説明

湿式処理方法及び湿式処理装置

【課題】微細な穴を有する板状体を処理液に浸漬して行う湿式処理において、穴に気泡が残留することをより十分に抑制し、より均一な湿式処理を実現することが可能な湿式処理方法及び湿式処理装置を提供する。
【解決手段】密閉容器11内に板状体3を保持した状態で密閉容器11内を減圧する減圧工程と、減圧工程の後,密閉容器11内が減圧された状態で密閉容器11内へ処理液2に溶解可能な溶解性気体8を導入する溶解性気体導入工程と、溶解性気体導入工程の後,密閉容器11内が溶解性気体8で充満された状態で密閉容器11内へ処理液2を導入する処理液導入工程とを備えることにより、微細な穴に気泡が残留しない状態で基板3の湿式処理ができるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な穴等の複雑形状を有する半導体基板,プリント配線板などの板状体(基板)を処理液に浸漬して行うエッチング,洗浄,めっきなどの湿式処理において、微細な穴等に気泡が滞留し処理液の接触が妨げられることによる不具合を発生させることなく、均一な湿式処理を実現するための湿式処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板,プリント配線板などの基板に対する湿式処理として、エッチング,洗浄,めっきなどの処理が行われるが、微細な穴等の複雑形状を有する半導体基板,プリント配線板などの基板を処理液に浸漬して行う湿式処理では、微細な穴等に残留する気泡が問題となる。
【0003】
図5は従来の湿式処理装置を示す構成図である。図5(a)に示されるように、湿式処理槽1内に入れられた処理液2に処理対象の板状体(基板)3が浸漬されている。図5(b)は、板状体3(図5(a))におけるC部拡大図であり、板状体3の微細な穴4の部分の断面構造を例示するものである。この穴4は非貫通の穴となっており、穴4の内部に気泡5が残留した状態が示されている。そして、この穴4のような非貫通の穴では特に気泡が残留しやすい。
【0004】
なお、穴の形状としては、例えば穴径0.2mm以下、アスペクト比1以上のものでは、上記のような気泡残留の問題が有る。
このように、基板の湿式処理において微細な穴の内部に気泡が残留していると、気泡が残留している穴の部分で処理液の接触不足が発生することになり、これにより、成膜不良や洗浄残りなどの不良が発生する。
【0005】
そして、上述のような微細な穴等を有する基板を処理液に浸漬して行う湿式処理において微細な穴等に気泡が残留することを抑制する対策(気泡除去対策)として例えば次のような方式が提案されている。
【0006】
(従来方式1)
非貫通孔を有する基板を浴槽内に入れためっき液に浸漬して、振動及び揺動を与えると同時に浴槽内を減圧することにより非貫通孔内の気泡を排出して非貫通孔内にめっき液が入り易くするものである(例えば特許文献1参照)。
【0007】
(従来方式2)
微細な穴が形成された基板をめっき槽に入れためっき液に浸漬して、超音波で微細な穴に積極的に気泡を発生させた後、めっき槽ごと減圧して微細な穴内の気泡を除去(脱泡)するものであって、めっき液を微細な穴内部に行き渡らせる攪拌の効果を奏するようにしたものである(例えば特許文献2参照)。
【0008】
(従来方式3)
非貫通穴を有する基板を処理液槽に基板面が処理液面と垂直になるように浸漬して、基板の上下方向の振動に円運動を組み合わせることによって非貫通孔内の気泡を除去するようにしたものである(例えば特許文献3参照)。
【0009】
(従来方式4)
基板の非貫通穴の底部に更に小さな脱泡穴を設けて、非貫通穴の底部にたまった気泡が脱泡穴から排出することができるようにしたものである(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−211384号公報
【特許文献2】特開2000−101230号公報
【特許文献3】特開平07−326892号公報
