説明

左右輪駆動装置、前後輪駆動装置及びその制御方法

【課題】各出力要素を回転自由に設定可能な差動装置、この差動装置を用いた前後輪駆動装置及び、この前後輪駆動装置の制御方法を提供すること。
【解決手段】差動装置1は、2つの出力要素間に回転差を発生させるものである。この差動装置1は、2個の遊星歯車機構20a、20bを組み合わせた遊星歯車機構組2を有してなる。遊星歯車機構組2では、キャリア21は、各遊星歯車機構20a、20b間で相互に連結されている。一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aがブレーキ機構251により回転を停止可能なように構成されていると共に他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bが差動モータのモータ軸に連結されている。さらに、各構成要素のうちサンギア23が、各出力要素にそれぞれ、直接的又は間接的に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの出力要素間に回転差を発生させる差動装置、この差動装置を利用した4輪自動車用の前後輪駆動装置及び、この前後輪駆動装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの出力要素間に回転差を生じさせる差動装置として、例えば、遊星歯車機構を利用したものがある。そして、このような差動装置をセンターデファレンシャルとして利用して全車輪の常時駆動を可能とした全輪駆動方式の4輪自動車がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、上記従来の差動装置では、次のような問題がある。すなわち、上記差動装置では、例えば、外部の制御手段を用いて出力要素間の回転差を積極的に制御することが困難であるという問題がある。さらに、各出力要素を回転自由に設定するためには、例えば、遊星歯車機構を構成するサンギアとリングギアとの相対回転を規制するための機構等が必要となる。ここで、最内周に配置されるサンギアと、最外周に配置されるリングギアとの相対回転を規制するための機構は、その構成が比較的複雑となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−4538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みてなされたものであり、各出力要素を回転自由に設定可能な差動装置、この差動装置を用いた前後輪駆動装置及び、この前後輪駆動装置の制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、自動車の駆動輪を駆動する原動機を備え、上記駆動輪の左右輪の各ドライブシャフトが、差動装置が有する等配分デファレンシャルの各出力軸にそれぞれ連結されている左右輪駆動装置であって、
上記差動装置は、1軸の入力軸と2軸の出力軸とを含む上記等配分デファレンシャルを有し、上記2軸の出力軸からなる2つの出力要素を備え、該2つの出力要素間に回転差を発生させるものであり、サンギア、該サンギアの外周側に同軸配置されたリングギア及び、該リングギアと上記サンギアとにギア係合するプラネタリギアを保持するキャリアの3つの歯車要素である選択構成要素を含む遊星歯車機構を2個、組み合わせた遊星歯車機構組と、該遊星歯車機構組を収容するハウジングと、一方の上記遊星歯車機構における上記各構成要素のうちのいずれかの回転を停止させるように構成したブレーキ機構と、他方の上記遊星歯車機構における上記各構成要素のうちのいずれかを回転させる差動モータとを有し、
上記遊星歯車機構組では、上記サンギアの歯数と上記リングギアの歯数との比であるギア比が、上記各遊星歯車機構について一致しており、かつ、
上記各選択構成要素のうちの第1要素が上記遊星歯車機構間で相互に連結され、
上記各選択構成要素のうちの第2要素のうち、一方が上記ブレーキ機構により回転を停止可能なように構成されていると共に他方が上記差動モータのモータ軸に連結され、
上記各選択構成要素のうちの第3要素のうち、一方が上記等配分デファレンシャルの上記入力軸又は上記2軸の出力軸の一方に直接的に連結されていると共に、他方が上記2軸の出力軸の他方に直接的に連結されており、
かつ、上記原動機のモータ軸は、クラッチ機構を介して、上記等配分デファレンシャルの入力軸と連結してあることを特徴とする左右輪駆動装置にある(請求項1)。
第2の発明は、4輪駆動車の前輪或は後輪の主駆動輪を駆動する主原動機と、副駆動輪を駆動する副原動機とを備えた前後輪駆動装置であって、
第1の発明の左右輪駆動装置を上記副駆動輪の駆動装置として用いると共に、上記左右輪駆動装置における上記原動機を上記副原動機として用いたことを特徴とする前後輪駆動装置にある(請求項9)。
【0007】
上記第1の発明を構成する差動装置における上記遊星歯車機構組は、上記第1要素を共通の歯車要素として有している。そして、一方の上記遊星歯車機構の上記第2要素の回転を、上記ブレーキ機構によって停止できるように構成してある。また、他方の上記遊星歯車機構の第2要素は、上記差動モータの出力軸と連結してある。それ故、上記ブレーキ機構によって上記一方の第2要素の回転を停止した状態で、上記差動モータのモータ軸の回転を他方の第2要素に入力すると、上記各遊星歯車機構を構成する第3要素間に、上記差動モータから入力された回転に応じて回転差を発生させることができる。
【0008】
ここで、上記サンギアの歯数と上記リングギアの歯数との比であるギア比が略一致する2個の遊星歯車機構を組み合わせた上記遊星歯車機構組によれば、上記各第3要素の回転数の高低に関係なく、上記差動モータから入力された回転数に応じて2つの第3要素間の回転差を設定することができる。すなわち、例えば、差動モータから入力する回転数がr回転であれば、2つの第3要素の回転数の高低によらず、その回転差を必ずr回転とすることができる。そのため、2つの第3要素間で所望の回転差を実現するために差動モータから入力する回転数を、各第3要素の回転数に応じて変更する必要がない。一般的には、各第3要素の回転数が高くなるほど、2つの第3要素間に所望の回転差を得るために差動モータから入力すべき回転数が高くなる傾向にある。したがって、上記のごとく、上記サンギアの歯数と上記リングギアの歯数との比であるギア比が略一致する2個の遊星歯車機構を組み合わせた上記遊星歯車機構組では、相対的に、差動モータから入力すべき回転数を低く抑制することができる。
【0009】
一方、上記ブレーキ機構を開放して一方の第2要素の回転を自由にすると、各出力要素の回転を自由に設定できる。すなわち、上記差動装置において、出力要素間の差動(回転差)を生じさせる機能を停止させることができる。例えば、各車輪の回転を個別に制御するアンチスキッド装置を搭載した自動車では、上記アンチスキッド装置が動作した場合に、上記各出力要素の回転を自由にできる。これにより、上記アンチスキッド装置による制御を優先させ、該アンチスキッド装置による各車輪の制御と、上記差動装置による制御との相互干渉を未然に防止できる。
