説明

液晶表示装置の製造方法

【課題】液晶表示装置の低抵抗配線を作製するにあたって、新スパッタ方式でスパッタリングした際に発生する新たな不良モードの発生を抑制する。
【解決手段】Al合金配線を有する液晶表示装置を製造するにあたって、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Sc、Cu、Si、Pt、Ir、Ru、Pd、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Fe、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Tc、ReおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を0.01〜20質量%の範囲で含み、残部が実質的にAlからなるインゴットまたは焼結体を、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法、粉末冶金法で作製するにあたって、ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素を含むガスを使用し、得られたインゴットまたは焼結体を加工してスパッタリングターゲットを作製する。このスパッタリングターゲットをスパッタして形成したAl合金膜にエッチング処理を施してAl合金配線を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低抵抗配線を適用した液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIに代表される半導体工業は急速に進捗しつつある。DRAM等の半導体素子においては、高集積化・高信頼性化が進むにつれて、微細加工技術に要求される精度も益々高まってきている。さらに、配線の形成等に用いられるスパッタリングターゲットについても、より均質な金属層の形成を可能にすることが求められている。
【0003】
各種配線形成用金属の中でも、アルミニウム(Al)は低抵抗配線の形成材料として注目されている。AlはTFT駆動タイプの液晶表示装置(LCD)のゲート線や信号線として用いられる配線膜としても期待されている。これは、LCDの画面サイズの大型化に伴って、低抵抗の配線膜が必要とされるようになってきたためである。例えば、10インチ以上の大型LCDでは10μΩcm以下の低抵抗配線が求められている。
【0004】
Al配線によれば、低抵抗配線が実現可能であるものの、Al膜はCVDプロセスや配線形成後の熱処理等による673K程度の加熱によって、ヒロックと呼ばれる突起が生じる。これは、加熱に伴うAl膜のストレス解放過程でAl原子が拡散し、このAl原子の拡散に伴って生じる突起である。このような突起がAl配線に生じると、その後のプロセスに悪影響を及すことから問題となっている。
【0005】
そこで、Al配線に例えばCu、Si、Pd、Ti、Zr、Hf、Nd、Y等の金属元素を微量添加することが試みられている(特許文献1参照)。これらの金属元素は、具体的にはAlターゲットに添加される。上記したような金属元素はAlと金属間化合物を形成するため、Alのトラップ材として機能する。これによって、上記したヒロックの形成が抑制される。高集積化された半導体素子や大型LCD用のAl配線の形成には、このような金属元素を微量含有するAl合金ターゲットが使用されつつある。
【0006】
ところで、半導体素子等の電子デバイスの高集積化、高信頼性化、高機能化が進むに連れて、その構造も複雑化して多層配線構造が採用されるようになってきている。そのため、微細加工技術は今よりもさらなる技術革新が必要とされている。配線に対しても、さらなる信頼性の向上や長寿命化が求められており、緻密でかつ高配向性のスパッタ膜が必要とされている。このようなスパッタ膜は、従来の一般的なスパッタ方式では得ることが困難であるため、ロングスロースパッタやリフロースパッタ等の新スパッタ方式が採用されつつある。
【0007】
ここで、一般的なスパッタリングにおいて、ターゲット中に偏析や内部欠陥が存在していると、異常放電等によりダストやスプラッシュ等が発生する。これらはDRAMやTFT素子等の形成時に欠陥を引起こす要因となる。そこで、ダストやスプラッシュ等の発生メカニズムの探求、解明が進められていると同時に、発生防止策の開発等が進められており、一部で実績を上げつつある。
【特許文献1】特開平5-335271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したロングスロースパッタやリフロースパッタ等の新スパッタ方式では、従来以上のハイパワー化や高温化が進められているため、ターゲットへの熱影響はこれまで以上となる。ロングスロースパッタやリフロースパッタでは、ターゲットに対する熱影響が例えば500℃程度まで上昇する。
【0009】
このような過酷な条件下にターゲットが晒されるロングスロースパッタやリフロースパッタによって、Cu、Si、Nd、Y等の金属元素を微量含有するAl合金ターゲットを用いてAl配線膜を形成した場合には、これまでに確認されたことのない不良モードが多数発生している。すなわち、100〜500μmというような大きさを有する超巨大ダストがスパッタ膜中に多数発生し、DRAMやTFT素子等の電子デバイスの歩留りを大幅に低下させている。
【0010】
ロングスロースパッタやリフロースパッタでは、スパッタ膜中に比較的大きな凹部や穴が発生するという問題が生じている。このような凹部や穴は耐エレクトロマイグレーション性や耐ストレスマイグレーション性を低下させる要因となるため、DRAMやTFT素子等の電子デバイスの歩留りを低下させる。超巨大ダストや比較的大きな凹部は従来のダスト対策では有効に防止することができないことから、ロングスロースパッタやリフロースパッタ等により健全な微細配線網の形成を可能にすることが求められている。
【0011】
さらに、上述したような金属元素を微量含有するAl配線(Al合金配線)においては、Alと添加元素との金属間化合物によりAlの拡散が抑制されるものの、生成した金属間化合物がAl配線のエッチングに対して悪影響を及すという問題が生じている。すなわち、金属間化合物を含むAl配線膜に対して、CDE(Chemical Dry Etching)やRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング、あるいはウェットエッチングを施した際に、金属間化合物が残渣と呼ばれる溶け残りの発生原因となる。これが微細配線網の形成に対して大きな障害をもたらしている。
【0012】
このようなことから、低抵抗配線の形成に用いられるAlターゲットおよびAl配線においては、膜形成後の加熱に伴うAlの拡散を抑制してヒロック等の発生を防止した上で、エッチング時における残渣の発生を抑制することが求められている。
【0013】
本発明の目的は、特にロングスロースパッタやリフロースパッタ等の新スパッタ方式でスパッタリングした際に発生する新たな不良モード(巨大ダストや大きな凹部)を抑制したAl合金配線を適用した液晶表示装置の製造方法、またヒロックと共にエッチング残渣の発生を防止した低抵抗のAl合金配線を適用した液晶表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の液晶表示装置の製造方法は、Al合金配線を有する液晶表示装置の製造方法において、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Sc、Cu、Si、Pt、Ir、Ru、Pd、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Fe、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Tc、ReおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を0.01〜20質量%の範囲で含み、残部が実質的にAlからなるインゴットまたは焼結体を、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法または粉末冶金法で作製するにあたって、ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素を含むガスを使用して、前記インゴットまたは焼結体を作製した後、前記インゴットまたは焼結体を加工してスパッタリングターゲットを作製する工程と、前記スパッタリングターゲットをスパッタしてAl合金膜を形成する工程と、前記Al合金膜にエッチング処理を施して、前記Al合金配線を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液晶表示装置の製造方法によれば、Al合金配線(Al合金膜)中の巨大ダスト、比較的大きな凹部、ヒロック等の発生、またエッチング時における残渣の発生を抑制することができるため、健全なゲート線や信号線を有する液晶表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。この実施形態のスパッタリングターゲットは、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Sc、Cu、Si、Pt、Ir、Ru、Pd、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Fe、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Tc、ReおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を0.1〜20質量%の範囲で含み、残部が実質的にAlからなるものである。ターゲット中に添加する元素は、Alと金属間化合物を形成する金属間化合物形成元素であることが好ましい。
【0017】
金属間化合物形成元素としては、Alと金属間化合物を形成する元素であれば種々の金属元素を用いることができる。具体的には、Cu、Si、Cr、Ni、Pt、Ir、Ta、W、Mo、Nb、Re等や、Y、Gd、Nd、Dy、Sm、Er等の希土類元素が挙げられる。この実施形態のスパッタリングターゲットでは、これら金属間化合物形成元素の他に、上記した元素群として列挙したように、金属間化合物を形成しない元素を添加元素として採用することも可能である。
【0018】
これら各種添加元素のうち、スパッタリングターゲットを半導体素子の配線形成用として用いる場合には、Cu、W、Mo、Ru、Pt等の導電性の高い材料を使用することが好ましく、特にCuが望ましい。これらは例えば配線幅が0.25μm以下というような超微細配線の形成に対して効果的である。また、スパッタリングターゲットを液晶表示装置の配線形成用として用いる場合には、添加元素としてY、Gd、Nd、Dy、Sm、Er等の希土類元素を使用することが好ましい。
【0019】
この実施形態のスパッタリングターゲットは、金属間化合物形成元素を少なくとも1種含有していることが好ましい。上記したような元素はAlと金属間化合物(例えばCuであればAl3Cu、YであればAl3Y)を形成するため、得られるスパッタ膜に熱処理を施した際にAlの拡散が抑制され、その結果としてヒロック等の発生が防止される。使用する金属間化合物形成元素のAlに対する固溶度は1.0質量%以下であることが好ましい。使用する元素のAlに対する固溶度が1.0質量%を超えると、Alとの金属間化合物の形成によるヒロックの抑制効果を十分に得ることができないおそれがあると共に、比抵抗の増大を招くおそれがある。
【0020】
金属間化合物形成元素は0.1〜20質量%の範囲でスパッタリングターゲットに含有させる。金属間化合物形成元素の含有量が0.1質量%未満であると、上述したヒロックの抑制効果を十分に得ることができない。一方、20重量%を超えると金属間化合物がスパッタ膜、すなわちAl配線膜の抵抗を増大させる。より好ましい添加量は0.1〜10重量%の範囲であり、さらに望ましくは0.5〜1.5重量%の範囲である。また、スパッタリングターゲットを液晶表示装置の配線形成用等として用いる場合において、金属間化合物形成元素の含有量が20質量%を超えると金属間化合物が得られるスパッタ膜、すなわちAl配線膜の抵抗を増大させたり、またドライエッチングやウェットエッチング時の残渣となる。より好ましい添加量は1〜15質量%の範囲である。
【0021】
この実施形態のスパッタリングターゲットは、上述したような添加元素をターゲット組織中に均一に分散させたものである。添加元素の分散度はEPMA(Electron Probe X-ray Microanalyzer:電子線プローブ(X線)マイクロアナライザ)解析のマッピングにより規定される。すなわち、金属間化合物形成元素等の添加元素のEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数が22以上の部分を面積比で60%未満とすることが好ましい。金属間化合物形成元素のカウント数が22以上の部分は20×20μmの測定領域内に面積比で40%未満とすることがさらに好ましい。
【0022】
ここで、EPMA解析のマッピングは下記の表1に示す条件で測定したものである。
【表1】

