説明

接着剤組成物

【課題】チップ部品をフリップチップ実装するための、脂環式エポキシ化合物と酸無水物とを含有する接着剤組成物にアクリル樹脂を配合した場合に、接着力の低下、硬化物の白濁や着色、及び回路基板の配線の腐食という問題を同時に解決する。
【解決手段】回路基板にチップ部品をフリップチップ実装するための接着剤組成物は、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂とを含有している。脂環式酸無水物系硬化剤の含有量は、脂環式エポキシ化合物100質量部に対し80〜120質量部であり、アクリル樹脂の含有量は、脂肪環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂との合計100質量部中に5〜50質量部である。アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートと、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対し2〜100質量部のグリシジルメタクリレートとを共重合させた吸水率1.2%以下の樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板にLED素子等のチップ部品をフリップチップ実装するための接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)の光取り出し効率を向上させるために、LEDチップを基板にフリップチップ実装することが行われている(特許文献1)。この特許文献では、基板にLEDチップを実装する方法の一つとして、導電ペーストが選択的に塗布された配線パターンを有する基板の当該配線パターン側表面に、エポキシ樹脂等の絶縁性樹脂からなるアンダーフィル樹脂を予め塗布しておき、続いてその上からLEDチップをそのバンプ面が基板の配線パターンに対向するように載置し、熱圧着している。この場合、アンダーフィル樹脂は、LEDチップの正負電極間の絶縁を確保すると共に、LEDチップを基板に固定する役割を果たしている。
【0003】
ところで、LEDチップを基板にフリップチップ実装する際に用いられるアンダーフィル樹脂であるエポキシ樹脂接着組成物には、硬化したときに無色透明であることが求められており、そのため、一般に、エポキシ成分として、着色の原因となる不飽和結合を持たず且つ速硬化性に優れた脂環式エポキシ化合物やグリシジル水添ビスフェノールA化合物を配合し、硬化剤として、硬化物に良好な透明性を付与でき且つ脂環式エポキシ化合物に対し優れた相溶性を示す脂環式酸無水物を配合している。更に、硬化物の弾性率を低下させて耐衝撃性を向上させ、しかも硬化物の耐熱・耐光変色防止性を低下させないという観点から、エポキシ樹脂接着組成物に、密着性が比較的高いという特性を有するアクリル樹脂を配合することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−168235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクリル樹脂を配合したエポキシ樹脂接着組成物を使用してLEDチップを基板にフリップチップ実装しても、アクリル樹脂の種類により、接着力が低下したり、硬化物が白濁したり、硬化物が着色したり、あるいは実装品の基板に形成された配線が腐食したりするという問題があり、これらの問題を同時に解決したエポキシ樹脂接着組成物は未だ提案されていないというのが現状である。
【0006】
本発明は、回路基板に、LEDチップなどの光半導体チップをはじめとするチップ部品をフリップチップ実装するための、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物とを含有する接着剤組成物にアクリル樹脂を配合した場合に、“接着力の低下”、“硬化物の白濁や着色”、及び“回路基板の配線の腐食”という問題を同時に解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、接着剤組成物を、透明性と耐変色性並びに速硬化性に優れている脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とに加えてアクリル樹脂とから構成し、しかも、それらの配合割合を特定し、更に、アクリル樹脂として特定割合のグリシジルメタクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとを共重合させたものであって、吸水率が所定割合以下のものを使用することにより、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。なお、本明細書において、「アルキル(メタ)アクリレート」とは、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートを意味する。
【0008】
即ち、本発明は、回路基板にチップ部品をフリップチップ実装するための接着剤組成物であって、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂とを含有し、
脂環式酸無水物系硬化剤の含有量が、脂環式エポキシ化合物100質量部に対し80〜120質量部であり、該アクリル樹脂の含有量が、脂肪環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂との合計100質量部中に5〜50質量部であり、
