説明

車両の駆動力制御装置

【課題】車両の走行抵抗が瞬間的に増減するような段差を通過する時、車速の変化を抑制するように目標駆動力を補正する。
【解決手段】
本発明における車両の駆動力制御装置は、車両の進行方向前方にある段差による路面の高さの変化量を検出し、運転者のアクセル踏込み量に基づいて算出される車両の目標駆動力を路面の高さの変化量に応じて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子制御スロットルバルブを用いて、車速及びアクセル操作量に基づいてスロットルバルブの開度を制御することで車両の駆動力を制御する技術が知られている。しかし、車速及びアクセル開度が一定でも走行中の路面勾配などが異なれば所望の加速度を生じるのに必要な駆動力も異なるので、例えば上り坂などではアクセル開度が一定のままでは車両が減速する。
【0003】
そこで、アクセル開度に基づいて算出した目標加減速度を実現するようにスロットルバルブの開度を制御し、目標加減速度と車速から算出した実加減速度とが一致していなければスロットルバルブの開度を補正することで、路面勾配などの変化によらず一定の加減速度を得ようとする技術が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2000−205015公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術では路面の高さが急変する段差を通過するときのように車両の走行抵抗が瞬間的に増減して車速が変化するような場合、通過後も変化した車速を復帰させようとしてスロットルバルブの補正が行われるので運転者の求める加減速度より大きな加減速度となって運転者に違和感を与える可能性がある。
【0005】
また、段差を通過するときに車速を復帰させようとして運転者がアクセル踏込み量を変化させた場合、運転者の求める加減速度よりもさらに大きな加減速度となる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、車両の走行抵抗が瞬間的に増減するような段差を通過する時、車速の変化を抑制するように目標駆動力を補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両の駆動力制御装置は、車両の目標駆動力と車両の進行方向前方にある段差による路面の高さの変化量とを検出し、路面の高さの変化量に応じて段差による走行抵抗の増減分を補償するように車両の目標駆動力を補正する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、路面の高さの変化量に応じて車両が通過する段差による走行抵抗の増減分を補償するように車両の目標駆動力を補正するので、段差通過時に車速の変化が抑制されて運転者に違和感を与えることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。図2は本実施形態における車両の駆動力制御装置を示す構成図である。エンジン102は車両100の駆動力を発生し、無段変速機103、ファイナルギア104を介して駆動輪105へと伝達される。スロットルアクチュエータ8は、エンジン102のスロットルバルブの開度を制御することでエンジン102の駆動力を制御する。スロットルアクチュエータ8は駆動力制御ECU10から送信されるエンジントルク指令値cTEに基づいてエンジンECU7によって制御される。
【0010】
無段変速機103はエンジン102の回転速度を無段階に変速して出力する。無段変速機103は駆動力制御ECU10から送信される変速比指令値cRATIOに基づいてトランスミッションECU6によって制御される。
【0011】
制御開始スイッチ1は、車両100の駆動力制御を実行するか否かを検出する。駆動力制御を実行する状態のときスイッチがオンとなり、駆動力制御を停止する状態のときオフとなる。ブレーキスイッチ2は、運転者がブレーキを踏んでいるか否かを検出する。運転者がブレーキを踏んでいるときスイッチはオンとなり、ブレーキを踏んでいないときオフとなる。超音波センサ3は、車両100の前方などに取り付けられた超音波発生装置から放射された超音波の反射波を解析することで車両前方にある縁石101を検知し、縁石101による路面の高さの変化量を検出する。縁石101によって路面が高くなるときは縁石101の高さを検出し、縁石101によって路面が低くなるときは走行中の路面からの下降量を検出する。アクセル操作量センサ4は、運転者によるアクセルペダルの踏込み量を検出する。車速センサ5は、タイヤの回転速度に基づいて車両100の実車速aVSPを検出する。トランスミッションECU6は、無段変速機103の実変速比aRATIOを検出する。
【0012】
駆動力制御ECU10は制御開始スイッチ信号、ブレーキスイッチ信号、縁石高さCurb_h、アクセル踏込み量APO、車速aVSP及び実変速比aRATIOに基づいてエンジントルク指令値cTE及び変速比指令値cRATIOを算出しそれぞれエンジンECU7及びトランスミッションECU6に送信する。
【0013】
