説明

車載内燃機関の制御装置

【課題】燃料カット処理に際し車両回転振動系の共振現象に起因する車両振動の発生を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関10の制御装置60は、燃料カット処理に際し、全気筒運転状態及び全気筒休止状態のうち一方から燃料供給気筒数を徐々に変化させて他方にまで移行させる。制御装置60は、内燃機関10から変速機20を介して駆動輪50に至る車両回転振動系の振動振幅が小さくなるように、その移行に要する過渡期間を変速機20の変速比に基づいて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関で発生したトルクを変速機を介して駆動輪に伝達する車両に搭載されて燃料カット処理を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を搭載する車両では、車両減速時に所定の実行条件が成立すると、内燃機関の各気筒に対する燃料供給を停止する燃料カット処理が実行される。このように燃料カット処理を通じて各気筒に対する燃料供給が一時的に停止されることにより燃費の向上が図られるようになる。そして、燃料カット処理の実行中に機関回転速度が低下して所定の復帰回転速度に達する或いはアクセル操作がなされる等、所定の復帰条件が成立すると、燃料カット処理が停止され、再び各気筒に対する通常の燃料供給が開始されるようになる。
【0003】
ここで、内燃機関を駆動源とする車両では、同内燃機関から変速機を介して駆動輪に至る各車両部材によって回転振動系(以下、「車両回転振動系」と称する)が構成されることとなり、この車両回転振動系にはその外力として内燃機関で発生するトルクが入力される。そして、この車両回転振動系の振動を低減するため、一般に、車両では内燃機関を制振性能の高いマウントを用いて懸架するといった構成が採用されている。例えば、特許文献1には、このようなマウントの一例として、その振動特性を内燃機関の運転気筒数、即ち燃料供給気筒数に応じて変更するようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7―217461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料カット処理に際し、全気筒に対して燃料を供給する状態(以下、「全気筒運転状態」と称する)と全気筒について燃料の供給を停止する状態(以下、「全気筒休止状態と称する)との間で燃料供給状態が変化すると、内燃機関のトルクは全気筒運転状態に対応した値と全気筒休止状態に対応した値(「0」)との間でステップ状に変化する。そしてこのように急激に変化するトルクが車両回転振動系に入力される結果、車両回転振動系には共振現象が発生し、更にこれに起因して、一般に「しゃくり」と称される車両の前後振動や、マウントに懸架された内燃機関の姿勢が急激に変化することに伴う車両の上下振動や左右振動、或いはその複合振動の発生を招くこととなる。
【0006】
尚、特許文献1に記載されるように、マウントの振動特性を燃料供給気筒数に応じて変更することにより、こうした車両振動の抑制を図ることはできる。しかしながら、同特許文献1に記載されるものは、厳密には燃料供給気筒数が変更されてからある程度の時間が経過した定常時における車両振動の発生について抑制効果を発揮するものであり、燃料供給気筒数の変更に伴って内燃機関のトルクが変化することに起因する過渡的な車両振動についてはこれを効果的に抑制することができない。
【0007】
上述したような実情に鑑み、この発明の技術課題は、内燃機関の制御装置にあって、燃料カット処理に際し車両回転振動系の共振現象に起因する車両振動の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術課題を解決すべく、この発明では、燃料カット処理に際し、全気筒運転状態と全気筒休止状態との間の過渡期間に燃料供給気筒数を徐々に変化させるようにしている。このため、燃料カット処理を開始するときであれば、内燃機関から変速機を介して駆動輪に至る車両回転振動系に対して内燃機関から入力されるトルクの低下が緩慢なものとなる。また一方、燃料カット処理の実行中にこれを中止して通常の燃料供給状態に復帰するときであれば、上記トルクの増加が緩慢なものとなる。そしてこのように、過渡期間において内燃機関に発生するトルクの変化を緩慢なものとすることにより、「しゃくり」のような車両の前後振動や、マウントに懸架された内燃機関の姿勢が急激に変化することに伴う車両の上下振動や左右振動、或いはそれらの複合振動の発生を抑制することができる。
【0009】
ところで、このようにトルクの変化を緩慢なものとするうえでは上述した過渡期間を長くすることが一般には好ましいが、過渡期間を過度に長くした場合には次のような不都合が生じる。即ち、全気筒運転状態から全気筒休止状態に至る過渡期間を長くした場合には、燃料供給気筒数は減少するものの、燃料供給期間は長くなるため、結局は燃費の悪化を招くこととなる。また、全気筒休止状態から全気筒運転状態に至る過渡期間を長くした場合には、燃料カット処理を中止して全気筒運転状態に復帰する時期が遅れ、機関回転速度がアイドル回転速度を大きく下回ってストールの発生を招いたり、車両加速要求時であればその加速性能の低下を招いたりすることとなる。
【0010】
