説明

成膜方法、成膜装置及び記憶媒体

【課題】バリヤ層や補助シード膜等の成膜プロセス条件を適切に選択して凹部の底部を削り取り、削り込み窪み部の底部の電気抵抗上昇の原因となる層を取り除きつつ側面や上面に薄膜を形成することが可能な成膜方法を提供する。
【解決手段】処理容器34内で金属ターゲット78をイオン化させて金属イオンを含む金属粒子を発生させ、載置台44上に載置した被処理体Wにバイアス電力により引き込んで表面に凹部5が形成されている被処理体の表面に薄膜を形成する成膜方法において、凹部の最下層の底部を削って削り込み窪み部12を形成しつつ凹部内の表面を含む被処理体の表面全体に第1の金属を含む薄膜よりなるバリヤ層10を形成するバリヤ層形成工程と、削り込み窪み部の底部を更に削って凹部内の表面を含む被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜14Aを形成する補助シード膜形成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体の表面に形成されている凹部の表面に効果的に金属膜等の薄膜を形成する成膜方法、成膜装置及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスを製造するには、半導体ウエハに成膜処理やパターンエッチング処理等の各種の処理を繰り返し行って所望のデバイスを製造するが、半導体デバイスの更なる高集積化及び高微細化の要請より、線幅やホール径が益々微細化されている。そして、配線材料や埋め込み材料としては、各種寸法の微細化により、より電気抵抗を小さくする必要から電気抵抗が非常に小さくて且つ安価である銅を用いる傾向にある(特許文献1)。そして、この配線材料や埋め込み材料として銅を用いる場合には、その下層との密着性等を考慮して、一般的にはタンタル金属(Ta)やタンタル窒化膜(TaN)等がバリヤ層として用いられる。
【0003】
このバリヤ層を形成するには、プラズマスパッタ装置内にてウエハ表面にまず、下地層としてタンタル窒化膜(以下、「TaN膜」とも称す)やタンタル膜(以下「Ta膜」とも称す)を形成し、次に、同じプラズマスパッタ装置内にてタンタル膜(下地層がTa膜の時には成膜条件を変える)を形成することによって、バリヤ層を形成するようになっている。そして、その後、このバリヤ層の表面に銅膜よりなる薄いシード膜を形成し、次にウエハ表面全体に銅メッキ処理を施すことにより、凹部内を埋め込むようになっている。
【0004】
ところで、下層の配線層と絶縁膜を挟んで積層される上層の配線層とを電気的に接続する場合には、上記下層の配線層上に上記絶縁層を形成した後に、この絶縁層にビアホールやスルーホールのような連通穴を形成してこの連通穴の底部に上記下層の配線層を露出させ、その後、この連通穴を上層の配線層の材料で埋め込むと同時に上層の配線層を堆積形成するようになっている。そして、上述したように微細化の要請により線幅やホール(穴)径も更に小さくなされていることから、上記した上下の配線層間の接続構造に関しても、その電気抵抗をより下げる工夫がなされており、その一例として、上記連通穴の底部を下層の配線層の厚さ方向に所定の深さまで削って、この連通穴を埋め込む埋め込み材料と下層の配線層との接触抵抗をより小さくするようにした構造が採用されている。このような構造をいわゆるパンチスルー構造と称し、この作成方法を、いわゆるパンチスループロセスと称している。
【0005】
上述したパンチスループロセスの一例を、図11及び図12を参照して説明する。図11は半導体ウエハ上に形成された連通穴を埋め込む前の状態を示す図であり、図11(A)は平面図、図11(B)は図11(A)中のA−A線矢視断面図、図11(C)は斜視図をそれぞれ示す。図12は連通穴の埋め込み工程を示す図である。
【0006】
この半導体ウエハWは例えばシリコン基板よりなり、このシリコン基板の表面に、例えば銅よりなる下層の配線層2及びシリコン酸化膜等よりなる絶縁層4が順次積層されている。そして、この絶縁層4の表面に凹部5が形成されている。この凹部5には、ここでは上層の配線層を形成するための所定の幅の配線溝、すなわちトレンチ6となっており、このトレンチ6の底部に部分的に、上記絶縁層4を貫通して下層の配線層2へ連通されたビアホールやスルーホールとなる連通穴8が形成されている。この連通穴8の直径L1は非常に小さくて例えば60〜200nm程度であり、凹部5、すなわちトレンチ6の幅L2は例えば60〜1000nm程度である。
【0007】
さて、上述したような連通穴8及びトレンチ6を埋め込むには、まず、図12(A)に示すように、トレンチ6内や連通穴8内の表面を含むウエハWの表面全体に、下地層との密着性の向上や銅の絶縁層8への拡散防止やマイグレーションの発生阻止等を目的として金属膜よりなるバリヤ層10を例えばプラズマスパッタ等により形成する。このバリヤ層10は、例えばタンタル窒化膜(TaN膜)とタンタル膜(Ta膜)との2層構造や、互いに成膜条件を異ならせて成膜したタンタル膜同士の2層構造が主として採用される。
【0008】
次に、図12(B)に示すように、例えば不活性ガスとしてArガスを用いたプラズマエッチングを施して、上記連通穴8の底部に形成したバリヤ層10を削り取り、更にその下地である下層の配線層2をエッチングし、これに所定の深さの削り込み窪み部12を形成する。
次に、図12(C)に示すように、例えばスパッタを施すことにより、上記削り込み窪み部12や連通穴8やトレンチ6の内面を含む全表面に電気メッキのシード層14を非常に薄く形成する。ここでは上記シード層14としては、例えば後工程で銅メッキを行うことから銅(Cu)膜を用いる。
【0009】
次に、図12(D)に示すように、上記シード層14を起点として電気メッキを施して、上記削り込み窪み部12、連通穴8及びトレンチ6を上層の配線層16の材料でそれぞれ埋め込む。この上層の配線層16の材料としては、上述のように例えば銅を用いる。
図12(E)に示すように、上面の不要な金属材料を研磨処理等によって削り取ることによって、下層の配線層2と電気的に接続された上層の配線層16を形成することになる。
尚、上述したように、トレンチ6の底部にスルーホールやビアホールのような連通穴8を有して、その断面が2段階で段部状になされた凹部5の形状が、いわゆるデュアルダマシン(Dual Damascene)構造と称される。
【0010】
【特許文献1】特開2000−77365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述したような従来の成膜方法において、図12(B)に示すようなプラズマエッチング工程では、例えば点P1に示すような角部においてはエッチングにより飛散するバリヤ層の粒子は特定の方向に絞られた角度範囲内で指向性を持って飛散する特性を有しており、この場合、線幅や溝幅がかなり広い場合には、特に問題は顕著にはならなかったが、前述したように溝幅等が100nm程度まで小さくなると、上記特定の方向に飛散する粒子が対向壁面に付着してここに堆積突起物18を形成する場合があった。このように堆積突起物18が発生すると、次の図12(C)に示すプラズマスパッタ工程において、スパッタ粒子の指向性が高いことから上記堆積突起物18の影となる部分が発生して、いわゆるシャドーイング現象が発生して、上記堆積突起物18の影部20にシード層14が付着しなくなる、といった問題があった。このようにシード層14の付着しない部分が発生すると、図12(D)に示すように、この部分に空洞、すなわちボイド22が発生して好ましくない。
【0012】
また図13は幅L2が種々異なる凹部5(トレンチ6)の態様を示す図であるが、半導体ウエハWの表面には、実際には、図13に示すように、幅L2が種々異なる凹部5が多種類存在しており、この場合、連通穴8(この直径L1は同じ)のアスペクト比は同じであってもトレンチ6のアスペクト比が異なると連通穴8の底部から上方を見通す角度θ1、θ2が図中に示すように異なる(θ1<θ2)ので、凹部の最下層である連通穴8の底部に堆積するバリヤ層10の厚さH1、H2がそれぞれ異なってしまう。このため、上記バリヤ層10の厚さH1、H2の相異に起因して、このバリヤ層を削り取って底部に形成される削り込み窪み部12の深さにバラツキが生じてしまって好ましくない、という問題があった。
【0013】
また図12(A)においてバリヤ層10を形成する際に、一部のTa金属は、バイアス電力に引き込まれて連通穴8の底部のCu下層配線層2中に深く打ち込まれてしまい、ここに削り込み窪み部12を形成しても電気抵抗が大きくなる原因となるTa・Cu混合物が残存し、この部分における接続電気抵抗を上昇させる原因となっていた。