EPMAによれば、元素の面内分散状態を正確に測定することができる。その際の測定感度のカウント数が22以上の部分とは、測定対象元素の分布が多い領域を示すものである。すなわち、金属間化合物形成元素のEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数が22以上の部分を60%未満としたスパッタリングターゲットは、金属間化合物形成元素を極めて均一に分散させたものであるということができる。
【0023】
このような金属間化合物形成元素の分散状態を満足させることによって、ロングスロースパッタやリフロースパッタ等の新スパッタ方式を適用した場合においても、超巨大ダストの発生を抑制することが可能となる。通常のスパッタ方式においても、金属間化合物形成元素のカウント数が22以上の部分を20×20μmの測定領域内に面積比で60%未満とすることによって、ダストの発生を抑制することができる。
【0024】
ロングスロースパッタやリフロースパッタ等のスパッタ方式では、ターゲットへの熱影響がこれまで以上(例えば500℃程度)となるため、ターゲットを構成している原子の自由エネルギーも大きくなる。このような現象に伴って、添加元素としての金属間化合物形成元素等は安定領域を求めて結晶粒界に凝集し、結晶粒界と粒内部とのスパッタレートを大きく異ならせる。このため、粒内部だけが局所的に残存し、さらにはターゲット表面に巨大な凸部が形状される。これが塊となって飛散することによって、超巨大ダストが基板に付着する。
【0025】
超巨大ダストの発生原因となる添加元素の凝集は、当初の分散状態が不均一であるほど、言い換えると添加元素が偏析しているほど顕著となる。すなわち、EPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数が22以上の部分が60%を超えると、超巨大ダストの発生が促進されて歩留りが大幅に低下する。
【0026】
金属間化合物形成元素等の添加元素の測定感度のカウント数が22以上の部分は、一般的なEPMAの観察範囲である200×200μmの範囲内に面積比で10%未満とすることが好ましい。EPMA解析のマッピングにおいて200×200μmの測定範囲内にカウント数が22以上の部分が10%以上存在すると、同様に超巨大ダストの発生が促進されて歩留りが大幅に低下する。金属間化合物形成元素のカウント数が22以上の部分は200×200μm
の測定範囲内に5%未満とすることがさらに好ましい。このようなスパッタリングターゲットは、ターゲット全体がほぼ均一な組織を有しているため、超巨大ダストの発生を安定にかつ再現性よく抑制することができる。
【0027】
この実施形態のスパッタリングターゲットは、さらにターゲット中に不純物元素として含まれるCr、Fe、Cを均一に分散させることが好ましい。これらの元素の分散度は同様にEPMA解析のマッピングにより規定される。この際のEPMA解析のマッピングは、上記した表1に示した条件で測定したものとする。
【0028】
すなわち、Cr、Fe、CのEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数がCrの場合には33以上、Feの場合には20以上、Cの場合には55以上の部分を、面積比で60%未満としている。Cr、FeおよびCはAl合金ターゲットの結晶粒界に凝集しやすく、スパッタ膜中の比較的大きな凹部や穴(およびその発生原因となる巨大ダスト)の発生要因となりやすい。
【0029】
そこで、CrはEPMA解析のマッピングにおいて20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数が33以上の部分を面積比で60%未満とする。Feは同様に測定感度のカウント数が20以上の部分を面積比で60%未満とする。Cは同様に測定感度のカウント数が55以上の部分を面積比で60%未満とする。ここで規定するCr、FeおよびCは、あくまでもターゲット中の不純物元素であり、CrやFeを金属間化合物形成元素として用いる場合にはこの限りではない。
【0030】
EPMAによれば元素の面内分散状態を正確に測定することができる。その際の測定感度のカウント数が大きい部分とは、測定対象元素の分布が多い領域を示す。すなわち、Cr、Fe、CのEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数がそれぞれ33以上、20以上、55以上の部分を面積比で60%未満としているスパッタリングターゲットは、不可避な不純物元素を均一に分散させたものであるということができる。
【0031】
上述したように、Cr、FeおよびCの分散状態を均一化させることによって、ロングスロースパッタやリフロースパッタ等の新スパッタ方式を適用した場合においても、巨大ダストおよびそれに基づく比較的大きな凹部や穴の発生を抑制することが可能となる。通常のスパッタ方式においても、ダスト発生の抑制に寄与する。
【0032】
ロングスロースパッタやリフロースパッタ等のスパッタ方式では、前述したようにターゲットを構成している原子の自由エネルギーが大きくなる。このような現象に伴って、ターゲット中に含まれるCr、Fe、Cは安定領域を求めて結晶粒界に凝集し、結晶粒界と粒内部とのスパッタレートに大きな差を生じさせる。このために、粒内部だけが局所的に残存し、さらにはターゲット表面に巨大な凸部が形成される。これが塊となって飛散して巨大ダストが基板に付着する。
【0033】
このような巨大ダストが基板に付着すると、その部分だけ膜の成長モードが変化し、その上部には膜の構成原子が積層しなくなる。このため、スパッタ膜に比較的大きな凹部や穴が形成される。このような比較的大きな凹部や穴の発生原因となる各元素の凝集は、当初の分散状態が不均一であるほど、言い換えると各元素が偏析しているほど顕著となる。すなわち、Cr、Fe、Cの各EPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数がそれぞれ33以上、20以上、55以上の部分が面積比で60%以上であると、巨大ダストおよびそれに基づく比較的大きな凹部や穴の発生が促進されて、スパッタ膜(Al配線膜)の歩留りが大幅に低下する。
【0034】
