定治具80が回転ドラム71に取り付けられる。
【0065】
側部74の押え部74aは、ウエハ固定治具80が取り付けられた状態で回転ドラム71が回転している時に、ウエハ固定治具80が径方向外側に移動して脱落するのを防止している。側部74の規制部74bは、ウエハ固定治具80が取り付けられた状態で回転ドラム71が回転している時に、ウエハ固定治具80がθ方向に移動するのを規制している。
底部75は、ウエハ固定治具80の−H側端部と当接し、ウエハ固定治具80が−H側に脱落するのを防止している。
また、取付金具73の+H側は開口しているので、ウエハ固定治具80は、回転ドラム71に対して簡単に着脱できる。したがって、後述する表裏反転工程S137を簡単に行うことができる。
【0066】
(ウエハ固定治具)
図11は、ウエハ固定治具80の正面図である。
図12は、図11のD−D線に沿った断面図である。
図11に示すように、ウエハ固定治具80は、H方向を長手方向としθ方向を幅方向とする平板状の部材である。図12に示すように、ウエハ固定治具80は、第1保持板81と第2保持板83とを重ね合わせることで形成されている。
第1保持板81は、ウエハWの第1面Fを露出する開口部81aを有している。本実施形態では、開口部81aは、ウエハWの第1面Fの成膜範囲に対応して略正方形状に形成されている。また、開口部81aは、ウエハWの外形よりも若干小さくなるように形成されている。
【0067】
第1保持板81の第2保持板83との当接面81bには、第1保持板81の厚さ方向に深さを有する凹部82が形成されている。凹部82は、開口部81aの第2保持板83側における角部を全周にわたって切り欠くことで形成されている。凹部82の深さは、ウエハWの板厚と略同一かそれよりも若干深く形成されている。凹部82の外形は、ウエハWの外形と略同一かそれよりも若干大きく形成されている。これにより、開口部81aからウエハWの第1面Fを露出させつつ、当接面81bとウエハWの第2面Sとが略面一となるように、第1保持板81の凹部82内にウエハWを配置できる。
【0068】
第2保持板83は、第1保持板81の開口部81aと対向する位置に、ウエハWの第2面Sを露出する開口部83aを有している。第2保持板83の開口部83aは、第1保持板81の開口部81aと同様に、ウエハWの第2面Sの成膜範囲に対応して略正方形状に形成されており、ウエハWの外形よりも若干小さく形成されている。
【0069】
開口部81a,83aおよび凹部82は、ウエハ固定治具80のH方向に並んで、所定間隔を空けて3箇所形成されている。したがって、ウエハ固定治具80には、3枚のウエハWをセットすることができる。凹部82内にウエハWを配置し、第1保持板81の当接面81bに第2保持板83を当接させることにより、第1保持板81と第2保持板83とでウエハWを保持できる。
【0070】
(ウエハ取付工程)
パッシベーション膜成膜工程S130では、最初にウエハ取付工程S131を行う。ウエハ取付工程S131では、複数のウエハWをウエハ固定治具80に取り付けた後、複数のウエハWをウエハ固定治具80ごと回転ドラムに装着している。
【0071】
ウエハ取付工程S131では、まず、ウエハ固定治具80にウエハWをセットする。
具体的には、図12に示すように、ウエハWを第1保持板81の凹部82内に配置し、第1保持板81の当接面81bに第2保持板83を当接させて重ね合わせることで、ウエハWを第1保持板81と第2保持板83との間に配置する。そして、第1保持板81および第2保持板83を、第1保持板81に設けた不図示のクリップで固定することにより、第1保持板81と第2保持板83とでウエハWを保持している。
【0072】
なお、本実施形態では、ウエハ固定治具80にウエハWをセットする際、パッシベーション膜24の成膜領域に対応した開口を有する不図示のメタルマスクを、ウエハWの第1面Fおよび第2面S上に配置している。具体的には、ウエハWの第1面Fと第1保持板81との間、および第2面Sと第2保持板83との間にメタルマスクを配置し、第1保持板81と第2保持板83とでメタルマスクごとウエハWを保持している。
【0073】
また、ウエハWに形成された振動腕部10,11(図1参照)が+H方向に沿うように、ウエハ固定治具80にウエハWをセットしている。換言すれば、振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11b(図1参照)が、θ方向に面するようにウエハWを配置している。これにより、後述する回転成膜工程S133では、回転ドラム71の回転途中において、ウエハWがターゲット77と対向する前後に、振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11bをターゲット77に対向させることができる。
