説明

車両用走行制御装置

【課題】運転者の運転特性に応じてより違和感の無い車両の走行制御を行うことができる車両用走行制御装置を提供する。
【解決手段】運転者の減速意思を検出するドライバ操作状態検出部26、アクセル操作検出部28、ブレーキ操作検出部29と、システム作動距離Lthと減速意思距離Ldとの偏差を距離偏差として算出するとともに該安全装置の作動対象となるカーブ曲率と距離偏差とを対応付けて運転特性として記憶する運転特性記憶部37と、新たに検出されたカーブ曲率と運転特性記憶部37に記憶されている運転特性とに基づいて安全装置の作動タイミングを変更する適正車両状態変更部36とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前方のカーブに対する車両の進入速度と、運転者の減速意思が検出されたときの前方のカーブまでの距離とに基づいて、運転者の技量を推定する車両用走行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この車両用走行制御装置においては、カーブに対する車両の進入速度が高いほど、又は、運転者の減速意思が検出されたときのカーブまでの距離が短いほど、運転者の技量が高いと推定するようになっている。
【特許文献1】特開2005−319849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した車両用走行制御装置は、特定のカーブに対する車両の進入速度、および、減速意思が検出されたときの距離に基づいて運転者の技量を推定しているため、例えば、運転技量の低い運転者で、先の見通しの悪さなどによりカーブの曲率半径を見誤ってブレーキングのタイミングが遅れた場合などに、運転技量が高い運転者であると判断されてしまう場合がある。また、運転技量の高い運転者の中には、早めのブレーキングを心がけている人もいるが、このように早めのブレーキングを心がけている人は、運転技量の低い運転者であると判断されてしまうこととなる。このように、判定された運転技量と運転者の実際の運転技量とにずれが生じることで、この運転技量に応じた車両の走行制御により運転者に違和感を与えてしまう可能性があるという課題がある。
【0004】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、運転者の運転特性に応じてより違和感の無い車両の走行制御を行うことができる車両用走行制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、道路データを記憶する記憶手段(例えば、実施の形態における記憶部21)と、自車両の位置を検出する自車位置検出手段(例えば、実施の形態における自車位置検出部22)と、自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段(例えば、実施の形態における車両状態検出部12)と、前記記憶手段が記憶した前記道路データに基づき自車両の進行方向に存在するカーブ形状を認識するカーブ認識手段(例えば、実施の形態における道路減速地点認識部23)と、該カーブ認識手段が認識した前記カーブ形状に基づき該カーブを適正に通過可能な適正車両状態を設定する適正車両状態設定手段(例えば、実施の形態における適正車両状態設定部13)と、前記車両状態検出手段が検出した車両状態と前記適正車両状態設定手段が設定した前記適正車両状態とを比較する比較手段(例えば、実施の形態における比較部14)と、該比較手段による比較結果において前記自車両の車両状態が前記適正車両状態に無いときに自車両に設けられた安全装置を作動可能とする作動手段(例えば、実施の形態における安全装置作動部15)とを備える車両用走行制御装置であって、運転者の減速意思を検出する減速意思検出手段(例えば、実施の形態におけるドライバ操作状態検出部26、アクセル操作検出部28、ブレーキ操作検出部29)と、前記作動手段が安全装置を作動可能とした地点から、前記カーブ認識手段により認識された認識カーブのカーブ入口までの距離(例えば、実施の形態におけるシステム作動距離Lth)と運転者の減速意思を検出した地点からカーブ入口までの距離(例えば、実施の形態における減速意思距離Ld)との偏差を距離偏差(例えば、実施の形態における偏差ΔL)として算出するとともに、前記安全装置の作動対象となるカーブ形状(例えば、実施の形態におけるカーブ曲率R0)と前記距離偏差とを対応付けて運転特性として記憶する運転特性記憶手段(例えば、実施の形態における運転特性記憶部37)と、新たに検出されたカーブ形状(例えば、実施の形態における曲率R1)と前記運転特性記憶手段に記憶されている運転特性とに基づいて安全装置の作動タイミングを変更する作動タイミング変更手段(例えば、実施の形態における適正車両状態変更部17)とを備えたことを特徴とする車両用走行制御装置。
