車両用駆動装置の制御装置
【課題】 差動機構とその差動機構から駆動輪への動力伝達経路に設けられた変速機とを備える車両用駆動装置において、駆動装置を小型化できたり、或いはまた燃費が向上させられると共に、有段変速機の変速時の加速性能が向上する制御装置を提供する。
【解決手段】 切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を備えることで、変速機構10が無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられて、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。また、ハイブリッド制御手段52により無段変速状態と非無段変速状態とで自動変速部20のパワーオンダウンシフト中の第2電動機M2による駆動力アシストの方法が変更されるので、無段変速状態に比較してトルク増加の応答性が低下する非無段変速状態のときにも車両の加速性能が向上して加速フィーリングが向上する。
【解決手段】 切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を備えることで、変速機構10が無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられて、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。また、ハイブリッド制御手段52により無段変速状態と非無段変速状態とで自動変速部20のパワーオンダウンシフト中の第2電動機M2による駆動力アシストの方法が変更されるので、無段変速状態に比較してトルク増加の応答性が低下する非無段変速状態のときにも車両の加速性能が向上して加速フィーリングが向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動作用が作動可能な差動機構と電動機とを備える車両用駆動装置に係り、特に、電動機などを小型化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する差動機構と、その差動機構の出力軸と駆動輪との間に設けられた第2電動機とを、備えた車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両用駆動装置がそれである。このようなハイブリッド車両用駆動装置では、差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、その差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、そのエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより変速比が連続的に変更される変速機として機能させられ、例えば電気的な無段変速機として機能させられ、エンジンを最適な作動状態に維持しつつ車両を走行させるように制御装置により制御されて燃費が向上させられる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−301731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、無段変速機は車両の燃費を良くする装置として知られている一方、有段式自動変速機のような歯車式伝動装置は伝達効率が良い装置として知られている。しかし、それ等の長所を兼ね備えた動力伝達機構は未だ存在しなかった。例えば、上記特許文献1に示すようなハイブリッド車両用駆動装置では、第1電動機から第2電動機への電気エネルギの電気パスすなわち車両の駆動力の一部を電気エネルギで伝送する伝送路を含むため、エンジンの高出力化に伴ってその第1電動機を大型化させねばならないとともに、その第1電動機から出力される電気エネルギにより駆動される第2電動機も大型化させねばならないので、駆動装置が大きくなるという問題があった。或いは、エンジンの出力の一部が一旦電気エネルギに変換されて駆動輪に伝達されるので、高速走行などのような車両の走行条件によってはかえって燃費が悪化する可能性があった。上記動力分配機構が電気的に変速比が変更される変速機例えば電気的CVTと称されるような無段変速機として使用される場合も、同様の課題があった。
【0005】
ところで、上述したようなハイブリッド車両用駆動装置では、高駆動トルクが要求された場合に対する第2電動機の必要容量を小さくして、その第2電動機を小型化するために、差動機構(電気的な無段変速機)の出力部材と駆動輪との間の動力伝達経路に有段式変速機が備えられるものも良く知られている。
【0006】
例えば、上記有段式変速機の一例として、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより変速が実行される有段式自動変速機が良く知られている。一般に、このような有段式自動変速機においては、運転者によりアクセルペダルを大きく且つ速く踏み込み操作されるような加速操作が行われると、車両の駆動力を増加させるためのダウンシフト所謂パワーオンダウンシフトが実行される。
【0007】
このように、有段式自動変速機にてパワーオンダウンシフトが実行されると、そのダウンシフト前後における変速比が段階的に変化して車両の駆動力が段階的に増加させられる。その反面、ダウンシフトの過渡過程においては無段変速機のように変速比が連続的に変化しない為、その無段変速機と比較してダウンシフトが完了して駆動力が得られるまでに時間を要し、ダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が低下する可能性があった。そうすると、運転者の加速操作に対する車両の加速性能例えば車両の加速応答性が低下して、加速フィーリング(加速感)が低下する可能性があった。
【0008】
また、上述した差動機構と有段式自動変速機との2つの変速機構を備える駆動装置においても、それら2つの変速機構の各変速比に基づいてその駆動装置の総合変速比が形成されることから、その有段式変速機の変速が実行されると有段式自動変速機が単独で備えられる場合と同様に、ダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が低下し、車両の加速性能が低下して加速フィーリング(加速感)が低下する可能性があった。
【0009】
また、前記特許文献1に記載されたハイブリッド車両用駆動装置の課題を解決できるような車両用駆動装置において、差動機構の出力部材と駆動輪との間の動力伝達経路に有段式変速機が備えられる場合にも、上記同様に、その有段式変速機の変速が実行されるとダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が低下し、車両の加速性能が低下して加速フィーリング(加速感)が低下する可能性があった。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する差動作用が作動可能な差動機構と、その差動機構から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機と、その動力伝達経路の一部を構成する有段式変速機とを備える車両用駆動装置において、その駆動装置を小型化できたり、或いはまた燃費が向上させられると共に、その変速機の変速時の加速性能が向上する制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部と、前記動力伝達経路の一部を構成する有段変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(b) 前記差動機構に備えられて、その差動機構の差動作用を制限することにより前記無段変速部の電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限装置と、(c) 前記有段変速部の変速中において、車両の駆動力を付与する駆動力アシストを実施するとき、前記無段変速部が電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされているときと、その無段変速部が電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とされているときとで、その駆動力アシストの方法を変更する電動機制御手段とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、車両の駆動装置内の無段変速部が、差動制限装置により差動機構の差動作用が制限されずその差動機構が差動作用が働く差動状態とされることで電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされ、或いはまた、差動制限装置により差動機構の差動作用が制限されることで電気的な無段変速機としての作動が制限されることから、例えば差動機構がその差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされることで電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば有段変速状態とされ得ることから、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。
【0013】
例えば、車両の低中速走行および低中出力走行となるようなエンジンの常用出力域において上記無段変速部が無段変速状態とされると、車両の燃費性能が確保される。また、高速走行において無段変速部が非無段変速状態とされると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また、高出力走行において無段変速部が非無段変速状態とされると、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、電動機が発生すべき電気的エネルギ換言すれば電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできるので、その電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0014】
また、その有段変速部の変速中において、車両の駆動力を付与する駆動力アシストを実施するとき、無段変速部が電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされているときと、無段変速部が電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とされているときとで、前記電動機制御手段により駆動力アシストの方法が変更されるので、エンジンの回転速度を自由に設定することにより有段変速部の変速開始直後に速やかに駆動力を増加させられ得る無段変速部が無段変速状態のときはもちろんのこと、その無段変速部の無段変速状態に比較して、有段変速部の有段変速に伴うトルク増加の応答性が低下する可能性がある無段変速部が非無段変速状態のときにも車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0015】
ここで、請求項2にかかる発明では、前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストの量を増加させるものである。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態に比較して有段変速部の変速に伴うトルク増加の応答性が低下する可能性がある無段変速部が非無段変速状態のときには、有段変速部のパワーオンダウンシフト時に車両の駆動力がより多く増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0016】
また、請求項3にかかる発明では、前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストを早期に開始させるものである。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態に比較して有段変速部の変速に伴うトルク増加の応答性が低下する可能性がある無段変速部が非無段変速状態のときには、有段変速部のパワーオンダウンシフト時に車両の駆動力がより速やかに増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ここで、好適には、前記無段変速部の無段変速状態と非無段変速状態とで同様の変速応答性が得られるように、すなわち無段変速状態と非無段変速状態とで同様の駆動力の増加が得られるように、前記電動機制御手段により駆動力アシストの量や駆動力アシストの開始時期が設定される。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態と非無段変速状態とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる。
【0018】
また、好適には、前記無段変速部は、前記差動制限装置により前記差動機構が差動作用が働く差動状態とされることで電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされ、差動機構がその差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされて差動作用が制限されることで電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば有段変速状態とされて電気的な無段変速機としての作動が制限されるものである。このようにすれば、無段変速部が、無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられる。
【0019】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1要素と前記第1電動機に連結された第2要素と前記伝達部材に連結された第3要素とを有するものであり、前記差動制限装置は、前記差動機構を差動状態とするために第1要素乃至第3要素を相互に相対回転可能とする、例えば差動機構を差動状態とするために少なくとも第2要素および第3要素を互いに異なる速度にて回転可能とするものである。また、差動制限装置は、差動機構を非差動状態例えばロック状態とするために少なくとも第2要素および第3要素を互いに異なる速度にて回転可能としない、例えば差動機構を非差動状態例えばロック状態とするために第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるか或いは第2要素を非回転状態とするものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成される。
【0020】
また、好適には、前記差動制限装置は、前記第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるために第1要素乃至第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するクラッチおよび/または第2要素を非回転状態とするために第2要素を非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに簡単に切り換えられるように構成される。
【0021】
また、好適には、前記差動機構は、前記クラッチおよび前記ブレーキの解放により少なくとも前記第2要素および前記第3要素が互いに異なる速度にて回転可能な差動状態とされて電気的な差動装置とされ、前記クラッチの係合により変速比が1である変速機とされるか、或いは前記ブレーキの係合により変速比が1より小さい増速変速機とされるものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成されると共に、単段または複数段の定変速比を有する変速機としても構成され得る。
【0022】
また、好適には、前記差動機構動は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成され得る。
【0023】
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0024】
また、好適には、前記無段変速部の変速比と前記有段変速部の変速比とに基づいて前記駆動装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、有段変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。また、これによって、無段変速部における無段変速制御の効率が一層高められる。或いはまた、無段変速部の無段変速状態において、無段変速部と有段変速部とで無段変速機が構成され、無段変速部の非無段変速状態において、無段変速部と有段変速部とで有段変速機が構成され得る。
【0025】
また、前記有段変速部は、有段の自動変速機である。このようにすれば、前記総合変速比が有段変速部の変速に伴って段階的に変化させられ得るので、総合変速比が連続的に変化させられることに比較して速やかに変化させられ得る。よって、駆動装置が無段変速機として機能させられて滑らかに駆動トルクを変化させることが可能であると共に、段階的に変速比を変化させて速やかに駆動トルクを得ることも可能となる。
【0026】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する有段変速部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図5参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。
【0028】
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0029】
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、出力軸22と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を付与するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0030】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0031】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されるとすなわち解放状態へ切り換えられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
【0032】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合されるとすなわち係合状態へ切り換えられると、動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合されて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に連結されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0033】
次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合されて第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0034】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態(非連結状態)と非差動状態すなわちロック状態(連結状態)とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば電気的な無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動しないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
【0035】
別の見方をすれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を非差動状態として動力分配機構16の差動作用を制限することにより、差動部11を非無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限する、すなわち電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限装置として機能している。また、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を差動状態として動力分配機構16の差動作用を制限しないことにより、差動部11を無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限しない、すなわち電気的な無段変速機としての作動を制限しない。
【0036】
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0037】
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行される有段式変速機である。
【0038】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0039】
以上のように構成された変速機構10において、特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動可能な無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動可能な非無段変速状態(定変速状態)を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0040】
具体的には、差動部11が非無段変速状態とされて変速機構10が有段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合させられ、且つ第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、すなわち自動変速部20の変速に関与する係合装置の解放と係合とにより、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置(以下解放側係合装置)の解放と変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置(以下係合側係合装置)の係合とにより変速比が自動的に切り換えられるように、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速機構10の総合変速比γT(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0041】
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、この後進ギヤ段は、通常、差動部11の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0042】
また、差動部11が無段変速状態とされて変速機構10が無段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放されて差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0043】
例えば、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放された状態で、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速(第5速における自動変速部20の係合装置の係合作動は第4速に同じ)の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0044】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0045】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0046】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0047】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3を相互に相対回転可能とする無段変速状態(差動状態)、例えば少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能とする無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される車速Vに拘束される第1リングギヤR1の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。
【0048】
また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素RE1、RE2、RE3が一体回転して少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合により第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第2回転要素RE2の回転が停止させられて少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となって差動部11が増速機構として機能させられ、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0049】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22および第2電動機M2に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0050】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0051】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0052】
電子制御装置40には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトポジションPSHを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル45(図5参照)の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を表す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)を表す信号、蓄電装置60(図5参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0053】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図5参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98による吸気管95或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図5参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0054】
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(関係、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路42へ出力する。油圧制御回路42は、その指令に従って、例えば変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に、変速に関与する係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路42内の電磁弁を作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0055】