【0074】
図13は、ウエハ取付工程S131の説明図である。
続いて、図13に示すように、取付金具73と回転ドラム71の外周面71aとの間にウエハ固定治具80を挿入して、回転ドラム71に複数のウエハWをウエハ固定治具80ごと取り付ける。具体的には、回転ドラム71の外周面71aと、第1保持板81および第2保持板83のいずれか一方(本実施形態では第2保持板83)とを対向させる。そして、回転ドラム71の外周面71aと取付金具73の押え部74aとの間に、ウエハ固定治具80を回転ドラム71の+H側から挿入し、ウエハ固定治具80を回転ドラム71に取り付けている。
なお、本実施形態では、回転ドラム71に形成された10個の外周面71a全てに、ウエハ固定治具80ごとウエハWを取り付けている。ウエハ固定治具80には3枚のウエハWが取り付けられているため、回転ドラム71には合計30枚のウエハWが取り付けられる。
【0075】
(回転成膜工程)
図14は、回転成膜工程S133の説明図である。なお、図14では、わかりやすくするために、ウエハ固定治具80の図示を省略している。また、ウエハWに形成された圧電板4a(図7参照)の振動腕部10,11の大きさを誇張して表している。
次に、図14に示すように、回転ドラム71を回転させてパッシベーション膜24を成膜する回転成膜工程S133を行う。
【0076】
回転成膜工程S133では、プラズマ生成用ガスをターゲット77に噴射してターゲット77からSiO2を弾き出しつつ、回転ドラム71をθ方向に回転させる。そして、ウエハWがターゲット77に対向する位置を複数回通過することで、ターゲット77から弾き出されたSiO2がウエハWに堆積し、パッシベーション膜24が成膜される。
本実施形態では、回転ドラム71の回転数が例えば10rpmに設定されており、20分間にわたって回転ドラム71を回転させながら成膜を行っている。また、前述のとおり、ターゲット77は、回転ドラム71を挟んで両側に2個配置されている。したがって、ウエハWがターゲット77に対向する位置を400回通過することで、パッシベーション膜24が成膜される。
【0077】
また、回転成膜工程S133では、回転ドラム71の回転途中において、ウエハWがターゲット77と対向する前後に、圧電板4aに形成された振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11b(図1参照)が、ターゲット77と対向する。
具体的には、図14に示すように、H方向から見てウエハWがターゲット77よりも−θ側の位置M1にあるときは、振動腕部10の内側面10bおよび振動腕部11の外側面11aがターゲット77と対向する。これにより、主に振動腕部10,11の外側面11aおよび内側面10bに、パッシベーション膜24が成膜される。
また、H方向から見てウエハWがターゲット77より+θ側の位置M2にあるときは、振動腕部10,11の外側面10aおよび内側面11bがターゲット77と対向する。これにより、主に振動腕部10,11の外側面10aおよび内側面11bに、パッシベーション膜24が成膜される。
このように振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11bにパッシベーション膜24が形成されることで、狭小な又部25(図3参照)にも、確実にパッシベーション膜24が成膜される。したがって、一対の励振電極13,14の短絡を確実に防止できる。
【0078】
図15は、回転成膜工程時のマウント電極16,17(図1参照)の断面図である。
ところで、圧電板4aに形成されたマウント電極16,17は、前述のとおりクロムの下地層84aと金の仕上層84bとが積層されて形成されている。ここで、回転成膜工程S133でマウント電極16,17が高温になると、下地層84aと仕上層84bとの間で互いの金属が溶融しあう、いわゆる金属拡散が発生するおそれがある。金属拡散が進行すると、仕上層84bの表面に下地層84aのクロムが析出し、仕上層84bのハンダ等に対する濡れ性を悪化させるおそれがある。
【0079】
