説明

車両統合制御装置

【課題】 各制御ユニットの要求を適切に調停できる車両統合制御装置の提供。
【解決手段】 本発明による車両統合制御装置では、複数の制御ユニットのうちの特定のマネージャ制御ユニットが、乗員の要求又は第1の他の制御ユニット(P−DRM,DSS)からの要求に基づいた第1の物理量次元の制御目標値と、第2の他の制御ユニット(VDM)からの第1の物理量次元の要求値とを調停する第1の調停部と、第1の調停部で調停を経た第1の物理量次元の制御目標値を、第2の物理量次元の制御目標値に変換する変換部と、変換部で第2の物理量次元に変換された制御目標値と、T/M制御ユニットからの第2の物理量次元の要求値とを調停する第2の調停部と、第2の調停部で調停を経た制御目標値を、該制御目標値を実現すべきエンジン制御ユニットへと出力する出力部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される複数のアクチュエータを複数の制御ユニットにより統合的に制御する車両統合制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、階層構造に要素を構築してなる車両統合制御システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる車両統合制御システムでは、運転者の意図を所定の運転特性に変換する際に、階層レベルの少なくとも1つの調整要素が、その下の階層レベルの要素に、それぞれ高位の階層レベルから下位システムに要求される特性を供給していく。
【特許文献1】特開平5−85228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のような階層構造による車両統合制御システムにおける意思伝達方式は、高位の階層レベルから下位システムへと、ドライバの意思(制御目標)が、下位システムに要求される特性に応じて分配されながら伝達されていくいわゆるトップダウン方式と親和的である。しかしながら、かかる方式では、下位システムからの要求を上位側で適切に調整する調整部が存在しないため、下位システムに要求される特性に応じた適切な制御目標の分配がなされていない場合に、当該適切でない分配を補正することが困難となる。また、下位システムの仕様(機能や能力)が変更された場合、上位システムの分配方法を変更する必要性が生じ、かかる下位システムの仕様変更に機動的に対応することが困難である。
【0004】
そこで、本発明は、各制御ユニットの要求を適切に調停しつつ、各制御ユニットの機能や能力の変更に対しても機動的に対応することができる車両統合制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一局面によれば、車両に搭載される複数のアクチュエータを複数の制御ユニットにより統合的に制御する車両統合制御装置において、
複数の制御ユニットのうちの特定のマネージャ制御ユニットが、
乗員の要求又は第1の他の制御ユニットからの要求に基づいた制御目標値であって、第1の物理量次元で表現された制御目標値と、第2の他の制御ユニットからの第1の物理量次元で表現される要求値とを調停する第1の調停部と、
第1の調停部で調停を経た第1の物理量次元で表現された制御目標値を、第2の物理量次元で表現された制御目標値に変換する変換部と、
変換部で第2の物理量次元に変換された制御目標値と、第3の他の制御ユニットから第2の物理量次元で要求される要求値とを調停する第2の調停部と、
第2の調停部で調停を経た制御目標値を、該制御目標値を実現すべき第4の他の制御ユニットへと出力する出力部とを備える、ことを特徴とする車両統合制御装置が提供される。
【0006】
本局面において、第1の物理量次元で表現された制御目標値は、力の次元で表現された目標駆動力の値であり、第2の物理量次元で表現された要求値は、トルクの次元で表現されたエンジントルクの値であってよい。第2の他の制御ユニットからの要求値は、車両の動的挙動を安定化させるための動的安定化システムの要求に基づく力の次元で表現された要求値であってよい。第3の他の制御ユニットは、トランスミッションのアクチュエータを制御する制御ユニットであり、第4の他の制御ユニットは、エンジンのアクチュエータを制御する制御ユニットであってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、各制御ユニットの要求を適切に調停しつつ、各制御ユニットの機能や能力の変更に対しても機動的に対応することができる車両統合制御装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0009】
先ず、図1を参照して、本発明の車両統合制御装置が搭載されてよい車両の概要を説明する。
【0010】
