説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】処理容器の側壁への不要な付着膜の堆積を抑制してクリーニング処理の頻度を減少させると共に、クリーニング処理時間を短くし、これにより装置の使用効率を上げてスループットを大幅に向上させることが可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】被処理体Wの表面に高分子薄膜を形成する成膜装置において、被処理体を収容する処理容器4と、処理容器内で被処理体を保持する保持手段6と、処理容器内を真空引きする真空排気系30と、処理容器内へ高分子薄膜の複数の原料ガスを供給するガス供給手段20と、処理容器を加熱する容器加熱手段14と、保持手段を冷却する内部冷却手段40と、処理容器の側壁と保持手段との間の温度差が所定の温度差以上になるように制御する温度制御部62とを備える。これにより、処理容器の側壁への不要な付着膜の堆積を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の表面にポリイミド薄膜等の高分子薄膜を形成する成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路等を製造するためには、シリコン基板等よりなる半導体ウエハに対して成膜処理、エッチング処理、酸化処理等の各種の処理が繰り返し行われている。そして、上記半導体集積回路に用いる絶縁膜としては一般的にはSiO 膜等に代表される無機系の絶縁膜が主流であるが、従来より、製造プロセスやプロセス条件が比較的簡単なことから有機物による高分子薄膜が検討されている(特許文献1、2、3及び非特許文献)。
【0003】
例えばポリイミド薄膜に代表されるこの高分子薄膜は、半導体集積回路の層間絶縁膜や液晶表示装置の液晶配向膜等として用いることが検討されている。この高分子薄膜を形成するための方法としては、原料モノマーを溶媒に溶かして、これを半導体ウエハ上にスピンコートして重合させる、いわゆる湿式法や、減圧雰囲気になされた真空容器内で原料モノマーを蒸発させて重合させるようにした蒸着重合法等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−261322号公報
【特許文献2】特開平9−143681号公報
【特許文献3】特開2000−21867号公報
【非特許文献1】”Electrical,thermal and mechanical properties of polyimide thin films prepared by high−temperature vapor deposition polymerization”[High Perform,Polym. 5(1993)229−237pp.]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記湿式法にあっては、膜厚を十分に薄くすることが困難であるばかりか、薄膜と基板(半導体ウエハ)との密着性が十分ではなく、しかも溶媒の添加及び除去に際して不純物が混入し易い、といった欠点があった。
【0006】
これに対して、上記蒸着重合法では上記した湿式法による欠点を全て排除することができることから比較的好ましい方法である。しかしながら、この蒸着重合法では、半導体ウエハを含む処理容器内の温度管理がかなり難しく、特に膜厚や膜質が良好な高分子薄膜を得るように温度管理を行うと、処理容器の内壁面に不要な膜が多量に付着し、このため、この不要な膜を除去するためのクリーニング処理の頻度が増加したり、クリーニング処理時間が長くなり、装置の使用効率が低下してスループットを大幅に低下させる、といった問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、膜質の低下を生ぜしめることなく処理容器の側壁への不要な付着膜の堆積を抑制してクリーニング処理の頻度を減少させることができると共に、クリーニング処理時間を短くすることができ、これにより装置の使用効率を上げてスループットを大幅に向上させることが可能な成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、半導体ウエハの表面と処理容器の側壁面に付着する高分子薄膜の形成工程について鋭意研究した結果、処理容器の側壁の温度に対してウエハの温度を低く設定しておくことにより、ガス状の原料モノマーが熱泳動によって主にウエハ側へ引き付けられて行く、という知見を得ることにより、本発明に至ったものである。
【0009】
