説明

車両用パーキングブレーキ装置

【課題】 一対のケーブルの何れが切断したかを乗員に的確に知らせることが可能で、修理工場での切断したケーブルの交換作業を的確かつ迅速に行うこと。
【解決手段】 車両用パーキングブレーキ装置は、パーキングブレーキ操作に伴って生じる直線的な駆動力を二つの出力部12a,12bに分配可能で傾動可能なイコライザ12と、イコライザ12の各出力部12a,12bと各パーキングブレーキ13,14の作動部に連結されて駆動力を伝達可能な一対のケーブル15,16を備えている。また、一方のケーブル15の切断を検出する第1検出手段(張力センサTS)と、第1検出手段の出力に基づいて一方のケーブル15の切断を乗員に報知する第1報知手段(報知灯PL)と、他方のケーブル16の切断を検出する第2検出手段(突起12c)と、第2検出手段の出力に基づいて他方のケーブル16の切断を乗員に報知する第2報知手段(起動部31b1)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用パーキングブレーキ装置に係り、特に、パーキングブレーキ操作に伴って生じる直線的な駆動力を二つの出力部に分配可能で支持部材に傾動可能に組付けられたイコライザと、このイコライザの各出力部と各パーキングブレーキの作動部にそれぞれ連結されて駆動力を伝達可能な一対のケーブルを備えていて、前記各ケーブルが引っ張られて前記各パーキングブレーキが解除状態から制動状態とされ、前記各ケーブルが緩められて前記各パーキングブレーキが制動状態から解除状態とされるように構成した車両用パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用パーキングブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に記載されている。下記特許文献1に記載されている車両用パーキングブレーキ装置では、パーキングブレーキ操作によってパーキングブレーキレバーが回動されると、これによって得られる直線的な駆動力がイコライザに伝達される。また、イコライザに伝達された駆動力がイコライザの各出力部から各ケーブルを介して各パーキングブレーキの作動部にそれぞれ伝達されるように構成されている。なお、この車両用パーキングブレーキ装置では、パーキングブレーキレバーとイコライザ間も、駆動力がケーブルを介して伝達されるように構成されている。
【特許文献1】特開2000−118372号公報
【発明の開示】
【0003】
上記した特許文献1に記載されている車両用パーキングブレーキ装置においては、種々なスイッチ(例えば、イコライザの移動を検出するケーブル移動検出スイッチ、各ケーブル(3個のケーブル)のそれぞれに設けられた導線に接続された直列回路に設けたスイッチ)が設けられている。ケーブル移動検出スイッチでは、イコライザの各出力部と各パーキングブレーキの作動部にそれぞれ連結されて駆動力を伝達可能な一対のケーブルの何れかが切断したことを検出することは可能であるが、一対のケーブルの何れが切断したかを検出することはできない。また、直列回路に設けたスイッチでは、パーキングブレーキレバーとイコライザ間のケーブルと、イコライザの各出力部と各パーキングブレーキの作動部間の一対のケーブルの何れか一つが切断したことを検出することは可能であるが、何れのケーブルが切断したかを検出することはできない。このため、修理工場での切断したケーブルの交換作業を的確かつ迅速に行うことができない。
【0004】
本発明は、上記した課題に対処すべくなされたものであり、パーキングブレーキ操作に伴って生じる直線的な駆動力を二つの出力部に分配可能で支持部材に傾動可能に組付けられたイコライザと、このイコライザの各出力部と各パーキングブレーキの作動部にそれぞれ連結されて駆動力を伝達可能な一対のケーブルを備えていて、前記各ケーブルが引っ張られて前記各パーキングブレーキが解除状態から制動状態とされ、前記各ケーブルが緩められて前記各パーキングブレーキが制動状態から解除状態とされるように構成した車両用パーキングブレーキ装置において、前記一対のケーブルにおける一方のケーブルの切断を検出する第1検出手段と、この第1検出手段の出力に基づいて一方のケーブルの切断を乗員に報知する第1報知手段と、前記一対のケーブルにおける他方のケーブルの切断を検出する第2検出手段と、この第2検出手段の出力に基づいて他方のケーブルの切断を乗員に報知する第2報知手段を設けたことに特徴がある。
【0005】
