説明

触媒異常診断装置

【課題】診断精度を向上して誤診断を抑制する。
【解決手段】触媒上流側の空燃比をリーンおよびリッチに交互に制御するアクティブ空燃比制御を実行する。触媒後センサ出力が所定の閾値に達し、これと同時にリーン制御とリッチ制御とが切り替えられた後に、触媒前空燃比がストイキに到達した時点で触媒後センサ出力が所定の参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と参照値との差がなくなるよう閾値をフィードバック補正する。差がなくなったときの閾値に基づいて触媒が正常か異常かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の異常診断に係り、特に、内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用内燃機関において、その排気系には排気ガスを浄化するための触媒が設置されている。この触媒の中には酸素吸蔵能(O2ストレージ能)を有するものがある。この酸素吸蔵能を有する触媒は、触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ)よりも大きくなると、即ちリーンになると排気ガス中に存在する過剰酸素を吸蔵し、排気ガスの空燃比がストイキよりも小さくなると、即ちリッチになると吸蔵した酸素を放出する。例えばガソリンエンジンでは触媒に流入する排気ガスがストイキ近傍となるよう空燃比制御が行われるが、酸素吸蔵能を有する三元触媒を使用すると、運転条件により実際の空燃比がストイキから多少ズレてしまっても、三元触媒の酸素吸蔵・放出作用により、かかる空燃比ズレを吸収することができる。
【0003】
一方、触媒が劣化すると触媒の浄化率が低下する。触媒の劣化度と酸素吸蔵能の低下度との間には相関関係がある。よって、酸素吸蔵能の低下を検出することで触媒の劣化ないし異常を検出することができる。一般的には、触媒上流側の空燃比をリッチおよびリーンに交互に制御するアクティブ空燃比制御を行い、それらリーン制御中およびリッチ制御中に前記触媒が吸放出する酸素量を計測し、この酸素量に基づき触媒の異常を診断する方法(所謂Cmax法)が採用される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−364428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでこのCmax法では、触媒の下流側の排気空燃比を検出する触媒後センサを設け、触媒後センサの出力が反転するのと同時にリーン制御とリッチ制御を切り替え、且つ酸素量の計測を終了するようにしている。
【0006】
しかしながら酸素量の計測に際して、実際には吸放出されていない酸素量が併せて計測されてしまうという計測誤差の問題がある。特に、従来のCmax法だと、異常触媒の場合に、正常触媒の場合に比べ、触媒後センサ出力反転直前における誤差割合が大きくなり、計測値が真の値より大きくなる傾向が強まる。こうなると、実際には異常な触媒を正常と誤診断することに繋がりかねない。また正常触媒と異常触媒の間での酸素量計測値の差を拡大することができず、特にこれらの差が元々小さい触媒の場合では、十分な診断精度を確保できない虞がある。
【0007】
そこで本発明は以上の事情に鑑みて創案されたものであり、その一の目的は、診断精度を向上して誤診断を抑制し得る触媒異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様によれば、
内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置であって、
触媒上流側の排気空燃比である触媒前空燃比を取得する取得手段と、
触媒下流側の排気空燃比を検出する触媒後センサと、
触媒上流側の空燃比をストイキを境にリーンおよびリッチに交互に制御するアクティブ空燃比制御手段と、
触媒後センサ出力が所定の閾値に達し、これと同時にリーン制御とリッチ制御とが切り替えられた後に、前記取得手段により取得された触媒前空燃比がストイキに到達した時点で前記触媒後センサ出力が所定の参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と前記参照値との差がなくなるよう、前記差に基づき前記閾値をフィードバック補正する補正手段と、
前記差がなくなったときの前記閾値に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする触媒異常診断装置が提供される。
【0009】
好ましくは、前記判定手段は、前記差がなくなったときの前記閾値と、前記閾値の初期値との差に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する。
【0010】
好ましくは、前記閾値は、前記リーン制御から前記リッチ制御への切替タイミングを規定するリーン閾値と、前記リッチ制御から前記リーン制御への切替タイミングを規定するリッチ閾値とからなり、
前記リーン閾値は、前記触媒後センサ出力のストイキ相当値よりもリーン側に定められた基準のリーン判定値よりもリッチ側の値であり、
前記リッチ閾値は、前記ストイキ相当値よりもリッチ側に定められた基準のリッチ判定値よりもリーン側の値である。
【0011】
好ましくは、前記参照値は、前記リーン制御から前記リッチ制御への切替後に前記触媒後センサ出力が到達可能なリーン参照値と、前記リッチ制御から前記リーン制御への切替後に前記触媒後センサ出力が到達可能なリッチ参照値とからなり、
前記リーン参照値は、前記リーン閾値よりもリーン側の値であり、
前記リッチ参照値は、前記リッチ閾値よりもリッチ側の値である。
【0012】
好ましくは、前記リーン参照値は、前記リーン判定値と等しい値であり、前記リッチ参照値は、前記リッチ判定値と等しい値である。
【0013】
好ましくは、前記補正手段は、前記触媒後センサ出力が前記リッチ閾値に達し、これと同時に前記リッチ制御から前記リーン制御へと切り替えられた後に、前記取得手段により取得された触媒前空燃比がストイキに到達した時点で前記触媒後センサ出力が前記リッチ参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と前記リッチ参照値との差であるリッチストイキ出力差に基づき、前記リッチ閾値をリーン側に移動するよう補正する。
【0014】
好ましくは、前記判定手段は、前記リッチストイキ出力差がなくなったときの前記リッチ閾値と、前記リッチ閾値の初期値との差に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する。
【0015】
好ましくは、前記補正手段は、前記触媒後センサ出力が前記リーン閾値に達し、これと同時に前記リーン制御から前記リッチ制御へと切り替えられた後に、前記取得手段により取得された触媒前空燃比がストイキに到達した時点で前記触媒後センサ出力が前記リーン参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と前記リーン参照値との差であるリーンストイキ出力差に基づき、前記リーン閾値をリッチ側に移動するよう補正する。
【0016】
好ましくは、前記判定手段は、前記リーンストイキ出力差がなくなったときの前記リーン閾値と、前記リーン閾値の初期値との差に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、診断精度を向上して誤診断を抑制することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】触媒の構成を示す概略断面図である。
【図3】基本方法におけるアクティブ空燃比制御のタイムチャートである。
【図4】基本方法における酸素吸蔵容量の計測方法を示すタイムチャートである。
【図5】触媒前センサ及び触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図6】リッチ制御時の試験結果を示すタイムチャートであり、正常触媒の場合である。
【図7】リッチ制御時の試験結果を示すタイムチャートであり、異常触媒の場合である。
【図8】触媒後センサ出力の反転タイミングを基本方法よりも早めた場合の各値の推移を示すタイムチャートである。
【図9】図3および図4を本実施形態に即するよう修正したタイムチャートである。
【図10】本実施形態の異常診断の方法を説明するためのタイムチャートである。
【図11】判定パラメータの算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図12】リッチ閾値の初期値を算出するためのマップを示す。
