説明

自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを運転するための方法及び装置

【課題】NOxガスの生成を抑制し、かつ自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを更に経済的に運転すべく同エンジンの効率を改善すること。
【解決手段】内燃式往復ピストン・エンジンの少なくとも1つの状態変数をセンサ10を用いて測定する。更に、燃料噴射装置3の噴射開始と、吸気弁5または排気弁4の開放及び閉鎖の少なくともいずれか一方の開始とを上部負荷領域内における負荷の関数としての燃焼室内の圧縮圧が一定またはほぼ一定となるよう前記の少なくとも1つの状態変数に基づいて調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを部分負荷領域内において運転する方法と、同方法に基づいて自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを運転するための装置と、前記の方法に基づいて運転されるか、または前記の装置を有する自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンとに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル・エンジン等の大型自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンは部分負荷で運転した際の運動効率は低い。欧州特許第0316271号はシリンダ空間内への燃料の噴射開始時期をクランクシャフト角度に関連して特定の範囲内で変更することにより、ディーゼル・エンジンの効率を改善することを開示している。これにより、効率の改善は狭い部分負荷領域内において実現され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、NOx(窒素酸化物)ガスの生成を抑制し、かつ自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを更に経済的に運転すべく同エンジンの効率を改善することにある。特に、内燃式往復ピストン・エンジンは更に広い部分負荷領域において更に高い効率にて運転することが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に基づく自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを運転するための装置は同エンジンの少なくとも1つの状態変数をセンサを用いて測定し、燃料噴射装置の噴射開始と、吸気弁または排気弁の開放及び閉鎖の少なくともいずれか一方の開始とを上死点における燃焼室内の圧縮圧、即ち燃焼中に形成される燃焼室内の最大圧力が上部負荷領域内で負荷の関数として一定またはほぼ一定の値を有するよう前記の少なくとも1つの状態変数に基づいて調整することにより運転される。
【0005】
本発明の方法は内燃式往復ピストン・エンジンを部分負荷で運転する際に同エンジンの働きを改善する。従って、本発明の方法は部分負荷補助と称し得る。本発明に基づく方法により、上死点における圧縮圧、即ちシリンダの内部空間内で形成される最大圧力は公称負荷の約50〜100%の範囲内にある上部部分負荷領域内で一定またはほぼ一定に維持される。特に、ほぼ同一の圧力が公称負荷における上部負荷領域内で形成される。この結果、効率を上部負荷範囲内で改善し得る。センサは内燃式往復ピストン・エンジンの複数の状態変数、即ち、ブースト圧力と、シリンダ内の最大圧力と、任意のクランクシャフト角度におけるシリンダ内の圧力と、エンジン出力と、エンジンの回転速度と、ターボチャージャーの回転速度と、コンプレッサの後における温度と、ブースト・エア・クーラの後における温度と、燃焼用空気の量と、タービンの前における排気ガス温度と、タービンの後における排気ガス温度と、燃料の量とのうちの少なくともいずれか1つを測定する。
【0006】
2ストローク内燃式往復ピストン・エンジンでは、燃料噴射装置以外に排気弁を制御する。4ストローク内燃式往復ピストン・エンジンでは、燃料噴射装置以外に、吸気弁及び排気弁の少なくともいずれか一方を制御する。燃料噴射装置と、吸気弁及び排気弁の少なくともいずれか一方とを制御することにより、広い部分負荷領域、即ち前述した上部負荷領域内での一定圧力の形成が可能であり、これにより従来のエンジンより高い効率を実現する。
【0007】