図2は、本実施形態における車両の駆動力制御装置を示すブロック図である。駆動力制御ECU10は、マイクロコンピュータ及びその他の周辺部品によって構成され、制御開始スイッチ1、ブレーキスイッチ2、超音波センサ3、アクセル操作量センサ4、車速センサ5及びトランスミッションECU6から受信した信号に基づいてエンジンECU7及びトランスミッションECU6に対してそれぞれエンジントルク指令値cTE及び変速比指令値cRATIOを送信する。
【0014】
エンジンECU7は、駆動力制御ECU10から送信されたエンジントルク指令値cTEに基づいてスロットル開度を算出し、スロットルアクチュエータ8にスロットル開度信号を送信する。スロットルアクチュエータ8はスロットルバルブ開度信号に応じてエンジン102のスロットルバルブの開度を制御する。トランスミッションECU6は、駆動力制御ECU10から送信された変速比指令値cRATIOに基づいて無段変速機103の変速比を制御する。
【0015】
本実施形態の車両100の駆動力制御装置は以上のように構成され、駆動力制御ECU10はスロットルバルブの開度と無段変速機103の変速比を制御することで車両100の駆動力を制御し、車速の変化を抑制する。
【0016】
次に、駆動力制御ECU10で行う制御について説明する。なお、本制御は所定時間(例えば10ms)ごとに繰り返し行われている。本制御は、車速、アクセル踏込み量APO及び縁石101の高さに基づいてエンジントルク指令値cTE及び変速比指令値cRATIOを算出し、これらに基づいてスロットルバルブの開度及び無段変速機の変速比を制御しようとするものである。
【0017】
制御開始判定部20は、制御開始スイッチ信号及びブレーキスイッチ信号に基づいて駆動力制御を開始するか否かを判定して制御実行フラグfSTARTを出力する。制御実行フラグfSTARTは図3のフローチャートに示す制御によって設定される。
【0018】
すなわち、ステップS1では制御開始スイッチ1がオンであるか否かを判定し、オンであればステップS2へ進む。ステップS2では、ブレーキスイッチ2がオンであるか否かを判定し、オフであればステップS3へ進む。ステップS3では、制御実行フラグfSTARTを1に設定して処理を終了する。
【0019】
一方、ステップS1において制御開始スイッチ1がオフであると判定されたとき又はステップS2においてブレーキスイッチ2がオンであると判定されたときは、ステップS4へ進んで制御実行フラグfSTARTを0に設定して処理を終了する。ここで、ブレーキスイッチ2がオンであるとき、すなわち運転者がブレーキを踏んでいる状態のときはスロットルバルブ開度と変速比とを制御しても車速を制御できないので制御実行フラグfSTARTを0として制御を停止させる。
【0020】
図2に戻って縁石検出部30では、後述する走行抵抗推定部60から出力された走行抵抗推定値dv_Estに基づいて縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downを出力する。ここで、縁石検出フラグf_curb_upは縁石101の上昇部に進入したことを検出したとき1となり、縁石検出フラグf_curb_downは縁石101の下降部に進入したことを検出したとき1となる。縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downは図4のフローチャートに示す制御によって設定される。
【0021】
すなわち、ステップ11では最新の走行抵抗推定値dv_Est(n)を読み込む。ステップS12では、最新の走行抵抗推定値dv_Est(n)から前回処理時の走行抵抗推定値dv_Est(n−1)を減算して走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estを算出する。ステップS13では、変化量Δdv_Estが正の所定値D_UPより大きいか否かを判定する。所定値D_UPより大きければステップS14へ進み、最新の走行抵抗推定値dv_Est(n)から走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを減算した値が正の所定値Dpより大きいか否かを判定する。所定値Dpより大きければステップS15へ進み、所定値Dp以下であればステップS16へ進む。ステップS15では、縁石101の上昇部に進入したと判断して縁石検出フラグf_curb_upを1に設定してステップS23へ進む。ステップS16では、縁石101の下降部を通過したと判断して縁石検出フラグf_curb_downを0に設定してステップS23へ進む。
【0022】
