説明

電源装置および電源装置の回生制御方法

【課題】急激な負荷変動を吸収するために設けられたキャパシタの電圧の急上昇にも応答性よく対応することができ、キャパシタやバッテリの損傷を防止することができる電源装置および電源装置の回生制御方法を提供する。
【解決手段】バッテリ2が負荷であるモータ4から電力を回収する回生動作時に、バッテリ2のバッテリ電圧を取得し、この取得したバッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池などのバッテリとモータなどの負荷との間に並列接続されたキャパシタを有し、前記負荷が前記キャパシタに蓄えられたエネルギーを用いる電源装置および電源装置の回生制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ駆動する電源装置においては、モータの急激な負荷変動を吸収して電池への損傷を抑え、長寿命化を図るために、電源コントローラとモータ駆動用のインバータとの間にキャパシタを並列接続する構成が知られている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3669667号公報
【特許文献2】特開2002−320302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、モータからの電力を回収する回生動作の際にキャパシタの電圧が急上昇してしまうと、キャパシタの電圧変化に応答することができず、キャパシタを壊してしまう恐れがあった。この場合には、結果的に電池側への回生量も大きくなってしまうため、電池に損傷を加えてしまう恐れもあった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、急激な負荷変動を吸収するために設けられたキャパシタの電圧の急上昇にも応答性よく対応することができ、キャパシタやバッテリの損傷を防止することができる電源装置および電源装置の回生制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電源装置は、バッテリと負荷との間に並列接続されたキャパシタを有し、前記負荷に電力を供給する一方、前記負荷から電力を回収する電源装置であって、前記負荷から電力を回収する回生動作時に、前記バッテリのバッテリ電圧を取得し、この取得したバッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行う制御手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る電源装置は、上記発明において、前記制御手段は、前記バッテリ電圧と前記デューティとを対応付けた対応テーブルを記憶していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る電源装置は、上記発明において、バッテリ式フォークリフトに搭載されたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る電源装置の回生制御方法は、バッテリと負荷との間に並列接続されたキャパシタを有し、前記負荷に電力を供給する一方、前記負荷が発電した電力を回収する電源装置が、前記負荷から電力を回収する回生動作時に行う回生制御方法であって、前記バッテリのバッテリ電圧を取得し、この取得したバッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負荷から電力を回収する回生動作時に、バッテリ電圧を取得し、この取得したバッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行うことにより、キャパシタの定格電圧を超えないようにして、バッテリへ回生する最適解を求めることができる。したがって、急激な負荷変動を吸収するために設けられたキャパシタの電圧の急上昇にも応答性よく対応することができ、キャパシタやバッテリの損傷を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電源装置の要部の構成を模式的に示す図である。以下の説明においては、電源装置から負荷に対して電力を供給する動作を「力行動作」と呼び、電源装置が負荷から電力を回収する動作を「回生動作」と呼ぶ。
【0013】
電源装置1は、鉛蓄電池などによって実現されるバッテリ2と、バッテリ2に接続され、バッテリ2をPWM(Pulse Width Modulation)制御する電源コントローラ3と、負荷であるモータ4と、モータ4に接続され、モータ4を駆動するインバータ5と、電源コントローラ3とインバータ5との間に並列接続されるキャパシタ6と、インバータ5とキャパシタ6との間を流れる電流を検出する負荷電流センサ7と、電源コントローラ3およびインバータ5に制御信号を出力するコントローラ8と、を備える。
【0014】
バッテリ2は、定格電圧が等しい二つの電池21,22から成る。電池21には電圧計9が並列接続され,電池22には電圧計10が並列接続されている。
【0015】
電源コントローラ3は、二つの電池21,22の間に直列接続される力行FET(Field Effect Transistor:電界効果型トランジスタ)31と、電池21とキャパシタ6との間に直列接続されるコイル32と、電池22とキャパシタ6との間に直列接続されるコイル33と、電池21に直列接続されるとともに電池22およびコイル33に並列接続される回生FET34と、電池22に直列接続されるとともに電池21およびコイル32に並列接続される回生FET35と、コントローラ8から出力される制御信号に基づいて力行FET31や回生FET34,35を駆動する駆動回路36と、コイル32を流れる電流を検出する電流センサ37と、コイル33を流れる電流を検出する電流センサ38と、を有する。
