説明

電気自動車の制動装置

【課題】簡単な構成により、摩擦制動力と回生制動力を併用して回生制動によるエネルギ回収量を増大させてエネルギ効率を向上できるようにした電気自動車の制動装置を提供する。
【解決手段】車両50を駆動するとともに、回生電力の発電により回生制動力を発生させる電動機4と、車両50の要求制動力に対応するブレーキ操作力の入力を受け付ける制動要求入力部材14と、制動要求入力部材11にブレーキ操作力が入力されると、入力されたブレーキ操作量又はブレーキ操作力に対応する要求制動力よりも小さい値の摩擦制動力を発生させる摩擦ブレーキ機構14と、要求制動力から摩擦制動力を減じた値だけ回生制動力を発生させるように電動機を制御する回生制動制御手段23とを有して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦力による制動と回生電力の発電による制動とが可能な電気自動車の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動機の駆動により走行する車両(即ち、電気自動車)は、電動機を発電機として用いることにより回生電力を発電し、この発電に係る負荷を制動力(回生制動)として発生できるようになっている。
電気自動車では、従来、運転者がアクセルペダルをオフとした場合に、エンジンにより駆動する車両でのエンジンブレーキに相当する程度の制動力を回生制動により付与することにより、運転フィーリングを向上させるとともに回生による電力を回収して、車両のエネルギ効率の向上を図っている。
【0003】
さらに、近年では、上述のエンジンブレーキ相当の制動力を回生制動により付与するのみでなく、ブレーキペダルが操作された場合に摩擦制動と回生制動とを併用することによってできるだけ回生発電によりエネルギを回収してエネルギ効率の向上を図る技術(いわゆる協調回生制動システム)が提案され実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
図5は、上述の協調回生制動システムの単純な構成を示すブロック図である。図5に示すように、協調回生制動システム100は、ブレーキペダル101,ブレーキペダル踏力センサ102,制動力配分制御部103,モータトルク制御部104,インバータ(モータ制御装置)105,モータ(電動機)106,摩擦ブレーキ制御部107,作動油アクチュエータ108及びディスクブレーキ(摩擦ブレーキ)109を有して構成されている。なお、制動力配分制御部103,モータトルク制御部104及び摩擦ブレーキ制御部107は、一体の制御装置として構成されるのが一般的である。
【0004】
ブレーキペダル踏力センサ102は、ブレーキブレーキペダル101の操作力(踏力)を検出し、制動力配分制御部103に出力するようになっている。
制動力配分制御部103においては、ブレーキペダル踏力に基づいて要求される制動力(要求制動力)が算出されるようになっている。そして、制動力配分制御部103では、その時点における車両の運転状態(例えば、モータ回転速度等)に応じて、電動機106による回生制動力とディスクブレーキ109による摩擦制動力との合算値が要求制動力となるように各制動力の分担配分を求め、目標回生制動力及び目標摩擦制動力を算出するようになっている。
【0005】
まず、回生制動力の発生にかかる構成について説明すると、モータトルク制御部104は、制動力配分制御部103において設定された回生制動力に応じて、モータ106の図示しないステータに誘電磁界を形成するためのステータ導通電流を設定するようになっている。
そして、インバータ105は、モータトルク制御部104において設定されたステータ導通電流に対して、モータ106の運転状態に応じた補正を行った上で、バッテリ5から供給される電力を三相交流電力に変換してモータ106に供給するようになっている。
【0006】
モータ106では、図示しない車輪から入力される回転力により回生発電が行われ、これにより車輪に対して回生制動力が付与されるようになっている。
一方、摩擦制動力の発生にかかる構成について説明すると、摩擦ブレーキ制御部107は、制動力配分制御部103において設定された摩擦制動力に応じて、作動油アクチュエータ108の駆動力を設定するようになっている。そして、作動油アクチュエータ108は、摩擦ブレーキ制御部107により設定された駆動力でブレーキ作動油路に油圧を付与することで、図示しないブレーキ作動油路を経由して、ディスクブレーキ109に伝達され、図示しないブレーキパッド及びブレーキロータが当接することにより、摩擦制動力を発生させるようになっている。
