説明

透明ガスバリア性フィルムの製造方法、透明ガスバリア性フィルムおよび透明ガスバリア性フィルムの製造装置

【課題】 ガスバリア性に優れた透明ガスバリア性フィルムを効率良く製造することが可能な透明ガスバリア性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 同一の真空槽12を用いて、透明基材フィルム18の片面または両面にガスバリア性有機薄膜層およびガスバリア性無機薄膜層を形成する透明ガスバリア性フィルムの製造方法において、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成は、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料を気化して発生した蒸気を前記透明基材フィルム1に接触させて塗膜を形成し、前記塗膜を硬化して前記透明ガスバリア性有機薄膜層を形成することで実施され、前記塗膜形成を真空槽12内で実施し、前記塗膜形成において、前記真空槽12内の圧力よりも低い雰囲気圧力条件下で前記蒸気を前記透明基材フィルム18に接触させる。前記真空槽12内の圧力よりも低い雰囲気条件下は、例えば、真空槽12の真空引きとは別に設けた真空ポンプ19により実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリア性フィルムの製造方法、透明ガスバリア性フィルムおよび透明ガスバリア性フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機EL(Electroluminescence)素子、液晶表示素子、太陽電池等の各種電気・電子素子において、その支持基板としてガラス基板が用いられてきた。しかし、最近では、軽量性、耐衝撃性、屈曲性等の各種特性に優れるという理由により、ガラス基板に代えて、プラスチック基板が用いられるようになってきた。
【0003】
しかし、プラスチック基板は、ガラス等の無機材料から形成された基板と比較して、酸素や水蒸気等のガス透過性が著しく大きいという性質を持つ。このため、前述の各種電気・電子素子の支持基板としてプラスチック基板を使用した場合、素子の劣化等の問題が生じる恐れがある。例えば、前記有機EL素子では、発光領域となる有機薄膜層に水蒸気や酸素が侵入すると、素子の劣化により発光効率が低下したり、ダークスポットが発生・成長する等の問題を招く。
【0004】
このような問題に対し、透明性を損なうことなくプラスチック基板のガスバリア性を向上させる手法が種々開発されている。例えば、プラスチック基板上に、酸化ケイ素を蒸着させる方法(特許文献1参照)や酸化アルミニウムを蒸着させる方法(特許文献2参照)が提案されており、これらの方法によれば、1g/m/day程度に水蒸気透過率を低減できる。しかし、前記有機EL素子に代表される近年の電子デバイスでは、その支持基板に対し、非常に高いガスバリア性が要求されており、特に水蒸気透過率については、0.1g/m/day以下のガスバリア性が要求されている。
【0005】
このような要求に対し、プラスチック基板の上に、有機薄膜層と無機薄膜層とを交互に積層させた多層構造のガスバリア層を真空蒸着法により形成する方法が提案されている(特許文献3、特許文献4参照)。この方法において、前記有機薄膜層を真空蒸着法で形成する場合、非常に薄い膜形成が可能で膜厚制御性が良く、異物混入(コンタミネーション)が防止可能であるという特徴がある。また、この方法では、有機薄膜層と無機薄膜層とを交互に積層する場合において、真空から常圧若しくは常圧から真空といった雰囲気条件を変えることなく一定の雰囲気条件で実施できるという利点もある。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特開昭58−217344号公報
【特許文献3】国際特許第WO00/26973号パンフレット
【特許文献4】特開平7−263144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、真空蒸着法により、有機薄膜層と無機薄膜層を交互に積層してガスバリア層を形成する方法では、ガスバリア性が不十分であるという問題がある。この問題を解決するために、積層数を増やしたり、各層を厚くすると製造効率が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ガスバリア性に優れた透明ガスバリア性フィルムを効率良く製造することが可能な透明ガスバリア性フィルムの製造方法、透明ガスバリア性フィルムおよび透明ガスバリア性フィルムの製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の製造方法は、透明基材フィルム上にガスバリア性有機薄膜層を形成する工程および前記透明基材フィルム上にガスバリア性無機薄膜層を形成する工程を有し、前記両工程が同一の真空槽を用いて実施される透明ガスバリア性フィルムの製造方法であって、前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する工程が、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料を気化して発生した蒸気を前記透明基材フィルムに接触させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を硬化して前記透明ガスバリア性有機薄膜層を形成する塗膜硬化工程とを有し、前記塗膜形成工程が前記真空槽内で実施され、前記塗膜形成工程において、前記真空槽内の圧力よりも低い雰囲気圧力条件下で前記蒸気を前記透明基材フィルムに接触させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の透明ガスバリア性フィルムは、前記本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法により得られたものである。
【0010】
