説明

複合酸化物焼結体及びそれからなるスパッタリングターゲット

【課題】TFT特性の均一性、TFT特性の再現性及びTFTの歩留りが良好なTFTパネルが得られる複合酸化物焼結体、及びそれからなるスパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】In、Zn及びSnを含み、焼結体密度が相対密度で90%以上であり、平均結晶粒径が10μm以下であり、バルク抵抗が30mΩcm以下であり、直径10μm以上の酸化スズの凝集粒子数が、1.00mmあたり2.5個以下である複合酸化物焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、In、Zn及びSnを含む複合酸化物焼結体、それからなるスパッタリングターゲット、そのターゲットを用いて得られるアモルファス酸化物膜、及びその酸化物膜を含む薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果型トランジスタは、半導体メモリ集積回路の単位電子素子、高周波信号増幅素子、液晶駆動用素子等として広く用いられており、現在、最も多く実用化されている電子デバイスである。
そのなかでも、近年における表示装置のめざましい発展に伴い、液晶表示装置(LCD)のみならず、エレクトロルミネッセンス表示装置(EL)や、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の各種の表示装置において、表示素子に駆動電圧を印加して表示装置を駆動させるスイッチング素子として、薄膜トランジスタ(TFT)が多用されている。
【0003】
上記薄膜トランジスタの材料としては、シリコン半導体化合物が最も広く用いられている。一般に、高速動作が必要な高周波増幅素子、集積回路用素子等には、シリコン単結晶が用いられ、液晶駆動用素子等には、大面積化の要求からアモルファスシリコンが用いられている。
【0004】
しかしながら、結晶性シリコン系薄膜は、結晶化を図る際に、例えば800℃以上の高温が必要であり、ガラス基板上や有機物基板上への形成が困難である。このため、結晶性シリコン系薄膜は、シリコンウェハーや石英等の耐熱性の高い高価な基板上にしか形成できないばかりか、製造に際して多大なエネルギーと工程数を要する等の問題があった。
また、結晶性シリコン系薄膜を用いたTFTの素子構成は、通常、トップゲート構成に限定されるため、マスク枚数の削減等のコストダウンが困難であった。
【0005】
一方、比較的低温で形成できる非晶性シリコン半導体(アモルファスシリコン)は、結晶性シリコン系薄膜に比べてスイッチング速度が遅いため、表示装置を駆動するスイッチング素子として使用したときに、高速な動画の表示に追従できない場合がある。
【0006】
現在、表示装置を駆動させるスイッチング素子としては、シリコン系半導体膜を用いた素子が主流を占めている。これは、シリコン薄膜の安定性、加工性の良さに加え、スイッチング速度が速い等、種々の性能が良好なためである。そして、このようなシリコン系薄膜は、一般に化学蒸気析出法(CVD)法により製造されている。
【0007】
従来の薄膜トランジスタ(TFT)は、例えばガラス等の基板上にゲ−ト電極、ゲ−ト絶縁層、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)等の半導体層、ソ−ス及びドレイン電極を積層した逆スタガ構造を有する。イメ−ジセンサー等の大面積デバイスの分野において、この構造を有するTFTは、アクティブマトリスク型の液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイ等の駆動素子として用いられている。これらの用途では、従来のアモルファスシリコンでも、高機能化に伴い作動の高速化が求められている。
このような状況下、近年にあっては、シリコン系半導体薄膜よりも安定性が優れる、酸化物を用いた酸化物半導体薄膜が注目されている。
【0008】
しかしながら、上記金属酸化物からなる透明半導体薄膜は、特に酸化亜鉛を高温で結晶化してなる透明半導体薄膜は、その電界効果移動度(以下、単に「移動度」という場合がある)が1cm/V・sec程度と低く、on−off比が小さい上、漏れ電流が発生しやすいため、工業的な実用化が困難であった。
【0009】
酸化亜鉛を含有する結晶質を含む酸化物半導体については、多数の検討がなされているが、工業的に一般に行われているスパッタリング法で成膜した場合には、以下の問題があった。
例えば、酸化亜鉛を主成分とした伝導性透明酸化物の酸化物半導体膜は、酸素欠陥が入りやすく、キャリア電子が多数発生し、電気伝導度を小さくすることが難しかった。加えて、スパッタリング法による成膜の際に、異常放電が発生し、成膜の安定性が損なわれ、得られる膜の均一性及び再現性が低下する問題があった。
【0010】
このため、酸化亜鉛を主成分とした伝導性透明酸化物の酸化物半導体膜を例えばTFTの活性層(チャネル層)として使用する際には、ゲート電圧無印加時であってもソース端子及びドレイン端子間に大きな電流が流れてしまい、TFTのノーマリーオフ動作を実現できない問題があった。また、トランジスタのオン・オフ比を大きくすることも難しかった。
また、上記TFTは、移動度が低い、on−off比が低い、漏れ電流が大きい、ピンチオフが不明瞭、ノーマリーオンになりやすい等、TFTの性能が低くなるおそれがあるうえ、耐薬品性が劣るため、ウェットエッチングが難しい等製造プロセスや使用環境の制限があった。
【0011】
酸化亜鉛を主成分とした伝導性透明酸化物の酸化物半導体膜は、性能を上げるためには高い圧力で成膜する必要があり成膜速度が遅くなるほか、700℃以上の高温処理が必要であるため工業化に問題もあった。また、酸化亜鉛を主成分とした伝導性透明酸化物の酸化物半導体膜を用いたTFTは、ボトムゲート構成での電解移動度等のTFT性能が低く、性能を上げるにはトップゲート構成で膜厚を100nm以上にする必要がある等のTFT素子構成に制限もあった。
【0012】
このような問題を解決するため、酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる非晶質酸化物半導体膜を薄膜トランジスタとして駆動させる方法が検討されている。また、酸化インイジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる非晶質酸化物半導体膜を工業的に量産性に優れたスパッタリング法で形成する検討も行われている。しかし、ガリウムは希少金属で原料コストが高く、ガリウムの添加量が多い場合、トランジスタの移動度、S値等の特性が低下する問題があった。
【0013】
ガリウムを含まない、酸化インジウム、酸化錫及び酸化亜鉛からなる非晶質酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタが公開されている(特許文献1、非特許文献1)。また、酸化錫を主成分とした光情報記録媒体用のスパッタリングターゲットが検討されている(特許文献2)。しかし、酸化物半導体用のスパッタリングターゲットを実用化させるための具体的な検討はなされていなかった。
【0014】
また、透明導電膜用のITOターゲットでノジュールの発生を抑えるため、錫の凝集を減らした効果が検討されているが(特許文献3)、一番良好なターゲットでも2.6個/mm程度であり、それ以下に減らした場合の酸化物半導体用途での効果は検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第05/088726号
【特許文献2】特開2005−154820号公報
【特許文献3】特開2003−64471号公報
【非特許文献1】Kachirayil J.Saji et al., JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY,155(6),H390-395(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、TFT特性の均一性、TFT特性の再現性及びTFTの歩留りが良好なTFTパネルが得られる複合酸化物焼結体、及びそれからなるスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは鋭意検討した結果、結晶粒径が小さいインジウム、錫及び亜鉛を含有する複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いて得られるアモルファス酸化物膜が、TFT特性の均一性、TFT特性の再現性及びTFTの歩留りを良好(特にTFTの歩留りが向上)にすることを見出した。特に、酸化錫の凝集粒子数が少なく、平均空孔数が少ないインジウム、錫及び亜鉛を含有する複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いて得られるアモルファス酸化物膜が、TFT特性の均一性、TFT特性の再現性及びTFTの歩留りを良好(特にTFTの歩留りが向上)にすることを見出した。
