走行制御装置及び走行制御プログラム
【課題】車両の走行状況に応じて適切に走行制御を再開する。
【解決手段】目標車軸トルク生成部52は、車速維持演算部51により演算された目標加速度を実現するための目標車軸トルクとして、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた目標車軸トルクを算出する。制動調停部58は、目標車軸トルク生成部52から入力される目標車軸トルクと、ブレーキドライバモデル57により演算された運転者のブレーキ操作量に対応する要求制動車軸トルクのうち、減速量が大きい方のトルクを選択して制動要求トルク実現部59へ出力する。また、要求制動車軸トルクが目標車軸トルクを上回っている(減速量が大きい)状態では、ブレーキオーバライド信号をFBトルク演算部62へ出力する。制動要求トルク実現部59は、制動調停部58から入力した車軸トルクを実現するための制御信号をブレーキECU40へ出力する。
【解決手段】目標車軸トルク生成部52は、車速維持演算部51により演算された目標加速度を実現するための目標車軸トルクとして、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた目標車軸トルクを算出する。制動調停部58は、目標車軸トルク生成部52から入力される目標車軸トルクと、ブレーキドライバモデル57により演算された運転者のブレーキ操作量に対応する要求制動車軸トルクのうち、減速量が大きい方のトルクを選択して制動要求トルク実現部59へ出力する。また、要求制動車軸トルクが目標車軸トルクを上回っている(減速量が大きい)状態では、ブレーキオーバライド信号をFBトルク演算部62へ出力する。制動要求トルク実現部59は、制動調停部58から入力した車軸トルクを実現するための制御信号をブレーキECU40へ出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行状態を目標走行状態に制御する走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行状態を目標走行状態に制御する走行制御を行う走行制御装置が知られている。走行制御としては、例えば、車両の速度を設定速度に維持する定速走行制御(クルーズコントロール)や、車両の速度を車間情報によって適切な速度へ自動的に調整する制御(ACC:アダプティブ・クルーズ・コントロール)などが知られている。
【0003】
こうした走行制御装置では、走行制御中に運転者によるブレーキ操作が介入した場合には走行制御を解除することが一般的であるが、ブレーキ操作の終了後に走行制御を再開するように構成することも可能である。
【0004】
例えば特許文献1には、先行車との車間距離に基づいて減速制御を行う走行制御装置であって、運転者によるブレーキ操作の終了を検出した直後は減速制御による減速を行わない構成が開示されている。
【特許文献1】特開2005−255146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、ブレーキ操作の終了後に走行制御を再開する場合、車両の走行状況によっては再開時の走行制御が運転者に違和感を与えてしまうことが考えられる。
【0006】
具体的には、例えば上り坂などのように走行抵抗の大きい状況で走行制御(減速制御)が再開された場合には、減速量が過剰となって目標速度を下回りやすく、その状態から目標速度に到達しようと制御することにより車速のハンチング(振動)が生じやすくなる。逆に、例えば下り坂などのように走行抵抗の小さい状況で走行制御(減速制御)が再開された場合には、減速度が不足することにより目標速度へ到達するまでに時間がかかる。
【0007】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、車両の走行状況に応じて適切に走行制御を再開することのできる走行制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の請求項1に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段が、車両の走行状態を目標走行状態に制御するための制御用制駆動力を演算し、走行制御手段が、制駆動力演算手段により演算された制御用制駆動力で車両を走行させる走行制御を行う。
【0009】
具体的には、制駆動力演算手段は、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた制駆動力を制御用制駆動力として演算する。また、走行制御手段は、走行制御中に運転者によるブレーキ操作が行われてそのブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が制御用制駆動力に基づく制御要求減速量を上回ったと判定した時点で走行制御を中断し、ドライバ要求減速量が制御要求減速量又はブレーキ操作が解除されたことの判定基準となる解除判定減速量を下回ったと判定した時点で走行制御を再開する。なお、ここでいう「減速量」とは、減速の度合いを表す量(大きいほど強い減速を表す量)であり、例えばブレーキ油圧やトルク等が挙げられる。
【0010】
本発明の走行制御装置では、制御用制駆動力が走行抵抗に応じて変化することから、減速が要求される状況では、制御要求減速量も走行抵抗に応じて変化することとなり、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を下回ったと判定されるタイミングも、走行抵抗に応じて変化することになる。このため、走行制御を中断している間に走行抵抗が変化したとしても、走行抵抗に応じた適切なタイミングで走行制御が再開されることとなり、しかも、その際の制御用制駆動力は、走行抵抗に応じた適切なものとなる。
【0011】
したがって、本発明の走行制御装置によれば、車両の走行状況に応じて適切に走行制御を再開することができる。具体的には、再開時の走行制御が滑らかに行われることとなり、運転者に違和感を与えにくくすることができる。
【0012】
なお、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を上回った又は下回ったとの判定は、ドライバ要求減速量を制御要求減速量と直接比較して行うことに限定されるものではない。例えば、制御要求減速量を基準としてしきい値を設定し、ドライバ要求減速量をそのしきい値と比較することにより、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を上回った又は下回ったとの判定を行うようにしてもよい。このようにすることで、走行制御の中断及び再開のハンチングを防止することが可能となるからである。
【0013】
ここで、走行抵抗としては、例えば、空気抵抗、ころがり抵抗、加速抵抗、勾配抵抗等が挙げられるが、その中でも勾配抵抗は、走行する道路に応じて大きく変化するものであり、加速制御への影響が特に大きい。そこで、請求項2に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段が、少なくとも車両が走行中の道路の勾配(勾配抵抗)を走行抵抗として検出する。なお、勾配抵抗とともに、空気抵抗、ころがり抵抗、加速抵抗等を加味するようにしてもよい。
【0014】
ところで、車両が走行する道路(車道)の勾配には、道路構造令(政令)により一定の制限が課されている。したがって、道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には、道路の勾配ではない(例えば、段差等を勾配として誤検出したもの)と判断することができる。そこで、請求項3に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には、フィードフォワード成分の演算に用いないか、若しくは、検出値に制限範囲で制限をかけた値を用いる。このようにすることで、制御用制駆動力の演算結果をより適切なものとすることができる。
【0015】
また、道路勾配を検出する場合、走行に伴う車両の振動等により検出値にノイズが含まれることが考えられる。そこで、請求項4に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値に対してノイズを除去するフィルタ処理を行う。このようにすることで、道路の勾配を精度よく検出することができる。
【0016】
ただし、ノイズを除去する効果を高めるためにフィルタ処理の時定数を大きくすると、勾配の変化に遅れが生じて変化が緩やかになってしまい、勾配の変化を正確に検出することができなくなる。そこで、勾配の変化しない部分については大きい時定数でフィルタ処理を行い、勾配の変化する部分については小さい時定数でフィルタ処理を行うようにすることが好ましい。
【0017】
具体的には、請求項5に記載のように、フィルタ処理を、道路勾配の検出値に対してある一定の時定数でフィルタ処理を行った値とフィルタ処理を行う前の値との偏差が小さいほど大きい時定数で行うとよい。つまり、偏差が小さい場合には勾配の変化がない(又は小さい)と判断して大きい時定数のフィルタ処理でノイズを効果的に除去し、偏差が大きい場合には勾配の変化が大きいと判断して小さい時定数のフィルタ処理で勾配の変化に与える影響を抑えるようにするのである。この結果、勾配の変化を抑えつつ、ノイズを効果的に除去することが可能となる。
【0018】
一方、例えば請求項6に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、フィードフォワード成分に加え、目標走行状態と実際の走行状態との差に応じたフィードバック成分が含まれた制駆動力を制御用制駆動力として演算する。そして、走行制御手段により走行制御が中断されている間は、フィードバック成分を走行制御が中断された時点での値に保持する。このような走行制御装置によれば、走行制御が中断されている間にフィードバック成分が変化する場合に比べ、走行制御を再開するタイミングを適切に判定することができる。
【0019】
さらに、例えば請求項7に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、規範モデルからの出力値と実際の加速度(「加速度」には減速側の加速度(減速度)も含まれる。他の記載も同様。)との偏差に応じたフィードバック成分を演算する。そして、規範モデルは、走行制御手段により走行制御が行われている間は目標加速度を出力し、走行制御が中断された時点で出力値を目標加速度から実際の加速度へ切り替え、走行制御が再開された時点で出力値を実際の加速度から目標加速度へ連続的に変化するように切り替える。
【0020】
このような走行制御装置によれば、走行制御が再開された時点での規範モデルからの出力値と実際の加速度との偏差が0になるため、フィードバック成分が大きくなることによる急な加速を避けることができ、緩やかで円滑な移行が可能となる。なお、目標加速度から実際の加速度への切り替えについても、連続的に変化するように行ってもよい。
【0021】
ここで、制駆動力演算手段がフィードバック成分として比例成分、積分成分及び微分成分を演算する場合、走行制御手段により走行制御が中断された後、再開された時点で、フィードバック成分を0から演算開始するためには、これらの成分をそれぞれリセットすればよい。ただし、請求項7に記載のように、走行制御が中断されている間、規範モデルが出力値を目標加速度から実際の加速度へ切り替えるものでは、偏差が0となるため、比例成分及び微分成分についてはリセットする処置を不要とすることが可能となる。