請求項1に係る発明は、被処理体の表面に高分子薄膜を形成する成膜装置において、前記被処理体を収容する処理容器と、前記処理容器内で前記被処理体を保持する保持手段と、前記処理容器内を真空引きする真空排気系と、前記処理容器内へ前記高分子薄膜の複数の原料ガスを供給するガス供給手段と、前記処理容器を加熱する容器加熱手段と、前記保持手段を冷却する内部冷却手段と、前記処理容器の側壁と前記保持手段との間の温度差が所定の温度差以上になるように制御する温度制御部と、を備えたことを特徴とする成膜装置である。
【0010】
このように、被処理体の表面に高分子薄膜を形成する成膜装置において、処理容器側に容器加熱手段を設け、保持手段側に内部冷却手段を設けて、処理容器の側壁と保持手段との間の温度差が所定の温度差以上になるように制御したので、膜質の低下を生ぜしめることなく処理容器の側壁への不要な付着膜の堆積を抑制してクリーニング処理の頻度を減少させることができると共に、クリーニング処理時間を短くすることができ、これにより装置の使用効率を上げてスループットを大幅に向上させることができる。
【0011】
この場合、例えば請求項2に記載したように、前記処理容器は、下端が開口された開口部を有する有天井の縦長筒体状に形成されると共に、前記開口部は蓋部により気密にシールされる。
また例えば請求項3に記載したように、前記保持手段は、複数本の支柱と、前記支柱によって複数段に亘って固定されてそれぞれに前記被処理体を載置する複数の載置台とを有する。
【0012】
また例えば請求項4に記載したように、前記内部冷却手段は、前記支柱と前記載置台とに形成された冷媒通路と、前記冷媒通路に冷媒を循環させるための冷媒循環部とを有する。
また例えば請求項5に記載したように、前記保持手段を、前記開口部から前記処理容器内へ搬入又は搬出させるための昇降機構を有する。
また例えば請求項6に記載したように、前記処理容器は石英よりなる。
【0013】
また例えば請求項7に記載したように、前記保持手段は、前記被処理体に対して汚染が生じない金属よりなる。
また例えば請求項8に記載したように、前記原料ガスは、キャリアガスによって流される。
また例えば請求項9に記載したように、前記所定の温度差以上は、50℃以上である。
また例えば請求項10に記載したように、前記処理容器内の圧力は、133〜1333Pa(1〜10Torr)の範囲内である。
【0014】
また例えば請求項11に記載したように、前記保持手段の温度は100℃以上である。
また例えば請求項12に記載したように、前記複数の原料ガスは、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリイミド薄膜である。
【0015】
また例えば請求項13に記載したように、前記複数の原料ガスは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)と4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリ尿素薄膜である。
【0016】
請求項14に係る発明は、被処理体の表面に高分子薄膜を形成する成膜方法において、真空引きされた処理容器内の保持手段に保持された前記被処理体を収容し、前記処理容器を加熱すると共に前記保持手段を冷却して両者の温度差が所定の温度差以上になるように制御しつつ前記処理容器内へ複数の原料ガスを導入して前記被処理体の表面に前記高分子薄膜を形成するようにしたことを特徴とする成膜方法である。
【0017】
この場合、例えば請求項15に記載したように、前記保持手段には冷媒通路が形成されており、前記冷媒通路にはこれを冷却する冷媒が循環されている。
また例えば請求項16に記載したように、前記原料ガスは、キャリアガスによって流される。
また例えば請求項17に記載したように、前記所定の温度差以上は、50℃以上である。
【0018】
また例えば請求項18に記載したように、前記処理容器内の圧力は、133〜1333Pa(1〜10Torr)の範囲内である。
また例えば請求項19に記載したように、前記保持手段の温度は100℃以上である。
また例えば請求項20に記載したように、前記複数の原料ガスは、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリイミド薄膜である。
【0019】
また例えば請求項21に記載したように、前記複数の原料ガスは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)と4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリ尿素薄膜である。
【0020】
