説明

積層構造体、電子素子、電子素子アレイ及び表示装置

【課題】表面自由エネルギーの高い領域と、表面自由エネルギーの低い領域の境界ラインを明確に切り分けることが可能な積層構造体を、簡易な製造工程を用いて低コストで提供することを目的とする。
【解決手段】第1の膜厚である第1の表面エネルギー部と、所定のエネルギーが付与されて前記第1の表面エネルギー部よりも表面エネルギーが高くなり、かつ、前記第1の表面エネルギー部との境界に沿って溝が形成された第2の膜厚である第2の表面エネルギー部とを有する濡れ性変化層と、前記濡れ性変化層の前記第2の表面エネルギー部に形成された導電層とを有する積層構造体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、積層構造体を用いた電子素子、電子素子アレイ及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタが精力的に研究されている。トランジスタに有機半導体材料を用いる利点として、フレキシビリティー、大面積化、単純層構成によるプロセスの単純化及び製造装置が安価であることが挙げられる。
【0003】
また、有機薄膜トランジスタは、印刷法を用いることで、従来のフォトリソグラフィーを用いるSi系半導体の場合よりも、桁違いに安く製造することが可能であり、さらに、印刷法、スピンコート法、浸漬法等を用いて、薄膜や回路も簡便に形成することが可能である。
【0004】
このような有機薄膜トランジスタの特性を示すパラメータの一つとして、電流のオンオフ比(Ion/Ioff)が挙げられる。有機薄膜トランジスタにおいて、飽和領域でのソース・ドレイン電極間に流れる電流Idsは、
ds=μCinW(V−Vth/2L ・・・・・・・式(1)
で表される。ここで、μは電界効果移動度、Cinはゲート絶縁膜の単位面積当たりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vはゲート電圧、Vthは閾値電圧である。なお、Cinは、
in=εε/d ・・・・・・・・・・・・・・・・・式(2)
で表される。ここで、εはゲート絶縁膜の比誘電率、εは真空の誘電率、dはゲート絶縁膜の厚さである。
【0005】
式(1)から、オン電流を大きくするためには、
1.電界効果移動度μを向上させること
2.チャネル長Lを短くすること
3.チャネル幅Wを大きくすること
等が有効であることがわかる。電界効果移動度μは、材料特性によるところが大きく、電界効果移動度を向上させるための材料開発が行われている。
【0006】
一方、チャネル長Lは、素子構成に由来するので、素子構成の工夫により、オン電流を向上させる試みが行われている。従来より、ソース・ドレイン電極間距離を短くすることで、チャンネル長Lを短くできることが知られている。
【0007】
有機半導体材料は、シリコン半導体などの無機半導体材料に較べ電界効果移動度μが大きくないため、チャネル長Lは、通常、少なくとも10um以下であることが必要であり、5um以下であることが好ましい。ソース・ドレイン電極間距離を正確に短くする方法の一つとして、Siプロセスで用いられるフォトリソグラフィーが挙げられる。
【0008】
フォトリソグラフィーの工程は、
1.薄膜層を有する基板上にフォトレジスト層を塗布する(レジスト塗布)
2.加熱により溶剤を除去する(プリベーク)
3.パターンデータに従ってレーザー或いは電子線を用いて描画されたハードマスクを通して紫外光を照射する(露光)
4.アルカリ溶液で露光部のレジストを除去する(現像)
5.未露光部(パターン部)のレジストを加熱により硬化する(ポストベーク)
6.エッチング液に浸漬又はエッチングガスに暴露し、レジストのない部分の薄膜層を除去する(エッチング)
7.アルカリ溶液又は酸素ラジカルでレジストを除去する(レジスト剥離)
からなる。各薄膜層を形成した後、上記の工程を繰り返すことによって電子素子が完成するが、高価な設備と工程の長さがコストを上昇させる原因となっている。
【0009】
そこで、製造コストを低減するために、インクジェット印刷法等の印刷法を用いた電極パターンの形成が試みられている。インクジェット印刷法を用いると、電極パターンを直接描画することができるため、材料使用率が高くなり、製造プロセスの簡略化及び低コスト化を実現できる可能性がある。しかしながら、インクジェット印刷法は、吐出量の少量化が困難であり、機械的な誤差等によるインクの着弾精度を考慮すると、30um以下のパターンを形成することが難しいという欠点がある。このため、インクジェット印刷法のみを用いて、例えばチャンネル長の短いトランジスタなどの、高精細なデバイスを作製することは困難である。したがって、高精細なデバイスを作製するためには、何らかの工夫が必要となり、その一つとして、インクを着弾させる表面に細工を施すことが挙げられる。
【0010】
例えば、基板上にポリイミドからなるバンク(土手)を形成し、バンクに囲まれた領域にインクを吐出することでパターンを形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この提案によれば、インクジェット印刷法のみを用いる場合よりも高精細なパターンを形成することができるが、バンクを作るために、多くの工程を要するフォトリソグラフィーを必要とするので、コストが高くなってしまい、安価な印刷プロセス(インクジェットプロセス)で電子素子を作るメリットが損なわれてしまう。
【0011】
また、基板上に濡れ性が同一なインデント部およびインデント部間(丘の部分)の二つの領域を形成し、形成されたインデント部間に、インクジェットヘッドからインクを吐出することでインクをインデント部の端部で停止させ境界ラインを形成する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この提案によれば、インクジェットから吐出されたインクは、到達した表面でうまく止まらなくても、余分なインクはインデント部分に落ちてしまい、境界ラインがきっちりと形成される。この手法も、インクをきちっと止めたいラインを、インデントにより規定したという点で優れているが、インデントを作るために、多くの工程を要するフォトリソグラフィーを必要とするので、コストが高くなってしまい、安価な印刷プロセス(インクジェットプロセス)で電子素子を作るメリットが損なわれてしまう。また、インデント部およびインデント部間の濡れ性は同一であるため、インクがインデント部間の端部に着弾するとインデント部およびインデント部間の両方に濡れ広がってしまうという問題がある。
【特許文献1】特表2003−518332号公報
