説明

自動車コントロール法及び装置

【課題】従来技術における問題を解決する自動車用の改善されたコントロールシステムを提供することである。
【解決手段】自動車速度計算機10が、最も遅い車輪の速度または2輪以上の車輪の平均速度として自動車速度を算出して自動車速度値を決定する構成を有し、車輪スリップ量が各車輪速度を算出した自動車速度と比較して決定される。コントローラ14に所定の車輪スリップ閾値が保存され、第2出力信号としての車輪スリップ量信号16が車輪スリップ閾値と常に比較され、車輪スリップ緩和のためのトルク緩和を要する状況であるか否かが決定される。車輪スリップ量信号16の値が車輪スリップ閾値を上回ると車輪スリップ状況と認定され、パワートレーンから車輪への付加トルクが緩和され、かくして車輪スリップ開始が、またはそれ以上の車輪スリップ発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動輪のスリップを防止するための自動車コントロール方法及び、該コントロール方法の実施用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクションコントロールシステムは駆動輪スリップ防止(ASR)システムとしても知られるもので、駆動輪のトラクションロスを防止して自動車をコントロール下に維持すると共に、駆動輪の長手方向スリップによる加速性能低下を防止するために使用される。トラクションコントロールは、例えば、ドライバーが過剰な加速入力を付加したり、付加トルクによっては路面条件に対処しきれない場合に必要となる。
【0003】
フィードバックコントロール法では、駆動輪のスリップ(以下、車輪スリップとも称する)監視システム等で用いられ、駆動トルクが過大(例えばアクセルペダルを急に踏み込む)になってスリップがひどくなるとエンジン出力を低下させ及びまたは駆動輪に制動力を加える適宜措置が取られる。トラクションコントロールは自動車のエンジンコントロールユニット(以下、ECUとも称する)内に実装され、エンジンの1つ以上のシリンダ点火を遅延または先行させてエンジントルクを減少させ、エンジンシリンダの1つ以上への燃料供給を減少させ、または、ターボチャージ式自動車においてはブーストコントロールソレノイドを作動させてブースト圧を、従ってエンジン出力を減少させ得る。更には、車輪に制動を掛けることで1つ以上の車輪における車輪スリップをコントロールし得る。
【0004】
自動車のトラクションコントロールシステムは代表的には横滑り防止機構(以下、SCSとも称する)の一部として実装され、スキッドを検出及び減少させて自動車の安全性を保証する。コーナリング中にスキッドを検出すると横滑り防止機構が各車輪を自動制動し、ドライバーの意図する、例えばコーナー周囲のある方向へのステアリング操作を支援する。
【0005】
既存のトラクションコントロールシステムには、ECU内でのスリップ量(または値)の計算及び処理の所要時間が長い上に、ブレーキ圧発生及びまたはパワートレーンのトルク増減に関わるシステム応答上の制約があり、ある種の運転条件下ではコントロール及びまたは改善の最適化応答が間に合わない問題があることが分かった。例えば後輪駆動式自動車は、車輪スリップ量の測定、処理及び応答の所要時間フレーム(約300ミリ秒)内に安定性を失うことが分かった。従って、前記処理時間内に車輪がスリップすると自動車のコントロール性が失われる場合があり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術における問題を解決する自動車用の改善されたコントロールシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1様相によれば、車輪に伝える動力を発生するパワートレーンを持つ路上走行式自動車のコントロール方法が提供される。当該方法には、自動車の路上挙動に関するパラメータの1つ以上を測定し、測定パラメータの1つ以上に基づき車輪スリップ量を算出し、算出した車輪スリップ量を自動車の車輪スリップに関する所定スリップ閾値と比較し、車輪スリップ量が前記閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定し、車輪スリップ条件の認定時に自動車車輪へのパワートレーン付加トルク量を減少させる各ステップが含まれる。本方法には、測定パラメータの1つ以上を、自動車の車輪スリップを生じさせ得る水準を示すところの、前記測定パラメータに関する所定閾値と比較し、及び、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る状況ではパワートレーンから自動車車輪への付加トルクをコントロールして車輪のトラクションロスを防止する各ステップが更に含まれる。
【0008】
以下の説明の目的上、前記車輪スリップ閾値を超える場合のトルク低減ステップを第1ステップと称し、前記1つ以上の所定既知を超える場合のトルクコントロールステップを第2ステップと称する。第1及び第2の各ステップを並行実施することが有益である。本方法の実施に際し、第2ステップにおける測定及び処理ステップが“フィードフォワード”的であるのに対し第1ステップの各処理ステップは車輪スリップの“フィードバック”的測定に対する応答が遅いため、第2ステップに基づくトルクコントロールが先行される。
【0009】
本発明の1方法例によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝達するパワートレーンを有する路上走行式自動車のコントロール方法であって、自動車の路上挙動に関わる1つ以上のパラメータを測定し、測定パラメータまたは各測定パラメータを、当該パラメータに関する車輪スリップレベルを示す所定閾値と比較し、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合は前記パワートレーンから自動車への付加トルクをコントロールして車輪のトラクションロスを防止する各ステップを含む方法が提供される。
【0010】
本発明の他の方法例によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝達するパワートレーンを有する路上走行式自動車のコントロール方法であって、自動車の路上挙動に関わる1つ以上のパラメータを測定し、測定パラメータまたは各測定パラメータを、当該パラメータに関する車輪スリップレベルを示す所定閾値と比較し、前記測定したパラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合は、前記パワートレーンから自動車への付加トルクをコントロールして車輪のスリップを防止する各ステップを含む方法が提供される。