該アクリル樹脂が、アルキル(メタ)アクリレートと、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対し2〜100質量部のグリシジルメタクリレートとを共重合させた吸水率1.2%以下の樹脂であることを特徴とする接着剤組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、回路基板にチップ部品が、上述した異方性導電接着剤を用いてフリップチップ実装された接続構造体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、特定割合の脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂とから構成され、しかもアクリル樹脂として、特定割合のグリシジルメタクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとを重合させたものであって、吸水率が所定割合以下のものを使用する。このため、接着力の低下、硬化物の白濁や着色及び回路基板の配線の腐食という問題の発生を大きく抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、回路基板にチップ部品をフリップチップ実装するための接着剤組成物であり、組成的には脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂とを含有する接着剤組成物である。ここで、回路基板としては、ガラスエポキシ基板、ガラス基板、フレキシブル基板などが挙げられる、チップ部品としては、特に限定されないが、本発明の効果を最大限に生かすためには、光半導体チップ、特にLEDチップが挙げられる。
【0012】
本発明の接着剤組成物を構成する脂環式エポキシ化合物としては、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するものが好ましく挙げられる。これらは液状であっても、固体状であってもよい。具体的には、グリシジルヘキサヒドロビスフェノールA、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン等を挙げることができる。中でも、硬化物にLED素子の実装等に適した光透過性を確保でき、速硬化性にも優れている点から、グリシジルヘキサヒドロビスフェノールA、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートを好ましく使用することができる。
【0013】
本発明において、脂環式エポキシ化合物に加えて、本発明の効果を損なわない限り、他のエポキシ化合物を併用してもよい。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、ジアリールビスフェノールA、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、クレゾール、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ベンゾフェノン、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン、ビキシレノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテル、またはグリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、チレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル; p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、あるいはフタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸のようなポリカルボン酸から得られるポリグリシジルエステル; アミノフェノール、アミノアルキルフェノールから得られるグリシジルアミノグリシジルエーテル; アミノ安息香酸から得られるグリシジルアミノグリシジルエステル; アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、 ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンなどから得られるグリシジルアミン; エポキシ化ポリオレフィン等の公知のエポキシ樹脂類が挙げられる。
【0014】
脂環式酸無水物系硬化剤としては、具体的には、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、2,4−ジエチル−1,5−ペンタン二酸無水物等を挙げることができる。中でも、硬化物のLED素子の実装等に適した光透過性を確保でき、脂環式エポキシ化合物に対して良好な相溶性を示すメチルヘキサヒドロフタル酸無水物を好ましく使用することができる。
【0015】
本発明の接着剤組成物中の脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤のそれぞれの使用量は、脂環式酸無水物系硬化剤が少なすぎると接着力が低下し、多すぎると耐腐食性が低下する傾向があるので、脂環式エポキシ化合物100質量部に対し脂環式酸無水物系硬化剤を好ましくは80〜120質量部、より好ましくは90〜110質量部の割合で使用する。
【0016】
本発明の接着剤組成物は、硬化物の弾性率を低下させ、耐衝撃性を向上させる等の目的でアクリル樹脂を含有する。このアクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対し、グリシジルメタアクリレートを2〜100質量部、好ましくは5〜70質量部を共重合させた樹脂である。ここで、好ましいアルキル(メタ)アクリレートとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルアクリレート等を挙げることができる。
【0017】
