車両用有段変速機の制御装置
【課題】変速の際に、同期噛合装置にかかる負荷を小さくする。
【解決手段】同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)と同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成する変速機16において、変速の際には、同期噛合クラッチ40が先に係合されてイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期させられると共に、イナーシャ2がイナーシャ3と同期した後に、同期噛合クラッチ38が係合されてイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)がそのイナーシャ2及びイナーシャ3と同期させられるので、イナーシャ2分とイナーシャ1分とでインプット系イナーシャを2つに分けて同期させることになり、同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくすることができる。
【解決手段】同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)と同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成する変速機16において、変速の際には、同期噛合クラッチ40が先に係合されてイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期させられると共に、イナーシャ2がイナーシャ3と同期した後に、同期噛合クラッチ38が係合されてイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)がそのイナーシャ2及びイナーシャ3と同期させられるので、イナーシャ2分とイナーシャ1分とでインプット系イナーシャを2つに分けて同期させることになり、同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸間に設けられた常時噛み合う複数のギヤ対と、ギヤ段を構成する為にギヤ対毎に設けられてアクチュエータを介して選択的に係合させられる同期噛合装置とを備える車両用有段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用有段変速機として、常時噛み合う複数の変速ギヤ対(ギヤ対)を2軸間に備え、それらギヤ対の何れかをアクチュエータにより操作される同期噛合装置(同期噛合クラッチ)の選択的な係合によって動力伝達可能状態とすることでギヤ段(変速段)を自動的に切り換えることが可能な同期噛合式自動変速機が良く知られている。このような同期噛合式自動変速機では、一般的に、アクチュエータにより自動的に係合、解放される自動クラッチ(発進クラッチ)が設けられており、発進時や変速時には、自動クラッチの係合と解放とが制御される。例えば、上記自動クラッチが設けられた同期噛合式自動変速機では、変速に際して、先ず、自動クラッチが解放され且つスロットル開度が減小値とされ、次いでそれまでのギヤ段に対応するギヤ対に設けられている同期噛合装置の係合がアクチュエータにより解除される。次いで、複数のギヤ対毎に設けられた複数の同期噛合装置がいずれも未係合であるニュートラル状態において、変速先のギヤ段である要求ギヤ段に対応するギヤ対に設けられている同期噛合装置の係合がアクチュエータによって開始される。すなわち、アクチュエータにより押圧された同期噛合装置によって回転同期作動が開始される。そして、その同期噛合装置による回転同期作動が終了してその同期噛合装置の係合完了すなわち同期完了が判定されると、自動クラッチが係合され且つスロットル開度が復帰される、という一連の変速操作を実行する制御が行われる。
【0003】
また、上記自動クラッチがエンジンとの間に設けられた同期噛合式自動変速機を有する車両の制御装置に関して、例えば特許文献1には、変速する際、ニュートラル状態で一旦クラッチをつなぎ、エンジン回転速度を上昇させて、変速機の入力軸と出力軸との回転速度を同期させる所謂ダブルクラッチ制御を実行した後、上記同期噛合装置による回転同期作動を開始することが記載されている。また、特許文献2には、変速機の入力軸と出力軸との伝達トルクを調節する為の多板クラッチを更に備え、変速の際には、変速ギヤ対と出力軸とを連結する為の変速用ドッグクラッチを解放状態にし、次いで入力軸と出力軸との連結が開放された状態にて多板クラッチの伝達トルク容量を制御して入出力間の変速比を変速後の変速比とし、その状態で変速用ドッグクラッチを締結させて入力軸と出力軸とを連結し、その連結完了後に多板クラッチを解放して変速完了することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−101643号公報
【特許文献2】特開2005−313893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、専ら電動機を主駆動力源とする車両に備えられる車両用有段変速機では、一般的に、車両停止時にエンジン作動を維持しつつ発進時にエンジンの動力を駆動輪側へ伝達させるような発進機構がいらない為、上述した発進クラッチや多板クラッチが不要とされる。このように発進クラッチや多板クラッチが備えられない場合には、電動機から駆動輪までの動力伝達経路は、例えば上記同期噛合装置のみにより断接されることになる。これにより、変速に際して、電動機と変速機とは切り離されることなく連結されたままとなり、同期噛合装置の前段部(入力側)のイナーシャには電動機が含まれることになる、すなわち同期噛合装置のインプット系イナーシャが大きくなる。従って、変速の際に、電動機自身の同期回転制御を実行した場合に、同期回転速度とのずれが大きい程、同期噛合装置にかかる同期時の負担(負荷)は大きくなる。その為、例えば同期噛合装置の摩耗が進んで耐久性が低下したり、同期噛合装置を作動させる為に必要な外力が増大させられるなどの問題が生じ易くなる。尚、発進クラッチや多板クラッチを備えない車両用有段変速機の変速時の制御として、上記特許文献1,2に記載されているようなクラッチの制御を前提とする技術を適用できないことは言うまでもないことである。このような課題は未公知であり、電動機との間にクラッチを備えない変速機の変速の際に、同期噛合装置にかかる負荷を小さくすることについて、未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速の際に、同期噛合装置にかかる負荷を小さくすることができる車両用有段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 電動機と断接不能に連結された入力軸と、その入力軸と平行に設けられて駆動輪に連結された出力軸と、その入力軸とその出力軸との間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合うギヤ対と、そのギヤ対毎に設けられてアクチュエータにより選択的に係合させられることによりその入力軸とその出力軸とをそのギヤ対を介して連結する為の同期噛合装置とを備え、前記電動機の動力を前記駆動輪側へ伝達する車両用有段変速機の制御装置であって、(b) 前記同期噛合装置は、前記入力軸と前記ギヤ対の入力軸側ギヤとを連結する入力側同期噛合装置と、前記出力軸と前記ギヤ対の出力軸側ギヤとを連結する出力側同期噛合装置とを有し、(c) 前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成するものであり、(d) 変速の際には、前記出力側同期噛合装置を先に係合して前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と連結させると共に、そのギヤ対の出力軸側ギヤがその出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸をそのギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成する車両用有段変速機において、変速の際には、前記出力側同期噛合装置が先に係合されて前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結させられると共に、そのギヤ対の出力軸側ギヤがその出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置が係合されて前記入力軸がそのギヤ対の入力軸側ギヤと連結させられるので、前記出力側同期噛合装置の係合時には前記ギヤ対分のインプット系イナーシャを同期させ、前記入力側同期噛合装置の係合時には前記電動機分のインプット系イナーシャを同期させることになる。従って、前記入力側同期噛合装置が先に係合された後に前記出力側同期噛合装置が係合されることにより前記出力側同期噛合装置の係合時には前記入力側同期噛合装置の係合時に同期させられた前記ギヤ対と前記電動機との両方の分のインプット系イナーシャを同期させることに比較して、変速の際に、前記ギヤ対分と前記電動機分とでインプット系イナーシャを2つに分けて同期させることになり、同期噛合装置にかかる負荷を小さくすることができる。よって、同期噛合装置の耐久性が向上され、またアクチュエータによる同期噛合装置の操作力も小さくされる。
【0009】
ここで、好適には、前記車両用有段変速機は、前記入力軸と平行に設けられたアイドラ軸と、前記複数のギヤ対に対応してそのアイドラ軸に相対回転不能に設けられてその入力軸とそのアイドラ軸との間を動力伝達可能に連結する為の複数のアイドラギヤとを更に備えることにある。このようにすれば、ギヤ段を形成する為のアイドラギヤが設けられたアイドラ軸を備えないような平行2軸式の車両用有段変速機と比較して、ギヤ段を構成する為に前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とする必要があるものの、同じギヤ段数を構成する場合に、ギヤ対を構成するギヤの枚数を少なくすることができ、また、軸方向の幅も小さくすることができる。これにより、比較的小型で軽量な車両用有段変速機が構成され、燃費を向上することが可能となる。
【0010】
また、好適には、前記ギヤ対の回転速度及び前記出力軸の回転速度を各々検出する為の各々の回転速度センサを備え、前記回転速度センサにより検出された各々の回転速度に基づいて前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したか否かを判断することにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0011】
また、好適には、前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動量が所定値よりも大きくなった場合に前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したと判断することにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0012】
また、好適には、前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータをその出力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させてから、前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定時間が経過後に、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータをその入力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させることにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0013】
また、好適には、前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動位置が前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定位置とされるまで、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータが機械的に作動不能とされていることにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0014】
また、好適には、変速の際には、変速後の前記電動機の同期回転速度に向かって回転変化させる為のトルクを発生させるように前記電動機を制御することにある。このようにすれば、変速過程において、前記電動機の回転速度が同期回転速度に近くされる程、前記電動機分のインプット系イナーシャを同期させる前記入力側同期噛合装置にかかる負担が小さくされる。また、前記入力側同期噛合装置の係合時にはほぼ電動機自身のみを同期回転速度に向かって回転変化させるだけでよいので、前記入力側同期噛合装置が先に係合された後に前記出力側同期噛合装置が係合されることにより前記出力側同期噛合装置の係合時には前記入力側同期噛合装置の係合時に同期させられた前記ギヤ対と前記電動機との両方を電動機により同期回転速度に向かって回転変化させることに比較して、電動機の負荷が小さくされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用される車両を構成する動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】変速機にて成立させられる4つのギヤ段と、ニュートラル状態とを示す概略図である。
【図3】同期噛合クラッチの構成及び作動を具体的に説明する図であって、同期噛合クラッチが未係合の状態すなわちニュートラル状態を示す図である。
【図4】同期噛合クラッチの構成及び作動を具体的に説明する図であって、同期噛合クラッチが係合された状態を示す図である。
【図5】走行中の変速の際の同期噛合クラッチの係合順を説明する状態遷移図である。
【図6】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわち変速機の変速の際に同期噛合クラッチにかかる負荷を小さくする為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図9】シフトシリンダの構成を説明する概略図である。
【図10】出力側同期噛合装置が先に係合されないと次の入力側同期噛合装置の係合が始まらない機械的な機構の構成及び作動を説明する図である。
【図11】出力側同期噛合装置が先に係合されないと次の入力側同期噛合装置の係合が始まらない機械的な機構の構成及び作動を説明する図であって、図10とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明が適用される車両10を構成する電動機12から駆動輪14までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、変速機16の変速制御等を実行する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、変速機16は、例えば車両10において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸18に直接的に伝達された走行用駆動力源としての電動機12の動力を、出力軸20に設けられた出力歯車としてのドライブピニオンギヤ22から、デフリングギヤ24、差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26、及び一対の車軸(ドライブシャフト)28等を順次介して一対の駆動輪14へ伝達する車両用有段変速機である。これら変速機16、差動歯車装置26等によりトランスアクスル(T/A)が構成される。尚、入力軸18は、クラッチ等の動力伝達経路断接装置を介すことなく例えば不図示のスプライン嵌合継手を介して断接不能に電動機12の出力軸に連結されている。また、出力軸20は、入力軸18と平行に設けられており、差動歯車装置26のデフリングギヤ24と噛み合わされるドライブピニオンギヤ22等を介して駆動輪14に連結されている。また、差動歯車装置26は例えば傘歯車式のものであり、差動歯車装置26を構成する不図示の一対のサイドギヤにはそれぞれ左右の車軸28がスプライン嵌合などによって連結され、左右の駆動輪(前車輪)14が車軸28により回転駆動される。
【0018】
また、変速機16は、所謂常時噛合型平行軸式変速機であって、入力軸18と出力軸20との間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合うギヤ対(変速ギヤ対)30,32と、ギヤ対30,32毎に設けられてアクチュエータとしてのシフトシリンダ34,36により選択的に係合させられることにより入力軸18と出力軸20とをギヤ対を介して連結する為のシンクロメッシュタイプの複数の同期噛合クラッチ(同期噛合装置)38,40とを備えている。
