磁気抵抗効果素子及びその製造方法
【課題】所望の形状を有する記録層を確実に形成し得る磁気抵抗効果素子の製造方法を提供する。
【解決手段】記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、記録層の平面形状は平行四辺形である磁気抵抗効果素子の製造方法は、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体及び第1のマスク層61を形成し、次いで、第1のマスク層61上に、前記平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層62を形成して第1のマスク層61をパターニングし、次いで、積層構造体及び第1のマスク層上に、前記平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層63を形成して第1のマスク層61をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層61を得た後、記録層をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層を得る各工程を有する。
【解決手段】記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、記録層の平面形状は平行四辺形である磁気抵抗効果素子の製造方法は、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体及び第1のマスク層61を形成し、次いで、第1のマスク層61上に、前記平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層62を形成して第1のマスク層61をパターニングし、次いで、積層構造体及び第1のマスク層上に、前記平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層63を形成して第1のマスク層61をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層61を得た後、記録層をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層を得る各工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関し、より具体的には、スピン注入型磁気抵抗効果素子(所謂スピンRAM)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器、特に携帯端末等の個人用小型機器の飛躍的な普及に伴い、これらを構成するメモリ素子やロジック素子の各種半導体装置には、高集積化、高速化、低電力化等、一層の高性能化が要請されている。特に不揮発性メモリは、ユビキタス時代に必要不可欠であると考えられている。電源の消耗やトラブル、サーバーとネットワークとが何らかの障害により切断された場合でも、不揮発性メモリによって重要な情報を保存、保護することができる。また、最近の携帯機器は不要の回路ブロックをスタンバイ状態とし、出来る限り消費電力を抑えるように設計されているが、高速のワークメモリと大容量ストレージメモリを兼ねることができる不揮発性メモリが実現できれば、消費電力とメモリの無駄を無くすことができる。また、電源を投入すると瞬時に起動できる「インスタント・オン」機能も、高速、且つ、大容量の不揮発性メモリが実現できれば可能となる。
【0003】
不揮発性メモリとして、半導体材料を用いたフラッシュメモリや、強誘電体材料を用いた強誘電体型不揮発性半導体メモリ(FERAM,Ferroelectric Random Access Memory)等を挙げることができる。しかしながら、フラッシュメモリは、書込み速度がマイクロ秒のオーダーであり、書込み速度が遅いという欠点がある。一方、FERAMにおいては、書換え可能回数が1012〜1014であり、SRAMやDRAMをFERAMに置き換えるにはFERAMの書換え可能回数が十分とは云えず、また、強誘電体層の微細加工が難しいという問題が指摘されている。
【0004】
これらの欠点を有さず、しかも、より少ない電流にて情報の記録、読み出しを行うことができる、スピン注入による磁化反転を応用したスピン注入型磁気抵抗効果素子(スピンRAM)が注目されている(例えば、特開2003−17782参照)。ここで、スピン注入による磁化反転とは、磁性体の中を通過してスピン偏極された電子が他の磁性体に注入されることにより、他の磁性体において磁化反転が生じる現象である。スピン注入型磁気抵抗効果素子にあっては、具体的には、磁性体の膜面に垂直な方向に電流を流すことにより、少なくとも一部の磁性体の磁化の向きを反転させることができる。そして、スピン注入による磁化反転は、素子が微細化されても、電流を増やさずに磁化反転を実現することができるといった利点を有しており、より一層の素子の微細化が可能となる。
【0005】
スピン注入型磁気抵抗効果素子の概念図を図12の(A)に示す。このスピン注入型磁気抵抗効果素子は、GMR(Giant MagnetoResistance,巨大磁気抵抗)効果を有する積層膜、あるいは、TMR(Tunnel MagnetoResistance)効果を有する積層膜から成る磁気抵抗効果積層膜が2つの配線41,42で挟まれた構造を有する。即ち、情報を記録する機能を担う記録層(磁化反転層あるいは自由層とも呼ばれる)53と、磁化方向が固定されており、スピンフィルターとして機能する磁化参照層(固着層とも呼ばれる)51が、非磁性体膜52を介して積層された構造を有し、電流は膜面に垂直に流れる(図12の(A)参照)。記録層53の大きさは、模式的な平面図を図12の(B)に示すが、記録層53を構成する磁性材料の種類や膜厚に依るが、単磁区化を促進し、且つ、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を低減するため、概ね100nm以下である。記録層53は、適当な磁気異方性により2以上の複数の磁化方向(例えば、図12の(A)に水平方向の矢印にて示す2方向である第1の方向及び第2の方向)を取ることができ、各磁化方向は記録される情報に対応する。図12の(B)においては、記録層53の平面形状を長楕円形状にすることによって、形状異方性(形状磁気異方性)を付与した例を示す。即ち、記録層53は、第1の方向及び第2の方向に平行な磁化容易軸と、この磁化容易軸に直交する磁化困難軸とを有しており、磁化容易軸に沿った記録層53の長さは、磁化困難軸に沿った記録層53の長さよりも長い。また、例えば、特開2005−353788の図22には、トンネル磁気抵抗素子TMJの平面形状として、長方形、楕円形、多角形、菱形、平行四辺形、台形が例示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−17782
【特許文献2】特開2005−353788
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スピン注入型磁気抵抗効果素子としての特性を維持するためには、熱による磁化の反転が起こらないように、熱安定性指標Δを一定の値以上に確保しなければならない。この熱安定性指標Δは、次の式(1)で表すことができる。
【0008】
Δ=(Ms・V・Hk)/(2・kB・T) (1)
【0009】
ここで、
Ms:記録層の飽和磁化
V :記録層の体積
Hk:記録層の異方性磁界
kB:ボルツマン定数
T :記録層の絶対温度
である。
【0010】
式(1)から、熱安定性指標Δは、飽和磁化Msの増加、体積Vの増加、異方性磁界Hkの増加と共に増加することが判る。ここで、記録層の異方性磁界Hkとは、結晶内でスピンを或る方向に向ける異方性エネルギー(結晶磁気異方性エネルギー)に対応する量であり、結晶磁気異方性エネルギーは、結晶の構造、配向に依存して決まるスピンの方向を固定するために必要なエネルギーである。
【0011】
一方、着磁した方向とは逆方向の磁場を加えて、種々の磁化過程を取りながらも概ねゼロになるときの磁場をもって、磁化反転の容易さを見積もる値として、保磁力(抗磁力)Hcがある。異方性磁界Hkと保磁力Hcは、材料開発やデバイス開発に必要なパラメータとして使い分けられているが、両者は対応した関係にあり、保持力Hcの増大は、異方性磁界Hkの増大に繋がり、その結果、式(1)に見られるように、熱安定性指標Δを向上させることができる。ここで、保持力Hcは、次の式(2)に示すように、記録層を構成する材料が有する固有値[式(2)の右辺第1項]、記録層の形状に起因する値[式(2)の右辺第2項]、記録層の内部応力に起因した値[式(2)の右辺第3項]等の和で表される。
【0012】
Hc=Hc-film + (1/4π)・{(Ms・t)/W}・f(r)
+ 3(λ/Ms)・σ + A (2)
【0013】
ここで、
Hc-film:薄膜の状態にある記録層の保磁力
t :記録層の膜厚
W :記録層の磁化困難軸に沿った長さ
f(r):記録層における形状異方性の関数
r :記録層のアスペクト比(磁化容易軸に沿った長さ/磁化困難軸に沿った長さ)
λ :記録層を構成する材料の磁歪定数
σ :磁化容易軸に沿った記録層における応力(正の値は引っ張り応力であり、負
の値は圧縮力である)
A :定数
である。
【0014】
ところで、上記の式(2)の右辺第1項は、記録層を構成する材料が有する固有の値であるので、右辺第1項の値は記録層を構成する材料によって、一義的に決定されてしまう。また、式(2)の右辺第3項における飽和磁化Msの値及び磁歪定数λの値は、記録層を構成する材料によって一義的に決定されてしまうし、磁化容易軸に沿った記録層における応力σの値も、スピン注入型磁気抵抗効果素子の構成、構造によって決定されてしまう。
【0015】
一方、式(2)の右辺第2項は、記録層の形状に起因する値であり、記録層のアスペクト比を大きくし、形状異方性を増大させることで、右辺第2項の値を増大させ得る。
【0016】
一般に、記録層をパターニングするためには、記録層の上にハードマスク層を形成し、ハードマスク層の上に、フォトリソグラフィ技術に基づきパターニングされたレジスト層を形成する。そして、レジスト層をパターニング用マスクとして、先ず、ハードマスク層をエッチング法にてパターニングする。次いで、レジスト層を除去し、パターニングされたハードマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングする。即ち、1回のフォトリソグラフィ工程及び1回のエッチング工程にて、パターニングされたハードマスク層を得ている。
【0017】
しかしながら、記録層の大きさが微細化するに従い、フォトリソグラフィ技術に基づきパターニングされたレジスト層の形状が所望の形状から大きく逸脱するといった問題が生じる。例えば、所望の形状が矩形であっても、パターニングされたレジスト層の形状は、コーナー部が丸みを帯びた矩形となってしまう。また、鋭角のコーナー部を有する記録層の形成において、係るコーナー部に対応するハードマスク層の部分が丸みを帯びてしまうと、所望の形状を有する記録層を形成できなくなり、保持力Hcの低下に繋がるといった問題もある。
【0018】
加えて、記録層の形状の改良だけでは、熱安定性指標Δを一層向上させ、しかも、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させるといった、2つの技術的事項を同時に達成することは困難である。
【0019】
従って、本発明の第1の目的は、所望の形状を有する記録層を確実に形成し得る磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、熱安定性指標Δを一層向上させ、しかも、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させるといった、2つの技術的事項を同時に達成することを可能とする磁気抵抗効果素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の第1の目的を達成するための本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法は、電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、記録層の平面形状は平行四辺形である磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
(A)記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体を形成した後、積層構造体上に第1のマスク層を形成し、次いで、
(B)第1のマスク層上に、前記平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層を形成した後、第2のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングし、次いで、第2のマスク層を除去し、
(C)積層構造体及び第1のマスク層上に、前記平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層を形成し、次いで、第3のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングした後、第3のマスク層を除去し、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層を得た後、
(D)第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層を得る、
各工程を有する。
【0021】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法においては、磁化参照層の磁化方向を固定する工程を含み、
記録層の平面形状である平行四辺形は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である形態とすることが好ましく、これによって、上記の第2の目的を達成することができる。
【0022】
上記の第2の目的を達成するための本発明の磁気抵抗効果素子は、
電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、
記録層の平面形状は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である。
【0023】
上記の好ましい形態の本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法にあっては、あるいは又、本発明の磁気抵抗効果素子にあっては、記録層の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
好ましくは、
1.5≦L/H≦3.0
を満足することが望ましい。また、このような構成を含む上記の好ましい形態の本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法あるいは本発明の磁気抵抗効果素子にあっては、頂点A及び頂点Cに対応する記録層の部分の曲率半径Rは10nm以下であることが望ましい。
【0024】
一般に、幾何学では、少なくとも一組の対辺が互いに平行である広義の台形の範疇の中に平行四辺形が含まれる。尚、このような平行四辺形は『広義の平行四辺形』とも呼ばれる。また、広義の平行四辺形の範疇の中に狭義の平行四辺形、菱形、長方形、正方形が含まれる。ここで、狭義の平行四辺形とは、上述したとおり、狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、
0<θ<90
AB≠AD
を満足すると定義される。上述した本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法において、形成される記録層の平面形状は平行四辺形であるが、ここでの平行四辺形は、広義の平行四辺形を意味する。即ち、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法に基づき得られる記録層の平面形状は、狭義の平行四辺形、菱形、長方形、あるいは、正方形である。
【0025】
以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法を、以下、単に、『本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法』と呼ぶ場合がある。また、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子を、以下、単に、『本発明の磁気抵抗効果素子』と呼ぶ場合がある。更には、以上に説明した種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子を総称して、以下、『本発明』と呼ぶ場合がある。また、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法によって得られる磁気抵抗効果素子、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子を総称して、以下、『本発明の磁気抵抗効果素子等』と呼ぶ場合がある。更には、磁化参照層の磁化容易軸の方向を『方向M1』と呼び、記録層の磁化容易軸の方向を『方向M2』と呼ぶ場合がある。また、本発明の磁気抵抗効果素子等の記録層の平面形状における線分AB、線分BC、線分CD、線分ADに対応する平行四辺形の記録層の辺を、辺ab、辺bc、辺cd、辺adと呼ぶ場合がある。
【0026】
本発明の磁気抵抗効果素子等は、より具体的には、スピン注入による磁化反転を応用したスピン注入型磁気抵抗効果素子である。
【0027】
スピン注入型磁気抵抗効果素子にあっては、磁化参照層(固着層とも呼ばれる)、非磁性体膜、及び、情報を記憶する記録層(磁化反転層あるいは自由層とも呼ばれる)によって、TMR効果あるいはGMR効果を有する情報記録構造体が構成されている。ここで、磁化参照層、非磁性体膜及び記録層によって、TMR効果を有する情報記録構造体が構成されるとは、磁性材料から成る磁化参照層と、磁性材料から成る記録層との間に、トンネル絶縁膜として機能する非磁性体膜が挟まれた構造を指す。
【0028】
本発明の磁気抵抗効果素子等において、情報記録構造体の具体的な構成として、下から、磁化参照層、非磁性体膜及び記録層の積層構造(記録層が最上層)を挙げることができる。この場合、少なくとも記録層の平面形状が広義あるいは狭義の平行四辺形であればよく、磁化参照層、非磁性体膜は、記録層と同じ平面形状を有していてもよいし、有していなくともよい。あるいは又、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層の積層構造(磁化参照層が最上層)を挙げることができる。この場合、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層の平面形状は、同じ形状の広義あるいは狭義の平行四辺形である。
【0029】