そして、本発明の製造装置は、真空槽と、透明基材フィルム上にガスバリア性有機薄膜層を形成する手段と、前記透明基材フィルム上にガスバリア性無機薄膜層を形成する手段とを有する透明ガスバリア性フィルムの製造装置であって、前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する手段は、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料を気化して材料蒸気を発生させる材料蒸気発生手段と、前記材料蒸気を前記真空槽内に導入して前記透明基材フィルムに接触させて塗膜を形成する塗膜形成手段と、前記塗膜を硬化させて前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する塗膜硬化手段とを有し、さらに、前記真空槽内の圧力よりも低い雰囲気圧力条件下で前記材料蒸気を前記透明基材フィルムに接触させるための減圧手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明者等は一連の研究を重ねたところ、従来の真空蒸着法によりガスバリア層を形成する方法において、ガスバリア性が劣る原因は、つぎの理由であることを突き止めた。すなわち、真空槽内において、有機薄膜層形成材料を気化して発生した蒸気をプラスチック基板に接触させて塗膜を形成し、これを硬化させて有機薄膜層を形成するが、前記蒸気の多くは前記塗膜を形成することなく拡散するため、前記真空槽内を漂ったり前記真空槽内壁に付着したりして前記真空槽内が汚染されることになる。この状態で、無機薄膜層の形成を実施すると、浮遊もしくは内壁に付着していた前記有機薄膜層形成材料の蒸気が無機薄膜層内に取り込まれ、その結果、得られる無機薄膜層の特性が大きく劣化し、特にガスバリア性が劣化する。この知見に基づき、本発明に到達した。すなわち、本発明の製造方法によれば、前記塗膜形成工程において、前記真空槽内の圧力よりも低い雰囲気圧力条件下で前記蒸気を前記透明基材フィルムに接触させるため、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気が前記真空槽内に拡散することを防止でき、その結果、ガスバリア性に優れた透明ガスバリア性フィルムを効率良く製造することが可能である。また、本発明の透明ガスバリア性フィルムは、前記本発明の製造方法により製造されたものであるから、ガスバリア性に優れている。そして、本発明の製造装置は、前記本発明の製造方法を効率良く実施することが可能な装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、前記真空槽内の圧力よりも低い雰囲気圧力の条件下は、特に制限されないが、コンタミネーションおよび酸素阻害の防止等の理由から、前記雰囲気圧力は、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の前記蒸気を前記塗膜形成箇所に導入する際の温度における前記形成材料の蒸気圧よりも低く、かつ前記透明基材フィルムの温度における前記形成材料の蒸気圧よりも高いことが好ましい。例えば、前記雰囲気圧力は、10−2〜10Paの範囲であり、好ましくは、10−2〜10Paの範囲であり、より好ましくは、5×10−2〜10Paの範囲である。
【0013】
本発明の製造方法において、前記真空槽内の圧力よりも低い前記雰囲気圧力条件下が、前記真空槽の真空引とは別に真空引きすることで実現することが好ましい。また、本発明の製造装置において、前記減圧手段は、前記真空槽の真空引手段とは別に設けられた真空引手段であることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法において、前記透明基材フィルムの温度における前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気圧が、前記真空槽内の圧力よりも低いことが好ましい。より好ましくは、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成の際の前記真空槽の圧力は、前記透明基材フィルムの温度における前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気圧よりも高く、かつ前記塗膜形成箇所の圧力よりも高いことである。また、本発明の製造装置において、さらに、前記透明基材フィルムの温度における前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気圧を、前記真空槽内の圧力よりも低く設定可能であることが好ましい。より好ましくは、本発明の製造装置において、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成の際の前記真空槽の圧力は、前記透明基材フィルムの温度における前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気圧よりも高く、かつ前記塗膜形成箇所の圧力よりも高く設定可能なことである。例えば、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成の際の前記真空槽の圧力は、2×10−2〜10Paの範囲であり、好ましくは、5×10−2〜2×10Paの範囲であり、より好ましくは10−1〜5×10Paの範囲である。
【0015】
本発明の製造方法において、前記塗膜硬化工程を前記真空槽内で実施することが好ましい。また、本発明の製造装置において、前記塗膜硬化手段は、前記真空槽内に配置されていることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成の際の前記透明基材フィルムの温度は、特に制限されず、例えば、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気圧と、形成されるガスバリア性有機薄膜層の厚みとの関係等から適宜決定できる。例えば、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成の際の前記透明基材フィルムの温度は、−100℃〜200℃の範囲であり、好ましくは−50℃〜150℃の範囲であり、より好ましくは−50℃〜100℃の範囲である。
