説明

車両

【課題】車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる車両を提供する。
【解決手段】車両のメインECU3は、第1情報取得部4Aにより取得された第1情報から導出される第1位置の路面摩擦係数である第1摩擦係数μ1と、第2情報取得部4Bにより取得された第2情報から導出される第2位置の路面摩擦係数である第2摩擦係数μ2とから、車両の総駆動力の目標値を決定する。そして、総駆動力の目標値を満たし且つ第1摩擦係数μ1に対応したスリップ限界を超えないように、第1駆動力および第2駆動力の目標値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前輪または後輪の一方を第1駆動輪として該第1駆動輪をエンジンとモータとのいずれか一方または両方により駆動する第1駆動力と、残る他方を第2駆動輪として該第2駆動輪をモータにより駆動する第2駆動力とを制御する駆動力制御手段を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両では、下記特許文献1に示すように、第2駆動輪の駆動が必要か否かを予測し、モータによる第2駆動輪の駆動が必要であると予測される場合に、第2駆動輪を駆動する構成が知られている。ここで、第2駆動輪の駆動が必要と予測される場合としては、車両の発進、低μ路走行、スノーモード走行、坂道走行等であると判定される場合が該当する(下記特許文献1 段落[0052])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−127790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両では、第2駆動輪の駆動が必要と予測される場合には、既に車両が低μ路走行、スノーモード走行、坂道走行になっている。すなわち、予測ではなく、車両が低μ路走行、スノーモード走行、坂道走行になっている場合にこれを検知して、第2駆動輪を駆動させているに過ぎない。
【0005】
さらに路面の状態を検知するためには一定時間を要するため、第2駆動輪を駆動させる必要があるにも拘らず、第2駆動輪が駆動しない状態が一定時間続いてしまうという問題がある。
【0006】
以上の事情に鑑みて、本発明は、車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の車両は、
前輪または後輪の一方であってエンジンと第1モータとのいずれか一方または両方により駆動される第1駆動輪と、第1駆動輪以外の車輪であって第2モータにより駆動される第2駆動輪と、該第1駆動輪を駆動する第1駆動力と該第2駆動輪を駆動する第2駆動力とを制御する駆動力制御手段とを備える車両であって、
前記車両の進路上の第1位置の路面摩擦係数である第1摩擦係数を取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、車両の総駆動力が同一の場合に消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせの中から、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値を決定する駆動力配分決定手段と
を備え、
前記駆動力制御手段は、前記車両が前記第1位置に到達する前に、前記第1駆動力および前記第2駆動力を、前記駆動力配分決定手段により決定された前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値に変更することを特徴とする。
【0008】
第1発明の車両によれば、第1位置の第1摩擦係数に対応したスリップ限界を超えないように、第1駆動力および第2駆動力の目標値が決定される。さらに、車両の総駆動力が同一の場合に消費エネルギーが最小となる第1駆動力および第2駆動力の組み合わせの中から、第1駆動力および前記第2駆動力の目標値が決定される。そして、第1駆動力および第2駆動力を前以てこの目標値に変更することで、第1位置へ至る路面状態に変化がある場合にも、第1駆動力と第2駆動力とを前以て第1位置に対応したスリップが抑制される状態とすることができると共に、車両の消費エネルギーがスリップの抑制のために増大することを回避することができる。
【0009】
このように第1発明の車両によれば、車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる。
【0010】
第2発明の車両は、第1発明において、
少なくとも前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に基づいて前記車両の総駆動力の目標値を決定する総駆動力決定手段と
を備え、