一方、ステップS13において走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが所定値D_UP以下と判定されるとステップS17へ進み、走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが負の所定値D_DOWNより小さいか否かを判定する。所定値D_DOWNより小さいと判定されるとステップS18へ進み、最新の走行抵抗推定値dv_Est(n)から走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを減算した値が負の所定値Dmより小さいか否かを判定する。所定値Dmより小さいと判定されるとステップS19へ進み、所定値Dmより大きいと判定されるとステップS20へ進む。ステップS19では、縁石101の下降部に進入したと判断して縁石検出フラグf_curb_downを1に設定してステップS23へ進む。ステップS20では、縁石101の上昇部を通過したと判断して縁石検出フラグf_curb_upを0に設定してステップS23へ進む。
【0023】
一方、ステップS17において走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが所定値D_DOWN以上であると判定されるとステップS21へ進み、縁石検出フラグf_curb_upが0、かつf_curb_downが0であるか否かを判定する。縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downが両方とも0であると判定されるとステップS22へ進み、一方でも0であると判定されるとステップS23へ進む。ステップS22では、走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを算出してステップS23へ進む。
【0024】
ステップS23では、前回の走行抵抗推定値dv_Est(n−1)をステップS21で読み込んだ最新の走行抵抗推定値dv_Est(n)に更新して処理を終了する。
【0025】
図2に戻って移動距離演算部40は、車速aVSP及び縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downに基づいて移動距離dist_up、dist_downを出力する。移動距離dist_upは縁石101の上昇部に進入してからの移動距離を表し、移動距離dist_downは縁石101の下降部に進入してからの移動距離を表す。移動距離dist_up、dist_downは図5のブロック図に示す制御によって算出される。
【0026】
すなわち、積分処理部41では縁石検出フラグf_curb_upが1になったとき積分項を0に初期化し、車速aVSPを積分することで移動距離dist_upを算出する。ここで、sはラプラス演算子である。
【0027】
積分処理部42では縁石検出フラグf_curb_downが1になったとき積分項を0に初期化し、車速aVSPを積分することで移動距離dist_downを算出する。
【0028】
なお、縁石検出部30及び移動距離演算部40の制御についてはタイムチャートを参照しながら後に詳述する。
【0029】
図2に戻って駆動力制御部50は、アクセル踏込み量APO、車速aVSP、制御実行フラグfSTART、縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_down、移動距離dist_up、dist_down及び縁石高さCurb_hに基づいて駆動トルク指令値cTDRを算出する。駆動トルク指令値cTDRは図6のブロック図に示す制御によって算出される。
【0030】
すなわち、目標駆動トルクマップ51では車速aVSP、目標駆動トルクtTDR及びアクセル踏込み量APOの関係を示した図7のマップを参照して、アクセル踏込み量APO及び車速aVSPに基づいて目標駆動トルクtTDRを算出する。ここで、図7に示すように目標駆動トルクtTDRはアクセル踏込み量APOが大きいほど大きくなり、車速aVSPが高くなるほどトランスミッションのギア比が低くなるので小さくなる。
【0031】
エンジンモデル52、走行抵抗マップ53、加速度変換部54、目標加速度入力制限部55及び車速変換部56は規範モデルGR(s)を構成し、目標駆動トルクtTDR、車速aVSP、目標加速度tACC、縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_down、アクセル踏込み量APO、移動距離dist_up、dist_downに基づいて目標車速tVSPを算出する。
【0032】
車両100のパワートレインの挙動は、駆動トルク指令値cTDRを操作量とし、車速aVSPを制御量としてモデル化することによって、図8に示す簡易非線形モデルGP(s)で表すことができる。図8は平坦路を走行している車両100の特性を定義しているので、走行抵抗は車両100の転がり抵抗と空気抵抗となる。ここでLは無駄時間を表す。ただし、制御対象の特性にはパワートレイン系の遅れによる無駄時間も含まれることになり、使用するアクチュエータやエンジンによって無駄時間Lは変化する。
【0033】
図6に戻ってエンジンモデル52は、時定数τEmの一次遅れ及び制御対象と同じ無駄時間Lが設定された無駄時間処理により構成される。なお、時定数の一次遅れは以下の(1)式によって示される。
【0034】
re(s)=1/(τEm・s+1)・・・(1)
ここで、sはラプラス演算子である。
【0035】
走行抵抗マップ53は、入力された車速aVSPに基づいて走行抵抗を出力する。走行抵抗は車両100の転がり抵抗と空気抵抗との和である。