請求項22に係る発明は、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて被処理体の表面に高分子薄膜を形成するに際して、請求項14乃至21のいずれか一項に記載の成膜方法を実施するように前記成膜装置を制御するコンピュータに読み取り可能なプログラムを記憶することを特徴とする記憶媒体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る成膜装置及び成膜方法によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
被処理体の表面に高分子薄膜を形成する成膜装置において、処理容器側に容器加熱手段を設け、保持手段側に内部冷却手段を設けて、処理容器の側壁と保持手段との間の温度差が所定の温度差以上になるように制御したので、膜質の低下を生ぜしめることなく処理容器の側壁への不要な付着膜の堆積を抑制してクリーニング処理の頻度を減少させることができると共に、クリーニング処理時間を短くすることができ、これにより装置の使用効率を上げてスループットを大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に係る成膜装置及び成膜方法の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明に係る成膜装置を示す断面構成図、図2は保持手段であるウエハボートを示す横断面図、図3はウエハボートを示す部分拡大図である。尚、ここでは高分子薄膜の一例としてポリイミド樹脂の薄膜であるポリイミド薄膜を形成する場合を例にとって説明する。
【0023】
図示するように、この成膜装置2は下端が開口されて上下方向に所定の長さを有して円筒体状になされた有天井の縦型の処理容器4を有している。この処理容器4は、例えば耐熱性の高い石英を用いることができる。
【0024】
この処理容器4の下方より複数枚の被処理体としての半導体ウエハWを複数段に亘って所定のピッチで載置した保持手段としてのウエハボート6が昇降可能に挿脱自在になされている。このウエハボート6の構造については後述する。そして、ウエハボート6の処理容器4内への挿入時には、上記処理容器4の下端の開口部4Aは、例えばアルミニウム合金(アルミニウムを含む)等の金属製の蓋部8により塞がれて密閉される。
【0025】
この際、処理容器4の下端部と蓋部8の周辺部との間には、気密性を維持するために例えばOリング等のシール部材10が介在される。尚、この蓋部8をステンレス板により形成する場合もある。このウエハボート6は、上記蓋部8の上面側に取り付け固定されている。そして、この蓋部8は、例えばボートエレベータ等の昇降機構12より延びたアーム12Aの先端に取り付けられており、上記ウエハボート6及び蓋部8等を一体的に昇降できるようになされている。
【0026】
上記処理容器4の側部には、これを取り囲むようにしてた例えばカーボンワイヤ製のヒータよりなる容器加熱手段14が設けられており、この内側に位置する石英製の処理容器4を加熱し得るようになっている。そして、この容器加熱手段14は、これに電力を供給するヒータ電源15に接続される。またこの容器加熱手段14の外周には、断熱材16が設けられており、この熱的安定性を確保するようになっている。
【0027】
そして、この容器加熱手段14の近傍には、例えば熱電対よりなる温度センサ18が設けられており、この容器加熱手段14に近い処理容器4の温度を測定するようになっている。また処理容器4の下部側壁には、この処理容器4内へ所定のガスを供給するためのガス供給手段20を設けている。具体的には、このガス供給手段20は、成膜用の複数の原料ガス、ここでは2種類の原料ガスを供給するために第1の原料ガス供給系22と、第2の原料ガス供給系24とにより主に構成されている。
【0028】
尚、実際には、図示されないが、不活性ガスとして例えばN ガスやAr、He等の希ガスを必要に応じてパージガスや希釈ガスとして供給する不活性ガス供給系やクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給系も設けられている。そして、上記第1の原料ガス供給系22、第2の原料ガス供給系24は、それぞれ上記処理容器4の下部側壁に例えば貫通するように設けられた石英製の第1及び第2のガスノズル22A、24Aを有している。ここでは上記第1及び第2のガスノズル22A、24Aとして直線状のストレート管が用いられている。
【0029】
尚、これらの各ガスノズル22A、24Aは実際には上記処理容器4の下端部の肉厚になされたフランジ部4Bに設けられる。また、この構造に代えて、処理容器4の下端にステンレス製の筒体状のマニホールドを設け、このマニホールドにガスノズル22A、24Aを設けるようにしてもよい。
