説明

過給式エンジンの吸気量制御装置

【課題】滑らかに出力トルクを変化させることができる過給式エンジンの吸気量制御装置を提供する。
【解決手段】吸気通路30の吸気流通面積を変化させるスロットルバルブ32と、吸気を過給する過給器35と、エンジン運転状態に応じて吸気バルブ51のバルブタイミングを変更する吸気可変動弁装置53と、を備え、アクセルペダル踏込み量の増加に応じてスロットル開度を増加させ、所定のスロットル開度に達した時に過給器35による吸気の過給を開始して吸気量を増加させる吸気量制御装置であって、吸気バルブ51のバルブタイミングに応じて所定のスロットル開度を変更する吸気制御手段70を備える、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給式エンジンの吸気量を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スロットルバルブのスロットル開度に応じて吸気量を制御するスロットル制御と、過給器による過給圧に応じて吸気量を制御する過給圧制御とを組み合わせて、過給式エンジンに供給される吸気量を制御する吸気量制御装置が開示されている。
【0003】
車両が平坦路から登坂路に進入した場合等においては、アクセルペダルを踏み込んでもエンジン回転速度が上昇せずに一定となることがある。エンジン回転速度が一定である場合、スロットル開度が飽和スロットル開度に達すると、それ以上スロットル開度を大きくしても吸気量が増加しなくなる。そのため特許文献1の吸気量制御装置では、スロットル開度が飽和スロットル開度より大きくなった時に、スロットル制御から過給圧制御に移行して、吸気量を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−76498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に記載の吸気量制御装置では、飽和スロットル開度をエンジン回転速度のみによって決定し、アクセルペダル踏込み量とエンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度及び目標圧力比を設定する。
【0006】
しかしながら、吸気バルブや排気バルブのバルブタイミングによってもコレクタ内圧力は変動するので、飽和スロットル開度はバルブ作動状態によっても変化する。吸気バルブや排気バルブのバルブタイミングを変更する過給式エンジンでは、特許文献1のようにアクセルペダル踏込み量とエンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度及び目標圧力比を設定すると、バルブ作動状態によっては過給開始時等にトルク変化が大きくなって、滑らかに出力トルクを変化させることができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、滑らかに出力トルクを変化させることができる過給式エンジンの吸気量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0009】
本発明は、吸気通路の吸気流通面積を変化させるスロットルバルブと、吸気を過給する過給器と、エンジン運転状態に応じて吸気バルブのバルブタイミングを変更する吸気可変動弁装置と、を備え、アクセルペダル踏込み量の増加に応じてスロットル開度を増加させ、所定のスロットル開度に達した時に過給器による吸気の過給を開始して吸気量を増加させる吸気量制御装置であって、吸気バルブのバルブタイミングに応じて所定のスロットル開度を変更する吸気制御手段を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過給器による吸気の過給を開始する所定のスロットル開度を吸気バルブのバルブタイミングに応じて変更するので、吸気バルブの作動状態が変化しても、アクセルペダル踏込み量に応じて吸気量を滑らかに変化させることができ、過給式エンジンの出力トルクを滑らかに変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】過給式エンジンの概略構成図である。
【図2】エンジン冷機時における過給式エンジンの運転状態を説明する図である。
【図3】エンジン暖機時における過給式エンジンの運転状態を説明する図である。
【図4】吸気量比−スロットル開度特性を示す図である。
【図5】コントローラが実行するメインルーチンを説明するフローチャートである。
【図6】基礎シリンダ最大吸気量特性及び内部EGR補正値特性を示す図である。
【図7】アクセルペダル踏込み量と、吸気量比及び目標圧力比との関係を説明する図である。
【図8】コントローラが実行するサブルーチンを説明するフローチャートである。
【図9】アクセルペダル踏込み量に応じた吸気量の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、過給式エンジン100の概略構成図である。
