説明

複合誘電体材料及びこれを用いたプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板、並びに複合誘電体材料の製造方法

【課題】高い比誘電率εrを実現し、高いQ値を有するとともに、比誘電率の温度変化率の小さな複合誘電体材料を提供する。
【解決手段】誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、前記誘電体セラミックスとして、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを複合化した複合誘電体材料に関する。また、係る複合誘電体材料を用い回路基板材料に適したプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、及び多層基板に関する。さらには、係る複合誘電体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、情報通信分野においては、使用周波数帯域が高周波数に移行する傾向にあり、衛星放送や衛星通信、携帯電話や自動車電話等の移動体通信では、ギガヘルツ(GHz)帯の高周波が使用されている。
【0003】
前述のような高周波帯域で使用される機器に搭載される回路基板や電子部品等では、使用する誘電体材料は、Qが高く高周波伝送特性に優れた低損失材料であることが必要である。さらに、回路基板や電子部品の高性能化や小型化を図るためには、使用周波数帯域において高比誘電率εrを有する誘電体材料が必要である。特に小型化の点については、誘電体材料中の電磁波の波長が1/√εrによって短縮されるという原理に基づくものであり、比誘電率εrの大きい誘電体材料ほど回路基板や電子部品の小型化が可能である。また、コンデンサ機能を持たせた基板の要求もあることから、そのような誘電体材料を用いた高誘電率基板も必要とされている。
【0004】
誘電体材料としては、無機材料である誘電体セラミックスが広く用いられており、必要な特性に応じて様々な組成を有する誘電体セラミックスが開発されている。ただし、前記誘電体セラミックスを回路基板や電子部品に用いる場合、バルク焼結体の形態で用いるのが一般的であり、高温での焼成が必要なことから、適用範囲が制約されるという問題がある。また、高温での焼成工程で生ずる収縮や変形、さらには例えば内部導体の酸化による特性劣化等も問題になる。
【0005】
このような状況から、誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料とを組み合わせた複合誘電体材料が提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。複合誘電体材料は、高温での焼成が不要であることから、広範な用途に使用可能であり、バルク焼結体の製造工程の一つにある焼成工程において収縮や変形、内部導体の特性劣化の問題もない。また、有機高分子材料を含有することから形状加工性の自由度が増し、軽量で、誘電体セラミックス粉末の配合割合により比誘電率εr等を任意に変えることができる等の利点を有する。
【0006】
例えば、特許文献1記載の発明には、樹脂(ポリビニルベンジルエーテル化合物)中にBaTiO系等のセラミックスを分散した複合誘電体が開示されている。特許文献1記載の発明においては、セラミックスの含有量を30体積%以上とすることで、10MHz以上の高周波数帯域で比誘電率10以上が実現されている。
【0007】
一方、特許文献2は、誘電体起電流型アンテナ用複合材料に関するものであり、比誘電率の温度変化特性が正の誘電体セラミックスと、比誘電率の温度変化特性が負の誘電体セラミックスと、高分子材料とを、全体の比誘電率の温度変化が±50ppm/℃以下となるように混合した誘電体起電流型アンテナ用複合材料が開示されている。
【特許文献1】特開2001−181027号公報
【特許文献2】特開平4−161461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、複合誘電体材料に要求される特性としては、比誘電率εrが高いことの他、損失の指標となるQ値が高いこと、温度係数が小さいこと等を挙げることができる。そして、回路基板や電子部品のさらなる高性能化を実現するためには、用いる複合誘電体材料は、これらの特性のいずれもが基準を満たすことが必要になる。
【0009】
このような観点から見たときに、例えば高い比誘電率εrを実現しながら高いQ値を得、さらには比誘電率εrの温度係数τεの絶対値を小さくすることは困難であり、いずれかの特性を犠牲にせざるを得ないのが実情である。例えば、特許文献1記載の発明では、ある程度の比誘電率εrは得られているが、Q値及び温度係数τεについては検討されていない。特許文献2記載の発明では、温度係数が重視されており、比誘電率εrについては、いずれの試料でも10以下である。Q値についても検討されていない。例えばアンテナ等の利得が重要なものには、高いQを有する低損失な誘電体材料が必要とされており、その改善が望まれる。
【0010】
本発明は、前述の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、高い比誘電率εrを実現し、高いQ値を有するとともに、比誘電率の温度変化率の小さな複合誘電体材料を提供することを目的とする。また、本発明は、前記複合誘電体材料の特性向上を利用して、例えば回路基板に使用した場合にこれを高性能化することが可能なプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板を提供することを目的とする。さらに、本発明は、優れた流動性を示し、例えば回路基板等の製造が容易な複合誘電体材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述の課題を解決するために長期に亘り鋭意研究を行った結果、チタン酸塩において、いわゆるAサイトにLiと希土類元素を同時に含有させることで正の温度特性τεを持たせることができることに着目し、BaTiO、SrTiO、CaTiO、Li1/2RE1/2TiO(REは希土類元素)等のチタン酸塩を適正な割合で固溶させることで、基本的に単相のペロブスカイト構造を持つ酸化物誘電体からなり、誘電率、Q特性、温度特性の各特性についてバランス良く良好な値を示す酸化物を開発した。さらなる研究の結果、この系において希土類元素REにイオン半径の最も大きいLaを使った場合に最も特性が良いが、Laの替りにイオン半径がLaに近いBiを使った場合、さらに高い比誘電率εとQ特性、温度特性の各特性を持つ材料が得られるとの知見を得た。そしてさらに検討を進めた結果、この材料を複合誘電体材料において有機高分子材料と組み合わせる誘電体セラミックスとして用いることで、誘電率、Q特性、温度特性の各特性について、バランス良く良好な値を示す複合誘電体材料が得られるとの知見を得、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る複合誘電体材料は、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、前記誘電体セラミックスとして、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を含有することを特徴とする。