【0017】
本発明において、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料は、特に制限されず、単一材料であっても良いし、モノマーおよびオリゴマーからなる群から選択される少なくとも一つの主材料と、重合開始剤、架橋剤、酸発生剤、充填剤(フィラー)、密着力強化剤および増感剤からなる群から選択される少なくとも一つの添加剤との混合材料であってもよい。なお、前記添加剤は、前述のものに限定されず、その他の添加剤も使用可能である。また、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料は、常温常圧において液体であることが好ましいが、混合材料の場合は、混合状態で液体であればよく、混合前では、各種材料は、常温常圧で固体であってもよい。
【0018】
前記モノマーおよびオリゴマーとしては、例えば、脂肪族アクリレート、脂環式アクリレート、芳香族アクリレート、官能基含有アクリレート、リン型アクリレート、金属型アクリレート、脂肪族メタクリレート、脂環式メタクリレート、芳香族メタクリレート、官能基含有メタクリレート、リン型メタクリレート、金属型メタクリレート等の樹脂モノマー若しくは樹脂オリゴマーがあげられる。前記官能基含有アクリレートおよび官能基含有メタクリレートの前記官能基としては、例えば、OH基、アリル基、グリシジル基、カルボキシル基、クロロ基およびブロモ基等があげられる。この他に、前記モノマーおよびオリゴマーとしては、例えば、脂環式エポキシ樹脂、官能基含有エポキシ樹脂、官能基含有シリコーン樹脂、ピロリドンおよび酢酸樹脂等の樹脂モノマー若しくはオリゴマーがあげられる。前記官能基含有エポキシ樹脂の官能基は、例えば、アクリレート系官能基、グリシジル基等があげられる。前記官能基含有シリコーン樹脂の官能基としては、例えば、アクリレート系官能基等があげられる。
【0019】
前記モノマーとしては、さらに、エポキシド化合物を使用することもできる。前記エポキシド化合物は、2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。2個以上のエポキシ基を有することにより、前記ガスバリア性有機薄膜層の形成に際して高分子化を容易にすることができ、諸特性に優れたガスバリア性有機薄膜層を得ることができるからである。前記エポキシド化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAPO付加物ジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等があげられる。
【0020】
前記重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン誘導体、チオキサントン、ヒドロキシアセトフェノン、アミノアセトフェノン、ミヒラーケトン、アシルホスフィンオキシド、アシルオキシム型開始剤、スルホニウム塩開始剤、ヨードニウム開始剤、ジアゾニウム塩開始剤、フェロセニウム開始剤、ジアミン化合物、トリアミン化合物、ジオール化合物、トリオール化合物およびジアルコキシド化合物等があげられる。前記架橋剤、前記酸発生剤および前記充填剤(フィラー)は、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。
【0021】
前記ガスバリア性有機薄膜層の厚みは、特に制限されず、例えば、0.001〜50μmの範囲であり、好ましくは、0.002〜15μmの範囲である。
【0022】
本発明の製造方法において、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料が、活性エネルギー線硬化性材料であり、前記塗膜硬化工程を、前記塗膜に前記活性エネルギー線を照射することにより実施することが好ましい。前記活性エネルギー線は紫外線が好ましく、前記活性エネルギー線硬化性材料は紫外線硬化性材料であることが好ましい。また、本発明の製造装置において、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料が、活性エネルギー線硬化性材料であり、前記塗膜硬化手段が、前記塗膜への前記活性エネルギー線照射手段を有することが好ましい。前記活性エネルギー線は、紫外線であることが好ましく、前記活性エネルギー線照射手段は、紫外線照射手段であることが好ましい。前記紫外線照射手段の照射強度は、特に制限されず、用いる前記紫外線硬化性材料の重合開始強度よりも高く、前記紫外線硬化性材料の分解強度よりも低いことが好ましい。例えば、前記紫外線照射強度は、20〜250W/cmの範囲であり、好ましくは30〜200W/cmの範囲であり、より好ましくは40〜150W/cmの範囲である。また、紫外線照射量は、特に制限されず、例えば、ロールを用いて透明基材フィルムを搬送しながら前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する場合、前記紫外線照射強度および前記透明基材フィルムの搬送速度(若しくは前記ロールの回転速度)等から適宜決定できる。例えば、前記紫外線照射量は、20mJ/cm〜20J/cmの範囲であり、好ましくは30mJ/cm〜15J/cmの範囲であり、より好ましくは50mJ/cm〜10J/cmの範囲である。
【0023】