ハイブリッド制御手段52は、無段変速制御手段として機能するものであり、変速機構10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2による駆動力アシスト等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0056】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて例えば記憶手段に記憶された図7の破線に示すようなエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
【0057】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から出力軸22へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0058】
特に、前記有段変速制御手段54により自動変速部20の変速が実行される場合には、自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後における変速機構10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。すなわち自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの変化が、無段的に変速比が変化され得る無段変速機のように連続的に変化させられるのではなく、変速比が段々に飛ぶように段階的にすなわち非連続的に変化させられる。トータル変速比γTが段階的に変化することにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。
【0059】
そこで、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速の際にはその変速前後におけるトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、すなわち自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの過渡変化が連続的に変化するように、自動変速部20の変速中に差動部11の変速を実行する。例えば、ハイブリッド制御手段52は、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEの変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行する。
【0060】
具体的には、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINである伝達部材18の回転速度の変化に拘わらずエンジン回転速度NEの変化が所定の状態となるようにすなわち所定エンジン回転速度NE’以下となるように、自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行する。上記所定エンジン回転速度NE’は、自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEの変化が抑制されてトータル変速比γTの過渡変化が連続しているとされるエンジン回転速度NEの変化として、予め実験的に求められて記憶されている差動部11の変速時に変速比γ0を変化させるときの目標となる所定値である。
【0061】
例えば、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの過渡変化が非連続的に変化しない為に、すなわち自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEが略一定に維持されてトータル変速比γTの過渡変化が連続的に変化する為に、自動変速部20の変速に同期して、自動変速部20の変速比γの変化方向とは反対方向の変速比γ0の変化となるように、例えば自動変速部20の変速比γの段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比γ0を変化させるように、差動部11の変速を実行する。これにより、自動変速部20の変速に伴って自動変速部20の変速比γが段階的に変化させられても、自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの段階的な変化が抑制されて変速ショックが抑制される。このように、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINすなわち伝達部材18の回転速度(以下伝達部材回転速度N18)の変化に拘わらず、自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEの変化を抑制するように、第1電動機回転速度NM1を変化させて差動部11の変速を行う無段変速制御手段として機能する。
【0062】
別の見方をすれば、一般的に有段変速機では図7の一点鎖線に示すようにエンジン8が作動させられ、無段変速機では例えば図7の破線に示すエンジン8の最適燃費率曲線に沿って或いは有段変速機に比較して最適燃費率曲線により近いところでエンジン8が作動させられる。従って、要求される駆動トルク(駆動力)に対してその駆動トルクを得るためのエンジントルクTEが無段変速機の方が有段変速機に比較して上記最適燃費率曲線により近くなるエンジン回転速度NEで実現されるので、無段変速機の方が有段変速機より燃費が良いとされている。そこで、ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速が実行されて自動変速部20の変速比が段階的に変化させられたとしても、燃費が悪化しないように例えば図7の破線に示す最適燃費率曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように差動部11の変速比γ0を制御するのである。これにより、変速機構10全体として無段変速機として機能させることが可能となるので、燃費が向上される。
【0063】
上述したように、ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行する所謂同期変速制御を実行する。この差動部11の同期変速制御の開始時期は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速判断から実際に油圧式摩擦係合装置の作動により自動変速部20の入力回転速度NINが変化させられるまでの応答遅れ、すなわち自動変速部20の変速過程においてその変速に伴って自動変速部20の入力回転速度NINの変化すなわち伝達部材18の回転速度の変化が発生する所謂イナーシャ相が開始するまでの応答遅れが考慮されている。例えば、予め実験等によりその応答遅れが求められて記憶されていてもよいし、或いは実際に自動変速部20の入力回転速度NINの変化が発生したことで、ハイブリッド制御手段52は差動部11の同期変速制御を開始してもよい。
【0064】
また、差動部11の同期変速制御の終了時期は、自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相が終了した時点である。例えば予め実験等により自動変速部20の変速時間が求められて記憶されていてもよいし、或いは実際に自動変速部20の入力回転速度NINの変化が無くなったことで、ハイブリッド制御手段52は差動部11の同期変速制御を終了してもよい。
【0065】
このように、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相の期間内(区間内)すなわちイナーシャ相中に、例えば予め実験的に求められた期間中に或いは実際に自動変速部20の入力回転速度NINの変化が発生してから自動変速部20の入力回転速度NINの変化が無くなるまでの間に、差動部11を変速して上記同期変速制御を実行する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速に伴うイナーシャ相中に差動部11の変速を実行するので、自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行することができる。
【0066】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御させられる。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0067】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、伝達部材回転速度N18は車速V(駆動輪38)に拘束されることから第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う伝達部材回転速度N18の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0068】
また、ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ60を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置43は、ハイブリッド制御手段52による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、前記図6の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図6に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図6中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0070】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図6の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図6から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。よって、通常はモータ発進がエンジン発進に優先して実行されるが、例えば車両発進時に図6の駆動力源切換線図のモータ走行領域を超える要求出力トルクTOUTすなわち要求エンジントルクTEとされる程大きくアクセルペダル45が踏込操作されるような車両状態によってはエンジン発進も通常実行されるものである。
【0071】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0072】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪38にトルク言い換えれば駆動力を付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂駆動力アシスト(トルクアシスト)が可能である。よって、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行も含むものとする。尚、第2電動機M2による駆動力アシストは、モータ走行時にその第2電動機M2の出力トルクを増加するように行われても良い。
【0073】
例えば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において、駆動トルクの増加によって車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うように第2電動機M2による駆動力アシストを実施する電動機制御手段として機能する。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させられる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電容量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる伝達部材回転速度N18が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度NEが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0075】
また、ハイブリッド制御手段52は、蓄電装置60からインバータ58を介して供給される第1電動機M1への駆動電流を遮断して第1電動機M1を無負荷状態とする。第1電動機M1は無負荷状態とされると自由回転することすなわち空転することが許容され、差動部11はトルクの伝達が不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とされる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とする。
【0076】
増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段56に予め記憶された前記図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が、或いは前記有段変速制御手段54により判断された変速機構10の変速されるべき変速段が、増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0077】
切換制御手段50は、車両状態に基づいて前記係合装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、記憶手段56に予め記憶された前記図6の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10(差動部11)の切り換えるべき変速状態を判断して、すなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。このように、切換制御手段50は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の係合/解放を切り換えることにより、差動部11を非無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限する、すなわち電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限手段として機能している。
【0078】
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0079】
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0080】
しかし、切換制御手段50は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0081】
ここで前記図6について詳述すると、図6は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0082】
また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0083】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速Vが判定車速V1を越えたか否かを判定し、判定車速V1を越えたときには例えば切換ブレーキB0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたか否かを判定し、判定出力トルクT1を越えたときには例えば切換クラッチC0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。
【0084】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の故障や機能低下、すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は変速機構10を優先的に有段変速状態としてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下が発生したか否かを判定し、その故障や機能低下が発生したときには変速機構10を有段変速状態とする。
【0085】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度Gや、例えばアクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0086】
また、前記判定車速V1は、例えば高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、前記判定トルクT1は、例えば車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジン8の高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0087】
図8は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有し、例えば記憶手段56に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段50は、図6の切換線図に替えてこの図8の切換線図からエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図8は図6の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図6の破線は図8の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
【0088】
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0089】
同様に、図8の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図8における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
【0090】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
【0091】
また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0092】
つまり、前記所定値TE1が第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTEの切換判定値として予め設定されると、エンジントルクTEがその所定値TE1を超えるような高出力走行では、差動部11が有段変速状態とされるため、第1電動機M1は差動部11が無段変速状態とされているときのようにエンジントルクTEに対する反力トルクを受け持つ必要が無いので、第1電動機M1の大型化が防止されつつその耐久性の低下が抑制される。言い換えれば、本実施例の第1電動機M1は、その最大出力がエンジントルクTEの最大値に対して必要とされる反力トルク容量に比較して小さくされることで、すなわちその最大出力を上記所定値TE1を超えるようなエンジントルクTEに対する反力トルク容量に対応させないことで、小型化が実現されている。
【0093】
尚、上記第1電動機M1の最大出力は、この第1電動機M1の使用環境に許容されるように実験的に求められて設定されている第1電動機M1の定格値である。また、上記エンジントルクTEの切換判定値は、第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTEの最大値またはそれよりも所定値低い値であって、第1電動機M1の耐久性の低下が抑制されるように予め実験的に求められた値である。
【0094】
また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図9に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
【0095】
図10は複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り換える切換装置46の一例を示す図である。この切換装置46は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えている。そのシフトレバー48は、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれの係合装置も係合されないような変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0096】
例えば、上記シフトレバー48の各シフトポジションへの手動操作に連動してそのシフトレバー48に機械的に連結された油圧制御回路42内のマニュアル弁が切り換えられて、図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」等が成立するように油圧制御回路42が機械的に切り換えられる。また、「D」または「M」ポジションにおける図2の係合作動表に示す1st乃至5thの各変速段は、油圧制御回路42内の電磁弁が電気的に切り換えられることにより成立させられる。
【0097】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態へ切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0098】
具体的には、シフトレバー48が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー48が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジ乃至「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
【0099】
上記「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー48が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかがシフトレバー48の操作に応じて変更される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、およびダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー48がそれ等のアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかが選択される。例えば、「M」ポジションにおいて選択される「D」レンジ乃至「L」レンジの5つの変速レンジは、変速機構10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また自動変速部20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。また、シフトレバー48はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。また、切換装置46にはシフトレバー48の各シフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサ49が備えられており、そのシフトレバー48のシフトポジションPSHを表す信号や「M」ポジションにおける操作回数等を電子制御装置40へ出力する。
【0100】
例えば、「D」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、図6に示す予め記憶された変速マップや切換マップに基づいて切換制御手段50により変速機構10の変速状態の自動切換制御が実行され、ハイブリッド制御手段52により動力分配機構16の無段変速制御が実行され、有段変速制御手段54により自動変速部20の自動変速制御が実行される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段の範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が動力分配機構16の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御される。この「D」ポジションは変速機構10の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。
【0101】
或いは、「M」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、変速レンジの最高速側変速段或いは変速比を越えないように、切換制御手段50、ハイブリッド制御手段52、および有段変速制御手段54により変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が各変速レンジで変速機構10が変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が動力分配機構16の無段的な変速比幅と各変速レンジに応じた自動変速部20の変速可能な変速段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。この「M」ポジションは変速機構10の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
【0102】
このように、本実施例の変速機構10は、差動部11に加え自動変速部20を備えており、有段変速制御手段54により例えば図6に示す変速線図から車両状態に基づいてその変速が実行される。このとき、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速が、アクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動トルクを増加させる為のパワーオンダウンシフトである場合等には、運転者の加速要求が大きいことから速やかに駆動トルクが増加し、加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上することが望まれる。
【0103】
しかしながら、自動変速部20のダウンシフト時には、ダウンシフトが完了して変速比γが段階的に変化させられ駆動トルクが増加するまでにはある程度の変速時間が必要なことから、駆動トルクの増加の応答性が低下して加速フィーリングが低下する可能性がある。
【0104】
この自動変速部20の変速時間は自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置および係合側係合装置の係合油圧や解放と係合との作動タイミングによって決まるものである。また、その解放側係合装置および係合側係合装置の係合油圧や解放と係合との作動タイミングは、差動部11が無段変速状態か或いは非無段変速状態かに拘わらず、例えば自動変速部20の入力回転速度NINの変化率NIN’(=dNIN/dt)が目標入力回転速度変化率NIN’となるように、例えば各油圧式摩擦係合装置の耐久性等を考慮しつつ変速ショックの抑制と変速時間の短縮とが両立するようにエンジントルクTEに応じて一律に設定される。その目標入力回転速度変化率NIN’は、例えばフィーリングが良いとされているような目標入力回転速度変化率NIN’が大きくなる速やかな変速応答性と、変速ショックが抑制し易いとされているような目標入力回転速度変化率NIN’が小さくなる緩やかな変速応答性とが、両立するような入力回転速度変化率NIN’として予め実験的に求められて記憶されている。
