説明

磁気抵抗素子および磁気メモリ

【課題】書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる磁気抵抗素子および磁気メモリを提供する。
【解決手段】本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が可変の第1強磁性層と、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が不変の第2強磁性層と、第1強磁性層と第2強磁性層との間に設けられた第1非磁性層と、第2強磁性層に対して第1非磁性層と反対側に設けられ、それぞれが異なる発振周波数の回転磁界を発振する強磁性体の複数の発振体を有し、各発振体が膜面に平行な磁化を有する、第3強磁性層と、を備え、第3強磁性層と、第1強磁性層との間に電流を流すことにより、スピン偏極した電子を第1強磁性層に作用させるとともに、第3強磁性層の複数の発振体に作用させて前記発振体の磁化に歳差運動を誘起し、歳差運動によって生じた複数の回転周波数を有し第1強磁性層の磁化反転をアシストする回転磁界が第1強磁性層に印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗素子および磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗素子(magnetoresistive element)としてのMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子は、第1の強磁性層、トンネルバリア層、および第2の強磁性層の積層を基本構造とし、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistive)効果を示すことが知られており、100Mbpsi(bits per square inch)級HDD用ヘッドや磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)に応用されている。
【0003】
MRAMは、MTJ素子に含まれる磁性層の磁化の相対角度の変化により情報(“1”、“0”)を記憶するという特徴があり、このため不揮発である。また、磁化反転速度は、数ナノ秒であることから、データの高速書き込み、高速読み出しが可能である。従って、MRAMは、次世代の高速不揮発性メモリとして期待されている。また、スピン分極電流により磁化を制御するスピン注入磁化反転と呼ばれる方式を利用すれば、MRAMのセルサイズを低減することで電流密度が増える。このため、容易に磁性体の磁化反転を実現でき、高密度、低消費電力のMRAMを構成することが可能である。
【0004】
さらに近年では、MgOをトンネルバリア層に用いることで1000%もの磁気抵抗比が得られることが理論的に示され、これが注目を集めている(例えば、非特許文献1)。これは、MgOを結晶化させることにより、強磁性層から特定の波数を持った電子のみが波数を保存したまま選択的にトンネル伝導することが可能となる。このとき、特定の結晶方位でスピン分極率が大きな値を示すことから、巨大な磁気抵抗効果が発現する。したがって、MTJ素子の磁気抵抗効果を大きくすることが、MRAMの高密度化、低消費電力化に直結する。
【0005】
一方、不揮発性メモリの高密度化を考えた場合、磁気抵抗素子の高集積化は欠かせない。しかし、磁気抵抗素子を構成する強磁性体は、素子サイズの低減化に伴い熱擾乱耐性が劣化するため、如何にして強磁性体の磁気異方性及び熱擾乱耐性を向上させるかが課題となる。
【0006】
この問題を解決するために近年、強磁性体の磁化が膜面に垂直な方向を向く垂直磁化MTJ素子を利用したMRAMの構築が試みられている。垂直磁化MTJ素子では、一般的に結晶磁気異方性の大きな材料を強磁性体に用いる。このような材料は、磁化が特定の結晶方向を向いており、構成元素の組成比、結晶性を変化させることで結晶磁気異方性の大きさを制御することができる。よって、結晶の成長方向を変化させることにより磁化の方向を制御することができる。また、強磁性体自身が高い結晶磁気異方性を有するので素子のアスペクト比が調整でき、さらに熱擾乱耐性が高いので、集積化に適している。これらのことを鑑みると、MRAMの高集積化、および低消費電力化を実現するには、大きな磁気抵抗効果を発現する垂直磁化MTJ素子を作成することが極めて重要である。
【0007】
この垂直磁化MTJ素子の書込みに必要な電流を更に低減するために、書込み時の磁化反転をアシストする回転磁界を発生する磁化発振層を設けることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−21352号公報
【特許文献2】特開2009−231753号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Butler W. H., Zhang X. G., Schulthess T. C., MacLaren J. M., “Spin-dependent tunneling conductance of Fe|MgO|Fe sandwiches”, Phys. Rev. B Vol. 63, 054416-054427(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる磁気抵抗素子および磁気メモリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が可変の第1強磁性層と、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が不変の第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に設けられた第1非磁性層と、前記第2強磁性層に対して前記第1非磁性層と反対側に設けられ、それぞれが異なる発振周波数の回転磁界を発振する強磁性体の複数の発振体を有し、各発振体が膜面に平行な磁化を有する、第3強磁性層と、を備え、前記第3強磁性層と、前記第1強磁性層との間に電流を流すことにより、スピン偏極した電子を前記第1強磁性層に作用させるとともに、前記第3強磁性層の複数の前記発振体に作用させて前記発振体の磁化に歳差運動を誘起し、前記歳差運動によって生じた複数の回転周波数を有し前記第1強磁性層の磁化反転をアシストする回転磁界が前記第1強磁性層に印加されることを特徴とする磁気抵抗素子。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図2】図2(a)乃至2(c)は磁化発振層の具体例を示す断面図。