【0006】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の発明において、前記作動タイミング変更手段は、前記運転特性記憶手段に記憶されているカーブ形状と新たに検出されたカーブ形状との偏差を曲率偏差(例えば、実施の形態における偏差ΔR)として算出し、該曲率偏差と前記運転特性記憶手段に記憶されているカーブ形状に対応する距離偏差とに基づいて安全装置の作動タイミングを変更することを特徴とする
【0007】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記安全装置を作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までの距離が運転者の減速意思を検出した地点から前記カーブ入口までの距離よりも長い場合には、より前記カーブ入口に近い位置で前記安全装置が作動するよう作動タイミングを補正することを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の発明において、前記安全装置を作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までの距離が運転者の減速意思を検出した地点から前記カーブ入口までの距離よりも短い場合には、より前記カーブ入口から遠い位置で前記安全装置が作動するよう作動タイミングを補正することを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の発明において、前記減速意思検出手段は、運転者のブレーキ操作を検出可能に構成され、前記安全装置は、前記比較手段により自車両の車両状態が前記適正車両状態にないと判定されるとともに運転者のブレーキ操作が前記減速意思検出手段により検出された場合にブレーキ装置の液圧を増圧するブレーキアシスト制御手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した発明によれば、作動手段が安全装置を作動可能とした地点からカーブ入口までの距離と、運転者の減速意図が検出された地点からカーブ入口までの距離との距離偏差を、安全装置の作動対象となるカーブ形状に対応付けて運転特性として記憶させることで、例えば、カーブ毎にカーブ形状に応じた運転者の運転特性を学習させることができるため、この学習させた運転特性に基づいて、新たに検出されたカーブに対する安全装置の作動タイミングの変更を適切に行うことができる。従って、運転者が必要としていないタイミングで安全装置が作動するのを防止して、違和感の無い車両の走行制御を行うことができる効果がある。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、請求項1の効果に加え、運転特性記憶手段に運転特性と対応付けて記憶されているカーブ形状と、新たに検出されたカーブ形状との偏差を曲率偏差として算出することで、運転特性記憶手段に記憶されている運転特性に基づいて新たに検出されたカーブ形状に対応する距離偏差を算出することができるため、運転特性記憶手段に記憶されていないカーブ形状を有したカーブであったとしても、安全装置の作動タイミングを適切に変更することができる。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、請求項1または2の効果に加え、安全装置を作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までの距離が、減速意思を検出した地点からカーブ入口までの距離よりも長い、例えば、運転者が遅めのブレーキングを行う傾向がある場合などに、安全装置の作動タイミングを、減速意思の検出タイミングの傾向に応じた作動タイミングに補正することができるため、商品性の向上を図ることができる。
【0013】
請求項4に記載した発明によれば、請求項1乃至3の何れか一項の効果に加え、安全装置を作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までの距離が、減速意思を検出した地点からカーブ入口までの距離よりも短い、例えば、運転者が早めのブレーキングを行う傾向がある場合などに、安全装置の作動タイミングを、減速意思の検出タイミングの傾向に応じた作動タイミングに補正することができるため、商品性の向上を図ることができる。
【0014】
請求項5に記載した発明によれば、比較手段による比較結果に基づいて車両状態が適正車両状態に無いと判定されるとともに、減速意思検出手段によりブレーキ操作が検出された場合に、ブレーキアシスト制御手段によりブレーキ装置の液圧を増圧することができるため、減速意思によるブレーキアシストの作動可能となるタイミングを運転者の運転特性であるブレーキ操作の傾向に基づいて適正なタイミングに変更して、例えば、運転者がブレーキアシストを必要としないタイミングでブレーキ装置の液圧が増圧されるなど、ブレーキ操作時に違和感が生じるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施の形態における車両用走行制御装置について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、この実施の形態における車両の走行制御装置10は、自動車等の車両に設けられたものであり、例えば、ナビ情報部11と、車両状態検出部12と、適正車両状態設定部13と、比較部14と、安全装置作動部15と、学習部16と、適正車両状態変更部17と、を備えて構成されている。