【0018】
本発明によれば、以下の酸化物焼結体等が提供される。
1.In、Zn及びSnを含み、焼結体密度が相対密度で90%以上であり、平均結晶粒径が10μm以下であり、バルク抵抗が30mΩcm以下であり、直径10μm以上の酸化スズの凝集粒子数が、1.00mmあたり2.5個以下である複合酸化物焼結体。
2.平面方向における相対密度のばらつきが1%以下であり、平均空孔数が800個/mm以下である1に記載の複合酸化物焼結体。
3.In、Zn及びSnの原子比が、下記式を満たす1又は2に記載の複合酸化物焼結体。
0<In/(In+Sn+Zn)<0.75
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)≦0.75
0<Sn/(In+Sn+Zn)<0.50
4.窒素含有量が5ppm以下である1〜3のいずれかに記載の複合酸化物焼結体。
5.比表面積が4〜14m/gである酸化インジウム粉、比表面積が4〜14m/gである酸化錫粉、及び比表面積が2〜13m/gである酸化亜鉛粉を原料として成形体を調製し、前記成形体を1200〜1550℃で焼結する複合酸化物焼結体の製造方法。
6.比表面積が6〜10m/gである酸化インジウム粉、比表面積が5〜10m/gである酸化錫粉、及び比表面積が2〜4m/gである酸化亜鉛粉を混合して混合粉体全体の比表面積が5〜8m/gである混合粉体を調製し、前記混合粉体を湿式媒体撹拌ミルにより混合粉砕して、混合粉体全体の比表面積を1.0〜3.0m/g増加させ、前記比表面積を増加させた混合粉体を成形して成形体を調製し、前記成形体を酸素雰囲気中1250〜1450℃で焼結する5に記載の複合酸化物焼結体の製造方法。
7.上記1〜4のいずれかに記載の複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
8.前記複合酸化物焼結体に含まれる金属原子が、実質的にIn原子、Sn原子及びZn原子であり、前記金属原子の比率が下記式を満たす7に記載のスパッタリングターゲット。
0<In/(In+Sn+Zn)<0.40
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)<0.70
0.05<Sn/(In+Sn+Zn)<0.25
9.上記7又は8に記載のスパッタリングターゲットを室温以上450℃以下の成膜温度でスパッタリングして得られるアモルファス酸化物膜であって、
電子キャリア濃度が1018/cm未満であるアモルファス酸化物膜。
10.上記9に記載のアモルファス酸化物膜がチャネル層である薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、TFT特性の均一性、TFT特性の再現性及びTFTの歩留りが良好なTFTパネルが得られる複合酸化物焼結体、及びそれからなるスパッタリングターゲットを提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の薄膜トランジスタの一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の複合酸化物焼結体は、In、Zn及びSnを含み、焼結体密度が相対密度の平均値で90%以上であり、平均結晶粒径が10μm以下であり、バルク抵抗が30mΩcm以下である。
【0022】
本発明の複合酸化物焼結体は、金属原子としてIn、Zn及びSnを含む。本発明の複合酸化物焼結体は、酸素欠損を含んでもよく、化学量論比を満たさずともよい。
また、本発明の複合酸化物焼結体は、さらにGa、Al、Ge、Si、Zr、Hf、Cu等の金属原子を含んでいてもよい。
尚、本発明の複合酸化物焼結体は、In、Zn及びSn、及び任意にGa、Al、Ge、Si、Zr、Hf、Cuの金属原子及び酸素から実質的になっていてもよく、これら成分のみからなってもよい。「実質的になる」とは、上記酸化物焼結体が、In、Zn及びSn、及び任意にGa、Al、Ge、Si、Zr、Hf、Cuの金属原子及び酸素のみからなり、これら成分のほかに本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含みうることである。
【0023】
本発明の複合酸化物焼結体は、その密度が相対密度で90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。複合酸化物焼結体の密度が相対密度で90%未満の場合、成膜中にターゲットが割れる、成膜速度が遅くなるおそれがある。
尚、上記相対密度とは、「混合した酸化物の密度を重量配分して得られる理論密度を実測密度で割った値」である。
【0024】
本発明の複合酸化物焼結体は、平均結晶粒径が10μm以下であり、好ましくは6μm以下であり、より好ましくは4μm以下である。複合酸化物焼結体の平均結晶粒径を10μm以下とすることにより、複合酸化物焼結体のバルク抵抗を低減させ、得られる薄膜トランジスタのTFT特性の均一性及びTFT特性の再現性を向上させることができる。
【0025】
本発明の複合酸化物焼結体のバルク抵抗は、30mΩcm以下であり、好ましくは10mΩcm以下であり、より好ましくは1mΩcm以上5mΩcm以下である。複合酸化物焼結体のバルク抵抗を30mΩcm以下とすることにより、得られる薄膜トランジスタのTFT特性の均一性及びTFT特性の再現性を向上させることができる。
【0026】
本発明の複合酸化物焼結体は、好ましくは直径10μm以上の酸化錫の凝集粒子数が、1.00mmあたり2.5個以下であり、より好ましくは2個以下であり、さらに好ましくは1個以下であり、特に好ましくは0.5個以下である。複合酸化物焼結体中の直径10μm以上の酸化錫の凝集粒子数を、1.00mmあたり2.5個以下とすることにより、得られる薄膜トランジスタのTFTの歩留りを良好にすることができる。これは、酸化錫の凝集粒子が少ないことにより、ターゲットの抵抗均一性が向上し、放電が安定するため等が推測される。
【0027】
一方、複合酸化物焼結体中の直径10μm以上の酸化錫の凝集粒子数が、1.00mmあたり2.5個超の場合、複合酸化物焼結体の相対密度、平均結晶粒径及びバルク抵抗を最適化することが困難となるおそれがある。また、連続してスパッタリングした際に、複合酸化物焼結体中の酸化錫の凝集粒子を起点とする異物(錫あるいはインジウムの低級酸化物)が生成し、異常放電による微小な粒子を発生させると推測される。
尚、酸化錫の凝集粒子とは、酸化錫からなる粒子状部分をいう。酸化錫の凝集粒子は、原料酸化錫が分離したまま残ってしまう等の理由により生成し、X線マイクロアナライザー(EPMA)等を用いて、組成の面分析をすることにより確認することができる。
【0028】
本発明の複合酸化物焼結体は、X線回折において、酸化錫相(110)のピーク強度I1と酸化錫以外の酸化物又は複合酸化物相のX線回折図における2θ=15〜40°の範囲に存在する最大ピーク強度I2が、好ましくはI1/I2<1であり、より好ましくはI1/I2<0.1である。酸化錫相(110)のピーク強度I1が確認できないことがさらに好ましい。I1/I2<1とすることにより、酸化錫の凝集粒子数を少なくすることができる。
【0029】
本発明の複合酸化物焼結体は、好ましくは平面方向における相対密度のばらつきが1%以下であり、平均空孔数が800個/mm以下である。
【0030】
上記複合酸化物焼結体の平面方向における相対密度のばらつきは、より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.4%以下である。複合酸化物焼結体の平面方向における相対密度のばらつきを1%以下とすることにより、得られる薄膜トランジスタのTFT特性の均一性及びTFT特性の再現性を良好にすることができる。
【0031】
尚、複合酸化物焼結体の平面方向とは、ターゲットを製造する際に、複合酸化物焼結体が削られる側(エロージョン側)であって、プラズマが照射される面方向をいう。
「複合酸化物焼結体の平面方向における相対密度のばらつき」とは、プラズマを照射する面に沿って複数切り出した焼結体片の密度のばらつきをいう。
【0032】
上記複合酸化物焼結体の平均空孔数は、より好ましくは500個/mm以下であり、さらに好ましくは300個/mm以下であり、特に好ましくは100個/mm以下である。複合酸化物焼結体の平均空孔数を800個/mm以下とすることにより、得られる薄膜トランジスタのTFT特性の均一性及びTFT特性の再現性を良好にすることができる。
【0033】
本発明の複合酸化物焼結体に含まれるIn、Zn及びSnの原子比は、好ましくは下記式を満たす。
0<In/(In+Sn+Zn)<0.75