【0030】
そして、上記第1及び第2の各ガスノズル22A、24Aには、それぞれガス通路22B、24Bが接続されており、流量制御されたそれぞれの原料ガスを供給するようになっている。また、この各ガス通路22B、24Bには、例えばテープヒータのような通路加熱ヒータ22C、24Cが巻回して設けられており、各通路を加熱することにより蒸気圧が高くなされた各原料ガスが流れる途中で液化や固化することを防止するようになっている。ここでは2種類の原料ガスとして例えば、ピロメリット酸二無水物(以下「PMDA」とも称す)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下「ODA」とも称す)とが用いられる。
【0031】
上記PMDAは常温で固体なので、例えば250℃程度に加熱して昇華し、発生したガスを流量制御されたキャリアガスと共に移送する。また上記ODAは常温で固体なので、これを加熱して液化し、この液体を流量制御されたキャリアガスによりバブリングすることにより蒸気を発生させ、キャリアガスと共に移送する。上記キャリアガスとしては、ここでは例えば不活性ガスであるN ガスが用いられるが、これに代えてHe等の希ガスを用いてもよい。
【0032】
また、上記処理容器4の天井部には、横方向へL字状に屈曲させた排気口28が設けられる。この排気口28には、処理容器4内を真空引きする真空排気系30が接続されている。具体的には、上記真空排気系30は上記排気口28に接続された排気通路32を有しており、この排気通路32には、バタフライ弁のような圧力制御弁32A、排気ガス中の反応副生成物や未反応の原料ガスを捕集するトラップ機構32B及び真空ポンプ32Cがそれぞれ順次介設されている。
【0033】
ここでウエハWを保持する保持手段としてのウエハボート6について説明する。このウエハボート6は、図2及び図3にも示すように、複数本、図示例では3本の支柱36A、36B、36Cと、この支柱36A〜36Cの長手方向に沿って複数段に亘って固定された複数の載置台38とにより主に構成されている。そして、このウエハボート6には、これに保持されるウエハWを冷却するための内部冷却手段40(図1参照)が設けられている。
【0034】
具体的には、上記ウエハボート6の全体は、ウエハWに対する汚染を引き起こすことがないような金属、例えばアルミニウムやアルミニウム合金により形成されている。上記ウエハボート6の一部を形成する上記3本の支柱36A〜36Cは、処理容器4の下端の開口部4Aを密閉する蓋部8より起立させて設けられており、各支柱36A〜36Cの上端部は天板42(図1参照)により互いに連結されている。そして、上記載置台38は、所定の厚さの円板状に成形されており、この載置台38の裏面に上記3本の各支柱36A〜36Cから中心方向へ延びるL字状になされた支持アーム44A、44B、44Cの先端部を接続固定して、上記載置台38を支持するようになっている(図2参照)。そして、この載置台38の上面側にウエハWが直接的に載置されることになる。上記載置台38のピッチP1は例えば8mm程度であるが、特に限定されない。
【0035】
ここで、ウエハWの直径に対して上記載置台38の直径は僅かに、例えば数cm程度小さく設定されており、図2に示すように、ウエハWを移載するための二股状のフォーク46によりウエハWの周辺部の下面を支持し、これに持ち上げたり、或いは持ち下げたりできるようになっている。
【0036】
尚、このフォーク46を有する移載機構(図示せず)は、処理容器4の下方のローディングエリアに設けられる。また図2に示すように、上記3本の支柱36A〜36Cは、上記フォーク46が侵入する方向とは反対側の略半円状の円周部分に等間隔で配置されており、ウエハ移載時のフォーク46と各支柱36A〜36Cとが干渉しないようになっている。図1に示す場合には、7個の載置台38が設けられているが、処理容器4の高さ方向の大きさにもよるが、実際には25〜100個程度設けられることになる。
【0037】
一方、上記ウエハWを冷却する上記内部冷却手段40は、上記ウエハボート6に形成された冷媒通路48と、これに冷媒を循環させる冷媒循環部50とにより主に構成されている。具体的には、上記冷媒通路48は、上記3本の支柱36A〜36Cの内の2本の支柱36A、36C内に沿って形成された支柱内通路52A、52Cと、この2本の支柱36A、36Cから延びる支持アーム44A、44C内に形成されたアーム内通路54A、54Cと、各載置台38内にその全面に亘って例えば蛇行状に形成された載置台内通路56とにより構成されている。
【0038】