しかし、上述のように、回転成膜工程S133では、複数回(本実施形態では400回)に分けてパッシベーション膜24を成膜するので、一度にパッシベーション膜24を成膜する場合と比較して、ウエハWがターゲット77と対向する一回当りの時間が短縮される。このため、パッシベーション膜24の成膜時におけるウエハWの温度は、従来技術の成膜時におけるウエハWの温度(200℃〜400℃程度)よりも大幅に低い、100℃以下に抑制される。したがって、図15に示すように、マウント電極16,17におけるクロムの下地層84aと金の仕上層84bとの金属拡散が抑制されるので、仕上層84bの表面に下地層84aのクロムが析出するのを防止できる。これにより、仕上層84bの良好な濡れ性を維持できる。
【0080】
(成膜面の確認S135および表裏反転工程S137)
図6に示すように、ウエハWの第1面Fにパッシベーション膜24を成膜した後、ウエハWの第2面Sにパッシベーション膜24が成膜されていない場合(S135で判定がNOの場合)には、ウエハWの第2面Sに対して再度回転成膜工程S133を行う。このとき、ウエハWの第1面Fおよび第2面Sの表裏を反転させて回転ドラム71にウエハWを取り付ける表裏反転工程S137を行ってから、再度回転成膜工程S133を行う。なお、ウエハWの第2面Sにパッシベーション膜24が成膜されている場合(S135で判定がYESの場合)には、そのまま次の周波数調整工程S140に進む。
【0081】
表裏反転工程S137では、回転ドラム71にセットされたウエハWを、ウエハ固定治具80ごと回転ドラム71の+H側に抜き出し、回転ドラム71からウエハ固定治具80ごとウエハWを全て取り外す。続いて、ウエハ固定治具80ごとウエハWの表裏を反転させる。最後に、ウエハ取付工程S131と同様に、再度回転ドラム71の+H側から、取付金具73と回転ドラム71の外周面71aとの間にウエハ固定治具80を挿入して、回転ドラム71に複数のウエハWをウエハ固定治具80ごと取り付ける(図13参照)。
このように、ウエハ固定治具80ごと複数のウエハWの表裏を反転させることで、ウエハ固定治具80からウエハWを外すことなく、ウエハWの第1面Fおよび第2面Sにパッシベーション膜24を成膜できる。しかも、複数のウエハWの表裏を一度に容易に反転させることができる。したがって、複数のウエハWの第1面Fおよび第2面Sに効率よくパッシベーション膜24を成膜できるので、パッシベーション膜成膜工程S130の工数を短縮できる。
【0082】
(周波数調整工程)
次に、ウエハWに形成された全ての振動腕部10,11(図1参照)に対して、共振周波数を粗く調整する周波数調整工程S140を行う。周波数調整工程S140は、重り金属膜21の粗調膜21aおよび21bにレーザ光を照射して一部を蒸発させ、重量を変化させることで行う。なお、共振周波数をより高精度に調整する微調に関しては、圧電振動子1(図16参照)の状態で行う。以上で、周波数調整工程S140が終了する。
【0083】
(小片化工程)
最後にウエハWと圧電板4aとを連結していた連結部4b(図7参照)を切断して、複数の圧電振動片4をウエハWから切り離して小片化する小片化工程S150を行う。これにより、1枚のウエハWから、音叉型の圧電振動片4を一度に複数製造することができる。この時点で、圧電振動片4の製造工程が終了し、圧電振動片4を複数得ることができる。
【0084】
(シリンダータイプの圧電振動子の製造工程)
次に、上述のように製造された圧電振動片4を備えたシリンダータイプの圧電振動子51(図4参照)の製造方法について説明する。
シリンダータイプの圧電振動子51の製造工程では、まず、図4に示すプラグ52を作製する気密端子作製工程を行う。続いて、プラグ52のリード端子55の外表面およびステム54の外周に、同一材料のめっきを湿式めっき法で被膜させるめっき工程を行う。
【0085】
続いて、圧電振動片4のマウント電極16,17をインナーリード55aに接合するマウント工程を行う。具体的には、インナーリード55aを加熱しながら、インナーリード55aと圧電振動片4とを所定の圧力で重ね合わせる。これにより、インナーリード55aのめっき層57(図5参照)を形成するハンダめっきが溶解し、仕上層84b上に速やかに濡れ広がる。これにより、インナーリード55aとマウント電極16,17とを接続することができる。その結果、圧電振動片4をマウントすることができる。すなわち、圧電振動片4は、リード端子55に機械的に支持されると共に、電気的に接続された状態となる。
なお、インナーリード55aとマウント電極16,17とを接続する際に、加熱・加圧を行ってマウントしたが、超音波を利用して接続を行っても構わない。
【0086】
続いて、上述したマウントによる歪みをなくすために、所定の温度でベーキングを行った後、圧電振動片4の周波数調整(微調)を行う。具体的には、圧電振動子51全体を真空チャンバーに入れた状態で、周波数を計測しながらレーザにより重り金属膜21の微調膜21bを蒸発させて周波数調整を行う。
