説明

車両用操舵装置

【課題】据え切り時に舵取機構に加わる大負荷を軽減し、小型化及び軽量化を達成し得る車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】操舵用の車輪1,1を車体10に懸架するサスペンションアーム11,11を、少なくとも前後部及び左右部の剛性を各別に変更可能な支持ブッシュ13,13により支持し、転舵角センサ50及び車速センサ51の検出結果に基づいて据え切り状態にあると判定した場合、操舵制御部5の動作により支持ブッシュ13,13の剛性を部分的に増減制御して、据え切り時の転舵によって車輪1、1が路面上を転がり、転がり抵抗下での路面反力が舵取機構2に負荷されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に懸架された操舵用の車輪を、操舵部材の操作に応じた舵取機構の動作により転舵する車両用操舵装置に関し、更に詳しくは、停車状態での転舵時、所謂、据え切り時に舵取機構に加わる負荷を軽減するように構成された車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵は、ステアリングホイール等の操舵部材の操作をステアリング軸を介して舵取機構に伝え、該舵取機構の動作により操舵用の車輪(一般的には、左右の前輪)を転舵せしめて行われる。このような操舵は、転舵される車輪に接地路面から加わる反力(路面反力)に抗してなされ、この路面反力は、停車状態での操舵時、所謂、据え切り時に大きいことから、舵取機構に大きい負荷が加わるという問題がある。
【0003】
また近年においては、舵取機構に操舵補助用のアクチュエータを付設し、該アクチュエータを操舵部材の操作に応じて動作させることにより、前述の如くなされる操舵を補助するように構成された操舵装置、即ち、パワーステアリング装置が広く普及している。この種のパワーステアリング装置においては、操舵部材を操作する運転者の労力負担を軽減することができる反面、舵取機構には、操舵部材の操作力と前記アクチュエータの発生力との合力が作用することから、前述の如く据え切り時に舵取機構に加わる負荷は増すこととなる。
【0004】
一方、車両用操舵装置においては、通常走行時におけるステア特性を適正化するための種々の提案がなされている。この種の提案の一つとして、特許文献1には、操舵用の車輪を車体に懸架支持する支持ブッシュの剛性を加減速状態に応じて増減することにより、加減速に伴って生じるオーバステア傾向及びアンダーステア傾向の双方を抑制することが開示されている。
【特許文献1】特開平5−178049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように車両用操舵装置においては、据え切り時に舵取機構に大なる負荷が加わり、パワーステアリング装置として構成された車両用操舵装置においては、操舵補助用のアクチュエータの負荷が増大する。従って、操舵補助用のアクチュエータの容量を、例えば、狭小地での車庫入れ時等、据え切り状態で操舵部材の切り返し操作が繰り返される場合を想定して決定する必要があり、該アクチュエータを含めた車両用操舵装置の大型化及び重量の増大を招来するという問題がある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、据え切り時に舵取機構に加わる大負荷を軽減し、小型化及び軽量化を達成し得る車両用操舵装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1発明に係る車両用操舵装置は、サスペンションアームを介して車体に懸架された車輪を、操舵部材の操作に応じた舵取機構の動作により左右方向に転舵する車両用操舵装置において、前記サスペンションアームを、少なくとも前後部及び左右部の剛性を各別に変更可能な支持ブッシュにより車体に支持し、停車状態での転舵の有無を判定する据え切り判定手段と、前記車輪の転舵の方向及び転舵角度を検出する転舵検出手段と、前記据え切り判定手段による据え切りの判定時に、前記転舵検出手段の検出結果に基づいて前記支持ブッシュの剛性を増減制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2発明に係る車両用操舵装置は、第1発明における制御手段が、前記転舵検出手段が検出する転舵角度が小さい領域では、前記転舵検出手段が検出する転舵の方向と逆側の前部及び同側の後部の一方又は両方の剛性を減じ、剛性を減じる部位を、前記転舵検出手段が検出する転舵角度の増大に応じて前部から後部に、又は後部から前部に移行させるように制御することを特徴とする。