この場合において、パーキングブレーキ操作に伴って生じる直線的な駆動力は、パーキングブレーキ操作の制動操作により正回転駆動され解除操作により逆回転駆動される電気モータと、この電気モータの正回転駆動により前記イコライザを解除位置から制動位置に向けて直線的に移動させ前記電気モータの逆回転駆動により前記イコライザを制動位置から解除位置に向けて直線的に移動させる変換機構を備えた駆動装置から出力されるように構成されていることも可能である。
【0006】
上記した本発明の車両用パーキングブレーキ装置においては、イコライザの各出力部と各パーキングブレーキの作動部にそれぞれ連結されて駆動力を伝達可能な一対のケーブルにおける一方のケーブルの切断を第1検出手段にて検出することが可能であり、この第1検出手段の出力に基づいて一方のケーブルの切断を第1報知手段にて乗員に報知することが可能である。また、一対のケーブルにおける他方のケーブルの切断を第2検出手段にて検出することが可能であり、この第2検出手段の出力に基づいて他方のケーブルの切断を第2報知手段にて乗員に報知することが可能である。
【0007】
このため、本発明の車両用パーキングブレーキ装置においては、一対のケーブルの何れかが切断した場合において、一対のケーブルの何れが切断したかを乗員に的確に知らせることが可能である。これにより、修理工場での切断したケーブルの交換作業を的確かつ迅速に行うことが可能である。
【0008】
また、本発明の実施に際して、第1検出手段と第1報知手段および第2検出手段と第2報知手段は全て電気を用いない機械式であってもよく、この場合には、第1検出手段と第1報知手段および第2検出手段と第2報知手段を全て電気式とする場合に比して、信頼性が高く、しかも安価に実施することが可能である。この場合において、第1検出手段と第1報知手段として、電気式のものを採用してもよく、その第1検出手段は一方のケーブルに介装されて一方のケーブルの切断を一方のケーブルに作用する張力により検出可能で電気信号を出力する電磁式の張力センサであってもよい。この張力センサの出力が、各ケーブルが正常であるときにおいても利用される場合には、この張力センサが兼用できて有効に利用される。
【0009】
また、本発明の実施に際して、第1検出手段と第1報知手段および第2検出手段と第2報知手段は全て電気式であってもよい。この場合において、第1検出手段は一方のケーブルに介装されて一方のケーブルの切断を一方のケーブルに作用する張力により検出可能で電気信号を出力する電磁式の張力センサであってもよい。この張力センサの出力が、各ケーブルが正常であるときにおいても利用される場合には、この張力センサが兼用できて有効に利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施形態を示していて、この第1実施形態は自動車用の電動パーキングブレーキ装置に本発明を実施したものである。図1に示した電動パーキングブレーキ装置は、電気モータ11の出力である回転駆動力を減速して伝達する減速機構Aと、この減速機構Aを介して伝達される電気モータ11の回転駆動力を直線駆動力(直線的な駆動力)に変換する変換機構Bと、この変換機構Bにより変換された直線駆動力によって駆動されるとともに直線駆動力を二つの出力部に分配するイコライザ12を備えている。
【0011】
また、電動パーキングブレーキ装置は、イコライザ12の各出力部12a,12bに連結されて直線駆動力を各パーキングブレーキ13,14に伝達する一対のケーブル15,16と、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aに作用する引張力を検出可能で電気信号を出力する電磁式の張力センサTSと、電気モータ11の回転駆動を制御する電気制御装置ECUを備えている。
【0012】
なお、電気モータ11と変換機構B間の回転駆動伝達系(例えば、減速機構Aと変換機構Bの連結部位)に、ワンウェイ動力伝達機構(図示省略)が介装されることもある。ワンウェイ動力伝達機構は、電気モータ11から変換機構Bへの回転駆動力は伝達するが、変換機構Bから電気モータ11への回転駆動力の伝達は阻止して、電気モータ11の正回転駆動停止時に、パーキングブレーキ13,14の制動状態を保持可能である。
【0013】
電気モータ11は、電気制御装置ECUによって作動を制御されるようになっていて、運転者が制動スイッチSW1を操作することにより正方向に回転駆動され、運転者が解除スイッチSW2を操作することにより逆方向に回転駆動されるようになっている。減速機構Aは、入力歯車21、中間大歯車22、中間小歯車23および出力歯車24によって構成されていて、ハウジング31とこのハウジング31の一側に組付けたケーシング32間の収容部内に組み込まれている。