【0014】
図1に示すように、車両用の過給式エンジン100は、シリンダブロック10と、シリンダブロック10の上側に配置されるシリンダヘッド20とを備える。
【0015】
シリンダブロック10には、ピストン11の冠面と、シリンダ壁面と、シリンダヘッド20の下面とによって燃焼室12が形成される。燃焼室12で混合気が燃焼すると、ピストン11は燃焼による燃焼圧力を受けてシリンダ内を往復動する。
【0016】
シリンダヘッド20は、燃焼室12内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁21と、混合気に点火する点火プラグ22と、燃焼室12に吸気を供給する吸気ポート23と、燃焼室12からの排気を排出する排気ポート24とを備える。
【0017】
吸気ポート23には、外部から取り入れた吸気を流す吸気通路30が接続する。排気ポート24には、排気を外部に排出する排気通路40が接続する。
【0018】
吸気通路30は、エアフローメータ31と、過給制御バルブ32と、スロットルバルブ33と、分岐部30Aから分岐して合流部30Bで合流するバイパス通路34とを備える。
【0019】
エアフローメータ31は、分岐部30Aよりも上流側の吸気通路30に設けられる。エアフローメータ31は、熱線式のエアフローメータであって、過給式エンジン100に供給される吸気の吸気流量を検出する。
【0020】
過給制御バルブ32は、分岐部30Aと合流部30Bとの間の吸気通路30に設けられる。過給制御バルブ32は、エンジン運転状態に応じて吸気通路30を開閉する。
【0021】
スロットルバルブ33は、合流部30Bよりも下流側の吸気通路30に設置される。スロットルバルブ33は、吸気通路30の吸気流通面積を変化させることで、過給式エンジン100に導入される吸気の吸気量を調整する。
【0022】
バイパス通路34には、過給器35と、インタークーラ36とが設置される。
【0023】
過給器35は、クランクシャフトによって駆動されるルーツ式スーパーチャージャであって、エンジン運転状態に応じてバイパス通路34内を流れる吸気を過給する。過給器35によって過給される吸気の過給圧は、過給制御バルブ32の開度を制御することで調整される。なお、過給器35は、電動モータ等によって駆動するようにしてもよい。
【0024】
インタークーラ36は、過給器35よりも下流側のバイパス通路34に設置される。インタークーラ36は、過給器35により圧縮されて高温となった吸気を冷却する。
【0025】
一方、吸気ポート23には、吸気バルブ51が設けられる。吸気バルブ51は、吸気カムシャフト52に一体形成されるカムによって駆動され、ピストン11の上下動に応じて吸気ポート23を開閉する。吸気バルブ51のバルブタイミングは、吸気側可変動弁装置(以下「吸気VTC」という)53によって調整される。吸気VTC53は、油圧制御によってクランクシャフトに対する吸気カムシャフト52の相対位相角を変更する装置である。
【0026】
排気ポート24には、排気バルブ61が設けられる。排気バルブ61は、排気カムシャフト62に一体形成されるカムによって駆動され、ピストン11の上下動に応じて排気ポート24を開閉する。排気バルブ61のバルブタイミングは、排気側可変動弁装置(以下「排気VTC」という)63によって調整される。排気VTC63は、油圧制御によってクランクシャフトに対する排気カムシャフト62の相対位相角を変更する装置である。
【0027】
過給制御バルブ32、スロットルバルブ33、吸気VTC53及び排気VTC63は、コントローラ70によって制御される。
【0028】
コントローラ70は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0029】
コントローラ70には、大気圧を検出する大気圧センサ71、過給圧を検出する過給圧センサ72、所定クランク角度ごとにクランク角度信号を生成するクランク角度センサ73と、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ74と、吸気カムシャフト52のカム角度を検出する吸気カム角センサ75と、排気カムシャフト62のカム角度を検出する排気カム角センサ76とからの検出データがそれぞれ信号として入力する。コントローラ70は、これらの入力信号に基づき、過給制御バルブ32の開度やスロットルバルブ33のスロットル開度、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングを調整する。
【0030】
次に、図2及び図3を参照して、過給式エンジン100の運転状態について説明する。
【0031】
エンジン冷機時には、過給式エンジン100は、図2(A)に示す運転マップに基づいて運転される。過給式エンジン100では、過給境界線Aよりも高エンジン負荷側の領域において過給器35による過給を行う。
【0032】