【図13】リーン閾値の初期値を算出するためのマップを示す。
【図14】リッチストイキ補正値を算出するためのマップを示す。
【図15】リーンストイキ補正値を算出するためのマップを示す。
【図16】触媒の正異常判定に関するフローチャートである。
【図17】触媒の正異常判定に関する別のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関たるエンジン1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態のエンジン1は自動車用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
【0021】
エンジン1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
【0022】
各気筒の吸気ポートは吸気マニホールドを介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、エンジンに流入する単位時間当たりの空気量すなわち吸入空気量Ga(g/s)を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが設けられている。なお吸気ポート、吸気マニホールド、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0023】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタすなわち燃料噴射弁12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
【0024】
一方、各気筒の排気ポートは、排気マニホールドを介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、排気マニホールド及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒、即ち上流触媒11及び下流触媒19が直列に設けられている。例えば、上流触媒11は排気マニホールドの直後に配置され、下流触媒19は車両の床下などに配置される。
【0025】
上流触媒11の上流側及び下流側に、それぞれ、酸素濃度に基づいて排気ガスの空燃比(排気空燃比)を検出する空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設けられている。図5に示すように、触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂酸素センサ(O2センサ)からなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。
【0026】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、インジェクタ12、スロットルバルブ10等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0027】
上流触媒11及び下流触媒19は、これに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってこの特性に合わせて、ECU20は、エンジンの通常運転時、上流触媒11及び下流触媒19に流入する排気ガスの空燃比がストイキに一致するよう、燃焼室3に供給される混合気の空燃比(具体的にはインジェクタ12からの燃料噴射量)を触媒前センサ17の出力に基づきフィードバック制御する。
【0028】
ここで、異常診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で担持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。なお、「吸蔵」と同義で「吸収」または「吸着」を用いることもある。
【0029】
例えば、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元され、浄化される。他方、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この放出された酸素によりHCおよびCOが酸化され、浄化される。
【0030】
この酸素吸放出作用により、通常のストイキ空燃比制御に際して実際の空燃比がストイキに対して多少ばらついたとしても、このばらつきを吸収することができる。
【0031】
ところで、新品状態の触媒11では前述したように多数の触媒成分32が均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率が低下し、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
【0032】
このように、触媒11の劣化度と触媒11の酸素吸蔵能低下度との間には相関関係がある。
【0033】
[異常診断の基本方法]
触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵または放出し得る酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表すことができる。すなわち、触媒の劣化度が小さく酸素吸蔵能が高いほど、酸素吸蔵容量は大きくなり、触媒の劣化度が大きく酸素吸蔵能が低いほど、酸素吸蔵容量は小さくなる。
【0034】
よってこの酸素吸蔵容量を計測し、当該計測値に基づいて触媒の異常を診断する方法、すなわちCmax法が一般的に採用されている。この方法を基本方法と称す。
【0035】
以下、基本方法について説明する。異常診断に際してはまず、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。すなわちECU20は、触媒上流側の空燃比、具体的には燃焼室3内の混合気の空燃比を、中心空燃比であるストイキA/Fsを境に、リッチおよびリーンに交互に制御する。これにより、触媒11に供給される排気ガスの空燃比も、リッチおよびリーンに交互に制御されることとなる。
【0036】
また、アクティブ空燃比制御および診断は、所定の前提条件が満たされているときに限って実行される。この前提条件については後述する。
【0037】
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。
【0038】
図3(A)において、破線は目標空燃比A/Ft、実線は触媒前センサ17の出力(但し触媒前空燃比A/Ffrへの換算値)を示す。また図3(B)において、実線は触媒後センサ18の出力(但しその出力電圧Vr)を示す。
【0039】
図示するように、時刻t1より前では、空燃比をリーンに切り替えるリーン制御が実行されている。このとき、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Fl(例えば15.1)とされ、触媒11には、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されている。このとき触媒11は酸素を吸蔵し続けているが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸蔵した時点でそれ以上酸素を吸蔵できなくなる。この結果、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリーン側に変化し、出力電圧Vrが所定のリーン判定値VL(例えば0.2V)に達した時点t1で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Fr(例えば14.1)に切り替えられる。これにより空燃比制御はリーン制御からリッチ制御に切り替えられ、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリッチガスが供給されるようになる。
【0040】
リッチガスが供給されると、触媒11は吸蔵酸素を放出し続ける。やがて触媒11から吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で触媒11は酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリッチ側に変化し、出力電圧Vrが所定のリッチ判定値VR(例えば0.6V)に達した時点t2で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。これにより空燃比制御はリッチ制御からリーン制御に切り替えられ、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されるようになる。