前記駆動力配分決定手段は、第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、総駆動力決定手段により決定された総駆動力の目標値を満たし且つ消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせを、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値として決定することを特徴とする。
【0011】
第2発明の車両によれば、少なくとも第1位置の第1摩擦係数から車両の総駆動力の目標値を決定し、スリップ限界とならない範囲で、この総駆動力の目標値を満たし且つ消費エネルギーが最小となる第1駆動力および第2駆動力の組み合わせを、これらの目標値として決定する。これにより、第1位置へ至る路面状態に変化がある場合にも、予め車両の駆動力を路面摩擦係数の変化に対応したものとすることができ、車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる。
【0012】
第3発明の車両は、第1発明において、
前記車両の現在の位置である第2位置の路面摩擦係数である第2摩擦係数を取得する第2取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数と前記第2取得手段により取得された前記第2摩擦係数とから、該第1摩擦係数と該第2摩擦係数との偏差が所定の閾値を超える場合に、該第1摩擦係数に応じた前記車両の総駆動力の目標値を決定する総駆動力決定手段と
を備え、
前記駆動力配分決定手段は、第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、総駆動力決定手段により決定された総駆動力の目標値を満たし且つ消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせを、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値として決定することを特徴とする。
【0013】
第3発明の車両によれば、第1位置の第1摩擦係数と第2位置の第2摩擦係数とから、これらの偏差が所定の閾値を超えない限り車両の総駆動力の目標値が維持され、所定の閾値を超える場合に第1摩擦係数に応じて決定される。そのため、車両の総駆動力の目標値が変更されることによるドライバビリティの低下を抑制しつつ、摩擦係数の変化が大きく総駆動力の目標値を変更する必要がある場合には、予め車両の駆動力を路面摩擦係数の変化に対応したものとすることができ、車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる。
【0014】
第4発明の車両は、
前輪または後輪の一方であってエンジンと第1モータとのいずれか一方または両方により駆動される第1駆動輪と、第1駆動輪以外の車輪であって第2モータにより駆動される第2駆動輪と、該第1駆動輪を駆動する第1駆動力と該第2駆動輪を駆動する第2駆動力とを制御する駆動力制御手段とを備える車両であって、
前記車両の進路上の第1位置の路面摩擦係数である第1摩擦係数を取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、車両の総駆動力の目標値が最大となり且つ消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせを、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値として決定する駆動力配分決定手段と
を備え、
前記駆動力制御手段は、前記車両が前記第1位置に到達する前に、前記第1駆動力および前記第2駆動力を、前記駆動力配分決定手段により決定された前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値に変更することを特徴とする。
【0015】
第4発明の車両によれば、第1位置の第1摩擦係数に対応したスリップ限界を超えない範囲で、車両の総駆動力が最大となり且つ消費エネルギーが最小となるように、第1駆動力および第2駆動力の目標値が決定される。そして、第1駆動力および第2駆動力を前以てこの目標値に変更することで、第1位置へ至る路面状態に変化がある場合にも、第1駆動力と第2駆動力とを前以て第1位置に対応したスリップが抑制される状態とすることができると共に、車両の消費エネルギーがスリップの抑制のために増大することを抑制しつつ、予め車両の駆動力を路面摩擦係数の変化に対応したものとすることができ、車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる。
【0016】
第5発明の車両は、第1〜第4発明のいずれかにおいて、
前記第1取得手段は、前記車両に搭載されたナビゲーション装置の地図情報と、前記進路上における前記車両以外の他車両の走行履歴情報と、前記進路上に設置されて路面の状態を検出する路面検出装置の出力情報との一部または全部から前記第1摩擦係数を取得することを特徴とする。