【0022】
そこで、例えば請求項8に記載のように、制駆動力演算手段が、走行制御手段により走行制御が中断された後、再開された時点での積分成分の演算値をリセットするとよい。
【0023】
このような走行制御装置によれば、走行制御手段により走行制御が中断された後、再開された時点で、フィードバック成分をリセットされた状態から演算開始することができる。
【0024】
また、例えば請求項9に記載の走行制御装置では、走行制御手段は、ドライバ要求減速量が、ブレーキ操作が行われたことの判定基準となる操作判定減速量及び制御要求減速量を上回ったと判定した時点で走行制御を中断する。
【0025】
このような走行制御装置によれば、ブレーキ操作が行われていないにもかかわらずドライバ要求減速量の0点ズレなどによりブレーキ操作が行われたと判定して走行制御を中断してしまうことを防ぐことができる。
【0026】
また、例えば請求項10に記載の走行制御装置では、走行制御手段は、ドライバ要求減速量が、制御要求減速量を基準としてその制御要求減速量よりも低く設定される減速量を下回った場合に、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を下回ったと判定する。
【0027】
このような走行制御装置によれば、走行制御の中断及び再開のハンチングを防止することができる。
【0028】
次に、請求項11に記載の走行制御プログラムによれば、請求項1に記載の走行制御装置としてコンピュータを機能させることができ、これにより前述した効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
【0030】
[1.全体構成]
図1は、実施形態の走行制御装置の概略構成を表すブロック図である。
【0031】
この走行制御装置は、車両に搭載された状態で用いられるものであり、走行制御ECU(ECU:マイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置)20を中心にして構成される。具体的には、走行制御ECU20には、ナビゲーションECU10、Gセンサ21、車輪速センサ22、走行制御スイッチ23、アクセルペダル操作量センサ24及びブレーキペダル操作量センサ25からの情報が入力される。
【0032】
ナビゲーションECU10は、地図上における車両の位置を特定し、経路案内等の処理を行うものである。このため、ナビゲーションECU10には、図示しないGPS受信機、ジャイロスコープ、距離センサ等から車両の現在位置を検出する位置検出器11と、地図情報を記憶する地図情報記憶部12からの情報が入力される。そして、ナビゲーションECU10は、車両が走行中の道路の情報として、その道路の制限速度の情報を走行制御ECU20へ出力する。
【0033】
Gセンサ21は、車両の前後方向の加速度を検出するためのものである。
【0034】
車輪速センサ22は、車両の各車輪の回転速度を検出するためのものであり、その検出値に基づき車速及び加速度が算出される。
【0035】
走行制御スイッチ23は、走行制御(例えばクルーズコントロールやACC)の開始操作及び終了操作を運転者に行わせるためのものである。
【0036】
アクセルペダル操作量センサ24及びブレーキペダル操作量センサ25は、運転者のアクセル操作及びブレーキ操作の各操作量を検出するためのものである。
【0037】
そして、走行制御ECU20は、各種入力情報に基づき、車両の速度を目標速度に制御するための車軸トルクを演算して、エンジンECU30及びブレーキECU40へ出力する。これにより、エンジンECU30及びブレーキECU40は、走行制御ECU20から入力される車軸トルクで駆動力及び制動力(制駆動力)を制御する。
【0038】
[2.処理の説明]
次に、走行制御ECU20で行われる処理の概要について説明する。
【0039】
図2は、走行制御ECU20がアプリケーションプログラムを実行することにより実現される構成を機能的に表した機能ブロック図である。
【0040】
同図に示すように、走行制御ECU20は、車速維持演算部51、目標車軸トルク生成部52、制駆動分配部53、P/Tドライバモデル54、駆動調停部55、駆動要求トルク実現部56、ブレーキドライバモデル57、制動調停部58及び制動要求トルク実現部59として機能する。
【0041】
車速維持演算部51は、運転者により設定又は走行状況に応じて算出される目標速度と、車輪速センサ22により検出される車両の速度及び加速度とに基づき、車両の速度を目標速度に制御するために必要な目標加速度を演算する。
【0042】
目標車軸トルク生成部52は、車速維持演算部51により演算された目標加速度に基づき、その目標加速度を実現するための目標車軸トルクを演算する。具体的には、目標車軸トルク生成部52は、目標速度と車両の走行に対する走行抵抗に基づくフィードフォワード演算を行うFFトルク演算部61と、目標加速度と実加速度の差分に基づくフィードバック演算を行うFBトルク演算部62とから構成されている。そして、目標車軸トルク生成部52は、FFトルク演算部61により算出されたFF分車軸トルクとFBトルク演算部62により算出されたFB分車軸トルク(補正分車軸トルク)とを加算することにより、目標車軸トルクを算出する。
【0043】
制駆動分配部53は、目標車軸トルク生成部52により算出された目標車軸トルクをエンジン側とブレーキ側とに分配する。
【0044】
P/Tドライバモデル54は、アクセルペダル操作量センサ24により検出される運転者のアクセル操作量に対応する車軸トルク(以下「要求駆動車軸トルク」という。)を演算する。
【0045】
駆動調停部55は、目標車軸トルク生成部52から入力される目標車軸トルクと、P/Tドライバモデル54により演算された要求駆動車軸トルクを調停する。具体的には、目標車軸トルク及び要求駆動車軸トルクのうち、加速度が大きい方のトルクを選択して駆動要求トルク実現部56へ出力する。
【0046】
駆動要求トルク実現部56は、駆動調停部55から入力した車軸トルクを実現するための制御信号をエンジンECU30へ出力する。
【0047】
ブレーキドライバモデル57は、ブレーキペダル操作量センサ25により検出される運転者のブレーキ操作量に対応する車軸トルク(以下「要求制動車軸トルク」という。)を演算する。
【0048】
制動調停部58は、目標車軸トルク生成部52から入力される目標車軸トルクと、ブレーキドライバモデル57により演算された要求制動車軸トルクを調停する。具体的には、目標車軸トルク及び要求制動車軸トルクのうち、減速量が大きい方のトルクを選択して制動要求トルク実現部59へ出力する。また、制動調停部58は、要求制動車軸トルクが目標車軸トルクを上回っている(減速量が大きい)状態では、ブレーキオーバライド信号をFBトルク演算部62へ出力する。これにより、FBトルク演算部62は、ブレーキオーバライド状態(運転者のブレーキ操作により要求される減速量が走行制御で要求される減速量を上回った状態)であるか否かを判断する。なお、ブレーキオーバライド状態の具体的な判定方法については後述する。
【0049】
制動要求トルク実現部59は、制動調停部58から入力した車軸トルクを実現するための制御信号をブレーキECU40へ出力する。
【0050】
[3.ブレーキオーバライド状態の判定方法]
ここで、ブレーキオーバライド状態の具体的な判定方法について説明する。
【0051】
図3に示すように、運転者がブレーキ操作を行っていると判定されている状態において、そのブレーキ操作によるブレーキ油圧(操作油圧)とアプリケーションからの目標加速度(目標車軸トルク)を実現するためのブレーキ油圧(目標油圧)とを比較する。そして、操作油圧が目標油圧を上回った時点で、ブレーキオーバライド状態へ移行したと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオンする)。
【0052】
ここで、運転者がブレーキ操作を行っているか否かは、操作油圧があらかじめ設定されているしきい値(操作判定しきい値)を上回っているか否かにより判定する。操作判定しきい値は、0点浮きによる誤判定防止のため、0よりも大きい値(例えば0.35MPa)に設定されている。
【0053】
一方、ブレーキオーバライド中は、目標油圧よりも低い値(目標油圧−設定値α)を操作油圧が下回った時点で、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオフする)。ここで、単に操作油圧が目標油圧を下回った時点としていないのは、ブレーキオーバライド状態の判定のハンチングを防止するためであり、設定値αは例えば0.15MPaに設定されている。
【0054】
なお、操作油圧が目標油圧−設定値αを下回らなくても、運転者によるブレーキ操作が解除されたと判定された時点で、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオフする)。ここで、運転者がブレーキ操作を解除したか否かは、操作油圧があらかじめ設定されているしきい値(解除判定しきい値)を下回ったか否かにより判定する。解除判定しきい値は、ブレーキ操作判定のハンチング防止のため、前述した操作判定しきい値(上記例では0.35MPa)よりも低い値(例えば0.15MPa)に設定されている。
【0055】
[4.FFトルク演算部]
次に、前述したFFトルク演算部61で行われる具体的な処理内容について説明する。
【0056】
FFトルク演算部61は、図4に示すように、空気抵抗補償分トルク、ころがり抵抗補償分トルク、加速抵抗補償分トルク及び勾配抵抗補償分トルクを算出し、これらを加算することによりFF分車軸トルクを算出する。
【0057】
ここで、空気抵抗補償分トルク、ころがり抵抗補償分トルク及び加速抵抗補償分トルクは、次の式(1)〜式(3)から算出される。
【0058】
【数1】
【0059】
なお、式(1)〜式(3)において、ρは空気密度[kg/m3]、Cdは空気抵抗係数[−]、Aは車両の前面投影面積[m2]、vは車速[m/s]、μはころがり抵抗係数[−]、Mは車両の重量[kg]、gは重力加速度[m/s2]、aは車両加速度[m/s2]である。
【0060】
一方、勾配抵抗補償分トルクは、Gセンサ21により検出される加速度(重力成分を含む加速度)と、車輪速センサ22により検出される加速度(重力成分を含まない加速度)との差分(勾配の加速度)に基づき算出される。ただし、道路に存在する小さな段差等を勾配として誤検出してしまうことを防ぐとともに、勾配を正確に検出するため、以下に説明する制限処理及びフィルタ処理を行う。
【0061】
まず、制限処理では、Gセンサ21及び車輪速センサ22に基づき検出した勾配が、実際に存在し得るものであるか否かを道路構造令に基づき判定する。
【0062】
すなわち、車道の縦断勾配は、道路の区分及び道路の設計速度に応じて上限値が制限されている(道路構造令第20条)。このため、Gセンサ21及び車輪速センサ22に基づき検出した勾配が道路構造令で定める上限値を超えている場合には、勾配ではなく段差等による一時的なものであると判定することができる。
【0063】