【特許文献1】特開2003−284202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術では、ブレーキペダル101の踏力等に基づいて得られる要求制動力に対して、摩擦部材(ディスクブレーキ109)による制動力(摩擦制動力)と回生制動による制動力(回生制動力)とを予め演算により算出し、摩擦制動力及び回生制動力を適切に制御する必要があるため装置構成が複雑となり、コストが増大するとともに、故障等が懸念される箇所が多くなるという課題がある。
【0008】
また、上述した従来技術では、作動油アクチュエータ108によってディスクブレーキ109に操作力を付与することで摩擦制動力を発生させる構成となっており、ブレーキペダル101と摩擦部材とが機械的にリンクしていないため、ブレーキペダル101の踏力がそのまま摩擦部材に伝達されることがない。このため、作動油アクチュエータ108の故障等の不具合が生じた場合には、車両が制動されなくなるという虞がある。
【0009】
したがって、作動油アクチュエータ108等が故障等した際の緊急用の制動装置として、図5に示すようにバキュームブースタ110及びマスターシリンダ111を設け、ブレーキペダル101に入力されたブレーキ踏力を機械的にディスクブレーキ109に伝達させる必要がある。このため、部品点数がさらに多くなり装置にかかるコストがさらに増大するという課題もある。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑み創案されたもので、簡単な構成により、摩擦制動力と回生制動力を併用して回生制動によるエネルギ回収量を増大させてエネルギ効率を向上できるようにした電気自動車の制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の電気自動車の制動装置(請求項1)は、車両を駆動するとともに、回生電力の発電により回生制動力を発生させる電動機と、該車両の要求制動力に対応するブレーキ操作力の入力を受け付ける制動要求入力部材と、該制動要求入力部材に該ブレーキ操作力が入力されると、該入力されたブレーキ操作量又はブレーキ操作力に対応する要求制動力よりも小さい値の摩擦制動力を発生させる摩擦ブレーキ機構と、該要求制動力から該摩擦制動力を減じた値だけ該回生制動力を発生させるように該電動機を制御する回生制動制御手段とを有していることを特徴としている。
【0012】
また、該摩擦ブレーキ機構が発生させる該摩擦制動力が、少なくとも、該電動機の最大回転速度での運転時に発生させうる最大の回生制動力値を該要求制動力の最大値から減じた値よりも大きくなるように設定されていることが好ましい(請求項2)。
また、該制動要求入力部材に入力される該ブレーキ操作量又は該ブレーキ操作力を検出するブレーキ操作力検出手段と、該ブレーキ操作力検出手段により検出された該ブレーキ操作量又は該ブレーキ操作力に基づいて、該要求制動力を算出する要求制動力算出手段と、該ブレーキ操作力検出手段により検出された該ブレーキ操作量又は該ブレーキ操作力に基づいて該摩擦制動力を算出する摩擦制動力算出手段とを有していることが好ましい(請求項3)。
【0013】
また、該制動要求入力部材に入力される該ブレーキ操作力を所定の倍力比で倍力させるブレーキ倍力手段と、該ブレーキ倍力装置を介して入力された該ブレーキ操作力によって摩擦力を生じさせる摩擦部材とを有していることが好ましい(請求項4)。
また、該電動機の故障を検出する電動機故障検出手段と、該ブレーキ倍力装置の倍力比を、該摩擦制動力が該要求制動力よりも小さい値となるように設定された第1倍力比と、該摩擦制動力が該要求制動力となるように設定された第2倍力比との2段階で切り替える倍力比切換機構とを有し、該倍力比切換機構は、該電動機故障検出手段により電動機の故障が検出されると、該摩擦ブレーキの倍力比を該第2倍力比に設定することが好ましい(請求項5)。
【0014】
また、該ブレーキ倍力装置は、内部に蓄えられた負圧により該制動要求入力部材に入力される該ブレーキ操作力を倍力させるバキュームブースタと、該バキュームブースタ内部の負圧が目標負圧となるように該バキュームブースタ内部に負圧を形成する電動負圧ポンプとを有し、該倍力比切換機構は、該電動負圧ポンプの該目標負圧を、該第1倍力比に対応する第1目標負圧と該第2倍力比に対応する第2目標負圧との2段階で切り替える目標負圧切換手段を有していることが好ましい(請求項6)。
【0015】
また、この他に、電動負圧ポンプを複数設置し、電動負圧ポンプの作動数を制御することによって第1目標負圧及び第2目標負圧を得るように構成してもよい。
