説明

薄膜トランジスタ及び薄膜トランジスタの作製方法

【課題】液体で処理することができるゲート誘電体材料により得られる薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有するゲート誘電体を備える薄膜トランジスタであって、前記1種または複数のモノマは、置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含む薄膜トランジスタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国標準技術局(NIST)によって与えられた協力協定第70NANBOH3033号の下、米国政府支援で行われた。米国政府は、本発明においていくつかの権利を有する。
【0002】
この開示は、様々な例示的な実施形態において、マイクロ電子デバイスを含めて、電子デバイス、およびこのようなデバイスの作製方法に関する。より詳細には、この開示は、重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有するゲート誘電体を有する薄膜トランジスタを含めた、デバイスに関する。実施形態では、放射線架橋ポリマの前記1種または複数のモノマが、置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含む。
【背景技術】
【0003】
薄膜トランジスタは、例えばセンサ、撮像、およびディスプレイデバイスを含めて、現代エレクトロニクスの基本的な構成要素である。現在主流のシリコン技術を使用した薄膜トランジスタ回路は、特に、高スイッチング速度が必須でないアクティブマトリックス液晶モニターまたはテレビのようなディスプレイ用のバックプレーンスイッチング回路などの大面積デバイス用途では、コストがかかりすぎる可能性がある。シリコン系薄膜トランジスタ回路の高いコストは、主に資本集約的作製設備、および厳しい制御環境下での複雑な高温高真空の写真平版作製方法(photolithographic fabrication process)に起因する。
【0004】
通常の写真平版方法を用いたシリコン系薄膜トランジスタ回路作製のコストおよび複雑さのため、スピンコーティング、溶液流延、ディップコーティング、ステンシル/スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア、オフセット印刷、インクジェット印刷、マイクロコンタクトプリンティングなど、またはこれらの方法の組合せなど、液体ベースのパターニングおよび被着技法を使用して潜在的に作製することができるプラスチック薄膜トランジスタにますます関心が寄せられている。このような方法は、電子デバイス用のシリコン系薄膜トランジスタ回路を作製する際に使用される複雑な写真平板方法に比べて一般に簡単で費用効果が高い。したがって、液体で処理した薄膜トランジスタ回路を作製するためには、液体で処理できる材料が必要である。
【0005】
プラスチック薄膜トランジスタ用材料の現在の研究開発活動の大部分は、半導体材料、特に液体で処理することができる有機およびポリマの半導体に傾注されてきた。一方、液体で処理することができる誘電材料など他の材料構成要素はあまり注意を払われてこなかった。
【0006】
プラスチック薄膜トランジスタ用途の場合、実施形態では、材料はすべて液体で処理することができるものとすることが望ましい。プラスチック基材を、軟質の有機またはポリマのトランジスタ構成要素とともに使用すると、硬質の基材上の通常の薄膜トランジスタ回路を、機械的耐久性がより高く構造的に柔軟なプラスチック薄膜トランジスタ回路設計に変えることができる。柔軟な薄膜トランジスタ回路は、機械的に強靭で柔軟な電子デバイスを作成するのに有用である。
【0007】
以下の文献は、背景情報を提供している。
【0008】
ケリー(Kelley)ら、米国特許出願公開第2003/0102471号明細書。
ケリー(Kelley)ら、米国特許出願公開第2003/0102472号明細書。
ケリー(Kelley)ら、米国特許第6,433,359号明細書。
バイ(Bai)ら、米国特許出願公開第2004/0222412号明細書。
F.ガルニエ(F.Garnier)ら、「All−Polymer Field−Effect Transistor Realized by Printing Techniques」、Science、265巻、1684〜1686頁(1994年9月16日)。
S.Y.パーク(S.Y.Park)ら、「Cooperative polymer gate dielectrics in organic thin−film transistors」、Appl.Phys.Lett.、85巻、12号、2283〜2285頁(2004年9月20日)。
F.ガルニエ(F.Garnier)ら、「Molecular Engineering of Organic Semiconductors:Design of Self−Assembly Properties in Conjugated Thiophene Oligomers」、J.Am.Chem.Soc.、115巻、8716〜8721頁(1993年)。
