説明

船外機

【課題】船外機にトルクコンバータを採用する場合,エンジン及びトルクコンバータの重量によりスイベル軸が受ける曲げモーメントを極力軽減して,操舵性を良好にする。
【解決手段】スイベルケース7にスイベル軸6を介して操舵可能に連結されるケーシング1の上部にエンジンEを,そのクランク軸17が鉛直方向を向くと共にシリンダブロック18がスイベル軸6と反対方向に向くように取り付け,また同ケーシング1内に,トルクコンバータTと,このトルクコンバータTを介しクランク軸17に連結されて鉛直方向に配置される出力軸20を配設した船外機であって,クランク軸17及び,このクランク軸17の下端に同軸上で連結するトルクコンバータTをスイベル軸6の上方に配置し,そのトルクコンバータTと,スイベル軸6の後方に配置される出力軸20とを伝動装置81を介して連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,スイベルケースにスイベル軸を介して操舵可能に連結されるケーシングの上部にエンジンを,そのクランク軸が鉛直方向を向くと共にシリンダブロックがスイベル軸と反対方向に向くように取り付け,また同ケーシング内に,トルクコンバータと,このトルクコンバータを介しクランク軸に連結されて鉛直方向に配置される出力軸と,この出力軸の下方に水平に配置されるプロペラ軸と,これら出力軸及びプロペラ軸間を連結する前後進切換ギヤ機構とを配設してなる船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
船用の推進装置において,エンジンの動力を,トルク増幅可能のトルクコンバータを介して鉛直方向の出力軸に伝達するようにしたものは,特許文献1に開示されるように既に知られている。
【特許文献1】米国特許第3,407,600号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は,スイベルケースにスイベル軸を介して操舵可能に連結されるケーシングの上部にエンジンを,そのクランク軸が鉛直方向を向くと共にシリンダブロックがスイベル軸と反対方向に向くように取り付け,上記ケーシング内にクランク軸により駆動される鉛直方向の出力軸と,この出力軸の下方に水平に配置されるプロペラ軸と,これら出力軸及びプロペラ軸間を連結する前後進切換ギヤ機構とを配設してなる船外機にトルクコンバータを採用する場合,エンジン及びトルクコンバータの重量によりスイベル軸が受ける曲げモーメントを極力軽減して,操舵性を良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために,本発明は,スイベルケースにスイベル軸を介して操舵可能に連結されるケーシングの上部にエンジンを,そのクランク軸が鉛直方向を向くと共にシリンダブロックがスイベル軸と反対方向に向くように取り付け,また同ケーシング内に,トルクコンバータと,このトルクコンバータを介しクランク軸に連結されて鉛直方向に配置される出力軸と,この出力軸の下方に水平に配置されるプロペラ軸と,これら出力軸及びプロペラ軸間を連結する前後進切換ギヤ機構とを配設してなる船外機であって,クランク軸及び,このクランク軸の下端に同軸上で連結するトルクコンバータをスイベル軸の上方に配置し,そのトルクコンバータと,スイベル軸の後方に配置される出力軸とを伝動装置を介して連結したことを第1の特徴とする。
【0005】
また本発明は,第1の特徴に加えて,ケーシングの一部を構成するマウントケースにエンジンを搭載し,このマウントケースの底部に近接して前記伝動装置を配置すると共に,該底部を,エンジンから流下した潤滑用オイルを受けて伝動装置を潤滑するオイル溜めに形成したことを第2の特徴とする。
【0006】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,マウントケースの上端に,トルクコンバータ及び伝動装置間を仕切る隔壁部材を連設し,この隔壁部材に,エンジンから流下した潤滑オイルを前記オイル溜めに誘導する通孔を設けたことを第3の特徴とする。
【0007】
尚,前記隔壁部材は,後述する本発明の実施例中の軸受ブラケット14に対応する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,同軸上に配置されるクランク軸及びトルクコンバータをスイベル軸の上方に配置したことで,エンジン及びトルクコンバータの重心がスイベル軸に近づくことになるから,スイベル軸に加わる曲げモーメントが減少して,船外機の操舵性を良好にすることができる。