【0014】
入力歯車21は、電気モータ11の出力軸11aに形成されていて、出力軸11aと一体的に回転する。中間大歯車22は、ハウジング31とケーシング32に支持された支持軸33上に回転自在に組付けられていて、入力歯車21と常時噛合している。中間小歯車23は、中間大歯車22と一体的に形成されていて、支持軸33上に回転自在に組付けられており、出力歯車24に常時噛合している。出力歯車24は、ねじ軸41の端部にトルク伝達可能に組付けられている。
【0015】
変換機構Bは、出力歯車24に対して同軸的かつ一体回転可能に連結されたねじ軸41を入力要素とし、このねじ軸41に螺合して組付けたナット42を出力要素とする構成であり、ねじ軸41が正方向に回転駆動されることによりナット42が図1右方の解除位置(図示位置)から図1左方の制動位置に向けてねじ軸41の軸線方向に移動され、また、ねじ軸41が逆方向に回転駆動されることによりナット42が図1右方の解除位置に向けてねじ軸41の軸線方向に移動されるようになっている。
【0016】
ねじ軸41は、ケーブル15,16の移動方向を軸方向として配置されていて、二条の台形雄ねじ(雄ねじの条数や形状は適宜変更可能である)を有しており、ハウジング31に対して軸方向に移動不能かつ回転可能に組付けられている。ナット42は、連結ピン43を介してイコライザ12と連結されていて、イコライザ12を揺動可能(連結ピン43周りに回動可能)に支持している。
【0017】
イコライザ12は、ナット42に作用する直線駆動力を二つの出力部12a,12bに等分に分配するものであり、その中央部にてナット42に設定量(例えば、図1の状態から左右に20度程度)揺動可能に組付けられている。また、イコライザ12は、一方の出力部であるアーム部12aにて、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの一端と張力センサTSを介して連結され、他方の出力部であるアーム部12bにて、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの一端と直接に連結されている。
【0018】
一方のケーブル15は、インナーワイヤ15aと、このインナーワイヤ15aの両端部以外の外周を被覆するアウターチューブ15bによって構成されていて、インナーワイヤ15aの他端部は、一方のパーキングブレーキ13の作動部に連結されている。他方のケーブル16は、インナーワイヤ16aと、このインナーワイヤ16aの両端部以外の外周を被覆するアウターチューブ16bによって構成されていて、インナーワイヤ16aの他端部は、他方のパーキングブレーキ14の作動部に連結されている。
【0019】
張力センサTSは、ケーブル15におけるインナーワイヤ15aの引張力を検出して電気制御装置ECUに電気信号を出力するものであり、図2〜図4にて詳細に示したように、スプリングケース51と、シャフト52を備えるとともに、大小一対の圧縮コイルスプリング53、54を備えている。また、張力センサTSは、マグネットケース55と、引張コイルスプリング56を備えている。
【0020】
スプリングケース51は、ロアーケース51Aと、これの上部に固着されたアッパーケース51Bによって構成されている。ロアーケース51Aは、シャフト52を軸方向にて移動可能に組付けるための取付孔51a(図3参照)と、インナーワイヤ15aの一端部を組付けるための切欠51b(図2および図3参照)を有していて、大小一対の圧縮コイルスプリング53、54を内部に収容している。ロアーケース51Aの取付孔51aは、シャフト52の外径より所定量大径であり、シャフト52と取付孔51a間には所定量の径方向隙間(シャフト52の円滑な軸方向移動を確保するための隙間)が設けられている。
【0021】
アッパーケース51Bは、引張コイルスプリング56の係止部51cを有するとともに、ホールIC素子(検出素子)61をそれぞれ内蔵した一対のアーム部51dを有していて、ロアーケース51Aの圧縮コイルスプリング53、54を収容している部分をカバーしている。
【0022】
シャフト52は、中間部にてロアーケース51Aの取付孔51aに軸方向にて移動可能に組付けられている。また、シャフト52は、一部がスプリングケース51内に収容され、残部がスプリングケース51外に突出していて、スプリングケース51外に突出している部分にて、マグネットケース55を支持するとともに、イコライザ12のアーム部12aに連結ピン19を介して連結されている。
【0023】