エンジン冷機時には全運転領域において、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングが図2(B)に示す第1バルブタイミングに設定され、ミラーサイクル運転が実行される。
【0033】
図2(B)の第1バルブタイミングでは、排気バルブ61は、膨張下死点前の所定時期EVO1で開弁し、排気上死点前の所定時期EVC1で閉弁する。吸気バルブ51は、排気バルブ閉弁時期とほぼ同タイミングであって、排気上死点前の所定時期IVO1で開弁し、吸気下死点後の所定時期IVC1で閉弁する。過給式エンジン100では、実圧縮比が低下するように吸気バルブ51の閉弁時期を吸気下死点後に設定することで、いわゆる吸気バルブ遅閉じのミラーサイクル運転を実現する。
【0034】
一方、エンジン暖機時には、過給式エンジン100は、図3(A)に示す運転マップに基づいて運転される。
【0035】
図3(A)の運転マップは、低エンジン回転速度側と低エンジン負荷側とを含む低回転速度・低負荷領域R1と、過給境界線Bよりも低エンジン負荷側の中負荷領域R2と、過給境界線Bよりも高エンジン負荷側の過給領域R3との3つに分けられる。なお、図3(A)において、エンジン暖機時における過給境界線B(実線)はエンジン冷機時における過給境界線A(破線)よりも低エンジン負荷側にシフトする。
【0036】
低回転速度・低負荷領域R1では、吸気バルブ51及び排気バルブ61は、エンジン冷機時と同様の第1バルブタイミングに設定される。
【0037】
過給領域R3では、吸気バルブ51及び排気バルブ61は図3(B)に示す第3バルブタイミングに設定され、ミラーサイクル運転が実行される。
【0038】
図3(B)の第3バルブタイミングでは、吸気バルブ51及び排気バルブ61は、第1バルブタイミングに対して遅角制御される。排気バルブ61は、膨張下死点前の所定時期EVO2で開弁し、排気上死点である所定時期EVC2で閉弁する。吸気バルブ51は、排気バルブ閉弁時期とほぼ同タイミングであって、排気上死点である所定時期IVO2で開弁し、吸気下死点後90度の所定時期IVC2で閉弁する。
【0039】
第3バルブタイミングでは、吸気バルブ51は第1バルブタイミングよりも遅閉じされるので、実圧縮比がさらに低下する。
【0040】
中負荷領域R2では、吸気バルブ51及び排気バルブ61は図3(C)に示す第2バルブタイミングに設定され、ミラーサイクル運転が実行される。
【0041】
図3(C)の第2バルブタイミングでは、吸気バルブ51及び排気バルブ61は第3バルブタイミングに対して遅角制御される。排気バルブ61は、膨張下死点前の所定時期EVO3で開弁し、排気上死点後の所定時期EVC3で閉弁する。吸気バルブ51は、排気上死点後の所定時期IVO3で開弁し、吸気下死点後90度よりも遅い所定時期IVC3で閉弁する。
【0042】
第2バルブタイミングでは、吸気バルブ51の開弁期間と排気バルブ61の開弁期間がオーバラップするように設定され、排気ポート24内の排気の一部を内部EGRガスとして燃焼室12に供給する。また、第2バルブタイミングでは、吸気バルブ51は第3バルブタイミングよりも遅閉じされるので、実圧縮比がさらに低下する。
【0043】
ところで、車両が平坦路から登坂路に進入した場合等においては、アクセルペダルを踏み込んでもエンジン回転速度が上昇せずに一定となることがある。エンジン回転速度が一定の場合には、スロットル開度が飽和スロットル開度に達すると、それ以上スロットル開度を大きくしても吸気量が増加しなくなる。そこで、特許文献1に記載の過給式エンジンでは、エンジン回転速度と飽和スロットル開度との関係について考慮し、アクセルペダル踏込み量とエンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度及び目標圧力比を設定する。
【0044】
しかしながら、飽和スロットル開度は、吸気バルブや排気バルブのバルブ作動状態によっても変化する。
【0045】
図4は、過給式エンジン100の吸気量比とスロットル開度との関係を示した図である。吸気量比は、シリンダ内に導入された吸気量と、NA時におけるシリンダ最大吸気量となるシリンダ実効容積との割合である。線Cは、低回転速度・低負荷領域R1の所定運転点における吸気量比特性を示す。線Dは、中負荷領域R2の所定運転点における吸気量比特性を示す。破線Eは、等ブーストラインを示す。
【0046】
図4に示すように、低回転速度・低負荷領域R1での第1バルブタイミングにおけるシリンダ実効容積を基準にすると、中負荷領域R2での第2バルブタイミングにおけるシリンダ実効容積は約60%程度となる。吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングに応じてシリンダ実効容積が変化すると、線C及び線Dに示すように、スロットル開度を増大しても吸気量が増加しなくなる飽和スロットル開度T1、T2も変化する。
【0047】