燃焼中に形成されるNOxガスの量は出力に対する最大圧力の割合等に依存する。出力を低下させ、かつ上部負荷領域内における圧力を一定に維持した場合、部分負荷で更に多量のNOxガスが形成される。更に多量のNOxガスの形成は、燃料及び水からなるエマルジョンを燃料噴射装置を通じて燃焼のためのシリンダ空間内へ供給することにより防止可能である。エマルジョンに含まれる水及び燃料の混合比は混合装置により広範にわたって変更可能であり、特に、同混合比は測定された状態変数に基づいて制御し得る。部分負荷での効率を改善する本発明の方法及びエマルジョンを併用する効果としては、内燃式往復ピストン・エンジンの上部負荷領域内での効率の改善及びNOxガス生成量の低減が挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NOxの生成を抑制し、さらには自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンの効率を改善して同エンジンの経済的運転を可能にするという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1(a)は自己着火型4ストローク内燃式往復ピストン・エンジン2の概略を示す側面図であり、同エンジン2は低速大型ディーゼル・エンジンとして形成されている。内燃式エンジン2は連続して配置された複数のシリンダを有するシリンダ・ハウジング6を有し、同複数のシリンダはクランクシャフト・ハウジング7内に配置されたクランクシャフト9aに協働して作用する。燃料は供給管路3aを通じて噴射ポンプ3に供給され、さらには管路3b及び噴射ノズル3cを通じてシリンダ・ハウジング6の燃焼室内へ噴射される。更に、4ストローク・ディーゼル・エンジン2は吸気弁5及び排気弁4を有する。
【0010】
図1(b)は自己着火型2ストローク内燃式往復ピストン・エンジン1の概略を示す側面図であり、同エンジン1は低速大型ディーゼル・エンジンとして使用される。内燃式エンジン1は連続して配置された複数のシリンダを有するシリンダ・ハウジング6を有し、同複数のシリンダはクランクシャフト・ハウジング7内に配置されたクランクシャフト9aに協働して作用する。燃料は供給管路3aを通じて噴射ポンプ3に供給され、さらには管路3b及び噴射ノズル3cを通じてシリンダ・ハウジング6の燃焼室内へ噴射される。更に、2ストローク・ディーゼル・エンジン1は既燃ガスに対する排気弁4を有する。
【0011】
図2(a)は制御装置8とともに図1(a)に示す4ストローク・ディーゼル・エンジン2を示す。制御装置8は電気的接続線8a,8b,8dを介して排気弁4、吸気弁5及び噴射ポンプ3をそれぞれ制御する。更に、クランクシャフト9aの瞬間角度は回動角度センサ9によって測定され、さらには電気的接続線8eを介して制御装置8へ出力される。センサ10はシリンダ6内の最大圧力または任意のクランクシャフト角度におけるシリンダ6内の圧力、特にシリンダの上死点における圧縮圧等、少なくとも1つの状態変数を測定する。センサ10が測定した測定値は電気的接続線8cを介して制御装置8へ供給される。
【0012】
図2(b)は制御装置8とともに図1(b)に示す2ストローク・ディーゼル・エンジン1を示す。制御装置8は電気的接続線8a,8dを介して排気弁4及び噴射ポンプ3をそれぞれ制御する。更に、クランクシャフト9aの瞬間角度は回動角度センサ9によって測定され、さらには制御装置8へ出力される。センサ10は少なくとも1つの状態変数を測定し、同状態変数を電気的接続線8cを介して制御装置8へ供給する。各種の状態変数を測定し、かつ同状態変数を制御装置8へ供給すべく、ディーゼル・エンジン1,2に対して複数のセンサを取付け得る。
【0013】
図3(a)はディーゼル・エンジン1,2における負荷、即ちエンジン出力と、燃焼室内の圧力との関係から本発明の方法の効果を示す。直線11aは部分負荷補助を使用しない場合の上死点での圧縮圧をエンジン出力、即ち負荷の関数として示す。直線11bはディーゼル・エンジンを本発明の方法に基づいて運転した際の上死点での圧縮圧をエンジン出力の関数として示す。4ストローク・ディーゼル・エンジン2において、制御装置8は圧縮圧を上部負荷領域II内において一定の値とし、さらには下部負荷領域内において直線的に低下させるべく噴射ポンプ3、吸気弁5及び排気弁4をそれぞれ制御する。2ストローク・ディーゼル・エンジン2は圧縮圧11bが同様に上部負荷領域II内において一定の値を示し、かつ下部負荷領域内において直線的に低下するよう噴射ポンプ3及び排気弁4を作動させることにより運転される。直線11cは部分負荷補助を使用しない場合に燃焼室内で形成される最大圧力の変動をエンジン出力、即ち負荷の関数として示す。曲線11dは本発明の方法に基づいてディーゼル・エンジンを運転した際に燃焼室内で形成される最大圧力をエンジン出力の関数として示す。曲線11b,11dが上部負荷領域IIにおいて一定またはほぼ一定に推移するよう排気弁4及び吸気弁5の少なくともいずれか一方と、噴射ポンプ3とをクランクシャフト角度9b、即ち時間に関連して制御する。