圧縮コイルスプリング53は、圧縮コイルスプリング54に比して線径が大であってばね定数が大であり、シャフト52におけるケース内部位の外周に同軸的に配置されている。また、圧縮コイルスプリング53は、一端にてスプリングケース51に係合し、他端にてシャフト52のフランジ部52aに係合していて、取付荷重が略ゼロの状態で組み込まれている。
【0024】
圧縮コイルスプリング54は、圧縮コイルスプリング53に比して線径が小であってばね定数が小であり、シャフト52に設けた取付穴52bに組付けられている。また、圧縮コイルスプリング54は、圧縮コイルスプリング53に対して同軸的に配置されていて、取付穴52bから突出する端部にてリテーナ57を介してスプリングケース51に係合している。この圧縮コイルスプリング54の取付荷重は、圧縮コイルスプリング53の両端部の軸方向隙間をゼロとする程度の小さいものであって、シャフト52は圧縮コイルスプリング54により圧縮コイルスプリング53を殆ど撓ませない程度の弱い力にて圧縮コイルスプリング53に向けて軸方向に付勢されている。
【0025】
マグネットケース55は、シャフト52におけるケース外部位の外周に支持孔55aにて組付けられていて、一つの圧縮コイルスプリング71と、一対の環状シートプレート72,73および一対のクリップ74,75を用いてシャフト52に対して軸方向に移動可能に結合されており、シャフト52とともに軸方向に一体的に移動可能である。マグネットケース55の支持孔55aは、シャフト52の外径より所要量大径であり、シャフト52とマグネットケース55の支持孔55a間には所要量の径方向隙間(マグネットケース55のシャフト52上での円滑な軸方向移動を確保するための隙間)が設けられている。
【0026】
また、マグネットケース55には、ホールIC素子61とによって移動量検出手段(ホールIC素子61とマグネット62の相対移動量を検出する手段)を構成するマグネット62が内蔵されて支持されている。また、マグネットケース55には、引張コイルスプリング56の係止部55bが設けられている。
【0027】
引張コイルスプリング56は、一端にてスプリングケース51に設けた係止部51cに係止されるとともに、他端にてマグネットケース55に設けた係止部55bに係止されていて、マグネットケース55の係止部55bがスプリングケース51の係止部51cに向けて小さな荷重で付勢されている。これにより、スプリングケース51の一部(アーム部51d)とマグネットケース55の一部が係合した状態で、マグネットケース55の移動方向がシャフト52の軸方向に沿った方向とされる。
【0028】
上記のように構成したこの第1実施形態においては、各構成部材が正常である場合、制動スイッチSW1が操作されると、電気モータ11が正回転駆動されて、変換機構Bのねじ軸41が正回転され、これに伴ってナット42とイコライザ12が図1の右方位置(解除位置)から図1の左方位置(制動位置)に向けてねじ軸41の軸方向に移動する。このため、両ケーブル15,16のインナーワイヤ15a,16aが引っ張られて両パーキングブレーキ13,14が解除状態から制動状態とされる。
【0029】
このとき(両ケーブル15,16のインナーワイヤ15a,16aが引っ張られるとき)には、張力センサTSにて、スプリングケース51とシャフト52間に軸方向の引張力が作用して、圧縮コイルスプリング53が圧縮変形し、スプリングケース51とシャフト52間に相対移動が生じて、ホールIC素子61とマグネット62が相対移動し、上述した引張力が検出される。この引張力は、電気制御装置ECUに入力され、その値が高設定値になると、電気制御装置ECUからの制御信号に基づいて、電気モータ11の正回転駆動が停止される。なお、電気モータ11の正回転駆動停止時には、ねじ軸41の逆回転が変換機構Bおよび減速機構A等により規制されて保持されるため、両パーキングブレーキ13,14の制動状態が保持される。
【0030】
また、各構成部材が正常である場合において、解除スイッチSW2が操作されると、電気モータ11が逆回転駆動されて、変換機構Bのねじ軸41が逆回転され、これによりナット42とイコライザ12が図1の左方位置(制動位置)から図1の右方位置(解除位置)に移動する。このため、両ケーブル15,16のインナーワイヤ15a,16aが緩められて両パーキングブレーキ13,14が制動状態から解除状態とされる。
【0031】