【0010】
【0011】
上記第2の発明の前後輪駆動装置では、上記原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との間に、上記クラッチ機構を介設してある。そのため、この前後輪駆動装置では、上記クラッチ機構を断続することで、上記副原動機から上記副駆動輪に駆動トルクを伝達するかしないかを適宜、切り換えることができる。
【0012】
さらに、上記前後輪駆動装置における上記差動装置では、上記ブレーキ機構により上記一方の第2要素の回転を停止させた状態で上記差動モータを回転駆動すれば、その回転に応じて左右の上記副駆動輪の回転差を積極的に生じさせることができる。このように左右の副駆動輪の回転差を制御できれば、例えば、旋回走行時の旋回内輪と旋回外輪との間に適正な回転差を与えることができる。それ故、上記前後輪駆動装置によれば、旋回走行時における上記4輪自動車の走行安定性を高めることができる。
【0013】
第3の発明は、第2の発明の前後輪駆動装置の制御方法であって、上記前後輪駆動装置を搭載する上記4輪駆動車が発進する際に、上記クラッチ機構を係合させて上記副原動機の出力軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸とを直結すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にした状態で上記副原動機のモータ軸を回転駆動することを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法にある(請求項10)。
【0014】
上記第3の発明の前後輪駆動装置の制御方法では、上記4輪駆動車が発進する際に、上記クラッチ機構を係合させた状態で上記副原動機のモータ軸を回転駆動する。これにより、上記副原動機の回転トルクを、上記副駆動輪の駆動力として伝達できる。さらに、上記の前後輪駆動装置の制御方法では、上記ブレーキ機構を開放することで上記一方の第2要素の回転を自由にしている。それ故、上記等配分デファレンシャルを介して上記遊星歯車機構組の各第3要素に連結されたドライブシャフトが、それぞれ自由に回転できる。そのため、上記4輪駆動車が旋回しながら発進する走行状況において、左右の副駆動輪間に生じる回転差を適切に吸収できる。
【0015】
なお、上記4輪駆動車の発進時とは、4輪駆動車の停止状態から所定の車両速度に到達するまでの時間区間であって、かつ、ある一定以上の加速度で車両速度が増大していくような走行状況をいう。ここで、上記所定の車両速度及び、上記一定の加速度としては、上記主原動機及び上記副原動機の軸出力の大きさや、両者の軸出力のバランス等に応じて設定することができる。
【0016】
第4の発明は、第2の発明の前後輪駆動装置の制御方法であって、上記前後輪駆動装置を搭載する上記4輪駆動車は、制動時に各車輪の回転を個別に制御するアンチスキッド装置を有してなり、該アンチスキッド装置が動作した際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にすることを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法にある(請求項11)。
【0017】
上記第4の発明の前後輪駆動装置の制御方法は、制動時に各車輪の回転を個別に制御するよう構成されたアンチスキッド装置を装備した4輪駆動車に関するものである。そして、この前後輪駆動装置の制御方法は、上記アンチスキッド装置が動作した際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断する。そのため、上記副原動機から上記等同配分デファレンシャルを介して上記副駆動輪に伝達される駆動トルクをゼロにできる。
【0018】
さらに、上記前後輪駆動装置の制御方法では、上記アンチスキッド装置が動作した際に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にしている。これにより、上記副駆動輪のドライブシャフトにそれぞれ連結された上記等配分デファレンシャルの各出力軸が、それぞれ自由に回転できる。そのため、上記アンチスキッド装置は、上記前後輪駆動装置による制御との干渉を生じるおそれなく上記各副駆動輪をそれぞれ、自在に制御することができる。
【0019】
第5の発明は、第2の発明の前後輪駆動装置の制御方法であって、上記前後輪駆動装置を搭載する上記4輪駆動車が旋回走行する際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を係合して上記一方の第2要素の回転を停止しながら、上記差動モータのモータ軸を回転駆動することを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法にある(請求項12)。
【0020】
上記第5の発明の前後輪駆動装置の制御方法では、上記自動車が旋回走行する際に、上記クラッチ機構を開放する。これにより、上記副原動機から上記副駆動輪に向けて伝達されるトルクをゼロにする。また、上記ブレーキ機構を係合して上記一方の第2要素の回転をロックすると共に上記差動モータを駆動している。これにより、該差動モータの回転を他方の第2要素に伝達することで、左右の副駆動輪に積極的に回転差を生じさせることができる。そしてそれ故、上記4輪自動車の旋回走行時に、内外輪の回転差を積極的に生じさせて旋回走行性を高めることができる。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
[0035]
【図面の簡単な説明】
【0035】
[0106]
【図1】実施例1における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図2】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図3】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図4】実施例1における、前後輪駆動装置の制御系統を示すシステム図。
【図5】実施例1における、発進時における前後輪駆動装置の動作を説明する説明図。
【図6】実施例1における、発進時における前後輪駆動装置での伝達トルクのフローを説明する説明図。
【図7】実施例1における、旋回走行時における前後輪駆動装置の動作を説明する説明図。
【図8】実施例1における、旋回走行時における前後輪駆動装置での伝達トルクのフローを説明する説明図(A)。
【図9】実施例1における、旋回走行時における前後輪駆動装置での伝達トルクのフローを説明する説明図(B)。
【図10】実施例1にける、前後輪駆動装置の作用を説明する説明図。
【図11】実施例1における、アンチスキッド装置が動作した際の前後輪駆動装置の動作を説明する説明図。