また、該電動機に電力を供給するとともに、第電動機により発生した回生電力を充電するバッテリと、該バッテリの充電率を検出するバッテリ充電率検出手段とを有し、該倍力比切換機構は、該バッテリ充電率検出手段により検出されたバッテリ充電率が所定の充電率以上であるときには、該摩擦ブレーキの該所定の倍力比を該第2倍力比に設定することが好ましい(請求項7)。
【0016】
また、該バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段を有し、該倍力比切換機構は、該バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が所定の温度範囲外であるときには、該摩擦ブレーキの該所定の倍力比を該第2倍力比に設定することが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電気自動車の制動装置(請求項1)によれば、摩擦制動力を要求制動力よりも小さい値に設定し、要求制動力から該摩擦制動力を減じた値だけ回生制動力を発生させるという簡単な構成により、摩擦制動力と回生制動力とを併用することができ、摩擦ブレーキ使用時であっても回生制動によるエネルギ回収量を行うことで、電気自動車のエネルギ効率を向上することができる。
【0018】
また、従来のブレーキ機構と同様にブレーキペダル等の制動要求入力部材に入力されたブレーキ操作力が電気系を介さずに摩擦部材に伝達されるため、電気系の故障等に配慮して予備のブレーキ機構をそなえる必要が無いという利点もある。
【0019】
ところで、電動機により回生制動を行う際には、電動機の回転速度(回転数)が大きいほど、回生発電により発生可能な制動力は小さくなるという特徴がある。
【0020】
したがって、本発明の電気自動車の制動装置(請求項2)によれば、電動機の最大回転速度運転時に発生させうる最大の回生制動力値を予め求めておき、摩擦制動力を少なくとも該要求制動力最大の回生制動力値を減じた値よりも大きくなるように設定することにより、電動機の回転速度が大きい場合であっても、電気自動車の要求制動力を発生することができ、制動力が不足することを確実に回避することができる。
【0021】
本発明の電気自動車の制動装置(請求項3)によれば、制動要求入力部材に入力されるブレーキ操作力に基づいて、要求制動力及び摩擦制動力を算出することにより、回生制動制御手段において算出された要求制動力から摩擦制動力を減じることで、適切な回生制動力を発生させることができる。
本発明の電気自動車の制動装置(請求項4)によれば、ブレーキ倍力装置により制動要求入力部材に入力されたブレーキ操作力を倍力することで、より小さいブレーキ操作力によって大きな摩擦制動力を発生させることができる。
【0022】
本発明の電気自動車の制動装置(請求項5)によれば、電動機の故障により回生制動力を発生させることができない場合でも摩擦制動力により確実に要求制動力を発生させることができる。
本発明の電気自動車の制動装置(請求項6)によれば、目標負圧切換手段が、目標負圧を2段階に切り替えるという簡素な構成により、バキュームブースタをそなえる一般的なブレーキ機構に構成において、確実に第1倍力比と第2倍力比とを切り替えることができる。
【0023】
本発明の電気自動車の制動装置(請求項7)によれば、バッテリの充電率が略満充電に近く回生発電を充電できず、回生制動力を発生させることができない場合でも摩擦制動力により確実に要求制動力を発生させることができる。
本発明の電気自動車の制動装置(請求項8)によれば、バッテリ温度が過度に高い場合や過度に低い場合にバッテリ充電できない状態であり、回生制動力を発生させることができない場合でも摩擦制動力により確実に要求制動力を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1〜図4はいずれも本発明の一実施形態に係る電気自動車の制動装置を説明するためのものであって、図1はその全体構成を示すブロック図、図2はブレーキ踏力に対する制動力を示すグラフ、図3は電動機の回転速度に対応する発現可能な最大の回生制動力を示すグラフ、図4は本制動装置の制御手順を示すフローチャートである。
【0025】
図1に示すように、車両(電気自動車)50は、摩擦ブレーキ機構1,ブレーキ制御用の電子制御装置(ECU)2,モータ制御装置(インバータ,電動機故障検出手段)3,モータ(電動機)4,バッテリ5,SOCセンサ(バッテリ充電率検出手段)6及びバッテリ温度センサ(バッテリ温度検出手段)7を有している。