この車両は、前後左右にそれぞれ車輪100を備える。図1において「FL」は左前輪、「FR」は右前輪、「RL」は左後輪、「RR」は左後輪をそれぞれ示す。
【0011】
この車両は、動力源としてエンジン140を備える。尚、駆動源は、エンジンに限定されず、電気モータのみやエンジンと電気モータとの組み合わせであってもよく、電気モータの動力源は、2次電池や燃料電池であってよい。
【0012】
エンジン140の運転状態は、運転者によるアクセルペダル200(車両の前後運動を制御するために運転者が操作する操作部材の一例である。)の操作量に応じて電気的に制御される。エンジン140の運転状態は、また、必要に応じて、運転者によるアクセルペダル200の操作とは無関係に自動的に制御される。
【0013】
このようなエンジン140の電気的な制御は、例えば、図示しないが、エンジン140の吸気マニホールド内に配置されるスロットルバルブの開度(即ち、スロットル開度)を電気的に制御することや、エンジン140の燃焼室に噴射される燃料の量を電気的に制御することや、バルブ開閉タイミングを調整するインテークカムシャフトの位相を電気的に制御することで実現することが可能である。
【0014】
この車両は、左右前輪が転動輪、左右後輪が駆動輪である後輪駆動式である。そのため、エンジン140の出力軸は、トルクコンバータ220、トランスミッション240、プロペラシャフト260及びデファレンシャル280と、各後輪と共に回転するドライブシャフト300とをそれらの順に介して各後輪に連結されている。尚、トルクコンバータ220、トランスミッション240、プロペラシャフト260及びデファレンシャル280は、左右後輪に共通な動力伝達要素である。尚、車両は、後輪駆動式である必要はなく、例えば、左右前輪が駆動輪、左右後輪が転動輪である前輪駆動式であっても、全部の車輪が駆動輪となる4WD式であってもよい。
【0015】
トランスミッション240は、図示しない自動変速機を備えている。この自動変速機は、エンジン140の回転速度をトランスミッション240のアウトプットシャフトの回転速度に変速する際の変速比を電気的に制御する。尚、自動変速機は、有段変速機であっても、無段階変速機(CVT)であってもよい。
【0016】
車両は、運転者により回転操作されるステアリングホイール440を備えている。このステアリングホイール440には、操舵反力付与装置480により、運転者による回転操作(以下、「操舵」ともいう。)に応じた反力が操舵反力として電気的に付与される。その操舵反力は、電気的に制御可能とされている。
【0017】
左右前輪の向き、即ち前輪舵角は、フロントステアリング装置500によって電気的に変化させられる。フロントステアリング装置500は、運転者によりステアリングホイール440が回転操作された角度、即ち操舵角に基づいて前輪操舵角を制御し、また、必要に応じて、その回転操作とは無関係に前輪操舵角を自動的に制御する。即ち、ステアリングホイール440と左右前輪とは機械的に絶縁されていてもよい。
【0018】
左右後輪の向き、即ち後輪舵角も、前輪舵角と同様に、リアステアリング装置520によって電気的に変化させられる。
【0019】
各車輪100には、その回転を抑制するために作動させられるブレーキ560が設けられている。各ブレーキ560は、運転者によるブレーキペダル580(車両の前後運動を制御するために運転者が操作する操作部材の一例である。)の操作量に応じて電気的に制御され、また、必要に応じて、自動的に各車輪100が個別に制御される。
【0020】
この車両においては、各車輪100は、各サスペンション620を介して車体(図示せず)に懸架されている。各サスペンション620の懸架特性は、個別に電気的に制御可能とされている。
【0021】
以上のように説明した各構成要素は、それを電気的に作動させるために作動させられる以下のアクチュエータを備えている。
(1)エンジン140を電気的に制御するためのアクチュエータ
(2)トランスミッション240を電気的に制御するためのアクチュエータ
(3)操舵反力付与装置480を電気的に制御するためのアクチュエータ
(4)フロントステアリング装置500を電気的に制御するためのアクチュエータ
(5)リアステアリング装置520を電気的に制御するためのアクチュエータ
(6)ブレーキ560を電気的に制御するためのアクチュエータ
(7)サスペンション620を電気的に制御するためのアクチュエータ。
【0022】
尚、これらアクチュエータは、代表的なものだけを列挙したものであり、車両の仕様によっては、これらのアクチュエータの何れかが欠けることもあり、或いは、その他のアクチュエータ(例えば、ステアリングホイール440の操舵量と転舵輪の転舵量との比(ステアリングレシオ)を電気的に制御するためのアクチュエータ、アクセルペダル200の反力を電気的に制御するためのアクチュエータ等)が付加されることもあり、従って、本発明は、特にアクチュエータの構成によって限定されることはない。