また、アクリル樹脂は、その吸水率が1.2%以下、好ましくは1.0%以下のものである。これは、吸水率が1.2%を超えると金属製の電極を腐食する危険性が増大するからである。ここで、吸水率は、JIS K7209に準拠して求められたものであり、具体的には、1.0mm厚のアクリル樹脂シートを1cm幅で1cm長さにカットして試料とし、得られた試料を80℃の真空オーブンで20時間乾燥させ、重量(W)を測定する。その後、85℃、85%RHの環境下に24時間放置し、重量(W)を測定し、以下の式に従って吸水率を算出する。
【0018】
【数1】

【0019】
また、アクリル樹脂の重量平均分子量は、それが小さすぎると接着力が低下し、大きすぎると脂環式エポキシ化合物と混和し難くなるので、好ましくは5000〜200000、より好ましくは10000〜100000である。加えて、アクリル樹脂のガラス転移温度は、その温度が高すぎると接着力が低下するので、好ましくは50℃以下、より好ましくは20℃以下である。
【0020】
このようなアクリル樹脂の使用量は、少なすぎると接着力が低下し、多すぎると光学特性が低下する傾向があるので、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂の合計100質量部中に、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは10〜40質量部の割合で使用する。
【0021】
本発明の接着剤組成物には、更に、必要に応じて硬化促進剤としてイミダゾール化合物を配合することができる。イミダゾール化合物の具体例としては2−メチル−4−エチルイミダゾールを挙げることができる。このようなイミダゾール化合物の使用量は、少なすぎると硬化が不十分となり、多すぎると光学特性が低下するので、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0022】
また、本発明の接着剤組成物には、耐熱性及び耐熱光性の向上を目的として、IRGANOX 1010(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株))等の熱酸化防止剤、IRGANOX MD 1024(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株))等の金属不活性剤、Chimasorb 81(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株))等の紫外線防止剤を同時に含有させることが好ましい。これらの含有量は、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂の合計100質量部に対し、熱酸化防止剤を好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、金属不活性剤を好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、紫外線吸収剤を好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0023】
本発明の接着剤組成物には、必要に応じ、従来の接着剤組成物でも用いられている種々の添加剤を配合することができる。例えば、シランカップリング剤、フィラー等を配合することができる。
【0024】
本発明の接着剤組成物は、常法に従って脂環式エポキシ化合物と、脂環式酸無水物系硬化剤と、アクリル樹脂と、必要に応じて他の添加剤とを均一に混合することにより製造することができる。その際、常法に従ってペースト形態、フィルム形態、高粘性液体形態等の形態に加工することができる。また、この接着剤組成物は、熱硬化型であり、通常150〜250℃に加熱することにより硬化させることができる。
【0025】
本発明の接着剤組成物は、回路基板に光半導体チップ、特にLEDチップ等のチップ部品をフリップチップ実装するために使用するものである。従って、本発明の接着剤組成物を使用して回路基板に光半導体チップ、特にLEDチップ等のチップ部品をフリップチップ実装した接続構造体は、接着力の低下、硬化物の白濁や着色及び回路基板の配線の腐食という問題の発生が大きく抑制されたものとなる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0027】
参考例1(アクリル樹脂Aの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、エチルアクリレート(EA)50g、ブチルアクリレート(BA)50g、グリシジルメタクリレート(GMA)10g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂Aを得た。得られたアクリル樹脂A(EA50:BA50:GMA10)の重量平均分子量は80000であり、ガラス転移温度は−56℃であった。また、吸水率は1.0%であった。
【0028】
参考例2(アクリル樹脂Bの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、ブチルアクリレート(BA)70g、グリシジルメタクリレート(GMA)30g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂Bを得た。得られたアクリル樹脂B(BA70:GMA30)の重量平均分子量は110000であり、ガラス転移温度は−34℃であった。また、吸水率は0.5%であった。
【0029】
参考例3(アクリル樹脂Cの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)70g、グリシジルメタクリレート(GMA)30g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂Cを得た。得られたアクリル樹脂C(2-EHA70:GMA30)の重量平均分子量は110000であり、ガラス転移温度は−33℃であった。また、吸水率は0.5%であった。