【特許文献2】特開2004−141856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかるに、従来から、表面自由エネルギーの高い領域と、表面自由エネルギーの低い領域を生成し、それを利用することで、薄膜トランジスタのチャンネル長を短くする技術が提案されているが、表面自由エネルギーの高い領域と、表面自由エネルギーの低い領域の境界ラインを明確に切り分けることができず素子の特性がばらつく問題があった。また、係る問題を解決するための技術も提案されているが、フォトリソグラフィーによる製造工程が必要となり、製造コストが高くなる問題があった。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、表面自由エネルギーの高い領域と、表面自由エネルギーの低い領域の境界ラインを明確に切り分けることが可能な積層構造体を、簡易な製造工程を用いて低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、第1の発明は、第1の膜厚である第1の表面エネルギー部と、所定のエネルギーが付与されて前記第1の表面エネルギー部よりも表面エネルギーが高くなり、かつ、前記第1の表面エネルギー部との境界に沿って溝が形成された第2の膜厚である第2の表面エネルギー部とを有する濡れ性変化層と、前記濡れ性変化層の前記第2の表面エネルギー部に形成された導電層とを有する積層構造体であることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、第1の発明に係る積層構造体において、前記第2の表面エネルギー部に形成された前記溝の、前記第1の表面エネルギー部の表面からの深さは、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚の10%以下であることを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る積層構造体において、前記第2の表面エネルギー部の前記第2の膜厚は、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚よりも薄いことを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第3の発明に係る積層構造体において、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚と、前記第2の表面エネルギー部の前記第2の膜厚との差は、5nm以上であり、かつ、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚の10%以下であることを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか一に記載の発明に係る積層構造体において、前記濡れ性変化層は、第1の材料と第2の材料を有し、前記第1の材料は、前記第2の材料よりも電気絶縁性に優れ、前記第2の材料は、前記第1の材料よりもエネルギーの付与によって表面エネルギーが高くなる割合が大きいことを特徴とする。
【0019】
第6の発明は、第5の発明に係る積層構造体において、前記第2の材料は、側鎖に疎水性基を有する高分子材料からなることを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第6の発明に係る積層構造体において、前記側鎖に疎水性基を有する高分子材料は、ポリイミドを含む高分子材料からなることを特徴とする。
【0021】
第8の発明は、基板上に、電極を構成する第1乃至第7の何れか一に記載の発明に係る積層構造体、半導体層及び絶縁膜を有する電子素子であることを特徴とする。
【0022】
第9の発明は、第8の発明に係る電子素子において、複数の前記積層構造体が、前記絶縁膜を介して積層されることを特徴とする。
【0023】
第10の発明は、第8又は第9の発明に係る電子素子において、前記積層構造体の濡れ性変化層は、前記絶縁膜を兼ねることを特徴とする。
【0024】
第11の発明は、第8乃至第10の何れか一に記載の電子素子が前記基板上に複数個配設された電子素子アレイであることを特徴とする。
【0025】
第12の発明は、第11の発明に係る電子素子アレイ、対向基板及び表示素子を有する表示装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、表面自由エネルギーの高い領域と、表面自由エネルギーの低い領域の境界ラインを明確に切り分けることが可能な積層構造体を、簡易な製造工程を用いて低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0028】
図1は本発明の積層構造体の例を示す断面図である。
【0029】
図1に示す積層構造体は、基板11、濡れ性変化層12、導電層13、半導体層14から構成されている。また、また、濡れ性変化層12は、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)12aと低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)12bとからなる。
【0030】
ここで、高表面エネルギー部12aの膜厚(第2の膜厚)と低表面エネルギー部12bの膜厚(第1の膜厚)とは等しくても構わないし、後述するように、高表面エネルギー部12aの膜厚(第2の膜厚)は、低表面エネルギー部12bの膜厚(第1の膜厚)より薄くても構わない。
【0031】
図1に示す積層構造体は、基板11上に形成された濡れ性変化層12をベースとして構成されている。ここで、濡れ性変化層12は、熱、紫外線、電子線、プラズマ等のエネルギーを付与することにより臨界表面張力(表面自由エネルギーともいう)が変化する材料を含有し、少なくとも臨界表面張力(表面自由エネルギー)が異なる2つの領域として、相対的に臨界表面張力(表面自由エネルギー)が大きい高表面エネルギー部12aと、相対的に臨界表面張力(表面自由エネルギー)が小さい低表面エネルギー部12bが形成されている。エネルギーの付与は、微細なパターンを作製するという点では、紫外線や電子線を用いることが望ましいが、材料が有機物の場合、電子線では大きなダメージを与える可能性があることを考慮すると、紫外線を用いる方がより望ましい。尚、隣接する2つの高表面エネルギー部12aの間には、例えば、1〜5um程度のギャップが形成されている。さらに、高表面エネルギー部12aには、導電層13が形成されており、少なくとも低表面エネルギー部12bに接するようにして半導体層14が設けられている。
【0032】
本発明では、高表面エネルギー部12aと低表面エネルギー部12bを構成する材料に同一のものを用いることが望ましい。紫外線を照射しない状態では表面自由エネルギーが低いが、紫外線を照射することで、表面自由エネルギーが高くなる材料が望ましい。同一の材料を用いることで作製工程が大幅に簡略化でき、また材料費も安くなることから、低コストの電子素子を提供することが可能となるからである。
【0033】
図2は図1の高表面エネルギー部(第2の表面エネルギー部)12aと低表面エネルギー部(第1の表面エネルギー部)12bの境界を拡大した図である。図2では、厚さ方向が強調されている。図2において、高表面エネルギー部12aの低表面エネルギー部12bとの境界に沿った部分に溝が形成されていることがわかる。インクジェットにより吐出された親液性のインクは親液面である高表面エネルギー部12aに着弾し濡れ広がるが、従来の技術では、撥液面である低表面エネルギー部12bとの境界ラインによって(親液・撥液のコントラストによって)、インクの広がりが抑制されていた。
