窒化ガリウム結晶の成長方法および窒化ガリウム結晶の製造方法
【課題】多結晶のGaN結晶の成長を抑制できるGaN結晶の成長方法およびGaN結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のGaN結晶の成長方法は、以下の工程が実施される。まず、下地基板が準備される(ステップS1)。そして、レジストを用いて、下地基板上に開口部を有するマスク層が形成される(ステップS2)。そして、下地基板およびマスク層を酸性溶液が洗浄される(ステップS3)。そして、酸性溶液で洗浄するステップS3後に、下地基板およびマスク層を有機溶媒で洗浄される(ステップS4)。そして、下地基板およびマスク層上に、GaN結晶が成長される(ステップS5)。
【解決手段】本発明のGaN結晶の成長方法は、以下の工程が実施される。まず、下地基板が準備される(ステップS1)。そして、レジストを用いて、下地基板上に開口部を有するマスク層が形成される(ステップS2)。そして、下地基板およびマスク層を酸性溶液が洗浄される(ステップS3)。そして、酸性溶液で洗浄するステップS3後に、下地基板およびマスク層を有機溶媒で洗浄される(ステップS4)。そして、下地基板およびマスク層上に、GaN結晶が成長される(ステップS5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム結晶の成長方法および窒化ガリウム結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3.4eVのエネルギーバンドギャップおよび高い熱伝導率を有する窒化ガリウム(GaN)基板は、短波長の光デバイスやパワー電子デバイスなどの半導体デバイス用の材料として注目されている。このようなGaN基板の製造方法は、特開2004−304203号公報(特許文献1)などに開示されている。特許文献1には、以下の方法により窒化物半導体基板を製造する方法が開示されている。
【0003】
図14〜図17は、上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。図14に示すように、まず、異種基板101上に窒化物半導体102が成長される。次に、保護膜103が形成され、さらにレジストが塗布されて、フォトリソグラフィにより二酸化珪素(SiO2)などよりなる保護膜103が窓部を有するように所定形状にエッチングされる。次に、図15に示すように、保護膜103の窓部より窒化物半導体102を核として第1の窒化物半導体104が成長され、第1の窒化物半導体104が保護膜103上に横方向に成長される時、完全に保護膜103を覆う前に第1の窒化物半導体104の成長が止められる。次に、図16に示すように、第1の窒化物半導体104の保護膜103が除去される。次に、図17に示すように、保護膜103が除去された第1の窒化物半導体104上に、第1の窒化物半導体104の上面および側面より第2の窒化物半導体105が成長される。
【特許文献1】特開2004−304203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図18は、図17の要部拡大図である。図18に示すように、上記特許文献1では、保護膜103上に多結晶の核111が生成されることを、本発明者は見出した。また、多結晶の核111が生成されると、この核111上には、多結晶の第1および第2の窒化物半導体104a、105aが成長してしまうという問題を、本発明者は見出した。
【0005】
したがって、本発明は、多結晶のGaN結晶の成長を抑制できるGaN結晶の成長方法およびGaN結晶の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記特許文献1で多結晶のGaN結晶が成長するという問題は、保護膜103を形成する際に用いたレジストに由来する反応生成物に起因することを鋭意研究の結果、見い出した。言い換えると、レジスト由来の反応生成物などが下地基板およびマスク層上に残存してしまうと、レジスト由来の反応生成物が多結晶の核111になることを見い出した。つまり、マスク層を用いたGaN結晶の成長方法において、マスク層の形成により、成長するGaN結晶の品質に影響を及ぼすことを本発明者は見出した。そこで、本発明者は、多結晶のGaN結晶の成長を抑制するマスク層の形成の条件を鋭意研究した結果、本発明を見出した。
【0007】
すなわち、本発明のGaN結晶の成長方法は、以下の工程が実施される。まず、下地基板が準備される。そして、レジストを用いて、下地基板上に開口部を有するマスク層が形成される。そして、下地基板およびマスク層を酸性溶液が洗浄される。そして、酸性溶液で洗浄する工程後に、下地基板およびマスク層を有機溶媒で洗浄される。そして、下地基板およびマスク層上に、GaN結晶が成長される。
【0008】
本発明のGaN結晶の成長方法によれば、酸性溶液で洗浄することによって、下地基板およびマスク層上に残っている反応生成物を、親水性の部分と親油性の部分とに分解し、かつ親水性の部分を溶解できる。その結果、反応生成物の親水性の部分を除去できる。酸性溶液で除去できなかった反応生成物において親油性の部分は親油性の有機溶媒となじみがよいので、有機溶媒で洗浄することによって、反応生成物の親油性の部分を除去できる。このため、下地基板およびマスク層上に残存する反応生成物を親水性の部分と親油性の部分とに分けて除去できるので、原子レベルで反応生成物を除去できる。したがって、この反応生成物を核として多結晶のGaNが成長することを抑制することができる。
【0009】
上記GaN結晶の成長方法において好ましくは、上記酸性溶液で洗浄する工程および上記有機溶媒で洗浄する工程では、酸性溶液および有機溶媒に超音波を印加する。
【0010】
これにより、下地基板およびマスク層の表面に付着した微粒子を除去できるので、多結晶の核の発生をより抑制できる。
【0011】
上記GaN結晶の成長方法において好ましくは、マスク層は二酸化珪素よりなる。これにより、多結晶の核の発生を効果的に抑制したGaN結晶の成長を実現できる。
【0012】
上記GaN結晶の成長方法において好ましくは、上記有機溶媒で洗浄する工程と上記GaN結晶を成長する工程との間に、以下の工程が実施される。下地基板上に、GaNよりなるバッファ層が形成される。そして、800℃以上1100℃以下でバッファ層が熱処理される。
【0013】
バッファ層を形成することによって、下地基板とGaN結晶との格子定数の整合を緩和することができる。さらに、上記温度でバッファ層を熱処理することにより、バッファ層の結晶を、アモルファスから単結晶にすることができる。このため、GaN結晶の結晶性を向上することができる。
【0014】
本発明のGaN結晶の製造方法は、上記いずれかに記載のGaN結晶の成長方法により、GaN結晶を成長する工程と、下地基板およびマスク層を除去する工程とを備えている。
【0015】
本発明のGaN結晶の製造方法によれば、上記GaN結晶の成長方法を用いているので、成長したGaN結晶は多結晶であることが抑制されている。このため、少なくとも下地基板およびマスク層を除去することにより、多結晶が抑制されたGaN結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のGaN結晶の成長方法およびGaN結晶の製造方法によれば、下地基板および前記マスク層を酸性溶液で洗浄する工程と有機溶媒で洗浄する工程とを実施することにより、多結晶のGaN結晶の成長を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるGaN結晶を示す概略断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるGaN結晶を説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態におけるGaN結晶10は、主表面と、この主表面と反対側の裏面とを有している。GaN結晶10は、たとえば基板またはインゴットである。
【0019】
GaN結晶10は、多結晶よりなる領域が抑制されており、たとえば多結晶よりなる領域は33%以下であり、好ましくは12%以下である。またGaN結晶10の曲率半径は35m以上が好ましく、50m以上がより好ましい。
【0020】
図2は、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図2を参照して、本実施の形態におけるGaN結晶10の製造方法について説明する。
【0021】
図3は、本実施の形態における下地基板11を概略的に示す断面図である。図2および図3に示すように、まず、下地基板11を準備する(ステップS1)。準備される下地基板11は、GaNであってもGaNと異なる材料であってもよい。GaNと異なる材料よりなる異種基板として、たとえばガリウム砒素(GaAs)、サファイア(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、炭化珪素(SiC)などを用いることができる。
【0022】
図4は、本実施の形態におけるマスク層13を形成する方法を説明するための断面図である。図5は、本実施の形態におけるマスク層13を形成した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2、図4および図5に示すように、下地基板11の表面上に、開口部13aを有し、かつSiO2よりなるマスク層13を形成する(ステップS2)。
【0023】
このマスク層13を形成するステップS2は、たとえば以下のように実施される。図4に示すように、まず、マスク層13の材料となるSiO2層12をたとえば蒸着法により形成する。次に、SiO2層12上に、たとえばコーターを用いてレジスト15を形成する。次に、たとえばステッパーを用いて、レジスト15にマスクパターンを転写する。このマスクパターンはストライプ状、ドット状など任意の形状を採用できる。次に、レジスト15の転写された部分を溶解して、パターンを有するレジスト15を形成する。次に、このパターンを有するレジストをマスクにして、レジスト15に覆われていないSiO2層12をエッチングする。これにより、開口部13aを形成することができる。その後、レジスト15を除去する。除去する方法は特に限定されず、たとえばアッシングなどを用いることができる。これにより、図5に示すように、開口部13aを有するマスク層13を形成できる。