【0009】
しかもクランク軸の動力は,トルクコンバータによるトルク増幅を行いながら伝動装置を介して出力軸に支障なく伝達することができる。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば,マウントケースが,エンジンの各部を潤滑し終えたオイルを受け入れて伝動装置を潤滑するオイル溜めを兼ねることになり,構造の簡素化と伝動装置の耐久性向上を図ることができる。
【0011】
本発明の第3の特徴によれば,エンジンを潤滑し終えたオイルを,トルクコンバータの外周面に接触させることなく,伝動装置のオイル溜めに誘導するので,トルクコンバータの回転によるオイルの攪拌や飛散を回避して,オイルの劣化を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を,図面に示す本発明の好適な実施例に基づき以下に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例に係る船外機の側面図,図2は図1の2部拡大断面図,図3は図2の要部拡大図,図4は図1の4部拡大断面図,図5はオイルポンプを含む油圧回路図である。
【0014】
図1において,船外機Oのケーシング1は,上部に水冷多気筒4ストローク式エンジンEを搭載し,プロペラ2を後端に備えるプロペラ軸3を下部で支える。このケーシング1の直前には,アッパアーム4及びロアアーム5を介してケーシング1に取り付けられる鉛直方向のスイベル軸6が配設され,このスイベル軸6を回転自在に支持するスイベルケース7は,船体のトランサムBtにクランプされるスターンブラケット8に水平方向のチルト軸9を介して連結される。したがって,ケーシング1は,スイベル軸6周りに左右操向が可能であり,またチルト軸9周りに上下チルトが可能である。符号EfはエンジンEを覆う着脱可能のエンジンフードである。
【0015】
図2,図3及び図4において,上記ケーシング1は,エクステンションケース10と,このエクステンションケース10の上端にボルト結合されるマウントケース11と,エクステンションケース10の下端にボルト結合されるギヤケース12とよりなり,またエクステンションケース10は,アッパケース10aと,これにボルト結合されるロアケース10bとで構成され,そのアッパケース10aの上端面にマウントケース11が複数のボルト163 で結合される。
【0016】
ケーシング1は,更に,マウントケース11の上端に,順次重ねられる環状の下部ディスタンス部材13,軸受ブラケット14及び環状の上部ディスタンス部材15を備える。そして上部ディスタンス部材15上にエンジンEが,そのクランク軸17を鉛直方向に向け且つシリンダブロック18を後方に向けて搭載される。その際,エンジンEのシリンダブロック18及びクランクケース19の底壁には,軸受ブラケット14及び上部ディスタンス部材15が複数のボルト161 により固着され,また下部ディスタンス部材13,軸受ブラケット14及び上部ディスタンス部材15は,複数のボルト162 により相互に固着される。
【0017】
図2及び図3に明示するように,環状の上部ディスタンス部材15内には,クランク軸17の下端に同軸上で連結されるトルクコンバータTが配置される。その際,これらクランク軸17及びトルクコンバータTは,スイベル軸6の上方に配置される。
【0018】
エクステンションケース10内には,出力軸20が,クランク軸17からシリンダブロック18側に一定距離eオフセットしてスイベル軸6の後方にくるように配置される。マウントケース11は皿状をなしており,トルクコンバータT及び出力軸20間を連結する伝動装置81が,このマウントケース11内にその底壁に近接して配置される。
【0019】
またギヤケース12には,後方外端にプロペラ2を付設する前記プロペラ軸3が水平に支持されると共に,このプロペラ軸3に前記出力軸20を連結する前後進切換ギヤ機構21が収容される。
【0020】
而して,エンジンEの作動中,その動力は,クランク軸17からトルクコンバータT及び伝動装置81を順次経て出力軸20に伝達し,更に前後進切換ギヤ機構21を介してプロペラ軸3に伝達され,プロペラ2を駆動する。その際,プロペラ2の回転方向は,前後進切換ギヤ機構21により切り換え制御される。
