説明

車両制御装置及び車両制御方法

【課題】運転者に違和感を与えることなく車両の安定性を確保することができる車両制御装置及び車両制御方法を提供する。
【解決手段】目標ヨーレートφ´tと目標横速度Vytとに基づいて算出される目標前輪舵角θt及び目標後輪舵角δtに基づいて、前輪操舵アクチュエータ7及び後輪操舵アクチュエータ8を駆動制御して前輪操舵機構12及び後輪操舵機構15を駆動する。また、運転者による緊急操舵を検出したとき、その緊急度(緊急度判定値Kd)が高いほど各輪に付与する制動力を大きく設定する。これにより、緊急操舵時の車両の応答性を確保しつつ安定性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による前輪への操舵入力時に、前輪および後輪に補助舵角を与える車両制御装置及び車両制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪の操舵速度の絶対値が大きくなるほど、後輪の操舵によるヨーレート抑制制御の応答性を低くする四輪操舵車の後輪操舵制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の後輪操舵制御装置では、車両の状態が緊急回避状態であると判定した場合には、前輪の操舵速度の絶対値が大きくなるほど、後輪の操舵によるヨーレート抑制制御の応答性を高くする。これにより、緊急操舵時の車両の安定性を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−167102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の後輪操舵制御装置にあっては、ヨーレートの抑制制御の応答性を高くすると、ヨーレートが抑制されるために車両の進行方向が変化し難くなる。そのため、緊急操舵時における車両の安定性は確保できるものの、ヨーレートの発生が遅れるために運転者に違和感を与えてしまう。
そこで、本発明は、運転者に違和感を与えることなく車両の安定性を確保することができる車両制御装置及び車両制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両制御装置は、ステアリングの操舵角および車両の速度に基づいて設定される車両挙動の目標値である車両挙動目標値を、車輪の転舵角の制御によって発生させる車両挙動の目標値である転舵車両挙動目標値と、車輪の制動力の制御によって発生させる車両挙動の目標値である制動車両挙動目標値とに配分する。そして、転舵車両挙動目標値に基づいて設定される車両前輪の目標転舵角と車両後輪の目標転舵角とに基づいて、前輪操舵アクチュエータ及び後輪操舵アクチュエータを駆動制御する。また、制動車両挙動目標値に基づいて各輪を制動する制動力を制御する。運転者による緊急操舵を検出したとき、当該緊急操舵が非検出であるときと比べて制動車両挙動目標値を大きく設定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る車両制御装置によれば、運転者による緊急操舵時には、運転者が緊急操舵を行っていない場合と比較して各輪に付与する制動力が大きくなる。したがって、緊急操舵時における車両の安定性を向上することができる。また、転舵制御による車両の応答性は確保するので、ヨーレートの発生が遅れることに起因する違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明における車両制御装置の実施形態を示す全体構成図である。
【図2】操舵制御コントローラの制御ブロック図である。
【図3】目標値生成部の構成を示す制御ブロック図である。
【図4】目標値補正部及び目標出力値生成部の構成を示す制御ブロック図である。
【図5】目標ヨーレート補正係数マップである。
【図6】目標横速度補正係数マップである。
【図7】前輪補正係数マップである。
【図8】後輪補正係数マップである。
【図9】ブレーキ配分補正係数マップである。
【図10】操舵制御コントローラで実行される処理手順を示すフローチャートである。
【図11】緊急回避判断における第1の変形例を示すブロック図である。
【図12】緊急回避判断における第2の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
《第1の実施の形態》
《構成》
図1は、本発明に係る車両制御装置の実施形態を示す全体構成図である。
この図1に示すように、コラムシャフト13は、ステアリングホイール10と、前輪11L,11Rを操舵させる前輪操舵機構12とを連結する。そして、そのコラムシャフト13に操舵角センサ1と前輪操舵アクチュエータ7とを設ける。
【0009】
前輪操舵アクチュエータ7は、例えば、モータと減速機等を備える。そして、コラムシャフト13に、減速機を介してモータの出力軸を連結する。この前輪操舵アクチュエータ7は、前輪操舵コントローラ4からの舵角指令値により、コラムシャフト13を介して入力される回転を可変ギア比により減速又は増速して前輪操舵機構12のステアリングギアへ出力するものである。これにより、前輪11L,11Rの舵角(転舵角)に対するステアリングホイール10の操舵角の比であるステアリングギア比を可変に制御する。
【0010】
後輪操舵アクチュエータ8は、前輪操舵アクチュエータ7と同様に、モータと減速機等を備える。そして、後輪14L,14Rを転舵させる後輪操舵機構15のラック軸に、減速機を介してモータの出力軸を連結している。この後輪操舵アクチュエータ8は、後輪操舵コントローラ5からの舵角指令値により、後輪14L,14Rの舵角(転舵角)を可変に制御する。
【0011】
前輪操舵コントローラ4は、操舵制御コントローラ3で生成した目標前輪舵角と、前輪転舵角センサ16で検出した実際の前輪転舵角との偏差を無くすような舵角指令値を算出し、算出した舵角指令値を前輪操舵アクチュエータ7に出力する。
後輪操舵コントローラ5は、操舵制御コントローラ3で生成した目標後輪舵角と、後輪転舵角センサ17で検出した実際の後輪転舵角との偏差を無くすような舵角指令値を算出し、算出した舵角指令値を後輪操舵アクチュエータ8に出力する。