スピン注入型磁気抵抗効果素子における記録層(磁化反転層)、磁化参照層を構成する材料として、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)といった強磁性材料、これらの強磁性材料の合金(例えば、Co−Fe、Co−Fe−Ni、Ni−Fe等)、これらの合金に非磁性元素(例えば、タンタル、ホウ素、クロム、白金、シリコン、炭素、窒素等)を混ぜた合金(例えば、Co−Fe−B等)、Co、Fe、Niの内の1種類以上を含む酸化物(例えば、フェライト:Fe−MnO等)、ハーフメタリック強磁性材料と呼ばれる一群の金属間化合物(ホイスラー合金:NiMnSb、Co2MnGe、Co2MnSi、Co2CrAl等)、酸化物(例えば、(La,Sr)MnO3、CrO2、Fe3O4等)を挙げることができる。記録層、磁化参照層の結晶性は、本質的に任意であり、多結晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、非晶質であってもよい。更には、各種磁性半導体の使用も可能であるし、軟磁性(ソフト膜)であっても硬磁性(ハード膜)であってもよい。
【0030】
あるいは又、スピン注入型磁気抵抗効果素子における磁化参照層は、積層フェリ構造[反強磁性的結合を有する積層構造であり、合成反強磁性結合(SAF:Synthetic Antiferromagnet)とも呼ばれる]を有する構成とすることができるし、静磁結合構造を有する構成とすることができる。積層フェリ構造とは、例えば、磁性材料層/ルテニウム(Ru)層/磁性材料層の3層構造(具体的には、例えば、CoFe/Ru/CoFeの3層構造、CoFeB/Ru/CoFeBの3層構造)を有し、ルテニウム層の厚さによって、2つの磁性材料層の層間交換結合が、反強磁性的あるいは強磁性的になる構造を指し、例えば、 S. S. Parkin et. al, Physical Review Letters, 7 May, pp 2304-2307 (1990) に報告されている。尚、2つの磁性材料層の層間交換結合が強磁性的になる構造を、積層フェリ構造と呼ぶ。また、2つの磁性材料層において、磁性材料層の端面からの漏洩磁界によって反強磁性的結合が得られる構造を、静磁結合構造と呼ぶ。記録層(磁化反転層)を、合成反強磁性結合を有する多層構造とすることもできる。磁化参照層は、反強磁性体層との交換結合によってピニング(pinning)される。反強磁性体層を構成する材料として、鉄−マンガン合金、ニッケル−マンガン合金、白金−マンガン合金、イリジウム−マンガン合金、ロジウム−マンガン合金、コバルト酸化物、ニッケル酸化物を挙げることができる。後述する第1配線あるいは第2配線と反強磁性体層との間には、反強磁性体層の結晶性向上のために、Ta、Cr、Ru、Ti等から成る下地膜を形成してもよい。
【0031】
スピン注入型磁気抵抗効果素子において、TMR効果を有する情報記録構造体を構成する非磁性体膜を構成する材料として、マグネシウム酸化物(MgO)、マグネシウム窒化物、アルミニウム酸化物(AlOX)、アルミニウム窒化物(AlN)、シリコン酸化物、シリコン窒化物、TiO2あるいはCr2O3、Ge、NiO、CdOX、HfO2、Ta2O5、BN、ZnS等の絶縁材料を挙げることができる。一方、GMR効果を有する情報記録構造体を構成する非磁性体膜を構成する材料として、Cu、Ru、Cr、Au、Ag、Pt、Ta等、あるいは、これらの合金といった導電性材料を挙げることができるし、導電性が高ければ(抵抗率が数百μΩ・cm以下)、任意の非金属材料としてもよいが、記録層や磁化参照層と界面反応を起こし難い材料を、適宜、選択することが望ましい。
【0032】
積層構造体を構成するこれらの層は、例えば、スパッタリング法、イオンビーム堆積法、真空蒸着法に例示される物理的気相成長法(PVD法)、ALD(Atomic Layer Deposition)法に代表される化学的気相成長法(CVD法)にて形成することができる。積層構造体のパターニングは、反応性イオンエッチング法(RIE法)やイオンミーリング法(イオンビームエッチング法)にて行うことができる。
【0033】
また、非磁性体膜は、例えば、スパッタリング法にて形成された金属膜を酸化若しくは窒化することにより得ることができる。より具体的には、非磁性体膜を構成する絶縁材料としてアルミニウム酸化物(AlOX)、マグネシウム酸化物(MgO)を用いる場合、例えば、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを大気中で酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムをプラズマ酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムをIPCプラズマで酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを酸素中で自然酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを酸素ラジカルで酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを酸素中で自然酸化させるときに紫外線を照射する方法、アルミニウムやマグネシウムを反応性スパッタリング法にて成膜する方法、アルミニウム酸化物(AlOX)やマグネシウム酸化物(MgO)をスパッタリング法にて成膜する方法を例示することができる。
【0034】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法における第1のマスク層を構成する材料として、SiO2、SiN、SiON、Al2O3、AlN、PSG、BSG、BPSG、SiOF、Ta2O5、BST、STOといった材料を挙げることができる。第1のマスク層の形成方法として、スパッタリング法に例示される各種PVD法や各種CVD法を挙げることができる。第1のマスク層の除去方法として、エッチング法を挙げることができる。第2のマスク層、第3のマスク層を構成する材料として、周知のレジスト材料を挙げることができ、第2のマスク層、第3のマスク層の形成方法として、周知のフォトリソグラフィ技術を挙げることができる。第2のマスク層や第3のマスク層の除去は、アッシング法等の周知の方法とすればよい。第2のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングする方法として、反応性イオンエッチング法やイオンミーリング法を挙げることができる。また、第3のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングする方法としても、反応性イオンエッチング法やイオンミーリング法を挙げることができる。
【0035】
第2のマスク層は、記録層の平面形状である平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する。尚、第2のマスク層の係る2辺間の距離は、記録層の平面形状である平行四辺形の一組の対辺間の距離と等しい。ここで、第2のマスク層は、係る平行な2辺を結ぶ2辺(便宜上、『他の2辺』と呼ぶ)を有するが、これらの他の2辺は線分であっても曲線であってもよい。具体的な第2のマスク層の平面形状として、広義の台形、長円形(他の2辺が半円である形状)を例示することができる。
【0036】
第3のマスク層は、記録層の平面形状である平行四辺形の対向する他の対辺と平行な2辺を有する。尚、第3のマスク層の係る2辺間の距離は、記録層の平面形状である平行四辺形の他の対辺間の距離と等しい。ここで、第3のマスク層は、係る平行な2辺を結ぶ2辺(便宜上、『他の2辺』と呼ぶ)を有するが、これらの他の2辺は線分であっても曲線であってもよい。具体的な第3のマスク層の平面形状として、広義の台形、長円形(他の2辺が半円である形状)を例示することができる。
【0037】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法の好ましい形態においては、磁化参照層の磁化方向を固定する工程(磁化参照層磁化方向固定工程と呼ぶ)が含まれる。磁化参照層磁化方向固定工程によって、磁化参照層の磁化容易軸が底辺ABと平行となるように、磁化参照層の磁化方向が固定される。即ち、磁化参照層の磁化容易軸が方向M1に固定される。磁化参照層の磁化方向を固定するためには、規則化熱処理を行えばよい。具体的には、例えば、積層構造体を熱処理炉に搬入し、磁化参照層を構成する材料のブロッキング温度(TB)を越える温度まで積層構造体を昇温した後、一定方向の磁場(方向M1)中で積層構造体を冷却する。ここで、ブロッキング温度(TB)とは、例えば磁化参照層を加熱した後の冷却過程で磁化の方向が固定されるときの温度を指す。このブロッキング温度を通過することで、磁化参照層の磁化方向は方向M1に固定される。あるいは又、磁化参照層の成膜時の結晶方位の制御によっても、磁化参照層の磁化方向を方向M1に固定することが可能である。
【0038】
一方、記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である。即ち、記録層の磁化容易軸は方向M2に固定される。記録層の磁化容易軸の方向M2への固定は、基本的には、記録層の平面形状を狭義の平行四辺形とするといった形状異方性を与えることで行うことができる。尚、規則化熱処理を併用してもよいし、記録層の成膜時の結晶方位の制御によって記録層の磁化方向を方向M2に固定する方法を併用してもよい。規則化熱処理を採用する場合、磁化参照層における規則化熱処理のブロッキング温度(TB)と異なるキュリー温度(TC)を有する材料から記録層を構成することが望ましい。尚、例えば、高いブロッキング温度を有する材料から構成された磁化参照層への規則化熱処理を、低いキュリー温度を有する材料から構成された記録層への(磁界中での)熱処理よりも先に行う必要があり、あるいは又、高いキュリー温度を有する材料から構成された記録層への(磁界中での)熱処理を、低いブロッキング温度を有する材料から構成された磁化参照層への熱処理よりも先に行う必要がある。
【0039】
あるいは又、記録層の磁化方向と磁化参照層の磁化方向とを異なる方向に固定する方法として、誘導磁気異方性熱処理と規則化熱処理との組み合わせた方法を採用してもよい。即ち、例えば、磁化参照層のブロッキング温度が記録層のキュリー温度より低い場合(TB<TC)、先ず、記録層に用いられる材料のキュリー温度(TC)以上まで温度を上げ、次いで、方向M2の磁界中でブロッキング温度TBまで冷却し、その後、方向M1に磁界方向を変えて、磁界中で冷却することによって、2方向に異方性を付与することができる。一方、磁化参照層のブロッキング温度が記録層のキュリー温度より高い場合(TB>TC)、磁界中での熱処理の順番を逆(規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理の順)にすればよい。但し、誘導磁気異方性を用いる場合には、Co系アモルファス磁性材料、NiFe等の特定の磁性材料を用いる必要がある。例えば、CoZrNbTaを記録層に、PtMnを磁化参照層の反強磁性体に用いる場合、340゜Cにて2時間保持するといった規則化熱処理を行った後、240゜Cまで、1時間かけて、磁界中で冷却し、磁界方向を変えて、240゜Cにて1時間保持するといった誘導磁気異方性熱処理を行い、その後、室温まで磁界中で冷却すればよい。また、NiFeを記録層に、RhMnを磁化参照層の反強磁性体に用いる場合、360゜Cにて1時間保持するといった誘導磁気異方性熱処理を行った後、240゜Cまで、1時間かけて、磁界中で冷却し、磁界方向を変えて、240゜Cにて4時間保持するといった規則化熱処理を行い、次いで、室温まで磁界中で冷却すればよい。更には、TB>TCの場合、独立して磁界中熱処理(規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理)を行うことが可能である。例えば、CoZrNbTaを記録層に、PtMnを磁化参照層の反強磁性体に用いる場合、規則化熱処理を340゜C、2時間にて実行する。次に、磁界方向を変えて、誘導磁気異方性熱処理を240゜C、1時間にて実行すればよい。尚、複数回の磁界中熱処理(規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理)を採用する場合、規則化熱処理を最初に実施する必要がある。また、磁気抵抗効果素子が完成した後(最終工程)に規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理を実施してもよい。
【0040】
磁化参照層磁化方向固定工程は、磁化参照層の磁化方向をどのような方法で固定するかに依るが、本質的には、任意の工程において行うことができる。例えば、規則化熱処理を採用する場合、
(1)積層構造体を形成した後、積層構造体上に第1のマスク層を形成する前に、規則化熱処理を実行する。
(2)積層構造体上に第1のマスク層を形成した後、第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングする前のいずれかの工程において、規則化熱処理を実行する。
(3)第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングした後、規則化熱処理を実行する。
といった実行形態を挙げることができる。
【0041】
本発明の磁気抵抗効果素子等の記録層にあっては、辺abと辺cdとは平行であるが、係る辺abと辺cdの『平行』状態には、記録層の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、辺abの延長線と辺cdの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、これらの延長線の成す角度が5度以内であるとき、辺abと辺cdとは平行であると見做す。同様に、辺bcと辺adは平行であるが、係る辺bcと辺adの『平行』状態には、記録層の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、辺bcの延長線と辺adの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、これらの延長線の成す角度が5度以内であるとき、辺bcと辺adとは平行であると見做す。また、線分ABと線分ACとの成す角度をφ(単位:度)としたとき、
0<φ≦45
好ましくは、
5≦φ≦30
とすることが望ましい。
【0042】
本発明の磁気抵抗効果素子等にあっては、磁化参照層の磁化容易軸の方向M1は、情報記録構造体の中央部にて測定した平均的な方向である。そして、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABとは平行であるが、係る『平行』状態には、情報記録構造体の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABの延長線の成す角度が5度以内であるとき、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABとは平行であると見做す。同様に、記録層の磁化容易軸の方向M2は、情報記録構造体の中央部にて測定した平均的な方向である。そして、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACとは平行であるが、係る『平行』状態には、情報記録構造体の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACの延長線の成す角度が5度以内であるとき、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACとは平行であると見做す。
【0043】
本発明の磁気抵抗効果素子等は、情報記録構造体の下部に電気的に接続された第1配線、及び、情報記録構造体の上に接続部を介して接続された第2配線を備えている構造とすることができる。また、第1配線の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタを有する構造とすることができる。ここで、第2配線(例えば、ビット線)の延びる方向は、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極(ワード線)の延びる方向と平行である形態とすることができるし、第2配線の延びる方向の射影像は、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極の延びる方向の射影像と直交する形態とすることもできる。尚、第1配線の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタが形成されている場合、具体的には、選択用トランジスタは下層絶縁層で覆われ、下層絶縁層上に第1配線が形成され、下層絶縁層に設けられた接続孔(あるいは接続孔とランディングパッド部や下層配線)を介して、選択用トランジスタの一方のソース/ドレイン領域と第1配線とが接続されている構成とすることができる。また、層間絶縁層は、下層絶縁層及び第1配線を覆い、情報記録構造体及び接続部を取り囲んでおり、第2配線は層間絶縁層上に形成されている構成とすることができる。即ち、より具体的な構成として、例えば、限定するものではないが、
半導体基板に形成された選択用トランジスタ、及び、
選択用トランジスタを覆う下層絶縁層、
を備え、
下層絶縁層上に第1配線が形成されており、
第1配線は、下層絶縁層に設けられた接続孔(あるいは接続孔とランディングパッド部や下層配線)を介して選択用トランジスタに電気的に接続されており、
層間絶縁層は、下層絶縁層及び第1配線を覆い、情報記録構造体を取り囲んでおり、
第2配線は層間絶縁層上に形成されている構成を例示することができる。
【0044】
場合によっては、選択用トランジスタは不要である。第1配線や、第2配線(例えば、所謂ビット線として機能する)は、Cu、Au、Pt等の単層構造から成り、あるいは又、CrやTi等から成る下地層と、その上に形成されたCu層、Au層、Pt層等の積層構造を有していてもよいし、更には、W、Ru、Ta等の単層あるいはCu、Cr、Ti等との積層構造から構成することもできる。これらの配線は、例えば、スパッタリング法に例示されるPVD法にて形成することができる。
【0045】
層間絶縁層を構成する材料として、SiO2、NSG(ノンドープ・シリケート・ガラス)、BPSG(ホウ素・リン・シリケート・ガラス)、PSG、BSG、AsSG、SbSG、SOG(スピンオングラス)等のSiOX系材料(シリコン系酸化膜を構成する材料)、SiN、SiON、SiOC、SiOF、SiCN、低誘電率絶縁材料(例えば、フルオロカーボン、シクロパーフルオロカーボンポリマー、ベンゾシクロブテン、環状フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、アモルファス・テトラフルオロエチレン、フッ化アリールエーテル、フッ化ポリイミド、アモルファスカーボン、有機SOG、パリレン、フッ化フラーレン)、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、Silk(The Dow Chemical Co. の商標であり、塗布型低誘電率層間絶縁膜材料)、Flare(Honeywell Electronic Materials Co. の商標であり、ポリアリルエーテル(PAE)系材料)を例示することができる。
