説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】高いSNRを確保しつつ摺動耐久性を向上させることで、信頼性の向上および更なる高記録密度化の達成を図る。
【解決手段】本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の構成は、基板上に少なくとも、CoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部とからなる主記録層を成膜する主記録層成膜工程と、主記録層上にRu合金またはCo合金を主成分とする分断層を成膜する分断層成膜工程と、分断層成膜工程の後に基板に加熱処理を施す第1加熱工程と、第1加熱工程の後にCoCrPtを主成分とする材料からなる補助記録層を成膜する補助記録層成膜工程と、補助記録層成膜工程の後に基板に加熱処理を施す第2加熱工程と、第2加熱工程の後にCVD法によりカーボンを主成分とする保護層を成膜する保護層成膜工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の垂直磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式が提案されている。垂直磁気記録方式に用いられる垂直磁気記録媒体は、記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内磁気記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
垂直磁気記録媒体の高記録密度化のために重要な要素としては、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnなどの静磁気特性の向上と、オーバーライト特性(OW特性)やSNR(Signal to Noise Ratio:シグナルノイズ比)などの電磁変換特性の向上、トラック幅の狭小化などの様々なものがある。その中でも保磁力Hcの向上とSNRの向上は、面積の小さな記録ビットにおいても正確に且つ高速に読み書きするために重要である。
【0005】
SNRの向上は、主に磁気記録層の磁化遷移領域ノイズの低減により行われる。ノイズ低減のために有効な要素としては、磁気記録層の結晶配向性の向上、磁性粒子の粒径の微細化、および磁性粒子の孤立化が挙げられる。中でも粒径の微細化は、記録ビットの境界の磁化遷移領域ノイズの低減に効果的である。
【0006】
また最近では、磁気記録媒体装置は、従来のパーソナルコンピュータの記憶装置としてだけでなく、携帯電話、カーナビゲーションシステムなどのモバイル用途にも多用されるようになってきている。このような使用用途の多様化により、磁気記録媒体では過酷な環境下での信頼性及び記録再生特性の更なる向上が課題となっている。
【0007】
上記課題を解決するために、例えば特許文献1には、磁気記録層を形成した基板を加熱する加熱工程を実施した後に、プラズマCVD法によりカーボン保護膜を形成する保護膜形成工程を実施する磁気記録媒体の製造方法が開示されている。特許文献1に記載の方法によれば、優れた記録再生特性を有する垂直磁気記録膜が得られ、且つ緻密で密着性に優れたカーボン保護膜を成膜できるため、記録再生特性と信頼性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006?294220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、カーボン保護膜(以下、保護層と称する)を成膜する前に加熱処理を行うことにより、カーボン保護膜の緻密性や密着性等を改善して摺動耐久性を高め、記録再生特性や信頼性を向上することができる。しかしながら、使用用途の更なる多様化に対応するためには、記録再生特性や信頼性の更なる向上が必要であり、上記の特許文献1に記載の技術のみを用いてそれを達成することは困難であった。
【0010】
また他の問題として、上記特許文献1のように基板を高温で加熱すると、グラニュラ構造を有する記録層への悪影響により静磁気特性や電磁変換特性の低下、中でもSNRの低下を招いたりすることが明らかになっている。このため、上記の特許文献1の技術では基板を加熱することにより、摺動耐久性を向上させられる反面、SNRの低下により高記録密度化に支障を来たすこととなっていた。すなわち、摺動耐久性を上げたいからといって、むやみに加熱温度を高くすることはできないという問題がある。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、高いSNRを確保しつつ摺動耐久性を向上させることで、信頼性の向上および更なる高記録密度化の達成を図ることが可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、保護層の直下の層の平坦性を向上させることにより、摺動耐久性を向上させられることを見出した。そして、さらに研究を重ねることにより、スパッタリングによる成膜では、事前に加熱することによって膜の平坦化を図れることがわかった。また発明者らが加熱処理を行った磁気記録媒体を精査したところ、加熱処理による悪影響、すなわち静磁気特性や電磁変換特性の低下などは、基板温度が上昇するにつれて顕著になることが判明した。したがって、加熱処理を最適化して基板温度の急激かつ過度の上昇を抑制することにより、特性の低下を抑制できるのではないかと考え、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の代表的な構成は、基板上に少なくとも、CoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部とからなる主記録層を成膜する主記録層成膜工程と、主記録層上にRu合金またはCo合金を主成分とする分断層を成膜する分断層成膜工程と、分断層成膜工程の後に基板に加熱処理を施す第1加熱工程と、第1加熱工程の後にCoCrPtを主成分とする材料からなる補助記録層を成膜する補助記録層成膜工程と、補助記録層成膜工程の後に基板に加熱処理を施す第2加熱工程と、第2加熱工程の後にCVD法によりカーボンを主成分とする保護層を成膜する保護層成膜工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、第1加熱工程の後に成膜された補助記録層の平坦化を図ることができる。したがって、より平坦な層上に保護層が成膜されるため、保護層の摺動耐久性を向上させることが可能となる。また主記録層上に分断層を成膜した後に第1加熱工程を行うことで、かかる分断層により、主記録層を加熱処理による悪影響から好適に保護することができる。
【0015】