そして、各載置台38においてアーム内通路54A、載置台内通路56及びアーム内通路54Cは直列に接続されており、また各アーム内通路54A、54Cは、2本の支柱内通路52A、52Cに対してそれぞれ接続されている。これにより、各載置台38の載置台内通路56に対して冷媒を流すことができるようになっている。
【0039】
また、図1に示すように、上記各支柱内通路52A、52Cと冷媒循環部50との間は、伸縮可能になされた蛇腹状の伸縮管58により連結されており、この伸縮管58を介して冷媒を循環させると共に、この伸縮管58がウエハボート6の昇降移動に追従できるようになっている。このように形成された内部冷却手段40としては、例えばチラー(登録商標)を用いることができる。そして、上記ウエハボート6の一部の載置台38には、ウエハ温度(載置台温度)を計測するための例えば熱電対よりなる温度センサ60が設けられている。
【0040】
そして、上記冷媒循環部50とヒータ電源15は例えばコンピュータ等よりなる温度制御部62により制御されることになる。具体的には、この温度制御部62には、処理容器4の温度を検出する温度センサ18と載置台38の温度を検出する温度センサ60との出力が共に入力されており、上記処理容器4と載置台38との間の温度差が所定の温度差以上、例えば50℃以上となるように制御するようになっている。すなわち、載置台38よりも処理容器4の側壁の温度の方が50℃以上高くなるように制御するようになっている。
【0041】
そして、この装置全体の動作、例えば各ガスの供給開始、供給停止、処理容器4内の圧力制御、温度制御部62への動作指令等は、例えばコンピュータ等よりなる装置制御部64により制御される。そして、この装置制御部64は、この装置全体の動作を制御するためのコンピュータにより読み書き可能なプログラムを記憶するための例えばフレキシブルディスク、フラッシュメモリ、ハードディスク、CD−ROM、DVD等よりなる記憶媒体66を有している。
【0042】
次に、以上のように構成された成膜装置2を用いて行なわれる成膜方法について説明する。上述したように、以下に説明する動作は、上記記憶媒体66に記憶されたプログラムに基づいて行われる。
【0043】
まず、例えばシリコンウエハよりなる半導体ウエハWがアンロード状態で成膜装置2が待機状態の時には、処理容器4はプロセス温度、或いはこれより低い温度に維持されており、常温の多数枚、例えば50枚のウエハWが載置された状態のウエハボート6を容器加熱手段14によりホットウォール状態になされた処理容器4内にその下方より上昇させてロードし、蓋部8で処理容器4の下端の開口部4Aを閉じることにより処理容器4内を密閉する。
【0044】
そして、処理容器4内を真空排気系30により真空引きして所定のプロセス圧力に維持すると共に、容器加熱手段14への供給電力を増大させることにより、処理容器4自体の温度とウエハ温度を上昇させて成膜処理用のプロセス温度まで昇温して安定させる。
また、ウエハボート6には、これに設けた内部冷却手段40が予め駆動されて冷媒通路48には冷媒が流れており、各載置台38は所定の温度になされている。
【0045】
すなわち、冷媒循環部50から供給された冷媒は一方の伸縮管58を通ってウエハボート6の支柱52Aに設けた支柱内通路52A内を上昇し、この支柱内通路52Aから各アーム内通路54Aへ分岐してこれを介して各載置台38の載置台通路56内に流れ込み、この載置台自体を冷却する。この載置台通路56内を流れた冷媒は、他方のアーム内通路54Cを通って他方の支柱36Cに設けた支柱内通路52C内で合流し、合流した冷媒は他方の伸縮管58を介して冷媒循環部50へ戻ってくることになる。このようにして、上記冷媒は、ウエハボート6内を循環して各載置台38及びこれに載置されているウエハWを冷却する。
【0046】
そして、このような状態で、ガス供給手段20を駆動し、第1のガス供給系22からキャリアガスと共に搬送されたPMDAを処理容器4内へ導入すると共に、第2のガス供給系24からキャリアガスと共に搬送されたODAを処理容器4内へ導入し、更に真空排気系30によりこの処理容器4内の圧力を所定のプロセス圧力に維持する。これにより、上記両原料ガスを重合反応させてウエハWの表面に対してポリイミド薄膜よりなる薄膜を堆積させる。
【0047】
この重合反応による成膜のプロセス時には、処理容器4内のプロセス圧力は、例えば1〜10Torr(133.3〜1333Pa)の範囲内に維持する。そして、上記処理容器4及び載置台38の温度は、それぞれ温度センサ18、60により検出されて上記温度制御部62へ入力されており、この成膜のプロセス時には上記温度制御部62はウエハ温度をプロセス温度に維持すると共に、ヒータ電源15及び冷媒循環部50の双方、或いはいずれか一方を制御して、上記処理容器4の側壁とウエハボート6の一部である載置台38との間の温度差が所定の温度差以上、具体的には50℃以上になるように制御している。