【0017】
第5発明の車両によれば、車両に搭載されたナビゲーションの地図情報と、前記進路上における前記車両以外の他車両の走行履歴情報と、前記進路上に設置されて路面の状態を検出する路面検出装置の出力情報との一部または全部から、第1位置の第1摩擦係数を精度よく認識して取得することができる。かかる第1摩擦係数に基づいて、予め第1駆動力および第2駆動力をその目標値に変更することで、車両の進路上の路面変化に対応した適切な駆動力配分を前以て実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の車両の全体構成図。
【図2】本実施の形態におけるメインECUによる処理を示すフローチャート。
【図3】メインECUによる処理内容(駆動力を一定としてFF→4WD)を示す説明図。
【図4】メインECUによる処理内容(駆動力を低下させFF→4WD)を示す説明図。
【図5】メインECUによる他の処理内容(駆動力を低下させ4WD→4WD)を示す説明図。
【図6】メインECUによる他の処理内容(駆動力を一定としてRR→4WD)を示す説明図。
【図7】他の実施形態におけるメインECUによる処理内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本実施形態の車両は、例えば、四輪駆動型のハイブリッド車両であって、内燃機関であるエンジン1と、バッテリ2から供給される電力によって回転する第1モータ11および第2モータ12と、これらのエンジン1、第1モータ11、第2モータ12等を集中的に管理および制御するメインECU3(Electric Control Unit、本発明の駆動力制御手段に相当する)とを有する。メインECU3は、情報取得部4に接続された情報取得部4を介して取得された情報に基づいた処理を行う。
【0020】
補足すれば、メインECU3は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、CPU(Central Processing Unit)、入出力インターフェース、タイマ等からなるマイクロコンピュータ(図示せず)であり、ROMに記録されたプログラムおよびデータに従って処理を行う。
【0021】
また、ハイブリッド車両は、エンジン1および第1モータ11によって駆動される前輪6(本発明の第1駆動輪に相当する)と、第2モータ12によって駆動される後輪7(本発明の第2駆動輪に相当する)とを有する。
【0022】
エンジン1と第1モータ11は、共通の駆動軸に接続されており、ギア機構およびディファレンシャルギア等(いずれも図示省略)を介して前輪6を駆動する。第2モータ12は、同様にギア機構およびディファレンシャルギア等(いずれも図示省略)を介して後輪7を駆動する。
【0023】
さらに、ハイブリッド車両は、第1モータ11の電力制御を行う第1PDU(インバーター機能と電流制御を行うPower Drive Unit)21および第2モータ12の電力制御を行う第2PDU(Power Drive Unit)22を備え、第1モータ11および第2モータ12は、第1PDU21,第2PDU22の制御下に発電機としても機能する。すなわち、第1モータ11は、エンジン1または前輪6から駆動力を受けて発電または回生を行い、バッテリ2に充電することができ、第2モータ12は、後輪7から駆動力を受けて回生を行いバッテリ2に充電することができる。
【0024】
メインECU3は、目標駆動力算出部3A(本発明の総駆動力決定手段に相当する)と、前後輪配分比決定部3B(本発明の駆動力配分決定手段に相当する)と、駆動力変更管理部3Cとを備える。
【0025】
目標駆動力算出部3Aは、情報取得部4に接続された情報取得部4を介して取得された情報(路面情報)に基づいて、車両全体の目標駆動力(前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力の合算値)の上限閾値を設定すると共に、設定した上限閾値の範囲内で、図示しないアクセル開度センサおよび車速センサの出力値等に基づいて車両の目標駆動力(瞬時値)を逐次算出する。
【0026】
前後輪配分比決定部3Bは、情報取得部4に接続された情報取得部4を介して取得された情報(路面情報)に基づいて、目標駆動力算出部3Aで算出された目標駆動力を、前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力に配分する配分比を決定する。
【0027】
駆動力変更管理部3Cは、情報取得部4に接続された情報取得部4を介して取得された情報(路面情報)に基づいて、前後輪配分比決定部3Bにより決定された前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力の変更のタイミングを決定する。
【0028】
なお、メインECU3による処理の詳細は後述する。
【0029】