【0019】
ギヤ対(変速ギヤ対)30は、入力軸18に相対回転可能に設けられた入力軸側ギヤ30aと、出力軸20に相対回転可能に設けられた出力軸側ギヤ30bとから構成されている。ギヤ対(変速ギヤ対)32は、入力軸18に相対回転可能に設けられた入力軸側ギヤ32aと、出力軸20に相対回転可能に設けられた出力軸側ギヤ32bとから構成されている。また、同期噛合クラッチ38は、入力軸側ギヤ30aと入力軸18とを係合により選択的に連結する為の入力側同期噛合クラッチ38aと、入力軸側ギヤ32aと入力軸18とを係合により選択的に連結する為の入力側同期噛合クラッチ38bとを備え、入力軸18とギヤ対30,32とを同期(回転同期)する入力側同期噛合装置である。同期噛合クラッチ40は、出力軸側ギヤ30bと出力軸20とを係合により選択的に連結する為の出力側同期噛合クラッチ40aと、出力軸側ギヤ32bと出力軸20とを係合により選択的に連結する為の出力側同期噛合クラッチ40bとを備え、出力軸20とギヤ対30,32とを同期(回転同期)する出力側同期噛合装置である。尚、同期噛合クラッチ38,40は係合により各部材間を連結することから、同期噛合クラッチ38,40が各部材間やそれに直接的に繋がる部材間を同期(回転同期)するということは各部材間を連結するということとほぼ同意として取り扱う。つまり、係合に依らなくとも回転を同期することは可能であり、単に回転を同期するだけでは連結することとは同意とはならないが、同期噛合クラッチ38,40は係合によって同期させるので連結とほぼ同意とする。
【0020】
また、変速機16は、入力側同期噛合クラッチ38a,38bの構成に含まれるクラッチハブスリーブ(結合スリーブ)42に対して入力軸18の軸心まわりに相対回転可能に係合させられてそのクラッチハブスリーブ42を入力軸18の軸心方向に選択的に移動させることにより何れかのギヤ段を成立させるフォーク44が設けられた、例えば入力軸18に平行なフォークシャフト46を備えている。このフォークシャフト46はシフトシリンダ34の作動に従って入力軸18の軸心方向に移動させられるものであり、フォーク44はこのフォークシャフト46の移動に連動して移動させられる。また、変速機16は、出力側同期噛合クラッチ40a,40bの構成に含まれるクラッチハブスリーブ48に対して出力軸20の軸心まわりに相対回転可能に係合させられてそのクラッチハブスリーブ48を出力軸20の軸心方向に選択的に移動させることにより何れかのギヤ段を成立させるフォーク50が設けられた、例えば出力軸20に平行なフォークシャフト52を備えている。このフォークシャフト52はシフトシリンダ36の作動に従って出力軸20の軸心方向に移動させられるものであり、フォーク50はこのフォークシャフト52の移動に連動して移動させられる。
【0021】
更に、変速機16は、入力軸18と平行に設けられたアイドラ軸54と、ギヤ対30,32に対応してアイドラ軸54に相対回転不能に設けられて入力軸18とアイドラ軸54との間を動力伝達可能に連結する為に入力軸側ギヤ30a,32aと各々常時噛み合う複数のアイドラギヤ56,58とを備えている。尚、図1は、入力軸18、出力軸20、アイドラ軸54、及びデフリングギヤ24の軸心を共通の平面内に示した展開図である。
【0022】
このように構成された変速機16において、本実施例では、シフトシリンダ34,36の作動に従ってクラッチハブスリーブ42,48がフォークシャフト46,52等を介して選択的に移動させられて、入力側同期噛合クラッチ38a,38bと出力側同期噛合クラッチ40a,40bとが共に係合状態とされることにより何れかのギヤ段が成立させられる。フォークシャフト46,52等を移動させるシフトシリンダ34,36は、運転者の操作力を要しないで変速機16のギヤ段を切り換える変速アクチュエータ(シフトアクチュエータ)として機能している。従って、変速機16は、運転者の操作力を要しないで自動で変速が実行される同期噛合式自動変速機である。
【0023】
図2は、変速機16にて成立させられる4つのギヤ段と、ニュートラル状態とを示す概略図である。図2において、図2(a)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38aと出力側同期噛合クラッチ40aとが共に係合状態とされると、矢印aのように動力が伝達されるギヤ段aが成立させられる。また、図2(b)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38bと出力側同期噛合クラッチ40bとが共に係合状態とされると、矢印bのように動力が伝達されるギヤ段bが成立させられる。また、図2(c)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38bと出力側同期噛合クラッチ40aとが共に係合状態とされると、矢印cのように動力が伝達されるギヤ段cが成立させられる。また、図2(d)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38aと出力側同期噛合クラッチ40bとが共に係合状態とされると、矢印dのように動力が伝達されるギヤ段dが成立させられる。また、図2(e)に示すように同期噛合クラッチ38,40の何れもが係合状態とされないと、或いは不図示のように同期噛合クラッチ38,40の何れか一方でも係合状態とされないと、動力の伝達が遮断されるニュートラル状態が成立させられる。尚、ギヤ段a及びギヤ段bでは、ギヤ段の形成に関わるギヤ対30,32のギヤ比のみで単純にギヤ段のハイ、ローが決まるが、ギヤ段c及びギヤ段dでは、ギヤ段の形成にアイドラギヤ56,58が関わるので、ギヤ対30,32及びアイドラギヤ56,58の相互の歯数等の関係によりギヤ段のハイ、ローが決まる。従って、ギヤ段c及びギヤ段dにおける各変速比(=入力軸18の回転速度NIN/出力軸20の回転速度NOUT)は、ギヤ段aの変速比とギヤ段bの変速比との間に入るとは限らない。
【0024】
図1に戻り、車両10には、例えば変速機16の変速制御などの為の車両用有段変速機の制御装置を含む電子制御装置60が備えられている。電子制御装置60は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置60は、電動機12の出力制御や変速機16の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じて電動機12の出力制御用や変速機16の変速制御用等に分けて構成される。
【0025】
電子制御装置60には、例えばレゾルバ式や電磁ピックアップ式等の電動機回転速度センサ62により検出された電動機12の回転速度(電動機回転速度)NMすなわち入力軸18の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、電磁ピックアップ式等の出力軸回転速度センサ64により検出された出力軸20の回転速度(出力軸回転速度)NOUTを表す信号、電磁ピックアップ式等のアイドラ軸回転速度センサ66により検出されたアイドラ軸54の回転速度(アイドラ軸回転速度)NIを表す信号、アクセル開度センサ68により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダル70の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、電動機12との間でインバータ72を介して充放電を行うすなわち電動機12への電力を需給する蓄電装置74の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0026】
また、電子制御装置60からは、例えば電動機12の作動を指令する指令信号SM例えば電動機回転速度NMや電動機12の出力トルク(電動機トルク)TMを制御することで電動機12の出力(電動機出力)PEを制御する為の電動機制御信号SM、油圧制御回路76に備えられた油圧アクチュエータであるシフトシリンダ34,36の作動を制御して変速機16の変速を実行する(すなわち変速機16の所定のギヤ段を構成する)為に油圧制御回路76に含まれる不図示のシフトソレノイドバルブ等を作動させる為のバルブ指令信号SSH(すなわち変速機16の変速制御の為の変速制御指令信号)、この油圧制御回路76に設けられたレギュレータバルブにより元圧(例えばライン油圧)を調圧する為の信号SPL等が、それぞれ出力される。
【0027】
図3及び図4は、同期噛合クラッチ38,40の構成及び作動を具体的に説明する図である。この図3及び図4では、入力側同期噛合クラッチ38bを用いているが、他の入力側同期噛合クラッチ38a、及び出力側同期噛合クラッチ40a,40bも入力側同期噛合クラッチ38bと同様の構成及び作動である。図3、4において、入力側同期噛合クラッチ38bは、クラッチハブスリーブ42と、キースプリング80によってクラッチハブスリーブ42に係合させられたシフティングキー82と、所定の遊びを有する状態でシフティングキー82と共に入力軸18を軸心として回転させられるシンクロナイザリング(同期リング)84と、ギヤ対32の入力軸側ギヤ32aに一体的に設けられた外周歯からなる結合歯86及びコーン部88と、入力軸18に固定されたハブ90(図1参照)とを備えている。クラッチハブスリーブ42は、その内周面に設けられたスプライン歯(内周歯)92とハブ90の外周面に設けられたスプライン歯(外周歯)とがスプライン嵌合されることにより、入力軸18と常に一体的に回転させられるようになっている一方で入力軸18の軸心方向に移動自在になっている。
【0028】
そのクラッチハブスリーブ42が、前述のようにシフトシリンダ34によりフォークシャフト46及びフォーク44を介して図3の右方向へ移動させられると、クラッチハブスリーブ42と入力軸側ギヤ32aとの間の回転速度差があるときは、シフティングキー82を介してシンクロナイザリング84がコーン部88に押圧されてテーパ嵌合させられ、それらの間の摩擦によって入力軸側ギヤ32aに動力伝達が行われるようになる。そして、クラッチハブスリーブ42のスプライン歯92がシンクロナイザリング84に設けられたスプライン歯94に当接させられて、クラッチハブスリーブ42のそれ以上の軸心方向移動が阻止される。
【0029】
しかし、クラッチハブスリーブ42と入力軸側ギヤ32aとの間の回転速度差がなくなると、すなわちクラッチハブスリーブ42と入力軸側ギヤ32aとの回転速度が同期すると、クラッチハブスリーブ42の軸心方向移動が許容されるので、そのクラッチハブスリーブ42が更に右方向へ移動させられる。上記シンクロナイザリング84は、クラッチハブスリーブ42が入力軸側ギヤ32aの結合歯86に向かって移動させられる過程でその結合歯86とクラッチハブスリーブ42との回転速度が同期するまでそのクラッチハブスリーブ42の内周歯に当接してそのクラッチハブスリーブ42の移動を阻止する同期リングとして機能する。そして、図4に示すように、スプライン歯92はシンクロナイザリング84に設けられたスプライン歯94、更には入力軸側ギヤ32aに設けられた結合歯74と噛み合わされる。これにより入力軸18と入力軸側ギヤ32aとが一体的に連結されて、入力軸側ギヤ32aを介して入力軸18から出力軸側ギヤ32b及びアイドラギヤ58(アイドラ軸54)へ動力伝達が行われる。図3は入力側同期噛合クラッチ38bが未係合の状態すなわちニュートラル状態で、図4は入力側同期噛合クラッチ38bが係合された状態であり、それら図3及び図4の(a)は軸心を含む一平面の断面図、図3及び図4の(b)は図3及び図4の(a)の状態を外周側から見たクラッチハブスリーブ42の円筒部分を除く展開図である。
【0030】
他の入力側同期噛合クラッチ38a、及び出力側同期噛合クラッチ40a,40bも入力側同期噛合クラッチ38bと実質的に同様の構成であるが、クラッチハブスリーブ42は入力側同期噛合クラッチ38a及び入力側同期噛合クラッチ38bに共通のもので、クラッチハブスリーブ48は出力側同期噛合クラッチ40a及び出力側同期噛合クラッチ40bに共通のものである。
【0031】
ところで、本実施例のように、専ら電動機12を主駆動力源とする車両10に備えられる変速機16では、発進機構がいらない為、電動機12とはクラッチ等を介さずに断接不能に連結されている。その為、変速の際には、同期噛合クラッチ38,40の前段部(入力側)のイナーシャには電動機12が含まれることになる、すなわち同期噛合クラッチ38,40のインプット系イナーシャが大きくなる。また、例えば走行中に変速を実行する場合には、駆動輪14と共に回転している出力軸20の回転速度NOUTに他の回転要素の回転速度を同期させることになる。従って、変速の際に、電動機12により同期回転制御を実行した場合に、同期回転速度とのずれが大きい程、同期噛合クラッチ38,40にかかる同期時の負荷は大きくなり、例えば同期噛合クラッチ38,40の耐久性が低下したり、同期噛合クラッチ38,40を作動させる為に必要な外力が増大させられる可能性がある。尚、変速過程では、同期噛合クラッチ38,40による変速作動をスムーズに行う為に、電動機12を無負荷状態とすることが望ましいが、一方で、電動機による同期回転制御を実行しなければ、同期噛合クラッチ38,40による変速作動がスムーズに進行しない可能性がある。その為、同期噛合クラッチ38,40による変速作動に影響を与えない程度に、同期回転速度に向かって回転変化させるだけのトルクを電動機12に発生させて電動機12により同期回転制御を実行する。
【0032】
ここで、本実施例の変速機16では、主な回転イナーシャを同期噛合クラッチ38,40を境にして、次の3つのイナーシャ1〜3に分離することができる。
イナーシャ1:電動機12及び入力軸18
イナーシャ2:ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58
イナーシャ3:出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など
【0033】
そして、走行中に変速する場合、変速完了前では、変速後の上記イナーシャ3の回転速度と上記イナーシャ1及び2の回転速度とは、例えばギヤ比によってインプット換算(入力軸回転速度NIN換算)した後の回転速度において異なっている。この状態から、変速を開始した場合に、例えば先に入力側同期噛合装置すなわち同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1とイナーシャ2とを同期させると、イナーシャ1及びイナーシャ2を電動機12によりイナーシャ3に同期させることになる。このとき、電動機12で完全に同期できないときは、次に係合する出力側同期噛合装置すなわち同期噛合クラッチ40にてイナーシャ1及びイナーシャ2をイナーシャ3に同期させることになる。このような場合、インプット系イナーシャとしてはイナーシャ1の分にイナーシャ2の分が加わることになり、同期噛合クラッチ40には比較的大きな負荷がかかってしまう。
【0034】
そこで、本実施例では、同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくする為に、変速の際には、同期噛合クラッチ40を先に係合して出力軸側ギヤ30b,32bを出力軸20と連結させると共にすなわちイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)をイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と回転同期させると共に、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合して入力軸18を入力軸側ギヤ30a,32aと連結させるすなわちイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)をそのイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させる。
【0035】
図5は、走行中の変速の際の同期噛合クラッチ38,40の係合順を説明する状態遷移図である。図5において、(a)ニュートラル状態では、同期噛合クラッチ38,40が共に係合されておらず、駆動輪14の回転に伴ってイナーシャ3のみが回転している。次いで、(b)同期1では、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合クラッチ40a)が先に係合されて、イナーシャ2とイナーシャ3とが同期回転させられる。次いで、(c)同期2では、出力側同期噛合クラッチ40aに加えて同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合クラッチ38a)が係合されてイナーシャ1〜3が全て同期回転させられ、変速が完了させられる。