【0105】
よって、変速時間を短縮することを専らの目的として各油圧式摩擦係合装置の係合油圧や作動タイミングを設定すれば、変速ショックが大きくなる可能性がある。
【0106】
そこで、前述したように、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において、駆動トルク(駆動力)の増加によって車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うように第2電動機M2による駆動力アシストを実施する。
【0107】
アクセル開度変化率判定手段80は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断された場合には、そのダウンシフトが運転者の加速要求が大きなパワーオンダウンシフトであるか否かを、例えばアクセル開度変化率Acc’(=dAcc/dt)が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいか否かに基づいて判定する。この所定のアクセル開度変化率Acc1は、運転者の加速要求が大きく自動変速部20のダウンシフト中に前記ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があるようなパワーオンダウンシフトであることを判断するために、予め実験的に求められて定められた運転者のアクセルペダル45の踏込操作速度判定値である。
【0108】
駆動力アシスト可否判定手段82は、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストが実行できるか否かを判定する。例えば、駆動力アシスト可否判定手段82は、第2電動機M2の故障(フェイル)や機能低下、第2電動機M2の温度TMG2が高くなったことなどによる第2電動機M2の出力制限、蓄電装置76の残容量SOCの低下や低温による機能低下、或いは第2電動機M2の駆動に関連する電気系のフェイルや機能低下などが発生したような場合に、第2電動機M2による駆動力アシストが実行できないと判定する。
【0109】
前記ハイブリッド制御手段52は、上記アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要がないと判定された場合には、或いは上記駆動力アシスト可否判定手段82により第2電動機M2による駆動力アシストが実行できないと判定された場合には、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において第2電動機M2による駆動力アシストを実施しない。
【0110】
ところで、本実施例の変速機構10(差動部11、動力分配機構16)は無段変速状態(差動状態)と非無段変速状態例えば有段変速状態(ロック状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。
【0111】
そして、例えば差動部11が無段変速状態であるときには、差動作用によってエンジン回転速度NEを自由に変化(設定)させられ得ることから、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)には、変速ショックが抑制されたり燃費が向上される為に、その変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINの変化に拘わらず第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが略一定に維持されるように、前記ハイブリッド制御手段52により差動部11の変速が実行される。
【0112】
例えば、アクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動トルクを増加させる為のパワーオンダウンシフトであるような場合でも、すなわちトータル変速比γTの目標値を自動変速部20の変速前後で大きく変化させるような場合でも、トータル変速比γTを連続的に変化させる為に、自動変速部20の変速前後で一旦エンジン回転速度NEが略一定に維持されるように差動部11の変速が実行された後、トータル変速比γTを目標のトータル変速比γTに向かって連続的に変化するように更に差動部11の変速が実行される。
【0113】
但し、このようなアクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動トルクを増加させる為のパワーオンダウンシフトである場合等には、トータル変速比γTを連続的に変化させるよりも、差動部11の非無段変速状態と同様にトータル変速比γTを段階的(非連続的)に変化させて、速やかに駆動トルク(駆動力)を増加させる方がユーザにとって気持ちが良いという考え方もある。
【0114】
そこで、前記ハイブリッド制御手段52は、前述した機能に加え、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに、差動部11が無段変速状態である場合には、自動変速部20の変速に同期してその変速比γの変化に応じて差動部11の変速比γ0を変化させてトータル変速比γTを連続的に変化させるのではなく、差動部11の非無段変速状態と同様に自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTが段階的(非連続的)に変化させられるように、自動変速部20の変速とは同期することなく独立にすなわち単独で差動部11の変速を実行してトータル変速比γTを目標値に向かって変化させる。こうすることで、自動変速部20の段階的な変速比変化を利用しつつその変化に差動部11の変速比変化を加える(或いは減じる)ようにトータル変速比γTを目標値に変化させられ得るので、アクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動力を増加させる為のパワーオンダウンシフトであるような場合には、すなわちトータル変速比γTの目標値を自動変速部20の変速前後で大きく変化させるような場合には、自動変速部20の変速前後ではトータル変速比γTが段階的に変化させられる。
【0115】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、ダウンシフト判断の直後から差動作用によって第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させて、第2電動機M2による駆動力アシストと同様に、速やかに駆動力を増加させることも可能である。
【0116】
見方を換えれば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに、差動部11が無段変速状態である場合には、その変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINの変化に拘わらず第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが抑制されるように差動部11の変速を実行することに替えて、例えばそのダウンシフト判断の直後から第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させて、ダウンシフト中に駆動トルクを増加させる。
【0117】
また、例えば差動部11が非無段変速状態であるときの有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)には、差動部11も自動変速部20と同様に変速比γ0が固定され、エンジン回転速度NEも自動変速部20の入力回転速度NINの変化と同様に車速Vと自動変速部20の変速比γとに応じて変化させられる。つまり、差動部11の無段変速状態と異なりハイブリッド制御手段52による差動部11の変速は行われない。従って、差動部11が無段変速状態であるときと異なり、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)に、ハイブリッド制御手段52は第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させて、駆動力を増加させることができない。
【0118】
そこで、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速中には、差動作用によってエンジン回転速度NEを自由に上昇させられ得る差動部11の無段変速状態と、入力回転速度NINの変化と同様に車速Vと自動変速部20の変速比γとに応じてエンジン回転速度NEが変化させられる差動部11の非無段変速状態とで、第2電動機M2による駆動力アシストの方法を変更する。
【0119】
具体的には、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEを上昇させ、自動変速部20の変速開始後に速やかに駆動力が増加させられて駆動力増加の応答性が向上させられ得る差動部11が無段変速状態のときはもちろんのこと、その差動部11の無段変速状態に比較して、ダウンシフト中の駆動力増加の応答性が低下する可能性がある差動部11が非無段変速状態のときにも、駆動力の増加によって車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、変速応答遅れによる駆動力の増加の応答遅れを補うように第2電動機M2による駆動力アシストの方法を変更する。
【0120】
例えば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに差動部11が非無段変速状態であるときには、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、無段変速状態であるときに比較して車両の駆動力がより多く増加されるように、そのダウンシフト中の第2電動機M2による駆動力アシストの量を増加させる。
【0121】
また、例えば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに差動部11が非無段変速状態であるときには、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、無段変速状態であるときに比較して車両の駆動トルクがより速やかに増加されるように、そのダウンシフト中の第2電動機M2による駆動力アシストを早期に開始させる。
【0122】
また、上記第2電動機M2による駆動力アシストの量や第2電動機M2による駆動力アシストの開始時期は、例えば差動部11の無段変速状態と有段変速状態(非無段変速状態)とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる為に、無段変速状態と非無段変速状態とで同様の変速応答性が得られるように、すなわち無段変速状態と非無段変速状態とで同様の駆動力の増加が得られるように、ハイブリッド制御手段52により設定される。
【0123】
差動状態判定手段84は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定され、駆動力アシスト可否判定手段82により第2電動機M2による駆動力アシストが実行できると判定された場合には、ハイブリッド制御手段52により差動部11の無段変速状態と非無段変速状態とで、第2電動機M2による駆動力アシストの方法が変更される為に、動力分配機構16が差動状態すなわち差動部11が無段変速状態とされているか否かを判定する。例えば、差動状態判定手段84は、切換制御手段50により変速機構10が有段変速状態に切換制御される有段制御領域内か或いは変速機構10が無段変速状態に切換制御される無段制御領域内であるかの判定のための例えば図6に示す切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かによって差動部11が無段変速状態となっているか否かを判定する。
【0124】
図11は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち自動変速部20の変速の際に加速応答性を向上する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0125】
また、図12は、図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部11のロック状態(有段変速状態)において自動変速部20の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【0126】
また、図13は、図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部11の無段変速状態において自動変速部20の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【0127】
先ず、前記アクセル開度変化率判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、有段変速制御手段54により例えば図6に示す変速線図から車速Vおよび自動変速部20の出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて自動変速部20の変速すべき変速段が判断され、自動変速部20のダウンシフトが判断された場合には、そのダウンシフトが第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があるような運転者の加速要求が大きなパワーオンダウンシフトであるか否かが、例えばアクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいか否かに基づいて判定される。
【0128】
図12のt1時点および図13のt1時点は、自動変速部20の3速→2速ダウンシフトが判断されると共に、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きく第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があるようなパワーオンダウンシフトであると判断されたことを示している。
【0129】
前記S1の判断が肯定される場合は前記駆動力アシスト可否判定手段82に対応するS2において、第2電動機M2による駆動力アシストが実行できるか否かが判定される。例えば、第2電動機M2の故障(フェイル)や機能低下、第2電動機M2の温度TMG2が高くなったことなどによる第2電動機M2の出力制限、蓄電装置76の残容量SOCの低下や低温による機能低下、或いは第2電動機M2の駆動に関連する電気系のフェイルや機能低下などが発生したような場合に、第2電動機M2による駆動力アシストが実行できないと判定される。
【0130】
上記S2の判断が肯定される場合は前記差動状態判定手段84に対応するS3において、動力分配機構16が差動状態すなわち差動部(無段変速部)11が無段変速状態とされているか否かが、例えば図6に示す切換線図から車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かによって差動部11が無段変速状態となっているか否かが判定される。
【0131】
上記S3の判断が肯定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS4において、パワーオンダウンシフト時の無段変速走行用の第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。例えば、差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時には、ダウンシフト判断の直後から差動作用によって第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが速やかに上昇させられて、ダウンシフト中に速やかに駆動トルクが増加させられることから、第2電動機M2による駆動力アシスト量は差動部11が非無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して少なくされる。
【0132】
図13のt1時点は、差動部(無段部)11の無段変速状態(差動状態)において、自動変速部20の2速への変速指令が出力されて、解放側係合装置となる第1ブレーキB1の解放油圧PB1の低下が開始されたことを示している。そしてt2時点乃至t5時点にて係合側係合装置となる第2ブレーキB2の係合油圧PB2が上昇され、t5時点にてその第2ブレーキB2が係合完了されて自動変速部20の変速が終了する。このt1時点乃至t5時点における解放側係合装置の過渡油圧と係合側係合装置の過渡油圧とは、例えば変速中に自動変速部20の入力回転速度NINの変化率NIN’が目標入力回転速度変化率NIN’となるように予め一律に設定されている。例えば、図に示すように係合側係合装置の油圧供給開始時にはその係合側係合装置のパッククリアランスを速やかに詰める為に作動油が急速充填されるように高い油圧値指令が出力され、そしてそのまま高い油圧で係合されるとショックが発生する可能性があるので係合開始時点では一旦低い油圧値指令が出力され、その後係合完了時の油圧値に向かって漸増するように油圧値指令が出力される。
【0133】
図13の実施例では、t1時点乃至t3時点にて、変速判断と略同時に第1電動機回転速度NM1が上昇させられ、差動部11の変速比γ0が大きくされてエンジン回転速度NEが引き上げられている。そして、t3時点乃至t5時点にて、自動変速部20のダウンシフトに伴って自動変速部20の入力回転速度NIN(伝達部材回転速度N18)が上昇させられると、第1電動機回転速度NM1を略一定としてエンジン回転速度NEが引き上げられる。
【0134】
このように、図13は、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいパワーオンダウンシフトである為、ダウンシフト前後におけるトータル変速比γTが非連続的に(段階的に)変化されるように、すなわち自動変速部20の変速に同期させることなく自動変速部20の変速に伴う段階的な変速比変化を利用しつつトータル変速比γTが目標のトータル変速比γTに向かって差動部11で最終的に調整されるように、差動部11の差動作用により少なくとも第1電動機M1を用いて差動部11の変速が実行されて、ダウンシフト前後におけるトータル変速比γTが連続的に変化させられることに比較して、変速応答性が向上される。
【0135】
また、図13のt2時点乃至t5時点に示すように、ダウンシフト時の加速性能を向上する為に、第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。但し、変速判断直後から直ちにエンジン回転速度NEが引き上げられて、駆動力が増加させられることから、その駆動力アシスト量は差動部11が非無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して少なくされる。よって、第2電動機M2の駆動に必要な電力の消費が抑制されて、燃費が向上する。
【0136】
前記S3の判断が否定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS5において、パワーオンダウンシフト時の有段変速走行用の第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。例えば、差動部11が非無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時には、ダウンシフトが完了して変速比γが段階的に変化させられ駆動力が増加するまでにはある程度の変速時間を要して、つまりダウンシフト判断からそのダウンシフトに伴ってエンジン回転速度NEが上昇するまでに時間を要して、ダウンシフト中の駆動トルク増加の応答性が低下する。また、差動部11が無段変速状態であるときと異なり、第1電動機M1によりエンジン回転速度NEを上昇させて、駆動トルクを増加させることができない。従って、第2電動機M2による駆動力アシスト量は差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して多くされる。また、駆動力アシストの開始時期も早くされる。
【0137】
図12のt1時点は、差動部(無段部)11の非無段変速状態(ロック状態)において、自動変速部20の2速への変速指令が出力されて、解放側係合装置となる第1ブレーキB1の解放油圧PB1の低下が開始されたことを示している。そしてt1時点乃至t4時点にて係合側係合装置となる第2ブレーキB2の係合油圧PB2が上昇され、t4時点にてその第2ブレーキB2が係合完了されて一連の変速作動が終了する。このt1時点乃至t4時点における解放側係合装置の過渡油圧と係合側係合装置の過渡油圧とは、例えば変速中に自動変速部20の入力回転速度NINの変化率NIN’が目標入力回転速度変化率NIN’となるように予め一律に設定されている。例えば、図13の実施例と同様に、係合側係合装置の油圧供給開始時には高い油圧値指令が出力され、係合開始時点では一旦低い油圧値指令が出力され、その後係合完了時の油圧値に向かって漸増するように油圧値指令が出力される。
【0138】
図12の実施例では、差動部11が切換クラッチC0の係合によるロック状態でのダウンシフトとなるため、変速機構10全体として有段変速機として機能させられる。そして、t2時点乃至t4時点に示すようにダウンシフトに伴って自動変速部20の入力回転速度NINが引き上げられると共に、エンジン回転速度NEも引き上げられる。見方を替えると、t1時点の変速判断後から係合側係合装置が係合トルク容量を持ち始めるt2時点までは駆動トルクが増加しない。
【0139】
そこで、この図12は、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいパワーオンダウンシフトであることから、t1時点乃至t4時点に示すように、ダウンシフト時の加速性能を向上する為に、変速判断直後から直ちに第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。また、差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時と異なり、変速判断直後から直ちにエンジン回転速度NEが引き上げられて駆動トルクが増加させられないことから、その駆動力アシスト量は差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して多くされる。
【0140】
このように、差動部11が非無段変速状態となる図12の実施例における第2電動機M2による駆動力アシストは、差動部11が無段変速状態となる図13の実施例における第2電動機M2による駆動力アシストに比較して、早期に実施され、また駆動力アシスト量も多くされている。例えば、第2電動機M2による駆動力アシストの量や第2電動機M2による駆動力アシストの開始時期は、図12の実施例(非無段変速状態)と図13の実施例(無段変速状態)とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる為に、図12の実施例と図13の実施例とで同様の駆動力の増加が得られるように設定されている。
【0141】
前記S2の判断が否定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS6において、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において第2電動機M2による駆動力アシストが実施されない。
【0142】
続くS7において、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きなパワーオンダウンシフトであることから、差動部11が無段変速状態であるときには、有段変速制御手段54により自動変速部20のダウンシフトが行われると共に、前記ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速に同期してその変速比γの変化に応じて差動部11の変速比γ0を変化させてトータル変速比γTを連続的に変化させるのではなく、自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTが段階的(非連続的)に変化させられるように、自動変速部20の変速とは同期することなく独立にすなわち単独で差動部11の変速を実行してトータル変速比γTが目標値に向かって変化させられる。このとき、ハイブリッド制御手段52によりダウンシフト判断の直後から差動作用によって第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが速やかに上昇させられて、速やかに駆動力が増加させられる。
【0143】
或いは、差動部11が非無段変速状態であるときには、有段変速制御手段54により自動変速部20のダウンシフトが行われる。このとき、4速→2速パワーオンダウンシフトや3速→1速パワーオンダウンシフトのように変速段が飛ぶようなダウンシフトである場合には、第2電動機M2による駆動力アシストが実施されないことから、ダウンシフトが一挙に実行されてダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が悪化しないように、その飛ばす変速段(すなわち中間変速段)へのダウンシフトが一旦実行され、更に目標の変速段へのダウンシフトが実施される。例えば、4速→2速パワーオンダウンシフトが判断された場合には、4速→3速ダウンシフトが一旦実行され後に3速→2速ダウンシフトが実行される。よって、4速→2速パワーオンダウンシフトの変速過程で第2電動機M2による駆動力アシストが実行されなくとも、4速→2速ダウンシフトが一挙に実行される場合に比較してダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が悪化しない。
【0144】
前記S1の判断が否定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS8において、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において第2電動機M2による駆動力アシストが実施されない。
【0145】
上述のように、本実施例によれば、差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限する差動制限装置としての切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0により、例えば差動部11が無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられることから、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。
【0146】
例えば、車両の低中速走行および低中出力走行となるようなエンジンの常用出力域において差動部11が無段変速状態とされると、車両の燃費性能が確保される。また、高速走行において差動部11が非無段変速状態とされると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪へ伝達されて、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また例えば、高出力走行において差動部11が非無段変速状態とされると、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできるので、第1電動機M1やその電気的エネルギが伝達される第2電動機M2、或いはそれを含む変速機構10が一層小型化される。
【0147】
また、自動変速部20のパワーオンダウンシフト中に、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストが実施されるので、車両の駆動力が増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0148】
