説明

炭化シリコン膜の製造方法

【課題】緻密で均一な膜厚であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜を得ることができ、かつ低コストや大口径化が可能な炭化シリコン膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の炭化シリコン膜13の製造方法は、基板11上にアモルファスシリコンとポリシリコンとの少なくとも一方を含むシリコン膜14を形成する工程と、シリコン膜14を炭化処理し、炭化された膜を含んだ炭化シリコン膜13を形成する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化シリコン膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、整流素子やインバータ等の高耐圧パワーデバイスのワイドバンドギャップ半導体材料として、炭化シリコンが注目されている。炭化シリコンは、絶縁破壊電界が強く高耐圧とすることができ、さらに機械的強度、耐熱性、化学的安定性に優れるという特性を有している。このような特性を有する炭化シリコンは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の材料としても期待されている。
【0003】
炭化シリコンの製造方法としては、炭化シリコン種結晶を用いた昇華再結晶法や、CVD法がある。昇華再結晶法では、1700℃近辺の超高温処理が必要であるので、低コストで効率よく炭化シリコン膜を製造することや大口径化に対応することが難しい。また、酸化シリコン膜上にCVD法で炭化シリコン膜を製造すると、変成された炭化シリコン膜が局所的に核成長を起こして粒塊となり、表面状態が荒れた疎な炭化シリコン膜となってしまう。疎な炭化シリコン膜であると、この膜を用いて構造体を形成することや、この膜上に多種材料の積層構造を形成することが困難であり、良好なMEMSを製造することが難しくなる。
【0004】
このような問題点を解決するための技術が各種検討されており、例えば特許文献1及び2では、炭化シリコンを製造する方法として、SOI基板を用いる方法が開示されている。この方法は、SOI基板を収容した成膜室内に、水素ガスと炭化水素ガスの混合ガスを供給しつつ、SOI基板を加熱処理することにより、SOI基板表面の単結晶シリコン層を単結晶炭化シリコン膜に変成する方法である。また、特許文献3では、スマートカット法(登録商標)等の転写技術を用いて、表面に酸化シリコン膜を形成した支持基板上に、単結晶炭化シリコン膜を転写することでSiCOI基板を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−363751号公報
【特許文献2】特開2003−224248号公報
【特許文献3】特開2005−537678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3の技術にあっては、炭化シリコン膜を効率よく製造することができると考えられるが、以下のように問題点もある。
特許文献1及び2では、単結晶シリコン層が緻密な結晶構造であるので、これを良好に炭化するためには単結晶シリコン層を数nmの膜厚に薄膜化する必要がある。炭化されていない単結晶シリコンが残留していると、単結晶シリコン層と炭化シリコン膜の物性値(例えば格子定数や熱膨張係数)の違いにより炭化シリコン結晶中に欠陥が発生するからである。単結晶シリコン層を数nmの膜厚に高精度に薄膜化することが難しいので、得られる炭化シリコン膜の膜厚制御が困難である。また、特許文献3では、炭化シリコン膜を転写する基板として単結晶炭化シリコン基板を用いるため、コストが高く、大口径化に対応することが困難である。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、緻密で均一な膜厚であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜を得ることができ、かつ低コストや大口径化が可能な炭化シリコン膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の炭化シリコン膜の製造方法は、基板上にアモルファスシリコンとポリシリコンとの少なくとも一方を含むシリコン膜を形成する工程と、前記シリコン膜を炭化処理し、炭化された膜を含んだ炭化シリコン膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