【0041】
再び、触媒11が満杯まで酸素を吸蔵し、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン判定値VLに達すると、その時点t3で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、リッチ制御が開始される。
【0042】
こうして、触媒後センサ18の出力が反転する毎に、リーン制御とリッチ制御とが交互に繰り返し実行される。隣り合うリーン制御とリッチ制御の組をアクティブ空燃比制御の1周期とする。アクティブ空燃比制御は所定のN周期(Nは2以上の整数)実行される。
【0043】
ここでリーン判定値VLは、リーン制御からリッチ制御への切替タイミングを規定する閾値の基準をなす。このリーン判定値VLは、図5にも示すように、触媒後センサ出力のストイキ相当値Vstよりも小さい(リーン側の)値に予め定められている。
【0044】
同様に、リッチ判定値VRは、リッチ制御からリーン制御への切替タイミングを規定する閾値の基準をなす。このリッチ判定値VRは、図5にも示すように、触媒後センサ出力のストイキ相当値Vstよりも大きい(リッチ側の)値に予め定められている。
【0045】
このアクティブ空燃比制御の実行中、次の方法で触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測される。
【0046】
触媒11の有する酸素吸蔵容量が大きいほど、酸素を吸蔵或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は触媒後センサ出力Vrの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほどその反転周期は短くなる。
【0047】
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが次のようにして計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/FfがストイキA/Fsに達した時点t11から、次に触媒後センサ出力Vrが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCが逐次的に算出され、且つこの酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで逐次的に積算される。こうして、リッチ制御時における最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC、すなわち図4にOSCbで示す放出酸素量が計測される。
【0048】
【数1】

【0049】
Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。σは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
【0050】
リーン制御時にも同様に酸素吸蔵容量、すなわち図4にOSCaで示す吸蔵酸素量が前式(1)に従って計測される。そしてリッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、放出酸素量と吸蔵酸素量が交互に計測される。
【0051】
こうして複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値が得られたならば、次の方法により触媒の正異常判定が行われる。
【0052】
まずECU20は、これら放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavを算出する。そしてこの平均値OSCavを所定の異常判定値αと比較する。ECU20は、平均値OSCavが異常判定値αより大きいときには触媒11を正常と判定し、平均値OSCavが異常判定値α以下のときには触媒11を異常と判定する。なお触媒を異常と判定した場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置(図示せず)を起動させるのが好ましい。
【0053】
[本実施形態の異常診断方法]
次に、本実施形態の異常診断方法を説明する。なお「酸素吸蔵容量OSC」および「酸素量」とは、「吸蔵酸素量OSCa」と「放出酸素量OSCb」を包括する用語である。
【0054】
前述したように、酸素吸蔵容量OSCの計測に際しては、実際には吸放出されていない酸素量が併せて計測されてしまうという計測誤差の問題がある。特に、基本方法の如きCmax法だと、異常触媒の場合に、正常触媒の場合に比べ、触媒後センサ出力反転直前における誤差割合が大きくなり、計測値が真の値より大きくなる傾向が強まる。こうなると、実際には異常な触媒を正常と誤診断する可能性がある。
【0055】
この点を図6および図7を用いて詳しく説明する。図6は正常触媒の場合、図7は異常触媒の場合である。両図は、リーン制御からリッチ制御に切り替えたときの試験結果を示している。但し、触媒後センサ出力Vrが反転しても(すなわちリッチ判定値VR=0.6(V)に達しても)リーン制御への切り替えは行っていない。
【0056】
両図において、(A)には目標空燃比A/Ftと、触媒前センサ17によって検出された触媒前空燃比A/Ff(線a)と、触媒後空燃比A/Fr(線b)とを示す。ここでは触媒前センサ17と同様の空燃比センサを触媒下流側に試験用に設置し、この空燃比センサにより検出された空燃比を触媒後空燃比A/Frとしている。
【0057】
(B)には触媒後センサ出力Vrを示し、(C)には放出酸素量OSCbの積算値を示す。触媒後センサ出力Vrは0〜1(V)の範囲内で変化し得る。
【0058】
まず図6の正常触媒の場合を説明する。リッチ制御への切替後、触媒前空燃比A/Ffが低下してストイキ(=14.6)に到達した時点t1から、触媒後センサ出力Vrがリッチ側に上昇してリッチ判定値VRに到達する時点t3まで、放出酸素量OSCbが積算される。この放出酸素量OSCbの時刻t3での最終積算値は、(A)に示す領域cの面積で表すことができる。この領域cは、時刻t1から時刻t3までの、ストイキ(14.6)と触媒前空燃比A/Ffとで挟まれた領域である。
【0059】
一方、この期間t1〜t3内において、触媒後空燃比A/Frはストイキより若干リッチとなっている。ストイキと触媒後空燃比A/Frとで挟まれた領域dの面積が、触媒で実際に処理しきれなかったリッチガスの部分、言い換えれば触媒から放出できなかった酸素の量(便宜上OSCeとする)を表す。この領域dの面積が、時刻t3における全放出酸素量OSCbのうちの誤差分に相当する。
【0060】
領域cの面積(OSCb)から、領域dの面積(OSCe)を差し引いて得られた値が、実際に触媒から放出された酸素量を表すことになる。このように、計測された放出酸素量OSCbには、実際には放出されていない酸素量OSCeが含まれている。
【0061】
なお本実施形態の装置構成では、触媒後空燃比A/Frの絶対値まで検出できる空燃比センサがないので、誤差分自体を単独で計測することができない。便宜上、ストイキと触媒前空燃比A/Ffとで挟まれた領域cを放出酸素量OSCbとして計測しているのである。
【0062】
ところで、触媒後空燃比A/Frと触媒後センサ出力Vrに着目すると、時刻t1と時刻t3の間の時刻t2において、触媒後空燃比A/Frがリッチ側に低下し始め、触媒後センサ出力Vrのリッチ側への上昇速度ないし変化率が増大し始めている。これは、時刻t2で触媒の酸素放出が実質的に終了し、その後は触媒に残存している酸素が比較的ゆっくりと放出されていることを意味すると考えられる。或いは、時刻t2で触媒のメインの酸素放出が終了し、その後は副次的な残存酸素の放出が行われていることを意味すると考えられる。
【0063】
もっとも、時刻t2から時刻t3までの期間でも、触媒後空燃比A/Frと触媒前空燃比A/Ffとの間には差があり、実際に酸素が放出され、リッチガスが処理されている。よってこの期間t2〜t3で計測された放出酸素量OSCbのうち、誤差分が占める割合は比較的少ないものと考えられる。そして正常触媒の場合、全期間t1〜t3で計測される全放出酸素量の値が大きいことから、この全放出酸素量のうち、期間t2〜t3内の誤差分が占める割合は比較的少ないと考えられる。
【0064】