【0034】
本発明では、これに加えて、高表面エネルギー部12aの低表面エネルギー部12bとの境界に溝を形成することによって、低表面エネルギー部12bの領域までインクがはみ出してしまうことを防止できる。その結果、高表面エネルギー部12aと低表面エネルギー部12bとの境界ラインが正確にラインとして形成でき、電極パターンのエッジ形状(図1に示す積層構造体の例では、導電層13のエッジ形状)を良好にできることから、特性の揃った電子素子を作製することが可能となる。例えば、電界効果型トランジスタの構成に本発明の積層構造体が用いられる場合、チャネル長が明確に規定されるため、トランジスタ性能のバラツキを抑えることが可能となる。
【0035】
実施例1に示されるように、材料を選択し、紫外線照射量を調整することで、任意の深さの溝を形成することが可能である。
【0036】
上記溝は、インクのはみ出しを防止する観点からは深いほうが良いと考えられるが、実施例1に示されるように、濡れ性変化層12の膜厚(=第1の表面エネルギー部である低表面エネルギー部12bの第1の膜厚)の10%を越えると、電場が集中するため、膜厚方向のリークが大きくなり、絶縁性が損なわれるという結果が得られた。そのため、溝の深さは、濡れ性変化層12の膜厚(=第1の表面エネルギー部である低表面エネルギー部12bの第1の膜厚)の10%以下が望ましい。
【0037】
溝の境界ラインに沿った長さは、フォトマスクのパターンに添う。また幅は、用いる紫外線の波長とフォトマスクの厚み、ならびにフォトマスクパターンの膜厚とエッジ形状、紫外線照射時のマスクと濡れ性変化層表面とのギャップ量に依存する。一般には、300nm以下の波長では、5um程度である。
【0038】
本発明において、14は半導体層だけとは限らず、電極間のリークを防ぐことを目的とした絶縁膜でも構わない。また、図1では、半導体層14は、全面を覆うように描かれているが、二つの導電層13の間にのみパターニングされていても良い。全面を覆う場合は、スピンコート法が一般的であるが、その他の手法によって作製しても構わない。パターニングする場合は、フォトリソグラフィーを用いることも可能であるが、インクジェットやマイクロコンタクトプリンティング、フレキソ印刷やグラビア印刷などの手法により作製することが、安価な素子を提供するという点では、優れている。
【0039】
基板11は、ガラス基板でもフィルム基板でも構わない。フィルム基板では、ポリイミド(PI)基板、ポリエーテルサルホン(PES)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板等を用いることができる。
【0040】
図3は本発明の濡れ性変化層の膜表面の原子間力顕微鏡写真の例を示す図である。材料の選択ならびに紫外線等のエネルギーの付与量によっては、エネルギーが付与された部分は、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)12aに変化すると共に、若干の膜減りが生じる。すなわち、高表面エネルギー部(第2の表面エネルギー部)12aの膜厚(第2の膜厚)は、低表面エネルギー部(第1の表面エネルギー部)12bの膜厚(第1の膜厚)よりも薄くなる。これにより、図3に示されるように、高表面エネルギー部12aと低表面エネルギー部12bとに段差(第1の膜厚と第2の膜厚の差)が生じる。
【0041】
図4は図3の原子間力顕微鏡写真の段差部分を模式的に示した図である。図4に示すように、高表面エネルギー部12aと低表面エネルギー部12bとに段差が設けられており、さらに、高表面エネルギー部12aの低表面エネルギー部12bとの境界にそった部分に溝が形成されている。
【0042】
高表面エネルギー部12aと低表面エネルギー部12bとの段差(第1の膜厚と第2の膜厚の差)と、高表面エネルギー部12aの低表面エネルギー部12bとの境界にそった部分に形成された溝との相乗効果により、高表面エネルギー部12aに着弾したインクが低表面エネルギー部12bに広がることを更に防止することができる。
【0043】
尚、低表面エネルギー部12bと高表面エネルギー部12aとに段差がある場合、溝深さは低表面エネルギー部12bを基準に計測する。すなわち、本発明においては、高表面エネルギー部12a(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)に形成された溝の深さは、低表面エネルギー部12b(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)の表面からの深さとして規定される(図4参照)。
【0044】
実施例2に示すように、高表面エネルギー部12aの低表面エネルギー部12bとの段差は5nm以上あると高表面エネルギー部12aと低表面エネルギー部12bとの境界でインクが良好に停止するので、5nm以上の段差が好ましい。また、段差が大きすぎると濡れ性変化層12の膜厚に対して膜減りの寄与が大きくなり、実施例3及び実施例4に示すように膜減りが低表面エネルギー部12bの膜厚の10%を超えると電気絶縁性が取れないため、高表面エネルギー部12aの低表面エネルギー部12bとの段差は低表面エネルギー部12bの膜厚の10%以下が望ましい。
【0045】
材料は無機材料でも有機材料でも構わないが、印刷手法にマッチするという点では、有機材料が望ましい。尚、絶縁性を向上させるために有機材料に無機材料を少量添加しても構わない。絶縁層上に濡れ性変化層を形成する場合は、紫外線照射により絶縁層が影響を受けることを防ぐため、濡れ性変化層は、絶縁層に用いられる絶縁材料よりも吸収係数が大きい材料からなることが望ましい。絶縁性の大きな材料としては、有機材料では、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シルセスキオキサン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリパラキシリレン、ポリビニルブチラール等が挙げられ、ポリビニルフェノールやポリビニルアルコールは適当な架橋剤によって、架橋して用いてもよい。無機材料では、TiO、SiOなどが挙げられる。
【0046】
紫外線のようなエネルギーの付与によって表面自由エネルギーの変化する割合が相対的に大きい材料は、印刷手法にマッチするという点で、高分子材料が望ましく、更には、側鎖に疎水性基を有する高分子材料であることが望ましい。側鎖に疎水性基を有することで、紫外線未照射時は膜の表面自由エネルギーは低く、紫外線照射後はエネルギーの付与によって膜の表面自由エネルギーは高くなるので、紫外線照射前後での表面自由エネルギーの差(親液・撥液のコントランスト)を大きくとることが可能となる。
【0047】