【0013】
複合誘電体材料における誘電体セラミックスとして用いられる酸化物粉末は、Li1/2Bi1/2TiO、Li1/2RE1/2TiO(REは希土類元素)を含有することで、比誘電率εrの温度特性τεがフラットになる。また、式中Mとして例えばBa、Sr、Ca等を含むことで、高い比誘電率εrを示す。また、これら高い比誘電率εrをもたらすBa、Sr、Caのうち、特に、Caは高いQf値を持ち、BaやSrは、Caを越える高い比誘電率εrを持つ。したがって、例えばCaに対して、SrやBaを配合すること等により、高いQ特性と高い比誘電率εrを兼ね備えた酸化物粉末が実現される。
【0014】
本発明では、以上のように比誘電率εr、温度特性τε及びQ特性のバランスのよい酸化物粉末を誘電体セラミックスとして用いる。前記酸化物粉末を有機高分子材料と複合化することで、例えば、比誘電率εrやQ特性が高く、比誘電率εrの温度特性τεが小さな複合誘電体材料が実現される。
【0015】
また、本発明に係る複合誘電体材料の製造方法は、原料組成物を所定の焼成温度で保持して焼成物を得る焼成工程と、前記焼成物を気流式粉砕機を用いて粉砕する粉砕工程とを経て一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を作製し、前記酸化物粉末を含む誘電体セラミックスと有機高分子材料とを混合することを特徴とする。
【0016】
誘電体セラミックスを作製するための粉砕の際、気流式粉砕機を用いることで、他の粉砕機を用いる場合に比べ極めて微細な粉末の発生が抑制され、極微細な粉末の含有量の少ない酸化物粉末が得られる。このような酸化物粉末を誘電体セラミックスとして用いると、有機高分子材料と混合した混合物において良好な流動性が発揮され、例えば回路基板の製造が容易となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を誘電体セラミックスとして用いることで、例えば、10以上の高い比誘電率εrを有し、200を超える高いQ値を有し、さらには比誘電率εrの温度変化率が±250ppm以内のような、優れた誘電特性を示す複合誘電体材料を提供することが可能である。
【0018】
また、本発明によれば、比誘電率εr、Q値及び比誘電率εrの温度変化率の各特性について優れた複合誘電体材料を用いることで、高性能なプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板及び多層基板を提供することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を作製する際に気流式粉砕機を使用することで、比誘電率εr、Q特性及び比誘電率εrの温度変化率のいずれの特性にも優れた複合誘電体材料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る複合誘電体材料及びこれを用いたプリプレグ、金属箔塗工物、成形体、複合誘電体基板、多層基板、並びに複合誘電体材料の製造方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスと有機高分子材料(樹脂)とを複合化したものである。ここで、先ず、誘電体セラミックスと組み合わせる有機高分子材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を挙げることができる。これら樹脂の中から所望の特性等に応じて任意の樹脂を選択すればよいが、例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれらの混合物等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂は、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群である。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、マレイミド系樹脂、ポリフェノールのポリシアナート樹脂、ビニルベンジル系樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂も、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群であるが、熱硬化性樹脂を用いた場合、はんだプロセス等での耐熱性に優れた複合誘電体材料となる。特に、ポリビニルベンジルエーテル化合物等のビニルベンジル系樹脂は、温度や吸湿性に依存しにくい誘電特性を有し、耐熱性にも優れた材料である。なお、熱硬化性樹脂を硬化させる際には硬化剤を存在させてもよく、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0023】
一方、誘電体セラミックスとしては、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を用いる。この酸化物粉末は、BaTiO、SrTiO、CaTiO、Li1/2RE1/2TiO(REは希土類元素)、Li1/2Bi1/2TiO等のチタン酸塩を所定の割合で固溶させたペロブスカイト構造を持つ酸化物誘電体の粉末である。
【0024】
前記一般式(M,Li,Bi,RE)TiOで表される酸化物中、M、Li、Bi及びREの比率xは、0.9〜1.05とする。前記一般式においてxは基本的には1であるが、xが1以外の値をとる場合、すなわち化学量論組成からずれる場合もある。そこで本発明では、許容される化学量論組成からのズレの程度を規定する趣旨で、xを前記範囲に定めることとする。
【0025】
前記一般式(M,Li,Bi,RE)TiOで表される酸化物の基本組成は、aBaTiO−bSrTiO−cCaTiO−dLi1/2Bi1/2TiO−eLi1/2RE1/2TiO[ただし、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表し、a〜eは各成分の配合比率(モル%)を表す。]で表すことができる。各成分は、以下の条件を満たすことが好ましい。