Cr、FeおよびCの測定感度のカウント数が各規定以上の部分、すなわちCrでは33以上、Feでは20以上、Cでは55以上の部分は、一般的なEPMAの観察範囲である200×200μmの範囲内に面積比で10%未満とすることが好ましい。EPMA解析のマッピングにおいて、200×200μmの測定範囲内にカウント数が各規定以上の部分が10%以上存在すると、同様に超巨大ダストの発生が促進されて歩留りが大幅に低下する。各元素のカウント数が各規定以上の部分は200×200μmの測定範囲内に5%未満とすることがさらに好ましい。
【0035】
このように、この実施形態のスパッタリングターゲットは、Cr、Fe、Cのような不純物元素を含めてターゲット全体をほぼ均一な組織としているため、巨大ダストおよびそれに基づく比較的大きな凹部や穴の発生を安定にかつ再現性よく抑制することができる。なお、この実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、Cr、FeおよびCに関する規定は不純物元素の分散状態を規定したものであるが、不純物元素量は本質的に低減することが好ましいことは当然である。具体的な不純物元素量(総和)としては1質量%以下とすることが好ましい。不純物元素としてのCrは0.1質量%以下、Feは0.1質量%以下、Cは0.05質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
上述したスパッタリングターゲットは、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法(スプレーフォーミング法)、粉末冶金法等、各種公知の製造方法を適用して作製することができるが、特に以下に示す製造工程を適用することが好ましい。
【0037】
まず、高純度Al(例えば純度99.99%以上)に所定量の添加元素を配合し、例えば連続鋳造法(大気溶解)を用いてインゴットを作製する。ここで、Al合金原科を大気溶解する際に、Ar等の不活性ガスで溶湯をバブリングすることが好ましい。Ar等によるバブリングは、単に不純物元素量の低減に寄与するだけでなく、不可避的に残存するCr、Fe、Cを均一に分散させる効果を有する。これによって、例えば真空溶解と同程度の含有量であっても、それらの分散状態が均一なAl合金材料が得られる。ビレットのサイズは直径100〜500mm程度とすることが好ましい。このようなビレットに一次熱処理を施した後、冷却する。一次熱処理は450〜600℃の温度で5時間以上行うことが好ましい。このような熱処理によって、添加元素や不純物元素の均質化を図ることができる。なお、ここでの冷却は空冷、炉冷、急冷のいずれを使用してもよい。
【0038】
次に、鍛造や圧延等の塑性加工を行う。鍛造による塑性加工では30〜80%の加工率を与えることが好ましい。圧延による塑性加工では40〜99%の加工率を与えることが好ましい。このような加工率の塑性加工によれば、その際にインゴットに印加される熱エネルギーによって、金属間化合物形成元素等の添加元素、さらにはCr、Fe、C等の不純物元素を均等に分散させることができる。さらに、この熱エネルギーは結晶格子の配列を整合させる役割を果たし、微小内部欠陥を除去するのにも有効な作用をもたらす。この後、二次熱処理として200〜500℃の温度で10分間以上の加熱処理を行う。このようにして得た素材を機械加工して、所定サイズのスパッタリングターゲットを作製する。
【0039】
この実施形態のスパッタリングターゲットは、金属間化合物形成元素等の添加元素に加えて、ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素を5質量%以下(0質量%を含まず)の範囲で含有させることができる。ArやKrはエッチング時に金属間化合物や金属間化合物形成元素自体の反応性を高める作用を有する。すなわち、ArやKrは金属間化合物や金属間化合物形成元素のエッチングに対して触媒的な効果を発揮する。さらに、ArやKrは金属間化合物や金属間化合物形成元素自体の微細析出に対して有効に作用するため、得られるスパッタ膜(Al配線膜)中の金属間化合物や金属間化合物形成元素自体を、Alの粒内や粒界に微細にかつ均一に析出させることができる。
【0040】
このように、Al配線膜中の金属間化合物や金属間化合物形成元素のエッチング反応性をArやKrにより高めると共に、金属間化合物や金属間化合物形成元素自体をAl配線膜中に微細にかつ均一に析出させることによって、Al配線膜全体のエッチング性を大幅に高めることができる。従って、Al配線膜にドライエッチング等で配線網を形成する際に、エッチング残渣が発生することを抑制することが可能となる。さらに、金属間化合物や金属間化合物形成元素自体の微細かつ均一な析出は、スパッタ時におけるダストの発生をも抑制する。従って、この実施形態のスパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜してなるAl配線膜は、微細配線網の形成性に優れたものとなる。
【0041】
ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は、スパッタリングターゲットに対して5質量%以下の範囲とする。ArやKrの含有量が5質量%を超えると、余分なArやKrがAl粒界等に析出し、逆にエッチング性を低下させる。より好ましいArやKrの含有量は1質量ppb〜0.1質量%の範囲であり、さらに好ましくは1〜100質量ppmの範囲である。
【0042】
ArやKrを含有するスパッタリングターゲットの製造方法は、例えば溶解法や粉末冶金法等の公知の製造方法を適用して作製することができる。溶解法を適用する場合には、まずAlにY等の金属間化合物形成元素を所定量配合し、これを真空中で誘導溶融する。この際、溶湯をArやKrでバブリングすることによって、溶湯に所定量のArやKrを含有させることができる。このようにして、Y等の金属間化合物形成元素とArおよびKrから選ばれる少なくとも1種とを含有するインゴットを作製する。
【0043】
粉末冶金法を適用する場合には、AlにY等の金属間化合物形成元素を所定量配合し、これを常圧焼結、ホットプレス、HIP等を施して焼結体を作製する。この際、焼結工程をArやKrを含む雰囲気中で実施することによって、Y等の金属間化合物形成元素と共に、ArやKrを含有する焼結体が得られる。
【0044】
なお、上述した種々の製造方法のうち、比較的高密度で高純度品が得られやすい溶解法が適している。表2に種々の方法を適用した際のAl合金中のAr量およびKr量の代表例を示す。Ar量およびKr量はガス分析法(赤外線吸収法)で測定した。
【表2】