こうした背反事項の存在に鑑み、この発明では、上述した過渡期間を変速機の変速比に基づいて設定するようにしている。このため、過渡期間は車両回転振動系の応答特性を考慮して設定されることとなる。即ち、車両回転振動系の固有振動数(一次固有振動数f1、二次固有振動数f2、三次固有振動数f3、…)は変速機の変速比に応じて異なるものとなるが、この発明ではこれに応じて過渡期間が設定されるため、内燃機関に発生するトルクの変化態様、換言すれば車両回転振動系に対する入力の変化態様を同車両回転振動系における共振現象の発生を抑制するうえで好適なものに設定することができる。従って、上述したような過渡期間が過度に長くなることに起因する不都合を極力回避しつつも、燃料カット処理を通じて全気筒休止状態に移行する場合や燃料カット処理を中止して全気筒運転状態に復帰する場合における車両振動の発生を好適に抑制することができるようになる。
【0011】
尚、上述した過渡期間の設定方法は、

(イ)燃料カット処理を開始すべく全気筒運転状態から全気筒休止状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に減少させる場合
(ロ)燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増大させる場合

のいずれか一方の場合にのみ適用する他、(イ)及び(ロ)の双方の場合にそれぞれ適用することもできる。そしてこの場合、過渡期間は上記(イ)に対応する期間と上記(ロ)に対応する期間との二つが存在することとなるが、それら期間は必ずしも同一の長さでなくてもよい。例えば、上記(イ)の場合には車両振動の抑制を優先する一方、上記(ロ)の場合には車両の加速性能を優先するために、上記(ロ)に対応する期間を上記(イ)に対応する期間よりも短く設定することもできる。
【0012】
特に上記(イ)の場合、即ち全気筒運転状態から全気筒休止状態に至る過渡期間において燃料供給気筒数を徐々に減少させつつ、更にその過渡期間を変速機の変速比に基づいて設定する構成を採用した場合には、過渡期間が過度に長くなることに起因する燃費の悪化を抑制することができる。
【0013】
一方、上記(ロ)の場合、即ち全気筒休止状態から全気筒運転状態に至る過渡期間において、燃料供給気筒数を徐々に増大させるようにし、更にその過渡期間を変速機の変速比に基づいて設定する構成を採用した場合には、過渡期間が不必要に長くなることに起因するストールの発生や車両加速性能の悪化を抑制することができることとなる。
【0014】
ところで、全気筒運転状態と全気筒休止状態との間の過渡期間において燃料供給気筒数を徐々に変化させることで内燃機関に発生するトルクの変化を緩慢なものとすることができる点については上述した通りであるが、これには以下のような制約が存在する。即ち、全気筒運転状態で内燃機関に発生するトルクの値を「Ns」とし、気筒数を「#n」としたとき、燃料供給気筒数を徐々に変化させて内燃機関のトルクを上記値Nsと全気筒休止状態におけるトルクの値、すなわち「0」との間で変化させる場合、トルクの最小変化量は「Ns/#n」となり、これを下回る量をもってトルクを徐変させることはできない。従って、例えば内燃機関の気筒数#nが少なく、しかも上記トルクの値Nsが大きい場合は、このトルクの最小変化量Ns/#nが必然的に大きなものとなる結果、車両回転振動系の振動抑制効果が十分に発揮できないといった懸念がある。
【0015】
そこで、例えば燃料カット処理の実行に伴って全気筒運転状態から全気筒休止状態にまで移行させる場合には、その燃料カット処理の実行に先立ち、点火時期を機関負荷及び機関回転速度に基づき設定される基準点火時期よりも遅角させておくとともに過渡期間中はその遅角した状態に保持することにより、内燃機関に発生するトルクを低下させることが望ましい。こうした構成を採用すれば、燃料カット処理が開始される直前のトルクの値Nsを予め低下させておくことができる。従って、上述したトルクの最小変化量Ns/#nを小さくすることができ、燃料供給気筒数を徐々に減少させることによる車両回転振動系の振動抑制効果を好適に発揮することができるようになる。
【0016】
また一方、燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく、全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増大させる場合についても同様の構成が適用できる。即ち、点火時期を機関負荷及び機関回転速度に基づき設定される基準点火時期よりも予め遅角させた状態で燃料供給気筒数を徐々に増大させ、全気筒運転状態に移行した後に同点火時期を上記基準点火時期まで徐々に進角させるようにする。こうした構成を採用した場合でも、全気筒休止状態から全気筒運転状態に燃料供給状態を移行した直後のトルクの値Neを低下させ、その最小変化量Ne/#nを小さくすることができるため、燃料供給気筒数を徐々に増大させることによる車両回転振動系の振動抑制効果を好適に発揮することができる。
【0017】
因みに、上述したトルクの最小変化量Ns/#n,Ne/#n,を小さくするうえでは、点火時期の遅角させる際の遅角量を増大させればよいが、過度な点火時期の遅角は排気性状の悪化、ひいては失火の発生を招くこととなる。このため、点火時期の遅角量は、こうした排気性状の悪化程度と車両回転振動系の振動抑制効果とを双方比較考量して設定することが望ましい。
【0018】
ところで、車両回転振動系についてみたとき、その複数の固有振動モードのうちでも一次固有振動モードが車両振動の大きさを決定する要因として支配的である。従って、この一次固有振動モードの振動を低減することが、上述したような車両振動の発生を抑制するうえでは効果的である。そこで、先の過渡期間Δtがこの一次固有振動モードにおける周期τ1の整数倍、換言すれば一次固有振動数f1の逆数の整数倍となるように設定すれば、以下の理由により車両回転振動系における振動の発生が効果的に抑制されるようになる。
【0019】