【0014】
図3(b)はディーゼル・エンジン1,2の負荷、即ちエンジン出力と、燃焼によって形成されたNOxガスの量との関係を示す。部分負荷補助を使用しない場合、形成されたNOxガスの割合は上部負荷領域II内においてほぼ一定に維持される。図3(a)に基づいて運転し、かつ一定またはほぼ一定の圧力を上部負荷領域II内で形成する部分負荷補助を使用した場合、曲線12aに示すように部分負荷の低下に伴ってNOxガスの割合が増大する。部分負荷におけるNOxガスの割合の増大は生態学的理由から好ましくない。この結果、本発明に基づく方法の特に好ましい実施の形態では、燃料及び水からなるエマルジョンを使用している。エマルジョンは噴射ポンプ3へ供給され、かつ噴射ノズル3cを通じてシリンダ空間内へ噴射される。曲線12cは曲線11b,11dに示す効果を有する部分負荷補助と、燃料及び水からなるエマルジョンとを使用した場合の上部負荷領域II内でのNOxガスの割合を負荷の関数として示す。生態学的理由から、図3(a)に基づいて本発明の方法を燃料及び水からなるエマルジョンと組み合わせて使用することは効果的である。
【0015】
図4は噴射ポンプ3からの送出し量をエンジン出力の関数として示す。直線aは従来の方法に基づいて運転される噴射ポンプを示す。この場合、輸送された全ての流体は燃料のみからなり、同輸送された流体の量はエンジン出力に基づいて変化する。直線bは水及び燃料からなるエマルジョンをエンジン出力の関数として混合し、かつ輸送する効果的な方法を示す。センサは内燃式ディーゼル・エンジンのエンジン出力を測定する。全負荷の約0〜50%内にある低いエンジン出力領域 I内において、輸送された燃料の量aに比例する量の水が混合される。この結果、噴射ポンプ3へ輸送される水及び燃料からなるエマルジョンの量は直線bに示す量に一致する。点Sから最大エンジン出力Mmaxまでの上部負荷領域IIにおいて、噴射ポンプ3へ輸送されるエマルジョンの量(曲線b)は一定に維持される。燃料の量は曲線aに基づいてエンジン出力の関数として変化する。そして、水及び燃料からなるエマルジョンの正味量を一定またはほぼ一定に維持すべく水の添加量が制御される。図4に示すエンジン出力の関数としての上部負荷領域IIにおける燃料及び水の混合比は例示を目的とするのみである。混合比はNOxガスの量を効果的に低下させるべく曲線aとは異なる方法で変化させ得る。
【0016】
図5は燃料及び水からなるエマルジョンを混合及び輸送するための装置30の概略を示す。内燃式ディーゼル・エンジンの状態を測定するセンサ10は信号線8aを通じて制御装置8に接続されている。2つの送出しポンプ21,22の回転速度は信号線20a,20bを通じて制御装置8によって予め特定される。燃料は燃料を充填したタンク25から管路3d及び送出しポンプ21を通じて乳化装置23へ供給される。水は水を充填したタンク24から管路3e及び送出しポンプ22を通じて乳化装置23へ供給される。乳化装置23は水及び燃料を混合して水及び燃料からなるエマルジョンを形成する。混合方法の詳細な説明は省略する。エマルジョンは管路3aを通じて噴射ポンプ3へ供給され、さらには管路3b及び噴射ノズル3cを通じてシリンダ・ハウジング6内に位置するシリンダのシリンダ空間内へ噴射される。制御装置8はセンサ10を監視し、さらには図2(a)または図2(b)に示す他の構成部品を監視し、かつ制御する。
【0017】
以上、詳述したように、本発明はシリンダの内部空間内において広い上部負荷領域内での一定圧力の形成を可能とし、これによりエンジンの効率を改善し、かつ同エンジンの経済的な運転を可能にする。更に、本発明の方法と一緒に燃料及び水からなるエマルジョンを使用することにより、NOxガスの生成を抑制可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)4ストローク内燃式往復ピストン・エンジンの概略図。(b)2ストローク内燃式往復ピストン・エンジンの概略図。
【図2】(a)センサ及び制御装置とともに図1(a)のエンジンを示す概略図。(b)センサ及び制御装置とともに図1(b)のエンジンを示す概略図。
【図3】(a)負荷/エンジン出力及び燃焼室内圧力の関係を示すグラフ。(b)負荷/エンジン出力及びNOxガス形成の関係を示すグラフ。
【図4】負荷/エンジン出力の関数としてのエマルジョン組成物間の関係を示すグラフ。
【図5】エマルジョンを形成する装置。
【符号の説明】
【0019】