本発明において、臨界表面張力(表面自由エネルギー)が変化する材料は、紫外線により、ある程度切断されても、剛直な構造であるため、充填性が良好なポリイミドを主鎖に導入することが好ましい。ポリイミドとしては、ポリアミック酸を加熱することによる脱水縮合反応で生じる熱硬化型ポリイミドと、溶媒に可溶な可溶性ポリイミドがある。可溶性ポリイミドは、溶媒に溶解させた塗布液を塗布した後、200℃未満の低温で溶媒を揮発させることにより、成膜することができる。一方、熱硬化型ポリイミドは、脱水縮合反応が起こる程度まで加熱しないと反応が生じないため、一般に、200℃以上の高温にする必要がある。したがって、絶縁性が高く、耐溶剤性を有する膜を低温で形成することが可能な可溶性ポリイミドが好ましい。可溶性ポリイミドは、未反応のポリアミック酸や副生成物の酸二無水物が残存しないため、これらの不純物により、ポリイミドの電気特性が不良となる問題が生じにくい。
【0048】
可溶性ポリイミドは、例えば、γ−ブチルラクトン、N−メチルピロリドン、N−ジメチルアセトアミド等の極性の高い溶媒に可溶である。このため、濡れ性変化層上に半導体層を形成する際に、トルエン、キシレン、アセトン、イソプロピルアルコール等の極性の低い溶媒を用いれば、溶媒による濡れ性変化層の侵食を抑制することができる。
【0049】
本発明において、濡れ性変化層は、厚さが30nm〜3umであることが好ましく、50nm〜1umがさらに好ましい。厚さが30nmより薄い場合は、バルク体としての特性(絶縁性、ガスバリア性、防湿性等)が損なわれることがあり、3umより厚い場合は、表面形状が悪化することがある。
【0050】
半導体層としては、CdSe、CdTe、Si等の無機半導体、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、フタロシアニン等の有機低分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体等のポリフェニレン系導電性高分子、ポリピロール及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリフラン及びその誘導体等の複素環系導電性高分子、ポリアニリン及びその誘導体等のイオン性導電性高分子等の有機半導体を用いることができるが、濡れ性変化層による特性向上の効果がより顕著に現れるため、有機半導体が好ましい。
【0051】
導電層は、導電材料を含有する液体を塗布し、加熱、紫外線照射等で固化することにより形成される。なお、導電材料を含有する液体としては、導電材料を溶媒に溶解させた溶液、導電材料の前駆体を溶媒に溶解させた溶液、導電材料を溶媒に分散させた分散液、導電材料の前駆体を溶媒に分散させた分散液等を用いることができる。具体的には、Ag、Au、Ni等の金属微粒子を有機溶媒や水に分散させた分散液、ドープドPANI(ポリアニリン)や、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)にPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドープした導電性高分子の水溶液等が挙げられる。
【0052】
導電材料を含有する液体を濡れ性変化層の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等が挙げられるが、濡れ性変化層の表面エネルギーの影響を受けやすくするためには、より小さな液滴を供給できるインクジェット法が好ましい。プリンタに使用されるレベルの通常のヘッドを用いた場合、インクジェット法の解像度は30um、位置合わせ精度は±15um程度であるが、濡れ性変化層における表面エネルギーの差を利用することにより、これよりも微細なパターンを形成することが可能となる。本発明は、従来と比較し、より微細なパターンを形成することが要求される場合に、特に有効である。
【0053】
紫外線の照射は、例えば、図10の装置を用いて行う。図10はUV照射装置の例を示す図である。図10に示すUV照射装置は、フォトマスクホルダー100、基板ステージ200、UV光源300から構成されている。400はUV照射装置にセットされるフォトマスク、500はUV照射装置にセットされる基板である。図10に示すUV照射装置は、フォトマスクホルダー100を開閉する機構(図示せず)を備えている。また、図10に示すUV照射装置は、フォトマスク400と基板500の角度および位置を調整する所定の駆動機構(図示せず)を備えている。
【0054】
最初に、フォトマスク400をフォトマスクホルダー100にセットし、基板500を基板ステージ200にセットする。フォトマスク400および基板500は所定の吸着機構によりフォトマスクホルダー100および基板ステージ200に固定される。図10(a)はフォトマスク400および基板500がUV照射装置に固定される様子を例示する図である。
【0055】
次に、フォトマスク400と基板500が対向するようにフォトマスクホルダー100を閉じる。図10(b)はUV照射装置のフォトマスクホルダー100が閉じられた様子を例示する図である。フォトマスクホルダー100が閉じられた後に、所定の駆動機構により基板ステージ200もしくはフォトマスクホルダー100を動かすことによってフォトマスク400と基板500の角度および位置を調整する。調整が終了した後に、UV光源300から一定量の紫外線を照射する。このときフォトマスク400と基板500は密着させた状態で紫外線を照射しても良いし、わずかなギャップを設けた状態で紫外線を照射しても良い(いわゆるプロキシミティ露光)。所定の量の紫外線を照射した後、フォトマスクホルダー100を開き基板500の吸着機構を解除して基板500を取り外す。
【0056】
このように、本発明によれば、低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)と、紫外線等によりエネルギーが付与されて低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)よりも表面エネルギーが高くなった高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)との境界に沿って、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)に溝が形成される。その結果、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)と低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)との境界ラインを明確に切り分けることが可能な積層構造体を、フォトリソグラフィーなどの高価な設備と多数の工程を必要とする方法によらず、インクジェットなどの安価な方法により、安いコストで提供することができる。
【0057】