【0024】
なお、本実施の形態のマスク層13はSiO2層12よりなるが、マスク層13の材料はSiO2に限定されず、たとえばSiN(窒化シリコン)などであってもよい。
【0025】
マスク層13がSiO2よりなる場合、マスク層13の表面粗さRmsは、2nm以下であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましく、0.2nm以下がより一層好ましい。2nm以下の場合、表面に存在する結合手の余っている原子の数を減少できる。この場合、Si原子およびO原子の少なくとも一方と、後述するGaN結晶を成長させるステップS5により供給されるGa原子およびN原子の少なくとも一方とが反応することにより生成される多結晶の核の発生を抑制できる。0.5nm以下の場合、多結晶の核の発生をより抑制できる。0.2nm以下の場合、多結晶の核の発生をより一層抑制できる。
【0026】
ここで、上記「表面粗さRms」は、たとえば略中央に位置するマスク層13において50μm以下四方の視野で、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)を用いて、JIS B0601に準拠して測定された値である。また、50μm以下四方の視野で、10μm以下のピッチで5点以上のサンプルの表面粗さを測定することが好ましい。この場合、このサンプルの粗さ曲線において、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根の値を表面粗さRmsとする。また、開口部13aの大きさ、ピッチなどにより表面粗さRmsが測定しにくい場合には、たとえばマスク層13の材料となるSiO2層12を形成したときのSiO2層12の表面粗さRmsを測定して、マスク層13の表面粗さRmsとすることもできる。
【0027】
図6は、本実施の形態におけるマスク層13の曲率半径を説明するための模式図である。図6に示すように、マスク層13がSiO2よりなる場合、マスク層13の曲率半径Rは、8m以上が好ましく、50m以上がより好ましい。8m以上の場合、マスク層13の歪みエネルギーを抑制できるので、マスク層13のSi原子およびO原子の少なくとも一方と、後述するGaN結晶を成長させるステップS5により供給されるGa原子およびN原子の少なくとも一方と反応することを抑制できる。この結果、多結晶の核の生成を抑制できる。50m以上の場合、多結晶の核の生成をより抑制できる。
【0028】
ここで、上記「曲率半径R」は、たとえば図6に示すように、下地基板11上に成長したマスク層13の表面を結ぶ曲線が円弧を描くと仮定したときの半径Rを意味する。このような曲率半径Rは、たとえばマスク層13の材料となるSiO2層12を形成したときのSiO2層12の曲率半径を測定して、マスク層13の曲率半径とすることもできる。
【0029】
次に、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄する(ステップS3)。酸性溶液は、たとえば硫酸、フッ酸、塩酸などを用いることができる。
【0030】
マスク層を形成するステップS2では、上述したようにレジスト15を用いているので、レジスト由来の反応生成物などがマスク層13上に残存している場合がある。このため酸性溶液で洗浄することによって、下地基板11およびマスク層13上に残っている反応生成物を、たとえばOH基などを有する親水性の部分と、たとえばアルキル基などを有する親油性の部分とに分解し、親水性の部分を溶解できる。したがって、反応生成物の親水性の部分を除去できる。
【0031】
次に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄する(ステップS4)。有機溶媒は、たとえばアセトン、エタノールなどを用いることができる。
【0032】
酸性溶液で洗浄するステップS3後には、反応生成物の親油性の部分が残存している場合がある。この親油性の部分は、有機溶媒となじみがよい(混ざりやすい)。このため有機溶媒で洗浄することによって、下地基板11およびマスク層13上に残っている反応生成物の親油性の部分を除去できる。
【0033】
酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4では、下地基板11およびマスク層13上に残存する反応生成物を、親水性の部分と親油性の部分とに分けてそれぞれ除去している。このため、レジスト由来の反応生成物を原子レベルで除去できる。
【0034】
酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4では、酸性溶液および有機溶媒に超音波を印加することが好ましい。具体的には、たとえば図7に示すような超音波装置を用いて洗浄液である酸性溶液および有機溶媒に振動(または揺動)を加える。なお、図7は、本実施の形態において、酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4において使用される処理装置を示す断面模式図である。超音波として、900〜2000kHzの周波数の超音波を用いると、より効果的である。
【0035】
図7に示すように、処理装置は酸性溶液または有機溶媒である洗浄液7を保持するための洗浄浴槽1と、洗浄浴槽1の底面に設置された超音波発生部材3と、超音波発生部材3に接続され、超音波発生部材3を制御するための制御部5とを備えている。洗浄浴槽1の内部には洗浄液7が保持されている。また、洗浄液7には複数のマスク層13が形成された下地基板11を保持するためのホルダ9が浸漬された状態になっている。ホルダ9には、洗浄対象である複数のマスク層13が形成された下地基板11が保持されている。洗浄浴槽1の底面には超音波発生部材3が配置されている。
【0036】
酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4においてマスク層13が形成された下地基板11の洗浄を行なうときには、図7に示すように洗浄浴槽1の内部に所定の洗浄液7を配置し、ホルダ9に保持されたマスク層13が形成された下地基板11をホルダ9ごとに洗浄液7に浸漬する。このようにして、マスク層13および下地基板11の表面を洗浄液7により洗浄できる。
【0037】
また、このとき、超音波発生部材3を制御部5により制御することで超音波を発生させてもよい。この結果、洗浄液7に超音波が印加される。このため、洗浄液7が振動するのでマスク層13および下地基板11から不純物や微粒子を除去する効果を高めることができる。また、洗浄浴槽1をXYステージなど揺動可能な部材上に配置して当該部材を揺動させることにより、洗浄浴槽1を揺動させて内部の洗浄液7を攪拌(揺動)してもよい。あるいは、マスク層13が形成された下地基板11をホルダ9ごと手作業などにより揺らすことで、洗浄液7を攪拌(揺動)してもよい。この場合も、超音波の印加と同様に下地基板11およびマスク層13から不純物や微粒子を除去する効果を高めることができる。
【0038】
図8は、本実施の形態におけるGaN結晶17を成長させた状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図8に示すように、下地基板11およびマスク層13上に、GaN結晶17を成長する(ステップS5)。GaN結晶17の成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法などの気相成長法、液相成長法などを採用でき、HVPE法を採用することが好ましい。
【0039】
以上のステップS1〜S5を実施することによりGaN結晶17を成長することができる。このGaN結晶17を用いて図1に示すGaN基板などのGaN結晶10を製造する場合には、さらに以下の工程が行なわれる。
【0040】
次に、GaN結晶17から、下地基板11およびマスク層13を除去する(ステップS6)。除去する方法は、特に限定されず、たとえば切断、研削などの方法を用いることができる。
【0041】
ここで、切断とは、電着ダイヤモンドホイールの外周刃を持つスライサー、ワイヤーソーなどで、GaN結晶17とマスク層13との界面を機械的に分割(スライス)すること、レーザパルスや水分子をGaN結晶17とマスク層13との界面に照射または噴射すること、マスク層13の結晶格子面に沿ってへき開することなどによりGaN結晶17とマスク層13とを機械的に分割することをいう。また研削とは、ダイヤモンド砥石を持つ研削設備などで、下地基板11およびマスク層13を機械的に削り取ることをいう。
【0042】
なお、下地基板11およびマスク層13を除去する方法は、エッチングなどの化学的方法を採用してもよい。
【0043】
また、GaN結晶17よりなるGaN結晶10を製造するために、少なくとも下地基板11およびマスク層13を除去しているが、下地基板11およびマスク層13近傍のGaN結晶17をさらに除去してもよい。
【0044】
以上のステップS1〜S6を実施することにより、図1に示すGaN結晶10を製造することができる。
【0045】
なお、GaN結晶10において、下地基板11が形成されていた面側から研磨をさらに行なってもよい。この研磨は、GaN結晶10の表面および裏面の少なくとも一方を鏡面とする場合に効果的な方法であり、またGaN結晶10の表面および裏面の少なくとも一方に形成された加工変質層を除去するのに効果的な方法である。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄するステップS3と、酸性溶液で洗浄するステップS3後に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄するステップS4とを備えている。
【0047】