【図12】実施例1における、その他の差動装置の構成を示すブロック図。
【図13】実施例1における、その他の差動装置の構成を示すブロック図。
【図14】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図15】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図16】実施例1における、遊星歯車機構組の構成を示す構成図。
【図17】実施例2における、遊星歯車機構組の第1の構成を示す構成図。
【図18】実施例2における、遊星歯車機構組の第2の構成を示す構成図。
【図19】実施例2における、遊星歯車機構の第3の構成を示す構成図。
【図20】実施例2における、遊星歯車機構の第4の構成を示す構成図。
【図21】実施例3における、差動装置の構成を示すブロック図。
【図22】実施例4における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図23】実施例5における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図24】実施例5における、前後輪駆動装置の動作を説明する動作図(A:発信時。B:旋回時。C:アンチスキッド装置動作時。)。
【図25】実施例6における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図26】実施例6における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上記差動装置は、例えば、4輪自動車の前輪或は後輪の左右輪間の差動を実現するため等に適用することができる。
【0037】
また、上記差動装置は、1軸の入力軸と、上記2つの出力要素としての2軸の出力軸を含む等配分デファレンシャルを有してなり、
一方の上記遊星歯車機構の上記第3要素が、上記等配分デファレンシャルの上記入力軸又は上記2軸の出力軸の一方に直接的に連結されていると共に、他方の上記遊星歯車機構の上記第3要素が、上記2軸の出力軸の他方に直接的に連結されている。
【0038】
この場合には、上記クラッチ機構を係合すれば、上記差動モータから上記等配分デファレンシャルの上記入力軸に伝達された回転トルクを、上記各出力軸にそれぞれ伝達できる。さらに、上記クラッチ機構を開放(切断)すれば、上記入力軸から上記各出力軸に伝達される回転トルクをゼロとすることができる。また、上記ブレーキ機構を開放すれば、上記各出力軸それぞれの回転を自由に設定できる。
なお、この差動装置は、2輪駆動の4輪自動車の駆動輪や、4輪駆動の4輪自動車の主駆動輪或いは副駆動輪に適用することができる。
【0039】
【0040】
また、上記各遊星歯車機構は、同一の仕様のものであることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記遊星歯車機構組を構成する上記各遊星歯車機構について、構成部品を共通化できる。なお、上記歯車仕様とは、上記遊星歯車機構の歯数、径、歯ピッチ等の仕様をいう。
【0041】
また、上記第2要素は上記リングギアであり、かつ、上記ブレーキ機構は、上記ハウジングに固定支持されていることが好ましい(請求項3)。
上記遊星歯車機構の外周側に配置される上記第2要素としての上記リングギアを、上記ハウジングに固定支持された上記ブレーキ機構によって制動させるように構成する場合には、上記遊星歯車機構組の外周側に上記ブレーキ機構を効率よく配置できる。
【0042】
また、上記第1要素は上記キャリアであることが好ましい(請求項4)。
上記各遊星歯車機構では、キャリアが、上記サンギアの周りを公転するプラネタリギアを保持している。それ故、上記キャリアを上記第1要素として構成する場合には、2個1組の遊星歯車機構よりなる遊星歯車機構組において、共通要素としての上記キャリアを効率よく構成することができる。
【0043】
また、上記等配分デファレンシャルは、ベベルギアを用いて構成されてなり、上記一方の第3要素が、上記等配分デファレンシャルの上記入力軸に連結してあり、かつ、上記他方の第3要素が上記等配分デファレンシャルの上記出力軸に連結してあることが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記ベベルギアを用いて構成された上記等配分デファレンシャルと、上記遊星歯車機構組とを組み合わせて上記差動装置を実現できる。
【0044】
また、上記等配分デファレンシャルは、ダブルピニオンギアを用いて構成されてなり、上記一方の第3要素が上記等配分デファレンシャルの上記2軸の出力軸の一方又は上記入力軸に連結してあり、上記他方の上記第3要素が上記等配分デファレンシャルの上記2軸の出力軸の他方と連結してあることが好ましい(請求項6)。
この場合には、上記ダブルピニオンギアを用いて構成された上記等配分デファレンシャルと、上記遊星歯車機構組とを組み合わせて上記差動装置を実現できる。
【0045】
また、上記原動機と上記クラッチ機構との間には、上記原動機のモータ軸の回転を減速する減速機を配設してあることが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記減速機を介して、上記副原動機の回転を上記等配分デファレンシャルの入力軸に伝達することで、上記差動装置の制御性を向上することができる。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
また、上記等配分デファレンシャルは、差動制限型のものであることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記主原動機から上記副原動機へ入力される逆入力トルクの大きさ自体を抑制できる。そのため、逆入力トルクに対する上記副原動機の許容トルク範囲を抑制して、この副原動機として小型のものを採用することができる。
【0050】
上記第5の発明においては、上記4輪駆動車は、制動時に各車輪の回転を個別に制御するアンチスキッド装置を有してなり、上記4輪駆動車が発進する際に、上記クラッチ機構を係合させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸とを直結すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にした状態で上記副原動機のモータ軸を回転駆動し、
上記アンチスキッド装置が動作した際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にすることが好ましい(請求項13)。
【0051】
この場合には、上記4輪駆動車が発進する際に、上記クラッチ機構を係合させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸とを直結すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にした状態で上記副原動機のモータ軸を回転駆動することにより、上記4輪駆動車が発進する際に、上記副駆動輪に駆動力を伝達して発進加速を補助することができる。