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)≦0.75
0<Sn/(In+Sn+Zn)<0.50
より好ましくは下記式を満たす。
0.05≦In/(In+Zn+Sn)≦0.60
0.35≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.65
0.05≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.30
さらに好ましくは下記式を満たす。
0.18≦In/(In+Zn+Sn)≦0.45
0.45≦Zn/(In+Zn+Sn)≦0.60
0.10≦Sn/(In+Zn+Sn)≦0.22
【0034】
複合酸化物焼結体に含まれるIn、Zn及びSnの原子比が上記式を満たすことにより、得られる薄膜トランジスタのTFT特性を良好にすることができる。また、複合酸化物焼結体に含まれるIn、Zn及びSnの原子比が上記式を満たすことにより、薄膜トランジスタを作製する際に、ウェットエッチングを容易にすることができる。
【0035】
また、本発明の別の様態としては、複合酸化物焼結体に含まれるIn、Zn及びSnの原子比は、好ましくは下記式を満たす。
0<In/(In+Sn+Zn)<0.40
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)<0.70
0.05<Sn/(In+Sn+Zn)<0.25
より好ましくは下記式を満たす。
0.2≦In/(In+Sn+Zn)<0.33
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)<0.70
0.05<Sn/(In+Sn+Zn)<0.15
上記範囲を満たすことで、希少金属であるIn量を削減した状態で、相対密度が高く、比抵抗が低いターゲットが得られる。また、上記範囲のターゲットを用いて得られる薄膜トランジスタのTFT特性を良好にすることができる。
【0036】
本発明の複合酸化物焼結は、好ましくは窒素含有量が5ppm(原子)以下である。窒素含有量を5ppm以下とすることにより、得られる半導体膜の窒素含有量が低下し、TFTの信頼性及び均一性を向上させることができる。
一方、複合酸化物焼結体の窒素含有量が5ppm超の場合、得られるターゲットのスパッタリング時の異常放電、及びターゲット表面への吸着ガス量を十分に抑制できないおそれがあるうえ、ターゲット中の窒素とインジウムがスパッタリング時に反応して黒色窒化インジウム(InN)を生成して、半導体膜中に混入して歩留まりが低下するおそれがある。これは、窒素原子が5ppm超含まれる場合、窒素原子が可動イオンとなりゲート電圧ストレスにより半導体界面に集まりトラップを生成するため、あるいは窒素がドナーとして働き性能を低下させるためと推測される。
【0037】
本発明の複合酸化物焼結体は、好ましくはZnSnOで表されるスピネル構造化合物を含む。複合酸化物焼結体が、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物を含むことにより、相対密度を高め、バルク抵抗を低くできる。
尚、複合酸化物焼結体中にZnSnOで表されるスピネル構造化合物が存在することはX線回折により確認することができる。
【0038】
本発明の複合酸化物焼結体の製造方法では、原料粉として、酸化インジウム粉末、酸化亜鉛粉末及び酸化錫粉末を用いる。また、これら化合物の複合酸化物等を原料粉としてもよい。
【0039】
上記各原料粉の純度は、通常99.9%(3N)以上、好ましくは99.99%(4N)以上、さらに好ましくは99.995%以上、特に好ましくは99.999%(5N)以上である。各原料粉の純度が99.9%(3N)未満の場合、不純物により半導体特性が低下する、信頼性が低下する等のおそれがある。特に各原料粉のNa含有量が100ppm未満であると薄膜トランジスタを作製した際に信頼性が向上し好ましい。
【0040】
本発明では、比表面積が4〜14m/gである酸化インジウム粉、比表面積が4〜14m/gである酸化錫粉、及び比表面積が2〜13m/gである酸化亜鉛粉を出発原料とし、好ましくは比表面積が6〜10m/gである酸化インジウム粉、比表面積が5〜10m/gである酸化錫粉、及び比表面積が2〜4m/gである酸化亜鉛粉からなる混合粉体であって、混合粉体全体の比表面積が5〜8m/gである混合粉体を出発原料として用いる。
【0041】
上記出発原料を用いることにより、得られる複合酸化物焼結体中の酸化錫の凝集粒子数を減少させることができ、TFTの歩留りを向上させることができる。また、上記出発原料を用いることにより、得られる複合酸化物焼結体の相対密度のばらつきを小さくでき、TFT特性の均一性及びTFT特性の再現性を良好とすることができる。
【0042】
尚、各原料粉の比表面積は、好ましくはほぼ同じである。これにより、より効率的に後述する粉砕混合ができる。具体的には、各原料粉の比表面積の比は、好ましくは互いに1/4〜4倍以内にし、より好ましくは1/2〜2倍以内にする。各原料粉の比表面積の比が上記範囲にない場合、効率的な粉砕混合ができず、焼結体中に原料粉粒子が残る場合がある。
【0043】
酸化インジウム粉、酸化錫粉及び酸化亜鉛粉の配合比は特に限定されず、好ましくは25〜65:5〜30:5〜70であり、より好ましくは35〜55:10〜25:20〜55である。酸化インジウム粉、酸化錫粉及び酸化亜鉛粉の配合比が上記範囲の場合、効率的な混合が容易となる。
【0044】
上記出発原料を、例えば湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕し、混合粉体を調製する。この際に、好ましくは混合粉砕後の混合粉体全体の比表面積を、混合粉砕前の混合粉体全体の比表面積より1.0〜3.0m/g増加させるように粉砕する、又は粉砕後の混合粉体の平均メジアン径が0.6〜1μm程度となるように粉砕する。
尚、混合方法は特に限定されず、乾式法で行ってもよい。
【0045】
上記の混合粉体を用いることにより、仮焼工程及び還元工程を経ずとも高密度の複合酸化物焼結体を得ることができる。仮焼工程を省くことができることで、製造工程が簡略化されるだけでなく、仮焼工程での酸化錫凝集粒子の生成を防ぐことができ、酸化錫凝集粒子数を低減することができる。加えて、仮焼工程における亜鉛の昇華による組成のばらつき及び相対密度のばらつきの増加を防止することができる。
【0046】
混合粉砕後の混合粉体の比表面積の増加が1.0m/g未満又は混合粉砕後の混合粉体の平均メジアン径が1μm超の場合、得られる複合酸化物焼結体の焼結密度が十分に大きくならない場合がある。一方、混合粉砕後の混合粉体の比表面積の増加分が3.0m/g超又は混合粉砕後の混合粉体の平均メジアン径が0.6μm未満の場合、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加する場合がある。
【0047】
尚、上記比表面積はBET法で測定でき、平均メジアン径は、粒度分布計で測定できる。これらの値は、混合粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
【0048】
上記混合粉体を成形して成形体を調製する。成形体の調製は、従来から公知の各種湿式法又は乾式法を用いることができる。
乾式法としては、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等を挙げることができる。
【0049】
乾式法であるコールドプレス(Cold Press)法は、粉砕後の混合粉体をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形して成形体を調製する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るため、冷間静水圧(CIP)等の加圧により成形すると好ましい。
【0050】
上述のように、乾燥(造粒)はスプレードライヤーで行うと好ましい。造粒は自然乾燥によっても行うことができるが、自然乾燥で造粒すると、原料粉末の比重差によって沈降速度が異なるため、SnO粉末、In粉末、ZnO粉末の分離が起こり、均一な造粒粉が得られないおそれがある。この不均一な造粒粉を用いて焼結体を作製すると、酸化錫の凝集が生成する場合、又は相対密度のばらつきが大きくなる場合があり、TFTの歩留りが低下したり、ばらつきが増加する原因となる。一方、スプレードライヤーで造粒する場合、急速乾燥できるため、上記の問題は発生しない。
【0051】
湿式法としては、例えば濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いることができる。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を調製する。