【0014】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、バリヤ層やシード膜等の成膜時のプロセス条件を適切に選択することにより、凹部の最下層の底部のみを選択的に削り取りつつ凹部内の表面を含む被処理体の表面全域に薄膜を形成することができ、しかも凹部の幅に依存することなく同じ深さだけ底部を削り取って同じ深さの削り込み窪み部を形成することができ、更には削り込み窪み部の底部の電気抵抗上昇の原因となる例えばTa・Cu混合層を取り除きつつ凹部の側面や上面に薄膜を形成することが可能な成膜方法、成膜装置及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、プラズマスパッタ処理により金属膜を成膜する際に、バイアス電圧や金属ターゲットへの直流電力やプラズマ電力等のプロセス条件を適宜調整して金属粒子の中性原子と金属粒子イオンとの比率を制御することにより、半導体ウエハの表面を含むウエハ表面全域に金属膜を形成することができる、という知見を得ることにより本発明に至ったものである。
また本発明者等は、プラズマスパッタ処理時に、特にプロセス圧力を従来処理の場合よりも大きく設定することにより、イオンと比較して金属粒子の中性原子を多くでき、これによりウエハ表面の平坦面や側壁部分にはCu中性原子が優勢になってCu膜を積極的に堆積できる一方、深い窪み部の底部ではバイアス電力により奥まで引き込まれる金属イオンやガスイオンが優勢になって底部を更に削り取ることができる、という知見を得ることにより本発明に至ったものである。
【0016】
請求項1に係る発明は、不活性ガスをプラズマ化することにより形成されたプラズマにより真空引き可能になされた処理容器内で金属ターゲットをイオン化させて金属イオンを含む金属粒子を発生させ、該金属粒子を前記処理容器内の載置台上に載置した被処理体にバイアス電力により引き込んで表面に凹部が形成されている前記被処理体の表面に前記金属を含む薄膜を形成する成膜方法において、前記凹部の最下層の底部を削って削り込み窪み部を形成しつつ前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面全体に第1の金属を含む薄膜よりなるバリヤ層を形成するバリヤ層形成工程と、前記削り込み窪み部の底部を更に削って前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜を形成する補助シード膜形成工程と、を有することを特徴とする成膜方法である。
【0017】
この発明によれば、バリヤ層や補助シード膜等の成膜時のプロセス条件を適切に選択することにより、凹部の最下層の底部のみを選択的に削り取りつつ凹部内の表面を含む被処理体の表面全域に薄膜を形成することができ、しかも凹部の幅に依存することなく同じ深さだけ底部を削り取って同じ深さの削り込み窪み部を形成することができ、更には削り込み窪み部の底部の電気抵抗上昇の原因となる例えばTa・Cu混合層を取り除きつつ凹部の側面や上面に薄膜を形成することができる。
【0018】
この場合、例えば請求項2に規定するように、前記補助シード膜形成工程の後に、メッキ用の本シード膜を形成する本シード膜形成工程を行うようにしてもよい。
また例えば請求項3に規定するように、前記本シード膜形成工程の後に、前記第2の金属によるメッキを施すメッキ工程を行うようにしてもよい。
また例えば請求項4に規定するように、前記バリヤ層形成工程は、前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面全体に前記第1の金属の窒化膜よりなる下地膜を形成する下地膜形成ステップと、前記削り込み窪み部を形成しつつ少なくとも前記凹部内の側壁に前記第1の金属の単体よりなる主バリヤ膜を形成する主バリヤ膜形成ステップとを含む。
【0019】
また例えば請求項5に規定するように、前記第1の金属はTaよりなり、且つ前記第2の金属はCuよりなる。
また例えば請求項6に規定するように、前記バリヤ層形成工程は、前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面全体に前記第1の金属の窒化膜よりなる下地膜を形成する下地膜形成ステップと、前記削り込み窪み部を形成しつつ少なくとも前記凹部内の側壁に前記第1の金属の単体よりなる主バリヤ膜を形成する主バリヤ膜形成ステップと、第3の金属を含む補助バリヤ膜を形成する補助バリヤ膜形成ステップと、を含む。
また例えば請求項7に規定するように、前記補助バリヤ膜形成ステップの後に、前記第2の金属によるメッキを施すメッキ工程を行うようにしてもよい。
【0020】
また例えば請求項8に規定するように、前記第1の金属はTaよりなり、前記第2の金属はCuよりなり、且つ前記第3の金属はRuよりなる。
また例えば請求項9に規定するように、前記補助シード膜形成工程は、前記処理容器内の圧力を30〜90mTorrの範囲内に設定して行う。
また例えば請求項10に規定するように、前記補助シード膜形成工程は、前記バイアス電力を100〜250ワットの範囲内に設定して行う。
【0021】
また例えば請求項11に規定するように、前記補助シード膜形成工程は、前記プラズマを形成するための電力を0.5〜2キロワットの範囲内に設定して行う。
また例えば請求項12に規定するように、前記凹部には、ビアホールまたはスルーホールとなる連通穴が設けられて2段階の段部状になされている。
また例えば請求項13に規定するように、前記凹部はビアホールまたはスルーホールとなる連通穴である。
【0022】
請求項14に係る発明は、真空引き可能になされた処理容器と、表面に凹部の形成された被処理体を載置するための載置台と、前記処理容器内へ少なくとも不活性ガスを含む所定のガスを導入するガス導入手段と、プラズマ電力により前記処理容器内へプラズマを発生させるためのプラズマ発生源と、前記処理容器内に設けられて直流電力が印加されると共に、前記プラズマによりイオン化されるべき金属ターゲットと、前記載置台に対して所定のバイアス電力を供給するバイアス電源と、装置全体を制御する装置制御部と、を有する成膜装置において、前記装置制御部は、前記凹部内の前記削り込み窪み部の底部を更に削って前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜を形成するように制御することを特徴とする成膜装置である。
【0023】
請求項15に係る発明は、不活性ガスをプラズマ化することにより形成されたプラズマにより真空引き可能になされた処理容器内で金属ターゲットをイオン化させて金属イオンを含む金属粒子を発生させ、該金属粒子を前記処理容器内の載置台上に載置した被処理体にバイアス電力により引き込んで表面に凹部が形成されている前記被処理体の表面に前記金属を含む薄膜を形成する成膜装置を用いて薄膜を形成するに際して、前記凹部内の前記削り込み窪み部の底部を更に削って前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜を形成するように制御するコンピュータ用のプログラムを記憶する記憶媒体である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る成膜方法、成膜装置及び記憶媒体によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
バリヤ層や補助シード膜等の成膜時のプロセス条件を適切に選択することにより、凹部の最下層の底部のみを選択的に削り取りつつ凹部内の表面を含む被処理体の表面全域に薄膜を形成することができ、しかも凹部の幅に依存することなく同じ深さだけ底部を削り取って同じ深さの削り込み窪み部を形成することができ、更には削り込み窪み部の底部の電気抵抗上昇の原因となる例えばTa・Cu混合層を取り除きつつ凹部の側面や上面に薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明に係る成膜方法、成膜装置及び記憶媒体の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明に係る成膜装置の一例を示す断面図である。ここでは成膜装置としてICP(Inductively Coupled Plasma)型プラズマスパッタ装置を例にとって説明する。図示するように、この成膜装置32は、例えばアルミニウム等により筒体状に成形された処理容器34を有している。この処理容器34は接地され、この底部36には排気口38が設けられて、スロットルバルブ40を介して真空ポンプ42により真空引き可能になされている。
【0026】
この処理容器34内には、例えばアルミニウムよりなる円板状の載置台44が設けられると共に、この上面に静電チャック46が設置されており、この静電チャック46上に被処理体である半導体ウエハWを吸着して保持できるようになっている。尚、この静電チャック46には、図示しない吸着用の直流電圧が必要に応じて印加される。この載置台44は、この下面の中心部より下方へ延びる支柱48により支持されており、この支柱48の下部は、上記容器底部36を貫通している。そして、この支柱48は、図示しない昇降機構により上下移動可能になされており、上記載置台44自体を昇降できるようにしている。