また、自動変速部20のパワーオンダウンシフト中において、差動部11が無段変速状態とされているときと非無段変速状態とされているときとで、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストの方法が変更されるので、エンジン回転速度NEを自由に設定することにより自動変速部20のダウンシフト開始直後に速やかに駆動力を増加させられ得る無段変速状態のときはもちろんのこと、その無段変速状態に比較して、自動変速部20のダウンシフトに伴う駆動力増加の応答性が低下する可能性がある非無段変速状態のときにも車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0149】
例えば、差動部11が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストの量が増加させられるので、非無段変速状態のときには無段変速状態に比較して自動変速部20のパワーオンダウンシフト時に駆動力がより多く増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0150】
また、例えば、差動部11が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストが早期に開始されるので、非無段変速状態のときには無段変速状態に比較して自動変速部20のパワーオンダウンシフト時に駆動力がより速やかに増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0151】
例えば、差動部11の無段変速状態と有段変速状態(非無段変速状態)とで同様の変速応答性が得られるように、すなわち無段変速状態と非無段変速状態とで同様の駆動トルクの増加が得られるように、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストの量や駆動力アシストの開始時期が設定されるので、差動部11の無段変速状態と非無段変速状態とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる。
【0152】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0153】
図14は本発明の他の実施例における変速機構70の構成を説明する骨子図、図15はその変速機構70の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図16はその変速機構70の変速作動を説明する共線図である。
【0154】
差動部11が備える第2電動機M2は、前述の実施例の変速機構10においては出力軸22と一体的に回転するように設けられていたが、本実施例の変速機構70においては伝達部材18と一体的に回転するように設けられている。つまり、電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスを構成するために設けられる第2電動機M2は、変速機構10においてはハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速中に変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うように実施された駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能を備えていたが、変速機構70においては自動変速部72を介して出力軸22に回転トルクが伝達されることから前述の実施例のような変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能を備えていない。
【0155】
そこで、本実施例では、出力軸22と一体的に回転するように第3電動機M3が設けられ、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速中に変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うようにその第3電動機M3による駆動力アシストが実施される。すなわち、前述の実施例の変速機構10においては電気パスを構成する機能と変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能とを第2電動機M2が備えているが、本実施例においては電気パスを構成する機能は第2電動機M2が備え、変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能は第3電動機M3が備えている。
【0156】
このように、本実施例では、変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能が、変速機構10における第2電動機M2に替えて第3電動機M3に備えられることが前述の実施例と異なるだけであるので、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速中に実行される第3電動機M3による駆動力アシストについての説明は省略する。
【0157】
また、駆動力アシストに関連する電子制御装置40による制御機能は、第2電動機M2に替えて第3電動機M3が用いられることが相違するだけである。例えば、駆動力アシスト可否判定手段82は、ハイブリッド制御手段52により第3電動機M3による駆動力アシストが実行できるか否かを判定する。駆動力アシストに関連する電子制御装置40によるその他の制御機能についは説明を省略する。
【0158】
また、変速機構70における第2電動機M2は、変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能を備えていないことを除けば、変速機構10における第2電動機M2と同等の機能を有するのでその説明は省略する。
【0159】
変速機構70は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部72とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部72は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置26と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第3遊星歯車装置28とを備えている。第2遊星歯車装置26の第2サンギヤS2と第3遊星歯車装置28の第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2遊星歯車装置26の第2キャリヤCA2と第3遊星歯車装置28の第3リングギヤR3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第3キャリヤCA3は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0160】
以上のように構成された変速機構70では、例えば、図15の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構70では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部72とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部72とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構70は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0161】
例えば、変速機構70が有段変速機として機能する場合には、図15に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0162】
しかし、変速機構70が無段変速機として機能する場合には、図15に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部72が有段変速機として機能することにより、自動変速部72の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部72に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構70全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0163】
図16は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72から構成される変速機構70において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されることを除けば前述の場合と同様である。
【0164】
図16における自動変速機72の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第3キャリヤCA3を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2および第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第2リングギヤR2をそれぞれ表している。また、自動変速機72において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速機72の出力軸22および第3電動機M3に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0165】
自動変速部72では、図16に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA3)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA2,R3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0166】
本実施例の変速機構70においても、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72とから構成されると共に出力軸22に第3電動機M3を備えているので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0167】
図17は、手動操作により動力分配機構16の差動状態(非ロック状態)と非差動状態(ロック状態)すなわち変速機構10の無段変速状態と有段変速状態との切換えを選択するための変速状態手動選択装置としてのシーソー型スイッチ44(以下、スイッチ44と表す)の一例でありユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ44は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ44の無段と表示された無段変速走行指令釦或いは有段変速走行に対応する有段と表示された有段変速走行指令釦がユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。
【0168】
前述の実施例では、例えば図6の関係図から車両状態の変化に基づく変速機構10の変速状態の自動切換制御作動を説明したが、その自動切換制御作動に替えて或いは加えて例えばスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御される。つまり、切換制御手段50は、スイッチ44の無段変速状態とするか或いは有段変速状態とするかの選択操作に従って優先的に変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とに切り換える。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択する。またユーザは有段変速機の変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択する。
【0169】
また、スイッチ44に無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチ44がその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、変速機構10の変速状態の自動切換制御作動が実行されればよい。
【0170】
例えば、自動切換制御作動に替えてスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御される場合には、前述の実施例の図11に示すフローチャートのステップS3において、スイッチ44が手動操作によって動力分配機構16の差動状態すなわち変速機構10の無段変速状態が選択されていることに基づいて動力分配機構16が差動状態すなわち差動部11が無段変速状態とされているか否かが判定される。
【0171】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0172】
例えば、前述の実施例の第2電動機M2や第3電動機M3はジェネレータ(発電)機能を更に備え、減速走行時に回生が実行されても良い。このとき、第2電動機M2が出力軸22に備えられる場合には、第2電動機M2の出力トルクが自動変速部20、72によりトルク増幅されないが、回生量が多くされ得る為回生には有利となる。
【0173】
また、前述の実施例では、ハイブリッド制御手段52は駆動力アシストを実施する場合に、出力軸22に設けられた第2電動機M2により車両の駆動力を付与したり、第2電動機M2に替えて電気パスを構成しない出力軸22に設けられた第3電動機M3により車両の駆動力を付与したが、それに替えて或いは加えて、出力軸22からの出力により駆動される駆動輪38とは別の車輪を駆動する電動機Mを設け、その電動機Mにより車両の駆動力を付与しても良い。このようにしても本実施例は適用され得る。
【0174】
また、前述の実施例のハイブリッド制御手段52は、パワーオンダウンシフト時の駆動力アシストを、差動部11が無段変速状態のときには非無段変速状態に比較して駆動力アシスト量が少なくなるように実施したが、差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時にはダウンシフト判断の直後からエンジン回転速度NEが速やかに上昇させられて速やかに駆動トルクが増加させられることから、差動部11が無段変速状態のときには駆動力アシストを実施しなくとも良い。このようにしても本発明は適用され得る。
【0175】
また、前述の実施例の切換制御手段50は、差動部11の電気的な無段変速機(差動装置)としての作動を制限する場合には、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を完全係合して差動部11が差動作用をしない非差動状態(ロック状態)へ切り換えたが、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0のトルク容量を変化させることにより、例えば半係合状態とすることにより差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限して非差動状態(ロック状態)としても良い。具体的には、切換制御手段50は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を半係合状態とすることにより、第1電動機M1が発生するトルクと切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の半係合トルクとで差動部11へ入力されるエンジントルクTEに対する反力トルクを発生させてもよい。
【0176】
これによって、例えば、第1電動機M1のトルク容量により受け持つことが可能な所定値TE1を超えるエンジントルクTEを差動部11に入力可能となって、第1電動機M1の最大トルク容量を大きくすることなく、すなわち第1電動機M1を大型化することなく、差動部11からの出力が増大させられ得る。
【0177】
或いはまた、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合と異なり、第1電動機M1は差動部11へ入力される全てのエンジントルクTEに対する反力トルクを受け持つ必要がなくなるので、差動部11に入力される同じ大きさのエンジントルクTEにおいて、第1電動機M1が受け持つべきエンジントルクTEの比率が小さくされ得る。よって、第1電動機M1が小型化され得たり、或いはまた第1電動機M1の耐久性が向上したり、或いはまた、第1電動機M1から第2電動機M2への電気エネルギが小さくされて第2電動機M2の耐久性も向上する。
【0178】
或いはまた、切換制御手段50は、差動部11を無段変速状態とする無段制御領域か、或いは差動部11を非無段変速状態とする有段制御領域かに拘わらず、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を半係合状態としてもよい。
【0179】
また、前述の実施例の変速機構10、70は、差動部11(動力分配機構16)が電気的な無段変速機として作動可能な差動状態とそれを非作動とする非差動状態(ロック状態)とに切り換えられることで無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成され、この無段変速状態と有段変速状態との切換えは差動部11が差動状態と非差動状態とに切換えられることによって行われていたが、例えば差動部11が差動状態のままであっても差動部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させることにより有段変速機として機能させられ得る。言い換えれば、差動部11の差動状態/非差動状態と、変速機構10、70の無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、差動部11は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切換可能に構成される必要はなく、変速機構10、70(差動部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。
【0180】
また、前述の実施例では差動部11の差動状態において、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1以下のときには、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEが略一定に維持されるようにすなわち変速機構10のトータル変速比が変化しないように差動部11の変速制御が実行されたが、必ずしもエンジン回転速度NEが略一定に維持されるようにする必要はなく、エンジン回転速度NEの変化が抑制されて連続的にエンジン回転速度NEが変化させられればばよい。このようにしても一応の効果は得られる。
【0181】
また、前述の実施例では差動状態判定手段84(図11のステップS3)は、動力分配機構16が差動状態とされているか否かを例えば図6に示す切換線図から車両状態に基づいて無段制御領域内であるか否かによって判定したが、切換制御手段50による変速機構10が有段制御領域内か或いは無段制御領域内であるかの判定に基づいて動力分配機構16が差動状態とされているか否かを判定してもよい。
【0182】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0183】
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0184】
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18或いは出力軸22に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18或いは出力軸22に連結されてもよい。
【0185】
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
【0186】
また、前述の実施例の変速機構10、70では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
【0187】
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0188】
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18或いは出力軸22に連結されていたが、自動変速部20、72内の回転部材に連結されていてもよい。
【0189】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20、72が介挿されていたが、例えば手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。
【0190】
また、前述の実施例では、自動変速部20、72は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、72が配設されてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20、72とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0191】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および伝達部材18に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0192】
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0193】
また、前述の実施例の切換装置46は、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えていたが、そのシフトレバー48に替えて、例えば押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションを切り換えられる装置等であってもよい。また、シフトレバー48が「M」ポジションへ操作されることにより、変速レンジが設定されるものであったが変速段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速変速段が変速段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20、72では変速段が切り換えられて変速が実行される。例えば、シフトレバー48が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、自動変速部20では第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかがシフトレバー48の操作に応じて設定される。
【0194】
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチ44に中立位置が設けられる場合にその中立位置に替えて、スイッチ44の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ44とは別に設けられてもよい。また、スイッチ44に替えて或いは加えて、手動操作に因らず運転者の音声に反応して少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられる装置や足の操作により切り換えられる装置等であってもよい。
【0195】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の実施例の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図4の電子制御装置の制御作動の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、変速機構の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図7】図7の破線はエンジン8の最適燃費率曲線であって燃費マップの一例である。また、無段変速機でのエンジン作動(破線)と有段変速機でのエンジン作動(一点鎖線)の違いを説明する図でもある。
【図8】無段制御領域と有段制御領域との境界線を有する予め記憶された関係を示す図であって、図6の破線に示す無段制御領域と有段制御領域との境界をマップ化するための概念図でもある。
【図9】有段式変速機におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度の変化の一例である。
【図10】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図11】図4の電子制御装置の制御作動すなわち自動変速部の変速の際に加速応答性を向上する制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部のロック状態(有段変速状態)において自動変速部の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【図13】図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部の無段変速状態において自動変速部の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【図14】本発明の他の実施例におけるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
【図15】図14の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
【図16】図14の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
【図17】切換装置としてのシーソー型スイッチであって変速状態を選択するためにユーザによって操作される変速状態手動選択装置の一例である。
【符号の説明】
【0197】
8:エンジン
10、70:変速機構(駆動装置)
11:差動部(無段変速部)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材
20、72:自動変速部(有段変速部)
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
52:ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)
M1:第1電動機
M2:第2電動機
C0:切換クラッチ(差動制限装置)