【0011】
念のために書き添えると、車輪スリップ防止には、車輪スリップを防止する測定値を入手することが含まれる。車輪スリップの実際的防止は本発明の方法または装置の条件範囲ではない。本発明のある方法実施例では車輪スリップが防止され得る。本発明のある方法実施例では車輪スリップ閾値を超えるスリップが防止され得る。
【0012】
本発明の他の方法によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝達するパワートレーンを有する路上走行式自動車のコントロール方法であって、自動車の路上挙動に関わる1つ以上のパラメータを測定し、測定パラメータまたは各測定パラメータを当該パラメータに関する車輪スリップレベルを示す所定閾値と比較し、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合は自動車への前記パワートレーン付加トルクを低下させるようコントロールして車輪スリップ発生率を低下させる各ステップを含む方法が提供される。
【0013】
ある方法実施例では、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合は前記パワートレーンから自動車への付加トルクを低下させるようコントロールするステップが、車輪スリップ発生率を実質ゼロにするよう付加トルクをコントロールすることを含み得る。かくして、本方法は随意的ステップとして、車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールして車輪スリップを防止するステップを含む。
当該“フィードフォワード”ステップは個別に、また本発明の先行する様相に関して先に説明した“フィードバック”ステップが無い場合に実施され得るものとする。
【0014】
車輪への前記パワートレーン付加トルクをコントロールして前記車輪スリップを防止するステップには、車輪スリップの所定閾値以上での車輪スリップ発生率を低下させるよう車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールするステップが含まれ得る。前記所定閾値は前記1つ以上のパラメータに基づくものであり得る。
車輪スリップは長手方向スリップ、横方向スリップ、正味の全発生スリップまたは長手方向及び横方向の両スリップであり得る。方法発明には、前記長手方向スリップを長手方向スリップ閾値及び横方向スリップ閾値以下に維持するよう、パワートレーン付加トルクをコントロールすることが含まれ得る。長手方向及び横方向の各スリップの閾値は相互依存性を有し得るため、車輪の横方向スリップ発生量が増大すると長手方向スリップの閾値が減少し得、車輪の長手方向スリップ発生量が増えると横方向スリップの閾値が減少し得る。
【0015】
ある実施例では自動車のトラクションコントロールは車輪の閾値以上の長手方向スリップを防止または低減するよう機能する。従って、ある実施例では車輪スリップとは長手方向スリップを意味するものとする。
ある実施例ではヨー安定性コントロール機能等の自動車安定性コントロール機能上、車輪スリップとは長手方向及び横方向の各車輪スリップの何れかまたは両方を含み得る。
【0016】
本方法は、
1つ以上の測定したパラメータに基づき車輪スリップ量を算出し、
車輪スリップ算出値を、自動車の車輪スリップに関する所定車輪スリップ閾値と比較し、
車輪スリップ算出値が前記閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定し、
車輪スリップ状況認定時には車輪へのパワートレーン付加トルクを低減させる各ステップを含むことが有益である。
当該各ステップは“フィードバック”ステップとして参照され得る。
【0017】
先に銘記した如く、先に説明した両ステップ(即ち、フィードフォワード及びフィードバックの各ステップ)の実行に際しては、車輪スリップがその閾値を超える場合に付加トルクを減少させるステップを第1ステップ(フィードバックステップ)と称し、測定パラメータの1つ以上が閾値を超える場合にトルクをコントロールするステップを第2ステップ(フィードフォワードステップ)と称する。
前記第1及び第2の各ステップを並行実施することが有益である。第2ステップの測定及び処理の各ステップが“フィードフォワード”的であり、他方、第1ステップの各処理ステップにおける車輪スリップの“フィードバック”的測定に対する応答が遅いことから、ここでも前記第2ステップに従うトルクコントロールが第1ステップに先行される。
【0018】
トルクコントロールが、測定パラメータの1つ以上が所定閾値を上回る場合、車輪へのパワートレーン付加トルク増加率を制限するステップを含むことが有益である。
代表的には本システムにおける車輪スリップ発生から有効トルクコントロールに要する応答時間は200〜500ミリ秒であり、より代表的には300ミリ秒程である。本発明によればこの時間フレーム内での、測定パラメータの1つ以上と、当該測定パラメータに関する所定閾値との比較に応答したある程度のトルクコントロールが可能となる。
【0019】
かくして本発明には、車輪スリップが高率発生する有害運転条件が素早く認定されることから、車輪スリップ量算出以前においてさえトルク増加率が制限され得る利益がある。車輪スリップ算出及び比較ステップ(第1ステップ)の実行中、車輪への付加トルクの増加率は、車輪スリップの被コントロール性を保証する必要に応じて第2ステップにより制限される。これにより、従来のトラクションコントロールシステムに生じ得る如き、車輪スリップ量の処理及び応答時間内にトラクションコントロール等のコントロールが失われる恐れが回避される。
【0020】