【図3】磁化発振層の共鳴周波数特性を示す図。
【図4】第1実施形態の変形例による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図5】第2実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図6】第3実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図7A】第3実施形態の第1変形例による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図7B】第3実施形態の第2変形例による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図7C】第3実施形態の第3変形例による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図8】第4実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図9】第5実施形態による磁気メモリを示す回路図。
【図10】第5実施形態による磁気メモリのメモリセルを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態の磁気抵抗素子1を図1に示す。図1は第1実施形態の磁気抵抗素子1の断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子はMTJ素子であって、強磁性層2、非磁性層(トンネルバリア層ともいう)4、強磁性層6、および磁化発振層10がこの順序で積層された構造を有している。このうち強磁性層2、6はそれぞれ、容易磁化方向は膜面に対して垂直である。すなわち、本実施形態のMTJ素子は、強磁性層2、6の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。なお、本明細書では膜面とは、強磁性層の上面を意味する。また、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。これに対して困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。そして、強磁性層2および強磁性層6のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1に流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変(固定)であり、他方の強磁性層は可変である。不変である強磁性層を参照層とも称し、可変である強磁性層を記録層と称す。
【0015】
磁化発振層10は、膜面に平行な方向の磁化を有する複数の磁性体(発振体)を備え、それぞれの磁性体から発振される回転磁界の周波数(発振周波数)が異なっている。この磁化発振層10に膜面に垂直方向に電流を流したときに、磁化が膜面内を歳差運動、すなわち回転し、これにより、回転磁界を発生する。この回転磁界の周波数は磁化発振層10の磁気パラメータと、注入される電流密度で決まる。そして、この回転磁界の周波数が記録層の共鳴周波数を含む領域内にあるように構成されている。磁化発振層10の磁化から発生される回転磁界の周波数と記録層である強磁性層2の磁化の反転時の共鳴周波数が一致すると、記録層である強磁性層2の磁化反転をアシストする、すなわち強磁性層2の磁化反転電流を低減することができる。
【0016】
磁化発振層の第1具体例としては、図2(a)に示すように、例えばAlOなどの非磁性体11中に数nm程度のサイズが異なる複数の磁性微粒子12で構成される等のグラニュラー膜の構成を有している。各磁性微粒子12は膜面に平行な磁化を有している。個々の磁性微粒子12はサイズ(直径)、或いは磁気パラメータの分布を持つので、各磁性微粒子12の磁化はそれぞれ異なる周波数で回転運動する。したがって磁性微粒子12の集合体である磁化発振層10は分布を持つ発振周波数で発振する。すなわち、広い電流範囲において、記録層の磁化反転をアシストする効果を与えることができる。図2(a)に示す第2具体例の磁化発振層10を用いる場合は、強磁性層6との間に非磁性層を設けることが好ましい。
【0017】
また、磁化発振層の第2具体例としては、図2(b)に示すように、絶縁体11に、この絶縁体11を貫通しかつサイズ(直径)が異なる複数の磁性体12が設けられた構成であってもよい。この場合も第1具体例と同様に、広い電流範囲において、記録層の磁化反転をアシストする効果を与えることができる。図2(b)に示す第2具体例の磁化発振層10を用いる場合は、強磁性層6との間に非磁性層を設けることが好ましい。
【0018】
また、磁化発振層10の第3具体例としては、強磁性膜と非磁性膜の積層構造を有している。例えば、図2(c)に示すように、強磁性膜10a、非磁性膜10b、および強磁性膜10cがこの順序で積層された構造を有している。そして。各強磁性膜10a、10cの発振周波数はそれぞれが異なり、かつ記録層の共鳴周波数に近い領域にあるように構成されている。すなわち、この場合も、広い電流範囲において、記録層の磁化反転をアシストする効果を与えることができる。図2(c)に示す第3具体例の磁化発振層10を用いる場合は、強磁性層6との間に非磁性層を設けることが好ましい。なお、図2(c)においては、強磁性膜は非磁性膜を間に挟んで、2層であったが、3層以上でもよい。
【0019】
次に、本実施形態の磁気抵抗素子1の書込み時の動作について説明する。書き込み電流は、強磁性層2と強磁性層6との間に膜面に垂直方向に流す。なお、この動作の説明においては、強磁性層2を記録層、強磁性層6を参照層として説明する。