【0012】
操舵角センサ1は、コラムシャフト13に設けられ、コラムシャフト13の回転角を検出するパルスエンコーダ等を用いて、ステアリングホイール10の操舵角を検出し、車速センサ2は、各車輪に設けられた車輪速センサ(不図示)で検出された各車輪速の平均値等から車体速を検出する。
また、前輪11L,11R及び後輪14L,14Rには、夫々制動力を発生する例えばディスクブレーキで構成したブレーキアクチュエータ9を設ける。そして、これらブレーキアクチュエータ9の制動油圧は、ブレーキコントローラ6によって制御する。
【0013】
ブレーキコントローラ6は、操舵制御コントローラ3で生成した目標ブレーキ液圧(目標W/C液圧)と、各輪のブレーキ液圧とが一致するような液圧指令値をブレーキアクチュエータ9に出力する。
操舵制御コントローラ3は、操舵角センサ1で検出した操舵角と、車速センサ2で検出した車体速とに応じて、目標前輪舵角と目標後輪舵角とを生成する。そして、操舵制御コントローラ3は、目標前輪舵角を前輪操舵コントローラ4へ出力し、目標後輪舵角を後輪操舵コントローラ5へ出力する。さらに、操舵制御コントローラ3は、目標前輪舵角と目標後輪舵角と後述する目標ヨーレート及び目標横速度とに応じて、目標ブレーキ液圧を生成し、これをブレーキコントローラ6へ出力する。
【0014】
次に、操舵制御コントローラ3の構成について説明する。
図2は、操舵制御コントローラ3の制御ブロック図である。
操舵制御コントローラ3は、目標値生成部31と、緊急回避判断部32と、目標値補正部33と、目標出力値生成部34と、を備えている。
目標値生成部31は、操舵角センサ1からの操舵角θと車速センサ2からの車体速Vとに基づいて、2輪モデルを用いて車両パラメータを演算し、車両の目標ヨーレートφ´tと目標横速度Vytとを生成する。生成した目標ヨーレートφ´tと目標横速度Vytとは、目標値補正部33へ出力する。
【0015】
図3は、目標値生成部31の構成を示す制御ブロック図である。
目標値生成部31は、上記車両パラメータを演算する車両モデル演算部311と、目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytを演算する目標値演算部312とを備える。
先ず、車両モデル演算部311で実行する車両パラメータの算出方法について、具体的に説明する。
【0016】
(車両パラメータの算出)
一般に、2輪モデルを仮定すると、車両のヨー角加速度φ″と横加速度Vy´とは、下記(1)式および(2)式で表される。
φ″=a11φ´+a12y+bf1θ+br1δ ………(1)
y´=a21φ´+a22y+bf2θ+br2δ ………(2)
【0017】
以上の式において、a11、a12、a21、a22、bf1、bf2は次のように表される。
11=−2(Kf・Lf2+Kr・Lr2)/(Iz・Vx),
12=−2(Kf・Lf−Kr・Lr)/(Iz・Vx),
21={−M・Vx2−2(Kf・Lf−Kr・Lr)}/(M・Vx),
22=−2(Kf+Kr)/(M・Vx) ………(3)
f1=2Kf・Lf/(Iz・N),
f2=2Kf/M・N,
r1=−2Kr・Lr/Iz
r2=2Kr/M ………(4)
【0018】
ここで、各記号は、以下のパラメータを表している。
φ´:ヨーレート,
y:横速度,
x:前後速度,
θ:前輪操舵角(運転者操舵角),
δ:後輪操舵角,
z:車両慣性モーメント
【0019】
M:車両重量
f:前軸〜重心点距離,
r:重心点〜後軸距離,
N:ギア比,
f:前輪コーナリングパワー,
r:後輪コーナリングパワー
【0020】
状態方程式より前輪操舵に対するヨーレート、横速度の伝達関数を求めると、下記(5)式および(6)式となる。
φ´(s)/θ(s)=Hf(s)/G(s)
={bf1・s+(a12・bf2−a22・bf1)}/G(s) ………(5)
y(s)/θ(s)={bf2・s+(a21・bf1−a11・bf2)}/G(s) ………(6)
【0021】
上記(5)式において、G(s)=s2−(a11+a22)s+(a11・a22−a12・a21)とすると、上記(5)式で示すヨーレート伝達関数は下記(7)式のように表される。
φ´(s)={ωφ´(V)2 ・(Tφ´(V)s+gφ´(V))}・θ(s)
/{s2+2ζφ´(V)・ωφ´(V)・s+ωφ´(V)2} ………(7)
ここで、
gφ´(V)=(a12・bf2−a22・bf1)/(a11・a22−a12・a21),
ωφ´(V)2=a11・a22−a12・a21
2ζφ´(V)・ωφ´(V)=−a11−a22
Tφ´(V)=bf1/(a11・a22−a12・a21
である。
【0022】
また、同様に上記(6)式で示す横速度伝達関数は下記(8)式のように表される。
V(s)={ωVy(V)2 ・(TVy(V)s+gVy(V))}・θ(s)
/{s2+2ζVy(V)・ωVy(V)・s+ωVy(V)2} ………(8)
ここで、
gVy(V)=(a21・bf1−a11・bf2)/(a11・a22−a12・a21),
ωVy(V)2=a11・a22−a12・a21
2ζVy(V)・ωVy(V)=−a11−a22
TVy(V)=bf2/(a11・a22−a12・a21
である。
以上から、車両パラメータgφ´(V)、ζφ´(V)、ωφ´(V)、Tφ´(V)、gVy(V)、ζVy(V)、ωVy(V)、TVy(V)が求められる。
【0023】
次に、目標値演算部312で実行される目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytの算出方法について、具体的に説明する。
(目標ヨーレートの算出)
先ず、目標ヨーレートの算出方法について説明する。なお、以下の説明において、「t」の添え字はパラメータが目標値であることを示すものである。
【0024】
上記(7)式より、目標ヨー角加速度φ″t(s)は次式で表される。
φ″t(s)=−2ζφ´t(V)・ωφ´t(V)・φ´t(s)