【0027】
上記支柱48を囲むようにして伸縮可能になされた蛇腹状の金属ベローズ50が設けられており、この金属ベローズ50は、その上端が上記載置台44の下面に気密に接合され、また下端が上記底部36の上面に気密に接合されており、処理容器34内の気密性を維持しつつ上記載置台44の昇降移動を許容できるようになっている。この載置台44には、ウエハWを冷却する冷媒を流す冷媒循環路52が形成されており、この冷媒は支柱48内の図示しない流路を介して給排されている。
【0028】
また容器底部36には、これより上方に向けて例えば3本(図示例では2本のみ記す)の支持ピン54が起立させて設けられており、また、この支持ピン54に対応させて上記載置台44にピン挿通孔56が形成されている。従って、上記載置台44を降下させた際に、上記ピン挿通孔56を貫通した支持ピン54の上端部でウエハWを受けて、このウエハWを外部より侵入する図示しない搬送アームとの間で移載ができるようになっている。このため、処理容器34の下部側壁には、上記搬送アームを侵入させるために開閉可能になされたゲートバルブ58が設けられている。
【0029】
またこの載置台44に設けた上記静電チャック46には、配線60を介して例えば13.56MHz高周波を発生する高周波電源よりなるバイアス電源62が接続されており、上記載置台44に対して所定のバイアス電力を印加できるようになっている。またこのバイアス電源62はその出力されるバイアス電力を必要に応じて制御できるようになっている。
【0030】
一方、上記処理容器34の天井部には、例えば窒化アルミニウム等の誘電体よりなる高周波に対して透過性のある透過板64がOリング等のシール部材66を介して気密に設けられている。そして、この透過板64の処理容器34内の処理空間68に例えばプラズマガスとしてのArガスをプラズマ化してプラズマを発生するためのプラズマ発生源70が設けられる。尚、このプラズマガスとして、Arに代えて他の不活性ガス、例えばHe、Ne等を用いてもよい。具体的には、上記プラズマ発生源70は、上記透過板64に対応させて設けた誘導コイル部72を有しており、この誘導コイル部72には、プラズマ発生用の例えば13.56MHzの高周波電源74が接続されて、上記透過板64を介して処理空間68に高周波を導入できるようになっている。ここで、この高周波電源74より出力されるプラズマ電力も必要に応じて制御できるようになっている。
【0031】
また上記透過板64の直下には、導入される高周波を拡散させる例えばアルミニウムよりなるバッフルプレート76が設けられる。そして、このバッフルプレート76の下部には、上記処理空間68の上部側方を囲むようにして例えば断面が内側に向けて傾斜されて環状(截頭円錐殻状)になされた金属ターゲット78が設けられており、この金属ターゲット78には可変直流電源80が接続されている。従って、この可変直流電源80から出力される直流電力も必要に応じて制御できるようになっている。ここでは金属ターゲット78として例えばTa膜やTaN膜を成膜する時にはタンタル金属が用いられ、Cu膜を成膜する時には銅が用いられる。これら金属はプラズマ中のArイオンにより金属原子、或いは金属原子団としてスパッタされると共に、プラズマ中を通過する際に多くはイオン化される。
【0032】
またこの金属ターゲット78の下部には、上記処理空間68を囲むようにして例えばアルミニウムよりなる円筒状の保護カバー82が設けられており、この保護カバー82は接地されると共に、この下部は内側へ屈曲されて上記載置台44の側部近傍に位置されている。また処理容器34の底部には、この処理容器34内へ必要とされる所定のガスを導入するガス導入手段として例えばガス導入口84が設けられる。このガス導入口84からは、プラズマガスとして例えばArガスや他の必要なガス例えばN ガス等が、ガス流量制御器、バルブ等よりなるガス制御部86を通して供給される。
【0033】
ここで成膜装置32の各構成部は、例えばコンピュータ等よりなる装置制御部88に接続されて制御される構成となっている。具体的には装置制御部88は、バイアス電源62、プラズマ発生用の高周波電源74、可変直流電源80、ガス制御部86、スロットルバルブ40、真空ポンプ42等の動作を制御し、本発明の金属膜等の薄膜を成膜する時に次のように動作する。
まず装置制御部88の支配下で、真空ポンプ42を動作させることにより真空にされた処理容器34内に、ガス制御部86を動作させつつArガスを流し、スロットルバルブ40を制御して処理容器34内を所定の真空度に維持する。その後、可変直流電源80を介して直流電力を金属ターゲット78に印加し、更に高周波電源74を介して誘導コイル部72に高周波電力(プラズマ電力)を印加する。
【0034】
一方、装置制御部88はバイアス電源62にも指令を出し、載置台44に対して所定のバイアス電力を印加する。このように制御された処理容器34内においては、金属ターゲット78、誘導コイル部72に印加された電力によりアルゴンプラズマが形成されてアルゴンイオンが生成され、これらイオンは金属ターゲット78に衝突し、この金属ターゲット78がスパッタされて金属粒子が放出される。
また、スパッタされた金属ターゲット78からの金属粒子である金属原子、金属原子団はプラズマ中を通る際に多くはイオン化される。ここで金属粒子は、イオン化された金属イオンと電気的に中性な中性金属原子とが混在する状態となって下方向へ飛散して行く。そして、特に金属イオンは、載置台44に印加されたバイアス電力に引きつけられ、ウエハWに対し指向性の高い金属イオンとして載置台44上のウエハWに堆積する。
【0035】
後述するように、装置制御部88は、例えばバイアス電源62に大きな出力を出す指令を与えることによりプラズマ中のArイオンにおいても載置台44側に引きつけることが可能となり、成膜とスパッタエッチングの両方が同時に起きることが達成される。ここで装置各構成部の制御は、装置制御部88により、所定の条件で金属膜の成膜が行われるように作成されたプログラムに基づいて制御されるようになっている。この際、例えばフロッピーディスク(FD)やコンパクトディスク(CD)、フラッシュメモリー等の記憶媒体90に、各構成部の制御を行うための命令を含むプログラムを格納しておき、このプログラムに基づいて所定の条件で処理を行うように各構成部を制御させる。
【0036】
次に、以上のように構成された成膜装置32を用いて行われる本発明の成膜方法について説明する。
図2はスパッタエッチングの角度依存性を示すグラフ、図3はバイアス電力とウエハ上面の成膜量との関係を示すグラフ、図4は本発明方法の第1実施例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【0037】
まず本発明方法の第1の特徴は、一連の成膜処理の内の特定の工程において、プラズマによるスパッタ成膜により金属膜等の薄膜を形成する際に、バイアス電力、直流電力、プラズマ電力等を適切な大きさに制御することにより、金属イオンに対する引き込みによる成膜とプラズマガス(Arイオン)によるスパッタエッチングとが同時に生ずるようにし、しかも、凹部の最下層の底部が削り取られるような状態に設定し、半導体ウエハに形成されている凹部の最下層の底部を削り取って削り込み窪み部を形成しつつ表面に金属膜を堆積させるようにした点である。具体的には、この時のバイアス電力は、金属ターゲット78に対する対向面、すなわち図1においてはウエハの上面に関して、金属イオンに対する引き込みによる成膜レートとプラズマガス(Ar )によるスパッタエッチングのエッチングレートとが略均衡するような大きさに設定される。
【0038】
また本発明の第2の特徴は、プラズマによるスパッタ成膜により金属膜を形成する際に、特に処理容器内の圧力(プロセス圧力)を従来方法の場合よりもかなり高くしてイオンの発生量よりも金属粒子の中性金属原子の発生量を多くし、これにより、ウエハ表面や側壁部分には中性金属原子が優勢になって金属膜を積極的に堆積させる一方、深い窪み部の底部ではバイアス電力により奥まで引き込まれる金属イオンやガスイオンが優勢になって底部の例えばTa・Cu混合層を更に削り取るようにした点である。
【0039】
以上の点について更に詳しく説明する。
まず、成膜量を考慮しないでプラズマガスによるスパッタエッチングのエッチングレートについてその特性を検討すると、スパッタ面の角度とエッチングレートとの関係は図2に示すグラフのようになる。ここでスパッタ面の角度とは、スパッタ面の法線がスパッタガス(Arイオン:Ar )の入射方向(図1中では下向き方向)となす角度を指し、例えばウエハ上面及び凹部5(図12参照)の底部は共に”0度”であり、凹部側壁は”90度”である。
【0040】