【0021】
図4に示すように,エクステンションケース10内において,エクステンションケース10のアッパケース10aには,マウントケース11に向かって開口するオイルタンク22が一体に形成され,エンジンEの潤滑,並びにトルクコンバータTの作動に共通に供されるオイル23がこのオイルタンク22に貯留される。またアッパケース10aには,エンジンEの排気路の下流端部90が一体に形成される。
【0022】
クランク軸17の下端に,トルクコンバータTより大径の駆動板31が複数のボルト321 により固着される。
【0023】
トルクコンバータTは,ポンプインペラ25と,その上方でそれに対向して配置されるタービンランナ26と,それらの内周部間に配置されるステータ27と,これら三翼車25〜27間に画成される,作動オイルのための循環回路28とで構成され,ポンプインペラ25には,タービンランナ3の上面を覆う伝動カバー29が一体的に連設される。伝動カバー29の外周面には,始動用のリングギヤ30が固着され,このリングギヤ30が複数のボルト322 により前記駆動板31に固着される。
【0024】
伝動カバー29の中心部には,クランク軸17の下端面中心部に開口する支持孔33に嵌合するカップ状の支持筒34が固着される。タービンランナ26のハブがスプライン結合されるタービン軸49は,上端部をこの支持筒34内まで延ばしており,その上端部は,軸受ブッシュ35を介して支持筒34内で支承される。このタービン軸49の外周には,これにニードルベアリング36を介して支承される中空のステータ軸37が配置され,このステータ軸37とステータ27のハブとの間に公知のフリーホイール38が介装される。こうして,トルクコンバータTは,同軸上でクランク軸17に連結される。
【0025】
ステータ軸37の外周には,ポンプインペラ25に一体に連設されて下方に延びる中空のポンプ軸39が配置される。このポンプ軸39は,その外周側で上部ボールベアリング43を介して前記軸受ブラケット14に支承され,このポンプ軸39の下端部で駆動されるオイルポンプ41が,軸受ブラケット14の下面に形成されるポンプハウジング40に装着され,このオイルポンプ41の下面を覆うポンプカバー42が軸受ブラケット14の下面にボルト結合される。また軸受ブラケット14の上端部には,ボールベアリング43の直上でポンプ軸39の外周面にリップを密接させるオイルシール45が装着される。
【0026】
ステータ軸37は,その下端部に拡径部37aを有しており,その拡径部37aの外周には,前記ポンプカバー42にボルト46で固着されるフランジ37bが一体に形成され,その拡径部37aの内周には,タービン軸49を支承する下部ボールベアリング44が装着される。
【0027】
ポンプインペラ25及びステータ27のハブ間には,スラストニードルベアリング47が介装され,またタービンランナ26のハブと伝動カバー29との間にもスラストニードルベアリング48が介装される。
【0028】
図3に明示するように,前記伝動装置81は,タービン軸49の下端部にスプライン嵌合してナット82により固着される駆動ギヤ81aと,クランク軸17の軸線からシリンダブロック18側に一定距離eオフセットして配置されて駆動ギヤ81aに噛合する従動ギヤ81bとで構成される。この従動ギヤ81bは,前記出力軸20の上端部がスプライン嵌合する中空の軸部83を一体に備えており,この軸部83の上端部は,前記ポンプカバー42にボールベアリング84を介して支承され,その下端部は,前記マウントケース11にボールベアリング85を介して支承される。また図4に明示するように,出力軸20は,マウントケース11の直下で,前記オイルタンク22外側に一体に形成される支持筒71にブッシュ72を介して支承される。
【0029】
オイルポンプ41は,前記オイルタンク22内のオイルを汲み上げてエンジンE及びトルクコンバータTに供給するものであり,こゝで,そのオイルポンプ41の吐出オイルの経路について図5により説明する。
【0030】
オイルポンプ41は,オイルタンク22内の貯留オイル23を吸入油路50を通して吸い上げ,第1供給油路51へ吐出する。第1供給油路51に吐出されたオイルは,第1供給油路51の途中に設けられるオイルフィルタ53で濾過された後,エンジンEの潤滑部に供給される。その潤滑後のオイルは,エンジンEのクランクケース19底部に流下し,そして第1戻し油路59を経てオイルタンク22へと還流する。
