説明

基板上に構造体をパターン加工するための装置及び方法

【課題】 基板上に構造体をパターン加工するための装置及び方法を提供すること。
【解決手段】 走査先端部を有するイメージング装置と、発光装置と、走査先端部の周りにあって、分解されたときに基板上での化学気相堆積法に適したものとなる材料の蒸気を有する空間とを含む、基板上に構造体をパターン加工するための装置であり、この発光装置は、蒸気を分解できない強度を有する光ビームを、走査先端部付近の光ビームが引き起こす電磁場が蒸気を分解するのに十分な程強くなるように、走査先端部上に射出するように適合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に構造体をパターン加工するための装置及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
通常、基板はリソグラフィを用いてパターン加工される。この技術を用いるとき、生成できる最小のパターンは、リソグラフィの解像度、すなわち用いられる光源が発する光の波長、及びリソグラフィに用いられるフォトレジストのパターン加工の最小寸法によって制限される。周知の157nmリソグラフィ技術によって生成できる最小寸法は、約50nmである。しかしながら、この寸法を達成するための労力は多大なものであり、よって、かなり大量の基板のパターン加工に用いられるときにだけ採算が取れる。
【0003】
このため、100nmより短い波長を有する光を生成できる光源及び対応するフォトレジストは現在利用可能でないので、100nmより小さい寸法を有する構造体のパターン加工は、従来より、電子ビーム・リソグラフィ、或いは集束電子ビーム又はイオンビーム技術を用いて達成される。集束電子ビーム(Focused electron beams、FEB)、集束イオンビーム(Focused Ion Beam、FIB)、及びレーザ・ビーム、並びに走査型トンネル顕微鏡(Scanning tunneling microscope、STM)プローブは、伝統的なレジスト・ベースのプロセスに優る独自の利点を提供する。それらの中には、金属又は誘電体のその場堆積、及び選択的エッチングがある。通常、構造体をパターン加工する基板は、STMを用いて走査され、次いで、該基板は、集束電子ビーム又は集束イオンビームでターゲットにされる。レーザ・ビームを除く全ての技術は、nmサイズの堆積すなわちnmサイズの寸法の生成された構造体のための解像度を有する(非特許文献1)。
【0004】
FEB及びFIBは、非常に高価なものである。上述の全ての技術に用いられる基本的プロセスは、ビームの位置における局所的化学気相堆積法(CVD)であるが、蒸気の分解は、入力エネルギーの性質によって大きく変わる。高コストに加えて、示された方法の更なる欠点は、STMが用いられるときに基板のパターン加工(非特許文献2)を開始できるように、基板が導電性でなければならないということ、又は基板の少なくとも一部が導電性でなければならないということである。このことにより、使用できる基板に大きな制約が課される。
【0005】
上述の従来技術の別の欠点は、低い電流密度で基板の走査を行う一方で、電子ビーム又はイオンビームを生成するために、高い電流密度を適用しなければならない点である。したがって、パターン加工プロセスを切り換え方式で、すなわち、ある時には低電流密度で走査を行い、別の時には基板をパターン加工するために電子ビーム又はイオンビームを生成するように作動させることしかできない。このことは、基板を走査した後に、パターン加工されることになる走査済み領域を再度見つける必要があるという問題をもたらす。
【0006】
さらに、通常使用されるSTMを用いる場合、必要な高い電流密度が、一定の操作では達成できないため、電子ビーム又はイオンビームの生成は、パルス化された操作で行われる。さらに、高い電流密度を有するパルス化操作のため、顕微鏡の先端部が早く磨耗する。
【0007】
100nmより小さい寸法の構造体を定めるための代替的技術は、例えば、特許文献1に記載される、いわゆるナノステンシル手法である。特許文献1によると、物理気相堆積法(PVD)と共に、原子間力顕微鏡(AFM)先端部のカンチレバー内の開口部が、ステンシル・マスクとして用いられる。
【0008】
この手法の欠点は、制限された操作可能性しか持たないPVDを用いる点である。
【0009】
非特許文献3により、金属化されたAFMの先端部を用いて電磁場を強化する、フォトレジストの露光方法が周知である。この方法によると、フォトコンバージョンを行うことができない低強度のUV光で金属化された先端部を照射するために、外部の電源が用いられる。次に、低強度のUV光は、プラズモン共鳴を介して、フォトコンバージョンを行うのに十分高い強度の電磁場まで強化される。強度は、AFM先端部付近においてのみ、フォトレジストを変換するのに十分な程高い。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,313,905号明細書