尚、成形に際して、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0052】
調製した成形体を焼結して複合酸化物焼結体を製造する。
焼結は、酸素を流通することにより酸素雰囲気中で、又は加圧下にて行うことができる。
【0053】
焼結を酸素雰囲気中で行う場合において、酸素流量としては、好ましくは2〜20L/minであり、より好ましくは3〜15L/minである。酸素雰囲気中で焼結することにより、亜鉛の蒸散を抑えることができ、平均空孔数が少なく、酸化錫の凝集粒子数が少なく、相対密度が高く、相対密度のばらつきが小さく、ボイド(空隙)のない複合酸化物焼結体が得られる。また、酸素雰囲気中で焼結することにより、焼結体中の窒素濃度を低くし、密度を高めることができるため、スパッタリング中のノジュールやパーティクルの発生を抑え、膜特性に優れた酸化物半導体膜を成膜することができる。一方、酸素流量が上記範囲外の場合、酸素の導入により酸素欠損が抑制され、焼結体の比抵抗が高くなるおそれがある。
【0054】
焼結温度は、1200〜1550℃であり、好ましくは1250〜1450℃である。焼結温度を1200℃以上とすることにより、焼結体の相対密度を向上させ、ばらつきも減少させることができ、また平均空孔数を抑制することができる。一方、焼結温度を1550℃以下とすることにより、結晶粒径の成長が抑制でき、また平均空孔数を抑制できる。
【0055】
焼結時間は、通常1〜60時間、好ましくは2〜40時間、特に好ましくは3〜30時間である。焼結時間を1時間以上とすることにより、焼結体の相対密度を向上させ、ばらつきも減少させることができる。一方、焼結時間を60時間以下とすることにより、結晶粒径の成長が抑制でき、また平均空孔数を抑制できる。
【0056】
焼結では、好ましくは1000℃以上での昇温速度を30℃/h以上とし、冷却時の降温速度を30℃/h以上とする。1000℃以上での昇温速度が30℃/h未満の場合、酸化物の分解が進行して空孔数(ピンホール数)が多くなるおそれがある。一方、冷却時の降温速度が30℃/h未満の場合、得られる複合酸化物焼結体の組成比が変化するおそれがある。
【0057】
本発明の複合酸化物焼結体の製造方法は、還元工程を含んでもよい。
還元工程は、得られた焼結体を還元処理して、焼結体のバルク比抵抗を全体で均一化するために行う任意工程である。
【0058】
適用することができる還元方法としては、例えば還元性ガスを用いる方法、真空中で焼成する方法、及び不活性ガスによる還元等が挙げられる。
上記還元性ガスとしては、例えば、水素、メタン、一酸化炭素、これらガスと酸素の混合ガス等を用いることができる。
また、上記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらガスと酸素の混合ガス等を用いることができる。
【0059】
還元処理の温度は、通常300〜1200℃、好ましくは500〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0060】
本発明の複合酸化物焼結体は、研磨等の加工を施すことによりターゲットとすることができる。具体的には、複合酸化物焼結体を平面研削盤で研削して、表面粗さRaを5μm以下とし、好ましくはRaを0.3μm以下とし、より好ましくはRaを0.1μm以下とする。
【0061】
上記研削して得られたターゲットのスパッタ面に鏡面加工をさらに施して、平均表面粗さRaを1000オングストローム以下としてもよい。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、公知の研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法に特に制限はない。
【0062】
尚、ターゲットの清浄処理には、エアーブローや流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。
エアーブローや流水洗浄の他に、超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄では、周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのがよい。
【0063】
得られたターゲットを加工して、バッキングプレートへボンディングすることにより、ターゲットは、成膜装置に装着して使用できるスパッタリングターゲットとなる。バッキングプレートは銅製が好ましい。ボンディングにはインジウム半田を用いることが好ましい。
【0064】
上記加工は、ターゲットをスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工する、又はバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるために切削加工する、任意の工程である。
【0065】
ターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。また、複数のターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。
【0066】
ターゲット表面は、好ましくは200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行い、より好ましくは400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行う。200番未満、又は10,000番超のダイヤモンド砥石を使用するとターゲットが割れやすくなるおそれがある。
【0067】
本発明のアモルファス酸化物膜は、本発明の複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを室温以上450℃以下の成膜温度でスパッタリングすることにより得られ、電子キャリア濃度が1018/cm未満である。
尚、本発明のアモルファス酸化物膜の組成は、通常、用いるスパッタリングターゲットの組成とほぼ一致する。
【0068】
成膜温度は、好ましくは50℃以上300℃以下である。
成膜温度が室温未満の場合、結露によって得られる膜が水分を含むおそれがある。一方、成膜温度が450℃超の場合、基板が変形したり膜に応力が残って割れるおそれがある。
【0069】
上記スパッタリングとしては、DC(直流)スパッタ法、AC(交流)スパッタ法、RF(高周波)マグネトロンスパッタ法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられ、好ましくはDCスパッタ法である。
【0070】
スパッタリング時のチャンバー内の圧力は、例えばDCスパッタ法の場合は、通常0.1〜2.0MPaであり、好ましくは0.3〜0.8MPaである。RFスパッタ法の場合は、通常0.1〜2.0MPaであり、好ましくは0.3〜0.8MPaである。
【0071】
スパッタ時に投入される電力出力は、例えばDCスパッタ法の場合は、通常10〜1000Wであり、好ましくは100〜300Wである。RFスパッタ法の場合は、通常10〜1000Wであり、好ましくは50〜250Wである。
RFスパッタ法の電源周波数は、例えば50Hz〜50MHzであり、好ましくは10k〜20MHzである。
【0072】
スパッタ時のキャリアーガスとしては、例えば酸素、ヘリウム、アルゴン、キセノン及びクリプトンが挙げられ、好ましくはアルゴンと酸素の混合ガスである。アルゴンと酸素の混合ガスを使用する場合、アルゴン:酸素の流量比は、通常、Ar:O=100〜80:0〜20であり、好ましくは100〜90:0〜10である。
【0073】
基板としては、ガラス、樹脂(PET、PES等)等を用いることができる。
得られたアモルファス酸化物膜の膜厚は、成膜時間及びスパッタ法によっても異なるが、例えば5〜300nmであり、好ましくは10〜120nmである。
【0074】
本発明のアモルファス酸化物膜は、薄膜トランジスタのチャネル層として好適に用いることができる。以下、本発明のアモルファス酸化物膜がチャネル層(半導体層)である薄膜トランジスタについて説明する。
【0075】
図1は、本発明の薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)の一実施形態を示す概略断面図である。
薄膜トランジスタ1は、基板10上にゲート電極20が形成されている。ゲート電極20を覆うようにゲート絶縁膜30を有し、その上にチャネル層40がさらに積層されている。チャネル層40の両端部には、ソース電極50及びドレイン電極60がそれぞれ対向して形成されている。薄膜トランジスタ1は、ソース電極50及びドレイン電極60の一部を除いて、保護膜70で覆われている。
【0076】
本発明の薄膜トランジスタでは、チャネル層(半導体層)が本発明のアモルファス酸化物膜である。