(C)に、誤差分に相当する酸素量OSCeを概略的に示す。時刻t3における全放出酸素量OSCbのうち、誤差分に相当する酸素量OSCeの割合は比較的少ない。
【0065】
これとは対照的に、図7に示す異常触媒の場合だと、時刻t2から時刻t3までの間の期間において、触媒後空燃比A/Frと触媒前空燃比A/Ffとの間には差が殆ど無い。これは、触媒が実質的に酸素を放出していないことを意味する。しかしながら、この期間t2〜t3でも、ストイキと触媒前空燃比A/Ffとの差が積算され、あたかも触媒が酸素を放出しているかのように放出酸素量OSCbが計測されている。
【0066】
よってこの期間t2〜t3で計測された放出酸素量OSCbのうち、誤差分が占める割合は非常に多いと考えられる。そして異常触媒の場合、全期間t1〜t3で計測される全放出酸素量の値が比較的小さいことから、この全放出酸素量のうち、期間t2〜t3内の誤差分が占める割合も多いものと考えられる。
【0067】
(C)に、誤差分に相当する酸素量OSCeを概略的に示す。時刻t3における全放出酸素量OSCbのうち、誤差分に相当する酸素量OSCeの割合は多い。
【0068】
このように、基本方法だと、異常触媒の場合に、正常触媒の場合に比べ、触媒後センサ出力反転直前における誤差割合が大きくなり、計測値の真の値に対する増加割合も大きくなる。こうなると、実際には異常な触媒を正常と誤診断する可能性がある。
【0069】
また、正常触媒と異常触媒の間での酸素量計測値の差を拡大することができず、特にこれらの差が元々小さい触媒の場合では、十分な診断精度を確保できない虞がある。近年では、触媒の貴金属量を低減する傾向にあり、こうした触媒では、正異常触媒間での吸放出可能な酸素量の差が元々小さい。よって誤差割合が大きいと、正異常触媒間での微妙な酸素量の差を見分けることができず、十分な診断精度を確保できない虞がある。
【0070】
こうした問題は、触媒後センサ出力の反転時付近における制御遅れにも起因している。すなわち、触媒後センサ18には、リッチガスが実際に供給されても出力が直ぐにリッチ側に切り替わらないという応答遅れがある。また、燃焼室3内の空燃比がリッチに切り替えられてから、そのリッチガスが触媒付近に到達するまでに時間を要するという輸送遅れも存在する。これら応答遅れと輸送遅れを含めて制御遅れという。制御遅れ期間中は、未浄化のリッチガスが触媒から排出されるので、エミッションが悪化する。
【0071】
図7の例において、リッチガスが触媒から顕著に漏れ出した時刻t2で、瞬時に触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達すれば、応答遅れによるエミッション悪化は抑制される。しかしながら実際にはそうならないために応答遅れによるエミッション悪化が顕著となる。また、仮に時刻t3で空燃比がリーンに切り替えられたとしても、輸送遅れ期間中は触媒にリッチガスが供給され、かつそのリッチガスを触媒では処理できない。よって輸送遅れによるエミッション悪化も発生する。
【0072】
上述の例はリッチ制御の場合であるが、リーン制御の場合にも同様の問題がある。
【0073】
そこでこの問題を解決するため、本実施形態では、次のように診断方法を基本方法から変更する。概略的に述べると、まず酸素量の計測自体を廃止する。
【0074】
次に、触媒後センサ出力の反転後の挙動に着目し、これを利用する。触媒の酸素吸放出が実質的に終了した後は、触媒中で未処理ないし未反応のガス(リッチガスまたはリーンガス)が触媒から流出する。このとき、触媒の異常度合いが大きいほど、未反応ガスのリッチ度合いまたはリーン度合いが強く、触媒後センサ出力は速く大きく変化する傾向にある。よって反転後の触媒後センサ出力の挙動を利用すれば、触媒の異常度合いを推定することができる。
【0075】
そして好ましくは、触媒後センサ出力の反転タイミングを基本方法よりも早いタイミングに設定する。より好ましくは、触媒後センサ出力の反転タイミングを、図6および図7に示した時刻t2の如き、実質的な酸素吸放出終了タイミングにできるだけ近づけるようにする。これにより、触媒の酸素吸放出が実質的に終了した後に、未処理のガス(リッチガスまたはリーンガス)が触媒から流出してしまうことを抑制できる。そしてこの未処理ガスに起因する診断誤差やエミッション悪化を抑制できる。
【0076】
図8には、触媒後センサ出力の反転タイミングを基本方法よりも早めた場合の各値の推移を示す。(A)は、正常触媒の場合における目標空燃比A/Ftと触媒前空燃比A/Ffとを示す。(B)は、異常触媒の場合における目標空燃比A/Ftと触媒前空燃比A/Ffとを示す。
【0077】
(C)は、正常触媒の場合と異常触媒の場合における触媒後センサ出力Vrを示す。(D)は、上流触媒11から排出される排気ガスのNOx濃度を示す。図中の各値について、正常触媒の場合には添字「n」が付され、異常触媒の場合には添字「a」が付されている。
【0078】
図示するように、時刻t1で、空燃比制御はリッチ制御からリーン制御に切り替えられている。その後、正常触媒の場合だと、空燃比制御は時刻t2nでリッチ制御に切り替えられ、時刻t3nでリーン制御に切り替えられている。異常触媒の場合では、空燃比制御が時刻t2aでリッチ制御に切り替えられ、時刻t3aでリーン制御に切り替えられ、時刻t4aでリッチ制御に切り替えられている。このように本実施形態においてもアクティブ空燃比制御は依然として実行される。
【0079】
これら切替タイミングを規定する触媒後センサ出力Vrの閾値は、二種類の閾値からなり、リーン制御からリッチ制御への切替タイミングを規定するリーン閾値VLXと、リッチ制御からリーン制御への切替タイミングを規定するリッチ閾値VRXとからなる。
【0080】
図9に示すが、リーン閾値VLXは、リーン判定値VLよりもリッチ側の値とされ、リッチ閾値VRXは、リッチ判定値VRよりもリーン側の値とされている。特に図8および図9に示す例では、リーン閾値VLXとリッチ閾値VRXとが互いに等しい値とされており、とりわけ、図5に示すストイキ相当値Vst(例えば0.5(V))に等しい値とされている。
【0081】
これによると、触媒後センサ出力Vrの反転タイミングおよび空燃比制御の切替タイミングが、上述の基本方法(図3,図4)よりも早くなる。よって、触媒の実質的な酸素吸放出終了後に触媒から流出する未処理ガスの影響をできるだけ排除し、診断誤差を縮小することができる。
【0082】
また、図8で着目すべきは、触媒後センサ出力Vrが閾値VLX,VRXに達した後の触媒後センサ出力Vrの挙動である。例えばリーン制御への切り替え(t1)の後、異常触媒の場合には、正常触媒の場合よりも、触媒後センサ出力Vrが急速にリッチ側に上昇し、その最大ピーク(リッチピーク)の値も大きい。
【0083】
逆にリッチ制御への切り替え(t2n,t2a)の後だと、異常触媒の場合には、正常触媒の場合よりも、触媒後センサ出力Vrが急速にリーン側に低下し、その最小ピーク(リーンピーク)の値も小さい。
【0084】
このように、触媒が異常傾向にあるほど、切替後の触媒後センサ出力Vrはより急速に、大きく変化する。従って、このような触媒後センサ出力Vrの挙動の違いを利用することで、触媒の異常度合いを好適に、しかも高精度で推定可能である。
【0085】
なお、正常触媒の場合、触媒後センサ出力Vrがリッチ閾値VRXに達して(t1)リーン制御に切り替えられた後、触媒前空燃比A/Ffが時刻t11nでストイキに到達する。このストイキ到達時点t11nでの触媒後センサ出力をVr(t11n)で表す。同様に、異常触媒の場合、ストイキ到達時点t11aでの触媒後センサ出力はVr(t11a)である。異常触媒の場合の方が正常触媒の場合よりも触媒後センサ出力Vrが急速に大きく変化する傾向にあるので、Vr(t11a)はVr(t11n)よりも大きいリッチ側の値となっている。
【0086】
同様に、正常触媒の場合、触媒後センサ出力Vrがリーン閾値VLXに達して(t2n)リッチ制御に切り替えられた後、触媒前空燃比A/Ffが時刻t21nでストイキに到達する。このストイキ到達時点t21nでの触媒後センサ出力はVr(t21n)である。他方、異常触媒の場合だと、ストイキ到達時点t21aでの触媒後センサ出力はVr(t21a)である。Vr(t21a)はVr(t21n)よりも小さいリーン側の値となっている。
【0087】
図8(D)に示すNOx濃度Cn,Caは、リーン制御(t1〜t2n若しくはt1〜t2a)の終了直後に触媒から排出されるNOxの濃度である。このNOx濃度Cn,Caは、リーン制御終了直後の触媒後センサ出力Vrの挙動と相関関係がある。すなわち、触媒が異常傾向にあり、触媒後センサ出力Vrが急速に大きく変化するほど、NOx濃度は急速に大きく増大し、エミッションは悪化する傾向にある。