+ωφ´t(V)2・Tφ´(V)・θ(s)
+(1/s)ωφ´t(V)2・(gφ´t(V)・θ(s)−φ´t(s)) ………(9)
【0025】
ここで、目標ヨーレートのパラメータ、gφ´t(V)、ωφ´t(V)、ζφ´t(V)、Tφ´(V)は、下記(10)式により表される。
gφ´t(V)=gφ´(V)×yrate_gain_map,
ωφ´t(V)=ωφ´(V)×yrate_omegn_map,
ζφ´t(V)=ζφ´(V)×yrate_zeta_map,
Tφ´t(V)=Tφ´(V)×yrate_zero_map ………(10)
【0026】
但し、yrate_gain_map,yrate_omegn_map,yrate_zeta_map,yrate_zero_mapは、チューニングパラメータである。
以上の結果から、目標ヨーレートφ´t(s)は、次式で表される。
φ´t(s)=(1/s)・φ″t(s) ………(11)
【0027】
(目標横速度の算出)
次に、目標横速度の算出方法について説明する。
上記(8)式より、目標横加速度Vy´t(s)は次式で表される。
y´t(s)=−2ζVyt(V)・ωVyt(V)・Vyt(s)
+ωVyt(V)2・TVy(V)・θ(s)
+(1/s)ωVyt(V)2・(gVyt(V)・θ(s)−Vyt(s)) ………(12)
【0028】
ここで、目標横速度のパラメータ、gVyt(V)、ωVyt(V)、ζVyt(V)、TVy(V)は、下記(13)式により表される。
gVyt(V)=gVy(V)×vy_gain_map,
ωVyt(V)=ωVy(V)×vy_omegn_map,
ζVyt(V)=ζVy(V)×vy_zeta_map,
TVyt(V)=TVy(V)×vy_zero_map ………(13)
【0029】
但し、vy_gain_map,vy_omegn_map,vy_zeta_map,vy_zero_mapは、チューニングパラメータである。
以上の結果から、目標横速度Vyt(s)は、次式で表される。
yt(s)=(1/s)・Vy´t(s) ………(14)
図2に戻って、緊急回避判断部32は、操舵角センサ1からの操舵角θと、車速センサ2からの車速Vとを入力し、緊急度判定値Kdを生成する。
【0030】
緊急回避判断部32は、先ず、操舵角θに基づいて、操舵角速度θ´及び操舵角加速度θ″を算出する。そして、操舵角速度θ´が所定角速度以上且つ操舵角加速度θ″が所定角加速度以上であるとき、緊急回避操作であると判断する。ここで、上記所定角速度および所定角加速度は、車速Vが大きいほど所定角速度および所定角加速度を小さく設定する。
また、このとき、操舵角速度θ´が大きいほど緊急度が高いと判断し、緊急度判定値Kdを高く算出する。なお、操舵角加速度θ″が大きいほど緊急度判定値Kdを高く算出することもできる。このようにして算出した緊急度判定値Kdは、目標値補正部33に出力する。
【0031】
なお、ここでは操舵角速度θ´及び操舵角加速度θ″を用いて緊急度判定値Kdを算出する場合について説明したが、操舵角加速度θ″は操舵トルクが大きいほど大きくなることから、操舵トルクに基づいて緊急度判定値Kdを算出することもできる。この場合、操舵トルクが所定値以上であるとき、緊急回避操作であると判断する。そして、操舵トルクが大きいほど緊急度が高いと判断し、緊急度判定値Kdを高く算出する。
このように、運転者による操舵状態を用いることで、適正に緊急回避操舵を検出することができる。
【0032】
次に、目標値補正部33と目標出力値生成部34との構成について説明する。
図4は、目標値補正部33及び目標出力値生成部34の構成を示す制御ブロック図である。
目標値補正部33は、目標値増減部331と、ステア・ブレーキ配分演算部332(目標値配分手段)とを備える。また、目標出力値生成部34は、前後輪舵角出力演算部341と、前後輪制御配分補正演算部342と、ブレーキ制御配分補正演算部343とを備える。
目標値増減部331は、緊急回避判断部32で出力した緊急度判定値Kdを入力し、緊急度判定値Kdをもとに目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytを補正する。
【0033】
具体的には、目標値増減部331は、先ず、緊急度判定値Kdに基づいて、図5に示す目標ヨーレート補正係数マップを参照し、目標ヨーレート補正係数kφ´tを算出する。ここで、目標ヨーレート補正係数マップは、横軸が緊急度判定値Kd、縦軸が目標ヨーレート補正係数kφ´tである。当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値φ´TH1までの範囲では目標ヨーレート補正係数kφ´tを“1”に算出し、緊急度判定値Kdが所定値φ´TH2より高い範囲では目標ヨーレート補正係数kφ´tを“1”より大きい一定値に算出するように設定する。さらに、当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値φ´TH1以上φ´TH2以下の範囲では、緊急度判定値Kdが高いほど目標ヨーレート補正係数kφ´tを“1”から上記一定値まで比例的に大きく算出するように設定する。
【0034】
そして、このようにして算出した目標ヨーレート補正係数kφ´tを、目標値生成部31で出力した目標ヨーレートφ´tに乗算し、補正後の目標ヨーレートφ´tを算出する。
φ´t=kφ´t×φ´t ………(15)
また、目標値増減部331は、緊急度判定値Kdに基づいて、図6に示す目標横速度補正係数マップを参照し、目標横速度補正係数kVytを算出する。ここで、目標横速度補正係数マップは、横軸が緊急度判定値Kd、縦軸が目標横速度補正係数kVytである。当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値VTH1までの範囲では目標横速度補正係数kVytを“1”に算出し、緊急度判定値Kdが所定値VTH2より高い範囲では目標横速度補正係数kVytを“1”より小さい一定値に算出するように設定する。さらに、当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値VTH1以上VTH2以下の範囲では、緊急度判定値Kdが高いほど目標横速度補正係数kVytを“1”から上記一定値まで比例的に小さく算出するように設定する。