更に上記構成では、加熱処理を第1加熱工程および第2加熱工程の2回に分割して行う。すなわち、第2加熱工程において基板に与える熱量を、第1加熱工程の熱量分少なくしつつ、総量では従来と同量の熱量を基板に与えることができる。これにより、従来保護層成膜工程後に行われていた加熱工程のように1回に大量の加熱を行わずにすむため、基板温度の急激かつ過度の上昇を抑制し、加熱処理による主記録層への悪影響をより低減することができ、高SNRを確保することが可能となる。また第1加熱工程および第2加熱工程の熱量の総量が従来の加熱工程の熱量と同量となるように調整することにより、熱による摺動耐久性の向上は従来と同等程度の効果を得つつ、平坦化による摺動耐久性のさらなる向上を得ることができる。したがって、高いSNRを確保しつつ摺動耐久性を向上させられるため、信頼性の向上および更なる高記録密度化の達成を図れる。
【0016】
なお、本願で言うところの「主成分」とは、全体組成をat%(もしくはmol%)としたときに、少なくとも50%以上含まれることを指す。例えば、90(Co−Cr−Pt)−10(SiO)という組成を考えた場合、CoCrPt合金は全体の90%を占めるため主成分である。
【0017】
第1加熱工程において基板に与えられる熱量は、第2加熱工程よりも少なくすることが好ましい。これにより、基板の温度が著しく上昇することがなく、第1加熱工程時の加熱処理による主記録層への悪影響を排除することができる。
【0018】
上記の第1加熱工程において基板に与えられる熱量と、第2加熱工程において基板に与えられる熱量との和を総熱量としたときに、第1加熱工程時の熱量は、総熱量の10〜20%であるとよい。
【0019】
かかる構成により、上述した効果を最も好適に得ることができる。なお、第1加熱工程時の熱量が上記の下限値未満であると、その後に成膜される補助記録層の平坦化を十分に行うことができないため好ましくない。また第1加熱工程時の熱量が上記の上限値を超えると、熱量が過剰となり主記録層への悪影響が増大してしまうため好ましくない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高いSNRを確保しつつ摺動耐久性を向上させることで、信頼性の向上および更なる高記録密度化の達成を図ることが可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。
【図2】実施例および比較例の構成によるPinOn試験結果およびSNRの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
(垂直磁気記録媒体の製造方法)
図1は、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、基板110、付着層120、軟磁性層130、前下地層140、下地層150、主記録層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0024】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0025】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0026】
付着層120は基板110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130と基板110との密着強度を高める機能を備えている。付着層120は、例えばCrTi系非晶質合金、CoW系非晶質合金、CrW系非晶質合金、CrTa系非晶質合金、CrNb系非晶質合金等のアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば2〜20nm程度とすることができる。付着層120は単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0027】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、磁気記録層への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性材料としては、CoTaZrなどのコバルト系合金の他、FeCoCrB、FeCoTaZr、FeCoNiTaZrなどのFeCo系合金、や、NiFe系合金などの軟磁気特性を示す材料を用いることができる。また、軟磁性層130のほぼ中間にRuからなるスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0028】
前下地層140は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。前下地層140は、hcp構造であってもよいが、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向した面心立方構造(fcc構造)であることが好ましい。前下地層140の材料としては、例えば、Ni、Cu、Pt、Pd、Ru、Co、Hfや、さらにこれらの金属を主成分として、V、Cr、Mo、W、Ta等を1つ以上添加させた合金とすることができる。具体的には、NiV、NiCr、NiTa、NiW、NiVCr、CuW、CuCr等を好適に選択することができる。前下地層140の膜厚は1〜20nm程度とすることができる。また前下地層140を複数層構造としてもよい。
【0029】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成される主記録層160のhcp構造の磁性結晶粒の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、主記録層のグラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁性粒を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、主記録層160の結晶配向性を向上させることができ、また、下地層150の粒径を微細化することによって、主記録層の粒径を微細化することができる。下地層150の材料としてはRuが代表的であるが、さらにCr、Coなどの金属や、酸化物を添加することもできる。下地層150の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。
【0030】
また、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を2層構造としてもよい。具体的には、下地層150の上層側を形成する際に下層側を形成するときよりもArのガス圧を高圧にすると、上方の主記録層160の結晶配向性を良好に維持したまま、磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0031】