【0087】
続いて、マウントされた圧電振動片4を内部に収納するようにケース53をステム54に圧入し、圧電振動片4を気密封止するケース圧入工程を行う。具体的には、真空中で所定の荷重を加えながらケース53をプラグ52のステム54の外周に圧入する。すると、ステム54の外周に形成されためっきの金属膜が弾性変形するので、冷間圧接により気密封止することができる。これにより、ケース53内に圧電振動片4を密閉して真空封止することができる。
最後に、ケース53の固定が終了した後、スクリーニング、電気特性検査、外観検査を行い、電気的性能や寸法、品質等を最終的にチェックする。以上により、図4に示すシリンダーパッケージタイプの圧電振動子51を製造することができる。
【0088】
(効果)
本実施形態によれば、回転成膜工程S133では、ウエハWがターゲット77に対向する位置を複数回(本実施形態では400回)通過することにより、パッシベーション膜24の成膜を複数回に分けて行うことができる。これにより、ウエハWがターゲット77に対向する一回当りの時間を短縮できるので、パッシベーション膜24の成膜時におけるウエハWの温度上昇を抑制できる。また、ターゲット77に対向する位置をウエハWが通過した後、再度ターゲット77に対向する位置をウエハWが通過するまでの間に、ウエハWの温度が低下するので、ウエハWの温度上昇を抑制できる。したがって、マウント電極16,17の金属拡散を防止できる。
また、回転成膜工程S133では、回転ドラム71の回転途中において、ウエハWがターゲット77と対向する前後に、圧電板4aに形成された振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11bをターゲット77に対向させることができる。したがって、圧電板4aの第1面Fおよび第2面Sに加えて、振動腕部10,11の外側面10a,11aおよび内側面10b,11bにも確実にパッシベーション膜24を成膜できる。特に、振動腕部10,11と基部12との接続部に形成された又部25にも確実にパッシベーション膜24を成膜できる。これにより、一対の励振電極13,14の短絡を確実に防止できる。
【0089】
また、本実施形態によれば、圧電振動片4は、マウント電極16,17の金属拡散を防止できる製造方法で製造されているので、マウント電極16,17の仕上層84bに下地層84aのクロムが析出することがない(図15参照)。したがって、マウント電極16,17の濡れ性が良好に維持されるので、圧電振動片4の実装強度が確保された圧電振動子1を得ることができる。
【0090】
(表面実装型の圧電振動子)
次に、上述した製造方法により製造された圧電振動片4を備えた表面実装型の圧電振動子について説明する。
図16は、表面実装型の圧電振動子1の外観斜視図である。
図17は、表面実装型の圧電振動子1の内部構成図であって、リッド基板3を取り外した状態の平面図である。
図18は、図17のE−E線における断面図である。
図19は、図16に示す圧電振動子1の分解斜視図である。
なお、以下では、ベース基板2のリッド基板3との接合面を上面Uとし、ベース基板2の外側の面を下面Lとして説明する。また、図19においては、図面を見易くするために励振電極13,14、引き出し電極19,20、マウント電極16,17、重り金属膜21およびパッシベーション膜24の図示を省略している。
【0091】
図16に示すように、本実施形態の圧電振動子1は、ベース基板2およびリッド基板3が接合膜35を介して陽極接合されたパッケージ9と、図18に示すようにパッケージ9のキャビティ3aに収納された圧電振動片4と、を備えた表面実装型の圧電振動子1である。
【0092】
図18に示すように、ベース基板2およびリッド基板3は、ガラス材料、例えばソーダ石灰ガラスからなる陽極接合可能な基板であり、略板状に形成されている。リッド基板3におけるベース基板2との接合面側には、圧電振動片4を収容するキャビティ3aが形成されている。
【0093】
リッド基板3には、ベース基板2との接合面側の全体に、陽極接合用の接合膜35が形成されている。本実施形態の接合膜35はシリコン膜で形成されており、この接合膜35とベース基板2とが陽極接合されてキャビティ3aが真空封止されている。なお、接合膜35をアルミニウムで形成することも可能である。
【0094】