【0009】
本発明の第3発明に係る車両用操舵装置は、第1発明又は第2発明における支持ブッシュが、前後及び左右に夫々位置する空洞内に液体を封入し、夫々の空洞内の液圧の増減により剛性を変更するように構成してあることを特徴とする。
【0010】
本発明の第4発明に係る車両用操舵装置は、第1発明又は第2発明における支持ブッシュが、前後及び左右に夫々位置する空洞内に磁性流体を封入し、夫々の空洞の内部磁場の強弱により剛性を変更するように構成してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1発明に係る車両用操舵装置においては、据え切り時に車輪が非回転状態で路面に接触しており、転舵時に滑り抵抗による大なる路面反力が加わることに着目し、操舵用の車輪のサスペンションアームを、少なくとも前後部及び左右部の剛性を各別に変更可能な支持ブッシュにより車体に支持し、この支持ブッシュの剛性を、据え切りの判定に応じた制御手段の動作により部分的に変更するように構成したから、据え切り時にサスペンションアームの変位を伴って車輪を回転させ、該車輪に転がり抵抗による比較的小さい路面反力を作用させることができ、舵取機構に加わる負荷を軽減して、装置の小型化及び軽量化を達成することが可能となる。
【0012】
第2発明に係る車両用操舵装置においては、制御手段の動作により、据え切り時の支持ブッシュの剛性を、車輪の転舵の方向と逆側の前部及び同側の後部の一方又は両方の剛性を減じるようにしたから、据え切り時における車輪の回転を確実に生じさせ、舵取機構に加わる負荷を軽減することが可能となる。
【0013】
第3発明に係る車両用操舵装置においては、前後及び左右に設けた空洞内に油等の液体を封入してある支持ブッシュを用いたから、左右及び前後の剛性を、夫々の空洞内の液圧の増減により確実に変更することができる。
【0014】
第4発明に係る車両用操舵装置においては、前後及び左右に設けた空洞内に磁性流体を封入してある支持ブッシュを用いたから、左右及び前後の剛性を、夫々の空洞の内部磁場を強弱に変更し、磁性流体を固化させることにより確実に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る車両用操舵装置の全体構成を示す模式図である。なお以下の説明では、進行方向の「前後」と、前方に向いた状態での「左右」とを使用するが、図1は、車両の進行方向の前方を下として示してあり、説明中の「左右」は、図1中での「左右」とは逆となる。
【0016】
本発明に係る車両用操舵装置は、車体の左右に配された操舵用の車輪1,1を転舵させるための舵取機構2と、操舵のために回転操作されるステアリングホイール(操舵部材)3とを備え、ステアリングホイール3の操作と、この操作に応じて駆動される後述する操舵補助用のモータ4の動作とにより操舵用の車輪1,1を転舵し、ステアリングホイール3の操作に応じた操舵を実現する電動パワーステアリング装置として構成されている。
【0017】
舵取機構2は、左右方向に延設された筒形のラックハウジング20の内部に軸長方向への移動自在に支持されたラック軸21と、ラックハウジング20の中途に交叉するピニオンハウジング22の内部に回転自在に支持されたピニオン軸23とを備える公知のラックピニオン式の舵取機構である。なお、以下に述べる本発明の特徴的な構成は、ラックピニオン式以外の舵取機構を備える車両にも適用可能である。
【0018】
ラックハウジング20の両側から外部に突出するラック軸21の両端は、各別のタイロッド24,24を介して左右の操舵用の車輪1,1に連結されている。またピニオンハウジング22の外部に突出するピニオン軸23の端部は、中間軸25を介してステアリング軸30に連結されている。ピニオンハウジング22の内部に延びるピニオン軸23の半部には、図示しないピニオンが設けてあり、ラックハウジング20との交叉部において、ラック軸21の外面に適長に亘って形成されたラックに噛合させてある。
