説明

車両制御装置

【課題】アイドリングストップアンドスタート制御時において、クラッチ機構への負荷を軽減することができる車両制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンと、エンジンの動力が入力されるプライマリプーリと、エンジンの動力を駆動輪へ向けて出力するセカンダリプーリと、ベルトとを有するベルト式無段変速機と、エンジンの動力により、ベルト式無段変速機にオイルを供給可能な機械オイルポンプ24と、プライマリ油圧室58における油圧を制御可能な供給側および排出側油圧制御弁81a,81bと、セカンダリ油圧室63へ向けてオイルを供給可能なアキュムレータ73と、を備えた車両のECU14であって、車両の停止時においてエンジンを停止させる一方で、車両の発進時においてエンジンを始動させるアイドリングストップアンドスタート制御の実行時に、アキュムレータ73を作動させ、供給側および排出側油圧制御弁81a,81bを閉弁させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式無段変速機に供給される作動油の油圧を制御する油圧制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この油圧制御装置は、セカンダリプーリ油室へ向けて作動油を吐出する油圧ポンプと、油圧ポンプから吐出された作動油を蓄圧する蓄圧器とを備えている。油圧ポンプは、連結されるエンジンの動力により作動し、蓄圧器は、セカンダリプーリ油室へ向けて作動油を吐出する。そして、油圧制御装置は、ベルト式無段変速機の急変速動作時に、油圧ポンプおよび蓄圧器からセカンダリプーリ油室へ向けて作動油を供給することで、急変速動作に対応している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の燃費を向上させるべく、車両では、停止時においてエンジンを停止させる一方で、発進時においてエンジンを始動させるアイドリングストップアンドスタート制御(以下、S&S制御という)が実行される場合がある。この場合、エンジンの停止に伴って、油圧ポンプ(オイルポンプ)が停止し、ベルト式無段変速機への作動油の供給が停止する。このため、車両には、電動モータにより作動油を供給する電動オイルポンプが設けられ、S&S制御時には、電動オイルポンプからベルト式無段変速機へ向けて作動油が供給される。このとき、電動オイルポンプの作動油の吐出容量は、通常、機械オイルポンプの作動油の吐出容量に比べて小さい。このため、S&S制御時において、電動オイルポンプは、機械オイルポンプの作動油の吐出容量と、同量の作動油を供給することは困難である。よって、従来の油圧制御装置は、エンジンの停止時に、ABS作動時等にベルト滑りが懸念される状況では、蓄圧器からセカンダリプーリ油室へ向けて作動油を供給することにより、セカンダリプーリ油室における油圧を確保することができる。
【0005】
しかしながら、S&S制御によりエンジンが停止し、蓄圧器からセカンダリプーリ油室へ向けて作動油が供給されると、セカンダリプーリに挟圧力が生じて、セカンダリプーリに掛け渡されたベルトに張力が発生する。このとき、プライマリプーリ側には作動油が供給されていないため、ベルトに発生した張力により、プライマリプーリ油室から作動油が排出されて、プライマリプーリがダウンシフト側に作動する虞がある。プライマリプーリがダウンシフト側に作動すると、その分、プライマリプーリの回転数が高回転となってしまう。ここで、エンジンとベルト式無段変速機との間には、エンジンとプライマリプーリとを連結するクラッチ機構が設けられている。このため、クラッチ機構を挟んで、エンジン側の回転数とベルト式無段変速機側の回転数との差回転が大きくなってしまい、クラッチ機構によるエンジンとプライマリプーリとの連結時において、クラッチ機構に大きな負荷が加わってしまうことが想定される。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、アイドリングストップアンドスタート制御時において、クラッチ機構への負荷を軽減することができる車両制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両制御装置は、エンジンと、エンジンの動力が入力される第1プーリと、エンジンの動力を駆動輪へ向けて出力する第2プーリと、第1プーリと第2プーリとの間に掛け渡されたベルトとを有するベルト式無段変速機と、エンジンとベルト式無段変速機との間を連結して、エンジンの動力をベルト式無段変速機へ伝達するクラッチ機構と、エンジンの動力により、ベルト式無段変速機にオイルを供給可能なオイルポンプと、第1プーリの第1油圧室における油圧を制御可能な油圧制御弁と、ベルト式無段変速機の第2プーリの第2油圧室へ向けてオイルを供給可能な蓄圧器と、を備えた車両を制御可能な車両制御装置であって、車両の停止時においてエンジンを停止させる一方で、車両の発進時においてエンジンを始動させるアイドリングストップアンドスタート制御の実行時に、蓄圧器を作動させ、油圧制御弁を閉弁させることを特徴とする。