【0046】
磁化参照層と第1配線(あるいは第2配線)の電気的な接続状態として、第1配線(あるいは第2配線)が、直接、磁化参照層に接続されている形態を挙げることができるし、あるいは又、第1配線(あるいは第2配線)が、反強磁性体層を介して磁化参照層に接続されている形態を挙げることができる。また、第1配線が反強磁性体層を兼ねている構成とすることもできる。磁化参照層が第1配線に接続されている場合、第1配線から磁化参照層を介して、また、磁化参照層が第2配線に接続されている場合、第2配線から磁化参照層を介して、偏極スピン電流を記録層内に注入することにより、記録層における磁化の方向を、方向M2あるいは方向M2と反対の方向とすることで、記録層に情報が書き込まれる。
【0047】
選択用トランジスタは、例えば、周知のMIS型FETやMOS型FETから構成することができる。第1配線と選択用トランジスタとを電気的に接続する接続孔は、不純物がドーピングされたポリシリコンや、タングステン、Ti、Pt、Pd、Cu、TiW、TiNW、WSi2、MoSi2等の高融点金属や金属シリサイドから構成することができ、CVD法や、スパッタリング法に例示されるPVD法に基づき形成することができる。また、下層絶縁層を構成する材料として、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、SiON、SOG、NSG、BPSG、PSG、BSGあるいはLTOを例示することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法にあっては、記録層の平面形状である平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層によって第1のマスク層をパターニングし、更には、この平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層によって第1のマスク層をパターニングする。従って、第1のマスク層には、記録層の平面形状である平行四辺形と同じ平面形状を確実に付与することができる。そして、この第1のマスク層を用いて記録層をパターニングするので、所望の形状を有する記録層を確実に形成することができる。
【0049】
また、本発明の磁気抵抗効果素子、あるいは、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法の好ましい形態にて得られた磁気抵抗効果素子にあっては、所望の狭義の平行四辺形を平面形状として有する記録層が備えられており、しかも、磁化参照層の磁化容易軸は、狭義の平行四辺形ABCDにおける底辺ABと平行であり、記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である。ここで、記録層に高い形状異方性を与えることができる結果、熱安定性指標Δを一層向上させることができ、熱安定性を有する磁気抵抗効果素子を提供することができる。また、記録層の磁化容易軸の方向と磁化参照層の磁化容易軸の方向を非平行としているので、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させることが可能となる。しかも、素子形状のバラツキを低減できるので、書込み電流閾値のバラツキも抑制できる結果、特性の揃った、高い均一性を有する磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0051】
実施例1は、本発明の磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関する。実施例1の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の模式的な一部断面図を図1に示す。また、記録層の平面形状を模式的に図2の(A)に示し、記録層の模式的な平面図を図2の(B)に示す。
【0052】
ここで、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3の磁気抵抗効果素子30,30Aは、具体的には、スピン注入による磁化反転を応用したスピン注入型磁気抵抗効果素子である。そして、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3の磁気抵抗効果素子30,30Aは、情報記録構造体50の下部に電気的に接続された第1配線41、及び、情報記録構造体50の上に設けられたキャップ層55を介して接続された第2配線42(ビット線として機能する)を備えている。また、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3の磁気抵抗効果素子30,30Aにあっては、更に、第1配線41の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタTRを有している。
【0053】
尚、図1、図7、図9に示す模式的な一部断面図において、図面の関係上、一点鎖線の上側の「A」の領域と、下側の「B」の領域では、磁気抵抗効果素子の断面を眺める方向が90度異なっている。即ち、「A」の領域は、磁気抵抗効果素子の断面を磁化困難軸と平行な方向から眺めており、「B」の領域は、磁気抵抗効果素子の断面を磁化容易軸と平行な方向から眺めている。従って、図1、図7、図9では、第2配線(実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3にあっては、ビット線)42の延びる方向の射影像と、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極(ワード線)12の延びる方向の射影像とは直交しているように図示しているが、実際には、平行である。
【0054】
ここで、情報記録構造体50を構成する記録層53は、磁化容易軸、及び、この磁化容易軸と直交する磁化困難軸を有している。実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3にあっては、磁化容易軸は第2配線42と平行である。また、情報記録構造体50の上部と第2配線42との間には、上述したとおり、厚さ約100nmのTiN層から成るキャップ層55が、スパッタリング法にて形成されている。キャップ層55は、配線を構成する原子と記録層53を構成する原子の相互拡散の防止、接触抵抗の低減、及び、記録層53の酸化防止を担っている。尚、キャップ層55を、その他、Cu層、Ta層、Ti層、W層、TaN層、WN層、Ru層、Pt層、MgO層、Ru膜/Ta膜の積層構造等から構成することもできる。
【0055】
更には、上述したとおり、第1配線41の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタTRが設けられており、第2配線(ビット線)42の延びる方向は、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極(ワード線)12の延びる方向と平行である。具体的には、選択用トランジスタTRは、素子分離領域11によって囲まれたシリコン半導体基板10の部分に形成されており、下層絶縁層21,24によって覆われている。そして、一方のソース/ドレイン領域14Bは、タングステンプラグから成る接続孔22を介して、第1配線41に接続されている。また、他方のソース/ドレイン領域14Aは、タングステンプラグ15を介してセンス線16に接続されている。図中、参照番号13はゲート絶縁膜を示す。
【0056】
図12の(A)に概念図を示すように、情報記録構造体50は、以下の構成、構造を有しており、スパッタリング法にて形成されている。尚、磁化参照層51は、反強磁性体層54(図12参照。図1等には図示せず)のPt−Mnとの交換結合によって、磁化の方向が方向M1にピニング(pinning)される。また、記録層53においては、電流の流れる方向により、その磁化の方向が、方向M2(第1の方向)あるいは方向M2と反対の方向(第2の方向)に変えられる。
【0057】
具体的には、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3におけるスピン注入型磁気抵抗効果素子は、GMR効果を有する積層膜、あるいは、TMR効果を有する積層膜から成る磁気抵抗効果積層膜が2つの配線41,42で挟まれた構造を有する。即ち、情報を記録する機能を担う記録層(磁化反転層あるいは自由層とも呼ばれる)53と、磁化方向が固定されており、スピンフィルターとして機能する磁化参照層(固着層とも呼ばれる)51が、非磁性体膜52を介して積層された構造を有し、電流は膜面に垂直に流れる(図12の(A)参照)。磁化容易軸に沿った記録層53の短辺長は、記録層53を構成する磁性材料の種類や膜厚に依るが、単磁区化を促進し、且つ、スピン注入磁化反転の臨界電流Icを低減するため、概ね100nm以下である。記録層53は、適当な磁気異方性により2以上の複数の磁化方向(例えば、図12の(A)に水平方向の矢印にて示す2方向である第1の方向及び第2の方向)を取ることができ、各磁化方向は記録される情報に対応する。ここで、図2に示すように、記録層53の平面形状を狭義の平行四辺形とすることによって、形状異方性(形状磁気異方性)を付与している。即ち、記録層53は、方向M2に平行な磁化容易軸、及び、磁化困難軸を有しており、磁化容易軸に沿った記録層53の長さは、磁化困難軸に沿った記録層53の長さよりも長い。
【0058】
磁化参照層51は、通例、反強磁性体層54との交換結合により、その磁化方向が固定されている(図12の(C)参照)。磁化参照層51A,51Bを、記録層53の上下に、非磁性体膜52A,52Bを介して配置して、スピン注入磁化反転の効率を向上させたダブル・スピンフィルター構造も知られている(図12の(D)参照)。ここで、参照番号54A,54Bは、反強磁性体層である。尚、図12の(A)、(C)及び(D)に示した例においては、記録層53、磁化参照層51(磁化参照層が2層51A,51Bの場合には、いずれか一方の層)を、積層フェリ構造(SAF積層構造)としてもよい。非磁性体膜52,52A,52Bは、金属材料あるいは絶縁材料から構成されている。図12の(A)あるいは、図12の(C)に示す構造において、場合によっては、磁化参照層51から記録層53への漏洩磁界を抑制するために、即ち、磁化参照層51と記録層53とが静磁気的に結合することを防ぐために、磁化参照層51を記録層53に比して十分大きくする構造も採用されている。いずれにしても、スピン注入磁化反転を適用した不揮発性磁気メモリ素子(スピン注入型磁気抵抗効果素子)は、磁気抵抗効果積層膜の上下を配線で挟んだ、2端子スピントランスファー素子構造を有する。
【0059】
[情報記録構造体50]
記録層53
厚さ約5nmのCo−Fe層
非磁性体膜(トンネル絶縁膜)52
厚さ1.0nmのMgO膜
磁化参照層(SAF積層構造の多層膜)51(図面では1層で示す)
上層:厚さ2nmのCo−Fe層
中層:厚さ1nmのRu層
下層:厚さ2nmのCo−Fe層
反強磁性体層54
厚さ20nmのPt−Mn層
【0060】
第1配線41は、10nm厚さのTa層から成る。第2配線42は、例えば、Ta、TiあるいはAl−Cuから成る。また、情報記録構造体50を囲む層間絶縁層26は、SiN又はSiO2から成る。
【0061】
実施例1のスピン注入型磁気抵抗効果素子は、電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層53、非磁性体膜52及び磁化参照層51が積層されて成る情報記録構造体50を備えている。そして、図2の(A)に示すように、記録層53の平面形状は、狭義の平行四辺形である。ここで、この狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足している。磁化参照層51の磁化容易軸(方向M1)は、底辺ABと平行であり、記録層53の磁化容易軸(方向M2)は、線分ACと平行である。
【0062】
記録層53の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
を満足している。具体的には
L/H=2.4
である。また、図2の(B)に示すように、頂点A及び頂点Cに対応する記録層53の部分の曲率半径Rは10nm以下、具体的には、約5nmである。更には、θ=30度であり、AB=CD=120nmであり、AD=BC=100nmである。また、線分ABと線分ACとの成す角度をφ(単位:度)としたとき、
0<φ≦45
を満足しており、具体的には、φ=14度である。
【0063】
実施例1の磁気抵抗効果素子において、情報記録構造体50の具体的な構成は、下から、反強磁性体層54、磁化参照層51、非磁性体膜52及び記録層53の積層構造(記録層53が最上層)である。また、記録層53の平面形状は、狭義の平行四辺形である。一方、磁化参照層51、非磁性体膜52は、記録層53よりも大きな形状である。
【0064】
以下、下層絶縁層24等の模式的な一部端面図である図3の(A)〜(C)、図4の(A)〜(C)、図5の(A)及び(B)、模式的な部分的平面図である図6の(A)〜(C)を参照して、実施例1の磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。尚、磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する図面においては、選択用トランジスタTRの図示を省略し、また、下層絶縁層24に設けられた接続孔22の図示も省略している。
【0065】
[工程−100]
先ず、周知の方法に基づき、シリコン半導体基板10に素子分離領域11を形成し、素子分離領域11によって囲まれたシリコン半導体基板10の部分に、ゲート酸化膜13、ゲート電極(ワード線)12、ソース/ドレイン領域14A,14Bから成る選択用トランジスタTRを形成する。次いで、第1下層絶縁層21を形成し、ソース/ドレイン領域14Aの上方の第1下層絶縁層21の部分にタングステンプラグ15を形成し、更には、第1下層絶縁層21上にセンス線16を形成する。その後、全面に第2下層絶縁層24を形成し、ソース/ドレイン領域14Bの上方の下層絶縁層21,24の部分にタングステンプラグから成る接続孔22を形成する。こうして、下層絶縁層21,24で覆われた選択用トランジスタTRを得ることができる。
【0066】
[工程−110]
その後、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体を形成する。具体的には、スパッタリング法にて、真空中での連続成膜にて、全面に、パターニングされていない第1配線41A、積層構造体50A[磁化参照層51A、非磁性体膜(トンネル絶縁膜)52A、電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層53A]、キャップ層55Aを、順次、形成する。尚、これらの層は、パターニングされていないので、参照番号の末尾に「A」を付している。また、磁化参照層51Aは、1層で示している。こうして、図3の(A)に示す構造を得ることができる。尚、非磁性体膜(トンネル絶縁膜)52Aは、例えば、アルミニウム膜をスパッタリング法にて成膜した後、成膜したアルミニウム膜を酸素ガスを用いて酸化させることで得ることができる。
【0067】
[第1配線41A]
プロセスガス :アルゴン=100sccm
成膜雰囲気圧力:0.6Pa
DCパワー :200W
[反強磁性体層54A]
プロセスガス :アルゴン=100sccm
成膜雰囲気圧力:0.6Pa
DCパワー :200W
[磁化参照層51A]
下層
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :100W
中層
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :50W
上層
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :100W
[非磁性体膜52A]
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
RFパワー :50W
[記録層53A]
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :200W
[キャップ層55A]
プロセスガス :アルゴン=65sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :10kW
【0068】
[工程−120]
その後、磁化参照層磁化方向固定工程を実行する。即ち、磁化参照層51Aの規則化熱処理を行う。具体的には、積層構造体50Aを熱処理炉に搬入し、340゜Cまで積層構造体50Aを昇温した後、一定方向の磁場(方向M1)中で積層構造体50Aを冷却する。磁化参照層51Aを構成する材料のブロッキング温度TB1は、TB1=250゜Cである。このブロッキング温度を通過することで、磁化参照層51Aの磁化方向は方向M1に固定される。即ち、最終的に、磁化参照層51の磁化容易軸は、底辺ABと平行となる。
【0069】
[工程−130]
その後、積層構造体50A上に第1のマスク層61を形成する。具体的には、キャップ層55Aの上に、SiO2から成る第1のマスク層61をCVD法にて形成する。
【0070】
[工程−140A]
次いで、第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の一組の対辺AB,CDと平行な2辺62A,62Cを有する第2のマスク層62を形成する(図3の(B)及び図6の(A)参照)。具体的には、第1のマスク層61上に、レジスト材料から成る第2のマスク層62をスピンコート法にて形成した後、フォトリソグラフィ技術によって第2のマスク層62をパターニングする。尚、第2のマスク層62の平面形状は長方形であり、2辺62A,62Cは、辺62B,62Dによって結ばれている。
【0071】
[工程−140B]
その後、第2のマスク層62をパターニング用マスクとして第1のマスク層61をRIE法にてパターニングした後、第2のマスク層62をアッシング法にて除去する。こうして、図3の(C)に示す構造を得ることができる。
【0072】
[RIE法の条件]
エッチングガス:C4F8/CO/Ar/O2
=10sccm/50sccm/200sccm/4sccm
RFパワー:1kW
圧力 :5Pa
温度 :20゜C
【0073】
[工程−140C]
次いで、積層構造体50A及び第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の他の対辺AD,BCと平行な2辺63A,63Cを有する第3のマスク層63を形成する(図4の(A)及び図6の(B)参照)。具体的には、第1のマスク層61上に、レジスト材料から成る第3のマスク層63をスピンコート法にて形成した後、フォトリソグラフィ技術によって第3のマスク層63をパターニングする。尚、第3のマスク層63の平面形状は全体として長方形であり、2辺63A,63Cは、辺63B,63Dによって結ばれている。