このグラフから明らかなように、ウエハ上面(スパッタ面の角度=0度)はある程度スパッタエッチングが行われ、凹部の側壁(スパッタ面の角度=90度)はほとんどスパッタエッチングが行われず、また凹部の開口の角部(スパッタ面の角度=40〜80度近傍)はかなり激しくスパッタエッチングされることが判る。
【0041】
さて、図1に示すようなICP型スパッタ装置よりなる成膜装置では、ウエハW側に印加するバイアス電力とウエハ上面(凹部の側壁ではない)に堆積する成膜量との関係は図3に示すような関係となる。すなわち、一定のプラズマ電力及び金属ターゲット78への一定の直流電力を加えている状況において、バイアス電力がそれ程大きくない場合には、金属イオンの引き込み及び中性金属原子によって高い成膜量が得られるが、バイアス電力が増加すると、ウエハ表面がバイアス電力により加速されたプラズマガスであるアルゴンイオンによりスパッタされる傾向が次第に強くなり(図2参照)、この結果、折角、堆積した金属膜がエッチングされてしまう。
【0042】
このエッチングは当然のこととしてバイアス電力が大きくなる程、激しくなる。従って、引き込まれる金属イオン及び中性金属原子による成膜レートとプラズマガスのイオンによるスパッタエッチングのエッチングレートとが同一になると、成膜とエッチングとが相殺されて、ウエハ上面の成膜量が”ゼロ”になり、この時の条件は図3中の点X1(バイアス電力:350W)に対応する。尚、図3中のバイアス電力や成膜量は単に一例を示したに過ぎず、プラズマ電力や直流電力を制御することによって、上記特性曲線は図3中の一点鎖線にて示すように変動する。
【0043】
従来、この種のスパッタ装置で一般的に動作される条件は、領域A1の部分であり、バイアス電力をあまり大きくせずに、高い成膜量(成膜レート)を稼ぐことができる領域であった。すなわち成膜量は、バイアスが零の時とほとんど変わらず(不活性ガスのプラズマによるエッチングは発生せず)に、且つ引き込まれる金属イオンが最大となる領域であり、凹部の底部においてもある程度の成膜量が稼げる領域である。これに対して、ここでは主に引き込み金属イオン及び中性金属原子による成膜とプラズマガスによるスパッタエッチングとが同時に生ずる領域で行うようにしている。更に詳しくは、上述のようにウエハ上面において、引き込み金属イオン及び中性金属原子による成膜レートとプラズマガスによるスパッタエッチングのエッチングレートとが略均衡するような領域A2で行う。ここで”略均衡”とは、ウエハ上面の成膜量が”ゼロ”の場合のみならず、領域A1における成膜量と比較して3/10程度までの僅かな膜厚で成膜量が生ずる場合も含むものである。
【0044】
さて、以上のような現象を理解した上で、本発明方法について説明する。
まず、図1において載置台44を下方へ降下させた状態で処理容器34のゲートバルブ58を介して真空引き可能になされた処理容器34内へウエハWを搬入し、これを支持ピン54上に支持させる。そして、この状態で載置台44を上昇させると、この上面にウエハWが受け渡され、このウエハWが静電チャック46により載置台44の上面に吸着される。
【0045】
そして、載置台44上にウエハWを載置して吸着固定したならば、成膜処理を開始する。この時、ウエハWの上面には、図11(B)において説明した構造と同じ構造の凹部5(図4(A)参照)が予め搬入前に前工程で形成されている。すなわち、下層のCuよりなる配線層2上に絶縁層4が形成され、この絶縁層4に上記凹部5が形成されている。この凹部5は、溝状のトレンチ6(図11(A)参照)よりなり、この底部にビアホールやスルホールのような連通穴8が配線層2に届くように形成されており、凹部全体として2段階の段部状になされている。
【0046】
まず、金属ターゲット78としてここでは第1の金属としてタンタルが用いられており、処理容器34内を所定の圧力に真空引きした後に、プラズマ発生源70の誘導コイル部72にプラズマ電力を印加し、且つバイアス電源62より所定のバイアス電力を載置台44の静電チャック46に印加する。更に金属ターゲット78には可変直流電源80より所定の直流電力を印加して成膜を行う。まず最初に、図4(B)に示すように、バリヤ層形成工程の一部として下地膜10Aを形成する下地膜形成ステップを行う。ここでは、下地膜10AとしてTaN膜、すなわち第1の金属の窒化膜を形成するためにガス導入口84よりプラズマガスである例えばArガスの他に、窒化ガスとしてN ガスを処理容器34内に供給する。これにより、図4(B)に示すように、ウエハWの上面のみならず、凹部5内の側壁や底面にも略均一に下地膜10AとしてTaN膜を形成する。この時のバイアス電力は図3中の領域A1であって従来の一般的な成膜条件と同じであり、具体的には100W(ワット)程度である。
【0047】
上記のように下地膜10Aの形成が完了したならば、次に第1の金属の単体よりなる主バリヤ膜10BとしてTa膜を形成するために主バリヤ膜形成ステップを行い、これによりバリヤ層10を形成する。すなわち、この主バリヤ膜形成ステップでは、バイアス電力を増加して図3中の領域A2内に設定する。この第1実施例では上記主バリヤ膜形成ステップは、上記凹部5以外のウエハWの表面において上記金属粒子による成膜量と不活性ガスのプラズマによるエッチング量とが実質的に同じになるように条件設定された第1ステップと、上記凹部5以外のウエハWの表面において上記金属粒子による成膜量が不活性ガスのプラズマによるエッチング量よりも僅かに大きくなるように条件設定された第2ステップとにより構成してもよいし、或いは第2ステップだけにより構成してもよい。
【0048】
例えば第1と第2ステップとにより構成した場合には、第1ステップではウエハ上面の成膜量を”ゼロ”に設定するためにバイアス電力を図3中のポイントX1に設定する。この時のバイアス電力は、具体的には350Wである。尚、この時にガス導入口84からはN ガスの供給は停止してArガスのみを供給する。これにより、図4(C)に示すように、凹部5の最下層(連通穴8に相当)の底部が削り取られることによってCuよりなる配線層2の上面側が削られ、ここに削り込み窪み部12が形成される。
【0049】
上記したように膜がほとんど形成されない理由は次のように説明される。すなわち、上述のようにバイアス電力の大きさを図3中の領域A2、詳しくは、ポイントX1に設定することにより、ウエハの上面では引き込まれる金属イオンと中性金属原子とによる成膜レートとプラズマガス(Ar )によるスパッタエッチングのエッチングレートとが略均衡するので、結果的に金属膜の成膜量が略ゼロになるのに対して、凹部5の連通穴8の底部については、成膜レートよりもエッチングレートの方が大きくなるからであり、この結果、連通穴8の底部が削り込まれて行くことになる。上記した事項をウエハ単位面積について原子レベルで表記すると以下のようになる。
【0050】
<ウエハ上面>
ΣTa+ΣTa =ΣAr
<連通穴8の底部>
ΣTa <ΣAr
ここでTaは中性金属原子を示し、Ta は金属イオンを示し、これらは共に金属膜の成膜に寄与する。これに対して、Ar はArイオンであり、エッチングに寄与する。従って、ウエハ上面ではTaもTa も十分に到達し、またAr も十分に到達するので、結果的に成膜量は”ゼロ”になる。
これに対して、連通穴8の底部には、この穴径が非常に小さいことから、指向性の高いTa とAr は到達するが、指向性の劣る中性金属原子であるTaは到達し難くなっている。この結果、成膜に寄与するTaが到達しない分だけ、連通穴8の底部は削り取られることになる。この時の削り取り量は第1ステップの処理時間を制御することによりコントロールする。尚、ここでは説明を簡単にするために、成膜されたTa、Ta の1個分は、それぞれAr 1個の衝突により成膜された面より飛び出る(エッチングされる)と想定している。
【0051】
この第1ステップが終了したならば、次に第2ステップへ移行する。この第2ステップではバイアス電力を、領域A2内のポイントX1以外の点、例えばA3に設定して、領域A1の場合の成膜レートと比較して遥かに少ない僅かな厚さの金属膜を形成する。この結果、連通穴8の底部を除くウエハ表面の全体、すなわち、凹部5内の表面や連通穴8の側面に主バリヤ膜10としてTa膜を成膜する。この場合にも、連通穴8の底部は、前述した理由により成膜レートよりもエッチングレートの方が大きいので、Ta膜が付着することなく更に削り取られて行くことになる。このため、削り込み窪み部12の窪み形状は更に大きくなる。すなわちウエハ上面において”ΣTa+ΣTa >ΣAr ”であり、連通穴8の底部において”ΣTa <ΣAr ”となる。また、この場合の底部のエッチングレートは、ウエハ上面に僅かに膜が堆積するように、成膜に寄与する金属粒子をスパッタイオンより多くなるように設定した分だけ、上記第1ステップの場合よりは少し小さくなる。
【0052】