この製造方法によれば、アモルファスシリコンとポリシリコンとの少なくとも一方を含むシリコン膜の膜厚に応じた膜厚の炭化シリコン膜が得られる。シリコン膜を所定の膜厚に成膜することは、例えばSOI基板における単結晶シリコン層を所定の膜厚に薄膜化することよりも容易であるので、高精度な膜厚の炭化シリコン膜を容易に製造することができる。また、アモルファスシリコンやポリシリコンは、単結晶シリコンに比べて結晶構造が粗い(緻密でない)ので、炭化処理においてシリコン膜に炭素を均一に拡散させることができ、シリコン膜を均一かつ良好に炭化することができる。このため、シリコン膜の一部が炭化されずに残留することが回避され、格子定数や熱膨張係数がシリコン膜と炭化シリコン膜とで異なることにより結晶欠陥を生じることが防止される。したがって、緻密で均一な膜厚であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜を得ることができる。また、特許文献3のように単結晶炭化シリコン基板を用いないので、コストを低くし、下地に用いる基板の口径まで大口径化に対応することが可能である。
【0009】
本製造方法においては、前記炭化シリコン膜を形成する工程の前に、前記基板上に酸化シリコン膜を形成する工程を有していてもよい。
この製造方法によれば、炭化シリコン膜が基板と当接しなくなり、酸化シリコン膜を基板と炭化シリコン膜との格子定数や熱膨張係数の違いを緩和する緩衝層として機能させることができる。これにより、炭化シリコン膜の結晶欠陥を抑制することができ、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜を製造することが可能となる。また、本製造方法により得られた炭化シリコン膜に素子を形成してデバイスを製造すると、酸化シリコン膜を用いて完全に素子分割ができるので、低消費電力のデバイスが得られる。
【0010】
本製造方法においては、前記炭化シリコン膜を形成する工程の前に、前記基板上に窒化シリコン膜を形成する工程を有していてもよい。
この製造方法によれば、炭化シリコン膜が基板と当接しなくなり、窒化シリコン膜を基板と炭化シリコン膜との格子定数や熱膨張係数の違いを緩和する緩衝層として機能させることができる。これにより、炭化シリコン膜の結晶欠陥を抑制することができ、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜を製造することが可能となる。また、本製造方法により得られた炭化シリコン膜に素子を形成してデバイスを製造すると、窒化シリコン膜を用いて完全に素子分割ができるので、低消費電力のデバイスが得られる。
【0011】
本製造方法においては、前記基板がシリコンからなり、前記炭化シリコン膜を形成する工程の炭化処理は、ランプアニールによる熱処理を用いて行ってもよい。
この製造方法によれば、炭化シリコン膜を形成する工程の炭化処理において昇温レートを高くすることができ、炭化シリコン膜の結晶性を良好にすることができる。
【0012】
本製造方法においては、前記基板がシリコンもしくは石英からなり、前記炭化シリコン膜を形成する工程の炭化処理は、炉アニールによる熱処理を用いて行ってもよい。
この製造方法によれば、炉アニールにより多数の基板を一括して熱処理することができるので、多数の基板上に形成された多数のシリコン膜を一括して炭化処理することができる。したがって、一括して炭化処理する基板の数を増やすほど基板一枚当たりの炭化シリコン膜の成膜時間を短くすることができ、製造効率を高めることができる。
【0013】
本製造方法においては、前記シリコン膜をCVD法を用いて形成してもよい。
この製造方法によれば、シリコン膜を形成する工程における成膜温度を低く設定することにより、シリコン膜の結晶性を低下させることができ、容易にアモルファスシリコンとポリシリコンとの少なくとも一方を含んだシリコン膜を形成することができる。また、CVD法によれば高精度な膜厚のシリコン膜を形成することができ、これを炭化処理することにより、高精度な膜厚の炭化シリコン膜を製造することが可能となる。
【0014】
本製造方法においては、前記シリコン膜の膜厚を100nm以下にすることが望ましい。
本願発明者は、シリコン膜の膜厚を100nm以下にすることで、炭化処理でシリコン膜をほとんど残留させずに炭化シリコン膜に変成できることを見出した。この製造方法によれば、炭化されずに残留したシリコン膜と炭化シリコン膜とでの格子定数や熱膨張係数が異なることによる炭化シリコン膜の結晶欠陥が生じることがない。したがって、炭化シリコン膜の結晶欠陥を抑制することができ、結晶性が良好な炭化シリコン膜を製造することが可能となる。
【0015】