即ち、燃料供給気筒数を増減してトルクを徐変させる期間(以下、これを「第1の期間T1」と称する)と、全気筒運転状態又は全気筒休止状態に移行した後の期間(以下、これを「第2の期間T2」と称する)とを分離して考えたとき、車両回転振動系には、第1の期間T1では三角波状のトルクが入力される一方、第2の期間T2ではステップ状のトルクが入力されることとなる。そして、燃料カット処理を実行したときの車両回転振動系の最終的な応答波形は、これら第1の期間T1における車両回転振動系の応答波形と第2の期間T2における車両回転振動系の応答波形とを重畳したものと考えることができる。ここで、過渡期間Δtが一次固有振動モードにおける周期τ1の整数倍に設定されている場合には、第1の期間T1における車両回転振動系の応答波形と第2の期間T2における車両回転振動系の応答波形とは逆位相となり、それらの振動成分が相殺されるため、車両回転振動系における共振現象の発生が抑制されるようになる。このように、過渡期間Δt、一次振動モードの周期τ1、一次固有振動数f1について、

Δt=n・τ1=n/fn (n=1,2,3,…)

なる関係が成立するように過渡期間Δtを設定することにより、車両回転振動系における共振現象に起因する車両振動の発生を好適に抑制することができる。尚、上式において整数nは種々の制約条件に応じて適宜設定することができるが、上述したような燃費の悪化等々の不都合の発生を避けるうえでは、これをその最小値、即ち「1」に設定することが望ましい。また、過渡期間Δtが一次振動モードの周期τ1を整数倍した値n・τ1となるようにこれを設定する場合、上式に示されるように両者を一致させることが理論上望ましいが、過渡期間Δtは機関回転速度によって変化する各気筒の爆発間隔によってその最小変更幅が制約される。このため、それらを完全に一致させることは事実上困難である。しかしながら、過渡期間Δtと周期τ1を整数倍した値n・τ1とが異なる場合であってもその相違が僅かであれば振動抑制効果は十分に期待できる。
【0020】
また、上述したように車両回転振動系の振動特性は変速機の変速比によって異なるものとなるが、この変速機としては手動変速機及び自動変速機のいずれも採用可能であり、また有段変速機に限らず無段変速機も同様に採用することができる。そして、変速機としてこうした無段変速機を搭載する車両にあっては、変速比が大きいときほど車両回転振動系における一次振動モードの周期τ1が短いものとなる傾向が存在する。このため、特に無段変速機を搭載する車両にあっては、上記過渡期間Δtを変速機の変速比が大きいときほど短い期間に設定する、といった構成を採用することにより、一次振動モードの振動を適切に抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両にその駆動源として搭載される内燃機関及びその制御装置を示す概略図。
【図2】アクセル開度、燃料供給気筒数、内燃機関のトルク、車両振動の推移を示すタイミングチャート、(a)は燃料供給気筒数を段階的に減少させる場合、(b)は燃料供給気筒数を段階的に増大させる場合の燃料供給気筒数の推移を示すタイミングチャート。
【図3】車両回転振動系を1自由度系として表現したモデル図。
【図4】車両回転振動系に対する入力トルク及びその応答トルクの波形を示すタイミングチャート。
【図5】車両回転振動系の入力トルク及び応答トルクについて、第1の期間におけるそれらの波形、第2の期間におけるそれらの波形をそれぞれ示すタイミングチャート。
【図6】(a1),(a2),(a3)は車両回転振動系における一次振動モードの周期、過渡期間、同車両回転振動系の応答トルクとの関係を示すグラフ、(b)は入力トルクに対する応答トルクの拡大率を示すグラフ。
【図7】(a)は燃料カット処理を通じて全気筒運転状態から全気筒休止状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に減少させる場合の制御手順を示すフローチャート、(b)は燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増大させる場合の制御手順を示すフローチャート。
【図8】(a)は機関回転速度が高い場合に燃料供給気筒数を徐々に増減させる際の態様を示すタイミングチャート、(b)は機関回転速度が低い場合に燃料供給気筒数を徐々に増減させる際の態様を示すタイミングチャート。
【図9】アクセル開度、スロットル開度、点火時期、機関回転速度、内燃機関のトルク、変速機の変速比、車両振動の推移を示すタイミングチャート。
【図10】(a),(b)は過渡期間Δt及び保持期間ΔΔtの設定態様を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示されるように、車両に搭載される内燃機関10の出力軸11は変速機20に接続されるとともに、同変速機20の出力軸21はディファレンシャルギア30に接続されている。更にこのディファレンシャルギア30はアクセル軸40を介して駆動輪50に接続されている。内燃機関10の各気筒#1,#2,#3,#4において混合気が燃焼爆発することで発生するトルクは、同内燃機関10の出力軸11から変速機20、その出力軸21、ディファレンシャルギア30、アクセル軸40を介して駆動輪50にそれぞれ伝達される。
【0023】
また、変速機20は、前後進切替機構、トルクコンバータの他、金属ベルトが巻装されて変速比を連続的に変更可能な一対のプーリを備えた無段変速機である。そして、この変速機20の変速比は、車両走行状態及び機関運転状態に基づき、それらに適した値となるように連続的に変更される。こうした変速比にかかる制御の他、点火時期、スロットル開度、燃料噴射量にかかる各制御は制御装置60によって実行される。制御装置60は、演算部、記憶部、外部機器を駆動する駆動部に加え、アクセルセンサ70、機関回転速度センサ71、変速比センサ72といった各種センサの検出信号を取り込むとともにその検出信号を適宜変換する検出部を備えている。
【0024】