【非特許文献1】I.Utke他著、「Focused electron beam induced deposition of gold」、J.Vac.Sci.Technol.(2000年11月/12月)、American Vacuum Society、pp.3168−3171
【非特許文献2】M.D.Croitoru他著、「Single−Step Nanopatterning with a Non−Contact SFM by Electrically Induced Local CVD」、MNE 2002年 Lugano、pp.290−291
【非特許文献3】P.Karageorgiev他著、「Scanning near−field ellipsomeric microscope−imaging ellilsometry with a lateral resolution in nanometer range」、Applied Physics Letters vol.79 No.11(2001年)、pp.1730−1732
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術のシステム及び方法の欠点の少なくとも一部を克服すること、及び、装置及び方法が100nmより小さい寸法を有するパターンを定め得る場合に、複雑な形状のパターンを互いに近接した状態で定めることが、本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、走査先端部を有するイメージング装置と、発光装置と、先端部の周りにあって、分解されたときに基板上での化学気相堆積法に適したものとなる材料の蒸気を含む空間とを含む、基板上に構造体をパターン加工するための装置に向けられ、この発光装置は、蒸気を分解できない強さの光ビームを、先端部付近の光ビームが引き起こす電磁場が蒸気を分解するのに十分な程強くなるように、該先端部上に射出するように適合される。基板を支持するためのホルダを設けることもできる。
【0013】
本発明の別の態様においては、イメージング装置及び発光装置を含む装置によって、基板上に構造体をパターン加工する方法が提供される。この方法は、顕微鏡の先端部の下方に、好ましくは顕微鏡のホルダ上に基板を準備するステップと、分解されたときに基板上での化学気相堆積法に適したものとなる材料の蒸気を、先端部と基板との間の空間に提供するステップと、レーザ装置によって射出されたレーザ・ビームに先端部を露光させるステップとを含み、レーザ・ビームの強さは、蒸気を分解するのに十分でなく、露光は、蒸気が分解される程度まで先端部が近接電磁場を強化するように行われる。
【0014】
本発明の固有の特徴は、数ナノメートルのオーダーの寸法を有する構造体を生成するために、光ビームが用いられることである。発光装置からイメージング装置の走査先端部上に弱い光ビームが射出され、走査先端部の周りの近接電磁場が蒸気を分解するのに十分な程強くなるまで、弱い光ビームが増幅される。イメージング装置の走査先端部付近の蒸気又はガスが分解された後、該蒸気の成分が、基板上に堆積される。したがって、本発明によると、イメージング装置の走査先端部の動きにより、基板上に数ナノメートルの寸法のナノ構造体が生成され、例えば、導電性材料のラインを基板上に堆積させることができる。
【0015】
本発明によると、顕微鏡の先端部に適用される電位、すなわち従来技術において周知の電子ビーム又はイオンビームを用いる代わりに、光及びイメージング装置の走査先端部が用いられるので、非導電性基板を用いることが可能になる。
【0016】
更なる利点は、本発明に従った方法の操作を切り換え式に行う必要がなく、基板の走査及びパターン加工を同時に行い得る点である。本発明によると、例えば導電性ラインのようなパターン加工された構造体を容易に見つけることができるので、このことは、特に有利である。
【0017】
さらに、本発明によると、物理気相堆積法(PVD)の代わりに化学気相堆積法(CVD)を用いることが可能になり、よって、PVDを用いて可能なように、ずっと広い範囲の粒子を堆積させることが可能になる。
【0018】
走査先端部が、発光装置からイメージング装置の走査先端部上に射出された低強度の光照射野を強化するので、本発明は、走査先端部の近接場のみにおける蒸気の化学反応に依存する。走査先端部の周りの近接電磁場は、蒸気が分解される程度まで該走査先端部付近の温度を容易に上昇させる。この走査先端部付近のみにおける分解により、該走査先端部付近のみにおいて分解された蒸気の成分が堆積される。堆積の解像度は、基板の熱伝導性、分解しきい値の鋭利さ、すなわち蒸気が分解する範囲の制限値がどれだけ鋭利であるか、及び入射光の波長によって制限される。