バッテリ5には、直流電力が充電されており、SOCセンサ6はバッテリ5の充電率(SOC)を検出して、検出したバッテリ充電率信号SOCrをECU2に出力するようになっている。SOCセンサ6は、バッテリ5の充電率を検出するものであれば適宜適用可能であるがここでは、SOCセンサ6はバッテリ5の端子電圧を検出し、バッテリ5の端子電圧とSOCとの対応関係に基づいてバッテリ5の充電率信号SOCrを出力するように構成されている。
【0026】
また、バッテリ温度センサ7は、バッテリ5の温度を検出する温度センサであり、検出したバッテリ温度信号TbをECU2に出力するようになっている。
また、摩擦ブレーキ機構1は、ブレーキペダル(制動要求入力部材)11,バキュームブースタ(ブレーキ倍力手段)12,マスターシリンダ13,ディスクブレーキ(摩擦部材)14,電動負圧ポンプ(ブレーキ倍力手段)15及びブレーキペダル踏力センサ(ブレーキ操作力検出手段)16により構成されている。
【0027】
ブレーキペダル11は、図示しない運転席近傍に設置されたいわゆるフットブレーキであり、ドライバの踏力(即ち、ブレーキ操作力)をバキュームブースタ12に伝達可能に構成されている。また、ブレーキペダル11にはブレーキスイッチとしても機能するブレーキペダル踏力センサ16が付設されており、ブレーキペダル11が操作されるとブレーキスイッチオン信号BsをECU2に出力するとともにブレーキペダル踏力BfをECU2に出力するようになっている。
【0028】
バキュームブースタ12は内部に図示しない負圧室を有しており、電動負圧ポンプ15で得られる負圧を負圧室内に導くことにより、ブレーキペダル11から入力されたブレーキ操作力を倍力(増幅)させ、倍力されたブレーキ操作力(以下、倍力後操作力Fbという)をマスターシリンダ13に伝達するように構成されている。
そして、マスターシリンダ13に入力された倍力後操作力Fbが油圧として図示しないブレーキ作動油路を経由して、ディスクブレーキ14に伝達され、図示しないブレーキパッド及びブレーキロータが当接することにより、入力された倍力後操作力Fbに応じた摩擦制動力Trfを発生させるようになっている。
【0029】
なお、摩擦部材としてはディスクブレーキに限らず、ドラムブレーキ等、摩擦力により制動力を発生するブレーキ機構であれば適宜適用可能である。
また、電動負圧ポンプ15は、バッテリ5の電力により駆動するポンプであり、ここでは発生する負圧が2段階に切り換え可能に構成されている。これにより、バキュームブースタ12の倍力比を2段階に切り換え可能に構成されている。なお、ECU2の機能構成については後述する。
【0030】
モータ制御装置3は、インバータ回路及び中央演算装置(CPU)及び記憶媒体からなるコンピュータにより構成されておりモータ4に供給する誘電磁界形成用の電流を制御して回生制動力を調整しうるようになっている。
モータ制御装置3は、ECU2において設定された目標トルクTrtに対して、モータ4の状態に応じた補正を行った最終指示トルクを算出して、バッテリ5から供給される電力を三相交流電力に変換してモータ4の図示しないステータに供給するようになっている。
【0031】
そして、モータ4は、モータ制御装置3から電力が供給されると誘電磁界を形成するようになっており、車両50の図示しない車輪から回転力が入力されると回生発電が行われ、これにより車輪に対して回生制動力Treが発生するようになっている。
一方、モータ4において発電された回生電力はモータ制御装置3を介してバッテリ5に充電されるようになっている。
【0032】
また、モータ制御装置3は、モータ4の故障を検出する電動機故障検出手段として機能を有しており、モータ4の故障を検出した場合には、モータフェイル信号fをECU2に出力するようになっている。また、モータ制御装置3はモータ4の回転速度(モータ回転数Nm)を検出する機能も有しており、検出したモータ回転数NmをECU2に出力するようになっている。
【0033】
ECU2は、中央演算装置(CPU)及び記憶媒体からなるコンピュータ等によって構成されており、機能要素として要求制動力算出部(要求制動力算出手段)21,摩擦制動力算出部(摩擦制動力算出手段)22,制動力配分制御部(回生制動制御手段)23,モータトルク制御部24及び負圧ポンプ制御部(倍力比切換機構)25を有している。
要求制動力算出部21は、図2に示すマップに基づいてブレーキペダル踏力Bfに基づいて要求される目標制動力(以下、要求制動力Trdという)を求めるようになっている。
【0034】