0≦a≦5
0≦b≦20
10≦c≦45
a+b+c≦50
b+d/2≦33
c+d/2≦65
a+b+c+d+e=100
【0026】
前記基本組成成分における、各成分の組成の限定理由について説明すると、先ず、BaTiOについては、比誘電率εrを向上する効果を有するが、BaTiOの配合比率aが5モル%を越えると、Q特性(Qf値)の低下が著しい。したがって、BaTiOの配合比率aは、5モル%以下とすることが好ましい。BaTiOの配合比率aは、場合によってはゼロであってもよい。
【0027】
次に、SrTiOの配合比率bであるが、SrTiOも比誘電率εrを向上する効果を有している。SrTiOの配合比率bが20モル%を越えると、Q特性の低下が著しくなることから、前記SrTiOの配合比率bは、20モル%以下とすることが好ましい。SrTiOの配合比率bは、場合によってはゼロであってもよい。
【0028】
CaTiOは、各単元材の中で最も高いQf値(13000GHz)と比較的に高い比誘電率εr(170)を持っているため、Q特性の向上に効果があり、比誘電率εrについても、ある程度高い値をもたらす効果を有する。ただし、CaTiOが多すぎると、誘電率の温度特性τεが悪くなるおそれがある。したがって、これらの観点から、CaTiOの配合比率cは、10モル%以上、45モル%以下とすることが好ましい。CaTiOの配合比率cが45モル%を越えると、温度特性τεが劣化するおそれがある。CaTiOの配合比率cが10モル%未満であると、Qf値が低下するおそれがある。
【0029】
また、これらアルカリ土類金属(Ba,Sr,Ca)のチタン酸塩に関しては、その総量(a+b+c)についても考慮する必要がある。Ba,Sr,Caのチタン酸塩はすべてマイナスの誘電率温度特性τεを示すため、前記総量(a+b+c)が多すぎると、温度特性τεはマイナス方向での絶対値が大きくなる。したがって、前記総量(a+b+c)は、50モル%以下とする必要がある。逆に、前記総量(a+b+c)が少なすぎると、比誘電率εrやQ特性が低下するおそれがある。このため、前記総量(a+b+c)は、20モル%以上とすることが好ましい。
【0030】
Li1/2Bi1/2TiOは、Li1/2RE1/2TiOよりも温度特性τεを制御する機能が強いが、Q特性の低下もLi1/2RE1/2TiOよりは激しい。したがって、その配合比率dは、複合誘電体材料の温度特性τεを考慮して設定すればよいが、あまりその配合比率dが大きすぎるとQ特性が悪くなり、小さすぎると比誘電率εrが低くなることから、5モル%以上、50モル%以下とすることが好ましい。
【0031】
また、Li1/2RE1/2TiOは、主に複合誘電体材料の温度特性τεの制御に寄与し、その配合比率eを大きくするほど温度特性τεは改善されるが、比誘電率εrやQ特性は低下する。一方、前記配合比率eが小さすぎると、温度特性τεはマイナス方向での絶対値が大きくなる。したがって、Li1/2RE1/2TiOの配合比率eは、3モル%以上、75モル%以下とすることが好ましい。
【0032】
一方、b+d/2は、前記基本組成におけるSrとBiとの合計量を表すものである。前記SrとBiとの合計量(b+d/2)が過剰となると、Q特性が悪化する。したがって、b+d/2は33モル%以下とする必要がある。また、SrとBiとの合計量が少なすぎると温度特性の絶対値がマイナス側に大きくなるおそれがあるため、b+d/2を10モル%以上とすることが好ましい。
【0033】
また、c+d/2は、前記基本組成におけるCaとBiとの合計量を表すものである。前記CaとBiとの合計量(c+d/2)が過剰となると、温度特性τεが悪化する。したがって、c+d/2は、65モル%以下とする必要がある。また、CaとBiとの合計量が少なすぎるとQ特性が低下するおそれがあるため、c+d/2を15モル%以上とすることが好ましい。
【0034】
また、前記酸化物粉末においては、前記基本組成成分のうち、Li1/2RE1/2TiOにおいて、REとしてはNdであることが好ましく、さらにはその一部がランタニド族元素(La,Ce,Pr,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種)によって置換されていてもよい。REをNdとすることで、比誘電率ε、Q特性と温度特性の各特性のバランスが良いうえ、特性と材料コストのバランスも良好なものとなる。また、Ndの一部を、La,Ce,Pr等、イオン半径がNdより大きな元素で置換することで、比誘電率εrをより一層高くすることができる。Ndの一部を、Sm,Y,Yb,Dy等、イオン半径がNdよりも小さな元素で置換することで、Qf値を高くすることができる。
【0035】
ところで、誘電体セラミックスとして用いる酸化物粉末の比表面積は、有機高分子材料と混合した後の混合物の流動性に影響を及ぼす。酸化物粉末の比表面積を低下させると、混合物の流動性が向上し、Q特性の向上効果や、例えば基板等を製造する際に成形性を向上させ、製造を容易とする効果等が得られる。こうした観点から、酸化物粉末の比表面積(SSA)は9m/cm以下であることが好ましい。
【0036】
なお、本発明における比表面積は、密度の異なる粒子(粉末)同士の比較を行うため、下記式(1)に基づいて単位体積あたりの値に換算して示している。
【0037】
SSA(m/cm)=SSA(m/g)×ρ(g/cm) …(1)
SSA(m/g):BET法により測定した粒子の比表面積
ρ:比重ビンを用いて測定した粒子の密度
【0038】
本発明の複合誘電体材料において、酸化物粉末の粒径について特に制限はないが、有機高分子材料との混合を考えると適正に選定することが好ましい。例えば、使用する誘電体セラミックスの粒径が小さくなりすぎると、有機高分子材料との混練が困難になるおそれがある。逆に、誘電体セラミックスの粒径が大きくなりすぎると、有機高分子材料との混合状態が不均一になり、誘電特性も不均一になるおそれがある。また、誘電体セラミックスの含有量が多い場合には、緻密な複合誘電体材料が得られなくなる可能性がある。これらの事項を考慮して、誘電体セラミックスとして用いる酸化物粉末の平均粒子径は、0.2μm以上、100μm以下とすることが好ましい。
【0039】
以下、前記のような構成の複合誘電体材料の製造方法について説明する。先ず、誘電体セラミックスとして使用する、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を作製する。