【0023】
図1に示すように、車両統合制御装置は、以上のように説明した各種アクチュエータに電気的に接続された状態で車両に搭載されている。車両統合制御装置は、図示しないバッテリを電力源として動作する。
【0024】
図2は、本実施例の車両統合制御装置の一実施例を示すシステム構成図である。
【0025】
尚、以下で登場する各マネージャ(及びモデル)は、通常的なECU(電子制御ユニット)と同様、マイクロコンピュータによって構成されており、例えば、制御プログラムを格納するROM、演算結果等を格納する読書き可能なRAM、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する装置を意味する。また、以下では、機能的に分けて各制御ユニットを例えばP−DRMやVDMなどと命名しているが、これらは必ずしも物理的に独立した構成である必要はなく、適切なソフトウェア構成により一体的に具現化されてよい。
【0026】
図2に示すように、駆動系システムの初段には、駆動系のドライバ意思抽出部として機能するマネージャ(以下、Power−Train Driver Model:P−DRMという。)が配置される。駆動系システムの初段には、P−DRMと並列的に、ドライバ運転補佐・代行システム(以下、Driver Support System:DSSという。)が配置される。
【0027】
P−DRMの前段には、アクセルセンサが設定される。アクセルセンサは、ドライバの意思が直接的に入力されるアクセルペダル200の操作量に応じた電気的信号を発生する。
【0028】
DSSの前段には、車輪速センサが設定される。車輪速センサは、車両の各車輪100に設定され、車輪100の所定回転角毎にパルス信号を出力する。
【0029】
P−DRMには、アクセルセンサからの信号と共に、車輪速センサからの信号が入力される。P−DRM内部の初段では、先ず、目標駆動力算出部にて、アクセルセンサ及び車輪速センサからそれぞれ入力される電気信号に基づくアクセル開度[%]及び車速No[prm]に応じた目標駆動力F1が算出される。目標駆動力F1は、例えば、先ず、アクセル開度[%]と車速[prm]とをパラメータとして、適切な3次元マップを用いて目標加速度G[m/s]を算出し、次いで、目標加速度G[m/s]を力の物理量次元[N]に変換して目標駆動力を導出し、最後に、当該目標駆動力を、走行抵抗[N]や道路勾配に基づく登坂勾配補償量[N] により補正することで導出されてよい。
【0030】
このようにして決定される目標駆動力F1[N]は、目標駆動力算出部から2つに分流した信号線により後段へと伝達される。以下、目標駆動力F1が分流して伝達される2つのルートを、それぞれ「エンジン制御系伝達ルート」と「T/M制御系伝達ルート」という。目標駆動力F1[N]は、それぞれのルートにおいて、図2に示すように、DSSからの要求がある場合は、DSSからの要求駆動力との調停処理を受ける。
【0031】
DSSは、カメラやレーダー等の周囲障害物情報、ナビゲーションシステムから得られる道路情報や周囲環境情報、ナビゲーションシステムのGPS測位装置から得られる自車位置情報、或いは、外部センタ施設との通信、車車間通信や路車間通信を介して得られる各種外部情報に基づいて、ドライバ意思に代わる適切な要求又はドライバ意思結果に対する適切な補正要求を行う。これら要求として典型的な例は、オートクルーズ制御やその類の自動又は半自動走行制御実施時にDSSから出される要求や、障害物回避等のための介入減速制御や操舵補助制御実施時にDSSから出される要求である。
【0032】
このようにして必要に応じて調停を経た目標駆動力F1[N]は、パワートレーンマネージャ(以下、Power−Train Manager:PTMという。)へと出力される。PTMは、駆動系の要求調和部として機能するマネージャである。
【0033】
PTMの初段では、P−DRMから上述の如く入力される目標駆動力F1[N]が、動的安定化システム系のマネージャ(以下、Vehicle Dynamics Manager:VDMという。)に送信(公開)される。VDMは、制動系のドライバ意思抽出部として機能するマネージャ(以下、Brake Driver Model:B−DRMという。)の後段に配置される
VDMは、車両運動調和部として機能するマネージャである。尚、車両の動的挙動を安定化させるシステムとしては、トラクションコントロールシステム(滑りやすい路面での発進や加速時に生じやすい駆動輪のムダな空転を抑制するシステム。)、滑りやすい路面に進入した時などの車両の横滑りを抑制するシステム、コーナリング時に安定限界に達した場合にスピンやコースアウトを防止すべく車体姿勢を安定させるシステム、4WDの左右後輪の駆動力差をアクティブに生成してヨーモーメントを発生させるシステムが代表例として挙げられる。