【0019】
本発明によると、高い電流密度を必要としないという事実のために、分解された蒸気の堆積を、従来技術に従って行われるパルス化された作動モードではなく、連続的な作動モードで行うことができる。したがって、本発明による方法は、イメージング装置の走査先端部の磨耗を少なくする。
【0020】
更に別の好ましい実施形態が、従属項に開示される。実施形態は、本発明による装置と共に説明されるが、本発明による方法の類似物にも関連する。
【0021】
一実施形態において、発光装置はレーザである。
【0022】
別の実施形態において、イメージング装置は、原子間力顕微鏡又は走査型トンネル顕微鏡である。
【0023】
一般に、約5nmから約20nmまでの直径を有する先端部を持つ原子間力顕微鏡(AFM)又は走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いることによって、例えば5nmまでといった数ナノメートルのサブ・リソグラフィ範囲にある、基板の走査及びパターン加工の解像度を達成するための容易な方法を提供することができる。
【0024】
更に別の実施形態において、レーザ装置は、極性が先端部の長手方向軸線と平行になるように、先端部上にレーザ・ビームを射出するように適合される。
【0025】
そのような方法でレーザ・ビームの極性及び顕微鏡の先端部を位置合わせすることによって、先端部の周りの近接電磁場の強度を効率的な方法で増大させることができる。
【0026】
別の実施形態において、先端部は、5nmから最大で20nmまでの寸法を有する。
【0027】
例えば、こうした寸法すなわち5nmの先端部を用いる場合、先端部と基板との間の距離が約5nmから10nmまでの範囲にあるとき、同じ寸法の構造体すなわちサブ・リソグラフィ構造体を基板上に形成することが可能である。こうした寸法は、分子規模の電子工学に適している。
【0028】
更に別の実施形態において、装置は、複数のほぼ平行な先端部を含む。
【0029】
複数の平行な先端部を用いることによって、同時に、すなわち、単一のステップで、複数の平行な構造体を基板上に形成することが可能になる。したがって、基板上の複雑な構造体をより容易且つ迅速に形成することができる。例えば、基板上に複数の平行な幾つかの導電性ラインを形成することができる。
【0030】
更に別の実施形態においては、レーザ・ビームの波長が、先端部の寸法に合致するように適合されるので、射出されたレーザ・ビームの十分な増幅が達成される。
【0031】
先端部のサイズをレーザの波長に適合させることによって、該先端部の長手方向に、定常波を生成することができる。したがって、レーザ・ビームの電磁場の一次強度をより効率的に増幅することができる。
【0032】
更に別の実施形態においては、顕微鏡の先端部が金属化される。
【0033】
別の実施形態においては、蒸気は、ハロゲン化合物、水素化物、及び金属有機化合物を含むガスの群から得られるガスである。
【0034】
可能な金属有機化合物は、金属アルキル、金属アルコキシド、金属ジアリルアミド、金属ジケトナート、及び金属カルボニルである。
【0035】
好ましい実施形態においては、蒸気は、AuClPF、W(CO)、TiCl、TaCl、WF、SiH、GeH、AlH(NMe、NH、ALMe、Ti(CHtBu)、Ti(OiPr)、Ti(NMe、Cu(acac)、及びNi(CO)を含む群から選ばれるガスである。
【0036】
これらのガスは、化学気相堆積法に適したものであり、よって、本発明に従った装置においてこれらのガスを用いることによって、基板上の構造体を容易に形成することができる。例えば金属ラインなどの基板上の構造体のために用い得る材料は、金、タングステン、アルミニウム、アルカリ土類、Ca、又はMgである。
【0037】
要約すると、本発明の一態様は、例えば顕微鏡、特に原子間力顕微鏡(AFM)などのイメージング装置を、弱い光ビーム、特にレーザ・ビームと共に用い、基板上にサブ・リソグラフィ構造体を形成する際に見ることができる。レーザ装置の弱いレーザ・ビームが、AFMの走査先端部すなわち顕微鏡先端部上に射出される。通常、顕微鏡先端部は、5nmから20nmまでの間の直径を有する。しかしながら、本発明によると、顕微鏡先端部の直径は、この範囲内に制限されない。この文脈における弱いレーザ・ビームは、そのレーザ・ビームの電磁場の強度が、分解されるときに化学気相堆積法(CVD)に適したガスを分解するのに十分な程高くないことを意味する。AFMの代わりに、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いることもできる。弱いレーザ・ビームをAFMの先端部上に放射することによって、CVDに適した供給ガスが分解され、分解されたガスの成分が基板上に堆積される程度まで、該先端部の周りの近接場の電磁場が増幅される。本発明によると、大気圧化学気相堆積法(APCVD)、低圧化学気相堆積法(LPCVD)、プラズマ強化化学気相堆積法(PECVD)、金属有機化学気相堆積法(MOCVD)、レーザ化学気相堆積法(LPCVD)、又は光化学気相堆積法(PCVD)といった異なるCVD技術を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に、本発明が、図面に示される実施形態を参照して説明される。