【0020】
まず、強磁性層2の磁化の方向と強磁性層6の磁化の方向が反平行(逆の方向)な場合には、強磁性層2から非磁性層4、強磁性層6を介して磁化発振層10に電流を流す。この場合、電子は磁化発振層10から、強磁性層6、非磁性層4を介して強磁性層2に流れる。そして、強磁性層6を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層2に流れる。強磁性層2の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は強磁性層2を通過するが、強磁性層2の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、強磁性層2の磁化の方向が強磁性層6の磁化と同じ方向に向くように働く。このとき、磁化発振層10から、記録層である強磁性層2の共鳴周波数がその領域内にある周波数を有する回転磁界が発生され、強磁性層2に対して膜面に平行な回転磁界が加わる。すなわち、記録層である強磁性層2の磁化の反転をアシストする。これにより、強磁性層2の磁化の方向が反転し、強磁性層6の磁化の方向と平行(同じ方向)になる。
【0021】
強磁性層2の磁化の方向と強磁性層6の磁化の方向が平行な場合には、磁化発振層10から、強磁性層6、非磁性層4を介して、強磁性層2に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は強磁性層2から非磁性層4、強磁性層6を通って磁化発振層10に流れる。そして、強磁性層2を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層6に流れる。強磁性層6の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は強磁性層6を通過するが、強磁性層6の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、非磁性層4と強磁性層6との界面で反射され、非磁性層4を通って強磁性層2に流れこみ、強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、強磁性層2の磁化の方向が強磁性層6の磁化と反対方向に向くように働く。このとき、磁化発振層10から、記録層である強磁性層2の共鳴周波数を含む領域内にある周波数を有する回転磁界が発生され、強磁性層2に対して膜面に平行な回転磁界が加わる。すなわち、記録層である強磁性層2の磁化の反転をアシストする。これにより、強磁性層2の磁化の方向が反転し、強磁性層6の磁化の方向と反平行になる。
【0022】
第1実施形態においては、磁化発振層10は、図3に示すように、記録層となる強磁性層2の共鳴周波数fを含む範囲Aにおいて、実線で示す複数の発振周波数特性を有しているので、磁化発振層10の発振周波数特性は、実線で示す複数の発振周波数特性を重ね合わせた特性、すなわち波線で示す広い発振周波数帯域となる。このように広い発振周波数帯域を有することと、後述するように発振周波数は電流密度に比例することにより、広い範囲の電流値で共鳴することになるとともに、書込み電流を減少させることができる。なお、磁化発振層10から発生される回転磁界の周波数が2.5GHzから6.0GHzの範囲であれば、記録層となる強磁性層2の共鳴周波数fを含む好ましい範囲Aは、記録層となる強磁性層2の共鳴周波数fに対して、0.62f〜1.50fの範囲である。この範囲(0.62f〜1.50f)にあれば、記録層に対して、アシスト効果があることが、本出願人の他の出願(特開2009−231753号公報)によって示されている。したがって、磁化発振層10は、記録層となる強磁性層2の共鳴周波数fに対して、0.62f〜1.50fの範囲となる発振周波数を発生することが好ましい。
【0023】
以上説明したように、第1実施形態によれば、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる。
【0024】
また、記憶層となる強磁性層2の共鳴周波数がばらついたり変動したりしても、あるいは磁化発振層10の発振周波数がばらついたり変動したりしても、記憶層の固有周波数が磁化発振層10の発振周波数帯に含まれるようにすることができる。その結果、共鳴を利用した高効率スピン注入書込みを安定して行うことができる。
【0025】
(変形例)
第1実施形態の変形例による磁気抵抗素子を図4に示す。この変形例の磁気抵抗素子1Aは、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子において、磁化発振層10を、記録層となる強磁性層2の、非磁性層4と反対側に設けた構成となっている。
【0026】
この変形例も第1実施形態と同様に、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる。また、高効率スピン注入書込みを安定して行うことができる。
【0027】
(第2実施形態)
第2実施形態による磁気抵抗素子を図5に示す。第2実施形態の磁気抵抗素子1Bは、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子において、強磁性層6と磁化発振層10との間に、非磁性層8と、強磁性層9とを設けた構成となっている。強磁性層9はバイアス層とも呼ばれ、参照層となる強磁性層6からの漏れ磁場による、記録層となる強磁性層2の反転電流のシフトを緩和および調整する。強磁性層9の磁化の方向は強磁性層6の磁化の方向と反平行(逆向き)であることが好ましい。また、強磁性層9は非磁性層8を介して強磁性層6と反強磁性結合(SAS(Synthetic Anti-Ferromagnetic)結合)していてもよい。
【0028】