【0019】
ステアリング軸30は、筒形をなすコラムハウジング31の内部に回転自在に支持され、図示しない車室の内部に前方を下とした傾斜姿勢を保って取り付けてある。ステアリング軸30の上下端は、コラムハウジング31の外側に突出しており、後上方への突出端にステアリングホイール3が取り付けてあり、前下方への突出端に前記中間軸25が連結してある。
【0020】
以上の構成により、操舵のためにステアリングホイール3が回転操作された場合、この回転操作がステアリング軸30及び中間軸25を介してピニオン軸23に伝達され、該ピニオン軸23が回転する。ピニオン軸23の回転は、ピニオンとラックとの噛合部において運動変換されてラック軸21に伝わり、該ラック軸21が軸長方向に移動せしめられ、この移動が各別のタイロッド24、24により車輪1,1に伝えられ、これらの車輪1,1が転舵される。
【0021】
ステアリング軸30を回転自在に支持するコラムハウジング31の中途には、ステアリングホイール3の操作によりステアリング軸30に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサ32が設けてあり、このトルクセンサ32の下位置に操舵補助用のモータ4が取付けてある。
【0022】
トルクセンサ32は、検出対象となるステアリング軸30を捩れ特性が既知のトーションバーにより同軸上に連結された上下の2軸に分割し、これらの2軸間にトーションバーの捩れを伴って生じる相対角変位を検出する公知の構成を有している。操舵補助用のモータ4は、コラムハウジング31の外側に軸心を略直交させて取り付けてあり、コラムハウジング31の内部に延びるモータ4の出力軸の回転を、コラムハウジング31の内部に構成された図示しない減速機により減速してステアリング軸30に伝えるようになしてある。
【0023】
このように取付けられた操舵補助用のモータ4は、操舵制御部5から図示しない駆動回路に与えられる制御指令に従って駆動される。操舵制御部5には、トルクセンサ32から操舵トルクの検出値が与えられており、また車両の適宜部位に配された車速センサ51から、車両の走行速度の検出値が与えられている。
【0024】
操舵制御部5は、CPU、ROM及びRAMを備え、ROMに記憶された制御プログラムに従うCPUの動作により操舵補助用のモータ4を制御対象とするアシスト制御動作を実行するように構成された演算制御部である。このアシスト制御動作は、トルクセンサ32から与えられる操舵トルクの検出値を予め設定された制御マップに適用して制御量としての目標補助力を定め、この目標補助力を発生すべく操舵補助用のモータ4に制御指令を発し、該モータ4を駆動制御する公知の動作である。
【0025】
目標補助力の決定に用いる制御マップは、車速に応じて複数準備されており、車速センサ51による車速の検出値に応じて選定して使用される。これにより、車速の高低に応じて補助力特性を異ならせ、例えば、操舵用の車輪1,1に加わる路面反力が小さい高速走行時には、モータ4が発生する操舵補助力を小さくしてステアリングホイール3に剛性感を付与し、ふらつきのない安定した走行を実現することができ、逆に、路面反力が大きい停止時及び低速走行時には、操舵補助力を大きくしてステアリングホイール3の操作を軽快に行わせ、操舵に要する運転者の労力負担を軽減することが可能となる。
【0026】
以上の如く転舵される車輪1,1は、図中に一部を示す車体10に、各別のサスペンションアーム11,11を介して懸架されている。図中のサスペンションアーム11,11は、各1本の棒状をなすアームとして示してあり、夫々のサスペンションアーム11,11の一端部(基部)は、車体10の対応部位に各別に設けた支持ブラケット12,12に、支持ブッシュ13,13を介して上下方向への揺動可能に支持されている。
【0027】
サスペンションアーム11,11の形状は、図示の棒状に限らず、平板状等の他の形状であってもよい。サスペンションアーム11,11の数もまた、図示の左右各1本に限らず、左右の夫々に、上下又は前後に並べて複数本のサスペンションアームを設けてもよい。また支持ブッシュ13,13は、図示のように、左右のサスペンションアーム11,11について各1つに限らず、左右のサスペンションアームの夫々を、前後又は上下に並べた複数の支持ブッシュにより支える構成としてもよく、夫々の支持ブッシュが、異なる方向への揺動自在にサスペンションアームを支持するように構成することもできる。