過給式エンジン100では、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングは、同じ運転点にあってもエンジン暖機状態によって変化し、暖機後には運転領域によって変化する。そのため過給式エンジン100において、特許文献1のようにエンジン回転速度と飽和スロットル開度の関係について考慮して目標スロットル開度及び目標圧力比を設定すると、バルブ作動状態によっては過給開始時等にトルク変化が大きくなって、滑らかに出力トルクを変化させることができないという問題がある。
【0048】
そこで、本実施形態の過給式エンジン100の吸気量制御装置は、上記問題を解決するため、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブ作動状態を考慮して目標スロットル開度及び目標圧力比を設定し、スロットルバルブ33及び過給制御バルブ32を制御する。
【0049】
図5は、コントローラ70が実行する制御ルーチンを説明するフローチャートである。この制御ルーチンは、エンジン100の運転中に一定間隔、例えば10ミリ秒間隔で繰り返し実行される。
【0050】
ステップS101では、コントローラ70は、エンジン回転速度とアクセルペダル踏込み量とに基づき、基礎要求シリンダ吸気量TTPSTSCを算出する。
【0051】
なお、エンジン回転速度はクランク角度センサ73によって検出され、アクセルペダル踏込み量はアクセルペダルセンサ74によって検出される。アクセルペダル踏込み量は、過給式エンジン100のエンジン負荷を代表する。
【0052】
ステップS102では、コントローラ70は、エンジン回転速度とアクセルペダル踏込み量とに基づき、目標当量比DMLを算出する。目標当量比DMLは、理論空燃比を目標空燃比で割った値である。
【0053】
ステップS103では、コントローラ70は、基礎要求シリンダ吸気量TTPSTSCを目標当量比DMLで割って、要求シリンダ吸気量TTPSCを算出する。要求シリンダ吸気量TTPSCは、目標空燃比に対して必要な吸気量である。
【0054】
ステップ104では、コントローラ70は、エンジン回転速度と、吸気バルブ51のバルブタイミングとに基づいて図6(A)に示すマップから、基礎シリンダ最大吸気量TPMAXVTCを算出する。吸気バルブ51のバルブタイミングは、吸気カム角センサ75によって検出されるカム角度に基づいて算出される。
【0055】
図6(A)において、線Fは吸気バルブ51が第1バルブタイミングに設定されている場合を、線Gは吸気バルブ51が第2バルブタイミングに設定されている場合を、線Hは吸気バルブ51が第3バルブタイミングに設定されている場合を示す。
【0056】
なお、本実施形態では、エンジン回転速度と吸気バルブタイミングとに基づいて基礎シリンダ最大吸気量を算出したが、吸気バルブタイミングだけで基礎シリンダ最大吸気量を算出してもよく、エンジン回転速度と吸気バルブタイミングと排気バルブタイミングとに基づいて基礎シリンダ最大吸気量を算出してもよい。
【0057】
ステップS105では、コントローラ70は、エンジン回転速度と、排気バルブ61のバルブタイミングとに基づいて図6(B)のマップから、内部EGR補正値INTEGRを算出する。排気バルブ61のバルブタイミングは、排気カム角センサ76によって検出されるカム角度に基づいて算出される。
【0058】
図6(B)において、線Iは排気バルブ61が第1及び第3バルブタイミングに設定されている場合を示し、線Jは排気バルブ61が第2バルブタイミングに設定されている場合を示す。
【0059】
なお、本実施形態では、エンジン回転速度と排気バルブタイミングとに基づいて内部EGR補正値を算出したが、排気バルブタイミングだけで内部EGR補正値を算出してもよく、エンジン回転速度と吸気バルブタイミングと排気バルブタイミングとに基づいて内部EGR補正値を算出してもよい。
【0060】
ステップS106では、コントローラ70は、基礎シリンダ最大吸気量TPMAXVTCに内部EGR補正値INTEGRを乗じて、シリンダ最大吸気量TPMAXVを算出する。
【0061】
ステップS107では、コントローラ70は、ステップS103で求めた要求シリンダ吸気量TTPSCを、ステップS106で求めたシリンダ最大吸気量TPMAXVで割って、要求吸気量比TGQH0SCを算出する。
【0062】
ステップS108では、コントローラ70は、要求吸気量比TGQH0SCが過給開始吸気量比SCQH0よりも小さいか否かを判定する。過給開始吸気量比SCQH0は、一定値であって、1または1よりも小さな値として設定される。
【0063】
要求吸気量比TGQH0SCが過給開始吸気量比SCQH0よりも小さい場合には、コントローラ70は、ステップS109の処理を実行する。それ以外の場合には、コントローラ70は、ステップS110の処理を実行する。
【0064】