また、摩擦制動力算出部22では、要求制動力算出部21と並行してブレーキスイッチオン信号がECU2に入力されたとき、予め設定された摩擦ブレーキ力設定マップ(図2)に基づいて摩擦制動力(以下、摩擦制動力Trfという)を求めるようになっている。
なお、図2に示すように、ここでは、摩擦制動力Trfの特性が一般的な要求制動力より低く設定される状態(Trf1)と摩擦制動力Trfと要求制動力Trdとが略等しく設定される状態(Trf2)とを切り換え可能となっている。
【0035】
制動力配分制御部23は、要求制動力算出部21で求めた要求制動力Trdと摩擦制動力算出部22で求めた摩擦制動力Trfとに基づいて、以下の式(1)により回生制動力Treを算出するようになっている。
Tre=Trd−Trf・・・・・(1)
モータトルク制御部24は、制動力配分制御部23において算出された回生制動力Treに基づいて、回生制動力Treを得るためのモータ4に対する指示トルクを求め、モータ制御装置3に出力するようになっている。
【0036】
また、負圧ポンプ制御部25は、モータ4により十分に回生制動力を得ることができる条件(以下、回生可能条件という)が成立した場合には、バキュームブースタ12の負圧室の目標負圧PtをPt1(第1目標負圧)に設定するようになっている。
一方、回生可能条件が成立しない場合には、バキュームブースタ12の負圧室の目標負圧PtをPt1よりも大きな負圧値(即ち、バキュームブースタ12の負圧室の気圧が低い値)であるPt2(第2目標負圧)に設定するようになっている。
【0037】
そして、負圧ポンプ制御部25は、バキュームブースタ12の負圧室が設定された目標負圧Ptとなるように電動負圧ポンプ15を作動させるようになっている。
ここで、第1目標負圧Pt1及び第2目標負圧Pt2について説明する。
まず、第2目標負圧Pt2は、回生制動を行わない一般的な車両において標準的に設定される負圧の値であり、図2に示すように摩擦制動力Trf2と車両50の要求制動力Trdとが等しくなるように、予め設定された倍力比(第2倍力比)でドライバによるブレーキペダル11の踏力(ブレーキ操作力)を倍力してマスターシリンダ13に倍力されたブレーキ操作力を伝達するように設定されている。
【0038】
一方、第1目標負圧Pt1は、第2目標負圧Pt2よりも小さい倍力比(第1倍力比)でドライバの踏力(ブレーキ操作力)を倍力するように設定されている。
この第1倍力比は、少なくとも、要求制動力に対する摩擦制動力の不足分をモータで発生可能な回生制動力で補えるような倍力比に設定されていればよく、この条件の中で種々設定が可能である。
【0039】
なお、モータで発生可能な最大回生制動力の特性は、図3に示すように、回転数が増大するほど低下する傾向にあり、モータの最大回転数時が最も発生可能な最大回生制動力が低くなる。
【0040】
そして、このようなモータの最大回転数時であっても、確実に摩擦制動と回生制動とにより要求制動力を発生することができるように、本実施形態においては、第1倍力比による摩擦制動力Trf1maxは、少なくとも、要求制動力(第2倍力比による摩擦制動力)Trdmaxからモータ4の最大回転数時に発生可能な最大回生制動力Tremaxを減じた値よりも大きくなるように設定されている。
これを式で表すと下記のようになる。
(第1倍力比による摩擦制動力)≧(要求制動力)−(モータ最大回転数時に発生可能な最大回生制動力)
なお、バキュームブースタ12の目標負圧Ptが第1目標負圧Pt1に設定されているとき、図2中斜線のエリアが回生制動力Treによる制動を表している。
【0041】
以下、負圧ポンプ制御部25における目標負圧Ptの設定条件(回生可能条件)について説明する。
負圧ポンプ制御部25は、以下の条件(1)〜(3)がいずれも成立したときには、効率の良い回生制動を行うべくバキュームブースタ12の目標負圧Ptを第1目標負圧Pt1に設定し、条件(1)〜(3)のうちいずれか一つでも成立しない場合には、モータ4により回生制動を行うのに不適切な状態と判断し、バキュームブースタ12の目標負圧Ptを第2目標負圧Pt2に設定するようになっている。
【0042】
(1)ECU2にモータフェイル信号fが入力されていないこと
(2)バッテリ充電率信号SOCrの値が予め設定されたSOC0以下であること
(3)バッテリ温度Tbの値が予め設定された所定の温度範囲内(TbL≦Tb≦TbH)であること
なお、バッテリ5の充電率がSOC0よりも大きい状態とはバッテリ5が略満充電である状態であり、回生電力をバッテリ5に充電させる余裕がない状態である。
【0043】
また、バッテリ温度Tbの値が所定の温度範囲外である状態は、バッテリ5が正常に機能しにくい状態であり、回生電力をバッテリ5に充電することができず、十分な回生制動力を得ることができない状態である。