このとき(両ケーブル15,16のインナーワイヤ15a,16aが緩められるとき)には、張力センサTSにて、圧縮コイルスプリング53の復帰変形により、スプリングケース51とシャフト52間に相対移動が生じて、ホールIC素子61とマグネット62が相対移動し、スプリングケース51とシャフト52間に作用する軸方向の引張力が検出される。この引張力は、電気制御装置ECUに入力され、その値が低設定値になると、電気制御装置ECUからの制御信号に基づいて、電気モータ11の逆回転駆動が停止される。
【0032】
ところで、上記した第1実施形態においては、図1に示したように、張力センサTSが一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を検出する第1検出手段も兼ねるように構成されている。また、この張力センサTSの出力に基づいて一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を乗員に報知する第1報知手段としてのケーブル切断報知灯PL1が電気制御装置ECUに接続されている。
【0033】
ケーブル切断報知灯PL1は、電気制御装置ECUが出力する点灯信号に基づいて点灯し、電気制御装置ECUが出力する消灯信号に基づいて消灯するように設定されていて、点灯によって一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を乗員に報知することが可能である。上記した点灯信号は、制動スイッチSW1が操作されたときからの経過時間(電気制御装置ECUが内蔵するタイマによって計時される)が設定時間(各構成部材が正常である場合において張力センサTSが検出する引張力の値が高設定値となるまでの経過時間より所定量長い時間)となるまでの間に、張力センサTSの出力が殆ど変化しないことに基づいて、電気制御装置ECUが出力するものである。また、上記した消灯信号は、上記した設定時間内に、張力センサTSが検出する引張力の値が高設定値となることに基づいて、電気制御装置ECUが出力するものである。
【0034】
また、この第1実施形態においては、図1に示したように、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を検出する第2検出手段としての突起12cがイコライザ12の他方のアーム部12bに設けられている。また、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を乗員に報知する第2報知手段としての起動部31b1がイコライザ12を収容するハウジング31の他側内壁31bに設けられている。
【0035】
突起12cは、図5に示したように、イコライザ12の他方向(図示時計方向)への傾動が所定量以上であるときに、その先端部にてイコライザ12を収容するハウジング31の他側内壁31bに係合するものである。起動部31b1は、鋸歯状に形成されていて、図5に示したように、突起12cが係合した状態で相対移動したときに突起12cを振動させるものであり、突起12cの振動によって発生する異音により他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を乗員に報知することが可能である。
【0036】
以上要するに、この第1実施形態においては、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を第1検出手段としても機能する張力センサTSの出力に基づいて検出することが可能であり、この張力センサTSの出力に基づいて一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を第1報知手段としてのケーブル切断報知灯PL1にて乗員に報知することが可能である。また、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を第2検出手段としての突起12cにて検出することが可能であり、この第2検出手段の出力に基づいて他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を第2報知手段としての起動部31b1の機能(突起12cを振動させて異音を発生させる機能)にて乗員に報知することが可能である。
【0037】
このため、この第1実施形態の車両用パーキングブレーキ装置においては、一対のケーブル15,16の何れかが切断した場合において、一対のケーブル15,16の何れが切断したかを乗員に的確に知らせることが可能である。これにより、修理工場での切断したケーブル(15,16)の交換作業を的確かつ迅速に行うことが可能である。
【0038】