【0045】
溶解法により得られたインゴットや粉末冶金法により得られた焼結体には、熱間加工、冷間加工等が施され、また必要に応じて再結晶熱処理や結晶方位制御等が行われ、目的とするスパッタリングターゲットが得られる。これらの条件は前述した通りである。大型ターゲットの場合には、拡散接合等を行って所望形状のターゲットとしてもよい。ただし、大面積のLCD等の形成に用いられる大型ターゲットを作製する場合には、溶解法で一括形成することがスパッタ時のダスト発生を抑制する上で好ましい。なお、目的とするスパッタリングターゲットによって、必要とされる純度、組織、面方位等が異なることがあるため、これら要求特性に応じて製造方法を適宜設定することができる。
【0046】
この実施形態のスパッタリングターゲットは、Cu製バッキングプレート等と接合されて使用される。ターゲットとバッキングプレートとの接合には、In、ZnおよびSnの少なくとも1種、あるいはそれらを含むろう材を用いたろう付け接合、または拡散接合等が採用される。また、別個のバッキングプレートを使用するのではなく、スパッタリングターゲットの作製時にバッキングプレート部分を同時に形成した一体型のスパッタリングターゲットであってもよい。
【0047】
この実施形態のAl配線膜(Al合金膜)は、上述したスパッタリングターゲットを用いて、例えばロングスロースパッタやリフロースパッタ等で成膜することにより得られる。Al配線膜は通常のスパッタ方式で成膜したものであってもよい。前述したように、この実施形態のスパッタリングターゲットによれば、超巨大ダストの発生、さらには比較的大きな凹部や穴等の発生が抑制されているため、Al配線膜の製品歩留りを大幅に向上させることができる。その上で、上記したような新スパッタ方式に基づいて、緻密でかつ高配向性のAl配線膜を提供することができる。さらに、添加する金属間化合物形成元素に基づいて、Alの拡散に基づくヒロックの発生等を有効に防止することができる。
【0048】
本発明の液晶表示装置(LCD)の製造方法においては、このようなAl配線膜にエッチング処理を施してゲート線や信号線(Al合金配線)を形成する。この実施形態のAl配線膜は、特に大型化および高精細化されたLCDパネルの製造に対して有効である。さらに、ArやKrを含有するスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜することにより得られるAl配線膜は、液晶表示装置の配線用として好適である。
【0049】
このようなAl配線膜では、Y等の金属間化合物形成元素もしくはこの元素とAlとの金属間化合物が微細にかつ均一に析出している。金属間化合物形成元素は同時添加したArやKrによりエッチングが促進され、また金属間化合物形成元素自体およびAlとの金属間化合物はArやKrによりAlの粒内や粒界に微細にかつ均一に析出する。これらによって、Al配線膜のエッチング性は大幅に向上する。また、スパッタ時のダスト発生量が抑制されるため、微細ダストの含有量も大幅に低減される。
【0050】
そして、熱処理等の加熱に伴うAlの拡散は、金属間化合物形成元素とAlとが金属間化合物を形成することにより抑制されるため、Alの拡散によるヒロックの発生を有効に防止することができる。従って、このようなAl配線膜は耐ヒロック性に優れ、ヒロックの発生によりその後のプロセスに悪影響を及すことがないと共に、微細配線網の形成性に優れるものである。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の具体的な実施例について述べる。
【0052】
実施例1
まず、Alに対して0.5質量%のCuを配合し、連続鋳造法(大気溶解)を用いて目的組成のインゴットを作製した。このインゴットに対して、熱間圧延、冷間圧延および熱処理を施した後、機械加工により直径320mm×厚さ20mmのAl合金ターゲットを作製した。この際、熱間圧延、冷間圧延および熱処理の各条件を変化させることによって、Cuの分散度が異なる10個のAl合金ターゲットを得た。Cuの分散度は前述した表1に示すEPMA装置を用いて測定、評価したものである。
【0053】
Cuの分散度を表3に示す。Cuの分散度はEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内の測定感度のカウント数が22以上の部分の面積比(%)と、200×200μmの観察範囲内におけるカウント数が22以上の部分の面積比(%)を示す。
【0054】
このようにして得た10個のAl合金ターゲットを用いて、従来タイプのスパッタ方式により、それぞれ直径8インチのSi基板上に厚さ300nmのAl合金膜を成膜した。スパッタ条件は、背圧1×10-5Pa、出力DC1.5kW、スパッタ時間1minとした。このようにして得た各Al合金膜中のダストを、ダストカウンタ装置(WM−3)を用いて測定した。ダスト数は大きさごとに測定した。これらの測定結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3から明らかなように、実施例のスパッタリングターゲットによれば、ダストの発生数が抑制されていることが分かる。そのようなスパッタリングターゲットを用いて成膜したAl合金膜は、ダスト数の減少に基づいて製品歩留りを大幅に向上させることができ、かつ均一な組織を有する配線膜を提供することができる。
【0057】
実施例2
実施例1で作製した10個のAl合金ターゲットを用いて、スパッタ方式をリフロースパッタリングに変更する以外は、それぞれ実施例1と同一条件でAl合金膜を成膜し、また同様にしてダスト数を測定した。その結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4から明らかなように、実施例のスパッタリングターゲットによれば、サイズが0.3μm以上のダストについても発生が抑制されているが、特にリフロースパッタリング等で問題とされている超巨大ダストの発生が抑制されていることが分かる。そして、そのようなスパッタリングターゲットを用いて成膜したAl合金膜は、ダスト数の減少に基づいて製品歩留りを大幅に向上させることができ、かつ均一な組織を有する配線膜を提供することができる。
【0060】
実施例3
Alに対して各種の元素(Si、Cr、Y、Ni、Nd、Pt、Ir、Ta、W、Mo)を表5に示す配分量で添加し、それぞれ連続鋳造法(大気溶解)を用いて目的組成のインゴットを作製した。これら各インゴットに対して、熱間圧延、冷間圧延および熱処理を施した後、機械加工により直径320mm×厚さ20mmのAl合金ターゲットを作製した。この際、熱間圧延、冷間圧延および熱処理の各条件を適宜選択することによって、添加元素の分散度を規定範囲内とした。各添加元素の分散度は実施例1と同様にして測定した。
【0061】
このようにして得た各Al合金ターゲットを用いて、リフロータイプのスパッタ方式により、それぞれ直径8インチのSi基板上に厚さ300nmのAl合金膜を成膜した。スパッタ条件は、背圧1×10-5Pa、出力DC1.5kW、スパッタ時間1minとした。このようにして得た各Al合金膜中のダストを実施例1と同様にして測定した。その結果を表5に併せて示す。
【0062】
【表5】