【0036】
尚、同期噛合クラッチ38と同期噛合クラッチ40とを同時(同時点)に係合することも考えられるが、同期噛合クラッチ38と同期噛合クラッチ40との係合の進行具合が常に同じになるとは限らず、両者の係合にずれが生じて例えば同期噛合クラッチ38が先に係合完了する場合もある。そうすると、上述したように、同期噛合クラッチ40による同期時に比較的大きな負荷がかかってしまう可能性がある。同期噛合クラッチ40を先に係合するという本実施例は、このような場合のフェールセーフという考え方もできる。
【0037】
より具体的には、図6は、電子制御装置60による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御部すなわち有段変速制御手段100は、変速機16の変速を行う。例えば、有段変速制御手段100は、例えば車速Vに対応する出力軸回転速度NOUTと要求負荷に対応するアクセル開度Accとを変数として予め記憶された公知の関係(変速線図、変速マップ)から実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速機16の変速を実行すべきか否かを判断する。すなわち、有段変速制御手段100は、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて変速機16の変速すべき変速段を判断する。そして、有段変速制御手段100は、その判断した変速段が得られるように変速機16の自動変速制御を実行する。上記変速マップは、例えば車両10の性能を充分引き出しつつ電動機12の効率の良い状態で運転可能なようにすなわち車両10のエネルギー効率と走行性能(動力性能)とを両立させる変速段にて運転可能なように、予め求められて設定されたものである。
【0038】
例えば、走行中の上記変速機16の自動変速制御において、有段変速制御手段100は、先ず、現在係合されている同期噛合クラッチ38,40を共に解放させ、次いで上記判断した変速段が得られる為の出力側の同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40を係合させ、次いで後述する同期完了判定手段102により前記イナーシャ2が前記イナーシャ3と同期したと判定された後に上記判断した変速段が得られる為の入力側の同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38を係合させる一連の変速作動を実行する為の変速制御指令信号SSHを油圧制御回路76に出力する。油圧制御回路76は、上記変速制御指令信号SSHに従って、上記一連の変速作動にて変速機16の変速が実行されるように、例えば油圧制御回路76内の不図示のシフトソレノイドバルブ等を作動させてシフトシリンダ34,36を作動させる。
【0039】
同期完了判定部すなわち同期完了判定手段102は、出力軸回転速度センサ64により検出された出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度センサ66により検出されたアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否かを判断する。例えば、同期完了判定手段102は、出力側同期噛合クラッチ40a,40bのうちの係合されるクラッチに基づいた出力軸20とアイドラ軸54との間の所定のギヤ比γ2−3と出力軸回転速度NOUTとに基づいてアイドラ軸回転速度NIの同期回転速度NI’(=γ2−3×NOUT)を算出し、実際のアイドラ軸回転速度NIとその同期回転速度NI’との差回転が零と判定される為の予め設定された零判定値となったか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。尚、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断することは、同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断することでもある。
【0040】
電動機制御部すなわち電動機制御手段104は、例えばインバータ72を介して電動機12による駆動力源又は発電機としての作動を制御する。例えば、電動機制御手段104は、そのときの走行車速V(出力軸回転速度NOUT)において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや出力軸回転速度NOUTに基づいて車両10の目標(要求)出力P*を算出し、その目標出力P*が得られるように伝達損失、補機負荷等を考慮して目標電動機出力(要求電動機出力)PM*を算出し、出力軸回転速度NOUTとそのときの変速段に対応する変速比から一意的に定められる電動機回転速度NMを考慮してその目標電動機出力PM*が得られる電動機トルクTMとなるように電動機12を制御する為の電動機制御信号SMをインバータ72へ出力する。インバータ72は、上記電動機制御信号SMに従って、例えば目標電動機出力PM*が得られる電動機トルクTMを発生させる為の駆動電流IMにて電動機12を駆動する。
【0041】
また、電動機制御手段104は、例えばアクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やブレーキペダルの操作によるホイールブレーキ作動時(すなわちフットブレーキによる制動時)などには、車両10のエネルギー効率を向上させる為に、駆動輪14から伝達される車両10の運動エネルギを電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪14から電動機12側へ伝達される逆駆動力により電動機12を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち電動機発電電流をインバータ72を介して蓄電装置74へ充電する回生制御を実行する。
【0042】
ここで、有段変速制御手段100による変速機16の自動変速制御中においては、係合する同期噛合クラッチ38,40への負荷を低減する為に、基本的には電動機12を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることが望ましい。しかしながら、電動機回転速度NMと変速後の電動機回転速度NMの同期回転速度NM’(=変速後の変速段に対応する変速比γ×NOUT)との差回転が大きい程、係合する同期噛合クラッチ38,40への負荷が大きくなってしまう。そこで、本実施例では、変速の際には、変速後の電動機回転速度NMの同期回転速度NM’に向かって回転変化させる為の電動機トルクTMを発生させるように電動機12を制御する。具体的には、電動機制御手段104は、例えば同期噛合クラッチ38,40による変速作動に影響を与えない程度に、電動機回転速度NMを同期回転速度NM’に向かって回転変化させる為の予め求められて設定された所定の電動機トルクTM’を電動機12に発生させて電動機12により同期回転制御を実行する為の同期回転制御信号SMをインバータ72へ出力する。インバータ72は、上記同期回転制御信号SMに従って、電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に向かって回転変化するように、例えば上記所定の電動機トルクTM’を発生させる為の所定の駆動電流IM’にて電動機12を駆動する。
【0043】
図7は、電子制御装置60の制御作動の要部すなわち変速機16の変速の際に同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくする為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。尚、この図8では、同期噛合クラッチ38,40の係合による各イナーシャ1〜3の相互間の同期の状態をわかりやすくする為に、イナーシャ2及び3の回転速度をギヤ比によってインプット換算(すなわちイナーシャ1の回転速度(電動機回転速度NM、入力軸回転速度NIN)の同期回転速度に換算)した後の回転速度として示している。
【0044】
図7において、先ず、有段変速制御手段100に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば前記変速マップから実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速機16の変速を実行すべきか否かが判断される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は有段変速制御手段100及び電動機制御手段104に対応するS20において、例えば現在係合されている同期噛合クラッチ38,40を共に解放させた後、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて判断された変速機16の変速すべき変速段が得られる為の出力側の同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が開始される(図8のt1時点)。また、所定の電動機トルクTM’を電動機12に発生させて電動機12により同期回転制御を実行する為の同期回転制御信号SMが出力され、電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に向かって回転変化させられる(図8のt1時点以降)。次いで、同期完了判定手段102に対応するS30において、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否かが判断される。つまり、同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かが判断される。上記S30の判断が否定される場合はこのS30が繰り返し実行されるが肯定される場合は有段変速制御手段100に対応するS40において、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて判断された変速機16の変速すべき変速段が得られる為の入力側の同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38の係合が開始される(図8のt2時点)。そして、電動機12による同期回転制御ではイナーシャ2,3と同期させられなかったイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)の残りの回転分を収束するようにが同期噛合クラッチ38の係合により同期させられ(図8のt2時点乃至t3時点)、図8のt3時点にて同期噛合クラッチ38の係合が完了して一連の変速作動が終了する。
【0045】
上述のように、本実施例によれば、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)と同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成する変速機16において、変速の際には、同期噛合クラッチ40が先に係合されて出力軸側ギヤ30b,32bが出力軸20と連結させられると共にすなわちイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と回転同期させられると共に、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38が係合されて入力軸18が入力軸側ギヤ30a,32aと連結させられるのですなわちイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)がそのイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させられるので、同期噛合クラッチ40の係合時にはイナーシャ2分のインプット系イナーシャを同期させ、同期噛合クラッチ38の係合時にはイナーシャ1分のインプット系イナーシャを同期させることになる。従って、同期噛合クラッチ38が先に係合された後に同期噛合クラッチ40が係合されることにより同期噛合クラッチ40の係合時には同期噛合クラッチ38の係合時に同期させられたイナーシャ2とイナーシャ1との両方の分のインプット系イナーシャを同期させることに比較して、変速の際に、イナーシャ2分とイナーシャ1分とでインプット系イナーシャを2つに分けて同期させることになり、同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくすることができる。よって、同期噛合クラッチ40の耐久性が向上され、またシフトシリンダ36による同期噛合クラッチ40の操作力も小さくされる。
【0046】
また、本実施例によれば、変速機16は、入力軸18と平行に設けられたアイドラ軸54と、複数のギヤ対30,32に対応してそのアイドラ軸54に相対回転不能に設けられて入力軸18とアイドラ軸54との間を動力伝達可能に連結する為の複数のアイドラギヤ56,58とを更に備えるので、変速機16のギヤ段を形成する為のアイドラギヤ56,58が設けられたアイドラ軸54を備えないような平行2軸式の車両用有段変速機と比較して、ギヤ段を構成する為に同期噛合クラッチ38と同期噛合クラッチ40とを共に係合状態とする必要があるものの、同じギヤ段数を構成する場合に、ギヤ対を構成するギヤの枚数を少なくすることができ、また、軸方向の幅も小さくすることができる。これにより、比較的小型で軽量な車両用有段変速機が構成され、燃費を向上することが可能となる。具体的には、通常の平行2軸式の車両用有段変速機と比較して、変速機16のような4段変速で、例えばギヤの枚数を8枚から6枚(入力軸側ギヤ30a,32a、出力軸側ギヤ30b,32b、アイドラギヤ56,58)にすることができ、また軸方向の幅もギヤ4枚分から2枚分(ギヤ対30の列とギヤ対32の列)とすることができる。
【0047】
また、本実施例によれば、出力軸回転速度センサ64により検出された出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度センサ66により検出されたアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期したか否かを判断するので、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させることが適切に実行される。
【0048】
また、本実施例によれば、変速の際には、変速後の電動機12の同期回転速度NM’に向かって回転変化させる為の所定の電動機トルクTM’を発生させるように電動機12を制御するので、変速過程において、電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に近くされる程、イナーシャ1分のインプット系イナーシャを同期させる同期噛合クラッチ38にかかる負担が小さくされる。また、同期噛合クラッチ38の係合時にはほぼ電動機12自身のみを同期回転速度NM’に向かって回転変化させるだけでよいので、同期噛合クラッチ38が先に係合された後に同期噛合クラッチ40が係合されることにより同期噛合クラッチ40の係合時には同期噛合クラッチ38の係合時に同期させられたイナーシャ1とイナーシャ2との両方を電動機12により同期回転速度に向かって回転変化させることに比較して、電動機12の負荷が小さくされる。
【0049】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0050】
前述の実施例では、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否か、すなわち同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、同期噛合クラッチ40を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36の作動量が所定値よりも大きくなったか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。
【0051】
図9は、シフトシリンダ36の構成を説明する概略図である。図9において、シフトシリンダ36は、フォークシャフト52に作動的に連結されてクラッチハブスリーブ48を出力軸20の軸心方向に選択的に移動させる為に摺動させられるシフトロッド37を備えている。また、車両10には、そのシフトロッド37の摺動量STすなわちシフトシリンダ36の作動量を検出する為のストロークセンサ78が備えられている。このストロークセンサ78により検出されたシフトロッド37の摺動量STを表す信号が電子制御装置60へ供給される。そして、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、ストロークセンサ78により検出されたシフトロッド37の摺動量STが所定値ST’よりも大きくなった場合にイナーシャ2がイナーシャ3と同期したと判断する。上記所定値ST’は、例えば同期噛合クラッチ40が係合される位置までクラッチハブスリーブ48が移動したと判断できる為の予め求められて定められた係合判定値である。