本発明のアモルファス酸化物膜は非晶質であるので、絶縁膜や保護層との密着性が改善され、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得ることができる。
尚、半導体層が非晶質膜であることは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合、半導体層は非晶質である。
【0077】
本発明のアモルファス酸化物膜は、電子キャリア濃度が1018/cm未満であるので、アモルファス酸化物膜は非縮退半導体となりやすく、移動度及びオンオフ比のバランスが良好となる。尚、半導体層が非縮退半導体であることは、ホール効果を用いた移動度とキャリア密度の温度変化の測定を行うことにより判断できる。
半導体層(アモルファス酸化物膜)の電子キャリア濃度は、好ましくは1013/cm以上1018/cm未満であり、より好ましくは1014〜1017/cmである。
【0078】
成膜時の酸素分圧を調整する、又は後処理をすることで酸素欠陥量を制御し、キャリア密度を調整することにより半導体層を非縮退半導体とすることができる。
一方、半導体層が、非縮退半導体ではなく、縮退半導体である場合、キャリアが多すぎることにより、オフ電流・ゲートリーク電流が増加して閾値が負となり、ノーマリーオンとなるおそれがある。
【0079】
半導体層のバンドギャップは、好ましくは2.0〜6.0eVであり、より好ましくは2.8〜5.0eVである。半導体層のバンドギャップが、2.0eV未満の場合、可視光を吸収して電界効果型トランジスタが誤動作するおそれがある。一方、半導体層のバンドギャップが6.0eV超の場合、キャリアが供給されにくくなって電界効果型トランジスタが機能しなくなるおそれがある。
【0080】
半導体層の表面粗さ(RMS)は、好ましくは1nm以下であり、より好ましくは0.6nm以下であり、さらに好ましくは0.3nm以下である。半導体層のRMSが1nm超の場合、移動度が低下するおそれがある。
【0081】
半導体層は、好ましくは酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持している非晶質膜である。酸化インジウムを含む非晶質膜が酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持していることは、高輝度のシンクロトロン放射等を用いた微小角入射X線散乱(GIXS)によって求めた動径分布関数(RDF)により、In−X(Xは,In,Zn)を表すピークが0.30から0.36nmの間にあることから確認できる(F.Utsuno,et al.,Thin Solid Films,Volume 496,2006,Pages95-98)。
【0082】
また、上記0.30から0.36nmの間のRDFの最大値をA、0.36から0.42の間のRDFの最大値をBとした場合に、好ましくは原子間距離がA/B>0.7の関係を満たし、より好ましくはA/B>0.85の関係を満たし、さらに好ましくはA/B>1の関係を満たし、特に好ましくはA/B>1.2の関係を満たす。
A/Bが0.7以下の場合、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合において、移動度が低下したり、閾値及びS値が大きくなりすぎるおそれがある。これは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0083】
In−Inの平均結合距離は、好ましくは0.3〜0.322nmであり、より好ましくは0.31〜0.32nmである。In−Inの平均結合距離はX線吸収分光法により求めることができる。
上記X線吸収分光法により、立ち上がりから数百eVも高いエネルギーのところまで広がったX線吸収広域微細構造(EXAFS)を測定する。EXAFSは励起された原子の周囲の原子による電子の後方散乱によって引き起こされる。飛び出していく電子波と後方散乱された波との干渉効果が起こる。干渉は電子状態の波長と周囲の原子へ行き来する光路長に依存する。EXAFSをフーリエ変換することで動径分布関数(RDF)が得られ、RDFのピークから平均結合距離を見積もることができる。
【0084】
半導体層は、好ましくは非晶質膜であり、非局在準位のエネルギー幅(E)が14meV以下である。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E)は、より好ましくは10meV以下であり、さらに好ましくは8meV以下であり、特に好ましくは6meV以下である。非局在準位のエネルギー幅(E)が14meV超の場合、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合において、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれがある。これは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0085】
半導体層の膜厚は、通常0.5〜500nmであり、好ましくは1〜150nmであり、より好ましくは3〜80nmであり、特に好ましくは10〜60nmである。半導体層の膜厚がこの範囲にある場合、移動度やオンオフ比等のTFT特性が特に良好である。
半導体層の膜厚が0.5nm未満の場合、工業的に均一に成膜することが難しくなるおそれがある。一方、半導体層の膜厚が500nm超の場合、成膜時間が長くなり工業的に採用できないおそれがある。
【0086】
基板は、特に制限はなく公知の基板を使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。
基板や基材の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板の場合は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。透明性や平滑性が求められる場合は、ガラス基板、樹脂基板が好ましく、ガラス基板が特に好ましい。軽量化が求められる場合は樹脂基板や高分子機材が好ましい。
【0087】
電界効果型トランジスタは、半導体層の保護膜があることが好ましい。半導体の保護膜が無い場合、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離し、オフ電流が高くなる、閾値電圧が負になるおそれがある。また、大気下でも電界効果型トランジスタは湿度等周囲の影響を受け、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれがある。
【0088】
半導体層の保護膜を形成する材料は特に制限はなく、例えばSiO,SiN,Al,Ta,TiO,MgO,ZrO,CeO,KO,LiO,NaO,RbO,Sc,Y,Hf,CaHfO,PbTi,BaTa,SrTiO,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、好ましくはSiO,SiN,Al,Y,Hf,CaHfOであり、より好ましくはSiO,SiN,Y,Hf,CaHfOであり、特に好ましくはSiO,Y,Hf,CaHfOである。
これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiOでもSiOでもよい)。また、SiNは水素元素を含んでもよい。
【0089】
保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
保護膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的な製造しやすさの観点から、好ましくは多結晶質又は非晶質であり、より好ましくは非晶質である。保護膜が非晶質膜でない場合、界面の平滑性が悪く、移動度が低下したり、閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれがある。
【0090】
半導体層の保護膜は、好ましくは非晶質酸化物又は非晶質窒化物であり、より好ましくは非晶質酸化物である。保護膜が酸化物でない場合、半導体層中の酸素が保護層側に移動し、オフ電流が高くなったり、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれがある。
また、半導体層の保護膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜でもよい。半導体層の保護膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0091】