【0036】
加速度変換部54は、目標駆動トルクtTDRから走行抵抗を減算した値を車両100の質量Mとタイヤの有功半径Rtで除算することにより目標加速度tACCを算出する。
【0037】
目標加速度入力制限部55は、図9のブロック図に示すようにアクセル踏込み量制限部550及び移動距離制限部551によって構成され、アクセル踏込み量APO、縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_down、移動距離dist_up、dist_down及び目標加速度tACCに基づいて目標加速度入力tACC_INを算出する。
【0038】
アクセル踏込み量制限部550は図10に示すフローチャートによって制御が実行され、ステップS31では縁石検出フラグf_curb_upが0で、かつ縁石検出フラグf_curb_downが0であるか否かを判定する。いずれも0であればステップS32へ進み、アクセル踏込み量APOが所定値αより大きいか否か、すなわち運転者の加速要求が強いか否かを判定する。所定値αより大きければステップS33へ進み、目標加速度tACC_AにtACCを代入して処理を終了する。
【0039】
一方、ステップS31において縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downの少なくとも一方が0でない場合、又はステップS32においてアクセル操作量APOが所定値α以下である場合にはステップS34へ進み、目標加速度tACC_BにtACCを代入して処理を終了する。
【0040】
移動距離制限部551は図11に示すブロック図によって制御が実行される。すなわち目標加速度入力切替部551Aでは、目標加速度tACC_Bが0以上のときP_tACCにtACC_Bを代入し、目標加速度tACC_Bが0より小さいときM_tACCにtACC_Bを代入する。
【0041】
加速時目標加速度入力制限ゲイン演算部551Bでは、移動距離dist_upと加速時目標加速度入力制限ゲインP_tACC_limとの関係を示した図12のテーブルを参照して、移動距離dist_upに基づいて加速時目標加速度入力制限ゲインP_tACC_limを算出する。これにより、例えばゲインが0以上になる距離dist_up1をホイールベースの長さに設定することで、前輪が縁石101の上昇部に進入してから後輪が通過するまでの間、目標加速度入力tACC_INが0となり目標車速の上限値が縁石進入時の車速に制限される。
【0042】
減速時目標加速度入力制限ゲイン演算部551Cでは、移動距離dist_downと減速時目標加速度入力制限ゲインM_tACC_limとの関係を示した図13のテーブルを参照して、移動距離dist_downに基づいて減速時目標加速度入力制限ゲインM_tACC_limを算出する。これにより、例えばゲインが0以上になる距離dist_down1をホイールベースの長さに設定することで、前輪が縁石101の下降部に進入してから後輪が通過するまでの間、目標加速度入力tACC_INが0となり目標車速の下限値が縁石進入時の車速に制限される。
【0043】
目標加速度入力切替部551A、加速時目標加速度入力制限ゲイン演算部551B及び減速時目標加速度入力制限ゲイン演算部551Cによって算出された値に基づいて、目標加速度tACC_Bが0以上のとき目標加速度tACC_B’はP_tACCとP_tACC_limとを乗算することで算出され、目標加速度tACC_Bが0より小さいとき目標加速度tACC_B’はM_tACCとM_tACC_limとを乗算することで算出される。
【0044】
図9に戻って、アクセル踏込み量制限部550から出力された目標加速度tACC_Aと移動距離制限部551から出力された目標加速度tACC_B’とを加算することで目標加速度入力tACC_INを算出する。
【0045】
図6に戻って車速変換部56は、目標加速度入力tACC_IN、車速aVSP及び制御実行フラグfSTARTに基づいて目標車速tVSPを算出する。目標車速tVSPは図14のフローチャートに示す制御によって算出される。
【0046】
すなわち、ステップS41では制御実行フラグfSTARTが1であるか否かを判定する。制御実行フラグfSTARTが1であればステップS42へ進み、目標車速tVSPの前回値に目標加速度tACCと制御周期とを乗算した値を加算して目標車速tVSPとする。さらに、tVSP前回値を目標車速tVSPで更新して処理を終了する。
【0047】
一方、ステップS41において制御実行フラグfSTARTが0であると判定されたときはステップS43へ進み、目標車速tVSP及びtVSP前回値を実車速aVSPで更新して処理を終了する。
【0048】
図6に戻ってフィードバック補償器57(以下フィードバックを「F/B」と示す。)は、目標車速tVSPと実車速aVSPとの差分に基づいて実車速aVSPを目標車速tVSPに一致させるようなF/B出力を算出する。F/B補償器は例えば図6に示すように比例ゲインKP及び積分ゲインKIから構成されるPI補償器などがあり、F/B出力によって外乱やモデル化誤差による影響を抑制する。
【0049】