さらに、車道の縦断勾配が変移する箇所には縦断曲線を設けることが定められており、その半径は、道路の設計速度及び縦断曲線の曲線形(凸形又は凹形)に応じて下限値が制限されている(道路構造令第22条)。このため、Gセンサ21及び車輪速センサ22に基づき検出した勾配の変化率に基づき推定される縦断曲線の半径が道路構造令で定める下限値を下回っている場合には、勾配ではなく段差等による一時的なものであると判定することができる。
【0064】
このような判定を可能とするため、ナビゲーションECU10には、道路構造令で定められている縦断勾配及び縦断曲線の半径の各制限範囲が記憶されている。具体的には、制限範囲は設計速度(道路の制限速度)によって異なるため、ナビゲーションECU10から入力される制限速度の情報に基づき、走行中の道路についての制限範囲を特定する。
【0065】
そして、制限処理では、検出した勾配が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていないと判定した場合には、勾配ではなく段差等による一時的なものであるとして、勾配検出値に前記制限範囲で制限をかけた値を用いる。具体的には、例えば、道路構造令で定められている縦断勾配の上限値が5%であるにもかかわらず、勾配検出値が10%である場合には、上限値である5%に制限する。つまり、道路構造令で定められている制限範囲外の勾配検出値については、その制限範囲内の最も近い値に補正するようにしている。なお、本実施形態では、検出値に制限範囲で制限をかけた値を用いるようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、勾配抵抗補償分トルクの演算に用いられないようにしてもよい。
【0066】
一方、フィルタ処理では、制限処理後の検出値(道路勾配の検出値)に対して、ノイズを除去するためのフィルタ処理を行う。すなわち、図5に示すように、検出値(センシング値)には細かな振幅が外乱として含まれるため、フィルタ処理により外乱を除去するのである。ここで、フィルタ処理の時定数を大きくするとノイズを除去する効果は高くなるものの、勾配の変化に遅れが生じて変化が緩やかになってしまい、勾配の変化を正確に検出することができなくなる。逆に、フィルタ処理の時定数を小さくすると勾配の変化に与える影響を小さくすることはできるが、ノイズを十分に除去することができない。そこで、勾配の変化しない部分については大きい時定数でフィルタ処理を行い、勾配の変化する部分については小さい時定数でフィルタ処理を行うようにする。
【0067】
具体的には、図6に示すように、制限処理後の検出値(センシング値)と、その検出値に対して大きい時定数(この例では4秒)のフィルタ処理(1/(TS+1))を行った値(フィルタ値)との偏差をとり、その偏差が小さいほど大きい時定数を用いるようにする。すなわち、偏差が小さい場合には勾配の変化が小さいと判断して大きい時定数のフィルタ処理でノイズを効果的に除去し、偏差が大きい場合には勾配の変化が大きいと判断して小さい時定数のフィルタ処理で勾配の変化に与える影響を抑えるようにするのである。この結果、勾配の変化を抑えつつ、ノイズを効果的に除去することが可能となる。
【0068】
以上のような制限処理及びフィルタ処理を行うことにより、勾配抵抗補償分トルクが算出される。
【0069】
[5.FBトルク演算部]
次に、前述したFBトルク演算部62で行われる具体的な処理内容について説明する。
【0070】
図7に示すように、FBトルク演算部62は、規範モデル及びPID制御モデルによって構成され、目標加速度が入力された規範モデルからの出力値と、車輪速センサからの加速度(以下「車輪加速度」という。)との偏差をPID制御モデルの入力とすることで、FB分車軸トルクを出力する。
【0071】
FBトルク演算部62は、ブレーキオーバライド中は、規範モデルの出力加速度(以下「規範加速度」という。)を目標加速度から車輪加速度に切り替えることにより、偏差が0の状態にする。
【0072】
具体的には、図8に示すように、ブレーキオーバライド状態へ移行して規範加速度(規範G)を目標加速度(目標G)から車輪加速度(車輪G)へ切り替える際に、瞬時に切り替えるのではなく、偏差が0になるまでフィルタでなます処理を行うことにより滑らかに切り替えるようにしている。また、ブレーキオーバライド状態が解除されて規範加速度を車輪加速度から目標加速度へ切り替える際にも同様に、瞬時に切り替えるのではなく、フィルタでなます処理を行うことにより滑らかに切り替えるようにしている。
【0073】
つまり、規範モデルには、規範加速度が目標加速度である「状態1」、規範加速度が目標加速度から車輪加速度へ移行する「状態2」、規範加速度が車輪加速度である「状態3」、規範加速度が車輪加速度から目標加速度へ移行する「状態4」、の4つの状態が存在する。
【0074】
一方、PID制御モデルでは、積分(I)成分、比例(P)成分及び微分(D)成分を演算し、それらの和をFB分車軸トルクとして出力する。
【0075】
ただし、ブレーキオーバライド中は、FB分車軸トルクの値を、ブレーキオーバライド状態への移行時のFB分車軸トルクの値に保持する。ブレーキオーバライド状態が解除されたことを適切なタイミングで判定するためである。
【0076】
また、ブレーキオーバライド終了時にFB量を0から演算開始することを目的として、ブレーキオーバライド中はP項、I項、D項をそれぞれリセットすることが好ましい。ただし、前述したように、規範モデルとして目標加速度と車輪加速度とを切り替えることにより、P項及びD項についてはリセットする処置を不要とすることが可能となる。そこで、本実施形態では、P項及びD項に関してはリセットせずに通常制御を維持する。一方、I項については、リセットしないと、ブレーキオーバライド開始直後のFB量が保持され、オーバライド終了後に通常制御に入った時点で保持されていたFB量分が加算されて出力されてしまうため、I項のみ演算自体を行わずにリセットする。
【0077】
なお、仮に、規範モデルを切り替えないでP項、I項及びD項をそれぞれリセットした場合、ブレーキオーバライドが終了した時点で、実加速度と規範加速度との差分が大きいと、過大なFB量が出ることが考えられるため、規範モデルを切り替えることによる効果は高い。
【0078】
[6.走行制御ECUが実行する処理]
次に、走行制御ECU20が行う具体的な処理手順について、図9(a),(b)及び図10のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
まず、走行制御ECU20がブレーキオーバライド状態への移行及び解除を判定するために実行するオーバライド移行判定処理(図9(a))及びオーバライド解除判定処理(図9(b))について説明する。
【0080】
なお、これらの処理は、走行制御中に実行されるものであり、ブレーキオーバライド状態であるか否かに応じていずれか一方の処理が定期的に実行される。具体的には、ブレーキオーバライド状態でないと判定されている状態ではオーバライド移行判定処理が定期的に実行され、ブレーキオーバライド状態であると判定されている状態ではオーバライド解除判定処理が定期的に実行される。
【0081】
まず、オーバライド移行判定処理について、図9(a)のフローチャートを用いて説明する。
【0082】
走行制御ECU20は、オーバライド移行判定処理を開始すると、まずS101で、操作油圧が操作判定しきい値(例えば0.35MPa)を上回っているか否かを判定する。つまり、運転者がブレーキ操作を行っているか否かを判定する。
【0083】
そして、S101で、操作油圧が操作判定しきい値を上回っていない(運転者がブレーキ操作を行っていない)と判定した場合には、そのまま本オーバライド移行判定処理を終了する。
【0084】
一方、S101で、操作油圧が操作判定しきい値を上回っている(運転者がブレーキ操作を行っている)と判定した場合には、S102へ移行し、操作油圧が目標油圧を上回っているか否かを判定する。
【0085】
そして、S102で、操作油圧が目標油圧を上回っていないと判定した場合には、そのまま本オーバライド移行判定処理を終了する。
【0086】
一方、S102で、操作油圧が目標油圧を上回っていると判定した場合には、S103へ移行し、ブレーキオーバライド状態へ移行したと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオンする)。その後、本オーバライド移行判定処理を終了する。なお、このように判定した移行は、本オーバライド移行判定処理に代えて、次に説明するオーバライド解除判定処理を実行することになる。
【0087】
次に、オーバライド解除判定処理について、図9(b)のフローチャートを用いて説明する。
【0088】
走行制御ECU20は、オーバライド解除判定処理を開始すると、まずS201で、操作油圧が目標油圧−設定値α(例えば0.15MPa)を下回っているか否かを判定する。
【0089】
そして、S201で、操作油圧が目標油圧−設定値αを下回っていないと判定した場合には、S202へ移行し、操作油圧が解除判定しきい値(例えば0.15MPa)を下回っているか否かを判定する。つまり、運転者がブレーキ操作を解除したか否かを判定する。
【0090】
そして、S202で、操作油圧が解除判定しきい値を下回っていない(ブレーキ操作が解除されていない)と判定した場合には、そのまま本オーバライド解除判定処理を終了する。
【0091】
一方、S202で操作油圧が解除判定しきい値を下回っている(ブレーキ操作が解除された)と判定した場合や、S201で操作油圧が目標油圧−設定値αを下回っていると判定した場合には、S203へ移行し、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオフする)。その後、本オーバライド解除判定処理を終了する。なお、このように判定した移行は、本オーバライド解除判定処理に代えて、前述したオーバライド移行判定処理を実行することになる。
【0092】
次に、走行制御ECU20が走行制御中に実行する車速調整処理について図10のフローチャートを用いて説明する。
【0093】
走行制御ECU20は、車速調整処理を開始すると、まず、S301で、目標車軸トルクを演算する。
【0094】
続いて、S302では、ブレーキオーバライド中であるか否かを判定する。なお、ブレーキオーバライド中であるか否かは、前述したオーバライド移行判定処理(図9(a))及びオーバライド解除判定処理(図9(b))で判定される。
【0095】
そして、S302で、ブレーキオーバライド中でないと判定した場合には、S303へ移行し、FB分車軸トルクの算出条件を、通常の算出条件(比例成分+積分成分+微分成分)に設定する。
【0096】
続いて、S304で、S301で演算した目標車軸トルクを実現するための制御信号をエンジンECU30及びブレーキECU40へ出力した後、本車速調整処理を終了する。つまり、ブレーキオーバライド中でなければ、車両の車軸トルクが目標車軸トルクに制御され、目標速度に制御される。
【0097】
一方、S302で、ブレーキオーバライド中であると判定した場合には、S305へ移行し、FB分車軸トルクの算出条件を、ブレーキオーバライド中の算出条件に設定する。具体的には、ブレーキオーバライド状態への移行時のFB分車軸トルクを保持する。ただし、P項及びD項については通常制御を行い(ブレーキオーバライド中でない場合と同様に演算を継続し)、I項については演算自体を行わずにリセットする。