【特許文献4】特開平09−326539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、微細な穴等を有する基板の湿式処理における気泡除去対策として例えば従来方式1〜4が提案されているが、それぞれ次のような点が問題と考えられる。
(従来方式1における問題)
従来方式1は、非貫通孔を有する基板をめっき液に浸漬した後に減圧することで、非貫通孔内に滞留した気泡を膨張させ非貫通孔内から除去しようとしているものであるが、この方式では、非貫通孔内に滞留した気泡のうち、膨張により非貫通孔からはみ出した部分の気泡は除去されるものの、残りの部分の気泡は残留したままとなる。また、この方式では、減圧したままでめっき処理を実施するため、見かけ上気泡は大きい状態で存在していることとなり、気泡除去対策として大きな効果は期待できない。
【0012】
(従来方式2における問題)
従来方式2は、超音波によるキャビティ発生により微細な穴内の気泡を除去し、さらに減圧により気泡を低減しようとしているものであるが、この方式では、キャビティの発生位置にばらつきが生じるので、基板全面で均一な気泡除去効果を奏するようにして気泡を完全に除去することは困難である。
【0013】
(従来方式3における問題)
従来方式3は、基板の上下方向の振動に円運動を加えた揺動により、非貫通穴内の気泡の除去効果を高めようとしているものであるが、この方式も、気泡残留の程度は低減するものの、完全な除去は困難と考えられ、また、アスペクト比が大きい非貫通穴では気泡が残留する可能性が高い。
【0014】
(従来方式4における問題)
従来方式4は、基板の非貫通穴の底部に更に小さな脱泡穴を設けることで気泡の残留を抑制しようとしているものであるが、この方式では、基板における全ての非貫通穴の底部に脱泡穴を形成しなければならないため、基板設計上の制約が大きいことが難点である。
【0015】
このように、微細な穴等を有する基板の湿式処理における気泡除去対策のうち、湿式処理プロセスの改良を図った従来方式1〜3では気泡除去効果がまだ不十分であり、基板構造の改良を図った従来方式4では特に基板設計上の制約が大きいことが難点である。
【0016】
そして、従来方式4におけるような基板設計上の制約が大きいことは実製品への適用において基本的な問題となることを考慮すると、微細な穴等、そして特に非貫通の微細な穴を有する基板の湿式処理における気泡除去対策としては、湿式処理プロセスの更なる改良により気泡除去効果の向上を図ることが適当と考えられる。
【0017】
このため、本発明は、上記のような問題点を解決し、例えば気泡が特に残留しやすい非貫通の微細穴などの穴を有する板状体(基板)を処理液に浸漬して行う湿式処理において、穴に気泡が残留することをより十分に抑制し、より均一な湿式処理を実現することが可能な湿式処理方法及び湿式処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明によれば、穴を有する板状体を処理液に浸漬して湿式処理を行う湿式処理方法において、密閉容器内に板状体を保持した状態で密閉容器内の雰囲気を,処理液に溶解可能な溶解性気体に置換する密閉容器内雰囲気置換工程と、密閉容器内雰囲気置換工程の後,密閉容器内が溶解性気体で充満された状態で密閉容器内へ処理液を導入する処理液導入工程とを備えた構成とする(請求項1の発明)。
【0019】
上記請求項1の発明によれば、密閉容器内における板状体(例えば半導体基板、プリント配線板などの基板)の周囲の雰囲気が、湿式処理のための処理液(例えば水を溶媒とした水溶液)に溶解可能な溶解性気体(例えば水溶性気体)に置換されるので、この溶解性気体が板状体の周囲に穴の内部も含めて充満した状態となる。そして、板状体の周囲において気泡発生の原因となる大気中ガス成分が排除されているとともに処理液に溶解可能な溶解性気体が充満している状態で処理液が導入されることにより、溶解性気体を溶解させながら処理液が板状体面に濡れ拡がり、さらに、溶解性気体が充満している穴の内部にも濡れ拡がることになる。このため、例えば気泡が特に残留しやすい非貫通の微細な穴を有する板状体であっても、穴の内部に処理液が行き渡ることになり、穴内に気泡が残留することなく板状体の全面にわたって処理液が接触している状態とすることができ、これにより、部分的な処理液接触不足による不良をなくし、均一な湿式処理を実現することができるようになる。