これにより、マスク層13を形成するステップS2後に、レジスト由来の反応生成物などが下地基板11およびマスク層13上に残存してしまう場合であっても、レジスト由来の反応生成物を親水性の部分と親油性の部分とに分けて除去できる。このため、原子レベルで反応生成物を除去できるので、この反応生成物を核として多結晶のGaNが成長することをさらに抑制することができる。よって、多結晶領域を低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0048】
また本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法において好ましくは、マスク層13の表面粗さRmsを2nm以下にしている。
【0049】
これにより、マスク層13の表面積を小さくできるので、マスク層13の表面に存在する結合手の余っている原子数を低減することができる。このため、このマスク層13上にGaN結晶17を成長する(ステップS5)と、Ga原子およびN原子の少なくとも一方が、Si原子およびO原子の少なくとも一方の結合手と結合することを抑制することができる。また、マスク層13の表面に存在する結晶構造が乱れた原子数を低減することもできる。その結果、GaNの多結晶の核がマスク層13上に形成されることを抑制することができるので、多結晶領域をさらに低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0050】
また本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法において好ましくは、マスク層13の曲率半径を8m以上にしている。
【0051】
これにより、マスク層13の表面の反りを低減することができるので、マスク層13の歪みエネルギーを低減することができる。このため、GaN結晶17を成長させるステップS5時に、マスク層13のSi原子およびO原子の少なくとも一方がGa原子およびN原子の少なくとも一方と結合することを抑制できる。したがって、マスク層13上にGaNの多結晶の核が形成されることを抑制することができる。よって、多結晶領域をさらに低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態におけるGaN結晶は、図1に示す実施の形態1のGaN結晶10と同様である。
【0053】
図9は、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法を示すフローチャートである。続いて、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法について説明する。図9に示すように、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法は、基本的には実施の形態1におけるGaN結晶の製造方法と同様の構成を備えているが、バッファ層をさらに形成している点において異なる。
【0054】
具体的には、まず、図3および図9に示すように、実施の形態1と同様に下地基板11を準備する(ステップS1)。
【0055】
次に、図5および図9に示すように、実施の形態1と同様にマスク層13を形成する(ステップS2)。
【0056】
次に、図9に示すように、実施の形態1と同様に酸性溶液で洗浄し(ステップS3)、有機溶媒で洗浄する(ステップS4)。
【0057】
図10は、本実施の形態におけるバッファ層19を形成した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図10に示すように、下地基板11上にGaNよりなるバッファ層19を形成する(ステップS7)。バッファ層19を形成することによって、下地基板11とステップS5で成長させるGaN結晶17との格子定数の整合を良好にすることができる。
【0058】
本実施の形態では、下地基板11上であって、かつマスク層13の開口部13aにバッファ層19を成長する。バッファ層19を形成する方法は特に限定されないが、たとえばGaN結晶17の成長方法と同様の方法で成長されることにより形成することができる。
【0059】
次に、800℃以上1100℃以下でバッファ層19を熱処理する(ステップS8)。熱処理する温度は、800℃以上1100℃以下が好ましく、900℃近傍がより好ましい。この温度範囲で熱処理とすることによって、バッファ層19がアモルファスの場合には、アモルファスから単結晶にすることができる。特に下地基板11がGaAs基板の場合にはバッファ層19を形成して熱処理することが効果的である。
【0060】
なお、バッファ層19を形成するステップS7および熱処理するステップS8は省略されてもよい。たとえば下地基板11がサファイア基板の場合には、このステップS7およびS8は省略されても、成長させるGaN結晶17への影響は小さい。一方、たとえば下地基板11がGaAs基板の場合には、このステップS7およびS8を実施することで、成長させるGaN結晶17の結晶性を良好にすることができる。
【0061】
図11は、本実施の形態におけるGaN結晶17を成長した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図11に示すように、GaN結晶17を成長させる(ステップS5)。本実施の形態では、マスク層13およびバッファ層19上にGaN結晶17を成長させる。それ以外は実施の形態1と同様である。以上のステップS1〜S5、S7およびS8により、GaN結晶17を成長することができる。
【0062】
次に、図9に示すように、下地基板11およびマスク層13を除去する(ステップS6)。本実施の形態では、バッファ層19をさらに除去する。それ以外は実施の形態1と同様である。以上のステップS1〜S8により、図1に示すGaN結晶10を製造することができる。
【0063】
なお、これ以外のGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、実施の形態1と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、有機溶媒で洗浄するステップS4とGaN結晶17を成長するステップS5との間に、バッファ層19を形成するステップS7と、800℃以上1100℃以下でバッファ層19を熱処理するステップS8とをさらに備えている。
【0065】
これにより、下地基板11と成長するGaN結晶17との格子定数の整合を良好にすることができる。さらに、上記温度でバッファ層19を熱処理することにより、バッファ層19の結晶を、アモルファスから単結晶にすることができる。このため、GaN結晶17の結晶性を向上することができる。よって、多結晶領域をさらに低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0066】
(実施の形態3)
本実施の形態におけるGaN結晶は、図1に示す実施の形態1のGaN結晶10と同様である。
【0067】
続いて、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法について説明する。本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法は、基本的には実施の形態2におけるGaN結晶の製造方法と同様の構成を備えているが、バッファ層をマスク層上にも形成している点において異なる。
【0068】
具体的には、図9に示すように、実施の形態1および2と同様に、下地基板11を準備する(ステップS1)。次に、実施の形態1および2と同様に、マスク層13を形成する(ステップS2)。次に、実施の形態1および2と同様に酸性溶液で洗浄し(ステップS3)、有機溶媒で洗浄する(ステップS4)。
【0069】
図12は、本実施の形態におけるバッファ層19を形成した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図12に示すように、下地基板11上にGaNよりなるバッファ層19を形成する(ステップS7)。本実施の形態では、下地基板11上のマスク層13の開口部13a、および、マスク層13上にバッファ層19を成長する。つまり、マスク層13の全体を覆うようにバッファ層19を成長する。
【0070】
次に、実施の形態2と同様に、バッファ層19を熱処理する(ステップS8)。
図13は、本実施の形態におけるGaN結晶17を成長した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図13に示すように、GaN結晶17を成長させる(ステップS5)。本実施の形態では、バッファ層19上にGaN結晶17を成長させる。それ以外は実施の形態2と同様である。以上のステップS1〜S5、S7およびS8により、GaN結晶17を成長することができる。
【0071】
次に、図9に示すように、下地基板11およびマスク層13を除去する(ステップS6)。本実施の形態では、実施の形態2と同様に、バッファ層19をさらに除去する。以上のステップS1〜S8により、図1に示すGaN結晶10を製造することができる。
【0072】
なお、これ以外のGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、実施の形態1と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態によれば、マスク層13の全体を覆うようにバッファ層19を形成している。このため、マスク層13上のバッファ層19には、多結晶の核が生成されにくい。したがって、このマスク層13上に形成されたGaN結晶17は、多結晶の生成が抑制される。また、バッファ層19により下地基板11との格子整合性を緩和できるので結晶性を向上することができる。よって、多結晶領域をさらに低減し、かつ結晶性をより向上したGaN結晶17を成長することができる。
【実施例】
【0074】
本実施例では、酸性溶液で洗浄する工程と、有機溶媒で洗浄する工程とを備えることによる効果について調べた。
【0075】
(本発明例1)
本発明例1は、基本的には上述した実施の形態1にしたがってGaN結晶17を成長した。
【0076】
具体的には、まず、60mmの直径を有し、かつサファイアよりなる下地基板11を準備した(ステップS1)。
【0077】