非磁性層8は、強磁性層6と強磁性層9とが熱工程によって混ざらない耐熱性、および強磁性層9を形成する際の結晶配向を制御する機能を具備することが望ましい。さらに、非磁性層8の膜厚が厚くなると強磁性層9と、記録層となる強磁性層2との距離が離れるため、強磁性層9から記録層に印加されるシフト調整磁界が小さくなってしまう。このため、非磁性層8の膜厚は、5nm以下であることが望ましい。強磁性層9は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する、強磁性材料から構成される。強磁性層9は、参照層となる強磁性層6に比べて記憶層となる強磁性層2から離れているため、記憶層に印加される漏れ磁場を強磁性層9によって調整するためには、強磁性層9の膜厚、或いは飽和磁化Mの大きさを参照層のそれらより大きくする設定する必要がある。すなわち、本発明者達の研究結果によれば、参照層となる強磁性層6の膜厚、飽和磁化をそれぞれt、MS2とし、強磁性層9の膜厚、飽和磁化をそれぞれt、MS4とすると、以下の関係式を満たす必要がある。
S2×t<MS4×t
【0029】
この第2実施形態も第1実施形態と同様に、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる。また、高効率スピン注入書込みを安定して行うことができる。
【0030】
なお、後述する第3実施形態およびその変形例ならびに第4実施形態において用いられるスピン注入層は、その膜厚および飽和磁化を適宜選択することにより、このスピン注入層7をバイアス層として機能させることも可能である。
【0031】
(第3実施形態)
第3実施形態による磁気抵抗素子を図6に示す。第3実施形態の磁気抵抗素子1Cは、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子において、強磁性層6と、磁化発振層10との間に、強磁性層6の磁化と反平行な磁化を有するスピン注入層7を設けるとともに、磁化発振層10とし、図2(a)に示すグラニュラー膜の構成を有するものを用いた構成となっている。すなわち、磁化発振層10が非磁性体マトリックス11に囲まれた複数の強磁性体粒12を有している。強磁性体粒12はそれぞれ磁気的には独立している。膜面に対して略垂直な方向に電流を流すことによりスピン偏極した電子がスピン注入層7から磁化発振層10に注入され、その結果、それぞれの強磁性体粒12が発振し、高周波回転磁場を発生させることで高効率のスピン注入書込みを行うことができる。強磁性体粒12の発振周波数はそれぞれ異なっており、その発振周波数が20%〜50%異なる2つの強磁性体粒の組み合わせが少なくとも1つは存在している。磁気抵抗素子1Bの大きさは直径約30nm程度であり、その中に含まれる強磁性体粒の個数は2個乃至10個程度、厚さは1nm乃至3nm程度、直径は3nm乃至12nm程度であり、体積にすると50倍程度異なるものが存在する。
【0032】
磁化発振層10にスピン注入層7からスピン注入した場合の発振周波数fiは、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を解くことにより以下の式で表される。
【数1】

ただし、磁化発振層10の非磁性マトリクス11が金属の場合は、
【数2】

であり、磁化発振層10の非磁性マトリクス11が絶縁体の場合は、
【数3】

である。ここで、γはジャイロ磁気定数、αはダンピング定数、Pは偏極度、Msは飽和磁化、tは磁化発振層10の発振体粒の厚さ、Jは磁化発振層10を流れる電流密度、hバーはプランク定数hを2πで割った値でディラック定数、eは電気素量を表す。θは発振条件における磁化発振層10の磁化とスピン注入層7の磁化の相対角度を表す。
【0033】
したがって、磁化発振層10の発振体の減衰定数、飽和磁化、体積、スピン注入効率、注入電流が異なれば、発振体の発振周波数は異なることになる。
【0034】
(1)式は、fiは、g(θ)と電流密度Jとの積に比例し、磁化発振層10の膜厚tに反比例している。このため、磁化発振層10内に均一に電流が流れた場合には、面積が10倍異なったとしても面積には依存せず、発振周波数fiは強磁性体粒12の厚さtとg(θ)に依存する。さらに強磁性体粒12の厚さtが同じ場合には、発振周波数fiはg(θ)のみに依存することになり、最終的には強磁性体粒の形状に応じた反磁界によって決まるθで発振周波数fiは決まる。
【0035】
本実施形態では、非磁性マトリックスとして、AlOxやMgOのような絶縁材料、Cu、Ag、Au等の金属材料を用いることができる。絶縁材料を用いた場合は、TMR効果を利用したスピン注入により発振が起こり、金属材料を用いた場合はGMR効果を利用したスピン注入による発振が起こる。
【0036】
以上説明したように、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる。また、記憶層となる強磁性層2の共鳴周波数がばらついたり変動したりしても、あるいは磁化発振層10の発振周波数がばらついたり変動したりしても、記憶層の共鳴周波数が磁化発振層10の発振周波数帯に含まれるようにすることができる。その結果、共鳴を利用した高効率スピン注入書込みを安定して行うことができる。
【0037】
(第1変形例)
第3実施形態の第1変形例による磁気抵抗素子を図7Aに示す。この第1変形例の磁気抵抗素子1Dは、図6に示す第3実施形態の磁気抵抗素子1Cにおいて、スピン注入層7および磁化発振層10を、記録層となる強磁性層2の、非磁性層4と反対側に設けた構成となっている。この第1変形例では、強磁性層2と磁化発振層10との間にスピン注入層7が設けられている。
【0038】
(第2変形例)
第3実施形態の第2変形例による磁気抵抗素子を図7Bに示す。この第2変形例の磁気抵抗素子1Dは、図7Aに示す第1変形例の磁気抵抗素子1Dにおいて、スピン注入層7と磁化発振層10との位置を逆にした構成となっている。すなわち、スピン注入層7を、磁化発振層10に対して強磁性層2とは反対側に設けた構成となっている。この第2変形例においては、強磁性層2と磁化発振層10との間でスピン偏極した電子の移動が行われないように、強磁性層2と磁化発振層10との間に非磁性層14を挿入することが好ましい。この非磁性層14としてはTaなどのスピン拡散長が短い材料を用いると良い。この第2変形例においては、磁化発振層10が記録層となる強磁性層2の近くに設けられているので、強磁性層2の磁化反転をより効果的にアシストすることができる。