本製造方法においては、前記炭化シリコン膜を形成した後に、前記炭化された膜をシード層として、炭化シリコンをエピタキシャル成長させて厚膜化する工程を有していてもよい。
この製造方法によれば、緻密で均一な膜質のシード層が形成されるので、このように炭化された膜をシード層として炭化シリコンをエピタキシャル成長させると、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜を製造することができる。したがって、緻密で均一な膜質であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜を得ることができる。
【0016】
本製造方法においては、前記炭化シリコン膜を形成する工程の後に、前記炭化シリコン膜上に化合物半導体膜を形成する工程を有していてもよい。
この製造方法によれば、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜が形成されるので、この炭化シリコン膜に格子整合させて化合物半導体膜を形成すると、結晶性が良好な化合物半導体膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態における半導体基板の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態における半導体基板の製造工程を示す図である。
【図3】図2に続く半導体基板の製造工程を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態における半導体基板の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態における半導体基板の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における炭化シリコン膜13を有する半導体基板10の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、半導体基板10は、シリコンからなる基板(シリコン基板)11と、酸化シリコン膜12と、炭化シリコン膜13と、を備えて構成されている。
【0020】
シリコン基板11は、酸化シリコン膜12及び炭化シリコン膜13の下地となる基板である。このシリコン基板11は、例えば、CZ法(チョクラルスキー法)やFZ法(フローティングゾーン法)を用いて形成されたシリコンインゴットをスライス、研磨して形成される。
【0021】
炭化シリコン膜13は、図2に示すアモルファスシリコンを含むシリコン膜14(以下、アモルファスシリコン膜という。)を炭化して形成されている。炭化シリコン膜13は、エピタキシャル成長によって厚膜化されて形成されている。炭化シリコン膜13は、バンドギャップ値が高く、絶縁破壊電界が強いので高耐圧とすることができ、さらに機械的強度、耐熱性、化学的安定性に優れている。このため、半導体基板10を用いると、良好な高耐圧パワーデバイスや良好なMEMSを製造することが可能である。
【0022】
酸化シリコン膜12は、シリコン基板11と炭化シリコン膜13との間に形成されている。酸化シリコンの膜厚T1は、例えば100nm程度の膜厚である。酸化シリコン膜12によって、シリコン基板11と炭化シリコン膜13とが当接しないようになっている。酸化シリコン膜12は、シリコン基板11と炭化シリコン膜13との格子定数や熱膨張係数の違いを緩和する緩衝層として機能する。
【0023】
(半導体基板の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化シリコン膜13を有する半導体基板10の製造方法を説明する。図2及び図3は、半導体基板10の製造工程を順を追って示す工程図である。本実施形態では、シリコン基板11上に、酸化シリコン膜12を介して炭化シリコン膜13を形成し、この炭化シリコン膜13をエピタキシャル成長させて厚膜化する。半導体基板10を製造する際は、先ず、図2(a)に示すように、従来と同様の手法により製造されたシリコン基板11を用意する。次に、図2(b)に示すように、シリコン基板11の表層を熱酸化する。これにより、図2(c)に示すように、シリコン基板11の表層に酸化シリコン膜12が形成される。酸化シリコン膜の膜厚T1は、例えば100nm程度の膜厚にする。
【0024】
次に、図2(d)に示すように、酸化シリコン膜12上に、アモルファスシリコン膜14をCVD法を用いて形成する。CVD法において基板温度を低くするほど、得られる膜の結晶性が低くなり、アモルファスのシリコン膜が得られる。CVD法によれば、高精度な膜厚のアモルファスシリコン膜14を形成することができる。
