説明

車両用電力供給装置

【課題】インバータ回路を備える車両用電力供給装置において、ノイズ電磁波等による誤動作が車両の操作性に与える影響を低減することを目的とする。
【解決手段】電流センサ30は、各IGBT18に流れる電流を測定し、測定値をMGコントロールユニット26に出力する。MGコントロールユニット26は、電流測定値のうち、所定の電流閾値以上のものがあるときは、信号線32を介してメインコントロールユニット22に出力する自己保護信号をオンレベルとする。メインコントロールユニット22は、信号線32における自己保護信号の時間長に応じて、インバータ回路14の保護制御を行うか否かを判定する。そして、保護制御を行う旨の判定をしたときは、MGコントロールユニット26に保護制御を行うための信号を出力し、MGコントロールユニット26はその信号に応じた制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータに出力し、モータジェネレータの交流発電電力を直流電力に変換して出力するインバータ回路を備える車両用電力供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータジェネレータの駆動力によって走行し、減速時にはモータジェネレータによる回生制動を行う電動車両が広く用いられている。このような電動車両は、モータジェネレータとの間で電力の授受を行う電池と、電池電力を交流電力に変換してモータジェネレータに供給し、モータジェネレータの交流発電電力を直流電力に変換して電池に供給するインバータ回路を備える。
【0003】
電動車両では、タイヤがロックされた状態で発進操作が行われる等により、モータジェネレータに大きな電力が供給されると、インバータ回路に過大な電流が流れることがある。また、電動車両にはインバータ回路に接続されるその他の電気回路が備えられており、その他の電気回路の故障により、インバータ回路に過大な電流が流れたり、インバータ回路の特定の部分に過大な電圧が印加されたりすることがある。このような過大電流または過大電圧は、インバータ回路の寿命を短くするおそれがある。
【0004】
そこで、電動車両には、インバータ回路内の所定の経路に流れる電流、インバータ回路内の所定の節点間の電圧、インバータ回路の温度等を検出するセンサを備える。インバータ回路をスイッチング制御するコントロールユニットは、センサの検出結果に応じてインバータ回路に異常がないかを判定する。そして、異常があると判定したときには、走行状態および運転者の操作に関わらず、インバータ回路のスイッチング制御を停止する。
【0005】
【特許文献1】特開2002−223591号公報
【特許文献2】特開2006−280193号公報
【特許文献3】特開2001−37242号公報
【特許文献4】特開平7−15948号公報
【特許文献5】特開2001−320894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動車両が走行する環境には、建造物のエアコン室外機、自動ドア、信号機、他車両の電気系統等、様々な電気機器が存在する。このような電気機器からはノイズ電磁波が放射されることがある。
【0007】
ノイズ電磁波が、コントロールユニット内の回路にノイズを誘起した場合、コントロールユニットは、インバータ回路に異常が生じていないにも関わらずインバータ回路のスイッチング制御を停止することがある。このような誤動作が生じた場合には、車両の操作性に影響を与えるという問題が生ずる。
【0008】
本発明はこのような課題に対してなされたものである。すなわち、インバータ回路を備える車両用電力供給装置において、ノイズ電磁波等による誤動作が車両の操作性に与える影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータに出力し、モータジェネレータの交流発電電力を直流電力に変換して出力するインバータ回路と、前記インバータ回路をスイッチング制御するインバータ制御部と、前記インバータ回路の異常を検出したときに保護信号を出力する異常検出部と、前記インバータ制御部によるスイッチング制御を停止する制御停止部と、を備える車両用電力供給装置であって、前記異常検出部からの出力信号経路における信号の検出を行う検出部と、前記検出部で検出された信号の時間長に基づいて、前記インバータ回路の保護制御を行うか否かを判定する判定部と、を備え、前記制御停止部は、保護制御を行う旨の判定を前記判定部がしたときに、前記インバータ回路のスイッチング制御を停止することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る車両用電力供給装置においては、電池と前記インバータ回路との間で授受される電力を調整する昇圧コンバータ回路と、前記昇圧コンバータ回路を制御するコンバータ制御部と、を備え、前記コンバータ制御部は、前記判定部が判定のための処理を開始してから判定をするに至るまでの間、前記モータジェネレータのトルクが0に収束するよう、前記昇圧コンバータ回路を制御することが好適である。