【0039】
また、この第2変形例において、第2実施形態で説明したバイアス層9を強磁性層6に対して非磁性層4と反対側に設けてもよい。この場合、第2実施形態と同様に、強磁性層6とバイアス層9との間に非磁性層8を設けることが好ましい。このようにバイアス層9を設けることにより、記録層となる強磁性層2の反転電流のシフトを緩和および調整することができる。
【0040】
(第3変形例)
第3実施形態の第3変形例による磁気抵抗素子を図7Cに示す。この第3変形例の磁気抵抗素子1Dは、図6に示す第3実施形態の磁気抵抗素子1Cにおいて、スピン注入層7と磁化発振層10との位置を逆にした構成となっている。すなわち、スピン注入層7を、磁化発振層10に対して強磁性層6とは反対側に設けた構成となっている。この第3変形例においても、第2変形例と同様に、強磁性層6と磁化発振層10との間に非磁性層14を挿入することが好ましい。
【0041】
上記第1乃至第3変形例も第3実施形態と同様に、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる。また、高効率スピン注入書込みを安定して行うことができる。
【0042】
(第4実施形態)
第4実施形態の磁気抵抗素子を図8に示す。この第4実施形態の磁気抵抗素子1Eは、図6に示す第3実施形態において、磁化発振層10を強磁性膜と非磁性膜とが積層された積層構造の磁化発振層10Aに置き換えた構成となっている。磁化発振層10Aは、スピン注入層7上に、非磁性膜10Aa、強磁性膜10Ab、非磁性膜10Ac、強磁性膜10Ad、非磁性膜10Ae、および強磁性膜10Afがこの順序積層された構造を有している。これらの強磁性膜10Ab、10Ad、10Afは磁気的には独立しており結合していない。
【0043】
強磁性膜10Ab、10Ad、10Afはそれぞれ、膜厚あるいは材料が異なっており、例えば膜厚が2nm、2.5nm、3nmの3層の強磁性体(例えばCoFe)が、それぞれ磁性体の間に厚さ2nmのCuを挟んで積層されており、最大発振周波数と最小発振周波数との比は1.5倍となっている。共鳴による高効率書込みは、記録層の共鳴周波数fに対し0.62f〜1.50fの周波数で発振すればいいので、例えば4GHzと6GHzの2つの周波数で発振が起これば、およそ2.7GHz〜10GHzという広い範囲のfで効果が得られることとなる。
【0044】
この第4実施形態も第3実施形態と同様に、書込み電流の範囲を広くすることができるとともに書込み電流を低減することができる。また、高効率スピン注入書込みを安定して行うことができる。
【0045】
以下に、第1乃至第4実施形態およびそれらの変形例のMTJ素子1、1A、1B、1C、1D、1D、1D、1Eに含まれる各層の具体的な構成を、強磁性層2、強磁性層6、スピン注入層7、磁化発振層10、非磁性層4の順に説明する。
【0046】
(強磁性層2)
強磁性層2は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する。強磁性層2に用いられる材料としては、例えば、例えば、面心立方構造(FCC)の(111)あるいは六方最密充填構造(HCP)の(001)に結晶配向した金属、または人工格子を形成しうる金属が用いられる。FCCの(111)あるいはHCPの(001)に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、及びCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、CoPd、CoPt、NiCo、或いはNiPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0047】
また、強磁性層2に用いられる人工格子としては、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素あるいはこの1つの元素を含む合金(強磁性膜)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうち1つの元素あるいはこの1つの元素を含む合金(非磁性膜)とが交互に積層された構造が挙げられる。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等が挙げられる。これらの人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0048】
(強磁性層6)
強磁性層6は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する。強磁性層6に用いられる材料としては、例えば、面心立方構造(FCC)の(111)あるいは六方最密充填構造(HCP)の(001)に結晶配向した金属、または人工格子を形成しうる金属が用いられる。FCCの(111)あるいはHCPの(001)に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、及びCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、CoPd、CoPt、NiCo、或いはNiPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0049】
強磁性層6に用いられる人工格子としては、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素あるいはこの1つの元素を含む合金(強磁性膜)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうち1つの元素あるいはこの1つの元素を含む合金(非磁性膜)とが交互に積層された構造が挙げられる。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等が挙げられる。これらの人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0050】