ステップS109では、コントローラ70は、要求吸気量比TGQH0SCを、目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0として設定する。また、コントローラ70は、要求吸気量比TGQH0SCを過給開始吸気量比SCQH0で割った値と、1とを比較して大きい方を、目標圧力比TGPRとして設定する。
【0065】
ステップS110では、コントローラ70は、要求吸気量比TGQH0SCと、1とを比較して小さい方を、目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0として設定する。また、コントローラ70は、要求吸気量比TGQH0SCを過給開始吸気量比SCQH0で割った値を、目標圧力比TGPRとして設定する。
【0066】
ステップS111では、コントローラ70は、目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0に基づいて目標スロットル開度TTVOを算出し、実スロットル開度が目標スロットル開度TTVOとなるようにスロットルバルブ33を駆動する。なお、スロットルバルブ33の制御については、図8を参照して後述する。
【0067】
ステップS112では、コントローラ70は、実圧力比が目標圧力比TGPRとなるように過給制御バルブ32を駆動する。実圧力比は、過給圧センサ72によって検出される過給圧を、大気圧センサ71によって検出される大気圧で割った値である。
【0068】
図7(A)〜図7(C)を参照して、ステップS108〜S112の内容についてさらに説明する。
【0069】
運転者によってアクセルペダルが踏込まれると、アクセルペダル踏込み量、エンジン回転速度、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングに基づいて算出される要求吸気量比TGQH0SCが図7(A)の実線Kに示すように増大する。
【0070】
要求吸気量比TGQH0SCが、1より小さい値に設定された過給開始吸気量比SCQH0よりも小さい場合には、目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0は実線Lに示すように要求吸気量比TGQH0SCに設定され、目標圧力比は実線Mに示すように1に設定される。
【0071】
スロットルバルブ33は図7(B)に示すように目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0に基づいて開弁され、過給制御バルブ32は図7(C)に示すように目標圧力比TGPRに基づいて全開とされる。要求吸気量比TGQH0SCが過給開始吸気量比SCQH0よりも小さい場合には、スロットルバルブ33によって、過給式エンジン100に供給される吸気量を制御する。
【0072】
これに対して、要求吸気量比TGQH0SCが過給開始吸気量比SCQH0よりも大きくなると、実線Lに示すように、要求吸気量比TGQH0SCが1を越えるまでは目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0は要求吸気量比TGQH0SCに設定され、要求吸気量比TGQH0SCが1を1越えた後は目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0は1に設定される。目標圧力比は、実線Mに示すように、要求吸気量比TGQH0SCを過給開始吸気量比SCQH0で割った値に設定される。
【0073】
スロットルバルブ33は、図7(B)に示すように目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0に基づいて開弁され、過給制御バルブ32は図7(C)に示すように目標圧力比TGPRに基づいて閉弁される。要求吸気量比TGQH0SCが過給開始吸気量比SCQH0よりも大きい場合には、過給制御バルブ32によって過給器35の過給圧を制御し、過給式エンジン100に供給される吸気量を制御する。すなわち、要求吸気量比が過給開始吸気量比より大きくなる時のスロットル開度が飽和スロットル開度となる。
【0074】
図8を参照して、図5のステップS111で実行されるスロットルバルブ制御のサブルーチンについて説明する。
【0075】
ステップS201では、コントローラ70は、目標スロットル通過吸気量比TGTHQH0に基づいて、目標基本正規化総開口面積TGADNV0を算出する。
【0076】
ステップS202では、コントローラ70は、エンジン回転速度と、基準吸気バルブタイミングとに基づいて、基準シリンダ最大吸気量TPMAXSTを算出する。基準吸気バルブタイミングは、例えば第1バルブタイミングにおける吸気バルブタイミングである。したがって、基準シリンダ最大吸気量TPMAXSTは、図6(A)の線Fを参照することで得られる。
【0077】