【0028】
以上のようにサスペンションアーム11,11の形状及び数、並びにこれらの基部を支持する支持ブッシュ13,13の構成は、車輪1,1の懸架方式に応じて異なるが、以下には、前述したように、左右の車輪1,1が各1本のサスペンションアーム11,11により車体10に懸架され、夫々のサスペンションアーム11,11の基部が、各1つの支持ブッシュ13,13により支持してある場合について説明する。
【0029】
サスペンションアーム11,11の他端部(先端部)は、左右の車輪1,1に向けて延長されており、夫々の車輪1,1の転舵軸となるキングピン14,14を支持している。以上の構成により左右の車輪1,1は、サスペンションアーム11,11の揺動により上下方向に変位することができ、サスペンションアーム11,11の先端部に支持されたキングピン14,14を枢軸として、前述したように転舵される。
【0030】
図2は、サスペンションアーム11の支持部を拡大して示す模式的断面図である。本図には、進行方向右側(図1における左側)の車輪10のサスペンションアーム11の支持部が示されているが、左側の車輪10のサスペンションアーム11の支持構造も同様である。
【0031】
図2に示すようにサスペンションアーム11を支持する支持ブッシュ13は、サスペンションアーム11の基端に設けたボス部 11aに内嵌保持されたゴム製の円環であり、車体10側の支持ブラケット12に前後方向に架設された支軸 12aに外嵌され、該支軸 12aを枢軸として揺動可能となるようにサスペンションアーム11を支持している。
【0032】
支持ブッシュ13には、前後及び左右に配置され、相互に独立した4つの空洞 13a〜 13dが形成されている。これらの空洞 13a〜 13dは、油圧源としての油圧ポンプPの吐出側に各別の導油路 15a〜 15dを介して接続してあり、これらの導油路 15a〜 15dを経て導入される油が封入されている。導油路 15a〜 15dの中途には、開閉弁 16a〜 16dが介装してあり、4つの空洞 13a〜 13dは、対応する開閉弁 16a〜 16dを開とすることにより、油圧ポンプPの吐出圧が選択的に加わり、内圧を高めることができるように構成してある。
【0033】
なお油圧ポンプPは、各種の車載機器の作動油を発生するために車両に装備された油圧ポンプを兼用することができ、専用の油圧ポンプを備える必要はない。また、油圧ポンプPの吐出圧を4つの空洞 13a〜 13dに導く導油路 15a〜 15dは、支持ブラケット12及び支軸 12aを利用して形成することができる。
【0034】
例えば、開閉弁 16a,16cを開とし、開閉弁 16b,16dを閉とした場合、対角に位置する左前側の空洞 13a及び右後側の空洞 13cの内圧が高くなり、右前側の空洞 13b及び左後側の空洞 13dの内圧が相対的に低くなる。この場合支持ブッシュ13の剛性は、左前部及び右後部が増大し、右前部及び左後部が相対的に減少する結果、支持ブッシュ13に支持されたサスペンションアーム11は、剛性が低下した支持ブッシュ13の右前部及び左後部が支軸 12aとの間で変形することにより、図2中に矢符により示す如く反時計周りに揺動し易い状態となる。従って、このサスペンションアーム11の先端に支持された車輪1は、左操舵時のステアリングホイール3の操作により図1,2における反時計周りに転舵される場合、ラック軸21の移動に伴ってタイロッド24を介して加わる力の作用により前方(図1、2における下方)に移動し易く、路面に対して転がり可能な状態となる。
【0035】