このように、上記第1ステップにおいてウエハ表面における成膜量とスパッタエッチング量とが釣り合っているので、図4(C)のプロセス終了後においても図4(B)における下地膜10Aの厚みは変わらない。このため下地膜10Aとしては、削り込み窪み部12の穴の深さによらず、その厚みがウエハ表面において例えば3.5nm、連通穴8の底部において1.0nmとすることができ、10nm以下であり、より好ましい5nm以下の極薄に設定されている。
【0053】
一方、従来における成膜方法では、図12(A)においてバリヤ層10の厚みは、削り込み窪み部の穴の深さにより変わり、その深さを50nm程度とした場合、ウエハ表面において60nm位必要となる。これは図12(B)のArエッチングプロセスにて、ウエハ表面も同時にエッチングされるからである。さらにウエハ表面で60nmの下地膜が形成されていると、連通穴底部において10nm〜20nm程のかなり厚いバリヤ層が形成されるのは避けられず、これはエッチングプロセス(図12(B))初期においては、削り込み窪み部が形成されずバリヤ層のみがエッチングされることを示している。
【0054】
また本願においては上記第1及び第2ステップを通じて、ウエハ表面における成膜量が略ゼロになるよう条件設定されているので、図12(B)にて説明したように凹部の側面に堆積突起物18が生ずることはない。またここで形成される削り込み窪み部12の深さは、連通穴底部の下地膜が極薄であることから、凹部の幅L2(図13参照)に関係なくウエハ面内において略均一化することが出来る。
【0055】
ここで理想的には、上述したように、連通穴8の底部(削り込み窪み部12の底部)にはTa膜は付着しないが、実際には、上記第1及び第2ステップにおいてこの底部にも僅かなTa膜(主バリヤ膜)が付着することは避けることができない。すなわち、図5は主バリヤ膜の成膜時(図4(D)参照)の連通穴の底部(削り込み窪み部12の底部)を示す部分拡大図であり、連通穴5の側壁に付着する主バリヤ膜(Ta膜)10Bの厚さH1はかなり厚くなるが、この底部にも僅かな厚さH2ではあるが、主バリヤ膜10Bが付着してしまう。この厚さH2は例えば1nm程度である。
【0056】
更に好ましくないことに、この底部近傍においてはTa イオンがバイアス電力により引き込まれているために、Ta イオンがCu配線層2中に打ち込まれてしまい、ここに電気抵抗上昇の原因となるTa・Cu混合層100が形成されてしまう。この結果、この状態でCuシード膜を形成し、更にCuメッキを施した場合には、上記Ta・Cu混合層100や厚さH2のTa膜よりなる主バリヤ膜10Bによる影響を受けて、この部分における接続電気抵抗が増大してしまう、という不都合が生じてしまう。
【0057】
尚、ここでは第1及び第2ステップの両方を行った場合を示したが、第1ステップにおいてもウエハ表面や凹部5や連通穴8の側壁等にも非常に僅かにTa膜が堆積しTaN/Taバリヤ膜を形成するので、第1及び第2ステップの内のいずれか一方のみを行ってもよい。この場合にも、上記Ta・Cu混合層100や厚さH2のTa膜による電気抵抗の問題は生ずる。
そこで、本発明では、上記厚さH2のTa膜やTa・Cu混合層100の問題を除去するために、次に行う補助シード膜形成工程で、上記厚さH2のTa膜やTa・Cu混合層100を除去するようにしている。
すなわち、上述のように、TaN膜とTa膜の積層構造よりなるバリヤ層10を形成するバリヤ層形成工程が終了したならば、次に本発明の特徴とする補助シード膜形成工程へ移行する。
【0058】
まず、このウエハWを金属ターゲット78がタンタルでなく銅により形成された図1に示す構成と同じ構成の成膜装置内へ搬入し、図4(E)に示すように上記削り込み窪み部12の底部を更に削って凹部5内や連通穴8内の表面を含むウエハ表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜14Aを形成する。ここで第2の金属としてはCuを用い、上記補助シード膜14AはCu膜よりなる。ここでは、Cu膜よりなる補助シード膜14Aを形成する際に、削り込み窪み部12の底部を打ち抜いて更に削り取りつつ、ウエハの上面側は勿論のこと、この連通穴8や凹部5の側面にCu膜をそれぞれ堆積させ、しかも凹部5内の段部の角部102に悪影響を与えないようなプロセス条件を設定する。
【0059】
このようなプロセス条件としては、例えば従来方法でCu膜をプラズマスパッタリングで形成する場合には、プロセス圧力は例えば5mTorr程度に設定していたが、本発明の場合には、プロセス圧力をかなり高くして、例えば30〜90mTorrの範囲内に設定する。また、バイアス電力は、例えば100〜250ワット(0.32W/cm 〜0.8W/cm )の範囲内に設定する。
【0060】
更には、プラズマ発生源70におけるプラズマを形成するための電力、すなわち高周波電源74の電力は0.5〜2キロワットの範囲内に設定する。
前述したように、特にプロセス圧力を上述したような範囲に設定することにより、プラズマの濃度を高めると共に、ウエハ上面側においては主として膜付けの因子となる銅の中性金属原子の量を、エッチングの因子となるCu イオンとAr イオンの合計イオンよりも多くして中性金属原子が優勢となるような状態にし、且つ連通穴8の深い部分においては銅の中性金属原子をほとんどなくしてバイアス電力によって引き込まれるCu イオンやAr イオンを中性金属原子よりも多くしてこれらのイオンが優勢となるような状態にする。
【0061】
この結果、上述したように削り込み窪み部12の底部を更に下方へ削り取りつつ、それ以外の表面には薄くCu膜よりなる補助シード膜14Aを堆積することができる。ここで上述のように、削り込み窪み部12の底部は更に削り取られるので、ここに位置したTa・Cu混合層100を削り取って除去することができる。このような補助シード膜形成工程の処理は、プロセス圧力が異なる点を除いて、図3中の例えば領域A2が用いられることになる。またここで、CuとCu+イオンの付着力はTaのそれに比べて低いため、バイアス電力のA2領域(図3参照)では、Cu+イオンは堆積したCu膜に対しエッチングの因子として働らく。
【0062】
このようにして、補助シード膜形成工程が終了したならば、次に、本シード膜形成工程へ移行し、ここではプラズマ電力を図3中の領域A1に設定して従来方法と同様な条件に設定し、図4(F)に示すようにウエハ上面のみならず、凹部5内の側壁及び底部にも薄く銅よりなる本シード層14Bを形成する。これにより、補助シード膜14Aと本シード膜14Bの積層構造よりなるシード層14を形成することになる。
【0063】
尚、上記のような銅の金属ターゲットが装着された成膜装置は、先のタンタルの金属ターゲットが装着された成膜装置に真空引き可能になされたトランスファチャンバを介して連結すればよく、半導体ウエハWを大気に晒すことなく真空雰囲気中で両成膜装置間に亘って搬送することができる。
このようにして、シード層14を形成したならば、ウエハWを成膜装置より取り出して、これに通常のメッキ処理を施すことによりメッキ工程を行い、図4(G)に示すように凹部5内を銅よりなる配線層16の材料により完全に埋め込むことになる。
【0064】
次に、図4(H)に示すように、ウエハ上面の不要な部分を研磨により削り取り、上層の配線層16の形成を完了することになる。
このように、上記実施例においては、バリヤ層10や補助シード膜14A等の成膜時のプロセス条件を適切に選択することにより、凹部5の最下層の底部のみを選択的に削り取りつつ凹部5内の表面を含むウエハの表面全域に薄膜を形成することができ、しかも凹部5の幅に依存することなく同じ深さだけ底部を削り取って同じ深さの削り込み窪み部12を形成することができ、更には削り込み窪み部12の底部の電気抵抗上昇の原因となる例えばTa・Cu混合層100を取り除きつつ凹部5の側面や上面に薄膜を形成することができる。
【0065】
ここで上記バリヤ層形成工程(第1及び第2ステップ)の設定条件、すなわち図3中において領域A2内を実現できる設定条件は以下の通りである。
プラズマ電力:500〜6000W
直流電力 :100〜12000W
バイアス電力:100〜2000W
実際には、前述したように、上記3つの条件を適宜選択することにより、領域A2内に動作点を設定することになる。この場合、領域A2以外の部分に動作点を設定すると削り込み窪み部12が十分に形成されないので、いわゆるパンチスルー構造を形成することができなくなってしまう。
また、他のプロセス条件として、Arガスの流量は50〜1000sccm程度の範囲内、プロセス圧力は0.001Torr(0.1Pa)〜0.1Torr(13.3Pa)程度の範囲内である。
【0066】
また上記バリヤ層形成工程では、下地膜10AとしてTaN膜を形成した場合を例にとって説明したが、これに代えて、下地膜10AとしてTa膜を形成するようにしてもよい。この場合には、下地膜10AとなるTa膜上にTa膜10Bが形成されるので、成膜条件の異なるTa膜同士の2層構造で、バリヤ層10が形成されることになる。
【0067】