また、本発明によれば、濡れ性変化層の材料の選択ならびに濡れ性変化層への紫外線等のエネルギーの付与量によっては、エネルギーが付与された部分は、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)に変化すると共に、若干の膜減りが生じ、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)の膜厚は、低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)の膜厚よりも薄くなる。これにより、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)と低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)とに段差が生じる。この段差と高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)の低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)との境界にそった部分に形成された溝との相乗効果により、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)に着弾したインクが低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)に広がることを更に防止することができる。その結果、高表面エネルギー部(第2の膜厚である第2の表面エネルギー部)と低表面エネルギー部(第1の膜厚である第1の表面エネルギー部)との境界ラインを明確に切り分けることが可能な積層構造体を、フォトリソグラフィーなどの高価な設備と多数の工程を必要とする方法によらず、インクジェットなどの安価な方法により、安いコストで提供することができる。
【0058】
また、本発明の積層構造体において、前記濡れ性変化層は、少なくとも、第二の材料よりも電気絶縁性が相対的に優れた第一の材料と、第一の材料よりもエネルギーの付与によって表面エネルギーが変化する割合が相対的に大きな第二の材料とからなることにより、高表面エネルギー部と低表面エネルギー部との境界ラインを明確に切り分けることが可能となると同時に、電気絶縁性にも優れることから、例えば、電界効果型トランジスタの構成に本発明の積層構造体が用いられる場合、トランジスタ性能のバラツキが少なく、かつ電気絶縁性に優れたトランジスタ素子を提供することが可能となる。
【0059】
また、本発明の積層構造体において、エネルギーの付与によって表面エネルギーが変化する割合が相対的に大きな材料として側鎖に疎水性基を有する高分子材料を用いることにより、少ないエネルギーの付与で表面自由エネルギーを変化させることができる。
【0060】
また、本発明の積層構造体において、側鎖に疎水性基を有する高分子材料として、ポリイミドを含む高分子材料を用いることにより、例えば、エネルギーの付与として紫外線が照射されても絶縁性を維持することができる。
【0061】
また、少なくとも基板上に、電極を構成する本発明の積層構造体、半導体層、絶縁膜を有することにより、高表面エネルギー部と低表面エネルギー部の境界が正確にラインとして形成でき、電極パターンのエッジを良好にできることから、特性の揃った電子素子を作製することが可能となる。例えば、電界効果型トランジスタの構成に本発明の積層構造体が用いられる場合、チャネル長が明確に規定されるため、トランジスタ性能のバラツキを抑えることが可能となる。
【0062】
また、本発明の積層構造体を用いた電子素子において、半導体層に有機半導体材料を用いることにより、印刷法などのプロセスを用いて安価に電子素子を作製することが可能となる。
【0063】
また、本発明の積層構造体を用いた電子素子において、ゲート絶縁膜と積層構造体が積層された構造を有することにより、紫外線のようなエネルギーが付与されても絶縁性を維持することができる。
【0064】
また、本発明の積層構造体を用いた電子素子において、濡れ性変化層が絶縁膜を兼ねることにより、濡れ性変化層が絶縁膜の役割を果たし、特性の良い薄膜トランジスタ等の電子素子を安価に得ることができる。
【0065】
また、本発明の積層構造体を用いた電子素子において、本発明の積層構造体を複数の電極層に用いることにより、薄膜トランジスタ等の電子素子の全ての電極を高精細かつ高密度に形成することができる。
【0066】
〈実施例1〉
実施例1では、高表面エネルギー部の低表面エネルギー部との境界にそった部分に、どの程度の深さの溝が形成されれば良いのかを見るために、以下のような実験を行った。紫外線照射により表面自由エネルギーが変化する材料である、側鎖にアルキル基を有するポリイミド材料をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に溶解した溶液を、ガラス基板上にスピンコート塗布した。100℃のオーブンで前焼成を行った後、180℃で溶媒を除去し、濡れ性変化層を形成した。それぞれの濡れ性変化層に波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)をパターンのあるフォトマスク越しに照射し、同一膜面上に、紫外線を照射した部分と、紫外線を照射していない部分を作製した。図5は紫外線照射量が5J/cmにおける膜表面の原子間力顕微鏡写真の例を示す図である。これより、紫外線を照射した部分と紫外線を照射していない部分の境界ラインが溝のように窪んでいることがわかる。
【0067】
ガラス基板上に真空蒸着法によりアルミニウム電極を全面に作製した。続いて、本実施例で用いているポリイミド材料について、これのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液を、下地であるアルミニウム上にスピンコート塗布した。100℃のオーブンで前焼成を行った後、180℃で溶媒を除去し、濡れ性変化層を形成した。この時の膜厚は、400nmであった。この濡れ性変化層に、種々の照射量となるように波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射した。続いて、径が1mmの穴があいたマスクパターン越しにアルミニウムを真空蒸着法でこの膜の上に作製した。アルミニウムが全面についた方を下部電極、径が1mmのアルミニウム電極を上部電極とし、電圧を印加していき、濡れ性変化層の膜厚方向に流れる電流値(リーク電流)を測定し、段階評価した。また、紫外線照射部(高表面エネルギー部)にインクジェットからナノ銀インクを吐出し、着弾後の紫外線照射部(高表面エネルギー部)と未照射部(低表面エネルギー部)境界でのインクの止まり具合(液滴の打ち分け状態)を確認した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