【0040】
前記酸化物粉末を作製する際には、先ず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合して原料組成物を得る。主成分の原料粉末としては、酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。また、仮焼成物を原料組成物とすることができる。仮焼成物は、最終組成になるように秤量した原料粉末を所定温度に保持することにより仮焼成したものである。なお、仮焼成物に添加物等の副成分を添加し、これを原料組成物としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、例えば0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0041】
次に、原料組成物を焼成する焼成工程を行う。その焼成温度及び保持時間は、酸化物粉末の組成等に応じて適宜設定すればよい。
【0042】
焼成工程の後、粉砕工程を行う。焼成工程で得られた焼成物を粉砕することにより、酸化物粉末が得られる。
【0043】
ところで一般に、粉砕により得られる粉末(粉砕物)の粒径は不均一であり、粉砕物には極微細な粉末も含まれている。酸化物粉末を作製する際に例えばボールミル等を用いた場合、この極微細な粉末をさらに繰り返し粉砕してしまうため、粉砕物中に極微細な粉末が比較的大量に含まれることになり、比表面積の増大を招く。結果として、粉砕物である酸化物粉末と有機高分子材料とを混合したとき、混合物の流動性を悪化させるおそれがある。
【0044】
そこで本発明では、粉砕機として気流式粉砕機を使用することが好ましい。気流式粉砕機は、一般に分級機能を備えているため、極微細な粉末の過剰な粉砕を抑制することができる。なお、粉砕工程においては、気流式粉砕機を使用する粉砕(微粉砕)に先立ち、粗粉砕を行ってもよい。
【0045】
以上のように、焼成工程及び粉砕工程を1回行うことで、誘電体セラミックスとしての酸化物粉末を得ることができるが、本発明では、1回目の焼成及び粉砕の後、焼成及び粉砕を再度行うことが好ましい。すなわち、焼成工程及び粉砕工程を繰り返すことが好ましい。最終的に得られる酸化物粉末の比表面積を小さくし、有機高分子材料と混合した混合物の流動性を良好なものとすることができる。結果として、複合誘電体材料を用いた基板等の製造が容易となり、また、Q特性等の向上を図ることができる。
【0046】
また、焼成工程及び粉砕工程を繰り返し行う場合、さらなる誘電特性の向上を図る観点から、1回目の焼成工程における焼成温度を相対的に高温に設定し、2回目以降の焼成工程における焼成温度をそれより低温とすることが好ましい。
【0047】
このように焼成温度を制御する場合、1回目の焼成工程における焼成温度は、比較的高温に設定することができる。1回目の焼成工程における焼成温度は、酸化物粉末の組成等に応じて適宜設定すればよいが、例えば1100℃〜1300℃とすることができる。その保持時間は、酸化物粉末の組成等に応じて適宜設定すればよい。
【0048】
2回目以降の焼成工程では、その焼成温度を1回目の焼成工程における焼成温度より低くする。2回目以降の焼成工程における焼成温度は、1回目より低温であればよいが、例えば1050℃〜1250℃とすることができる。その保持時間は、酸化物粉末の組成等に応じて適宜設定すればよい。
【0049】
例えば1回目の焼成工程において、前述のような比較的高温で焼成を行った場合、粉砕して得られる粉砕物には極微細な粉末が多量に含まれる。極微細な粉末が発生しやすい理由は、高温の焼成により得られる焼成物が硬く、粉砕に過大なエネルギーが必要となるからである。粉砕物中に極微細な粉末が多量に含まれる結果、得られる粉砕物(酸化物粉末)の比表面積が9m/cmを大きく上回り、有機高分子材料と混合したときに流動性の悪化を招くおそれがある。粉砕時に気流式粉砕機を用いた場合であっても、こうした比表面積の増大を解消することは難しい。
【0050】
そこで、1回目の粉砕工程後、相対的に低温な焼成温度で2回目の焼成を行う。低温で再度焼成を行うことで、1回目の粉砕工程で発生した酸化物の極微細な粉末は、それよりも粒径の大きい酸化物の粉末に一体化する。2回目の粉砕工程でこの一体化した焼成物を再度粉砕することとなるが、2回目の焼成温度を相対的に低温としているので、2回目の焼成工程で得られる焼成物の硬度は1回目に比べて低く、相対的に小さなエネルギーで粉砕することができる。したがって、2回目の粉砕では極微細な粉末の発生が抑制され、例えば比表面積が9m/cm以下の酸化物粉末を容易に得ることができる。焼成工程及び粉砕工程をさらに繰り返すことで、より高い効果を得ることができる。
【0051】
このとき、1回目の焼成工程における焼成温度と2回目以降の焼成工程における焼成温度との差を50℃以上とすることが好ましい。焼成温度の差が50℃未満である場合、比表面積の低下やQ特性の向上効果が不十分となるおそれがある。1回目の焼成工程における焼成温度と2回目以降の焼成工程における焼成温度との差を100℃以上とすることがより好ましい。
【0052】
さらに、焼成工程及び粉砕工程を繰り返し行う場合、最後に行う焼成工程における焼成温度を、酸化物粉末中にパイロクロア相が生成する温度域より高温とすることが好ましい。本発明で用いる一般式(M,Li,Bi,RE)TiOで表される組成を有する酸化物粉末は、Biを含有しない場合に比べて、誘電特性低下の原因となるパイロクロア相を生成し易いという問題を有している。そこで、このように焼成温度を制御することで、ほぼ単相のペロブスカイト構造を持つ酸化物粉末が得られる。そしてこの酸化物粉末を誘電体セラミックスとして用いることで、複合誘電体材料においてさらなる誘電特性の向上が可能となる。
【0053】
本発明の複合誘電体材料は、前述した一般式(M,Li,Bi,RE)TiOで表される酸化物粉末を含有する誘電体セラミックスと有機高分子材料(樹脂)とを混合することにより得られる。このとき、誘電体セラミックスの混合割合は、任意に設定することができるが、20体積%以上、70体積%未満とすることが好ましい。有機高分子材料の混合割合は、30体積%以上、80体積%未満である。誘電体セラミックスの割合が20体積%未満であると、比誘電率εrが高い前記酸化物を含有させることの効果を十分に発現させることができなくなるおそれがある。逆に、誘電体セラミックスの割合が70体積%以上になると、得られる複合誘電体材料の緻密性が悪くなり、例えば水分の侵入が容易となって誘電特性が劣化する等の問題が生ずるおそれがある。
【0054】