【0016】
ナビ情報部11は、自動車等の車両に設けられ自車位置を表示すると共に目的地までの経路情報を表示するいわゆるナビゲーションシステムを構成するものであり、記憶部21と、自車位置検出部22と、道路減速地点認識部23とを備えて構成されている。
記憶部21は、道路データ記憶部24を備え、この道路データ記憶部24が、道路に係るノード情報およびカーブ情報を道路データとして記憶している。ノード情報は、例えば道路形状を把握するための座標点のデータであり、カーブ情報は、例えばリンク(つまり、各ノード間を結ぶ線)上に設定されたカーブの開始点および終了点に加えて、カーブの曲率に係る情報(例えば、カーブの曲率や半径Rおよび極性)と、カーブの深さに係る情報(例えば、カーブの通過に要する旋回角θやカーブの長さ等)とから構成されている。
【0017】
自車位置検出部22は、例えば人工衛星を利用して車両の位置を測定するためのGPS(Global Positioning System)信号や、例えば適宜の基地局を利用してGPS信号の誤差を補正して測位精度を向上させるためのD(Differential)GPS信号等の測位信号や、後述する車両状態検出部12から出力される検出信号に基づく自律航法の算出処理によって自車両の現在位置を算出する。さらに、自車位置検出部22は、算出した自車両の現在位置と記憶部21から取得した道路データとに基づいてマップマッチングを行い、自律航法による位置推定の結果を補正する。そして、自車位置検出部22は自車両の位置情報を後述する学習部16に出力する。
【0018】
道路減速地点認識部23は、は、道路データ記憶部24に記憶された道路データを取得し、この道路データに基づいて、自車両の現在位置から進行方向前方の所定範囲の道路上に存在するカーブ(認識カーブ)を認識する。さらに、道路減速地点認識部23は、屈曲部形状検出部25を備えて構成され、この屈曲部形状検出部25により、道路データ記憶部24から取得した道路データに含まれるカーブ情報に基づき、自車両の進行方向前方で認識した認識カーブの開始地点(カーブ入口)およびカーブ形状(例えば、カーブの半径Rや曲率、旋回角θやカーブの長さやカーブの深さ等)を検出して、適正車両状態設定部13および適正車両状態変更部17に出力する。
【0019】
車両状態検出部12は、自車両の現在速度を検出する車速センサや車輪速センサなどからなる車両速度検出部27と、アクセル操作を検出するアクセルペダルセンサなどからなるアクセル操作検出部28と、ブレーキ操作を検出するブレーキペダルセンサなどからなるブレーキ操作検出部29と、これら車両速度検出部27、アクセル操作検出部28およびブレーキ操作検出部29の各検出信号に基づいてドライバの操作状態のうち主にドライバによる減速操作の有無を検出するドライバ操作状態検出部26と、その他図示を省略するが、ヨー角(車両重心の上下方向軸回りの回転角度)やヨーレート(車両重心の上下方向軸回りの回転角速度)を検出するヨーレートセンサと、操舵角(運転者が入力した操舵角度の方向と大きさ)や操舵角に応じた実舵角(転舵角)を検出する舵角センサと、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ等を備えて構成され、検出信号を比較部14及び安全装置作動部15へ出力する。
【0020】
適正車両状態設定部13は、適正車両速度設定部30と、適正車両横加速度設定部31と、適正カーブ距離設定部32とを備えて構成される。
適正車両速度設定部30は、適正車両横加速度設定部31により算出される適正横加速度に基づき、自車両が認識カーブを適正に通過可能な車両の速度(適正通過速度)を算出して比較部14へ出力する。
適正車両横加速度設定部31は、屈曲部形状検出部25により認識された認識カーブのカーブ形状に基づいて、自車両が認識カーブを適正に通過する際に許容される横加速度(適正横加速度)を算出する。
【0021】
適正カーブ距離設定部32は、自車両の現在速度から認識カーブを適正に通過するための適正通過速度まで減速する際に要する距離Lth(適正カーブ距離;以下、単にシステム作動距離Lthと称す)を算出して適正車両状態変更部17へ出力する一方、適正車両状態変更部17から出力される補正距離Lcに基づいて、システム作動距離Lthの補正値であるシステム作動補正距離Lth’を求めてこのシステム作動補正距離Lth’を比較部14に出力する。
【0022】