従って、本発明のコントロール方法によれば、パワートレーンから車輪への全付加トルク条件下でクローズ(close)コントロールが可能となる。本発明を使用しない場合、エンジンの応答能力によってはエンジントルクは、フィードバックコントロール機能による“トラクションコントロール要求”等のパワートレーン付加トルク低下要求より遅れて増大され得る。その場合、エンジンは非常に高いトルク増加率でドライバーの要求トルクレベルにいきなり到達し得る。例えば、ターボの“オフブースト”時に突然高トルク要求を出すとターボが突然“オンブースト”となった時にトルクが非常に高率下に増大するのを体験することがあろう。本発明の各実施例では、車輪スリップ量の処理及び応答(フィードバックステップ)を要することなく、必要に応じてトルク増加率を制限し得ることから前記問題は回避される。エンジントルク増大の遅延はヨー安定性コントロール機能等の安全管理機能上のパワートレーン付加トルク増大要求時にも同様に発生し得、パワートレーンに要求が届いた時点のトルク増加率が非常に高くなってしまう。ある実施例ではヨー安定性コントロール機能は、パワートレーンにスリップを防止させる要求をトラクションコントロール機能に類似様式下に呈示し得る。当該要求には、例えば上述した如きパワートレーン付加トルクの増加率を制限する効果がある。前記要求のフォーマットは、トラクションコントロール機能またはヨー安定性コントロール機能由来であるとを問わず実質同一であり得る。かくして、“トラクションコントロールリクエスト”は何れの場合も類似化される。
【0021】
トルク増加率を制限した場合でも、もっと長い時間フレーム内においてではあるが、車輪位置での要求トルクを尚、達成可能である。
トルク増加率を制限するステップは、トルク増加率制限に関する閾値を超えての自動車状況(a state of a vehicle)のずれに応じた量においてトルク増加率を制限するステップを含み得る。
当該トルク増加率制限ステップは、測定パラメータの1つ以上と、これら測定パラメータの1つ以上における相当する所定閾値との間の差に相当する量、トルク増加率を制限するステップを含み得る。トルク増加率を制限する前記量は、前記測定パラメータの1つ以上の値と前記所定閾値との差分量において増大され得る。
【0022】
自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータには、例えば、自動車の横加速度(自動車のコーナリング中の加速度の測定値)、自動車のヨーレート(自動車の回転量測定値)、自動車の直線加速度、車輪における垂直方向負荷変化量、自動車速度、ステアリングホイール切れ角、直線前方移動方向に相当しないステアリングホイール切れ角、ステアリングホイール切り込み量または角運動速度、オーバーステア量、アンダーステア量、フロントアクスルサイドスリップ量、リアアクスルサイドスリップ量、ボディサイドスリップ量、パワートレーン付加トルク量における要求レベル不足量、自動車走行路面の予想摩擦量、が含まれ得る。
【0023】
“アンダーステア”とは、コーナリングフォース(横方向力)付加時に、ドライバーのステアリングホイール回転操作方向とは逆の回転トルク(またはモーメント)が自動車に同様に付加される状況を言う。言い換えると、アンダーステアとは、ドライバーが意図する以上の曲線経路で自動車がコーナリングする状況である。アンダーステアは例えば、自動車のヨーレートが目標ヨーレート以下になること、または所定コーナリング状況での実際のステアリング切れ角が予想以上であること、により検出できる。
【0024】
“オーバーステア”とは、コーナリングフォース(横方向力)付加時に、ドライバーのステアリングホイール回転操作方向と同一方向の回転トルク(またはモーメント)が自動車に同様に付加される状況を言う。従って、オーバーステアの効果はアンダーステアのそれとは逆になる。オーバーステアは動的不安定状況であり、コントロールが失われると自動車はスピンするがアンダーステアは動的安定状況である。オーバーステアは、例えば、自動車のヨーレートが目標ヨーレート以上になること、または所定コーナリング状況での実際のステアリング切れ角が予想以下であること、により検出できる。
【0025】
ある実施例では、車輪スリップを予測するべくパワートレーン付加トルクにおける要求レベル不足量が監視される。パワートレーン付加トルクにおける要求パワートレーン付加トルク不足量の監視は有益である。なぜなら、パワートレーンのトルクが要求レベル以下であると、パワートレーンが要求レベルと実際のレベルとの間の差を減らそうとしてパワートレーン付加トルクを急増させ、かくしてトラクションロス等の車輪スリップのリスクが高まる恐れがあるからである。従って、パワートレーン付加トルクの急増はトラクションイベント損失のリスクを増大させ得る。
【0026】
ある実施例では、自動車の車輪スリップ時の表面摩擦量が算出される。前記表面摩擦量が規定値以下であれば当該値が自動車に記憶され、より大きな表面摩擦量が有効化されるまで自動車コントロールに使用(例えば、表面摩擦量を入力パラメータとして必要とする計算上)され得る。より高い表面摩擦量は、例えば、より高い表面摩擦量を示す力が付加された場合における、それ以上の車輪スリップイベントまたは車輪がスリップしないことを確認する上で有効となろう。
自動車速度の算出上、自動車の4輪全部の車輪速度を算出する必要があり得る。4輪車及び車輪数の異なる自動車において、その他の車輪速度測定値も有益であり得る。
【0027】
例えば、測定横方向加速度がトラクション損失の恐れを示す場合はトルク増加率は、車輪スリップ量をその間に決定及び処理するところの第2ステップにより制限され得る。
別の方法実施例は路面摩擦量の算出ステップを含み得、当該摩擦量が所定の摩擦閾値未満(例えば、摩擦量1、ここで1は乾燥アスファルトを表す)であれば車輪へのパワートレーン付加トルク増加率が制限され得る。
自動車の走行路面の摩擦は、車輪のスリップ開始の検出後速やかに算出され得る。
【0028】
方法実施例はその第2ステップにおいて、2つ以上の測定パラメータが前記所定閾値を超える条件下に前記トルク増加率を制限することを含むことが有益である。念のため書き加えると、ある実施例では、自動車における先に参照した第2ステップのみが実施され、第1ステップは実施されない。ある実施例では第1及び第2の各ステップの何れも実施される。
通常、ECU内では全測定信号(例えば、横方向加速度、ヨーレート、直線加速度等)の妥当性(plausibility)がチェックされることから、2つ以上の測定パラメータが所定閾値を超えた場合にトルク増加率を制限する基準を設定するのが有益である。前記測定パラメータの1つ以上が所定閾値を上回る場合は、車輪スリップの可能性が増していること及び、トルク増加率を減少させればシステム応答能力を向上させ得ることを推測し得る。
【0029】
測定パラメータと所定閾値との比較ステップには、測定パラメータと、当該パラメータの閾値との直接比較、または、あるいは、測定パラメータと、当該測定パラメータに対する閾値差を有する目標値との差の比較を含み得る。後者の場合の閾値とは、パラメータの目標値と、パラメータの、それ以下では車輪がスリップする恐れのある受け入れ可能な最大値との間の差であるところの閾値差である。
トルク増加率の制限量は、前記差分が前記閾値差を超える分量と共に増大され得る。