【0063】
表5から明らかなように、実施例のスパッタリングターゲットによれば、サイズが0.3μm以上のダストについても発生が抑制されているが、特にリフロースパッタリング等で問題とされている超巨大ダストの発生が抑制されていることが分かる。そして、そのようなスパッタリングターゲットを用いて成膜したAl合金膜は、ダスト数の減少に基づいて製品歩留りを大幅に向上させることができ、かつ均一な組織を有する配線膜を提供することができる。
【0064】
上記した実施例1〜3の各Al合金ターゲットをスパッタリングして得られたAl配線膜を、半導体素子、LCDパネルおよびSAWデバイスのAl配線膜として使用した。その結果、それぞれ信頼性の高い電子部品が得られた。
【0065】
実施例4
Alに対して0.5質量%のCuを配合し、連続鋳造法(大気溶解)を用いて目的組成のインゴットを作製した。大気溶解はArによるバブリングを行いながら実施した。このようにして得たインゴットに対して、一次熱処理、熱間圧延、冷間圧延および二次熱処理を施した後、機械加工により直径320mm×厚さ20mmのAl合金ターゲットを作製した。
【0066】
この際、溶解、熱間圧延、冷間圧延および熱処理の各条件を変化させることによって、Cr、Fe、Cの分散度が異なる複数のAl合金ターゲットを得た。これら各元素の分散度は前述した表1に示したEPMA装置を用いて測定、評価したものである。
【0067】
各元素の分散度を表6に示す。各元素の分散度は、EPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内の測定感度のカウント数が規定以上の部分の面積比(%)と、200×200μmの観察範囲内の測定感度のカウント数が規定以上の部分の面積比(%)を示す。
【0068】
このようにして得た各Al合金ターゲットを用いて、リフロースパッタ方式により、それぞれ直径8インチのSi基板上に厚さ300nmのAl合金膜を成膜した。スパッタ条件は、背圧1×10-5Pa、出力DC1.5kW、スパッタ時間1minとした。このようにして得た各Al合金膜中のダストを、ダストカウンタ装置(WM−3)を用いて測定した。ダスト数は大きさごとに測定した。
【0069】
次に、上記した各Al合金膜に対してフォトリソグラフィーを実施し、それぞれ幅2μm、長さ2mmの細線を30本ずつ作製した。これら細線の信頼性を評価するために、電流密度106A/cm2、通電時間200時間、ウェハー温度150℃の条件で試験電流を流して通電試験を行った。その通電の結果、断線が発生した細線を基にして断線率(%)を求めた。その結果を表6に併せて示す。
【0070】
【表6】