上記した第1実施形態においては、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を張力センサTSの出力に基づいて検出し、この張力センサTSの出力に基づいて一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断をケーブル切断報知灯PL1にて乗員に報知するように構成して実施したが、図6に示した第2実施形態のように、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を検出する第1検出手段としての突起12dをイコライザ12の一方のアーム部12aに設けるとともに、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を乗員に報知する第1報知手段としての起動部31a1をハウジング31の一側内壁31aに設けて実施することも可能である。なお、この第2実施形態においては、ケーブル切断報知灯PL1が不要である。
【0039】
突起12dは、イコライザ12の一方向(図示反時計方向)への傾動(図5に示した傾動とは逆方向への傾動)が所定量以上であるときに、その先端部にてハウジング31の一側内壁31aに係合するものである。起動部31a1は、鋸歯状に形成されていて、突起12dが係合した状態で相対移動したときに突起12dを振動させるものであり、突起12dの振動によって発生する異音(この異音は、各起動部31a1と31b1の形状または各突起12cまたは12dの形状を異にすることによって、図示下方の突起12cの振動によって発生する異音とは異なるように設定されている)により、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を乗員に報知することが可能である。
【0040】
また、上記した第1実施形態においては、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を検出する第2検出手段としての突起12cをイコライザ12の他方のアーム部12bに設けるとともに、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を乗員に報知する第2報知手段としての起動部31b1をハウジング31の他側内壁31bに設けて実施したが、図7に示した第3実施形態のように、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を検出する第2検出手段としてスイッチSAを採用するとともに、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を乗員に報知する第2報知手段としてケーブル切断報知灯PL2を採用して実施することも可能である。
【0041】
スイッチSAは、イコライザ12の他方向への傾動が所定量以上であるときON作動して異常電気信号を出力するものであり、イコライザ12の他方のアーム部12bに設けた可動接点81と、ハウジング31の他側内壁31bに設けた固定接点82を備えている。可動接点81は、イコライザ12とリード線83を介して電気制御装置ECUに通電可能に結線されていて、イコライザ12は可動接点81とリード線83のみを通電可能な状態で絶縁されている。固定接点82は、絶縁シート84を介してハウジング31の他側内壁31bに貼り付けられていて、リード線85を介して電気制御装置ECUに通電可能に結線されている。
【0042】
ケーブル切断報知灯PL2は、電気制御装置ECUが出力する点灯信号に基づいて点灯し、電気制御装置ECUが出力する消灯信号に基づいて消灯するように設定されていて、点灯によって他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断を乗員に報知することが可能である。上記した点灯信号は、上記したスイッチSAがON作動したとき(可動接点81が固定接点82に通電可能に係合したとき)に電気制御装置ECUが出力するものであり、上記した消灯信号は、上記したスイッチSAがOFF作動状態にあるとき(可動接点81が固定接点82から離間していて非通電であるとき)に電気制御装置ECUが出力するものである。
【0043】