また、強磁性層6に用いられる材料として、遷移金属Fe、Co、Niの群と、希土類金属Tb、Dy、Gdの群からそれぞれ選択された少なくとも1つの元素を含む合金が挙げられる。例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。また、これらの合金を交互に積層された多層構造であってもよい。具体的にはTbFe/Co、TbCo/Fe、TbFeCo/CoFe或いはDyFe/Co、DyCo/Fe、DyFeCo/CoFeなどの多層膜が挙げられる。これらの合金は、膜厚比や組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0051】
また、強磁性層6に用いられる材料として、Fe、Co、Ni、及びCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、及びAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、FeRh、FePt、FePd、CoPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0052】
(スピン注入層7)
スピン注入層7としては、強磁性層6と同じ材料を用いることができる。
【0053】
(磁化発振層10)
磁化発振層10は、非磁性マトリックスに分散したナノメートルサイズの金属強磁性体グラニュールである。非磁性マトリクスが絶縁性である場合は、非磁性マトリクスの材料はAl、Si、Ti、Mg、Ta、Zn、Fe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物または窒化物または炭化物であり、強磁性微粒子はFe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの元素を含む。また、非磁性マトリクスが導電性の場合は、非磁性マトリクスの材料として、Cu、Ag、Au等の非磁性金属材料を用いることができる。この場合も、強磁性微粒子はFe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの元素を含む。
【0054】
磁化発振層10が強磁性膜と非磁性膜との積層構造を有する場合は、強磁性膜としてはFe、Co、Niから選ばれる少なくとも1つの元素を含み、非磁性膜としてはCu、Ag、Au、Ruから選ばれる少なくとも1つの元素を含む。
【0055】
(非磁性層4)
非磁性層4は絶縁材料からなり、したがって、非磁性層4としては、トンネルバリア層が用いられる。トンネルバリア層材料としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、及びチタン(Ti)からなるグループから選ばれる1つの元素を主成分とする酸化物が挙げられる。具体的には、MgO、CaO、BaO、AlO、BeO、SrO、またはTiOが挙げられる。トンネルバリア層は、上述の酸化物のグループから選ばれる2つ以上の材料の混晶物であってもよい。混晶物の例としては、MgAlO、MgTiO、CaTiOなどである。
【0056】
トンネルバリア層は、結晶質及びアモルファスのいずれであっても構わない。しかし、トンネルバリア層が結晶化している場合、トンネルバリア中での電子の散乱が抑制されるため電子が強磁性層から波数を保存したまま選択的にトンネル伝導する確率が増え、磁気抵抗比を大きくすることができる。
【0057】
磁気抵抗素子の磁気抵抗比を上げるために、MgOからなる非磁性層4のトンネルバリア層に高スピン分極率を有する材料からなる界面層を隣接させることが好ましい。界面層としては、例えば、Fe、Coの群から選択された少なくとも一つの金属よりなる合金が望ましい。また、飽和磁化を制御するために、界面層として、Ni、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、Mn、Geの群から選択された少なくとも1つの元素を添加してもよい。すなわち、Fe、Coの群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、MnおよびGeの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であって、例えば、CoFeBの他に、CoFeSi、CoFeP、CoFeW、CoFeNb等が挙げられ、これらの合金は、CoFeBと同等のスピン分極率を有している。またCoFeSi、CoMnSi、CoMnGe等のホイスラー金属でもよい。ホイスラー金属はCoFeBと同等かあるいはより高いスピン分極率を有しているため界面層に適している。このとき、例えば、CoFeからなる界面層、MgOからなる非磁性層、CoFeからなる界面層とした場合に、CoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)のエピタキシャル関係を作ることができる。この場合、トンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
【0058】
(第5実施形態)
第1乃至第4実施形態およびそれらの変形例のMTJ素子1、1A、1B、1C、1D、1Eは、MRAMに適用できる。以下では、説明を簡単にするために、第1実施形態のMTJ素子1を用いた場合について説明する。
【0059】
MRAMを構成する記憶素子は、磁化(或いはスピン)方向が可変である(反転する)記録層、磁化方向が不変である(固着している)参照層、これら記録層および参照層に挟まれた非磁性層を備えている。「参照層の磁化方向が不変である」とは、記録層の磁化方向を反転するために使用される磁化反転電流を参照層に流した場合に、参照層の磁化方向が変化しないことを意味する。膜面の垂直方向に磁化容易軸を有する2つの強磁性層の一方を記録層、他方を参照層として用いることで、MTJ素子を記憶素子として用いたMRAMを構成することができる。
【0060】
具体的には、2つの強磁性層に保磁力差を設けることで、これらを記録層および参照層として用いることができる。従って、MTJ素子において、一方の強磁性層(参照層)として反転電流の大きな強磁性層を用い、他方の強磁性層(記録層)として、参照層となる強磁性層よりも反転電流の小さい強磁性層を用いることによって、磁化方向が可変の強磁性層と磁化方向が不変の強磁性層とを備えたMTJ素子を実現することができる。