【0020】
また、上記請求項1に記載の湿式処理方法において、前記密閉容器内雰囲気置換工程として、密閉容器内に板状体を保持した状態で密閉容器内を減圧する減圧工程と、減圧工程の後,密閉容器内が減圧された状態で密閉容器内へ溶解性気体を導入する溶解性気体導入工程とを備えた構成とすることができる(請求項2の発明)。
【0021】
そして、上記請求項1または2に記載の湿式処理方法においては、処理液を入れた処理液槽を設けるとともに密閉容器に開閉可能な扉部を設け、処理液導入工程では、密閉容器および扉部のうち少なくとも扉部の部分を処理液槽内の処理液に浸漬させ、この状態で扉部を開放することにより密閉容器内に処理液が導入されるようにした構成とするとよい(請求項3の発明)。
【0022】
また、上記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の湿式処理方法において、処理液は,水または水を溶媒とした水溶液であり、溶解性気体は,水溶性気体である構成とすることができる(請求項4の発明)。
【0023】
また、さらに、上記請求項4に記載の湿式処理方法においては、水溶性気体は,アンモニアまたは塩化水素である構成とすることができる(請求項5の発明)。
上記請求項5の発明において、アンモニアまたは塩化水素は、水に対する溶解度が大きいことから、水溶性気体として特に好適である。
【0024】
次に、本発明によれば、穴を有する板状体を処理液に浸漬して湿式処理を行う湿式処理装置において、内部に板状体を保持する板状体保持機構部を有するとともに板状体が保持された状態で密閉状態とすることのできる密閉容器と、密閉容器内の雰囲気を処理液に溶解可能な溶解性気体に置換することのできる密閉容器内雰囲気置換手段と、密閉容器内が溶解性気体で充満された状態で密閉容器内へ処理液を導入することのできる処理液供給手段とを備えた構成とする(請求項6の発明)。
【0025】
上記請求項6の発明によれば、密閉容器内における板状体(例えば半導体基板、プリント配線板などの基板)の周囲の雰囲気を、密閉容器内雰囲気置換手段により、湿式処理のための処理液(例えば水を溶媒とした水溶液)に溶解可能な溶解性気体(例えば水溶性気体)に置換して、この溶解性気体が板状体の周囲に穴の内部も含めて充満した状態となるようにすることができる。そして、処理液供給手段により、板状体の周囲において気泡発生の原因となる大気中ガス成分が排除されているとともに処理液に溶解可能な溶解性気体が充満している状態で処理液を導入することにより、溶解性気体を溶解させながら処理液が板状体面に濡れ拡がり、さらに、溶解性気体が充満している穴の内部にも濡れ拡がるようにすることができる。このため、例えば気泡が特に残留しやすい非貫通の微細な穴を有する板状体であっても、穴の内部に処理液が行き渡ることになり、穴内に気泡が残留することなく板状体の全面にわたって処理液が接触している状態とすることができ、これにより、部分的な処理液接触不足による不良をなくし、均一な湿式処理を実現することができるようになる。
【0026】
上記請求項6に記載の湿式処理装置において、前記密閉容器内雰囲気置換手段として、密閉容器内を減圧することのできる真空排気手段と、密閉容器内が減圧された状態で密閉容器内へ溶解性気体を導入することのできる溶解性気体供給手段とを備えた構成とすることができる(請求項7の発明)。
【0027】