次に、下地基板11上にSiO2よりなるマスク層13を形成した(ステップS2)。詳細には、下記の表1に記載の条件でスパッタリングにより下地基板11上にSiO2層12を蒸着した。その後、SiO2層12上にレジスト15を形成し、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)法によるパターニングをして、開口部13aを有するマスク層13を形成した。
【0078】
このマスク層13を形成するステップS2において、SiO2層を形成した際に、表面粗さRmsおよび曲率半径を測定した。表面粗さRmsは、SiO2層の中央部と、この中央部を中心に上下左右にそれぞれ100μm移動した位置の4点との合計5点について、10μm四方の視野で測定した。曲率半径は、図6に示すようにして測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0079】
次に、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄した(ステップS3)。酸性溶液として濃度が25%のフッ酸を用い、15分間、常温で超音波を印加した。
【0080】
次に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄した(ステップS4)。有機溶媒としてアセトンを用い、15分間、常温で超音波を印加した。
【0081】
次に、下地基板11およびマスク層13上に、HVPE法により、GaN結晶17を成長した(ステップS5)。詳細には、マスク層13が形成された下地基板11を成長炉に投入した。そして、GaN結晶17の原料として、アンモニア(NH3)ガスと、塩化水素(HCl)ガスと、ガリウム(Ga)とを準備し、ドーピングガスとして酸素ガスを準備し、キャリアガスとして純度が99.999%以上の水素(H2)を準備した。そして、HClガスとGaとを、Ga+HCl→GaCl+1/2H2のように反応させることにより、塩化ガリウム(GaCl)ガスを生成した。このGaClガスとNH3ガスとをマスク層13の開口部13aから露出した下地基板11に当たるようにキャリアガスおよびドーピングガスとともに流して、その表面上で、1000℃で、GaCl+NH3→GaN+HCl+H2のように反応させた。なお、このGaN結晶17の成長において、HClガスの分圧を0.001atm、NH3ガスの分圧を0.15atmとした。これにより、本発明例1のGaN結晶17を成長した。
【0082】
(本発明例2〜5)
本発明例2〜5は、基本的には上述した実施の形態2にしたがってGaN結晶17を成長した。
【0083】
具体的には、まず、60mmの直径を有し、かつGaAsよりなる下地基板11を準備した(ステップS1)。
【0084】
次に、下地基板11上にSiO2よりなるマスク層13を形成した(ステップS2)。このステップS2では、下記の表1に記載の条件でスパッタリングした点を除き、本発明例1と同様とした。
【0085】
次に、本発明例1と同様に、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄した(ステップS3)。
【0086】
次に、本発明例1と同様に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄した(ステップS4)。
【0087】
次に、HVPE法により、下地基板11上にGaNよりなるバッファ層19を形成した(ステップS7)。詳細には、マスク層13が形成された下地基板11を成長炉に投入し、下記の表1に記載の条件でバッファ層19を形成した。
【0088】
次に、水素とアンモニアとを含む雰囲気で、900℃で、バッファ層19を熱処理した(ステップS8)。
【0089】
次に、下地基板11およびマスク層13上に、下記の表1の成長条件でHVPE法により、GaN結晶17を成長した(ステップS5)。
【0090】
(比較例1)
まず、本発明例2〜5と同様のGaAsよりなる下地基板を準備した(ステップS1)。
【0091】
次に、下記の表1に記載の条件でスパッタリングして、下地基板上にSiO2よりなるマスク層を形成した。
【0092】
次に、本発明例1と同様に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄した(ステップS4)。
【0093】
次に、下記の表1に記載の条件でバッファ層を形成した。次に、このバッファ層を下記の表1に記載の条件で熱処理した。
【0094】
次に、下地基板11およびマスク層13上に、下記の表1の成長条件でHVPE法により、GaN結晶を成長した。
【0095】
【表1】
【0096】
(測定方法)
本発明例1〜5および比較例1のGaN結晶について、多結晶の占有領域およびGaN結晶の曲率半径について測定した。多結晶の占有領域は、以下のようにして測定した。具体的には、中央の2インチの大きさの領域について、白色LEDを照射して反射率の高い部分を多結晶として、CCDカメラにて全体を撮影した。そして、撮影した画像の反射率の高い部分をbit数でカウントし、GaN結晶全体に対するbit数の割合を算出した。曲率半径については、図6に示す方法と同様に、GaN結晶17の表面を結ぶ曲線が円弧を描くと仮定したときの半径Rを測定した。
【0097】
(測定結果)
表1に示すように、マスク層を形成した後に、酸性溶液および有機溶媒で洗浄してGaN結晶を成長させた本発明例1〜5のGaN結晶は、多結晶が占有している領域が33%以下と低かった。
【0098】
一方、酸性溶液で洗浄しなかった比較例1では、成長したGaN結晶は多結晶の占有領域が100%であった。また、クラックが多数発生したので、GaN結晶の曲率半径を測定することができなかった。これは、マスク層を形成した際に用いたレジストによるレジスト由来の反応生成物などが下地基板およびマスク層上に残存してしまい、多結晶の核が生成されたことに起因すると考えられる。
【0099】
以上より、本実施例によれば、酸性溶液で洗浄する工程と、有機溶媒で洗浄する工程とを備えることにより、多結晶のGaN結晶の成長を抑制することが確認できた。
【0100】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態1におけるGaN結晶を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるGaN基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1における下地基板を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるマスク層を形成する方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるマスク層を形成した状態を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるマスク層の曲率半径を説明するための模式図である。
【図7】本発明の実施の形態1の酸性溶液で洗浄する工程および有機溶媒で洗浄する工程において使用される処理装置を示す断面模式図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるGaN結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2におけるGaN結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態2におけるバッファ層を形成した状態を示す概略断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2におけるGaN層を成長した状態を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3におけるバッファ層を形成した状態を示す概略断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3におけるGaN層を成長した状態を示す概略断面図である。
【図14】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図15】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図16】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図17】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図18】図17の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0102】
1 洗浄浴槽、3 超音波発生部材、5 制御部、7 洗浄液、9 ホルダ、10 GaN結晶、11 下地基板、12 SiO2層、13 マスク層、13a 開口部、15 レジスト、17 GaN結晶、19 バッファ層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム結晶の成長方法および窒化ガリウム結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3.4eVのエネルギーバンドギャップおよび高い熱伝導率を有する窒化ガリウム(GaN)基板は、短波長の光デバイスやパワー電子デバイスなどの半導体デバイス用の材料として注目されている。このようなGaN基板の製造方法は、特開2004−304203号公報(特許文献1)などに開示されている。特許文献1には、以下の方法により窒化物半導体基板を製造する方法が開示されている。
【0003】
