説明

繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた繊維強化複合材料

【課題】繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として、高い弾性率と高い耐熱性を示すエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】成分(A)コロイド分散型ナノシリカ微粒子、成分(B)単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂を必須構成要素として含み、エポキシ樹脂成分100質量部に対し、成分(A)を2〜30質量部、成分(B)を2〜30質量部含む、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた繊維強化複合材料に関する。本発明は、特に、航空機用構造材料をはじめとして、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途、その他の一般産業用途に好適な繊維強化複合材料を得るためのエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いて得られるプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂硬化物とからなる炭素繊維強化複合材料は、その優れた力学物性などから、航空機、自動車、産業用途に幅広く用いられている。近年、その使用実績を積むに従い、炭素繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がってきている。かかる複合材料を構成するマトリックス樹脂には、含浸性や耐熱性に優れる熱硬化性樹脂が用いられることが多く、熱硬化性樹脂には、成形性に優れること、高温環境にあっても高度の機械強度を発現することが必要とされる。このような熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が使用されているが、なかでもエポキシ樹脂は、耐熱性、成形性に優れ、炭素繊維複合材料にしたときに高度の機械強度が得られるため、幅広く使用されている。
【0003】
従来の炭素繊維強化複合材料においては、繊維方向の引張強度は良好であるが、炭素繊維は繊維状であり繊維径が極めて小さいため、繊維方向に圧縮されると繊維の座屈および/またはせん断により繊維の破壊を起こしやすく、繊維強化複合材料の圧縮強度の向上が強く望まれている。そのため、繊維の座屈および/またはせん断による繊維の破壊を抑制し圧縮強度を向上させるため、マトリックス樹脂の弾性率を向上させる試みが行われている。
【0004】
また、高温環境において繊維強化複合材料に高い機械強度を発現させるためには、マトリックス樹脂の耐熱性を高めることが有効であることが知られている。マトリックス樹脂の耐熱性を高くするためには架橋密度を上げることが必要であるが、架橋密度を高めると、あるレベルまでは樹脂の弾性率も向上するが、架橋密度が高くなりすぎると硬化樹脂中の自由体積が増え樹脂の弾性率が高くなりにくいことが知られている。そのためマトリックス樹脂の高い弾性率と耐熱性を両立させることは、これまで非常に困難であるとされていた。
【0005】
しかるに、特許文献1には、エポキシ樹脂をマトリクッスとした、圧縮系の機械特性に優れるプリプレグおよび繊維強化複合材料が開示されている。しかし、特許文献1の樹脂組成物では、マトリックス樹脂の弾性率はまだ十分であるとはいえず、マトリックス樹脂の更なる弾性率改善が望まれている。
【0006】
また、特許文献2には、マトリックスとしてベンゾオキサジン樹脂を主体とする樹脂組成物を用いた、室温乾燥下のみならず、湿熱環境下においても高い機械強度を発現するプリプレグおよび繊維強化複合材料が開示されている。しかしながら、特許文献2の樹脂組成物では、粘度調整のためにエポキシ樹脂を多量に添加するため、ベンゾオキサジン樹脂自体が有する高い弾性率が損なわれ、十分な樹脂弾性率を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−259713号公報
【特許文献2】特開2006−233188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として、高い弾性率と高い耐熱性を示すエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、以下の構成からなる樹脂組成物によって課題を解決できることを見出した。よって、本発明は、以下の事項からなる。
【0010】
1)下記成分(A)、(B)を必須構成要素として含み、エポキシ樹脂成分100質量部に対し、成分(A)を2〜30質量部、成分(B)を2〜30質量部含む、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【0011】
成分(A)コロイド分散型ナノシリカ微粒子
成分(B)単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂
2)成分(B)として下記式1で示されるエポキシ樹脂を含む上記1)記載のエポキシ樹脂組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
(上式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
3)成分(B)として下記式2で示されるエポキシ樹脂を含む上記1)記載のエポキシ樹脂組成物。
【0014】
【化2】

【0015】
4)エポキシ樹脂成分100質量部に対し、成分(C)多官能エポキシ樹脂を10〜80質量部含む上記1)〜3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
5)硬化剤としてジアミノジフェニルスルホンを含む上記1)〜4)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0017】
6)上記1)〜5)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグ。
【0018】
7)上記6)記載のプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として用いたときに高い弾性率と高い耐熱性を示すエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲内において様々な変形が可能であることを理解されたい。
【0021】