そして、上記請求項6または7に記載の湿式処理装置においては、前記処理液供給手段として、処理液を入れた処理液槽を備えるとともに、密閉容器に配設された開閉可能な扉部と、密閉容器を上昇および下降させることができ,下降時には密閉容器を処理液槽内の処理液に浸漬することのできる密閉容器駆動部とを設け、密閉容器駆動部により密閉容器および扉部のうち少なくとも扉部の部分を処理液槽内の処理液に浸漬させた状態で扉部を開放することにより密閉容器内に処理液が導入されるようにした構成とすることができる(請求項8の発明)。
【0028】
また、上記請求項6ないし8のいずれか1項に記載の湿式処理装置において、処理液は,水または水を溶媒とした水溶液であり、溶解性気体は,水溶性気体である構成とすることができる(請求項9の発明)。
【0029】
また、さらに、上記請求項9に記載の湿式処理装置においては、水溶性気体は,アンモニアまたは塩化水素である構成とすることができる(請求項10の発明)。
上記請求項10の発明において、アンモニアまたは塩化水素は、水に対する溶解度が大きいことから、水溶性気体として特に好適である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、例えば気泡が特に残留しやすい非貫通の微細穴などの穴を有する板状体を処理液に浸漬して行う洗浄、エッチング、めっきなどの湿式処理において穴に気泡が残留することにより発生する不具合を防止し、板状体全面に均一な湿式処理を施すことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1による湿式処理装置を示す構成図
【図2】図1の湿式処理装置による湿式処理方法を示す工程図
【図3】本発明の実施例2による湿式処理装置を示す構成図
【図4】図3の湿式処理装置による湿式処理方法を示す工程図
【図5】従来の湿式処理装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
本発明は、微細な穴を有する(例えば半導体基板、プリント配線板などの)板状体(基板)を(水を溶媒とした水溶液などの)処理液に浸漬して行う(例えばエッチング、洗浄、めっきなどの)湿式処理において微細な穴に気泡が残留することを抑制するための対策として、密閉容器内に板状体を保持した状態で密閉容器内の雰囲気を,処理液に溶解可能な(例えば水溶性気体などの)溶解性気体に置換し、密閉容器内が溶解性気体で充満された状態で密閉容器内へ処理液を導入するようにしたものである。これにより、本発明では、穴を有する板状体の周囲に処理液に溶解可能な溶解性気体が充満した状態で処理液が導入されることによって、溶解性気体を溶解させながら処理液が板状体面に濡れ拡がるとともに、溶解性気体が充満している穴の内部にも濡れ拡がることになるので、穴内に気泡が残留することなく板状体の全面にわたって処理液が接触している状態とすることができ、均一な湿式処理を実現することができるようになる。
【実施例1】
【0033】
図1は実施例1による湿式処理装置を示す構造図であり、図2は実施例1による湿式処理方法における処理プロセスの一例を示す工程図である。
本発明の実施例1は、処理液2を入れた処理液槽13を設けるとともに、密閉容器11に開閉可能な開閉扉14を設け、密閉容器11および開閉扉14のうち少なくとも開閉扉14の部分を処理液槽13内の処理液2の液面下に浸漬させ、この状態で開閉扉14を開放することにより、溶解性気体8で充満された状態の密閉容器11内へ処理液2が導入されるようにしたものである。
【0034】
(イ)実施例1における湿式処理装置の構成:
図1の湿式処理装置は、図1(a)に示されているように、処理液2が入れられた処理液槽13、板状体(基板)3を保持するための板状体保持機構16が内部に配設されているとともに板状体3を保持した状態で密閉構造とすることのできる密閉容器11、真空排気配管44を介して密閉容器11に接続された真空排気手段41、および溶解性気体供給配管34を介して密閉容器11に接続された溶解性気体供給手段31を備えている。
【0035】
密閉容器11の下方端部には密閉容器11内の空間を開放状態および密閉状態とすることのできる開閉扉14が設けられているとともに、密閉容器11を矢印Bで示されるように上昇および下降させることのできる密閉容器駆動部15が設けられている。