【0008】
この場合、油圧制御弁は、第1プーリの第1油圧室へ向けて供給されるオイルの油圧を制御可能な供給側油圧制御弁と、第1プーリの第1油圧室から排出されるオイルの油圧を制御可能な排出側油圧制御弁と、を有し、アイドリングストップアンドスタート制御の実行時に、供給側油圧制御弁および排出側油圧制御弁を同時に閉弁することが好ましい。
【0009】
この場合、車両は、エンジンとクラッチ機構との間を連結して、エンジンの動力をクラッチ機構へ伝達するロックアップ機構付きトルクコンバータと、をさらに備え、ベルト式無段変速機の変速比の変化量および変化率が、予め設定された設定変化量および設定変化率以内である場合、ロックアップ機構によるロックアップ係合を解除した後、クラッチ機構によるクラッチ係合を実行することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる車両制御装置は、アイドリングストップアンドスタート制御時において、蓄圧器を作動させて、第2プーリの第2油圧室へ向けてオイルを供給することができ、油圧制御弁を閉弁させて、第1プーリの第1油圧室の油圧を維持することができる。このため、第2プーリに挟圧力が生じて、ベルトに張力が発生しても、第1プーリは、ベルトの張力に抗う挟圧力を確保できるため、第1プーリがダウンシフト側へ作動し難くなる。よって、クラッチ機構の入力側と出力側との差回転の増加を抑制することができ、クラッチ機構への負荷を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係る実施形態のECUを適用した車両を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る実施形態のECUを適用した油圧制御装置を示す図である。
【図3】図3は、ECUによる油圧制御装置の油圧制御の一例を表したフローチャートである。
【図4】図4は、ECUによる前後進切換機構の係合制御の一例を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる車両制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
〔実施形態〕
図1は、本発明に係る実施形態のECUを適用した車両を示す図であり、図2は、本発明に係る実施形態のECUを適用した油圧制御装置を示す図である。図1に示すように、車両1は、動力源となるエンジン5と、エンジン5に連結されたトルクコンバータ6と、トルクコンバータ6に連結された前後進切換機構(クラッチ機構)7と、前後進切換機構7に連結されたベルト式無段変速機8とを備え、これらは車両1の動力伝達経路の一部を構成している。そして、図2に示すように、車両1は、動力伝達経路に作動油を供給可能な油圧制御装置13を備えている。この車両1は、車両1を制御する車両制御装置として機能するECU14により制御可能に構成される。
【0014】
エンジン5は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が用いられており、円筒形状に形成されるシリンダの中心軸方向にピストンが往復運動し、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト15から動力を出力する。
【0015】
トルクコンバータ6は、流体クラッチの一種であり、エンジン5から出力された動力を、作動油となるオイルを介して前後進切換機構7に伝えるものである。また、トルクコンバータ6は、ロックアップ機構を有しており、エンジン5からの出力トルクを増加させて、あるいはそのままの出力トルクで、前後進切換機構7に伝達する。
【0016】
ベルト式無段変速機8は、入力軸となるプライマリシャフト55と、出力軸となるセカンダリシャフト60とを有している。ベルト式無段変速機8は、前後進切換機構7から入力される動力により回転するプライマリシャフト55の回転速度を、車両1の運転状態に応じて、所望のセカンダリシャフト60の回転速度に変更して出力する。なお、トルクコンバータ6、前後進切換機構7およびベルト式無段変速機8の詳細な説明は後述する。
【0017】
