説明

被処理体の加熱冷却方法

【課題】特に真空処理装置において、被処理体を破損することなく略均一に被処理体を加熱できるようにした被処理体の加熱冷却方法を提供する
【解決手段】基板ステージ2に設けた正負一対の吸着電極14a乃至14d間に所定の電圧を印加して基板Wを静電吸着し、基板ステージ2に組み込んだ加熱手段または冷却手段により基板を所定の温度に加熱または冷却する。基板の温度が所定の温度に達するまでの間に、この吸着電極の印加電圧を三角パルス状に変化させ、この印加電圧が低くなるときに吸着電極と被処理体とを実質的に縁切りする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として真空中でSiウェハまたはSiCウェハ表面に成膜等の所定の処理を施す真空処理装置において、SiウェハまたはSiCウェハを所定温度に加熱または冷却するために利用できる被処理体の加熱冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空排気される処理室内に設置した基板ステージ上に処理すべきSiウェハまたはSiCウェハ等の基板(被処理体)を載置し、例えばCVD法で基板表面に所定の薄膜を形成する処理装置が知られている。このような処理装置においては、基板温度が処理速度などに大きな影響を与えることから、基板をその全面に亘って略均一な温度に制御することが必要になる。そこで、基板ステージに加熱手段と、冷媒循環による冷却手段とを組み込み、基板の加熱と冷却による基板の温度制御ができるようにしたものが特許文献1で知られている。
【0003】
上記のような処理装置において基板の温度制御を行う場合、基板ステージに静電気力を用いた静電チャックを設け、この静電チャックの正負一対の吸着電極に所定の電圧を印加して基板を吸着保持することが一般的である。ここで、例えば吸着電極で基板を吸着保持して基板を加熱する場合、基板のうち吸着電極に吸着されている領域(以下、「吸着領域」という)は、吸着電極を経た加熱冷却体からの直接の熱伝導により加熱され、吸着電極に吸着されていないその他の領域(以下、「周辺領域」という)は、吸着領域からの伝熱及び加熱冷却体からの輻射熱で加熱される(このため、吸着領域の昇温速度は、周辺領域と比較して速くなる)。
【0004】
但し、上記のように基板を吸着保持した状態、つまり、吸着領域で基板が局所的に拘束された状態で基板を連続して加熱または冷却すると、基板の熱膨張または熱収縮に起因した熱応力で基板が破損する虞がある。そこで、加熱冷却体に設けた正負一対の吸着電極間に所定の電圧を印加して基板を静電吸着し、基板を所定の温度まで加熱または冷却する間、吸着電極に対する印加電圧が段階的に増加させつつ矩形パルス状に電圧を印加する基板
の加熱冷却方法が特許文献2で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−13350号公報
【特許文献2】特開2001−152335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2記載のものでは、所定温度への基板の加熱を例に説明すると、その昇温過程において電圧が印加されていない間、吸着力を減衰させることで、蓄積された熱応力がある程度分散されるが、電圧が印加されていない間も吸着領域は加熱冷却体からの直接の熱伝導により直線的に温度上昇していく。このため、吸着領域と周辺領域との間の温度差が大きくなり、基板面内で温度むらが発生し易くなる。そして、大きな温度むらが発生したときには吸着領域と周辺領域との熱膨張の差に起因した熱応力で基板が破損する場合があり、特に、基板がSiCウェハであるときにより顕著になる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、被処理体を破損することなく略均一に被処理体を加熱できるようにした被処理体の加熱冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、吸着電極に所定の電圧を印加して被処理体を静電吸着する工程と、この静電吸着した被処理体を加熱冷却体により所定の温度に加熱または冷却する工程とを含み、被処理体の温度が所定の温度に達するまでの間、この吸着電極の印加電圧を三角パルス状に変化させ、この印加電圧が低くなるときに吸着電極と被処理体とを実質的に縁切りすることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、基板を所定の温度に加熱する場合を例に説明すると、基板の吸着領域は吸着電極を経た加熱冷却体からの直接の熱伝導により加熱され、周辺領域は主として吸着領域からの熱伝導及び加熱冷却体からの輻射熱で昇温していく。その昇温過程において基板の吸着を解除したときには、吸着領域への熱伝導率が急激に低下すると共に、昇温速度が遅く比較的に温度が低い周辺領域に熱が逃げる。
【0010】