【0030】
ある実施例では、各測定パラメータの閾値レベル及びまたは車輪スリップ閾値は自動車の走行路面状況により変化し得る。例えば、前記閾値レベル及びまたは車輪スリップ閾値は、ユーザーがセレクタデバイスで適宜の路面特性、例えば、凍結、ウェット、またはオフロードを選択することで調整され得る。
【0031】
ある実施例では自動車は、ユーザーによる要求パワートレーン付加トルク増加率を、自動車のアクセルペダル踏み込み量を参照して監視する構成を有する。自動車は、ドライバーの要求パワートレーン付加トルク増加率に応じてのパワートレーン付加トルク出力を制限する構成を有し得る。ある実施例では自動車は、パワートレーン付加トルク出力がドライバーの要求パワートレーン付加トルク増加率を所定量、随意的には実質ゼロであるところの所定量を超えないように制限する。パワートレーン付加トルク出力増加率が制限されることで、有益には、当該パワートレーン付加トルク出力がドライバーの実際の所望量以上に増大するリスクが低減される。これは、例えば、ドライバーの要求増加率に対するパワートレーンの初期応答がドライバーの要求より遅いとドライバーに分かる場合に特に有益であり得る。パワートレーンがドライバーの要求量を早く“達成しよう”とする結果、パワートレーン付加トルク増加率はドライバーの初期要求増加率より大幅に増加され得る。しかしながら本方法発明では、パワートレーン付加トルクを入手可能であれば当該パワートレーン付加トルクを尚、急増させ得るのである。かくして、ドライバーが要求トルクを比較的急速に増加させると、パワートレーン付加トルクを入手可能なパワートレーンが当該パワートレーン付加トルクを相当量急増させ得る。
【0032】
トルク増加率は自動車における1つ以上のモード変化、例えば、1つ以上のパワートレーンモードの変更時に制限され得ることが有益である。ある実施例では、トルク増加率はパワートレーンによる駆動輪数変更時、例えば駆動輪数増大時に制限され得る。かくして、2輪駆動(例えば)モードから4輪駆動(例えば)モードに変更するとトルク増加率が制限され得る。この特徴は、ノイズ、振動及びハーシュネス(NVH)及びまたはコンポーネント損耗低減上の利益をもたらし得る。ある実施例では駆動輪数減少時にもトルク増加率が制限される。
【0033】
ある実施例では原動機と被駆動輪との間のギヤ比であるところの駆動系の比の値の変更時にトルク増加率が制限される。かくして、例えば、トランスミッションのギヤ数またはギヤ比変更中にトルク増加率が制限され得る。ある実施例では、トランスミッションの低ギヤ比シフト時及びまたは高ギヤ比シフト時にトルク増加率が制限され得る。複数の原動機を備える自動車の場合、駆動サイクル中におけるパワートレーンへのアクチュエータ結合時または駆動サイクル中におけるパワートレーンからのアクチュエータ分離時にトルク増加率が制限され得る。
【0034】
この特徴は、自動車の1つ以上の車輪へのパワートレーン付加トルクが遅延することで、ギヤチェンジ(またはパワートレーンに関するアクチュエータの結合または分離)後の、パワートレーン付加トルク入手可能時にパワートレーン付加トルクが予想外に急増しないことの保証に用い得る。パワートレーンは、パワートレーン付加トルクを入手し得ない場合はドライバーによるトルク増加要求、例えばアクセルペダル踏み込み量に相当する増加率で前記トルクを増大させる構成を有し得る。
【0035】
トルク増加率制限(またはその他のパワートレーン付加トルク減少策)は、安定性コントロールシステムの動作中に作用し得る。安定性コントロールシステムは、例えば、要求方向への自動車のヨーを誘導する適正トルクの付与時、または1つ以上の車輪を制動させた後、当該車輪を要求速度に戻す加速時等の、安定性回復のための1つ以上の車輪の加速時において比較的高いトルクレベルを要求し得る。パワートレーンが、安定性コントロールシステムからのパワートレーン付加トルク増大要求をその要求時に満たせない場合、パワートレーンが安定性コントロールシステムの要求トルク値を“達成しよう”とする時にパワートレーン付加トルク増加率が急増する可能性がある。この問題は安定性コントロールシステムがアクティブの状態下にパワートレーン付加トルク増大率を制限することにより排除または少なくとも部分的に低減され得る。これにより、安定性コントロールイベント中の自動車の円滑性が改善され得る。
ある実施例ではジャーク制御上、トルク上昇率が制限される。
【0036】
トルク増加率は、エンジンの1つ以上のシリンダにおける点火を遅延または抑制させてそれら1つ以上のシリンダへの燃料供給量を減少させる、スロットルを閉鎖する、またはターボチャージ式エンジンでは、ソレノイド等の過給制御要素を作動してブースト圧を、従ってエンジン出力を低下させることで制限し得る。トラクションモーターとして動作し得る電気機械の場合、トルク増加率は出力トルクを電子制御することで制限され得る。これら方策の1つ以上を用い、車輪スリップ状況認定時における自動車車輪へのパワートレーン付加トルクをも減少させ得る。
本発明の方法は自動車のエンジン制御ユニット(ECU)におけるソフトウェアにおいて有益に実行される。
【0037】
随意的には、自動車車輪へのパワートレーン付加トルクの制御ステップには、パワートレーンコントロール手段により、パワートレーンからの要求トルク量を、現在の実際のパワートレーン付加トルク出力を超える量をオフセットした量に制限するステップが含まれる。本ステップは、パワートレーン付加トルク増加率(パワートレーン付加トルク上昇率)の制限ステップに代えて、またはそれに加えて実施され得る。
オフセット量は、測定パラメータの1つ以上が所定閾値を超える量に応じて決定され得る。
ドライバーによるパワートレーン付加トルク要求量は、車輪がスリップしない状況下にパワートレーンが伝達し得る量以上に上昇し得る。従って、パワートレーンの要求トルク量は、パワートレーンによる現在の要求トルク量を上回る量をオフセットした量に制限され得る。この点は、パワートレーンの伝達トルク量が、車輪を過剰にスリップさせるレベルに増大されるリスクを減少させる上で利益がある。
【0038】