B0:切換ブレーキ(差動制限装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動作用が作動可能な差動機構と電動機とを備える車両用駆動装置に係り、特に、電動機などを小型化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する差動機構と、その差動機構の出力軸と駆動輪との間に設けられた第2電動機とを、備えた車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両用駆動装置がそれである。このようなハイブリッド車両用駆動装置では、差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、その差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、そのエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより変速比が連続的に変更される変速機として機能させられ、例えば電気的な無段変速機として機能させられ、エンジンを最適な作動状態に維持しつつ車両を走行させるように制御装置により制御されて燃費が向上させられる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−301731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、無段変速機は車両の燃費を良くする装置として知られている一方、有段式自動変速機のような歯車式伝動装置は伝達効率が良い装置として知られている。しかし、それ等の長所を兼ね備えた動力伝達機構は未だ存在しなかった。例えば、上記特許文献1に示すようなハイブリッド車両用駆動装置では、第1電動機から第2電動機への電気エネルギの電気パスすなわち車両の駆動力の一部を電気エネルギで伝送する伝送路を含むため、エンジンの高出力化に伴ってその第1電動機を大型化させねばならないとともに、その第1電動機から出力される電気エネルギにより駆動される第2電動機も大型化させねばならないので、駆動装置が大きくなるという問題があった。或いは、エンジンの出力の一部が一旦電気エネルギに変換されて駆動輪に伝達されるので、高速走行などのような車両の走行条件によってはかえって燃費が悪化する可能性があった。上記動力分配機構が電気的に変速比が変更される変速機例えば電気的CVTと称されるような無段変速機として使用される場合も、同様の課題があった。
【0005】
ところで、上述したようなハイブリッド車両用駆動装置では、高駆動トルクが要求された場合に対する第2電動機の必要容量を小さくして、その第2電動機を小型化するために、差動機構(電気的な無段変速機)の出力部材と駆動輪との間の動力伝達経路に有段式変速機が備えられるものも良く知られている。
【0006】
例えば、上記有段式変速機の一例として、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより変速が実行される有段式自動変速機が良く知られている。一般に、このような有段式自動変速機においては、運転者によりアクセルペダルを大きく且つ速く踏み込み操作されるような加速操作が行われると、車両の駆動力を増加させるためのダウンシフト所謂パワーオンダウンシフトが実行される。
【0007】
このように、有段式自動変速機にてパワーオンダウンシフトが実行されると、そのダウンシフト前後における変速比が段階的に変化して車両の駆動力が段階的に増加させられる。その反面、ダウンシフトの過渡過程においては無段変速機のように変速比が連続的に変化しない為、その無段変速機と比較してダウンシフトが完了して駆動力が得られるまでに時間を要し、ダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が低下する可能性があった。そうすると、運転者の加速操作に対する車両の加速性能例えば車両の加速応答性が低下して、加速フィーリング(加速感)が低下する可能性があった。
【0008】
また、上述した差動機構と有段式自動変速機との2つの変速機構を備える駆動装置においても、それら2つの変速機構の各変速比に基づいてその駆動装置の総合変速比が形成されることから、その有段式変速機の変速が実行されると有段式自動変速機が単独で備えられる場合と同様に、ダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が低下し、車両の加速性能が低下して加速フィーリング(加速感)が低下する可能性があった。
【0009】
また、前記特許文献1に記載されたハイブリッド車両用駆動装置の課題を解決できるような車両用駆動装置において、差動機構の出力部材と駆動輪との間の動力伝達経路に有段式変速機が備えられる場合にも、上記同様に、その有段式変速機の変速が実行されるとダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が低下し、車両の加速性能が低下して加速フィーリング(加速感)が低下する可能性があった。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する差動作用が作動可能な差動機構と、その差動機構から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機と、その動力伝達経路の一部を構成する有段式変速機とを備える車両用駆動装置において、その駆動装置を小型化できたり、或いはまた燃費が向上させられると共に、その変速機の変速時の加速性能が向上する制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部と、前記動力伝達経路の一部を構成する有段変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(b) 前記差動機構に備えられて、その差動機構の差動作用を制限することにより前記無段変速部の電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限装置と、(c) 前記有段変速部の変速中において、車両の駆動力を付与する駆動力アシストを実施するとき、前記無段変速部が電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされているときと、その無段変速部が電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とされているときとで、その駆動力アシストの方法を変更する電動機制御手段とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、車両の駆動装置内の無段変速部が、差動制限装置により差動機構の差動作用が制限されずその差動機構が差動作用が働く差動状態とされることで電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされ、或いはまた、差動制限装置により差動機構の差動作用が制限されることで電気的な無段変速機としての作動が制限されることから、例えば差動機構がその差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされることで電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば有段変速状態とされ得ることから、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。
【0013】
例えば、車両の低中速走行および低中出力走行となるようなエンジンの常用出力域において上記無段変速部が無段変速状態とされると、車両の燃費性能が確保される。また、高速走行において無段変速部が非無段変速状態とされると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また、高出力走行において無段変速部が非無段変速状態とされると、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、電動機が発生すべき電気的エネルギ換言すれば電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできるので、その電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0014】
また、その有段変速部の変速中において、車両の駆動力を付与する駆動力アシストを実施するとき、無段変速部が電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされているときと、無段変速部が電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とされているときとで、前記電動機制御手段により駆動力アシストの方法が変更されるので、エンジンの回転速度を自由に設定することにより有段変速部の変速開始直後に速やかに駆動力を増加させられ得る無段変速部が無段変速状態のときはもちろんのこと、その無段変速部の無段変速状態に比較して、有段変速部の有段変速に伴うトルク増加の応答性が低下する可能性がある無段変速部が非無段変速状態のときにも車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0015】
ここで、請求項2にかかる発明では、前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストの量を増加させるものである。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態に比較して有段変速部の変速に伴うトルク増加の応答性が低下する可能性がある無段変速部が非無段変速状態のときには、有段変速部のパワーオンダウンシフト時に車両の駆動力がより多く増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0016】
また、請求項3にかかる発明では、前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストを早期に開始させるものである。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態に比較して有段変速部の変速に伴うトルク増加の応答性が低下する可能性がある無段変速部が非無段変速状態のときには、有段変速部のパワーオンダウンシフト時に車両の駆動力がより速やかに増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ここで、好適には、前記無段変速部の無段変速状態と非無段変速状態とで同様の変速応答性が得られるように、すなわち無段変速状態と非無段変速状態とで同様の駆動力の増加が得られるように、前記電動機制御手段により駆動力アシストの量や駆動力アシストの開始時期が設定される。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態と非無段変速状態とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる。
【0018】
また、好適には、前記無段変速部は、前記差動制限装置により前記差動機構が差動作用が働く差動状態とされることで電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされ、差動機構がその差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされて差動作用が制限されることで電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば有段変速状態とされて電気的な無段変速機としての作動が制限されるものである。このようにすれば、無段変速部が、無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられる。
【0019】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1要素と前記第1電動機に連結された第2要素と前記伝達部材に連結された第3要素とを有するものであり、前記差動制限装置は、前記差動機構を差動状態とするために第1要素乃至第3要素を相互に相対回転可能とする、例えば差動機構を差動状態とするために少なくとも第2要素および第3要素を互いに異なる速度にて回転可能とするものである。また、差動制限装置は、差動機構を非差動状態例えばロック状態とするために少なくとも第2要素および第3要素を互いに異なる速度にて回転可能としない、例えば差動機構を非差動状態例えばロック状態とするために第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるか或いは第2要素を非回転状態とするものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成される。
【0020】
また、好適には、前記差動制限装置は、前記第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるために第1要素乃至第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するクラッチおよび/または第2要素を非回転状態とするために第2要素を非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに簡単に切り換えられるように構成される。
【0021】
また、好適には、前記差動機構は、前記クラッチおよび前記ブレーキの解放により少なくとも前記第2要素および前記第3要素が互いに異なる速度にて回転可能な差動状態とされて電気的な差動装置とされ、前記クラッチの係合により変速比が1である変速機とされるか、或いは前記ブレーキの係合により変速比が1より小さい増速変速機とされるものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成されると共に、単段または複数段の定変速比を有する変速機としても構成され得る。
【0022】
また、好適には、前記差動機構動は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成され得る。
【0023】
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0024】
また、好適には、前記無段変速部の変速比と前記有段変速部の変速比とに基づいて前記駆動装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、有段変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。また、これによって、無段変速部における無段変速制御の効率が一層高められる。或いはまた、無段変速部の無段変速状態において、無段変速部と有段変速部とで無段変速機が構成され、無段変速部の非無段変速状態において、無段変速部と有段変速部とで有段変速機が構成され得る。
【0025】
また、前記有段変速部は、有段の自動変速機である。このようにすれば、前記総合変速比が有段変速部の変速に伴って段階的に変化させられ得るので、総合変速比が連続的に変化させられることに比較して速やかに変化させられ得る。よって、駆動装置が無段変速機として機能させられて滑らかに駆動トルクを変化させることが可能であると共に、段階的に変速比を変化させて速やかに駆動トルクを得ることも可能となる。
【0026】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する有段変速部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図5参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。
【0028】
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0029】
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、出力軸22と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を付与するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0030】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0031】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されるとすなわち解放状態へ切り換えられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
【0032】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合されるとすなわち係合状態へ切り換えられると、動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合されて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に連結されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0033】
次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合されて第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0034】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態(非連結状態)と非差動状態すなわちロック状態(連結状態)とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば電気的な無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動しないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
【0035】
別の見方をすれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を非差動状態として動力分配機構16の差動作用を制限することにより、差動部11を非無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限する、すなわち電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限装置として機能している。また、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を差動状態として動力分配機構16の差動作用を制限しないことにより、差動部11を無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限しない、すなわち電気的な無段変速機としての作動を制限しない。
【0036】
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0037】
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行される有段式変速機である。
【0038】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0039】
以上のように構成された変速機構10において、特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動可能な無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動可能な非無段変速状態(定変速状態)を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0040】
具体的には、差動部11が非無段変速状態とされて変速機構10が有段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合させられ、且つ第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、すなわち自動変速部20の変速に関与する係合装置の解放と係合とにより、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置(以下解放側係合装置)の解放と変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置(以下係合側係合装置)の係合とにより変速比が自動的に切り換えられるように、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速機構10の総合変速比γT(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0041】
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、この後進ギヤ段は、通常、差動部11の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0042】
また、差動部11が無段変速状態とされて変速機構10が無段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放されて差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0043】
例えば、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放された状態で、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速(第5速における自動変速部20の係合装置の係合作動は第4速に同じ)の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0044】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0045】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0046】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0047】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3を相互に相対回転可能とする無段変速状態(差動状態)、例えば少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能とする無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される車速Vに拘束される第1リングギヤR1の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。
【0048】
また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素RE1、RE2、RE3が一体回転して少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合により第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第2回転要素RE2の回転が停止させられて少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となって差動部11が増速機構として機能させられ、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0049】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22および第2電動機M2に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0050】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0051】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0052】
電子制御装置40には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトポジションPSHを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル45(図5参照)の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を表す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)を表す信号、蓄電装置60(図5参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0053】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図5参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98による吸気管95或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図5参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0054】
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(関係、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路42へ出力する。油圧制御回路42は、その指令に従って、例えば変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に、変速に関与する係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路42内の電磁弁を作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0055】
ハイブリッド制御手段52は、無段変速制御手段として機能するものであり、変速機構10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2による駆動力アシスト等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0056】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて例えば記憶手段に記憶された図7の破線に示すようなエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
【0057】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から出力軸22へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0058】
特に、前記有段変速制御手段54により自動変速部20の変速が実行される場合には、自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後における変速機構10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。すなわち自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの変化が、無段的に変速比が変化され得る無段変速機のように連続的に変化させられるのではなく、変速比が段々に飛ぶように段階的にすなわち非連続的に変化させられる。トータル変速比γTが段階的に変化することにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。
【0059】
そこで、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速の際にはその変速前後におけるトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、すなわち自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの過渡変化が連続的に変化するように、自動変速部20の変速中に差動部11の変速を実行する。例えば、ハイブリッド制御手段52は、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEの変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行する。