M.ハリク(M.Halik)ら、「Fully patterned all−organic thin film transistors」、Appl.Phys.Lett.、81巻、2号、289〜291頁(2002年7月8日)。
R.シュローダー(R.Schroeder)ら、「A study of the threshold voltage in pentacene organic field−effect transistors」、Appl.Phys.Lett.、83巻、15号、3201〜3203頁(2003年10月13日)。
Z.バオ(Z.Bao)ら、「Silsesquioxane Resins as High−Performance Solution Processible Dielectric Materials for Organic Transistor Applications」、Adv.Funct.Mater.、12巻、8号、1〜6頁(2002年8月)。
J.ベレス(J.Veres)ら、「Gate Insulators in Organic Field−Effect Transistors」、Chem.Mater.、2004年、16巻、4543〜4555頁(ウェブ上で出版、09/11/2004)。
レイレイ・チュア(Lay−Lay Chua)ら、「High−stability ultrathin spin−on benzocyclobutene gate dielectric for polymer field−effect transistors」、Appl.Phys.Lett.、84巻、17号、3400〜3402頁(2004年4月26日)。
J.パーク(J.Park)ら、「A polymer gate dielectric for high−mobility polymer thin−film transistors and solvent effects」、Appl.Phys.Lett.、85巻、15号、3283〜3285号(2004年10月11日)。
Z.トゥジンスキ(Z.Turzynski)ら、「Influence of diffusion and induced π−bonds on the ultra−violet radiation−initiated crosslinking of polystyrene in solution」、Polymer、31巻、1500〜1506頁(1990年8月)。
K.カト(K.Kato)、「Effect of Molecular Weight on Changes Produced in the Surface Layer of Polystyrene Film in a Nitrogen Atmosphere by Ultraviolet Irradiation」、Journal of Applied Polymer Science、13巻、599〜606頁(1969年)。
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0102471号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0102472号明細書
【特許文献3】米国特許第6,433,359号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0222412号明細書
【非特許文献1】F.ガルニエら、Science、265巻、1684〜1686頁(1994年9月16日)
【非特許文献2】S.Y.パークら、Appl.Phys.Lett.、85巻、12号、2283〜2285頁(2004年9月20日)
【非特許文献3】F.ガルニエら、J.Am.Chem.Soc.、115巻、8716〜8721頁(1993年)
【非特許文献4】M.ハリクら、Appl.Phys.Lett.、81巻、2号、289〜291頁(2002年7月8日)
【非特許文献5】R.シュローダーら、Appl.Phys.Lett.、83巻、15号、3201〜3203頁(2003年10月13日)
【非特許文献6】Z.バオら、Adv.Funct.Mater.、12巻、8号、1〜6頁(2002年8月)
【非特許文献7】J.ベレスら、Chem.Mater.、2004年、16巻、4543〜4555頁(ウェブ上で出版、09/11/2004)
【非特許文献8】レイレイ・チュアら、Appl.Phys.Lett.、84巻、17号、3400〜3402頁(2004年4月26日)
【非特許文献9】J.パークら、Appl.Phys.Lett.、85巻、15号、3283〜3285号 (2004年10月11日)
【非特許文献10】Z.トゥジンスキら、Polymer、31巻、1500〜1506頁(1990年8月)