さらに、上記アンチスキッド装置が動作した際には、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にすることにより、上記副駆動輪の左右輪を回転自由に設定でき、上記アンチスキッド装置による制御との干渉を回避することができる。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【実施例】
【0068】
(実施例1)
本例は、差動装置1及びこの差動装置1を用いた4輪駆動用の前後輪駆動装置10に関する例である。この内容について図1〜図15を用いて説明する。
差動装置1は、図1に示すごとく、2つの出力要素(本例では、等配分デファレンシャル30の出力軸32L、32R。)間に回転差を発生させるものである。
この差動装置1は、サンギア23、該サンギア23の外周側に同軸配置されたリングギア22及び、該リングギア22とサンギア23とにギア係合するプラネタリギア24を保持するキャリア21の3つの歯車要素である選択構成要素を含む遊星歯車機構20を2個(20aと20b)組み合わせた遊星歯車機構組2と、該遊星歯車機構組2を収容するハウジング25と、一方の遊星歯車機構20bにおけるリングギア22、サンギア23及びキャリア21の各構成要素のうちのいずれかを回転させる差動モータ(本例では、副原動機40を兼用している。)と、他方の遊星歯車機構20aにおける上記各構成要素のうちのいずれかの回転を停止させるように構成したブレーキ機構251とを有してなる。
【0069】
遊星歯車機構組2では、サンギア23の歯数とリングギア22の歯数との比であるギア比が一致している。
そして、上記各選択構成要素のうちの第1要素であるキャリア21は、各遊星歯車機構20a、20bのキャリア21a、21bが相互に連結されている。
また、各選択構成要素のうちの第2要素であるリングギア22は、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aがブレーキ機構251により回転を停止可能なように構成されていると共に他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bが副原動機40のモータ軸に連結されている。
さらに、各選択構成要素のうちの第3要素であるサンギア23は、各遊星歯車機構20a、20bのサンギア23a、23bが、それぞれ、出力軸32L又は32Rと直接的又は間接的に連結されている。
以下に、この内容について詳しく説明する。
【0070】
さらに、本例の差動装置1は、図1に示すごとく、1軸の入力軸31と、出力要素としての2軸の出力軸32L、32Rを含むベベルギア式の等配分デファレンシャル30を有してなる。そして、一方のサンギア23bが、等配分デファレンシャル30の入力軸31に連結され、他方のサンギア23aが、出力軸32Lに連結されている。図1の前後輪駆動装置10では、等配分デファレンシャル30の各出力軸32L、32Rが、差動装置1の出力要素となっている。
【0071】
この差動装置1を利用した前後輪駆動装置10は、図1に示すごとく、4輪自動車100の前輪或は後輪の主駆動輪80L、80Rを駆動する主原動機8(以下、適宜車両エンジン8と記載。)と、副駆動輪50L、50Rを駆動する副原動機40とを備えたものである。
副駆動輪50L、50Rの各ドライブシャフト51L、51Rは、差動装置1における等配分デファレンシャル30の各出力軸32L、32Rに、それぞれ連結してある。また、副原動機40のモータ軸は、クラッチ機構41を介して等配分デファレンシャル30の入力軸31と連結してある。また、主駆動輪80L、80Rは、動力伝達ユニット82を介して車両エンジン8と連結してある。
【0072】
本例の遊星歯車機構組2は、図1に示すごとく、同一仕様の遊星歯車機構20a、20b(以下、適宜a、bを省略して記載する。)を組み合わせて構成されてなり、共通のハウジング25に一体的に収容されたものである。そして、各遊星歯車機構20は、内周に配置されたサンギア23と、キャリア21に回転可能なように保持されていると共にサンギア23の周りを公転する複数のプラネタリギア24と、さらに、その外周側に配置されたリングギア22とによる係合構造を有するものである。
【0073】
本例の遊星歯車機構組2では、同図に示すごとく、キャリア21を上記第1要素として構成してある。すなわち、各遊星歯車機構20の各プラネタリギア24が、共通のキャリア21に保持される構造を有する。
また、本例では、リングギア22を上記第2要素として構成してある。すなわち、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aが、ブレーキ機構251によって停止可能なように構成されており、かつ、他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bが、差動モータのモータ軸に連結されている。なお、本例では、差動モータと副原動機40とを共用してあるため、副原動機40のモータ軸をリングギア22bに連結してある。
【0074】
さらに、本例では、図1に示すごとく、サンギア23を上記第3要素として構成してある。そして、一方の遊星歯車機構20bのサンギア23bが、等配分デファレンシャル30の入力軸31に連結されており、他方の遊星歯車機構20aのサンギア23aが、等配分デファレンシャル30の一方の出力軸32L及び一方の駆動輪50Lのドライブシャフト51Lに連結されている。
【0075】
ここで、本例の遊星歯車機構組2の動作について、図1を用いて簡単に説明する。なお、各サンギア23の歯数を同数のZs、各リングギア22の歯数を同数のZrとする。ブレーキ機構251によって一方のリングギア22aを停止し、他方のリングギア22bに入力する回転数ωiをゼロに設定したとき、一方のサンギア23bを回転数ω1で回転させると、第1要素であるキャリア21の回転数がωc=Zs/(Zs+Zr)×ω1となる。このとき、他方のサンギア23aは、上記一方のサンギア23bと同じω1で回転する。
【0076】
また、ブレーキ機構251によって上記一方のリングギア22aを停止した状態で、回転数ω1のサンギア23aに対して、他方のサンギア23bをω2=ω1+Δωで回転させるためには、第1要素であるキャリア21をωc=Zs/(Zs+Zr)×ω1で回転させる必要がある。そして、このキャリア21の回転数を得るためには、他方のリングギア22bにωi=(−Zr)/Zs×Δωの回転を入力する必要がある。
【0077】