また、メインECU3は、エンジンECU30と、第1モータECU31と、第2モータECU32と、バッテリECU33とに接続され、エンジンECU30によりエンジン1の制御が実行され、バッテリECU33によりバッテリ2の充放電の制御が実行される。また、第1モータECU31により第1PDU21を介して第1モータ11が制御され、第2モータECU32により第2PDU22を介して第2モータ12が制御される。
【0030】
情報取得部4は、第1情報取得部4A(本発明の第1取得手段に相当する)と、第2情報取得部4B(本発明の第2取得手段に相当する)とを備える。
【0031】
第1情報取得部4Aは、車両の進路上の第1位置に関する第1情報を取得する。ここで第1情報は、第1位置の路面摩擦係数である第1摩擦係数μ1またはこれを導出できる情報である。
【0032】
第1情報としては、車外装置により第1位置の路面状態を計測した計測値等が該当する。車外装置としては、自車両の進路上で先を行く他車両が備える路面摩擦係数演算部、他車両から提供された情報(第1摩擦係数μ1)が蓄積された情報サーバ、ビーコン等の情報発信手段等が該当する。
【0033】
また、第1情報としては、他車両の路面摩擦係数演算部の出力値(第1摩擦係数μ1)、情報サーバから取得可能な情報であって他車両により提供された路面情報(第1摩擦係数μ1)、ビーコン等の情報発信手段から取得可能な進路上の路面状態に関する情報(例えば、路面が凍結した状態,水に濡れた状態,乾燥した状態等の情報)が該当する。
【0034】
次に、第2情報取得部4Bは、車両の現在の走行路面である第2位置に関する第2情報を取得する。ここで第2情報は、第2位置の路面摩擦係数である第2摩擦係数μ2またはこれを導出できる情報である。
【0035】
本実施形態、第2情報として、自車両が備える第2摩擦係数μ2を推定する種々の路面摩擦係数演算部の出力値(第2摩擦係数μ2)を取得する。
【0036】
なお、路面摩擦係数演算部の構成については、本願出願人による先行技術文献(特開2009−274582号公報 段落[0019])に説明がなされているためここでの詳細な説明を省略するが、路面摩擦係数演算部の処理の概要は、前輪6,6および後輪7,7の速度VおよびブレーキトルクTをそれぞれ図示しない車輪速センサおよびブレーキトルクセンサで検出し、下式(1)の関係式から第2摩擦係数μ2を算出する。
【0037】
μ1=[T+(I×(dw/dt))/R]/W
ここで、Iは車輪慣性モーメントであり、Rは車輪半径であり、wは車輪回転速度であり、Wは車輪の接地荷重であり、V=R・wの関係が成り立つ。
【0038】
次に、図2に示すフローチャートを参照して、メインECU3による処理の詳細を説明する。
【0039】
まず、メインECU3は、情報取得部4の第2情報取得部4Bを介して、自車両が現在走行中の第2位置の摩擦係数である第2摩擦係数μ2を取得する(図2/STEP11)。
【0040】
次いで、メインECU3は、情報取得部4の第1情報取得部4Aを介して、自車両の進路上の路面である第1位置の路面情報としての第1情報が取得できたか否かを判定する(図2/STEP12)。
【0041】
そして、メインECU3は、第1情報が取得できるまでこの判定を繰り返し(図2/STEP12でNO)、第1情報が取得できたタイミングで(図2/STEP12でYES)、取得した第1情報から第1位置の摩擦係数である第1摩擦係数μ1を導出する。
【0042】
ここで、第1摩擦係数μ1の導出は、第1情報自体に第1摩擦係数μ1が包含されている場合には、この包含されている第1摩擦係数μ1をそのまま用いる。例えば、第1情報として、他車両により提供された第1摩擦係数μ1が含まれる場合に、この第1摩擦係数μ1をそのまま用いる。
【0043】
一方、第1摩擦係数μ1が含まれていない場合には、第1情報から第1摩擦係数μ1を推定する。例えば、第1情報が、ビーコン等の情報発信手段から取得可能な進路上の路面状態情報(例えば、路面が凍結した状態,水に濡れた状態,乾燥した状態等)である場合には、路面状態情報から対応する第1摩擦係数μ1を、予めメモリ等に記憶されたマップ、テーブル、関係式等(以下マップ等という)を参照することで推定する。
【0044】
なお、第1情報として取得する情報は、自車両の進路上の路面すべてについて取得してもよいが、図示しないナビゲーション装置等の地図情報を基に取得する範囲を自車両との距離に応じて限定(例えば、自車両の前方5kmの範囲など限定)されることが好ましい。これにより、現在から離れた進路上の第1位置の第1摩擦係数μ1に基づいて、前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力が変更されることを回避することができる。
【0045】
次いで、メインECU3は、STEP11で取得した第2摩擦係数μ2と、STEP13で導出した第1摩擦係数μ1との偏差Δμを算出する(図2/STEP14)。
【0046】