【0074】
[工程−140D]
その後、第3のマスク層63をパターニング用マスクとして第1のマスク層61を、上述したと同様の条件のRIE法にてパターニングした後、第3のマスク層63をアッシング法にて除去する。こうして、平行四辺形(具体的には、狭義の平行四辺形)の平面形状を有する第1のマスク層61を得ることができる(図4の(B)及び図6の(C)参照)。
【0075】
[工程−150]
次に、第1のマスク層61をパターニング用マスクとして記録層53Aをパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層53を得る。尚、ドライエッチングを記録層53Aのエッチング終了と共に停止するが、エッチングが若干進行し、非磁性体膜52Aが、その厚さ方向に一部分、エッチングされる場合もある。こうして、図4の(C)に示す構造を得ることができる。尚、キャップ層55及び記録層53をRIE法にてパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。記録層53の平面形状は、狭義の平行四辺形であり、形状異方性を付与され、記録層53の磁化容易軸は線分ACと平行である。
【0076】
[キャップ層55Aのドライエッチング]
エッチングガス:Cl2/BCl3/N2=60sccm/80sccm/10sccm
ソースパワー :1kW
バイアスパワー:150W
圧力 :1Pa
[記録層53Aのドライエッチング]
エッチングガス:Cl2/O2/Ar=50sccm/20sccm/20sccm
ソースパワー :1kW
バイアスパワー:150W
圧力 :1Pa
【0077】
[工程−160]
その後、エッチングによって第1のマスク層61を除去する(図5の(A)参照)。そして、記録層53よりも大きな磁化参照層51が得られるように磁化参照層51をパターニングする。具体的には、全面にパターニングされたレジスト層を形成し、次いで、RIE法にて、非磁性体膜52A、磁化参照層51A、及び、第1配線41Aをパターニングした後、レジスト層を除去する。こうして、図5の(B)に示す構造を得ることができる。尚、RIE法によってパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。
【0078】
[磁化参照層51及び反強磁性体層54Aのドライエッチング]
エッチングガス:Cl2/O2/Ar=50sccm/20sccm/20sccm
ソースパワー :1kW
バイアスパワー:150W
圧力 :1Pa
【0079】
[工程−170]
その後、全面に、プラズマCVD法にて層間絶縁層26を成膜し、層間絶縁層26を化学的機械的研磨法(CMP法)にて平坦化し、キャップ層55を露出させる。次に、層間絶縁層26上に、キャップ層55に接する第2配線(ビット線)42を、周知の方法で形成することで、図1に示した磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0080】
尚、[工程−160]と[工程−170]の間で、記録層53を構成する材料に依っては、記録層53の規則化熱処理を行ってもよい。具体的には、積層構造体を熱処理炉に搬入し、所定の温度まで積層構造体を昇温した後、一定方向の磁場(方向M2)中で積層構造体を冷却すればよい。尚、ブロッキング温度が、磁化参照層51を構成する材料のブロッキング温度TB1よりも低い材料にて記録層53を構成する。このような記録層53の規則化熱処理によっては、磁化参照層51の磁化方向に変化は生じない。
【0081】
記録層の平面形状を菱形とした参考例及び楕円とした比較例の磁気抵抗効果素子を作製した。尚、参考例は、第1のマスク層の平面形状を菱形とした点を除き、実質的に、実施例1と同様の方法に基づき作製した。一方、比較例は、記録層の上にハードマスク層を形成し、ハードマスク層の上に、フォトリソグラフィ技術に基づきパターニングされたレジスト層を形成する。そして、レジスト層をパターニング用マスクとして、先ず、ハードマスク層をパターニングする。次いで、レジスト層を除去し、パターニングされたハードマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングするといった従来の方法に基づき作製した。参考例においては、菱形の記録層のコーナー部の形状は鋭利で(即ち、曲率半径Rが小さく)、所望の形状となっている。参考例及び比較例における記録層の模式的な平面図を図14の(A)及び(B)に示すが、記録層の磁化容易軸と磁化参照層の磁化容易軸は平行である。また、磁化容易軸は、平面形状の長軸に沿っている。
【0082】
そして、保磁力及び書込み電流値を測定した結果を、相対値として、以下に示すが、実施例1の磁気抵抗効果素子は、参考例及び比較例と比べて、保磁力、書込み電流値のいずれも優れた値を示した。即ち、実施例1及び参考例は、コーナー部が鋭利であり(即ち、曲率半径Rが小さく)、比較例よりも高い形状異方性を有しているが故に、比較例よりも高い保持力、即ち、高い熱安定性を示した。また、参考例及び比較例にあっては、記録層の磁化容易軸と磁化参照層の磁化容易軸は平行であるが故に、スピン注入効率の向上が見られず、充分な書込み電流閾値が確保できない。一方、実施例1の磁気抵抗効果素子にあっては、記録層の磁化容易軸の方向(方向M2)と磁化固定層の磁化容易軸の方向(M1)とが異なるため、スピン注入効率(磁化反転効率)が向上し、書込み電流閾値が低減している。このように、実施例1の磁気抵抗効果素子にあっては、実用的な熱安定性と書込み電流閾値の低下とを両立させている。
【0083】
保磁力 書込み電流値
実施例1 高い 低い
参考例 高い 高い
比較例 低い 高い
【0084】
以上に説明したように、実施例1の磁気抵抗効果素子の製造方法にあっては、記録層53の平面形状である平行四辺形の一組の対辺AB,CDと平行な2辺62A,62Cを有する第2のマスク層62によって第1のマスク層61をパターニングし、更には、この平行四辺形の他の対辺AD,BCと平行な2辺63A,63Cを有する第3のマスク層63によって第1のマスク層61をパターニングする。従って、第1のマスク層61には、記録層53の平面形状である平行四辺形と同じ平面形状を確実に付与することができる。即ち、2回のフォトリソグラフィ工程及び2回のエッチング工程を経て第1のマスク層61を形成するので、フォトリソグラフィの解像度限界に依らずに、忠実に角部を有し、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層61を形成することができる。そして、この第1のマスク層を用いて記録層53をパターニングするので、所望の形状を有する記録層53を確実に形成することができ、特に、頂点A及び頂点Cに相当する記録層の部分を鋭利な形状とすることができる。従って、熱安定性指標Δを一層向上させることができ、高い熱安定性を有する磁気抵抗効果素子を提供することができる。また、記録層53の磁化容易軸の方向と磁化参照層51の磁化容易軸の方向を非平行としているので、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させることが可能となる。
【実施例2】
【0085】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の模式的な一部断面図を図7に示すように、実施例2の磁気抵抗効果素子が、実施例1の磁気抵抗効果素子と相違する点は、磁化参照層51、非磁性体膜52は、記録層53と同じ形状を有している点にある。尚、実施例2の磁気抵抗効果素子における記録層に関しては、図2の(A)及び(B)に図示したと同様である。
【0086】
実施例2にあっては、実施例1の[工程−100]〜[工程−150]と同様の工程を実行した後、第1のマスク層61を除去することなく、引き続き、磁化参照層51A、更には、反強磁性体層54Aをパターニングする(図8の(A)参照)。その後、第1のマスク層61を除去し(図8の(B)参照)、次いで、全面にパターニングされたレジスト層を形成した後、RIE法にて、第1配線41Aをパターニングし、レジスト層を除去する。こうして、図8の(C)に示す構造を得ることができる。尚、RIE法によってパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。その後、実施例1の[工程−170]と同様の工程を実行すればよい。
【実施例3】
【0087】
実施例3は、実施例2の変形である。実施例3の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の模式的な一部断面図を図9に示すように、実施例3の磁気抵抗効果素子が、実施例2の磁気抵抗効果素子と相違する点は、磁化参照層51、非磁性体膜52、記録層53の積層順序が、実施例2と逆である点にある。即ち、情報記録構造体150は、記録層53、非磁性体膜52及び磁化参照層51、更には、反強磁性体層54の積層構造(磁化参照層が上層)を有している。尚、記録層53、非磁性体膜52及び磁化参照層51の平面形状は狭義の平行四辺形であり、同じ平面形状である。尚、実施例3の磁気抵抗効果素子における記録層に関しては、図2の(A)及び(B)に図示したと同様である。
【0088】
実施例3における情報記録構造体150の構成、構造は、積層順が異なる点を除き、実施例1における情報記録構造体50の構成、構造と同じとすることができるので、詳細な説明は省略する。尚、実施例3にあっても、情報記録構造体150の上にはキャップ層55が形成されている。また、実施例3の磁気抵抗効果素子30Aの構成、構造も、情報記録構造体150の積層順が逆である点を除き、実質的に、実施例2の磁気抵抗効果素子の構成、構造と同じである。
【0089】
以下、下層絶縁層24等の模式的な一部端面図である図10の(A)〜(C)、図11の(A)〜(C)を参照して、実施例3の磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。
【0090】
[工程−300]
先ず、実施例1の[工程−100]と同様の工程を実行し、更に、実施例1の[工程−110]と同様の工程を実行する。但し、記録層53A、非磁性体膜52A、磁化参照層51、反強磁性体層54A、キャップ層55Aの順に形成する。こうして、図10の(A)に示す構造を得ることができる。
【0091】
[工程−310]
その後、実施例1の[工程−120]と同様にして、磁化参照層磁化方向固定工程を実行する。
【0092】
[工程−320]
その後、実施例1の[工程−130]と同様にして、積層構造体150A上に第1のマスク層61を形成する。
【0093】
[工程−330]
次いで、実施例1の[工程−140A]と同様にして、第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の一組の対辺AB,CDと平行な2辺62A,62Cを有する第2のマスク層62を形成する(図10の(B)及び図6の(A)参照)。その後、実施例1の[工程−140B]と同様にして、第2のマスク層62をパターニング用マスクとして第1のマスク層61をRIE法にてパターニングした後、第2のマスク層62をアッシング法にて除去する。こうして、図10の(C)に示す構造を得ることができる。次いで、実施例1の[工程−140C]と同様にして、積層構造体150A及び第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の他の対辺AD,BCと平行な2辺63A,63Cを有する第3のマスク層63を形成する(図11の(A)及び図6の(B)参照)。その後、実施例1の[工程−140D]と同様にして、第3のマスク層63をパターニング用マスクとして第1のマスク層61をRIE法にてパターニングした後、第3のマスク層63をアッシング法にて除去する。こうして、平行四辺形(具体的には、狭義の平行四辺形)の平面形状を有する第1のマスク層61を得ることができる(図11の(B)及び図6の(C)参照)。
【0094】
[工程−340]
次に、第1のマスク層61をパターニング用マスクとして、反強磁性体層54A、磁化参照層51A、非磁性体膜52A、記録層53Aをパターニングする(図11の(C)参照)。
【0095】
[工程−350]
その後、第1のマスク層61を除去し、次いで、全面にパターニングされたレジスト層を形成した後、RIE法にて、第1配線41Aをパターニングし、レジスト層を除去する。尚、RIE法によってパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。その後、実施例1の[工程−170]と同様の工程を実行すればよい。
【0096】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において説明した各種の積層構造、構成、使用した材料等は例示であり、適宜、変更することができる。第2配線(ビット線)42の延びる方向の射影像は、選択用トランジスタTRを構成するゲート電極12の延びる方向の射影像と直交する形態とすることもできる。
【0097】
また、図13の(A)あるいは(B)に模式的な部分的平面図を示したように、隣接するスピン注入型磁気抵抗効果素子をオフセット配置してもよい。スピン注入型磁気抵抗効果素子の微細化が進むに従い、隣接するスピン注入型磁気抵抗効果素子にて発生した漏洩磁界に起因して記録層の磁化が乱されるといったディスターブ現象が発生し、スピン注入型磁気抵抗効果素子のデータ保持特性が著しく劣化するといった問題が生じている。このようなディスターブ現象の発生を避けるために、このように、隣接するスピン注入型磁気抵抗効果素子をオフセット配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、実施例1の磁気抵抗効果素子の模式的な一部断面図である。
【図2】図2の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1〜実施例3の磁気抵抗効果素子における記録層の平面形状を模式的に示す図、及び、記録層の模式的な平面図である。
【図3】図3の(A)〜(C)は、実施例1の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図4】図4の(A)〜(C)は、図3の(C)に引き続き、実施例1の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、図4の(C)に引き続き、実施例1の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図6】図6の(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、第2のマスク層、第3のマスク層、及び、第1のマスク層の模式的な辺面図である。
【図7】図7は、実施例2の磁気抵抗効果素子の模式的な一部断面図である。
【図8】図8の(A)〜(C)は、実施例2の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図9】図9は、実施例3の磁気抵抗効果素子の模式的な一部断面図である。
【図10】図10の(A)〜(C)は、実施例3の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図11】図11の(A)〜(C)は、図10の(C)に引き続き、実施例3の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図12】図12の(A)は、スピン注入磁化反転を適用したスピン注入型磁気抵抗効果素子の概念図であり、図12の(B)は、従来の記録層(磁化反転層)の模式的な平面図であり、図12の(C)は、スピン注入型磁気抵抗効果素子において、磁化参照層の磁化方向が反強磁性体層との交換結合により固定されている状態を示す模式図であり、図12の(D)は、ダブル・スピンフィルター構造を有するスピン注入型磁気抵抗効果素子の概念図である。
【図13】図13の(A)及び(B)は、ディスターブ現象の発生を避けるために配置を改善したスピン注入型磁気抵抗効果素子の模式的な部分的平面図である。
【図14】図14の(A)及び(B)は、それぞれ、参考例及び比較例の磁気抵抗効果素子における記録層の模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0099】
TR・・・選択用トランジスタ、10・・・半導体基板、11・・・素子分離領域、12・・・ゲート電極(ワード線)、13・・・ゲート絶縁膜、14A,14B・・・ソース/ドレイン領域、15・・・コンタクトホール、16・・・センス線、21,24・・・下層絶縁層、22・・・接続孔、26・・・層間絶縁層、30,30A・・・磁気抵抗効果素子(スピン注入型磁気抵抗効果素子)、41・・・第1配線、42・・・第2配線(ビット線)、50,150・・・情報記録構造体、50A,150A・・・積層構造体、51・・・磁化参照層、52・・・非磁性体膜(トンネル絶縁膜)、53・・・記録層、54,54A,54B・・・反強磁性体層、55・・キャップ層、61・・・第1のマスク層、62・・・第2のマスク層、63・・・第3のマスク層
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関し、より具体的には、スピン注入型磁気抵抗効果素子(所謂スピンRAM)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器、特に携帯端末等の個人用小型機器の飛躍的な普及に伴い、これらを構成するメモリ素子やロジック素子の各種半導体装置には、高集積化、高速化、低電力化等、一層の高性能化が要請されている。特に不揮発性メモリは、ユビキタス時代に必要不可欠であると考えられている。電源の消耗やトラブル、サーバーとネットワークとが何らかの障害により切断された場合でも、不揮発性メモリによって重要な情報を保存、保護することができる。また、最近の携帯機器は不要の回路ブロックをスタンバイ状態とし、出来る限り消費電力を抑えるように設計されているが、高速のワークメモリと大容量ストレージメモリを兼ねることができる不揮発性メモリが実現できれば、消費電力とメモリの無駄を無くすことができる。また、電源を投入すると瞬時に起動できる「インスタント・オン」機能も、高速、且つ、大容量の不揮発性メモリが実現できれば可能となる。
【0003】
不揮発性メモリとして、半導体材料を用いたフラッシュメモリや、強誘電体材料を用いた強誘電体型不揮発性半導体メモリ(FERAM,Ferroelectric Random Access Memory)等を挙げることができる。しかしながら、フラッシュメモリは、書込み速度がマイクロ秒のオーダーであり、書込み速度が遅いという欠点がある。一方、FERAMにおいては、書換え可能回数が1012〜1014であり、SRAMやDRAMをFERAMに置き換えるにはFERAMの書換え可能回数が十分とは云えず、また、強誘電体層の微細加工が難しいという問題が指摘されている。
【0004】