【0052】
上述のように、本実施例によれば、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36の作動量(シフトロッド37の摺動量ST)が所定値ST’よりも大きくなった場合にイナーシャ2がイナーシャ3と回転同期したと判断するので、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させることが適切に実行される。
【実施例3】
【0053】
前述の実施例では、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、或いはシフトロッド37の摺動量STに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否か、すなわち同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、同期噛合クラッチ40を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36の作動時間が所定時間経過したか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。つまり、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、有段変速制御手段100により変速の為にシフトシリンダ36が同期噛合クラッチ40の係合に向かって作動開始させられてからの作動時間TSCが所定時間TSC’以上となったか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。そして、有段変速制御手段100は、シフトシリンダ36を同期噛合クラッチ40の係合に向かって作動開始させてから所定時間TSC’が経過後に、すなわち同期完了判定手段102により作動時間TSCが所定時間TSC’以上となったと判定された場合に、同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34を同期噛合クラッチ38の係合に向かって作動開始させる。上記所定時間TSC’は、例えば同期噛合クラッチ40の係合を開始してから同期噛合クラッチ40が係合される位置までクラッチハブスリーブ48が移動してイナーシャ2がイナーシャ3と同期させられるまでに必要な時間として予め求められて定められた係合所用時間である。
【0054】
上述のように、本実施例によれば、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36を同期噛合クラッチ40の係合に向かって作動開始させてから、イナーシャ2をイナーシャ3と回転同期させる為の所定時間TSC’が経過後に、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34を同期噛合クラッチ38の係合に向かって作動開始させるので、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させることが適切に実行される。
【実施例4】
【0055】
前述の実施例では、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、シフトロッド37の摺動量STに基づいて、或いはシフトシリンダ36の作動時間TSCに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否か、すなわち同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、同期完了判定手段102(図7のステップS30)を備えず、すなわちイナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断することなく、機械的な機構により同期噛合クラッチ40の係合後に同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)の係合を開始させる。つまり、本実施例の車両10では、同期噛合クラッチ40が先に係合されないと(例えば図4に示すように係合されないと)、次の同期噛合クラッチ38の係合が始まらない機械的な機構を備えている。
【0056】
図10及び図11は、同期噛合クラッチ40が先に係合されないと次の同期噛合クラッチ38の係合が始まらない機械的な機構110,120の構成及び作動を説明する図である。図10及び図11において、シフトロッド35は、シフトシリンダ34に備えられており、フォークシャフト46に作動的に連結されてクラッチハブスリーブ42を入力軸18の軸心方向に選択的に移動させる為に摺動させられる。また、シフトロッド37は、前述したようにシフトシリンダ36に備えられている。
【0057】
図10において、機構110は、シフトロッド35とシフトロッド37との間の所定の間隙Aに、シフトロッド35とシフトロッド37とに対してロッドの軸方向に相対移動不能に固定された間隙部材112a,112bと、間隙部材112a,112bに挟まれたコマ114とを備えている。コマ114は、間隙部材112a,112bと同様にロッドの軸方向に相対移動不能ではあるが、シフトロッド35とシフトロッド37とに対してロッドの軸方向と垂直方向(すなわちシフトロッド35とシフトロッド37との相対方向)に移動可能に設けられている。シフトロッド35には、同期噛合クラッチ38がニュートラル状態とされているときの位置にあるときにコマ114のシフトロッド35側の先端部が入り込む溝35aが設けられている。また、シフトロッド37には、出力側同期噛合クラッチ40a,40bがそれぞれ係合完了状態とされているときの位置にあるときにコマ114のシフトロッド37側の先端部が入り込む溝37a,37bが設けられている。尚、シフトロッド35及びシフトロッド37の一部或いは全部、及び機構110は、例えば油圧制御回路76のバルブボディ116内に収容されている。
【0058】
このように構成されたシフトロッド35とシフトロッド37及び機構110において、図10(a)に示すように、同期噛合クラッチ38,40が共にニュートラル状態にあるときには、シフトロッド35は溝35aがコマ114に引っかかるために摺動することができないが、シフトロッド37は自由に摺動することができる。従って、同期噛合クラッチ40の係合を先に開始することができる。次いで、図10(b)に示すように、シフトロッド37の溝37aが出力側同期噛合クラッチ40aの係合が完了した位置である原点0に来ると、すなわちシフトシリンダ36の作動位置がイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)をイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期させる為の所定位置とされると、コマ114がその溝37aに入り込むことが可能になるので、シフトロッド35は自由に摺動することができる。そして、図10(c)に示すように、シフトロッド35が入力側同期噛合クラッチ38aの係合が完了した位置に来ると、すなわちシフトシリンダ34の作動位置がイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)をイナーシャ2及びイナーシャ3と同期させる為の所定位置とされると、変速機16の変速が完了する。このように、機構110を採用することにより、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置がイナーシャ2をイナーシャ3と回転同期させる為の所定位置とされるまで、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34(シフトロッド35)が機械的に作動不能(摺動不能)とされる。
【0059】
また、図10(d)に示すように、スプリング118a,118bによる待ち機構を採用することで、同期噛合クラッチ38,40を共に係合するようにシフトシリンダ34,36を同時に作動させることが可能になる。つまり、シフトシリンダ34をシフトシリンダ36と同時に作動させても、シフトロッド35を摺動させる力はシフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置が所定位置とされるまでスプリング118aにより一時的に吸収されるので、実際には、シフトロッド35は摺動させられない。そして、シフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置が所定位置とされると、シフトロッド35は同期噛合クラッチ38の係合に向かって摺動させられる。
【0060】
ところで、図10の機構110では、同期噛合クラッチ38,40を共にニュートラル状態へ戻すときには、シフトロッド35を先に動かして溝35aが原点0に来ないと、シフトロッド37は摺動不能である。つまり、シフトロッド35とシフトロッド37との両方を一度に摺動させてニュートラル状態の位置に戻せないため、ニュートラル状態への切換えに遅れが生じる。図11に示した機構120は、機構110の機能に加え、機構110におけるニュートラル状態への切換え遅れを解消するものである。図11において、シフトロッド35には、機構110における溝35aに対応する位置に、コマ114の一方向の移動のみを許容する一方向機構122が設けられている。一方向機構122は、コマ114をその間に留めることができる三角のストッパ122a,122bを備えている。ストッパ122a,122bは、コマ114のシフトロッド35側の先端部が自身に引っかかることによりその間から軸方向外側への移動を阻止するものである一方、自身が倒れることによりその軸方向外側からその間への移動を許容するものである。また、間隙部材124a,124bには、シフトロッド35の摺動時に一方向機構122が引っかかることのない範囲で凹部が設けられている。
【0061】
このように構成されたシフトロッド35とシフトロッド37及び機構120において、図11(a)に示すように、同期噛合クラッチ38,40が共にニュートラル状態にあるときには、シフトロッド35は一方向機構122がコマ114に引っかかるために摺動することができないが、シフトロッド37は自由に摺動することができる。つまり、シフトロッド37の溝37a,37bが同期噛合クラッチ40の係合が完了した位置である原点0に来ないと、シフトロッド35は摺動することができない。また、図11(b)に示すように、シフトロッド37は、シフトロッド35の位置に関係なくニュートラル状態(図11(a)の状態)の位置に摺動させることができる。また、シフトロッド35は、一方向機構122のストッパ122a,122bが倒れるので、ニュートラル状態(図11(a)の状態)の位置に摺動させることができる。
【0062】
上述のように、本実施例によれば、機構110、120を採用することにより、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置がイナーシャ2をイナーシャ3と回転同期させる為の所定位置とされるまで、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34(シフトロッド35)が機械的に作動不能(摺動不能)とされるので、イナーシャ2がイナーシャ3と同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と同期させることが適切に実行される。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0064】
例えば、前述の実施例では、入力軸18と平行に設けられたアイドラ軸54と、複数のギヤ対30,32に対応してそのアイドラ軸54に相対回転不能に設けられたアイドラギヤ56,58とを備え、4段変速が可能な変速機16であったが、必ずしもアイドラ軸54とアイドラギヤ56,58とを備えなくとも良いし、他のギヤ対やアイドラギヤを更に備えるものであっても良い。要するに、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)と同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)とを共に係合状態とすることによりギヤ段が構成される変速機であれば、本発明は適用され得る。
【0065】
また、前述の実施例では、図8に示すように、変速機16の変速過程において実行される電動機12による同期回転制御は、出力側の同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合開始と同時期から開始されたが、同期噛合クラッチ40の係合開始前(例えばニュートラル状態とされているとき)でも良いし、同期噛合クラッチ40の係合開始後でも良い。要するに、入力側の同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38の係合が開始されるときまでに、電動機12による同期回転制御によって電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に向かって回転変化させられておれば良い。
【0066】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:車両
12:電動機
14:駆動輪
16:変速機(車両用有段変速機)
18:入力軸
20:出力軸
30,32:ギヤ対
30a,32a:入力軸側ギヤ
30b,32b:出力軸側ギヤ
34,36:シフトシリンダ(アクチュエータ)
38:同期噛合クラッチ(同期噛合装置、入力側同期噛合装置)
40:同期噛合クラッチ(同期噛合装置、出力側同期噛合装置)
54:アイドラ軸
56,58:アイドラギヤ
60:電子制御装置(制御装置)
64:出力軸回転速度センサ
66:アイドラ軸回転速度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸間に設けられた常時噛み合う複数のギヤ対と、ギヤ段を構成する為にギヤ対毎に設けられてアクチュエータを介して選択的に係合させられる同期噛合装置とを備える車両用有段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用有段変速機として、常時噛み合う複数の変速ギヤ対(ギヤ対)を2軸間に備え、それらギヤ対の何れかをアクチュエータにより操作される同期噛合装置(同期噛合クラッチ)の選択的な係合によって動力伝達可能状態とすることでギヤ段(変速段)を自動的に切り換えることが可能な同期噛合式自動変速機が良く知られている。このような同期噛合式自動変速機では、一般的に、アクチュエータにより自動的に係合、解放される自動クラッチ(発進クラッチ)が設けられており、発進時や変速時には、自動クラッチの係合と解放とが制御される。例えば、上記自動クラッチが設けられた同期噛合式自動変速機では、変速に際して、先ず、自動クラッチが解放され且つスロットル開度が減小値とされ、次いでそれまでのギヤ段に対応するギヤ対に設けられている同期噛合装置の係合がアクチュエータにより解除される。次いで、複数のギヤ対毎に設けられた複数の同期噛合装置がいずれも未係合であるニュートラル状態において、変速先のギヤ段である要求ギヤ段に対応するギヤ対に設けられている同期噛合装置の係合がアクチュエータによって開始される。すなわち、アクチュエータにより押圧された同期噛合装置によって回転同期作動が開始される。そして、その同期噛合装置による回転同期作動が終了してその同期噛合装置の係合完了すなわち同期完了が判定されると、自動クラッチが係合され且つスロットル開度が復帰される、という一連の変速操作を実行する制御が行われる。
【0003】
また、上記自動クラッチがエンジンとの間に設けられた同期噛合式自動変速機を有する車両の制御装置に関して、例えば特許文献1には、変速する際、ニュートラル状態で一旦クラッチをつなぎ、エンジン回転速度を上昇させて、変速機の入力軸と出力軸との回転速度を同期させる所謂ダブルクラッチ制御を実行した後、上記同期噛合装置による回転同期作動を開始することが記載されている。また、特許文献2には、変速機の入力軸と出力軸との伝達トルクを調節する為の多板クラッチを更に備え、変速の際には、変速ギヤ対と出力軸とを連結する為の変速用ドッグクラッチを解放状態にし、次いで入力軸と出力軸との連結が開放された状態にて多板クラッチの伝達トルク容量を制御して入出力間の変速比を変速後の変速比とし、その状態で変速用ドッグクラッチを締結させて入力軸と出力軸とを連結し、その連結完了後に多板クラッチを解放して変速完了することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−101643号公報