【0061】
図9は、第4実施形態によるMRAMの構成を示す回路図である。この実施形態のMRAMは、マトリクス状に配列されたメモリセルを有し、各メモリセルは、MTJ素子1を備えている。各MTJ素子1の一端は、ビット線BLに電気的に接続される。ビット線BLの一端は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST1を経由してセンスアンプSAに電気的に接続される。センスアンプSAは、MTJ素子1からの読み出し電位Vrと参照電位Vrefとを比較し、この比較結果を出力信号DATAとして出力する。センスアンプSAに電気的に接続された抵抗Rfは、帰還抵抗である。
【0062】
ビット線BLの他端は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST2を経由して、PチャネルMOSトランジスタP1のドレイン及びNチャネルMOSトランジスタN1のドレインに電気的に接続される。MOSトランジスタP1のソースは、電源端子Vddに接続され、MOSトランジスタN1のソースは、接地端子Vssに接続される。
【0063】
各MTJ素子1の他端は、下部電極29に電気的に接続される。下部電極29は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST3を経由してソース線SLに電気的に接続される。なお、ソース線SLはビット線BLと平行な方向に延在する。
【0064】
ソース線SLは、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST4を経由して、PチャネルMOSトランジスタP2のドレイン及びNチャネルMOSトランジスタN2のドレインに電気的に接続される。MOSトランジスタP2のソースは、電源端子Vddに接続され、MOSトランジスタN2のソースは、接地端子Vssに接続される。また、ソース線SLは、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST5を経由して接地端子Vssに接続される。
【0065】
MOSトランジスタST3のゲートは、ワード線WLに電気的に接続される。ワード線WLは、ビット線BLが延在する方向に対して交差する方向に延在する。
【0066】
MTJ素子1へのデータ書き込みは、スピン注入書き込み方式によって行われる。すなわち、制御信号A、B、C及びDによるMOSトランジスタP1、P2、N1及びN2のオン/オフによりMTJ素子1に流れる書き込み電流の向きを制御し、データ書き込みを実現する。
【0067】
MTJ素子1からのデータ読み出しは、MTJ素子1に読み出し電流を供給することで行われる。この読み出し電流は、書き込み電流よりも小さい値に設定される。MTJ素子1は、磁気抵抗効果により、参照層と記録層との磁化方向が平行配列か反平行配列かで異なる抵抗値を有する。すなわち、参照層と記録層との磁化方向が平行配列のときはMTJ素子1の抵抗値は最も小さくなり、一方、参照層と記録層との磁化方向が反平行配列のときはMTJ素子1の抵抗値は最も大きくなる。この抵抗値の変化をセンスアンプSAによって検出することで、MTJ素子1に記録された情報を読み出す。
【0068】
図10は、上記メモリセルを示す断面図である。P型半導体基板21内には、STI(shallow trench isolation)構造の素子分離絶縁層22が形成される。素子分離絶縁層22に囲まれた素子領域(活性領域)には、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST3が設けられている。MOSトランジスタST3は、ソース/ドレイン領域としての拡散領域23及び24と、拡散領域23及び24間のチャネル領域の上に設けられたゲート絶縁膜25と、ゲート絶縁膜25上に設けられたゲート電極26とを有する。ゲート電極26は、図9に示すワード線WLに相当する。
【0069】
拡散領域23上には、コンタクトプラグ27が設けられている。コンタクトプラグ27上には、ソース線SLが設けられている。拡散領域24上には、コンタクトプラグ28が設けられている。コンタクトプラグ28上には、下部電極29が設けられている。下部電極29上には、MTJ素子1が設けられている。MTJ素子1上には、上部電極30が設けられている。上部電極30上には、ビット線BLが設けられている。半導体基板21とビット線BLとの間は、層間絶縁層31で満たされている。
【0070】
以上、第1乃至第4実施形態およびそれらの変形例による磁気抵抗素子の適用例をMRAMについて説明したが、第1乃至第4実施形態およびそれらの変形例による磁気抵抗素子は、それ以外にもTMR効果を利用するデバイス全般に適用できる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1、1A、1B、1C、1D、1E 磁気抵抗素子(MTJ素子)
2 強磁性層
4 非磁性層(トンネルバリア層)
6 強磁性層
7 スピン注入層
8 非磁性層
10 磁化発振層
21 半導体基板
22 素子分離絶縁層
23、24 拡散領域
25 ゲート絶縁膜
26 ゲート電極
27、28 コンタクトプラグ
29 下部電極
30 上部電極
31 層間絶縁層
BL ビット線
WL ワード線
SL ソース線
SA センスアンプ
P1、P2 PチャネルMOSトランジスタ
N1、N2、ST1〜ST5 NチャネルMOSトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が可変の第1強磁性層と、
膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が不変の第2強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に設けられた第1非磁性層と、