【0039】
図1は、原子間力顕微鏡(AFM)の先端部100の周りの電磁場の電場分布を示す。示される電磁場は、三次元の多重多極法シミュレーションの結果である。長手方向軸線に沿って切断された先端部100の四分円及び周囲の近接場が、図1に示されている。先端部100は、例えばサファイア・レーザのような、810nmの波長を有する単色レーザ・ビームによって照射された。さらに、入射するレーザ・ビームの極性及び方向、すなわち、波のEベクトル及びKベクトルが、図1の座標系101で示される。シミュレーションにおいては、5nmの半径を持つ金製先端部が用いられ、この先端部は、側部から照射される。さらに、レーザ・ビームの極性は、先端部の軸線と平行であり、すなわち、レーザ・ビームのEベクトルは、先端部の軸線と平行である。
【0040】
図1においては、電場分布は、先端部の周りの電磁場のEの等高線によって示される。示される等高線プロットにおいては、2つの隣り合った線の間の差は、2対1であり、これは、先端部に接近する方向に見て、電磁場の強度が、1つの等高線から次の等高線まで2対1に増大することを意味する。寸法を説明するために、右側に縮尺が与えられる。図1に示される先端部と周囲の電磁場との全高は、約75nmの高さを表す。シミュレーションは、先端部の最前部における電磁場の強度の増大が、レーザ・ビームの照射強度より約3000倍強いことを示す。さらに、電磁場は、先端部付近においてほぼ回転対称であることが、シミュレーションから生じる。
【0041】
示されるシミュレーションの結果は、AFMの先端部を照射することによって、例えば、レーザ・ビームの電場のような弱い電磁場の強さを強化することができることを示す。
【0042】
図2において、本発明の1つの実施形態に従った、基板201上に、例えば導電性ラインを堆積させるなど、構造体をパターン加工するのに適した、小さい寸法を有する装置200の概略図が示される。この装置は、概略的にのみ示されるAFM202を含む。AFM202は、金属化された先端部203を含む。この実施形態において、先端部203は、5nmの直径を持つ金製先端部であるが、該先端部は、AFM先端部に適した他のあらゆる材料から作ることができる。先端部203の下方には、導電性ラインを形成すべき基板201を配置することができる。さらに、装置200は、低強度のレーザ・ビーム、すなわち先端部203と基板201との間に導入される蒸気又はガスを分解するのに十分な程高くない強度のレーザ・ビームを用いて、該先端部203を照射することができるレーザ204を含む。AFM202、よって該AFMの先端部203及び/又は基板201は、三次元で動かすことができ、このことは、図2に示される座標系205によって示される。
【0043】
基板201をパターン加工するために、上述の装置200が、一般的な化学気相堆積装置(CVD装置)に挿入される。こうしたCVD装置は、通常、堆積が行われる反応チャンバと、CVDに適した前駆体すなわちガスを反応チャンバに供給するためのガス送達システムと、基板、マンドレル等の導入及び除去のために用いられる基板取り付け機構と、前駆体の反応及び/又は分解に必要とされるエネルギー/熱を提供するエネルギー源と、反応/分解に必要とされるもの以外の他の全てのガス種を除去するための真空システムと、揮発性副産物を反応チャンバから除去するための排出システムと、排出ガスの一部が環境への射出に適しておらず、安全/無害な化合物への処理又は変換を必要とする場合の排出処理システムと、圧力、温度、及び時間のようなプロセス・パラメータを監視するための、ゲージ、制御装置、警報装置、及び安全装置等のプロセス制御機器とを含む。明確にするために、こうした周知のCVD装置は、図2に示されていない。
【0044】
CVDに適したガス、すなわち典型的な前駆体材料は、
TiCl、TaCl、WFのようなハロゲン化合物、
SiH、GeH、AlH(NMe、NHのような水素化物、
有機金属化合物、
ALMe、Ti(CHtBu)のような金属アルキル、
Ti(OiPr)のような金属アルコキシド、
Ti(NMeのような金属ジアリルアミド、