【0030】
参考例4(アクリル樹脂Dの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、ブチルアクリレート(BA)30g、ブチルメタクリレート(BMA)50g、グリシジルメタクリレート(GMA)20g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂Dを得た。得られたアクリル樹脂D(BA30:BMA50:GMA20)の重量平均分子量は80000であり、ガラス転移温度は−4.2℃であった。また、吸水率は0.5%であった。
【0031】
参考例5(アクリル樹脂aの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、エチルアクリレート(EA)100g、アクリル酸10g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂aを得た。得られたアクリル樹脂a(EA100:Aac10)の重量平均分子量は95000であり、ガラス転移温度は−33℃であった。また、吸水率は1.5%であった。
【0032】
参考例6(アクリル樹脂bの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、メチルアクリレート(MA)70g、グリシジルメタクリレート(GMA)30g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂bを得た。得られたアクリル樹脂b(MA70:GMA30)の重量平均分子量は110000であり、ガラス転移温度は17℃であった。また、吸水率は1.7%であった。
【0033】
参考例7(アクリル樹脂cの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、エチルアクリレート70g、グリシジルメタクリレート(GMA)30g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂cを得た。得られたアクリル樹脂c(EA70:GMA30)の重量平均分子量は100000であり、ガラス転移温度は−6℃であった。また、吸水率は1.5%であった。
【0034】
参考例8(アクリル樹脂dの製造)
攪拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに、エチルアクリレート(EA)70g、グリシジルメタクリレート(GMA)25g、ヒドロキシエチルメタクリレレート5g、アゾビスブチロニトリル0.2g、酢酸エチル300g、及びアセトン5gを仕込み、撹拌しながら70℃で8時間重合反応させた。沈殿した粒子を濾取し、エタノールで洗浄し乾燥することによりアクリル樹脂dを得た。得られたアクリル樹脂d(EA70:GMA25:HEMA5)の重量平均分子量は120000であり、ガラス転移温度は−5℃であった。また、吸水率は1.5%であった。
【0035】
実施例1〜4、比較例1〜8
表1に示す配合の成分を遊星型撹拌器で均一に混合することにより接着剤組成物を調製した。
【0036】
評価試験
実施例1〜4及び比較例1〜8で得られたペースト状の接着剤組成物について、以下に説明する様に、接着力、光学特性(フィルム外観、色差)、耐腐食性を評価した。
【0037】
<接着力試験>
Cu配線部分にAuフラッシュメッキが施されたガラスエポキシ回路基板に、ペースト状の接着剤組成物を25μm厚となるように塗布し、その上に1.5mm角のICチップを載置し、フリップチップボンダーを使用し200℃で60秒間加熱することにより熱圧着して接続構造体を得た。得られた直後(初期)、リフロー後(260℃)、150℃で100時間放置後の接続構造体のICチップについて、ダイシェアーテスター(RTR−1100、レスカ社)を用いて接着強度(N/Chip)を測定した。得られた結果を表1に示す。本接着力試験の条件を前提にした場合には、実用上、接着力は5N/chip以上であることが望ましい。
【0038】
<光学特性試験>
接着剤組成物を熱プレス機で加熱加圧して硬化させ、75μm厚のフィルムを作成し、試料とした。得られた試料のフィルム外観を目視観察した。その後、ピーク温度260℃の鉛フリーハンダ対応リフロー炉を通し、JIS K7105に従って色差(ΔE*ab)を求めた。その後、熱エージング試験(150℃オーブン中に300時間投入)及び光エージング試験(30W/m、380nmピーク波長光源、60℃、100時間(フェードメーター、スガ試験器(株)))を行い、試験前後の色差(ΔE*ab)を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0039】
<耐腐食性試験>
銅パターンにAgメッキが施されたAgメッキ配線を有する2cm四方のガラスエポキシ基板の表面に、0.05gの接着剤組成物を塗布し、150℃のオーブンに1時間投入し、接着剤組成物を硬化させた。配線の端部の配線パッドに無鉛ハンダで配線を接続した。これを、85℃、85%RHの恒温恒湿チャンバーに投入し、50時間、電極間に20Vを印加し、その後、Agメッキ部分を目視観察し、以下の評価基準に従って接着剤組成物の耐腐食性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0040】
耐腐食性評価基準
A: Agメッキ配線の外観に変化が認められない場合
B: Agメッキ配線の外観に茶変色が認められる場合
C: Agメッキ配線にAgマイグレーションが発生した場合




【0041】
【表1】

【0042】