パワートレーン付加トルクは、例えば、ドライバーが突然トルク増大を要求すると、車輪スリップを防止するべくパワートレーン付加トルクを減少(トラクションコントロールまたは安定性コントロールシステムにより)させるための自動車からの要求が間に合わず、パワートレーン付加トルクが急上昇する可能性がある。パワートレーンのコントロール手段に提供する、該パワートレーンが前記コントロール手段の制御下に伝達するトルク量であるところのパワートレーン付加トルク要求量を、現在のパワートレーン出力量を所定量において上回る量に制限することで、パワートレーン出力量が車輪スリップ発生量となる恐れを減少させ得る。ある実施例ではこの特徴により車輪スリップ発生率が低減される。かくして、少なくとも部分的にはパワートレーン要求トルク量が伝達出力トルク量を所定量以上超えないことを理由として、パワートレーン出力トルク増大率が比較的大きく上昇する恐れが低減され得る。前記所定量は、自動車の路上挙動に関連する1つ以上のパラメータに応じたものであり得る。
【0039】
従ってパワートレーンは、自動車の制御システムが、車輪スリップ発生率減少上の、またある構成では車輪スリップ発生防止上のドライバーの要求に応える時間がある場合に限り、ドライバーのトルク要求に応じ得る。かくして、パワートレーンは、ECUに関わる応答制限及び制動圧発生及びまたはパワートレーンのトルク増減に関するシステム応答制限内での制約下に作動して自動車運転を最適制御及びまたは改善する。
【0040】
ある自動車コントロールシステムは、エンジンコントロールユニット(ECU)等のパワートレーンコントローラへのトルク減少要求メッセージの提供を許容する。当該メッセージは、ある瞬間にパワートレーンが伝達し得る最大パワートレーン付加トルク量に相当し得る。トルク減少要求量が現在のパワートレーン付加トルク量以下である場合、コントローラはパワートレーン付加トルクをトルク減少要求量に引き下げる。トルク減少要求量が現在のパワートレーン付加トルク量以上である場合はパワートレーン付加トルクは低下されない。
随意的にはパワートレーン付加トルク量制限値を、増加率が所定率を超えないよう自己制限される量で増大させ得る。
【0041】
ある実施例ではパワートレーンの許容最大トルク量は自動車の路上挙動に関連する1つ以上のパラメータ値に応じて実質的に連続的に決定される。前記許容最大トルク量は、それ以上では車輪が過剰スリップを起こす恐れのある量に相当し得るが、当該許容最大トルク量はその他方法によっても有益に定義される。自動車は、パワートレーン付加トルク出力量が許容最大トルク量または当該許容最大トルク量に相当するまたは関連量に達し得ると判定すると、トルク減少要求(例えば、パワートレーン付加トルクの許容最大量を設定する)を出し、かくして車輪へのパワートレーン付加トルクを、トラクションロス等の車輪スリップが防止されるようコントロールする。
【0042】
ある実施例では、トルク減少要求量は、最大値を上回るパワートレーン付加トルクが制限発生率下に生じることが保証されるように設定される。前記発生率は、ある実施例ではトルク減少要求量を制限率下に増大させることで制限され得る。
ある実施例では前記方法発明には、自動車の動的状態に従うパワートレーン付加トルクの適応フィルタリングが含まれる。前記動的状況は測定パラメータの1つ以上を参照して決定され得る。従って、適応フィルタリングは測定パラメータの1つ以上が所定閾値を上回る条件下に実施され得る。
【0043】
かくして、パワートレーン付加トルクは測定パラメータの1つ以上の値に応じてフィルタリングされ得る。従って、ドライバーによる加速コントロール入力に対するパワートレーンの応答頻度が緩和され得る。ある実施例ではローパスフィルタリングが採用され得る。
ある実施例では、ドライバーによるトルク要求(需要)入力は、パワートレーンの実際のトルク要求量が、相当するドライバーの要求量に即座にではなく遅延して追従するようフィルタリングされる。
【0044】
ある実施例では、ヨー安定性コントロール機能あるいはその他の安定性コントロール機能が、測定パラメータの1つ以上を監視するよう動作自在であり、当該監視には例えば、自動車のステアリングレスポンスの監視が含まれ得る。ステアリングレスポンスが所定量以上に非直線化すると、システムが車輪へのパワートレーン付加トルクを制御してスリップを防止させ得る。ある実施例では自動車はアンダーステア認定係数を監視する。アンダーステア認定係数がアンダーステア量が所定量を超えたことを示すと、システムが車輪へのパワートレーン付加トルクを制御してスリップを防止させ得る。
ある実施例では、システムがパワートレーン出力トルクにおけるトルク増加率を制限し、かくしてパワートレーン出力トルクにおいて可能とされる増加率を制限して車輪スリップを防止する。これにより、安定性コントロールシステムが、自動車を不安定化するパワートレーン付加トルクの増大に十分素早く応対し得なくなるリスクが減少する。ヨー安定性コントロール機能の場合、不安定性はヨー不安定性であり得る。
【0045】
本発明の1様相によれば、先行する様相に記載された方法発明を実施するためのトラクションコントロールシステムまたは装置であって、自動車の路上挙動に関わる1つ以上のパラメータを測定する手段と、測定パラメータまたは各測定パラメータに基づき車輪スリップ量を算出する手段と、算出した車輪スリップ量を自動車の車輪スリップに対する所定の車輪スリップ閾値と比較し、車輪スリップ測定量が車輪スリップ閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定する手段と、車輪スリップ状況認定時に自動車車輪へのパワートレーン付加トルクを減少させる手段と、を含む装置が提供される。本装置は、1つ以上の前記測定パラメータを該測定パラメータに関する、自動車の車輪スリップが生じ得るレベルを示す所定閾値と比較する手段と、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合に自動車の車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールし、かくして車輪のトラクションロスを防止する手段と、を更に含む。
【0046】
本発明の更に他の様相によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝えるパワートレーンを有する路上走行式自動車用の自動車コントロール装置であって、自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータを測定する手段と、測定パラメータの1つ以上を、該測定パラメータに関する自動車の車輪スリップが発生し得るレベルを示す所定閾値と比較する手段と、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る条件下において自動車車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールし、かくして車輪スリップを防止する手段と、を含む装置が提供される。