圧電振動子1は、ベース基板2を厚さ方向に貫通し、キャビティ3aの内側と圧電振動子1の外側とを導通する貫通電極32,33を備えている。貫通電極32,33は、ベース基板2を貫通する貫通孔30,31内に配置されている。貫通孔30,31は、圧電振動子1を形成したときにキャビティ3a内に収まるように形成される。
【0095】
貫通電極32,33は、後述する引き回し電極36,37と外部電極38,39とを導通させる役割を担っている。貫通電極32,33は、例えば貫通孔30,31に金属ピン7を挿入したのち、貫通孔30,31と金属ピン7との間にガラスフリットを充填して焼成することで形成される。このように、金属ピン7とガラスフリットとで貫通孔30,31を完全に塞ぐことができるので、キャビティ3a内の気密を維持できる。
【0096】
図19に示すように、ベース基板2の上面U側には、一対の引き回し電極36,37がパターニングされている。また、これら一対の引き回し電極36,37上にそれぞれ金やハンダ等からなるバンプBが形成されており、バンプBを利用して圧電振動片4の一対のマウント電極が実装されている。これにより、圧電振動片4の一方のマウント電極17(図17参照)が、一方の引き回し電極36を介して一方の貫通電極32に導通し、他方のマウント電極16(図17参照)が、他方の引き回し電極37を介して他方の貫通電極33に導通するようになっている。
【0097】
ベース基板2の下面Lには、一対の外部電極38,39が形成されている。一対の外部電極38,39は、ベース基板2の長手方向の両端部に形成され、一対の貫通電極32,33に対してそれぞれ電気的に接続されている。
【0098】
このように構成された圧電振動子1を作動させる場合には、ベース基板2に形成された外部電極38,39に対して、所定の駆動電圧を印加する。これにより、圧電振動片4の第1の励振電極13および第2の励振電極14に電圧を印加できるので、一対の振動腕部10,11を接近および離間させるように、所定の周波数で振動させることができる。そして、この一対の振動腕部10,11の振動を利用して、時刻源や制御信号のタイミング源、リファレンス信号源等として利用できる。
【0099】
(発振器)
次に、本発明に係る発振器の一実施形態について、図20を参照しながら説明する。
本実施形態の発振器110は、図20に示すように、圧電振動子1を、集積回路111に電気的に接続された発振子として構成したものである。この発振器110は、コンデンサ等の電子素子部品112が実装された基板113を備えている。基板113には、発振器用の集積回路111が実装されており、この集積回路111の近傍に、圧電振動子1が実装されている。これら電子素子部品112、集積回路111および圧電振動子1は、図示しない配線パターンによってそれぞれ電気的に接続されている。なお、各構成部品は、図示しない樹脂によりモールドされている。
【0100】
このように構成された発振器110において、圧電振動子1に電圧を印加すると、圧電振動子1内の圧電振動片が振動する。この振動は、圧電振動片が有する圧電特性により電気信号に変換されて、集積回路111に電気信号として入力される。入力された電気信号は、集積回路111によって各種処理がなされ、周波数信号として出力される。これにより、圧電振動子1が発振子として機能する。
また、集積回路111の構成を、例えば、RTC(リアルタイムクロック)モジュール等を要求に応じて選択的に設定することで、時計用単機能発振器等の他、当該機器や外部機器の動作日や時刻を制御したり、時刻やカレンダー等を提供したりする機能を付加できる。
【0101】
本実施形態によれば、圧電振動片4の実装強度が確保された圧電振動子1を備えているので、信頼性の高い発振器110を提供できる。
【0102】
(電子機器)
次に、本発明に係る電子機器の一実施形態について、図21を参照して説明する。なお電子機器として、前述した圧電振動子1を有する携帯情報機器120を例にして説明する。
始めに本実施形態の携帯情報機器120は、例えば、携帯電話に代表されるものであり、従来技術における腕時計を発展、改良したものである。外観は腕時計に類似し、文字盤に相当する部分に液晶ディスプレイを配し、この画面上に現在の時刻等を表示させることができるものである。また、通信機として利用する場合には、手首から外し、バンドの内側部分に内蔵されたスピーカおよびマイクロフォンによって、従来技術の携帯電話と同様の通信を行うことが可能である。しかしながら、従来の携帯電話と比較して、格段に小型化および軽量化されている。
【0103】