本例の等配分デファレンシャル30は、図1に示すごとく、ベベルギアを用いて構成されたものである。この等配分デファレンシャル30の入力軸31は、クラッチ機構33を介して、副原動機40のモータ軸に連結された減速機42に連結されている。すなわち、クラッチ機構33を断続することで、副原動機40から等配分デファレンシャル30への回転トルクの伝達を断続できるように構成してある。そして、等配分デファレンシャル30の右側の出力軸32Rは、右側の副駆動輪50Rに連結されたドライブシャフト51Rに連結されている。また、左側の出力軸32Lは、上記のごとく、一方の遊星歯車機構20aのサンギア23aと共に左側の副駆動輪50Lに連結されたドライブシャフト51Lに連結されている。
【0078】
なお、等配分デファレンシャル30としては、本例のベベルギアを用いて構成したものに代えて、図2及び図3に示すごとく、ダブルピニオンギアを用いて構成したものを適用することもできる。特に、ダブルピニオンを用いた等配分デファレンシャル30の場合には、図3に示すごとく、2軸の出力軸32L、32Rに、各遊星歯車機構20a、20bの第3要素であるサンギア23a、23bをそれぞれ連結することもできる。
また、上記クラッチ機構33としては、多板式クラッチや、単板式クラッチや、油圧式クラッチや、電磁式クラッチ等、さまざまな構造のクラッチを適用することができる。
【0079】
次に、本例の前後輪駆動装置10は、図4に示すごとく、制御ユニット6により制御されるように構成してある。なお、同図では、車両エンジン8及び主駆動輪80L、80R(図1)は、省略して示してある。この制御ユニット6は、車速センサ61、ステアリング舵角センサ62、ヨーレートセンサ63、加速度センサ64及びアンチスキッド装置71の動作信号を取り込むように構成してある。なお、各センサの信号は、制御ユニット6に直接的に入力しても良く、車両エンジン8(図1)を制御するためのエンジンECU等を介して間接的に入力することも良い。また、制御ユニット6は、副原動機モータ40、クラッチ機構33及びブレーキ機構251に向けて制御信号を出力するように構成してある。
なお、上記アンチスキッド装置71は、制動下における車両コントロール性を向上するため、4輪又は2輪自動車の各車輪の回転を個別に制御するように構成されたものである。
【0080】
車速センサ61は、4輪自動車100の走行速度を検出し、走行速度に応じた出力信号を生成するように構成してある。ステアリング舵角センサ62は、運転者による操舵ハンドルの操作量としてのステアリング舵角を検出し、このステアリング舵角に応じた出力信号を生成するように構成してある。ヨーレートセンサ63は、4輪自動車100に生じるヨー角(鉛直方向の軸回りの自転角)の角速度を検出し、そのヨー角の角速度に応じた出力信号を生成するように構成してある。さらに、加速度センサ64は、車両の横方向に作用する加速度を検出して、その加速度に応じた出力信号を生成するように構成してある。
【0081】
次に、本例の前後輪駆動装置10の制御方法について説明する。この前後輪駆動装置10は、4輪自動車100の発進時、旋回走行時及び、上記アンチスキッド装置71の動作時に所定の動作を行うように制御される。
まず、4輪自動車100の発進時における前後輪駆動装置10の制御について説明する。なお、制御ユニット6(図4)は、車速センサ61から取り込んだ車速値及びこの車速値を時間微分して得る加速度に応じて、4輪自動車100が発進時にあるか否かを判断するように構成してある。本例では、車速値が20km/h以内であって、かつ、加速度が0.05G(Gは、重力加速度。)以上であるときに発進時と判断した。
【0082】
そして、4輪自動車100が発進時にあると判断したときには、図5に示すごとく、ブレーキ機構251を開放してリングギア22aの回転を自由にすると共に、クラッチ機構33を係合させて副原動機40から等配分デファレンシャル30に向けて駆動トルクを伝達させる。これにより、図6の矢印線a、bに示すごとく、副原動機40の回転トルクが各副駆動輪50L、50Rに伝達され、各副駆動輪50L、50Rが、主駆動輪80L、80Rと同一方向に回転する4輪駆動の状態となる。なお、同図中にハッチングして示す矢印は、副原動機40のモータ軸の回転方向に対する各副駆動輪50L、50Rの回転方向を示してある。
【0083】
次に、旋回走行時における前後輪駆動装置10の制御について説明する。なお、制御ユニット6(図4)は、車速センサ61から取り込んだ車速値、ステアリング舵角センサ62から取り込んだステアリング舵角値及び、ヨーレートセンサ63から取り込んだヨーレートに応じて、4輪自動車100が旋回走行中であるか否かを判断するように構成してある。本例では、車速値が15km/h以上であって、かつ、ステアリング舵角が予め設定した所定値以上であり、かつ、ヨーレートが予め設定した所定値以上であるときに旋回走行中であると判断した。なお、ヨーレートセンサ63を省略して構成し、車速値とステアリング舵角値の組み合わせにより、旋回走行中であるか否かを判断することもできる。
【0084】
そして、4輪自動車100が旋回走行中であると判断したときには、図7に示すごとく、クラッチ機構33を開放すると共に、ブレーキ機構251を係合させる。この状態で、副原動機40によりリングギア22bを回転させれば、第3要素であるサンギア23a、23b間に積極的に回転差を生じさせることができる。本例では、一方のサンギア23aには、上記のごとく、左副駆動輪50Lのドライブシャフト51Lが直接的に連結されている。そして、他方のサンギア23bは、等配分デファレンシャル30の入力軸31と直接的に連結され、等配分デファレンシャル30を介在して右副駆動輪50Rのドライブシャフト51Rに連結されている。それ故、上記のごとく前後輪駆動装置1を制御すれば、図8(A)及び図9(B)の矢印線c、dに示すごとく、副駆動輪50L、50Rを逆方向に回転させるよう、回転トルクを伝達することができる。そして、副駆動輪50L、50R間に積極的に回転差を生じさせることにより、4輪自動車100の旋回走行を容易にできる。なお、図8(A)及び図9(B)には、副原動機40のモータ軸の逆向きの回転方向に対する各副駆動輪50L、50Rの回転方向を対比して示してある。
【0085】
なお、ここで、図10(前輪駆動車を例示。)に示すごとく、旋回走行時の制御と同様、クラッチ33を解放すると共にブレーキ機構251によりリングギア22aの回転を規制しながら、副原動機40に界磁電流のみを通電すれば、4輪自動車100の直進安定性を向上させることができる。すなわち、界磁電流が通電され、制動トルクを生じた副原動機40によれば、副駆動輪50L、50R間の差動を制限できる。そして、例えば、横風等の影響により4輪自動車100に発生するおそれがあるヨー(図中、符号e。)を抑制し、直進安定性を向上できる。さらに、例えば、ヨーレートセンサ63で計測したヨーレートのうち、操舵ハンドルの操作に関係なく生じたヨーレートに応じて、副原動機40を積極的に回転制御すれば、4輪自動車100の直進安定性をさらに向上することもできる。
【0086】