【非特許文献11】K.カト、Journal of Applied Polymer Science、13巻、599〜606頁(1969)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の実施形態によって取り組む潜在的問題は、液体被着技法を使用して形成されるゲート誘電体が、他の層をゲート誘電体の上に被着させることによって悪影響を受ける可能性があることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態では、重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含むゲート誘電体を備える薄膜トランジスタであって、1種または複数のモノマが置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含む薄膜トランジスタが提供される。
【0012】
別の実施形態では、
(a)半導体層と、
(b)ゲート電極と、
(c)前記半導体層と接触しているソース電極と、
(d)前記半導体層と接触しているドレイン電極と、
(e)前記半導体層と前記ゲート電極との間に配置されたゲート誘電体と
を備える薄膜トランジスタであって、前記ゲート誘電体が重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有し、前記1種または複数のモノマが置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含む薄膜トランジスタが提供される。
【0013】
他の実施形態では、
(a)重合された1種または複数のモノマを含むポリマを含む組成物を被着させるステップであって、前記1種または複数のモノマが置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含むステップと、
(b)前記組成物を照射して、前記ポリマを架橋するステップと、
を含む方法が提供される。
【0014】
追加の実施形態では、薄膜トランジスタの作製方法であって、
(a)ゲート誘電体前駆体組成物を被着させるステップであって、前記ゲート誘電体前駆体組成物が重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有し、前記1種または複数のモノマが置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含むステップと、
(b)前記ゲート誘電体前駆体組成物を照射して、前記ポリマを架橋させるステップと、
を含む薄膜トランジスタの作製方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
別段の注記のない限り、異なる図面中の同じ参照番号は、同じまたは同様の特徴を指す。
【0016】
一般に、薄膜トランジスタは、3つの電極(ゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極)、ゲート誘電体(絶縁層と呼ばれることもある)、半導体層、支持基板、およびオプションの保護層を含む。
【0017】
図1〜4は、適切な薄膜トランジスタ(TFT)の構造的構成の例示的実施形態である。図1〜4は、薄膜トランジスタの様々な層について考え得る構成を単に例示するものであって、いかなる方法によっても限定するためのものではない。
【0018】
特定の用語が以下の説明で明瞭にするため使用されるが、これらの用語は、図面で例として選択された実施形態の具体的な構造のみに言及するためのものであり、開示の範囲を拘束または限定するためのものではない。
【0019】
図1には、基板16、それと接触している金属接点18(ゲート電極)、ゲート誘電体層14、ならびにその上に被着させたソース電極20およびドレイン電極22の2つの金属接点を備える有機薄膜トランジスタ(「OTFT」)構成10の概略図がある。金属接点20と22の上および間には、本明細書に例示されているような有機半導体層12がある。
【0020】
図2は、基板36、ゲート電極38、ソース電極40、およびドレイン電極42、ゲート誘電体34、ならびに有機半導体層32を備える別のOTFT構成30の概略図である。
【0021】
図3は、基板としてもゲート電極としても働く高濃度にn型ドープされたシリコンウェハ56、ゲート誘電体54、有機半導体層52、ならびにその上に被着させたソース電極60およびドレイン電極62を備える別のOTFT構成50の概略図である。
【0022】
図4は、基板76、ゲート電極78、ソース電極80、ドレイン電極82、有機半導体層72、およびゲート誘電体74を備える追加のOTFT構成70の概略図である。
【0023】
この開示のいくつかの実施形態では、オプションの保護層を含むこともできる。例えば、このようなオプションの保護層を図1〜4のトランジスタ構成のそれぞれの上部に組み込むことができる。保護層は、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリエステル、ポリイミド、またはポリカーボナート、あるいはその混合物を含むことができる。
【0024】
<ゲート誘電体>