【特許文献2】特開2005−313893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、専ら電動機を主駆動力源とする車両に備えられる車両用有段変速機では、一般的に、車両停止時にエンジン作動を維持しつつ発進時にエンジンの動力を駆動輪側へ伝達させるような発進機構がいらない為、上述した発進クラッチや多板クラッチが不要とされる。このように発進クラッチや多板クラッチが備えられない場合には、電動機から駆動輪までの動力伝達経路は、例えば上記同期噛合装置のみにより断接されることになる。これにより、変速に際して、電動機と変速機とは切り離されることなく連結されたままとなり、同期噛合装置の前段部(入力側)のイナーシャには電動機が含まれることになる、すなわち同期噛合装置のインプット系イナーシャが大きくなる。従って、変速の際に、電動機自身の同期回転制御を実行した場合に、同期回転速度とのずれが大きい程、同期噛合装置にかかる同期時の負担(負荷)は大きくなる。その為、例えば同期噛合装置の摩耗が進んで耐久性が低下したり、同期噛合装置を作動させる為に必要な外力が増大させられるなどの問題が生じ易くなる。尚、発進クラッチや多板クラッチを備えない車両用有段変速機の変速時の制御として、上記特許文献1,2に記載されているようなクラッチの制御を前提とする技術を適用できないことは言うまでもないことである。このような課題は未公知であり、電動機との間にクラッチを備えない変速機の変速の際に、同期噛合装置にかかる負荷を小さくすることについて、未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速の際に、同期噛合装置にかかる負荷を小さくすることができる車両用有段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 電動機と断接不能に連結された入力軸と、その入力軸と平行に設けられて駆動輪に連結された出力軸と、その入力軸とその出力軸との間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合うギヤ対と、そのギヤ対毎に設けられてアクチュエータにより選択的に係合させられることによりその入力軸とその出力軸とをそのギヤ対を介して連結する為の同期噛合装置とを備え、前記電動機の動力を前記駆動輪側へ伝達する車両用有段変速機の制御装置であって、(b) 前記同期噛合装置は、前記入力軸と前記ギヤ対の入力軸側ギヤとを連結する入力側同期噛合装置と、前記出力軸と前記ギヤ対の出力軸側ギヤとを連結する出力側同期噛合装置とを有し、(c) 前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成するものであり、(d) 変速の際には、前記出力側同期噛合装置を先に係合して前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と連結させると共に、そのギヤ対の出力軸側ギヤがその出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸をそのギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成する車両用有段変速機において、変速の際には、前記出力側同期噛合装置が先に係合されて前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結させられると共に、そのギヤ対の出力軸側ギヤがその出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置が係合されて前記入力軸がそのギヤ対の入力軸側ギヤと連結させられるので、前記出力側同期噛合装置の係合時には前記ギヤ対分のインプット系イナーシャを同期させ、前記入力側同期噛合装置の係合時には前記電動機分のインプット系イナーシャを同期させることになる。従って、前記入力側同期噛合装置が先に係合された後に前記出力側同期噛合装置が係合されることにより前記出力側同期噛合装置の係合時には前記入力側同期噛合装置の係合時に同期させられた前記ギヤ対と前記電動機との両方の分のインプット系イナーシャを同期させることに比較して、変速の際に、前記ギヤ対分と前記電動機分とでインプット系イナーシャを2つに分けて同期させることになり、同期噛合装置にかかる負荷を小さくすることができる。よって、同期噛合装置の耐久性が向上され、またアクチュエータによる同期噛合装置の操作力も小さくされる。
【0009】
ここで、好適には、前記車両用有段変速機は、前記入力軸と平行に設けられたアイドラ軸と、前記複数のギヤ対に対応してそのアイドラ軸に相対回転不能に設けられてその入力軸とそのアイドラ軸との間を動力伝達可能に連結する為の複数のアイドラギヤとを更に備えることにある。このようにすれば、ギヤ段を形成する為のアイドラギヤが設けられたアイドラ軸を備えないような平行2軸式の車両用有段変速機と比較して、ギヤ段を構成する為に前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とする必要があるものの、同じギヤ段数を構成する場合に、ギヤ対を構成するギヤの枚数を少なくすることができ、また、軸方向の幅も小さくすることができる。これにより、比較的小型で軽量な車両用有段変速機が構成され、燃費を向上することが可能となる。
【0010】
また、好適には、前記ギヤ対の回転速度及び前記出力軸の回転速度を各々検出する為の各々の回転速度センサを備え、前記回転速度センサにより検出された各々の回転速度に基づいて前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したか否かを判断することにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0011】
また、好適には、前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動量が所定値よりも大きくなった場合に前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したと判断することにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0012】
また、好適には、前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータをその出力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させてから、前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定時間が経過後に、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータをその入力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させることにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0013】
また、好適には、前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動位置が前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定位置とされるまで、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータが機械的に作動不能とされていることにある。このようにすれば、前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を前記ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることが適切に実行される。
【0014】
また、好適には、変速の際には、変速後の前記電動機の同期回転速度に向かって回転変化させる為のトルクを発生させるように前記電動機を制御することにある。このようにすれば、変速過程において、前記電動機の回転速度が同期回転速度に近くされる程、前記電動機分のインプット系イナーシャを同期させる前記入力側同期噛合装置にかかる負担が小さくされる。また、前記入力側同期噛合装置の係合時にはほぼ電動機自身のみを同期回転速度に向かって回転変化させるだけでよいので、前記入力側同期噛合装置が先に係合された後に前記出力側同期噛合装置が係合されることにより前記出力側同期噛合装置の係合時には前記入力側同期噛合装置の係合時に同期させられた前記ギヤ対と前記電動機との両方を電動機により同期回転速度に向かって回転変化させることに比較して、電動機の負荷が小さくされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用される車両を構成する動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】変速機にて成立させられる4つのギヤ段と、ニュートラル状態とを示す概略図である。
【図3】同期噛合クラッチの構成及び作動を具体的に説明する図であって、同期噛合クラッチが未係合の状態すなわちニュートラル状態を示す図である。
【図4】同期噛合クラッチの構成及び作動を具体的に説明する図であって、同期噛合クラッチが係合された状態を示す図である。
【図5】走行中の変速の際の同期噛合クラッチの係合順を説明する状態遷移図である。
【図6】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわち変速機の変速の際に同期噛合クラッチにかかる負荷を小さくする為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図9】シフトシリンダの構成を説明する概略図である。
【図10】出力側同期噛合装置が先に係合されないと次の入力側同期噛合装置の係合が始まらない機械的な機構の構成及び作動を説明する図である。
【図11】出力側同期噛合装置が先に係合されないと次の入力側同期噛合装置の係合が始まらない機械的な機構の構成及び作動を説明する図であって、図10とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明が適用される車両10を構成する電動機12から駆動輪14までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、変速機16の変速制御等を実行する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、変速機16は、例えば車両10において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸18に直接的に伝達された走行用駆動力源としての電動機12の動力を、出力軸20に設けられた出力歯車としてのドライブピニオンギヤ22から、デフリングギヤ24、差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26、及び一対の車軸(ドライブシャフト)28等を順次介して一対の駆動輪14へ伝達する車両用有段変速機である。これら変速機16、差動歯車装置26等によりトランスアクスル(T/A)が構成される。尚、入力軸18は、クラッチ等の動力伝達経路断接装置を介すことなく例えば不図示のスプライン嵌合継手を介して断接不能に電動機12の出力軸に連結されている。また、出力軸20は、入力軸18と平行に設けられており、差動歯車装置26のデフリングギヤ24と噛み合わされるドライブピニオンギヤ22等を介して駆動輪14に連結されている。また、差動歯車装置26は例えば傘歯車式のものであり、差動歯車装置26を構成する不図示の一対のサイドギヤにはそれぞれ左右の車軸28がスプライン嵌合などによって連結され、左右の駆動輪(前車輪)14が車軸28により回転駆動される。
【0018】
また、変速機16は、所謂常時噛合型平行軸式変速機であって、入力軸18と出力軸20との間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合うギヤ対(変速ギヤ対)30,32と、ギヤ対30,32毎に設けられてアクチュエータとしてのシフトシリンダ34,36により選択的に係合させられることにより入力軸18と出力軸20とをギヤ対を介して連結する為のシンクロメッシュタイプの複数の同期噛合クラッチ(同期噛合装置)38,40とを備えている。
【0019】
ギヤ対(変速ギヤ対)30は、入力軸18に相対回転可能に設けられた入力軸側ギヤ30aと、出力軸20に相対回転可能に設けられた出力軸側ギヤ30bとから構成されている。ギヤ対(変速ギヤ対)32は、入力軸18に相対回転可能に設けられた入力軸側ギヤ32aと、出力軸20に相対回転可能に設けられた出力軸側ギヤ32bとから構成されている。また、同期噛合クラッチ38は、入力軸側ギヤ30aと入力軸18とを係合により選択的に連結する為の入力側同期噛合クラッチ38aと、入力軸側ギヤ32aと入力軸18とを係合により選択的に連結する為の入力側同期噛合クラッチ38bとを備え、入力軸18とギヤ対30,32とを同期(回転同期)する入力側同期噛合装置である。同期噛合クラッチ40は、出力軸側ギヤ30bと出力軸20とを係合により選択的に連結する為の出力側同期噛合クラッチ40aと、出力軸側ギヤ32bと出力軸20とを係合により選択的に連結する為の出力側同期噛合クラッチ40bとを備え、出力軸20とギヤ対30,32とを同期(回転同期)する出力側同期噛合装置である。尚、同期噛合クラッチ38,40は係合により各部材間を連結することから、同期噛合クラッチ38,40が各部材間やそれに直接的に繋がる部材間を同期(回転同期)するということは各部材間を連結するということとほぼ同意として取り扱う。つまり、係合に依らなくとも回転を同期することは可能であり、単に回転を同期するだけでは連結することとは同意とはならないが、同期噛合クラッチ38,40は係合によって同期させるので連結とほぼ同意とする。
【0020】
また、変速機16は、入力側同期噛合クラッチ38a,38bの構成に含まれるクラッチハブスリーブ(結合スリーブ)42に対して入力軸18の軸心まわりに相対回転可能に係合させられてそのクラッチハブスリーブ42を入力軸18の軸心方向に選択的に移動させることにより何れかのギヤ段を成立させるフォーク44が設けられた、例えば入力軸18に平行なフォークシャフト46を備えている。このフォークシャフト46はシフトシリンダ34の作動に従って入力軸18の軸心方向に移動させられるものであり、フォーク44はこのフォークシャフト46の移動に連動して移動させられる。また、変速機16は、出力側同期噛合クラッチ40a,40bの構成に含まれるクラッチハブスリーブ48に対して出力軸20の軸心まわりに相対回転可能に係合させられてそのクラッチハブスリーブ48を出力軸20の軸心方向に選択的に移動させることにより何れかのギヤ段を成立させるフォーク50が設けられた、例えば出力軸20に平行なフォークシャフト52を備えている。このフォークシャフト52はシフトシリンダ36の作動に従って出力軸20の軸心方向に移動させられるものであり、フォーク50はこのフォークシャフト52の移動に連動して移動させられる。
【0021】
更に、変速機16は、入力軸18と平行に設けられたアイドラ軸54と、ギヤ対30,32に対応してアイドラ軸54に相対回転不能に設けられて入力軸18とアイドラ軸54との間を動力伝達可能に連結する為に入力軸側ギヤ30a,32aと各々常時噛み合う複数のアイドラギヤ56,58とを備えている。尚、図1は、入力軸18、出力軸20、アイドラ軸54、及びデフリングギヤ24の軸心を共通の平面内に示した展開図である。
【0022】
このように構成された変速機16において、本実施例では、シフトシリンダ34,36の作動に従ってクラッチハブスリーブ42,48がフォークシャフト46,52等を介して選択的に移動させられて、入力側同期噛合クラッチ38a,38bと出力側同期噛合クラッチ40a,40bとが共に係合状態とされることにより何れかのギヤ段が成立させられる。フォークシャフト46,52等を移動させるシフトシリンダ34,36は、運転者の操作力を要しないで変速機16のギヤ段を切り換える変速アクチュエータ(シフトアクチュエータ)として機能している。従って、変速機16は、運転者の操作力を要しないで自動で変速が実行される同期噛合式自動変速機である。
【0023】