【0036】
そして、真空排気手段41としては、真空ポンプ42がバルブ43を介して真空排気配管44に接続されている。ここで、バルブ43は、常時は閉状態であり、真空排気時のみ開状態とする。
【0037】
また、溶解性気体供給手段31としては、例えば溶解性気体8が貯留されたガスボンベなどの溶解性気体供給源32がバルブ33を介して溶解性気体供給配管34に接続されている。ここで、バルブ33は、常時は閉状態であり、溶解性気体供給時のみ開状態とする。
【0038】
また、処理液槽13、開閉扉14および密閉容器駆動部15は、後述するように、処理液導入工程では処理液供給手段12として機能する。
なお、実施例1における真空排気配管44および溶解性気体供給配管34は、それぞれ、密閉容器11の上下動に対応できるようにするため、可とう性を備えたものとなっている。
【0039】
次に、図1(b)は、湿式処理の対象となる板状体(基板)3(図1(a))におけるA部拡大図であり、微細な穴4の部分の断面構造を例示するものである。この穴4は非貫通の穴となっており、特に気泡が残留しやすいものとなっている。
【0040】
(ロ)実施例1における湿式処理方法の構成:
図2により、実施例1による湿式処理方法における処理プロセスの一例をその工程順に説明する。なお、図2では、密閉容器11に接続された真空排気手段41、溶解性気体供給手段31などの図示は省略している。
【0041】
(板状体装着工程)(図2(a))
密閉容器11に処理対象の板状体(基板)3を入れて板状体保持機構16で板状体3を保持した状態とする。なお、板状体3は、開閉扉14を開放して密閉容器11内に入れるようにしてもよく、また、開閉扉14とは別に、密閉処理可能な板状体3用の(図示されない)挿入機構部を設けて、この挿入機構部から密閉容器11内に入れるようにしてもよい。また、この板状体装着工程では、密閉容器11内の雰囲気は大気6となっている。
【0042】
(減圧工程)(図2(b))
板状体装着工程の後、密閉容器11内に板状体3を保持し、開閉扉14を閉じて密閉容器11を密閉した状態で、真空排気手段41により密閉容器11内を減圧して、減圧雰囲気7(真空雰囲気)とする。なお、減圧工程で減圧された密閉容器11内の真空度は常圧の1000分の1程度(約1〜10Pa)以下であればよい。
【0043】
(溶解性気体導入工程)(図2(b))
減圧工程の後,密閉容器11内が減圧された状態で、溶解性気体供給手段31により密閉容器11内へ処理液2に溶解可能な溶解性気体8を導入し、これにより、密閉容器11内の雰囲気を溶解性気体8に置換する。なお、溶解性気体導入工程で溶解性気体8を充満した後の密閉容器11内の圧力は常圧でよい。
【0044】
(処理液導入工程)(図2(c)〜(d))
溶解性気体導入工程の後、密閉容器11内が溶解性気体8で充満された状態で、密閉容器駆動部15によって、密閉容器11および開閉扉14のうち少なくとも開閉扉14の部分が処理液2中の液面下に浸漬するように密封容器11を処理液槽13内に下降させ、この浸漬状態で開閉扉14を開放することにより、密閉容器11内へ処理液2を導入する。このとき、密閉容器11内の溶解性気体8は処理液2中に溶解していき、溶解性気体8の溶解により密閉容器11内が減圧され、処理液2は密閉容器11内へ吸引されるようにして導入されていく。これに伴い、処理液2が密閉容器11内の隅々まで行き渡るとともに、板状体3の面に沿って濡れ拡がることになる。そして、板状体3における穴4の内部に充満していた溶解性気体8も穴4部まで濡れ広がってきた処理液2に溶解する。これにより、気泡が特に残留しやすい非貫通の微細な穴4を有する基板であっても、穴4の内部に処理液2が行き渡ることになり、穴4の内部に気泡5が残留しない状態で、板状体3に対する処理液2による均一な湿式処理を行うことが可能となる。
【0045】
なお、処理液導入工程において密閉容器11を処理液2中の液面下に浸漬させる深さとして、密閉容器11の全部を浸漬させるものとしてもよい。