次に、メインECU3は、STEP14で算出した偏差Δμの大きさ|Δμ|が予め設定された所定の閾値以上となっているか否かに基づいて、前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力の変更が必要であるか否かを判定する(図2/STEP15)。
【0047】
例えば、第2位置のB地点の第2摩擦係数μ2が乾燥したアスファルト路面であり、第1位置のA地点の第1摩擦係数μ1が積雪路である場合のように、路面摩擦係数が高μ路から低μ路に変化する場合(μ1<<μ2の場合)、メインECU3は、|Δμ|=|μ1−μ2|が閾値以上となることから、前輪6,6の第1駆動力と、後輪7,7の第2駆動力(通常、乾燥したアスファルト路面では0)との駆動力を変更する必要があると判定する。
【0048】
そして、メインECU3は、駆動力を変更する必要がないと判定した場合には(図2/STEP15でNO)、一連の処理を終了する。一方、メインECU3は、駆動力を変更する必要があると判定した場合には(図2/STEP15でYES)、目標駆動力算出部3Aが、第2摩擦係数μ2および第1摩擦係数μ1から目標駆動力の上限閾値を設定する(図2/STEP16)。
【0049】
具体的には、目標駆動力の上限閾値は、(1)第2摩擦係数μ2および第1摩擦係数μ1の大小関係と、(2)第1摩擦係数μ1とから決定される。すなわち、(1)第2摩擦係数μ2および第1摩擦係数μ1の偏差の大きさ|Δμ|が、所定の閾値を超える場合に、目標駆動力の上限閾値を変更する必要があると判断して、(2)第1摩擦係数μ1と目標駆動力の上限閾値を定めたマップ等を参照することにより、第1摩擦係数μ1に対応した目標駆動力の上限閾値を決定する。
【0050】
ここで、第1摩擦係数μ1のみならず、第2摩擦係数μ2に基づいて、目標駆動力の上限閾値を決定するのは、第1摩擦係数μ1のみで、目標駆動力の上限閾値を決定した場合には、取得した第1摩擦係数μ1の値に応じて、上限閾値が頻繁に変動するが、第2摩擦係数μ2を考慮することで、可能な限り現在の目標駆動力の上限閾値を維持させることができ、目標駆動力の上限閾値の変更に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0051】
なお、簡易的には、第1摩擦係数μ1と上限閾値との関係を規定したマップ等により目標駆動力の上限閾値を決定するようにしてもよい。
【0052】
次いで、メインECU3の前後輪配分比決定部3Bは、第1摩擦係数μ1に対応した前輪6,6の第1駆動力と、後輪7,7の第2駆動力との駆動力配分比を決定する(図2/STEP17、STEP18)。
【0053】
まず、前後輪配分比決定部3Bは、目標駆動力の上限閾値と、前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力の駆動力配分比との関係を示すマップを参照して、STEP16で決定された目標駆動力の上限閾値に対応したエコ優先配分比を探索する。
【0054】
具体的に、前後輪配分比決定部3Bは、図3(a)に示すように、前輪6,6の第1駆動力を縦軸、後輪7,7の第2駆動力を横軸とし、原点からの距離を目標駆動力の上限閾値とするマップを参照する。
【0055】
図3(a)は、路面摩擦の変化があるが、目標駆動力の上限閾値を変更することなく、駆動力配分比をエコ優先配分比に変更する場合、例えば、第2位置のドライ路面から第1位置のウエット路面に路面状態が変化する場合の駆動力配分比を決定するマップを示している。
【0056】
図3(a)において、原点から等距離の位置を示す仮想線は、目標駆動力の上限閾値が一定のラインを示している。また、実線は、第1摩擦係数μ1に対応した車両の重量配分比(接地荷重比)から規定される理想の駆動力配分比を示しており、破線は、第1摩擦係数μ1に対応したスリップ限界の駆動力配分比を示している。すなわち、2つのスリップ限界を示す破線で挟まれた範囲では、車両はスリップ限界を超えることなく、その外側ではスリップ限界を超えて車両がスリップする可能性があることを示している。
【0057】
前後輪配分比決定部3Bは、図3(a)において、第2位置の駆動力配分比Bから、STEP16で決定された目標駆動力の上限閾値(ここでは、一定)に対応したスリップ限界の駆動力配分比Aをエコ優先配分比として探索する。
【0058】
ここで、スリップ限界の駆動力配分比Aは、重量配分比から規定される理想配分比Cに比して、前輪6,6の第1駆動力の割合が大きい点で車両の消費エネルギーを低減させることができる。
【0059】
次いで、前後輪配分比決定部3Bは、STEP17で探索したエコ優先配分比に基づいて、前輪6,6の第1駆動力と、後輪7,7の第2駆動力との駆動力配分比を決定する(図2/STEP18)。
【0060】
前後輪配分比決定部3Bは、エコ優先配分比をそのまま第1駆動力と第2駆動力との駆動力配分比としてもよいが、スリップ判定を行った上で、駆動力配分比を決定することが望ましい。