【0060】
具体的には、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINである伝達部材18の回転速度の変化に拘わらずエンジン回転速度NEの変化が所定の状態となるようにすなわち所定エンジン回転速度NE’以下となるように、自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行する。上記所定エンジン回転速度NE’は、自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEの変化が抑制されてトータル変速比γTの過渡変化が連続しているとされるエンジン回転速度NEの変化として、予め実験的に求められて記憶されている差動部11の変速時に変速比γ0を変化させるときの目標となる所定値である。
【0061】
例えば、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの過渡変化が非連続的に変化しない為に、すなわち自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEが略一定に維持されてトータル変速比γTの過渡変化が連続的に変化する為に、自動変速部20の変速に同期して、自動変速部20の変速比γの変化方向とは反対方向の変速比γ0の変化となるように、例えば自動変速部20の変速比γの段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比γ0を変化させるように、差動部11の変速を実行する。これにより、自動変速部20の変速に伴って自動変速部20の変速比γが段階的に変化させられても、自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTの段階的な変化が抑制されて変速ショックが抑制される。このように、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINすなわち伝達部材18の回転速度(以下伝達部材回転速度N18)の変化に拘わらず、自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEの変化を抑制するように、第1電動機回転速度NM1を変化させて差動部11の変速を行う無段変速制御手段として機能する。
【0062】
別の見方をすれば、一般的に有段変速機では図7の一点鎖線に示すようにエンジン8が作動させられ、無段変速機では例えば図7の破線に示すエンジン8の最適燃費率曲線に沿って或いは有段変速機に比較して最適燃費率曲線により近いところでエンジン8が作動させられる。従って、要求される駆動トルク(駆動力)に対してその駆動トルクを得るためのエンジントルクTEが無段変速機の方が有段変速機に比較して上記最適燃費率曲線により近くなるエンジン回転速度NEで実現されるので、無段変速機の方が有段変速機より燃費が良いとされている。そこで、ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速が実行されて自動変速部20の変速比が段階的に変化させられたとしても、燃費が悪化しないように例えば図7の破線に示す最適燃費率曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように差動部11の変速比γ0を制御するのである。これにより、変速機構10全体として無段変速機として機能させることが可能となるので、燃費が向上される。
【0063】
上述したように、ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行する所謂同期変速制御を実行する。この差動部11の同期変速制御の開始時期は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速判断から実際に油圧式摩擦係合装置の作動により自動変速部20の入力回転速度NINが変化させられるまでの応答遅れ、すなわち自動変速部20の変速過程においてその変速に伴って自動変速部20の入力回転速度NINの変化すなわち伝達部材18の回転速度の変化が発生する所謂イナーシャ相が開始するまでの応答遅れが考慮されている。例えば、予め実験等によりその応答遅れが求められて記憶されていてもよいし、或いは実際に自動変速部20の入力回転速度NINの変化が発生したことで、ハイブリッド制御手段52は差動部11の同期変速制御を開始してもよい。
【0064】
また、差動部11の同期変速制御の終了時期は、自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相が終了した時点である。例えば予め実験等により自動変速部20の変速時間が求められて記憶されていてもよいし、或いは実際に自動変速部20の入力回転速度NINの変化が無くなったことで、ハイブリッド制御手段52は差動部11の同期変速制御を終了してもよい。
【0065】
このように、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相の期間内(区間内)すなわちイナーシャ相中に、例えば予め実験的に求められた期間中に或いは実際に自動変速部20の入力回転速度NINの変化が発生してから自動変速部20の入力回転速度NINの変化が無くなるまでの間に、差動部11を変速して上記同期変速制御を実行する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速に伴うイナーシャ相中に差動部11の変速を実行するので、自動変速部20の変速に同期して差動部11の変速を実行することができる。
【0066】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御させられる。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0067】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、伝達部材回転速度N18は車速V(駆動輪38)に拘束されることから第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う伝達部材回転速度N18の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0068】
また、ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ60を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置43は、ハイブリッド制御手段52による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、前記図6の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図6に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図6中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0070】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図6の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図6から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。よって、通常はモータ発進がエンジン発進に優先して実行されるが、例えば車両発進時に図6の駆動力源切換線図のモータ走行領域を超える要求出力トルクTOUTすなわち要求エンジントルクTEとされる程大きくアクセルペダル45が踏込操作されるような車両状態によってはエンジン発進も通常実行されるものである。
【0071】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0072】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪38にトルク言い換えれば駆動力を付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂駆動力アシスト(トルクアシスト)が可能である。よって、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行も含むものとする。尚、第2電動機M2による駆動力アシストは、モータ走行時にその第2電動機M2の出力トルクを増加するように行われても良い。
【0073】
例えば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において、駆動トルクの増加によって車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うように第2電動機M2による駆動力アシストを実施する電動機制御手段として機能する。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させられる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電容量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる伝達部材回転速度N18が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度NEが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0075】
また、ハイブリッド制御手段52は、蓄電装置60からインバータ58を介して供給される第1電動機M1への駆動電流を遮断して第1電動機M1を無負荷状態とする。第1電動機M1は無負荷状態とされると自由回転することすなわち空転することが許容され、差動部11はトルクの伝達が不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とされる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とする。
【0076】
増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段56に予め記憶された前記図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が、或いは前記有段変速制御手段54により判断された変速機構10の変速されるべき変速段が、増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0077】
切換制御手段50は、車両状態に基づいて前記係合装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、記憶手段56に予め記憶された前記図6の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10(差動部11)の切り換えるべき変速状態を判断して、すなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。このように、切換制御手段50は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の係合/解放を切り換えることにより、差動部11を非無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限する、すなわち電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限手段として機能している。
【0078】
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0079】
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0080】
しかし、切換制御手段50は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0081】
ここで前記図6について詳述すると、図6は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0082】
また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0083】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速Vが判定車速V1を越えたか否かを判定し、判定車速V1を越えたときには例えば切換ブレーキB0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたか否かを判定し、判定出力トルクT1を越えたときには例えば切換クラッチC0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。
【0084】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の故障や機能低下、すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は変速機構10を優先的に有段変速状態としてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下が発生したか否かを判定し、その故障や機能低下が発生したときには変速機構10を有段変速状態とする。
【0085】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度Gや、例えばアクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0086】
また、前記判定車速V1は、例えば高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、前記判定トルクT1は、例えば車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジン8の高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0087】
図8は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有し、例えば記憶手段56に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段50は、図6の切換線図に替えてこの図8の切換線図からエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図8は図6の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図6の破線は図8の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
【0088】
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0089】
同様に、図8の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図8における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
【0090】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
【0091】
また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0092】
つまり、前記所定値TE1が第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTEの切換判定値として予め設定されると、エンジントルクTEがその所定値TE1を超えるような高出力走行では、差動部11が有段変速状態とされるため、第1電動機M1は差動部11が無段変速状態とされているときのようにエンジントルクTEに対する反力トルクを受け持つ必要が無いので、第1電動機M1の大型化が防止されつつその耐久性の低下が抑制される。言い換えれば、本実施例の第1電動機M1は、その最大出力がエンジントルクTEの最大値に対して必要とされる反力トルク容量に比較して小さくされることで、すなわちその最大出力を上記所定値TE1を超えるようなエンジントルクTEに対する反力トルク容量に対応させないことで、小型化が実現されている。
【0093】
尚、上記第1電動機M1の最大出力は、この第1電動機M1の使用環境に許容されるように実験的に求められて設定されている第1電動機M1の定格値である。また、上記エンジントルクTEの切換判定値は、第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTEの最大値またはそれよりも所定値低い値であって、第1電動機M1の耐久性の低下が抑制されるように予め実験的に求められた値である。
【0094】
また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図9に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
【0095】
図10は複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り換える切換装置46の一例を示す図である。この切換装置46は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えている。そのシフトレバー48は、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれの係合装置も係合されないような変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0096】
例えば、上記シフトレバー48の各シフトポジションへの手動操作に連動してそのシフトレバー48に機械的に連結された油圧制御回路42内のマニュアル弁が切り換えられて、図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」等が成立するように油圧制御回路42が機械的に切り換えられる。また、「D」または「M」ポジションにおける図2の係合作動表に示す1st乃至5thの各変速段は、油圧制御回路42内の電磁弁が電気的に切り換えられることにより成立させられる。
【0097】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態へ切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0098】
具体的には、シフトレバー48が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー48が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジ乃至「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
【0099】
上記「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー48が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかがシフトレバー48の操作に応じて変更される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、およびダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー48がそれ等のアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかが選択される。例えば、「M」ポジションにおいて選択される「D」レンジ乃至「L」レンジの5つの変速レンジは、変速機構10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また自動変速部20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。また、シフトレバー48はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。また、切換装置46にはシフトレバー48の各シフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサ49が備えられており、そのシフトレバー48のシフトポジションPSHを表す信号や「M」ポジションにおける操作回数等を電子制御装置40へ出力する。
【0100】
例えば、「D」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、図6に示す予め記憶された変速マップや切換マップに基づいて切換制御手段50により変速機構10の変速状態の自動切換制御が実行され、ハイブリッド制御手段52により動力分配機構16の無段変速制御が実行され、有段変速制御手段54により自動変速部20の自動変速制御が実行される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段の範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が動力分配機構16の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御される。この「D」ポジションは変速機構10の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。
【0101】
或いは、「M」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、変速レンジの最高速側変速段或いは変速比を越えないように、切換制御手段50、ハイブリッド制御手段52、および有段変速制御手段54により変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が各変速レンジで変速機構10が変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が動力分配機構16の無段的な変速比幅と各変速レンジに応じた自動変速部20の変速可能な変速段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。この「M」ポジションは変速機構10の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
【0102】
このように、本実施例の変速機構10は、差動部11に加え自動変速部20を備えており、有段変速制御手段54により例えば図6に示す変速線図から車両状態に基づいてその変速が実行される。このとき、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速が、アクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動トルクを増加させる為のパワーオンダウンシフトである場合等には、運転者の加速要求が大きいことから速やかに駆動トルクが増加し、加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上することが望まれる。
【0103】
しかしながら、自動変速部20のダウンシフト時には、ダウンシフトが完了して変速比γが段階的に変化させられ駆動トルクが増加するまでにはある程度の変速時間が必要なことから、駆動トルクの増加の応答性が低下して加速フィーリングが低下する可能性がある。
【0104】
この自動変速部20の変速時間は自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置および係合側係合装置の係合油圧や解放と係合との作動タイミングによって決まるものである。また、その解放側係合装置および係合側係合装置の係合油圧や解放と係合との作動タイミングは、差動部11が無段変速状態か或いは非無段変速状態かに拘わらず、例えば自動変速部20の入力回転速度NINの変化率NIN’(=dNIN/dt)が目標入力回転速度変化率NIN’となるように、例えば各油圧式摩擦係合装置の耐久性等を考慮しつつ変速ショックの抑制と変速時間の短縮とが両立するようにエンジントルクTEに応じて一律に設定される。その目標入力回転速度変化率NIN’は、例えばフィーリングが良いとされているような目標入力回転速度変化率NIN’が大きくなる速やかな変速応答性と、変速ショックが抑制し易いとされているような目標入力回転速度変化率NIN’が小さくなる緩やかな変速応答性とが、両立するような入力回転速度変化率NIN’として予め実験的に求められて記憶されている。
【0105】
よって、変速時間を短縮することを専らの目的として各油圧式摩擦係合装置の係合油圧や作動タイミングを設定すれば、変速ショックが大きくなる可能性がある。
【0106】
そこで、前述したように、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において、駆動トルク(駆動力)の増加によって車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うように第2電動機M2による駆動力アシストを実施する。
【0107】
アクセル開度変化率判定手段80は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断された場合には、そのダウンシフトが運転者の加速要求が大きなパワーオンダウンシフトであるか否かを、例えばアクセル開度変化率Acc’(=dAcc/dt)が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいか否かに基づいて判定する。この所定のアクセル開度変化率Acc1は、運転者の加速要求が大きく自動変速部20のダウンシフト中に前記ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があるようなパワーオンダウンシフトであることを判断するために、予め実験的に求められて定められた運転者のアクセルペダル45の踏込操作速度判定値である。
【0108】
駆動力アシスト可否判定手段82は、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストが実行できるか否かを判定する。例えば、駆動力アシスト可否判定手段82は、第2電動機M2の故障(フェイル)や機能低下、第2電動機M2の温度TMG2が高くなったことなどによる第2電動機M2の出力制限、蓄電装置76の残容量SOCの低下や低温による機能低下、或いは第2電動機M2の駆動に関連する電気系のフェイルや機能低下などが発生したような場合に、第2電動機M2による駆動力アシストが実行できないと判定する。
【0109】
前記ハイブリッド制御手段52は、上記アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要がないと判定された場合には、或いは上記駆動力アシスト可否判定手段82により第2電動機M2による駆動力アシストが実行できないと判定された場合には、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において第2電動機M2による駆動力アシストを実施しない。
【0110】
ところで、本実施例の変速機構10(差動部11、動力分配機構16)は無段変速状態(差動状態)と非無段変速状態例えば有段変速状態(ロック状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。
【0111】