逆に、開閉弁 16b,16dを開とし、開閉弁 16a,16cを閉とした場合、支持ブッシュ13は、右前部及び左後部が大きく、左前部及び右後部が小さい剛性分布を有することとなり、サスペンションアーム11は、時計周りに揺動し易い状態となる。従って、該スペンションアーム11の先端に支持された車輪1は、右操舵時のステアリングホイール3の操作により図1,2における時計周りの転舵がなされる場合、ラック軸21の移動に伴ってタイロッド24を介して加わる力の作用により後方(図1、2における上方)に移動し易く、路面に対して転がり可能な状態となる。開閉弁 16a〜 16dの全てを開又は閉とした場合、支持ブッシュ13は、全体に亘って均一な剛性を有する。このとき支持ブッシュ13は、サスペンションアーム11の基部を揺動自在に支持する本来の作用をなす。
【0036】
開閉弁 16a〜 16dの夫々には、操舵制御部5から動作指令が与えられている。操舵制御部5は、前述したアシスト制御動作に加えて、停車状態において前述の如く実行される操舵、所謂、据え切り時に時に舵取機構2に加わる負荷を軽減すべく、開閉弁 16a〜 16dを選択的に開閉させ、支持ブッシュ13の剛性を部分的に変更する制御動作をなす。
【0037】
図1に示すように操舵制御部5には、コラムハウジング31の中途に設けられた転舵角センサ50の検出結果が与えられている。転舵角センサ50は、コラムハウジング31の内部のステアリング軸30の回転角度を検出する回転角センサであり、操舵制御部5は、転舵角センサ50の検出結果を累積することにより操舵用の車輪1,1の転舵角を求め、また、転舵角の変化速度を示す転舵角速度を求め、これらの結果を以下に示す制御動作に利用する。転舵角センサ50は、例えば、車輪1,1のキングピン14,14の回転角度を検出する回転角センサ等、左右の車輪1,1の転舵角を検出し得る適宜のセンサとすることができる。
【0038】
また操舵制御部5には、前述のように、車両の走行速度の検出値が車速センサ51から与えられている。以下の制御動作において操舵制御部5は、車速センサ51の検出値を、停車状態にあるか否かの判定に使用する。
【0039】
図3は、操舵制御部5の動作内容を示すフローチャートである。操舵制御部5は、エンジン起動のためのキースイッチのオン操作に応じて動作を開始し、転舵角センサ50及び車速センサ51の検出結果を取込み(ステップS1)、車速が零か否かを判定し(ステップS2)、また転舵角センサ50の検出結果から算出した転舵角速度が零か否かを判定する(ステップS3)。
【0040】
ステップS2及びステップS3は、据え切り状態にあるか否かを判定するステップである。ステップS2において車速が零でない場合(ステップS2:NO)、又はステップS3において転舵角速度が零である場合(ステップS3:YES)、操舵制御部5は、据え切り状態ではないと判定し、以下の制御動作を行うことなくステップS1に戻り、転舵角センサ50及び車速センサ51の検出結果の取込みを繰り返す。
【0041】
一方、ステップS2において車速が零であり、停車状態にあると判定され(ステップS2:YES)、更に、ステップS3において転舵角速度が零ではなく、操舵がなされていると判定された場合(ステップS3:NO)、操舵制御部5は、据え切り状態にあると判定し、次に転舵方向を算出し(ステップS4)、判定された転舵方向、及び転舵角度に応じて支持ブッシュ13の剛性を変更制御し(ステップS5)、ステップS1に戻って同様の動作を繰り返す。
【0042】
図4は、ステップS5で実行する支持ブッシュ13の剛性変更制御の説明図であり、左右の車輪1,1と夫々の支持ブッシュ13,13とが示してある。なお本図の左右及び前後は、図1及び図2と対応しており、図面の下方が前、上方が後であり、また図面上の左右は、以下の説明における左右とは逆となる。
【0043】
車輪1,1を転舵する場合、これらの車輪1,1の支持ブッシュ13,13は、転舵の方向と逆側の前部及び同側の後部の剛性を低下させる。図4(a)中に矢符により示すように車輪1,1を左方向に転舵する場合には、図4(a)中にハッチングを施して示す部位、即ち、右前部及び左後部の剛性を低下させる。
【0044】
これにより右側のサスペンションアーム11は、前述したように、右前部及び左後部の剛性低下により前方に揺動し易くなり、該サスペンションアーム11に支持された右側の車輪1は、路面上での前方への転がりを伴って左方向に転舵される。逆に、左側のサスペンションアーム11は、右前部及び左後部の剛性低下により後方に揺動し易くなり、該サスペンションアーム11に支持された左側の車輪1は、路面上での後方への転がりを伴って左方向に転舵される。なお、支持ブッシュ13,13の剛性を低下させる部位は、右前部及び左後部のいずれか一方であってもよい。