【0011】
また、本発明に係る車両用電力供給装置においては、前記制御停止部とは別に設けられ、前記判定部が判定のための処理を開始してから判定をするに至るまでの間、前記インバータ回路のスイッチング制御を停止する予備制御停止部を備えることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータ回路を備える車両用電力供給装置において、ノイズ電磁波等による誤動作が車両の操作性に与える影響を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明の実施形態に係る電動車両の構成を示す。電動車両は、電池10から供給される電力に基づいてモータジェネレータ16を回転させ、モータジェネレータ16の駆動力によって走行する。電動車両の加減速制御は、電池10からモータジェネレータ16に供給される電力を調整することによって行う。そのため、電動車両には、電池電圧を昇圧し、昇圧電圧を調整する昇圧コンバータ回路12が用いられる。また、交流電力用のモータジェネレータ16を用いるため、交流電力を直流電力に変換し、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路14が用いられる。
【0014】
昇圧コンバータ回路12は、MGコントロールユニット26(MGはMotor Generatorの略称である。)の制御に基づいて電池電圧を昇圧し、インバータ回路14に出力する。インバータ回路14は、MGコントロールユニット26の制御に基づいて昇圧コンバータ回路12の出力電圧を交流電圧に変換し、モータジェネレータ16に出力する。
【0015】
インバータ回路14は、昇圧コンバータ回路12の出力電圧が大きい程、大きい交流電圧を出力する。また、昇圧コンバータ回路12の出力電圧が小さい程、小さい交流電圧を出力する。したがって、昇圧コンバータ回路12の出力電圧を調整することで、インバータ回路14の出力交流電圧を調整することができる。
【0016】
モータジェネレータ16がインバータ回路14の出力交流電圧に応じた速度で回転しているときは、電池10とモータジェネレータ16との間で電力の授受は行われず、モータジェネレータ16は一定の速度で回転する。この状態で昇圧コンバータ回路12の出力電圧を上げると、インバータ回路14の出力交流電圧が大きくなり、電池10から昇圧コンバータ回路12およびインバータ回路14を介してモータジェネレータ16に電力が供給される。これによって、モータジェネレータ16は加速トルクを発生し電動車両が加速する。また、昇圧コンバータ回路12の出力電圧を下げると、インバータ回路14の出力交流電圧が小さくなり、モータジェネレータ16からインバータ回路14および昇圧コンバータ回路12を介して電池10に電力が回収される。これによって、モータジェネレータ16は制動トルクを発生し、電動車両が減速する。電動車両の減速は、モータジェネレータ16の制動トルクの他、別途設けられたブレーキ機構によって行うこともできる。
【0017】
操作部24は、アクセルペダル、ブレーキペダル等を含み、運転操作に応じた制御指令をメインコントロールユニット22に出力する。メインコントロールユニット22は、制御指令に基づいてモータジェネレータ16が発生すべきトルクを求め、トルク指令値をMGコントロールユニット26に出力する。
【0018】
MGコントロールユニット26は、トルク検出部28が検出するモータジェネレータ16のトルクを参照し、検出トルクとトルク指令値との差異が小さくなるよう、昇圧コンバータ回路12を制御する。
【0019】
次に、インバータ回路14の保護制御について説明する。本実施形態に係るインバータ回路14は、複数のIGBT18(Insulated Gate Bipolar Transistor)をスイッチング素子として備える。スイッチング素子としては、IGBTの他、トライアック、サイリスタ等も用いることができる。IGBT18は、ゲート端子Gとエミッタ端子Eとの間の電圧を変化させることで、コレクタ端子Cとエミッタ端子Eとの間がオンまたはオフに制御される。オンのときにはコレクタ端子Cからエミッタ端子Eへと電流が流れ、オフのときにはコレクタ端子Cとエミッタ端子Eとの間が遮断される。このような原理によってコレクタ端子Cとエミッタ端子Eとの間をスイッチとして用いることができる。
【0020】
インバータ回路14は、MGコントロールユニット26によってIGBT18がスイッチング制御されることにより、交流電力から直流電力への変換または直流電力から交流電力への変換を行う。