【0035】
そして、このようにして算出した目標横速度補正係数kVytを、目標値生成部31で出力した目標横速度Vytに乗算し、補正後の目標横速度Vytを算出する。
yt=kVyt×Vyt ………(16)
上記補正により算出した目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytに基づいて転舵制御を行うことで、緊急度が高い場合には、補正前の値を用いた場合に対し回頭性・安定性を向上することができる。すなわち、通常制御時は、制御の違和感などを考慮して目標値(転舵制御特性)を設定するのに対し、緊急回避時には緊急回避性能を優先するように目標値(転舵制御特性)を設定する。
【0036】
算出した補正後の目標ヨーレートφ´t及び補正後の目標横速度Vytは、ステア・ブレーキ配分演算部332及び前後輪舵角出力演算部341にそれぞれ出力する。
ステア・ブレーキ配分演算部332は、緊急回避判断部32で出力した緊急度判定値Kdを入力し、ブレーキ制御量を演算するために用いる各種補正係数(制御分担補正値)を算出する。
【0037】
緊急回避時は、上述した目標値増減部331で目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytを補正して、車両の回頭性・安定性の向上を図っても、更に車両横加速度が大きい場合や車両のスリップ角が増大するような領域では、4輪ブレーキ制御を介入するのが効果的である。
そこで、ステア・ブレーキ配分演算部332は、ブレーキ制御を介入するために用いる前後輪補正係数αf,αrと、ブレーキ制御の割合を決定するために用いるブレーキ配分補正係数αBとを算出する。
【0038】
前輪補正係数αfは、緊急度判定値Kdに基づいて、図7に示す前輪補正係数マップを参照して算出する。ここで、前輪補正係数マップは、横軸が緊急度判定値Kd、縦軸が前輪補正係数αfである。当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値θTHまでの範囲では前輪補正係数αfを“1”に算出し、緊急度判定値Kdが所定値θTH以上の範囲では、緊急度判定値Kdが高いほど前輪補正係数αfを“1”から比例的に小さく算出するように設定する。
【0039】
また、後輪補正係数αrは、緊急度判定値Kdに基づいて、図8に示す後輪補正係数マップを参照して算出する。ここで、後輪補正係数マップは、横軸が緊急度判定値Kd、縦軸が後輪補正係数αrである。当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値δTHまでの範囲では後輪補正係数αrを“1”に算出し、緊急度判定値Kdが所定値δTH以上の範囲では、緊急度判定値Kdが高いほど後輪補正係数αrを“1”から比例的に小さく算出するように設定する。
【0040】
さらに、ブレーキ配分補正係数αBは、緊急度判定値Kdに基づいて、図9に示すブレーキ配分補正係数マップを参照して算出する。ここで、ブレーキ配分補正係数マップは、横軸が緊急度判定値Kd、縦軸がブレーキ配分補正係数αBである。当該マップは、緊急度判定値Kdが所定値BTHまでの範囲ではブレーキ配分補正係数αBを“1”に算出し、緊急度判定値Kdが所定値BTH以上の範囲では、緊急度判定値Kdが高いほどブレーキ配分補正係数αBを“1”から比例的に大きく算出するように設定する。
このようにして算出した前後輪補正係数αf,αrは、前後輪制御配分補正演算部342に出力する。また、ブレーキ配分補正係数αBはブレーキ制御配分補正演算部343に出力する。
【0041】
前後輪舵角出力演算部341は、目標値増減部331で出力した補正後の目標ヨーレートφ´t及び補正後の目標横速度Vytを入力し、目標前輪舵角θt及び後輪目標舵角δtを演算する。
上記(1)式及び(2)式より、目標ヨー角加速度φ″tと目標横加速度Vy´tとは、下記(17)式および(18)式で表される。
φ″t=a11φ´t+a12yt+bf1θt+br1δt ………(17)
Vy´t=a21φ´t+a22yt+bf2θt+br2δt ………(18)
【0042】
これらより、目標前輪舵角θtは下記(19)式、目標後輪舵角δtは下記(20)式により求められる。
θt=(br2(φ″t−(a11φ´t+a12yt))−br1(Vy´t−(a21φ´t+a22yt)))/(bf1・br2−bf2・br1) ………(19)
δt=(bf2(φ″t−(a11φ´t+a12yt))−bf1(Vy´t−(a21φ´t+a22yt)))/(bf1・br2−bf2・br1) ………(20)
【0043】
算出した目標前輪舵角θtは前輪操舵コントローラ4に出力し、目標後輪舵角δtは後輪操舵コントローラ5に出力する。また、目標前輪舵角θt及び目標後輪舵角δtは、前後輪制御配分補正演算部342にも出力する。
前後輪制御配分補正演算部342は、前後輪舵角出力演算部341で出力した目標前輪舵角θt及び後輪目標舵角δtと、ステア・ブレーキ配分演算部332で出力した前後輪補正係数αf,αrとを入力する。
【0044】
そして、目標前輪舵角θtに前輪補正係数αfを乗算して補正後の目標前輪舵角θ´tを算出する。
θ´t=αf×θt ………(21)
また、目標後輪舵角δtに後輪補正係数αrを乗算して補正後の目標後輪舵角δ´tを算出する。
δ´t=αr×δt ………(22)
【0045】
算出した補正後の目標前輪舵角θ´t及び補正後の目標後輪舵角δ´tは、ブレーキ制御配分補正演算部343に出力する。
ブレーキ制御配分補正演算部343は、目標値増減部331が出力した補正後の目標ヨーレートφ´t及び補正後の目標横速度Vytと、ステア・ブレーキ配分演算部332が出力したブレーキ配分補正係数αBと、前後輪制御配分補正演算部342が出力した補正後の目標前後輪舵角θ´t,δ´tとを入力し、これらに基づいて各輪の目標ブレーキ液圧Pbrtを算出する。