従って、車両1において、エンジン5が駆動すると、エンジン5から出力された動力は、クランクシャフト15を介してトルクコンバータ6に伝達される。そして、トルクコンバータ6によって出力トルクが増幅された動力、あるいは出力トルクがそのまま伝達された動力は、前後進切換機構7に伝達され、前後進切換機構7によって所望の回転方向に変更される。所望の回転方向となった動力は、ベルト式無段変速機8に入力され、入力された動力により回転するプライマリシャフト55は、ベルト式無段変速機8の所定の変速比に応じて、セカンダリシャフト60の回転速度が変更される。ベルト式無段変速機8によって、回転速度が変更されたセカンダリシャフト60からの動力は、図示しない減速装置および差動装置を介して駆動輪に伝達され、駆動輪が回転することで、車両1が走行する。
【0018】
次に、トルクコンバータ6について説明する。トルクコンバータ6は、ポンプインペラ20と、タービンランナ21と、ステータ22と、ロックアップクラッチ23とを備えている。また、24は、エンジン5の動力により作動する機械オイルポンプ(オイルポンプ)である。
【0019】
ポンプインペラ20は、フロントカバー25に連結されており、フロントカバー25がエンジン5のドライブプレート26を介して、クランクシャフト15に連結されている。このため、ポンプインペラ20には、エンジン5から発生する動力がクランクシャフト15およびフロントカバー25を介して伝達され、伝達された動力をオイルを介してタービンランナ21に伝達する。
【0020】
タービンランナ21は、ポンプインペラ20と対向するように配置されており、タービンランナ21は、前後進切換機構7のインプットシャフト38に連結されている。このため、タービンランナ21は、ポンプインペラ20からオイルを介して伝達されたクランクシャフト15の動力を、出力側に配置された前後進切換機構7のインプットシャフト38に伝達する。
【0021】
ステータ22は、ポンプインペラ20とタービンランナ21との間に設けられており、ワンウェイクラッチ31を介して、図示しないハウジングに固定されている。
【0022】
ロックアップクラッチ23は、タービンランナ21とフロントカバー25との間に設けられており、インプットシャフト38に連結されている。ロックアップクラッチ23は、ポンプインペラ20やフロントカバー25により形成されるトルクコンバータ油圧室に、油圧制御装置13からオイルが供給され、このオイルの油圧により、締結動作および締結解除動作を行う。このため、ロックアップクラッチ23が締結動作を行うと、ポンプインペラ20とタービンランナ21とが締結し、クランクシャフト15の動力を、直接タービンランナ21へ伝達することが可能となる。
【0023】
次に、前後進切換機構7について説明する。前後進切換機構7は、遊星歯車機構41と、フォワードクラッチ42と、リバースブレーキ43とを備えている。遊星歯車機構41は、サンギヤ44と、ピニオン45と、リングギヤ46とにより構成されている。
【0024】
サンギヤ44は、インプットシャフト38に連結されており、ピニオン45は、サンギヤ44の周囲に複数個配置されている。各ピニオン45は、サンギヤ44の周囲で一体に公転可能に支持する切換用キャリヤ47に保持されている。この切換用キャリヤ47は、その外周端部においてフォワードクラッチ42を介して、インプットシャフト38に接続されている。リングギヤ46は、切換用キャリヤ47に保持された各ピニオン45と噛み合い、リバースブレーキ43に接続されている。
【0025】
フォワードクラッチ42は、油圧制御装置13から供給されるオイルにより、係合制御されるものである。フォワードクラッチ42の係合解除時には、インプットシャフト38に伝達されたエンジン5からの動力がサンギヤ44に伝達される。一方、フォワードクラッチ42の係合時には、切換用キャリヤ47とサンギヤ44と各ピニオン45とが互いに相対回転することなく、インプットシャフト38に伝達されたエンジン5からの動力が直接切換用キャリヤ47に伝達される。
【0026】
リバースブレーキ43は、油圧制御装置13から供給されるオイルにより、係合制御されるものである。リバースブレーキ43の係合時には、リングギヤ46が固定される。リバースブレーキ43の係合解除時には、リングギヤ46が解放される。
【0027】
従って、前後進切換機構7は、エンジン5の動力を車両1が前進する回転方向とする場合、フォワードクラッチ42を係合すると共に、リバースブレーキ43を係合解除する。一方で、前後進切換機構7は、エンジン5の動力を車両1が後進する回転方向とする場合、フォワードクラッチ42を係合解除すると共に、リバースブレーキ43を係合する。
【0028】
次に、ベルト式無段変速機8について説明する。ベルト式無段変速機8は、前後進切換機構7の出力側に連結されたプライマリプーリ(第1のプーリ)50と、プライマリプーリ50に対向して設けられたセカンダリプーリ(第2のプーリ)51と、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ51とに掛け渡されたベルト52とを備えている。