フィードフォワード出力補正用走行抵抗演算部58(以下、フィードフォワードを「F/F」と示す)は、縁石高さCurb_hとF/F出力補正用走行抵抗dv_FFとの関係を示した図15のテーブルを参照して、縁石高さCurb_hに基づいてF/F出力補正用走行抵抗dv_FFを算出する。
【0050】
F/F出力補正部59は、F/F出力補正用走行抵抗dv_FF及び縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downに基づいてF/F出力を補正する。すなわち、縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downが1であるときF/F出力にF/F出力補正用走行抵抗dv_FFを加算する。
【0051】
以上により得られたF/F出力とF/B出力とを加算して駆動トルク指令値cTDRを算出する。
【0052】
図2に戻って走行抵抗推定部60は、車速aVSP及び駆動トルク指令値cTDRに基づいて走行抵抗推定値dv_ESTを算出する。走行抵抗推定値dv_ESTは図16のブロック図に示す走行抵抗推定器によって推定される。
【0053】
走行抵抗推定値dv_Estは以下の(2)式によって算出される。
【0054】
dv_Est=cTDR・H(s)・e-Ls−H(s)/GV0(s)・aVSP
・・・(2)
ここで、H(s)は走行抵抗推定性能を決めるローパスフィルタであり、例えば以下の(3)式のように設定する。
【0055】
H(s)=1/(τC・s+1)・・・(3)
τCは1次遅れ時定数である。
【0056】
また、制御対象である車両100の線形近似モデルGV0(s)は積分特性で以下の(4)式で示される。
【0057】
V0(s)=(1/(M・Rt))・(1/s)・・・(4)
【0058】
図2に戻って駆動力分配部70は、駆動トルク指令値cTDR、車速aVSP及び実変速比aRATIOに基づいてエンジントルク指令値cTE及び変速比指令値cRATIOを算出する。エンジントルク指令値cTE及び変速比指令値cRATIOは図17のブロック図に示す制御によって算出される。
【0059】
すなわち、変速比指令値設定部71では車速aVSP、駆動トルクcTDR及び変速比の関係を示した図18のマップを参照して、車速aVSP及び駆動トルク指令値cTDRに基づいて変速比指令値cRATIOを算出する。ここで、図18のマップは無段変速機を用いた場合のマップである。
【0060】
エンジントルク指令値算出部72では駆動トルク指令値cTDR及び実変速比aRATIOに基づいて以下の(5)式を用いてエンジントルク指令値cTEを算出する。
【0061】
cTE=cTDR/(Gf・aRATIO)・・・(5)
ここで、Gfは減速装置の減速比である。
【0062】
図2に戻って、エンジントルク指令値cTEはエンジンECU7へ出力され、エンジントルク指令値cTEに基づいて算出したスロットルバルブ開度信号がスロットルアクチュエータ8に出力される。スロットルアクチュエータ8はスロットルバルブ開度信号に基づいてスロットルバルブを制御することでエンジン102の駆動トルクを制御する。また、変速比指令値cRATIOはトランスミッションECU6へ出力され、変速比指令値cRATIOに基づいて無段変速機103の変速比が制御される。
【0063】
ここで、図19を参照して縁石検出部30及び移動距離演算部40で行う制御について説明する。図19は、縁石通過時に本実施形態で行う制御のうち、特に縁石検出部30及び移動距離演算部40で行う制御について説明したタイムチャートである。なお、括弧内に対応する図4のフローチャートのステップ番号及び図19の図面の符号を示した。
【0064】
時刻t1において路面の高さが上昇する縁石101の上昇部に進入すると(図19(b))、走行抵抗推定値dv_Est(n)が上昇し、前回演算時の推定値dv_Est(n−1)との差である変化量Δdv_Estが所定値D_UPより大きくなる(図4−S13;Y、図19(c))。また、走行抵抗推定値dv_Est(n)とその平均値dv_Est_Aveとの差が所定値Dpより大きくなる(図4−S14;Y、図19(d))。これにより、縁石101の上昇部に進入したと判定されて縁石検出フラグf_curb_upが1にセットされる(図4−S15、図19(e))。また、縁石検出フラグf_curb_upが1にセットされたことで、移動距離dist_upが0にクリアされてから車速aVSPに基づいて演算される(図19(a))。
【0065】
時刻t2において縁石101の上昇部を通過すると(図19(b))、走行抵抗推定値dv_Est(n)が低下し、変化量Δdv_Estが所定値D_DOWNより小さくなる(図4−S17;Y、図19(c))。また、走行抵抗推定値dv_Est(n)とその平均値dv_Est_Aveとの差は所定値Dmより大きいので(図4−S18;N、図19(d))、縁石101の上昇部を通過したと判定されて縁石検出フラグf_curb_upが0にセットされる(図4−S20、図19(e))。
【0066】