また、誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料の混合に際しては、最終的に得られる複合誘電体材料の比誘電率εrを考慮して、その配合を設定することが好ましい。具体的には、複合誘電体材料のマイクロ波域での比誘電率εrが10以上となるように配合比を調整することが好ましく、誘電体セラミックス粉末の割合は、40体積%以上、70体積%未満であることがより好ましい。これにより、誘電体セラミックスとして用いる酸化物粉末が有する誘電特性を、複合誘電体材料において十分に発揮させることが可能である。
【0055】
本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスのみからなるバルク焼結体とは異なり、誘電体セラミックスの粉末を有機高分子材料と複合化することにより構成される。したがって、比重を小さくすることができ、材料の軽量化を図ることが可能である。また、200℃程度の低温で複合誘電体材料を作製できることから、高温での焼成によって生ずる収縮や変形等は見られず、例えば銀や銅等からなる内部導体の特性劣化も防ぐことができる。
【0056】
以上の構成を有する複合誘電体材料は、例えば回路基板や回路基板用プリプレグ、各種電子部品等に用いることができる。例えば、回路基板に用いる場合には、いわゆるベースとなる基板に前記複合誘電体材料を用い、この上に配線パターンを形成し、必要な部品を実装することで、高周波用回路基板を構築することができる。また、前記複合誘電体材料からなる基板を複数層積層することで、多層基板とすることも可能である。例えば、前記複合誘電体材料をプリプレグとして用い、これを介して複合誘電体材料からなる基板を積層すれば、高性能な多層基板を構築することが可能である。
【0057】
以下、本発明の複合誘電体材料の使用形態としてのプリプレグや金属箔塗工物、成形体、さらにはこれらを用いた複合誘電体基板、多層基板について説明する。
【0058】
先ず、プリプレグを作製する場合についての好ましい方法について述べる。プリプレグを作製するには、有機高分子材料として、例えばポリビニルベンジルエーテル化合物を用い、質量百分率で表して、40〜60%の溶液を調製する。この時に使用する溶剤はトルエン、キシレン、メチルエチルケトン等の揮発性溶剤が好ましい。その後、混合攪拌機にて前記誘電体セラミックス粉末を添加混合する。混合はボールミル等での混合も可能で、最終的には粘度調整のためにトルエン等の揮発性溶剤を加え、混合攪拌機にて10〜20分撹拌する。この時、脱気しながら撹拌することが望ましい。これにより、複合誘電体基板材料組成溶液(スラリー)を得ることができる。
【0059】
このようにして得られた複合誘電体材料組成物溶液(スラリー)をガラスクロス等のクロス基材に塗工する。特に、クロス基材としては、ガラスクロスの使用が好ましい。ガラスクロスは市販されている布質量40g/m以下、厚み50μm以下のもの(例えば、商品名旭シュエーベル等)が、誘電体セラミックス粉末の充填率を向上する上で好ましい。布質量の下限及び厚みの下限に特に制限はないが、それぞれ25g/m及び30μm程度である。
【0060】
前記ガラスクロスは、電気的な特性に応じてEガラスクロス、Dガラスクロス、Hガラスクロス等を使い分けることができる。また、層間密着力向上等の目的で、ガラスクロスに対してカップリング処理等を行ってもよい。なお、クロス基材としては、前記ガラスクロスの他に、ヤーンを織ったアラミドやポリエステル等の不織布等を用いて強化材としてもよい。この場合、厚み等はガラスクロスと同様とすればよい。
【0061】
前記塗工の際の塗工厚みとしては、現実的には、Bステージ化した後の厚みで50〜200μmとすることが好ましいが、板厚、フィラー含有率に従い適時選択することが可能である。また、塗工方法は、縦型塗工機で所定の厚みに塗工する方法、ドクターブレードコート法によりクロス基材に塗工する方法等、公知のいずれの方法であってもよく、用途に応じた生産法を選択することができる。このため生産性が高い。このような方法でフィルム化されたものを100〜120℃、0.5〜3時間熱処理し、プリプレグ(Bステージ)を得る。この際の条件は、樹脂コンテント、所望の流動性等によって適時選択すればよい。
【0062】
ここで得られたプリプレグを使用し、例えば両面銅箔基板を作製する場合について説明すると、所定厚みとなるように、プリプレグを重ね、その積層体の両面を銅箔で挟持して成形する。成形方法は、熱プレス等の公知の方法にて行う。成形条件は100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間が好ましく、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0063】
このときに使用する金属箔は、一般的には銅を用いるが、これに限らず、例えば金、銀、アルミ等から選択することも可能である。また、ピール強度を確保したい場合は電解箔を、高周波特性を重視したい場合は表面凹凸による表皮効果の少ない圧延箔を使用することが好ましい。金属箔の厚みに関しては、8〜70μmであり、用途、要求特性(パターン幅及び精度、直流抵抗等)に応じて適正な厚さのものを選定して使用すればよい。
【0064】
また、前述のような銅箔等の金属箔上に前記の複合誘電体材料組成物溶液をドクターブレードコート法等により塗工し、乾燥し、金属箔塗工物を得てもよく、これにより複合誘電体基板を作製してもよい。この場合の塗工厚みは、前記のプリプレグと同様にすればよい。乾燥は、100〜120℃で0.5〜3時間程度とすればよい。
【0065】
また、プレス成形によって板状の成形体を作製する場合は、混合方法等は前述した方法と同じであるが、混合したスラリーを90〜120℃で乾燥し、混合体の固まりを作製する。さらに、この固まりを乳鉢または公知の方法で粉砕し、混合体の粉末を得る。この混合粉末を金型にて100〜150℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.1〜3時間でプレス成形し板状成形体を得る。板状成形体の厚みとしては、0.05〜5mmであることが好ましく、所望の板厚、誘電体セラミックス粉末含有率に応じて適時選択する。この成形体を100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間硬化させる。また、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0066】