図2は、変速機16にて成立させられる4つのギヤ段と、ニュートラル状態とを示す概略図である。図2において、図2(a)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38aと出力側同期噛合クラッチ40aとが共に係合状態とされると、矢印aのように動力が伝達されるギヤ段aが成立させられる。また、図2(b)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38bと出力側同期噛合クラッチ40bとが共に係合状態とされると、矢印bのように動力が伝達されるギヤ段bが成立させられる。また、図2(c)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38bと出力側同期噛合クラッチ40aとが共に係合状態とされると、矢印cのように動力が伝達されるギヤ段cが成立させられる。また、図2(d)に示すように、入力側同期噛合クラッチ38aと出力側同期噛合クラッチ40bとが共に係合状態とされると、矢印dのように動力が伝達されるギヤ段dが成立させられる。また、図2(e)に示すように同期噛合クラッチ38,40の何れもが係合状態とされないと、或いは不図示のように同期噛合クラッチ38,40の何れか一方でも係合状態とされないと、動力の伝達が遮断されるニュートラル状態が成立させられる。尚、ギヤ段a及びギヤ段bでは、ギヤ段の形成に関わるギヤ対30,32のギヤ比のみで単純にギヤ段のハイ、ローが決まるが、ギヤ段c及びギヤ段dでは、ギヤ段の形成にアイドラギヤ56,58が関わるので、ギヤ対30,32及びアイドラギヤ56,58の相互の歯数等の関係によりギヤ段のハイ、ローが決まる。従って、ギヤ段c及びギヤ段dにおける各変速比(=入力軸18の回転速度NIN/出力軸20の回転速度NOUT)は、ギヤ段aの変速比とギヤ段bの変速比との間に入るとは限らない。
【0024】
図1に戻り、車両10には、例えば変速機16の変速制御などの為の車両用有段変速機の制御装置を含む電子制御装置60が備えられている。電子制御装置60は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置60は、電動機12の出力制御や変速機16の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じて電動機12の出力制御用や変速機16の変速制御用等に分けて構成される。
【0025】
電子制御装置60には、例えばレゾルバ式や電磁ピックアップ式等の電動機回転速度センサ62により検出された電動機12の回転速度(電動機回転速度)NMすなわち入力軸18の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、電磁ピックアップ式等の出力軸回転速度センサ64により検出された出力軸20の回転速度(出力軸回転速度)NOUTを表す信号、電磁ピックアップ式等のアイドラ軸回転速度センサ66により検出されたアイドラ軸54の回転速度(アイドラ軸回転速度)NIを表す信号、アクセル開度センサ68により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダル70の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、電動機12との間でインバータ72を介して充放電を行うすなわち電動機12への電力を需給する蓄電装置74の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0026】
また、電子制御装置60からは、例えば電動機12の作動を指令する指令信号SM例えば電動機回転速度NMや電動機12の出力トルク(電動機トルク)TMを制御することで電動機12の出力(電動機出力)PEを制御する為の電動機制御信号SM、油圧制御回路76に備えられた油圧アクチュエータであるシフトシリンダ34,36の作動を制御して変速機16の変速を実行する(すなわち変速機16の所定のギヤ段を構成する)為に油圧制御回路76に含まれる不図示のシフトソレノイドバルブ等を作動させる為のバルブ指令信号SSH(すなわち変速機16の変速制御の為の変速制御指令信号)、この油圧制御回路76に設けられたレギュレータバルブにより元圧(例えばライン油圧)を調圧する為の信号SPL等が、それぞれ出力される。
【0027】
図3及び図4は、同期噛合クラッチ38,40の構成及び作動を具体的に説明する図である。この図3及び図4では、入力側同期噛合クラッチ38bを用いているが、他の入力側同期噛合クラッチ38a、及び出力側同期噛合クラッチ40a,40bも入力側同期噛合クラッチ38bと同様の構成及び作動である。図3、4において、入力側同期噛合クラッチ38bは、クラッチハブスリーブ42と、キースプリング80によってクラッチハブスリーブ42に係合させられたシフティングキー82と、所定の遊びを有する状態でシフティングキー82と共に入力軸18を軸心として回転させられるシンクロナイザリング(同期リング)84と、ギヤ対32の入力軸側ギヤ32aに一体的に設けられた外周歯からなる結合歯86及びコーン部88と、入力軸18に固定されたハブ90(図1参照)とを備えている。クラッチハブスリーブ42は、その内周面に設けられたスプライン歯(内周歯)92とハブ90の外周面に設けられたスプライン歯(外周歯)とがスプライン嵌合されることにより、入力軸18と常に一体的に回転させられるようになっている一方で入力軸18の軸心方向に移動自在になっている。
【0028】
そのクラッチハブスリーブ42が、前述のようにシフトシリンダ34によりフォークシャフト46及びフォーク44を介して図3の右方向へ移動させられると、クラッチハブスリーブ42と入力軸側ギヤ32aとの間の回転速度差があるときは、シフティングキー82を介してシンクロナイザリング84がコーン部88に押圧されてテーパ嵌合させられ、それらの間の摩擦によって入力軸側ギヤ32aに動力伝達が行われるようになる。そして、クラッチハブスリーブ42のスプライン歯92がシンクロナイザリング84に設けられたスプライン歯94に当接させられて、クラッチハブスリーブ42のそれ以上の軸心方向移動が阻止される。
【0029】
しかし、クラッチハブスリーブ42と入力軸側ギヤ32aとの間の回転速度差がなくなると、すなわちクラッチハブスリーブ42と入力軸側ギヤ32aとの回転速度が同期すると、クラッチハブスリーブ42の軸心方向移動が許容されるので、そのクラッチハブスリーブ42が更に右方向へ移動させられる。上記シンクロナイザリング84は、クラッチハブスリーブ42が入力軸側ギヤ32aの結合歯86に向かって移動させられる過程でその結合歯86とクラッチハブスリーブ42との回転速度が同期するまでそのクラッチハブスリーブ42の内周歯に当接してそのクラッチハブスリーブ42の移動を阻止する同期リングとして機能する。そして、図4に示すように、スプライン歯92はシンクロナイザリング84に設けられたスプライン歯94、更には入力軸側ギヤ32aに設けられた結合歯74と噛み合わされる。これにより入力軸18と入力軸側ギヤ32aとが一体的に連結されて、入力軸側ギヤ32aを介して入力軸18から出力軸側ギヤ32b及びアイドラギヤ58(アイドラ軸54)へ動力伝達が行われる。図3は入力側同期噛合クラッチ38bが未係合の状態すなわちニュートラル状態で、図4は入力側同期噛合クラッチ38bが係合された状態であり、それら図3及び図4の(a)は軸心を含む一平面の断面図、図3及び図4の(b)は図3及び図4の(a)の状態を外周側から見たクラッチハブスリーブ42の円筒部分を除く展開図である。
【0030】
他の入力側同期噛合クラッチ38a、及び出力側同期噛合クラッチ40a,40bも入力側同期噛合クラッチ38bと実質的に同様の構成であるが、クラッチハブスリーブ42は入力側同期噛合クラッチ38a及び入力側同期噛合クラッチ38bに共通のもので、クラッチハブスリーブ48は出力側同期噛合クラッチ40a及び出力側同期噛合クラッチ40bに共通のものである。
【0031】
ところで、本実施例のように、専ら電動機12を主駆動力源とする車両10に備えられる変速機16では、発進機構がいらない為、電動機12とはクラッチ等を介さずに断接不能に連結されている。その為、変速の際には、同期噛合クラッチ38,40の前段部(入力側)のイナーシャには電動機12が含まれることになる、すなわち同期噛合クラッチ38,40のインプット系イナーシャが大きくなる。また、例えば走行中に変速を実行する場合には、駆動輪14と共に回転している出力軸20の回転速度NOUTに他の回転要素の回転速度を同期させることになる。従って、変速の際に、電動機12により同期回転制御を実行した場合に、同期回転速度とのずれが大きい程、同期噛合クラッチ38,40にかかる同期時の負荷は大きくなり、例えば同期噛合クラッチ38,40の耐久性が低下したり、同期噛合クラッチ38,40を作動させる為に必要な外力が増大させられる可能性がある。尚、変速過程では、同期噛合クラッチ38,40による変速作動をスムーズに行う為に、電動機12を無負荷状態とすることが望ましいが、一方で、電動機による同期回転制御を実行しなければ、同期噛合クラッチ38,40による変速作動がスムーズに進行しない可能性がある。その為、同期噛合クラッチ38,40による変速作動に影響を与えない程度に、同期回転速度に向かって回転変化させるだけのトルクを電動機12に発生させて電動機12により同期回転制御を実行する。
【0032】
ここで、本実施例の変速機16では、主な回転イナーシャを同期噛合クラッチ38,40を境にして、次の3つのイナーシャ1〜3に分離することができる。
イナーシャ1:電動機12及び入力軸18
イナーシャ2:ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58
イナーシャ3:出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など
【0033】
そして、走行中に変速する場合、変速完了前では、変速後の上記イナーシャ3の回転速度と上記イナーシャ1及び2の回転速度とは、例えばギヤ比によってインプット換算(入力軸回転速度NIN換算)した後の回転速度において異なっている。この状態から、変速を開始した場合に、例えば先に入力側同期噛合装置すなわち同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1とイナーシャ2とを同期させると、イナーシャ1及びイナーシャ2を電動機12によりイナーシャ3に同期させることになる。このとき、電動機12で完全に同期できないときは、次に係合する出力側同期噛合装置すなわち同期噛合クラッチ40にてイナーシャ1及びイナーシャ2をイナーシャ3に同期させることになる。このような場合、インプット系イナーシャとしてはイナーシャ1の分にイナーシャ2の分が加わることになり、同期噛合クラッチ40には比較的大きな負荷がかかってしまう。
【0034】
そこで、本実施例では、同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくする為に、変速の際には、同期噛合クラッチ40を先に係合して出力軸側ギヤ30b,32bを出力軸20と連結させると共にすなわちイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)をイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と回転同期させると共に、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合して入力軸18を入力軸側ギヤ30a,32aと連結させるすなわちイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)をそのイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させる。
【0035】
図5は、走行中の変速の際の同期噛合クラッチ38,40の係合順を説明する状態遷移図である。図5において、(a)ニュートラル状態では、同期噛合クラッチ38,40が共に係合されておらず、駆動輪14の回転に伴ってイナーシャ3のみが回転している。次いで、(b)同期1では、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合クラッチ40a)が先に係合されて、イナーシャ2とイナーシャ3とが同期回転させられる。次いで、(c)同期2では、出力側同期噛合クラッチ40aに加えて同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合クラッチ38a)が係合されてイナーシャ1〜3が全て同期回転させられ、変速が完了させられる。
【0036】
尚、同期噛合クラッチ38と同期噛合クラッチ40とを同時(同時点)に係合することも考えられるが、同期噛合クラッチ38と同期噛合クラッチ40との係合の進行具合が常に同じになるとは限らず、両者の係合にずれが生じて例えば同期噛合クラッチ38が先に係合完了する場合もある。そうすると、上述したように、同期噛合クラッチ40による同期時に比較的大きな負荷がかかってしまう可能性がある。同期噛合クラッチ40を先に係合するという本実施例は、このような場合のフェールセーフという考え方もできる。
【0037】
より具体的には、図6は、電子制御装置60による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御部すなわち有段変速制御手段100は、変速機16の変速を行う。例えば、有段変速制御手段100は、例えば車速Vに対応する出力軸回転速度NOUTと要求負荷に対応するアクセル開度Accとを変数として予め記憶された公知の関係(変速線図、変速マップ)から実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速機16の変速を実行すべきか否かを判断する。すなわち、有段変速制御手段100は、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて変速機16の変速すべき変速段を判断する。そして、有段変速制御手段100は、その判断した変速段が得られるように変速機16の自動変速制御を実行する。上記変速マップは、例えば車両10の性能を充分引き出しつつ電動機12の効率の良い状態で運転可能なようにすなわち車両10のエネルギー効率と走行性能(動力性能)とを両立させる変速段にて運転可能なように、予め求められて設定されたものである。
【0038】
例えば、走行中の上記変速機16の自動変速制御において、有段変速制御手段100は、先ず、現在係合されている同期噛合クラッチ38,40を共に解放させ、次いで上記判断した変速段が得られる為の出力側の同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40を係合させ、次いで後述する同期完了判定手段102により前記イナーシャ2が前記イナーシャ3と同期したと判定された後に上記判断した変速段が得られる為の入力側の同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38を係合させる一連の変速作動を実行する為の変速制御指令信号SSHを油圧制御回路76に出力する。油圧制御回路76は、上記変速制御指令信号SSHに従って、上記一連の変速作動にて変速機16の変速が実行されるように、例えば油圧制御回路76内の不図示のシフトソレノイドバルブ等を作動させてシフトシリンダ34,36を作動させる。
【0039】
同期完了判定部すなわち同期完了判定手段102は、出力軸回転速度センサ64により検出された出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度センサ66により検出されたアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否かを判断する。例えば、同期完了判定手段102は、出力側同期噛合クラッチ40a,40bのうちの係合されるクラッチに基づいた出力軸20とアイドラ軸54との間の所定のギヤ比γ2−3と出力軸回転速度NOUTとに基づいてアイドラ軸回転速度NIの同期回転速度NI’(=γ2−3×NOUT)を算出し、実際のアイドラ軸回転速度NIとその同期回転速度NI’との差回転が零と判定される為の予め設定された零判定値となったか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。尚、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断することは、同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断することでもある。
【0040】
電動機制御部すなわち電動機制御手段104は、例えばインバータ72を介して電動機12による駆動力源又は発電機としての作動を制御する。例えば、電動機制御手段104は、そのときの走行車速V(出力軸回転速度NOUT)において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや出力軸回転速度NOUTに基づいて車両10の目標(要求)出力P*を算出し、その目標出力P*が得られるように伝達損失、補機負荷等を考慮して目標電動機出力(要求電動機出力)PM*を算出し、出力軸回転速度NOUTとそのときの変速段に対応する変速比から一意的に定められる電動機回転速度NMを考慮してその目標電動機出力PM*が得られる電動機トルクTMとなるように電動機12を制御する為の電動機制御信号SMをインバータ72へ出力する。インバータ72は、上記電動機制御信号SMに従って、例えば目標電動機出力PM*が得られる電動機トルクTMを発生させる為の駆動電流IMにて電動機12を駆動する。