また、制御装置60は、アクセル操作が解除される等、車両減速時に所定の実行条件が成立すると、燃料カット処理を実行して内燃機関10の各気筒#1〜#4に対する燃料供給を停止する。一方、制御装置60は、燃料カット処理の実行中に機関回転速度が低下して所定の復帰回転速度に達する或いはアクセル操作がなされる等、所定の復帰条件が成立すると、燃料カット処理を停止し、再び各気筒#1〜#4に対する通常の燃料供給を再開する。
【0025】
ここで、燃料カット処理に際して燃料供給状態を全気筒運転状態と全気筒休止状態との間で即時変化させるようにすると、内燃機関10のトルク、換言すれば車両回転振動系に入力される外力が急激に変化するようになるため、これに起因して車両回転振動系の共振現象が発生し、車両振動の発生を招く点については上述した通りである。
【0026】
即ち、図2に示されるように、
[タイミングt1]
・アクセル操作が解除されてアクセル開度が全閉状態になった場合、燃料カット処理を実行すべく燃料供給気筒数を「4」から「0」に変更する。
【0027】
[タイミングt2]
・燃料カット処理の実行中に機関回転速度が低下して所定の復帰回転速度に達したことを条件に燃料カット処理を停止する場合、燃料供給気筒数を「0」から「4」に変更する(以下、この場合を「自然復帰」と称する)。
【0028】
・燃料カット処理の実行中にアクセル操作がなされたことを条件に燃料カット処理を停止する場合も同様に、燃料供給気筒数を「0」から「4」に変更する(以下、この場合を「加速時復帰」と称する)。
【0029】
といったそれぞれ場合には、同図2に示されるように、内燃機関10のトルクが急激に増減するため、車両回転振動系の共振現象に起因する車両振動の増大を招くようになる。
そこで、制御装置60は、燃料カット処理に際し、燃料供給状態を即時変化させるのではなく、燃料供給状態を全気筒運転状態と全気筒休止状態との間の移行させるに際し、燃料供給気筒数を徐々に変化させる過渡期間Δtを設定するようにしている。尚、以下では、燃料供給状態を全気筒運転状態から全気筒休止状態に移行させる際の過渡期間Δtを「第1の過渡期間Δt1」とし、同燃料供給状態を全気筒休止状態から全気筒運転状態に復帰させる際の過渡期間Δtを「第2の過渡期間Δt2」としてそれらを必要に応じて区別する。そして、制御装置60はこの過渡期間Δtにおいて燃料供給気筒数を以下の態様をもって変化させるようにしている。
【0030】
即ち、図2(a)に示されるように、第1の過渡期間Δt1では、燃料供給気筒数を「4」から「0」まで段階的に徐々に変更する一方、同図2(b)に示されるように、第2の過渡期間Δt2では、燃料供給気筒数を「0」から「4」まで段階的に徐々に変更するようにしている。尚、燃料供給気筒数を「0」と「4」との間で段階的に徐々に変更する際、同燃料供給気筒数をその途中の値である(1,2,3)にそれぞれ保持する保持期間は、第1の過渡期間Δt1及び第2の過渡期間Δ2のいずれにおいても等しくなるように設定される。即ち一般に、燃料供給気筒数が「i」であるときの保持期間を「ΔΔt(i)」とし、全気筒数を「n」としたとき、以下の式(1)が成立するように、同保持期間ΔΔt(i)が設定される。
【0031】

ΔΔt(1)=ΔΔt(2)=…=ΔΔt(i)=Δt/(n−1) …(1)

従って、本実施形態であれば、具体的にその保持期間ΔΔt(i)の値は「Δt/3」に設定されることとなる。
【0032】
また、車両回転振動系の共振現象に起因する車両振動の発生を抑制するうえでは過渡期間Δtを長くすることが一般には好ましいが、この過渡期間Δtを過度に長くした場合には、燃費の悪化、ストールの発生、或いは車両の加速性能の低下といった不都合が生じる。そこで、制御装置60は、この過渡期間Δtが車両回転振動系の応答特性(動特性)を考慮したものとなるように、その長さを変速機20の変速比に基づいて設定するようにしている。具体的には、過渡期間Δtを車両回転振動系の一次固有振動モードにおける周期τ1と一致させるようにしている。以下、本実施形態において、このように過渡期間Δtを設定するようにしている理由について説明する。
【0033】
車両回転振動系の共振現象に起因して車両振動が発生する点については既に述べた通りだが、この車両回転振動系の複数の固有振動モードのうちでも、一次固有振動モードは車両振動の大きさを決定する要因として支配的である。従って、仮に二次以上の固有振動モードにおいて共振現象が発生しても、一次固有振動モードでの共振現象が発生していない、或いはそれが無視できる程度に小さいのであれば、車両振動の発生を抑制することができる。
【0034】
そこで、車両回転振動系を一自由度系であると仮定すると、これは図3に示されるように、第1の慣性モーメントJ1、第2の慣性モーメントJ2、ねじれ剛性Kをパラメータとする振動モデルによって表現することができる。尚、便宜上、図3では回転系の振動モデルを並進系の振動モデルに置き換えて示している。ここで、第1の慣性モーメントJ1を同定する際の最も大きな要因は内燃機関10の慣性モーメントであり、第2の慣性モーメントJ2を同定する際の最も大きな要因は内燃機関10を除く車両全体の慣性モーメントである。一方、ねじれ剛性Kは車両回転振動系全体のねじれ剛性に基づいて同定される。
【0035】
更に、第2の慣性モーメントJ2及びねじれ剛性Kは、例えば変速機20の変速比に応じて異なるものとなる。従って、車両回転振動系の一次固有振動モードにおける周期τ1も同様に、この変速比に応じて異なるものとなる。因みに、こうした第1の慣性モーメントJ1及び第2の慣性モーメントJ2やねじれ剛性K、更に周期τ1といった車両回転振動系の応答特性を決定する各種パラメータについては、実際の車両を用いた加振実験やCAE解析を通じて変速機20の変速比に対応したかたちで同変速比毎にそれぞれ同定することができる。そして、このようにして同定される周期τ1と変速比との対応関係は、変速比を引数として周期τ1を求める演算用マップとして制御装置60の記憶部に記憶されている。