【0021】
IGBT18のコレクタ端子Cとエミッタ端子Eとの間には、コレクタ端子C側がカソード端子K、エミッタ端子E側がアノード端子Aとなるよう、ダイオード20が接続される。このダイオード20は、IGBT18のオンオフ状態が切り換わったときにおけるモータージェネレータ16の電流を連続的にするものである。また、このダイオード20を設けることにより、IGBT18がオフのときにおいても、エミッタ端子E側からコレクタ端子C側に電流を流すことができる。これによって、インバータ回路14は、スイッチング制御を停止したときにおいても、モータジェネレータ16が発生する交流電力を直流電圧に変換して昇圧コンバータ回路12側に出力することができる。したがって、インバータ回路14のスイッチング制御を停止したときにおいても、ダイオード20にモータジェネレータ16の回生電流を流すことにより、電動車両の回生制動を行うことができる。
【0022】
電流センサ30は、各IGBT18に流れる電流を測定し、測定値をMGコントロールユニット26に出力する。MGコントロールユニット26は、電流測定値のうち、所定の電流閾値以上のものがあるときは、信号線32を介してメインコントロールユニット22に出力する自己保護信号をオンレベルとする。一方、総ての電流測定値が所定の電流閾値未満であるときは、MGコントロールユニット26は、自己保護信号のレベルを0とする。ここで、メインコントロールユニット22とMGコントロールユニット26の間で授受される信号の経路のうち、自己保護信号の経路のみを信号線32を以て示したのは、本実施形態が、信号線32に誘起されるノイズに基づく問題点を解決するために好適であることを示すためである。
【0023】
図2は、信号線32から検出される自己保護信号に基づきメインコントロールユニット22が実行する処理を示すフローチャートである。
【0024】
メインコントロールユニット22は、信号線32から入力される自己保護信号を検出する(S101)。メインコントロールユニット22は、自己保護信号がオンレベルであるか否かを判定する(S102)。そして、自己保護信号がオフレベルであるときはステップS102に戻る。
【0025】
一方、自己保護信号がオンレベルであるときは、メインコントロールユニット22は、MGコントロールユニット26に出力するゼロトルク指令信号をオンレベルにする(S103)。ここで、ゼロトルク指令信号は、操作部24の操作に基づく上述のトルク指令値にかかわらず、モータジェネレータ16が発生するトルクを0に収束させるべき旨を示す信号である。MGコントロールユニット26は、ゼロトルク指令信号に従い、モータジェネレータ16が発生するトルクが0に収束するよう、昇圧コンバータ回路12を制御する。
【0026】
ステップS103の処理を実行してから所定の判定時間経過後、メインコントロールユニット22は、自己保護信号がその判定時間の間、オンレベルを維持していたか否かを判定する(S104)。そして、維持していない旨の判定をした場合にはゼロトルク指令信号をオフレベルにし(S105)、ステップS101の処理に戻る。
【0027】
一方、判定時間の間、自己保護信号がオンレベルを維持していたときは、メインコントロールユニット22は、ゼロトルク指令信号をオフレベルにし(S106)、MGコントロールユニット26に出力するゲート遮断指令信号をオンレベルにする(S107)。ここで、ゲート遮断指令信号は、操作部24の操作に基づく上述のトルク指令値にかかわらず、インバータ回路14のスイッチング制御を停止すべき旨を示す信号である。MGコントロールユニット26は、ゲート遮断指令信号に従い、インバータ回路14のスイッチング制御を停止する。
【0028】
このような処理によれば、信号線32の自己保護信号がオンレベルとなり、さらに、自己保護信号が所定の判定時間にわたりオンレベルを維持した場合には、インバータ回路14のスイッチング制御が停止される。これによって、インバータ回路14に異常が発生し、インバータ回路14が備えるIGBT18のうちいずれかの電流が電流閾値以上となったときには、総てのIGBT18に流れる電流を遮断することができる。さらに、モータジェネレータ16の発生トルクの低減により、ダイオード20に流れる回生電流を低減することができる。これによって、異常によりインバータ回路14の寿命が短くなることを回避することができる。
【0029】
上述のように、電動車両が走行する環境には様々な電気機器が存在する。このような電気機器からはノイズ電磁波が放射されることがある。ノイズ電磁波は、信号線32にノイズを誘起することがある。本実施形態に係る電動車両によれば、信号線32での自己保護信号が所定の判定時間の間、オンレベルを維持した場合に、インバータ回路14の保護制御が行われる。したがって、信号線32に誘起されるノイズ波形の時間長の想定値を予め実験等により測定し、想定されるノイズ波形の時間長よりも判定時間を長くしておけば、インバータ回路14に異常が発生していないにも関わらず、判定時間より長い時間にわたりインバータ回路14の保護制御が行われるという誤動作を回避することができる。本願出願時に開発中のハイブリッド自動車では、判定時間は、30ms〜70ms、好ましくは50msが好適であるとのシミュレーション結果が得られている。