本発明の製造方法において、前記真空槽内に、2つのロールを配置し、前記2つのロールの一方のロールから他方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記塗膜形成工程および前記塗膜硬化工程を実施することが好ましい。また、本発明の製造装置において、前記真空槽内に、2つのロールが配置され、前記2つのロールの一方のロールから他方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記塗膜形成手段により塗膜が形成され、ついで前記塗膜硬化手段により前記塗膜が硬化されて前記ガスバリア性有機薄膜層が形成されることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法および製造装置において、前記ガスバリア性有機薄膜層は、前記透明基材フィルムの片面又は両面に形成される。同様に、本発明の製造方法および製造装置において、前記ガスバリア性無機薄膜層は、前記透明基材フィルムの片面又は両面に形成される。例えば、前記透明基材フィルムの片面に、ガスバリア性有機薄膜層とガスバリア性無機薄膜層を積層してもよいし、このような積層ガスバリア層を前記透明基材フィルムの両面に形成してもよい。また、例えば、前記透明基材フィルムの一方の面に、単層もしくは複数層のガスバリア性有機薄膜層を形成し、他方の面に、単層若しくは複数層のガスバリア性無機薄膜層を形成してもよい。
【0025】
本発明において、前記ガスバリア性無機薄膜層の形成は、真空下で実施することが好ましい。前記ガスバリア性無機薄膜層の形成における前記真空下の圧力条件は、例えば、1×10−4〜1×10Paの範囲であり、好ましくは、1×10−3〜1Paの範囲であり、より好ましくは1×10−2〜0.1Paの範囲である。
【0026】
本発明の製造方法において、前記ガスバリア性無機薄膜層形成工程が、前記ガスバリア性無機薄膜層形成材料を蒸発源によって物理的に気化し、前記蒸発源とは別のプラズマ発生源によって発生するプラズマを利用して前記気化した前記形成材料を活性化させることにより前記ガスバリア性無機薄膜層を形成する工程であることが好ましい。また、本発明の製造装置において、前記ガスバリア性無機薄膜層形成手段は、前記ガスバリア性無機薄膜層形成材料を物理的に気化するための蒸発源と、前記蒸発源とは別のプラズマ発生源とを有し、前記別のプラズマ発生源によって発生するプラズマを利用して前記気化した前記形成材料を活性化させることにより前記ガスバリア性無機薄膜層を形成することが好ましい。
【0027】
前記プラズマ発生源は、特に制限されず、例えば、圧力勾配型プラズマガン、直流放電プラズマ発生装置、高周波放電プラズマ発生装置があげられ、この中でも、圧力勾配型プラズマガンが好ましい。また、前記蒸発源は、特に制限されず、例えば、電子ビーム発生器、抵抗加熱蒸発装置、誘導加熱型蒸発装置等があげられ、この中でも電子ビーム発生器が好ましい。
【0028】
本発明において、前記ガスバリア性無機薄膜層の形成材料は、特に制限されず、例えば、Si、Al、Ti、Zn、In−Sn、Ta、NiおよびZr等の少なくとも一つの酸化物、酸窒化物、窒化物等を用いることができる。
【0029】
本発明において、前記ガスバリア性無機薄膜層の厚みは、特に制限されず、例えば、0.005〜1μmの範囲であり、好ましくは、0.01〜0.5μmの範囲であり、より好ましくは、0.04〜0.4μmの範囲である。
【0030】
本発明において、前記透明基材フィルムは、特に制限されないが、透明性が高く、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層の加熱時のクラックを防止するためにガラス転移温度が高く、かつ吸湿性の低い高分子フィルムが好ましい。前記透明性に関しては、波長550nmの光線透過率が80%以上であることが好ましい。前記ガラス転移温度は50℃以上であることが好ましく、より好ましくは、ガラス転移温度が70℃以上である。前記フィルムの吸湿性は、重量法による測定値が5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下であり、特に吸湿による寸法変化が小さいことが好ましい。
【0031】
前記透明基材フィルムとしては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、環状オレフィン系樹脂等の樹脂から形成されたフィルムがあげられる。前記透明基材フィルムの厚みは、特に制限されず、例えば、25〜500μmの範囲であり、強度および薄型化を両立させる観点から、100〜300μmの範囲が好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、前記透明基材フィルム上に、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層のいずれか一方の層を形成し、前記形成された層の上に、他方の層を形成することが好ましい。前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層を交互に積層することにより、得られる透明ガスバリア性フィルムのガスバリア性をさらに向上させることができる。前記積層数は、特に制限されない。また、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層は、それぞれ、前記透明基材フィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよいことは、前述のとおりである。
【0033】
本発明の製造方法において、前記ガスバリア性有機薄膜層形成工程および前記ガスバリア性無機薄膜層形成工程を、同一真空槽内で実施することが好ましい。同様に、本発明の製造装置において、前記ガスバリア性有機薄膜層形成手段および前記ガスバリア性無機薄膜層形成手段を、同一真空槽内に有することが好ましい。これらの場合、前記真空槽内に2つのロールを配置し、前記2つのロールのうちの一方のロールから他方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層のいずれか一方を形成し、ついで搬送方向を反転させ、前記他方のロールから前記一方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記形成された層の上に他方の層を形成することが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、前記透明基材フィルムとして、その片面又は両面に平滑化層を有する透明基材フィルムを使用することができる。前記平滑化層は、湿式成膜法により形成された平滑化層であることが好ましい。また、本発明の製造装置において、さらに、前記透明基材フィルムの片面又は両面に平滑化層を形成する平滑化層形成手段を有することが好ましい。前記平滑化層形成手段は、湿式成膜法であることが好ましい。