主記録層160は、Co−Pt系合金を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有している。例えば、CoCrPt系合金にSiOや、TiOなどを混合したターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiOや、TiOが偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる(主記録層成膜工程)。
【0032】
なお、上記に示した主記録層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化コバルト(CoOまたはCo)、等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0033】
分断層170は、主記録層160と補助記録層180の間に成膜する(分断層成膜工程)。分断層170は、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これにより160と補助記録層180の間、および主記録層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な結合の強さを調節することができるため、HcやHnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0034】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO、Ru−WO、Ru−TiO、CoCr、CoCr−SiO、CoCr−TiOなどが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
また分断層170の構造に対する作用としては、上層の結晶粒子の分離の促進である。例えば、上層がCoCrPtのように粒界を形成する非磁性物質を含まない材料であっても、磁性結晶粒子の粒界を明瞭化させることができる。なお、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
そして、本実施形態では、上記のように分断層成膜工程後に、基板110に加熱処理を施す(第1加熱工程)。これにより、加熱後に成膜される補助記録層180の平坦化を図り、その表面粗さを改善することができる。したがって、より平坦化された層(補助記録層180)上に保護層190が成膜され、保護層190の摺動耐久性を向上させることが可能となる。ここで、分断層170の成膜後に加熱することで、主記録層160を、第1加熱工程時の加熱処理による悪影響から好適に保護することができる。
【0037】
なお、第1加熱工程では、基板110に与えられる熱量が後述する第2加熱工程よりも少なくなるように調節すると好ましい。これにより、第1加熱工程時における基板温度の著しい上昇を回避し、加熱処理による主記録層160への悪影響を排除することができる。
【0038】
また上記の第1加熱工程において基板に与えられる熱量は、第1加熱工程と第2加熱工程において基板に与えられる熱量の和を総熱量としたときに、総熱量の10〜20%であるとよい。これにより、主記録層160への悪影響を抑制しつつ、補助記録層180の平坦化を十分に行うことができ、上述した効果を最も好適に得ることが可能となる。
【0039】
補助記録層180は分断層170を介在して主記録層160上に成膜される(補助記録層成膜工程)。補助記録層180は、基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は主記録層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。補助記録層180の材料としては、CoCrPt系合金を用いることができ、さらに、B、Ta、Cu等の添加物を加えてもよい。具体的には、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoCrPtCu、CoCrPtCuBなどとすることができる。また、これらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層180の膜厚は、例えば3〜10nmとすることができる。
【0040】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であってもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。
【0041】
そして、上記のように補助記録層180を成膜後、保護層成膜工程を実施する直前に、基板110に加熱処理を施す(第2加熱工程)。したがって、従来では保護層成膜工程直前のみに行われていた加熱工程を、本実施形態では第1加熱工程および第2加熱工程の2回に分割して行うこととなる。このように第1加熱工程において予め加熱処理を行うことにより、第2加熱工程において基板に与える熱量を第1加熱工程の熱量分少なくすることができる。したがって、従来の加熱工程のように1回に大量の加熱を行わずにすむため、基板温度の急激かつ過度の上昇が抑制され、加熱処理による主記録層への悪影響をより低減することができ、高SNRを確保することが可能となる。
【0042】
また加熱工程を複数回に分割したとしても、第1加熱工程および第2加熱工程の熱量の総量は、従来の加熱工程の熱量と同量となるように調整する。具体的には、まず保護層において最適なDh/Ghが得られる熱量(温度またはヒータの電流量)を求め、これを熱量の総量として第1加熱工程と第2加熱工程に分配する。これにより、熱による摺動耐久性の向上は従来と同等程度の効果を得つつ、平坦化による摺動耐久性のさらなる向上を得ることができる。したがって、2回の加熱工程(第1加熱工程および第2加熱工程)を実施することにより、高いSNRを確保しつつ摺動耐久性を向上させられるため、信頼性の向上および更なる高記録密度化の達成を図れる。
【0043】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる(保護層成膜工程)。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0044】
潤滑層200は、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0045】
(実施例)
上記構成の垂直磁気記録媒体100の製造方法の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。