【0088】
もっとも、触媒後センサ出力Vrの反転タイミングが基本方法より早められているので、エミッションの悪化度合いは基本方法よりは少ない。
【0089】
図9は、基本方法との違いを分かり易くするため、図3および図4を本実施形態に即するよう修正した図である。リーン閾値VLXとリッチ閾値VRXとはストイキ相当値Vstに等しくされている。
【0090】
例えばリッチ制御期間中(本実施形態ではt1〜t2)、基本方法では触媒後センサ出力Vrが、ストイキ相当値Vstよりも大きなリッチ判定値VRまで上昇しなければ、切り替えが行われなかった。これに対し本実施形態だと、触媒後センサ出力Vrが、リッチ判定値VRよりリーン側のリッチ閾値VRXに上昇すれば切り替えが行われ、より早いタイミングで切り替えが行われる。
【0091】
リッチ閾値VRXは、リッチ判定値VRより小さく且つストイキ相当値Vstよりも若干大きな(リッチ側の)値にすることもできるし、ストイキ相当値Vstよりも小さな(リーン側の)値にすることもできる。リーン判定値VL(例えば0.2V)よりも小さな値VRX’にしたり、リーン判定値VLと等しい値VRX”にしたり、リーン判定値VLとストイキ相当値Vstの間の値VRX”’にしたりすることも可能である。
【0092】
他方、リーン制御期間中(本実施形態ではt2〜t3)、基本方法では触媒後センサ出力Vrが、ストイキ相当値Vstよりも小さなリーン判定値VLまで低下しなければ、切り替えは行われなかった。これに対し本実施形態だと、触媒後センサ出力Vrが、リーン判定値VLよりリッチ側のリーン閾値VLXに低下すれば切り替えが行われ、より早いタイミングで切り替えが行われる。
【0093】
リーン閾値VLXは、リーン判定値VLより大きく且つストイキ相当値Vstよりも若干小さな(リーン側の)値にすることもできるし、ストイキ相当値Vstよりも大きな(リッチ側の)値にすることもできる。リッチ判定値VR(例えば0.6V)よりも大きな値VLX’にしたり、リッチ判定値VRと等しい値VLX”にしたり、リッチ判定値VRとストイキ相当値Vstの間の値VLX”’にしたりすることも可能である。
【0094】
なお、本実施形態では、図示されるような放出酸素量OSCbおよび吸蔵酸素量OSCaは計測されない。或いは、計測されたとしてもそれらの値は診断の基礎とされない。これらを計測しないこととすれば、ECU20の演算負荷を大幅に軽減することができる。
【0095】
次に、本実施形態の異常診断の方法を、図10を用いてより具体的に説明する。図10(A)は目標空燃比A/Ftと触媒前空燃比A/Ffとを示す。図10(B)は触媒後センサ出力Vrを示す。
【0096】
時刻t1,t2,t3,t4において、それぞれ、触媒後センサ出力Vrがリッチ閾値VRXまたはリーン閾値VLXに達し、リッチ制御とリーン制御とが切り替えられている。
【0097】
本実施形態では、リッチ閾値VRXとリーン閾値VLXが一定値に固定されておらず、可変である。またこれらは等しい値となることもあるが、概ね異なる値とされる。但し前述したように、リッチ閾値VRXはリッチ判定値VRよりリーン側であり、リーン閾値VLXはリーン判定値VLよりリッチ側である。
【0098】
また、所定の参照値として、ストイキ相当値Vst(例えば0.5(V))よりリッチ側のリッチ参照値VRYと、ストイキ相当値Vstよりリーン側のリーン参照値VLYとが予め一定値として設定されている。図示例ではリッチ参照値VRYがリッチ判定値VR(例えば0.6V)と等しく設定され、リーン参照値VLYがリーン判定値VL(例えば0.2V)と等しく設定されている。但し、リッチ参照値VRYはリッチ判定値VRと若干異なっても良いし、リーン参照値VLYはリーン判定値VLと若干異なっても良い。
【0099】
前述したように、触媒の異常度合いが大きくなるほど触媒後センサ出力Vrは急速に大きく変化し、その振れ幅は大きくなる傾向にある。新品触媒から使用を開始し、未だ触媒の異常度合いが小さいときには、触媒後センサ出力Vrがリッチ参照値VRYおよびリーン参照値VLYに到達せず、触媒後センサ出力Vrはリッチ参照値VRYおよびリーン参照値VLYの間で振動する。
【0100】
そして触媒の異常度合いが増していくと、触媒後センサ出力Vrは、リッチ参照値VRYおよびリーン参照値VLYに到達し、且つそれを超えるほど大きく振動するようになる。これを示したのが図10である。
【0101】
触媒後センサ出力Vrがリッチ閾値VRXに達し(t1)、リーン制御に切り替えられた後、触媒前空燃比A/Ffが時刻t11でストイキに到達する。このストイキ到達時点での触媒後センサ出力Vrを「リッチストイキ出力A」と称する。図示されるように、リッチストイキ出力Aはリッチ参照値VRYを超えており、それより大きくリッチ側となっている。リッチストイキ出力Aとリッチ参照値VRYとの間には差(「リッチストイキ出力差」と称す)ΔAが存在する。
【0102】
本実施形態では、このリッチストイキ出力差ΔAがなくなるよう、リッチストイキ出力差ΔAに基づいて補正値を算出し、この補正値に基づいてリッチ閾値VRXをフィードバック補正する。より詳細には、リッチ閾値VRXをリーン側に移動するような補正値を算出し、この補正値に基づいてリッチ閾値VRXをフィードバック補正する。
【0103】
リッチ閾値VRXをリーン側に移動ないし補正すると、リッチ制御からリーン制御への切り替えタイミングが早められ、触媒の実質的な酸素放出終了後に漏れ出してくる未処理のリッチガスの影響が減じられ、触媒後センサ出力Vrの振れ幅は小さくなる。よってリッチ閾値VRXをリーン側に所定量移動ないし補正することにより、リッチストイキ出力差ΔAをなくし、リッチストイキ出力Aをリッチ参照値VRYに合致させることができる。
【0104】
このような補正を実行した場合、触媒の異常度合いが増していくにつれ、リッチ閾値VRXの移動量ないし補正量が大きくなる。よってこの移動量ないし補正量は触媒の異常度合いを好適に表す。移動量ないし補正量を所定の異常判定値と比較することによって、触媒が正常か異常かを好適に判定することができる。
【0105】
図示例では、時刻t11で得られたリッチストイキ出力差ΔAに基づき、リッチ閾値がVRXからVRX’へとリーン側に補正されている。この結果、リッチ閾値VRX’到達後のストイキ到達時点t31では、リッチストイキ出力A’とリッチ参照値VRYとの差がΔA’へと減少され、当該差がなくなる方向とされている。
【0106】
他方、触媒後センサ出力Vrがリーン閾値VLXに達し(t2)、リッチ制御に切り替えられた後、触媒前空燃比A/Ffが時刻t21でストイキに到達する。このストイキ到達時点での触媒後センサ出力Vrを「リーンストイキ出力B」と称する。図示されるように、リーンストイキ出力Bはリーン参照値VLYを超えており、それより小さくリーン側となっている。リーンストイキ出力Bとリーン参照値VLYとの間には差(「リーンストイキ出力差」と称す)ΔBが存在する。
【0107】
本実施形態では、このリーンストイキ出力差ΔBがなくなるよう、リーンストイキ出力差ΔBに基づいて補正値を算出し、この補正値に基づいてリーン閾値VLXをフィードバック補正する。より詳細には、リーン閾値VLXをリッチ側に移動するような補正値を算出し、この補正値に基づいてリーン閾値VLXをフィードバック補正する。
【0108】
リーン閾値VLXをリッチ側に移動ないし補正すると、リーン制御からリッチ制御への切り替えタイミングが早められ、触媒の実質的な酸素吸蔵終了後に漏れ出してくる未処理のリーンガスの影響が減じられ、触媒後センサ出力Vrの振れ幅は小さくなる。よってリーン閾値VLXをリッチ側に所定量移動ないし補正することにより、リーンストイキ出力差ΔBをなくし、リーンストイキ出力Bをリーン参照値VLYに合致させることができる。
【0109】
このような補正を実行した場合、触媒の異常度合いが増していくにつれ、リーン閾値VLXの移動量ないし補正量が大きくなる。よってこの移動量ないし補正量は触媒の異常度合いを好適に表し、移動量ないし補正量を所定の異常判定値と比較することによって、触媒が正常か異常かを好適に判定することができる。
【0110】
図示例では、時刻t21で得られたリーンストイキ出力差ΔBに基づき、リーン閾値がVLXからVLX’へとリッチ側に補正されている。この結果、リーンストイキ出力差ΔBはなくなる方向に減少されることとなる。
[本実施形態の異常診断処理]