【0035】
前記平滑化層の形成材料は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を主成分とするものが用いられるが、形成後の表面平滑性に優れ、酸素や水蒸気に対するガス透過性が低く、前記透明基材フィルムや、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層との密着性に優れる材料を使用することが好ましい。前記平滑化層の密着性を向上させるために、前記透明基材フィルムにシランカップリング剤等によるプライマー処理を施してもよい。
【0036】
前記平滑化層の形成材料は、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの樹脂の混合樹脂、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体等をあげることができる。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記平滑化層は、例えば、前記形成材料の溶液若しくはエマルジョン等を公知の方法によって前記透明基材フィルム上に塗工し、形成された塗膜を乾燥若しくは硬化させることにより、形成することができる。
【0037】
前記平滑化層の厚みは、特に制限されないが、例えば、0.02〜50μmの範囲であり、好ましくは、0.1〜10μmの範囲である。また、前記平滑化層の透明性は、前記透明基材フィルムと同様に、550nmの光線透過率が80%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法において、さらに、前記透明ガスバリア性フィルムの片面又は両面にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成工程を有することが好ましい。前記オーバーコート層形成工程は、湿式成膜法であることが好ましい。また、同様に、本発明の製造装置において、さらに、前記透明ガスバリア性フィルムの片面又は両面にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成手段を有することが好ましい。前記オーバーコート層形成手段は、湿式成膜法であることが好ましい。
【0039】
前記オーバーコート層の形成材料は、例えば、前記平滑化層の形成材料と同様のものを用いることができる。また、前記オーバーコート層の形成方法も、例えば、前記平滑化層の形成方法と同様の方法を用いることができる。前記オーバーコート層の厚みは、特に制限されないが、例えば、50nm〜50μmの範囲である。
【0040】
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいて、その水蒸気透過率は低いほど好ましく、例えば、0.1g/m/day以下であり、好ましくは、1×10−2g/m/day以下であり、より好ましくは、1×10−3g/m/day以下であり、さらに好ましくは、1×10−8g/m/day以下であり、最も好ましくは、0g/m/dayである。なお、前記水蒸気透過率は、例えば、後述の実施例で用いた方法により測定することができる。
【0041】
つぎに、本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造装置の一例を図1に示す。図示のように、この製造装置は、真空槽12、プラズマ発生源1、無機材料蒸発源2、ハース3、反射電極4、メインロール5、二つの巻き取りロール7a,7b、二つの補助ロール11、気化器13、気化有機材料塗布部14、真空ポンプ19、紫外線ランプユニット16を主要構成要素として有する。真空槽12の一方の外壁(同図において左側外壁)には、プラズマ発生源1が配置されており、それと対向する状態で、反射電極4が、真空槽12の他方の外壁(同図において右側外壁)に配置されている。プラズマ発生源1の周囲には、プラズマを真空槽12内部に導くための環状の電磁石コイル(プラズマ収束コイル)8が配置されている。また、プラズマ発生源1の配置位置と対応する位置および反射電極4の周囲には、プラズマを収束させるための環状の板磁石10および電磁石コイル(プラズマ収束コイル)9が配置されている。また、真空槽12の反射電極4が配置されている位置よりも上方の外壁には、反応ガス導入管6が配置されており、これによって、例えば、窒素ガスや酸素ガス等の反応ガスを真空槽12内に導入することが可能となっている。真空槽12の内部には、一つのメインロール5、二つの巻き取りロール7a,7bおよび二つの補助ロール11が配置されており、一方の巻き取りロール7aから、他方の巻き取りロール7bにわたり、メインロール5および二つの補助ロール11を介して、透明基材フィルム18が掛け渡されている。メインロール5の周囲の所定の位置には、気化有機材料塗布部14が配置されており、これは気化有機材料導入配管17を介して、真空槽12の外部に配置されている気化器13と連結している。この例において、気化器13が、前記材料蒸気発生手段であり、気化有機材料導入配管17および気化有機材料塗布部14が、前記塗膜形成手段である。前記気化器13は、例えば、その壁面で前記液体材料を瞬時に気化し(フラッシュ蒸発)、真空槽12内に供給するものである。前記気化器13の温度は、その内部の液体材料の沸点より高く、前記液体材料の分解温度よりも低いことが好ましい。例えば、前記気化器の温度は、10〜500℃の範囲であり、好ましくは20〜450℃の範囲であり、より好ましくは50〜400℃の範囲である。また、気化有機材料導入管17は、加熱手段(図示せず)によって加熱可能である。また、気化有機材料塗布部14は、真空引配管15を介して真空槽12の外部に配置されている真空ポンプ19と連結しており、この例において、真空引配管15および真空ポンプ19により、本発明の前記減圧手段が構成されている。メインロール5から巻き取りロール7b側の補助ロール11との間に対応する位置には、紫外線ランプユニット16が配置されている。この例において、紫外線ランプユニット16が、本発明の塗膜硬化手段である。図示していないが、紫外線ランプユニット16は、大気圧環境下のボックス内に配置され、外部から導入される冷却空気によって常時冷却される構成となっている。真空槽12の底部には、無機材料蒸発源2が配置され、この上にハース3が配置されている。なお、この例において、プラズマ発生源1には圧力勾配型プラズマガンが用いられ、蒸発源2には電子ビーム発生器が用いられている。