これより、紫外線照射量の増加とともに、境界に沿った溝の平均深さは増加していくことが分かる。表1に示されるように、溝がない場合にはインクは露光パターン端部ではみ出しがあるが、溝がある場合にはインクは露光パターン端部で止まるため、良好なインクパターンを形成することができる。また、膜厚400nmの濡れ性変化層に対して、高表面エネルギー部の低表面エネルギー部との境界にそった部分に形成された溝の平均深さの割合が1%未満では、膜厚方向のリーク電流は、紫外線を照射していないときと遜色なかった。一方で、前述の溝の平均深さの割合が4.5%になると、リーク電流が大きいものも見られた。前述の溝の平均深さの割合が8.5%では、ほとんどのものについてリーク電流が大きい傾向となり、これを越えると、測定した素子全てにおいてリーク電流が大きくなった。従って、濡れ性変化層の膜厚(=第1の表面エネルギー部である低表面エネルギー部の第1の膜厚)に対してその10%程度までが、高表面エネルギー部の低表面エネルギー部との境界にそった部分に形成された溝の深さの限界値と言える。
【0069】
〈実施例2〉
実施例2では、高表面エネルギー部の面と、低表面エネルギー部の面にどの程度の段差(第1の膜厚と第2の膜厚の差)があれば良いのかを見るために、以下のような実験を行った。
【0070】
実施例1で使用したものとは異なる、紫外線照射により表面自由エネルギーが変化する材料である側鎖にアルキル基を有するポリイミド材料のNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液を、ガラス基板上にスピンコート塗布した。100℃のオーブンで前焼成を行った後、180℃で溶媒を除去し、濡れ性変化層を形成した。この濡れ性変化層に波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)をパターンのあるフォトマスク越しに照射し、同一膜面上に、紫外線を照射した部分と、紫外線を照射していない部分を作製した。図3は紫外線照射量を5J/cmとした場合の膜表面の原子間力顕微鏡写真である。低表面エネルギー部から一段下がった面が、紫外線が照射された高表面エネルギー部である。これより、紫外線照射により膜が目減りすることが分かる。
【0071】
続いて、紫外線照射量に対する紫外線照射部(高表面エネルギー部)と紫外線未照射部(低表面エネルギー部)の膜厚差を原子間力顕微鏡により測定した。紫外線照射量に対する膜厚差の結果を表2に示す。また、紫外線照射部のナノ銀接触角の測定結果も表2に示す。
【0072】
次に、紫外線照射部(高表面エネルギー部)にインクジェットからナノ銀インクを吐出し、着弾後の紫外線照射部(高表面エネルギー部)と未照射部(低表面エネルギー部)との境界でのインクの止まり具合(液滴の打ち分け状態)を確認した。結果を表2に示す。高表面エネルギー部の低表面エネルギー部との境界にそった部分に形成された溝の効果により、全体的にインクの止まり具合は良好であるが、段差(第1の膜厚と第2の膜厚との差)が5nm以上になると、溝の効果に段差の効果が加わり、インクは界面で非常に良好に停止した。従って、低表面エネルギー部(第1の表面エネルギー部)の膜厚(第1の膜厚)と、高表面エネルギー部(第2の表面エネルギー部)の膜厚(第2の膜厚)との差は、5nm以上であることが望ましい。

【0073】
【表2】

〈実施例3〉
実施例3では、高表面エネルギー部の面と、低表面エネルギー部の面との段差(第1の膜厚と第2の膜厚の差)は、いくらでもいいのかを知るために、以下の実験を行った。ガラス基板上に真空蒸着法によりアルミニウム電極を全面に作製した。続いて、実施例2と同じ材料を同じ方法で塗布し、180℃焼成後の膜厚が400nmとなるように成膜した。この濡れ性変化層に、種々の照射量となるように波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射した。続いて、径が1mmの穴があいたマスクパターン越しにアルミニウムを真空蒸着法でこの膜の上に作製した。アルミニウムが全面についた方を下部電極、径が1mmのアルミニウム電極を上部電極とし、電圧を印加していき、濡れ性変化層の膜厚方向に流れる電流値(リーク電流)を測定した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

表3に示すように、紫外線照射部と未照射部の平均段差が7.8%まででは、リーク電流は紫外線未照射時の場合と大きな差は見られなかった。しかしながら12%を越えると、リーク電流が増加し、16.3%では、測定した素子全てにおいてリーク電流が大きくなった。従って、膜厚に対する平均段差の割合が12%程度が、リーク電流が問題とならない限界といえる。
【0075】
〈実施例4〉
実施例4では、実施例3の実験を他の材料でも行った。実施例3と同様に、ガラス基板上に真空蒸着法によりアルミニウム電極を全面に作製した。続いて、実施例3で用いた材料と主鎖の分子骨格が異なるが、紫外線照射により表面自由エネルギーが変化する側鎖にアルキル基を有するポリイミド材料について、これのGBL(γ−ブチルラクトン)溶液を、下地であるアルミニウム上にスピンコート塗布した。100℃のオーブンで前焼成を行った後、180℃で溶媒を除去し、濡れ性変化層を形成した。この時の膜厚は、400nmであった。この濡れ性変化層に、種々の照射量となるように波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射した。続いて、径が1mmの穴があいたマスクパターン越しにアルミニウムを真空蒸着法でこの膜の上に作製した。アルミニウムが全面についた方を下部電極、径が1mmのアルミニウム電極を上部電極とし、電圧を印加していき、濡れ性変化層の膜厚方向に流れる電流値(リーク電流)を測定した。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

表3と表4を比較することにより、同じ紫外線照射量でも、濡れ性変化層材料の分子骨格を変えることで、平均段差を変えることが可能であることがわかる。
【0077】
また、表4に示すように、紫外線照射部と未照射部の平均段差が6.2%まででは、リーク電流は紫外線未照射時の場合と大きな差は見られなかった。しかしながら9.5%を越えると、リーク電流が徐々に増加し、11.7%では、測定した素子全てにおいてリーク電流が大きくなった。
【0078】
以上、実施例3及び実施例4から、材料によらず、膜厚に対する平均段差の割合が10%程度以下が、リーク電流が問題とならない限界といえる。
【0079】
〈実施例5ならびに比較例1〉
図6は本発明の実施例5ならびに比較例1の有機トランジスタの例を示す図である。
【0080】
図6に示す有機トランジスタは、フィルム基板21、ゲート電極22、第2の濡れ性変化層24、ソース・ドレイン電極25、有機半導体層26、第1の濡れ性変化層31から構成されている。
【0081】
実施例5では、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が10J/cmとなるように照射し、第2の濡れ性変化層24上に高表面エネルギー部を形成した。また、比較例1では、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が40J/cmとなるように照射し、第2の濡れ性変化層24上に高表面エネルギー部を形成した。表3及び表4に示したように、材料によらず、紫外線照射量の増加とともに、膜厚に対する平均段差の割合は増加し、リーク電流は大きくなる。実施例5ならびに比較例1では、紫外線照射量を変えることにより、トランジスタ特性にどのような影響があるかについて調べた。