【0098】
続いて、S306で、要求制動車軸トルクを実現するための制御信号をブレーキECU40へ出力した後、本車速調整処理を終了する。つまり、運転者のブレーキ操作に応じて車両を減速させる。
【0099】
[7.効果]
以上説明したように、本実施形態の走行制御装置によれば、次の効果が得られる。
【0100】
・ブレーキオーバライド中のブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が目標車軸トルクに基づく減速量を下回ったと判定した時点で走行制御を再開する。このため、図11に示すように、ブレーキオーバライド中に走行抵抗が変化したとしても、走行抵抗に応じた適切なタイミング(例えば、上り坂なら遅いタイミング、下り坂なら早いタイミング)で走行制御が再開されることとなる。しかも、再開時の目標車軸トルクは、走行抵抗に応じた適切なものとなる。したがって、再開時の走行制御が滑らかに行われることとなり、運転者に違和感を与えにくくすることができる。
【0101】
・道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には勾配検出値にその制限範囲で制限をかけるようにしているため、目標車軸トルクの演算結果をより適切なものとすることができる。
【0102】
・道路勾配の検出値に対してノイズを除去するフィルタ処理を行うようにしているため、道路の勾配を精度よく検出することができる。特に、勾配の変化しない部分については大きい時定数でフィルタ処理を行い、勾配の変化する部分については小さい時定数でフィルタ処理を行うようにしているため、勾配の変化を抑えつつ、ノイズを効果的に除去することができる。
【0103】
・ブレーキオーバライド中は、FB分車軸トルクの値を、ブレーキオーバライド状態への移行時のFB分車軸トルクの値に保持するようにしているため、ブレーキオーバライド中にFB分車軸トルクの値が変化する場合に比べ、走行制御を再開するタイミングを適切に判定することができる。
【0104】
・FBトルク演算部62は、ブレーキオーバライド中は、規範加速度を目標加速度から車輪加速度に切り替えることにより偏差が0の状態にし、瞬時に切り替えるのではなくフィルタ処理により滑らかに切り替えるようにしている。このため、ブレーキオーバライド状態の解除時の偏差が0になるため、FB分車軸トルクが大きくなることによる急な加速を避けることができ、緩やかで円滑な移行が可能となる。
【0105】
すなわち、仮に、規範モデルを目標加速度と車輪加速度とで切り替えない場合、図12(a)に示すように、ブレーキオーバライドが終了した時点で規範加速度と車輪加速度との差分が大きいと、ブレーキオーバライド終了後に開始するPID制御により急な加速感を感じることになる。これに対し、本実施形態のように規範モデルを目標加速度と車輪加速度とで切り替える場合、図12(b)に示すように、ブレーキオーバライド終了時に規範加速度と車輪加速度との差分が0になるため、急な加速感を抑えることができる。
【0106】
・ブレーキオーバライド中はI項の演算自体を行わずにリセットするため、ブレーキオーバライド終了時にFB量を0又は0に近い値から演算開始することができる。
【0107】
・運転者がブレーキ操作を行っているか否かを、操作油圧が操作判定しきい値を上回っているか否かにより判定するため、0点浮きによる誤判定を防止することができる。
【0108】
・ブレーキオーバライド中は、目標油圧よりも低い値(目標油圧−設定値α)を操作油圧が下回った時点で、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定するため、ブレーキオーバライド状態の判定のハンチングを防止することができる。
【0109】
[8.特許請求の範囲との対応]
なお、本実施形態の走行制御装置では、目標車軸トルク生成部52(S301の処理を実行する走行制御ECU20)が、制駆動力演算手段に相当する。また、駆動調停部55、駆動要求トルク実現部56、制動調停部58及び制動要求トルク実現部59(S302〜S306の処理を実行する走行制御ECU20)が、走行制御手段に相当する。
【0110】
[9.他の形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0111】
上記実施形態の走行制御装置では、空気抵抗、ころがり抵抗、加速抵抗及び勾配抵抗を走行抵抗としてフィードフォワード演算を行う構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、これらの一部のみを走行抵抗として用いてもよく、また、これら以外の走行抵抗を加味してもよい。
【0112】
また、上記実施形態の走行制御装置では、操作油圧が「目標油圧−設定値α」又は「解除判定しきい値」を下回った時点でブレーキオーバライド状態が解除されたと判定するが、これに限定されるものではない。例えば、減速要求がある場合(目標加速度が減速側の場合)には、操作油圧が「目標油圧−設定値α」を下回った時点でブレーキオーバライド状態が解除されたと判定し、減速要求がない場合(目標加速度が加速側の場合)には、操作油圧が「解除判定しきい値」を下回った時点でブレーキオーバライド状態が解除されたと判定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施形態の走行制御装置の概略構成を表すブロック図である。
【図2】走行制御ECUの構成を機能的に表した機能ブロック図である。
【図3】ブレーキオーバライド状態の具体的な判定方法を説明するための説明図である。
【図4】FFトルク演算部の説明図である。
【図5】道路勾配の検出値の説明図である。
【図6】フィルタ処理の説明図である。
【図7】FBトルク演算部の説明図である。
【図8】規範モデルの出力値の説明図である。
【図9】ブレーキオーバライド状態への移行及び解除を判定するためのオーバライド移行判定処理(a)及びオーバライド解除判定処理(b)のフローチャートである。
【図10】車速調整処理のフローチャートである。
【図11】ブレーキオーバライド中に走行抵抗が変化した場合の走行制御の再開タイミングを示す説明図である。
【図12】規範モデルの効果を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0114】
10…ナビゲーションECU、11…位置検出器、12…地図情報記憶部、20…走行制御ECU、21…Gセンサ、22…車輪速センサ、23…走行制御スイッチ、24…車速設定スイッチ、24…アクセルペダル操作量センサ、25…ブレーキペダル操作量センサ、30…エンジンECU、40…ブレーキECU、51…車速維持演算部、52…目標車軸トルク生成部、53…制駆動分配部、54…P/Tドライバモデル、55…駆動調停部、56…駆動要求トルク実現部、57…ブレーキドライバモデル、58…制動調停部、59…制動要求トルク実現部、61…FFトルク演算部、62…FBトルク演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行状態を目標走行状態に制御する走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行状態を目標走行状態に制御する走行制御を行う走行制御装置が知られている。走行制御としては、例えば、車両の速度を設定速度に維持する定速走行制御(クルーズコントロール)や、車両の速度を車間情報によって適切な速度へ自動的に調整する制御(ACC:アダプティブ・クルーズ・コントロール)などが知られている。
【0003】
こうした走行制御装置では、走行制御中に運転者によるブレーキ操作が介入した場合には走行制御を解除することが一般的であるが、ブレーキ操作の終了後に走行制御を再開するように構成することも可能である。
【0004】
例えば特許文献1には、先行車との車間距離に基づいて減速制御を行う走行制御装置であって、運転者によるブレーキ操作の終了を検出した直後は減速制御による減速を行わない構成が開示されている。
【特許文献1】特開2005−255146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、ブレーキ操作の終了後に走行制御を再開する場合、車両の走行状況によっては再開時の走行制御が運転者に違和感を与えてしまうことが考えられる。
【0006】
具体的には、例えば上り坂などのように走行抵抗の大きい状況で走行制御(減速制御)が再開された場合には、減速量が過剰となって目標速度を下回りやすく、その状態から目標速度に到達しようと制御することにより車速のハンチング(振動)が生じやすくなる。逆に、例えば下り坂などのように走行抵抗の小さい状況で走行制御(減速制御)が再開された場合には、減速度が不足することにより目標速度へ到達するまでに時間がかかる。
【0007】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、車両の走行状況に応じて適切に走行制御を再開することのできる走行制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の請求項1に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段が、車両の走行状態を目標走行状態に制御するための制御用制駆動力を演算し、走行制御手段が、制駆動力演算手段により演算された制御用制駆動力で車両を走行させる走行制御を行う。
【0009】
具体的には、制駆動力演算手段は、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた制駆動力を制御用制駆動力として演算する。また、走行制御手段は、走行制御中に運転者によるブレーキ操作が行われてそのブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が制御用制駆動力に基づく制御要求減速量を上回ったと判定した時点で走行制御を中断し、ドライバ要求減速量が制御要求減速量又はブレーキ操作が解除されたことの判定基準となる解除判定減速量を下回ったと判定した時点で走行制御を再開する。なお、ここでいう「減速量」とは、減速の度合いを表す量(大きいほど強い減速を表す量)であり、例えばブレーキ油圧やトルク等が挙げられる。
【0010】
本発明の走行制御装置では、制御用制駆動力が走行抵抗に応じて変化することから、減速が要求される状況では、制御要求減速量も走行抵抗に応じて変化することとなり、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を下回ったと判定されるタイミングも、走行抵抗に応じて変化することになる。このため、走行制御を中断している間に走行抵抗が変化したとしても、走行抵抗に応じた適切なタイミングで走行制御が再開されることとなり、しかも、その際の制御用制駆動力は、走行抵抗に応じた適切なものとなる。
【0011】
したがって、本発明の走行制御装置によれば、車両の走行状況に応じて適切に走行制御を再開することができる。具体的には、再開時の走行制御が滑らかに行われることとなり、運転者に違和感を与えにくくすることができる。
【0012】