【0045】
このような転舵の進行により、転舵角が大きくなった場合、図4(b)に示すように、剛性が低い部位を右前部から右後部に移行させ、また左後部から左前部に移行させる。これにより左右の車輪1,1は、路面に対する転がり状態を保って転舵される。
【0046】
車輪1,1の転舵方向が右方向である場合、夫々の支持ブッシュ13,13について、左前部及び右後部の剛性を減じればよく、この場合にも剛性を減じる部位を、転舵角度の増大に応じて、前部から後部、又は後部から前部に移行させるのが望ましい。
【0047】
以上のような支持ブッシュ13,13の剛性変更制御は、前述のように、操舵制御部5からの動作指令により開閉弁 16a〜 16dを選択的に開閉させ、支持ブッシュ13の前後及び左右に設けた空洞 13a〜 13d内の液圧(油圧)を増減せしめることにより実現される。このような剛性変更制御が実施された場合、前述したように、左右の車輪1,1が路面に対して転がりつつ転舵される。
【0048】
このとき車輪1,1を操舵する舵取機構2には、車輪1,1の転がり抵抗下での路面反力が作用するのみであり、この反力は、滑り抵抗下での反力に比して大幅に小さい。従って、据え切り状態下にて舵取機構2に加わる負荷を軽減することができ、操舵補助用のモータ4の負担を軽減し、該モータの小型化により、操舵装置の小型化及び軽量化を達成することができる。また、タイロッド24,24等、舵取機構2の構成部材に加わる力が小さくなり、これらの構成部材が変形又は折損する虞れを、夫々の部材の大型化を強いることなく解消することができる。
【0049】
なお、以上の実施の形態においては、操舵補助用のモータ4の発生力を舵取機構2に加えて操舵を補助する電動パワーステアリング装置への適用例について説明したが、本発明は、ステアリングホイール3の操作に応じて動作する油圧シリンダの発生力を舵取機構2に加えて操舵を補助するように構成されたパワーステアリング装置、更には、運転者によるステアリングホイール3の回転操作のみによって操舵を行わせるように構成されたマニュアル式の操舵装置にも適用可能である。マニュアル式の操舵装置に適用した場合、舵取機構2に加わる負荷がステアリングホイール3にフィードバックされるため、支持ブッシュ13,13の剛性変更制御により、ステアリングホイール3を操作する運転者の据え切り時における労力負担も軽減することができる。
【0050】
また以上の実施の形態においては、各別の開閉弁 16a〜 16dの選択的な開閉により、4箇所の空洞 13a〜 13d内の液圧を増減せしめて支持ブッシュ13の剛性を変更する構成としてあるが、開閉弁 16a〜 16dに代えて開度変更が可能な弁を用い、より細かく剛性を変更し得るように構成することもできる。
【0051】
また支持ブッシュ13の剛性の変更は、以上の実施の形態に限らず、他の構成によっても実現できる。図5は、第2の実施形態の支持ブッシュを備えるサスペンションアーム11の支持部の模式的断面図である。
【0052】
図5において、支持ブッシュ13の前後及び左右に設けた4つの空洞 13a〜 13dの内部には、磁性流体が封入されている。これらの空洞 13a〜 13dには、夫々の外側を囲繞するように励磁コイル 17a〜 17dが付設してある。これらの励磁コイル 17a〜 17dは、操舵制御部5から夫々の励磁回路 18a〜 18dに与えられる動作指令に応じて励磁され、対応する空洞 13a〜 13d内に磁場を形成するように構成してある。他の構成は、図2に示す第1の実施の形態と同様であり、対応する構成部材に図2と同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0053】
空洞 13a〜 13d内に封入された磁性流体(MR流体)は、強磁性を有する金属微粒子を液体中に高濃度で分散させてなり、磁場を与えることにより粘度が大幅に増加し、固化する特性を有する液体である。また、励磁コイル 17a〜 17dを励磁した場合、磁性流体を封入した空洞 13a〜 13d内に磁場が形成される。従って、励磁コイル 17a〜 17dの選択的な励磁により空洞 13a〜 13d内に封入された磁性流体が固化し、支持ブッシュ13の対応部位の剛性が増大することとなり、他の部位の剛性が相対的に減少する。