次に、アンチスキッド装置71(図4)が動作したときの前後輪駆動装置10の制御について説明する。なお、制御ユニット6は、アンチスキッド装置71から取り込んだ動作信号によって、アンチスキッド装置71が動作中であることを判断可能なように構成してある。そして、アンチスキッド装置71が動作中であるときには、該アンチスキッド装置71との相互干渉を防止するよう、前後輪駆動装置10による各副駆動輪50L、50Rの制御を停止する。具体的には、図11に示すごとく、ブレーキ機構251を開放すると共に、クラッチ機構33を開放する。これにより、前後輪駆動装置10において各副駆動輪50L、50Rに連結された出力軸32L、32Rの回転を自由に設定できる。
【0087】
以上のように、本例の前後輪駆動装置10は、4輪自動車100の発進時には、副駆動輪50L、50Rに駆動トルクを伝達する。また、旋回走行時には、副駆動輪50L、50R間に回転差、すなわち差動を積極的に与え、4輪自動車100の旋回走行をアシストすることができる。さらに、アンチスキッド装置71など、4輪自動車100の車輪を制御する他の装置等との干渉を避けるべく、アンチスキッド装置71などの作動時には、出力軸32L、32Rの回転を自由に設定する。それ故、本例の前後輪駆動装置10は、アンチスキッド装置71等、他の装置による制御と干渉を生じるおそれがない。
【0088】
なお、図12に示すごとく、本例の前後輪駆動装置10(図1)から減速機42、クラッチ機構33及び副原動機40を省略すると共に差動モータ45を追加して差動装置1を構成することもできる。この差動装置1によれば、差動モータ45から入力された回転数に応じて各出力軸32L、32R間に、積極的に回転差を生じさせることができる。
さらに、図12に示す前後輪駆動装置10から等配分デファレンシャルを省略して、図13に示すごとく、2輪駆動車の従動輪57L、57Rに回転差を付与する差動装置1を構成することもできる。この差動装置1の出力要素は、従動輪57L、57Rに連結されたシャフト571L、571Rである。そして、このシャフト571L、571Rに対しては、第3要素であるサンギア23a、23bがそれぞれ直結されている。この差動装置1によれば、差動モータ45から入力する回転に応じて従動輪57L、57R間に積極的に回転差を生じさせることができる。
【0089】
またさらに、図14に示すごとく、本例の前後輪駆動装置10に対して、遊星歯車機構組2専用の差動モータ45を、副原動機40とは別に設けることもできる。この場合には、副原動機40によって各副駆動輪50L、50Rを同方向に回転駆動しながら、副駆動輪50L、50Rの間に、差動モータ45から入力する回転数に応じた回転差を付与できる。そのため、発進しながらの旋回動作を積極的に補助することができ、前後輪駆動装置10の制御性をさらに向上することができる。
【0090】
さらには、図15に示すごとく、クラッチ機構及び副原動機を省略し、車両エンジン8により駆動されるプロペラシャフト310と等配分デファレンシャル30の入力軸31とをハイポイドギア等を介して連結した前後輪駆動装置10を構成することもできる。この前後輪駆動装置10によれば、差動モータ45の回転に応じて、車両エンジン8から伝達される駆動トルクを、各副駆動輪50L、50Rに適切にトルク配分できる。
【0091】
またさらに、図15に示す前後輪駆動装置10を、各車輪の空転を抑制するように構成されたトラクションコントロール装置を備えた車両に適用するのも良い。この場合には、左右の副駆動輪50L、50Rの空転が生じにくい。すなわち、主原動機8から差動モータ45へ入力されう逆入力トルクの大きさを抑制できる。そのため、この場合には、逆入力トルクに対する許容トルク範囲が小さい小型の差動モータ45を採用することが可能になる。同様に、上記等配分デファレンシャル30として差動制限機能を備えたリミテッドスリップデフを採用すれば、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0092】
(実施例2)
本例は、実施例1の前後輪駆動装置に基づいて、遊星歯車機構組2の構成を変更した例である。この内容について、図16〜図18を用いて説明する。
実施例1の遊星歯車機構組2(図1参照。)では、キャリア21を第1要素とし、リングギア22を第2要素とし、さらに、サンギア23を第3要素としている(図16に示す構成。)。この構成は、構造が比較的、単純であり、低コスト、コンパクトに実現できるという特徴がある。特に、この構成では、入力に対して出力が増速されるため、タイヤ径が小さい車両など、左右輪の回転数差が大きい場合に特に有効となる。
【0093】
実施例1の構成に代えて、図17には、リングギア22を第1要素とし、キャリア21を第2要素とし、サンギア23を第3要素とした構成を示している。この構成は、構造が単純であり、低コスト、コンパクトに実現し得る点で有利である。特に、この構成では、入力に対する出力の回転比である増速比を最も大きく確保することができる。
【0094】
また、図18には、サンギア23を第1要素とし、リングギア22を第2要素とし、キャリア21を第3要素とした構成を示している。この構成は、構造を単純にでき、低コストに実現し得る。そして、この構成は、入力に対して出力が減速されるため出力トルクを大きくでき、歯車の負荷を少なくできるので遊星歯車機構を小型化できるという大トルクタイプのバランス型という特徴を有している。
【0095】
また、図19には、リングギア22を第1要素とし、サンギア23を第2要素とし、キャリア21を第3要素とした構成を示している。この構成では、入力に対する出力の回転比である減速比を大きくできるため、出力に大トルクが要求される場合に有効である。
【0096】
図20は、サンギア23を第1要素とし、キャリア21を第2要素とし、リングギア22を第3要素とした構成を示している。この構成は、構造が若干複雑となるもののサンギア23を第3要素とする他の組み合わせよりも歯車の負荷を少なくでき、小型化できるという有利な点を有する。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。さらになお、上記のほかには、構造が複雑になるが、キャリアを第1要素として、サンギアを第2要素として、リングギアを第3要素とすることもできる。
(実施例3)
本例は、実施例1における図15に示した差動装置の他の適用例である。この内容について図21を用いて説明する。
本例の差動装置1は、2輪駆動の4輪自動車の主駆動輪60L、60Rに回転差を付与するためのものである。この差動装置1では、車両エンジン8により駆動されるプロペラシャフト310と等配分デファレンシャル30の入力軸31とがハイポイドギア等を介して連結されている。この差動装置1によれば、差動モータ45から入力する回転数に応じて、主駆動輪60L、60R間に、所望の回転差を付与することができる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1の図15に示す差動装置と同様である。
なおまた、本例の差動装置1は、上記のほか、4輪駆動の4輪自動車の主駆動輪或いは、副駆動輪の差動装置として利用できる。さらに、4輪駆動の4輪自動車の前後輪間に回転差を付与する差動装置として利用することもできる。