Cu(acac)のような金属ジケトネート
Ni(CO)のような金属カルボニル、
などの多数のカテゴリーに分類される。
【0045】
基板201をパターン加工するために、先端部203と基板201との間の空間にCVDに適したガス又は蒸気を導入しながら、先端部203を照射するレーザ204によって、レーザ・ビーム206が射出される。図2の実施形態において、先端部203と基板201との間の空間に導入されるガスとして、AuClPFが用いられる。AuClPFの分解のためのしきい値温度は、摂氏約150°である。レーザ装置204すなわちレーザ源として、810nmの波長を持つ光を射出する、サファイア・レーザのような弱い赤外線源を用いることができる。既に述べたように、レーザ・ビーム206すなわち一次レーザ・ビームの強度すなわちエネルギーは、ガス又は蒸気を分解するのに十分な程高くないので、この一次レーザ・ビームを用いて、金属ラインすなわち導電性ラインを堆積させることはできない。
【0046】
しかしながら、図1を参照して述べられたように、先端部203付近の近接電磁場の強度すなわちエネルギーが、ガス又は蒸気を分解するのに十分な程高くなるように、AFM202の先端部203によって一次レーザ・ビーム206の電磁場が増幅され、CVDが達成され、ライン207を基板201上に形成することが可能になる。つまり、先端部付近の温度が摂氏150°より上に上昇し、よってAuClPFが分解される。このことにより、AFM先端部が基板を走査する間、基板上に金が堆積される。電磁場は、先端部203付近の蒸気を分解できるだけ強いので、非常に小さい寸法を持つ金属ライン207を基板201上に形成することができる。5nmの直径を持つ先端部203を用いることによって、同じ寸法すなわち5nmの寸法を持つライン207を基板上に形成することができる。この寸法を達成するために、先端部203と基板201との間の一般的な距離は、5nmから10nmまでの範囲である。
【0047】
蒸気の分解が、先端部203のすぐ近くに集中しているため、金属ライン207は、実質的に先端部203の下方に形成される。したがって、互いに対してAFM先端部203及び基板201を動かし、所望の配置に対応させることによって、基板201上に所望の配置を有する金属ライン207を達成することが可能である。記述的方法では、先端部203が、基板上に金属ライン207を「書き込む」ということができる。電磁場は、先端部203付近の蒸気を分解できるだけ強いので、金属ライン207は、先端部203のあらゆる転回に関与し、基板201のパターン加工が容易になる。
【0048】
図3においては、本発明の別の実施形態に従った、基板301上に、例えば導電性ラインを堆積させるなど、構造体をパターン加工するための、小さい寸法を有する装置300の概略図が示される。図2に示される装置200とは逆に、図3に示される装置300は、幾つかの先端部303a、303b、303c、及び303dを有するAFM302を含む。4という数字を制限的な意味で理解すべきではない。本発明によると、あらゆる所望の適切な数の先端部を用いることができる。
【0049】
装置300は、概略的にのみ示されているAFM302を含む。AFM302は、金属化された複数の先端部303a、303b、303c、及び303dを含む。図3の実施形態においては、先端部303a、303b、303c、及び303dは、5nmの直径を持つ金製先端部であるが、該先端部は、AFM先端部に適した他のあらゆる材料から作ることができる。先端部303a、303b、303c、及び303dの下方には、例えば導電性ラインのようなラインを形成すべき基板301を配置することができる。さらに、装置300は、低強度のレーザ・ビーム、すなわち先端部303a、303b、303c、303dと基板301との間に導入される蒸気又はガスを分解するのに十分な程強くない強度のレーザ・ビームを用いて、該先端部303a、303b、303c、及び303dを照射することができるレーザ304を含む。AFM302、よって該AFMの先端部303a、303b、303c、及び303d及び/又は基板301は、三次元で動かすことができ、このことは、図3に示される座標系305によって示される。
【0050】
基板301をパターン加工するために、上述の装置300が、図2を参照して説明されるような一般的な化学気相堆積装置(CVD装置)に挿入されるが、このことは、図3にも示されていない。
【0051】
基板301をパターン加工する間、CVDに適したガス又は蒸気を、先端部303a、303b、303c、303dと基板301との間の空間に導入しながら、一次レーザ・ビーム306が、先端部303a、303b、303c、及び303dを照射するレーザ304によって射出される。図3の実施形態においては、AuClPFが、先端部303a、303b、303c、303dと基板301との間の空間に導入されるガスとして用いられる。AuClPFの分解のためのしきい値温度は、摂氏約150°である。