【0041】
また、電動機制御手段104は、例えばアクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やブレーキペダルの操作によるホイールブレーキ作動時(すなわちフットブレーキによる制動時)などには、車両10のエネルギー効率を向上させる為に、駆動輪14から伝達される車両10の運動エネルギを電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪14から電動機12側へ伝達される逆駆動力により電動機12を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち電動機発電電流をインバータ72を介して蓄電装置74へ充電する回生制御を実行する。
【0042】
ここで、有段変速制御手段100による変速機16の自動変速制御中においては、係合する同期噛合クラッチ38,40への負荷を低減する為に、基本的には電動機12を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることが望ましい。しかしながら、電動機回転速度NMと変速後の電動機回転速度NMの同期回転速度NM’(=変速後の変速段に対応する変速比γ×NOUT)との差回転が大きい程、係合する同期噛合クラッチ38,40への負荷が大きくなってしまう。そこで、本実施例では、変速の際には、変速後の電動機回転速度NMの同期回転速度NM’に向かって回転変化させる為の電動機トルクTMを発生させるように電動機12を制御する。具体的には、電動機制御手段104は、例えば同期噛合クラッチ38,40による変速作動に影響を与えない程度に、電動機回転速度NMを同期回転速度NM’に向かって回転変化させる為の予め求められて設定された所定の電動機トルクTM’を電動機12に発生させて電動機12により同期回転制御を実行する為の同期回転制御信号SMをインバータ72へ出力する。インバータ72は、上記同期回転制御信号SMに従って、電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に向かって回転変化するように、例えば上記所定の電動機トルクTM’を発生させる為の所定の駆動電流IM’にて電動機12を駆動する。
【0043】
図7は、電子制御装置60の制御作動の要部すなわち変速機16の変速の際に同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくする為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。尚、この図8では、同期噛合クラッチ38,40の係合による各イナーシャ1〜3の相互間の同期の状態をわかりやすくする為に、イナーシャ2及び3の回転速度をギヤ比によってインプット換算(すなわちイナーシャ1の回転速度(電動機回転速度NM、入力軸回転速度NIN)の同期回転速度に換算)した後の回転速度として示している。
【0044】
図7において、先ず、有段変速制御手段100に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば前記変速マップから実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速機16の変速を実行すべきか否かが判断される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は有段変速制御手段100及び電動機制御手段104に対応するS20において、例えば現在係合されている同期噛合クラッチ38,40を共に解放させた後、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて判断された変速機16の変速すべき変速段が得られる為の出力側の同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が開始される(図8のt1時点)。また、所定の電動機トルクTM’を電動機12に発生させて電動機12により同期回転制御を実行する為の同期回転制御信号SMが出力され、電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に向かって回転変化させられる(図8のt1時点以降)。次いで、同期完了判定手段102に対応するS30において、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否かが判断される。つまり、同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かが判断される。上記S30の判断が否定される場合はこのS30が繰り返し実行されるが肯定される場合は有段変速制御手段100に対応するS40において、上記変速マップから実際の車両状態に基づいて判断された変速機16の変速すべき変速段が得られる為の入力側の同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38の係合が開始される(図8のt2時点)。そして、電動機12による同期回転制御ではイナーシャ2,3と同期させられなかったイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)の残りの回転分を収束するようにが同期噛合クラッチ38の係合により同期させられ(図8のt2時点乃至t3時点)、図8のt3時点にて同期噛合クラッチ38の係合が完了して一連の変速作動が終了する。
【0045】
上述のように、本実施例によれば、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)と同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成する変速機16において、変速の際には、同期噛合クラッチ40が先に係合されて出力軸側ギヤ30b,32bが出力軸20と連結させられると共にすなわちイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と回転同期させられると共に、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38が係合されて入力軸18が入力軸側ギヤ30a,32aと連結させられるのですなわちイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)がそのイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させられるので、同期噛合クラッチ40の係合時にはイナーシャ2分のインプット系イナーシャを同期させ、同期噛合クラッチ38の係合時にはイナーシャ1分のインプット系イナーシャを同期させることになる。従って、同期噛合クラッチ38が先に係合された後に同期噛合クラッチ40が係合されることにより同期噛合クラッチ40の係合時には同期噛合クラッチ38の係合時に同期させられたイナーシャ2とイナーシャ1との両方の分のインプット系イナーシャを同期させることに比較して、変速の際に、イナーシャ2分とイナーシャ1分とでインプット系イナーシャを2つに分けて同期させることになり、同期噛合クラッチ40にかかる負荷を小さくすることができる。よって、同期噛合クラッチ40の耐久性が向上され、またシフトシリンダ36による同期噛合クラッチ40の操作力も小さくされる。
【0046】
また、本実施例によれば、変速機16は、入力軸18と平行に設けられたアイドラ軸54と、複数のギヤ対30,32に対応してそのアイドラ軸54に相対回転不能に設けられて入力軸18とアイドラ軸54との間を動力伝達可能に連結する為の複数のアイドラギヤ56,58とを更に備えるので、変速機16のギヤ段を形成する為のアイドラギヤ56,58が設けられたアイドラ軸54を備えないような平行2軸式の車両用有段変速機と比較して、ギヤ段を構成する為に同期噛合クラッチ38と同期噛合クラッチ40とを共に係合状態とする必要があるものの、同じギヤ段数を構成する場合に、ギヤ対を構成するギヤの枚数を少なくすることができ、また、軸方向の幅も小さくすることができる。これにより、比較的小型で軽量な車両用有段変速機が構成され、燃費を向上することが可能となる。具体的には、通常の平行2軸式の車両用有段変速機と比較して、変速機16のような4段変速で、例えばギヤの枚数を8枚から6枚(入力軸側ギヤ30a,32a、出力軸側ギヤ30b,32b、アイドラギヤ56,58)にすることができ、また軸方向の幅もギヤ4枚分から2枚分(ギヤ対30の列とギヤ対32の列)とすることができる。
【0047】
また、本実施例によれば、出力軸回転速度センサ64により検出された出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度センサ66により検出されたアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期したか否かを判断するので、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させることが適切に実行される。
【0048】
また、本実施例によれば、変速の際には、変速後の電動機12の同期回転速度NM’に向かって回転変化させる為の所定の電動機トルクTM’を発生させるように電動機12を制御するので、変速過程において、電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に近くされる程、イナーシャ1分のインプット系イナーシャを同期させる同期噛合クラッチ38にかかる負担が小さくされる。また、同期噛合クラッチ38の係合時にはほぼ電動機12自身のみを同期回転速度NM’に向かって回転変化させるだけでよいので、同期噛合クラッチ38が先に係合された後に同期噛合クラッチ40が係合されることにより同期噛合クラッチ40の係合時には同期噛合クラッチ38の係合時に同期させられたイナーシャ1とイナーシャ2との両方を電動機12により同期回転速度に向かって回転変化させることに比較して、電動機12の負荷が小さくされる。
【0049】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0050】
前述の実施例では、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否か、すなわち同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、同期噛合クラッチ40を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36の作動量が所定値よりも大きくなったか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。
【0051】
図9は、シフトシリンダ36の構成を説明する概略図である。図9において、シフトシリンダ36は、フォークシャフト52に作動的に連結されてクラッチハブスリーブ48を出力軸20の軸心方向に選択的に移動させる為に摺動させられるシフトロッド37を備えている。また、車両10には、そのシフトロッド37の摺動量STすなわちシフトシリンダ36の作動量を検出する為のストロークセンサ78が備えられている。このストロークセンサ78により検出されたシフトロッド37の摺動量STを表す信号が電子制御装置60へ供給される。そして、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、ストロークセンサ78により検出されたシフトロッド37の摺動量STが所定値ST’よりも大きくなった場合にイナーシャ2がイナーシャ3と同期したと判断する。上記所定値ST’は、例えば同期噛合クラッチ40が係合される位置までクラッチハブスリーブ48が移動したと判断できる為の予め求められて定められた係合判定値である。
【0052】
上述のように、本実施例によれば、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36の作動量(シフトロッド37の摺動量ST)が所定値ST’よりも大きくなった場合にイナーシャ2がイナーシャ3と回転同期したと判断するので、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させることが適切に実行される。
【実施例3】
【0053】
前述の実施例では、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、或いはシフトロッド37の摺動量STに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否か、すなわち同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、同期噛合クラッチ40を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36の作動時間が所定時間経過したか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。つまり、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、有段変速制御手段100により変速の為にシフトシリンダ36が同期噛合クラッチ40の係合に向かって作動開始させられてからの作動時間TSCが所定時間TSC’以上となったか否かに基づいて、イナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断する。そして、有段変速制御手段100は、シフトシリンダ36を同期噛合クラッチ40の係合に向かって作動開始させてから所定時間TSC’が経過後に、すなわち同期完了判定手段102により作動時間TSCが所定時間TSC’以上となったと判定された場合に、同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34を同期噛合クラッチ38の係合に向かって作動開始させる。上記所定時間TSC’は、例えば同期噛合クラッチ40の係合を開始してから同期噛合クラッチ40が係合される位置までクラッチハブスリーブ48が移動してイナーシャ2がイナーシャ3と同期させられるまでに必要な時間として予め求められて定められた係合所用時間である。
【0054】
上述のように、本実施例によれば、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36を同期噛合クラッチ40の係合に向かって作動開始させてから、イナーシャ2をイナーシャ3と回転同期させる為の所定時間TSC’が経過後に、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34を同期噛合クラッチ38の係合に向かって作動開始させるので、イナーシャ2がイナーシャ3と回転同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と回転同期させることが適切に実行される。
【実施例4】
【0055】
前述の実施例では、同期完了判定手段102(図7のステップS30)は、出力軸回転速度NOUT及びアイドラ軸回転速度NIに基づいて、シフトロッド37の摺動量STに基づいて、或いはシフトシリンダ36の作動時間TSCに基づいて、イナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)がイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期したか否か、すなわち同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合が完了したか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、同期完了判定手段102(図7のステップS30)を備えず、すなわちイナーシャ2がイナーシャ3と同期したか否かを判断することなく、機械的な機構により同期噛合クラッチ40の係合後に同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)の係合を開始させる。つまり、本実施例の車両10では、同期噛合クラッチ40が先に係合されないと(例えば図4に示すように係合されないと)、次の同期噛合クラッチ38の係合が始まらない機械的な機構を備えている。
【0056】