ステップS203では、コントローラ70は、エンジン回転速度と、基準排気バルブタイミングとに基づいて、基準内部EGR補正値INTEGRSTを算出する。基準排気バルブタイミングは、例えば第1バルブタイミングにおける排気バルブタイミングである。したがって、基準内部EGR補正値INTEGRSTは、図6(B)の線Iを参照することで得られる。
【0078】
ステップS204では、コントローラ70は、基準シリンダ最大吸気量TPMAXSTに基準内部EGR補正値INTEGRSTを乗ずることで、基準バルタイシリンダ最大吸気量TPMAXSTVを算出する。
【0079】
ステップS205では、コントローラ70は、基準バルタイシリンダ最大吸気量TPMAXSTVを、図5のS106で求めたシリンダ最大吸気量TPMAXVで割ることによって、シリンダ実効容積比VCYLRを算出する。
【0080】
ステップS206では、コントローラ70は、ステップS201で求めた目標基本正規化総開口面積TGADNV0にシリンダ実効容積比VCYLRを乗ずることで、目標正規化総開口面積TGADNVを算出する。
【0081】
ステップS207では、コントローラ70は、エンジン回転速度と、エンジン毎に定まる排気量と、目標正規化総開口面積TGADNVとに基づき、目標スロットル開口面積TATHを算出する。
【0082】
ステップS208では、コントローラ70は、目標スロットル開口面積TATHから開口面積−開度変換テーブルを参照して、目標スロットル開度TTVOを算出する。
【0083】
ステップS209では、コントローラ70は、実スロットル開度が目標スロットル開度となるように、スロットルバルブ33を駆動する。
【0084】
次に、過給式エンジン100の吸気量制御装置における作用・効果について説明する。
【0085】
過給式エンジン100の吸気量制御装置は、アクセルペダル踏込み量、エンジン回転速度、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングに基づいて算出される要求吸気量比に基づいて、目標スロットル開度及び目標圧力比を設定する。より具体的には、図6(A)に示すように、吸気バルブタイミングが遅閉じになるほどシリンダ最大吸気量が小さくなるので、要求吸気量比が大きくなる傾向になり、その結果要求シリンダ吸気量が小さい段階から過給制御バルブ32を閉弁して過給を開始する。すなわち、吸気バルブタイミングが遅閉じになるほど飽和スロットル開度が小さくなり、スロットル開度が小さい段階から過給を開始する。
【0086】
図9は、エンジン暖機時にアクセルペダルを踏み込んで、過給式エンジン100の運転点が中負荷領域R2から過給領域R3に移行した場合を例示したものである。
【0087】
図9に示すようにアクセルペダルが踏み込まれて、時刻t1においてスロットル開度が中負荷領域R2での飽和スロットル開度T1(図4参照)に達すると、過給制御バルブ32を閉弁して過給を開始する。
【0088】
しかしながら、中負荷領域R2からの加速にかかわらず、図9(C)の一点鎖線に示すように低回転速度・低負荷領域R1での飽和スロットル開度T2(図4参照)で過給制御バルブ32を閉弁して過給を開始すると、スロットル開度がT1からT2になるまでの時刻t1〜t2の間は、図9(D)の破線に示すように吸気量がほとんど増加しなくなるので、アクセルペダル踏込み量に応じて過給式エンジン100の出力トルクが滑らかに変化しなくなる。
【0089】
過給式エンジン100の吸気量制御装置は、図9(B)の実線に示すようにスロットル開度がT1となる時に、図9(C)の実線に示すように過給制御バルブ32を閉弁して過給を開始する。そのため、図9(D)の実線に示すように、アクセルペダル踏込み量に応じて吸気量を滑らかに変化させることができる。
【0090】
また、図3(C)に示す第2バルブタイミングの特性のように吸気バルブ51の開弁期間と排気バルブ61の開弁期間がオーバラップして内部EGRガスが燃焼室12に供給される場合には、シリンダへの吸気量が減少するため、シリンダ最大吸気量が減少する。その結果、要求吸気量比が大きくなる傾向になって、要求シリンダ吸気量が小さい段階から過給制御バルブ32を閉弁して過給を開始する。すなわち、内部EGRガスが多いほど飽和スロットル開度が小さくなり、スロットル開度が小さい段階から過給を開始する。
【0091】
以上により、過給式エンジン100の吸気量制御装置では下記の効果を得ることができる。
【0092】
過給式エンジン100の吸気量制御装置は、アクセルペダル踏込み量、エンジン回転速度、吸気バルブ51及び排気バルブ61のバルブタイミングに基づいて算出される要求吸気量比に基づいて、目標スロットル開度及び目標圧力比を設定するので、アクセルペダル踏込み量に応じて吸気量を滑らかに変化させることができ、過給式エンジン100の出力トルクを滑らかに変化させることができる。
【0093】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0094】