表1からわかるように、実施例1〜4の接着剤組成物は、脂環式エポキシ化合物100質量部に対し81.2質量部の脂環式酸無水物系硬化剤と、脂肪環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤との合計100質量部に対し30〜40質量部のアクリル樹脂を含有し、そのアクリル樹脂が、グリシジルメタクリレートと、グリシジルメタクリレート100質量部に対し230〜1000質量部のアルキルアクリレートとを共重合させた吸水率0.5%以下のものであるので、接着力、光学特性、耐腐食性のいずれも良好な結果を示した。
【0043】
それに対し、比較例1の接着剤組成物の場合、アクリル樹脂が脂環式エポキシ化合物に溶解しないので、フィルム外観に白濁が生じた。
【0044】
比較例2の接着剤組成物の場合、SEBSゴムが脂環式エポキシ化合物に溶解しないので、フィルム外観に白濁が生じた。
【0045】
比較例3の接着剤組成物の場合、SISゴムが脂環式エポキシ化合物に溶解しないので、フィルム外観に白濁が生じた。
【0046】
比較例4の接着剤組成物の場合、その硬化物が固く脆いため、接着強度が低くかった。
【0047】
比較例5の接着剤組成物の場合、アクリル樹脂の吸水率が高いため、Agメッキ配線に著しい腐食が生じた。
【0048】
比較例6の接着剤組成物の場合、アクリル樹脂が多くのグリシジル基を含有し、吸水率が高いため、Agメッキ配線に著しい腐食が生じた。
【0049】
比較例7の接着剤組成物の場合、アクリル樹脂が多くのOH基を含有し、吸水率が高いため、Agメッキ配線に著しい腐食が生じた。
【0050】
比較例8の接着剤組成物の場合、エポキシ化合物の含有量が多いため、エポキシ化合物の一部が未硬化のままとなり、接着強度が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の接着剤組成物は、特定割合の脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂とから構成され、しかもアクリル樹脂として、特定割合のグリシジルメタクリレートとアルキルアクリレートとを重合させたものであって、吸水率が所定割合以下のものを使用する。このため、接着力の低下、硬化物の白濁や着色及び回路基板の配線の腐食という問題の発生を大きく抑制することができる。よって、LEDチップなどの光半導体チップを回路基板にフリップチップ実装する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板にチップ部品をフリップチップ実装するための接着剤組成物であって、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂とを含有し、
脂環式酸無水物系硬化剤の含有量が、脂環式エポキシ化合物100質量部に対し80〜120質量部であり、該アクリル樹脂の含有量が、脂肪環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂との合計100質量部中に5〜50質量部であり、
該アクリル樹脂が、アルキル(メタ)アクリレートと、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対し2〜100質量部のグリシジルメタクリレートとを共重合させた吸水率1.2%以下の樹脂であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
該アクリル樹脂の重量平均分子量が5000〜200000であり且つガラス転移温度が50℃以下である請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項3】
脂環式エポキシ化合物が、グリシジルヘキサヒドロビスフェノールA又は3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートであり、脂環式酸無水物系硬化剤が、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物である請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
該アルキル(メタ)アクリレートが、エチルアクリレート、ブチルアクリレート又は2−エチルヘキシルアクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
脂肪環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂との合計100質量部に対し、0.01〜10質量部の熱酸化防止剤と、0.01〜10質量部の金属不活性剤と、0.01〜10質量部の紫外線吸収剤とを含有する請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
更に硬化促進剤として2−メチル−4−エチルイミダゾールを、脂肪環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とアクリル樹脂との合計100質量部に対し、0.01〜10質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
回路基板にチップ部品が請求項1〜6のいずれかに記載の接着剤組成物を用いてフリップチップ実装された接続構造体。
【請求項8】
チップ部品が、LED素子である請求項7記載の接続構造体。

【公開番号】特開2011−100927(P2011−100927A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256187(P2009−256187)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】