比較部14は、車両状態検出部12により検出された自車両の現在の車両状態(例えば、自車量の現在速度、横加速度等)および適正車両状態設定部13により設定された適正車両状態(例えば、適正通過速度、適正横加速度等)とを比較して、現在の車両状態が適正な車両状態か否かを判定する。そして、比較部14は、車両状態が適正で無いと判定した場合に、安全装置作動部15に対して作動信号を出力する。
【0023】
比較部14は、さらに自車位置検出部22の車両位置情報に基づく自車位置からカーブ入口までの距離と適正カーブ距離設定部32で設定されたシステム作動補正距離Lth’とを比較し、自車位置からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’以下となったか否かを判定する。そして、比較部14は、自車位置からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’以下になったと判定した場合に、安全装置作動部15に対して作動信号を出力する。つまり、カーブ入口の反対側に位置するシステム作動補正距離Lth’の端部が安全装置を作動可能にする地点であり、この地点に自車両が到達したタイミングが、安全装置を作動可能にする作動タイミングとなる。
【0024】
安全装置作動部15は、安全装置である警報部33とブレーキ制御部34とを備えて構成されている。
警報部33は運転者に注意を喚起する警報ブザーや警報表示装置などを備えて構成され、比較部14から作動信号が入力されると、警報ブザーや警報表示装置などの作動制御を開始して運転者に注意を喚起する。
ブレーキ制御部34はブレーキ装置の液圧を増減可能なブレーキアクチュエータの駆動制御を行うものである。このブレーキ制御部34は、比較部14から作動信号が入力された後に、ブレーキ操作検出部29によりドライバのブレーキ操作が検出されると、ブレーキアクチュエータを作動させてブレーキ装置の液圧を増圧するいわゆるブレーキアシスト(減速支援)を行う。すなわち、ブレーキ制御部34は、ブレーキ装置の液圧を増圧するブレーキアシスト制御手段としての機能を有している。
【0025】
学習部16は、減速タイミング検出部35を備えている。この減速タイミング検出部35は、車両状態検出部12により減速操作が検出されると、自車位置検出部22の位置情報に基づいて自車位置からカーブ入口までの距離Ld(以下、単に減速意思距離Ldと称す)を減速タイミングに係る距離情報として検出し、この減速意思距離Ldの検出信号を適正車両状態変更部17に出力する。
【0026】
適正車両状態変更部17は、適正カーブ距離補正部36と運転特性記憶部37とを備えている。
適正カーブ距離補正部36は、学習部16で検出された減速意思距離Ldと適正車両状態設定部13で設定されたシステム作動距離Lthと、運転特性記憶部37に記憶されている運転特性とに基づいてシステム作動距離Lthを補正するための補正距離Lcを算出し、この補正距離Lcを適正車両状態設定部13に出力する。なお、補正距離Lcの算出方法については後述する。
【0027】
運転特性記憶部37は、屈曲部形状検出部25で検出されたカーブ形状(例えば、図5,6の曲率R0や、図7の曲率R1)と、このカーブ形状を有する認識カーブにおいて減速タイミング検出部35で検出された減速意思距離Ldとをそれぞれ対応付けてドライバの運転特性としてカーブ毎に記憶する。
【0028】
次に、この実施の形態における車両の走行制御装置10の動作、特に運転特性記憶部37に記憶されるドライバ特性を推定するドライバ特性推定処理について図2のフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS01においては、道路減速地点認識部23により、自車位置検出部22で検出された自車位置の読み込みを行う。
ステップS02においては、道路減速地点認識部23により、道路データ記憶部24に記憶されている自車位置より前方の道路データの読み込みを行う。
【0029】
ステップS03においては、道路減速地点認識部23により、自車位置及び前方の道路データに基づいて、自車位置の前方にカーブがあるか否かを判定する。ステップS03の判定結果が「YES」(カーブ有り)である場合は、ステップS04に進み、「NO」(カーブ無し)である場合は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0030】
ステップS04においては、適正カーブ距離設定部32により、屈曲部形状検出部25で検出される車両前方のカーブ形状(前方カーブ形状)と、車両状態検出部12で検出される現在の自車速度とに基づいて、カーブ入口からブレーキアシストを許可するシステム作動地点(例えば、図5におけるシステム作動地点)までのシステム作動距離Lthを算出する。ここで、システム作動距離Lthの算出は、例えば、車両前方のカーブ形状に応じた適正通過速度を算出し、さらに適正通過速度と現在の自車速度とから必要減速度を算出することで、この必要減速度に達するまでに必要となる車両の減速距離として算出される。