【0047】
本発明の更に他の様相によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝えるパワートレーンを有する路上走行式自動車用の自動車コントロール装置であって、自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータを測定する手段と、測定パラメータの1つ以上を、該測定パラメータに関する自動車の車輪スリップが発生し得るレベルを示す所定閾値と比較する手段と、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る条件下において自動車車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールし、かくして車輪スリップの発生率を減少させる手段と、を含む装置が提供される。
【0048】
前記装置は有益には、測定パラメータまたは各測定パラメータに基づき車輪スリップ量を算出する手段と、算出した車輪スリップ量を自動車の車輪スリップに関する所定車輪スリップ閾値と比較し、測定車輪スリップ量が前記車輪スリップ閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定する手段と、車輪スリップ状況認定時に自動車車輪へのパワートレーン付加トルクを減少させる手段と、を更に含む。
前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る条件下において自動車車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールする手段が、パワートレーンから自動車車輪への付加トルク増加率を制限する手段を含むことが好ましい。
前記装置は代表的には、本発明の前記算出及び比較の各ステップを実行するエンジンコントロールユニット(ECU)を含む。
【0049】
本発明は、その実行環境下において本発明の前記各様相に従う方法の1つ以上のステップを実行し得る少なくとも1つのコンピュータプログラムの一部または各部分を有するデータ保存媒体に拡張され得る。本発明は前記データ保存媒体を備えるマイクロコンピュータにも関する。
本発明の各実施例は電気自動車やハイブリッド型電気自動車のみならず、内燃ピストン式エンジン等のエンジンによってのみ駆動される非ハイブリッド型自動車の各用途において有益である。内燃機関等の燃料燃焼式アクチュエータに加えて電気機械を有する各実施例において、パワートレーン付加トルクをコントロールするとは、燃料燃焼式アクチュエータに加えて1つ以上の原動機から伝達されるトルク量のコントロールを含み得る。各実施例においてパワートレーン付加トルクは、パワートレーン応答要求を提供する要求に応じた1回以上の異なる時間において、1つ以上の異なるアクチュエータから付加され得る。
【0050】
電気モータまたはモーター/発電機等の電気的アクチュエータ由来でありえるトルクの突発的変化によるハーシュネスを防止または減少させるためのトルク増加率限界を使用し得る。
本発明の1様相によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝えるパワートレーンを有する路上走行式自動車用のトラクションコントロール方法であって、自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータを測定すること、測定パラメータの1つ以上に基づき、車輪スリップ測定量を算出すること、算出した車輪スリップ測定量を自動車の車輪スリップに関する所定閾値と比較すること、測定車輪スリップ量が前記車輪スリップ閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定し、車輪スリップ状況認定時に自動車の車輪へのパワートレーン付加トルクを減少させることを含み、前記測定パラメータまたは各測定パラメータを、自動車の車輪スリップが発生し得るレベルを示すところの前記測定パラメータに関する所定閾値と比較すること、測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合はパワートレーンから自動車への付加トルクをコントロールして車輪のトラクションロスを防止すること、を更に含む方法が提供される。
【0051】
本発明の更に他の様相によれば、動力を発生し、発生動力を車輪に伝えるパワートレーンを有する路上走行式自動車用のトラクションコントロール装置であって、自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータを測定する手段と、測定パラメータの1つ以上に基づき、車輪スリップ測定量を算出する手段と、算出した車輪スリップ測定量を自動車の車輪スリップに関する所定閾値と比較し、測定車輪スリップ量が前記車輪スリップ閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定する手段と、車輪スリップ状況認定時に自動車の車輪へのパワートレーン付加トルクを減少させる手段とを含み、前記測定パラメータまたは各測定パラメータを、自動車の車輪スリップが発生し得るレベルを示すところの前記測定パラメータに関する所定閾値と比較する手段と、測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合はパワートレーンから自動車への付加トルクをコントロールして車輪のトラクションロスを防止する手段と、を更に含む装置が提供される。
本発明の第1様相の好ましい及びまたは随意的な各特徴は、単独でまたは適宜組み合わせにおいて本発明の第2様相にも含まれ得るものとする。
【発明の効果】
【0052】
従来技術における問題を解決する自動車用の改善されたコントロールシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の1実施例に従うトラクションコントロールシステムの略ブロックダイヤグラム図である。
【図2】図1のトラクションコントロールシステムにより実行される各方法ステップを例示するフローダイヤグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1に示すトラクションコントロールシステムは4つの駆動輪を有する自動車で実施する場合に好適であるが、本発明のある実施例ではその他駆動輪数においても有益であり得る。本システムは、各車輪に1つの計4つの車輪センサ2、4、6、8を含み、各センサは自動車速度計算機10の形態の速度算出手段に結合される。自動車速度計算機10は、コントローラ14として参照するエンジンコントロールユニット(ECU)に測定速度を提供する第1出力信号12を提供する。自動車速度計算機10は以下に説明する第2出力信号16を介し、コントローラに車輪スリップ量をも提供する。