実施形態では、ゲート誘電体は、置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含む重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有する。実施形態では、ビニルアリールアルコールは非置換である。実施形態では、ポリマは、置換されていてもよいビニルアリールアルコールのホモポリマである。実施形態では、ポリマは、置換されていてもよいビニルフェノールのホモポリマである。より具体的には、ポリマは、ポリ(ビニルフェノール)である。実施形態では、ポリマは、2種以上のモノマ型のコポリマである。この場合、コポリマ(copolymer)という用語は、ターポリマ(terpolymer)およびテトラポリマ(tetrapolymer)を包含する。コポリマは、ランダム、ブロック、または交互ポリマとすることができる。他の実施形態では、ポリマは、置換されていてもよいビニルアリールアルコールとアクリラートのコポリマである。より具体的には、ポリマは、ビニルフェノールとメタクリル酸メチルのコポリマである。
【0025】
実施形態では、ビニルアリールアルコールは、ビニル部分および/またはアリールアルコール部分において、炭化水素基、ハロゲン、およびヘテロ原子含有基からなる例示的な群から独立に選択される置換基で1回、2回、またはそれ以上置換されている。
【0026】
実施形態では、置換されていてもよいビニルアリールアルコールは、式(I)の例示的一般構造を有する。
【0027】
【化1】


(I)
【0028】
式(I)中、Rは水素またはアルキル基(例えば、メチルおよびエチル)である。アリールアルコール(Arylalcohol)基には、例えばフェノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノールなどが含まれる。
【0029】
実施形態では、アリールアルコール基は、フェノール基である。したがって、置換されていてもよいビニルアリールアルコールは、実施形態では、式(II)の例示的一般構造を有する。
【0030】
【化2】


(II)
【0031】
式中、Rは先に定義したのと同じであり、R’は独立に、水素、炭化水素基、ハロゲン、およびヘテロ原子含有基からなる例示的群から選択され、mは、0〜4の整数である。
【0032】
炭化水素基は、例えば1〜約25個の炭素原子、または1〜約10個の炭素原子を含み、例えば直鎖状アルキル基、分枝状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、およびアリールアルキル基とすることができる。例示的な炭化水素基には、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびその異性体が含まれる。
【0033】
炭化水素基は場合によっては、例えばハロゲン(塩素、臭素、フッ素、およびヨウ素)、または本明細書に記載するヘテロ原子含有基、あるいはその混合物で1回以上置換されている。
【0034】
ヘテロ原子含有基は、例えば2〜約50個の原子、または2〜約30個の原子を有し、例えば窒素含有部分(nitrogen containing moiety)、アルコキシ基、ヘテロ環系、アルコキシアリール、およびアリールアルコキシとすることができる。例示的なヘテロ原子含有基には、例えばシアノ、ニトロ、メトキシル、エトキシル、およびプロポキシが含まれる。
【0035】
ハロゲンは、塩素、臭素、フッ素、およびヨウ素とすることができる。
【0036】
ゲート誘電体で使用するポリマを架橋することは、以下の理由のうちの1つまたは複数の理由のため有利となり得る。第1に、架橋性ゲート誘電体は、ゲート誘電体のパターニングの可能性をもたらす。ポリマの架橋部分は溶媒に不溶になるが、ポリマの非架橋部分は適切な溶媒を使用して除去することができる。第2に、架橋ゲート誘電体は、より良好な機械的諸特性を有することができる。第3に、架橋ゲート誘電体によって、ゲート誘電体の構造上かつ化学上の完全性に影響を及ぼすことなく、1種または複数の追加の液体被着層を使用することが可能になるはずである。例えば、誘電材料が架橋され、半導体溶液の溶媒に可溶でない場合、ゲート誘電体上の半導体層の液体被着によって、ゲート誘電体に欠陥が生じないはずである。
【0037】
実施形態では、ゲート誘電体を適切な放射線に曝露させて架橋する。放射線架橋は、清浄な方法である。得られた架橋ゲート誘電体は、通常は、ゲート誘電体全体にわたって高架橋密度、および架橋の均一性を示す。架橋に利用することができる放射線には、例えば紫外線照射、マイクロ波照射、赤外線照射、X線照射など、またはその組合せが含まれる。実施形態では、放射線は、例えば約200〜約360nmの波長、好ましくは約250nmの波長の紫外線照射である。放射線架橋を例えば約200℃未満、約150℃未満、約100℃未満、または約50℃未満の比較的低温で行うことができる。実施形態では、放射線架橋を室温で実施する。プラスチック基板の大半は、寸法の狂いまたは損傷なしに高温での処理に耐えることができないので、低温架橋は、特にプラスチック薄膜トランジスタの場合重要である。放射線架橋は一般に速い反応でもあり、例えば約1時間未満、約30分未満、または約10分未満の短時間で完了することができる。
【0038】
実施形態では、架橋ポリマを形成するための架橋剤を使用しない。架橋剤を使用すると、ゲート誘電体の特性が悪く変化するおそれがある。しかし、他の実施形態では、架橋剤を使用して、架橋ポリマを形成する。例示的な架橋剤は、例えば少なくとも2つのイソシアナート基を含む化合物、少なくとも2つのエポキシ基を含む化合物、少なくとも2つのカルボン酸基を含む化合物、およびカルボン酸の酸無水物、ならびにその混合物である。架橋剤とポリマの重量比は、例えば約1:100〜約40:100とすることができる。