次に、本実施形態の携帯情報機器120の構成について説明する。この携帯情報機器120は、図21に示すように、圧電振動子1と、電力を供給するための電源部121とを備えている。電源部121は、例えば、リチウム二次電池からなっている。この電源部121には、各種制御を行う制御部122と、時刻等のカウントを行う計時部123と、外部との通信を行う通信部124と、各種情報を表示する表示部125と、それぞれの機能部の電圧を検出する電圧検出部126とが並列に接続されている。そして、電源部121によって、各機能部に電力が供給されるようになっている。
【0104】
制御部122は、各機能部を制御して音声データの送信や受信、現在時刻の計測、表示等、システム全体の動作制御を行う。また、制御部122は、予めプログラムが書き込まれたROMと、該ROMに書き込まれたプログラムを読み出して実行するCPUと、該CPUのワークエリアとして使用されるRAM等とを備えている。
【0105】
計時部123は、発振回路やレジスタ回路、カウンタ回路、インターフェース回路等を内蔵する集積回路と、圧電振動子1とを備えている。圧電振動子1に電圧を印加すると圧電振動片が振動し、該振動が水晶の有する圧電特性により電気信号に変換されて、発振回路に電気信号として入力される。発振回路の出力は二値化され、レジスタ回路とカウンタ回路とにより計数される。そして、インターフェース回路を介して、制御部122と信号の送受信が行われ、表示部125に、現在時刻や現在日付或いはカレンダー情報等が表示される。
【0106】
通信部124は、従来の携帯電話と同様の機能を有し、無線部127、音声処理部128、切替部129、増幅部130、音声入出力部131、電話番号入力部132、着信音発生部133および呼制御メモリ部134を備えている。
無線部127は、音声データ等の各種データを、アンテナ135を介して基地局と送受信のやりとりを行う。音声処理部128は、無線部127又は増幅部130から入力された音声信号を符号化および複号化する。増幅部130は、音声処理部128又は音声入出力部131から入力された信号を、所定のレベルまで増幅する。音声入出力部131は、スピーカやマイクロフォン等からなり、着信音や受話音声を拡声したり、音声を集音したりする。
【0107】
また、着信音発生部133は、基地局からの呼び出しに応じて着信音を生成する。切替部129は、着信時に限って、音声処理部128に接続されている増幅部130を着信音発生部133に切り替えることによって、着信音発生部133において生成された着信音が増幅部130を介して音声入出力部131に出力される。
なお、呼制御メモリ部134は、通信の発着呼制御に係るプログラムを格納する。また、電話番号入力部132は、例えば、0から9の番号キーおよびその他のキーを備えており、これら番号キー等を押下することにより、通話先の電話番号等が入力される。
【0108】
電圧検出部126は、電源部121によって制御部122等の各機能部に対して加えられている電圧が、所定の値を下回った場合に、その電圧降下を検出して制御部122に通知する。このときの所定の電圧値は、通信部124を安定して動作させるために必要な最低限の電圧として予め設定されている値であり、例えば、3V程度となる。電圧検出部126から電圧降下の通知を受けた制御部122は、無線部127、音声処理部128、切替部129および着信音発生部133の動作を禁止する。特に、消費電力の大きな無線部127の動作停止は、必須となる。更に、表示部125に、通信部124が電池残量の不足により使用不能になった旨が表示される。
【0109】
すなわち、電圧検出部126と制御部122とによって、通信部124の動作を禁止し、その旨を表示部125に表示できる。この表示は、文字メッセージであっても良いが、より直感的な表示として、表示部125の表示面の上部に表示された電話アイコンに、×(バツ)印を付けるようにしても良い。
なお、通信部124の機能に係る部分の電源を、選択的に遮断できる電源遮断部136を備えることで、通信部124の機能をより確実に停止できる。
【0110】
本実施形態によれば、圧電振動片4の実装強度が確保された圧電振動子1を備えているので、信頼性の高い携帯情報機器120を提供できる。
【0111】
(電波時計)
次に、本発明に係る電波時計の一実施形態について、図22を参照して説明する。
本実施形態の電波時計140は、図22に示すように、フィルタ部141に電気的に接続された圧電振動子1を備えたものであり、時計情報を含む標準の電波を受信して、正確な時刻に自動修正して表示する機能を備えた時計である。
日本国内には、福島県(40kHz)と佐賀県(60kHz)とに、標準の電波を送信する送信所(送信局)があり、それぞれ標準電波を送信している。40kHz若しくは60kHzのような長波は、地表を伝播する性質と、電離層と地表とを反射しながら伝播する性質とを併せもつため、伝播範囲が広く、前述した2つの送信所で日本国内を全て網羅している。