【0052】
レーザ装置304すなわちレーザ源として、810nmの波長を持つ光を射出するサファイア・レーザのような、弱い赤外線源を用いることができる。既に述べたように、一次レーザ・ビーム306の強度すなわちエネルギーは、ガス又は蒸気を分解するのに十分な程高くないので、一次レーザ・ビームを用いることによって、金属ラインすなわち導電性ラインを堆積させることはできない。
【0053】
しかしながら、図1を参照して述べられたように、先端部303a、303b、303c、及び303d付近の近接電磁場の強度すなわちエネルギーが、ガス又は蒸気を分解するのに十分な程高くなるように、AFM302の先端部303a、303b、303c、及び303dによって、一次レーザ・ビーム306の電磁場が増幅され、CVDが達成され、ライン307を基板301上に形成することが可能になる。つまり、先端部付近の温度は摂氏150°より上に上昇し、よってAuClPFが分解される。このことにより、AFM先端部が基板を走査する間、基板上に金が堆積される。電磁場は、先端部303a、303b、303c、及び303d付近の蒸気を分解できるだけ強いので、非常に小さい寸法を持つ金属ライン307a、307b、307c、及び307dを基板301上に形成することができる。5nmの直径を持つ先端部303a、303b、303c、及び303dを用いることによって、同じ寸法すなわち5nmの寸法を持つ金属ライン307a、307b、307c、及び307dを基板301上に形成することができる。先端部303a、303b、303c、303dと基板301との間の一般的な距離は、5nmから10nmまでの範囲である。
【0054】
図3による装置300を用いることによって、単一のステップで、基板301上に複数の平行な金属ラインを形成することができる。このように、基板をパターン加工するための装置及び方法の効率性を増大させることができる。
【0055】
要約すると、本発明の一態様は、原子間力顕微鏡(AFM)を弱いレーザ・ビームと共に用いて、基板上にサブ・リソグラフィ構造体を形成する際に見ることができる。レーザ装置の弱いレーザ・ビームが、AFMの金属化された先端部上に射出される。AFMの代わりに、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いることもできる。弱い一次レーザ・ビームをAFMの先端部上に放射することによって、化学気相堆積法(CVD)に適した供給ガスが分解され、分解されたガスの成分が基板上に堆積される程度まで、先端部の周りの電磁場が増大される。
【0056】
従来技術に優る本発明の利点は、以下の通りである。増幅は、近接場すなわち金属化された先端部の周りの数ナノメートルにおいてのみ行われるので、ガスは、先端部付近においてのみ分解され、よって、分解されたガスの堆積もまた先端部付近においてのみ行われる。したがって、数ナノメートルの寸法を有する、例えば金属ラインのような構造体を基板上に形成することができる。5nmの直径を持つ先端部、及び5nmから10nmまでの該先端部と基板との間の距離を用いる場合、5nmの寸法を有するラインを達成することができる。こうした寸法は、分子マイクロエレクトロニクスに適している。しかしながら、先端部の直径は5nmに制限されるものではなく、如何なる適切な直径とすることもできる。先端部の直径は、所望のライン寸法に対応することが好ましく、例えば、10nmの所望のライン寸法すなわち10nmのライン幅の場合には、先端部の直径は、約10nmとすることができる。
【0057】
別の利点は、基板の走査及び基板上のラインの形成が同時に行われるため、基板上の形成された構造体を容易に見つけることができる点である。このことは、従来技術による方法におけるような先端部の強い電場の代わりに、外部レーザ・ビームによって先端部が励起されるために可能になる。本発明によると、こうした強い電場が適用され、そのことが先端部を極めて急速に磨耗させる従来技術と比べると、強い電場が用いられず、よって先端部の寿命が増大される。
【0058】
別の利点は、分解のような化学反応が、強度及びこうしたエネルギーが十分に高い先端部においてのみ存在し、よって、基板及びAFMの周りにあまり攻撃的でない環境がもたらされる点である。
【0059】
本発明及びその利点が詳細に説明されたが、添付の特許請求の範囲に定められるような本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、ここに、種々の変更、置換、及び代替をなし得ることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】原子間力顕微鏡の先端部の周りの電場分布を示す。