本発明に用いられる成分(A)はコロイド分散型シリカ微粒子である。コロイド分散型シリカ微粒子とは、表面電荷などの作用により、エポキシ樹脂などの液中でシリカ微粒子が凝集することなく分散したシリカ微粒子である。コロイド分散型シリカ微粒子の配合量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、2〜30質量部である。コロイド分散型シリカ微粒子の配合量が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、2質量部以上であれば、樹脂組成物の弾性率を高めることができる。好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。一方、コロイド分散型シリカ微粒子の配合量を多くすると、エポキシ樹脂中での良好な分散状態を維持することが難しくなる。コロイド分散型シリカ微粒子の配合量をエポキシ樹脂成分100質量部に対して30質量部以下にすることにより、シリカ微粒子のエポキシ樹脂に対する分散性を維持することができる。好ましくは25質重量部以下である。
【0022】
コロイド分散型シリカ微粒子の粒径を100nm以下にすることで、樹脂組成物の靭性を高めることができるので好ましい。より好ましくは50nm以下である。コロイド分散型シリカ粒子の粒径は、樹脂組成物の硬化物断面をSEM、TEMなどの電子顕微鏡にて観察することにより測定することができる。
【0023】
エポキシ樹脂中にコロイド分散型シリカ微粒子を配合、分散させる方法としては、市販されているコロイド分散型シリカが配合されたエポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物中に配合させればよい。このようなコロイド分散型シリカが配合されたエポキシ樹脂としては、ナノレジン社製のNanopoxシリーズとして、Nanopox F400、Nanopox F430、Nanopox F440、Nanopox F520、Nanopox F630、Nanopox F640、Nanopox E400、Nanopox E430、Nanopox E440、Nanopox E520、Nanopox E630、Nanopox E640、日産化学工業社製のLENANOCシリーズとしてLENANOC Eなどが挙げられるが、エポキシ樹脂中にコロイド状にシリカ微粒子が分散したものであればよく、これらの商品に限られるものではない。
【0024】
本発明で用いられる成分(B)は単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂である。このような骨格を持つエポキシ樹脂が硬化物の架橋構造に組み込まれることにより、硬化物の弾性率を高めることができる。
【0025】
成分(B)の配合量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、2〜30質量部である。単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂の配合量が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、2質量部以上であれば、樹脂組成物の弾性率を高めることができる。好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上である。一方、単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂の配合量を多くすると、硬化物の耐熱性や破断伸度、靭性が低下する。単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂の配合量をエポキシ樹脂成分100質量部に対して30質量部以下にすることにより、硬化物の耐熱性や破断伸度、靭性が低下しにくい。好ましくは25質量部以下である。
【0026】
単官能エポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、脂環型などのエポキシ樹脂があるが、分子中に1つのエポキシ基をもつエポキシ樹脂であれよく、これらに限るものではない。特に、分子中にイミド環、ベンゼン環、ナフタレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ベンゾキノン骨格などの環状骨格を持つエポキシ樹脂であれば、硬化物の弾性率を上げることができるため好ましく。このような単官能エポキシ樹脂としては、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、カルダノールグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルフタルイミドなどが挙げられる。分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂とは分子中にベンゼン環、オキサゾジドリン環、シクロヘキセンオキサイド骨格、シクロヘキサン骨格、キサンテン骨格などの環状骨格を1つ持ち、分子中に2つ以下のエポキシ基を持つエポキシ樹脂である。
【0027】
なかでも、前記式1で表されるエポキシ樹脂は、硬化物の弾性率を上げる効果が高く、耐熱性も良好なため特に好ましい。また、前記式2で表されるエポキシ樹脂は、硬化物の弾性率を上げる効果が非常に高く好ましい。
【0028】
成分(C)は多官能エポキシ樹脂である。多官能エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、10〜80質量部であるのがよい。多官能エポキシ樹脂の配合量が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上であれば、樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。一方、多官能エポキシ樹脂の配合量を多くすると、硬化物の破断伸度や靭性が低下する。多官能エポキシ樹脂の配合量をエポキシ樹脂成分100質量部に対して80質量部以下にすることにより、硬化物の破断伸度や靭性が低下しにくくなる。好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0029】
成分(C)としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノクレゾール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型およびトリフェニルメタンノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂が挙げられる。なかでも、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミン、ジシクロペンタジエン、ナフタレンなどのエポキシ樹脂を用いることで、エポキシ樹脂組成物の弾性率と耐熱性を共に高くすることができるので好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物の硬化剤としては、アミン、酸無水物、フェノール、メルカプタン、ルイス酸アミン錯体、オニウム塩、イミダゾールなどが用いることができるが、エポキシ樹脂を硬化させうるものであればどのような構造のものでもよい。なかでも、アミン型の硬化剤が好ましい。