【0044】
本発明の一実施形態にかかる電気自動車の制動装置は上述のように構成されているので、以下の手順で制御が所定の演算周期毎に繰り返し行われる。
【0045】
図4に示すように、ステップS100では、モータフェイル信号fがECU2に入力されているか否かが判定される。
そして、モータフェイル信号fが入力されていない(つまり、モータフェイル信号fがオフ)である場合には、ステップS110に進み、モータフェイル信号fがECU2に入力されている場合にはステップS190に進む。
【0046】
ステップS110では、ECU2に入力されたバッテリ充電率信号SOCrと所定充電率SOC0との大小関係が比較され、バッテリ充電率信号SOCrが所定充電率SOC0以下であるか否かが判定される。そして、バッテリ充電率信号SOCrが所定充電率SOC0以下である場合(SOCr≦SOC0)には、ステップS120に進む。一方、バッテリ充電率信号SOCrが所定充電率SOC0より大きい場合(SOCr>SOC0)には、ステップS190に進む。
【0047】
ステップS120では、ECU2入力されたバッテリ温度信号Tbが所定の温度範囲内TbL≦Tb≦TbHであるか否かが判定される。そして、バッテリ温度信号Tbが所定の温度範囲内TbL≦Tb≦TbHである場合には、ステップS130に進む。一方、バッテリ温度信号Tbが所定の温度範囲外である場合には、ステップS190に進む。
ステップS130では、バキュームブースタ12の負圧室の目標圧力Ptが第1目的圧力Pt1に設定され、電動負圧ポンプ15によりバキュームブースタ12の負圧室の負圧が目標負圧Ptとされる。
【0048】
一方、ステップS190では、バキュームブースタ12の負圧室の目標圧力Ptが第2目的圧力Pt2に設定され、電動負圧ポンプ15によりバキュームブースタ12の負圧室の負圧が目標負圧Ptとされる。その後、ステップS200に進み、ステップS200では、モータ4による回生発電が行われている場合には回生発電を停止する。そしてステップS100に戻り、ステップS100以降の処理が繰り返し行われる。
【0049】
また、ステップS130の処理が実行されると、ステップS140として、ブレーキスイッチオン信号がECU2に入力されているか否かが判定される。そして、ブレーキスイッチオン信号が入力されている場合にはステップS150に進む。
一方、ブレーキスイッチオン信号が入力されていない場合にはステップS200に進み、ステップS200では、モータ4による回生発電が行われている場合には回生発電を停止する。そしてステップS100に戻り、ステップS100以降の処理が繰り返し行われる。
【0050】
そして、ステップS150では、要求制動力算出部21においてブレーキペダル踏力Bfに基づいて要求制動力Trdが求められる。また、ステップS160では、摩擦制動力算出部位22においてブレーキペダル踏力Bfに基づいて摩擦制動力Trf(Trf1)が求められる。さらに、ステップS170では、上式(1)により回生制動力Treが求められる。そして、ステップS180では、モータ制御装置3によりモータ4のステータに電流が導通され、回生制動力Tre分の回生制動力が図示しない車輪に付与される。
【0051】
なお、ステップS180において回生制動力が付与されるのと並行して、ステップS140においてなされたブレーキペダル11のブレーキ操作力は、バキュームブースタ12により第1の倍力比で倍力され、ディスクブレーキ14においてステップS160で算出された摩擦制動力Trf1分の摩擦制動力が車輪に付与されることになる。
また、ステップS190において、バキュームブースタ12の目標負圧Ptを第2目標負圧Pt2に設定した状態で、ブレーキペダル11が操作された場合には、ブレーキペダルの踏力に応じた要求制動力Trdと略等しい摩擦制動力Trf2が発生するので、回生制動に適さない条件下でも制動力が不足することはない。
【0052】
このように本発明の電気自動車の制動装置によれば、簡単な構成により、ディスクブレーキ14による摩擦制動とモータ4による回生制動とを併用することができ、回生制動によって電力エネルギを回収することができ、電気自動車のエネルギ効率の向上を図ることができる。
また、ブレーキペダル11に入力されたブレーキ操作力(踏力)が、ブレーキアクチュエータ等の電気制御系を介さずに、機械的にディスクブレーキ14に伝達されるので、電気系の故障等に配慮して予備のブレーキ機構をそなえる必要が無いという利点もある。
【0053】