【図2】本発明の一実施形態に従った、基板上に構造体をパターン加工するための装置を示す。
【図3】本発明の別の実施形態に従った、基板上に構造体をパターン加工するための装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(201、301)上に構造体(207、307)をパターン加工するための装置(200、300)であって、
走査先端部(203、303)を有するイメージング装置(202、302)と、
発光装置(204、304)と、
前記走査先端部の周りにあって、分解されたときに前記基板(201、301)上での化学気相堆積法に適したものとなる材料の蒸気を含む空間と
を備え、
前記発光装置(204、304)は、前記蒸気を分解できない強さの光ビーム(206、306)を、前記先端部(203、303)付近の光ビームが引き起こす電磁場が前記蒸気を分解するのに十分な程強くなるように、該先端部(203、303)上に射出するように適合される装置。
【請求項2】
前記発光装置(204、304)がレーザである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記イメージング装置(202、302)が、原子間力顕微鏡及び走査型トンネル顕微鏡の一方である、請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記レーザ装置(202、302)は、極性が前記先端部(203、303)の長手方向軸線と平行になるように、前記光ビーム(206、306)を前記先端部(203、303)上に射出するように適合される、請求項2又は請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記先端部(203、303)が、5nmから20nmまでの間の寸法を有する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、複数のほぼ平行な先端部(303a、303b、303c、303d)を備える、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記射出された光ビームの十分な増幅が達成されるように、前記光ビーム(206、306)の波長が、前記先端部(203、303)のサイズと合致するように適合される、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記先端部(303a、303b、303c、303d)の1つ又はそれ以上が金属化されたものである、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記蒸気は、ハロゲン化合物、水素化物、及び金属有機化合物を含むガスの群から得られるガスである、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記蒸気は、AuClPF、W(CO)、TiCl、TaCl、WF、SiH、GeH、AlH(NMe、NH、ALMe、Ti(CHtBu)、Ti(OiPr)、Ti(NMe、Cu(acac)、及びNi(CO)を含むガスの群から選ばれるガスである、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
イメージング装置(202、302)及び発光装置(204、304)を含む装置によって、基板(201、301)上に構造体(207、307)をパターン加工する方法であって、
前記イメージング装置(202、302)の先端部(203、303)の下方に前記基板(201、301)を準備するするステップと、
分解されたときに前記基板(201、301)上での化学気相堆積法に適したものとなる材料の蒸気を、前記先端部(203、303)と該基板(201、301)との間の空間に提供するステップと、
前記蒸気が分解される程度まで前記先端部(203、303)が近接電磁場を強化するように、該先端部(203、303)を、強さが該蒸気を分解するのに十分でない光ビーム(206、306)に露光させるステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−510810(P2007−510810A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538987(P2006−538987)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003696
【国際公開番号】WO2005/047177
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】