【0046】
本実施形態では、補正後の目標ヨー角加速度φ″tと目標ヨー角加速度φ″limtとの差分Δφ″t(=φ″t−φ″limt)を補正するために、4輪のブレーキを使用する。ここで、目標ヨー角加速度φ″limtは、補正後目標前後輪舵角θ´t,δ´tを前提に計算した、制限した目標ヨー角速度である。
前記(17)式より、
φ″limt=a11φ´t+a12yt+bf1θ´t+br1δ´t ………(23)
であるため、差分Δφ″tは下記(24)式で表される。
Δφ″t=φ″t−(a11φ´t+a12yt+bf1θ´t+br1δ´t) ………(24)
【0047】
前左右輪の目標ブレーキ液圧差Pbrft、及び後左右輪の目標ブレーキ液圧差Pbrrtは、左右ブレーキ液圧差により発生させるヨー角加速度Δφ″tから、
brft=Wf・Δφ″t/(Wf+Wr)・bpf,
brrt=Wr・Δφ″t/(Wf+Wr)・bpr ………(25)
となる。
【0048】
そして、前輪の左右輪のブレーキ液圧差が算出した目標ブレーキ液圧差Pbrftとなるように、及び後輪の左右輪の液圧差が算出した目標ブレーキ液圧差Pbrrtとなるように、各輪の目標ブレーキ液圧Pbrtを制御する。
ここで、
bpf=μpadf・Swcf・rf・Tf/IZ・Rf
bpr=μpadr・Swcr・rr・Tr/IZ・Rr ………(26)
である。また、各記号は以下のパラメータを表している。
【0049】
μpadf:前輪ブレーキパッド摩擦係数,
μpadr:後輪ブレーキパッド摩擦係数,
wcf:前輪ブレーキホイールシリンダ面積,
wcr:後輪ブレーキホイールシリンダ面積,
f:前輪ブレーキ有効半径,
r:後輪ブレーキ有効半径,
【0050】
f:前輪タイヤ動半径,
r:後輪タイヤ動半径,
f:前軸トレッド,
r:後軸トレッド,
f:前軸荷重,
r:後軸荷重
【0051】
なお、上記においては、前後輪舵角補正後のヨーレートを目標ヨーレートに一致させるように左左右輪に制動力差を発生させる場合を示した。しかしながら、これに限らず、前後輪舵角補正後の横速度を目標横速度に一致させるように左左右輪に制動力差を発生させることもできる。すなわち、左左右輪に制動力差を発生させてヨーレートを補償するか横速度を補償するかは適宜選択可能である。
また、上記においては、ブレーキ液圧差を前後輪の左右輪で発生させているが、これに限らず、例えば前輪の左右輪のみ、若しくは後輪の左右輪のみでブレーキ液圧差を発生させることもできる。
【0052】
《動作》
次に、本発明における実施形態の動作について説明する。
図10は、操舵制御コントローラ3で実行する処理手順を示すフローチャートである。
今、運転者がステアリング操作を行って、車両がカーブを旋回走行しているものとする。このとき、操舵角センサ1で検出した操舵角θおよび車速センサ2で検出した車体速Vを図2の目標値生成部31および緊急回避判断部32に入力する(ステップS1)。
【0053】
目標値生成部31は、操舵角θ及び車体速Vに基づいて、目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytを算出し(ステップS2)、これら目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytを図4に示す目標値補正部33の目標値増減部331に入力する。
また、緊急回避判断部32は、操舵角θ及び車体速Vに基づいて、運転者により緊急回避操舵が行われているか否かを判定する(ステップS3)。このとき、運転者が自車走行車線前方の障害物との接触回避をするために緊急操舵をしているものとすると、操舵角速度θ´及び操舵角速度θ″がそれぞれ所定値以上となる。そのため、緊急回避判断部32は、運転者は緊急回避操舵を行っていると判断して、緊急判定値Kdを比較的大きい値に算出する。
【0054】
そして、目標値増減部331にて、緊急判定値Kdをもとに目標値生成部31で算出した目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytに対する補正処理を行う(ステップS4)。このとき、緊急判定値Kdが所定値φ´TH1以上であるとすると、図5をもとに目標ヨーレート補正係数kφ´tを“1”より大きい値に設定し、目標ヨーレートφ´tを増加補正する。また、緊急判定値Kdが所定値VTH1以上であるとすると、図6をもとに目標横速度補正係数kVytを“1”より小さい値に設定し、目標横速度Vytを減少補正する。
【0055】
目標出力値生成部34の前後輪舵角出力演算部341は、補正後の目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytに基づいて、目標前輪舵角θt及び目標後輪舵角δtを算出する(ステップS5)。そして、これら目標前輪舵角θt及び目標後輪舵角δtを、それぞれ前輪操舵コントローラ4及び後輪操舵コントローラ5に出力する(ステップS6)。
前輪操舵コントローラ4は、前後輪舵角出力演算部341で算出した目標前輪舵角θtと実際の前輪転舵角との偏差を無くすような舵角指令値を前輪操舵アクチュエータ7に出力する。後輪操舵コントローラ5は、前後輪舵角出力演算部341で算出した目標後輪舵角δtと実際の後輪転舵角との偏差を無くすような舵角指令値を後輪操舵アクチュエータ8に出力する。これにより、前後輪に補助舵角を与えることができる。
【0056】
このように、運転者が緊急回避操舵を行っている場合には、操舵の緊急度が高いほど目標ヨーレートφ´tを増大するので、回頭性を向上した転舵制御を行うことができる。また、運転者が緊急回避操舵を行っている場合には、操舵の緊急度が高いほど目標横速度Vytを低減するので、車両安定性を向上した転舵制御を行うことができる。すなわち、緊急操舵時は転舵制御特性を高応答特性に変更し、回避性能を優先した転舵制御とすることができる。
【0057】