【0071】
表6から明らかなように、実施例のスパッタリングターゲットによれば、ダストの発生数、特に巨大ダストの発生数が抑制されており、これに基づいて大きな凹部の発生数が極めて少なかった。また、凹部の発生数が極めて少ないことから、配線としての信頼性が極めて高い(断線率が少ない)ことが分かる。このようなAl合金膜を配線膜として用いることによって、製品歩留りを大幅に向上させることができ、かつ均一な組織を有する配線膜を提供することができる。
【0072】
実施例5
Alに対して0.5質量%のCuを配合し、連続鋳造法(大気溶解)を用いて目的組成のインゴットを作製した。大気溶解はArによるバブリングを行いながら実施した。このようにして得たインゴットに対して、一次熱処理、熱間圧延、冷間圧延および二次熱処理を施した後、機械加工により直径320mm×厚さ20mmのAl合金ターゲットを作製した。
【0073】
この際、溶解、熱間圧延、冷間圧延および熱処理の各条件を変化させることによって、金属間化合物形成元素として添加したCuの分散度、および不純物元素としてのCr、Fe、Cの分散度が異なる複数のAl合金ターゲットを得た。これら各元素の分散度は前述した表1に示したEPMA装置を用いて測定、評価したものである。各元素の分散度を表7に示す。
【0074】
Cuの分散度はEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内の測定感度のカウント数が22以上の部分の面積比(%)と、200×200μmの観察範囲内におけるカウント数が22以上の部分の面積比(%)を示す。Cr、Fe、Cの分散度はEPMA解析のマッピングにおいて、20×20μmの測定領域内の測定感度のカウント数が規定以上の部分の面積比(%)と、200×200μmの観察範囲内の測定感度のカウント数が規定以上の部分の面積比(%)を示す。
【0075】
【表7】