なお、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を上回った又は下回ったとの判定は、ドライバ要求減速量を制御要求減速量と直接比較して行うことに限定されるものではない。例えば、制御要求減速量を基準としてしきい値を設定し、ドライバ要求減速量をそのしきい値と比較することにより、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を上回った又は下回ったとの判定を行うようにしてもよい。このようにすることで、走行制御の中断及び再開のハンチングを防止することが可能となるからである。
【0013】
ここで、走行抵抗としては、例えば、空気抵抗、ころがり抵抗、加速抵抗、勾配抵抗等が挙げられるが、その中でも勾配抵抗は、走行する道路に応じて大きく変化するものであり、加速制御への影響が特に大きい。そこで、請求項2に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段が、少なくとも車両が走行中の道路の勾配(勾配抵抗)を走行抵抗として検出する。なお、勾配抵抗とともに、空気抵抗、ころがり抵抗、加速抵抗等を加味するようにしてもよい。
【0014】
ところで、車両が走行する道路(車道)の勾配には、道路構造令(政令)により一定の制限が課されている。したがって、道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には、道路の勾配ではない(例えば、段差等を勾配として誤検出したもの)と判断することができる。そこで、請求項3に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には、フィードフォワード成分の演算に用いないか、若しくは、検出値に制限範囲で制限をかけた値を用いる。このようにすることで、制御用制駆動力の演算結果をより適切なものとすることができる。
【0015】
また、道路勾配を検出する場合、走行に伴う車両の振動等により検出値にノイズが含まれることが考えられる。そこで、請求項4に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値に対してノイズを除去するフィルタ処理を行う。このようにすることで、道路の勾配を精度よく検出することができる。
【0016】
ただし、ノイズを除去する効果を高めるためにフィルタ処理の時定数を大きくすると、勾配の変化に遅れが生じて変化が緩やかになってしまい、勾配の変化を正確に検出することができなくなる。そこで、勾配の変化しない部分については大きい時定数でフィルタ処理を行い、勾配の変化する部分については小さい時定数でフィルタ処理を行うようにすることが好ましい。
【0017】
具体的には、請求項5に記載のように、フィルタ処理を、道路勾配の検出値に対してある一定の時定数でフィルタ処理を行った値とフィルタ処理を行う前の値との偏差が小さいほど大きい時定数で行うとよい。つまり、偏差が小さい場合には勾配の変化がない(又は小さい)と判断して大きい時定数のフィルタ処理でノイズを効果的に除去し、偏差が大きい場合には勾配の変化が大きいと判断して小さい時定数のフィルタ処理で勾配の変化に与える影響を抑えるようにするのである。この結果、勾配の変化を抑えつつ、ノイズを効果的に除去することが可能となる。
【0018】
一方、例えば請求項6に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、フィードフォワード成分に加え、目標走行状態と実際の走行状態との差に応じたフィードバック成分が含まれた制駆動力を制御用制駆動力として演算する。そして、走行制御手段により走行制御が中断されている間は、フィードバック成分を走行制御が中断された時点での値に保持する。このような走行制御装置によれば、走行制御が中断されている間にフィードバック成分が変化する場合に比べ、走行制御を再開するタイミングを適切に判定することができる。
【0019】
さらに、例えば請求項7に記載の走行制御装置では、制駆動力演算手段は、規範モデルからの出力値と実際の加速度(「加速度」には減速側の加速度(減速度)も含まれる。他の記載も同様。)との偏差に応じたフィードバック成分を演算する。そして、規範モデルは、走行制御手段により走行制御が行われている間は目標加速度を出力し、走行制御が中断された時点で出力値を目標加速度から実際の加速度へ切り替え、走行制御が再開された時点で出力値を実際の加速度から目標加速度へ連続的に変化するように切り替える。
【0020】
このような走行制御装置によれば、走行制御が再開された時点での規範モデルからの出力値と実際の加速度との偏差が0になるため、フィードバック成分が大きくなることによる急な加速を避けることができ、緩やかで円滑な移行が可能となる。なお、目標加速度から実際の加速度への切り替えについても、連続的に変化するように行ってもよい。
【0021】
ここで、制駆動力演算手段がフィードバック成分として比例成分、積分成分及び微分成分を演算する場合、走行制御手段により走行制御が中断された後、再開された時点で、フィードバック成分を0から演算開始するためには、これらの成分をそれぞれリセットすればよい。ただし、請求項7に記載のように、走行制御が中断されている間、規範モデルが出力値を目標加速度から実際の加速度へ切り替えるものでは、偏差が0となるため、比例成分及び微分成分についてはリセットする処置を不要とすることが可能となる。
【0022】
そこで、例えば請求項8に記載のように、制駆動力演算手段が、走行制御手段により走行制御が中断された後、再開された時点での積分成分の演算値をリセットするとよい。
【0023】
このような走行制御装置によれば、走行制御手段により走行制御が中断された後、再開された時点で、フィードバック成分をリセットされた状態から演算開始することができる。
【0024】
また、例えば請求項9に記載の走行制御装置では、走行制御手段は、ドライバ要求減速量が、ブレーキ操作が行われたことの判定基準となる操作判定減速量及び制御要求減速量を上回ったと判定した時点で走行制御を中断する。
【0025】
このような走行制御装置によれば、ブレーキ操作が行われていないにもかかわらずドライバ要求減速量の0点ズレなどによりブレーキ操作が行われたと判定して走行制御を中断してしまうことを防ぐことができる。
【0026】
また、例えば請求項10に記載の走行制御装置では、走行制御手段は、ドライバ要求減速量が、制御要求減速量を基準としてその制御要求減速量よりも低く設定される減速量を下回った場合に、ドライバ要求減速量が制御要求減速量を下回ったと判定する。
【0027】
このような走行制御装置によれば、走行制御の中断及び再開のハンチングを防止することができる。
【0028】
次に、請求項11に記載の走行制御プログラムによれば、請求項1に記載の走行制御装置としてコンピュータを機能させることができ、これにより前述した効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
【0030】
[1.全体構成]
図1は、実施形態の走行制御装置の概略構成を表すブロック図である。
【0031】
この走行制御装置は、車両に搭載された状態で用いられるものであり、走行制御ECU(ECU:マイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置)20を中心にして構成される。具体的には、走行制御ECU20には、ナビゲーションECU10、Gセンサ21、車輪速センサ22、走行制御スイッチ23、アクセルペダル操作量センサ24及びブレーキペダル操作量センサ25からの情報が入力される。
【0032】
ナビゲーションECU10は、地図上における車両の位置を特定し、経路案内等の処理を行うものである。このため、ナビゲーションECU10には、図示しないGPS受信機、ジャイロスコープ、距離センサ等から車両の現在位置を検出する位置検出器11と、地図情報を記憶する地図情報記憶部12からの情報が入力される。そして、ナビゲーションECU10は、車両が走行中の道路の情報として、その道路の制限速度の情報を走行制御ECU20へ出力する。
【0033】
Gセンサ21は、車両の前後方向の加速度を検出するためのものである。
【0034】
車輪速センサ22は、車両の各車輪の回転速度を検出するためのものであり、その検出値に基づき車速及び加速度が算出される。
【0035】
走行制御スイッチ23は、走行制御(例えばクルーズコントロールやACC)の開始操作及び終了操作を運転者に行わせるためのものである。
【0036】
アクセルペダル操作量センサ24及びブレーキペダル操作量センサ25は、運転者のアクセル操作及びブレーキ操作の各操作量を検出するためのものである。
【0037】
そして、走行制御ECU20は、各種入力情報に基づき、車両の速度を目標速度に制御するための車軸トルクを演算して、エンジンECU30及びブレーキECU40へ出力する。これにより、エンジンECU30及びブレーキECU40は、走行制御ECU20から入力される車軸トルクで駆動力及び制動力(制駆動力)を制御する。
【0038】
[2.処理の説明]
次に、走行制御ECU20で行われる処理の概要について説明する。
【0039】
図2は、走行制御ECU20がアプリケーションプログラムを実行することにより実現される構成を機能的に表した機能ブロック図である。
【0040】
同図に示すように、走行制御ECU20は、車速維持演算部51、目標車軸トルク生成部52、制駆動分配部53、P/Tドライバモデル54、駆動調停部55、駆動要求トルク実現部56、ブレーキドライバモデル57、制動調停部58及び制動要求トルク実現部59として機能する。
【0041】
車速維持演算部51は、運転者により設定又は走行状況に応じて算出される目標速度と、車輪速センサ22により検出される車両の速度及び加速度とに基づき、車両の速度を目標速度に制御するために必要な目標加速度を演算する。
【0042】
目標車軸トルク生成部52は、車速維持演算部51により演算された目標加速度に基づき、その目標加速度を実現するための目標車軸トルクを演算する。具体的には、目標車軸トルク生成部52は、目標速度と車両の走行に対する走行抵抗に基づくフィードフォワード演算を行うFFトルク演算部61と、目標加速度と実加速度の差分に基づくフィードバック演算を行うFBトルク演算部62とから構成されている。そして、目標車軸トルク生成部52は、FFトルク演算部61により算出されたFF分車軸トルクとFBトルク演算部62により算出されたFB分車軸トルク(補正分車軸トルク)とを加算することにより、目標車軸トルクを算出する。
【0043】
制駆動分配部53は、目標車軸トルク生成部52により算出された目標車軸トルクをエンジン側とブレーキ側とに分配する。
【0044】
P/Tドライバモデル54は、アクセルペダル操作量センサ24により検出される運転者のアクセル操作量に対応する車軸トルク(以下「要求駆動車軸トルク」という。)を演算する。
【0045】
駆動調停部55は、目標車軸トルク生成部52から入力される目標車軸トルクと、P/Tドライバモデル54により演算された要求駆動車軸トルクを調停する。具体的には、目標車軸トルク及び要求駆動車軸トルクのうち、加速度が大きい方のトルクを選択して駆動要求トルク実現部56へ出力する。
【0046】
駆動要求トルク実現部56は、駆動調停部55から入力した車軸トルクを実現するための制御信号をエンジンECU30へ出力する。
【0047】
ブレーキドライバモデル57は、ブレーキペダル操作量センサ25により検出される運転者のブレーキ操作量に対応する車軸トルク(以下「要求制動車軸トルク」という。)を演算する。