【0031】
ステップS05においては、ドライバ操作状態検出部26により、アクセル操作検出部28およびブレーキ操作検出部29の検出結果に基づいてアクセルペダルのOFF操作又はブレーキペダルのON操作が有るか否かを判定する。このドライバ操作状態検出部26では、アクセルのOFF操作又はブレーキのON操作が有る場合にドライバによる減速操作がなされたと判定する。ステップS05の判定結果が「YES」(アクセルのOFF操作又はブレーキのON操作が有る)である場合は、ステップS06に進み、「NO」(アクセルのOFF操作又はブレーキのON操作が無い)である場合は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0032】
ステップS06においては、アクセルペダルのOFF操作又はブレーキペダルのON操作がなされた地点から車両前方のカーブ入口までの減速意思距離Ldを算出する(図5参照)。
ステップS07においては、ステップS06で求めた減速意思距離LdとステップS04で求めたシステム作動距離Lthとの偏差ΔLを算出する。
【0033】
ステップS08においては、ステップS07で求めた偏差ΔLと、道路減速地点認識部23の屈曲部形状検出部25で検出された認識カーブの曲率(例えば、図5における曲率R0)とを対応付けて運転特性記憶部37に記憶して本ルーチンの実行を一旦終了する。
なお、図5は、カーブ入口に対してシステム作動地点よりもアクセルOFF操作またはブレーキON操作が検出された地点が遠く、減速操作が比較的早めに行われた場合を示しているが、図6に示すように、システム作動地点よりもカーブ入口に近い位置でアクセルOFFまたはブレーキON操作が検出された場合も上述した図2の制御処理によってドライバの運転特性を推定することができる。
【0034】
次に、図3のフローチャートを参照しながら、適正車両状態変更部17による補正距離Lcの算出を行うタイミング補正量算出処理について説明する。
まず、ステップS10においては、運転特性記憶部37に記憶されている曲率R0と、新たに検出された前方の認識カーブの曲率R1との偏差の絶対値|ΔR|(以下、単に偏差ΔRと称す)を算出する。
【0035】
ステップS11においては、偏差ΔLと偏差ΔRのマップに基づいて補正距離の変更量Lcoを算出する。
ステップS12においては、有効曲率係数Krのマップに基づいて変更量Lcoを補正し、最終的な補正距離Lcを算出して、この一連の処理を終了する。そして、後述するシステム作動判断処理のメインルーチンに戻る。この補正距離Lcは、Lc=Lco×Krの式で算出される。
【0036】
ここで、ステップS11の変更量Lcoを算出する際に用いるマップを図8、図9を参照しながら具体的に説明する。
図8のマップは、縦軸を偏差ΔL、横軸を偏差ΔR(カーブ曲率の偏差の絶対値|ΔR|)としたマップであり、縦軸の中間位置に偏差ΔL=0が位置し、偏差ΔL=0よりも上側がプラス、下側がマイナスとなっている。そして、この図8では、変更量Lco=15m,10m,5m,−15m,−10m,−5m(図8中、破線で示す)を一例として示しているが、これら変更量Lcoは、偏差ΔLのプラス領域では右上がりの直線となる一方、マイナス領域では、右下がりの直線となっている。例えば、偏差ΔRが一定の場合、図8中矢印で示すように、偏差ΔLが大きいほど、変更量Lcoの絶対値は大きくなる。つまり、偏差ΔLが大きいほど変更量Lcoが大きくなり、一方、偏差ΔLが小さいほど、変更量Lcoが小さくなる。また、偏差ΔLを一定とした場合には、偏差ΔRが大きいほど、変更量Lcoの絶対値が小さくなる。
【0037】
図9のマップは、縦軸を有効曲率係数Kr、横軸を偏差ΔR(カーブ曲率の偏差の絶対値|ΔR|)としたマップである。このマップに示すように、偏差ΔRが「0」から増加して、所定の第1閾値r1を超えるまでは、有効曲率係数Krが「1」となり、所定の第1閾値r1を超えると徐々に有効曲率係数Krが減少して所定の第2閾値r2を超えると有効曲率係数Krが「0」で一定となる。
【0038】
そして、有効曲率係数Krは、補正距離Lcを算出する際に変更量Lcoに積算されるため、有効曲率係数Krが「0」になると、補正距離Lcも「0」となり、適正車両状態設定部13で設定されたシステム作動距離Lthの実質的な補正はなされず、システム作動距離Lthの値がそのまま使用されることとなる。つまり、カーブ曲率の偏差の絶対値|ΔR|が「0」から所定の第2閾値r2までは、補正距離Lcに基づいてシステム作動距離Lthの補正が行われる有効曲率偏差であると言える。
【0039】
要するに、偏差ΔRが大きいということは、運転特性記憶部37に記憶されている曲率R0と新たに検出された前方の認識カーブの曲率R1との偏差が大きくなり、曲率R1に対応した真の補正距離Lcに対して、偏差ΔRに基づいて求められる補正距離Lcの誤差が大きくなり、その結果、実際のドライバの運転特性とは異なる特性になってしまう虞がある。そのため有効曲率係数Krによって補正距離Lcの重み付けを行い、偏差ΔRの第1閾値r1を超えると補正距離Lcの重みを徐々に軽くして、第2閾値r2に達すると補正距離Lcによる補正自体を完全に止めるようになっている。