図14〜図17は、上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。図14に示すように、まず、異種基板101上に窒化物半導体102が成長される。次に、保護膜103が形成され、さらにレジストが塗布されて、フォトリソグラフィにより二酸化珪素(SiO2)などよりなる保護膜103が窓部を有するように所定形状にエッチングされる。次に、図15に示すように、保護膜103の窓部より窒化物半導体102を核として第1の窒化物半導体104が成長され、第1の窒化物半導体104が保護膜103上に横方向に成長される時、完全に保護膜103を覆う前に第1の窒化物半導体104の成長が止められる。次に、図16に示すように、第1の窒化物半導体104の保護膜103が除去される。次に、図17に示すように、保護膜103が除去された第1の窒化物半導体104上に、第1の窒化物半導体104の上面および側面より第2の窒化物半導体105が成長される。
【特許文献1】特開2004−304203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図18は、図17の要部拡大図である。図18に示すように、上記特許文献1では、保護膜103上に多結晶の核111が生成されることを、本発明者は見出した。また、多結晶の核111が生成されると、この核111上には、多結晶の第1および第2の窒化物半導体104a、105aが成長してしまうという問題を、本発明者は見出した。
【0005】
したがって、本発明は、多結晶のGaN結晶の成長を抑制できるGaN結晶の成長方法およびGaN結晶の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記特許文献1で多結晶のGaN結晶が成長するという問題は、保護膜103を形成する際に用いたレジストに由来する反応生成物に起因することを鋭意研究の結果、見い出した。言い換えると、レジスト由来の反応生成物などが下地基板およびマスク層上に残存してしまうと、レジスト由来の反応生成物が多結晶の核111になることを見い出した。つまり、マスク層を用いたGaN結晶の成長方法において、マスク層の形成により、成長するGaN結晶の品質に影響を及ぼすことを本発明者は見出した。そこで、本発明者は、多結晶のGaN結晶の成長を抑制するマスク層の形成の条件を鋭意研究した結果、本発明を見出した。
【0007】
すなわち、本発明のGaN結晶の成長方法は、以下の工程が実施される。まず、下地基板が準備される。そして、レジストを用いて、下地基板上に開口部を有するマスク層が形成される。そして、下地基板およびマスク層を酸性溶液が洗浄される。そして、酸性溶液で洗浄する工程後に、下地基板およびマスク層を有機溶媒で洗浄される。そして、下地基板およびマスク層上に、GaN結晶が成長される。
【0008】
本発明のGaN結晶の成長方法によれば、酸性溶液で洗浄することによって、下地基板およびマスク層上に残っている反応生成物を、親水性の部分と親油性の部分とに分解し、かつ親水性の部分を溶解できる。その結果、反応生成物の親水性の部分を除去できる。酸性溶液で除去できなかった反応生成物において親油性の部分は親油性の有機溶媒となじみがよいので、有機溶媒で洗浄することによって、反応生成物の親油性の部分を除去できる。このため、下地基板およびマスク層上に残存する反応生成物を親水性の部分と親油性の部分とに分けて除去できるので、原子レベルで反応生成物を除去できる。したがって、この反応生成物を核として多結晶のGaNが成長することを抑制することができる。
【0009】
上記GaN結晶の成長方法において好ましくは、上記酸性溶液で洗浄する工程および上記有機溶媒で洗浄する工程では、酸性溶液および有機溶媒に超音波を印加する。
【0010】
これにより、下地基板およびマスク層の表面に付着した微粒子を除去できるので、多結晶の核の発生をより抑制できる。
【0011】
上記GaN結晶の成長方法において好ましくは、マスク層は二酸化珪素よりなる。これにより、多結晶の核の発生を効果的に抑制したGaN結晶の成長を実現できる。
【0012】
上記GaN結晶の成長方法において好ましくは、上記有機溶媒で洗浄する工程と上記GaN結晶を成長する工程との間に、以下の工程が実施される。下地基板上に、GaNよりなるバッファ層が形成される。そして、800℃以上1100℃以下でバッファ層が熱処理される。
【0013】
バッファ層を形成することによって、下地基板とGaN結晶との格子定数の整合を緩和することができる。さらに、上記温度でバッファ層を熱処理することにより、バッファ層の結晶を、アモルファスから単結晶にすることができる。このため、GaN結晶の結晶性を向上することができる。
【0014】
本発明のGaN結晶の製造方法は、上記いずれかに記載のGaN結晶の成長方法により、GaN結晶を成長する工程と、下地基板およびマスク層を除去する工程とを備えている。
【0015】
本発明のGaN結晶の製造方法によれば、上記GaN結晶の成長方法を用いているので、成長したGaN結晶は多結晶であることが抑制されている。このため、少なくとも下地基板およびマスク層を除去することにより、多結晶が抑制されたGaN結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のGaN結晶の成長方法およびGaN結晶の製造方法によれば、下地基板および前記マスク層を酸性溶液で洗浄する工程と有機溶媒で洗浄する工程とを実施することにより、多結晶のGaN結晶の成長を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるGaN結晶を示す概略断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるGaN結晶を説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態におけるGaN結晶10は、主表面と、この主表面と反対側の裏面とを有している。GaN結晶10は、たとえば基板またはインゴットである。
【0019】
GaN結晶10は、多結晶よりなる領域が抑制されており、たとえば多結晶よりなる領域は33%以下であり、好ましくは12%以下である。またGaN結晶10の曲率半径は35m以上が好ましく、50m以上がより好ましい。
【0020】
図2は、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図2を参照して、本実施の形態におけるGaN結晶10の製造方法について説明する。
【0021】
図3は、本実施の形態における下地基板11を概略的に示す断面図である。図2および図3に示すように、まず、下地基板11を準備する(ステップS1)。準備される下地基板11は、GaNであってもGaNと異なる材料であってもよい。GaNと異なる材料よりなる異種基板として、たとえばガリウム砒素(GaAs)、サファイア(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、炭化珪素(SiC)などを用いることができる。
【0022】
図4は、本実施の形態におけるマスク層13を形成する方法を説明するための断面図である。図5は、本実施の形態におけるマスク層13を形成した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2、図4および図5に示すように、下地基板11の表面上に、開口部13aを有し、かつSiO2よりなるマスク層13を形成する(ステップS2)。
【0023】
このマスク層13を形成するステップS2は、たとえば以下のように実施される。図4に示すように、まず、マスク層13の材料となるSiO2層12をたとえば蒸着法により形成する。次に、SiO2層12上に、たとえばコーターを用いてレジスト15を形成する。次に、たとえばステッパーを用いて、レジスト15にマスクパターンを転写する。このマスクパターンはストライプ状、ドット状など任意の形状を採用できる。次に、レジスト15の転写された部分を溶解して、パターンを有するレジスト15を形成する。次に、このパターンを有するレジストをマスクにして、レジスト15に覆われていないSiO2層12をエッチングする。これにより、開口部13aを形成することができる。その後、レジスト15を除去する。除去する方法は特に限定されず、たとえばアッシングなどを用いることができる。これにより、図5に示すように、開口部13aを有するマスク層13を形成できる。
【0024】
なお、本実施の形態のマスク層13はSiO2層12よりなるが、マスク層13の材料はSiO2に限定されず、たとえばSiN(窒化シリコン)などであってもよい。
【0025】
マスク層13がSiO2よりなる場合、マスク層13の表面粗さRmsは、2nm以下であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましく、0.2nm以下がより一層好ましい。2nm以下の場合、表面に存在する結合手の余っている原子の数を減少できる。この場合、Si原子およびO原子の少なくとも一方と、後述するGaN結晶を成長させるステップS5により供給されるGa原子およびN原子の少なくとも一方とが反応することにより生成される多結晶の核の発生を抑制できる。0.5nm以下の場合、多結晶の核の発生をより抑制できる。0.2nm以下の場合、多結晶の核の発生をより一層抑制できる。
【0026】
ここで、上記「表面粗さRms」は、たとえば略中央に位置するマスク層13において50μm以下四方の視野で、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)を用いて、JIS B0601に準拠して測定された値である。また、50μm以下四方の視野で、10μm以下のピッチで5点以上のサンプルの表面粗さを測定することが好ましい。この場合、このサンプルの粗さ曲線において、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根の値を表面粗さRmsとする。また、開口部13aの大きさ、ピッチなどにより表面粗さRmsが測定しにくい場合には、たとえばマスク層13の材料となるSiO2層12を形成したときのSiO2層12の表面粗さRmsを測定して、マスク層13の表面粗さRmsとすることもできる。
【0027】