【0061】
スリップ判定は、第1位置の第1摩擦係数μ1から規定される各輪の上限駆動力を、エコ優先配分比からより求められる前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力が上回らないことを判定することにより行われる。
【0062】
なお、スリップ判定の結果、各輪の上限駆動力を、エコ優先配分比からより求められる前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力が上回っている場合には、エコ優先配分比を重量配分比から規定される理想配分比C側に補正する処理または目標駆動力の上限閾値を低下させる補正処理を施した上で、再度、スリップ判定を行う。
【0063】
そして、エコ優先配分比からより求められる前輪6,6の第1駆動力および後輪7,7の第2駆動力が、各輪の上限駆動力を上回らない場合には、そのエコ優先配分比を、第1駆動力および第2駆動力の駆動力配分比として決定する。
【0064】
次いで、駆動力変更管理部3Cは、駆動力の変更タイミングを決定する(図2/STEP19)。
【0065】
具体的に、駆動力変更管理部3Cは、図示しないナビゲーション装置の地図情報から算出される第2位置から第1位置までの距離を車両の移動速度で乗算することにより、第1位置の到達予測時刻を算出し、第1位置到達予測時刻の前に第1駆動力と第2駆動力の駆動力配分比が変更されるようにタイミング(変更開始タイミングおよび変更終了タイミング)を決定する。
【0066】
駆動力変更管理部3Cによる変更タイミングのタイムチャートを、模式的に図3(b)に示す。図3(b)では、現在の駆動力配分比Bから、第1位置到達予測時刻より前にSTEP18で決定した駆動力配分比Aへの変更が完了するように、変更の開始および終了が決定される。
【0067】
以上が、メインECU3による処理の詳細であり、このようにして決定されたSTEP18の駆動力配分比に、STEP19の変更タイミングで変更することで、第2位置から第1位置へ至る路面状態に変化がある場合にも、予め車両の目標駆動力を路面摩擦係数の変化に対応したものとすることができると共に、第1駆動力と第2駆動力とを前以て第1位置に対応したスリップが抑制される状態とすることができる。さらに、第1駆動力と第2駆動力とをスリップ限界またはこの近傍とすることで、スリップの抑制と車両の消費エネルギーの最小化を同時に実現することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、車両として、第1モータ11および第2モータ12を備える車両(電動4WD)を例に説明したが、当該電源システムが搭載される車両はこれに限定されるものでなく、バッテリ2から供給された電力により車両を推進させるものであれば、シリーズ型ハイブリッド車両やパラレル型ハイブリッド車両のほか、蓄電手段を備える燃料電池車両や電気自動車等であってもよい。さらに、本実施形態では、前輪6,6を第1駆動輪とする場合について説明したが、後輪7,7を第1駆動輪として、第1モータ11およびエンジン1により駆動し、前輪6,6を第2駆動輪として、第2モータ12により駆動するようにしてもよい。
【0069】
また、本実施形態において、第1位置の第1摩擦係数μ1および第2位置の第2摩擦係数μ2は、その傾斜勾配に応じて補正されるようにしてもよい。具体的には、車両が備えるナビゲーション装置の地図情報に高低差情報を付加しておき、第1位置および第2位置に傾斜勾配がある場合には、傾斜勾配に応じた補正量を加算または減算するようにしてもよい。さらに、傾斜勾配が上り勾配であるか、下り勾配であるかに応じて補正量を変更するようにしてもよい。例えば、路面摩擦係数が同じでも、下り勾配の場合には後輪7,7側の軸重量の低下により限界駆動力が小さくなることに対応させることができ、車両の進路上の実質的な路面変化に対応させて、適切な駆動力配分比に前以て変更することができる。
【0070】
さらに、本実施形態では、目標駆動力の上限閾値を一定して、駆動力配分比を変更する場合(図3)について説明したが、これに限定されるものではなく、図4(a)に示すように、目標駆動力の上限閾値を制限しつつ、エコ優先配分比を探索して、駆動力配分比を変更するようにしてもよい。
【0071】
具体的に図4(a)では、第2位置が高μ路(ドライ路面)でスリップ限界の制限を受けず、前輪6,6の第1駆動力のみで走行している状態Bから、進路上の第1位置が低μ路(積雪路)で目標駆動力の上限閾値が制限される場合を示している。この場合、制限された目標駆動力の上限閾値(図2/STEP16)に対応したスリップ限界の駆動力配分比Aをエコ優先配分比として探索する。スリップ限界の駆動力配分比Aは、重量配分比から規定される理想配分比Cに比して、前輪6,6の第1駆動力の割合が大きい点で車両の消費エネルギーを低減させることができる点は、上記実施形態と同じである。