また、モータ4は回生制動を行う際には、モータ回転数Nmが最大のときに発生可能な回生制動力が最も小さくなるという特徴に着目し、図3に示すようにモータ4の最大回転速度運転時に発生させうる最大の回生制動力値を予め求め、ブレーキブースタ12の目標負圧を第1負圧に設定することで、モータ4の運転状態に関わらず、第1倍力比による摩擦制動力Trf1のみでは不足する制動力を確実に回生制動力Treで補うことができ、摩擦制動力により確実に要求制動力を発生させることができる。
【0054】
さらに、モータ4により十分に回生制動力を得ることができる条件(回生可能条件)が成立しない場合には、ブレーキブースタ12の目標負圧を第2負圧に設定することで、摩擦制動力Trf2のみにより、要求制動力Trdと略等しい制動力を発生させることができ、摩擦制動力により確実に要求制動力を発生させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0055】
例えば、本発明は電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)あるいは燃料電池車(FCV)等、電動機の駆動力を用いて走行する車両であれば、好適に適用することができる。
また、上述の実施形態では、電動負圧ポンプを1基のみそなえる構成となっているが、目標負圧が第1目標負圧に固定された第1電動負圧ポンプと、第1電動負圧ポンプと併用することによりバキュームブースタの負圧室の負圧が第2目標負圧となるように設定された第2電動負圧ポンプとをそなえ、回生制動可能な状態においては、第1電動負圧ポンプのみを作動させ、回生制動に適さない条件下においては、第1電動負圧ポンプと第2電動負圧ポンプとを併用するように構成してもよい。
【0056】
このようにすれば、ECUは電動負圧ポンプのオンオフのみを制御するだけで十分であるため、制御にかかる演算負荷を大幅に低減することができる。さらに、いずれかの電動負圧ポンプに故障等の不具合が生じた場合に、他方の電動負圧ポンプを作動させるように構成することで、フェイルセーフを確保することができるという利点も得られる。
また、第1電動負圧ポンプ及び第2電動負圧ポンプはそれぞれ複数の電動ポンプによって構成してもよい。このようにすれば、電動ポンプのオンオフ制御によって、精度良く第1目標負圧及び第2目標負圧を設定することができる。
【0057】
また、ブレーキ操作力検出手段についてはブレーキペダル踏力センサに限定するものではない。例えば、ブレーキ踏力センサに替えてブレーキペダルの操作量(ストローク)を検出するブレーキペダルストロークを設け、ブレーキペダルの操作量によってブレーキ操作力を検出してもよい。あるいは、ブレーキ踏力センサに替えてブレーキ作動油の圧力を検出するブレーキ圧センサを設け、ブレーキ圧センサの検出情報及びブレーキ倍力手段の倍力比に基づいてブレーキ操作力を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気自動車の制動装置を説明するためのものであって、その全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電気自動車の制動装置を説明するためのものであって、ブレーキ踏力に対する摩擦制動力の値を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態に係る電気自動車の制動装置を説明するためのものであって、電動機の回転速度に対応する発現可能な最大の回生制動力を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る電気自動車の制動装置を説明するためのものであって、制動装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】従来技術を説明するためのものであって、協調回生制動システムの単純な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
1 摩擦ブレーキ機構
2 電子制御装置(ECU)
3 モータ制御装置(インバータ)
4 モータ(電動機)
5 バッテリ
6 SOCセンサ(バッテリ充電率検出手段)
7 バッテリ温度センサ(バッテリ温度検出手段)
11 ブレーキペダル(制動要求入力部材)
12 バキュームブースタ(ブレーキ倍力手段)
13 マスターシリンダ
14 ディスクブレーキ(摩擦部材)
15 電動負圧ポンプ(ブレーキ倍力手段)
16 ブレーキペダル踏力センサ(ブレーキ操作力検出手段)
21 要求制動力算出部(要求制動力算出手段)
22 摩擦制動力算出部(摩擦制動力算出手段)