【0112】
以下、電波時計140の機能的構成について詳細に説明する。
アンテナ142は、40kHz若しくは60kHzの長波の標準電波を受信する。長波の標準電波は、タイムコードと呼ばれる時刻情報を、40kHz若しくは60kHzの搬送波にAM変調をかけたものである。受信された長波の標準電波は、アンプ143によって増幅され、複数の圧電振動子1を有するフィルタ部141によって濾波、同調される。
本実施形態における圧電振動子1は、前記搬送周波数と同一の40kHzおよび60kHzの共振周波数を有する水晶振動子部148、149をそれぞれ備えている。
【0113】
更に、濾波された所定周波数の信号は、検波、整流回路144により検波復調される。
続いて、波形整形回路145を介してタイムコードが取り出され、CPU146でカウントされる。CPU146では、現在の年や積算日、曜日、時刻等の情報を読み取る。読み取られた情報は、RTC147に反映され、正確な時刻情報が表示される。
搬送波は、40kHz若しくは60kHzであるから、水晶振動子部148、149は、前述した音叉型の構造を持つ振動子が好適である。
【0114】
なお、前述の説明は、日本国内の例で示したが、長波の標準電波の周波数は、海外では異なっている。例えば、ドイツでは77.5kHzの標準電波が用いられている。従って、海外でも対応可能な電波時計140を携帯機器に組み込む場合には、さらに日本の場合とは異なる周波数の圧電振動子1を必要とする。
【0115】
本実施形態によれば、圧電振動片4の実装強度が確保された圧電振動子1を備えているので、信頼性の高い電波時計140を提供できる。
【0116】
なお、この発明の技術範囲は上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0117】
本実施形態の圧電振動片4の製造方法では、音叉型の圧電振動片4を製造しているが、本発明の製造方法により製造される圧電振動片4は音叉型に限られず、例えば、ATカット型の圧電振動片(厚み滑り振動片)であってもよい。また、本発明の製造方法により、圧電振動片以外の電子部品を製造してもよい。
【0118】
本実施形態では、ウエハ固定治具80を用いて回転ドラム71にウエハWを取り付けているが、回転ドラム71に直接ウエハWを取り付ける構造としてもよい。ただし、複数のウエハWを一度に簡単に着脱できる点で、本実施形態に優位性がある。
【0119】
本実施形態では、マウント電極16,17は、クロムの下地層84aおよび金の仕上層84bの2層の金属膜84により形成されているが、下地層84aおよび仕上層84bの材料は、実施形態に限られない。また、マウント電極16,17の層数は2層に限られることはなく、例えば3層であってもよい。
【0120】
本実施形態では、スパッタリング装置70でパッシベーション膜24を成膜する際の成膜条件として、成膜圧力を0.4Paとし、回転ドラム71の回転速度を10rpmとし、プラズマ生成用ガスの流速を27sccm程度とし、ターゲット77の個数を2個とし、成膜時間を片面当り20分としていた。しかし、スパッタリング装置70の成膜条件はこれに限られることはない。
【0121】
本実施形態では、ターゲット77にパッシベーション膜24(図1参照)の原料であるSiO2を採用し、プラズマ生成用ガスにアルゴンガスを採用して、ウエハWにSiO2のパッシベーション膜24を成膜していた。しかし、例えばターゲット77にシリコン(Si)を採用し、プラズマ生成用ガスにアルゴンガスと二酸化炭素の混合ガスを採用して、ウエハWにSiO2のパッシベーション膜24を成膜してもよい。
【符号の説明】
【0122】
1・・・圧電振動子 4・・・圧電振動片 4a・・・圧電板 13,14・・・励振電極 16,17・・・マウント電極 24・・・パッシベーション膜(絶縁膜) 70・・・スパッタリング装置 71・・・回転ドラム 71a・・・外周面 77・・・ターゲット 84・・・金属膜 84b・・・仕上層 80・・・ウエハ固定治具 81a,83a・・・開口部 110・・・発振器 120・・・携帯情報機器(電子機器) 140・・・電波時計 W・・・ウエハ F・・・第1面 P・・・回転軸 S・・・第2面 S130・・・パッシベーション膜成膜工程(絶縁膜成膜工程) S131・・・ウエハ取付工程 S133・・・回転成膜工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハから形成される圧電板と、前記圧電板を振動させる励振電極と、前記励振電極に電気的に接続され金属膜を積層して形成されたマウント電極と、を有する圧電振動片の製造方法であって、