【0076】
このようにして得た各Al合金ターゲットを用いて、リフロースパッタ方式により、それぞれ直径8インチのSi基板上に厚さ300nmのAl合金膜を成膜した。スパッタ条件は、背圧1×10-5Pa、出力DC1.5kW、スパッタ時間1minとした。このようにして得た各Al合金膜中のダストを、ダストカウンタ装置(WM−3)を用いて測定した。ダスト数は大きさごとに測定した。次に、上記した各Al合金膜の断線率(%)を、実施例4と同様にして求めた。その結果を表8に示す。
【0077】
【表8】

【0078】
表8から明らかなように、実施例のスパッタリングターゲットによれば、サイズが0.3μm以上のダストについても発生が抑制されているが、特にリフロースパッタリング等で問題とされている超巨大ダストの発生が抑制されていることが分かる。さらに、凹部の発生数も極めて少なく、これに基づいて配線としての信頼性が極めて高い(断線率が少ない)ことが分かる。このようなAl合金膜を配線膜として用いることで、製品歩留りを大幅に向上させることができ、かつ均一な組織を有する配線膜を提供することができる。
【0079】
上記した実施例4〜5の各Al合金ターゲットをスパッタリングして得られたAl配線膜を、半導体素子、LCDパネルおよびSAWデバイスのAl配線膜として使用した。その結果、それぞれ信頼性の高い電子部品が得られた。
【0080】
実施例6
Alに対して6質量%のYを添加した原科を高周波誘導溶解(Arのバブリング処理を含む)して、目的組成のインゴットを作製した。このインゴットに対して冷間圧延および機械加工を施し、直径127mm×厚さ5mmのAl合金ターゲットを得た。このAl合金ターゲットの組成は、Al−6wt%Y−20ppmArであった。
【0081】
このようにして得たAlターゲットをCu製のバッキングプレートに拡散接合して、この実施例のスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットを用いて、背圧1×10-4Pa、出力DC200W、スパッタ時間43minの条件で、直径5インチのガラス基板上に回転成膜して、厚さ350nmのAl合金膜を成膜した。
【0082】
このAl合金膜の組成、比抵抗、熱処理(573K)後のヒロック密度、エッチング残渣の有無を測定評価した。なお、エッチング残渣の評価試験におけるエッチングは、BCl3+Cl2の混合ガスをエッチングガとして用いて行った。これらの結果を表9に示す。
【0083】
また、本発明との比較例として、YおよびArを添加しないで作製したAlターゲット(比較例1)と、Arを添加しない以外は実施例6と同一条件で作製したAl合金ターゲット(比較例2)とを用いて、それぞれ同様にAl膜およびAl合金をスパッタ成膜した。そして、これら各膜についても実施例6と同様に特性(熱処理後)を評価した。これらの結果を併せて表9に示す。
【0084】
【表9】