次に、ECU20が実行する本実施形態の異常診断処理について説明する。まず図11を用いて、異常判定値との比較対象である判定パラメータの算出ルーチンを説明する。このルーチンはECU20により所定の演算周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0111】
最初のステップS101では、診断許可フラグがオンとなったか否かが判断される。診断許可フラグとは、診断の前提条件が成立したときにオンとなるフラグである。ここでいう前提条件には、(1)吸入空気量Gaと触媒温度Tcとが所定の関係を満たしている、という条件が含まれる。吸入空気量Gaはエアフローメータ5で検出される。触媒温度Tcは、エンジン運転状態に基づきECU20により推定されるが、温度センサで直接検出してもよい。
【0112】
エンジンが定常運転している場合、即ちエンジンの回転速度と負荷がほぼ一定の場合、吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの間には一定の相関関係が存在する。他方、両者が大きくかけ離れているときは、エンジンが定常運転状態になく、加速又は減速即ち過渡運転が行われている状態とみなせる。
【0113】
そこで定常運転時の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの関係を予めマップ化し、マップ値を中心とした所定範囲内に両者の実際値があるときに、定常運転中であるとして診断を許可する。逆に、その所定範囲内に両者の実際値がないときは、非定常運転中であるとして診断を禁止する。こうすることで一定以上の診断精度を確保可能となる。このように条件(1)は、実質的に、エンジンが定常運転中であるという条件を意味する。
【0114】
また前提条件には、(2)少なくとも上流触媒11が活性化している、(3)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している、(4)現トリップ中で診断が未完了である、の各条件が含まれる。
【0115】
(2)については、推定触媒温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(3)については、ECU20によって推定される触媒前センサ17および触媒後センサ18の素子温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(4)について、トリップとは、エンジンの1回の始動から停止までの期間をいう。本実施形態では1トリップ当たりに1回、診断を実行するようにしており、現トリップ中で未だ診断が1回も完了していない場合に(4)が成立する。
【0116】
診断許可フラグがオンとなってない場合(オフの場合)、ルーチンが終了される。他方、診断許可フラグがオンとなった場合には、ステップS102において、初回の目標空燃比A/Ftの設定履歴があるか否かが判断される。
【0117】
ノーの場合、まずステップS103において、リッチ閾値とリーン閾値の初期値VRX0,VLX0が設定される。この設定は、リッチ閾値の初期値VRX0については図12に示すようなマップにより、リーン閾値の初期値VLX0については図13に示すようなマップにより、それぞれ吸入空気量Gaと触媒温度Tcとに基づいて個別に行われる。
【0118】
これら初期値VRX0,VLX0は、大凡ストイキ相当値Vstの近傍にて、吸入空気量Gaおよび触媒温度Tcに応じて変化する。吸入空気量Gaおよび触媒温度Tcに応じて触媒の酸素吸放出能および反応速度が変化することから、これらの値を考慮して初期値VRX0,VLX0を設定するようにしている。
【0119】
図12から分かるように、吸入空気量Gaが多くなるほどリッチ閾値の初期値VRX0は小さくなり、空燃比制御の切替タイミングは早まる。また触媒温度Tcが高くなるほどリッチ閾値の初期値VRX0は大きくなり、空燃比制御の切替タイミングは遅くなる。
【0120】
他方、図13から分かるように、吸入空気量Gaが多くなるほどリーン閾値の初期値VLX0は大きくなり、空燃比制御の切替タイミングは早まる。また触媒温度Tcが高くなるほどリーン閾値の初期値VLX0は小さくなり、空燃比制御の切替タイミングは遅くなる。
【0121】
なお、初期値VRX0,VLX0は、ストイキ相当値Vstまたはその近傍の一定値としても良いし、互いに等しい値としても良い。
【0122】
次いで、ステップS104では、初回の目標空燃比A/Ftが設定される。現時点(アクティブ空燃比制御開始直前)の触媒後センサ出力Vrがストイキ相当値Vst以上(リッチ側)であれば、初回の目標空燃比A/Ftはリーンに設定され、アクティブ空燃比制御はリーン制御から開始される。逆に、現時点の触媒後センサ出力Vrがストイキ相当値Vst未満(リーン側)であれば、初回の目標空燃比A/Ftはリッチに設定され、アクティブ空燃比制御はリッチ制御から開始される。
【0123】
こうして初回の目標空燃比A/Ftが設定されると、直ちにアクティブ空燃比制御が開始される。それ以降、前述したように、触媒後センサ出力Vrがリッチ閾値VRXまたはリーン閾値VLXに達する毎に、リッチ制御およびリーン制御が切り替えられることとなる。ステップS104を終えたらステップS105に進む。
【0124】
他方、ステップS102の判断結果がイエスの場合、ステップS103、S104をスキップしてステップS105に進む。
【0125】
ステップS105では、目標空燃比A/Ftの切り替え履歴があるか否かが判断される。なければ終了され、ある場合にはステップS106に進む。すなわちここでは、目標空燃比A/Ftの2回目の切替時から実質的な判定パラメータ算出処理を開始するようにしている。
【0126】
ステップS106では、目標空燃比A/Ftがリーンか否か、すなわちリーン制御実行中であるか否かが判断される。目標空燃比A/Ftがリーンの場合、ステップS107に進み、目標空燃比A/Ftがリーンでない(リッチである)場合、ステップS115に進む。
【0127】
ステップS107では、触媒前センサ17により検出された触媒前空燃比A/Ffがストイキ以上になったか否かが判断される。ノーの場合には終了され、イエスの場合にはステップS108に進む。
【0128】
ステップS108では、触媒前空燃比A/Ffが最初にストイキ以上になった時点(すなわち触媒前空燃比A/Ffがストイキに達した時点)における触媒後センサ出力(リッチストイキ出力)Aが取得済みであるか否かが判断される。
取得済みでない場合、ステップS109において、リッチストイキ出力Aが取得され、ステップS110に進む。他方、取得済みである場合、ステップS109をスキップしてステップS110に進む。
【0129】
ステップS110では、リッチストイキ出力Aがリッチ参照値VRYより大きいか否かが判断される。
イエスの場合、ステップS111において、リッチストイキ出力差ΔAがΔA=A−VRYにより算出される。
【0130】
次にステップS112において、リッチストイキ出力差ΔAに基づき、補正値(リッチストイキ補正値)JAが算出される。このリッチストイキ補正値JAは、図14に示すようなマップから算出される。特にここでは、リッチストイキ出力差ΔAに加え、リッチ閾値VRXにも基づいて、リッチストイキ補正値JAを算出するようにしている。リッチストイキ出力差ΔAの大きさはリッチ閾値VRXの値の影響も受ける。つまりリッチ閾値VRXが如何なる値であるかによってリッチストイキ出力差ΔAの大きさが異なる。よってリッチ閾値VRXの値の影響も加味するため、リッチ閾値VRXにも基づいてリッチストイキ補正値JAを算出している。
【0131】
リッチストイキ出力差ΔAがプラス方向に大きいほど、リッチストイキ補正値JAも大きくなる(但しJA>0)。またリッチ閾値VRXが大きいほど、リッチストイキ補正値JAも大きくなる。
【0132】
次に、ステップS113で、リッチ閾値VRXが補正される。補正後のリッチ閾値VRX’はVRX’=VRX−JAにより算出される。これによりリッチ閾値VRXはリーン側に補正されることとなる。リッチストイキ補正値JAが大きいほど、リッチ閾値VRXはより大きくリーン側に補正され、空燃比制御の切替タイミングは早められる。この後ルーチンが終了される。
【0133】
ステップS110の判断結果がノーの場合、ステップS114に進み、判定パラメータ(リッチストイキ判定パラメータ)ZAがZA=|VRX−VRX0|により算出される。この後ルーチンが終了される。なおリッチストイキ判定パラメータZAの初期値は0である。
【0134】
他方、ステップS106で目標空燃比A/Ftがリッチの場合、リッチとリーン等の関係が逆転すること以外、ステップS115以降で同様の処理が行われる。
【0135】