【0040】
次に、図4を参照しながらこの実施の形態における走行制御装置10のシステム作動判断処理について説明する。なお、このシステム作動判断処理は、主に自車位置からカーブ入口までの距離に基づいてブレーキアシストの作動許可判定を行う場合を示している。
【0041】
まず、ステップS20においては、道路減速地点認識部23により、自車位置検出部22で検出された自車位置の読み込みを行う。
ステップS21においては、道路減速地点認識部23により、道路データ記憶部24に記憶されている自車位置より前方の道路データの読み込みを行う。
【0042】
ステップS22においては、道路減速地点認識部23により、自車位置及び前方の道路データに基づいて、自車位置の前方にカーブがあるか否かを判定する。ステップS22の判定結果が「YES」(カーブあり)である場合は、ステップS23に進み、「NO」(カーブなし)である場合は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0043】
ステップS23においては、適正車両速度設定部30により、屈曲部形状検出部25の検出結果に基づいて前方の認識カーブを通過する際の適正通過速度の算出を行う。
ステップS24においては、上述した図3のタイミング補正量算出処理を実行する。
ステップS25においては、適正カーブ距離設定部32により、屈曲部形状検出部25で検出された前方の認識カーブの曲率R1と車両速度検出部27で検出された現在の自車速度とに基づいてシステム作動距離Lthを算出する。
【0044】
ステップS26においては、適正カーブ距離設定部32により、適正カーブ距離補正部36で算出された補正距離Lcをシステム作動距離Lthに加算(Lth+Lc)してシステム作動補正距離Lth’を算出する。これにより、図7に示すように、補正前のシステム作動地点が、補正後のシステム作動地点に移動されることとなる。なお、図7では、一例としてシステム作動地点をカーブ入口から遠い方向に補正する場合を示している。
【0045】
ステップS27においては、比較部14により、現在の自車速度が適正車両速度設定部30で設定された適正通過速度よりも大きいか否かを判定する。ステップS27の判定結果が「YES」(自車速度>適正通過速度)である場合は、ステップS28に進み、「NO」(自車速度≦適正通過速度)である場合は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0046】
ステップS28においては、自車位置からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’以下か否かを判定する。ステップS28の判定結果が「YES」(システム作動補正距離Lth’以下)である場合は、ステップS29に進み、「NO」(システム作動補正距離より長い)である場合は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0047】
ステップS29においては、安全装置作動部15の警報部33により警報を作動させる。すなわち、自車両からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’以下になった時に警報部33による警報が作動開始される。ここで、警報部33による警報は、ドライバによりブレーキ操作がなされるか、または、自車両がカーブ入口に到達するか、あるいは警報の作動開始から所定時間経過した時等に停止される。なお、スイッチにより警報が強制的に解除可能なように構成してもよい。
【0048】
ステップS30においては、ブレーキ操作検出部29によりブレーキ操作が検出された(ブレーキ操作あり)か否かを判定する。ステップS30の判定結果が「YES」(ブレーキ操作あり)である場合は、ステップS31に進み、「NO」(ブレーキ操作なし)である場合は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS31においては、ブレーキ制御部34を作動制御してブレーキアシストを実行し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0049】
すなわち、上述したシステム作動判断処理では、ステップS28において、自車位置からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’となったシステム作動地点でブレーキアシストを実行可能な状態とし、その後のブレーキ操作をトリガとしてブレーキアシストが実行されることとなる。
【0050】