【0036】
以下では、このように過渡期間Δtを車両回転振動系の一次固有振動モードにおける周期τ1と一致させることにより、車両回転振動系の共振現象に起因した車両振動の発生を抑制することができる理由についてより詳細に説明する。ここで、図3に示される「Nin」は、車両回転振動系の入力トルク、即ち内燃機関10において発生するトルクであり、「Nout」はこうした入力トルクNinが車両回転振動系に外力として入力された場合の応答トルクである。従って、車両回転振動系にあっては、この応答トルクNoutの振動が抑制されるように、換言すれば入力トルクNinに対する応答トルクNoutの拡大率Mf(=Nout/Nin)が「1」となるように、入力トルクNinの変化態様を適宜設定することにより、車両振動の発生を抑制することができることとなる。
【0037】
一例として、燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく、全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増加させる場合について、入力トルクNinと応答トルクNoutとの関係について考察する。この場合、図4に示されるように、入力トルクNinの値は過渡期間Δtにおいて「0」から全気筒運転状態に対応する値Nsまで徐々に増加する一方、この増加に伴って応答トルクNoutも徐々に増加するようになる。
【0038】
ここで、図4に実線にて示されるように、過渡期間Δtが短く、入力トルクNinの増加速度が高い場合には、応答トルクNoutは上記値Nsを中心に大きく振動するようになる。即ちこの場合には、車両回転振動系に共振現象が発生する。一方、図4に一点鎖線で示されるように、過渡期間Δtが長く、入力トルクNinの増加速度が低い場合には、応答トルクNoutは振動することなく上記値Nsに徐々に収束するようになる。即ちこの場合には、車両回転振動系に共振現象は発生しない。即ち、一般には、車両回転振動系における共振現象の発生を抑制するうえでは、過渡期間Δtを長くすることが有利であるといえる。
【0039】
次に、図5を参照して上記振動モデルにおける入力トルクNinと応答トルクNoutとの関係について更に詳細に考察する。まず、過渡期間Δt、即ち、燃料供給気筒数を増大させてトルクを徐々に増加させる期間(以下、これを「増加期間Td」と称する)と、全気筒運転状態に移行した後の期間(以下、これを「定常期間Ts」と称する)とを分離して考える。このとき、図5(a1)に示される入力トルクNinは、増加期間Tdでは三角波状に変化する一方(図5(a2))、定常期間Tsではステップ状に変化する(図5(a3))。そして、同図5(b1)に示されるように燃料カット処理を実行したときの最終的な応答トルクNoutは、これら増加期間Tdにおける応答トルクNout(図5(b2))と定常期間Tsにおける応答トルクNout(図5(b3))とを重畳したものと考えることができる。
【0040】
そして、図6(a2)に示されるように、過渡期間Δtと周期τ1と一致している場合には、増加期間Tdにおける応答トルクNoutと定常期間Tsにおける応答トルクNoutとが逆位相の波形となり、それらの振動成分が相殺されるため、車両回転振動系における共振現象の発生が抑制されるようになる。一方、同図6(a1)に示されるように、過渡期間Δtが周期τ1よりも短い場合や、同図6(a3)に示されるように、過渡期間Δtが周期τ1よりも長い場合には、上述したような振動成分の相殺効果が得られないか或いは増幅されるようになる。その結果、応答トルクNoutの振動振幅が大きくなり、車両回転振動系における共振現象を抑制することが困難になる。
【0041】
これらを総括すると、図6(b)に実線にて示されるように、増加期間Tdから定常期間Tsに移行した後における拡大率Mf(=Nout/Nin、以下、単に「拡大率Mf」とする)は、過渡期間Δtの長さによって異なるものとなり、それらの間には以下の式(2)に示す関係が存在することとなる。
【0042】

Δt=n・τ1 (n=1,2,3,…) …(2)

従って、上式(2)に基づいて過渡期間Δtを設定することで車両回転振動系の振動、即ち車両振動の発生を好適に抑制することができる。また、図6(b)から明らかなように、過渡期間Δtと、周期τ1の整数倍値n・τ1とが完全に一致させた場合に拡大率Mfが最も小さい値となる。
【0043】
因みに、図6(b)の一点鎖線は、周期τ1が実線で示される場合の2倍になった場合、換言すれば一次固有振動数f1がその1/2倍になった場合における拡大率Mfと過渡期間Δtとの関係を示している。これから明らかなように、一次固有振動数f1が高いときほど、拡大率Mfが小さくなり、またその最小値「1.0」をとる場合が多くなるため、車両回転振動系の振動抑制効果を好適に発揮することができる。特に、本実施形態のように変速機として無段変速式のものを採用する場合にあっては、変速比が大きいときほど車両回転振動系の一次固有振動数f1が高くなり拡大率Mfが小さい値に制限される傾向が存在する。このため、過渡期間Δtに移行する直前の変速比が大きいときほどこれを短くするといった関係をもって同過渡期間Δtを設定することでより高い振動抑制効果が得られるようになる。
【0044】
尚、ここでは、燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく、全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増加させる場合について、入力トルクNinと応答トルクNoutとの関係を説明した。但し、こうした関係は、燃料カット処理を開始すべく全気筒運転状態から全気筒休止状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に減少させる場合にあっても同様である。従って、後者の場合にも同様の原理により、車両回転振動系の共振現象に起因する車両振動の抑制を図ることができる。