【0048】
制動調停部58は、目標車軸トルク生成部52から入力される目標車軸トルクと、ブレーキドライバモデル57により演算された要求制動車軸トルクを調停する。具体的には、目標車軸トルク及び要求制動車軸トルクのうち、減速量が大きい方のトルクを選択して制動要求トルク実現部59へ出力する。また、制動調停部58は、要求制動車軸トルクが目標車軸トルクを上回っている(減速量が大きい)状態では、ブレーキオーバライド信号をFBトルク演算部62へ出力する。これにより、FBトルク演算部62は、ブレーキオーバライド状態(運転者のブレーキ操作により要求される減速量が走行制御で要求される減速量を上回った状態)であるか否かを判断する。なお、ブレーキオーバライド状態の具体的な判定方法については後述する。
【0049】
制動要求トルク実現部59は、制動調停部58から入力した車軸トルクを実現するための制御信号をブレーキECU40へ出力する。
【0050】
[3.ブレーキオーバライド状態の判定方法]
ここで、ブレーキオーバライド状態の具体的な判定方法について説明する。
【0051】
図3に示すように、運転者がブレーキ操作を行っていると判定されている状態において、そのブレーキ操作によるブレーキ油圧(操作油圧)とアプリケーションからの目標加速度(目標車軸トルク)を実現するためのブレーキ油圧(目標油圧)とを比較する。そして、操作油圧が目標油圧を上回った時点で、ブレーキオーバライド状態へ移行したと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオンする)。
【0052】
ここで、運転者がブレーキ操作を行っているか否かは、操作油圧があらかじめ設定されているしきい値(操作判定しきい値)を上回っているか否かにより判定する。操作判定しきい値は、0点浮きによる誤判定防止のため、0よりも大きい値(例えば0.35MPa)に設定されている。
【0053】
一方、ブレーキオーバライド中は、目標油圧よりも低い値(目標油圧−設定値α)を操作油圧が下回った時点で、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオフする)。ここで、単に操作油圧が目標油圧を下回った時点としていないのは、ブレーキオーバライド状態の判定のハンチングを防止するためであり、設定値αは例えば0.15MPaに設定されている。
【0054】
なお、操作油圧が目標油圧−設定値αを下回らなくても、運転者によるブレーキ操作が解除されたと判定された時点で、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオフする)。ここで、運転者がブレーキ操作を解除したか否かは、操作油圧があらかじめ設定されているしきい値(解除判定しきい値)を下回ったか否かにより判定する。解除判定しきい値は、ブレーキ操作判定のハンチング防止のため、前述した操作判定しきい値(上記例では0.35MPa)よりも低い値(例えば0.15MPa)に設定されている。
【0055】
[4.FFトルク演算部]
次に、前述したFFトルク演算部61で行われる具体的な処理内容について説明する。
【0056】
FFトルク演算部61は、図4に示すように、空気抵抗補償分トルク、ころがり抵抗補償分トルク、加速抵抗補償分トルク及び勾配抵抗補償分トルクを算出し、これらを加算することによりFF分車軸トルクを算出する。
【0057】
ここで、空気抵抗補償分トルク、ころがり抵抗補償分トルク及び加速抵抗補償分トルクは、次の式(1)〜式(3)から算出される。
【0058】
【数1】
【0059】
なお、式(1)〜式(3)において、ρは空気密度[kg/m3]、Cdは空気抵抗係数[−]、Aは車両の前面投影面積[m2]、vは車速[m/s]、μはころがり抵抗係数[−]、Mは車両の重量[kg]、gは重力加速度[m/s2]、aは車両加速度[m/s2]である。
【0060】
一方、勾配抵抗補償分トルクは、Gセンサ21により検出される加速度(重力成分を含む加速度)と、車輪速センサ22により検出される加速度(重力成分を含まない加速度)との差分(勾配の加速度)に基づき算出される。ただし、道路に存在する小さな段差等を勾配として誤検出してしまうことを防ぐとともに、勾配を正確に検出するため、以下に説明する制限処理及びフィルタ処理を行う。
【0061】
まず、制限処理では、Gセンサ21及び車輪速センサ22に基づき検出した勾配が、実際に存在し得るものであるか否かを道路構造令に基づき判定する。
【0062】
すなわち、車道の縦断勾配は、道路の区分及び道路の設計速度に応じて上限値が制限されている(道路構造令第20条)。このため、Gセンサ21及び車輪速センサ22に基づき検出した勾配が道路構造令で定める上限値を超えている場合には、勾配ではなく段差等による一時的なものであると判定することができる。
【0063】
さらに、車道の縦断勾配が変移する箇所には縦断曲線を設けることが定められており、その半径は、道路の設計速度及び縦断曲線の曲線形(凸形又は凹形)に応じて下限値が制限されている(道路構造令第22条)。このため、Gセンサ21及び車輪速センサ22に基づき検出した勾配の変化率に基づき推定される縦断曲線の半径が道路構造令で定める下限値を下回っている場合には、勾配ではなく段差等による一時的なものであると判定することができる。
【0064】
このような判定を可能とするため、ナビゲーションECU10には、道路構造令で定められている縦断勾配及び縦断曲線の半径の各制限範囲が記憶されている。具体的には、制限範囲は設計速度(道路の制限速度)によって異なるため、ナビゲーションECU10から入力される制限速度の情報に基づき、走行中の道路についての制限範囲を特定する。
【0065】
そして、制限処理では、検出した勾配が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていないと判定した場合には、勾配ではなく段差等による一時的なものであるとして、勾配検出値に前記制限範囲で制限をかけた値を用いる。具体的には、例えば、道路構造令で定められている縦断勾配の上限値が5%であるにもかかわらず、勾配検出値が10%である場合には、上限値である5%に制限する。つまり、道路構造令で定められている制限範囲外の勾配検出値については、その制限範囲内の最も近い値に補正するようにしている。なお、本実施形態では、検出値に制限範囲で制限をかけた値を用いるようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、勾配抵抗補償分トルクの演算に用いられないようにしてもよい。
【0066】
一方、フィルタ処理では、制限処理後の検出値(道路勾配の検出値)に対して、ノイズを除去するためのフィルタ処理を行う。すなわち、図5に示すように、検出値(センシング値)には細かな振幅が外乱として含まれるため、フィルタ処理により外乱を除去するのである。ここで、フィルタ処理の時定数を大きくするとノイズを除去する効果は高くなるものの、勾配の変化に遅れが生じて変化が緩やかになってしまい、勾配の変化を正確に検出することができなくなる。逆に、フィルタ処理の時定数を小さくすると勾配の変化に与える影響を小さくすることはできるが、ノイズを十分に除去することができない。そこで、勾配の変化しない部分については大きい時定数でフィルタ処理を行い、勾配の変化する部分については小さい時定数でフィルタ処理を行うようにする。
【0067】
具体的には、図6に示すように、制限処理後の検出値(センシング値)と、その検出値に対して大きい時定数(この例では4秒)のフィルタ処理(1/(TS+1))を行った値(フィルタ値)との偏差をとり、その偏差が小さいほど大きい時定数を用いるようにする。すなわち、偏差が小さい場合には勾配の変化が小さいと判断して大きい時定数のフィルタ処理でノイズを効果的に除去し、偏差が大きい場合には勾配の変化が大きいと判断して小さい時定数のフィルタ処理で勾配の変化に与える影響を抑えるようにするのである。この結果、勾配の変化を抑えつつ、ノイズを効果的に除去することが可能となる。
【0068】
以上のような制限処理及びフィルタ処理を行うことにより、勾配抵抗補償分トルクが算出される。
【0069】
[5.FBトルク演算部]
次に、前述したFBトルク演算部62で行われる具体的な処理内容について説明する。
【0070】
図7に示すように、FBトルク演算部62は、規範モデル及びPID制御モデルによって構成され、目標加速度が入力された規範モデルからの出力値と、車輪速センサからの加速度(以下「車輪加速度」という。)との偏差をPID制御モデルの入力とすることで、FB分車軸トルクを出力する。
【0071】
FBトルク演算部62は、ブレーキオーバライド中は、規範モデルの出力加速度(以下「規範加速度」という。)を目標加速度から車輪加速度に切り替えることにより、偏差が0の状態にする。
【0072】
具体的には、図8に示すように、ブレーキオーバライド状態へ移行して規範加速度(規範G)を目標加速度(目標G)から車輪加速度(車輪G)へ切り替える際に、瞬時に切り替えるのではなく、偏差が0になるまでフィルタでなます処理を行うことにより滑らかに切り替えるようにしている。また、ブレーキオーバライド状態が解除されて規範加速度を車輪加速度から目標加速度へ切り替える際にも同様に、瞬時に切り替えるのではなく、フィルタでなます処理を行うことにより滑らかに切り替えるようにしている。
【0073】
つまり、規範モデルには、規範加速度が目標加速度である「状態1」、規範加速度が目標加速度から車輪加速度へ移行する「状態2」、規範加速度が車輪加速度である「状態3」、規範加速度が車輪加速度から目標加速度へ移行する「状態4」、の4つの状態が存在する。
【0074】
一方、PID制御モデルでは、積分(I)成分、比例(P)成分及び微分(D)成分を演算し、それらの和をFB分車軸トルクとして出力する。
【0075】
ただし、ブレーキオーバライド中は、FB分車軸トルクの値を、ブレーキオーバライド状態への移行時のFB分車軸トルクの値に保持する。ブレーキオーバライド状態が解除されたことを適切なタイミングで判定するためである。
【0076】
また、ブレーキオーバライド終了時にFB量を0から演算開始することを目的として、ブレーキオーバライド中はP項、I項、D項をそれぞれリセットすることが好ましい。ただし、前述したように、規範モデルとして目標加速度と車輪加速度とを切り替えることにより、P項及びD項についてはリセットする処置を不要とすることが可能となる。そこで、本実施形態では、P項及びD項に関してはリセットせずに通常制御を維持する。一方、I項については、リセットしないと、ブレーキオーバライド開始直後のFB量が保持され、オーバライド終了後に通常制御に入った時点で保持されていたFB量分が加算されて出力されてしまうため、I項のみ演算自体を行わずにリセットする。
【0077】
なお、仮に、規範モデルを切り替えないでP項、I項及びD項をそれぞれリセットした場合、ブレーキオーバライドが終了した時点で、実加速度と規範加速度との差分が大きいと、過大なFB量が出ることが考えられるため、規範モデルを切り替えることによる効果は高い。
【0078】
[6.走行制御ECUが実行する処理]
次に、走行制御ECU20が行う具体的な処理手順について、図9(a),(b)及び図10のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