また、この処理液導入工程では上述のように処理液槽13、開閉扉14および密閉容器駆動部15が処理液供給手段12として機能する。
【0046】
(ハ)溶解性気体の種類:
なお、処理液2として水または水を溶媒とした水溶液を用いる場合、溶解性気体8としては水溶性気体を用いることになる。そして、水溶性気体としてはアンモニア、塩化水素、二酸化硫黄などが適用可能であり、特に水に対する溶解度が大きいという点でアンモニア、塩化水素が好適である。
【0047】
(ニ)処理液導入工程後の湿式処理:
実施例1における処理液導入工程(図2(d))の後における(エッチング、洗浄、めっきなどの)湿式処理は、例えば、次のようにして行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
(a)密閉容器11自体に例えば(図示されない)めっき用電極部などの湿式処理機構部を設けておき、板状体3が密閉容器11内に装着された状態のままで湿式処理を行う。
【0049】
(b)(図示されない)移送機構により板状体3を密閉容器11下方端の開口部から処理液槽13内の処理液2中に引き出し、処理液槽13内に設けられた例えば(図示されない)めっき用電極部などの湿式処理機構部に装着して湿式処理を行う。
【実施例2】
【0050】
図3は実施例2による湿式処理装置を示す構成図であり、図4は実施例2による湿式処理方法における処理プロセスの一例を示す工程図である。
本発明の実施例2は、上述の実施例1とは異なり、処理液供給手段22により処理液供給配管25を介して、溶解性気体8で充満された状態の密閉容器21内へ処理液2を導入するようにしたものである。
【0051】
(イ)実施例2における湿式処理装置の構成:
図3の湿式処理装置は、板状体(基板)3を保持するための板状体保持機構26が内部に配設されているとともに板状体3を保持した状態で密閉構造とすることのできる密閉容器21、真空排気配管44Aを介して密閉容器21に接続された真空排気手段41、溶解性気体供給配管34Aを介して密閉容器21に接続された溶解性気体供給手段31、および処理液供給配管25を介して密閉容器21に接続された処理液供給手段22を備えている。
【0052】
また、密閉容器21の上蓋部には大気導入バルブ27が接続されている。そして、密閉容器21の底部には処理液排出配管52が接続され、さらにバルブ51を介して処理液排出系統に接続されている。これによって、密閉容器21内が処理液2で満たされている状態で大気導入バルブ27を開放するとともにバルブ51を開放することにより、処理液2を処理液排出配管52から排出することができるようになっているが、処理液2を排出するための構成は上記構成に限定されるものではない。
【0053】
そして、真空排気手段41としては、真空ポンプ42がバルブ43を介して真空排気配管44Aに接続されている。ここで、バルブ43は、常時は閉状態であり、真空排気時のみ開状態とする。
【0054】
また、溶解性気体供給手段31としては、例えば溶解性気体8が貯留されたガスボンベなどの溶解性気体供給源32がバルブ33を介して溶解性気体供給配管34Aに接続されている。ここで、バルブ33は、常時は閉状態であり、溶解性気体供給時のみ開状態とする。
【0055】
また、処理液供給手段22としては、処理液2が貯留された処理液槽23がバルブ24を介して処理液供給配管25に接続されている。ここで、バルブ24は、常時は閉状態であり、処理液供給時のみ開状態とする。
【0056】
なお、実施例2における密閉容器21は、(図示されない)めっき用電極部などの湿式処理機構部を備え、湿式処理槽として機能することができるものとなっている。
(ロ)実施例2における湿式処理方法の構成
図4により、実施例2による湿式処理方法における処理プロセスの一例をその工程順に説明する。なお、図4では、密閉容器21に接続された真空排気手段41、溶解性気体供給手段31、処理液供給手段22などの図示は省略している。