ゲート絶縁膜を形成する材料に特に制限はなく、例えばSiO,SiN,Al,Ta,TiO,MgO,ZrO,CeO,KO,LiO,NaO,RbO,Sc,Y,Hf,CaHfO,PbTi,BaTa,SrTiO,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、好ましくはSiO,SiN,Al,Y,Hf,CaHfOであり、より好ましくはSiO,SiN,Y,Hf,CaHfOである。
これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiOでもSiOでもよい)。また、SiNは水素元素を含んでもよい。
【0092】
ゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的な製造しやすさの観点から、多結晶質又は非晶質である。
【0093】
ゲート絶縁膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。また、ゲート絶縁膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0094】
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、例えばインジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO等の透明電極;Al、Ag、Cr、Ni、Mo、Au、Ti、Ta、Cu等の金属電極;又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。
また、電極は、2層以上積層体とすることにより、接触抵抗を低減したり、界面強度を向上させることが好ましい。ソ−ス電極及びドレイン電極の接触抵抗を低減させるため、半導体層の電極との界面をプラズマ処理、オゾン処理等で抵抗を調整してもよい。
【0095】
本発明の電界効果型トランジスタでは、半導体層とソース電極・ドレイン電極との間にコンタクト層を設けてもよい。コンタクト層は、好ましくは半導体層よりも抵抗が低い。
コンタクト層の形成材料は、上述した半導体層と同様の組成の複合酸化物が使用できる。即ち、コンタクト層は、好ましくはIn,Zn,Sn等の各元素を含む。コンタクト層が、これらの元素を含まない場合、コンタクト層と半導体層の間で元素の移動が発生し、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれがある。
【0096】
本発明の電界効果型トランジスタでは、好ましくは半導体層とゲート絶縁膜との間、及び/又は半導体層と保護膜との間に、半導体層よりも抵抗の高い酸化物抵抗層を有する。
酸化物抵抗層が無い場合、オフ電流が発生する、閾値電圧が負となりノーマリーオンとなる、及び保護膜成膜やエッチング等の後処理工程時に半導体層が変質し特性が劣化するおそれがある。
【0097】
酸化物抵抗層としては、以下の膜が例示できる。
(1)半導体層の積層時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜
(2)半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
(3)In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
(4)酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
(5)酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mg等の正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
【0098】
酸化物抵抗層が、半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜の場合は、In組成比は、好ましくは半導体層のIn組成比よりも少ない。
酸化物抵抗層は、好ましくはIn及びZnを含む酸化物である。酸化物半導体層がこの酸化物を含まない場合、酸化物抵抗層と半導体層の間で元素の移動が発生し、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれがある。
【0099】
本発明の薄膜トランジスタは、好ましくは半導体層を遮光する構造(例えば遮光層)を有する。薄膜トランジスタが半導体層を遮光する構造を有さない場合、光が半導体層に入射してキャリア電子が励起され、オフ電流が高くなるおそれがある。
【0100】
薄膜トランジスタが遮光層を有する場合において、遮光層は、好ましくは300〜800nmに吸収を持つ薄膜である。遮光層は、半導体層の上部及び下部のどちらに設けても構わないが、好ましくは上部及び下部の両方に設ける。
遮光層を、ゲート絶縁膜、ブラックマトリックス等として兼用してもよい。遮光層が半導体層の片側だけにある場合は、遮光層が無い側から光が半導体層に照射しないよう構造上の工夫が必要である。
【0101】
上述した電界効果型トランジスタの各構成層は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
【0102】
スパッタリングでは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法、複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法等が利用でき、好ましくは複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法を利用する。複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、及び合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法では、均一性や再現性が悪くなる場合や、非局在準位のエネルギー幅(E)が大きくなる場合があり、移動度が低下したり、閾値電圧が大きくなる等、トランジスタ特性が低下するおそれがある。
RF、DC、ACスパッタリング等公知のスパッタリングが利用できるが、均一性や量産性(設備コスト)の観点から、DCスパッタリング又はACスパッタリングが好ましい。
形成した層は、各種エッチング法によりパターニングできる。
【0103】
本発明では、好ましくは半導体層を、本発明のスパッタリングターゲットを用いて、DC又はACスパッタリングにより成膜する。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングを用いた場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、電界効果型トランジスタにおいて、閾値電圧シフトの低減、移動度の向上、閾値電圧の減少、S値の減少等の効果が期待できる。
【0104】
本発明では、好ましくは半導体層成膜後に70〜350℃で熱処理する。特に、半導体層と半導体層の保護膜を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。
熱処理温度が70℃未満の場合、得られるトランジスタの熱安定性や耐熱性が低下したり、移動度が低くなったり、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれがある。一方、熱処理温度が350℃超の場合、耐熱性のない基板が使用できない、熱処理用の設備費用がかかるおそれがある。
【0105】
熱処理温度は、好ましくは80〜260℃であり、より好ましくは90〜180℃であり、さらに好ましくは100〜150℃である。特に、熱処理温度を180℃以下とすることにより、基板としてPEN等の耐熱性の低い樹脂基板を利用できるため好ましい。
【0106】
熱処理時間は、通常1秒〜24時間であり、熱処理温度により調整できる。
熱処理温度が70〜180℃の場合、熱処理時間は好ましくは10分〜24時間であり、より好ましくは20分〜6時間であり、さらに好ましくは30分〜3時間である。
熱処理温度が180〜260℃の場合、熱処理時間は好ましくは6分〜4時間であり、より好ましくは15分〜2時間である。
熱処理温度が260〜300℃の場合、熱処理時間は好ましくは30秒〜4時間であり、より好ましくは1分〜2時間である。
熱処理温度が300〜350℃の場合、熱処理時間は好ましくは1秒〜1時間であり、より好ましくは2秒〜30分である。
【0107】
上記熱処理は、好ましくは不活性ガス中で酸素分圧が10−3Pa以下の環境下で行う、又は半導体層を保護層で覆った後に行う。これら条件下で熱処理を行うことにより、再現性を向上させることができる。
【0108】