時刻t3において路面の高さが低下する縁石101の下降部に進入すると(図19(a))、走行抵抗推定値dv_Est(n)が低下し、前回演算時の推定値dv_Est(n−1)との差である変化量Δdv_Estが所定値D_DOWNより小さくなる(図4−S17;Y、図19(c))。また、走行抵抗推定値dv_Est(n)とその平均値dv_Est_Aveとの差が所定値Dmより小さくなる(図4−S18;Y、図19(d))。これにより、縁石101の下降部に進入したと判定されて縁石検出フラグf_curb_downが1にセットされる(図4−S19、図19(f))。また、縁石検出フラグf_curb_downが1にセットされたことで、移動距離dist_downは0にクリアされてから車速aVSPに基づいて演算される(図19(a))。
【0067】
時刻t4において縁石101の下降部を通過すると(図19(b))、走行抵抗推定値dv_Est(n)が上昇し、変化量Δdv_Estが所定値D_UPより大きくなる(図4−S13;Y、図19(c))。また、走行抵抗推定値dv_Est(n)とその平均値dv_Est_Aveとの差は所定値Dpより小さいので(図4−S14;N、図19(d))、下りの縁石101を通過したと判定されて縁石検出フラグf_curb_downが0にセットされる(図4−S16、図19(f))。
【0068】
また、時刻t1以前、t2〜t3間及びt4以降において縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downはともに0であるので(図4−S21;Y)、走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを更新するが(図4−S22)、時刻t1〜t2間及びt3〜t4間では縁石検出フラグf_curb_up、f_curb_downの一方が1であるので更新しない(図4−S21;N)。
【0069】
以上の制御をまとめて図20〜22を参照しながら本実施形態の作用を説明する。図20は縁石101の上昇部を車両100が通過するシーンを示した図である。図21は従来例における車両100の状態を示したタイムチャートである。(a)は車速aVSP、(b)はアクセル踏込み量APO、(c)はスロットルバルブ開度補正量、(d)は走行抵抗、(e)は路面の高さCurb_hをそれぞれ示している。図22は本実施形態における車両100の状態を示したタイムチャートである。(a)は車速aVSP、(b)はアクセル踏込み量APO、(c)は目標駆動トルク補正量、(d)は走行抵抗、(e)は路面の高さCurb_hをそれぞれ示している。図21、22はいずれも図20に示すように車両100が縁石101の上昇部を通過しても、運転者のアクセル踏込み量が一定の状態で車速を一定に保つための制御を行う様子を示している。
【0070】
初めに図21を参照して従来例について説明する。時刻t1においてアクセル踏込み量が増大して車両100が発進する(図21(a)、(b))。時刻t2において路面の高さが上昇する上りの縁石101に進入すると走行抵抗が急激に増大して車速が低下する(図21(a)、(d)、(e))。そこで、スロットルバルブ開度補正量を増大させてスロットルバルブの開度を大きくすることで車両100の駆動トルクを増大させるが(図21(c))、縁石通過後も落ち込んだ車速を復帰させようとしてバルブ制御を続行するので運転者の求める加速度よりも大きな加速度となり、また実車速がオーバーシュートして目標車速に収束するまでに時間を要するので(図21(a))、運転者に不快感を与える。
【0071】
次に図22を参照して本発明を適用した場合の車両100の状態について説明する。時刻t1においてアクセル踏込み量が増大して車両100が発進する(図22(a)、(b))。時刻t2において路面の高さが上昇する上りの縁石101に進入すると走行抵抗が急激に増大する(図22(d)、(e))。このとき目標駆動トルク補正量に従って駆動トルクを補正するので(図22(c))、車両100の減速度の増大を抑制して車速の低下を抑制する(図22(a))。ここで、縁石101の高さは車両100が縁石101に進入する前に予め検出しており、この縁石高さに基づいて目標駆動トルク補正量を算出しているので、時刻t2において車両100が縁石101に進入したことを検出すると縁石の高さに応じて迅速に駆動トルクを補正することができ、車速の低下を最小限に抑制することができる。
【0072】
以上のように本実施形態では、車両100が通過する縁石101の高さに応じて駆動トルク指令値cTDRを補正するので、縁石101による走行抵抗の増減分を補償して、車速の変化を抑制することで運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0073】
また、駆動トルク指令値cTDRの補正は車両100が縁石101に進入した時に行うので、縁石101による走行抵抗の増減分をよりよく補償して車速の変化を抑制することができる。
【0074】
さらに、車両100の前輪が縁石101の上昇部に進入してから後輪が通過するまでの間、車速の上限値を制限するので、運転者のアクセル操作によって車両100が急加速することを防止できる。
【0075】