そして、例えば差動部11が無段変速状態であるときには、差動作用によってエンジン回転速度NEを自由に変化(設定)させられ得ることから、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)には、変速ショックが抑制されたり燃費が向上される為に、その変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINの変化に拘わらず第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが略一定に維持されるように、前記ハイブリッド制御手段52により差動部11の変速が実行される。
【0112】
例えば、アクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動トルクを増加させる為のパワーオンダウンシフトであるような場合でも、すなわちトータル変速比γTの目標値を自動変速部20の変速前後で大きく変化させるような場合でも、トータル変速比γTを連続的に変化させる為に、自動変速部20の変速前後で一旦エンジン回転速度NEが略一定に維持されるように差動部11の変速が実行された後、トータル変速比γTを目標のトータル変速比γTに向かって連続的に変化するように更に差動部11の変速が実行される。
【0113】
但し、このようなアクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動トルクを増加させる為のパワーオンダウンシフトである場合等には、トータル変速比γTを連続的に変化させるよりも、差動部11の非無段変速状態と同様にトータル変速比γTを段階的(非連続的)に変化させて、速やかに駆動トルク(駆動力)を増加させる方がユーザにとって気持ちが良いという考え方もある。
【0114】
そこで、前記ハイブリッド制御手段52は、前述した機能に加え、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに、差動部11が無段変速状態である場合には、自動変速部20の変速に同期してその変速比γの変化に応じて差動部11の変速比γ0を変化させてトータル変速比γTを連続的に変化させるのではなく、差動部11の非無段変速状態と同様に自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTが段階的(非連続的)に変化させられるように、自動変速部20の変速とは同期することなく独立にすなわち単独で差動部11の変速を実行してトータル変速比γTを目標値に向かって変化させる。こうすることで、自動変速部20の段階的な変速比変化を利用しつつその変化に差動部11の変速比変化を加える(或いは減じる)ようにトータル変速比γTを目標値に変化させられ得るので、アクセルペダル45が踏み込まれたことにより車両の駆動力を増加させる為のパワーオンダウンシフトであるような場合には、すなわちトータル変速比γTの目標値を自動変速部20の変速前後で大きく変化させるような場合には、自動変速部20の変速前後ではトータル変速比γTが段階的に変化させられる。
【0115】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、ダウンシフト判断の直後から差動作用によって第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させて、第2電動機M2による駆動力アシストと同様に、速やかに駆動力を増加させることも可能である。
【0116】
見方を換えれば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに、差動部11が無段変速状態である場合には、その変速に伴う自動変速部20の入力回転速度NINの変化に拘わらず第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが抑制されるように差動部11の変速を実行することに替えて、例えばそのダウンシフト判断の直後から第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させて、ダウンシフト中に駆動トルクを増加させる。
【0117】
また、例えば差動部11が非無段変速状態であるときの有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)には、差動部11も自動変速部20と同様に変速比γ0が固定され、エンジン回転速度NEも自動変速部20の入力回転速度NINの変化と同様に車速Vと自動変速部20の変速比γとに応じて変化させられる。つまり、差動部11の無段変速状態と異なりハイブリッド制御手段52による差動部11の変速は行われない。従って、差動部11が無段変速状態であるときと異なり、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)に、ハイブリッド制御手段52は第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを速やかに上昇させて、駆動力を増加させることができない。
【0118】
そこで、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速中には、差動作用によってエンジン回転速度NEを自由に上昇させられ得る差動部11の無段変速状態と、入力回転速度NINの変化と同様に車速Vと自動変速部20の変速比γとに応じてエンジン回転速度NEが変化させられる差動部11の非無段変速状態とで、第2電動機M2による駆動力アシストの方法を変更する。
【0119】
具体的には、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEを上昇させ、自動変速部20の変速開始後に速やかに駆動力が増加させられて駆動力増加の応答性が向上させられ得る差動部11が無段変速状態のときはもちろんのこと、その差動部11の無段変速状態に比較して、ダウンシフト中の駆動力増加の応答性が低下する可能性がある差動部11が非無段変速状態のときにも、駆動力の増加によって車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、変速応答遅れによる駆動力の増加の応答遅れを補うように第2電動機M2による駆動力アシストの方法を変更する。
【0120】
例えば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに差動部11が非無段変速状態であるときには、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、無段変速状態であるときに比較して車両の駆動力がより多く増加されるように、そのダウンシフト中の第2電動機M2による駆動力アシストの量を増加させる。
【0121】
また、例えば、ハイブリッド制御手段52は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定されたときに差動部11が非無段変速状態であるときには、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する為に、無段変速状態であるときに比較して車両の駆動トルクがより速やかに増加されるように、そのダウンシフト中の第2電動機M2による駆動力アシストを早期に開始させる。
【0122】
また、上記第2電動機M2による駆動力アシストの量や第2電動機M2による駆動力アシストの開始時期は、例えば差動部11の無段変速状態と有段変速状態(非無段変速状態)とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる為に、無段変速状態と非無段変速状態とで同様の変速応答性が得られるように、すなわち無段変速状態と非無段変速状態とで同様の駆動力の増加が得られるように、ハイブリッド制御手段52により設定される。
【0123】
差動状態判定手段84は、有段変速制御手段54によりダウンシフトが判断され、アクセル開度変化率判定手段80により第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があると判定され、駆動力アシスト可否判定手段82により第2電動機M2による駆動力アシストが実行できると判定された場合には、ハイブリッド制御手段52により差動部11の無段変速状態と非無段変速状態とで、第2電動機M2による駆動力アシストの方法が変更される為に、動力分配機構16が差動状態すなわち差動部11が無段変速状態とされているか否かを判定する。例えば、差動状態判定手段84は、切換制御手段50により変速機構10が有段変速状態に切換制御される有段制御領域内か或いは変速機構10が無段変速状態に切換制御される無段制御領域内であるかの判定のための例えば図6に示す切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かによって差動部11が無段変速状態となっているか否かを判定する。
【0124】
図11は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち自動変速部20の変速の際に加速応答性を向上する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0125】
また、図12は、図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部11のロック状態(有段変速状態)において自動変速部20の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【0126】
また、図13は、図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部11の無段変速状態において自動変速部20の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【0127】
先ず、前記アクセル開度変化率判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、有段変速制御手段54により例えば図6に示す変速線図から車速Vおよび自動変速部20の出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて自動変速部20の変速すべき変速段が判断され、自動変速部20のダウンシフトが判断された場合には、そのダウンシフトが第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があるような運転者の加速要求が大きなパワーオンダウンシフトであるか否かが、例えばアクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいか否かに基づいて判定される。
【0128】
図12のt1時点および図13のt1時点は、自動変速部20の3速→2速ダウンシフトが判断されると共に、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きく第2電動機M2による駆動力アシストを実施する必要があるようなパワーオンダウンシフトであると判断されたことを示している。
【0129】
前記S1の判断が肯定される場合は前記駆動力アシスト可否判定手段82に対応するS2において、第2電動機M2による駆動力アシストが実行できるか否かが判定される。例えば、第2電動機M2の故障(フェイル)や機能低下、第2電動機M2の温度TMG2が高くなったことなどによる第2電動機M2の出力制限、蓄電装置76の残容量SOCの低下や低温による機能低下、或いは第2電動機M2の駆動に関連する電気系のフェイルや機能低下などが発生したような場合に、第2電動機M2による駆動力アシストが実行できないと判定される。
【0130】
上記S2の判断が肯定される場合は前記差動状態判定手段84に対応するS3において、動力分配機構16が差動状態すなわち差動部(無段変速部)11が無段変速状態とされているか否かが、例えば図6に示す切換線図から車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かによって差動部11が無段変速状態となっているか否かが判定される。
【0131】
上記S3の判断が肯定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS4において、パワーオンダウンシフト時の無段変速走行用の第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。例えば、差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時には、ダウンシフト判断の直後から差動作用によって第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが速やかに上昇させられて、ダウンシフト中に速やかに駆動トルクが増加させられることから、第2電動機M2による駆動力アシスト量は差動部11が非無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して少なくされる。
【0132】
図13のt1時点は、差動部(無段部)11の無段変速状態(差動状態)において、自動変速部20の2速への変速指令が出力されて、解放側係合装置となる第1ブレーキB1の解放油圧PB1の低下が開始されたことを示している。そしてt2時点乃至t5時点にて係合側係合装置となる第2ブレーキB2の係合油圧PB2が上昇され、t5時点にてその第2ブレーキB2が係合完了されて自動変速部20の変速が終了する。このt1時点乃至t5時点における解放側係合装置の過渡油圧と係合側係合装置の過渡油圧とは、例えば変速中に自動変速部20の入力回転速度NINの変化率NIN’が目標入力回転速度変化率NIN’となるように予め一律に設定されている。例えば、図に示すように係合側係合装置の油圧供給開始時にはその係合側係合装置のパッククリアランスを速やかに詰める為に作動油が急速充填されるように高い油圧値指令が出力され、そしてそのまま高い油圧で係合されるとショックが発生する可能性があるので係合開始時点では一旦低い油圧値指令が出力され、その後係合完了時の油圧値に向かって漸増するように油圧値指令が出力される。
【0133】
図13の実施例では、t1時点乃至t3時点にて、変速判断と略同時に第1電動機回転速度NM1が上昇させられ、差動部11の変速比γ0が大きくされてエンジン回転速度NEが引き上げられている。そして、t3時点乃至t5時点にて、自動変速部20のダウンシフトに伴って自動変速部20の入力回転速度NIN(伝達部材回転速度N18)が上昇させられると、第1電動機回転速度NM1を略一定としてエンジン回転速度NEが引き上げられる。
【0134】
このように、図13は、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいパワーオンダウンシフトである為、ダウンシフト前後におけるトータル変速比γTが非連続的に(段階的に)変化されるように、すなわち自動変速部20の変速に同期させることなく自動変速部20の変速に伴う段階的な変速比変化を利用しつつトータル変速比γTが目標のトータル変速比γTに向かって差動部11で最終的に調整されるように、差動部11の差動作用により少なくとも第1電動機M1を用いて差動部11の変速が実行されて、ダウンシフト前後におけるトータル変速比γTが連続的に変化させられることに比較して、変速応答性が向上される。
【0135】
また、図13のt2時点乃至t5時点に示すように、ダウンシフト時の加速性能を向上する為に、第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。但し、変速判断直後から直ちにエンジン回転速度NEが引き上げられて、駆動力が増加させられることから、その駆動力アシスト量は差動部11が非無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して少なくされる。よって、第2電動機M2の駆動に必要な電力の消費が抑制されて、燃費が向上する。
【0136】
前記S3の判断が否定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS5において、パワーオンダウンシフト時の有段変速走行用の第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。例えば、差動部11が非無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時には、ダウンシフトが完了して変速比γが段階的に変化させられ駆動力が増加するまでにはある程度の変速時間を要して、つまりダウンシフト判断からそのダウンシフトに伴ってエンジン回転速度NEが上昇するまでに時間を要して、ダウンシフト中の駆動トルク増加の応答性が低下する。また、差動部11が無段変速状態であるときと異なり、第1電動機M1によりエンジン回転速度NEを上昇させて、駆動トルクを増加させることができない。従って、第2電動機M2による駆動力アシスト量は差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して多くされる。また、駆動力アシストの開始時期も早くされる。
【0137】
図12のt1時点は、差動部(無段部)11の非無段変速状態(ロック状態)において、自動変速部20の2速への変速指令が出力されて、解放側係合装置となる第1ブレーキB1の解放油圧PB1の低下が開始されたことを示している。そしてt1時点乃至t4時点にて係合側係合装置となる第2ブレーキB2の係合油圧PB2が上昇され、t4時点にてその第2ブレーキB2が係合完了されて一連の変速作動が終了する。このt1時点乃至t4時点における解放側係合装置の過渡油圧と係合側係合装置の過渡油圧とは、例えば変速中に自動変速部20の入力回転速度NINの変化率NIN’が目標入力回転速度変化率NIN’となるように予め一律に設定されている。例えば、図13の実施例と同様に、係合側係合装置の油圧供給開始時には高い油圧値指令が出力され、係合開始時点では一旦低い油圧値指令が出力され、その後係合完了時の油圧値に向かって漸増するように油圧値指令が出力される。
【0138】
図12の実施例では、差動部11が切換クラッチC0の係合によるロック状態でのダウンシフトとなるため、変速機構10全体として有段変速機として機能させられる。そして、t2時点乃至t4時点に示すようにダウンシフトに伴って自動変速部20の入力回転速度NINが引き上げられると共に、エンジン回転速度NEも引き上げられる。見方を替えると、t1時点の変速判断後から係合側係合装置が係合トルク容量を持ち始めるt2時点までは駆動トルクが増加しない。
【0139】
そこで、この図12は、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きいパワーオンダウンシフトであることから、t1時点乃至t4時点に示すように、ダウンシフト時の加速性能を向上する為に、変速判断直後から直ちに第2電動機M2による駆動力アシストが実施される。また、差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時と異なり、変速判断直後から直ちにエンジン回転速度NEが引き上げられて駆動トルクが増加させられないことから、その駆動力アシスト量は差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時に比較して多くされる。
【0140】
このように、差動部11が非無段変速状態となる図12の実施例における第2電動機M2による駆動力アシストは、差動部11が無段変速状態となる図13の実施例における第2電動機M2による駆動力アシストに比較して、早期に実施され、また駆動力アシスト量も多くされている。例えば、第2電動機M2による駆動力アシストの量や第2電動機M2による駆動力アシストの開始時期は、図12の実施例(非無段変速状態)と図13の実施例(無段変速状態)とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる為に、図12の実施例と図13の実施例とで同様の駆動力の増加が得られるように設定されている。
【0141】
前記S2の判断が否定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS6において、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において第2電動機M2による駆動力アシストが実施されない。
【0142】
続くS7において、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1より大きなパワーオンダウンシフトであることから、差動部11が無段変速状態であるときには、有段変速制御手段54により自動変速部20のダウンシフトが行われると共に、前記ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速に同期してその変速比γの変化に応じて差動部11の変速比γ0を変化させてトータル変速比γTを連続的に変化させるのではなく、自動変速部20の変速前後におけるトータル変速比γTが段階的(非連続的)に変化させられるように、自動変速部20の変速とは同期することなく独立にすなわち単独で差動部11の変速を実行してトータル変速比γTが目標値に向かって変化させられる。このとき、ハイブリッド制御手段52によりダウンシフト判断の直後から差動作用によって第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが速やかに上昇させられて、速やかに駆動力が増加させられる。
【0143】
或いは、差動部11が非無段変速状態であるときには、有段変速制御手段54により自動変速部20のダウンシフトが行われる。このとき、4速→2速パワーオンダウンシフトや3速→1速パワーオンダウンシフトのように変速段が飛ぶようなダウンシフトである場合には、第2電動機M2による駆動力アシストが実施されないことから、ダウンシフトが一挙に実行されてダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が悪化しないように、その飛ばす変速段(すなわち中間変速段)へのダウンシフトが一旦実行され、更に目標の変速段へのダウンシフトが実施される。例えば、4速→2速パワーオンダウンシフトが判断された場合には、4速→3速ダウンシフトが一旦実行され後に3速→2速ダウンシフトが実行される。よって、4速→2速パワーオンダウンシフトの変速過程で第2電動機M2による駆動力アシストが実行されなくとも、4速→2速ダウンシフトが一挙に実行される場合に比較してダウンシフトに伴うトルク増加の応答性が悪化しない。
【0144】
前記S1の判断が否定される場合は前記ハイブリッド制御手段52に対応するS8において、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中において第2電動機M2による駆動力アシストが実施されない。
【0145】
上述のように、本実施例によれば、差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限する差動制限装置としての切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0により、例えば差動部11が無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられることから、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。
【0146】
例えば、車両の低中速走行および低中出力走行となるようなエンジンの常用出力域において差動部11が無段変速状態とされると、車両の燃費性能が確保される。また、高速走行において差動部11が非無段変速状態とされると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪へ伝達されて、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また例えば、高出力走行において差動部11が非無段変速状態とされると、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできるので、第1電動機M1やその電気的エネルギが伝達される第2電動機M2、或いはそれを含む変速機構10が一層小型化される。
【0147】
また、自動変速部20のパワーオンダウンシフト中に、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストが実施されるので、車両の駆動力が増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0148】
また、自動変速部20のパワーオンダウンシフト中において、差動部11が無段変速状態とされているときと非無段変速状態とされているときとで、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストの方法が変更されるので、エンジン回転速度NEを自由に設定することにより自動変速部20のダウンシフト開始直後に速やかに駆動力を増加させられ得る無段変速状態のときはもちろんのこと、その無段変速状態に比較して、自動変速部20のダウンシフトに伴う駆動力増加の応答性が低下する可能性がある非無段変速状態のときにも車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0149】
例えば、差動部11が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストの量が増加させられるので、非無段変速状態のときには無段変速状態に比較して自動変速部20のパワーオンダウンシフト時に駆動力がより多く増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0150】
また、例えば、差動部11が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストが早期に開始されるので、非無段変速状態のときには無段変速状態に比較して自動変速部20のパワーオンダウンシフト時に駆動力がより速やかに増加され、車両の加速性能が向上して加速フィーリング(加速感)が向上する。
【0151】
例えば、差動部11の無段変速状態と有段変速状態(非無段変速状態)とで同様の変速応答性が得られるように、すなわち無段変速状態と非無段変速状態とで同様の駆動トルクの増加が得られるように、ハイブリッド制御手段52により第2電動機M2による駆動力アシストの量や駆動力アシストの開始時期が設定されるので、差動部11の無段変速状態と非無段変速状態とで同様の車両の加速性能(加速フィーリング)が得られる。
【0152】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0153】
図14は本発明の他の実施例における変速機構70の構成を説明する骨子図、図15はその変速機構70の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図16はその変速機構70の変速作動を説明する共線図である。
【0154】
差動部11が備える第2電動機M2は、前述の実施例の変速機構10においては出力軸22と一体的に回転するように設けられていたが、本実施例の変速機構70においては伝達部材18と一体的に回転するように設けられている。つまり、電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスを構成するために設けられる第2電動機M2は、変速機構10においてはハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速中に変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うように実施された駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能を備えていたが、変速機構70においては自動変速部72を介して出力軸22に回転トルクが伝達されることから前述の実施例のような変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能を備えていない。