【0097】
(実施例4)
本例は、実施例1のその他の前後輪駆動装置(図15参照。)を基にして、図22に示すごとく、差動モータ45と減速機42との間にウォームギア機構253を配置した例である。
すなわち、同図に示すごとく、本例の前後輪駆動装置10では、差動モータ45から減速記42を介して遊星歯車機構組2及び等配分デファレンシャル30に至る回転伝達経路中に、ウォームギア機構253を配置してある。
【0098】
このウォームギア機構253は、略円筒部材の外周にら旋状のギア歯を形成したウォームギアと、略円盤部材の外周側面に斜めギア歯を形成したウォームホィールとがギア係合したものである。このウォームギア機構253は、ウォームギア側からウォームホィールに向けてのトルク伝達率が高く、逆方向のトルク伝達率が非常に低いという特性を有している。それ故、このウォームギア機構253では、ウォームホィール側から作用した逆方向の伝達トルクは、ウォームギアに伝達されにくい。
【0099】
本例の前後輪駆動装置10では、差動モータ45の回転トルクをウォームギア機構253を介して遊星歯車機構組2あるいは等配分デファレンシャル30に入力している。そのため、この前後輪駆動装置10では、左右の副駆動輪50L、50Rのいずれかが空転するような場合にも、主原動機8の過大トルクが差動モータ45に逆入力として伝達され難い。それ故、差動モータ45は、比較的小さなトルクでこの逆入力に抗することができる。したがって、本例の前後輪駆動装置10では、主原動機8が発生するトルクレンジに対して、差動モータ45が発生するべきトルクレンジを低く抑制することができる。すなわち、本例の前後輪駆動装置10では、差動モータ45として小型のものを採用することができる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0100】
(実施例5)
本例は、実施例1の前後輪駆動装置を基にして、差動装置1の構成を変更した例である。この内容について、図23及び図24を用いて説明する。
本例の差動装置1では、図23に示すごとく、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aの回転を規制してある。そして、他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bと、副原動機40の回転を減速する減速機42との間に、トルク伝達を断続するための差動クラッチ機構252を配設してある。なお、本例の差動装置1では、ハウジング25とリングギア22aとを間接的に係合させることで、リングギア22aの回転を規制してある。
【0101】
次に、本例の前後輪駆動装置10の制御方法について説明する。この前後輪駆動装置10は、4輪自動車100の発進時、旋回走行時及び、上記アンチスキッド装置71の動作時に所定の動作を行うように制御される。
4輪自動車100の発進時には、図24(A)に示すごとく、差動クラッチ機構252を開放すると共に、クラッチ機構33を係合させて副原動機40から等配分デファレンシャル30に向けて駆動トルクを伝達させる。そして、副原動機40の回転トルクを各副駆動輪50L、50Rに伝達させることにより、各副駆動輪50L、50Rが、主駆動輪80L、80R(図23)と同一方向に回転する4輪駆動の状態となる。すなわち、実施例1で説明した図6と同様のトルク伝達状態が実現される。
【0102】
4輪自動車100の旋回走行時には、図24(B)に示すごとく、クラッチ機構33を開放すると共に、差動クラッチ機構252を係合させる。この状態で、副原動機40によりリングギア22bを回転させれば、第3要素であるサンギア23a、23b間に積極的に回転差を生じさせることができる。本例では、一方のサンギア23aには、上記のごとく、左副駆動輪50Lのドライブシャフト51Lが直接的に連結されている。そして、他方のサンギア23bは、等配分デファレンシャル30の入力軸31と直接的に連結され、等配分デファレンシャル30を介在して右副駆動輪50Rのドライブシャフト51Rに連結されている。それ故、上記のごとく前後輪駆動装置1を制御すれば、副駆動輪50L、50Rを逆方向に回転させるよう、回転トルクを伝達することができる。そして、副駆動輪50L、50R間に積極的に回転差を生じさせることにより、4輪自動車100の旋回走行を容易にできる。すなわち、実施例1で説明した図8(A)及び図9(B)と同様のトルク伝達状態が実現される。
【0103】
アンチスキッド装置71(図4)が動作したときには、アンチスキッド装置71による制御との相互干渉を防止するよう、前後輪駆動装置10による各副駆動輪50L、50Rの制御を停止する。具体的には、図24(C)に示すごとく、差動クラッチ機構252を開放すると共に、クラッチ機構33を開放する。これにより、前後輪駆動装置10において各副駆動輪50L、50Rに連結された出力軸32L、32Rを回転自由な状態にできる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0104】
(実施例6)
本例は、実施例1のその他の前後輪駆動装置(図15参照。)を基にして、差動装置の構成を変更した例である。この内容について、図25及び図26を用いて説明する。
本例の差動装置1では、図25に示すごとく、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aの回転を規制してある。そして、他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bと、差動モータ45の回転を減速する減速機42との間に、差動クラッチ機構252を配設してある。
【0105】
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
さらになお、図26に示すごとく、差動モータ45と差動クラッチ機構252との間に、ウォームギア機構253を配置することもできる。逆方向のトルク伝達率が非常に低いウォームギア機構253によれば、副駆動輪50L、50Rのいずれかが空転した場合に主原動機8から差動モータ45に向けて伝達されるおそれのある過大な逆入力トルクを未然に回避することができる。
【符号の説明】
【0106】
[0107]
1 差動装置
10 前後輪駆動装置
2 遊星歯車機構組
20a、20b 遊星歯車機構
21 キャリア
22 リングギア
23 サンギア
24 プラネタリギア
25 ハウジング
251 ブレーキ機構
30 等配分デファレンシャル
31 入力軸
32L、32R 出力軸
33 クラッチ機構
40 副原動機
42 減速機
45 差動モータ
50L、50R 副駆動輪
51L、51R ドライブシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の駆動輪を駆動する原動機を備え、上記駆動輪の左右輪の各ドライブシャフトが、差動装置が有する等配分デファレンシャルの各出力軸にそれぞれ連結されている左右輪駆動装置であって、