図6は、本実施の形態におけるマスク層13の曲率半径を説明するための模式図である。図6に示すように、マスク層13がSiO2よりなる場合、マスク層13の曲率半径Rは、8m以上が好ましく、50m以上がより好ましい。8m以上の場合、マスク層13の歪みエネルギーを抑制できるので、マスク層13のSi原子およびO原子の少なくとも一方と、後述するGaN結晶を成長させるステップS5により供給されるGa原子およびN原子の少なくとも一方と反応することを抑制できる。この結果、多結晶の核の生成を抑制できる。50m以上の場合、多結晶の核の生成をより抑制できる。
【0028】
ここで、上記「曲率半径R」は、たとえば図6に示すように、下地基板11上に成長したマスク層13の表面を結ぶ曲線が円弧を描くと仮定したときの半径Rを意味する。このような曲率半径Rは、たとえばマスク層13の材料となるSiO2層12を形成したときのSiO2層12の曲率半径を測定して、マスク層13の曲率半径とすることもできる。
【0029】
次に、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄する(ステップS3)。酸性溶液は、たとえば硫酸、フッ酸、塩酸などを用いることができる。
【0030】
マスク層を形成するステップS2では、上述したようにレジスト15を用いているので、レジスト由来の反応生成物などがマスク層13上に残存している場合がある。このため酸性溶液で洗浄することによって、下地基板11およびマスク層13上に残っている反応生成物を、たとえばOH基などを有する親水性の部分と、たとえばアルキル基などを有する親油性の部分とに分解し、親水性の部分を溶解できる。したがって、反応生成物の親水性の部分を除去できる。
【0031】
次に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄する(ステップS4)。有機溶媒は、たとえばアセトン、エタノールなどを用いることができる。
【0032】
酸性溶液で洗浄するステップS3後には、反応生成物の親油性の部分が残存している場合がある。この親油性の部分は、有機溶媒となじみがよい(混ざりやすい)。このため有機溶媒で洗浄することによって、下地基板11およびマスク層13上に残っている反応生成物の親油性の部分を除去できる。
【0033】
酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4では、下地基板11およびマスク層13上に残存する反応生成物を、親水性の部分と親油性の部分とに分けてそれぞれ除去している。このため、レジスト由来の反応生成物を原子レベルで除去できる。
【0034】
酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4では、酸性溶液および有機溶媒に超音波を印加することが好ましい。具体的には、たとえば図7に示すような超音波装置を用いて洗浄液である酸性溶液および有機溶媒に振動(または揺動)を加える。なお、図7は、本実施の形態において、酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4において使用される処理装置を示す断面模式図である。超音波として、900〜2000kHzの周波数の超音波を用いると、より効果的である。
【0035】
図7に示すように、処理装置は酸性溶液または有機溶媒である洗浄液7を保持するための洗浄浴槽1と、洗浄浴槽1の底面に設置された超音波発生部材3と、超音波発生部材3に接続され、超音波発生部材3を制御するための制御部5とを備えている。洗浄浴槽1の内部には洗浄液7が保持されている。また、洗浄液7には複数のマスク層13が形成された下地基板11を保持するためのホルダ9が浸漬された状態になっている。ホルダ9には、洗浄対象である複数のマスク層13が形成された下地基板11が保持されている。洗浄浴槽1の底面には超音波発生部材3が配置されている。
【0036】
酸性溶液で洗浄するステップS3および有機溶媒で洗浄するステップS4においてマスク層13が形成された下地基板11の洗浄を行なうときには、図7に示すように洗浄浴槽1の内部に所定の洗浄液7を配置し、ホルダ9に保持されたマスク層13が形成された下地基板11をホルダ9ごとに洗浄液7に浸漬する。このようにして、マスク層13および下地基板11の表面を洗浄液7により洗浄できる。
【0037】
また、このとき、超音波発生部材3を制御部5により制御することで超音波を発生させてもよい。この結果、洗浄液7に超音波が印加される。このため、洗浄液7が振動するのでマスク層13および下地基板11から不純物や微粒子を除去する効果を高めることができる。また、洗浄浴槽1をXYステージなど揺動可能な部材上に配置して当該部材を揺動させることにより、洗浄浴槽1を揺動させて内部の洗浄液7を攪拌(揺動)してもよい。あるいは、マスク層13が形成された下地基板11をホルダ9ごと手作業などにより揺らすことで、洗浄液7を攪拌(揺動)してもよい。この場合も、超音波の印加と同様に下地基板11およびマスク層13から不純物や微粒子を除去する効果を高めることができる。
【0038】
図8は、本実施の形態におけるGaN結晶17を成長させた状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図8に示すように、下地基板11およびマスク層13上に、GaN結晶17を成長する(ステップS5)。GaN結晶17の成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法などの気相成長法、液相成長法などを採用でき、HVPE法を採用することが好ましい。
【0039】
以上のステップS1〜S5を実施することによりGaN結晶17を成長することができる。このGaN結晶17を用いて図1に示すGaN基板などのGaN結晶10を製造する場合には、さらに以下の工程が行なわれる。
【0040】
次に、GaN結晶17から、下地基板11およびマスク層13を除去する(ステップS6)。除去する方法は、特に限定されず、たとえば切断、研削などの方法を用いることができる。
【0041】
ここで、切断とは、電着ダイヤモンドホイールの外周刃を持つスライサー、ワイヤーソーなどで、GaN結晶17とマスク層13との界面を機械的に分割(スライス)すること、レーザパルスや水分子をGaN結晶17とマスク層13との界面に照射または噴射すること、マスク層13の結晶格子面に沿ってへき開することなどによりGaN結晶17とマスク層13とを機械的に分割することをいう。また研削とは、ダイヤモンド砥石を持つ研削設備などで、下地基板11およびマスク層13を機械的に削り取ることをいう。
【0042】
なお、下地基板11およびマスク層13を除去する方法は、エッチングなどの化学的方法を採用してもよい。
【0043】
また、GaN結晶17よりなるGaN結晶10を製造するために、少なくとも下地基板11およびマスク層13を除去しているが、下地基板11およびマスク層13近傍のGaN結晶17をさらに除去してもよい。
【0044】
以上のステップS1〜S6を実施することにより、図1に示すGaN結晶10を製造することができる。
【0045】
なお、GaN結晶10において、下地基板11が形成されていた面側から研磨をさらに行なってもよい。この研磨は、GaN結晶10の表面および裏面の少なくとも一方を鏡面とする場合に効果的な方法であり、またGaN結晶10の表面および裏面の少なくとも一方に形成された加工変質層を除去するのに効果的な方法である。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄するステップS3と、酸性溶液で洗浄するステップS3後に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄するステップS4とを備えている。
【0047】
これにより、マスク層13を形成するステップS2後に、レジスト由来の反応生成物などが下地基板11およびマスク層13上に残存してしまう場合であっても、レジスト由来の反応生成物を親水性の部分と親油性の部分とに分けて除去できる。このため、原子レベルで反応生成物を除去できるので、この反応生成物を核として多結晶のGaNが成長することをさらに抑制することができる。よって、多結晶領域を低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0048】
また本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法において好ましくは、マスク層13の表面粗さRmsを2nm以下にしている。
【0049】
これにより、マスク層13の表面積を小さくできるので、マスク層13の表面に存在する結合手の余っている原子数を低減することができる。このため、このマスク層13上にGaN結晶17を成長する(ステップS5)と、Ga原子およびN原子の少なくとも一方が、Si原子およびO原子の少なくとも一方の結合手と結合することを抑制することができる。また、マスク層13の表面に存在する結晶構造が乱れた原子数を低減することもできる。その結果、GaNの多結晶の核がマスク層13上に形成されることを抑制することができるので、多結晶領域をさらに低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0050】
また本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法において好ましくは、マスク層13の曲率半径を8m以上にしている。
【0051】
これにより、マスク層13の表面の反りを低減することができるので、マスク層13の歪みエネルギーを低減することができる。このため、GaN結晶17を成長させるステップS5時に、マスク層13のSi原子およびO原子の少なくとも一方がGa原子およびN原子の少なくとも一方と結合することを抑制できる。したがって、マスク層13上にGaNの多結晶の核が形成されることを抑制することができる。よって、多結晶領域をさらに低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態におけるGaN結晶は、図1に示す実施の形態1のGaN結晶10と同様である。
【0053】