【0048】
換言すれば、載置台38に冷却手段を設けない場合には、この載置台温度が処理容器4の側壁と同じ位の温度まで昇温してしまうので、載置台38側に内部冷却手段40を設けて載置台38の温度よりも処理容器4の温度の方が50℃以上高くなるように制御している。ここで、載置台38上に載置されるウエハWの温度は載置台38の温度と略同じ温度に加熱されている。この時の各部の温度は、例えば処理容器4の側壁の温度が250℃以上に設定され、載置台38、すなわちウエハWの温度は200℃に設定されている。
【0049】
この場合、上記処理容器4の側壁の温度及び載置台38の温度は、共に成膜用の原料ガスであるPMDA及びODAが再固化する温度、或いは再液化する温度よりも高く設定され、且つPMDA及びODAが共に熱分解しないような温度範囲内であって、モノマーである両原料ガスが蒸着重合するような温度範囲内に設定する。この場合、上記PMDAの昇華温度は例えば203℃程度であり、熱分解温度は400℃程度である。また上記ODAの液化温度は例えば187℃程度であり、熱分解温度は400℃程度である。
【0050】
上述のように処理容器4の側壁と載置台38、すなわちウエハWとの間に50℃以上の温度差を設けておくことにより、原料モノマーであるガス状のPMDAとODAは共に熱泳動によって温度が低いウエハW側へ主に引き付けられて行くことになり、このウエハWの表面に蒸着重合によって薄膜としてポリイミド薄膜が形成されることになる。また、上記温度差が50℃よりも小さい場合には、熱泳動による原料ガスの引き付けの効果が薄くなってブラウン運動が主体となり、ウエハWの表面と処理容器4の側壁とに略均等に薄膜が形成されてしまって好ましくない。
【0051】
このようにして、温度の高い処理容器4の側壁には原料ガスであるPMDAやODAが引き付けられ難くなるので、この側壁に薄膜が堆積することを防止したり、或いは抑制することができる。
【0052】
上記実施形態ではウエハWの温度を200℃に設定し、且つ処理容器4の側壁の温度を250℃以上に設定したが、これらは単に一例を示したに過ぎず、例えば上記熱泳動による原料ガスの引き付けが50℃よりも小さな温度差でも顕著に生ずれば、より小さな温度差にしてもよい。ただし、ウエハ温度を好ましくは200℃以上に設定することにより、この表面に付着している水分を確実に蒸発させることができてポリイミド薄膜の膜質を向上させることができる。
【0053】
いずれにしても、処理容器4の側壁の温度及びウエハW(載置台38)の温度は、上記温度差を設けつつ両原料ガスが気化状態を維持して熱分解もせず、且つ蒸着重合を生ずるような温度範囲内に維持する。また、処理容器4内の不要な膜を除去するためにクリーニングする場合には、例えばオゾンを流して容器内部の不要な膜を除去すればよい。
【0054】
このように、上記実施形態によれば、被処理体である半導体ウエハWの表面に高分子薄膜であるポリイミド薄膜を形成する成膜装置において、処理容器4側に容器加熱手段14を設け、保持手段であるウエハボート6側に内部冷却手段40を設けて、処理容器の側壁と保持手段との間の温度差が所定の温度差以上、例えば温度差50℃以上になるように制御したので、膜質の低下を生ぜしめることなく処理容器4の側壁への不要な付着膜の堆積を抑制してクリーニング処理の頻度を減少させることができると共に、クリーニング処理時間を短くすることができ、これにより装置の使用効率を上げてスループットを大幅に向上させることができる。
【0055】
<実際の成膜処理の評価>
次に、上述したような装置例を用いて本発明方法により高分子薄膜を実際に成膜する実験を行ったので、その評価結果について説明する。ここでは成膜用の原料ガスとしてPMDAとODAを用いており、常温で粉体のPMDAは260℃に加熱して昇華し、このガスをキャリアガスとしてN ガスで搬送した。この時のキャリアガスの流量は200sccmであり、PMDAの流量は略1g/分に設定した。
【0056】
また常温で固体のODAは220℃に加熱して液化し、これをキャリアガスとしてN ガスでバブリングしてガスを発生させて搬送した。この時のキャリアガスの流量は600sccmであり、ODAの流量は略1g/分に設定した。
【0057】