【0031】
また第1供給油路51に吐出されたオイルは,オイルフィルタ53より上流の第1供給油路51から分岐した第2供給油路52を経てトルクコンバータTの循環回路28にも供給され,その循環回路28で仕事を終えたオイルは,第2戻し油路54を経て吸入油路50もしくはオイルタンク22に還流する。
【0032】
オイルフィルタ53より上流の第1供給油路51からは,吸入油路50に達するリリーフ油路55が分岐しており,このリリーフ油路55には,第1供給油路51の油圧が規定値以上になると開弁するリリーフ弁56が設けられる。
【0033】
第2供給油路52には,トルクコンバータTの循環回路28へのオイル供給量を規制するオリフィス57が設けられる。また第2戻し油路54には,常閉型の圧力応動弁58が設けられ,この圧力応動弁は第2第2戻し油路54の上流側の油圧が所定値以上になると開弁するようになっている。
【0034】
而して,単一のリリーフ弁56により第1供給油路51が調圧されると,第2供給油路52も同時に調圧されることになり,したがってトルクコンバータT内の循環回路28の圧力を調整できて,その伝動特性を安定させることができる。またリリーフ油路55の下流端が吸入油路50に接続されることで,リリーフ油路55から解放されたオイルをスムーズにオイルポンプ41に戻すことができて,油圧回路の簡素化を図ることができる。
【0035】
再び,図2及び図3において,前記吸入油路50は,軸受ブラケット14に吊持されてオイルタンク22内に下端部を突入させる吸い上げ管50aと,軸受ブラケット14に設けられて吸い上げ管50aの上端をオイルポンプ41の吸入ポート41aに連通する横方向油路50bとで構成される。
【0036】
また前記第2供給油路52は,タービン軸49の上端面に開口するように,その中心部に設けられる有底の縦孔52bと,ポンプカバー42,ステータ軸37及びタービン軸49の三者嵌合部を貫通するように設けられてオイルポンプ41の吐出ポート41bを縦孔52bの下部に連通する入口油路52aと,縦孔52bの上部を前記スラストニードルベアリング48周辺部を通して伝動カバー29内に連通すべくタービン軸49に設けられる横孔52cとを備え,伝動カバー29の内部は循環回路28の外周部に連通している。
【0037】
また前記第2戻し油路54は,タービン軸49及びステータ軸37間に画成されると共にポンプインペラ25のハブ上部のスラストニードルベアリング47の周辺部を通して循環回路28に連通する円筒状油路54aと,この円筒状油路54aの下端部に連通するようポンプカバー42に設けられる横方向の出口油路54bとを備え,この出口油路54bは,圧力応動弁58を介して横方向油路50bに連通される。
【0038】
圧力応動弁58は,ポンプカバー42に設けられる水平方向のシリンダ状弁室60と,この弁室60に摺動自在に嵌装されるピストン状の弁体61とを備え,弁室60の内端面に前記出口油路54bが開口し,弁室60の内側面には,横方向油路50bもしくはオイルタンク22に連なる弁孔62が開口する。弁体61は,その頂面即ち受圧面を出口油路54bに向けて配置され,出口油路54b側への前進時に弁孔62を閉鎖し,後退時に弁孔62を開放するようになっている。この弁体61を前進方向,即ち閉弁方向に所定のセット荷重で付勢する弁ばね63が弁体61の背面と,弁室60の開口に螺着されるねじ栓64との間に縮設される。したがって,弁体61は,通常,弁ばね63のセット荷重により閉弁位置に保持されることで,第2戻し油路54を遮断することになり,第2戻し油路54の上流側に油圧が発生し,それが所定値以上に上昇すると,その油圧を頂面に受けた弁体61が弁ばね63のセット荷重に抗して後退し,開弁することで,第2戻し油路54を導通状態にする。
【0039】
エンジンEのクランクケース19の底壁には,エンジンEの潤滑を終えたオイルを下部のオイル溜めケース24に移す開口部66(図2参照)が設けられる。また上部ディスタンス部材15及び軸受ブラケット14との外周部には,オイル溜めケース24内をマウントケース11内に開放する縦方向の一連の通孔67が設けられる。さらにマウントケース11には,オイルタンク22に向かって開口する開口部68が設けられる。したがってエンジンEの潤滑し終えてクランクケース19内の底部に溜まったオイルは,先ず開口部66から通孔67を経てオイル溜め24に流下して伝動装置81を潤滑し,次いで開口部68からオイルタンク22へと還流することになる。上記開口66,通孔67及び開口68により前記第1戻し油路59が構成される。