【0055】
自動車にはその路上挙動に関する種々のパラメータを測定する複数のセンサも設けられる。自動車は、第3出力信号としての自動車回転信号20をコントローラに提供するヨーレートセンサ18と、第4出力信号としての横方向加速度信号24をコントローラに提供する加速度センサ22とを含む。
ドライバー要求信号26がスロットルペダル位置センサ28からコントローラ14に送るのに応じてコントローラが自動車のパワートレーン32にエンジントルク要求信号30を送り、かくして要求トルクを発生させ、発生した要求トルクを自動車車輪に伝達させる。エンジントルク要求信号30は、例えば、エンジンのスロットルをコントロールするまたは駆動輪に制動力を付加することによりパワートレーン付加トルク要求を緩和させるために使用される。
【0056】
自動車速度計算機10は、最も遅い車輪の速度または2輪以上の車輪の平均速度として自動車速度を算出して自動車速度値を決定する構成を有する。車輪スリップ量は各車輪速度を算出した自動車速度と比較して決定される。コントローラ14には所定の車輪スリップ閾値が保存され、第2出力信号としての車輪スリップ量信号16を車輪スリップ閾値と常に比較し、車輪スリップ緩和のためのトルク緩和を要する状況であるか否かを決定する。車輪スリップ量信号16の値が車輪スリップ閾値を上回ると車輪スリップ状況と認定され、パワーと連から車輪への付加トルクが緩和され、かくして車輪スリップ開始が、またはそれ以上の車輪スリップ発生が防止される。
本発明の好ましい実施例における各プロセスステップを図2のフローダイヤグラム図を参照して以下に説明する。
【0057】
エンジン使用時はコントローラ14は当該コントローラに入力される自動車速度、ヨーレート、横方向加速度の各信号値を監視し続ける。コントローラ14にはこれら各パラメータに関する、トラクションコントロールが要求され得る以前の受け入れ可能な最小レベルを表す所定閾値が保存される。測定パラメータが前記最小閾値レベルを超える場合は自動車車輪への付加トルクが、例えば、パワートレーン付加トルクのトルク増加率を制限することによりコントロールされる。当該コントロールは、例えば、エンジン入力を絞る及びまたは車輪に制動力を加えてトラクションコントロールロスを防止することで達成し得る。
【0058】
別の実施例では、入力信号の値をパラメータに関する閾値と直接比較するのではなくむしろ、入力信号測定値と前記入力信号に関する目標値との差を、車輪スリップのリスクが生じる前の、安全と考えられる、前記目標値からの最大差を表すところの所定閾値差と比較し得る。入力信号の測定値と目標値との差が前記所定閾値差を超える場合はパワートレーン付加トルク増加率を、例えば、エンジン入力を絞る及びまたは車輪に制動力を加えることで制限し、かくしてトラクションコントロールロスを防止する。
【0059】
横方向加速度信号24について先ず説明すると、コントローラ14はこの横方向加速度信号24を横方向加速度閾値と比較し、当該閾値が大きい(または所定閾値差が大きい)場合はパワートレーン32にエンジントルク要求信号30を出力し、パワートレーン32内のトルク増加率を、例えば、エンジンスロットを絞るまたは車輪に制動力を加えて制限させることで制限する。同様に、ヨーレート信号としての自動車回転信号20については、コントローラは当該自動車回転信号20を自動車回転閾値と比較し、当該閾値が大きい場合は、やはりパワートレーン32にエンジントルク要求信号30を出力し、当該パワートレーン32内のトルク増加率を制限させる。コントローラ14は、当該コントローラに入力される全ての信号12、16、20、24に関する比較を実行し、これら信号の任意の1つ以上が相当する閾値を上回る場合はパワートレーン内のトルク増加率を制限するようプログラムされ得る。
【0060】
上述した各方法ステップとの組み合わせにおいて、自動車速度計算機10は自動車速度を計算し続け、コントローラ14は個々の車輪の測定速度に基づき車輪スリップ量を決定し続ける。図2に例示する如く、これらの測定値は、上述した如く、サンサーに入力する信号12、16、20、24の処理及びこれら信号12、16、20、24と各閾値との比較と並行処理される。
【0061】
第1には自動車速度計算機10における自動車速度決定中の、また第2にはコントローラ14における、測定自動車速度に基づく車輪スリップ量の算出及び車輪スリップ閾値と車輪スリップ量との比較における、2つの処理に伴う時間的遅延が発生する。車輪スリップ算出及び比較の各ステップを尚処理中である状況下に車輪スリップ状況が発生すると安定性コントロールが失われる恐れがある。しかしながら、この遅延時間中に横方向加速度信号24が横方向加速度閾値より大きく及びまたは自動車回転信号20が自動車回転閾値より大きいと判定されると、パワートレーン内のトルク増加率は尚、制限される。このように、車輪スリップ量算出及び比較の各ステップの処理及び実施中における、そうでない場合は安定性が失われ得る恐れが回避され、かくして自動車のトラクションコントロールが改善される。
【0062】
更なる改善策として、自動車には路面ピッチに関する追加情報をコントローラに提供し得、かくして自動車の加速度及び速度の別の測定源を提供する長手方向加速度センサをも設け得る。自動車回転率センサも設け得る。長手方向加速度センサ及びまたは回転率センサからの各出力値はコントローラに提供され、かくして先に説明したと類似様式下での、パワートレーン付加トルク増加率制限ステップを開始用に使用され得る。
以上説明した各実施例は例示目的上のものであってこれに限定しようとするものでは無い。説明した各実施例は単独でまたは組み合わせて使用され得る。
本件出願は、2010年12月2日付で提出された英国特許出願番号第1020440.2の優先権を主張するものであり、その全内容はここでの参照により本明細書に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0063】
2 車輪センサ
10 自動車速度計算機
12 第1出力信号
14 コントローラ
16 車輪スリップ量信号
18 ヨーレートセンサ
20 自動車回転信号
22 加速度センサ
24 横方向加速度信号
26 ドライバー要求信号
28 スロットルペダル位置センサ