【0029】
プライマリプーリ50は、前後進切換機構7の出力側に連結されたプライマリシャフト55と、プライマリシャフト55に固定されたプライマリ固定シーブ56と、プライマリシャフト55に摺動自在に装着されたプライマリ可動シーブ57と、プライマリ固定シーブ56に対しプライマリ可動シーブ57を軸方向に移動させるためのプライマリ油圧室(第1油圧室)58とを有している。プライマリ固定シーブ56とプライマリ可動シーブ57とは互いに対向し合い、両者間には、略V字形状のプライマリ溝V1が形成される。
【0030】
プライマリシャフト55は、その軸心に、第1作動油路55aと、第2作動油路55bとを有している。第1作動油路55aは、プライマリ油圧室58と油圧制御装置13とを接続している。第1作動油路55aには、油圧制御装置13からプライマリ油圧室58にオイルが供給される。また、第2作動油路55bは、プライマリプーリ50を収容する空間と油圧制御装置13とを接続している。第2作動油路55bには、油圧制御装置13からプライマリプーリ50の被潤滑部に潤滑油となるオイルが供給される。また、プライマリシャフト55には、回転数を検出する入力軸回転センサ59が設けられ、入力軸回転センサ59は、ECU14に接続されている。
【0031】
プライマリ可動シーブ57は、プライマリ固定シーブ56に対して、プライマリシャフト55の軸方向に移動可能に構成されている。そして、油圧制御装置13から第1作動油路55aを介して供給されるオイルにより、プライマリ油圧室58内の油圧が制御されることで、プライマリ可動シーブ57は、プライマリシャフト55の軸方向に移動、すなわちプライマリ固定シーブ56に対して接近したり離れたりすることが可能となっている。
【0032】
同様に、セカンダリプーリ51も、プライマリシャフト55と平行に設けられたセカンダリシャフト60と、セカンダリシャフト60に固定されたセカンダリ固定シーブ61と、セカンダリシャフト60に摺動自在に装着されたセカンダリ可動シーブ62と、セカンダリ固定シーブ61に対しセカンダリ可動シーブ62を軸方向に移動させるセカンダリ油圧室63とを有している。セカンダリ固定シーブ61とセカンダリ可動シーブ62とは互いに対向し合い、両者間には、略V字形状のセカンダリ溝V2が形成される。
【0033】
セカンダリシャフト60は、その軸心に、第3作動油路60aを有している。第3作動油路60aは、セカンダリ油圧室63と油圧制御装置13とを接続している。第3作動油路60aには、油圧制御装置13からセカンダリ油圧室63にオイルが供給される。また、セカンダリシャフト60には、回転数を検出する出力軸回転センサ64が設けられ、出力軸回転センサ64は、ECU14に接続されている。
【0034】
セカンダリ可動シーブ62は、セカンダリ固定シーブ61に対して、セカンダリシャフト60の軸方向に移動可能に構成されている。そして、油圧制御装置13から第3作動油路60aを介して供給されるオイルにより、セカンダリ油圧室63内の油圧が制御されることで、セカンダリ可動シーブ62は、セカンダリシャフト60の軸方向に移動、すなわちセカンダリ固定シーブ61に対して接近したり離れたりすることが可能となっている。
【0035】
ベルト52は、金属製の無端ベルトであり、上記のプライマリ溝V1およびセカンダリ溝V2に巻き掛けられている。そして、プライマリ油圧室58およびセカンダリ油圧室63の油圧を制御して、プライマリプーリ50およびセカンダリプーリ51の各溝V1,V2の幅を適宜変更することで、ベルト52の巻き掛け半径が変更され、この結果、ベルト式無段変速機8の変速比が所望の変速比に設定される。なお、図示はしていないが、セカンダリプーリ51の油圧制御部も含まれている。
【0036】
次に、図2を参照して、油圧制御装置13について説明する。油圧制御装置13は、主となる油圧源である上記の機械オイルポンプ24と、補助となる油圧源である電動オイルポンプ71と、油圧源からオイルが供給される油圧制御回路72と、オイルを蓄圧するアキュムレータ(蓄圧器)73とを備えている。
【0037】
機械オイルポンプ24は、オイルパン75に貯留されているオイルを吸引、加圧し、吐出するものである。機械オイルポンプ24は、エンジン5の動力により作動可能となっている。このため、機械オイルポンプ24は、エンジン5の回転数の上昇に応じて、吐出されるオイルの吐出量が増量し、これにより、機械オイルポンプ24からの吐出圧が上昇する。そして、機械オイルポンプ24は、油圧制御回路72へ向けてオイルを供給する。
【0038】