図10及び図11は、同期噛合クラッチ40が先に係合されないと次の同期噛合クラッチ38の係合が始まらない機械的な機構110,120の構成及び作動を説明する図である。図10及び図11において、シフトロッド35は、シフトシリンダ34に備えられており、フォークシャフト46に作動的に連結されてクラッチハブスリーブ42を入力軸18の軸心方向に選択的に移動させる為に摺動させられる。また、シフトロッド37は、前述したようにシフトシリンダ36に備えられている。
【0057】
図10において、機構110は、シフトロッド35とシフトロッド37との間の所定の間隙Aに、シフトロッド35とシフトロッド37とに対してロッドの軸方向に相対移動不能に固定された間隙部材112a,112bと、間隙部材112a,112bに挟まれたコマ114とを備えている。コマ114は、間隙部材112a,112bと同様にロッドの軸方向に相対移動不能ではあるが、シフトロッド35とシフトロッド37とに対してロッドの軸方向と垂直方向(すなわちシフトロッド35とシフトロッド37との相対方向)に移動可能に設けられている。シフトロッド35には、同期噛合クラッチ38がニュートラル状態とされているときの位置にあるときにコマ114のシフトロッド35側の先端部が入り込む溝35aが設けられている。また、シフトロッド37には、出力側同期噛合クラッチ40a,40bがそれぞれ係合完了状態とされているときの位置にあるときにコマ114のシフトロッド37側の先端部が入り込む溝37a,37bが設けられている。尚、シフトロッド35及びシフトロッド37の一部或いは全部、及び機構110は、例えば油圧制御回路76のバルブボディ116内に収容されている。
【0058】
このように構成されたシフトロッド35とシフトロッド37及び機構110において、図10(a)に示すように、同期噛合クラッチ38,40が共にニュートラル状態にあるときには、シフトロッド35は溝35aがコマ114に引っかかるために摺動することができないが、シフトロッド37は自由に摺動することができる。従って、同期噛合クラッチ40の係合を先に開始することができる。次いで、図10(b)に示すように、シフトロッド37の溝37aが出力側同期噛合クラッチ40aの係合が完了した位置である原点0に来ると、すなわちシフトシリンダ36の作動位置がイナーシャ2(ギヤ対30,32、及びアイドラギヤ56,58)をイナーシャ3(出力軸20、ドライブピニオンギヤ22など)と同期させる為の所定位置とされると、コマ114がその溝37aに入り込むことが可能になるので、シフトロッド35は自由に摺動することができる。そして、図10(c)に示すように、シフトロッド35が入力側同期噛合クラッチ38aの係合が完了した位置に来ると、すなわちシフトシリンダ34の作動位置がイナーシャ1(電動機12及び入力軸18)をイナーシャ2及びイナーシャ3と同期させる為の所定位置とされると、変速機16の変速が完了する。このように、機構110を採用することにより、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置がイナーシャ2をイナーシャ3と回転同期させる為の所定位置とされるまで、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34(シフトロッド35)が機械的に作動不能(摺動不能)とされる。
【0059】
また、図10(d)に示すように、スプリング118a,118bによる待ち機構を採用することで、同期噛合クラッチ38,40を共に係合するようにシフトシリンダ34,36を同時に作動させることが可能になる。つまり、シフトシリンダ34をシフトシリンダ36と同時に作動させても、シフトロッド35を摺動させる力はシフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置が所定位置とされるまでスプリング118aにより一時的に吸収されるので、実際には、シフトロッド35は摺動させられない。そして、シフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置が所定位置とされると、シフトロッド35は同期噛合クラッチ38の係合に向かって摺動させられる。
【0060】
ところで、図10の機構110では、同期噛合クラッチ38,40を共にニュートラル状態へ戻すときには、シフトロッド35を先に動かして溝35aが原点0に来ないと、シフトロッド37は摺動不能である。つまり、シフトロッド35とシフトロッド37との両方を一度に摺動させてニュートラル状態の位置に戻せないため、ニュートラル状態への切換えに遅れが生じる。図11に示した機構120は、機構110の機能に加え、機構110におけるニュートラル状態への切換え遅れを解消するものである。図11において、シフトロッド35には、機構110における溝35aに対応する位置に、コマ114の一方向の移動のみを許容する一方向機構122が設けられている。一方向機構122は、コマ114をその間に留めることができる三角のストッパ122a,122bを備えている。ストッパ122a,122bは、コマ114のシフトロッド35側の先端部が自身に引っかかることによりその間から軸方向外側への移動を阻止するものである一方、自身が倒れることによりその軸方向外側からその間への移動を許容するものである。また、間隙部材124a,124bには、シフトロッド35の摺動時に一方向機構122が引っかかることのない範囲で凹部が設けられている。
【0061】
このように構成されたシフトロッド35とシフトロッド37及び機構120において、図11(a)に示すように、同期噛合クラッチ38,40が共にニュートラル状態にあるときには、シフトロッド35は一方向機構122がコマ114に引っかかるために摺動することができないが、シフトロッド37は自由に摺動することができる。つまり、シフトロッド37の溝37a,37bが同期噛合クラッチ40の係合が完了した位置である原点0に来ないと、シフトロッド35は摺動することができない。また、図11(b)に示すように、シフトロッド37は、シフトロッド35の位置に関係なくニュートラル状態(図11(a)の状態)の位置に摺動させることができる。また、シフトロッド35は、一方向機構122のストッパ122a,122bが倒れるので、ニュートラル状態(図11(a)の状態)の位置に摺動させることができる。
【0062】
上述のように、本実施例によれば、機構110、120を採用することにより、同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ36(シフトロッド37)の作動位置がイナーシャ2をイナーシャ3と回転同期させる為の所定位置とされるまで、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)を係合させる為に作動させられるシフトシリンダ34(シフトロッド35)が機械的に作動不能(摺動不能)とされるので、イナーシャ2がイナーシャ3と同期した後に、同期噛合クラッチ38を係合してイナーシャ1をイナーシャ2及びイナーシャ3と同期させることが適切に実行される。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0064】
例えば、前述の実施例では、入力軸18と平行に設けられたアイドラ軸54と、複数のギヤ対30,32に対応してそのアイドラ軸54に相対回転不能に設けられたアイドラギヤ56,58とを備え、4段変速が可能な変速機16であったが、必ずしもアイドラ軸54とアイドラギヤ56,58とを備えなくとも良いし、他のギヤ対やアイドラギヤを更に備えるものであっても良い。要するに、同期噛合クラッチ38(入力側同期噛合装置)と同期噛合クラッチ40(出力側同期噛合装置)とを共に係合状態とすることによりギヤ段が構成される変速機であれば、本発明は適用され得る。
【0065】
また、前述の実施例では、図8に示すように、変速機16の変速過程において実行される電動機12による同期回転制御は、出力側の同期噛合クラッチ(出力側同期噛合装置)40の係合開始と同時期から開始されたが、同期噛合クラッチ40の係合開始前(例えばニュートラル状態とされているとき)でも良いし、同期噛合クラッチ40の係合開始後でも良い。要するに、入力側の同期噛合クラッチ(入力側同期噛合装置)38の係合が開始されるときまでに、電動機12による同期回転制御によって電動機回転速度NMが同期回転速度NM’に向かって回転変化させられておれば良い。
【0066】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:車両
12:電動機
14:駆動輪
16:変速機(車両用有段変速機)
18:入力軸
20:出力軸
30,32:ギヤ対
30a,32a:入力軸側ギヤ
30b,32b:出力軸側ギヤ
34,36:シフトシリンダ(アクチュエータ)
38:同期噛合クラッチ(同期噛合装置、入力側同期噛合装置)
40:同期噛合クラッチ(同期噛合装置、出力側同期噛合装置)
54:アイドラ軸
56,58:アイドラギヤ
60:電子制御装置(制御装置)
64:出力軸回転速度センサ
66:アイドラ軸回転速度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と断接不能に連結された入力軸と、該入力軸と平行に設けられて駆動輪に連結された出力軸と、該入力軸と該出力軸との間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合うギヤ対と、該ギヤ対毎に設けられてアクチュエータにより選択的に係合させられることにより該入力軸と該出力軸とを該ギヤ対を介して連結する為の同期噛合装置とを備え、前記電動機の動力を前記駆動輪側へ伝達する車両用有段変速機の制御装置であって、
前記同期噛合装置は、前記入力軸と前記ギヤ対の入力軸側ギヤとを連結する入力側同期噛合装置と、前記出力軸と前記ギヤ対の出力軸側ギヤとを連結する出力側同期噛合装置とを有し、
前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成するものであり、
変速の際には、前記出力側同期噛合装置を先に係合して前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と連結させると共に、該ギヤ対の出力軸側ギヤが該出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を該ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることを特徴とする車両用有段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記車両用有段変速機は、前記入力軸と平行に設けられたアイドラ軸と、前記複数のギヤ対に対応して該アイドラ軸に相対回転不能に設けられて該入力軸と該アイドラ軸との間を動力伝達可能に連結する為の複数のアイドラギヤとを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記ギヤ対の回転速度及び前記出力軸の回転速度を各々検出する為の各々の回転速度センサを備え、
前記回転速度センサにより検出された各々の回転速度に基づいて前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したか否かを判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動量が所定値よりも大きくなった場合に前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したと判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータを該出力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させてから、前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定時間が経過後に、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータを該入力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動位置が前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定位置とされるまで、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータが機械的に作動不能とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項7】
変速の際には、変速後の前記電動機の同期回転速度に向かって回転変化させる為のトルクを発生させるように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項1】
電動機と断接不能に連結された入力軸と、該入力軸と平行に設けられて駆動輪に連結された出力軸と、該入力軸と該出力軸との間を動力伝達可能に連結する為のギヤ比が異なる複数の常時噛み合うギヤ対と、該ギヤ対毎に設けられてアクチュエータにより選択的に係合させられることにより該入力軸と該出力軸とを該ギヤ対を介して連結する為の同期噛合装置とを備え、前記電動機の動力を前記駆動輪側へ伝達する車両用有段変速機の制御装置であって、
前記同期噛合装置は、前記入力軸と前記ギヤ対の入力軸側ギヤとを連結する入力側同期噛合装置と、前記出力軸と前記ギヤ対の出力軸側ギヤとを連結する出力側同期噛合装置とを有し、
前記入力側同期噛合装置と前記出力側同期噛合装置とを共に係合状態とすることによりギヤ段を構成するものであり、
変速の際には、前記出力側同期噛合装置を先に係合して前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と連結させると共に、該ギヤ対の出力軸側ギヤが該出力軸と連結した後に、前記入力側同期噛合装置を係合して前記入力軸を該ギヤ対の入力軸側ギヤと連結させることを特徴とする車両用有段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記車両用有段変速機は、前記入力軸と平行に設けられたアイドラ軸と、前記複数のギヤ対に対応して該アイドラ軸に相対回転不能に設けられて該入力軸と該アイドラ軸との間を動力伝達可能に連結する為の複数のアイドラギヤとを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記ギヤ対の回転速度及び前記出力軸の回転速度を各々検出する為の各々の回転速度センサを備え、
前記回転速度センサにより検出された各々の回転速度に基づいて前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したか否かを判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動量が所定値よりも大きくなった場合に前記ギヤ対の出力軸側ギヤが前記出力軸と回転同期したと判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータを該出力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させてから、前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定時間が経過後に、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータを該入力側同期噛合装置の係合に向かって作動開始させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記出力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータの作動位置が前記ギヤ対の出力軸側ギヤを前記出力軸と回転同期させる為の所定位置とされるまで、前記入力側同期噛合装置を係合させる為に作動させられる前記アクチュエータが機械的に作動不能とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【請求項7】
変速の際には、変速後の前記電動機の同期回転速度に向かって回転変化させる為のトルクを発生させるように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用有段変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−133032(P2011−133032A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292984(P2009−292984)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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