【0040】
図3において,ステータ軸37の外周には,ポンプ軸39の内周面に相対回転可能に密接する第1シール部材701 が装着され,トルクコンバータT内のオイルが,ポンプ軸39下方へ流出することをを防ぐようになっている。
【0041】
また前記入口油路52aの下方でステータ軸37及びポンプカバー42の当接部に第2シール部材702 が介裝され,入口油路52aのオイルがステータ軸37及びポンプカバー42の当接部下方へ流出することをを防ぐようになっている。
【0042】
さらにタービン軸49及びステータ軸37の嵌合部において,タービン軸49の外周には,入口油路52aの上下に並んでステータ軸37の内周面に相対回転可能に密接する第3及び第4シール部材703 ,704 が装着され,これら第3及び第4シール部材703 ,704 は,協働して入口油路52aのオイルが,タービン軸49及びステータ軸37の嵌合部外へ流出することを防ぎ,また上部の第3シール部材703 は,前記円筒状油路54aのオイルが,下方のタービン軸49及びステータ軸37の嵌合部へ流出することを防ぐようになっている。
【0043】
タービン軸49には,ステータ軸37の拡径部37a内周に装着されるボールベアリング44のインナレースの上端面に当接するフランジ73を有しており,また上記ボールベアリング44のアウタレースの下端面を支承する止環74が拡径部37aの内周面に係止される。したがって,止環74を外さない限り,タービン軸49は,トルクコンバータT中心部から下方への抜け出しが阻止される。
【0044】
タービン軸49は,前記縦孔52bの他に,縦孔52bの下端に連なりタービン軸49の下端面に開口する栓孔76が設けられ,この栓孔76には,縦孔52bの底壁を構成する栓体78が螺着される。またこの栓体78には,前記入口油路52aの一部と,この入口油路52aを縦孔52bに連通する前記オリフィス57とが設けられる。この栓体78には,栓孔76の内周面に密接する第5シール部材705 が装着される。
【0045】
尚,入口油路52aは,栓体78を避けてこれを形成することもできる。
【0046】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0047】
エンジンEの作動中,その動力は,クランク軸17から駆動ギヤ81aを介してポンプインペラ25への伝達してこれを駆動すると共に,ポンプ軸39を介してオイルポンプ41をも駆動する。こうして駆動されるオイルポンプ41は,オイルタンク22内のオイル23を吸入油路50を通して,即ち吸い上げ管50a及び横方向油路50bを通して吸い上げ,第1供給油路51及び第2供給油路52へと吐出する。第1供給油路51に吐出されたオイルは,前述のようにエンジンEの潤滑部に供給される。
【0048】
一方,第2供給油路52に供給されるオイルは,入口油路52a,オリフィス57を順次経てタービン軸49の縦孔52bを上り,横孔52cを出てスラストニードルベアリング48を潤滑しながら伝動カバー29内に移り,次いでタービンランナ26の外周側から循環回路28に流入する。
【0049】
駆動板31から駆動されるポンプインペラ25は,循環回路28内のオイルを矢印のように循環させて,ポンプインペラ25の回転トルクをタービンランナ26からタービン軸49へと伝達し,さらに駆動ギヤ81a及び従動ギヤ81bを介して出力軸20へ,さらには前後進切換ギヤ機構21を介してプロペラ軸3へと伝達し,プロペラ2を駆動する。このとき,ポンプインペラ25及びタービンランナ26間でトルクの増幅作用が生じていれば,それに伴う反力がステータ27に負担され,ステータ27は,フリーホイール38のロック作用により固定される。トルクコンバータTのこのようなトルク増幅作用によりプロペラ2を強力に駆動し得るので,船の発進及び加速性を効果的に高めることができる。
【0050】
トルク増幅作用を終えると,ステータ27は,これが受けるトルク方向の反転により,フリーホイール38を空転させながらポンプインペラ25及びタービンランナ26と共に同一方向へ回転するようになる。