このように、基板の吸着を解除した状態では、吸着領域の温度が一旦低下すると共に、周辺領域の昇温速度が過渡的に速くなり、その結果、基板の加熱時に吸着領域と周辺領域との間の温度差が小さくなる。従って、本発明によれば、上記のように基板を加熱することで、所定温度に達した基板面内で温度むらの発生が抑制され、また、その昇温過程において基板面内での熱膨張の差に起因した熱応力で基板が破損することが効果的に防止でき、基板がSiCウェハであるときに特に有効となる。
【0011】
尚、本発明においては、その昇温過程において基板温度が低く、熱膨張量が少ない間は基板の吸着力を小さくし、熱膨張に起因した熱応力を小さく抑制し、基板温度が所定温度に達したときに基板に蓄積される熱応力の総量を少なくするために、前記吸着電極への印加電圧を段階的に増加するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の基板の加熱冷却方法を実施できる処理装置の模式的に示す断面図。
【図2】図1の処理装置において基板ステージ上での基板の吸着保持を説明する図。
【図3】基板の加熱制御を説明するグラフ。
【図4】他の形態に係る基板加熱時の吸着電極への電圧制御を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の基板の加熱冷却方法を実施できる処理装置を示している。この処理装置は、処理室1aを画成する真空チャンバ1と、処理室1a内に設置した基板ステージ2とを備えている。基板ステージ2上面である基板載置面2aには、SiウェハやSiCウェハ等の基板Wが載置され、基板W表面にCVD法により薄膜を形成する成膜処理を行う。
【0014】
処理室1aは、その底部に接続した真空排気手段3により真空排気される。また、処理室1の天井部には、原料ガスと反応ガスとから成る処理ガスを処理室1aに供給するガス供給手段4が設けられている。ガス供給手段4は、供給管5aを介して処理ガスが供給されるガス拡散室5と、ガス拡散室5の下面のシャワープレート6とで構成される。そして、シャワープレート6に形成した多数の孔6aから基板Wに向けて処理ガスが噴出される。
【0015】
基板ステージ2は、処理室1aの底部に立設した中空の支柱7により支持されている。基板ステージ2の下方には、シリンダ8で昇降される昇降プレート9が設けられている。昇降プレート9には、基板ステージ2を上下方向に貫通する複数のリフトピン10が立設されている。また、真空チャンバ1の周壁部にはゲートバルブ付きの搬送口11が設けられ、この搬送口11を通して図外の搬送手段が処理室内1aに進退する。そして、処理済の基板Wを昇降プレート9の上昇でリフトピン10により基板ステージ2から押上げ、この状態で搬送手段に受け渡して処理室1aから搬出し、また、新たな基板Wを搬送手段により処理室1aに搬入してリフトピン10に受け渡し、昇降プレート9の下降で基板ステージ2の基板載置面2aに基板Wを載置するようにしている。
【0016】
また、基板ステージ2には、真空チャンバ1外側に設置された公知のヒータ電源装置12aに接続された抵抗加熱式の加熱手段12が組み込まれていると共に、冷却ガスや冷却水等の冷媒を循環できる冷媒循環路13が形成されている。これにより、基板Wの加熱と冷却による基板Wの温度制御ができるようになっている。この場合、加熱手段12と冷媒循環路13とを具備する基板ステージ2自体が加熱冷却体を構成する。
【0017】
図2に示すように、基板ステージ2の基板載置面2aには、静電気によって基板Sを吸着するために静電チャック用の正負一対の吸着電極14a乃至14dが設けられている。正負一対の吸着電極14a乃至14dは、支柱7内を貫通する電源ケーブル15aにより真空チャンバ1外側に配置したチャック電源装置15に接続されている。チャック電源装置15は、公知の構造を有し、任意の波形で各一対の吸着電極14a乃至14dに直流電圧を印加することを制御する電圧制御回路15bと、各一対の吸着電極14a乃至14dに逆電圧を印加する逆電圧印加回路とを具備する。本実施の形態では、チャック電源装置15により一対の吸着電極14a及び14dに、一定の周期で極性が変化する三角パルス状の電圧が印加するようにしている(図3参照)。
【0018】
次に、上記処理装置において基板Wを所定温度に加熱する場合を例にその基板Wの加熱方法を説明する。新たな基板Wを搬送手段により処理室1aに搬入してリフトピン10に受け渡し、昇降プレート9の下降で基板ステージ2の基板載置面2aに基板Wを載置した後、チャック電源装置15により吸着電極14a乃至14dに通電して基板Wを吸着保持する。そして、ヒータ電源装置12aを作動させて基板Wの加熱を開始する。
【0019】
このとき、基板Wの吸着領域A1は吸着電極14a乃至14dを経た基板ステージ2からの直接の熱伝導により加熱され、周辺領域A2は主として吸着領域A1からの熱伝導及び基板ステージ2からの輻射熱で昇温していく。そして、基板Wの加熱開始直後から、チャック電源装置15により一定の周期で極性が変化する三角パルス状の電圧を印加する。
【0020】