ここで、本発明方法と従来方法により形成した削り込み窪み部12について評価を行った結果、従来方法により形成した場合には、凹部5の上端開口部に堆積突起物が形成されて好ましくなかったが、本発明方法の場合には、堆積突起物18は生じておらず、良好な状態で削り込み窪み部12を形成できることが確認できた。
【0068】
次に、凹部5の底部に形成される削り込み窪み部12のアスペクト比の依存性について評価を行ったので、その評価結果について説明する。
図6は凹部のアスペクト比と底部の銅エッチングレートとの関係を示すグラフである。ここでは凹部は2段階の段部状ではなく1段の凹部として形成されたものを用いた。図6において、特性Aは従来方法の場合を示し、特性Bは本発明方法の場合を示している。
【0069】
具体的には従来方法においては、種々のアスペクト比を持つ凹部に対し、ウエハ表面にて略60nmのバリヤ層をプラズマスパッタし、その後所定時間Arエッチングを施した。この時形成される削り込み窪み部の深さを測定し、銅のエッチングレートとした。また本発明方法においては、種々のアスペクト比を持つ凹部に対し、ウエハ表面にて略4nmの下地膜をプラズマスパッタし、その後、上記従来方法と同じ所定時間だけ第1ステップを施した。さらにこの時形成される削り込み窪み部の深さを測定し、銅のエッチングレートとした。
【0070】
図6から明らかなように、特性A、Bのいずれにおいてもアスペクト比が小さい時には、アスペクト比が大きい場合に較べて凹部底部への成膜量が増えることから銅のエッチングレートが減少する。また、特性Aに示す従来方法の場合は、アスペクト比が増加するに従って銅のエッチングレートが変化しており、従って、アスペクト比の相異によって削り込み窪み部12の深さが変化することを意味し、好ましくないことが判る。これに対して、特性Bに示す本発明方法の場合には、アスペクト比が2以下では銅のエッチングレートが大きく変化しているが、アスペクト比2以上では銅のエッチングレートは略一定になっているのが判る。
【0071】
ここで一般的な凹部5では、アスペクト比は2以上が多いので、従って、本発明方法によれば、アスペクト比に関係なく、削り込み窪み部12の深さを略均一化でき、良好な結果を得られることが確認できた。このように、削り込み窪み部12の深さは、凹部5の形状による影響を受けないので、凹部の幅に依存することなく、常に同じ深さの削り込み窪み部を形成することができる。
【0072】
次に、図4(E)に示す補助シード膜形成工程のプロセス条件について評価を行う。
まず、図4(D)に示す工程で削り込み窪み部12の底部に生じた厚さH2のTa膜10Bや電気抵抗の大きなTa・Cu混合層100を取り除くためには、一般的には比較的低いプロセス圧力、例えば5mTorr程度の圧力下にてArガスによるプラズマスパッタを行って上記Ta・Cu混合層100等を取り除くことが考えられる。しかし、この場合には、上記削り込み窪み部12における厚さH2のTa膜10BやTa・Cu混合層100を取り除くことができるが、これと同時に、ウエハ表面の全体、特に、凹部5の段部の角部(102:図4参照)等にArガスのスパッタにより大きなダメージを与えてしまうので好ましくない。
【0073】
そこで、本発明では、図3中の領域A2の部分を利用して、金属ターゲットを用いて削り込み窪み部12の底部を更に下方向へ削り取ってTa・Cu混合層100を除去しつつ、その他のウエハ面には金属膜を僅かに堆積するようにするが、この場合、次工程でCu膜よりなる本シード膜14B(図4(F)参照)を付着させるので、ここでは金属ターゲットとしてこの本シード膜14Bと同じ材料であるCuを用いることとし、これによって結果的にCu膜よりなる補助シード膜14Aが堆積されることになる。
【0074】
ここで、Cu金属ターゲットを用いて補助シード膜14Aを堆積しつつ削り込み窪み部12を更に深く削り取る場合、上述のようにプロセス圧力を低く設定すると原子やイオンの平均自由工程が大きくなってウエハ表面への衝突回数が増加してダメージが増加してしまう。従って、プロセス圧力を或る程度以上高くして、具体的には、本発明ではプロセス圧力を30〜90mTorrの範囲内に設定し、イオンによるウエハ表面のダメージを抑制しつつ金属膜を堆積させ、これと同時に削り込み窪み部12の底部を更に深く削り取るようにしている。
【0075】
図7はこの時の状況の一部を示しており、プロセス圧力が低い時と高い時のCu金属粒子の動向を模式的に示す図である。ここでは、凹部に図1に示すような高周波を用いた成膜装置でCu金属ターゲットでスパッタする状況を示しており、図7(A)はプロセス圧力が低い場合、例えば5mTorr(従来方法)を示し、図7(B)はプロセス圧力が高い場合、例えば50mTorr(本発明方法)を示している。
【0076】
これによれば、図7(A)に示す従来方法の場合には、プロセス圧力が低いことからイオンや各原子の平均自由工程が長くなり、この結果、Cu イオンがウエハ表面に多数衝突して先に堆積していたTa膜等に多くのダメージを与える一方、堆積したCuが再び飛ばされてCu堆積量は少なくなる。これに対して、図7(B)に示す本発明方法の場合には、Cuの雲110が処理空間に発生してイオンや各原子の平均自由工程が短くなり、そして、Cu イオンでたたかれて堆積膜中から飛び出したCu金属原子が上記Cuの雲110で跳ね返されて、このCu金属原子が再びウエハ表面に堆積するように挙動する。この結果、この図7(B)に示す場合には、ウエハ表面へのCu堆積量は多くなる。従って、図7(B)に示すような状態において、バイアス電力をコントロールすることにより、中性金属原子を除いてCu イオンやAr イオンは下方向へ強く引き込まれて凹部の底部をスパッタして削り取ることになる。
【0077】
次に、補助シード膜形成工程におけるプラズマ電力についての評価を示す。
図8はこの評価結果を示し、プラズマ電力とバイアス電力とを種々変更した時のCu膜の成膜レートを示すグラフである。ここではプロセス圧力を50mTorrに一定に維持すると共に、金属ターゲットに供給する直流電力を3.2kWに維持した。そして、バイアス電力を0〜200ワット[W]の範囲で変更した。ここでプラズマ電力に関しては、図8(A)は4kW、図8(B)は3kW、図8(C)は2kW、図8(D)は1kWをそれぞれ示す。
図から明らかなように、プラズマ電力が3kW(図8(B))及び4kW(図8(A))の場合には、バイアス電力100W以上では成膜レートが”0”になっており、利用することができない。
【0078】
これに対して、プラズマ電力が2kW(図8(C))の場合には、バイアス電力が100Wを超えても僅かにCu膜が堆積しており、或る程度使用可能である。またプラズマ電力が1kW(図8(D))の場合には、バイアス電力が0〜200Wの範囲において、十分にCu膜が堆積しており、良好であることが確認できた。
また、グラフには記載されていないが、プラズマ電力が0.5kWの場合についても上記と同様な実験を行ったところ、十分に利用可能であることが判った。更に、プラズマ電力を0.5kWより小さく設定した場合には、プラズマを安定的に発生させることができなかった。従って、プラズマ電力は0.5〜2kWの範囲内に設定することが良好であることが確認できた。
【0079】
また補助シード膜形成工程におけるバイアス電力に関しては、実験の結果、100〜250Wの範囲が好ましく、バイアス電力が100Wよりも小さい場合には、イオンの引き込みが弱くなり過ぎてしまって、削り込み窪み部12の底部を更に削り取ることができず、また、バイアス電力が250Wよりも大きい場合には、ウエハ表面等に対するダメージが過度に大きくなり、またCu成膜量が小さくなりすぎるので好ましくない。
【0080】
次に、本発明方法の第2実施例について説明する。
図9は本発明方法の第2実施例の工程の一部を示す図である。本発明方法では先の図4に示す第1実施例における、図4(D)に示すTa膜よりなる主バリヤ膜10Bを形成する工程と、図4(E)に示す補助シード膜14Aを形成する工程との間に、図9(A)に示すように、第3の金属を含む補助バリヤ膜10Cを形成する補助バリヤ膜形成ステップを行う。ここで、第3の金属としては、例えばRu(ルテニウム)等を用いることができる。このRu膜よりなる補助バリヤ膜10Cを、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)等を用いて、凹部5や連通穴8等の内面を含んだ表面全体に形成する。この結果、バリヤ層10は、下地膜10Aと主バリヤ膜10Bと補助バリヤ膜10Cの3層構造となる。
【0081】
このように、Ru膜よりなる補助バリヤ膜10Cを形成した場合には、このRu膜が補助シード膜としても機能するので、この補助バリヤ膜10Cの形成後は、図4(E)に示す補助シード膜14Aを形成した後に、図4(F)に示す本シード膜10Bの形成工程を行うことなく直ちに図4(G)に示すメッキ工程に進むことができる。図9(B)はこの第2実施例の場合の最終的な断面形状を示しており、この場合、補助バリヤ膜10Cと補助シード膜14Aとでシード層14が形成されることになる。