【0057】
(板状体装着工程)(図4(a))
密閉容器21内に処理対象の板状体(基板)3を入れて板状体保持機構26で板状体3を保持した状態とした上で、大気導入バルブ27および処理液排出用のバルブ51は閉じて密閉容器21を密閉状態とする。なお、この板状体装着工程では、密閉容器21内の雰囲気は大気6となっている。
【0058】
(減圧工程)(図4(b))
板状体装着工程の後、真空排気手段41により密閉容器21内を減圧して、減圧雰囲気7(真空雰囲気)とする。なお、実施例1と同様に、減圧工程で減圧された密閉容器21内の真空度は常圧の1000分の1程度(約1〜10Pa)以下であればよい。
【0059】
(溶解性気体導入工程)(図4(c))
減圧工程の後,密閉容器21内が減圧された状態で、溶解性気体供給手段31により密閉容器21内へ処理液2に溶解可能な溶解性気体8を導入し、これにより、密閉容器21内の雰囲気を溶解性気体8に置換する。なお、実施例1と同様に、溶解性気体導入工程で溶解性気体8を充満した後の密閉容器21内の圧力は常圧でよい。
【0060】
(処理液導入工程)(図4(d)〜(e))
溶解性気体導入工程の後、密閉容器21内が溶解性気体8で充満された状態で、処理液供給手段22により処理液供給配管25を介して密閉容器21内へ処理液2を導入する。このとき、密閉容器21内の溶解性気体8は処理液2中に溶解していき、溶解性気体8の溶解により密閉容器21内が減圧され、処理液2は密閉容器21内へ吸引されるようにして導入されていく。これに伴い、処理液2が密閉容器21内の隅々まで行き渡るとともに、板状体3の面に沿って濡れ拡がることになる。そして、板状体3における穴4の内部に充満していた溶解性気体8も穴4部まで濡れ広がってきた処理液2に溶解する。これにより、気泡が特に残留しやすい非貫通の微細な穴4を有する基板であっても、穴4の内部に処理液2が行き渡ることになり、穴4の内部に気泡5が残留しない状態で、板状体3に対する処理液2による均一な湿式処理を行うことが可能となる。
【0061】
(ハ)溶解性気体の種類:
なお、実施例1と同様に、処理液2として水または水を溶媒とした水溶液を用いる場合、溶解性気体8としては水溶性気体を用いることになる。そして、水溶性気体としてはアンモニア、塩化水素、二酸化硫黄などが適用可能であり、特に水に対する溶解度が大きいという点でアンモニア、塩化水素が好適である。
【0062】
(ニ)処理液導入工程後の湿式処理:
実施例2における処理液導入工程(図4(e))の後における(エッチング、洗浄、めっきなどの)湿式処理は、例えば密閉容器21に設けられた(図示されない)めっき用電極部などの湿式処理機構部により行うことができる。
[本発明の適用対象]
(イ)本発明を適用可能な湿式処理としては、半導体基板、プリント配線板などの板状体(基板)に対するエッチング、洗浄、めっきなどが有り、さらに、めっきでは、電解めっき、無電解のいずれにも適用可能である。
【0063】
(ロ)上述の実施形態では、本発明による気泡残留抑制効果について、特に非貫通の微細な穴4(図1(b)参照))を有する板状体(基板)3を例として説明したが、貫通構造の微細な穴、その他の複雑形状を有する(半導体基板、プリント配線板などの)板状体(基板)に対する湿式処理においても気泡残留の問題は有り、本発明を有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・湿式処理槽、2・・・処理液、3・・・板状体(基板)、4・・・穴、5・・・気泡、6・・・大気、7・・・減圧雰囲気(真空雰囲気)、8・・・溶解性気体(水溶性気体)
11・・・密閉容器、12・・・処理液供給手段、13・・・処理液槽、14・・・開閉扉、15・・・密閉容器駆動部、16・・・板状体保持機構
21・・・密封容器、22・・・処理液供給手段、23・・・処理液槽、24・・・バルブ、25・・・処理液供給配管、26・・・板状体保持機構、27・・・大気導入バルブ
31・・・溶解性気体供給手段、32・・・溶解性気体供給源、33・・・バルブ、34、34A・・・溶解性気体供給配管