以上のようにして作製したプリプレグ、銅箔等の金属箔塗工物、板状の成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等を適宜組み合わせて成形を行い、複合誘電体基板を作製する。成形条件は、100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、30〜120分とする。あるいは、前記プリプレグ、金属箔塗工物、成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等、さらにはこれらによって作製される複合誘電体基板等を積層要素とし、多層に重ねて積層することで、多層基板を構築することも可能である。
【0067】
以上の他、本発明の複合誘電体材料は、多層コンデンサや共振器、インダクタ、アンテナ等、種々の電子部品にも使用することが可能である。例えば、共振器の場合、前記複合誘電体材料からなる積層体の表面や積層体間に、ストリップ線路やグランドプレーン、外部導体、内部導体等を形成し、必要箇所を電気的に接続すればよい。本発明の複合誘電体材料を用いた共振器は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ等の各種フィルタや、これらフィルタを組み合わせた分波フィルタ、ディプレクサ、電圧制御発振器等に応用が可能である。また、本発明の複合誘電体基板及び多層基板は、500MHz以上の高周波帯域で用いられて好適である。なお、本発明の複合誘電体材料をこれら電子部品に使用する場合、誘電体セラミックスと有機高分子材料の配合比を調整することにより、使用環境に合わせて比誘電率εrの温度変化係数τεを制御することも可能である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0069】
<複合誘電体材料の作製>
誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)の体積比が所定の比率(誘電体セラミックス粉末40体積%)となるように、誘電体セラミックス(平均粒子径2.5μm〜3.6μm)とポリビニルベンジルエーテル化合物を秤量し、トルエン中で十分に混合した。これを110℃で乾燥した後に粉砕して、誘電体セラミックスとポリビニルベンジルエーテル化合物の混合粉末を得た。この粉末を金型に入れて、200℃で熱硬化し、板状の複合誘電体を作製した。そして、棒状試料(1mm×1mm×9mm)を切り出し、測定試料とした。
【0070】
<評価>
作製した各試料について、空洞共振器摂動法(使用測定器:ヒューレットパッカード社製、商品名83620A、8757C、及び恒温槽デスパッチ製900シリーズ)により、2GHzでの比誘電率εrとQを温度20℃で測定した。また、比誘電率εrについて、−30℃〜+85℃の温度範囲で測定を行い、温度特性τεを求めた。
【0071】
<実験1:誘電体セラミックスの組成の検討>
先ず、複合誘電体材料に使用する誘電体セラミックスを以下のように作製した。
原料粉末として、LiCO、CaCO、SrCO、BaCO、Bi、La(OH)、Nd(OH)、Sm(OH)、TiO等を用意した。これら原料粉末を所定のモル比で所定の値となるように秤量し、湿式ボールミルを使用して16時間混合した。この混合物を1000℃で2時間保持し、仮焼成を行った。仮焼成後、得られた仮焼成物を湿式ボールミルを使用して16時間粉砕し、得られた粉砕物を原料組成物とした。
【0072】
次に、焼成工程を行った。この焼成工程では、原料組成物(粉砕物)を1190℃、4時間保持する熱処理を行った。焼成工程後、粉砕工程を行った。粉砕工程では、目開き1mmのメッシュを通過するまで乳鉢を用いて焼成物の粗粉砕を行い、それから気流式粉砕機を用いて微粉砕を行った。
【0073】
前記粉砕工程を終了した後、さらに、2回目の焼成工程、2回目の粉砕工程、3回目の焼成工程、3回目の粉砕工程を順次行った。すなわち、粉砕工程、焼成工程を3回繰り返した。なお、2回目以降の焼成工程における焼成条件は、焼成温度1080℃、保持時間2時間とした。以上の手順に従い、誘電体セラミックス粉末として用いられる一般式(M,Li,Bi,RE)TiOで表される酸化物粉末を得た。
【0074】
得られた酸化物粉末を誘電体セラミックスとして用い、前記複合誘電体材料の作製に関する説明に従って、表1に示すサンプル1〜サンプル38及び表2に示すサンプル39〜サンプル45の試料を作製した。なお、サンプル45で用いた酸化物粉末は、原料組成物として、チタン酸塩を主成分とした仮焼成物に表1に示す添加物(SiO等)を添加した混合物を用いたものである。表1及び表2に誘電体セラミックスとして用いた酸化物粉末の組成を示す。
【0075】
そして、これらサンプルについて、誘電特性を評価した。結果を表1及び表2に併せて示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1及び表2から明らかなように、誘電体セラミックスとして一般式(M,Li,Bi,RE)TiOで表される酸化物粉末(サンプル1〜サンプル42)を使用することで、比誘電率εr、Qf及び温度特性τεの全てにおいてバランス良い特性が得られている。これに対し、希土類元素RE及びBiを含有しないサンプル43〜サンプル45ではQf又は温度特性τεが大幅に悪化している。
【0079】
表1に示すサンプル1〜サンプル38は、基本組成をaBaTiO−bSrTiO−cCaTiO−dLi1/2Bi1/2TiO−eLi1/2RE1/2TiOで表したとき、各成分が好ましい範囲内とされた酸化物粉末を誘電体セラミックスとして用いており、これら全てのサンプルにおいて、10を越える高い比誘電率εr、200以上のQf、±250ppm/℃以内の温度特性τεが達成されている。このように、前記基本組成における各成分を好ましい範囲内とすることにより、優れた誘電特性を示す複合誘電体材料が実現されることがわかる。
【0080】
<実験2:誘電体セラミックスの焼成温度の検討>
実験2では、実験1のサンプル6に用いた酸化物粉末の組成を例にとり、酸化物粉末の最適な焼成温度について検討を行った。
【0081】
先ず、パイロクロア相が生成する温度域を確認した。実験1と同様にして原料組成物を作製し、この原料組成物を焼成工程に供した。焼成工程では、原料組成物を1190℃、4時間保持した。焼成工程後、粉砕工程を行った。粉砕工程では、目開き1mmのメッシュを通過するまで乳鉢を用いて焼成物の粗粉砕を行い、それから気流式粉砕機を用いて微粉砕を行った。
【0082】