これらの欠点を有さず、しかも、より少ない電流にて情報の記録、読み出しを行うことができる、スピン注入による磁化反転を応用したスピン注入型磁気抵抗効果素子(スピンRAM)が注目されている(例えば、特開2003−17782参照)。ここで、スピン注入による磁化反転とは、磁性体の中を通過してスピン偏極された電子が他の磁性体に注入されることにより、他の磁性体において磁化反転が生じる現象である。スピン注入型磁気抵抗効果素子にあっては、具体的には、磁性体の膜面に垂直な方向に電流を流すことにより、少なくとも一部の磁性体の磁化の向きを反転させることができる。そして、スピン注入による磁化反転は、素子が微細化されても、電流を増やさずに磁化反転を実現することができるといった利点を有しており、より一層の素子の微細化が可能となる。
【0005】
スピン注入型磁気抵抗効果素子の概念図を図12の(A)に示す。このスピン注入型磁気抵抗効果素子は、GMR(Giant MagnetoResistance,巨大磁気抵抗)効果を有する積層膜、あるいは、TMR(Tunnel MagnetoResistance)効果を有する積層膜から成る磁気抵抗効果積層膜が2つの配線41,42で挟まれた構造を有する。即ち、情報を記録する機能を担う記録層(磁化反転層あるいは自由層とも呼ばれる)53と、磁化方向が固定されており、スピンフィルターとして機能する磁化参照層(固着層とも呼ばれる)51が、非磁性体膜52を介して積層された構造を有し、電流は膜面に垂直に流れる(図12の(A)参照)。記録層53の大きさは、模式的な平面図を図12の(B)に示すが、記録層53を構成する磁性材料の種類や膜厚に依るが、単磁区化を促進し、且つ、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を低減するため、概ね100nm以下である。記録層53は、適当な磁気異方性により2以上の複数の磁化方向(例えば、図12の(A)に水平方向の矢印にて示す2方向である第1の方向及び第2の方向)を取ることができ、各磁化方向は記録される情報に対応する。図12の(B)においては、記録層53の平面形状を長楕円形状にすることによって、形状異方性(形状磁気異方性)を付与した例を示す。即ち、記録層53は、第1の方向及び第2の方向に平行な磁化容易軸と、この磁化容易軸に直交する磁化困難軸とを有しており、磁化容易軸に沿った記録層53の長さは、磁化困難軸に沿った記録層53の長さよりも長い。また、例えば、特開2005−353788の図22には、トンネル磁気抵抗素子TMJの平面形状として、長方形、楕円形、多角形、菱形、平行四辺形、台形が例示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−17782
【特許文献2】特開2005−353788
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スピン注入型磁気抵抗効果素子としての特性を維持するためには、熱による磁化の反転が起こらないように、熱安定性指標Δを一定の値以上に確保しなければならない。この熱安定性指標Δは、次の式(1)で表すことができる。
【0008】
Δ=(Ms・V・Hk)/(2・kB・T) (1)
【0009】
ここで、
Ms:記録層の飽和磁化
V :記録層の体積
Hk:記録層の異方性磁界
kB:ボルツマン定数
T :記録層の絶対温度
である。
【0010】
式(1)から、熱安定性指標Δは、飽和磁化Msの増加、体積Vの増加、異方性磁界Hkの増加と共に増加することが判る。ここで、記録層の異方性磁界Hkとは、結晶内でスピンを或る方向に向ける異方性エネルギー(結晶磁気異方性エネルギー)に対応する量であり、結晶磁気異方性エネルギーは、結晶の構造、配向に依存して決まるスピンの方向を固定するために必要なエネルギーである。
【0011】
一方、着磁した方向とは逆方向の磁場を加えて、種々の磁化過程を取りながらも概ねゼロになるときの磁場をもって、磁化反転の容易さを見積もる値として、保磁力(抗磁力)Hcがある。異方性磁界Hkと保磁力Hcは、材料開発やデバイス開発に必要なパラメータとして使い分けられているが、両者は対応した関係にあり、保持力Hcの増大は、異方性磁界Hkの増大に繋がり、その結果、式(1)に見られるように、熱安定性指標Δを向上させることができる。ここで、保持力Hcは、次の式(2)に示すように、記録層を構成する材料が有する固有値[式(2)の右辺第1項]、記録層の形状に起因する値[式(2)の右辺第2項]、記録層の内部応力に起因した値[式(2)の右辺第3項]等の和で表される。
【0012】
Hc=Hc-film + (1/4π)・{(Ms・t)/W}・f(r)
+ 3(λ/Ms)・σ + A (2)
【0013】
ここで、
Hc-film:薄膜の状態にある記録層の保磁力
t :記録層の膜厚
W :記録層の磁化困難軸に沿った長さ
f(r):記録層における形状異方性の関数
r :記録層のアスペクト比(磁化容易軸に沿った長さ/磁化困難軸に沿った長さ)
λ :記録層を構成する材料の磁歪定数
σ :磁化容易軸に沿った記録層における応力(正の値は引っ張り応力であり、負
の値は圧縮力である)
A :定数
である。
【0014】
ところで、上記の式(2)の右辺第1項は、記録層を構成する材料が有する固有の値であるので、右辺第1項の値は記録層を構成する材料によって、一義的に決定されてしまう。また、式(2)の右辺第3項における飽和磁化Msの値及び磁歪定数λの値は、記録層を構成する材料によって一義的に決定されてしまうし、磁化容易軸に沿った記録層における応力σの値も、スピン注入型磁気抵抗効果素子の構成、構造によって決定されてしまう。
【0015】
一方、式(2)の右辺第2項は、記録層の形状に起因する値であり、記録層のアスペクト比を大きくし、形状異方性を増大させることで、右辺第2項の値を増大させ得る。
【0016】
一般に、記録層をパターニングするためには、記録層の上にハードマスク層を形成し、ハードマスク層の上に、フォトリソグラフィ技術に基づきパターニングされたレジスト層を形成する。そして、レジスト層をパターニング用マスクとして、先ず、ハードマスク層をエッチング法にてパターニングする。次いで、レジスト層を除去し、パターニングされたハードマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングする。即ち、1回のフォトリソグラフィ工程及び1回のエッチング工程にて、パターニングされたハードマスク層を得ている。
【0017】
しかしながら、記録層の大きさが微細化するに従い、フォトリソグラフィ技術に基づきパターニングされたレジスト層の形状が所望の形状から大きく逸脱するといった問題が生じる。例えば、所望の形状が矩形であっても、パターニングされたレジスト層の形状は、コーナー部が丸みを帯びた矩形となってしまう。また、鋭角のコーナー部を有する記録層の形成において、係るコーナー部に対応するハードマスク層の部分が丸みを帯びてしまうと、所望の形状を有する記録層を形成できなくなり、保持力Hcの低下に繋がるといった問題もある。
【0018】
加えて、記録層の形状の改良だけでは、熱安定性指標Δを一層向上させ、しかも、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させるといった、2つの技術的事項を同時に達成することは困難である。
【0019】
従って、本発明の第1の目的は、所望の形状を有する記録層を確実に形成し得る磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、熱安定性指標Δを一層向上させ、しかも、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させるといった、2つの技術的事項を同時に達成することを可能とする磁気抵抗効果素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の第1の目的を達成するための本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法は、電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、記録層の平面形状は平行四辺形である磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
(A)記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体を形成した後、積層構造体上に第1のマスク層を形成し、次いで、
(B)第1のマスク層上に、前記平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層を形成した後、第2のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングし、次いで、第2のマスク層を除去し、
(C)積層構造体及び第1のマスク層上に、前記平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層を形成し、次いで、第3のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングした後、第3のマスク層を除去し、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層を得た後、
(D)第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層を得る、
各工程を有する。
【0021】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法においては、磁化参照層の磁化方向を固定する工程を含み、
記録層の平面形状である平行四辺形は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である形態とすることが好ましく、これによって、上記の第2の目的を達成することができる。
【0022】
上記の第2の目的を達成するための本発明の磁気抵抗効果素子は、
電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、
記録層の平面形状は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である。
【0023】
上記の好ましい形態の本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法にあっては、あるいは又、本発明の磁気抵抗効果素子にあっては、記録層の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
好ましくは、
1.5≦L/H≦3.0
を満足することが望ましい。また、このような構成を含む上記の好ましい形態の本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法あるいは本発明の磁気抵抗効果素子にあっては、頂点A及び頂点Cに対応する記録層の部分の曲率半径Rは10nm以下であることが望ましい。
【0024】
一般に、幾何学では、少なくとも一組の対辺が互いに平行である広義の台形の範疇の中に平行四辺形が含まれる。尚、このような平行四辺形は『広義の平行四辺形』とも呼ばれる。また、広義の平行四辺形の範疇の中に狭義の平行四辺形、菱形、長方形、正方形が含まれる。ここで、狭義の平行四辺形とは、上述したとおり、狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、
0<θ<90
AB≠AD
を満足すると定義される。上述した本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法において、形成される記録層の平面形状は平行四辺形であるが、ここでの平行四辺形は、広義の平行四辺形を意味する。即ち、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法に基づき得られる記録層の平面形状は、狭義の平行四辺形、菱形、長方形、あるいは、正方形である。
【0025】
以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法を、以下、単に、『本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法』と呼ぶ場合がある。また、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子を、以下、単に、『本発明の磁気抵抗効果素子』と呼ぶ場合がある。更には、以上に説明した種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子を総称して、以下、『本発明』と呼ぶ場合がある。また、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法によって得られる磁気抵抗効果素子、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の磁気抵抗効果素子を総称して、以下、『本発明の磁気抵抗効果素子等』と呼ぶ場合がある。更には、磁化参照層の磁化容易軸の方向を『方向M1』と呼び、記録層の磁化容易軸の方向を『方向M2』と呼ぶ場合がある。また、本発明の磁気抵抗効果素子等の記録層の平面形状における線分AB、線分BC、線分CD、線分ADに対応する平行四辺形の記録層の辺を、辺ab、辺bc、辺cd、辺adと呼ぶ場合がある。
【0026】
本発明の磁気抵抗効果素子等は、より具体的には、スピン注入による磁化反転を応用したスピン注入型磁気抵抗効果素子である。
【0027】
スピン注入型磁気抵抗効果素子にあっては、磁化参照層(固着層とも呼ばれる)、非磁性体膜、及び、情報を記憶する記録層(磁化反転層あるいは自由層とも呼ばれる)によって、TMR効果あるいはGMR効果を有する情報記録構造体が構成されている。ここで、磁化参照層、非磁性体膜及び記録層によって、TMR効果を有する情報記録構造体が構成されるとは、磁性材料から成る磁化参照層と、磁性材料から成る記録層との間に、トンネル絶縁膜として機能する非磁性体膜が挟まれた構造を指す。
【0028】
本発明の磁気抵抗効果素子等において、情報記録構造体の具体的な構成として、下から、磁化参照層、非磁性体膜及び記録層の積層構造(記録層が最上層)を挙げることができる。この場合、少なくとも記録層の平面形状が広義あるいは狭義の平行四辺形であればよく、磁化参照層、非磁性体膜は、記録層と同じ平面形状を有していてもよいし、有していなくともよい。あるいは又、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層の積層構造(磁化参照層が最上層)を挙げることができる。この場合、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層の平面形状は、同じ形状の広義あるいは狭義の平行四辺形である。
【0029】
スピン注入型磁気抵抗効果素子における記録層(磁化反転層)、磁化参照層を構成する材料として、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)といった強磁性材料、これらの強磁性材料の合金(例えば、Co−Fe、Co−Fe−Ni、Ni−Fe等)、これらの合金に非磁性元素(例えば、タンタル、ホウ素、クロム、白金、シリコン、炭素、窒素等)を混ぜた合金(例えば、Co−Fe−B等)、Co、Fe、Niの内の1種類以上を含む酸化物(例えば、フェライト:Fe−MnO等)、ハーフメタリック強磁性材料と呼ばれる一群の金属間化合物(ホイスラー合金:NiMnSb、Co2MnGe、Co2MnSi、Co2CrAl等)、酸化物(例えば、(La,Sr)MnO3、CrO2、Fe3O4等)を挙げることができる。記録層、磁化参照層の結晶性は、本質的に任意であり、多結晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、非晶質であってもよい。更には、各種磁性半導体の使用も可能であるし、軟磁性(ソフト膜)であっても硬磁性(ハード膜)であってもよい。
【0030】
あるいは又、スピン注入型磁気抵抗効果素子における磁化参照層は、積層フェリ構造[反強磁性的結合を有する積層構造であり、合成反強磁性結合(SAF:Synthetic Antiferromagnet)とも呼ばれる]を有する構成とすることができるし、静磁結合構造を有する構成とすることができる。積層フェリ構造とは、例えば、磁性材料層/ルテニウム(Ru)層/磁性材料層の3層構造(具体的には、例えば、CoFe/Ru/CoFeの3層構造、CoFeB/Ru/CoFeBの3層構造)を有し、ルテニウム層の厚さによって、2つの磁性材料層の層間交換結合が、反強磁性的あるいは強磁性的になる構造を指し、例えば、 S. S. Parkin et. al, Physical Review Letters, 7 May, pp 2304-2307 (1990) に報告されている。尚、2つの磁性材料層の層間交換結合が強磁性的になる構造を、積層フェリ構造と呼ぶ。また、2つの磁性材料層において、磁性材料層の端面からの漏洩磁界によって反強磁性的結合が得られる構造を、静磁結合構造と呼ぶ。記録層(磁化反転層)を、合成反強磁性結合を有する多層構造とすることもできる。磁化参照層は、反強磁性体層との交換結合によってピニング(pinning)される。反強磁性体層を構成する材料として、鉄−マンガン合金、ニッケル−マンガン合金、白金−マンガン合金、イリジウム−マンガン合金、ロジウム−マンガン合金、コバルト酸化物、ニッケル酸化物を挙げることができる。後述する第1配線あるいは第2配線と反強磁性体層との間には、反強磁性体層の結晶性向上のために、Ta、Cr、Ru、Ti等から成る下地膜を形成してもよい。
【0031】
スピン注入型磁気抵抗効果素子において、TMR効果を有する情報記録構造体を構成する非磁性体膜を構成する材料として、マグネシウム酸化物(MgO)、マグネシウム窒化物、アルミニウム酸化物(AlOX)、アルミニウム窒化物(AlN)、シリコン酸化物、シリコン窒化物、TiO2あるいはCr2O3、Ge、NiO、CdOX、HfO2、Ta2O5、BN、ZnS等の絶縁材料を挙げることができる。一方、GMR効果を有する情報記録構造体を構成する非磁性体膜を構成する材料として、Cu、Ru、Cr、Au、Ag、Pt、Ta等、あるいは、これらの合金といった導電性材料を挙げることができるし、導電性が高ければ(抵抗率が数百μΩ・cm以下)、任意の非金属材料としてもよいが、記録層や磁化参照層と界面反応を起こし難い材料を、適宜、選択することが望ましい。
【0032】
積層構造体を構成するこれらの層は、例えば、スパッタリング法、イオンビーム堆積法、真空蒸着法に例示される物理的気相成長法(PVD法)、ALD(Atomic Layer Deposition)法に代表される化学的気相成長法(CVD法)にて形成することができる。積層構造体のパターニングは、反応性イオンエッチング法(RIE法)やイオンミーリング法(イオンビームエッチング法)にて行うことができる。
【0033】