本発明の薄膜トランジスタがコンタクト層を有する場合において、コンタクト層の作製方法に特に制限はないが、成膜条件を変えて半導体層と同じ組成比のコンタクト層を成膜したり、半導体層と組成比の異なるコンタクト層を成膜したり、半導体層の電極とのコンタクト部分をプラズマ処理やオゾン処理により抵抗を高めることでコンタクト層を構成したり、半導体層を成膜する際に酸素分圧等の成膜条件により半導体層より抵抗が高くなる層としてコンタクト層を構成してもよい。
【0109】
本発明の薄膜トランジスタの移動度は、好ましくは1cm/Vs以上であり、より好ましくは3cm/Vs以上であり、さらに好ましくは8cm/Vs以上である。トランジスタの移動度が1cm/Vs未満の場合、スイッチング速度が遅くなって大画面高精細のディスプレイに用いることができないおそれがある。
【0110】
本発明の薄膜トランジスタのオンオフ比は、好ましくは10以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは10以上である。
オフ電流は、好ましくは2pA以下であり、より好ましくは1pA以下である。オフ電流が2pA超の場合、本発明の薄膜トランジスタをディスプレイに用いた場合において、コントラストが悪くなる、及び画面の均一性が悪くなるおそれがある。
【0111】
ゲートリーク電流は、好ましくは1pA以下である。ゲートリーク電流が1pA超の場合、本発明の薄膜トランジスタをディスプレイに用いた場合において、コントラストが悪くなるおそれがある。
閾値電圧は、通常−5〜10Vであり、好ましくは0〜4Vであり、より好ましくは0〜3Vであり、さらに好ましくは0〜2Vである。閾値電圧が−5V未満の場合、ノーマリーオンとなり、オフ時に電圧をかける必要になり消費電力が大きくなるおそれがある。一方、閾値電圧が10V超の場合、駆動電圧が大きくなって消費電力が大きくなったり、高い移動度が必要となるおそれがある。
【0112】
本発明の薄膜トランジスタのS値は、好ましくは0.8V/dec以下であり、より好ましくは0.3V/dec以下であり、さらに好ましくは0.25V/dec以下であり、特に好ましくは0.2V/dec以下である。S値が0.8V/dec超の場合、駆動電圧が大きくなって消費電力が大きくなるおそれがある。特に、本発明の薄膜トランジスタを有機ELディスプレイに用いる場合は、直流駆動のため、S値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減でき、好ましい。
【0113】
尚、S値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が大きいと、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要があり、消費電力が大きくなるおそれがある。
【0114】
本発明の薄膜トランジスタに10μAの直流電圧50℃で100時間加えた前後の閾値電圧のシフト量は、好ましくは1.0V以下であり、より好ましくは0.5V以下である。上記閾値電圧のシフト量が1V超の場合、本発明の薄膜トランジスタを有機ELディスプレイに用いた場合において、画質が変化してしまうおそれがある。
また、伝達曲線でゲート電圧を昇降させた場合のヒステリシスが小さい方が好ましい。
【0115】
本発明の薄膜トランジスタのチャンネル幅W及びチャンネル長Lの比W/Lは、通常0.1〜100であり、好ましくは0.5〜20であり、より好ましくは1〜8である。W/Lが100超の場合、漏れ電流が増えたり、on−off比が低下したりするおそれがある。W/Lが0.1未満の場合、電界効果移動度が低下したり、ピンチオフが不明瞭になったりするおそれがある。
チャンネル長Lは通常0.1〜1000μmであり、好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは2〜10μmである。チャンネル長Lが0.1μm未満の場合、工業的に製造が難しくなり、また漏れ電流が大きくなるおそれがある。一方、チャンネル長Lが1000μm超の場合、素子が大きくなりすぎてしまうおそれがある。
【実施例】
【0116】
以下、本発明を実施例を基に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0117】
実施例1
[複合酸化物焼結体の製造]
出発原料粉末として、下記の酸化物粉末を使用した。尚、これら酸化物粉末の比表面積はBET法で測定した。
(a)酸化インジウム粉:4N、比表面積8m/g
(b)酸化錫粉 :4N、比表面積8m/g
(c)酸化亜鉛粉 :4N、比表面積5m/g
上記酸化物粉末を原子比で(a):(b):(c)=35:15:50となるように秤量して混合し、(a)、(b)及び(c)からなる原料混合粉体を調製した。調製した原料混合粉体の比表面積は6.3m/gであった。
【0118】
調製した原料混合粉体を、湿式媒体撹拌ミルを使用して、混合粉体の比表面積を確認しながら混合粉砕した。得られた粉砕後の混合粉体の比表面積は、原料混合粉体の比表面積より2m/g増加していた。
尚、湿式媒体攪拌ミルの粉砕媒体としては、1mmφのジルコニアビーズを使用した。
【0119】
得られた粉砕後の混合粉体をスプレードライヤーで乾燥した後、金型(150mmφ20mm厚)に充填し、コールドプレス機にて加圧成形して成形体を調製した。この成形体を酸素を流通させながら酸素雰囲気中1400℃で4時間焼結し、焼結体を製造した。焼結体の製造条件を表1に示す。
このように、仮焼工程を行うことなく、スパッタリングターゲット用焼結体を得ることができた。
【0120】
製造した焼結体をX線回折により分析した。その結果、焼結体がZnSnOで表されるスピネル構造化合物を含むことが確認され、酸化錫相(110)のピーク強度I1は確認されなかった。また、焼結体中の窒素含有量は5ppm以下であった。
【0121】
焼結体中の窒素含有量は、微量全窒素分析装置(TN)で測定した。微量全窒素分析装置は、元素分析の中で窒素(N)のみ、又は窒素(N)及び炭素(C)のみを対象元素とし、窒素量、又は窒素量と炭素量を求めるための分析に用いる。
TNでは、含窒素無機物又は含窒素有機物を触媒存在下で分解させ、Nを一酸化窒素(NO)に変換し、このNOガスをオゾンと気相反応させ、化学発光により光を発し、その発光強度からNの定量を行う。
【0122】
上記X線回折の測定条件は以下の通りである。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0123】
得られた焼結体について、酸化錫の凝集粒子数、相対密度、平均結晶粒径、バルク抵抗(mΩcm)、最大密度差、平均空孔数、外観(色むら)、及びクラックを以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0124】
(1)酸化錫の凝集粒子数
最初に、得られた焼結体から分析用の小片を切り出し、この小片の観察面を研磨した。この研磨面をX線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて酸化錫の凝集粒子の存在を調べた。分析装置としてJXA−8621MX(日本電子社製)を用い、倍率200倍の条件で錫の特性X像の面分析を行い、得られた結果を画像に出力した後、直径10μm以上の凝集錫粒子を数えた。1つの焼結体に対して上記作業を10回繰り返し、平均することにより1.00mmあたりの酸化錫の平均凝集粒子数とした。
【0125】
(2)相対密度
焼結体の任意の10箇所を切り出して、その密度をアルキメデス法で求め、その密度の平均値を焼結体の相対密度とした。
【0126】
(3)相対密度のばらつき
焼結体の任意の10箇所を切り出して、その密度をアルキメデス法で求め、その密度の平均値、最大値及び最小値を基に下記式から算出した。
相対密度のばらつき=(最大−最小)/平均×100(%)
【0127】
(4)平均結晶粒径
焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザー(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)を用いて研磨面を5000倍に拡大し、焼結体表面の30μm×30μm四方の枠内で観察される結晶粒子の最大径を測定した。この結晶粒子の最大径を平均結晶粒径とした。
【0128】
(5)バルク抵抗(mΩcm)
・抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用して、四探針法(JIS R 1637)に基づき、焼結体の任意の10箇所についてバルク抵抗を測定し、その平均値を焼結体のバルク抵抗とした
【0129】
(6)平均空孔数
焼結体の任意の方向にて鏡面研磨後、エッチングし、組織をSEMで観察し、単位面積当たりの直径1μm以上の空孔の個数を数えた。
【0130】
(7)外観(色むら)
北窓昼光下、50cm離れた場所から焼結体を目視し、下記に分類した。
◎:色むらが全くない
○:色むらがほとんどない
△:色むらが若干ある
×:色むらがある