23 制動力配分制御部(回生制動制御手段)
24 モータトルク制御部
25 負圧ポンプ制御部(倍力比切換機構)
50 車両(電気自動車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するとともに、回生電力の発電により回生制動力を発生させる電動機と、
該車両の要求制動力に対応するブレーキ操作力の入力を受け付ける制動要求入力部材と、
該制動要求入力部材に該ブレーキ操作力が入力されると、該入力されたブレーキ操作量又はブレーキ操作力に対応する要求制動力よりも小さい値の摩擦制動力を発生させる摩擦ブレーキ機構と、
該要求制動力から該摩擦制動力を減じた値だけ該回生制動力を発生させるように該電動機を制御する回生制動制御手段とを有している
ことを特徴とする、電気自動車の制動装置。
【請求項2】
該摩擦ブレーキ機構が発生させる該摩擦制動力が、
少なくとも、該電動機の最大回転速度での運転時に発生させうる最大の回生制動力値を該要求制動力の最大値から減じた値よりも大きくなるように設定されている
ことを特徴とする、請求項1記載の電気自動車の制動装置。
【請求項3】
該制動要求入力部材に入力される該ブレーキ操作量又は該ブレーキ操作力を検出するブレーキ操作力検出手段と、
該ブレーキ操作力検出手段により検出された該ブレーキ操作量又は該ブレーキ操作力に基づいて、該要求制動力を算出する要求制動力算出手段と、
該ブレーキ操作力検出手段により検出された該ブレーキ操作量又は該ブレーキ操作力に基づいて該摩擦制動力を算出する摩擦制動力算出手段とを有している
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の電気自動車の制動装置。
【請求項4】
該制動要求入力部材に入力される該ブレーキ操作力を所定の倍力比で倍力させるブレーキ倍力手段と、
該ブレーキ倍力装置を介して入力された該ブレーキ操作力によって摩擦力を生じさせる摩擦部材とを有している
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気自動車の制動装置。
【請求項5】
該電動機の故障を検出する電動機故障検出手段と、
該ブレーキ倍力装置の倍力比を、該摩擦制動力が該要求制動力よりも小さい値となるように設定された第1倍力比と、該摩擦制動力が該要求制動力となるように設定された第2倍力比との2段階で切り替える倍力比切換機構とを有し、
該倍力比切換機構は、該電動機故障検出手段により電動機の故障が検出されると、該摩擦ブレーキの倍力比を該第2倍力比に設定する
ことを特徴とする、請求項4記載の電気自動車の制動装置。
【請求項6】
該ブレーキ倍力装置は、
内部に蓄えられた負圧により該制動要求入力部材に入力される該ブレーキ操作力を倍力させるバキュームブースタと、
該バキュームブースタ内部の負圧が目標負圧となるように該バキュームブースタ内部に負圧を形成する電動負圧ポンプとを有し、
該倍力比切換機構は、
該電動負圧ポンプの該目標負圧を、該第1倍力比に対応する第1目標負圧と該第2倍力比に対応する第2目標負圧との2段階で切り替える目標負圧切換手段を有している
ことを特徴とする、請求項5記載の電気自動車の制動装置。
【請求項7】
該電動機に電力を供給するとともに、第電動機により発生した回生電力を充電するバッテリと、
該バッテリの充電率を検出するバッテリ充電率検出手段とを有し、
該倍力比切換機構は、該バッテリ充電率検出手段により検出されたバッテリ充電率が所定の充電率以上であるときには、該摩擦ブレーキの該所定の倍力比を該第2倍力比に設定する
ことを特徴とする、請求項5又は6記載の電気自動車の制動装置。
【請求項8】
該バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段を有し、
該倍力比切換機構は、該バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が所定の温度範囲外であるときには、該摩擦ブレーキの該所定の倍力比を該第2倍力比に設定する
ことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の電気自動車の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−27875(P2009−27875A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190621(P2007−190621)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】