【0039】
実施形態では、ゲート誘電体は、放射線架橋ポリマを主としてまたは放射線架橋ポリマ単独で構成される(ゲート誘電体を形成するのに使用された残量の非架橋ポリマが存在することがある)。
【0040】
実施形態では、ゲート誘電体の作製は、液体被着(liquid deposition)と、その後に続く放射線架橋によって実現される。液体被着は、液体をビヒクルとして使用して、材料を運搬する方法を指す。実施形態では、液体は、例えば水または有機溶媒などの溶媒とすることができる。液体被着の例は、スピンコーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スタンピングなどである。追加のステップが、いくつかの実施形態でのゲート誘電体の作製に有用である場合がある。例えば、液体被着した後に、アニーリングを行うことができ、放射線架橋した後に、すすぎまたは洗浄を行うことができる。
【0041】
ゲート誘電体は単層でもよく、あるいは多層でもよい。単層/多層のゲート誘電体の各層は、例えば約50ナノメートル〜約2マイクロメートルの厚さを有する。他の実施形態では、単層/多層のゲート誘電体の各層は、例えば約200ナノメートル〜約1マイクロメートルの厚さを有する。他の実施形態では、ゲート誘電体は約50ナノメートル〜約2マイクロメートルの厚さを有する単層である。厚さは、楕円偏光法(ellipsometry)およびプロフィロメトリ(profilometry)などの知られている技法で決定することができる。多層ゲート誘電体の場合、実施形態では、放射線架橋ポリマを含む層を多層ゲート誘電体の他の層に比べて半導体層に最も接近させて配置する。他の実施形態では、多層ゲート誘電体の場合、放射線架橋ポリマを含む層は、半導体層と直接接触させない。多層ゲート誘電体の他の層に有用な材料は、例えば有機もしくは無機の電気絶縁材料、またはその組合せを含むことができる。実施形態では、有機電気絶縁材料は、例えばポリイミド類、エポキシ類、ポリアクリラート類、ポリビニル類、ポリエステル類、ポリエーテル類などのポリマ材料、上記のポリマのコポリマ、およびその混合物を含むことができる。無機電気絶縁材料は、例えば酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、ストロンチウム酸塩(strontates)、タンタル酸塩(tantalates)、チタン酸塩(titanates)、ジルコン酸塩(zirconates)、窒化シリコン、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、およびその混合物を含むことができる。
【0042】
<基板>
基板は、例えばシリコン、ガラス板、プラスチックフィルムまたはシートから構成することができる。構造的に柔軟なデバイスでは、例えばポリエステル、ポリカーボナート、ポリイミドシートなどのプラスチック基板が好ましい場合がある。基板の厚さは、約10マイクロメートルから約10ミリメートルを超えるものとすることができる。例示的な厚さは、特に軟質のプラスチック基板の場合約50〜約100マイクロメートルであり、ガラス板やシリコンウェハなどの硬質基板の場合約1〜約10ミリメートルである。
【0043】
<電極>
ゲート電極は、薄い金属フィルム、導電ポリマフィルム、導電性インクまたはペーストから作製された導電フィルムとすることができ、あるいは基板それ自体をゲート電極、例えば高濃度ドープシリコンとすることができる。ゲート電極材料の例には、アルミニウム、金、クロム、酸化インジウムスズ、ポリスチレンスルホネートをドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS−PEDOT)などの導電ポリマ、Acheson Colloids Companyから入手可能なELECTRODAG(商標)などの、ポリマ結合剤中のカーボンブラック/黒鉛またはコロイド状銀分散液からなる導電性インク/ペーストが含まれるが、これらに限定されない。ゲート電極層を、真空蒸着、金属または導電性金属酸化物のスパッタリング、スピンコーティング,流延(casting),または印刷による導電ポリマ溶液または導電性インクからのコーティングによって調製することができる。ゲート電極層の厚さは、例えば金属フィルムの場合約10〜約200ナノメートルであり、ポリマ導電体の場合約1〜約10マイクロメートルの範囲である。
【0044】
ソースおよびドレイン電極は、低抵抗のオーム接触を半導体層に提供する材料から作製することができる。ソースおよびドレイン電極としての使用に適した典型的な材料には、金、ニッケル、アルミニウム、白金、導電ポリマ、および導電性インクなどゲート電極材料のものが含まれる。ソースおよびドレイン電極の典型的な厚さは、例えば約40ナノメートル〜約10マイクロメートルであり、より具体的には厚さは、約100〜約400ナノメートルである。
【0045】
<半導体層>