上記した第3実施形態においては、一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断を張力センサTSにて検出し、この張力センサTSの出力に基づいて一方のケーブル15におけるインナーワイヤ15aの切断をケーブル切断報知灯PL1にて乗員に報知するように構成するとともに、他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断をスイッチSAにて検出し、このスイッチSAの出力に基づいて他方のケーブル16におけるインナーワイヤ16aの切断をケーブル切断報知灯PL2にて乗員に報知するように構成して実施したが、図8に示した第4実施形態のように、第1検出手段としての張力センサTSに代えて第1スイッチSA1を採用するとともに、第2検出手段としてのスイッチSAに代えて第2スイッチSA2を採用して実施することも可能である。
【0044】
第1スイッチSA1は、イコライザ12に設けられていて、イコライザ12の一方向(図示反時計方向)への傾動が所定量以上であるときナット42との係合によりON作動して異常電気信号を出力するものであり、リード線91を介して電気制御装置ECUに通電可能に結線されている。なお、第1スイッチSA1は、ナット42から離間しているとき、OFF作動状態に維持されている。
【0045】
第2スイッチSA2は、イコライザ12に設けられていて、イコライザ12の他方向(図示時計方向)への傾動が所定量以上であるときナット42との係合によりON作動して異常電気信号を出力するものであり、リード線92を介して電気制御装置ECUに通電可能に結線されている。なお、第2スイッチSA2は、ナット42から離間しているとき、OFF作動状態に維持されている。
【0046】
上記した第1、第3および第4実施形態においては、電気制御装置ECUによって作動を制御されてケーブルにおけるインナーワイヤの切断を乗員に報知する報知手段としてケーブル切断報知灯を採用して実施したが、ケーブル切断報知灯に代えて、ケーブルにおけるインナーワイヤの切断を乗員に報知するケーブル切断報知ブザーやケーブル切断報知スピーカ等の報知手段を採用して実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による車両用パーキングブレーキ装置の第1実施形態を示す一部破断平面図である。
【図2】図1に示した張力センサの拡大平面図である。
【図3】図1および図2に示した張力センサの内部構造を示す断面図である。
【図4】図3の4−4線に沿った断面図である。
【図5】図1に示した第1実施形態にて他方のケーブルにおけるインナーワイヤが切断したときの作動説明図である。
【図6】本発明による車両用パーキングブレーキ装置の第2実施形態を示す一部破断平面図である。
【図7】本発明による車両用パーキングブレーキ装置の第3実施形態を示す一部破断平面図である。
【図8】本発明による車両用パーキングブレーキ装置の第4実施形態を示す一部破断平面図である。
【符号の説明】
【0048】
11…電気モータ、12…イコライザ、12a,12b…出力部、12c…突起(第2検出手段)、13,14…パーキングブレーキ、15,16…ケーブル、21…入力歯車、22…出力歯車、23…中間大歯車、24…中間小歯車、31…ハウジング、31b1…起動部(第2報知手段)、32…ケーシング、41…ねじ軸、42…ナット、TS…張力センサ(第1検出手段)、A…減速機構、B…変換機構、ECU…電気制御装置、PL1…ケーブル切断報知灯(第1報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングブレーキ操作に伴って生じる直線的な駆動力を二つの出力部(12a,12b)に分配可能で支持部材(ナット42)に傾動可能に組付けられたイコライザ(12)と、このイコライザ(12)の各出力部(12a,12b)と各パーキングブレーキ(13,14)の作動部にそれぞれ連結されて駆動力を伝達可能な一対のケーブル(15,16)を備えていて、前記各ケーブル(15,16)が引っ張られて前記各パーキングブレーキ(13,14)が解除状態から制動状態とされ、前記各ケーブル(15,16)が緩められて前記各パーキングブレーキ(13,14)が制動状態から解除状態とされるように構成した車両用パーキングブレーキ装置において、