また、非磁性体膜は、例えば、スパッタリング法にて形成された金属膜を酸化若しくは窒化することにより得ることができる。より具体的には、非磁性体膜を構成する絶縁材料としてアルミニウム酸化物(AlOX)、マグネシウム酸化物(MgO)を用いる場合、例えば、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを大気中で酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムをプラズマ酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムをIPCプラズマで酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを酸素中で自然酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを酸素ラジカルで酸化する方法、スパッタリング法にて形成されたアルミニウムやマグネシウムを酸素中で自然酸化させるときに紫外線を照射する方法、アルミニウムやマグネシウムを反応性スパッタリング法にて成膜する方法、アルミニウム酸化物(AlOX)やマグネシウム酸化物(MgO)をスパッタリング法にて成膜する方法を例示することができる。
【0034】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法における第1のマスク層を構成する材料として、SiO2、SiN、SiON、Al2O3、AlN、PSG、BSG、BPSG、SiOF、Ta2O5、BST、STOといった材料を挙げることができる。第1のマスク層の形成方法として、スパッタリング法に例示される各種PVD法や各種CVD法を挙げることができる。第1のマスク層の除去方法として、エッチング法を挙げることができる。第2のマスク層、第3のマスク層を構成する材料として、周知のレジスト材料を挙げることができ、第2のマスク層、第3のマスク層の形成方法として、周知のフォトリソグラフィ技術を挙げることができる。第2のマスク層や第3のマスク層の除去は、アッシング法等の周知の方法とすればよい。第2のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングする方法として、反応性イオンエッチング法やイオンミーリング法を挙げることができる。また、第3のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングする方法としても、反応性イオンエッチング法やイオンミーリング法を挙げることができる。
【0035】
第2のマスク層は、記録層の平面形状である平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する。尚、第2のマスク層の係る2辺間の距離は、記録層の平面形状である平行四辺形の一組の対辺間の距離と等しい。ここで、第2のマスク層は、係る平行な2辺を結ぶ2辺(便宜上、『他の2辺』と呼ぶ)を有するが、これらの他の2辺は線分であっても曲線であってもよい。具体的な第2のマスク層の平面形状として、広義の台形、長円形(他の2辺が半円である形状)を例示することができる。
【0036】
第3のマスク層は、記録層の平面形状である平行四辺形の対向する他の対辺と平行な2辺を有する。尚、第3のマスク層の係る2辺間の距離は、記録層の平面形状である平行四辺形の他の対辺間の距離と等しい。ここで、第3のマスク層は、係る平行な2辺を結ぶ2辺(便宜上、『他の2辺』と呼ぶ)を有するが、これらの他の2辺は線分であっても曲線であってもよい。具体的な第3のマスク層の平面形状として、広義の台形、長円形(他の2辺が半円である形状)を例示することができる。
【0037】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法の好ましい形態においては、磁化参照層の磁化方向を固定する工程(磁化参照層磁化方向固定工程と呼ぶ)が含まれる。磁化参照層磁化方向固定工程によって、磁化参照層の磁化容易軸が底辺ABと平行となるように、磁化参照層の磁化方向が固定される。即ち、磁化参照層の磁化容易軸が方向M1に固定される。磁化参照層の磁化方向を固定するためには、規則化熱処理を行えばよい。具体的には、例えば、積層構造体を熱処理炉に搬入し、磁化参照層を構成する材料のブロッキング温度(TB)を越える温度まで積層構造体を昇温した後、一定方向の磁場(方向M1)中で積層構造体を冷却する。ここで、ブロッキング温度(TB)とは、例えば磁化参照層を加熱した後の冷却過程で磁化の方向が固定されるときの温度を指す。このブロッキング温度を通過することで、磁化参照層の磁化方向は方向M1に固定される。あるいは又、磁化参照層の成膜時の結晶方位の制御によっても、磁化参照層の磁化方向を方向M1に固定することが可能である。
【0038】
一方、記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である。即ち、記録層の磁化容易軸は方向M2に固定される。記録層の磁化容易軸の方向M2への固定は、基本的には、記録層の平面形状を狭義の平行四辺形とするといった形状異方性を与えることで行うことができる。尚、規則化熱処理を併用してもよいし、記録層の成膜時の結晶方位の制御によって記録層の磁化方向を方向M2に固定する方法を併用してもよい。規則化熱処理を採用する場合、磁化参照層における規則化熱処理のブロッキング温度(TB)と異なるキュリー温度(TC)を有する材料から記録層を構成することが望ましい。尚、例えば、高いブロッキング温度を有する材料から構成された磁化参照層への規則化熱処理を、低いキュリー温度を有する材料から構成された記録層への(磁界中での)熱処理よりも先に行う必要があり、あるいは又、高いキュリー温度を有する材料から構成された記録層への(磁界中での)熱処理を、低いブロッキング温度を有する材料から構成された磁化参照層への熱処理よりも先に行う必要がある。
【0039】
あるいは又、記録層の磁化方向と磁化参照層の磁化方向とを異なる方向に固定する方法として、誘導磁気異方性熱処理と規則化熱処理との組み合わせた方法を採用してもよい。即ち、例えば、磁化参照層のブロッキング温度が記録層のキュリー温度より低い場合(TB<TC)、先ず、記録層に用いられる材料のキュリー温度(TC)以上まで温度を上げ、次いで、方向M2の磁界中でブロッキング温度TBまで冷却し、その後、方向M1に磁界方向を変えて、磁界中で冷却することによって、2方向に異方性を付与することができる。一方、磁化参照層のブロッキング温度が記録層のキュリー温度より高い場合(TB>TC)、磁界中での熱処理の順番を逆(規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理の順)にすればよい。但し、誘導磁気異方性を用いる場合には、Co系アモルファス磁性材料、NiFe等の特定の磁性材料を用いる必要がある。例えば、CoZrNbTaを記録層に、PtMnを磁化参照層の反強磁性体に用いる場合、340゜Cにて2時間保持するといった規則化熱処理を行った後、240゜Cまで、1時間かけて、磁界中で冷却し、磁界方向を変えて、240゜Cにて1時間保持するといった誘導磁気異方性熱処理を行い、その後、室温まで磁界中で冷却すればよい。また、NiFeを記録層に、RhMnを磁化参照層の反強磁性体に用いる場合、360゜Cにて1時間保持するといった誘導磁気異方性熱処理を行った後、240゜Cまで、1時間かけて、磁界中で冷却し、磁界方向を変えて、240゜Cにて4時間保持するといった規則化熱処理を行い、次いで、室温まで磁界中で冷却すればよい。更には、TB>TCの場合、独立して磁界中熱処理(規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理)を行うことが可能である。例えば、CoZrNbTaを記録層に、PtMnを磁化参照層の反強磁性体に用いる場合、規則化熱処理を340゜C、2時間にて実行する。次に、磁界方向を変えて、誘導磁気異方性熱処理を240゜C、1時間にて実行すればよい。尚、複数回の磁界中熱処理(規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理)を採用する場合、規則化熱処理を最初に実施する必要がある。また、磁気抵抗効果素子が完成した後(最終工程)に規則化熱処理、誘導磁気異方性熱処理を実施してもよい。
【0040】
磁化参照層磁化方向固定工程は、磁化参照層の磁化方向をどのような方法で固定するかに依るが、本質的には、任意の工程において行うことができる。例えば、規則化熱処理を採用する場合、
(1)積層構造体を形成した後、積層構造体上に第1のマスク層を形成する前に、規則化熱処理を実行する。
(2)積層構造体上に第1のマスク層を形成した後、第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングする前のいずれかの工程において、規則化熱処理を実行する。
(3)第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングした後、規則化熱処理を実行する。
といった実行形態を挙げることができる。
【0041】
本発明の磁気抵抗効果素子等の記録層にあっては、辺abと辺cdとは平行であるが、係る辺abと辺cdの『平行』状態には、記録層の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、辺abの延長線と辺cdの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、これらの延長線の成す角度が5度以内であるとき、辺abと辺cdとは平行であると見做す。同様に、辺bcと辺adは平行であるが、係る辺bcと辺adの『平行』状態には、記録層の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、辺bcの延長線と辺adの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、これらの延長線の成す角度が5度以内であるとき、辺bcと辺adとは平行であると見做す。また、線分ABと線分ACとの成す角度をφ(単位:度)としたとき、
0<φ≦45
好ましくは、
5≦φ≦30
とすることが望ましい。
【0042】
本発明の磁気抵抗効果素子等にあっては、磁化参照層の磁化容易軸の方向M1は、情報記録構造体の中央部にて測定した平均的な方向である。そして、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABとは平行であるが、係る『平行』状態には、情報記録構造体の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABの延長線の成す角度が5度以内であるとき、係る磁化参照層の磁化容易軸の平均的な方向M1と線分ABとは平行であると見做す。同様に、記録層の磁化容易軸の方向M2は、情報記録構造体の中央部にて測定した平均的な方向である。そして、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACとは平行であるが、係る『平行』状態には、情報記録構造体の形成時のパターニングのバラツキに起因した非平行状態を含み得る。あるいは又、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACの延長線とは、交わらない、あるいは、交わった場合、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACの延長線の成す角度が5度以内であるとき、係る記録層の磁化容易軸の平均的な方向M2と線分ACとは平行であると見做す。
【0043】
本発明の磁気抵抗効果素子等は、情報記録構造体の下部に電気的に接続された第1配線、及び、情報記録構造体の上に接続部を介して接続された第2配線を備えている構造とすることができる。また、第1配線の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタを有する構造とすることができる。ここで、第2配線(例えば、ビット線)の延びる方向は、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極(ワード線)の延びる方向と平行である形態とすることができるし、第2配線の延びる方向の射影像は、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極の延びる方向の射影像と直交する形態とすることもできる。尚、第1配線の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタが形成されている場合、具体的には、選択用トランジスタは下層絶縁層で覆われ、下層絶縁層上に第1配線が形成され、下層絶縁層に設けられた接続孔(あるいは接続孔とランディングパッド部や下層配線)を介して、選択用トランジスタの一方のソース/ドレイン領域と第1配線とが接続されている構成とすることができる。また、層間絶縁層は、下層絶縁層及び第1配線を覆い、情報記録構造体及び接続部を取り囲んでおり、第2配線は層間絶縁層上に形成されている構成とすることができる。即ち、より具体的な構成として、例えば、限定するものではないが、
半導体基板に形成された選択用トランジスタ、及び、
選択用トランジスタを覆う下層絶縁層、
を備え、
下層絶縁層上に第1配線が形成されており、
第1配線は、下層絶縁層に設けられた接続孔(あるいは接続孔とランディングパッド部や下層配線)を介して選択用トランジスタに電気的に接続されており、
層間絶縁層は、下層絶縁層及び第1配線を覆い、情報記録構造体を取り囲んでおり、
第2配線は層間絶縁層上に形成されている構成を例示することができる。
【0044】
場合によっては、選択用トランジスタは不要である。第1配線や、第2配線(例えば、所謂ビット線として機能する)は、Cu、Au、Pt等の単層構造から成り、あるいは又、CrやTi等から成る下地層と、その上に形成されたCu層、Au層、Pt層等の積層構造を有していてもよいし、更には、W、Ru、Ta等の単層あるいはCu、Cr、Ti等との積層構造から構成することもできる。これらの配線は、例えば、スパッタリング法に例示されるPVD法にて形成することができる。
【0045】
層間絶縁層を構成する材料として、SiO2、NSG(ノンドープ・シリケート・ガラス)、BPSG(ホウ素・リン・シリケート・ガラス)、PSG、BSG、AsSG、SbSG、SOG(スピンオングラス)等のSiOX系材料(シリコン系酸化膜を構成する材料)、SiN、SiON、SiOC、SiOF、SiCN、低誘電率絶縁材料(例えば、フルオロカーボン、シクロパーフルオロカーボンポリマー、ベンゾシクロブテン、環状フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、アモルファス・テトラフルオロエチレン、フッ化アリールエーテル、フッ化ポリイミド、アモルファスカーボン、有機SOG、パリレン、フッ化フラーレン)、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、Silk(The Dow Chemical Co. の商標であり、塗布型低誘電率層間絶縁膜材料)、Flare(Honeywell Electronic Materials Co. の商標であり、ポリアリルエーテル(PAE)系材料)を例示することができる。
【0046】
磁化参照層と第1配線(あるいは第2配線)の電気的な接続状態として、第1配線(あるいは第2配線)が、直接、磁化参照層に接続されている形態を挙げることができるし、あるいは又、第1配線(あるいは第2配線)が、反強磁性体層を介して磁化参照層に接続されている形態を挙げることができる。また、第1配線が反強磁性体層を兼ねている構成とすることもできる。磁化参照層が第1配線に接続されている場合、第1配線から磁化参照層を介して、また、磁化参照層が第2配線に接続されている場合、第2配線から磁化参照層を介して、偏極スピン電流を記録層内に注入することにより、記録層における磁化の方向を、方向M2あるいは方向M2と反対の方向とすることで、記録層に情報が書き込まれる。
【0047】
選択用トランジスタは、例えば、周知のMIS型FETやMOS型FETから構成することができる。第1配線と選択用トランジスタとを電気的に接続する接続孔は、不純物がドーピングされたポリシリコンや、タングステン、Ti、Pt、Pd、Cu、TiW、TiNW、WSi2、MoSi2等の高融点金属や金属シリサイドから構成することができ、CVD法や、スパッタリング法に例示されるPVD法に基づき形成することができる。また、下層絶縁層を構成する材料として、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、SiON、SOG、NSG、BPSG、PSG、BSGあるいはLTOを例示することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法にあっては、記録層の平面形状である平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層によって第1のマスク層をパターニングし、更には、この平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層によって第1のマスク層をパターニングする。従って、第1のマスク層には、記録層の平面形状である平行四辺形と同じ平面形状を確実に付与することができる。そして、この第1のマスク層を用いて記録層をパターニングするので、所望の形状を有する記録層を確実に形成することができる。
【0049】
また、本発明の磁気抵抗効果素子、あるいは、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法の好ましい形態にて得られた磁気抵抗効果素子にあっては、所望の狭義の平行四辺形を平面形状として有する記録層が備えられており、しかも、磁化参照層の磁化容易軸は、狭義の平行四辺形ABCDにおける底辺ABと平行であり、記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である。ここで、記録層に高い形状異方性を与えることができる結果、熱安定性指標Δを一層向上させることができ、熱安定性を有する磁気抵抗効果素子を提供することができる。また、記録層の磁化容易軸の方向と磁化参照層の磁化容易軸の方向を非平行としているので、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させることが可能となる。しかも、素子形状のバラツキを低減できるので、書込み電流閾値のバラツキも抑制できる結果、特性の揃った、高い均一性を有する磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0051】
実施例1は、本発明の磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関する。実施例1の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の模式的な一部断面図を図1に示す。また、記録層の平面形状を模式的に図2の(A)に示し、記録層の模式的な平面図を図2の(B)に示す。
【0052】