したがって、上述した実施の形態の走行制御装置10によれば、安全装置作動部15がブレーキアシストを作動可能にした地点からカーブ入口までのシステム作動距離Lthと、ドライバの減速操作が検出された地点からカーブ入口までの減速意思距離Ldとの偏差ΔLを、ブレーキアシストの作動対象となるカーブ形状である曲率R0に対応付けて運転特性として記憶させることで、カーブ毎にこのカーブの曲率R0に応じた運転者の運転特性を学習させることができるため、この学習させた運転特性に基づいて、新たに検出された認識カーブに対するブレーキアシストの作動タイミングの変更を適切に行うことができ、この結果、ドライバが必要としていないタイミングでブレーキ装置の液圧が増圧されるのを防止して、違和感の無い車両の走行制御を行うことができる。
【0051】
また、運転特性記憶部37に減速意思距離Ldと対応付けて記憶されている曲率R0と、新たに検出された認識カーブの曲率R1との偏差を曲率の偏差ΔRとして算出することで、運転特性記憶部37に記憶されている運転特性に基づいて新たに検出された認識カーブの曲率R1に対応する補正距離Lcを算出することができるため、運転特性記憶部37に記憶されていない曲率の認識カーブであったとしても、ブレーキアシストの作動タイミングを適切に変更することができる。
【0052】
さらに、図6に示すように、ブレーキアシストを作動可能としたシステム作動地点から作動対象となるカーブ入口までのシステム作動距離Lthが、ドライバの減速操作(アクセルOFFまたはブレーキON)を検出した地点からカーブ入口までの減速意思距離Ldよりも大きい、例えばドライバが比較的遅めのブレーキングを行う傾向がある場合などに、ブレーキアシストの作動タイミングを、ドライバの減速タイミングの傾向に応じた遅めの作動タイミングに補正することができる。
【0053】
一方、図5に示すように、ブレーキアシストを作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までのシステム作動距離Lthが、ドライバの減速操作を検出した地点(アクセルOFFまたはブレーキON)からカーブ入口までの減速意思距離Ldよりも小さい、ドライバが比較的早めのブレーキングを行う傾向がある場合などに、ブレーキアシストの作動タイミングを、ドライバの減速タイミングの傾向に応じた早めの作動タイミングに補正することができるため、商品性の向上を図ることができる。
【0054】
さらに、比較部14による比較結果に基づいて車両位置からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’以下と判定されるとともに、ドライバ操作状態検出部26により減速操作が検出された場合に、ブレーキ制御部34によりブレーキ装置の液圧を増圧することができるため、減速操作によってブレーキアシストの作動可能となるタイミングをドライバの運転特性であるブレーキの操作タイミングの傾向に基づいて適正なタイミングに変更して、例えば、ドライバがブレーキアシストを必要としないタイミングでブレーキ装置の液圧が増圧されるなど、ブレーキ操作時に違和感が生じるのを防止することができる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、道路のカーブ形状や自車速度に基づいて適正カーブ距離であるシステム作動距離Lthを設定する場合について説明したが、カーブ形状や自車速度に限られるものではなく、道路の角度などの形状を加味してシステム作動距離Lthを設定する構成としてもよい。
また、上述した実施の形態におけるシステム作動判断処理では、比較部14において、自車速度が適正通過速度よりも大きく、且つ、自車位置からカーブ入口までの距離がシステム作動補正距離Lth’以下の場合にブレーキアシストの作動を許可する場合について説明したが、この処理と並行して横加速度等に基づいてブレーキアシストの作動を許可するための判定を行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態における走行制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるドライバ特性推定処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態におけるタイミング補正量算出処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態におけるシステム作動判断処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態における減速操作の後にシステム作動地点に至る場合のシステム作動距離Lthと減速意思距離Ldの関係を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるシステム作動地点に至った後に減速操作が行われる場合のシステム作動距離Lthと減速意思距離Ldの関係を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるシステム作動距離Lthからシステム作動補正距離Lth’への補正を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態における距離の偏差ΔLと曲率の偏差ΔRとに基づいて変更量Lcoを求めるためのマップである。