さらにまた、車両100の前輪が縁石101の上昇部に進入してから後輪が通過して運転者のアクセル踏込み量APOが所定値αより大きくなるまでの間、車速の上限値を制限するので、運転者のアクセル操作によって車両100が急加速することを防止できるとともに、縁石通過後に運転者の加速要求が強いときは車速制限を解除して所望の加速を実現できる。
【0076】
さらにまた、車速と目標駆動トルクとに基づいて推定される走行抵抗に基づいて車両100が縁石101に進入したことを検出するので、縁石101への進入を確実に判定することができ、縁石101による走行抵抗の増減分をよりよく補償して車速の変化をさらに抑制することができる。
【0077】
さらにまた、走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが正の所定値D_UPより大きく、かつ走行抵抗推定値dv_Estから走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを減算した値が正の所定値Dpより大きいとき、縁石101の上昇部に進入したと判定される。また、走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが負の所定値D_DOWNより小さく、かつ走行抵抗推定値dv_Estから走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを減算した値が負の所定値Dmより小さいとき、縁石101の下降部に進入したと判定される。よって、縁石101に進入したことを確実に判定することができ、縁石101による走行抵抗の増減分をよりよく補償して車速の変化をさらに抑制することができる。
【0078】
さらにまた、走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが正の所定値D_UPより大きく、かつ走行抵抗推定値dv_Estから走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを減算した値が正の所定値Dpより小さいとき、縁石101の下降部を通過したと判定される。また、走行抵抗推定値の変化量Δdv_Estが負の所定値D_DOWNより小さく、かつ走行抵抗推定値dv_Estから走行抵抗推定値の平均値dv_Est_Aveを減算した値が負の所定値Dmより大きいとき、縁石101の上昇部を通過したと判定される。よって、縁石101を通過したことを確実に判定することができ、縁石101による走行抵抗の増減分をよりよく補償して車速の変化をさらに抑制することができる。
【0079】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明と均等であることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態における車両の駆動力制御装置を示す構成図である。
【図2】本実施形態における車両の駆動力制御装置を示すブロック図である。
【図3】制御開始判定部の制御を示すフローチャートである。
【図4】縁石検出部の制御を示すフローチャートである。
【図5】移動距離演算部の制御を示すブロック図である。
【図6】駆動力制御部の制御を示すブロック図である。
【図7】車速、目標駆動トルク及びアクセル踏込み量の関係を示したマップである。
【図8】平坦路を走行している車両の特性を示すブロック図である。
【図9】目標加速度入力制限部の制御を示すブロック図である。
【図10】アクセル踏込み量制限部の制御を示すフローチャートである。
【図11】移動距離制限部の制御を示すブロック図である。
【図12】移動距離と加速時目標加速度入力制限ゲインとの関係を示したテーブルである。
【図13】移動距離と減速時目標加速度入力制限ゲインとの関係を示したテーブルである。
【図14】車速変換部の制御を示すフローチャートである。
【図15】縁石高さとF/F出力補正用走行抵抗との関係を示したテーブルである。
【図16】走行抵抗推定部の制御を示すブロック図である。
【図17】駆動力分配部の制御を示すブロック図である。
【図18】車速、変速比及び駆動トルクの関係を示したマップである。
【図19】縁石検出部及び移動距離演算部の制御内容を説明したタイムチャートである。
【図20】路面の高さが上昇する上りの縁石を車両が通過するシーンを示した図である。
【図21】従来例の制御を説明したタイムチャートである。
【図22】本発明の制御を説明したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0081】
1 制御開始スイッチ
2 ブレーキスイッチ
3 超音波センサ
4 アクセル操作量センサ
5 車速センサ
6 トランスミッションECU
7 エンジンECU
8 スロットルアクチュエータ
10 駆動力制御ECU
20 制御開始判定部
30 縁石検出部
40 移動距離演算部
50 駆動力制御部
51 目標駆動トルクマップ
52 エンジンモデル
53 走行抵抗マップ
54 加速度変換部
55 目標加速度入力制限部
550 アクセル踏込み量制限部
551 移動距離制限部
551A 目標加速度入力切替部
551B 加速時目標加速度入力制限ゲイン演算部