【0045】
次に、図7を参照して、上述した(イ)及び(ロ)の各場合における内燃機関10の具体的な制御手順をそれぞれ説明する。
上記(イ)の場合には、図7(a)に示されるように、例えばアクセル操作が解除された状態で且つ機関回転速度が復帰回転速度を上回っている等、燃料カット処理の実行条件が成立すると(ステップS71a)、点火時期を機関負荷及び機関回転速度に基づいて設定される基準点火時期から徐々に遅角させ、その状態に点火時期を保持する(ステップS72a)。尚、機関負荷は燃料噴射量、或いは吸入空気量、スロットル開度、アクセル開度といった同燃料噴射量と相関を有するパラメータに基づいて求められる。次に、上述した態様をもって変速機20の変速比に基づき過渡期間Δt(第1の過渡期間Δt1)を設定する(ステップS73a)。そして、燃料供給気筒数をこの過渡期間Δtにおいて徐々に減少させる(ステップS74a)。
【0046】
一方、上記(ロ)の場合には、図7(b)に示されるように、燃料供給状態が全気筒休止状態にあるときに自然復帰又は加速時復帰といった燃料カット処理の復帰条件が成立すると(ステップS71b)、上述した態様をもって変速機20の変速比に基づき過渡期間Δt(第2の過渡期間Δt2)を設定する(ステップS73b)。そして、点火時期を基準点火時期よりも遅角させた状態のもと、燃料供給気筒数を過渡期間Δtにおいて徐々に増大させる(ステップS74b)。こうした燃料供給気筒数を増大させることで燃料供給状態が全気筒運転状態に移行した後は、点火時期を基準点火時期にまで徐々に進角させる(ステップS75b)。尚、上記周期τ1は時間を単位とし、過渡期間Δtはこの周期τ1との関係に基づいて設定されるものであるため、同過渡期間Δtはクランク角間隔ではなく時間間隔として設定される。このため、図8に示されるように、過渡期間Δtが同じであれば、機関回転速度が高いときには過渡期間Δtに対応するクランク角間隔は長く(同図8(a))、機関回転速度が低いときには過渡期間Δtに対応するクランク角間隔は短くなる(同図8(b))。従って、過渡期間Δtの設定に際し、機関回転速度が低く、車両振動を抑制するうえで過渡期間Δtと周期τ1との乖離が無視できないほど大きくなる場合には、上式(2)において「n」を一時的に「1」以外の値に一時的に設定することもできる。尚、同図8において、実線は燃料供給気筒数を「4」から「0」にまで徐々に減少させる場合の燃料供給気筒数の推移を示し、一点鎖線は燃料供給気筒数を「0」から「4」にまで徐々に増大させる場合の燃料供給気筒数の推移を示す。
【0047】
次に、上記(イ)の場合にあっては燃料カット処理の実行に先立ち点火時期を基準点火時期よりも遅角させ、また上記(ロ)の場合にあっては燃料カット処理からの復帰に先立ち点火時期を基準点火時期よりも遅角させているが、その理由について説明する。
【0048】
燃料供給気筒数を徐々に変化させることにより、内燃機関10のトルクを全気筒運転状態に対応する値Nsと全気筒休止状態におけるトルクの値「0」との間で変化させる場合、トルクの最小変化量は「Ns/#n」となり、これを下回る量をもってトルクを徐変させることはできない。尚、「#n」は内燃機関10の気筒数であり、本実施形態では具体的に「4」である。従って、全気筒運転状態に対応するトルクの値Nsが大きい場合にあっては、このトルクの最小変化量Ns/4は必然的に大きなものとなる結果、車両回転振動系の振動抑制効果が十分に発揮できないといった懸念もある。
【0049】
そこで、本実施形態では、燃料カット処理の実行に伴って全気筒運転状態から全気筒休止状態にまで移行させる場合には、その燃料カット処理の実行に先立ち、点火時期を機関負荷及び機関回転速度に基づき設定される基準点火時期よりも遅角させておくようにしている。そして、過渡期間Δtではその遅角した状態に保持することにより、内燃機関10に発生するトルクを低下させるようにしている。
【0050】
また一方、燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく、全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増大させる場合についても同様に、点火時期を機関負荷及び機関回転速度に基づき設定される基準点火時期よりも予め遅角させた状態で一部の気筒に対する燃料供給を開始する。そして、全気筒運転状態に移行した後に同点火時期を基準点火時期まで徐々に進角させる。これにより、全気筒休止状態から全気筒運転状態に燃料供給状態を移行した直後のトルクの値Neを低下させるようにしている。
【0051】
そしてこのように点火時期の遅角処理を通じて内燃機関10に発生するトルクを低下させることにより、上述した(イ)及び(ロ)のいずれの場合にあっても、トルクの最小変化量Ns/4,Ns/4を小さくしてトルクをより滑らかに徐変させることができるようになり、車両回転振動系の振動抑制効果を好適に発揮することができる。
【0052】
因みに、上述したトルクの最小変化量Ns/4,Ne/4を小さくするうえでは、点火時期の遅角させる際の遅角量を増大させればよいが、過度な点火時期の遅角は排気性状の悪化、ひいては失火の発生を招くこととなる。このため、点火時期の遅角量は、こうした排気性状の悪化程度と車両回転振動系の振動抑制効果とを双方比較考量して設定することが望ましい。
【0053】