ステップS115では、触媒前センサ17により検出された触媒前空燃比A/Ffがストイキ以下になったか否かが判断される。ノーの場合には終了され、イエスの場合にはステップS116に進む。
【0136】
ステップS116では、触媒前空燃比A/Ffが最初にストイキ以下になった時点(すなわち触媒前空燃比A/Ffがストイキに達した時点)における触媒後センサ出力(リーンストイキ出力)Bが取得済みであるか否かが判断される。
取得済みでない場合、ステップS117において、リーンストイキ出力Bが取得され、ステップS118に進む。他方、取得済みである場合、ステップS117をスキップしてステップS118に進む。
【0137】
ステップS118では、リーンストイキ出力Bがリーン参照値VLYより小さいか否かが判断される。
イエスの場合、ステップS119において、リーンストイキ出力差ΔBがΔB=B−VLYにより算出される。
【0138】
次にステップS120において、リーンストイキ出力差ΔBに基づき、補正値(リーンストイキ補正値)JBが算出される。このリーンストイキ補正値JBは、図15に示すようなマップから算出される。ここでも、リーンストイキ出力差ΔBに加え、リーン閾値VLXにも基づいて、リーンストイキ補正値JBを算出するようにしている。リーンストイキ出力差ΔBの大きさがリーン閾値VLXの値の影響も受けるからである。
【0139】
リーンストイキ出力差ΔBがマイナス方向に大きいほど、リーンストイキ補正値JBが大きくなる(但しJB>0)。またリーン閾値VLXが大きいほど、リーンストイキ補正値JBは小さくなる。
【0140】
次に、ステップS121で、リーン閾値VLXが補正される。補正後のリーン閾値VLX’はVLX’=VLX+JBにより算出される。これによりリーン閾値VLXはリッチ側に補正されることとなる。リーンストイキ補正値JBが大きいほど、リーン閾値VLXはより大きくリッチ側に補正され、空燃比制御の切替タイミングは早められる。この後ルーチンが終了される。
【0141】
ステップS118の判断結果がノーの場合、ステップS122に進み、判定パラメータ(リーンストイキ判定パラメータ)ZBがZB=|VLX−VLX0|により算出される。この後ルーチンが終了される。リーンストイキ判定パラメータZBの初期値も0である。
【0142】
次に、図16を用いて、触媒の正異常判定のためのルーチンを説明する。このルーチンもECU20により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。ここで説明するのは、リッチストイキ判定パラメータZAを用いて正異常判定する方法である。
【0143】
ステップS201では、診断完了フラグがオンか否かが判断される。イエスの場合には終了され、ノーの場合(オフの場合)にはステップS202に進む。
【0144】
ステップS202では、リッチストイキ判定パラメータZAが算出済みであるか否かが判断される。ノーの場合には終了され、イエスの場合にはステップS203に進む。
【0145】
ステップS203では、リッチストイキ判定パラメータZAが所定の異常判定値(リッチストイキ異常判定値)βA(但しβA>0)と比較される。ZA≧βAのときにはステップS204で触媒は異常と判定され、ZA<βAのときにはステップS205で触媒は正常と判定される。
【0146】
そして、ステップS206で診断完了フラグがオンされ、診断許可フラグがオフされ、ルーチンが終了される。
【0147】
図17には、触媒の正異常判定のための別のルーチンを示す。このルーチンは、リッチストイキ判定パラメータZAの代わりにリーンストイキ判定パラメータZBを用いること以外、前記ルーチンとほぼ同様である。ステップS301、S304〜S306は前記ステップS201、S204〜206と同様である。
【0148】
ステップS302では、リーンストイキ判定パラメータZBが算出済みであるか否かが判断される。ノーの場合には終了され、イエスの場合にはステップS303に進む。
【0149】
ステップS303では、リーンストイキ判定パラメータZBが所定の異常判定値(リーンストイキ異常判定値)βB(但しβB>0)と比較される。ZB≧βBのときにはステップS304で触媒は異常と判定され、ZB<βBのときにはステップS305で触媒は正常と判定される。
【0150】
ここで、図11のルーチンを実行した場合について説明する。例えば、2回目の目標空燃比A/Ftの切替時に目標空燃比A/Ftがリーンに切り替えられたとすると(ステップS106:イエス)、触媒前空燃比A/Ffがストイキに到達した時点でリッチストイキ出力Aが取得され(ステップS107,S108,S109)、このリッチストイキ出力Aがリッチ参照値VRYと比較される(ステップS110)。
【0151】
触媒の劣化度合いないし異常度合いがまだ小さいときには、リッチストイキ出力Aがリッチ参照値VRYに届かず(A<VRY)、ステップS114に進んでリッチストイキ判定パラメータZAが初期値のゼロとなる。従って図16のステップS203でもZA<βAとなり、触媒は正常と判定される。
【0152】
ところで、触媒の異常度合いが大きくなると、やがてリッチストイキ出力Aがリッチ参照値VRYを超えるようになる(A>VRY)。こうなると、ステップS110はイエスとなり、ステップS111〜S113によりリッチ閾値VRXがリーン側に補正される。
【0153】
1回補正した後でもまだリッチストイキ出力Aがリッチ参照値VRYより大きい場合、すなわちリッチストイキ出力差ΔAがなくならない(0以下にならない)場合、再度、ステップS111〜S113によりリッチ閾値VRXがリーン側に補正される。こうして必要に応じて、リッチストイキ出力差ΔAがなくなるまで、補正が繰り返し行われ、リッチ閾値VRXは徐々にリーン側に更新されていく。
【0154】
そしてリッチストイキ出力差ΔAがなくなったとき、ステップS110からステップS114に進んで、そのときのリッチストイキ判定パラメータZA、すなわち補正後の最終的なリッチ閾値VRXとその初期値VRX0との差が求められる。
【0155】
触媒の異常度合いがそれ程大きくなければ、リッチストイキ判定パラメータZAの値もそれ程大きくならない。よって、図16のステップS203でZA<βAとなり、触媒は正常と判定される。
【0156】
しかしながら、触媒の異常度合いが大きいと、リッチストイキ判定パラメータZAの値も大きくなる。よって、図16のステップS203でZA≧βAとなり、触媒は異常と判定される。
【0157】
リッチとリーンの関係が逆の場合、すなわち、2回目の目標空燃比A/Ftの切替時に目標空燃比A/Ftがリッチに切り替えられた場合(ステップS106:ノー)についても説明する。触媒前空燃比A/Ffがストイキに到達した時点でリーンストイキ出力Bが取得され(ステップS115,S116,S117)、このリーンストイキ出力Bがリーン参照値VLYと比較される(ステップS118)。
【0158】
触媒の劣化度合いないし異常度合いがまだ小さいときには、リーンストイキ出力Bがリーン参照値VLYに届かず(B>VLY)、ステップS122に進んでリーンストイキ判定パラメータZBが初期値のゼロとなる。従って図17のステップS303でもZB<βBとなり、触媒は正常と判定される。
【0159】
触媒の異常度合いが大きくなると、やがてリーンストイキ出力Bがリーン参照値VLYを超えるようになる(B<VLY)。こうなると、ステップS118はイエスとなり、ステップS119〜S121によりリーン閾値VLXがリッチ側に補正される。
【0160】
1回補正した後でもまだリーンストイキ出力Bがリーン参照値VLYより小さい場合、すなわちリーンストイキ出力差ΔBがなくならない(0以下にならない)場合、再度、ステップS119〜S121によりリーン閾値VLXがリッチ側に補正される。こうして必要に応じて、リーンストイキ出力差ΔBがなくなるまで、補正が繰り返し行われ、リーン閾値VLXは徐々にリッチ側に更新されていく。
【0161】
そしてリーンストイキ出力差ΔBがなくなったとき、ステップS118からステップS122に進んで、そのときのリーンストイキ判定パラメータZB、すなわち補正後の最終的なリーン閾値VLXとその初期値VLX0との差が求められる。
【0162】
触媒の異常度合いがそれ程大きくなければ、リーンストイキ判定パラメータZBの値もそれ程大きくならない。よって、図17のステップS303でZB<βBとなり、触媒は正常と判定される。
【0163】
しかしながら、触媒の異常度合いが大きいと、リーンストイキ判定パラメータZBの値も大きくなる。よって、図17のステップS303でZB≧βBとなり、触媒は異常と判定される。
【0164】