ここで、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3の磁気抵抗効果素子30,30Aは、具体的には、スピン注入による磁化反転を応用したスピン注入型磁気抵抗効果素子である。そして、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3の磁気抵抗効果素子30,30Aは、情報記録構造体50の下部に電気的に接続された第1配線41、及び、情報記録構造体50の上に設けられたキャップ層55を介して接続された第2配線42(ビット線として機能する)を備えている。また、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3の磁気抵抗効果素子30,30Aにあっては、更に、第1配線41の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタTRを有している。
【0053】
尚、図1、図7、図9に示す模式的な一部断面図において、図面の関係上、一点鎖線の上側の「A」の領域と、下側の「B」の領域では、磁気抵抗効果素子の断面を眺める方向が90度異なっている。即ち、「A」の領域は、磁気抵抗効果素子の断面を磁化困難軸と平行な方向から眺めており、「B」の領域は、磁気抵抗効果素子の断面を磁化容易軸と平行な方向から眺めている。従って、図1、図7、図9では、第2配線(実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3にあっては、ビット線)42の延びる方向の射影像と、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極(ワード線)12の延びる方向の射影像とは直交しているように図示しているが、実際には、平行である。
【0054】
ここで、情報記録構造体50を構成する記録層53は、磁化容易軸、及び、この磁化容易軸と直交する磁化困難軸を有している。実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3にあっては、磁化容易軸は第2配線42と平行である。また、情報記録構造体50の上部と第2配線42との間には、上述したとおり、厚さ約100nmのTiN層から成るキャップ層55が、スパッタリング法にて形成されている。キャップ層55は、配線を構成する原子と記録層53を構成する原子の相互拡散の防止、接触抵抗の低減、及び、記録層53の酸化防止を担っている。尚、キャップ層55を、その他、Cu層、Ta層、Ti層、W層、TaN層、WN層、Ru層、Pt層、MgO層、Ru膜/Ta膜の積層構造等から構成することもできる。
【0055】
更には、上述したとおり、第1配線41の下方に、電界効果型トランジスタから成る選択用トランジスタTRが設けられており、第2配線(ビット線)42の延びる方向は、電界効果型トランジスタを構成するゲート電極(ワード線)12の延びる方向と平行である。具体的には、選択用トランジスタTRは、素子分離領域11によって囲まれたシリコン半導体基板10の部分に形成されており、下層絶縁層21,24によって覆われている。そして、一方のソース/ドレイン領域14Bは、タングステンプラグから成る接続孔22を介して、第1配線41に接続されている。また、他方のソース/ドレイン領域14Aは、タングステンプラグ15を介してセンス線16に接続されている。図中、参照番号13はゲート絶縁膜を示す。
【0056】
図12の(A)に概念図を示すように、情報記録構造体50は、以下の構成、構造を有しており、スパッタリング法にて形成されている。尚、磁化参照層51は、反強磁性体層54(図12参照。図1等には図示せず)のPt−Mnとの交換結合によって、磁化の方向が方向M1にピニング(pinning)される。また、記録層53においては、電流の流れる方向により、その磁化の方向が、方向M2(第1の方向)あるいは方向M2と反対の方向(第2の方向)に変えられる。
【0057】
具体的には、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3におけるスピン注入型磁気抵抗効果素子は、GMR効果を有する積層膜、あるいは、TMR効果を有する積層膜から成る磁気抵抗効果積層膜が2つの配線41,42で挟まれた構造を有する。即ち、情報を記録する機能を担う記録層(磁化反転層あるいは自由層とも呼ばれる)53と、磁化方向が固定されており、スピンフィルターとして機能する磁化参照層(固着層とも呼ばれる)51が、非磁性体膜52を介して積層された構造を有し、電流は膜面に垂直に流れる(図12の(A)参照)。磁化容易軸に沿った記録層53の短辺長は、記録層53を構成する磁性材料の種類や膜厚に依るが、単磁区化を促進し、且つ、スピン注入磁化反転の臨界電流Icを低減するため、概ね100nm以下である。記録層53は、適当な磁気異方性により2以上の複数の磁化方向(例えば、図12の(A)に水平方向の矢印にて示す2方向である第1の方向及び第2の方向)を取ることができ、各磁化方向は記録される情報に対応する。ここで、図2に示すように、記録層53の平面形状を狭義の平行四辺形とすることによって、形状異方性(形状磁気異方性)を付与している。即ち、記録層53は、方向M2に平行な磁化容易軸、及び、磁化困難軸を有しており、磁化容易軸に沿った記録層53の長さは、磁化困難軸に沿った記録層53の長さよりも長い。
【0058】
磁化参照層51は、通例、反強磁性体層54との交換結合により、その磁化方向が固定されている(図12の(C)参照)。磁化参照層51A,51Bを、記録層53の上下に、非磁性体膜52A,52Bを介して配置して、スピン注入磁化反転の効率を向上させたダブル・スピンフィルター構造も知られている(図12の(D)参照)。ここで、参照番号54A,54Bは、反強磁性体層である。尚、図12の(A)、(C)及び(D)に示した例においては、記録層53、磁化参照層51(磁化参照層が2層51A,51Bの場合には、いずれか一方の層)を、積層フェリ構造(SAF積層構造)としてもよい。非磁性体膜52,52A,52Bは、金属材料あるいは絶縁材料から構成されている。図12の(A)あるいは、図12の(C)に示す構造において、場合によっては、磁化参照層51から記録層53への漏洩磁界を抑制するために、即ち、磁化参照層51と記録層53とが静磁気的に結合することを防ぐために、磁化参照層51を記録層53に比して十分大きくする構造も採用されている。いずれにしても、スピン注入磁化反転を適用した不揮発性磁気メモリ素子(スピン注入型磁気抵抗効果素子)は、磁気抵抗効果積層膜の上下を配線で挟んだ、2端子スピントランスファー素子構造を有する。
【0059】
[情報記録構造体50]
記録層53
厚さ約5nmのCo−Fe層
非磁性体膜(トンネル絶縁膜)52
厚さ1.0nmのMgO膜
磁化参照層(SAF積層構造の多層膜)51(図面では1層で示す)
上層:厚さ2nmのCo−Fe層
中層:厚さ1nmのRu層
下層:厚さ2nmのCo−Fe層
反強磁性体層54
厚さ20nmのPt−Mn層
【0060】
第1配線41は、10nm厚さのTa層から成る。第2配線42は、例えば、Ta、TiあるいはAl−Cuから成る。また、情報記録構造体50を囲む層間絶縁層26は、SiN又はSiO2から成る。
【0061】
実施例1のスピン注入型磁気抵抗効果素子は、電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層53、非磁性体膜52及び磁化参照層51が積層されて成る情報記録構造体50を備えている。そして、図2の(A)に示すように、記録層53の平面形状は、狭義の平行四辺形である。ここで、この狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足している。磁化参照層51の磁化容易軸(方向M1)は、底辺ABと平行であり、記録層53の磁化容易軸(方向M2)は、線分ACと平行である。
【0062】
記録層53の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
を満足している。具体的には
L/H=2.4
である。また、図2の(B)に示すように、頂点A及び頂点Cに対応する記録層53の部分の曲率半径Rは10nm以下、具体的には、約5nmである。更には、θ=30度であり、AB=CD=120nmであり、AD=BC=100nmである。また、線分ABと線分ACとの成す角度をφ(単位:度)としたとき、
0<φ≦45
を満足しており、具体的には、φ=14度である。
【0063】
実施例1の磁気抵抗効果素子において、情報記録構造体50の具体的な構成は、下から、反強磁性体層54、磁化参照層51、非磁性体膜52及び記録層53の積層構造(記録層53が最上層)である。また、記録層53の平面形状は、狭義の平行四辺形である。一方、磁化参照層51、非磁性体膜52は、記録層53よりも大きな形状である。
【0064】
以下、下層絶縁層24等の模式的な一部端面図である図3の(A)〜(C)、図4の(A)〜(C)、図5の(A)及び(B)、模式的な部分的平面図である図6の(A)〜(C)を参照して、実施例1の磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。尚、磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する図面においては、選択用トランジスタTRの図示を省略し、また、下層絶縁層24に設けられた接続孔22の図示も省略している。
【0065】
[工程−100]
先ず、周知の方法に基づき、シリコン半導体基板10に素子分離領域11を形成し、素子分離領域11によって囲まれたシリコン半導体基板10の部分に、ゲート酸化膜13、ゲート電極(ワード線)12、ソース/ドレイン領域14A,14Bから成る選択用トランジスタTRを形成する。次いで、第1下層絶縁層21を形成し、ソース/ドレイン領域14Aの上方の第1下層絶縁層21の部分にタングステンプラグ15を形成し、更には、第1下層絶縁層21上にセンス線16を形成する。その後、全面に第2下層絶縁層24を形成し、ソース/ドレイン領域14Bの上方の下層絶縁層21,24の部分にタングステンプラグから成る接続孔22を形成する。こうして、下層絶縁層21,24で覆われた選択用トランジスタTRを得ることができる。
【0066】
[工程−110]
その後、記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体を形成する。具体的には、スパッタリング法にて、真空中での連続成膜にて、全面に、パターニングされていない第1配線41A、積層構造体50A[磁化参照層51A、非磁性体膜(トンネル絶縁膜)52A、電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層53A]、キャップ層55Aを、順次、形成する。尚、これらの層は、パターニングされていないので、参照番号の末尾に「A」を付している。また、磁化参照層51Aは、1層で示している。こうして、図3の(A)に示す構造を得ることができる。尚、非磁性体膜(トンネル絶縁膜)52Aは、例えば、アルミニウム膜をスパッタリング法にて成膜した後、成膜したアルミニウム膜を酸素ガスを用いて酸化させることで得ることができる。
【0067】
[第1配線41A]
プロセスガス :アルゴン=100sccm
成膜雰囲気圧力:0.6Pa
DCパワー :200W
[反強磁性体層54A]
プロセスガス :アルゴン=100sccm
成膜雰囲気圧力:0.6Pa
DCパワー :200W
[磁化参照層51A]
下層
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :100W
中層
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :50W
上層
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :100W
[非磁性体膜52A]
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
RFパワー :50W
[記録層53A]
プロセスガス :アルゴン=50sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :200W
[キャップ層55A]
プロセスガス :アルゴン=65sccm
成膜雰囲気圧力:0.3Pa
DCパワー :10kW
【0068】
[工程−120]
その後、磁化参照層磁化方向固定工程を実行する。即ち、磁化参照層51Aの規則化熱処理を行う。具体的には、積層構造体50Aを熱処理炉に搬入し、340゜Cまで積層構造体50Aを昇温した後、一定方向の磁場(方向M1)中で積層構造体50Aを冷却する。磁化参照層51Aを構成する材料のブロッキング温度TB1は、TB1=250゜Cである。このブロッキング温度を通過することで、磁化参照層51Aの磁化方向は方向M1に固定される。即ち、最終的に、磁化参照層51の磁化容易軸は、底辺ABと平行となる。
【0069】
[工程−130]
その後、積層構造体50A上に第1のマスク層61を形成する。具体的には、キャップ層55Aの上に、SiO2から成る第1のマスク層61をCVD法にて形成する。
【0070】
[工程−140A]
次いで、第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の一組の対辺AB,CDと平行な2辺62A,62Cを有する第2のマスク層62を形成する(図3の(B)及び図6の(A)参照)。具体的には、第1のマスク層61上に、レジスト材料から成る第2のマスク層62をスピンコート法にて形成した後、フォトリソグラフィ技術によって第2のマスク層62をパターニングする。尚、第2のマスク層62の平面形状は長方形であり、2辺62A,62Cは、辺62B,62Dによって結ばれている。
【0071】
[工程−140B]
その後、第2のマスク層62をパターニング用マスクとして第1のマスク層61をRIE法にてパターニングした後、第2のマスク層62をアッシング法にて除去する。こうして、図3の(C)に示す構造を得ることができる。
【0072】
[RIE法の条件]
エッチングガス:C4F8/CO/Ar/O2
=10sccm/50sccm/200sccm/4sccm
RFパワー:1kW
圧力 :5Pa
温度 :20゜C
【0073】
[工程−140C]
次いで、積層構造体50A及び第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の他の対辺AD,BCと平行な2辺63A,63Cを有する第3のマスク層63を形成する(図4の(A)及び図6の(B)参照)。具体的には、第1のマスク層61上に、レジスト材料から成る第3のマスク層63をスピンコート法にて形成した後、フォトリソグラフィ技術によって第3のマスク層63をパターニングする。尚、第3のマスク層63の平面形状は全体として長方形であり、2辺63A,63Cは、辺63B,63Dによって結ばれている。
【0074】
[工程−140D]
その後、第3のマスク層63をパターニング用マスクとして第1のマスク層61を、上述したと同様の条件のRIE法にてパターニングした後、第3のマスク層63をアッシング法にて除去する。こうして、平行四辺形(具体的には、狭義の平行四辺形)の平面形状を有する第1のマスク層61を得ることができる(図4の(B)及び図6の(C)参照)。
【0075】
[工程−150]
次に、第1のマスク層61をパターニング用マスクとして記録層53Aをパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層53を得る。尚、ドライエッチングを記録層53Aのエッチング終了と共に停止するが、エッチングが若干進行し、非磁性体膜52Aが、その厚さ方向に一部分、エッチングされる場合もある。こうして、図4の(C)に示す構造を得ることができる。尚、キャップ層55及び記録層53をRIE法にてパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。記録層53の平面形状は、狭義の平行四辺形であり、形状異方性を付与され、記録層53の磁化容易軸は線分ACと平行である。
【0076】
[キャップ層55Aのドライエッチング]
エッチングガス:Cl2/BCl3/N2=60sccm/80sccm/10sccm
ソースパワー :1kW
バイアスパワー:150W
圧力 :1Pa
[記録層53Aのドライエッチング]
エッチングガス:Cl2/O2/Ar=50sccm/20sccm/20sccm
ソースパワー :1kW
バイアスパワー:150W
圧力 :1Pa
【0077】
[工程−160]
その後、エッチングによって第1のマスク層61を除去する(図5の(A)参照)。そして、記録層53よりも大きな磁化参照層51が得られるように磁化参照層51をパターニングする。具体的には、全面にパターニングされたレジスト層を形成し、次いで、RIE法にて、非磁性体膜52A、磁化参照層51A、及び、第1配線41Aをパターニングした後、レジスト層を除去する。こうして、図5の(B)に示す構造を得ることができる。尚、RIE法によってパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。
【0078】
[磁化参照層51及び反強磁性体層54Aのドライエッチング]
エッチングガス:Cl2/O2/Ar=50sccm/20sccm/20sccm
ソースパワー :1kW
バイアスパワー:150W
圧力 :1Pa
【0079】
[工程−170]
その後、全面に、プラズマCVD法にて層間絶縁層26を成膜し、層間絶縁層26を化学的機械的研磨法(CMP法)にて平坦化し、キャップ層55を露出させる。次に、層間絶縁層26上に、キャップ層55に接する第2配線(ビット線)42を、周知の方法で形成することで、図1に示した磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0080】
尚、[工程−160]と[工程−170]の間で、記録層53を構成する材料に依っては、記録層53の規則化熱処理を行ってもよい。具体的には、積層構造体を熱処理炉に搬入し、所定の温度まで積層構造体を昇温した後、一定方向の磁場(方向M2)中で積層構造体を冷却すればよい。尚、ブロッキング温度が、磁化参照層51を構成する材料のブロッキング温度TB1よりも低い材料にて記録層53を構成する。このような記録層53の規則化熱処理によっては、磁化参照層51の磁化方向に変化は生じない。
【0081】
記録層の平面形状を菱形とした参考例及び楕円とした比較例の磁気抵抗効果素子を作製した。尚、参考例は、第1のマスク層の平面形状を菱形とした点を除き、実質的に、実施例1と同様の方法に基づき作製した。一方、比較例は、記録層の上にハードマスク層を形成し、ハードマスク層の上に、フォトリソグラフィ技術に基づきパターニングされたレジスト層を形成する。そして、レジスト層をパターニング用マスクとして、先ず、ハードマスク層をパターニングする。次いで、レジスト層を除去し、パターニングされたハードマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングするといった従来の方法に基づき作製した。参考例においては、菱形の記録層のコーナー部の形状は鋭利で(即ち、曲率半径Rが小さく)、所望の形状となっている。参考例及び比較例における記録層の模式的な平面図を図14の(A)及び(B)に示すが、記録層の磁化容易軸と磁化参照層の磁化容易軸は平行である。また、磁化容易軸は、平面形状の長軸に沿っている。