1…自己着火型2ストローク内燃式往復ピストン・エンジン、2…自己着火型4ストローク内燃式往復ピストン・エンジン、3…燃料噴射装置、4…排気弁、5…吸気弁、8…制御装置、8a,8b,8d…制御線、8c…電気的接続線、10…センサ、21,22…送出しポンプ、30…エマルジョンを形成する装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンを部分負荷領域内において運転する方法であって、前記内燃式往復ピストン・エンジンの少なくとも1つの状態変数がセンサ(10)を用いて測定する工程と、燃料噴射装置(3)の噴射開始と、吸気弁(5)または排気弁(4)の開放及び閉鎖の少なくともいずれか一方の開始とを上部部分負荷領域内における負荷の関数としての燃焼室内の圧縮圧が一定またはほぼ一定となるよう少なくとも1つの状態変数に基づいて調整する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンは2ストローク・サイクルであり、燃料噴射装置(3)の噴射開始と、排気弁(4)の閉鎖の開始とを制御する工程を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自己着火型内燃式往復ピストン・エンジンは4ストローク・サイクルであり、燃料噴射装置(3)の噴射開始と、吸気弁(5)の開放及び閉鎖の少なくともいずれか一方の開始とを制御する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された状態変数は以下のパラメータ、即ち、
ブースト圧力と、
シリンダ内の最大圧力と、
任意のクランクシャフト角度におけるシリンダ内の圧力と、
エンジン出力と、
エンジンの回転速度と、
ターボチャージャーの回転速度と、
コンプレッサの後における温度と、
ブースト・エア・クーラの後における温度と、
燃焼用空気の量と、
タービンの前における排気ガス温度と、
タービンの後における排気ガス温度と、
燃料の量と
のうちの少なくともいずれか1つを含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記内燃式往復ピストン・エンジンを水及び燃料からなるエマルジョンを用いて運転する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エマルジョンの量と、エマルジョン内に含まれる水及び燃料の割合との少なくともいずれか一方を前記状態変数に基づいて変更する工程を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記上部部分負荷領域は全負荷の50〜100%の範囲にある請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
部分負荷における効率を増大すべく自己着火型内燃式往復ピストン・エンジン(1,2)を運転するための装置であって、状態変数を測定するためのセンサ(10)及び燃料噴射装置(3)と、吸気弁(5)及び排気弁(4)の少なくともいずれか一方とを有し、制御装置(8)を電気的接続線(8c)を介して前記センサ(10)に接続し、さらには制御線(8a,8b,8d)を介して燃料噴射装置(3)、並びに吸気弁(5)及び排気弁(4)の少なくともいずれか一方に接続した装置。
【請求項9】
水及び燃料からなるエマルジョンを形成する装置(30)を燃料噴射装置(3)に接続し、前記装置(30)はエマルジョンの量、並びにエマルジョンに含まれる水及び燃料の割合の少なくともいずれか一方を制御可能とすべく前記制御装置(8)による制御が可能な送出しポンプ(21,22)を有する請求項8に記載の装置。
【請求項10】
低出力領域において燃料に比例する量の水が混合され、上部負荷領域において水及び燃料からなるエマルジョンの量が一定又はほぼ一定に維持されるように水の添加量が制御される請求項9に記載の装置。
【請求項11】
自己着火型内燃式往復ピストン・エンジン、特にディーゼル・エンジンであって、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法に基づいて運転されるか、または請求項8乃至10のいずれか一項に記載の装置を有するエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−255427(P2007−255427A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150112(P2007−150112)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【分割の表示】特願平8−338324の分割
【原出願日】平成8年12月18日(1996.12.18)
【出願人】(592109961)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】Waertsilae Schweiz AG
【Fターム(参考)】