図9は、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法を示すフローチャートである。続いて、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法について説明する。図9に示すように、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法は、基本的には実施の形態1におけるGaN結晶の製造方法と同様の構成を備えているが、バッファ層をさらに形成している点において異なる。
【0054】
具体的には、まず、図3および図9に示すように、実施の形態1と同様に下地基板11を準備する(ステップS1)。
【0055】
次に、図5および図9に示すように、実施の形態1と同様にマスク層13を形成する(ステップS2)。
【0056】
次に、図9に示すように、実施の形態1と同様に酸性溶液で洗浄し(ステップS3)、有機溶媒で洗浄する(ステップS4)。
【0057】
図10は、本実施の形態におけるバッファ層19を形成した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図10に示すように、下地基板11上にGaNよりなるバッファ層19を形成する(ステップS7)。バッファ層19を形成することによって、下地基板11とステップS5で成長させるGaN結晶17との格子定数の整合を良好にすることができる。
【0058】
本実施の形態では、下地基板11上であって、かつマスク層13の開口部13aにバッファ層19を成長する。バッファ層19を形成する方法は特に限定されないが、たとえばGaN結晶17の成長方法と同様の方法で成長されることにより形成することができる。
【0059】
次に、800℃以上1100℃以下でバッファ層19を熱処理する(ステップS8)。熱処理する温度は、800℃以上1100℃以下が好ましく、900℃近傍がより好ましい。この温度範囲で熱処理とすることによって、バッファ層19がアモルファスの場合には、アモルファスから単結晶にすることができる。特に下地基板11がGaAs基板の場合にはバッファ層19を形成して熱処理することが効果的である。
【0060】
なお、バッファ層19を形成するステップS7および熱処理するステップS8は省略されてもよい。たとえば下地基板11がサファイア基板の場合には、このステップS7およびS8は省略されても、成長させるGaN結晶17への影響は小さい。一方、たとえば下地基板11がGaAs基板の場合には、このステップS7およびS8を実施することで、成長させるGaN結晶17の結晶性を良好にすることができる。
【0061】
図11は、本実施の形態におけるGaN結晶17を成長した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図11に示すように、GaN結晶17を成長させる(ステップS5)。本実施の形態では、マスク層13およびバッファ層19上にGaN結晶17を成長させる。それ以外は実施の形態1と同様である。以上のステップS1〜S5、S7およびS8により、GaN結晶17を成長することができる。
【0062】
次に、図9に示すように、下地基板11およびマスク層13を除去する(ステップS6)。本実施の形態では、バッファ層19をさらに除去する。それ以外は実施の形態1と同様である。以上のステップS1〜S8により、図1に示すGaN結晶10を製造することができる。
【0063】
なお、これ以外のGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、実施の形態1と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態におけるGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、有機溶媒で洗浄するステップS4とGaN結晶17を成長するステップS5との間に、バッファ層19を形成するステップS7と、800℃以上1100℃以下でバッファ層19を熱処理するステップS8とをさらに備えている。
【0065】
これにより、下地基板11と成長するGaN結晶17との格子定数の整合を良好にすることができる。さらに、上記温度でバッファ層19を熱処理することにより、バッファ層19の結晶を、アモルファスから単結晶にすることができる。このため、GaN結晶17の結晶性を向上することができる。よって、多結晶領域をさらに低減したGaN結晶17を成長することができる。
【0066】
(実施の形態3)
本実施の形態におけるGaN結晶は、図1に示す実施の形態1のGaN結晶10と同様である。
【0067】
続いて、本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法について説明する。本実施の形態におけるGaN結晶の製造方法は、基本的には実施の形態2におけるGaN結晶の製造方法と同様の構成を備えているが、バッファ層をマスク層上にも形成している点において異なる。
【0068】
具体的には、図9に示すように、実施の形態1および2と同様に、下地基板11を準備する(ステップS1)。次に、実施の形態1および2と同様に、マスク層13を形成する(ステップS2)。次に、実施の形態1および2と同様に酸性溶液で洗浄し(ステップS3)、有機溶媒で洗浄する(ステップS4)。
【0069】
図12は、本実施の形態におけるバッファ層19を形成した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図12に示すように、下地基板11上にGaNよりなるバッファ層19を形成する(ステップS7)。本実施の形態では、下地基板11上のマスク層13の開口部13a、および、マスク層13上にバッファ層19を成長する。つまり、マスク層13の全体を覆うようにバッファ層19を成長する。
【0070】
次に、実施の形態2と同様に、バッファ層19を熱処理する(ステップS8)。
図13は、本実施の形態におけるGaN結晶17を成長した状態を示す概略断面図である。次に、図9および図13に示すように、GaN結晶17を成長させる(ステップS5)。本実施の形態では、バッファ層19上にGaN結晶17を成長させる。それ以外は実施の形態2と同様である。以上のステップS1〜S5、S7およびS8により、GaN結晶17を成長することができる。
【0071】
次に、図9に示すように、下地基板11およびマスク層13を除去する(ステップS6)。本実施の形態では、実施の形態2と同様に、バッファ層19をさらに除去する。以上のステップS1〜S8により、図1に示すGaN結晶10を製造することができる。
【0072】
なお、これ以外のGaN結晶17の成長方法およびGaN結晶10の製造方法は、実施の形態1と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態によれば、マスク層13の全体を覆うようにバッファ層19を形成している。このため、マスク層13上のバッファ層19には、多結晶の核が生成されにくい。したがって、このマスク層13上に形成されたGaN結晶17は、多結晶の生成が抑制される。また、バッファ層19により下地基板11との格子整合性を緩和できるので結晶性を向上することができる。よって、多結晶領域をさらに低減し、かつ結晶性をより向上したGaN結晶17を成長することができる。
【実施例】
【0074】
本実施例では、酸性溶液で洗浄する工程と、有機溶媒で洗浄する工程とを備えることによる効果について調べた。
【0075】
(本発明例1)
本発明例1は、基本的には上述した実施の形態1にしたがってGaN結晶17を成長した。
【0076】
具体的には、まず、60mmの直径を有し、かつサファイアよりなる下地基板11を準備した(ステップS1)。
【0077】
次に、下地基板11上にSiO2よりなるマスク層13を形成した(ステップS2)。詳細には、下記の表1に記載の条件でスパッタリングにより下地基板11上にSiO2層12を蒸着した。その後、SiO2層12上にレジスト15を形成し、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)法によるパターニングをして、開口部13aを有するマスク層13を形成した。
【0078】
このマスク層13を形成するステップS2において、SiO2層を形成した際に、表面粗さRmsおよび曲率半径を測定した。表面粗さRmsは、SiO2層の中央部と、この中央部を中心に上下左右にそれぞれ100μm移動した位置の4点との合計5点について、10μm四方の視野で測定した。曲率半径は、図6に示すようにして測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0079】
次に、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄した(ステップS3)。酸性溶液として濃度が25%のフッ酸を用い、15分間、常温で超音波を印加した。
【0080】
次に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄した(ステップS4)。有機溶媒としてアセトンを用い、15分間、常温で超音波を印加した。
【0081】
次に、下地基板11およびマスク層13上に、HVPE法により、GaN結晶17を成長した(ステップS5)。詳細には、マスク層13が形成された下地基板11を成長炉に投入した。そして、GaN結晶17の原料として、アンモニア(NH3)ガスと、塩化水素(HCl)ガスと、ガリウム(Ga)とを準備し、ドーピングガスとして酸素ガスを準備し、キャリアガスとして純度が99.999%以上の水素(H2)を準備した。そして、HClガスとGaとを、Ga+HCl→GaCl+1/2H2のように反応させることにより、塩化ガリウム(GaCl)ガスを生成した。このGaClガスとNH3ガスとをマスク層13の開口部13aから露出した下地基板11に当たるようにキャリアガスおよびドーピングガスとともに流して、その表面上で、1000℃で、GaCl+NH3→GaN+HCl+H2のように反応させた。なお、このGaN結晶17の成長において、HClガスの分圧を0.001atm、NH3ガスの分圧を0.15atmとした。これにより、本発明例1のGaN結晶17を成長した。
【0082】
(本発明例2〜5)
本発明例2〜5は、基本的には上述した実施の形態2にしたがってGaN結晶17を成長した。