551C 減速時目標加速度入力制限ゲイン演算部
56 車速変換部
57 F/B補償器
58 F/F出力補正用走行抵抗演算部
59 F/F出力補正部
60 走行抵抗推定部
70 駆動力分配部
71 変速比指令値設定部
72 エンジントルク指令値算出部
100 車両
101 縁石
102 エンジン
103 無段変速機
104 ファイナルギア
105 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を発生するエンジンと、
アクセル踏込み量に基づいて車両の目標駆動力を算出する目標駆動力算出手段と、
前記車両の進行方向前方にある段差による路面の高さの変化量を検出する路面高さ変化量検出手段と、
前記路面の高さの変化量に基づいて前記段差通過時の走行抵抗の増減分が補償されるように前記目標駆動力を補正する目標駆動力補正手段と、
補正された前記目標駆動力を実現するように前記エンジンを制御する目標駆動力制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの回転速度を変速して駆動輪へと伝達する変速機をさらに備え、
前記目標駆動力制御手段は、補正された前記目標駆動力を実現するように前記エンジンのトルク及び前記変速機の変速比を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記車両が前記段差を通過中であることを検出する段差検出手段をさらに備え、
前記目標駆動力補正手段は、前記車両が前記段差に進入したとき前記路面の高さの変化量に基づいて前記目標駆動力を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記目標駆動力に基づいて前記車両の目標車速を算出する目標車速算出手段と、
車速を前記目標車速に近づけるように前記目標駆動力補正手段によって補正された目標駆動力を変更する目標駆動力変更手段と、
を備え、
前記車両が前記段差に進入したとき、前記目標駆動力の変更を所定時間だけ中止することを特徴とする請求項3に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記所定時間は、前記車両が前記段差に進入してから前記段差を通過するまでに要する時間であることを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記所定時間は、前記車両が前記段差に進入してから前記段差を通過して前記アクセル踏込み量が所定量より大きくなるまでの時間であることを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
車速及び前記目標駆動力に基づいて前記車両の走行抵抗を推定する走行抵抗推定手段をさらに備え、
前記段差検出手段は前記走行抵抗に基づいて前記車両が前記段差を通過中であることを検出することを特徴とする請求項3から6までのいずれか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項8】
前記段差検出手段は、前記走行抵抗の変化率が正の第1所定値より大きく、かつ前記走行抵抗から前記走行抵抗の所定回数の演算によって得られる平均値を減算した値が正の第2所定値より大きいとき、前記車両が路面の高さが上昇する段差に進入したと判定することを特徴とする請求項7に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項9】
前記段差検出手段は、前記走行抵抗の変化率が正の第1所定値より大きく、かつ前記走行抵抗から前記走行抵抗の所定回数の演算によって得られる平均値を減算した値が正の第2所定値より小さいとき、前記車両が路面の高さが低下する段差を通過したと判定することを特徴とする請求項7又は8に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項10】
前記段差検出手段は、前記走行抵抗の変化率が負の第3所定値より小さく、かつ前記走行抵抗から前記走行抵抗の所定回数の演算によって得られる平均値を減算した値が負の第4所定値より大きいとき、前記車両が路面の高さが上昇する段差を通過したと判定することを特徴とする請求7から9までのいずれか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項11】
前記段差検出手段は、前記走行抵抗の変化率が負の第3所定値より小さく、かつ前記走行抵抗から前記走行抵抗の所定回数の演算によって得られる平均値を減算した値が負の第4所定値より小さいとき、前記車両が路面の高さが低下する段差に進入したと判定することを特徴とする請求項7から10までのいずれか1項に記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−291863(P2006−291863A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114333(P2005−114333)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】