前記第2強磁性層に対して前記第1非磁性層と反対側に設けられ、それぞれが異なる発振周波数の回転磁界を発振する強磁性体の複数の発振体を有し、各発振体が膜面に平行な磁化を有する、第3強磁性層と、
を備え、
前記第3強磁性層と、前記第1強磁性層との間に電流を流すことにより、スピン偏極した電子を前記第1強磁性層に作用させるとともに、前記第3強磁性層の複数の前記発振体に作用させて前記発振体の磁化に歳差運動を誘起し、前記歳差運動によって生じた複数の回転周波数を有し前記第1強磁性層の磁化反転をアシストする回転磁界が前記第1強磁性層に印加されることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第2強磁性層と前記第3強磁性層との間に前記第3強磁性層にスピン偏極した電子を注入するスピン注入層が設けられていることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第3強磁性層に対して前記第2強磁性層と反対側に設けられ前記第3強磁性層にスピン偏極した電子を注入するスピン注入層と、前記第2強磁性層と前記第3強磁性層との間に設けられた第2非磁性層と、を更に備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が可変の第1強磁性層と、
膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化が不変の第2強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に設けられた第1非磁性層と、
前記第1強磁性層に対して前記第1非磁性層と反対側に設けられ、それぞれが異なる発振周波数の回転磁界を発振する強磁性体の複数の発振体を有する第3強磁性層と、
を備え、
前記第3強磁性層と、前記第2強磁性層との間に電流を流すことにより、スピン偏極した電子を前記第1強磁性層に作用させるとともに、前記第3強磁性層の複数の前記発振体に作用させて前記発振体の磁化に歳差運動を誘起し、前記歳差運動によって生じた複数の回転周波数を有し前記第1強磁性層の磁化反転をアシストする回転磁界が前記第1強磁性層に印加されることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記第1強磁性層と前記第3強磁性層との間に前記第3強磁性層にスピン偏極した電子を注入するスピン注入層が設けられていることを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記第3強磁性層に対して前記第1強磁性層と反対側に設けられ前記第3強磁性層にスピン偏極した電子を注入するスピン注入層と、前記第1強磁性層と前記第3強磁性層との間に設けられた第2非磁性層と、を更に備えていることを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第3強磁性層の前記発振体から発振される回転磁界の発振周波数は、前記第1強磁性層の共鳴周波数をfとしたとき、0.62f〜1.50fの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第3強磁性層は、非磁性マトリクスと、前記非磁性マトリクスに囲まれた複数の強磁性体粒とを有し、複数の前記強磁性体粒が発振体であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第3強磁性層の前記非磁性マトリクスはAl、Si、Ti、Mg、Ta、Zn、Fe、Co、Niから選択された少なくとも1つの元素を含む酸化物であり、前記強磁性体粒はFe、Co、Niから選択された少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項8記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記第3強磁性層の前記非磁性マトリクスは非磁性金属材料であり、前記強磁性体粒はFe、Co、Niから選択された少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項8記載の磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記第3強磁性層は、強磁性膜と非磁性膜との積層構造を有し、前記強磁性膜は、Fe、Co、Niから選択された少なくとも1つの元素を含み、前記非磁性膜はCu、Ag、Au、Ruから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記第2強磁性層と前記第3強磁性層との間に設けられ、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し磁化方向が前記第2強磁性層の磁化方向と互いに反平行な第4強磁性層と、前記第2強磁性層と前記第4強磁性層との間に設けられた第3非磁性層と、を更に備え、
前記第2強磁性層の飽和磁化をMS2、膜厚をtとし、前記第4強磁性層の飽和磁化をMS4、膜厚をtとするとき、MS2×t<MS4×tの関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記第2強磁性層に対して前記第1非磁性層と反対側に設けられ、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し磁化方向が前記第2強磁性層の磁化方向と互いに反平行な第4強磁性層と、前記第2強磁性層と前記第4強磁性層との間に設けられた第3非磁性層と、を更に備え、
前記第2強磁性層の飽和磁化をMS2、膜厚をtとし、前記第4強磁性層の飽和磁化をMS4、膜厚をtとするとき、MS2×t<MS4×tの関係を満たすことを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−204680(P2012−204680A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68853(P2011−68853)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】