電動オイルポンプ71は、オイルパン75に貯留されている作動油を吸引、加圧し、吐出するものである。電動オイルポンプ71は、バッテリ(図示省略)から供給される電力により作動する電動モータ77によって、オイルを供給可能となっている。そして、電動オイルポンプ71は、油圧制御回路72へ向けて作動油を供給する。このとき、電動オイルポンプ71によるオイルの吐出容量は、機械オイルポンプ24によるオイルの吐出容量に比して小さくなっている。なお、電動オイルポンプ71の吐出側には、逆止弁78が設けられており、オイルの逆流を防止している。
【0039】
アキュムレータ73は、機械オイルポンプ24から吐出されるオイルを貯留して蓄圧するものである。アキュムレータ73は、セカンダリ油圧室63へ向けてオイルを供給する。詳細は後述するが、アキュムレータ73は、S&S制御が実行されない場合に蓄圧するが、S&S制御が実行されると、セカンダリ油圧室63へ向けてオイルを供給する。
【0040】
油圧制御回路72は、スプール弁等で構成された油圧制御弁81と、電磁ソレノイド等で構成された電磁制御弁82と、複数の油路L1〜L3と、を有している。複数の油路L1〜L3は、プライマリ油圧室58へ向けてオイルを供給する第1油路L1と、プライマリ油圧室58からオイルを排出する第2油路L2と、セカンダリ油圧室63へ向けてオイルを供給する第3油路L3とを備えている。
【0041】
油圧制御弁81は、第1油路L1に設けられた供給側油圧制御弁81aと、第2油路L2に設けられた排出側油圧制御弁81bとを有している。供給側油圧制御弁81aは、第1油路L1を開閉可能に構成され、オイルが供給されることで開弁し、オイルが排出されることで閉弁する。供給側油圧制御弁81aは、開弁することでプライマリ油圧室58へオイルを供給する一方で、閉弁することでプライマリ油圧室58へオイルを供給しない。排出側油圧制御弁81bは、第2油路L2を開閉可能に構成され、オイルが供給されることで開弁し、オイルが排出されることで閉弁する。排出側油圧制御弁81bは、開弁することでプライマリ油圧室58からオイルを排出する一方で、閉弁することでプライマリ油圧室58からオイルを排出しない。
【0042】
電磁制御弁82は、供給側油圧制御弁81aを開閉動作させる供給側電磁制御弁82aと、排出側油圧制御弁81bを開閉動作させる排出側電磁制御弁82bと、第3油路L3に設けられた蓄圧開放電磁制御弁82cとを有している。供給側電磁制御弁82a、排出側電磁制御弁82bおよび蓄圧開放電磁制御弁82cは、ECU14に接続されている。供給側電磁制御弁82aは、ECU14による制御により、励磁状態となることで供給側油圧制御弁81aにオイルを供給し、消磁状態となることで供給側油圧制御弁81aからオイルが排出される。また、排出側電磁制御弁82bは、ECU14による制御により、励磁状態となることで排出側油圧制御弁81bにオイルを供給し、消磁状態となることで排出側油圧制御弁81bからオイルが排出される。さらに、蓄圧開放電磁制御弁82cは、ECU14による制御により、励磁状態となることでセカンダリ油圧室63にオイルを供給し、消磁状態となることでセカンダリ油圧室63にオイルを供給しない。
【0043】
ここで、プライマリ油圧室58の油圧制御について説明する。ECU14は、プライマリ油圧室58の油圧を上昇させる場合、供給側電磁制御弁82aを励磁させる一方で、排出側電磁制御弁82bを消磁させる。供給側電磁制御弁82aが励磁すると、供給側油圧制御弁81aにオイルが供給されることで、供給側油圧制御弁81aが開弁し、プライマリ油圧室58にオイルが供給される。一方、排出側電磁制御弁82bが消磁すると、排出側油圧制御弁81bからオイルが排出されることで、排出側油圧制御弁81bが閉弁し、プライマリ油圧室58からオイルが排出されない。これにより、プライマリ油圧室58の油圧が上昇する。
【0044】
一方で、ECU14は、プライマリ油圧室58の油圧を下降させる場合、供給側電磁制御弁82aを消磁させる一方で、排出側電磁制御弁82bを励磁させる。供給側電磁制御弁82aが消磁すると、供給側油圧制御弁81aからオイルが排出されることで、供給側油圧制御弁81aが閉弁し、プライマリ油圧室58にオイルが供給されない。一方、排出側電磁制御弁82bが励磁すると、排出側油圧制御弁81bにオイルが供給されることで、排出側油圧制御弁81bが開弁し、プライマリ油圧室58からオイルを排出する。これにより、プライマリ油圧室58の油圧が下降する。
【0045】
以上のように、油圧制御装置13は、機械オイルポンプ24および電動オイルポンプ71の少なくともいずれか一方から油圧制御回路72へオイルが供給され、ECU14により油圧制御回路72が制御されることで、プライマリ油圧室58およびセカンダリ油圧室63の油圧を制御して、ベルト式無段変速機8の変速比を所望の変速比に制御することができる。
【0046】
また、油圧制御装置13は、フォワードクラッチ42およびリバースブレーキ43へ供給されるオイルの油圧を制御して、前後進切換機構7における前進または後進の切換を制御することができる。さらに、油圧制御装置13は、ロックアップクラッチ23へ供給されるオイルの油圧を制御して、トルクコンバータ6におけるロックアップクラッチ23の締結動作および締結解除動作を制御することができる。