アミン型の硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミンなど、およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。これらのなかでもジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため特に好ましい。また、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため、本発明には特に適している。例えば、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを用いると、硬化物の耐熱性を高くできる上に、プリプレグのタックライフを長い期間保持することができるため好ましい。3,3’−ジアミノジフェニルスルホンはプリプレグのタックライフや硬化物の耐熱性では4,4’−ジアミノジフェニルスルホンに劣ることがあるものの、硬化物の弾性率を非常に高くすることができるため好ましい。また、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンを同時に配合すれば、硬化物の耐熱性、弾性率を調整しやすいため好ましい。
【0031】
これらの硬化剤には、硬化活性を高めるために、適当な硬化助剤を組み合わせることができる。好ましい例としては、ジシアンジアミドに3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化助剤として組み合わせる例、カルボン酸無水物やノボラック樹脂に三級アミンを硬化助剤として組み合わせる例、ジアミノジフェニルスルホンにイミダゾール化合物、フェニルジメチルウレア(PDMU)などのウレア化合物、三フッ化モノエチルアミン、三塩化アミン錯体などのアミン錯体を硬化助剤として組み合わせる例がある。
【0032】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、添加剤として、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の樹脂を添加することができる。この添加剤は、マトリックス樹脂の靭性を向上させ、かつ、粘弾性を変化させて、粘度、貯蔵弾性率およびチキソトロープ性を適正化する役割がある。添加剤として用いられる熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたはエラストマーは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、この熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたはエラストマーは、エポキシ樹脂成分中に溶解して配合されてもよく、微粒子、長繊維、短繊維、織物、不織布、メッシュ、パルプなどの形状でプリプレグの表層に配置されても良い。これにより、繊維強化複合材料の層間剥離を抑制することができる。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく用いられる。耐熱性に優れることから、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンなどが特に好ましく使用される。また、これらの熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂との反応性の官能基を有することは、靭性向上および硬化樹脂の耐環境性維持の観点から好ましい。特に好ましい官能基としては、カルボキシル基、アミノ基および水酸基などが挙げられる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させ、加熱により硬化させることにより繊維強化複合材料を得ることができる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物と組み合わせる強化繊維には制限は無く、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、有機繊維、ボロン繊維、スチール繊維などを、トウ、クロス、チョップドファイバー、マットなどの形態で使用することができる。
【0037】
これらの強化繊維のうち、炭素繊維や黒鉛繊維は比弾性率が良好で軽量化に大きな効果が認められるので本発明には好ましい。また、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維または黒鉛繊維を用いることができる。
【0038】
また、繊維強化複合材料の用途にも制限は無く、テニスラケット、ゴルフシャフトなどの汎用品に使用できるが、本発明の樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は繊維方向の圧縮強度に優れることから、特に航空機用部品への使用に最適である。
【0039】
繊維強化複合材料の製造方法としては、プリプレグと呼ばれるシート状の成形中間体に加工して、オートクレーブ成形、シートラップ成形、プレス成形などの成形方法や、強化繊維のフィラメントやプリフォームにエポキシ樹脂組成物を直接含浸させて成形物を得るRTM、VaRTM、フィラメントワインディリング、RFIなどの成形法を用いることができるが、これらの成形方法に限られるものではない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
樹脂組成物の調製
硬化剤成分を除いた各原料をガラスフラスコに計量し、150℃にて加熱混合することで均一なエポキシ樹脂主剤を得た。次に、得られたエポキシ樹脂主剤を70℃以下に冷却した後に硬化剤成分を計量して添加し、70℃で加熱混合することによってエポキシ樹脂組成物を得た。
【0042】
加熱硬化樹脂板の作製
得られたエポキシ樹脂組成物を2mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板(2mm厚)の間に注入し、180℃、2時間の硬化条件で加熱硬化し、樹脂板を得た。
【0043】
樹脂板の曲げ弾性率の測定
得られた樹脂板を試験片(長さ60mm×幅8mm×厚み2mm)に加工し、3点曲げ冶具(圧子、サポートとも3.2mmR、サポート間距離32mm)を設置したインストロン社製万能試験機を用い、温度23℃、湿度50%RHの環境下にて曲げ特性を測定した。荷重負荷速度を2mm/分とした。
【0044】
耐熱性の測定
得られた樹脂板を試験片(長さ55mm×幅12.5mm×厚み2mm)に加工し、TAインストルメンツ社製レオメーターARES−RDAを用いて、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で、logG’を温度に対してプロットし、logG’の平坦領域の近似直線と、G’が転移する領域の近似直線との交点の温度をガラス転移温度(G’Tg)として記録した。
【0045】
プリプレグの製造方法