【0025】
本実施形態では、アモルファスシリコン膜の膜厚(シリコン膜の膜厚)T2を、30nm程度にする。これにより、炭化されずに残留したアモルファスシリコン膜14と炭化シリコン膜13とでの格子定数や熱膨張係数が異なることによる炭化シリコン膜13の結晶欠陥が生じることがない。これは、本願発明者が、アモルファスシリコン膜の膜厚T2を100nm以下にすることで、炭化処理でアモルファスシリコン膜14をほとんど残留させずに炭化シリコン膜13に変成できることを見出したことによる。
【0026】
次に、図3(a)に示すように、アモルファスシリコン膜14を炭化処理する。これにより、図3(b)に示すように、酸化シリコン膜12上に炭化シリコン膜13のシード層13aが形成される。アモルファスシリコン膜14の炭化処理は、赤外線加熱方式のランプアニール装置を用いて行う。炭化処理は、例えば、プロパンガス(C)等の炭化水素ガスと水素ガスとからなる混合ガスの雰囲気下、基板温度800〜1400℃の条件で行うとよい。なお、本実施形態の炭化処理は、基板裏面から基板温度をモニタリングを行い、基板温度1160℃、処理時間60秒の条件で行う。ランプアニール装置により加熱すれば、シード層13aを形成する際の基板温度の昇温レートを高くすることができ、シリコン基板11に比べてアモルファスシリコン膜14を高温にすることができるので、シード層13aの結晶性を良好にすることができる。
【0027】
また、アモルファスシリコン膜14は非結晶であるので、アモルファスシリコン膜14中に炭素を単結晶からなる膜よりも均一に拡散させることができる。また、アモルファスシリコン膜の膜厚T2を100nm以下(ここでは30nm)にしているので、アモルファスシリコン膜14中に炭素を行き渡らせることができ、アモルファスシリコン膜14をほぼ完全に炭化することができる。以上のように、アモルファスシリコン膜14が高精度な膜厚に形成されるので、所望の膜厚のシード層13aが得られる。また、アモルファスシリコン膜14を良好に炭化することができるので、結晶欠陥が少なく緻密で均一な膜質のシード層13aが得られる。
【0028】
次に、図3(c)に示すように、シード層13a上に炭化シリコンをエピタキシャル成長させてエピタキシャル層13bを形成する。エピタキシャル成長は、例えば、水素ガスと炭化ケイ素ガスとからなる混合ガスの雰囲気下、処理温度500〜1500℃の条件で行うとよい。これにより、シード層13a上に前記混合ガス中の炭化シリコンを結晶化させることができ、シード層13aの結晶構造にならったエピタキシャル層13bを形成することができる。これにより、シード層13aとエピタキシャル層13bとを有する炭化シリコン膜13が得られる。シード層13aが緻密で均一な膜質になっているので、これに基づいて炭化シリコンをエピタキシャル成長させたエピタキシャル層13bも緻密で均一な膜質になっている。以上の工程により、本実施形態の炭化シリコン膜13を有する半導体基板10を製造することができる。
【0029】
本実施形態の炭化シリコン膜13の製造方法によれば、アモルファスシリコン膜の膜厚T2に応じた膜厚の炭化シリコン膜13aが得られる。アモルファスシリコン膜14を所定の膜厚に成膜することは、例えばSOI基板における単結晶シリコン層を所定の膜厚に薄膜化することよりも容易であるので、高精度な膜厚の炭化シリコン膜13aを容易に製造することができる。また、アモルファスシリコンは、単結晶シリコンに比べて結晶構造が粗い(緻密でない)ので、炭化処理においてアモルファスシリコン膜14に炭素を均一に拡散させることができ、アモルファスシリコン膜14を均一かつ良好に炭化することができる。このため、アモルファスシリコン膜14の一部が炭化されずに残留することが回避され、格子定数や熱膨張係数がアモルファスシリコン膜14と炭化シリコン膜13とで異なることにより結晶欠陥を生じることが防止される。また、単結晶シリコン膜よりも膜厚が厚いアモルファスシリコン膜14を採用することができ、膜厚誤差を相対的に小さくすることができる。したがって、緻密で均一な膜厚であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜13を得ることができる。また、特許文献3のように単結晶炭化シリコン基板を用いないので、コストを低くし、下地に用いるシリコン基板11の口径まで大口径化に対応することが可能である。
【0030】