またRu膜よりなる補助バリヤ膜10Cは、Cuに対するシード膜としても機能するので、Cu膜の補助シード膜14Aを設けることなく、上記Ru膜の補助バリヤ膜10C上に直接的にCuメッキを施すようにしてもよい。
【0082】
また、バリヤ層10を形成するTa膜やTaN膜を形成する際の方法は特に限定されず、例えばプラズマ電力等を短時間、例えば数秒間隔の供給と供給停止を繰り返し行って、薄膜を原子レベルの厚さで1層ずつ成膜する、いわゆるALD(Atomic Layer Deposition)法により成膜してもよい。
【0083】
<TaN膜の形成方法の変形例>
次に、バリヤ10の下地膜10AとなるTaN膜の形成方法の変形例について説明する。
周知のように、バリヤ層10に用いるTaN膜は、配線材料や埋め込み材料であるCuが層間絶縁膜である絶縁層4へ拡散することを防ぐものである。しかし、このTaN膜は金属窒化膜であるために、Cuと比べては勿論のこと、Ta膜に比べても比抵抗がかなり高い。従って、このTaN膜は、Cu配線が絶縁層4と接する部分では十分な厚さで存在することが必要であるが、ビアホール底、すなわち連通穴8の底部にある程度の厚さでもって存在すると、下層の配線層と接続されるビアホール底の部分のビア抵抗が上昇してCu配線の電気的特性を悪化させるのみならず、信頼性も低下させてしまう。この現象は、配線材料がCuの場合に限らず、他の金属材料、例えばタングステン等の場合にも生ずる。
【0084】
そこで、この変形例では、前述したパンチスループロセスとは別の方法で、ビアホールなどの連通穴8の底部のTaN膜を選択的に除去するようにしている。具体的には、TaN膜の成膜時に、連通穴(ビアホール)8の底部に堆積するTaN膜の厚みが、他の部分に堆積するTaN膜の膜厚と比較して極端に少なくなるようにプロセス条件を設定し、その後、Arエッチング等を行ってTaN膜を削り取ることによってこの連通穴8の底部に堆積した僅かな厚みのTaN膜を選択的に取り除くようにしている。
【0085】
換言すれば、原子や分子の平均自由行程が比較的長い低圧下において、金属ターゲットから放出された中性のTa原子や中性のN原子はウエハの垂直成分に対してある程度の角度を持って入射してくるため、ビアホール底である連通穴8の底部に到達する確率は非常に少なくなるが、トレンチ6の側壁やトレンチ6の底部、すなわち段部には十分に成膜させることができる。
【0086】
これに対して、電気を帯びているTaイオンは、電気的な力によって進行方向が垂直方向に傾くが、連通穴8の側壁に成膜させるにはある程度、垂直方向に傾いたTa原子やN原子も必要である。それ故に、中性のTa原子や中性のN原子とTaイオンとの比率を最適化することにより、TaN膜がトレンチ6の側壁、トレンチ6の底部(段部)及び連通穴8の側壁へは成膜しながら、連通穴8の底部には成膜し難い、という状態を創り出すことが必要である。
【0087】
上記したような状態を創り出すプロセス条件に関しては、バイアス電力がゼロであり(図3中の縦軸)、プロセス圧力が8mTorr以下、好ましくは5mTorr以下である。また、ICP電力であるプラズマ電力が、0.75〜1.5kWの範囲内、好ましくは0.8〜1.25kWの範囲内である。上述のようにして、TaN膜を形成したならば、後工程で、例えばArエッチングを施すことにより、全体のTaN膜のエッチングにより少しずつ取り除き、この場合、TaN膜が最も薄い連通穴8の底部のTaN膜が最初に完全に取り除かれるので、この時点でエッチングを終了することにより、連通穴8の底部のTaN膜のみを選択的に取り除くことが可能となる。
【0088】
次に、上記成膜工程を含む一連の流れについて図10を参照しつつ説明する。図10はTaN膜を含むバリヤ層の形成方法の変形例の一部を示す工程図である。
まず、図4(A)に示すように、表面にトレンチ6やビアホールのような連通穴8が形成されたウエハWに対して、図10(A)に示すように、図1に示すような成膜装置32を用いてTaN膜の成膜処理を行って下地膜10Aを形成する。この場合、ウエハWの最上の表面は勿論のこと、トレンチ6の側壁6Aや連通穴8の側壁8A及びトレンチ6の段部、すなわちトレンチの底部6Bへは成膜がそれぞれ十分に行われるが、連通穴8の底部8Bへは成膜が生じ難いようなプロセス条件に設定する。この結果、例えばウエハ最上面の膜厚H1を”100”とすると、トレンチ6の底部6Bの膜厚H2を”50”程度、連通穴8の底部8Bの膜厚H3を”20”程度のように膜厚差を作り出すことができる。
【0089】
上述したようなプロセス条件に関しては、前述したように、バイアス電力がゼロであり、プロセス圧力が8mTorr以下、好ましくは5mTorr以下である。またプラズマ電力が0.75〜1.5kWの範囲、好ましくは0.8〜1.25kWの範囲内である。このように、バイアス電力をゼロにしてエッチングがほとんど生じないような状態でTaN膜の成膜を行う。ここでバイアス電力をゼロに設定しているが、ウエハWにはプラズマによるシース電圧が例えば20〜30ボルト程度加わっており、これによりイオンがある程度、ウエハ側へ引き込まれている。
【0090】
ここで上記バイアス電力を加えると、Taイオンの引き込みが多くなり過ぎて、連通穴8の底部8Bに堆積する膜厚H3が大きくなり過ぎるので、好ましくない。また、プラズマ電力やプロセス圧力が大きくなると、中性元素に対するTaイオンの占める割合が多くなる。プラズマ電力を1.5kWより大きくすると、或いはプロセス圧力を8mTorrよりも大きくすると、Taイオンの占める割合が大きくなり過ぎてしまい、連通穴8の底部8Bに堆積するTaN膜の膜厚H3が大きくなって、膜厚H3と他の部分の膜厚H1、H2との差が少なくなり過ぎてしまい、好ましくない。
【0091】
また逆に、プラズマ電力を0.75kWより小さくすると、中性元素に対するTaイオンの占める割合が少なくなり過ぎ、本来、成膜すべきトレンチ6の底部6Bに対する成膜量が少なくなり過ぎ、好ましくない。尚、プロセス圧力は8mTorrよりベース圧(10−9Torr)近傍まで低下させても、上記したような特段の問題を生ずることはない。
【0092】
このように、TaN膜よりなる下地膜10Aを形成したならば、次に、図10(B)に示すように、Arスパッタを施すことにより、上記TaN膜よりなる下地膜10Aを薄く削り取る。この場合、全表面のTaN膜がArスパッタにより少しずつ削り取られて行くが、最も膜厚の薄い連通穴8の底部8Bの上に堆積している膜厚H3のTaN膜が最初に選択的に削り取られてなくなり、僅かにオーバエッチングして下層配線層2を少し削りとったところで、エッチング処理を終了する。このようにして、連通穴8の底部8Bの部分のTaN膜のみを完全に除去することができるので、この部分の抵抗、すなわちビア抵抗を小さくして電気特性を向上させることが可能となる。
【0093】
上述のように、Arスパッタ処理が完了したならば、例えば図10(C)に示すように、例えばCVD処理を行うことによって、トレンチ6や連通穴8の全表面に例えばRu膜よりなる補助バリヤ膜10Cを形成する。これは図9(A)に示す場合と同様な処理である。
これ以降は、図9(B)に示すように、シード膜14Aを成膜してCuメッキを施すようにしてもよいし、或いはこのRu膜よりなる補助バリヤ膜10Cはシード膜としても機能するので、この上に直接Cuメッキ処理を施すようにしてもよく、後工程の処理の種類は特に限定されない。
【0094】
また、ここでは図10(A)に示すTaN膜よりなる下地膜10Aを形成した後に、図10(B)に示すArスパッタ処理を行うようにしたが、これに限定されず、下地膜10Aを形成した後に、図4(D)に示すTa膜よりなる主バリヤ膜10Bの形成処理を行って、その後、図4(E)〜図4(H)にて説明した各処理を連続的に行うようにしてもよい。
いずれにしても、上記したTaN膜の形成方法を採用することにより、他の部分の膜厚と比較して、連通穴8の底部8Bの膜厚を非常に少なくすることができ、その結果、この部分のTaN膜のみを選択的に除去することができるので、例えばビア抵抗を抑制して電気特性を向上させることができる。
【0095】
尚、上記各実施例では、凹部5の一部に連通穴8が形成されて、いわゆる2段階の段部状に形成された凹部5を例にとって説明したが、これに限定されず、凹部5自体がスルホールやビアホールの連通穴8となっている、いわゆる1段階の凹部にも本発明を適用することができる。
また、上記各実施例における各数値は単に一例を示したに過ぎず、これらに限定されないのは勿論である。また上記実施例では、全体としてバリヤ膜/シード膜の積層構造としてTaN/Ta/Cu、Ta/Ta/Cuの積層構造を例にとって説明したが、この種の積層構造に限定されず、例えばTiN/Ti/Cu積層構造、TaN/Ru/Cu積層構造、Ti/Cu積層構造、更には、TiN/Ti/Ru、Ti/Ru、TaN/Ru、TaN/Ta/Ruの各積層構造についても本発明方法を適用できるのは勿論である。