また処理容器4内のプロセス圧力は5Torr(666.5Pa)に設定した。そして、ウエハWの温度(載置台温度)をプロセス温度として200℃に設定し、且つ処理容器4の側壁の温度を、ウエハより60℃だけ高い260℃に設定した。成膜時間を10分間に設定して高分子薄膜としてポリイミド薄膜を直径が300mmのウエハ表面に形成したところ、ウエハ表面では2μmの厚さのポリイミド薄膜が形成されたが、処理容器4の側壁にはほとんど薄膜が形成されておらず、本発明の有効性を確認することができた。
【0058】
尚、以上の実施形態では、ガス供給手段20のガスノズル22A、24Aは直線状のストレート管が用いられたが、これに限定されず、図4に示すガスノズルの変形例のように、第1及び第2のガスノズル22A、24Aを、ウエハボート6の周囲を囲むようにしたリング状にそれぞれ形成し、このリング状のガスノズル22A、24Aに沿って設けた複数のガス噴出孔70から各原料ガスを噴射するようにしてもよい。この場合には、各原料ガスをウエハWの周方向に沿って略均等に供給することができるので、その分、形成される高分子薄膜の面内均一性を向上させることができる。
【0059】
また、ここでは処理容器4として単管構造の場合を例にとって説明したが、これに限定されず、円筒状の内筒と外筒とを同心円状に配置してなる2重管構造の処理容器を用いてもよい。更には、ここでは保持手段であるウエハボート6に複数枚の半導体ウエハWを載置して成膜処理を行う、いわゆるバッチ式の成膜装置を例にとって説明したが、これに限定されず、処理容器4及び保持手段であるウエハボート6の高さをそれぞれ小さく設定してウエハを1枚ずつ処理するようにした、いわゆる枚葉式の成膜装置にも、本発明を適用することができる。
【0060】
また、ここでは原料ガスとしてPMDAとODAとを用いて高分子薄膜としてポリイミド薄膜を形成する場合を例にとって説明したが、これに限定されず、例えば原料ガスとして、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)と4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)とを用いて、高分子薄膜としてポリ尿素薄膜を形成する場合にも、本発明を適用することができる。このポリ尿素薄膜を形成する場合には、上記ウエハボート6を100℃以上に設定する。
【0061】
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、これに限定されず、ガラス基板、LCD基板、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る成膜装置を示す断面構成図である。
【図2】保持手段であるウエハボートを示す横断面図である。
【図3】ウエハボートを示す部分拡大図である。
【図4】ガスノズルの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
2 成膜装置
4 処理容器
6 ウエハボート(保持手段)
8 蓋部
12 昇降機構
14 容器加熱手段
20 ガス供給手段
22 第1の原料ガス供給系
24 第2の原料ガス供給系
30 真空排気系
36A〜36C 支柱
38 載置台
40 内部冷却手段
44A〜44C 支持アーム
48 冷媒通路
50 冷媒循環部
52A,52C 支柱内通路
54A,54C アーム内通路
56 載置台内通路
58 伸縮管
62 温度制御部
64 装置制御部
66 記憶媒体
W 半導体ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体の表面に高分子薄膜を形成する成膜装置において、
前記被処理体を収容する処理容器と、
前記処理容器内で前記被処理体を保持する保持手段と、
前記処理容器内を真空引きする真空排気系と、
前記処理容器内へ前記高分子薄膜の複数の原料ガスを供給するガス供給手段と、
前記処理容器を加熱する容器加熱手段と、
前記保持手段を冷却する内部冷却手段と、
前記処理容器の側壁と前記保持手段との間の温度差が所定の温度差以上になるように制御する温度制御部と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記処理容器は、下端が開口された開口部を有する有天井の縦長筒体状に形成されると共に、前記開口部は蓋部により気密にシールされることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記保持手段は、複数本の支柱と、前記支柱によって複数段に亘って固定されてそれぞれに前記被処理体を載置する複数の載置台とを有することを特徴とする請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記内部冷却手段は、前記支柱と前記載置台とに形成された冷媒通路と、前記冷媒通路に冷媒を循環させるための冷媒循環部とを有することを特徴とする請求項3記載の成膜装置。