【0131】
(8)クラック
北窓昼光下、50cm離れた場所から焼結体を目視し、クラック発生の有無を確認した。
○:なし
×:あり
【0132】
[スパッタリングターゲットの製造]
製造した焼結体から、ターゲット用焼結体を切り出した。切り出したターゲット用焼結体の側辺をダイヤモンドカッターで切断し、表面を平面研削盤で研削して表面粗さRa5μm以下のターゲット素材とした。次に、ターゲット素材の表面をエアーブローし、さらに周波数25〜300KHzの間で25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて3分間超音波洗浄を行なった。この後、ターゲット素材をインジウム半田にて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットとした。スパッタリングターゲットの表面粗さは、Ra≦0.5μmであり、方向性のない研削面を備えていた。
【0133】
[TFTパネルの作製]
以下の工程でボトムゲート型TFT素子を作製した。
ガラス基板上に、室温でRFスパッタリングしてモリブデン金属を200nm積層した後、ウェットエッチングでパターニングして、ゲート電極を作製した。次に、ゲート電極を作製した基板上にプラズマ化学気相成長装置(PECVD)を用いて、SiOxを成膜してゲート絶縁膜とした。製造したスパッタリングターゲットを、DCスパッタ法の一つであるDCマグネトロンスパッタリング法の成膜装置に装着し、成膜温度50℃でゲート絶縁膜上にアモルファス酸化物膜を成膜した。アモルファス酸化物膜は、ホール効果測定装置(東洋テクニカ製)で測定した結果、電子キャリア濃度が5×1017/cmであった。その後、アモルファス酸化物膜をドライエッチでパターニングして半導体層(膜厚40nm)を形成した。PECVDを用いてSiOxを成膜し、ドライエッチ(RIE)でパターニングして、第一の保護層(エッチストッパー)とした。続いて、DCスパッタリングでTi/Al/Ti積層膜を成膜した。成膜後、ドライエッチ(RIE)でパターニングしてソース電極・ドレイン電極を形成した。さらに、第二の保護層として、PECVDを用いてSiNxを成膜した後、コンタクトホールを形成して外部配線と接続した。その後、大気下、280℃で1時間熱処理し、チャネル長が10μmで、チャネル幅が100μmのトランジスタを作製した。基板(TFTパネル)内には10×10=100個のTFTを等間隔で配列して形成した。
【0134】
TFTパネル内100個の素子の特性をすべて評価した。その結果、短絡の見られたものを除き、電界効果移動度は、12〜16cm/(V・秒)の範囲に、閾値電圧は0〜1.0Vの範囲に収まっていた。特に隣接するTFT素子の間では特性の差が殆ど見られなかった。
【0135】
こうして得られたTFTパネルの特性の変化について、作製したスパッタリングターゲットを用いて、連続5バッチ分TFTを作製し、その特性を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0136】
(9)TFT特性の均一性
同一パネル内のVg=6Vにおけるオン電流の最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。最大値と最小値の比を以下の基準で分類し、評価した。
1.05以内:◎
1.10以内:○
1.20以内:△
1.20超 :×
【0137】
(10)TFT特性の再現性
連続5バッチ分における第1バッチと第100バッチの平均電界効果移動度の比(第1バッチ/第100バッチ)を測定した。
【0138】
(11)TFTの歩留り
連続10バッチ分のパネルについて、各同一パネル内の100個のTFT(合計1000個)の駆動確認を行い、駆動したTFTの数を数えた。但し、短絡して駆動しなかったTFTは除いた。駆動したTFTの数を以下の基準で分類し、評価した
999個以上駆動:◎
995個以上999個未満駆動:○
990個以上995個未満駆動:△
990個未満駆動:×
【0139】
実施例2〜7及び比較例1〜8
表1及び2に示す出発原料粉末を用い、表1及び2に示す製造条件で焼結体を製造した他は実施例1と同様にして焼結体を作製し評価し、TFTパネルを作製し評価した。結果を表1及び2に示す。
尚、例えば比較例1では、焼結体の製造に仮焼工程を含むが、仮焼工程は、混合粉体を粉砕した後に、大気下900℃で8時間行った。また、実施例1ではスプレードライヤーで造粒しているのに対し、例えば比較例1では自然乾燥で造粒しているが、自然乾燥は12時間行った。
【0140】
実施例8〜13
酸化物粉末を原子比で表3のようになるように秤量し、下記条件で焼結した他は、実施例1と同様にして、焼結体及びターゲットを作製した。結果を表3に示す。
昇温速度:1℃/分
焼結温度:1480℃
焼結時間:12時間
加工:厚み9mmの焼結体の両面を各2mm研削
【0141】
各実施例で製造した焼結体をX線回折により分析した。結果は以下のとおりである。
実施例8:Inで表されるビックスバイト構造化合物とZnSnOで表されるスピネル構造化合物が主成分であった。
実施例9−13:ZnSnOで表されるスピネル構造化合物が主成分であった。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の複合酸化物焼結体はスパッタリングターゲットとして使用できる。本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した薄膜は、トランジスタのチャネル層として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In、Zn及びSnを含み、
焼結体密度が相対密度で90%以上であり、平均結晶粒径が10μm以下であり、バルク抵抗が30mΩcm以下であり、
直径10μm以上の酸化スズの凝集粒子数が、1.00mmあたり2.5個以下である複合酸化物焼結体。
【請求項2】
平面方向における相対密度のばらつきが1%以下であり、平均空孔数が800個/mm以下である請求項1に記載の複合酸化物焼結体。
【請求項3】
In、Zn及びSnの原子比が、下記式を満たす請求項1又は2に記載の複合酸化物焼結体。
0<In/(In+Sn+Zn)<0.75
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)≦0.75
0<Sn/(In+Sn+Zn)<0.50
【請求項4】
窒素含有量が5ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の複合酸化物焼結体。
【請求項5】
比表面積が4〜14m/gである酸化インジウム粉、比表面積が4〜14m/gである酸化錫粉、及び比表面積が2〜13m/gである酸化亜鉛粉を原料として成形体を調製し、
前記成形体を1200〜1550℃で焼結する複合酸化物焼結体の製造方法。
【請求項6】
比表面積が6〜10m/gである酸化インジウム粉、比表面積が5〜10m/gである酸化錫粉、及び比表面積が2〜4m/gである酸化亜鉛粉を混合して混合粉体全体の比表面積が5〜8m/gである混合粉体を調製し、
前記混合粉体を湿式媒体撹拌ミルにより混合粉砕して、混合粉体全体の比表面積を1.0〜3.0m/g増加させ、
前記比表面積を増加させた混合粉体を成形して成形体を調製し、
前記成形体を酸素雰囲気中1250〜1450℃で焼結する請求項5に記載の複合酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記複合酸化物焼結体に含まれる金属原子が、実質的にIn原子、Sn原子及びZn原子であり、前記金属原子の比率が下記式を満たす請求項7に記載のスパッタリングターゲット。
0<In/(In+Sn+Zn)<0.40
0.25≦Zn/(In+Sn+Zn)<0.70
0.05<Sn/(In+Sn+Zn)<0.25
【請求項9】
請求項7又は8に記載のスパッタリングターゲットを室温以上450℃以下の成膜温度でスパッタリングして得られるアモルファス酸化物膜であって、
電子キャリア濃度が1018/cm未満であるアモルファス酸化物膜。
【請求項10】
請求項9に記載のアモルファス酸化物膜がチャネル層である薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−180274(P2012−180274A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126732(P2012−126732)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【分割の表示】特願2010−542008(P2010−542008)の分割
【原出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】