【0072】
なお、この場合の駆動力変更のタイムチャートを、模式的に図4(b)に示す。図4(b)では、上記実施形態と同様に、現在の駆動力配分比Bから、第1位置到達予測時刻より前にSTEP18で決定した駆動力配分比Aへの変更が完了するように、変更の開始および終了が決定される。
【0073】
また、本実施形態では、第2位置(現時点)では、スリップ限界により駆動力配分比が制限されていない場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図5(a)に示すように、第2位置で既にスリップ限界による駆動力配分比が制限されている状態から、目標駆動力の上限閾値を制限しつつ、エコ優先配分比を探索して、駆動力配分比を変更するようにしてもよい。
【0074】
具体的に図5(a)では、第2位置が低μ路(ウエット路面)でスリップ限界の制限を受ける状態から、進路上の第1位置がさらに低μ路(積雪路)で目標駆動力の上限閾値が制限される場合を示している。この場合、制限された目標駆動力の上限閾値(図2/STEP16)に対応したスリップ限界の駆動力配分比Aをエコ優先配分比として探索する。スリップ限界の駆動力配分比Aは、重量配分比から規定される理想配分比Cに比して、前輪6,6の第1駆動力の割合が大きい点で車両の消費エネルギーを低減させることができる点は、上記実施形態と同じである。
【0075】
なお、この場合の駆動力変更のタイムチャートを、模式的に図5(b)に示す。図5(b)では、上記実施形態と同様に、現在の駆動力配分比Bから、第1位置到達予測時刻より前にSTEP18で決定した駆動力配分比Aへの変更が完了するように、変更の開始および終了が決定される。
【0076】
さらに、本実施形態では、目標駆動力の上限閾値を一定して、駆動力配分比を第1駆動力のみから第1および第2駆動力の組合せへ変更する場合(図3)について説明したが、これに限定されるものではなく、図6(a)に示すように、後輪7,7のみを駆動する状態から(例えば、後輪7,7が第1駆動輪である場合)、これに加えて前輪6,6を駆動させるようにしてもよい。
【0077】
具体的に図6(a)では、第2位置がドライ路面でスリップ限界の制限を受けない状態から、進路上の第1位置がウエット路面で目標駆動力の上限閾値を受けないが、駆動力配分比を変更する必要がある場合を示している。この場合、同じ目標駆動力の上限閾値でスリップ限界の駆動力配分比Aをエコ優先配分比として探索する。スリップ限界の駆動力配分比Aは、重量配分比から規定される理想配分比Cに比して、前輪6,6の第1駆動力の割合が大きい点で車両の消費エネルギーを低減させることができる点は、上記実施形態と同じである。
【0078】
なお、この場合の駆動力変更のタイムチャートを、模式的に図6(b)に示す。図6(b)では、上記実施形態と同様に、現在の駆動力配分比Bから、第1位置到達予測時刻より前にSTEP18で決定した駆動力配分比Aへの変更が完了するように、変更の開始および終了が決定される。
【0079】
また、本実施形態では、エコ優先の駆動力配分比を探索した後(図2/STEP17)、スリップ判定を行って駆動力配分比を決定しているが(図2/STEP18)、これに限定されるものではなく、図7に示すように、第1位置の第1摩擦係数μ1から規定される各輪の上限駆動力を考慮したスリップ限界を予め設定しておき、この範囲内で、総駆動力が最大となる点をエコ優先配分比として抽出するようにしてもよい。
【0080】
図7において、破線は、第1摩擦係数がμ11、μ12の場合であり、実線は、第1摩擦係数μ13の場合を示している。この場合、μ11>μ12>μ13の関係であり、第1摩擦係数が小さいほど、そのスリップ限界を超えない範囲は小さくなる。そして、第1摩擦係数に対応したスリップ限界の範囲内で、総駆動力が最大となる点をエコ優先配分比として抽出することで、スリップ判定を省略して、このエコ優先配分比をそのまま駆動力配分比とすることができる(図2/STEP18)。
【符号の説明】
【0081】
1…エンジン、2…バッテリ、3…メインECU(駆動力制御手段)、3A…目標駆動力算出部(総駆動力決定手段)、3B…前後輪配分比決定部(駆動力配分決定手段)、3C…駆動力変更管理部、4…情報取得部、4A…第1情報取得部(第1取得手段)、4B…第2情報取得部(第2取得手段)、6…前輪(第1駆動輪)、7…後輪(第2駆動輪)、11…第1モータ、12…第2モータ、21…第1PDU、22…第2PDU、30…エンジンECU、31…第1モータECU、32…第2モータEUC、33…バッテリECU。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪または後輪の一方であってエンジンと第1モータとのいずれか一方または両方により駆動される第1駆動輪と、第1駆動輪以外の車輪であって第2モータにより駆動される第2駆動輪と、該第1駆動輪を駆動する第1駆動力と該第2駆動輪を駆動する第2駆動力とを制御する駆動力制御手段とを備える車両であって、