【0042】
前記電子ビーム発生器2は、例えば、陽極とタングステンフィラメント状陰極とから構成され、前記タングステンフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、前記陽極に加速電圧を印加することで発生した磁界によって、前記熱電子の進路を変えて電子ビームを前記ガスバリア性無機薄膜層形成材料に照射するものである。このような電子ビーム発生器2を用いれば、前記形成材料に適した熱電子発生量と加速電圧とを設定することにより、平滑性、密着性およびガスバリア性の高いガスバリア性無機薄膜層を形成することが可能である。
【0043】
この製造装置を用いた透明ガスバリア性フィルムの製造は、例えば、つぎのようにして実施される。すなわち、まず、気化器13により、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料を気化して蒸気を生成させ、これを気化有機材料導入管17を通して気化有機材料塗布部14に送る。一方、一方の巻き取りロール7aから補助ロール11を介してメインロール5に透明基材フィルム18を搬送する。そして、メインロール5上において、気化有機材料塗布部14より、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気を透明基材フィルム18に接触させて塗膜を形成する。この塗膜の形成の際、真空ポンプ19により、真空引配管15を通じて気化有機材料塗布部14が真空引きされているため、前記蒸気の透明基材フィルム18の接触の際の雰囲気圧力(以下、塗布部圧力ともいう)は、真空槽12内の圧力よりも低くなっている。このため、前記蒸気が真空槽12内に拡散することなく、前記塗膜を形成することができる。前記雰囲気圧力は前述のとおりである。ついで、前記塗膜が形成された透明基材フィルム18は、他方の巻き取りロール7b側に搬送される途中、紫外線ランプユニット16により紫外線照射されることにより前記塗膜が硬化してガスバリア性有機薄膜層が形成される。この搬送ないし硬化の際、真空槽12内の圧力を、透明基材フィルム18の温度における前記形成材料の蒸気圧よりも高く設定することにより、真空槽12内への前記形成材料の拡散を防止することができる。真空槽12内の圧力は前述のとおりである。このようにして、前記ガスバリア性有機薄膜層を透明基材フィルム18の上に連続して形成して、透明ガスバリア性フィルムを連続製造することができる。透明基材フィルム18の搬送速度は、特に制限されず、前記形成材料の蒸気量等に応じ、前記ガスバリア性有機薄膜層が前述の厚みになるように適宜調整すればよい。
【0044】
他方、ガスバリア性無機薄膜層は、例えば、つぎのようにして形成することができる。すなわち、まず、真空槽12内を前述のような圧力の高真空状態とする。そして、ハース3中のガスバリア性無機薄膜層形成材料に電子ビーム発生器2で発生させた電子ビームを照射して物理的に前記形成材料を気化させ、透明基材フィルム18の上にガスバリア性無機薄膜層を形成する。この形成の際に、前記電子ビーム発生器2とは別に配置された圧力勾配型プラズマガン1によって発生されるプラズマを利用して、前記気化した形成材料を活性化させて、透明基材フィルム18の上にガスバリア性無機薄膜層を形成する。窒素ガスや酸素ガス等の反応ガスを用いる場合においては、前記プラズマは、前記気化した形成材料と反応ガスとの反応にも作用する。透明基材フィルム18の搬送速度は、特に制限されず、前記形成材料の蒸気量等に応じ、前記ガスバリア性無機薄膜層が前述の厚みになるように適宜調整すればよい。ガスバリア性無機薄膜層は、透明基材フィルム18の上に直接形成してもよいし、予め形成したガスバリア性有機薄膜層の上に形成してもよい。また、ガスバリア性有機薄膜層およびガスバリア性無機薄膜層を交互に形成する場合は、例えば、一方の巻き取りロール7aから他方のロール7bに前記透明基材フィルム18を搬送する際に、前記ガスバリア性有機薄膜層を形成し、ついで搬送方向を反転させ、前記他方のロール7bから前記一方のロール7aに前記透明基材フィルム18を搬送する際に、前記形成されたガスバリア性有機薄膜層の上にガスバリア性無機薄膜層を形成するという工程を一回以上繰り返してもよい。また、前記工程において、ガスバリア性有機薄膜層とガスバリア性無機薄膜層の形成順序は、逆であってもよく、まず、ガスバリア性無機薄膜層を形成した後、この上にガスバリア性有機薄膜層を形成するという順序であってもよい。
【0045】
前記ガスバリア性無機薄膜層の形成において、前記電子ビーム発生器2の加速電圧は、1〜20kVの範囲であることが好ましく、前記フィラメントに通電する電流は、10〜200mAの範囲であることが好ましい。前記加速電圧および前記通電電流を前記範囲とすることにより、前記形成材料を好適に気化することができ、透明基材フィルム18に対し、熱的ないし機械的なダメージを与えることなく、透明基材フィルム18上に欠陥のない前記ガスバリア性無機薄膜層を形成することが可能となる。なお、より好ましくは、前記加速電圧が2〜10kVの範囲であり、前記通電電流が30〜70mAの範囲である。
【0046】
前記ガスバリア性無機薄膜層の形成において、圧力勾配型プラズマガン1の放電電流は、前記形成材料の種類や前記反応ガスの使用の有無等に応じて適宜調整することができるが、例えば、10〜110Aの範囲であり、好ましくは、50〜110Aの範囲であり、より好ましくは、80〜110Aの範囲である。圧力勾配型プラズマガン1の加速電圧は、真空槽12内の圧力により変化するため、前記放電電流により調整すればよい。