【0046】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層132まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、0.7nmのRu層を挟んで、92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrをそれぞれ20nm成膜した。前下地層140はNi−5Wを8nm成膜した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に5PaでRuを10nm成膜した。主記録層160は、90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr)を2nm成膜した上に3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を12nm成膜した。分断層170は0.3nmのRuを成膜した。分断層170成膜後、第1加熱工程を実施し、基板110に加熱処理を施した。補助記録層180は6nmの62Co−18Cr−15Pt−5Bを成膜した。補助記録層180成膜後、保護層190を成膜する前に第2加熱工程を実施し、基板110に加熱処理を施した。保護層190はCVD法によりCを用いて成膜し、表層を窒化処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。なお、第1加熱工程および第2加熱工程における諸条件は後に詳述する。
【0047】
図2は、実施例および比較例の構成によるPinOn試験結果および記録再生試験のSNRの値を示す図である。PinOn試験は摺動耐久性を評価する1つの試験であり、Al−TiCからなる直径2mmの球を15g荷重で垂直磁気記録媒体の半径22mm位置に押し付けながら、垂直磁気記録媒体を回転させることにより、Al−TiC球と保護層190とを2m/secの速度で相対的に回転摺動させる。そして、この摺動により保護層190が破壊に至るまでの摺動回数を測定し、その回数が多いほど、保護層190の耐久性が高く、垂直磁気記録媒体の信頼性が高いと評価することができる。
【0048】
図2において、実施例1は、第1加熱工程及び第2加熱工程において基板に加える熱量の比を1:9としたもの、実施例2はその比を2:8としたもの、実施例3はその比を3:7としたものである。実施例4は、第2加熱工程で比較例1と同じだけ加熱し、追加的に第1加熱工程でも熱を加えたものである。比較例1は、従来通り加熱工程を保護層成膜直前にのみ行った、すなわち第2加熱工程のみを行ったものであり、比較例2は、第2加熱工程以外に分断層成膜前に加熱工程を行ったものである。比較例3は、第2加熱工程以外に主記録層成膜前に加熱工程を行ったものである。
【0049】
なお、実施例1〜2および比較例2〜4のように、加熱工程を複数回実施した場合の総熱量は、従来のように保護層成膜直前の加熱工程のみを行った比較例1の熱量と同等となるように調整した。ただし実施例4だけは、比較例1よりも多くの熱量を加えている。したがって、以下の説明では、比較例1を性能評価の基準とし、かかる比較例1に対する他の例の優劣について詳述する。
【0050】
図2に示す実施例1と比較例2〜3を参照すると、比較例2のように分断層成膜前に加熱工程を実施したり、比較例3のように主記録層成膜前に加熱工程を実施したりすると、SNRの低下が生じることがわかる。これは、1回目の加熱工程の位置が悪いため、主記録層160に悪影響を及ぼしてしまったものと考えられる。このことから、第1加熱工程の実施は、分断層170の成膜後が好適であることが理解できる。
【0051】
また実施例1と比較例1を参照すると、実施例1のように加熱工程を2回に分けて実施することにより、保護層190が、比較例1のように従来の保護層成膜前の加熱工程を実施した場合よりも多い摺動回数に耐えられることがわかる。これにより、摺動耐久性をより向上させることが可能であることがわかる。
【0052】
更に、実施例1〜3から、総熱量のうち、第1加熱工程における熱量の割合が増加すると摺動耐久性が向上し、第2加熱工程における熱量の割合が増加するとSNRが向上する傾向があることがわかる。これは、第1加熱工程時の熱量が多くなるほど、主記録層160への悪影響が増大するためと考えられる。したがって、第1加熱工程時の熱量は、総熱量(第1加熱工程時の熱量と第2加熱工程時の熱量の和)の10〜20%が好適であることが理解できる。
【0053】
また実施例4は、比較例1と比較して摺動耐久性は飛躍的に向上している。これは、第1加熱工程によって事前に加熱することにより、保護層成膜時に十分に加熱されていたためと考えられる。なおSNRは比較例1と変わりがないが、これは総熱量が大きいために主記録層160への悪影響が比較例1と同程度であったためと考えられる。しかし、同程度のSNRを維持したまま高い摺動耐久性を得られるのであれば、十分に利用価値のある技術であるということができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
100…垂直磁気記録媒体、110…基板、120…付着層、130…軟磁性層、140…前下地層、150…下地層、160…主記録層、170…分断層、180…補助記録層、190…保護層、200…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも、CoCrPt合金を主成分とする磁性粒子と酸化物を主成分とする非磁性の粒界部とからなる主記録層を成膜する主記録層成膜工程と、
前記主記録層上にRu合金またはCo合金を主成分とする分断層を成膜する分断層成膜工程と、
前記分断層成膜工程の後に前記基板に加熱処理を施す第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後にCoCrPtを主成分とする材料からなる補助記録層を成膜する補助記録層成膜工程と、
前記補助記録層成膜工程の後に前記基板に加熱処理を施す第2加熱工程と、
前記第2加熱工程の後にCVD法によりカーボンを主成分とする保護層を成膜する保護層成膜工程と、
を含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱工程において前記基板に与えられる熱量と、前記第2加熱工程において該基板に与えられる熱量との和を総熱量としたときに、
前記第1加熱工程時の熱量は、前記総熱量の10〜20%であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−138582(P2011−138582A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297739(P2009−297739)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】