有機半導体層としての使用に適した材料には、アントラセン、テトラセン、ペンタセンおよび置換ペンタセン類などのアセン類、ペリレン類、フラーレン類、フタロシアニン類、オリゴチオフェン類、ポリチオフェン類、ならびにその置換誘導体が含まれる。実施形態では、有機半導体層を液体処理可能な材料から形成する。適切な半導体材料の例示的な例には、ポリチオフェン類、オリゴチオフェン類、開示を全体として本願に引用して援用する米国特許出願公開第2003/0160234号として公開されている米国特許出願第10/042,342号、ならびに米国特許第6,621,099号、第6,774,393号、および第6,770,904号に記載されている半導体ポリマが含まれる。さらに、適切な材料には、その開示も全体として本願に引用して援用するC.D.ディミトラコプロス(Dimitrakopoulos)およびP.R.L.マレンファント(Malenfant)、「Organic Thin Film Transistors for Large Area Electronics」、Adv.Mater.、12巻、2号、99〜117頁(2002)に開示されている半導体ポリマが含まれる。
【0046】
半導体層は、真空蒸着、スピンコーティング、溶液流延(solution casting)、ディップコーティング、ステンシル/スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア、オフセット印刷、インクジェット印刷、マイクロコンタクトプリンティング、これらの方法の組合せなどに限定されないがこれらを含めて適切な任意の手段によって形成することができる。実施形態では、半導体層を液体被着方法によって形成する。実施形態では、半導体層は、約10ナノメートル〜約1マイクロメートルの厚さを有する。別の実施形態では、有機半導体層は、約30〜約150ナノメートルの厚さを有する。他の実施形態では、半導体層は、約40〜約100ナノメートルの厚さを有する。
【0047】
ゲート誘電体、ゲート電極、半導体層、ソース電極、およびドレイン電極を任意の順序で形成する。実施形態では、ゲート電極および半導体層はともに、ゲート誘電体と接触し、ソース電極およびドレイン電極はともに半導体層と接触している。「任意の順序で」という語句には、順次形成および同時形成が含まれる。例えば、ソース電極およびドレイン電極を同時にまたは順次に形成することができる。電界効果トランジスタの組成物、作製、および操作は、開示を全体として本願に引用して援用するバオ(Bao)らの米国特許第6,107,117号に記載されている。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。百分率および部はすべて、別段の指摘がない限り重量による。本明細書では、室温は例えば約20〜約25℃の温度を指す。
【0049】
(実施例1)
ボトムゲートでトップコンタクト型の薄膜トランジスタを作製した。ポリ(ビニルフェノール)(PVP)の10重量%(wt%)のn−ブタノール溶液を0.2ミクロンシリンジフィルタでろ過し、次いでn型ドープされたシリコンウェハにスピンコーティングによって被着させた。得られた750nmの薄いフィルムを60℃で30分間乾燥し、次いで140℃で10分間アニールした。室温まで冷却した後、フィルムを紫外光(波長250nm)で20分間照射した。照射したフィルムを60℃のn−ブタノールに浸漬して、未反応のPVPを除去して、乾燥した後、600nmの架橋フィルムを得た。架橋フィルムは、トルエン、THF、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなど一般的な有機溶媒による溶剤の攻撃に非常に耐性があった。電気容量(capacitance)を測定するために、金電極層をゲート誘電体層の上に真空蒸着した。キャパシタメータ(capacitor meter)を使用して、電気容量を測定すると、6.4nF/cmであった。ゲート誘電体の誘電率を算出すると、4.1であった。
【0050】
【化3】

【0051】
上記式で示されるポリチオフェン(式中、nは約5〜約5,000の数である)を半導体として使用した。このポリチオフェンおよびその調製は、開示を全体として本願に引用して援用するベング・オング(Beng Ong)らの米国特許出願公開第2003/0160230号に記載されている。ポリチオフェン半導体層をn型ドープされたシリコンウェハ基板上のゲート誘電体の上にスピンコーティングで被着させた。半導体層を真空オーブン中、約80℃〜約145℃で30分間乾燥し、次いで室温まで冷却した。その後、一組のソース/ドレイン電極対を得られた半導体層の上にシャドーマスクを用いて真空蒸着して、様々な寸法の一連の薄膜トランジスタを形成した。
【0052】
得られたトランジスタは、ケースレー(Keithley)4200半導体特性決定システム(Semiconductor characterization system)を使用して評価した。チャネル長約90ミクロン、およびチャネル幅約1000ミクロンの薄膜トランジスタを、出力および増幅特性曲線を測定することによって特性決定した。デバイスは、約ゼロボルトにおいて電流オンオフ比2×10でターンオンした。オフ電流は非常に低く、熱成長させた酸化シリコンをゲート誘電体として使用したTFTによって得られたものにほぼ匹敵することに留意することが重要である。電界効果移動度を算出すると、0.003cm/V・sであった。