前記車両の進路上の第1位置の路面摩擦係数である第1摩擦係数を取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、車両の総駆動力が同一の場合に消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせの中から、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値を決定する駆動力配分決定手段と
を備え、
前記駆動力制御手段は、前記車両が前記第1位置に到達する前に、前記第1駆動力および前記第2駆動力を、前記駆動力配分決定手段により決定された前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値に変更することを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1記載の車両において、
少なくとも前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に基づいて前記車両の総駆動力の目標値を決定する総駆動力決定手段と
を備え、
前記駆動力配分決定手段は、第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、総駆動力決定手段により決定された総駆動力の目標値を満たし且つ消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせを、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値として決定することを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項1記載の車両において、
前記車両の現在の位置である第2位置の路面摩擦係数である第2摩擦係数を取得する第2取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数と前記第2取得手段により取得された前記第2摩擦係数とから、該第1摩擦係数と該第2摩擦係数との偏差が所定の閾値を超える場合に、該第1摩擦係数に応じた前記車両の総駆動力の目標値を決定する総駆動力決定手段と
を備え、
前記駆動力配分決定手段は、第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、総駆動力決定手段により決定された総駆動力の目標値を満たし且つ消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせを、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値として決定することを特徴とする車両。
【請求項4】
前輪または後輪の一方であってエンジンと第1モータとのいずれか一方または両方により駆動される第1駆動輪と、第1駆動輪以外の車輪であって第2モータにより駆動される第2駆動輪と、該第1駆動輪を駆動する第1駆動力と該第2駆動輪を駆動する第2駆動力とを制御する駆動力制御手段とを備える車両であって、
前記車両の進路上の第1位置の路面摩擦係数である第1摩擦係数を取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段により取得された前記第1摩擦係数に対応したスリップ限界とならない範囲で、車両の総駆動力の目標値が最大となり且つ消費エネルギーが最小となる前記第1駆動力および前記第2駆動力の組み合わせを、前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値として決定する駆動力配分決定手段と
を備え、
前記駆動力制御手段は、前記車両が前記第1位置に到達する前に、前記第1駆動力および前記第2駆動力を、前記駆動力配分決定手段により決定された前記第1駆動力および前記第2駆動力の目標値に変更することを特徴とする車両。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか1項記載の車両において、
前記第1取得手段は、前記車両に搭載されたナビゲーション装置の地図情報と、前記進路上における前記車両以外の他車両の走行履歴情報と、前記進路上に設置されて路面の状態を検出する路面検出装置の出力情報との一部または全部から前記第1摩擦係数を取得することを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−230542(P2011−230542A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100002(P2010−100002)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】