【0096】
更に、各高周波電源の周波数も13.56MHzに限定されるものではなく、他の周波数、例えば27.0MHz等を用いることもできる。またプラズマ用の不活性ガスとしてはArガスに限定されず、他の不活性ガス、例えばHeやNe等を用いてもよい。
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、これに限定されず、LCD基板、ガラス基板、セラミックス基板等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る成膜装置の一例を示す断面図である。
【図2】パッタエッチングの角度依存性を示すグラフである。
【図3】バイアス電力とウエハ上面の成膜量との関係を示すグラフである。
【図4】本発明方法の第1実施例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図5】主バリヤ膜の成膜時の連通穴の底部(削り込み窪み部の底部)を示す部分拡大図である。
【図6】凹部のアスペクト比と底部の銅エッチングレートとの関係を示すグラフである。
【図7】プロセス圧力が低い時と高い時のCu金属粒子の動向を模式的に示す図である。
【図8】プラズマ電力とバイアス電力とを種々変更した時のCu膜の成膜レートを示すグラフである。
【図9】本発明方法の第2実施例の工程の一部を示す図である。
【図10】TaN膜を含むバリヤ層の形成方法の変形例の一部を示す工程図である。
【図11】半導体ウエハ上に形成された連通穴を埋め込む前の状態を示す図である。
【図12】連通穴の埋め込み工程を示す図である。
【図13】幅が種々異なる凹部(トレンチ)の態様を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
2 下層の配線層
4 絶縁層
5 凹部
6 トレンチ(配線溝)
8 連通穴
10 バリヤ層
10A 下地膜(TaN膜)
10B 主バリヤ膜(Ta膜)
10C 補助バリヤ膜
12 削り込み窪み部
14 シード層
14A 補助シード膜
14B 本シード膜
16 上層の配線層
32 成膜装置
34 処理容器
44 載置台
62 バイアス電源
70 プラズマ発生源
72 誘導コイル部
74 高周波電源
78 金属ターゲット
80 可変直流電源
84 ガス導入手段
88 装置制御部
W 半導体ウエハ(被処理体)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスをプラズマ化することにより形成されたプラズマにより真空引き可能になされた処理容器内で金属ターゲットをイオン化させて金属イオンを含む金属粒子を発生させ、該金属粒子を前記処理容器内の載置台上に載置した被処理体にバイアス電力により引き込んで表面に凹部が形成されている前記被処理体の表面に前記金属を含む薄膜を形成する成膜方法において、
前記凹部の最下層の底部を削って削り込み窪み部を形成しつつ前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面全体に第1の金属を含む薄膜よりなるバリヤ層を形成するバリヤ層形成工程と、
前記削り込み窪み部の底部を更に削って前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜を形成する補助シード膜形成工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記補助シード膜形成工程の後に、メッキ用の本シード膜を形成する本シード膜形成工程を行うことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記本シード膜形成工程の後に、前記第2の金属によるメッキを施すメッキ工程を行うことを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記バリヤ層形成工程は、
前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面全体に前記第1の金属の窒化膜よりなる下地膜を形成する下地膜形成ステップと、
前記削り込み窪み部を形成しつつ少なくとも前記凹部内の側壁に前記第1の金属の単体よりなる主バリヤ膜を形成する主バリヤ膜形成ステップとを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の金属はTaよりなり、且つ前記第2の金属はCuよりなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
前記バリヤ層形成工程は、
前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面全体に前記第1の金属の窒化膜よりなる下地膜を形成する下地膜形成ステップと、
前記削り込み窪み部を形成しつつ少なくとも前記凹部内の側壁に前記第1の金属の単体よりなる主バリヤ膜を形成する主バリヤ膜形成ステップと、
第3の金属を含む補助バリヤ膜を形成する補助バリヤ膜形成ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項7】
前記補助バリヤ膜形成ステップの後に、前記第2の金属によるメッキを施すメッキ工程を行うことを特徴とする請求項6記載の成膜方法。
【請求項8】
前記第1の金属はTaよりなり、前記第2の金属はCuよりなり、且つ前記第3の金属はRuよりなることを特徴とする請求項5または6記載の成膜方法。
【請求項9】
前記補助シード膜形成工程は、前記処理容器内の圧力を30〜90mTorrの範囲内に設定して行うことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項10】
前記補助シード膜形成工程は、前記バイアス電力を100〜250ワットの範囲内に設定して行うことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項11】
前記補助シード膜形成工程は、前記プラズマを形成するための電力を0.5〜2キロワットの範囲内に設定して行うことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項12】
前記凹部には、ビアホールまたはスルーホールとなる連通穴が設けられて2段階の段部状になされていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の金属膜の成膜方法。
【請求項13】
前記凹部はビアホールまたはスルーホールとなる連通穴であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の金属膜の成膜方法。
【請求項14】
真空引き可能になされた処理容器と、
表面に凹部の形成された被処理体を載置するための載置台と、
前記処理容器内へ少なくとも不活性ガスを含む所定のガスを導入するガス導入手段と、
プラズマ電力により前記処理容器内へプラズマを発生させるためのプラズマ発生源と、
前記処理容器内に設けられて直流電力が印加されると共に、前記プラズマによりイオン化されるべき金属ターゲットと、
前記載置台に対して所定のバイアス電力を供給するバイアス電源と、
装置全体を制御する装置制御部と、を有する成膜装置において、
前記装置制御部は、前記凹部内の前記削り込み窪み部の底部を更に削って前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜を形成するように制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項15】
不活性ガスをプラズマ化することにより形成されたプラズマにより真空引き可能になされた処理容器内で金属ターゲットをイオン化させて金属イオンを含む金属粒子を発生させ、該金属粒子を前記処理容器内の載置台上に載置した被処理体にバイアス電力により引き込んで表面に凹部が形成されている前記被処理体の表面に前記金属を含む薄膜を形成する成膜装置を用いて薄膜を形成するに際して、
前記凹部内の前記削り込み窪み部の底部を更に削って前記凹部内の表面を含む前記被処理体の表面に第2の金属を含む薄膜よりなるメッキ用の補助シード膜を形成するように制御するコンピュータ用のプログラムを記憶する記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−41700(P2008−41700A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209944(P2006−209944)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】