また、本製造方法によれば、炭化シリコン膜13を形成する工程の前に、シリコン基板11上に酸化シリコン膜12を形成する工程を有しているので、炭化シリコン膜13がシリコン基板11と当接しなくなり、酸化シリコン膜12をシリコン基板11と炭化シリコン膜13との格子定数や熱膨張係数の違いを緩和する緩衝層として機能させることができる。これにより、炭化シリコン膜13の結晶欠陥を抑制することができ、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜13を製造することが可能となる。また、本製造方法により得られた炭化シリコン膜13に素子を形成してデバイスを製造すると、酸化シリコン膜12を用いて完全に素子分割ができるので、低消費電力のデバイスが得られる。
【0031】
また、本製造方法によれば、シリコン基板11を下地基板に用いて、炭化シリコン膜13aを形成する工程の炭化処理は、ランプアニールによる熱処理を用いて行っている。これにより、炭化シリコン膜13aを形成する工程の炭化処理において昇温レートを高くすることができ、炭化シリコン膜13aの結晶性を良好にすることができる。
【0032】
また、本製造方法によれば、アモルファスシリコン膜14をCVD法を用いて形成しているので、アモルファスシリコン膜14を形成する工程における成膜温度を低く設定することにより、アモルファスシリコン膜14の結晶性を低下させることができ、容易にアモルファスシリコン膜14を形成することができる。また、CVD法によれば高精度な膜厚のアモルファスシリコン膜14を形成することができ、これを炭化処理することにより、高精度な膜厚の炭化シリコン膜13aを製造することが可能となる。
【0033】
また、本製造方法によれば、アモルファスシリコン膜の膜厚T2を100nm以下にしているので、炭化されずに残留したアモルファスシリコン膜14と炭化シリコン膜13とでの格子定数や熱膨張係数が異なることによる炭化シリコン膜13の結晶欠陥が生じることがない。これは、本願発明者が、アモルファスシリコン膜の膜厚T2を100nm以下にすることで、炭化処理でアモルファスシリコン膜14をほとんど残留させずに炭化シリコン膜13に変成できることを見出したことによる。したがって、炭化シリコン膜13の結晶欠陥を抑制することができ、結晶性が良好な炭化シリコン膜13を製造することが可能となる。
【0034】
また、本製造方法によれば、緻密で均一な膜質のシード層13aが形成されるので、このように炭化された膜をシード層13aとして炭化シリコンをエピタキシャル成長させると、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜13を製造することができる。したがって、緻密で均一な膜質であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜13を得ることができる。
【0035】
なお、本実施形態に係る炭化シリコン膜13を形成する工程は、ランプアニールによる熱処理を用いて行っているが、これに限らない。例えば、炭化シリコン膜13を形成する工程は、レーザーアニールや炉アニールによる熱処理を用いて行ってもよい。
【0036】
なお、本製造方法では、炭化シリコン膜を形成する工程の前に、酸化シリコン膜を、基板と炭化シリコン膜との間の緩衝層として形成しているが、これに限らない。例えば、窒化シリコン膜を、基板と炭化シリコン膜との間の緩衝層として形成してもよい。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る炭化シリコン膜23を有する半導体基板20の構成について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の第2実施形態における炭化シリコン膜23を有する半導体基板20の構成を模式的に示す図である。図4に示すように、半導体基板20は、石英からなる基板(石英基板)21と、炭化シリコン膜23と、を備えて構成されている。本実施形態の半導体基板20は、基板21が石英からなる点、緩衝層を有していない点、炭化シリコン膜23が図5に示すポリシリコンを含むシリコン膜24(以下、ポリシリコン膜という。)を炭化して形成されている点、で上述の第1実施形態で説明した半導体基板10と異なっている。
【0038】
(半導体基板の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化シリコン膜23を有する半導体基板20の製造方法について、図5を用いて説明する。本実施形態では、石英基板21上に炭化シリコン膜23を形成し、この炭化シリコン膜23をエピタキシャル成長させて厚膜化する。半導体基板20を製造するには、先ず、図5(a)に示すように、従来と同様の手法により製造された石英基板21を用意する。
【0039】