30 エンジントルク要求信号
32 パワートレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を発生し、発生した動力を自動車の車輪に伝達するパワートレーンを有する路上走行式自動車のコントロール方法であって、
自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータを測定すること、
各測定パラメータを、該測定パラメータに関する、自動車の車輪スリップが発生し得るレベルを示す所定閾値と比較すること、
測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合は車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールして車輪スリップ発生率を減少させること、
を含む方法。
【請求項2】
前記測定パラメータの1つ以上に基づき車輪スリップ量を算出すること、
測定した車輪スリップ量を自動車の車輪スリップに関する所定の車輪スリップ閾値と比較すること、
前記車輪スリップ量が前記車輪スリップ閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定すること、
車輪スリップ状況の認定時に自動車への前記パワートレーン付加トルクを減少させること、
を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定パラメータの1つ以上が所定閾値を上回る場合は車輪へのパワートレーン付加トルク増加率を制限することを更に含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定パラメータの2つ以上が所定閾値を上回る場合は車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールすることを含む請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータには、
自動車の横方向加速度、自動車のヨーレート、自動車の直線的加速度、車輪上の垂直方向負荷の変動、自動車の速度、ステアリングの切れ角、ステアリングの、自動車の前方直線移動方向に相当しない切れ角、自動車のステアリングの角速度、オーバーステア、アンダーステア、フロントアクスルサイドスリップ、リアアクスルサイドスリップ、ボディサイドスリップ、パワートレーントルクにおける、パワートレーントルク要求レベル不足量、自動車の走行路面の予想摩擦量、が含まれる請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記測定パラメータの各々に関する所定閾値が自動車の走行路面条件に依存して変化する請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記車輪スリップ閾値が、自動車の走行路面条件に依存して変化する請求項2または請求項3〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
所定閾値及びまたは車輪スリップ閾値が、自動車の走行路面特性に依存してのユーザー入力により調節される請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
測定パラメータを所定閾値と比較するステップが、前記測定パラメータと前記パラメータに関する閾値との直接比較を含む請求項1〜8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
測定パラメータを所定閾値と比較するステップが、前記測定パラメータとパラメータに関する目標値との差分を前記パラメータに関する閾値差と比較することを含む請求項1〜8の何れかに記載の方法。
【請求項11】
車輪へのパワートレーン付加トルクを減少させるステップ及び車輪へのパワートレーン付加トルクをコントロールするステップの各々が、
(i)エンジンの1つ以上のシリンダにおける点火を遅延または先行させること、
(ii)前記1つ以上のシリンダへの燃料供給を減少させること、
(iii)自動車車輪の1つ以上に制動を掛けること、
(iv)スロットルを閉じること、
(v)ターボチャージ式エンジンにおいては、ブースト圧コントロールソレノイドを作動させてエンジン出力を減少させること、
(vi)電気機械のトルク出力を電子制御すること、
を含む請求項1〜10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
トラクションコントロール、安定性コントロール、ヨー安定性コントロールの少なくとも1つから選択したものにおける方法である請求項1〜11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
路面走行用の、動力を発生し、発生動力を自動車車輪に伝える自動車パワートレーンを有する自動車用のコントロール装置であって、自動車の路上挙動に関する1つ以上のパラメータを測定する手段と、測定パラメータの1つ以上を該測定パラメータに関する、自動車の車輪スリップが発生し得るレベルを示す所定閾値と比較する手段と、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合は車輪へのパワートレーン付加トルクを制御して車輪スリップの発生率を減少させる手段と、を含む装置。
【請求項14】
前記測定パラメータまたは各前記測定パラメータに基づき、車輪スリップ量を算出する手段と、前記車輪スリップ量を自動車の車輪スリップに関する所定車輪スリップ閾値と比較し、車輪スリップ量が前記閾値を上回る場合は車輪スリップ状況と認定する手段と、車輪スリップ状況認定時に車輪へのパワートレーン付加トルクを減少させる手段と、を含む請求項13の装置。
【請求項15】
前記パワートレーンのトルク付加をコントロールする手段が、前記測定パラメータの1つ以上が前記所定閾値を上回る場合に車輪へのパワートレーン付加トルク増加率を制限する手段を含む請求項13または14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−116475(P2012−116475A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−264809(P2011−264809)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【出願人】(507316790)
【Fターム(参考)】