【請求項5】
前記保持手段を、前記開口部から前記処理容器内へ搬入又は搬出させるための昇降機構を有することを特徴とする請求項3又は4記載の成膜装置。
【請求項6】
前記処理容器は石英よりなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記保持手段は、前記被処理体に対して汚染が生じない金属よりなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記原料ガスは、キャリアガスによって流されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記所定の温度差以上は、50℃以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記処理容器内の圧力は、133〜1333Pa(1〜10Torr)の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記保持手段の温度は100℃以上であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記複数の原料ガスは、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリイミド薄膜であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記複数の原料ガスは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)と4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリ尿素薄膜であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項14】
被処理体の表面に高分子薄膜を形成する成膜方法において、
真空引きされた処理容器内の保持手段に保持された前記被処理体を収容し、
前記処理容器を加熱すると共に前記保持手段を冷却して両者の温度差が所定の温度差以上になるように制御しつつ前記処理容器内へ複数の原料ガスを導入して前記被処理体の表面に前記高分子薄膜を形成するようにしたことを特徴とする成膜方法。
【請求項15】
前記保持手段には冷媒通路が形成されており、前記冷媒通路にはこれを冷却する冷媒が循環されていることを特徴とする請求項14記載の成膜方法。
【請求項16】
前記原料ガスは、キャリアガスによって流されることを特徴とする請求項14又は15に記載の成膜装置。
【請求項17】
前記所定の温度差以上は、50℃以上であることを特徴とする請求項14乃至16のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項18】
前記処理容器内の圧力は、133〜1333Pa(1〜10Torr)の範囲内であることを特徴とする請求項17に記載の成膜装置。
【請求項19】
前記保持手段の温度は100℃以上であることを特徴とする請求項18に記載の成膜装置。
【請求項20】
前記複数の原料ガスは、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリイミド薄膜であることを特徴とする請求項19に記載の成膜装置。
【請求項21】
前記複数の原料ガスは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)と4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)とよりなり、前記高分子薄膜はポリ尿素薄膜であることを特徴とする請求項19に記載の成膜装置。
【請求項22】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて被処理体の表面に高分子薄膜を形成するに際して、
請求項14乃至21のいずれか一項に記載の成膜方法を実施するように前記成膜装置を制御するコンピュータに読み取り可能なプログラムを記憶することを特徴とする記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−194099(P2009−194099A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32160(P2008−32160)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】