次に、図5(b)に示すように、石英基板21上に、アモルファスシリコン膜14を熱アニールやレーザーアニールを用いて結晶化してポリシリコン膜24を形成する。このように、ポリシリコンをシリコン膜24として用いることにより、単結晶シリコンに比べて成膜しやすくなるので、膜厚制御が容易となる。また、ポリシリコンは、単結晶シリコンに比べて結晶構造が粗いので炭化しやすい。
【0040】
本実施形態では、ポリシリコン膜の膜厚(シリコン膜の膜厚)T2を、30nm程度にする。これにより、炭化されずに残留したポリシリコン膜24と炭化シリコン膜23とでの格子定数や熱膨張係数が異なることによる炭化シリコン膜23の結晶欠陥が生じることがない。これは、本願発明者が、ポリシリコン膜の膜厚T2を100nm以下にすることで、炭化処理でポリシリコン膜24をほとんど残留させずに炭化シリコン膜23に変成できることを見出したことによる。
【0041】
次に、図5(c)に示すように、ポリシリコン膜24を炭化処理する。これにより、図5(d)に示すように、石英基板21上に炭化シリコン膜23のシード層23aが形成される。ポリシリコン膜24の炭化処理は、電気炉等を用いた炉アニールで行う。炭化処理は、例えば、C等の炭化水素ガスと水素ガスとからなる混合ガスの雰囲気下、基板温度800〜1400℃の条件で行うとよい。なお、本実施形態の炭化処理は、基板温度1250℃、処理時間15分の条件で行う。炉アニールにより加熱すれば、多数の石英基板21を一括して熱処理することができるので、多数の石英基板21上に形成された多数のポリシリコン膜24を一括して炭化処理することができる。
【0042】
また、ポリシリコン膜の膜厚T2を100nm以下(ここでは30nm)にしているので、ポリシリコン膜24中に炭素を行き渡らせることができ、ポリシリコン膜24をほぼ完全に炭化することができる。以上のように、ポリシリコン膜24が高精度な膜厚に形成されるので、所望の膜厚のシード層23aが得られる。また、ポリシリコン膜24を良好に炭化することができるので、結晶欠陥が少なく緻密で均一な膜質のシード層23aが得られる。
【0043】
次に、図5(e)に示すように、シード層23a上に炭化シリコンをエピタキシャル成長させてエピタキシャル層23bを形成する。以上の工程により、本実施形態の炭化シリコン膜23を有する半導体基板20を製造することができる。
【0044】
本実施形態の炭化シリコン膜23の製造方法によれば、ポリシリコン膜の膜厚T2に応じた膜厚の炭化シリコン膜23aが得られる。ポリシリコン膜24を所定の膜厚に成膜することは、例えばSOI基板における単結晶シリコン層を所定の膜厚に薄膜化することよりも容易であるので、高精度な膜厚の炭化シリコン膜23aを容易に製造することができる。また、ポリシリコンは、単結晶シリコンに比べて結晶構造が粗い(緻密でない)ので、炭化処理においてポリシリコン膜24に炭素を均一に拡散させることができ、ポリシリコン膜24を均一かつ良好に炭化することができる。このため、ポリシリコン膜24の一部が炭化されずに残留することが回避され、格子定数や熱膨張係数がポリシリコン膜24と炭化シリコン膜23とで異なることにより結晶欠陥を生じることが防止される。したがって、緻密で均一な膜厚であり、しかも所望の膜厚の炭化シリコン膜23を得ることができる。また、特許文献3のように単結晶炭化シリコン基板を用いないので、コストを低くし、下地に用いる石英基板21の口径まで大口径化に対応することが可能である。
【0045】
また、本製造方法によれば、石英基板21を下地基板に用いて、炭化シリコン膜23を形成する工程の炭化処理は、炉アニールによる熱処理を用いて行っている。炉アニールにより多数の石英基板21を一括して熱処理することができるので、多数の石英基板21上に形成された多数のポリシリコン膜24を一括して炭化処理することができる。したがって、一括して炭化処理する石英基板21の数を増やすほど石英基板21一枚当たりの炭化シリコン膜23の成膜時間を短くすることができ、製造効率を高めることができる。
【0046】
なお、本製造方法では、基板上にシリコン膜を形成する工程と、シリコン膜を炭化処理して炭化シリコン膜を形成する工程と、を経て半導体基板を形成しているが、これに限らない。例えば、炭化シリコン膜を形成する工程の後に、炭化シリコン膜上に化合物半導体膜を形成する工程を有していてもよい。化合物半導体膜の形成材料としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ホウ素(BN)、アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)を用いることができる。
【0047】