前記ウエハの第1面および第2面のうち少なくとも一方に対して、少なくとも前記励振電極を覆う絶縁膜をスパッタリング法により成膜する絶縁膜成膜工程を備え、
前記絶縁膜成膜工程は、
前記絶縁膜の原料となるターゲットと、回転軸周りに回転可能な回転ドラムと、を備 えたスパッタリング装置を用いて行い、
前記絶縁膜成膜工程は、
前記回転ドラムの外周面に前記ウエハを取り付けるウエハ取付工程と、
前記ウエハが前記ターゲットに対向する位置を通過するように前記回転ドラムを回転 させて前記絶縁膜を成膜する回転成膜工程と、
を備え、
前記回転成膜工程は、前記ウエハが前記ターゲットに対向する位置を複数回通過するように前記回転ドラムを回転させることにより前記絶縁膜を成膜することを特徴とする圧電振動片の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動片の製造方法であって、
前記マウント電極は、積層された前記金属膜の最外層に、金を主成分とした仕上層を備えていることを特徴とする圧電振動片の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧電振動片の製造方法であって、
前記スパッタリング装置は、複数の前記ウエハを取付可能なウエハ固定治具を備え、
前記ウエハ取付工程は、前記ウエハ固定治具に前記ウエハを複数取り付け、前記ウエハ固定治具ごと前記複数のウエハを前記回転ドラムに取り付けることを特徴とする圧電振動片の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電振動片の製造方法であって、
前記ウエハ固定治具は、前記ウエハの前記第1面および前記第2面を露出する開口部を有し、
前記絶縁膜成膜工程は、前記回転成膜工程を行った後に、前記ウエハ固定治具ごと前記複数のウエハの前記第1面および前記第2面の表裏を反転させて、再度前記回転成膜工程を行うことを特徴とする圧電振動片の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電振動片の製造方法であって、
前記絶縁膜成膜工程における前記ウエハの温度は、100℃以下であることを特徴とする圧電振動片の製造方法。
【請求項6】
ウエハから形成される圧電板と、前記圧電板を振動させる励振電極と、前記励振電極に電気的に接続され金属膜を積層して形成されたマウント電極と、を有する圧電振動片の製造装置であって、
前記ウエハの第1面および第2面のうち少なくとも一方に対して、少なくとも前記励振電極を覆う絶縁膜をスパッタリング法により成膜するスパッタリング装置を備え、
前記スパッタリング装置は、
前記絶縁膜の原料となるターゲットと、
回転軸周りに回転可能な回転ドラムと、
を備え、
前記ウエハは、前記回転ドラムの外周面に取り付けられ、前記回転ドラムが回転することにより、前記ターゲットに対向する位置を複数回通過するように形成されていることを特徴とする圧電振動片の製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電振動片の製造装置であって、
複数の前記ウエハを取り付けた状態で、前記回転ドラムの外周面に取り付けられるウエハ固定治具を備え、
前記ウエハ固定治具は、前記ウエハの前記第1面および前記第2面を露出する開口部を有することを特徴とする圧電振動片の製造装置。
【請求項8】
請求項1に記載の製造方法により製造された圧電振動片を備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項9】
請求項8に記載の圧電振動子が、発振子として集積回路に電気的に接続されていることを特徴とする発振器。
【請求項10】
請求項8に記載の圧電振動子が、計時部に電気的に接続されていることを特徴とする電子機器。
【請求項11】
請求項8に記載の圧電振動子が、フィルタ部に電気的に接続されていることを特徴とする電波時計。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−80990(P2013−80990A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218415(P2011−218415)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】