まず、走行制御ECU20がブレーキオーバライド状態への移行及び解除を判定するために実行するオーバライド移行判定処理(図9(a))及びオーバライド解除判定処理(図9(b))について説明する。
【0080】
なお、これらの処理は、走行制御中に実行されるものであり、ブレーキオーバライド状態であるか否かに応じていずれか一方の処理が定期的に実行される。具体的には、ブレーキオーバライド状態でないと判定されている状態ではオーバライド移行判定処理が定期的に実行され、ブレーキオーバライド状態であると判定されている状態ではオーバライド解除判定処理が定期的に実行される。
【0081】
まず、オーバライド移行判定処理について、図9(a)のフローチャートを用いて説明する。
【0082】
走行制御ECU20は、オーバライド移行判定処理を開始すると、まずS101で、操作油圧が操作判定しきい値(例えば0.35MPa)を上回っているか否かを判定する。つまり、運転者がブレーキ操作を行っているか否かを判定する。
【0083】
そして、S101で、操作油圧が操作判定しきい値を上回っていない(運転者がブレーキ操作を行っていない)と判定した場合には、そのまま本オーバライド移行判定処理を終了する。
【0084】
一方、S101で、操作油圧が操作判定しきい値を上回っている(運転者がブレーキ操作を行っている)と判定した場合には、S102へ移行し、操作油圧が目標油圧を上回っているか否かを判定する。
【0085】
そして、S102で、操作油圧が目標油圧を上回っていないと判定した場合には、そのまま本オーバライド移行判定処理を終了する。
【0086】
一方、S102で、操作油圧が目標油圧を上回っていると判定した場合には、S103へ移行し、ブレーキオーバライド状態へ移行したと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオンする)。その後、本オーバライド移行判定処理を終了する。なお、このように判定した移行は、本オーバライド移行判定処理に代えて、次に説明するオーバライド解除判定処理を実行することになる。
【0087】
次に、オーバライド解除判定処理について、図9(b)のフローチャートを用いて説明する。
【0088】
走行制御ECU20は、オーバライド解除判定処理を開始すると、まずS201で、操作油圧が目標油圧−設定値α(例えば0.15MPa)を下回っているか否かを判定する。
【0089】
そして、S201で、操作油圧が目標油圧−設定値αを下回っていないと判定した場合には、S202へ移行し、操作油圧が解除判定しきい値(例えば0.15MPa)を下回っているか否かを判定する。つまり、運転者がブレーキ操作を解除したか否かを判定する。
【0090】
そして、S202で、操作油圧が解除判定しきい値を下回っていない(ブレーキ操作が解除されていない)と判定した場合には、そのまま本オーバライド解除判定処理を終了する。
【0091】
一方、S202で操作油圧が解除判定しきい値を下回っている(ブレーキ操作が解除された)と判定した場合や、S201で操作油圧が目標油圧−設定値αを下回っていると判定した場合には、S203へ移行し、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定する(ブレーキオーバライドフラグをオフする)。その後、本オーバライド解除判定処理を終了する。なお、このように判定した移行は、本オーバライド解除判定処理に代えて、前述したオーバライド移行判定処理を実行することになる。
【0092】
次に、走行制御ECU20が走行制御中に実行する車速調整処理について図10のフローチャートを用いて説明する。
【0093】
走行制御ECU20は、車速調整処理を開始すると、まず、S301で、目標車軸トルクを演算する。
【0094】
続いて、S302では、ブレーキオーバライド中であるか否かを判定する。なお、ブレーキオーバライド中であるか否かは、前述したオーバライド移行判定処理(図9(a))及びオーバライド解除判定処理(図9(b))で判定される。
【0095】
そして、S302で、ブレーキオーバライド中でないと判定した場合には、S303へ移行し、FB分車軸トルクの算出条件を、通常の算出条件(比例成分+積分成分+微分成分)に設定する。
【0096】
続いて、S304で、S301で演算した目標車軸トルクを実現するための制御信号をエンジンECU30及びブレーキECU40へ出力した後、本車速調整処理を終了する。つまり、ブレーキオーバライド中でなければ、車両の車軸トルクが目標車軸トルクに制御され、目標速度に制御される。
【0097】
一方、S302で、ブレーキオーバライド中であると判定した場合には、S305へ移行し、FB分車軸トルクの算出条件を、ブレーキオーバライド中の算出条件に設定する。具体的には、ブレーキオーバライド状態への移行時のFB分車軸トルクを保持する。ただし、P項及びD項については通常制御を行い(ブレーキオーバライド中でない場合と同様に演算を継続し)、I項については演算自体を行わずにリセットする。
【0098】
続いて、S306で、要求制動車軸トルクを実現するための制御信号をブレーキECU40へ出力した後、本車速調整処理を終了する。つまり、運転者のブレーキ操作に応じて車両を減速させる。
【0099】
[7.効果]
以上説明したように、本実施形態の走行制御装置によれば、次の効果が得られる。
【0100】
・ブレーキオーバライド中のブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が目標車軸トルクに基づく減速量を下回ったと判定した時点で走行制御を再開する。このため、図11に示すように、ブレーキオーバライド中に走行抵抗が変化したとしても、走行抵抗に応じた適切なタイミング(例えば、上り坂なら遅いタイミング、下り坂なら早いタイミング)で走行制御が再開されることとなる。しかも、再開時の目標車軸トルクは、走行抵抗に応じた適切なものとなる。したがって、再開時の走行制御が滑らかに行われることとなり、運転者に違和感を与えにくくすることができる。
【0101】
・道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には勾配検出値にその制限範囲で制限をかけるようにしているため、目標車軸トルクの演算結果をより適切なものとすることができる。
【0102】
・道路勾配の検出値に対してノイズを除去するフィルタ処理を行うようにしているため、道路の勾配を精度よく検出することができる。特に、勾配の変化しない部分については大きい時定数でフィルタ処理を行い、勾配の変化する部分については小さい時定数でフィルタ処理を行うようにしているため、勾配の変化を抑えつつ、ノイズを効果的に除去することができる。
【0103】
・ブレーキオーバライド中は、FB分車軸トルクの値を、ブレーキオーバライド状態への移行時のFB分車軸トルクの値に保持するようにしているため、ブレーキオーバライド中にFB分車軸トルクの値が変化する場合に比べ、走行制御を再開するタイミングを適切に判定することができる。
【0104】
・FBトルク演算部62は、ブレーキオーバライド中は、規範加速度を目標加速度から車輪加速度に切り替えることにより偏差が0の状態にし、瞬時に切り替えるのではなくフィルタ処理により滑らかに切り替えるようにしている。このため、ブレーキオーバライド状態の解除時の偏差が0になるため、FB分車軸トルクが大きくなることによる急な加速を避けることができ、緩やかで円滑な移行が可能となる。
【0105】
すなわち、仮に、規範モデルを目標加速度と車輪加速度とで切り替えない場合、図12(a)に示すように、ブレーキオーバライドが終了した時点で規範加速度と車輪加速度との差分が大きいと、ブレーキオーバライド終了後に開始するPID制御により急な加速感を感じることになる。これに対し、本実施形態のように規範モデルを目標加速度と車輪加速度とで切り替える場合、図12(b)に示すように、ブレーキオーバライド終了時に規範加速度と車輪加速度との差分が0になるため、急な加速感を抑えることができる。
【0106】
・ブレーキオーバライド中はI項の演算自体を行わずにリセットするため、ブレーキオーバライド終了時にFB量を0又は0に近い値から演算開始することができる。
【0107】
・運転者がブレーキ操作を行っているか否かを、操作油圧が操作判定しきい値を上回っているか否かにより判定するため、0点浮きによる誤判定を防止することができる。
【0108】
・ブレーキオーバライド中は、目標油圧よりも低い値(目標油圧−設定値α)を操作油圧が下回った時点で、ブレーキオーバライド状態が解除されたと判定するため、ブレーキオーバライド状態の判定のハンチングを防止することができる。
【0109】
[8.特許請求の範囲との対応]
なお、本実施形態の走行制御装置では、目標車軸トルク生成部52(S301の処理を実行する走行制御ECU20)が、制駆動力演算手段に相当する。また、駆動調停部55、駆動要求トルク実現部56、制動調停部58及び制動要求トルク実現部59(S302〜S306の処理を実行する走行制御ECU20)が、走行制御手段に相当する。
【0110】
[9.他の形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0111】
上記実施形態の走行制御装置では、空気抵抗、ころがり抵抗、加速抵抗及び勾配抵抗を走行抵抗としてフィードフォワード演算を行う構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、これらの一部のみを走行抵抗として用いてもよく、また、これら以外の走行抵抗を加味してもよい。
【0112】
また、上記実施形態の走行制御装置では、操作油圧が「目標油圧−設定値α」又は「解除判定しきい値」を下回った時点でブレーキオーバライド状態が解除されたと判定するが、これに限定されるものではない。例えば、減速要求がある場合(目標加速度が減速側の場合)には、操作油圧が「目標油圧−設定値α」を下回った時点でブレーキオーバライド状態が解除されたと判定し、減速要求がない場合(目標加速度が加速側の場合)には、操作油圧が「解除判定しきい値」を下回った時点でブレーキオーバライド状態が解除されたと判定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施形態の走行制御装置の概略構成を表すブロック図である。
【図2】走行制御ECUの構成を機能的に表した機能ブロック図である。
【図3】ブレーキオーバライド状態の具体的な判定方法を説明するための説明図である。
【図4】FFトルク演算部の説明図である。
【図5】道路勾配の検出値の説明図である。
【図6】フィルタ処理の説明図である。
【図7】FBトルク演算部の説明図である。
【図8】規範モデルの出力値の説明図である。
【図9】ブレーキオーバライド状態への移行及び解除を判定するためのオーバライド移行判定処理(a)及びオーバライド解除判定処理(b)のフローチャートである。
【図10】車速調整処理のフローチャートである。
【図11】ブレーキオーバライド中に走行抵抗が変化した場合の走行制御の再開タイミングを示す説明図である。
【図12】規範モデルの効果を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0114】