41・・・真空排気手段、42・・・真空ポンプ、43・・・バルブ、44、44A・・・真空排気配管
51・・・バルブ、51・・・処理液排出配管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴を有する板状体を処理液に浸漬して湿式処理を行う湿式処理方法において、
密閉容器内に板状体を保持した状態で密閉容器内の雰囲気を,処理液に溶解可能な溶解性気体に置換する密閉容器内雰囲気置換工程と、
密閉容器内雰囲気置換工程の後,密閉容器内が溶解性気体で充満された状態で密閉容器内へ処理液を導入する処理液導入工程とを備えた
ことを特徴とする湿式処理方法。
【請求項2】
前記密閉容器内雰囲気置換工程として、
密閉容器内に板状体を保持した状態で密閉容器内を減圧する減圧工程と、
減圧工程の後,密閉容器内が減圧された状態で密閉容器内へ溶解性気体を導入する溶解性気体導入工程とを備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の湿式処理方法。
【請求項3】
処理液を入れた処理液槽を設けるとともに密閉容器に開閉可能な扉部を設け、
処理液導入工程では、密閉容器および扉部のうち少なくとも扉部の部分を処理液槽内の処理液に浸漬させ、この状態で扉部を開放することにより密閉容器内に処理液が導入されるようにした
ことを特徴とする請求項1または2に記載の湿式処理方法。
【請求項4】
処理液は,水または水を溶媒とした水溶液であり、
溶解性気体は,水溶性気体である
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の湿式処理方法。
【請求項5】
水溶性気体は,アンモニアまたは塩化水素である
ことを特徴とする請求項4に記載の湿式処理方法。
【請求項6】
穴を有する板状体を処理液に浸漬して湿式処理を行う湿式処理装置において、
内部に板状体を保持する板状体保持機構部を有するとともに板状体が保持された状態で密閉状態とすることのできる密閉容器と、
密閉容器内の雰囲気を処理液に溶解可能な溶解性気体に置換することのできる密閉容器内雰囲気置換手段と、
密閉容器内が溶解性気体で充満された状態で密閉容器内へ処理液を導入することのできる処理液供給手段とを備えた
ことを特徴とする湿式処理装置。
【請求項7】
前記密閉容器内雰囲気置換手段として、
密閉容器内を減圧することのできる真空排気手段と、
密閉容器内が減圧された状態で密閉容器内へ溶解性気体を導入することのできる溶解性気体供給手段とを備えた
ことを特徴とする請求項6に記載の湿式処理装置。
【請求項8】
前記処理液供給手段として、処理液を入れた処理液槽を備えるとともに、密閉容器に配設された開閉可能な扉部と、密閉容器を上昇および下降させることができ,下降時には密閉容器を処理液槽内の処理液に浸漬することのできる密閉容器駆動部とを設け、
密閉容器駆動部により密閉容器および扉部のうち少なくとも扉部の部分を処理液槽内の処理液に浸漬させた状態で扉部を開放することにより密閉容器内に処理液が導入されるようにした
ことを特徴とする請求項6または7に記載の湿式処理装置。
【請求項9】
処理液は,水または水を溶媒とした水溶液であり、
溶解性気体は、水溶性気体である
ことを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の湿式処理装置。
【請求項10】
水溶性気体は,アンモニアまたは塩化水素である
ことを特徴とする請求項9に記載の湿式処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−96800(P2011−96800A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248444(P2009−248444)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】