【0085】
表9から明らかなように、実施例のスパッタリングターゲットを用いて成膜したAl合金膜は、耐ヒロック性およびエッチング性に優れることが分かる。よって、このようなAl合金膜を配線膜として用いることによって、ヒロックの発生を抑制した上で健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。
【0086】
実施例7
表10に示すように、YおよびArの含有量を変化させたスパッタリングターゲットを、それぞれ実施例6と同様にして作製した後、実施例6と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl合金膜(Al配線膜)を得た。これら各Al合金膜の特性を実施例6と同様にして測定、評価した。その結果を併せて表10に示す。
【0087】
【表10】

【0088】
実施例8
Yに代えて各種元素を用いたAlターゲット(表11に組成を示す)を、それぞれ実施例6と同様にして作製した後、実施例6と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl合金膜(Al配線膜)を得た。これら各Al合金膜の特性を実施例6と同様にして測定、評価した。その結果を併せて表11に示す。
【0089】
【表11】

【0090】
実施例9
Alに対して6質量%のYを添加した原料を高周波誘導溶解(Krのバブリング処理を含む)して、目的組成のインゴットを作製した。このインゴットに対して冷間圧延および機械加工を施し、直径127mm×厚さ5mmのAl合金ターゲットを得た。このAl合金ターゲットの組成は、Al−6wt%Y−20ppmKrであった。
【0091】
このようにして得たAl合金ターゲットを用いて、背圧1×10-4Pa、出力DC200W、スパッタ時間43minの条件で直径5インチのガラス基板上に回転成膜して、厚さ350nmのAl合金膜を成膜した。このAl合金膜の組成、比抵抗、熱処理(573KK)後のヒロック密度、エッチング残渣の有無を測定評価した。評価方法は実施例6と同様とした。
【0092】
また、本発明との比較例として、YおよびKrを添加しないで作製したAlターゲット(比較例3)と、Krを添加しない以外は実施例9と同一条件で作製したAl合金ターゲット(比較例4)とを用いて、それぞれ同様にAl膜およびAl合金膜をスパッタ成膜した。そして、これら各膜についても実施例6と同様に特性(熱処理後)を評価した。これらの結果を併せて表12に示す。
【0093】
【表12】

【0094】
表12から明らかなように、実施例のAlスパッタリングターゲットを用いて成膜したAl合金膜は、耐ヒロック性およびエッチング性に優れることが分かる。よって、このようなAl合金膜を配線膜として用いることによって、ヒロックの発生を抑制した上で健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。
【0095】
実施例10
表13に示すように、YおよびKrの含有量を変化させたAlスパッタリングターゲットを、それぞれ実施例9と同様にして作製した後、実施例9と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl合金膜(Al配線膜)を得た。これら各Al合金膜の特性を実施例9と同様にして測定、評価した。その結果を併せて表13に示す。
【0096】
【表13】

【0097】
実施例11
Yに代えて各種元素を用いたAlターゲット(表14に組成を示す)を、それぞれ実施例9と同様にして作製した後、実施例9と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl合金膜(Al配線膜)を得た。これら各Al合金膜の特性を実施例9と同様にして測定、評価した。その結果を併せて表14に示す。
【0098】
【表14】

【0099】
実施例6〜11の各Al合金ターゲットをスパッタリングして得られたAl配線膜を、LCDパネルのゲート線および信号線、半導体素子の配線網、SAWデバイスおよびTPHの配線として使用した。その結果、それぞれ信頼性の高い電子部品が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金配線を有する液晶表示装置の製造方法において、
Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Sc、Cu、Si、Pt、Ir、Ru、Pd、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Fe、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Tc、ReおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を0.01〜20質量%の範囲で含み、残部が実質的にAlからなるインゴットまたは焼結体を、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法または粉末冶金法で作製するにあたって、ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素を含むガスを使用して、前記インゴットまたは焼結体を作製した後、前記インゴットまたは焼結体を加工してスパッタリングターゲットを作製する工程と、
前記スパッタリングターゲットをスパッタしてAl合金膜を形成する工程と、
前記Al合金膜にエッチング処理を施して、前記Al合金配線を形成する工程と
を具備することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記インゴットの作製に前記大気溶解法または真空溶解法を適用し、かつ前記溶解法における溶湯を前記ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素を含むガスでバブリングすることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記インゴットの作製に前記急冷凝固法としてスプレーフォーミング法を適用することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記インゴットまたは焼結体に前記ArおよびKrから選ばれる少なくとも1種の元素を5質量%以下(ただし0質量%を含まず)の範囲で含有させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Sc、Cu、Si、Pt、Ir、Ru、Pd、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Fe、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Tc、ReおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素は、Alと金属間化合物を形成する元素であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記スパッタリングターゲットをロングスロースパッタまたはリフロースパッタして、前記Al合金膜を形成することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の液晶表示装置の製造方法において、
前記Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Sc、Cu、Si、Pt、Ir、Ru、Pd、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Fe、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Tc、ReおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を、EPMAの解析のマッピングにおいて20×20μmの測定領域内に測定感度のカウント数が22以上の部分が面積比で60%未満となるように、前記スパッタリングターゲット中に分散させることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。


【公開番号】特開2006−113577(P2006−113577A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276823(P2005−276823)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【分割の表示】特願2000−526677(P2000−526677)の分割
【原出願日】平成10年12月24日(1998.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】