【0034】
尚、VDMの後段には、ブレーキ560のアクチュエータを駆動制御するブレーキ制御ユニットと並列的に、フロントステアリング装置500及びリアステアリング装置520のアクチュエータを駆動制御するステア制御ユニットや、サスペンション620のアクチュエータを駆動制御するサス制御ユニットが設定される。尚、B−DRM内部では、ブレーキセンサから入力される電気信号は、目標制動力算出部にて目標制動力に変換され、VDMを介して、ブレーキ制御ユニットへと出力される。尚、本明細書では、詳説しないが、目標制動力算出部にて算出された目標制動力は、以下で詳説する目標駆動力F1と同様又は類似する態様で、各種補正(調停)を受けながらブレーキ制御ユニットへと出力されることになる。
【0035】
VDMの駆動力補正部は、上述の如く主にドライバ意思に応じて一次的に決定された目標制動力F1に対して、車両の動的挙動を安定化させる観点から2次的な補正要求を行う。即ち、VDMの駆動力補正部は、公開される目標駆動力F1に対して、必要に応じて、補正要求を行う。この際、VDMの駆動力補正部は、好ましくは、目標駆動力F1に対して増減する補正量ΔFを要求するのではなく、目標駆動力F1に代わるべき目標駆動力F1の絶対量を要求する。以下、このようにして、目標駆動力F1に基づいて生成されるVDMからの絶対量による目標駆動力を、「目標駆動力F2」とする。
【0036】
目標駆動力F2は、図2に示すように、PTMに入力される。この際、目標駆動力F2は、図2に示すように、エンジン制御系伝達ルートとT/M制御系伝達ルートのそれぞれに入力され、当該入力部において、それぞれ、目標駆動力F1との調停を受ける。この調停では、好ましくは、車両の動的挙動を安定化させることを優先させる観点から、目標駆動力F2が目標駆動力F1に対して優先して選択される。或いは、2つの目標駆動力F2及び目標駆動力F1を適切に重み付けして最終的な目標駆動力を導出することとしてもよい。この際、同様の観点から、目標駆動力F2に対する重み付けが目標駆動力F1に対する重み付けよりも大きくなるようにする。このような調停を経て導出される目標駆動力を、「目標駆動力F3」とする。
【0037】
T/M制御系伝達ルートでは、調停を経た目標駆動力F3は、図2に示すように、スロットル開度Pa[%]に変換された後、目標ギア段設定部に入力される。目標ギア段設定部では、所与の変速線図(スロットル開度×車速Noの変速線図)に基づいて、最終的な目標ギア段が決定される。尚、目標駆動力F3から、スロットル開度Pa[%]に変換するのではなく、所与の変速線図(駆動力×車速Noの変速線図)に基づいて、最終的な目標ギア段が直接的に決定されてもよい。
【0038】
このようにしてPTM内部で決定された目標ギア段は、PTMの後段(下位側)に配置されたT/M制御ユニットへと出力される。T/M制御ユニットは、入力された目標ギア段を実現するようにトランスミッション240のアクチュエータを駆動制御する。
【0039】
エンジン制御系伝達ルートでは、調停を経た目標駆動力F3は、図2に示すように、F→Te変換部にて駆動力表現[N]からエンジントルク表現[N・m]に変換される。このようにして導出された目標エンジントルクTe1[N・m]は、エンジントルク調停部にて、T/M制御ユニットからPTMに入力される要求エンジントルク[N・m]との調停を受ける。このような調停を経て導出される目標エンジントルクを、「目標エンジントルクTe2」とする。尚、エンジントルク調停部での調停方法は、如何なる態様であってもよく、例えばT/M制御ユニット側からの要求エンジントルク[N・m]を優先させるものであってよい。
【0040】
目標エンジントルクTe2は、PTMの後段(下位側)に配置されたエンジン制御ユニットへと出力される。エンジン制御ユニット及びT/M制御ユニットは、PTMから入力される目標エンジントルクを実現するようにエンジン140のアクチュエータを駆動制御する。
【0041】
以上の通り本実施例では、P−DRMの目標駆動力算出部にて算出された目標駆動力F1は、各種補正(調停)を受けながらエンジン制御ユニット及びT/M制御ユニットへと出力され、これら制御ユニットによるエンジン140及びトランスミッション240のアクチュエータの駆動制御により、当該目標駆動力F1(調停等を受けた場合は目標駆動力F2,F3。)が実現されることになる。
【0042】
ところで、かかるシステムは、車種毎に車両の運動性能が異なる(それに伴いエンジン制御ユニット及びT/M制御ユニットの仕様(ソフトウェア構成)も異なる。)ことを考慮すると、車両の運動性能の相違・変更に対して、機動的に対応できるように構築されていることが望ましい。
【0043】