簡易型ロールコーターを用い、離型紙の片面にエポキシ樹脂組成物を目付78g/mで均一に塗布し、樹脂担持シートを得た。この樹脂担持シートの樹脂塗布面上に炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製、MR50、引張強度:5400MPa、引張弾性率:290GPa)を、繊維目付が145g/mになるようにドラムワインドにて巻き付けることで、炭素繊維目付145g/mで樹脂含有率35質量%のプリプレグを得た。
【0046】
積層複合材の0°圧縮強度の測定
上述した方法により作製した一方向プリプレグの繊維方向を揃え、8プライ積層し、オートクレーブにて180℃で2時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で成形して積層複合材を作製した。この積層複合材について、温度23℃、湿度50%RHの環境下にてSACMA 1R−94に従い、0°圧縮強度を求めた。かかる圧縮強度は、6個の試料について測定し、繊維含有量を60%とした換算値を算出して、その平均を0°圧縮強度として求めた。
【0047】
実施例1〜7および比較例1〜10
上記のようにして、表1に示す原料組成(部は質量部を示す)からなるエポキシ樹脂組成物を調製し、次いで硬化樹脂版を作成し、この硬化樹脂板の物性測定を行った。エポキシ樹脂組成物の含有成分(部は質量部を示す)および硬化樹脂板の物性の評価結果を表1および表2に示す。
【0048】
実施例8
実施例1で調製したエポキシ樹脂組成物を用いてプリプレグを作製し、このプリプレグを成形して得られた積層複合材料の0°圧縮強度を測定した。得られた0°圧縮強度は1810MPaであり、非常に高い値を示した。
【0049】
配合に用いた原料の詳細を下記に示す。
【0050】
Nanopox E430:エポキシ樹脂中にシリカ微粒子がコロイダル分散した、シリカ微粒子配合エポキシ樹脂、成分の60%がビスフェノール型エポキシ樹脂(2官能)で成分の40%がコロイダルシリカ微粒子のマスターバッチ型エポキシ樹脂、ナノレジン社製
GAN:グリシジルアニリン、日本化薬社製
EX731:n−グリシジルフタルイミド、ナガセケムテック社製
セロキサイド3000:シクロヘキセンオキサイド基を有するエポキシ樹脂、ダイセル化学社製
HP7200:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC社製
NC−7300L:ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬社製
JER604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製
EPPN502H:トリフェニルメタンノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬社製
ELM−100:パラアミノクレゾール型エポキシ樹脂、住友化学社製
EXA−830LVP:ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物、DIC社製
JER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製
EXA−1514:ビスフェノールS型エポキシ樹脂、DIC社製
4,4’−DDS:4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化社製
3,3’−DDS:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、日本合成化工社製
PES5003P:ポリエーテルスルホン、熱可塑性樹脂、住友化学社製
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1は、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを硬化剤とした実施例、比較例の結果である。表1からわかるように、実施例1〜3でそれぞれ得られた硬化樹脂板は非常に高い弾性率を持ち、耐熱性も非常に高かった。一方、比較例1〜5で得られた硬化樹脂板は何れも低い弾性率を示した。
【0054】
表2は、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンを硬化剤とした実施例、比較例の結果である。表2からわかるように、実施例4〜7でそれぞれ得られた硬化樹脂板は非常に高い弾性率を持ち、耐熱性も高い値を示した。一方、比較例6〜10で得られた硬化樹脂板はほとんどが低い弾性率を示し、弾性率が高い例でも破断伸度と耐熱性が低い結果を示した。また、実施例8で得られた複合材料の0°圧縮強度は非常に高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上に詳細に説明したように、本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、硬化後のマトリックス自体の弾性率ならびに耐熱性が高く、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として適している。よって、本発明は産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)を必須構成要素として含み、エポキシ樹脂成分100質量部に対し、成分(A)を2〜30質量部、成分(B)を2〜30質量部含む、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
成分(A)コロイド分散型ナノシリカ微粒子
成分(B)単官能エポキシ樹脂、または分子中に1つの環状骨格を持つ2官能以下のエポキシ樹脂
【請求項2】
成分(B)として下記式1で示されるエポキシ樹脂を含む請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】

(上式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
【請求項3】
成分(B)として下記式2で示されるエポキシ樹脂を含む請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
エポキシ樹脂成分100質量部に対し、成分(C)多官能エポキシ樹脂を10〜80質量部含む請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
硬化剤としてジアミノジフェニルスルホンを含む請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグ。
【請求項7】
請求項6記載のプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2010−174073(P2010−174073A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15777(P2009−15777)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】