【実施例1】
【0047】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は下記実施例により限定されない。また、下記実施例における各特性は、下記の方法により測定した。
【0048】
(1)ガスバリア性薄膜層の厚み
ガスバリア性有機薄膜層およびガスバリア性無機薄膜層の厚みは、形成したガスバリア性薄膜層をエポキシ樹脂で包埋し、超薄切片法により試料断面を透過型電子顕微鏡(HITACHI社製、商品名:H−800、加速電圧200kV)で観察して求めた。
【0049】
(2)水蒸気透過率
水蒸気透過率は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN−W)を用い、40℃、90%RH環境下で測定した。なお、前記水蒸気透過率測定装置の測定範囲が0.1g/m/day以上であることから、水蒸気透過率がそれより低い透明ガスバリア性フィルムについては、その水蒸気透過率は、つぎのようにして測定した。すなわち、まず、透明ガスバリア性フィルムの透明基材フィルム側の面に、真空蒸着装置(ULVAC社製)を用いて金属カルシウムを厚み100nmで蒸着させた。ついで、真空状態のまま、別に設けたアルミニウム蒸着源から前記金属カルシウム蒸着面を覆うようにアルミニウムを厚み300μmで蒸着させ、真空蒸着装置から取り出し、直ちに透湿カップで前記蒸着面が大気に露出しないように封止して、水蒸気透過率測定サンプルを得た。得られた水蒸気透過率測定サンプルを、恒温恒湿オーブン中で、40℃90%RHの条件下に24時間暴露し、前記金属カルシウムの腐食状態を観察した。前記金属カルシウムの腐食状態の観察は、デジタルカメラ、光学顕微鏡、レーザ顕微鏡(KEYENCE社製)を用いて画図を撮影することにより実施した。腐食した部分は、金属カルシウムが水分と反応して水酸化カルシウムとなり、画像中の変色もしくは白色部として観察された。腐食部の総面積から金属カルシウムと反応した水分を算出し、水蒸気透過率を求めた。
【0050】
(3)可視光透過率
可視光透過率は、日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計(商品名:V−560−DS)を使用して測定し、550nmの透過率で表した。
【0051】
図1の製造装置を用いて透明ガスバリア性フィルムを製造した。すなわち、まず、ガスバリア性有機薄膜層形成材料(ポリエチレンジアクリレート、ステアリルアクリレートおよび光重合開始剤(商品名:イルガキュア907)の混合物)を気化器13で温度150℃で気化して蒸気を発生させた。一方、透明基材フィルム(厚み100μmのPETフィルム、三菱ポリエステル社製、商品名:ダイヤホイルO400K)18を、巻き取りロール7aから、補助ロール11を介してメインロール5に搬送し、到達圧力3×10−4Pa、アルゴン流量40sccm、塗布部圧力10Pa、真空槽12圧力300Pa、透明基材フィルム18搬送速度0.25m/分の条件下で、発生した前記蒸気を気化有機材料導入管17を通して気化有機材料塗布部14に導入し、透明基材フィルム18に接触させて塗膜を形成し、ついで紫外線ランプユニット16により紫外線を出力100W/cmの条件で照射して前記塗膜を硬化させて透明基材フィルム18の上にガスバリア性有機薄膜層(厚み200nm)を形成し、巻き取りロール7bに巻き取った。つぎに、搬送方向を反転し、巻き取りロール7bから補助ロール11を介してメインロール5に透明基材フィルム18を搬送した。この状態で、到達圧力3×10−4Pa、窒素流量20sccm、アルゴン流量23sccm、成膜圧力3×10−2Pa、透明基材フィルム18搬送速度0.25/分の条件下で、ハース3の中のSiOペレットに、加速電圧6kV、フィラメント電流43mAで電子ビーム発生器2から電子ビームを照射して前記SiOを気化させた。そして、加速電圧15Aおよび放電電流100Aの条件で圧力勾配型プラズマガン1からプラズマを発生させて、このプラズマにより、前記気化したSiOを活性化させ、かつ前記気化したSiOと前記窒素との反応を促進させて、前記ガスバリア性有機薄膜層の上に、ガスバリア性無機薄膜層(ケイ素酸窒化膜)を形成して、透明ガスバリア性フィルムを得た。得られた透明ガスバリア性フィルムは、補助ロール11を介して巻き取りロール7aに巻き取った。前記ガスバリア性無機薄膜層の厚みは、60nmであった。また、ガスバリア性無機薄膜層の組成を化学分析用電子分光法(ESCA)で分析したところ、その元素組成は、Si:N:O=1:0.53:1.03であった。また、得られた透明ガスバリア性フィルムにおいて、その水蒸気透過率は0.03g/m/dayであり、その可視光透過率は86%であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法および透明ガスバリア性フィルムの製造装置によれば、ガスバリア性に優れた透明ガスバリア性フィルムを効率良く製造することが可能である。本発明の透明ガスバリア性フィルムは、例えば、有機EL表示装置、フィールドエミッション表示装置ないし液晶表示装置等の各種の表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、電気二重層コンデンサ等の各種の電気素子・電子素子の基板ないし封止材料等として使用することができ、その用途は制限されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0054】
1 プラズマ発生源(圧力勾配型プラズマガン)
2 蒸発源(電子ビーム発生器)
3 ハース
4 反射電極
5 メインロール
6 反応ガス導入管
7a,7b 巻き取りロール
8、9 プラズマ収束コイル
10 板磁石
11 補助ロール
12 真空槽
13 気化器
14 気化有機材料塗布部
15 真空引配管
16 紫外線照射ランプユニット
17 気化有機材料導入配管