【0047】
ECU14は、車両1を制御しており、例えば、車両1の動力伝達経路の一部であるエンジン5やベルト式無段変速機8等を制御している。具体的に、ECU14は、車両1の各所に取り付けられたセンサから入力された各種入力信号や各種マップに基づいて、エンジン5の運転を制御している。例えば、エンジン5において、ECU14は、図示しない燃料噴射弁の噴射制御、エンジン5の吸入空気量を制御する図示しないスロットルバルブのスロットル開度制御、図示しない点火プラグの点火制御等を行っている。
【0048】
また、ECU14は、車両1の各所に取り付けられたセンサから入力された各種入力信号や各種マップに基づいて、ベルト式無段変速機8の駆動を制御、特に変速比を制御していると共に、前後進切換機構7の前後進の切換を制御している。つまり、ECU14は、電動オイルポンプ71の作動制御、油圧制御回路72の油圧制御等を行うことにより、トルクコンバータ6、前後進切換機構7およびベルト式無段変速8を制御している。
【0049】
すなわち、ECU14は、エンジン5の燃料噴射弁、スロットルバルブ、点火プラグに接続されると共に、電動オイルポンプ71および油圧制御回路72に接続されており、種々のセンサが検出するエンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度などの運転状態などに基づいて、これらの駆動を制御している。
【0050】
ここで、ECU14は、車両1の燃費向上を図るべく、車両1の停止時にエンジン5を停止させると共に、車両1の発進時にエンジン5を始動させるアイドリングストップアンドスタート制御(以下、S&S制御という)を実行している。なお、車両1の停止時とは、車両1の停止だけでなく、車両1が停止する直前の車両1の減速状態も含む意である。以下、ECU14によるS&S制御について具体的に説明する。
【0051】
車両1が減速して停止しようとすると、ECU14は、車両1が停止すると判定し、エンジン5を停止させる。なお、エンジン5の停止とは、エンジン5に設けられた燃料噴射弁からの燃料噴射を停止することである。燃料噴射の停止後、エンジン5が停止すると、機械オイルポンプ24の作動が停止してしまうため、油圧制御回路72へ向けてオイルを供給することができない。このため、ECU14は、エンジン5の停止と同時に、電動モータ77を作動させて、電動オイルポンプ71を作動させることにより、油圧制御回路72へ向けてオイルを供給する。このとき、電動オイルポンプ71の吐出容量は、機械オイルポンプ24の吐出容量に比して小さい。このため、プライマリ油圧室58およびセカンダリ油圧室63へ供給されるオイルの油圧が低下し、また、前後進切換機構7へ供給されるオイルの油圧が低下する。このとき、ECU14は、蓄圧開放電磁制御弁82cを開弁制御して、アキュムレータ73に蓄圧したオイルを開放することで、セカンダリ油圧室63へ向けてオイルを供給する。
【0052】
前後進切換機構7へ供給されるオイルの油圧が低下すると、前後進切換機構7では、フォワードクラッチ42およびリバースブレーキ43の係合が解除される。これにより、前後進切換機構7では、エンジン5からベルト式無段変速機8への動力伝達が遮断される。
【0053】
プライマリ油圧室58へ供給されるオイルの油圧が低下すると、プライマリ溝V1の幅は広がり易くなる。一方で、セカンダリ油圧室63にはアキュムレータ73からオイルが供給されて油圧が上昇し、セカンダリプーリ51に挟圧力が生じる。これにより、セカンダリ可動シーブ62はベルト52側へ押圧されるため、セカンダリ溝V2の幅は狭まる。セカンダリ溝V2の幅が狭まると、ベルト52に張力が加わり、ベルト52に発生した張力により、プライマリプーリ51がダウンシフト側に作動し易くなる。これにより、ベルト式無段変速機8は、その変速比が発進側(ロー側)へ変化し易くなる。
【0054】
そこで、ECU14は、S&S制御時において、図3に示す油圧制御装置13の油圧制御を行っている。図3は、ECUによる油圧制御装置の油圧制御の一例を表したフローチャートである。先ず、ECU14は、S&S制御が実行中であるか否かを判定する(ステップS10)。つまり、ECU14は、車両1が停止すると判定してエンジン5を停止させると、S&S制御を実行したと判定する(Yes)。一方で、ECU14は、S&S制御が実行中でないと判定する(No)と、油圧制御を終了する。
【0055】
ECU14は、S&S制御が実行中であると判定すると、アキュムレータ73の蓄圧が開放されたか否かを判定する(ステップS11)。つまり、ECU14は、蓄圧開放電磁制御弁82cを開弁させると、アキュムレータ73の蓄圧が開放された(Yes)と判定する。一方で、ECU14は、アキュムレータ73の蓄圧が開放されていないと判定する(No)と、油圧制御を終了する。