その昇温過程においてチャック電源装置15により逆電圧が印加されて基板Wの吸着が解除されたときには、吸着領域A1への熱伝導量が急激に低下すると共に、昇温速度が遅く比較的に温度が低い周辺領域に熱が逃げる。そして、チャック電源装置15により正電圧が印加されて基板Wが再度吸着されると、吸着領域A1は基板ステージ2からの直接の熱伝導により加熱される(つまり、温度上昇速度が速くなる)。
【0021】
基板Wが設定温度に達すると、各一対の吸着電極14a乃至14dにチャック電源装置15により一定の正電圧が連続して印加され、基板Wが吸着保持された状態となる。その際、加熱手段12の作動が停止され、必要に応じて冷媒循環路13に冷媒を循環させて基板Wが温度制御される。
【0022】
このように、本実施の形態では、昇温過程における吸着領域A1及び周辺領域A2の測定点での温度を測定してみると、図3に示すように、基板Wの吸着を解除した場合に吸着領域A1の温度が一旦低下すると共に、周辺領域A2の昇温速度が過渡的に速くなり、その結果、基板Wの加熱時に吸着領域A1と周辺領域A2との間の温度差が小さくなる。従って、前述する制御を繰り返しながら基板Wを加熱することで、所定温度に達した基板W面内で温度むらの発生が抑制され、また、その昇温過程において基板W面内での熱膨張の差に起因した熱応力で基板が破損することが効果的に防止できる。
【0023】
また、本実施の形態においては、基板Wの吸着を解除するときに吸着電極14a乃至14dに逆電圧を定期的に印加しているため、吸着電極14a乃至14dをアース接地しただけでは、残留する電荷により基板Wの吸着が完全に解除できない場合があるが、逆電圧を印加することで残留電荷が打ち消され、基板Wの吸着を完全に解除できる。
【0024】
また、本実施の形態においては、チャック電源装置15により吸着電極14a乃至14dに三角パルス状の電圧を印加しているため、矩形パルス電圧を印加したときには、ピーク電圧(吸着力が最大となる)が印加された状態で所定時間保持され、この間、吸着領域A1の温度上昇速度がより速くなって周辺領域A2との温度差が一層大きくなるが、ピーク電圧(吸着力が最大となる)が印加された直後に電圧を下げて吸着力を低下させることで、吸着時における吸着領域A1の温度上昇を抑制できる。
【0025】
尚、本実施の形態では、CVD法による成膜処理に用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、基板温度を制御しつつエッチング、スパッタリング等の他の処理を行う場合にも適用可能である。
【0026】
また、本実施の形態では、チャック電源装置15により一定の周期で極性が変化する三角パルス状の電圧を印加し、吸着電極14a乃至14dと基板Wとが縁切りされて完全に吸着解除するものについて説明したが、上記周期は任意に設定でき、また、図4に示すように、本発明の吸着の解除には、三角パルス状の電圧を印加することで、印加電圧が低下したときに、堆積する電荷の影響を受けずに、吸着電極14a乃至14dと基板Wとが実質的に縁切りされるような場合を含む。
【0027】
その際、基板Wの昇温過程において基板W温度が低く、熱膨張量が少ない間は基板Wの吸着力を小さくし、熱膨張に起因した熱応力を小さく抑制し、基板W温度が所定温度に達したときに基板Wに蓄積される熱応力の総量を少なくするために、吸着電極14a乃至14dへの印加電圧を段階的に増加するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 真空チャンバ
1a 処理室
2 基板ステージ
2a 基板載置面
12 加熱手段
13 冷媒循環路(冷却手段)
14a乃至14d 吸着電極
15 チャック電源装置
A1 吸着領域
A2 周辺領域
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着電極に所定の電圧を印加して被処理体を静電吸着する工程と、この静電吸着した被処理体を加熱冷却体により所定の温度に加熱または冷却する工程とを含み、
被処理体の温度が所定の温度に達するまでの間、この吸着電極の印加電圧を三角パルス状に変化させ、この印加電圧が低くなるときに吸着電極と被処理体とを実質的に縁切りすることを特徴とする被処理体の加熱冷却方法。
【請求項2】
前記吸着電極への印加電圧を段階的に増加することを特徴とする請求項1記載の被処理体の加熱冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−64971(P2012−64971A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264934(P2011−264934)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【分割の表示】特願2007−120710(P2007−120710)の分割
【原出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】