前記粉砕工程を終了した後、さらに、900℃〜1100℃の範囲で焼成温度を変えて熱処理を行った。その後、粉砕を行い、得られた酸化物粉末をX線回折装置(XRD)を用いて分析した。分析の結果得られる回折パターンより、パイロクロア相のメインピークの強度を求めた。結果を図1に示す。なお、図1中、パイロクロア相のメインピーク強度を、パイロクロア相のピークである2θ=30°付近に現れるピークをペロブスカイト相のピークである2θ=33°付近に現れるピーク強度に対する相対強度として表した。
【0083】
図1に示すように、2回目の熱処理を900℃〜1060℃で行った場合、パイロクロア相の生成が認められた。これに対し、2回目の熱処理を1070℃以上で行った場合、パイロクロア相のメインピークはほとんど消失しており、パイロクロア相の生成は認められなかった。
【0084】
次に、前述のパイロクロア相が生成する温度域の知見に基づき、下記表3に示すように焼成条件を変化させてサンプル6の組成を有する酸化物粉末を作製した。具体的には、パイロクロア相の生成しない温度(1080℃)又はパイロクロア相の生成した温度(1000℃)に2回目以降の焼成温度を設定するとともに、焼成工程の実施回数を表3に示すように変化させた。なお表3中、例えば「1190℃4h」とは、焼成温度を1190°とし、保持温度を4時間としたことを示す。
【0085】
また、仮焼成後の原料組成物及び各酸化物粉末をX線回折装置(XRD)を用いて分析した。分析の結果得られた回折パターンを図2及び図3に示す。なお、図2及び図3中、黒丸はパイロクロア相のピークを表す。分析の結果得られる回折パターンよりパイロクロア相のメインピークの強度を求めた。
【0086】
さらに、得られた酸化物粉末と有機高分子材料との混合物の流動性を評価した。流動性は、混合物の最低熔融粘度で評価した。誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料として熱硬化性樹脂とからなる混合物の温度を室温から上げていくと、熱硬化性樹脂の部分において粘度が低下していくが、樹脂の硬化温度に達すると増大に転じる。最低熔融粘度は、前記過程における混合物の最低の粘度のことである。具体的には、酸化物粉末をビニルベンジル樹脂に対して体積比で40%添加した後に、最低熔融粘度を測定した。そして、これらサンプルについて、誘電特性を評価した。誘電特性の評価結果を、酸化物粉末の粉体特性、最低熔融粘度及びパイロクロア相のメインピーク強度の評価結果等を併せて表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3から明らかなように、焼成と粉砕とを繰り返すことで酸化物粉末の比表面積が低下し、酸化物粉末と樹脂との混合物の流動性が向上している。
【0089】
また図2に示すように、1回目の焼成後の酸化物粉末にはパイロクロア相の生成は認められなかった。また、図3に示すように、2回目以降の焼成温度を1080℃に設定した場合も、パイロクロア相の生成は認められなかった。ところが2回目以降の焼成温度を1000℃に設定した場合、2回目及び3回目の焼成後にパイロクロア相の生成が確認された。表3に示すように、2回目以降の焼成温度を全て1000℃に設定した場合、目標とする誘電特性は満たすものの、2回目以降の焼成・粉砕工程における最後の焼成温度を1080℃に設定した場合に比べて誘電特性が悪化する傾向にある。
【0090】
以上、実験2の結果から、酸化物粉末を作製する際、焼成工程と粉砕工程とを繰り返すことで、酸化物粉末と樹脂との混合物の流動性が向上し、例えば回路基板等の電子部品の製造が容易となることがわかる。また、2回目以降の焼成・粉砕工程における最後の焼成温度をパイロクロア相が生成する温度域より高温とすることによって、複合誘電体材料の誘電特性のさらなる向上が可能となることがわかる。
【0091】
<実験3:クロス基材塗工プリプレグ及びこれを用いた複合誘電体基板の作製>
実験1のサンプル6及びサンプル25で使用した各種の誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料(ポリビニルベンジルエーテル化合物)を体積比が所定の比率となるように、トルエン中で十分に混合した。このスラリーを布質量40g/m、厚み50μmのガラスクロス(旭シュエーベル製)に塗工機で塗工し、110℃で乾燥した後、これをプリプレグとした。このプリプレグの厚みは160μmであった。
【0092】
次に、作製したプリプレグ10枚を重ねて150℃でプレス圧4.0×10Paの加圧をした後、200℃で熱硬化を行い、厚み1.4mmの複合誘電体基板を作製した。そして、棒状試料(1.4mm×1.4mm×9mm)を切り出し、測定試料とした。
【0093】
これら試料について、比誘電率εr、Q値及び温度特性τεを評価した。結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
プリプレグを用いて作製された複合誘電体基板においても、比誘電率εr、Q値、温度特性τの各特性について、優れた特性が発揮されている。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】酸化物粉末の熱処理温度と、酸化物粉末のパイロクロア相のメインピーク強度との関係を示す特性図である。
【図2】仮焼成物及び表3上段の焼成条件により得られた酸化物粉末のX線回折パターンである。
【図3】仮焼成物及び表3下段の焼成条件により得られた酸化物粉末のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、
前記誘電体セラミックスとして、一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を含有することを特徴とする複合誘電体材料。
【請求項2】
前記酸化物粉末の基本組成成分が、aBaTiO−bSrTiO−cCaTiO−dLi1/2Bi1/2TiO−eLi1/2RE1/2TiO[ただし、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表し、a〜eは各成分の配合比率(モル%)を表す。]で表され、
0≦a≦5
0≦b≦20
10≦c≦45
a+b+c≦50
b+d/2≦33
c+d/2≦65
a+b+c+d+e=100
であることを特徴とする請求項1記載の複合誘電体材料。
【請求項3】
前記基本組成成分のうち、Li1/2RE1/2TiOにおいて、REがNdであることを特徴とする請求項2記載の複合誘電体材料。
【請求項4】
前記Ndの一部がLa,Ce,Pr,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種によって置換されていることを特徴とする請求項3記載の複合誘電体材料。