本実施形態では、過給式エンジン100の過給器35をスーパーチャージャで構成するようにしたが、これに限れるものではなく、過給器35をターボチャージャで構成するようにしてもよい。この場合には、ウェストゲートバルブの開度を制御することで過給圧制御を行う。
【0095】
また、過給式エンジン100は、吸気バルブ51の開閉時期を制御する吸気VTC53を備えるように構成したが、吸気バルブ51の開閉時期だけでなくリフト量も制御する可変動弁装置を備えるように構成してもよい。この場合には、図5のステップS106において、基礎シリンダ最大吸気量TPMAXVTCに内部EGR補正値INTEGRを乗じ、さらにバルブリフト流速補正係数を乗ずることで、シリンダ最大吸気量TPMAXVを算出する。バルブリフト流速補正係数は、エンジン回転速度と吸気バルブ51のリフト量とに基づいて算出される。
【符号の説明】
【0096】
100 過給式エンジン
23 吸気ポート
24 排気ポート
30 吸気通路
31 エアフローメータ
32 過給制御バルブ
33 スロットルバルブ
35 過給器
36 インタークーラ
40 排気通路
51 吸気バルブ
61 排気バルブ
70 コントローラ(吸気制御手段)
71 大気圧センサ
72 過給圧センサ
73 クランク角度センサ
74 アクセルペダルセンサ
75 吸気カム角センサ
76 排気カム角センサ
S103 要求シリンダ吸気量算出手段
S106 シリンダ最大吸気量算出手段
S107 要求吸気量比算出手段
S108〜S110 目標値設定手段
S111、S112 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路の吸気流通面積を変化させるスロットルバルブと、吸気を過給する過給器と、エンジン運転状態に応じて吸気バルブのバルブタイミングを変更する吸気可変動弁装置と、を備え、アクセルペダル踏込み量の増加に応じてスロットル開度を増加させ、所定のスロットル開度に達した時に前記過給器による吸気の過給を開始して吸気量を増加させる吸気量制御装置であって、
前記吸気バルブのバルブタイミングに応じて前記所定のスロットル開度を変更する吸気制御手段を備える、
ことを特徴とする吸気量制御装置。
【請求項2】
前記所定のスロットル開度は、前記スロットルバルブがこれ以上開いても吸気量が増加しない飽和スロットル開度である、
ことを特徴とする請求項1に記載の吸気量制御装置。
【請求項3】
前記吸気制御手段は、内部EGRガス量に応じて前記所定のスロットル開度を変更する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸気量制御装置。
【請求項4】
前記吸気制御手段は、
エンジン回転速度とアクセルペダル踏込み量とに基づいて要求シリンダ吸気量を算出する要求シリンダ吸気量算出手段と、
吸気バルブタイミングに基づいてシリンダ最大吸気量を算出するシリンダ最大吸気量算出手段と、
前記要求シリンダ吸気量と前記シリンダ最大吸気量とに基づいて要求吸気量比を算出する要求吸気量比算出手段と、
前記要求吸気量比に基づいて、前記スロットルバルブの目標スロットル開度と前記過給器の目標過給圧とを設定する目標値設定手段と、
前記スロットルバルブのスロットル開度を目標スロットル開度に制御するとともに、前記過給器による過給圧を目標過給圧に制御する制御手段と、を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の吸気量制御装置。
【請求項5】
前記過給式エンジンは、排気バルブのバルブタイミングを変更する排気可変動弁装置を備え、
前記シリンダ最大吸気量算出手段は、吸気バルブタイミングと排気バルブタイミングとエンジン回転速度とに基づいて前記シリンダ最大吸気量を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の吸気量制御装置。
【請求項6】
前記シリンダ最大吸気量算出手段は、吸気バルブタイミングに基づいて基礎シリンダ最大吸気量を算出し、排気バルブタイミングに基づいて基礎シリンダ最大吸気量を補正する補正値を算出し、基礎シリンダ最大吸気量と補正値とに基づいて前記シリンダ最大吸気量を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の吸気量制御装置。
【請求項7】
前記要求吸気量比算出手段は、前記要求シリンダ吸気量を前記シリンダ最大吸気量で割ることで前記要求吸気量比を算出する、
ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1つに記載の吸気量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−164045(P2010−164045A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219266(P2009−219266)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】