【0056】
続いて、ECU14は、アキュムレータ73の蓄圧が開放されたと判定すると、供給側電磁制御弁82aおよび排出側電磁制御弁82bを消磁させるように制御して、供給側油圧制御弁81aおよび排出側油圧制御弁81bを同時に閉弁する(ステップS12)。供給側油圧制御弁81aおよび排出側油圧制御弁81bが閉弁されると、プライマリ油圧室58は、オイルの供給も排出も行われないため、プライマリ油圧室58内の油圧が維持される。このため、S&S制御時において、プライマリ油圧室58内の油圧は低下し難くなり、セカンダリ溝V2の幅が狭まってベルト52に張力が加わっても、プライマリプーリ50がダウンシフト側に作動し難くなる。これにより、ベルト式無段変速機8は、その変速比が発進側(ロー側)へシフトダウンし難くなる。
【0057】
この後、ECU14は、S&S制御の実行の解除時において、供給側油圧制御弁81aおよび排出側油圧制御弁81bが開弁されることによるベルト式無段変速機8の急変速動作を抑制すべく、変速動作に関するフィードバック制御の積分項をクリアにする(ステップS13)。
【0058】
図3に示す油圧制御装置13の油圧制御により、ベルト式無段変速機8は、その変速比が発進側(ロー側)へシフトダウンし難くなる。換言すれば、ベルト式無段変速機8は、その変速比を維持、または、緩やかにシフトダウンさせることができる。このとき、ベルト式無段変速機8が緩やかにシフトダウンする場合には、ECU14は、図4に示す前後進切換機構7の係合制御を行っている。図4は、ECUによる前後進切換機構の係合制御の一例を表したフローチャートである。
【0059】
先ず、ECU14は、図3に示す油圧制御装置13の油圧制御を行った後(ステップS20)、入力軸回転センサ59および出力軸回転センサ64による検出結果に基づいて、ダウンシフトが発生しているか否かを判定する(ステップS21)。ECU14は、ダウンシフトが発生していると判定する(Yes)と、ダウンシフトの変化量および変化率が、予め設定された設定変化量および設定変化率(所定値)以内であるか否かを判定する(ステップS22)。一方で、ECU14は、ダウンシフトが発生していないと判定する(No)と、前後進切換機構7の係合制御を終了する。なお、設定変化量および設定変化率は、前後進切換機構7の係合制御により、フォワードクラッチ42およびリバースブレーキ43が係合したときに、フォワードクラッチ42およびリバースブレーキ43に加わる負荷が許容可能であるか否かを判定するためのしきい値である。
【0060】
ECU14は、ダウンシフトの変化量および変化率が予め設定された設定変化量および設定変化率以内であると判定する(Yes)と、トルクコンバータ6のロックアップクラッチ23の締結を解除するように、油圧制御回路72を制御する(ステップS23)。一方で、ECU14は、ダウンシフトの変化量および変化率が予め設定された設定変化量および設定変化率よりも大きいと判定する(No)と、設定変化量および設定変化率以内となるまで、ステップS22を繰り返す。ステップS23の後、ECU14は、前後進切換機構7のクラッチを係合する(ステップS24)。つまり、ECU14は、車両1が前進する場合は、フォワードクラッチ42を係合制御し、また、車両1が後進する場合は、リバースブレーキ43を係合制御する。そして、ECU14は、前後進切換機構7を係合制御すると、エンジン始動時に大きな負荷が加わることから、エンジントルクが大きくなるように、エンジントルクを変更制御する(ステップS25)。
【0061】
以上の構成によれば、ECU14は、アイドリングストップアンドスタート制御時において、アキュムレータ73を作動させて、セカンダリプーリ51のセカンダリ油圧室63へ向けてオイルを供給することができる。また、ECU14は、供給側油圧制御弁81aおよび排出側油圧制御弁81bを同時に閉弁させて、プライマリプーリ50のプライマリ油圧室58の油圧を維持することができる。このため、セカンダリプーリ51に挟圧力が生じて、ベルト52に張力が発生しても、プライマリプーリ50は、ベルト52の張力に抗う挟圧力を確保できるため、プライマリプーリ50がダウンシフト側へ作動し難くなる。よって、ECU14は、S&S制御時において、前後進切換機構7の入力側と出力側との差回転の増加を抑制することができ、前後進切換機構7のクラッチ係合時における負荷を軽減することができる。これにより、前後進切換機構7のクラッチの摩耗寿命を長くすることができる。また、ベルト式無段変速機8は、S&S制御前後において、変速比が変わり難くなるため、車両1を運転するドライバーの違和感を軽減することができる。さらに、従来では、前後進切換機構7の入力側と出力側との差回転を小さくするために、ベルト式無段変速機8の変速比を、一旦ハイ側へシフトアップするように変速制御をしていたが、この変速制御を行う必要がない分、車両1の発進時における応答性を確保することができる。