10…ナビゲーションECU、11…位置検出器、12…地図情報記憶部、20…走行制御ECU、21…Gセンサ、22…車輪速センサ、23…走行制御スイッチ、24…車速設定スイッチ、24…アクセルペダル操作量センサ、25…ブレーキペダル操作量センサ、30…エンジンECU、40…ブレーキECU、51…車速維持演算部、52…目標車軸トルク生成部、53…制駆動分配部、54…P/Tドライバモデル、55…駆動調停部、56…駆動要求トルク実現部、57…ブレーキドライバモデル、58…制動調停部、59…制動要求トルク実現部、61…FFトルク演算部、62…FBトルク演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態を目標走行状態に制御するための制御用制駆動力を演算する制駆動力演算手段と、
前記制駆動力演算手段により演算された制御用制駆動力で車両を走行させる走行制御を行う走行制御手段と、
を備える走行制御装置において、
前記制駆動力演算手段は、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた制駆動力を前記制御用制駆動力として演算し、
前記走行制御手段は、前記走行制御中に運転者によるブレーキ操作が行われてそのブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が前記制御用制駆動力に基づく制御要求減速量を上回ったと判定した時点で前記走行制御を中断し、前記ドライバ要求減速量が前記制御要求減速量又はブレーキ操作が解除されたことの判定基準となる解除判定減速量を下回ったと判定した時点で前記走行制御を再開すること
を特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記制駆動力演算手段は、少なくとも車両が走行中の道路の勾配を前記走行抵抗として検出すること
を特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には、前記フィードフォワード成分の演算に用いないか、若しくは、前記検出値に前記制限範囲で制限をかけた値を用いること
を特徴とする請求項2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値に対してノイズを除去するフィルタ処理を行うこと
を特徴とする請求項2又は請求項3に記載の走行制御装置。
【請求項5】
前記フィルタ処理は、道路勾配の検出値に対してある一定の時定数でフィルタ処理を行った場合の値とフィルタ処理を行う前の値との偏差が小さいほど大きい時定数で行うこと
を特徴とする請求項4に記載の走行制御装置。
【請求項6】
前記制駆動力演算手段は、前記フィードフォワード成分に加え、前記目標走行状態と実際の走行状態との差に応じたフィードバック成分が含まれた制駆動力を前記制御用制駆動力として演算するものであり、前記走行制御手段により前記走行制御が中断されている間は、前記フィードバック成分を前記走行制御が中断された時点での値に保持すること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項7】
前記制駆動力演算手段は、規範モデルからの出力値と実際の加速度との偏差に応じたフィードバック成分を演算するものであり、
前記規範モデルは、前記走行制御手段により前記走行制御が行われている間は目標加速度を出力し、前記走行制御が中断された時点で出力値を目標加速度から実際の加速度へ切り替え、前記走行制御が再開された時点で出力値を実際の加速度から目標加速度へ連続的に変化するように切り替えること
を特徴とする請求項6に記載の走行制御装置。
【請求項8】
前記制駆動力演算手段は、前記フィードバック成分として少なくとも積分成分を演算するものであり、前記走行制御手段により前記走行制御が中断された後、再開された時点での前記積分成分の演算値をリセットすること
を特徴とする請求項7に記載の走行制御装置。
【請求項9】
前記走行制御手段は、前記ドライバ要求減速量が、ブレーキ操作が行われたことの判定基準となる操作判定減速量及び前記制御要求減速量を上回ったと判定した時点で前記走行制御を中断すること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項10】
前記走行制御手段は、前記ドライバ要求減速量が、前記制御要求減速量を基準としてその制御要求減速量よりも低く設定される減速量を下回った場合に、前記ドライバ要求減速量が前記制御要求減速量を下回ったと判定すること
を特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項11】
車両の走行状態を目標走行状態に制御するための制御用制駆動力を演算する制駆動力演算手段と、
前記制駆動力演算手段により演算された制御用制駆動力で車両を走行させる走行制御を行う走行制御手段としてコンピュータを機能させるための走行制御プログラムであって、
前記制駆動力演算手段は、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた制駆動力を前記制御用制駆動力として演算し、
前記走行制御手段は、前記走行制御中に運転者によるブレーキ操作が行われてそのブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が前記制御用制駆動力に基づく制御要求減速量を上回ったと判定した時点で前記走行制御を中断し、前記ドライバ要求減速量が前記制御要求減速量又はブレーキ操作が解除されたことの判定基準となる解除判定減速量を下回ったと判定した時点で前記走行制御を再開すること
を特徴とする走行制御プログラム。
【請求項1】
車両の走行状態を目標走行状態に制御するための制御用制駆動力を演算する制駆動力演算手段と、
前記制駆動力演算手段により演算された制御用制駆動力で車両を走行させる走行制御を行う走行制御手段と、
を備える走行制御装置において、
前記制駆動力演算手段は、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた制駆動力を前記制御用制駆動力として演算し、
前記走行制御手段は、前記走行制御中に運転者によるブレーキ操作が行われてそのブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が前記制御用制駆動力に基づく制御要求減速量を上回ったと判定した時点で前記走行制御を中断し、前記ドライバ要求減速量が前記制御要求減速量又はブレーキ操作が解除されたことの判定基準となる解除判定減速量を下回ったと判定した時点で前記走行制御を再開すること
を特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記制駆動力演算手段は、少なくとも車両が走行中の道路の勾配を前記走行抵抗として検出すること
を特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値が道路構造令で定められている制限範囲に含まれていない場合には、前記フィードフォワード成分の演算に用いないか、若しくは、前記検出値に前記制限範囲で制限をかけた値を用いること
を特徴とする請求項2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記制駆動力演算手段は、道路勾配の検出値に対してノイズを除去するフィルタ処理を行うこと
を特徴とする請求項2又は請求項3に記載の走行制御装置。
【請求項5】
前記フィルタ処理は、道路勾配の検出値に対してある一定の時定数でフィルタ処理を行った場合の値とフィルタ処理を行う前の値との偏差が小さいほど大きい時定数で行うこと
を特徴とする請求項4に記載の走行制御装置。
【請求項6】
前記制駆動力演算手段は、前記フィードフォワード成分に加え、前記目標走行状態と実際の走行状態との差に応じたフィードバック成分が含まれた制駆動力を前記制御用制駆動力として演算するものであり、前記走行制御手段により前記走行制御が中断されている間は、前記フィードバック成分を前記走行制御が中断された時点での値に保持すること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項7】
前記制駆動力演算手段は、規範モデルからの出力値と実際の加速度との偏差に応じたフィードバック成分を演算するものであり、
前記規範モデルは、前記走行制御手段により前記走行制御が行われている間は目標加速度を出力し、前記走行制御が中断された時点で出力値を目標加速度から実際の加速度へ切り替え、前記走行制御が再開された時点で出力値を実際の加速度から目標加速度へ連続的に変化するように切り替えること
を特徴とする請求項6に記載の走行制御装置。
【請求項8】
前記制駆動力演算手段は、前記フィードバック成分として少なくとも積分成分を演算するものであり、前記走行制御手段により前記走行制御が中断された後、再開された時点での前記積分成分の演算値をリセットすること
を特徴とする請求項7に記載の走行制御装置。
【請求項9】
前記走行制御手段は、前記ドライバ要求減速量が、ブレーキ操作が行われたことの判定基準となる操作判定減速量及び前記制御要求減速量を上回ったと判定した時点で前記走行制御を中断すること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項10】
前記走行制御手段は、前記ドライバ要求減速量が、前記制御要求減速量を基準としてその制御要求減速量よりも低く設定される減速量を下回った場合に、前記ドライバ要求減速量が前記制御要求減速量を下回ったと判定すること
を特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項11】
車両の走行状態を目標走行状態に制御するための制御用制駆動力を演算する制駆動力演算手段と、
前記制駆動力演算手段により演算された制御用制駆動力で車両を走行させる走行制御を行う走行制御手段としてコンピュータを機能させるための走行制御プログラムであって、
前記制駆動力演算手段は、車両の走行に対する走行抵抗を加味したフィードフォワード成分が含まれた制駆動力を前記制御用制駆動力として演算し、
前記走行制御手段は、前記走行制御中に運転者によるブレーキ操作が行われてそのブレーキ操作により要求されるドライバ要求減速量が前記制御用制駆動力に基づく制御要求減速量を上回ったと判定した時点で前記走行制御を中断し、前記ドライバ要求減速量が前記制御要求減速量又はブレーキ操作が解除されたことの判定基準となる解除判定減速量を下回ったと判定した時点で前記走行制御を再開すること
を特徴とする走行制御プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図12】
【図8】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図12】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2010−132032(P2010−132032A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307552(P2008−307552)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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