【0082】
そして、保磁力及び書込み電流値を測定した結果を、相対値として、以下に示すが、実施例1の磁気抵抗効果素子は、参考例及び比較例と比べて、保磁力、書込み電流値のいずれも優れた値を示した。即ち、実施例1及び参考例は、コーナー部が鋭利であり(即ち、曲率半径Rが小さく)、比較例よりも高い形状異方性を有しているが故に、比較例よりも高い保持力、即ち、高い熱安定性を示した。また、参考例及び比較例にあっては、記録層の磁化容易軸と磁化参照層の磁化容易軸は平行であるが故に、スピン注入効率の向上が見られず、充分な書込み電流閾値が確保できない。一方、実施例1の磁気抵抗効果素子にあっては、記録層の磁化容易軸の方向(方向M2)と磁化固定層の磁化容易軸の方向(M1)とが異なるため、スピン注入効率(磁化反転効率)が向上し、書込み電流閾値が低減している。このように、実施例1の磁気抵抗効果素子にあっては、実用的な熱安定性と書込み電流閾値の低下とを両立させている。
【0083】
保磁力 書込み電流値
実施例1 高い 低い
参考例 高い 高い
比較例 低い 高い
【0084】
以上に説明したように、実施例1の磁気抵抗効果素子の製造方法にあっては、記録層53の平面形状である平行四辺形の一組の対辺AB,CDと平行な2辺62A,62Cを有する第2のマスク層62によって第1のマスク層61をパターニングし、更には、この平行四辺形の他の対辺AD,BCと平行な2辺63A,63Cを有する第3のマスク層63によって第1のマスク層61をパターニングする。従って、第1のマスク層61には、記録層53の平面形状である平行四辺形と同じ平面形状を確実に付与することができる。即ち、2回のフォトリソグラフィ工程及び2回のエッチング工程を経て第1のマスク層61を形成するので、フォトリソグラフィの解像度限界に依らずに、忠実に角部を有し、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層61を形成することができる。そして、この第1のマスク層を用いて記録層53をパターニングするので、所望の形状を有する記録層53を確実に形成することができ、特に、頂点A及び頂点Cに相当する記録層の部分を鋭利な形状とすることができる。従って、熱安定性指標Δを一層向上させることができ、高い熱安定性を有する磁気抵抗効果素子を提供することができる。また、記録層53の磁化容易軸の方向と磁化参照層51の磁化容易軸の方向を非平行としているので、スピン注入磁化反転の臨界電流Ic(書込み電流閾値)を一層低減させることが可能となる。
【実施例2】
【0085】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の模式的な一部断面図を図7に示すように、実施例2の磁気抵抗効果素子が、実施例1の磁気抵抗効果素子と相違する点は、磁化参照層51、非磁性体膜52は、記録層53と同じ形状を有している点にある。尚、実施例2の磁気抵抗効果素子における記録層に関しては、図2の(A)及び(B)に図示したと同様である。
【0086】
実施例2にあっては、実施例1の[工程−100]〜[工程−150]と同様の工程を実行した後、第1のマスク層61を除去することなく、引き続き、磁化参照層51A、更には、反強磁性体層54Aをパターニングする(図8の(A)参照)。その後、第1のマスク層61を除去し(図8の(B)参照)、次いで、全面にパターニングされたレジスト層を形成した後、RIE法にて、第1配線41Aをパターニングし、レジスト層を除去する。こうして、図8の(C)に示す構造を得ることができる。尚、RIE法によってパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。その後、実施例1の[工程−170]と同様の工程を実行すればよい。
【実施例3】
【0087】
実施例3は、実施例2の変形である。実施例3の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の模式的な一部断面図を図9に示すように、実施例3の磁気抵抗効果素子が、実施例2の磁気抵抗効果素子と相違する点は、磁化参照層51、非磁性体膜52、記録層53の積層順序が、実施例2と逆である点にある。即ち、情報記録構造体150は、記録層53、非磁性体膜52及び磁化参照層51、更には、反強磁性体層54の積層構造(磁化参照層が上層)を有している。尚、記録層53、非磁性体膜52及び磁化参照層51の平面形状は狭義の平行四辺形であり、同じ平面形状である。尚、実施例3の磁気抵抗効果素子における記録層に関しては、図2の(A)及び(B)に図示したと同様である。
【0088】
実施例3における情報記録構造体150の構成、構造は、積層順が異なる点を除き、実施例1における情報記録構造体50の構成、構造と同じとすることができるので、詳細な説明は省略する。尚、実施例3にあっても、情報記録構造体150の上にはキャップ層55が形成されている。また、実施例3の磁気抵抗効果素子30Aの構成、構造も、情報記録構造体150の積層順が逆である点を除き、実質的に、実施例2の磁気抵抗効果素子の構成、構造と同じである。
【0089】
以下、下層絶縁層24等の模式的な一部端面図である図10の(A)〜(C)、図11の(A)〜(C)を参照して、実施例3の磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。
【0090】
[工程−300]
先ず、実施例1の[工程−100]と同様の工程を実行し、更に、実施例1の[工程−110]と同様の工程を実行する。但し、記録層53A、非磁性体膜52A、磁化参照層51、反強磁性体層54A、キャップ層55Aの順に形成する。こうして、図10の(A)に示す構造を得ることができる。
【0091】
[工程−310]
その後、実施例1の[工程−120]と同様にして、磁化参照層磁化方向固定工程を実行する。
【0092】
[工程−320]
その後、実施例1の[工程−130]と同様にして、積層構造体150A上に第1のマスク層61を形成する。
【0093】
[工程−330]
次いで、実施例1の[工程−140A]と同様にして、第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の一組の対辺AB,CDと平行な2辺62A,62Cを有する第2のマスク層62を形成する(図10の(B)及び図6の(A)参照)。その後、実施例1の[工程−140B]と同様にして、第2のマスク層62をパターニング用マスクとして第1のマスク層61をRIE法にてパターニングした後、第2のマスク層62をアッシング法にて除去する。こうして、図10の(C)に示す構造を得ることができる。次いで、実施例1の[工程−140C]と同様にして、積層構造体150A及び第1のマスク層61上に、記録層53の平面形状である狭義の平行四辺形の他の対辺AD,BCと平行な2辺63A,63Cを有する第3のマスク層63を形成する(図11の(A)及び図6の(B)参照)。その後、実施例1の[工程−140D]と同様にして、第3のマスク層63をパターニング用マスクとして第1のマスク層61をRIE法にてパターニングした後、第3のマスク層63をアッシング法にて除去する。こうして、平行四辺形(具体的には、狭義の平行四辺形)の平面形状を有する第1のマスク層61を得ることができる(図11の(B)及び図6の(C)参照)。
【0094】
[工程−340]
次に、第1のマスク層61をパターニング用マスクとして、反強磁性体層54A、磁化参照層51A、非磁性体膜52A、記録層53Aをパターニングする(図11の(C)参照)。
【0095】
[工程−350]
その後、第1のマスク層61を除去し、次いで、全面にパターニングされたレジスト層を形成した後、RIE法にて、第1配線41Aをパターニングし、レジスト層を除去する。尚、RIE法によってパターニングする代わりに、イオンミーリング法に基づきパターニングすることもできる。その後、実施例1の[工程−170]と同様の工程を実行すればよい。
【0096】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において説明した各種の積層構造、構成、使用した材料等は例示であり、適宜、変更することができる。第2配線(ビット線)42の延びる方向の射影像は、選択用トランジスタTRを構成するゲート電極12の延びる方向の射影像と直交する形態とすることもできる。
【0097】
また、図13の(A)あるいは(B)に模式的な部分的平面図を示したように、隣接するスピン注入型磁気抵抗効果素子をオフセット配置してもよい。スピン注入型磁気抵抗効果素子の微細化が進むに従い、隣接するスピン注入型磁気抵抗効果素子にて発生した漏洩磁界に起因して記録層の磁化が乱されるといったディスターブ現象が発生し、スピン注入型磁気抵抗効果素子のデータ保持特性が著しく劣化するといった問題が生じている。このようなディスターブ現象の発生を避けるために、このように、隣接するスピン注入型磁気抵抗効果素子をオフセット配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、実施例1の磁気抵抗効果素子の模式的な一部断面図である。
【図2】図2の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1〜実施例3の磁気抵抗効果素子における記録層の平面形状を模式的に示す図、及び、記録層の模式的な平面図である。
【図3】図3の(A)〜(C)は、実施例1の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図4】図4の(A)〜(C)は、図3の(C)に引き続き、実施例1の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、図4の(C)に引き続き、実施例1の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図6】図6の(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、第2のマスク層、第3のマスク層、及び、第1のマスク層の模式的な辺面図である。
【図7】図7は、実施例2の磁気抵抗効果素子の模式的な一部断面図である。
【図8】図8の(A)〜(C)は、実施例2の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図9】図9は、実施例3の磁気抵抗効果素子の模式的な一部断面図である。
【図10】図10の(A)〜(C)は、実施例3の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図11】図11の(A)〜(C)は、図10の(C)に引き続き、実施例3の磁気抵抗効果を有するメモリ素子の製造方法を説明するための下層絶縁層等の模式的な一部端面図である。
【図12】図12の(A)は、スピン注入磁化反転を適用したスピン注入型磁気抵抗効果素子の概念図であり、図12の(B)は、従来の記録層(磁化反転層)の模式的な平面図であり、図12の(C)は、スピン注入型磁気抵抗効果素子において、磁化参照層の磁化方向が反強磁性体層との交換結合により固定されている状態を示す模式図であり、図12の(D)は、ダブル・スピンフィルター構造を有するスピン注入型磁気抵抗効果素子の概念図である。
【図13】図13の(A)及び(B)は、ディスターブ現象の発生を避けるために配置を改善したスピン注入型磁気抵抗効果素子の模式的な部分的平面図である。
【図14】図14の(A)及び(B)は、それぞれ、参考例及び比較例の磁気抵抗効果素子における記録層の模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0099】
TR・・・選択用トランジスタ、10・・・半導体基板、11・・・素子分離領域、12・・・ゲート電極(ワード線)、13・・・ゲート絶縁膜、14A,14B・・・ソース/ドレイン領域、15・・・コンタクトホール、16・・・センス線、21,24・・・下層絶縁層、22・・・接続孔、26・・・層間絶縁層、30,30A・・・磁気抵抗効果素子(スピン注入型磁気抵抗効果素子)、41・・・第1配線、42・・・第2配線(ビット線)、50,150・・・情報記録構造体、50A,150A・・・積層構造体、51・・・磁化参照層、52・・・非磁性体膜(トンネル絶縁膜)、53・・・記録層、54,54A,54B・・・反強磁性体層、55・・キャップ層、61・・・第1のマスク層、62・・・第2のマスク層、63・・・第3のマスク層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、記録層の平面形状は平行四辺形である磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
(A)記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体を形成した後、積層構造体上に第1のマスク層を形成し、次いで、
(B)第1のマスク層上に、前記平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層を形成した後、第2のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングし、次いで、第2のマスク層を除去し、
(C)積層構造体及び第1のマスク層上に、前記平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層を形成し、次いで、第3のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングした後、第3のマスク層を除去し、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層を得た後、
(D)第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層を得る、
各工程を有する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
磁化参照層の磁化方向を固定する工程を含み、
記録層の平面形状である平行四辺形は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
記録層の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
を満足する請求項2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
頂点A及び頂点Cに対応する記録層の部分の曲率半径Rは10nm以下である請求項2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、
記録層の平面形状は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
記録層の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
を満足する請求項5に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
頂点A及び頂点Cに対応する記録層の部分の曲率半径Rは10nm以下である請求項5に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項1】
電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、記録層の平面形状は平行四辺形である磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
(A)記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る積層構造体を形成した後、積層構造体上に第1のマスク層を形成し、次いで、
(B)第1のマスク層上に、前記平行四辺形の一組の対辺と平行な2辺を有する第2のマスク層を形成した後、第2のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングし、次いで、第2のマスク層を除去し、
(C)積層構造体及び第1のマスク層上に、前記平行四辺形の他の対辺と平行な2辺を有する第3のマスク層を形成し、次いで、第3のマスク層をパターニング用マスクとして第1のマスク層をパターニングした後、第3のマスク層を除去し、平行四辺形の平面形状を有する第1のマスク層を得た後、
(D)第1のマスク層をパターニング用マスクとして記録層をパターニングし、平行四辺形の平面形状を有する記録層を得る、
各工程を有する磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
磁化参照層の磁化方向を固定する工程を含み、
記録層の平面形状である平行四辺形は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
記録層の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
を満足する請求項2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
頂点A及び頂点Cに対応する記録層の部分の曲率半径Rは10nm以下である請求項2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
電流によるスピン注入磁化反転に基づき情報が書き込まれる記録層、非磁性体膜及び磁化参照層が積層されて成る情報記録構造体を備えており、
記録層の平面形状は、狭義の平行四辺形であり、
狭義の平行四辺形の4つの頂点をA,B,C,Dとし、線分ABを底辺、線分ABと線分ADとの成す角度をθ(単位:度)としたとき、狭義の平行四辺形ABCDは、
0<θ<90
AB≠AD
を満足し、
磁化参照層の磁化容易軸は、底辺ABと平行であり、
記録層の磁化容易軸は、線分ACと平行である磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
記録層の平面形状を構成する狭義の平行四辺形の底辺ABの長さをL、高さをHとしたとき、
1.2≦L/H≦3.5
を満足する請求項5に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
頂点A及び頂点Cに対応する記録層の部分の曲率半径Rは10nm以下である請求項5に記載の磁気抵抗効果素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−302434(P2009−302434A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157564(P2008−157564)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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