【0053】
(実施例2)
この実施例では、ポリ(4−ビニルフェノール−コ−メチルメタクリラート)をゲート誘電体材料として使用した。ボトムゲートでトップコンタクト型のTFTを実施例1の場合と同じ手順を使用して作製した。チャネル長約90ミクロン、およびチャネル幅約1000ミクロンの薄膜トランジスタを評価用に使用した。デバイスは、電界効果移動度0.004cm/V・s、および電流のオンオフ比4.0×10を示した。
【0054】
(実施例3)
ポリ(4−ビニルフェノール−コ−メチルメタクリラート)の10重量%のn−ブタノール溶液を、n型ドープされたシリコンウェハ上にスピンコートした。得られたポリ(4−ビニルフェノール−コ−メチルメタクリラート)層を、実施例1の手順に従って紫外線に曝露させることによって架橋した。次いで、約50nmのポリ(メチルシルセスキオキサン)(poly(methylsilsesquioxane))層を、架橋ポリ(4−ビニルフェノール−コ−メチルメタクリラート)層上に被着させ、次いで140〜150℃で1時間加熱した。その後、実施例1の場合と同じ手順を使用して、半導体層およびソースドレイン接点を被着した。チャネル長約90ミクロン、およびチャネル幅約1000ミクロンの薄膜トランジスタを評価用に使用した。デバイスは、電界効果移動度0.12cm/V・s、および電流のオンオフ比1.5×10を示した。
【0055】
(実施例4)
この実施例では、PVPをゲート誘電体材料として使用した。ゲート誘電体を被着させ、実施例1の場合と同様にしてUV架橋した。100nmのペンタセン半導体層をPVPゲート誘電体層上に真空蒸着によって0.3Å/秒の速度で被着させた。チャネル長約90ミクロン、およびチャネル幅約1000ミクロンの薄膜トランジスタを評価用に使用した。TFTは、電界効果移動度0.53cm/V・s、および電流オンオフ比5.0×10を示した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】TFTの形の本発明の第1の実施形態を示す図である。
【図2】TFTの形の本発明の第2の実施形態を示す図である。
【図3】TFTの形の本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図4】TFTの形の本発明の第4の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10,30,50,70 OTFT構成、12,32,52,72 有機半導体層、14,34,54,74 ゲート誘電体層、16,36,76 基板、18,38,78 ゲート電極、20,40,60,80 ソース電極、22,42,62,82 ドレイン電極、56 シリコンウェハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有するゲート誘電体を備える薄膜トランジスタであって、
前記1種または複数のモノマは、置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
(a)半導体層と、
(b)ゲート電極と、
(c)前記半導体層と接触しているソース電極と、
(d)前記半導体層と接触しているドレイン電極と、
(e)前記半導体層と前記ゲート電極との間に配置されたゲート誘電体と、
を備える薄膜トランジスタであって、
前記ゲート誘電体は、重合された1種または複数のモノマを含む放射線架橋ポリマを含有し、
前記1種または複数のモノマは、置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項3】
(a)重合された1種または複数のモノマを含むポリマを含有する組成物を被着させるステップであって、前記1種または複数のモノマは置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含むステップと、
(b)前記組成物を照射して、前記ポリマを架橋するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
薄膜トランジスタの作製方法であって、
(a)ゲート誘電体前駆体組成物を被着させるステップであって、前記ゲート誘電体前駆体組成物は重合された1種または複数のモノマを含むポリマを含有し、前記1種または複数のモノマは置換されていてもよいビニルアリールアルコールを含むステップと、
(b)前記ゲート誘電体前駆体組成物を照射して、前記ポリマを架橋させるステップと、
を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−295165(P2006−295165A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104556(P2006−104556)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】