【0030】
さらに、本実施形態に係る処理では、信号線32の自己保護信号がオンレベルとなったときは、検出レベルがオンレベルとなってから判定時間が経過するまでの間、モータジェネレータ16が発生するトルクが0に収束するよう制御される。これによって、インバータ回路14のIGBT18およびダイオード20に流れる電流を低減することができ、異常によりインバータ回路14の寿命が短くなることを回避することができる。
【0031】
自己保護信号がオンレベルとなってから判定時間が経過するまでの期間は、検出レベルがオンレベルとなった原因が、ノイズによるものであるか、実際にインバータ回路における過電流が検出されたことによるものであるかが確定されない期間である。本実施形態に係る処理によれば、信号線32の自己保護信号がオンレベルとなった原因が不確定である期間においても、インバータ回路14を保護することができる。
【0032】
図3にインバータ回路14の保護制御のタイミングチャートの例を示す。図3(a)は信号線32の自己保護信号Pを示し、時刻t1からt3の間、自己保護信号Pがオンレベルとなることを示す。時刻t1に自己保護信号Pのレベルがオンレベルとなることにより、メインコントロールユニット22は、図3(b)に示すように時刻t1から時刻t1+τの間、ゼロトルク指令信号qをオンレベルにする。時刻t1から時刻t1+τの間、ゼロトルク指令信号qがオンレベルとなることにより、モータジェネレータ16の発生トルクqtは、図3(d)に示すように時刻t1から時刻t1+τの間0に収束する。
【0033】
自己保護信号Pは、時刻t1+τを経過した後もオンレベルを維持している。そのため、メインコントロールユニット22は、図3(c)に示すように時刻t1+τにゲート遮断指令信号gをオンレベルにする。時刻t1+τ以降にゲート遮断指令信号gがオンレベルとなることにより、時刻t1+τ以降は、インバータ回路14のスイッチング制御が停止される。そのため、図3(d)に示すようにモータジェネレータ16の発生トルクqtは0となる。
【0034】
図3に示すように、信号線32からメインコントロールユニット22に出力される自己保護信号Pが、判定時間τより長い時間オンレベルとなったときには、ゼロトルク指令信号qが、時刻t1から時刻t1+τの間オンレベルとなる。そして、時刻t1+τ以降はゲート遮断指令信号がオンレベルとなる。これによって、インバータ回路14に異常が生じ、インバータ回路14のIGBT18のいずれかに流れる電流が電流閾値以上となり、自己保護信号Pがオンレベルとなった場合には、インバータ回路14の保護制御が行われる。
【0035】
図4にインバータ回路14の保護制御のタイミングチャートの別の例を示す。図4(a)は、信号線32にノイズが誘起され、時刻t1からt2の間そのレベルがオンレベルとなったことを示す。ここで、時刻t1から時刻t2までの時間は判定時間τよりも短いものとする。時刻t1に自己保護信号Pがオンレベルとなることにより、メインコントロールユニット22は、図4(b)に示すように時刻t1から時刻t2の間、ゼロトルク指令信号qをオンレベルにする。これによって、モータジェネレータ16の発生トルクは、図4(d)に示すように時刻t1から時刻t2の間、0に収束する。
【0036】
自己保護信号Pは、時刻t1から判定時間τだけ経過する前にオフレベルとなる。そのため、メインコントロールユニット22は、図4(c)に示すように時刻t2以降はゼロトルク指令信号qをオフレベルにすると共に、ゲート遮断指令信号gをオフレベルに維持する。これによって、時刻t2以降は、操作部24が出力する制御指令に応じた制御が行われる。したがって、モータジェネレータ16の発生トルクqtは、図4(d)に示されるように、時刻t2以降は操作部24が出力する制御指令に応じた値となる。
【0037】
図4に示すように、信号線32にノイズが誘起され、そのノイズがオンレベルである時間が判定時間τより短いときは、ゼロトルク指令信号qは、時刻t1から時刻t2の間はオンレベルとなるものの、時刻t2以降はオフレベルになる。そして、時刻t2以降に、ゲート遮断指令信号がオンレベルになることはない。したがって、時刻t2以降に電動車両は通常の走行状態となるため、信号線32にノイズが誘起されたことによって誤動作を生じ、電動車両の操作性に影響を及ぼすことを回避することができる。
【0038】