一方、運転者が緊急回避操舵を行っていない場合(通常操舵時)には、緊急回避判断部32で緊急操舵を行っていないと判断し、緊急判定値Kdを“0”とする。そのため、目標値増減部331は、図5及び図6をもとに、目標ヨーレート補正係数kφ´t及び目標横速度補正係数kVytをそれぞれ“1”に設定する。したがって、補正後の目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytは補正前と等しくなる。
このように、通常操舵時には転舵制御特性を通常応答特性とするので、違和感等を考慮した転舵制御とすることができる。
【0058】
次に、ステア・ブレーキ配分演算部332では、ブレーキ制御の割合(配分)を決定するための各種補正係数を演算する(ステップS7)。このとき、緊急判定値Kdが所定値θTH以上であるものとすると、前輪補正係数αfを“1”より小さい値に算出する。また、緊急判定値Kdが所定値δTH以上であるものとすると、後輪補正係数αrを“1”より小さい値に算出する。さらに、緊急判定値Kdが所定値BTH以上であるものとすると、ブレーキ配分補正係数αBを“1”より大きい値に算出する。
そして、前後輪制御配分補正演算部342は、前後輪補正係数αf,αrをもとに、前後輪舵角出力演算部341で算出した目標前後輪舵角θt,δtに対する補正処理を行う(ステップS8)。ここで、前後輪補正係数αf,αrは、それぞれ“1”より小さい値であるため、目標前後輪舵角θt,δtを減少補正することになる。
【0059】
ブレーキ制御配分補正演算部343は、減少補正後の目標前後輪舵角θ´t,δ´t、増加補正後の目標ヨーレートφ´t、減少補正後の目標横速度Vyt及びブレーキ配分補正係数αB(>1)を用いて、ブレーキ制御量の演算を行う(ステップS9)。ここでは、目標ヨー角加速度φ″tと、減少補正後の目標前後輪舵角θ´t,δ´tを前提に計算される目標ヨー角加速度φ″limtとの差分Δφ″tをブレーキ配分補正係数αBで補正した差分Δφbrake″tを補正するために必要な目標ブレーキ液圧Pbrtを算出する。すなわち、目標ブレーキ液圧Pbrtは、目標前後輪舵角θ´t,δ´tの減少補正量と、ブレーキ配分補正係数αBで決定したブレーキ制御の割合に応じた値となる。
【0060】
そして、ブレーキ制御配分補正演算部343は、算出した目標ブレーキ液圧Pbrtをブレーキコントローラ6へ出力する(ステップS10)。これにより、ブレーキコントローラ6は、目標ブレーキ液圧Pbrtと実際のブレーキ液圧との偏差を無くすような液圧指令値をブレーキアクチュエータ9に出力し、各輪の制動力を制御する。
目標前輪舵角θtを小さく補正すると、回頭側(オーバーステア側)のモーメントを出すようブレーキ制御することになり、前輪補正分の回頭性が向上する。また、目標後輪舵角δtを小さく補正すると、安定側(アンダーステア側)のモーメントを出すようブレーキ制御することになり、後輪補正分の安定性が向上する。
【0061】
緊急回避のような走行シーンでは、前後輪の転舵による制御を行っても十分にその効果が得られない場合がある。特に、車両の横加速度が大きい場合、タイヤのスリップ角が大きくなると、発生できる横力が切れ角の増加に対し増えなくなる。
そこで、本実施形態では、上述したように、緊急操舵時には“1”より小さい補正係数を掛けることで目標前後輪舵角θ´t,δ´tを小さく補正し、その値を用いてブレーキ制御量の演算を行う。これにより、同じ目標ヨーレートφ´t、目標横速度Vytを実現する場合でも、ブレーキ制御の割合を増大することができる。その結果、転舵制御の効果が飽和してくる領域でも、ブレーキ制御の介入により緊急回避操舵時における良好な車両制御特性を得ることができる。
【0062】
さらに、目標ブレーキ液圧Pbrtを演算する際、緊急操舵時には“1”より大きいブレーキ配分補正係数αBを用いて差分Δφ″tを補正する。このように、緊急操舵時には、操舵の緊急度が高いほどブレーキ制御量を大きくすることができ、車両安定性を向上させることができる。
また、このとき、前後輪舵角出力演算部341で算出した目標前後輪舵角θt,δt(補正前の目標前後輪舵角)を、そのまま前後輪操舵コントローラ4,5へ入力する。そのため、補正前の目標前後輪舵角θt,δtと実際の前後輪転舵角との偏差を無くすような転舵制御と、目標前後輪舵角θt,δtの補正分に応じたブレーキ制御とが併用されることになる。
【0063】
このように、転舵制御には、前後輪舵角出力演算部341で算出した補正前の目標前後輪舵角を用いるため、転舵制御の応答特性を低下することなくブレーキ制御による車両の安定性向上を図ることができる。
このように、本実施形態では、運転者により緊急回避操舵が行われているとき、ブレーキ制御を作動する。そして、このとき各輪に付与される制動力は、操舵の緊急度が高いほど大きく設定する。さらに、運転者により緊急回避操舵が行われているとき、車両の回頭性および安定性を向上するような転舵制御を行う。
【0064】
ところで、四輪操舵車両として、車両の状態が緊急回避状態であると判定した場合に、前輪の操舵速度の絶対値が大きくなるほど、後輪の操舵によるヨーレート抑制制御の応答性を高くするものがある。この場合、ヨーレートの抑制制御の応答性を高くことで、緊急操舵時の車両の安定性を確保している。
しかしながら、ヨーレートの抑制制御の応答性を高くすると、ヨーレートが抑制されるために車両の進行方向が変化し難くなる。そのため、緊急操舵時における車両の安定性は確保できるものの、ヨーレートの発生が遅れるために車両の応答性が低下し、運転者に違和感を与えてしまう。
【0065】
これに対して、本実施形態では、緊急操舵時に、その緊急度に応じたブレーキ制御を介入するので、車両の応答性を確保しつつ車両の安定性を向上することができる。その結果、上述したような運転者の違和感を抑制することができる。
なお、本実施形態においては、目標値生成部31(ステップS2)が車両挙動目標値設定手段を構成し、ステア・ブレーキ配分演算部332(ステップS7)が目標値配分手段を構成し、前後輪舵角出力演算部341(ステップS5)及び前後輪制御配分補正演算部342(ステップS8)が転舵角設定手段を構成している。