次に、図9を参照し、上述した燃料供給気筒数の徐変処理及び点火時期の遅角処理を実行した場合における内燃機関10のトルク及び車両振動の推移について説明する。同図9に示されるように、アクセル操作が解除されてアクセル開度が「0」になると(タイミングt1)、それに伴ってスロットル開度が徐々に減少するとともに、内燃機関10に発生するトルクもそれに合わせて減少するようになる。ここで、上述した遅角処理が実行されるため、点火時期は基準点火時期(同図9の一点鎖線)よりも遅角側の時期に設定される(タイミングt1〜t3)。このように点火時期の遅角処理が実行された後、燃料カット処理の実行条件が成立し、上述したように過渡期間Δtが変速機20の変速比に基づいて設定される(タイミングt2)。従って、燃料供給気筒数がこの過渡期間Δtにおいて徐々に減少し、同過渡期間Δt経過後は燃料供給状態が全気筒休止状態になる(タイミングt2〜t3)。ここで、上述した態様をもって過渡期間Δtが設定され、更に点火時期の遅角処理が実行されているため、図9に一点鎖線にて示されるこれら処理が実行されていない場合とは異なり、車両振動の発生が抑制されるようになる。
【0054】
そして、機関回転速度が復帰回転速度近傍にまで低下すると(タイミングt5)、同機関回転速度が復帰回転速度を下回らないように、変速機20の変速比が制御されて同変速比がその最大値となるまで徐々に増大する(タイミングt5〜)。そして、変速機20の変速比がその最大値に達し、機関回転速度が復帰回転速度に達して復帰条件が成立すると、そのときの変速機20の変速比、即ちその最大値に基づいて過渡期間Δtが設定される(タイミングt6)。そして、点火時期が基準点火時期よりも遅角された状況のもとで燃料供給気筒数がこの過渡期間Δtにおいて徐々に増大し(タイミングt6〜t7)、同過渡期間Δt経過後は燃料供給状態が全気筒運転状態になる。このように燃料供給状態が全気筒運転状態に移行した後、遅角側に設定されていた点火時期が進角されて徐々に基準点火時期に収束するようになる(タイミングt7〜t8)。ここでも、上述した態様をもって過渡期間Δtが設定され、更に点火時期の遅角処理が実行されているため、図9の一点鎖線にて示されるこれら処理が実行されていない場合と異なり、車両振動の発生が抑制されるようになる。尚、ここでは燃料カット処理から自然復帰する場合について説明したが、上記加速時復帰する場合にあっても同様に(図9の二点鎖線参照)、車両振動の発生が抑制される点については上述したとおりである。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)燃料カット処理に際し、全気筒運転状態と全気筒休止状態との間の過渡期間Δtに燃料供給気筒数を徐々に変化させるようにしている。このため、燃料カット処理を開始するときには、内燃機関10から変速機20を介して駆動輪50に至る車両回転振動系に対して内燃機関10から入力されるトルクの低下が緩慢なものとなる。また一方、燃料カット処理の実行中にこれを中止して通常の燃料供給状態に復帰するときには、このトルクの増加が緩慢なものとなる。このように、過渡期間Δtにおいて内燃機関10に発生するトルクの変化を緩慢なものとすることにより、「しゃくり」のような車両の前後振動や、マウントに懸架された内燃機関10の姿勢が急激に変化することに伴う車両の上下振動や左右振動、或いはそれらの複合振動の発生を抑制することができる。更に、過渡期間Δtを変速機20の変速比に基づいて設定するようにしているため、過渡期間Δtが車両回転振動系の応答特性を考慮して設定される。即ち、車両回転振動系の固有振動数は変速機20の変速比に応じて異なるものとなるが、これに応じて過渡期間Δtが設定されるため、内燃機関10に発生するトルクの変化態様、換言すれば車両回転振動系に対する入力の変化態様を同車両回転振動系における共振現象の発生を抑制するうえで好適なものに設定することができる。従って、燃費の悪化、ストールの発生、或いは車両の加速性能の低下といった過渡期間Δtが過度に長くなることに起因する不都合を極力回避しつつも、上記(イ)及び(ロ)のいずれの場合においても、車両回転振動系の共振現象に起因する車両振動の発生を好適に抑制することができるようになる。
【0056】
(2)また、このように過渡期間Δtを変速機20の変速比に基づいて設定するに際し、同過渡期間Δtを車両回転振動系の一次固有振動モードにおける周期τ1の整数倍の値(=n・τ1)と一致させるようにしているため、上述したような車両回転振動系における共振現象に起因する車両振動の発生を一層好適に抑制することができる。
【0057】
(3)そして特に、上式において整数nとしてその最小値、即ち「1」を基準とし、過渡期間Δtを上記周期τ1と一致させるにようにしているため、燃費の悪化、ストールの発生、加速性能の悪化といった過渡期間Δtが過度に長くなることに起因する不都合の発生についても好適に回避することができる。
【0058】
(4)更に、燃料カット処理の実行に伴って全気筒運転状態から全気筒休止状態にまで移行させる場合に、その燃料カット処理の実行に先立ち、点火時期を基準点火時期よりも遅角させておくとともに過渡期間Δtではその遅角した状態に保持するようにしている。このため、燃料カット処理が開始される直前のトルクの値Nsを予め低下させておくことができる。従って、トルクの最小変化量Ns/4を小さくすることができ、燃料供給気筒数を徐々に減少させることによる車両回転振動系の振動抑制効果を一層好適に発揮することができるようになる。
【0059】
(5)同様に、燃料カット処理を中止して通常の燃料供給状態に復帰すべく、全気筒休止状態から全気筒運転状態になるまで燃料供給気筒数を徐々に増大させる場合についても、点火時期を基準点火時期よりも予め遅角させた状況のもとで燃料供給気筒数を徐々に増大させるようにしている。そして、全気筒運転状態に移行した後に同点火時期を基準点火時期にまで徐々に進角させるようにしている。従って、全気筒休止状態から全気筒運転状態に燃料供給状態を移行した直後のトルクの値Ne、換言すれば過渡期間Δtにおけるトルクの最小変化量Ne/4を小さくすることができ、燃料供給気筒数を徐々に増大させることによる車両回転振動系の振動抑制効果を一層好適に発揮することができる。