【0054】
以上の如く構成された支持ブッシュ13においても、前後及び左右の剛性を部分的に変更することができ、この変更を前述の如く実施することにより、据え切り時の舵取機構2の負荷を軽減することができる。剛性の変更は、励磁コイル 17a〜 17dの選択的な励磁により達成することができ、油圧ポンプP、導油路 15a〜 15d及び開閉弁 16a〜 16dを必要とする第1の実施の形態に比して簡素な構成とすることができる。
【0055】
なお、MR流体に代えて、電界の作用により固化する特性を有するER流体を空洞 13a〜 13dの内部に封入し、夫々の空洞 13a〜 13d内の電界の強さを操舵制御部5の動作指令によって増減する構成とすることも可能である。
【0056】
以上の実施の形態においては、支持ブッシュ13の前後部及び左右部の4箇所の剛性を変更するように構成してあるが、本発明においては、少なくとも前後部及び左右部の剛性変更が可能であればよく、例えば、前後方向の中間部分の左右位置を加えた6箇所の剛性を変更する等、4箇所以上の剛性変更を実施できるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る車両用操舵装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】サスペンションアームの支持部を拡大して示す模式的断面図である。
【図3】操舵制御部の動作内容を示すフローチャートである。
【図4】支持ブッシュの剛性変更制御の説明図である。
【図5】第2の実施の形態の支持ブッシュを備えるサスペンションアームの支持部の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 車輪、2 舵取機構、3 ステアリングホイール(操舵部材)、5 操舵制御部
(制御手段)、10 車体、11 サスペンションアーム、13 支持ブッシュ、 13a〜13d 空洞、50 転舵角センサ(転舵検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションアームを介して車体に懸架された車輪を、操舵部材の操作に応じた舵取機構の動作により左右方向に転舵する車両用操舵装置において、
前記サスペンションアームを、少なくとも前後部及び左右部の剛性を各別に変更可能な支持ブッシュにより車体に支持し、
停車状態での転舵の有無を判定する据え切り判定手段と、
前記車輪の転舵の方向及び転舵角度を検出する転舵検出手段と、
前記据え切り判定手段による据え切りの判定時に、前記転舵検出手段の検出結果に基づいて前記支持ブッシュの剛性を増減制御する制御手段と
を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記転舵検出手段が検出する転舵角度が小さい領域では、前記転舵検出手段が検出する転舵の方向と逆側の前部及び同側の後部の一方又は両方の剛性を減じ、剛性を減じる部位を、前記転舵検出手段が検出する転舵角度の増大に応じて前部から後部に、又は後部から前部に移行させるように制御する請求項1記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記支持ブッシュは、前後及び左右に夫々位置する空洞内に液体を封入し、夫々の空洞内の液圧の増減により剛性を変更するように構成してある請求項1又は請求項2記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記支持ブッシュは、前後及び左右に夫々位置する空洞内に磁性流体を封入し、夫々の空洞の内部磁場の強弱により剛性を変更するように構成してある請求項1又は請求項2記載の車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255780(P2009−255780A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108251(P2008−108251)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】