18 透明基材フィルム
19 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルム上にガスバリア性有機薄膜層を形成する工程および前記透明基材フィルム上にガスバリア性無機薄膜層を形成する工程を有し、前記両工程が同一の真空槽を用いて実施される透明ガスバリア性フィルムの製造方法であって、前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する工程が、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料を気化して発生した蒸気を前記透明基材フィルムに接触させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を硬化して前記透明ガスバリア性有機薄膜層を形成する塗膜硬化工程とを有し、前記塗膜形成工程が前記真空槽内で実施され、前記塗膜形成工程において、前記真空槽内の圧力よりも低い雰囲気圧力条件下で前記蒸気を前記透明基材フィルムに接触させることを特徴とする透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記真空槽内の圧力よりも低い前記雰囲気圧力条件下が、前記真空槽の真空引とは別に真空引きすることで実現する請求項1記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記透明基材フィルムの温度における前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料の蒸気圧が、前記真空槽内の圧力よりも低い請求項1または2記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料が、活性エネルギー線硬化性材料であり、前記塗膜硬化工程を、前記塗膜に前記活性エネルギー線を照射することにより実施する請求項1ないし3のいずれかに記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記活性エネルギー線が紫外線であり、前記活性エネルギー線硬化性材料が紫外線硬化性材料である請求項4記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記塗膜硬化工程が、前記真空槽内で実施される請求項1ないし5のいずれかに記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記真空槽内に、2つのロールを配置し、前記2つのロールの一方のロールから他方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記塗膜形成工程および前記塗膜硬化工程を実施する請求項6記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ガスバリア性無機薄膜層を形成する工程が、前記ガスバリア性無機薄膜層形成材料を蒸発源によって物理的に気化し、前記蒸発源とは別のプラズマ発生源によって発生するプラズマを利用して前記気化した前記形成材料を活性化させることにより前記ガスバリア性無機薄膜層を形成する工程である請求項1ないし7のいずれかに記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記プラズマ発生源が、圧力勾配型プラズマガンである請求項8記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記蒸発源が、電子ビーム発生器である請求項8または9記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記透明基材フィルム上に、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層のいずれか一方の層を形成し、前記形成された層の上に、他方の層を形成する請求項1ないし10のいずれかに記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記真空槽内に2つのロールを配置し、前記2つのロールのうちの一方のロールから他方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記ガスバリア性有機薄膜層および前記ガスバリア性無機薄膜層のいずれか一方を形成し、ついで搬送方向を反転させ、前記他方のロールから前記一方のロールに前記透明基材フィルムを搬送する際に、前記形成された層の上に他方の層を形成する請求項11記載の透明ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の製造方法によって製造された透明ガスバリア性フィルム。
【請求項14】
真空槽と、透明基材フィルム上にガスバリア性有機薄膜層を形成する手段と、前記透明基材フィルム上にガスバリア性無機薄膜層を形成する手段とを有する透明ガスバリア性フィルムの製造装置であって、前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する手段は、前記ガスバリア性有機薄膜層形成材料を気化して材料蒸気を発生させる材料蒸気発生手段と、前記材料蒸気を前記真空槽内に導入して前記透明基材フィルムに接触させて塗膜を形成する塗膜形成手段と、前記塗膜を硬化させて前記ガスバリア性有機薄膜層を形成する塗膜硬化手段とを有し、さらに、前記真空槽内の圧力よりも低い雰囲気圧力条件下で前記材料蒸気を前記透明基材フィルムに接触させるための減圧手段を有することを特徴とする透明ガスバリア性フィルムの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−230115(P2007−230115A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55820(P2006−55820)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】