【0060】
(6)その他、無段変速式の変速機20を搭載する車両では、その変速比が大きいときほど一次振動モードの周期τ1が短いものとなる傾向を考慮し、上記過渡期間Δtを変速機20の変速比が大きいときほど短い期間に設定するようにしているため、車両回転振動系における一次振動モードの振動を適切に抑制することができるようになる。
【0061】
尚、本発明は、上記実施形態の他、これを適宜変更した以下の態様をもって実施することもできる。
・上式(2)において「n」を「1」に設定し、過渡期間Δtを周期τ1とを一致させるようにしたが、これを一次振動モードの周期τ1を整数倍した値n・τ1(n≠1)であれば、他の長さに設定することもできる。また、上式(2)に基づいて過渡期間Δtを周期τ1と一致させることが理論上望ましいが、過渡期間Δtは機関回転速度によって変化する各気筒の爆発間隔によってその最小変更幅が制約される。このため、それらを完全に一致させることは事実上困難である。しかしながら、過渡期間Δtと周期τ1を整数倍した値n・τ1とが異なる場合であってもその相違が僅かであれば振動抑制効果は十分に期待できる。
【0062】
・上述したような制御装置60による制御は、上述した(イ)及び(ロ)のいずれか一方の場合にのみ適用することもできる。また、この制御は、上記(ロ)の場合において自然復帰及び加速時復帰の双方について実行するようにしたが、例えば自然復帰にのみ実行するようにし、加速時復帰においてはその加速性能を優先するようにしてもよい。
【0063】
・変速機20として無段変速式の自動変速機を例示したが、手動変速機であってもよく、また有段変速式の変速機に本制御を適用することもできる。また、駆動源として内燃機関の他、電動機を搭載する車両の内燃機関に対して本制御を適用することもできる。
【0064】
・内燃機関の気筒数は「4」に限定されるものではない。図10(a)に示されるように、例えば8気筒の内燃機関であっても、同様の態様をもって過渡期間Δtを設定し、燃料供給気筒数を徐変させることができる。また、このように気筒数が比較的多い内燃機関にあっては、図10(b)に示されるように、内燃機関のトルクが車両回転振動系の振動を抑制する上で好適な変化態様となるように、上記保持期間ΔΔt(i)を設定することもできる。尚、同図10(b)では、保持期間ΔΔt(i)を、「ΔΔt(7)=ΔΔt(1)>ΔΔt(6)=ΔΔt(2)>ΔΔt(5)=ΔΔt(3)>ΔΔt(4)」なる関係が成立するようにした場合を例示している。
【符号の説明】
【0065】
10…内燃機関、11…出力軸、20…変速機、21…出力軸、30…ディファレンシャルギア、40…アクセル軸、50…駆動輪、60…制御装置、70…アクセルセンサ、71…機関回転速度センサ、72…変速比センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関で発生したトルクを変速機を介して駆動輪に伝達する車両に搭載されて前記内燃機関の各気筒に対する燃料の供給を一時的に停止する燃料カット処理を行う内燃機関の制御装置において、
前記燃料カット処理は、全気筒に対して燃料を供給する状態を全気筒運転状態とし、全気筒について燃料の供給を停止する状態を全気筒休止状態としたとき、それら全気筒運転状態及び全気筒休止状態のうち一方から燃料供給気筒数を徐々に変化させて他方にまで移行させるものであり、その移行に要する過渡期間が前記内燃機関から前記変速機を介して前記駆動輪に至る車両回転振動系の振動振幅が小さくなるように前記変速機の変速比に基づいて設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記燃料カット処理は、前記全気筒運転状態から前記全気筒休止状態に至る前記過渡期間に燃料供給気筒数を減少させるものであって同過渡期間が前記変速機の変速比に基づいて設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記燃料カット処理は、前記全気筒休止状態から前記全気筒運転状態に至る前記過渡期間に燃料供給気筒数を増大させるものであって同過渡期間が前記変速機の変速比に基づいて設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記過渡期間における内燃機関のトルク変化量が小さくなるように、点火時期を機関負荷及び機関回転速度に基づき設定される基準点火時期よりも遅角側の時期に設定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記過渡期間は前記内燃機関から前記変速機を介して前記駆動輪に至る車両回転振動系における一次固有振動モードの周期の整数倍に設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の制御装置において、
前記過渡期間は前記一次固有振動モードの周期と等しく設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記変速機は無段変速機であり、前記過渡期間は前記変速機の変速比が大きいときほど短く設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−197747(P2012−197747A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63199(P2011−63199)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】