【0051】
循環回路28で仕事を終えたオイルは,ポンプインペラ25のハブ上部のスラストニードルベアリング47を潤滑しながら円筒状油路54aを下り,出口油路54bから圧力応動弁58の弁室へと移る。
【0052】
弁室60に流入したオイルは,その圧力により圧力応動弁58の弁体61を,弁ばね63のセット荷重に抗して押圧するので,弁体61は開弁して弁孔62を開くので,上記オイルは弁室60から弁孔62を経て吸入油路50もしくはオイルタンク22に還流する。かくして,トルクコンバータTの循環回路28と,その下方に配置されるオイルタンク22との間で,第2供給油路52及び第2戻し油路54を通してオイルが循環するので,トルクコンバータTのコンパクト化をもたらすことができると共に,循環オイルの冷却を促進し,その劣化を防ぐことができる。
【0053】
特に,トルクコンバータTの下方に配置されるオイルタンク22は,エンジンEから離隔されることで,エンジンEによる加熱が少ないこと,エンジンE及びトルクコンバータTに干渉されることなく比較的大容量に構成することが可能で循環回路28へのオイル流量を多くし得ること等により,循環オイルの冷却を一層促進することができる。しかもエンジンE,トルクコンバータT及びオイルタンク22は,その順で上下に配置されることになり,これらを備える船外機Oのスリム化を図ることができる。
【0054】
しかも比較的重量が重いクランク軸17及びトルクコンバータが,スイベル軸6の上方に配置されることで,エンジンE及びトルクコンバータTの重心をスイベル軸6に近づけることができ,したがってエンジンE及びトルクコンバータTの重量によるスイベル軸6の曲げモーメントが軽減し,スイベル軸6周りの船外機Oの操舵を軽快に行うことができる。
【0055】
また互いにオフセット配置されるトルクコンバータT及び出力軸20間は,伝動装置81を介して相互に連結されるので,トルクコンバータTから出力軸20への伝動を支障なく行うことができる。
【0056】
一方,エンジンEの各部を潤滑し終えたオイルはクランクケース19底部に流下し,そして開口部66から通孔67を経てマウントケース11の底部,即ちオイル溜め24に流下し,該底部に近接配置される伝動装置81を潤滑する。したがって,エンジンEを搭載するマウントケース11は,伝動装置81の潤滑のためのオイル溜め24を兼ねることになるから,構造の簡素化と共に,伝動装置81の耐久性向上を図ることができる。
【0057】
伝動装置81を潤滑したオイルは,マウントケース11の開口部68からオイルタンク22へと直ちに還流するので,オイル溜めケース24に留まるオイルは少なく,したがって伝動装置81によるオイルの攪拌を少なく抑えて,動力損失を極力少なくすることができる。
【0058】
ところで,クランクケース19底部に流下した潤滑オイルを,オイル溜め24に誘導する通孔67は,トルクコンバータTから外周側に離隔して設けられるため,その潤滑オイルのトルクコンバータT外周面への接触を回避して,オイルの無用な攪拌や飛散を回避して,動力損失を極力防ぐことができる。
【0059】
また循環回路28に供給するオイルは,エンジンEの潤滑用のオイルポンプ41から吐出されたオイルが利用されるので,循環回路28へのオイルの供給のために,オイルタンク22及びオイルポンプ41を特別に増設する必要はなく,船外機Oの大型化及び構造の複雑化を避けることができる。
【0060】
例えば前後進切換ギヤ機構21のメンテナンスのために,ギヤケース12をエクステンションケース10から分離する場合には,出力軸20を伝動装置81の従動ギヤ81bから抜き出すことで,トルクコンバータTをエンジンEと共にマウントケース11上に残したまゝ,出力軸20をギヤケース12と共に下方へ分離することができる。これにより前後進切換ギヤ機構21のメンテナンスを容易に行うことができ,したがってギヤケース12の再組み付けも容易に行うことができる。
【0061】
またエンジンE及びトルクコンバータTをマウントケース11から取り外す場合も同様であり,したがって,それらのメンテナンスも容易に行うことができる。
【0062】
オイルポンプ41は,軸受ブラケット14の下面に形成されるポンプハウジング40に装着され,ポンプカバー42が保持されるので,軸受ブラケット14は,トルクコンバータTの支持のみならずオイルポンプ41をも支持することになり,オイルポンプ41の支持構造の簡略化を図ることができる。