【請求項5】
前記酸化物粉末の比表面積が9m/cm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項6】
前記有機高分子材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項7】
前記有機高分子材料が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の複合誘電体材料。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂がビニルベンジル系樹脂であることを特徴とする請求項7記載の複合誘電体材料。
【請求項9】
前記ビニルベンジル系樹脂は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を主体とするものであることを特徴とする請求項8記載の複合誘電体材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーがクロス基材に塗工され、乾燥されてなるプリプレグ。
【請求項11】
前記クロス基材がガラスクロスであることを特徴とする請求項10記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記ガラスクロスは、布質量が40g/m以下であり、厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項11記載のプリプレグ。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーが金属箔上に塗工され、乾燥されてなる金属箔塗工物。
【請求項14】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項13記載の金属箔塗工物。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を溶剤に分散させたスラリーを乾燥し、成形したことを特徴とする成形体。
【請求項16】
請求項1から9のいずれか1項記載の複合誘電体材料を用いたことを特徴とする複合誘電体基板。
【請求項17】
請求項10から12のいずれか1項記載のプリプレグを加熱及び加圧することにより形成されたことを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項18】
請求項10から12のいずれか1項記載のプリプレグを金属箔間に挟み込んだ状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項19】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項18記載の複合誘電体基板。
【請求項20】
請求項13又は14記載の金属箔塗工物がクロス基材の両面にそれぞれ塗工面が接するように貼り合わされ、この状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項21】
前記クロス基材がガラスクロスであることを特徴とする請求項20記載の複合誘電体基板。
【請求項22】
前記ガラスクロスは、布質量が40g/m以下であり、厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項21記載の複合誘電体基板。
【請求項23】
請求項15記載の成形体を加熱及び加圧することにより形成されたことを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項24】
請求項15記載の成形体を金属箔間に挟み込んだ状態で加熱及び加圧することにより形成され、両面に金属箔を有することを特徴とする請求項16記載の複合誘電体基板。
【請求項25】
前記金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項24記載の複合誘電体基板。
【請求項26】
500MHz以上の高周波帯域で用いられることを特徴とする請求項16から25のいずれか1項記載の複合誘電体基板。
【請求項27】
請求項10から12のいずれか1項記載のプリプレグ、請求項13又は14記載の金属箔塗工物、請求項15記載の成形体、請求項16から26のいずれか1項記載の複合誘電体基板から選択される少なくとも1種を積層要素とし、当該積層要素を含む多層構造を有することを特徴とする多層基板。
【請求項28】
500MHz以上の高周波帯域で用いられることを特徴とする請求項27記載の多層基板。
【請求項29】
原料組成物を所定の焼成温度で保持して焼成物を得る焼成工程と、前記焼成物を気流式粉砕機を用いて粉砕する粉砕工程とを経て一般式(M,Li,Bi,RE)TiO(ただし、MはBa,Sr,Caから選択される少なくとも1種を表し、REはLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Y,Yb,Dyから選択される少なくとも1種を表す。また、0.9≦x≦1.05である。)で表される組成を有する酸化物粉末を作製し、
前記酸化物粉末を含む誘電体セラミックスと有機高分子材料とを混合することを特徴とする複合誘電体材料の製造方法。
【請求項30】
前記焼成工程及び前記粉砕工程を繰り返し行うことを特徴とする請求項29記載の複合誘電体材料の製造方法。
【請求項31】
最後に行う焼成工程における焼成温度を、前記酸化物粉末中にパイロクロア相が生成する温度域より高温とすることを特徴とする請求項30記載の複合誘電体材料の製造方法。
【請求項32】
2回目以降の焼成工程における焼成温度を1回目の焼成工程における焼成温度より低温とすることを特徴とする請求項30又は31記載の複合誘電体材料の製造方法。
【請求項33】
1回目の焼成工程における焼成温度と2回目以降の焼成工程における焼成温度との差を50℃以上とすることを特徴とする請求項32記載の複合誘電体材料の製造方法。
【請求項34】
1回目の焼成工程における焼成温度と2回目以降の焼成工程における焼成温度との差を100℃以上とすることを特徴とする請求項33記載の複合誘電体材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−344407(P2006−344407A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166920(P2005−166920)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】