上記差動装置は、1軸の入力軸と2軸の出力軸とを含む上記等配分デファレンシャルを有し、上記2軸の出力軸からなる2つの出力要素を備え、該2つの出力要素間に回転差を発生させるものであり、サンギア、該サンギアの外周側に同軸配置されたリングギア及び、該リングギアと上記サンギアとにギア係合するプラネタリギアを保持するキャリアの3つの歯車要素である選択構成要素を含む遊星歯車機構を2個、組み合わせた遊星歯車機構組と、該遊星歯車機構組を収容するハウジングと、一方の上記遊星歯車機構における上記各構成要素のうちのいずれかの回転を停止させるように構成したブレーキ機構と、他方の上記遊星歯車機構における上記各構成要素のうちのいずれかを回転させる差動モータとを有し、
上記遊星歯車機構組では、上記サンギアの歯数と上記リングギアの歯数との比であるギア比が、上記各遊星歯車機構について一致しており、かつ、
上記各選択構成要素のうちの第1要素が上記遊星歯車機構間で相互に連結され、
上記各選択構成要素のうちの第2要素のうち、一方が上記ブレーキ機構により回転を停止可能なように構成されていると共に他方が上記差動モータのモータ軸に連結され、
上記各選択構成要素のうちの第3要素のうち、一方が上記等配分デファレンシャルの上記入力軸又は上記2軸の出力軸の一方に直接的に連結されていると共に、他方が上記2軸の出力軸の他方に直接的に連結されており、
かつ、上記原動機のモータ軸は、クラッチ機構を介して、上記等配分デファレンシャルの入力軸と連結してあることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、上記各遊星歯車機構は、同一の歯車仕様のものであることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記第2要素は上記リングギアであり、かつ、上記ブレーキ機構は、上記ハウジングに固定支持されていることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記第1要素は上記キャリアであることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記等配分デファレンシャルは、ベベルギアを用いて構成されてなり、
上記差動装置では、上記一方の第3要素が、上記等配分デファレンシャルの上記入力軸に連結してあると共に、上記他方の第3要素が上記等配分デファレンシャルの上記出力軸に連結してあることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記等配分デファレンシャルは、ダブルピニオンギアを用いて構成されてなり、上記一方の第3要素が上記等配分デファレンシャルの上記2軸の出力軸の一方又は上記入力軸に連結してあり、上記他方の上記第3要素が上記等配分デファレンシャルの上記2軸の出力軸の他方と連結してあることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、上記原動機と上記クラッチ機構との間には、上記原動機のモータ軸の回転を減速する減速機を配設してあることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記等配分デファレンシャルは、差動制限型のものであることを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項9】
4輪駆動車の前輪或は後輪の主駆動輪を駆動する主原動機と、副駆動輪を駆動する副原動機とを備えた前後輪駆動装置であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の左右輪駆動装置を上記副駆動輪の駆動装置として用いると共に、上記左右輪駆動装置における上記原動機を上記副原動機として用いたことを特徴とする前後輪駆動装置。
【請求項10】
請求項9に記載の前後輪駆動装置の制御方法であって、上記前後輪駆動装置を搭載する上記4輪駆動車が発進する際に、上記クラッチ機構を係合させて上記副原動機の出力軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸とを直結すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にした状態で上記副原動機のモータ軸を回転駆動することを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法。
【請求項11】
請求項9に記載の前後輪駆動装置の制御方法であって、上記前後輪駆動装置を搭載する上記4輪駆動車は、制動時に各車輪の回転を個別に制御するアンチスキッド装置を有してなり、該アンチスキッド装置が動作した際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にすることを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法。
【請求項12】
請求項9に記載の前後輪駆動装置の制御方法であって、上記前後輪駆動装置を搭載する上記4輪駆動車が旋回走行する際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を係合して上記一方の第2要素の回転を停止しながら、上記差動モータのモータ軸を回転駆動することを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法。
【請求項13】
請求項12において、上記4輪駆動車は、制動時に各車輪の回転を個別に制御するアンチスキッド装置を有してなり、上記4輪駆動車が発進する際に、上記クラッチ機構を係合させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸とを直結すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にした状態で上記副原動機のモータ軸を回転駆動し、
上記アンチスキッド装置が動作した際に、上記クラッチ機構を開放させて上記副原動機のモータ軸と上記等配分デファレンシャルの上記入力軸との接続を切断すると共に、上記ブレーキ機構を開放して上記一方の第2要素の回転を自由にすることを特徴とする前後輪駆動装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−133110(P2011−133110A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25718(P2011−25718)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【分割の表示】特願2004−213357(P2004−213357)の分割
【原出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】