フィルム基板21上に、実施例2で用いたポリイミドのNMP溶液をスピンコート塗布し、膜厚50nmの第1の濡れ性変化層31を形成した。次に、フォトマスク越しに、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が5J/cmとなるように照射し、第1の濡れ性変化層31上に高表面エネルギー部を形成した。さらに、インクジェット法を用いて、高表面エネルギー部に銀ナノインクを吐出し、180℃で焼成して、膜厚50nmのゲート電極22を形成した。この上に、ポリイミド溶液PI100(丸善石油化学社製)と実施例1で用いたポリイミドのNMP混合溶液をスピンコート塗布し180℃にて焼成して、厚さ400nmの第2の濡れ性変化層24(ゲート絶縁膜を兼ねる)を形成した。次に、3um間隔のライン形状のフォトマスク越しに、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が10J/cm(実施例5)又は40J/cm(比較例1)となるように照射し、第2の濡れ性変化層24上に高表面エネルギー部を形成した。さらに、インクジェット法を用いて、高表面エネルギー部に銀ナノインクを吐出し、180℃で焼成して、ソース・ドレイン電極25を形成した。次に、[化1]に示す構造式で表されるトリアリールアミン(有機半導体材料)をキシレン/メシチレン混合溶媒に溶解させた塗布液を、インクジェット法によりチャネル長部分に滴下し、120℃で乾燥させ、膜厚30nmの有機半導体層26を形成し、有機トランジスタを作製した(図6参照)。このとき、絶縁層23及び第2の濡れ性変化層24は、ゲート絶縁膜として作用する。
【0082】
【化1】

トランジスタ特性を評価したところ、実施例5では、電極のパターニング性は良好であり、オンオフ比5桁、4×10−3cm/V・秒の電界効果移動度を有する有機トランジスタが得られた。一方、比較例1では、オフ電流が大きく、良好なトランジスタ特性は得られなかった。これは、紫外線照射部と未照射部の平均段差が濡れ性変化層の膜厚(=第1の表面エネルギー部である低表面エネルギー部の膜厚)の10%を越えてしまったために、リークが大きくなったためと推測できる。
【0083】
〈実施例6ならびに比較例2〉
図7は本発明の実施例6ならびに比較例2の有機トランジスタの例を示す図である。
【0084】
図7に示す有機トランジスタは、フィルム基板21、ゲート電極22、絶縁層23、第2の濡れ性変化層24、ソース・ドレイン電極25、有機半導体層26、第1の濡れ性変化層31から構成されている。
【0085】
実施例6では、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が8J/cmとなるように照射し、第2の濡れ性変化層24上に高表面エネルギー部を形成した。また、比較例2では、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が120J/cmとなるように照射し、第2の濡れ性変化層24上に高表面エネルギー部を形成した。表1に示したように、紫外線照射量の増加とともに、境界に沿った溝の平均深さは増加し、リーク電流は大きくなる。実施例6ならびに比較例2では、紫外線照射量を変えることにより、トランジスタ特性にどのような影響があるかについて調べた。
【0086】
フィルム基板21上に実施例1で用いたポリイミドのNMP溶液をスピンコート塗布し、180℃で焼成して、厚さ50nmの第1の濡れ性変化層31を形成した。次に、フォトマスク越しに、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が5J/cmとなるように照射し、第1の濡れ性変化層31上に高表面エネルギー部を形成した。インクジェット法を用いて、高表面エネルギー部に銀ナノインクを吐出し、180℃で焼成して、厚さ50nmのゲート電極22を形成した。この上に、ポリイミド溶液PI213B(丸善石油化学社製)をスピンコート塗布し、180℃で焼成して、厚さ500nmの絶縁層23を形成した。次に、絶縁層23上に、上記と同様に、厚さ100nmの実施例1で用いたポリイミドからなる第2の濡れ性変化層24を形成した。さらに、5μm間隔のライン形状のフォトマスク越しに、波長が300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を照射量が8J/cm(実施例6)ならびに120J/cm(比較例2)となるように照射し、第2の濡れ性変化層24上に高表面エネルギー部を形成した。次に、インクジェット法を用いて、高表面エネルギー部に銀ナノインクを吐出し、180℃で焼成して、厚さ50nmのソース・ドレイン電極25を形成した。さらに、実施例5と同様に有機半導体層26を形成し、有機トランジスタを作製した。このとき、絶縁層23及び第2の濡れ性変化層24は、ゲート絶縁膜として作用する。
【0087】
実施例6では、ゲート電極ならびにソース・ドレイン電極のパターニング性が良好であり、トランジスタ特性を評価したところ、オンオフ比5桁、3×10−3cm/V・秒の電界効果移動度を有する有機トランジスタが得られた。一方、比較例2では、ゲートリークが大きくオンオフ比1桁、電界効果移動度は10−5cm/V・秒のオーダーであった。これは、高表面エネルギー部の低表面エネルギー部との境界にそった部分に形成された溝の深さが大きく、実効的なゲート絶縁膜厚が小さくなり、ゲートリークを生じたためと考えられる。
【0088】
〈実施例7〉
図8は、本発明の実施例7の電子素子アレイの例を示す模式図である。ここで、図8(a)は断面図であり、図8(b)は平面図である。同図中、図6と同一部品については、同一符号を付し、その説明は省略する。
【0089】
図8において、41は図6に示す電子素子、すなわち有機トランジスタである。また、25aはソース電極、25(b)ドレイン電極である。
【0090】
実施例7では、実施例5と同様のトランジスタ構成を用いて、複数の電子素子を有する電子素子アレイを作製した。具体的には、基板21上に200×200個(素子間ピッチ127μm)の有機トランジスタ41を2次元アレイ状に有する電子素子アレイを作製した。形成方法は、実施例5に示した方法と同様である。
【0091】
トランジスタ特性を評価したところ、複数の有機トランジスタ41の移動度の平均値は、1.3×10−3cm/V・秒であった。
【0092】
このように、本発明の積層構造体を用いた電子素子を基板上に複数個配設することより、製造プロセスが簡略化され、低コストかつ高性能な薄膜トランジスタからなる電子素子アレイを提供することができる。
【0093】
〈実施例8〉
図9は本発明の実施例7の図8の電子素子アレイを利用した表示装置の例を示す断面図である。同図中、図6、図8と同一部品については、同一符号を付し、その説明は省略する。
【0094】