【図9】本発明の実施の形態における曲率の偏差ΔRに基づいて有効曲率係数Krを求めるためのマップである。
【符号の説明】
【0057】
12 車両状態検出部(車両状態検出手段)
13 適正車両状態設定部(適正車両状態設定手段)
14 比較部(比較手段)
15 安全装置作動部(作動手段)
17 適正車両状態変更部(作動タイミング変更手段)
21 記憶部(記憶手段)
22 自車位置検出部(自車位置検出手段)
23 道路減速地点認識部(カーブ認識手段)
26 ドライバ操作状態検出部(減速意思検出手段)
28 アクセル操作検出部(減速意思検出手段)
29 ブレーキ操作検出部(減速意思検出手段)
Lth システム作動距離(カーブ入口までの距離)
Ld 減速意思距離(減速意思を検出した地点からカーブ入口までの距離)
ΔL 偏差(距離偏差)
R0 カーブ曲率(カーブ形状)
R1 カーブ曲率(カーブ形状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路データを記憶する記憶手段と、
自車両の位置を検出する自車位置検出手段と、
自車両の車両状態を検出する車両状態検出手段と、
前記記憶手段が記憶した前記道路データに基づき自車両の進行方向に存在するカーブ形状を認識するカーブ認識手段と、
該カーブ認識手段が認識した前記カーブ形状に基づき該カーブを適正に通過可能な適正車両状態を設定する適正車両状態設定手段と、
前記車両状態検出手段が検出した車両状態と前記適正車両状態設定手段が設定した前記適正車両状態とを比較する比較手段と、
該比較手段による比較結果において前記自車両の車両状態が前記適正車両状態に無いときに自車両に設けられた安全装置を作動可能とする作動手段とを備える車両用走行制御装置であって、
運転者の減速意思を検出する減速意思検出手段と、
前記作動手段が安全装置を作動可能とした地点から、前記カーブ認識手段により認識された認識カーブのカーブ入口までの距離と運転者の減速意思を検出した地点からカーブ入口までの距離との偏差を距離偏差として算出するとともに、
前記安全装置の作動対象となるカーブ形状と前記距離偏差とを対応付けて運転特性として記憶する運転特性記憶手段と、
新たに検出されたカーブ形状と前記運転特性記憶手段に記憶されている運転特性とに基づいて安全装置の作動タイミングを変更する作動タイミング変更手段と
を備えたことを特徴とする車両用走行制御装置。
【請求項2】
前記作動タイミング変更手段は、
前記運転特性記憶手段に記憶されているカーブ形状と新たに検出されたカーブ形状との偏差を曲率偏差として算出し、該曲率偏差と前記運転特性記憶手段に記憶されているカーブ形状に対応する距離偏差とに基づいて安全装置の作動タイミングを変更することを特徴とする請求項1に記載の車両用走行制御装置。
【請求項3】
前記安全装置を作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までの距離が運転者の減速意思を検出した地点から前記カーブ入口までの距離よりも長い場合には、より前記カーブ入口に近い位置で前記安全装置が作動するよう作動タイミングを補正することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用走行制御装置。
【請求項4】
前記安全装置を作動可能とした地点から作動対象となるカーブ入口までの距離が運転者の減速意思を検出した地点から前記カーブ入口までの距離よりも短い場合には、より前記カーブ入口から遠い位置で前記安全装置が作動するよう作動タイミングを補正することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用走行制御装置。
【請求項5】
前記減速意思検出手段は、運転者のブレーキ操作を検出可能に構成され、
前記安全装置は、前記比較手段により自車両の車両状態が前記適正車両状態にないと判定されるとともに運転者のブレーキ操作が前記減速意思検出手段により検出された場合にブレーキ装置の液圧を増圧するブレーキアシスト制御手段であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の車両用走行制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−269533(P2009−269533A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123280(P2008−123280)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】