この製造方法によれば、緻密で均一な膜質の炭化シリコン膜が形成されるので、この炭化シリコン膜に格子整合させて化合物半導体膜を形成すると、結晶性が良好な化合物半導体膜を得ることができる。
【0048】
なお、本製造方法では、基板上に、アモルファスシリコンまたはポリシリコンを含むシリコン膜を形成しているが、これに限らない。例えば、アモルファスシリコン膜とポリシリコン膜との積層膜をシリコン膜として形成してもよい。すなわち、アモルファスシリコンとポリシリコンとの少なくとも一方を含むシリコン膜を形成すればよい。
【0049】
なお、本製造方法では、シリコン膜をCVD法を用いて形成しているが、これに限らない。例えば、シリコン膜をスパッタ法や塗布を用いて形成してもよい。
【0050】
なお、本製造方法では、シリコン膜の膜厚は30nm程度の膜厚にしているが、これに限らず、100nm以下にすることができる。これは、本願発明者が、シリコン膜の膜厚を100nm以下にすることで、炭化処理工程でシリコンが残留することなく、シリコン膜をすべて炭化シリコン膜に変成できることを見出したことによる。
【0051】
なお、本製造方法では、炭化シリコン膜を形成した後に、炭化された膜をシード層として、炭化シリコンをエピタキシャル成長させてエピタキシャル層を形成しているが、これに限らず、炭化シリコンをエピタキシャル成長させなくてもよい。
【0052】
なお、本製造方法では、アモルファスシリコンまたはポリシリコンを含むシリコン膜を炭化処理するときに、処理温度800〜1400℃の条件で行っている。これにより、アモルファスシリコンまたはポリシリコンが、再結晶して結晶化が進む。その結果、炭化シリコン膜を、炭化処理前のシリコン膜より結晶性をよくすることができると本願発明者は推測している。
【符号の説明】
【0053】
11…シリコン基板(基板)、12…酸化シリコン膜、13,23…炭化シリコン膜、13a,23a…シード層、14…アモルファスシリコン膜(シリコン膜)、21…石英基板(基板)、24…ポリシリコン膜(シリコン膜)、T2…アモルファスシリコン膜の膜厚、ポリシリコン膜の膜厚(シリコン膜の膜厚)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にアモルファスシリコンとポリシリコンとの少なくとも一方を含むシリコン膜を形成する工程と、
前記シリコン膜を炭化処理し、炭化された膜を含んだ炭化シリコン膜を形成する工程と、を有することを特徴とする炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
前記炭化シリコン膜を形成する工程の前に、前記基板上に酸化シリコン膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
前記炭化シリコン膜を形成する工程の前に、前記基板上に窒化シリコン膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
前記基板がシリコンからなり、前記炭化シリコン膜を形成する工程の炭化処理は、ランプアニールによる熱処理を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項5】
前記基板がシリコンもしくは石英からなり、前記炭化シリコン膜を形成する工程の炭化処理は、炉アニールによる熱処理を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン膜をCVD法を用いて形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン膜の膜厚を100nm以下にすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項8】
前記炭化シリコン膜を形成した後に、前記炭化された膜をシード層として、炭化シリコンをエピタキシャル成長させて厚膜化する工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項9】
前記炭化シリコン膜を形成する工程の後に、前記炭化シリコン膜上に化合物半導体膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭化シリコン膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−278208(P2010−278208A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129016(P2009−129016)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】