なお、ここではリッチストイキ判定パラメータZAおよびリーンストイキ判定パラメータZBの一方に基づいて正異常判定を行う例を示した。しかしながら、これに限定されず、両方に基づいて正異常判定を行ってもよい。例えばZA≧βAとZB≧βBとのいずれか一方が成立したときに異常と判定し、或いは、ZA≧βAとZB≧βBとの両方が成立したときに異常と判定してもよい。
【0165】
リッチストイキ判定パラメータZAは、リッチ閾値VRXが初期値VRX0から最終的な補正後のリッチ閾値VRXに達するまでの間に算出されたリッチストイキ補正値JAの積算値からなってもよい。同様に、リーンストイキ判定パラメータZBは、リーン閾値VLXが初期値VLX0から最終的な補正後のリーン閾値VLXに達するまでの間に算出されたリーンストイキ補正値JBの積算値からなってもよい。これら積算値は、実質的に、リッチ閾値VRXまたはリーン閾値VLXの初期値と最終的な補正後の値との差を表すものである。
【0166】
図11のルーチンに関し、リッチストイキ判定パラメータZAおよびリーンストイキ判定パラメータZBの少なくとも一方が算出された時点で、アクティブ空燃比制御を終了しても良い。そしてその算出された一方に基づいて正異常判定しても良い。
【0167】
リッチストイキ判定パラメータZAは、リッチストイキ出力差ΔAがなくなったときのリッチ閾値VRX自身からなってもよい。そしてリーン側に補正された結果としてのリッチ閾値VRXが、所定の異常判定値よりリーン側の値であるときに触媒を異常と判定しても良い。同様に、リーンストイキ判定パラメータZBは、リーンストイキ出力差ΔBがなくなったときのリーン閾値VLX自身からなってもよい。そしてリッチ側に補正された結果としてのリーン閾値VLXが、所定の異常判定値よりリッチ側の値であるときに触媒を異常と判定しても良い。
【0168】
以上で説明したように、本実施形態によれば、吸放出酸素量を計測せず或いは考慮せず、触媒後センサ出力が閾値に達した後の触媒後センサ出力の挙動に基づき、触媒が正常か異常かを判定する。よって実際に吸放出されてない酸素量を計測してしまうことによる計測誤差をなくし、診断精度を向上すると共に誤診断を抑制することができる。
【0169】
また、空燃比制御の切替タイミングを基本方法よりも早められるので、このことによってもさらに診断精度を向上し、誤診断を抑制することができる。
【0170】
こうして診断精度が向上した結果、微妙な異常度合いの差も判別できるようになり、その差が元々小さい触媒の場合でも、十分な診断精度を確保することが可能となる。
【0171】
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば内燃機関の用途や形式等は任意であり、自動車用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。上記の説明ではリーン側とリッチ側若しくは吸蔵側と放出側の一方のみしか説明していない箇所があるが、この一方に対する説明によって他方も理解されることが当業者にとって明らかであろう。前記実施形態では触媒前センサ17により触媒前空燃比を直接検出したが、ECU20により触媒前空燃比をエンジン運転状態に基づいて推定してもよい。いずれにしても、少なくともECU20が、触媒前空燃比を取得する取得手段を構成する。
【0172】
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0173】
1 内燃機関
6 排気管
11 上流触媒
12 インジェクタ
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
20 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置であって、
触媒上流側の排気空燃比である触媒前空燃比を取得する取得手段と、
触媒下流側の排気空燃比を検出する触媒後センサと、
触媒上流側の空燃比をストイキを境にリーンおよびリッチに交互に制御するアクティブ空燃比制御手段と、
触媒後センサ出力が所定の閾値に達し、これと同時にリーン制御とリッチ制御とが切り替えられた後に、前記取得手段により取得された触媒前空燃比がストイキに到達した時点で前記触媒後センサ出力が所定の参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と前記参照値との差がなくなるよう、前記差に基づき前記閾値をフィードバック補正する補正手段と、
前記差がなくなったときの前記閾値に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする触媒異常診断装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記差がなくなったときの前記閾値と、前記閾値の初期値との差に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒異常診断装置。
【請求項3】
前記閾値は、前記リーン制御から前記リッチ制御への切替タイミングを規定するリーン閾値と、前記リッチ制御から前記リーン制御への切替タイミングを規定するリッチ閾値とからなり、
前記リーン閾値は、前記触媒後センサ出力のストイキ相当値よりもリーン側に定められた基準のリーン判定値よりもリッチ側の値であり、
前記リッチ閾値は、前記ストイキ相当値よりもリッチ側に定められた基準のリッチ判定値よりもリーン側の値である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒異常診断装置。
【請求項4】
前記参照値は、前記リーン制御から前記リッチ制御への切替後に前記触媒後センサ出力が到達可能なリーン参照値と、前記リッチ制御から前記リーン制御への切替後に前記触媒後センサ出力が到達可能なリッチ参照値とからなり、
前記リーン参照値は、前記リーン閾値よりもリーン側の値であり、
前記リッチ参照値は、前記リッチ閾値よりもリッチ側の値である
ことを特徴とする請求項3に記載の触媒異常診断装置。
【請求項5】
前記リーン参照値は、前記リーン判定値と等しい値であり、
前記リッチ参照値は、前記リッチ判定値と等しい値である
ことを特徴とする請求項4に記載の触媒異常診断装置。
【請求項6】
前記補正手段は、前記触媒後センサ出力が前記リッチ閾値に達し、これと同時に前記リッチ制御から前記リーン制御へと切り替えられた後に、前記取得手段により取得された触媒前空燃比がストイキに到達した時点で前記触媒後センサ出力が前記リッチ参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と前記リッチ参照値との差であるリッチストイキ出力差に基づき、前記リッチ閾値をリーン側に移動するよう補正する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の触媒異常診断装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記リッチストイキ出力差がなくなったときの前記リッチ閾値と、前記リッチ閾値の初期値との差に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の触媒異常診断装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記触媒後センサ出力が前記リーン閾値に達し、これと同時に前記リーン制御から前記リッチ制御へと切り替えられた後に、前記取得手段により取得された触媒前空燃比がストイキに到達した時点で前記触媒後センサ出力が前記リーン参照値を超えるよう変化しているとき、そのストイキ到達時点での触媒後センサ出力と前記リーン参照値との差であるリーンストイキ出力差に基づき、前記リーン閾値をリッチ側に移動するよう補正する
ことを特徴とする請求項4〜7の何れか一項に記載の触媒異常診断装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記リーンストイキ出力差がなくなったときの前記リーン閾値と、前記リーン閾値の初期値との差に基づいて前記触媒が正常か異常かを判定する
ことを特徴とする請求項8に記載の触媒異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−231626(P2011−231626A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99972(P2010−99972)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】