【0063】
エンジンEの運転が停止されると,オイルポンプ41の作動も停止するため,圧力応動弁58では,弁室60の圧力が低下し,弁体61は弁ばね63のセット荷重により閉弁する。これにより出口油路54bは遮断状態とされるので,トルクコンバータTの循環回路28からオイルタンク22へのオイル流出を防いで,循環回路28をオイルで満たした状態に保持することができる。したがってトルクコンバータTの作動応答性を高めることができる。
【0064】
また第2供給油路52の一部が,タービン軸49の中心部に形成されて上端部を前記循環回路28に連通させる縦孔52bで構成されることで,第2供給油路52の構成の簡素化を図ることができると共に,エンジンEの運転停止時には,この縦孔52bにより,循環回路28からオイルポンプ41へのオイルの逆流を防ぐことができる。
【0065】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,オイルタンク22は,トルクコンバータTの作動オイル用と,エンジンEの潤滑オイル用とに分割して,それぞれのオイルを,その用途に適したものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例に係る船外機の側面図。
【図2】図1の2部拡大断面図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】図1の4部拡大断面図。
【図5】オイルポンプを含む油圧回路図。
【符号の説明】
【0067】
E・・・・・・エンジン
O・・・・・・船外機
T・・・・・・トルクコンバータ
1・・・・・・ケーシング
3・・・・・・プロペラ軸
6・・・・・・スイベル軸
7・・・・・・スイベルケース
11・・・・・マウントケース
14・・・・・隔壁部材(軸受ブラケット)
17・・・・・クランク軸
18・・・・・シリンダブロック
20・・・・・出力軸
24・・・・・オイル溜め
67・・・・・通孔
81・・・・・伝動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイベルケース(7)にスイベル軸(6)を介して操舵可能に連結されるケーシング(1)の上部にエンジン(E)を,そのクランク軸(17)が鉛直方向を向くと共にシリンダブロック(18)がスイベル軸(6)と反対方向に向くように取り付け,また同ケーシング(1)内に,トルクコンバータ(T)と,このトルクコンバータ(T)を介しクランク軸(17)に連結されて鉛直方向に配置される出力軸(20)と,この出力軸(20)の下方に水平に配置されるプロペラ軸(3)と,これら出力軸(20)及びプロペラ軸(3)間を連結する前後進切換ギヤ機構(21)とを配設してなる船外機であって,
クランク軸(17)及び,このクランク軸(17)の下端に同軸上で連結するトルクコンバータ(T)をスイベル軸(6)の上方に配置し,そのトルクコンバータ(T)と,スイベル軸(6)の後方に配置される出力軸(20)とを伝動装置(81)を介して連結したことを特徴とする船外機。
【請求項2】
請求項1記載の船外機において,
ケーシング(1)の一部を構成するマウントケース(11)にエンジン(E)を搭載し,このマウントケース(11)の底部に近接して前記伝動装置(81)を配置すると共に,該底部を,エンジン(E)から流下した潤滑用オイルを受けて伝動装置(81)を潤滑するオイル溜め(24)に形成したことを特徴とする船外機。
【請求項3】
請求項2記載の船外機において,
マウントケース(11)の上端に,トルクコンバータ(T)及び伝動装置(81)間を仕切る隔壁部材(14)を連設し,この隔壁部材(14)に,エンジン(E)から流下した潤滑オイルを前記オイル溜め(24)に誘導する通孔(67)を設けたことを特徴とする船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315493(P2007−315493A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145963(P2006−145963)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】