【0083】
具体的には、まず、60mmの直径を有し、かつGaAsよりなる下地基板11を準備した(ステップS1)。
【0084】
次に、下地基板11上にSiO2よりなるマスク層13を形成した(ステップS2)。このステップS2では、下記の表1に記載の条件でスパッタリングした点を除き、本発明例1と同様とした。
【0085】
次に、本発明例1と同様に、下地基板11およびマスク層13を酸性溶液で洗浄した(ステップS3)。
【0086】
次に、本発明例1と同様に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄した(ステップS4)。
【0087】
次に、HVPE法により、下地基板11上にGaNよりなるバッファ層19を形成した(ステップS7)。詳細には、マスク層13が形成された下地基板11を成長炉に投入し、下記の表1に記載の条件でバッファ層19を形成した。
【0088】
次に、水素とアンモニアとを含む雰囲気で、900℃で、バッファ層19を熱処理した(ステップS8)。
【0089】
次に、下地基板11およびマスク層13上に、下記の表1の成長条件でHVPE法により、GaN結晶17を成長した(ステップS5)。
【0090】
(比較例1)
まず、本発明例2〜5と同様のGaAsよりなる下地基板を準備した(ステップS1)。
【0091】
次に、下記の表1に記載の条件でスパッタリングして、下地基板上にSiO2よりなるマスク層を形成した。
【0092】
次に、本発明例1と同様に、下地基板11およびマスク層13を有機溶媒で洗浄した(ステップS4)。
【0093】
次に、下記の表1に記載の条件でバッファ層を形成した。次に、このバッファ層を下記の表1に記載の条件で熱処理した。
【0094】
次に、下地基板11およびマスク層13上に、下記の表1の成長条件でHVPE法により、GaN結晶を成長した。
【0095】
【表1】
【0096】
(測定方法)
本発明例1〜5および比較例1のGaN結晶について、多結晶の占有領域およびGaN結晶の曲率半径について測定した。多結晶の占有領域は、以下のようにして測定した。具体的には、中央の2インチの大きさの領域について、白色LEDを照射して反射率の高い部分を多結晶として、CCDカメラにて全体を撮影した。そして、撮影した画像の反射率の高い部分をbit数でカウントし、GaN結晶全体に対するbit数の割合を算出した。曲率半径については、図6に示す方法と同様に、GaN結晶17の表面を結ぶ曲線が円弧を描くと仮定したときの半径Rを測定した。
【0097】
(測定結果)
表1に示すように、マスク層を形成した後に、酸性溶液および有機溶媒で洗浄してGaN結晶を成長させた本発明例1〜5のGaN結晶は、多結晶が占有している領域が33%以下と低かった。
【0098】
一方、酸性溶液で洗浄しなかった比較例1では、成長したGaN結晶は多結晶の占有領域が100%であった。また、クラックが多数発生したので、GaN結晶の曲率半径を測定することができなかった。これは、マスク層を形成した際に用いたレジストによるレジスト由来の反応生成物などが下地基板およびマスク層上に残存してしまい、多結晶の核が生成されたことに起因すると考えられる。
【0099】
以上より、本実施例によれば、酸性溶液で洗浄する工程と、有機溶媒で洗浄する工程とを備えることにより、多結晶のGaN結晶の成長を抑制することが確認できた。
【0100】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態1におけるGaN結晶を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるGaN基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1における下地基板を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるマスク層を形成する方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるマスク層を形成した状態を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるマスク層の曲率半径を説明するための模式図である。
【図7】本発明の実施の形態1の酸性溶液で洗浄する工程および有機溶媒で洗浄する工程において使用される処理装置を示す断面模式図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるGaN結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2におけるGaN結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態2におけるバッファ層を形成した状態を示す概略断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2におけるGaN層を成長した状態を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3におけるバッファ層を形成した状態を示す概略断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3におけるGaN層を成長した状態を示す概略断面図である。
【図14】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図15】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図16】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図17】上記特許文献1のGaN基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図18】図17の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0102】
1 洗浄浴槽、3 超音波発生部材、5 制御部、7 洗浄液、9 ホルダ、10 GaN結晶、11 下地基板、12 SiO2層、13 マスク層、13a 開口部、15 レジスト、17 GaN結晶、19 バッファ層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板を準備する工程と、
レジストを用いて、前記下地基板上に開口部を有するマスク層を形成する工程と、
前記下地基板および前記マスク層を酸性溶液で洗浄する工程と、
前記酸性溶液で洗浄する工程後に、前記下地基板および前記マスク層を有機溶媒で洗浄する工程と、
前記下地基板および前記マスク層上に、窒化ガリウム結晶を成長する工程とを備えた、窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項2】
前記酸性溶液で洗浄する工程および前記有機溶媒で洗浄する工程では、前記酸性溶液および前記有機溶媒に超音波を印加する、請求項1に記載の窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項3】
前記マスク層は二酸化珪素よりなる、請求項1または2に記載の窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項4】
前記有機溶媒で洗浄する工程と前記窒化ガリウム結晶を成長する工程との間に、
前記下地基板上に、窒化ガリウムよりなるバッファ層を形成する工程と、
800℃以上1100℃以下で前記バッファ層を熱処理する工程とをさらに備えた、請求項1〜3のいずれかに記載の窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の窒化ガリウム結晶の成長方法により、窒化ガリウム結晶を成長する工程と、
前記下地基板および前記マスク層を除去する工程とを備えた、窒化ガリウム結晶の製造方法。
【請求項1】
下地基板を準備する工程と、
レジストを用いて、前記下地基板上に開口部を有するマスク層を形成する工程と、
前記下地基板および前記マスク層を酸性溶液で洗浄する工程と、
前記酸性溶液で洗浄する工程後に、前記下地基板および前記マスク層を有機溶媒で洗浄する工程と、
前記下地基板および前記マスク層上に、窒化ガリウム結晶を成長する工程とを備えた、窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項2】
前記酸性溶液で洗浄する工程および前記有機溶媒で洗浄する工程では、前記酸性溶液および前記有機溶媒に超音波を印加する、請求項1に記載の窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項3】
前記マスク層は二酸化珪素よりなる、請求項1または2に記載の窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項4】
前記有機溶媒で洗浄する工程と前記窒化ガリウム結晶を成長する工程との間に、
前記下地基板上に、窒化ガリウムよりなるバッファ層を形成する工程と、
800℃以上1100℃以下で前記バッファ層を熱処理する工程とをさらに備えた、請求項1〜3のいずれかに記載の窒化ガリウム結晶の成長方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の窒化ガリウム結晶の成長方法により、窒化ガリウム結晶を成長する工程と、
前記下地基板および前記マスク層を除去する工程とを備えた、窒化ガリウム結晶の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−132473(P2010−132473A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307626(P2008−307626)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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