【0066】
また、前輪操舵コントローラ4及び後輪操舵コントローラ5が転舵制御手段を構成し、ブレーキ制御配分補正演算部343(ステップS9)、ブレーキコントローラ6及びブレーキアクチュエータ9がブレーキ制御手段を構成している。さらに、緊急回避判断部32(ステップS3)が緊急操舵検出手段を構成している。また、目標値増減部331(ステップS4)が応答性変更手段を構成している。
【0067】
《効果》
(1)車両挙動目標値設定手段は、運転者によって操舵されるステアリングの操舵角および車両の速度に基づいて、車両挙動の目標値である車両挙動目標値を設定する。目標値配分手段は、車両挙動目標値を、車輪の転舵角の制御によって発生させる車両挙動の目標値である転舵車両挙動目標値と、車輪の制動力の制御によって発生させる車両挙動の目標値である制動車両挙動目標値とに配分する。転舵角設定手段は、転舵車両挙動目標値に基づいて、車両前輪の目標転舵角と車両後輪の目標転舵角とをそれぞれ設定する。
【0068】
転舵制御手段は、転舵角設定手段によって設定された車両前輪の目標転舵角と車両後輪の目標転舵角とに基づいて、前輪操舵アクチュエータ及び後輪操舵アクチュエータを駆動制御する。ブレーキ制御手段は、制動車両挙動目標値に基づいて各輪を制動する制動力を制御する。緊急操舵検出手段は、運転者による緊急操舵を検出する。目標値配分手段は、前記緊急操舵検出手段で緊急操舵を検出したとき、当該緊急操舵が非検出であるときと比べて制動車両挙動目標値を大きく設定する。
【0069】
ブレーキ制御機能の方が転舵制御機能よりも応答性には優れていると共に、車両の挙動を安定させつつヨーレートを増大することができる。したがって、緊急操舵時にブレーキ制御の割合を大きくすることで、車両挙動を安定させながら、より車両応答性を向上させることができる。また、このとき、転舵制御による応答性は確保することができる。このように、緊急操舵時にヨーレートの発生が遅れることに起因する運転者の違和感を抑制しつつ、車両安定性を向上することができる。
また、運転者による操舵の緊急度が低い場合は、ブレーキ制御の割合を小さくするので、車両の応答性を確保しつつ、ブレーキ制御が介入することに起因する違和感を低減することができる。
【0070】
(2)車両挙動目標値は、車両のヨーレートの目標値及び横速度の目標値である。したがって、適正に車両挙動を安定化する制御を行うことができる。
(3)緊急操舵検出手段は、運転者の操舵角速度、操舵角加速度及び操舵トルクの少なくとも1つが所定値以上であるとき、緊急操舵であると判断する。したがって、運転者による緊急回避操舵を適正に検出することができる。
【0071】
(4)前記所定値は、自車速が速いほど小さく設定する。したがって、車両が高速走行中であるほど緊急操舵であると判断し易くすることができ、ブレーキ制御にて車両安定側に制御することができる。
(5)緊急操舵検出手段は、運転者の操舵角速度、操舵角加速度及び操舵トルクが大きいほど、操舵の緊急度を高く設定する。したがって、運転者による操舵状態をもとに、より適正に緊急回避操舵を検出することができる。
【0072】
(6)転舵制御手段は、緊急操舵検出手段で緊急操舵を検出したとき、その緊急度が高いほど転舵制御特性を高応答特性へ変更する応答性変更手段を備える。
したがって、操舵の緊急度が高いほど車両回頭性を高めることができ、緊急回避性能を優先した転舵制御とすることができる。また、通常操舵時は転舵制御特性を通常応答特性とするので、違和感等を考慮した転舵制御とすることができる。
【0073】
(7)応答性変更手段は、緊急操舵検出手段で緊急操舵を検出したとき、その緊急度が高いほど前記目標ヨーレートが大きくなるように補正することで、転舵制御特性を高応答特性へ変更する。したがって、比較的簡易な構成で、車両回頭性を確実に高めることができる。
(8)目標ヨーレートと目標横速度とに基づいて、前輪操舵アクチュエータ及び後輪操舵アクチュエータを駆動制御して前輪操舵機構及び後輪操舵機構を駆動し、運転者による緊急操舵を検出したとき、当該緊急操舵が非検出であるときより各輪に制動力が大きく付与されるようにブレーキ制御を行う。
したがって、緊急操舵時に、車両の応答性を確保しつつ車両の安定性を向上することができる。
【0074】
《変形例》
(1)上記実施形態においては、操舵の緊急度の判定に際し、運転者の操舵状態(操舵角速度、操舵角加速度、操舵トルク)を用いる場合について説明したが、上記操舵状態以外にも、自車両と自車両前方の物体との相対位置関係等を用いることができる。この場合、図11に示すように、車両前方に前方物体検出手段としての前方物体センサ18を設ける。前方物体センサ18としては、CCDカメラやスキャニング式のレーザレーダ等を用いることができる。
そして、緊急回避操作であると判断したとき、自車両と前方物体との車間距離Dが短いほど緊急度が高いと判定する。
【0075】
また、図12に示すように車間時間算出部19(車間時間算出手段)を設け、車間時間Tが短いほど緊急度が高いと判定することもできる。車間時間算出部19は、自車両と前方物体との車間距離Dと車体速Vとに基づいて、当該車間距離Dが予め定められた所定距離(例えば、0)となるまでの時間(車間時間T)を算出する。
これらにより、自車両の走行状態に応じて、より適正に緊急回避操舵を検出することができる。
【0076】
(2)上記実施形態においては、緊急操舵時における車両の回頭性・安定性を更に向上するために、目標値増減部331にて目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytを補正して転舵制御を行う場合について説明したが、この処理を省略することもできる。このとき、目標値生成部31で出力した目標ヨーレートφ´t及び目標横速度Vytに基づいて、目標前後輪舵角θt,δtを算出する。そして、これらを前後輪操舵コントローラ4,5に入力することで転舵制御を行う。
【0077】