この点、本実施例では、システム上位側のP−DRMにて主にドライバの意思に応じて決定される目標駆動力F1は、システム中位側(PTM)で、車両の運動性能等の観点から各種補正(調停)を受ける。これにより、車両の運動性能が異なる場合でも、システム中位側での補正(調停)態様を変更するのみで対応可能であり(システム上位側(例えばP−DRM)に変更を加える必要が無い)、システム全体の汎用性が高まる。
【0044】
また、本実施例では、上述の如く、T/M制御ユニット側から要求エンジントルク[N・m]は、エンジン制御ユニット内で調停するのではなく、PTM側に設定されたエンジントルク調停部にて調停される。これにより、車両の運動性能(変速特性やCVTのような変速方式のようなトランスミッション240の仕様や、例えばディーゼルやガソリン、直噴、ポート噴射等のようなエンジン140の仕様)が異なる場合でも、エンジン制御ユニットの大部分のソフトウェア構成を流用することができ、システム全体の汎用性も高まる。
【0045】
これらの効果に加えて、特に強調すべきは、本実施例では、各調停部において、要求側の狙いに合わせた物理量次元で調停が行われている。即ち、VDMは、本来的に、駆動力を制御するシステムであり、従ってVDMからの要求及びその調停は、駆動力ベース(力の物理量次元)で行われことが望ましい。また、T/M制御ユニットは、本来的に、駆動トルクを制御するユニットであり、従ってT/M制御ユニットからの要求及びその調停は、エンジントルクベース(トルクの物理量次元)で行われることが望ましい。本実施例では、上述の如く、かかる望ましい要求及び調停が実現されているので、要求側の狙いに適合した適切な調停を実現することができると共に、調停側又は要求側で物理量次元をいちいち変える非効率(それに伴う通信ソフトウェア構成の修正)を効果的に防止できる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0047】
例えば、上述の実施例において、例えば機能的に近接するP−DRMとPTMと特定機能(例えば、P−DRM内の駆動力調停部)は、PTM側の機能として設定されてもよく、或いは、その逆があってもよい。
【0048】
また、上述の実施例では、電子スロットルを有するエンジン140を例示しているが、本発明は、電子スロットルを有さない原動機を動力源として用いる構成に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の駆動力制御装置が組み込まれる車両統合制御装置が搭載されてよい車両の上面図である。
【図2】本実施例の車両統合制御装置の一実施例を示すシステム構成図である。
【符号の説明】
【0050】
140 エンジン
200 アクセルペダル
240 トランスミッション
580 ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される複数のアクチュエータを複数の制御ユニットにより統合的に制御する車両統合制御装置において、
複数の制御ユニットのうちの特定のマネージャ制御ユニットが、
乗員の要求又は第1の他の制御ユニットからの要求に基づいた制御目標値であって、第1の物理量次元で表現された制御目標値と、第2の他の制御ユニットからの第1の物理量次元で表現される要求値とを調停する第1の調停部と、
第1の調停部で調停を経た第1の物理量次元で表現された制御目標値を、第2の物理量次元で表現された制御目標値に変換する変換部と、
変換部で第2の物理量次元に変換された制御目標値と、第3の他の制御ユニットから第2の物理量次元で要求される要求値とを調停する第2の調停部と、
第2の調停部で調停を経た制御目標値を、該制御目標値を実現すべき第4の他の制御ユニットへと出力する出力部とを備える、ことを特徴とする車両統合制御装置。
【請求項2】
第1の物理量次元で表現された制御目標値は、力の次元で表現された目標駆動力の値であり、第2の物理量次元で表現された要求値は、トルクの次元で表現されたエンジントルクの値である、請求項1に記載の車両統合制御装置。
【請求項3】
第2の他の制御ユニットからの要求値は、車両の動的挙動を安定化させるための動的安定化システムの要求に基づく力の次元で表現された要求値である、請求項1又は2に記載の車両統合制御装置。
【請求項4】
第3の他の制御ユニットは、トランスミッションのアクチュエータを制御する制御ユニットであり、第4の他の制御ユニットは、エンジンのアクチュエータを制御する制御ユニットである、請求項1〜3の何れかに記載の車両統合制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−297995(P2006−297995A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118381(P2005−118381)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】