次に、インバータ回路14の保護制御の変形例について説明する。図5に変形例に係る保護制御のフローチャートを示す。図2示すフローチャートと同一の処理については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
図2のフローチャートが示す保護制御では、ステップS103において、ゼロトルク指令信号をオンレベルにすることによって、モータジェネレータ16で発生するトルクを0に収束させ、インバータ回路14に流れる電流を0に収束させる。これに対し、変形例に係るインバータ回路14の保護制御では、ステップS203において、メインコントロールユニット22が、MGコントロールユニット26に出力するゼロ電流指令信号をオンレベルにする。ここで、ゼロ電流指令信号とは、操作部24の操作に基づくトルク指令値にかかわらず、IGBT18に流れる電流を0とする旨を示す信号である。図5のフローチャートに基づく保護制御では、図2のフローチャートにおいてステップS105およびステップS106においてゼロトルク指令信号をオフレベルとしているのに代えて、ステップS205およびステップS206においてゼロ電流指令信号をオフレベルとする。これによって、ゼロ電流指令信号に基づく制御状態を解除する。
【0040】
図6に変形例に係る保護制御のタイミングチャートの例を示す。図6(a)は信号線32の自己保護信号Pを示し、時刻t1からt3の間、信号線32からメインコントロールユニット22に入力された自己保護信号Pがオンレベルとなることを示す。時刻t1に自己保護信号Pのレベルがオンレベルとなることにより、メインコントロールユニット22は、図6(b)に示すように時刻t1から時刻t1+τの間、ゼロ電流指令信号Iをオンレベルにする。時刻t1から時刻t1+τの間、ゼロ電流指令信号Iがオンレベルとなることにより、インバータ回路14のIGBT18に流れる電流Jは、図6(d)に示すように時刻t1から時刻t1+τの間0となる。ここで、IGBT電流は、インバータ回路14に備えられるIGBT18のうち正常なもの1つについて示したものである。
【0041】
自己保護信号Pは、時刻t1から時刻t1+τを経過した後もオンレベルを維持する。そのため、メインコントロールユニット22は、図6(c)に示すように時刻t1+τにゲート遮断指令信号Gをオンレベルにする。時刻t1+τ以降にゲート遮断指令信号Gがオンレベルとなることにより、時刻t1+τ以降は、インバータ回路14のスイッチング制御が停止される。そのため、図6(d)に示すようにインバータ回路14のIGBT18に流れる電流Jは0となる。
【0042】
図6に示すように、信号線32からメインコントロールユニット22に出力される自己保護信号Pが、判定時間τより長い時間オンレベルとなったときには、ゼロ電流指令信号Iが、時刻t1から時刻t1+τの間オンレベルとなる。その後、時刻t1+τ以降ゲート遮断指令信号Gがオンレベルとなる。これによって、インバータ回路14に異常が生じ、インバータ回路14のIGBT18のいずれかに流れる電流が電流閾値以上となった場合に、総てのIGBT18をオフにすることができ、インバータ回路14の寿命が短くなることを回避することができる。
【0043】
図7に変形例に係る保護制御のタイミングチャートの別の例を示す。図7(a)は、信号線32にノイズが誘起され、時刻t1からt2の間そのレベルがオンレベルとなったことを示す。時刻t1に自己保護信号Pのレベルがオンレベルとなることにより、メインコントロールユニット22は、図7(b)に示すように時刻t1から時刻t2の間、ゼロ電流指令信号Iをオンレベルにする。これによって、インバータ回路14のIGBT18に流れる電流は、図7(d)に示すように時刻t1から時刻t2の間0となる。
【0044】
自己保護信号Pは、時刻t1から判定時間τだけ経過する前にオフレベルとなる。そのため、メインコントロールユニット22は、図7(c)に示すように時刻t2以降はゼロ電流指令信号Iをオフレベルにすると共に、ゲート遮断指令信号Gをオフレベルに維持する。これによって、時刻t2以降は、操作部24が出力する制御指令に応じた制御が行われる。したがって、インバータ回路14のIGBT18に流れる電流は、図7(d)に示されるように、時刻t2以降は操作部24が出力する制御指令に応じた値となる。
【0045】
図7に示すように、信号線32にノイズが誘起され、そのノイズがオンレベルである時間が判定時間τより短いときは、ゼロ電流指令信号Iは、時刻t1から時刻t2の間オンレベルとなるものの、時刻t2以降はオフレベルになる。そして、時刻t2以降に、ゲート遮断指令信号Gがオンレベルになることはない。これによって、時刻t2以降に電動車両は通常の走行状態となるため、信号線32にノイズが誘起されたことによって誤動作を生じ、電動車両の操作性に影響を及ぼすことを回避することができる。
【0046】