【0155】
そこで、本実施例では、出力軸22と一体的に回転するように第3電動機M3が設けられ、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速中に変速応答遅れによる駆動トルクの増加の応答遅れを補うようにその第3電動機M3による駆動力アシストが実施される。すなわち、前述の実施例の変速機構10においては電気パスを構成する機能と変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能とを第2電動機M2が備えているが、本実施例においては電気パスを構成する機能は第2電動機M2が備え、変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能は第3電動機M3が備えている。
【0156】
このように、本実施例では、変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能が、変速機構10における第2電動機M2に替えて第3電動機M3に備えられることが前述の実施例と異なるだけであるので、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速中に実行される第3電動機M3による駆動力アシストについての説明は省略する。
【0157】
また、駆動力アシストに関連する電子制御装置40による制御機能は、第2電動機M2に替えて第3電動機M3が用いられることが相違するだけである。例えば、駆動力アシスト可否判定手段82は、ハイブリッド制御手段52により第3電動機M3による駆動力アシストが実行できるか否かを判定する。駆動力アシストに関連する電子制御装置40によるその他の制御機能についは説明を省略する。
【0158】
また、変速機構70における第2電動機M2は、変速中に駆動力アシストの為の駆動力を付与する機能を備えていないことを除けば、変速機構10における第2電動機M2と同等の機能を有するのでその説明は省略する。
【0159】
変速機構70は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部72とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部72は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置26と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第3遊星歯車装置28とを備えている。第2遊星歯車装置26の第2サンギヤS2と第3遊星歯車装置28の第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2遊星歯車装置26の第2キャリヤCA2と第3遊星歯車装置28の第3リングギヤR3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第3キャリヤCA3は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0160】
以上のように構成された変速機構70では、例えば、図15の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構70では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部72とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部72とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構70は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0161】
例えば、変速機構70が有段変速機として機能する場合には、図15に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0162】
しかし、変速機構70が無段変速機として機能する場合には、図15に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部72が有段変速機として機能することにより、自動変速部72の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部72に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構70全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0163】
図16は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72から構成される変速機構70において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されることを除けば前述の場合と同様である。
【0164】
図16における自動変速機72の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第3キャリヤCA3を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2および第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第2リングギヤR2をそれぞれ表している。また、自動変速機72において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速機72の出力軸22および第3電動機M3に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0165】
自動変速部72では、図16に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA3)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA2,R3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0166】
本実施例の変速機構70においても、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72とから構成されると共に出力軸22に第3電動機M3を備えているので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0167】
図17は、手動操作により動力分配機構16の差動状態(非ロック状態)と非差動状態(ロック状態)すなわち変速機構10の無段変速状態と有段変速状態との切換えを選択するための変速状態手動選択装置としてのシーソー型スイッチ44(以下、スイッチ44と表す)の一例でありユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ44は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ44の無段と表示された無段変速走行指令釦或いは有段変速走行に対応する有段と表示された有段変速走行指令釦がユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。
【0168】
前述の実施例では、例えば図6の関係図から車両状態の変化に基づく変速機構10の変速状態の自動切換制御作動を説明したが、その自動切換制御作動に替えて或いは加えて例えばスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御される。つまり、切換制御手段50は、スイッチ44の無段変速状態とするか或いは有段変速状態とするかの選択操作に従って優先的に変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とに切り換える。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択する。またユーザは有段変速機の変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択する。
【0169】
また、スイッチ44に無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチ44がその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、変速機構10の変速状態の自動切換制御作動が実行されればよい。
【0170】
例えば、自動切換制御作動に替えてスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御される場合には、前述の実施例の図11に示すフローチャートのステップS3において、スイッチ44が手動操作によって動力分配機構16の差動状態すなわち変速機構10の無段変速状態が選択されていることに基づいて動力分配機構16が差動状態すなわち差動部11が無段変速状態とされているか否かが判定される。
【0171】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0172】
例えば、前述の実施例の第2電動機M2や第3電動機M3はジェネレータ(発電)機能を更に備え、減速走行時に回生が実行されても良い。このとき、第2電動機M2が出力軸22に備えられる場合には、第2電動機M2の出力トルクが自動変速部20、72によりトルク増幅されないが、回生量が多くされ得る為回生には有利となる。
【0173】
また、前述の実施例では、ハイブリッド制御手段52は駆動力アシストを実施する場合に、出力軸22に設けられた第2電動機M2により車両の駆動力を付与したり、第2電動機M2に替えて電気パスを構成しない出力軸22に設けられた第3電動機M3により車両の駆動力を付与したが、それに替えて或いは加えて、出力軸22からの出力により駆動される駆動輪38とは別の車輪を駆動する電動機Mを設け、その電動機Mにより車両の駆動力を付与しても良い。このようにしても本実施例は適用され得る。
【0174】
また、前述の実施例のハイブリッド制御手段52は、パワーオンダウンシフト時の駆動力アシストを、差動部11が無段変速状態のときには非無段変速状態に比較して駆動力アシスト量が少なくなるように実施したが、差動部11が無段変速状態におけるパワーオンダウンシフト時にはダウンシフト判断の直後からエンジン回転速度NEが速やかに上昇させられて速やかに駆動トルクが増加させられることから、差動部11が無段変速状態のときには駆動力アシストを実施しなくとも良い。このようにしても本発明は適用され得る。
【0175】
また、前述の実施例の切換制御手段50は、差動部11の電気的な無段変速機(差動装置)としての作動を制限する場合には、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を完全係合して差動部11が差動作用をしない非差動状態(ロック状態)へ切り換えたが、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0のトルク容量を変化させることにより、例えば半係合状態とすることにより差動部11の電気的な差動装置としての作動を制限して非差動状態(ロック状態)としても良い。具体的には、切換制御手段50は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を半係合状態とすることにより、第1電動機M1が発生するトルクと切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の半係合トルクとで差動部11へ入力されるエンジントルクTEに対する反力トルクを発生させてもよい。
【0176】
これによって、例えば、第1電動機M1のトルク容量により受け持つことが可能な所定値TE1を超えるエンジントルクTEを差動部11に入力可能となって、第1電動機M1の最大トルク容量を大きくすることなく、すなわち第1電動機M1を大型化することなく、差動部11からの出力が増大させられ得る。
【0177】
或いはまた、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合と異なり、第1電動機M1は差動部11へ入力される全てのエンジントルクTEに対する反力トルクを受け持つ必要がなくなるので、差動部11に入力される同じ大きさのエンジントルクTEにおいて、第1電動機M1が受け持つべきエンジントルクTEの比率が小さくされ得る。よって、第1電動機M1が小型化され得たり、或いはまた第1電動機M1の耐久性が向上したり、或いはまた、第1電動機M1から第2電動機M2への電気エネルギが小さくされて第2電動機M2の耐久性も向上する。
【0178】
或いはまた、切換制御手段50は、差動部11を無段変速状態とする無段制御領域か、或いは差動部11を非無段変速状態とする有段制御領域かに拘わらず、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を半係合状態としてもよい。
【0179】
また、前述の実施例の変速機構10、70は、差動部11(動力分配機構16)が電気的な無段変速機として作動可能な差動状態とそれを非作動とする非差動状態(ロック状態)とに切り換えられることで無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成され、この無段変速状態と有段変速状態との切換えは差動部11が差動状態と非差動状態とに切換えられることによって行われていたが、例えば差動部11が差動状態のままであっても差動部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させることにより有段変速機として機能させられ得る。言い換えれば、差動部11の差動状態/非差動状態と、変速機構10、70の無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、差動部11は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切換可能に構成される必要はなく、変速機構10、70(差動部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。
【0180】
また、前述の実施例では差動部11の差動状態において、アクセル開度変化率Acc’が所定のアクセル開度変化率Acc1以下のときには、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の変速前後におけるエンジン回転速度NEが略一定に維持されるようにすなわち変速機構10のトータル変速比が変化しないように差動部11の変速制御が実行されたが、必ずしもエンジン回転速度NEが略一定に維持されるようにする必要はなく、エンジン回転速度NEの変化が抑制されて連続的にエンジン回転速度NEが変化させられればばよい。このようにしても一応の効果は得られる。
【0181】
また、前述の実施例では差動状態判定手段84(図11のステップS3)は、動力分配機構16が差動状態とされているか否かを例えば図6に示す切換線図から車両状態に基づいて無段制御領域内であるか否かによって判定したが、切換制御手段50による変速機構10が有段制御領域内か或いは無段制御領域内であるかの判定に基づいて動力分配機構16が差動状態とされているか否かを判定してもよい。
【0182】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0183】
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0184】
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18或いは出力軸22に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18或いは出力軸22に連結されてもよい。
【0185】
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
【0186】
また、前述の実施例の変速機構10、70では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
【0187】
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0188】
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18或いは出力軸22に連結されていたが、自動変速部20、72内の回転部材に連結されていてもよい。
【0189】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20、72が介挿されていたが、例えば手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。
【0190】
また、前述の実施例では、自動変速部20、72は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、72が配設されてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20、72とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0191】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および伝達部材18に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0192】
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0193】
また、前述の実施例の切換装置46は、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えていたが、そのシフトレバー48に替えて、例えば押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションを切り換えられる装置等であってもよい。また、シフトレバー48が「M」ポジションへ操作されることにより、変速レンジが設定されるものであったが変速段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速変速段が変速段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20、72では変速段が切り換えられて変速が実行される。例えば、シフトレバー48が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、自動変速部20では第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかがシフトレバー48の操作に応じて設定される。
【0194】
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチ44に中立位置が設けられる場合にその中立位置に替えて、スイッチ44の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ44とは別に設けられてもよい。また、スイッチ44に替えて或いは加えて、手動操作に因らず運転者の音声に反応して少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられる装置や足の操作により切り換えられる装置等であってもよい。
【0195】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の実施例の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図4の電子制御装置の制御作動の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、変速機構の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図7】図7の破線はエンジン8の最適燃費率曲線であって燃費マップの一例である。また、無段変速機でのエンジン作動(破線)と有段変速機でのエンジン作動(一点鎖線)の違いを説明する図でもある。
【図8】無段制御領域と有段制御領域との境界線を有する予め記憶された関係を示す図であって、図6の破線に示す無段制御領域と有段制御領域との境界をマップ化するための概念図でもある。
【図9】有段式変速機におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度の変化の一例である。
【図10】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図11】図4の電子制御装置の制御作動すなわち自動変速部の変速の際に加速応答性を向上する制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部のロック状態(有段変速状態)において自動変速部の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【図13】図11のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、差動部の無段変速状態において自動変速部の3速→2速パワーオンダウンシフトが実行された場合での制御作動を示している。
【図14】本発明の他の実施例におけるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
【図15】図14の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
【図16】図14の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
【図17】切換装置としてのシーソー型スイッチであって変速状態を選択するためにユーザによって操作される変速状態手動選択装置の一例である。
【符号の説明】
【0197】
8:エンジン
10、70:変速機構(駆動装置)
11:差動部(無段変速部)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材
20、72:自動変速部(有段変速部)
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
52:ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)
M1:第1電動機
M2:第2電動機
C0:切換クラッチ(差動制限装置)
B0:切換ブレーキ(差動制限装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構と該伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部と、前記動力伝達経路の一部を構成する有段変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記差動機構に備えられて、該差動機構の差動作用を制限することにより前記無段変速部の電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限装置と、
前記有段変速部の変速中において、車両の駆動力を付与する駆動力アシストを実施するとき、前記無段変速部が電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされているときと、該無段変速部が電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とされているときとで、該駆動力アシストの方法を変更する電動機制御手段と
を、含むことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストの量を増加させるものである請求項1の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストを早期に開始させるものである請求項1または請求項2の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記有段変速部の出力軸には電動機が作動的に連結されており、
前記駆動力アシストは、該有段変速部の出力軸に作動敵に連結された電動機によって行われるものである請求項1乃至3のいずれかの車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記有段変速部の出力軸に作動的に連結された電動機は、前記第2電動機である請求項4の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項1】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構と該伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部と、前記動力伝達経路の一部を構成する有段変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記差動機構に備えられて、該差動機構の差動作用を制限することにより前記無段変速部の電気的な無段変速機としての作動を制限する差動制限装置と、
前記有段変速部の変速中において、車両の駆動力を付与する駆動力アシストを実施するとき、前記無段変速部が電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされているときと、該無段変速部が電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とされているときとで、該駆動力アシストの方法を変更する電動機制御手段と
を、含むことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストの量を増加させるものである請求項1の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記電動機制御手段は、前記無段変速部が非無段変速状態とされているときには無段変速状態とされているときに比較して、前記駆動力アシストを早期に開始させるものである請求項1または請求項2の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記有段変速部の出力軸には電動機が作動的に連結されており、
前記駆動力アシストは、該有段変速部の出力軸に作動敵に連結された電動機によって行われるものである請求項1乃至3のいずれかの車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記有段変速部の出力軸に作動的に連結された電動機は、前記第2電動機である請求項4の車両用駆動装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−327435(P2006−327435A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154749(P2005−154749)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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