前記一対のケーブル(15,16)における一方のケーブル(15)の切断を検出する第1検出手段と、この第1検出手段の出力に基づいて一方のケーブル(15)の切断を乗員に報知する第1報知手段と、前記一対のケーブル(15,16)における他方のケーブル(16)の切断を検出する第2検出手段と、この第2検出手段の出力に基づいて他方のケーブル(16)の切断を乗員に報知する第2報知手段を設けたことを特徴とする車両用パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用パーキングブレーキ装置において、前記第1検出手段は前記イコライザ(12)に設けられて同イコライザ(12)の一方向への傾動が所定量以上であるとき前記イコライザ(12)を収容するハウジング(31)の一側内壁(31a)に係合する第1突起(12d)であり、前記第1報知手段は前記ハウジング(31)の一側内壁(31a)に設けられて前記第1突起(12d)が係合した状態で相対移動したとき前記第1突起(12d)を振動させる第1起動部(31a1)であり、前記第2検出手段は前記イコライザ(12)に設けられて同イコライザ(12)の他方向への傾動が所定量以上であるとき前記ハウジング(31)の他側内壁(31b)に係合する第2突起(12c)であり、前記第2報知手段は前記ハウジング(31)の他側内壁(31b)に設けられて前記第2突起(12c)が係合した状態で相対移動したとき前記第2突起(12c)を振動させる第2起動部(31b1)であることを特徴とする車両用パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用パーキングブレーキ装置において、前記第1検出手段は前記イコライザ(12)の一方向への傾動が所定量以上であるとき作動して異常電気信号を出力する第1スイッチ(SA1)であり、前記第1報知手段は前記第1スイッチ(SA1)の出力に基づいて作動する第1報知灯(PL1)または第1報知ブザーであり、前記第2検出手段は前記イコライザ(12)の他方向への傾動が所定量以上であるとき作動して異常電気信号を出力する第2スイッチ(SA2)であり、前記第2報知手段は前記第2スイッチ(SA2)の出力に基づいて作動する第2報知灯(PL2)または第2報知ブザーであることを特徴とする車両用パーキングブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用パーキングブレーキ装置において、前記第1検出手段は一方のケーブル(15)に介装されて一方のケーブル(15)の切断を一方のケーブル(15)に作用する張力により検出可能で電気信号を出力する電磁式の張力センサ(TS)を備えていて、前記第1報知手段は前記張力センサ(TS)の出力に基づいて作動する報知灯(PL1)または報知ブザーであり、前記第2検出手段は前記イコライザ(12)に設けられて同イコライザ(12)の他方向への傾動が所定量以上であるとき前記イコライザ(12)を収容するハウジング(31)の他側内壁(31b)に係合する突起(12c)であり、前記第2報知手段は前記ハウジング(31)の他側内壁(31b)に設けられて前記突起(12c)が係合した状態で相対移動したとき前記突起(12c)を振動させる起動部(31b1)であることを特徴とする車両用パーキングブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用パーキングブレーキ装置において、前記第1検出手段は一方のケーブル(15)に介装されて一方のケーブル(15)の切断を一方のケーブル(15)に作用する張力により検出可能で電気信号を出力する電磁式の張力センサ(TS)を備えていて、前記第1報知手段は前記張力センサ(TS)の出力に基づいて作動する第1報知灯(PL1)または第1報知ブザーであり、前記第2検出手段は前記イコライザ(12)の他方向への傾動が所定量以上であるとき作動して異常電気信号を出力するスイッチ(SA)であり、前記第2報知手段は前記スイッチ(SA)の出力に基づいて作動する第2報知灯(PL2)または第2報知ブザーであることを特徴とする車両用パーキングブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両用パーキングブレーキ装置において、パーキングブレーキ操作に伴って生じる直線的な駆動力は、パーキングブレーキ操作の制動操作により正回転駆動され解除操作により逆回転駆動される電気モータ(11)と、この電気モータ(11)の正回転駆動により前記イコライザ(12)を解除位置から制動位置に向けて直線的に移動させ前記電気モータ(11)の逆回転駆動により前記イコライザ(12)を制動位置から解除位置に向けて直線的に移動させる変換機構(B)を備えた駆動装置から出力されるように構成されていることを特徴とする車両用パーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−308110(P2008−308110A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160014(P2007−160014)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】