上記のように、インバータ回路14の保護制御としては、ゼロトルク指令信号またはゼロ電流指令信号の少なくともいずれかを採用することができる。したがって、これらの組み合わせによる保護制御も可能である。
【0047】
また、上記では、電流センサ30によってインバータ回路14のIGBT18に流れる電流を測定し、電流測定値に基づいてインバータ回路14の保護制御を行う例について説明した。インバータ回路14の異常を検出するためのセンサとしては、温度センサ、電圧センサ等を用いてもよい。
【0048】
温度センサを用いる場合、温度センサは、各IGBT18の温度を測定し、測定値をMGコントロールユニット26に出力する。MGコントロールユニット26は、温度測定値のうち、所定の温度閾値以上のものがあるときは、自己保護信号をオンレベルとする。一方、総ての温度測定値が所定の温度閾値未満であるときは、MGコントロールユニット26は、自己保護信号のレベルを0とする。
【0049】
また、電圧センサを用いる場合には、電圧センサは、IGBT18の電流によって電圧降下が生じる節点間の電圧を測定する。そして、各IGBTに対応する測定値をMGコントロールユニット26に出力する。MGコントロールユニット26は、電圧測定値のうち、所定の電圧閾値以上のものがあるときは、自己保護信号をオンレベルとする。一方、総ての電圧測定値が所定の電圧閾値未満であるときは、MGコントロールユニット26は、自己保護信号のレベルを0とする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態に係る電動車両の構成を示す図である。
【図2】インバータ回路の保護制御を示すフローチャートである。
【図3】自己保護信号が出力された場合の保護制御のタイミングチャートである。
【図4】ノイズが誘起された場合の保護制御のタイミングチャートである。
【図5】変形例に係る保護制御を示すフローチャートである。
【図6】自己保護信号が出力された場合の変形例に係る保護制御のタイミングチャートである。
【図7】ノイズが誘起された場合の変形例に係る保護制御のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10 電池、12 昇圧コンバータ回路、14 インバータ回路、16 モータジェネレータ、18 IGBT、20 ダイオード、22 メインコントロールユニット、24 操作部、26 MGコントロールユニット、28 トルク検出部、30 電流センサ、32 信号線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータに出力し、モータジェネレータの交流発電電力を直流電力に変換して出力するインバータ回路と、
前記インバータ回路をスイッチング制御するインバータ制御部と、
前記インバータ回路の異常を検出したときに保護信号を出力する異常検出部と、
前記インバータ制御部によるスイッチング制御を停止する制御停止部と、
を備える車両用電力供給装置であって、
前記異常検出部からの出力信号経路における信号の検出を行う検出部と、
前記検出部で検出された信号の時間長に基づいて、前記インバータ回路の保護制御を行うか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記制御停止部は、
保護制御を行う旨の判定を前記判定部がしたときに、前記インバータ回路のスイッチング制御を停止することを特徴とする車両用電力供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用電力供給装置であって、
電池と前記インバータ回路との間で授受される電力を調整する昇圧コンバータ回路と、
前記昇圧コンバータ回路を制御するコンバータ制御部と、
を備え、
前記コンバータ制御部は、
前記判定部が判定のための処理を開始してから判定をするに至るまでの間、前記モータジェネレータのトルクが0に収束するよう、前記昇圧コンバータ回路を制御することを特徴とする車両用電力供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用電力供給装置であって、
前記制御停止部とは別に設けられ、前記判定部が判定のための処理を開始してから判定をするに至るまでの間、前記インバータ回路のスイッチング制御を停止する予備制御停止部を備えることを特徴とする車両用電力供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−284735(P2009−284735A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137122(P2008−137122)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】