【0062】
また、ECU14は、供給側油圧制御弁81aおよび排出側油圧制御弁81bを同時に閉弁させることができるため、ベルト52の張力によりプライマリ油圧室58の油圧が上昇しても、排出側油圧制御弁81bにおける第2油路L2からのオイルの流出はもちろん、供給側油圧制御弁81aにおける第1油路L1からのオイルの逆流を抑制することができる。
【0063】
また、ECU14は、S&S制御時における油圧制御後、ベルト式無段変速機8がダウンシフトした場合、ダウンシフトの変化量および変化率が設定変化量および設定変化率以内であれば、トルクコンバータ6のロックアップクラッチ23を締結解除し、前後進切換機構7を係合制御することができる。これにより、ECU14は、前後進切換機構7の入力側と出力側との差回転が大きくなる前に、前後進切換機構7を係合制御することができるため、前後進切換機構7の係合時における負荷をさらに軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明にかかる車両制御装置は、エンジンとベルト式無段変速機とを備えた車両に有用であり、特に、前後進切換機構のクラッチの摩耗寿命を長くする場合に適している。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
5 エンジン
6 トルクコンバータ
7 前後進切換機構
8 ベルト式無段変速機
13 油圧制御装置
14 ECU
23 ロックアップクラッチ
24 機械オイルポンプ
42 フォワードクラッチ
43 リバースブレーキ
50 プライマリプーリ
51 セカンダリプーリ
52 ベルト
58 プライマリ油圧室
59 入力軸回転センサ
63 セカンダリ油圧室
64 出力軸回転センサ
71 電動オイルポンプ
72 油圧制御回路
73 アキュムレータ
81a 供給側油圧制御弁
81b 排出側油圧制御弁
82a 供給側電磁制御弁
82b 排出側電磁制御弁
82c 蓄圧開放電磁制御弁
L1 第1油路
L2 第2油路
L3 第3油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの動力が入力される第1プーリと、前記エンジンの動力を駆動輪へ向けて出力する第2プーリと、前記第1プーリと前記第2プーリとの間に掛け渡されたベルトとを有するベルト式無段変速機と、
前記エンジンと前記ベルト式無段変速機との間を連結して、前記エンジンの動力を前記ベルト式無段変速機へ伝達するクラッチ機構と、
前記エンジンの動力により、前記ベルト式無段変速機にオイルを供給可能なオイルポンプと、
前記第1プーリの第1油圧室における油圧を制御可能な油圧制御弁と、
前記ベルト式無段変速機の前記第2プーリの第2油圧室へ向けて前記オイルを供給可能な蓄圧器と、を備えた車両を制御可能な車両制御装置であって、
前記車両の停止時において前記エンジンを停止させる一方で、前記車両の発進時において前記エンジンを始動させるアイドリングストップアンドスタート制御の実行時に、前記蓄圧器を作動させ、前記油圧制御弁を閉弁させることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記油圧制御弁は、
前記第1プーリの前記第1油圧室へ向けて供給される前記オイルの油圧を制御可能な供給側油圧制御弁と、
前記第1プーリの前記第1油圧室から排出される前記オイルの油圧を制御可能な排出側油圧制御弁と、を有し、
前記アイドリングストップアンドスタート制御の実行時に、前記供給側油圧制御弁および前記排出側油圧制御弁を同時に閉弁することを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記車両は、
前記エンジンと前記クラッチ機構との間を連結して、前記エンジンの動力を前記クラッチ機構へ伝達するロックアップ機構付きトルクコンバータと、をさらに備え、
前記ベルト式無段変速機の変速比の変化量および変化率が、予め設定された設定変化量および設定変化率以内である場合、前記ロックアップ機構によるロックアップ係合を解除した後、前記クラッチ機構によるクラッチ係合を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−87828(P2012−87828A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232769(P2010−232769)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】