この場合にも、前後輪制御配分補正演算部342では、緊急判定値Kdに応じて目標前後輪舵角θt,δtを補正する。そして、補正後の目標前後輪舵角θ´t,δ´tと緊急判定値Kdに応じて決定したブレーキ配分補正係数αBとに基づいてブレーキ制御を行う。そのため、ブレーキ制御により車両の回頭性・安定性を向上することができ、上記目標値増減部331の処理を実行した場合と同等の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 操舵角センサ
2 車速センサ
3 操舵制御コントローラ
4 前輪操舵コントローラ
5 後輪操舵コントローラ
6 ブレーキコントローラ
7 前輪操舵アクチュエータ
8 後輪操舵アクチュエータ
9 ブレーキアクチュエータ
10 ステアリングホイール
11 前輪
12 前輪操舵機構
14 後輪
15 後輪操舵機構
31 目標値生成部
32 緊急回避判断部
33 目標値補正部
34 目標出力値生成部
331 目標値増減部
332 ステア・ブレーキ配分演算部
341 前後輪舵角出力演算部
342 前後輪制御配分補正演算部
343 ブレーキ制御配分補正演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操舵されるステアリングの操舵角および車両の速度に基づいて、車両挙動の目標値である車両挙動目標値を設定する車両挙動目標値設定手段と、
前記車両挙動目標値を、車輪の転舵角の制御によって発生させる車両挙動の目標値である転舵車両挙動目標値と、車輪の制動力の制御によって発生させる車両挙動の目標値である制動車両挙動目標値とに配分する目標値配分手段と、
前記転舵車両挙動目標値に基づいて、車両前輪の目標転舵角と車両後輪の目標転舵角とをそれぞれ設定する転舵角設定手段と、
前輪操舵機構を駆動する前輪操舵アクチュエータと、
後輪操舵機構を駆動する後輪操舵アクチュエータと、
前記転舵角設定手段によって設定された車両前輪の目標転舵角と車両後輪の目標転舵角とに基づいて、前記前輪操舵アクチュエータ及び前記後輪操舵アクチュエータを駆動制御する転舵制御手段と、
前記制動車両挙動目標値に基づいて各輪を制動する制動力を制御するブレーキ制御手段と、
運転者による緊急操舵を検出する緊急操舵検出手段と、を備え、
前記目標値配分手段は、前記緊急操舵検出手段で緊急操舵を検出したとき、当該緊急操舵が非検出であるときと比べて制動車両挙動目標値を大きく設定することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記車両挙動目標値は、車両のヨーレートの目標値及び横速度の目標値であることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記緊急操舵検出手段は、運転者が操作するステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度及び操舵トルクの少なくとも1つが所定値以上であるとき、緊急操舵であると判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記所定値は、自車速が大きいほど小さく設定されていることを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記緊急操舵検出手段は、運転者が操作するステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度及び操舵トルクが大きいほど、操舵の緊急度を高く設定することを特徴とする請求項3又は4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
自車両前方の物体を検出する前方物体検出手段を有し、
前記緊急操舵検出手段は、自車両と前記前方物体検出手段で検出した前方物体との距離が短いほど、操舵の緊急度を高く設定することを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項7】
自車両前方の物体を検出する前方物体検出手段と、自車両から前記前方物体検出手段で検出した前方物体までの距離が所定距離に達するまでの車間時間を算出する車間時間算出手段と、を有し、
前記緊急操舵検出手段は、前記車間時間算出手段で算出した車間時間が短いほど、操舵の緊急度を高く設定することを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記転舵制御手段は、前記緊急操舵検出手段で緊急操舵を検出したとき、その緊急度が高いほど転舵制御特性を高応答特性へ変更する応答性変更手段を備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記応答性変更手段は、前記緊急操舵検出手段で緊急操舵を検出したとき、その緊急度が高いほど前記目標ヨーレートが大きくなるように補正することで、転舵制御特性を高応答特性へ変更することを特徴とする請求項8に記載の車両制御装置。
【請求項10】
車輪の転舵角の制御によって発生させる車両挙動の目標値である転舵車両挙動目標値と、車輪の制動力の制御によって発生させる車両挙動の目標値である制動車両挙動目標値とを設定し、
前記転舵車両挙動目標値に基づいて、車両前輪の目標転舵角と車両後輪の目標転舵角とをそれぞれ設定し、
前記車両前輪の目標転舵角と前記車両後輪の目標転舵角とに基づいて、前輪操舵アクチュエータ及び後輪操舵アクチュエータを駆動制御して前輪操舵機構及び後輪操舵機構を駆動し、
前記制動車両挙動目標値に基づいて各輪を制動する制動力を制御し、
運転者による緊急操舵を検出したとき、当該緊急操舵が非検出であるときと比べて制動車両挙動目標値を大きく設定することを特徴とする車両制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−158963(P2010−158963A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1905(P2009−1905)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】