図9に示す断面図において、52は対向基板であるポリエチレンナフタレート基板、51は表示素子であるマイクロカプセル、51aは酸化チタン粒子、51bはオイルブルーで着色したアイソパー、53はITOからなる透明電極、54はPVAバインダーである。
【0095】
実施例8では、図8に示す電子素子アレイを用いて、表示装置を作製した。具体的には、酸化チタン粒子51aとオイルブルーで着色したアイソパー51bを内包するマイクロカプセル(表示素子)51と、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液を混合した塗布液を、ポリエチレンナフタレート基板52上に設けられたITOからなる透明電極53上に塗布して、マイクロカプセル51とPVAバインダー54からなる層を形成した。得られた基板と、図8に示す電子素子アレイを、基板21及び53が最外面となるように接着させた。ゲート電極22に繋がるバスラインに走査信号用のドライバーICを、ソース電極25aに繋がるバスラインにデータ信号用のドライバーICを各々接続した。0.5秒毎に画面切り替えを行ったところ、良好な静止画表示を行うことができた。
【0096】
このように、本発明の積層構造体を用いた電子素子アレイを備えたことにより、有機薄膜トランジスタからなる電子素子アレイ(アクティブマトリクス基板)と画素表示素子を組み合わせることで、安価で可撓性に優れた表示装置を提供することができる。
【0097】
以上、本発明を実施するための最良の形態及び本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態や実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態や実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の積層構造体の例を示す断面図である。
【図2】図1の高表面エネルギー部(第2の表面エネルギー部)12aと低表面エネルギー部(第1の表面エネルギー部)12bの境界を拡大した図である。
【図3】本発明の濡れ性変化層の膜表面の原子間力顕微鏡写真の例を示す図である。
【図4】図3の原子間力顕微鏡写真の段差部分を模式的に示した図である。
【図5】紫外線照射量が5J/cmにおける膜表面の原子間力顕微鏡写真の例を示す図である。
【図6】本発明の実施例5ならびに比較例1の有機トランジスタの例を示す図である。
【図7】本発明の実施例6ならびに比較例2の有機トランジスタの例を示す図である。
【図8(a)】本発明の実施例7の電子素子アレイの例を示す断面図である。
【図8(b)】本発明の実施例7の電子素子アレイの例を示す平面図である。
【図9】本発明の実施例7の図8の電子素子アレイを利用した表示装置の例を示す断面図である。
【図10(a)】フォトマスク400および基板500がUV照射装置に固定される様子を例示する図である。
【図10(b)】UV照射装置のフォトマスクホルダー100が閉じられた様子を例示する図である。
【符号の説明】
【0099】
11 基板
12 濡れ性変化層
12a 高表面エネルギー部(第2の表面エネルギー部)
12b 低表面エネルギー部(第1の表面エネルギー部)
13 導電層
14 半導体層
21 フィルム基板
22 ゲート電極
23 絶縁層
24 第2の濡れ性変化層
25 ソース・ドレイン電極
25a ソース電極
25b ドレイン電極
26 有機半導体層
31 第1の濡れ性変化層
41 図6に示す電子素子(有機トランジスタ)
51 表示素子であるマイクロカプセル
51a 酸化チタン粒子
51b オイルブルーで着色したアイソパー
52 対向基板であるポリエチレンナフタレート基板
53 ITOからなる透明電極
54 PVAバインダー
100 フォトマスクホルダー
200 基板ステージ
300 UV光源
400 フォトマスク
500 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の膜厚である第1の表面エネルギー部と、所定のエネルギーが付与されて前記第1の表面エネルギー部よりも表面エネルギーが高くなり、かつ、前記第1の表面エネルギー部との境界に沿って溝が形成された第2の膜厚である第2の表面エネルギー部とを有する濡れ性変化層と、
前記濡れ性変化層の前記第2の表面エネルギー部に形成された導電層とを有する積層構造体。
【請求項2】
前記第2の表面エネルギー部に形成された前記溝の、前記第1の表面エネルギー部の表面からの深さは、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚の10%以下であることを特徴とする請求項1記載の積層構造体。
【請求項3】
前記第2の表面エネルギー部の前記第2の膜厚は、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚よりも薄いことを特徴とする請求項1又は2記載の積層構造体。
【請求項4】
前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚と、前記第2の表面エネルギー部の前記第2の膜厚との差は、5nm以上であり、かつ、前記第1の表面エネルギー部の前記第1の膜厚の10%以下であることを特徴とする請求項3記載の積層構造体。
【請求項5】
前記濡れ性変化層は、第1の材料と第2の材料を有し、前記第1の材料は、前記第2の材料よりも電気絶縁性に優れ、前記第2の材料は、前記第1の材料よりもエネルギーの付与によって表面エネルギーが高くなる割合が大きいことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記第2の材料は、側鎖に疎水性基を有する高分子材料からなることを特徴とする請求項5記載の積層構造体。
【請求項7】
前記側鎖に疎水性基を有する高分子材料は、ポリイミドを含む高分子材料からなることを特徴とする請求項6記載の積層構造体。
【請求項8】
基板上に、電極を構成する請求項1乃至7の何れか一項に記載の積層構造体、半導体層及び絶縁膜を有することを特徴とする電子素子。
【請求項9】
複数の前記積層構造体が、前記絶縁膜を介して積層されることを特徴とする請求項8記載の電子素子。
【請求項10】
前記積層構造体の濡れ性変化層は、前記絶縁膜を兼ねることを特徴とする請求項8又は9記載の電子素子。
【請求項11】
前記請求項8乃至10の何れか一項に記載の電子素子が前記基板上に複数個配設されたことを特徴とする電子素子アレイ。
【請求項12】
請求項11記載の電子素子アレイ、対向基板及び表示素子を有することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図9】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−26899(P2009−26899A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187629(P2007−187629)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】