【0016】
二つの回生FET34,35は、オン・オフのタイミングが同じである。また、力行FET31と回生FET34,35とは、オン・オフのタイミングが反対であり、例えば力行FET31がオン状態の時、回生FET34,35はオフ状態である。
【0017】
キャパシタ6は、電気二重層キャパシタなどによって実現され、モータ4からの回生エネルギを効率よく蓄積することができる。また、キャパシタ6は、自身が有する放電特性によって瞬時に大電流を取り出すことができ、電源装置1の起動性を向上させることができる。さらに、キャパシタ6は、モータ4の負荷変動を吸収する機能を有しており、これにより、バッテリ2の長寿命化を促進することができるという利点を持つ。
【0018】
コントローラ8は、制御信号を作成するマイクロプロセッサ(MPU)などを用いて構成され、制御信号作成に必要なデータを記憶するメモリ81を有する。なお、本実施の形態においては、コントローラ8および電源コントローラ3が、制御手段を構成する。
【0019】
図2は、回生FET34,35がオン状態で力行FET31がオフ状態にあるときの等価回路を示す図である。この状態で、バッテリ2および電源コントローラ3は、キャパシタ6を介して並列接続された2つの閉回路C1、C2を形成する。閉回路C1、C2の内部抵抗Rは等しい。この内部抵抗Rは、バッテリ内部抵抗、キャパシタ内部抵抗、配線抵抗、FETオン抵抗、インダクタ抵抗、コネクタ接触抵抗等を合計したものである。
【0020】
図2において、電池21の電圧をVB,キャパシタ6の耐電圧をVcap,コイル32のインダクタンスをLとし、閉回路C1を流れる電流をiとすると、
Vcap−VB=Ri+L(di/dt) ・・・(1)
が成立する。今、電流iの初期値をi0とし、回生FETオン時間をtonとすると、ton経過後の電流値i1は、
i1=i0+{(Vcap−VB−R・i0)/L}・ton ・・・(2)
となる。なお、閉回路C2を流れる電流iも同じ値を有している。
【0021】
図3は、回生FET34,35がオフ状態で力行FET31がオン状態にあるときの等価回路を示す図である。この状態で、バッテリ2、電源コントローラ3、およびキャパシタ6は、電池21,22を直列に接続したのと等価な電池25、コイル32,33を直列に接続したのと等価なコイル39、内部抵抗R、およびキャパシタ6が直列に接続された閉回路C3を形成する。したがって、図3において、電池25は、電池21,22の各電圧を合計した電圧(2VB)を有する。また、コイル39は、コイル32,33の各インダクタンスを合計したインダクタンス(2L)を有する。なお、閉回路C3の内部抵抗Rは、バッテリ内部抵抗、キャパシタ内部抵抗、配線抵抗、FETオン抵抗、インダクタ抵抗、コネクタ接触抵抗等の合計であり、近似的に図2の閉回路C1の内部抵抗と同じ値としている。
【0022】
図3においては、電池25の電圧を2VBとおくことができ,コイル39のインダクタンスを2Lとおくことができる。このとき、閉回路C3を流れる電流をiとすると、
Vcap−2VB=Ri+2L(di/dt) ・・・(3)
が成立する。今、電流iの初期値をi1とし、回生FETオフ時間をtoffとすると、toff経過後の電流値i0'は、
i0'=i1−{(2VB−Vcap+R・i1)/2L}・toff ・・・(4)
となる。本実施の形態では、2VB>Vcapとなるように回路が設計されている。このため式(4)の右辺第2項{(2VB−Vcap+R・i1)/2L}・toffは正であり、i0'>i1が常に成立している。なお、回生FETオフ時間toffは、スイッチング周期Tと回生FETオン時間tonを用いて
toff=T−ton ・・・(5)
と表される。
【0023】
図4は、スイッチングを繰り返し行った場合の電流iの時間変化を示す図である。同図に示すように、電流iは、PWM制御により、回生FETオン期間に増加する一方、回生FETオフ期間に減少する。図4および上記式(2),(4),(5)からわかるように、バッテリ2に回生すべき電流は、電池電圧VBと回生FET34,35から一意的に定まる。
【0024】
次に、本実施の形態に係る電源装置の回生制御方法について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。コントローラ8は、負荷電流センサ7から出力されたセンサ信号の符号により、キャパシタ6の充電、放電を判定する(ステップS1)。キャパシタ6が放電している場合(ステップS1,a)、電源装置1は力行制御を行う。他方、キャパシタ6が充電している場合(ステップS1,b)、電源装置1は回生制御を行う。以下、回生制御の場合を説明する。
【0025】
回生制御では、まずコントローラ8が、電圧計9,10からバッテリ2の電池電圧(VB)を取得する(ステップS2)。その後、コントローラ8は、取得した電池電圧に対応するデューティ(=ton/T)の初期値を決定する(ステップS3)。具体的には、コントローラ8はメモリ81で記憶する電池電圧とデューティの対応テーブルを参照し、取得した電池電圧に対応するデューティを決定する。
【0026】
図6は、電池電圧とデューティの対応を与える対応テーブルの構成例を示す図である。同図に示す対応テーブルTbは、キャパシタ6の耐電圧Vcapを60(V)とするとともに、電池21,22の定格電圧を56(V)とした場合の電池電圧とデューティの対応関係を与えている。対応テーブルTbは、回生動作時にバッテリ2、キャパシタ6、各種FETを損傷することがないように予め算定され、メモリ81に格納されている。
【0027】
この後、コントローラ8は、ステップS3で読み取ったデューティを初期デューティとし、回生FET34,35をオンする制御信号を出力する。電源コントローラ3の駆動回路36は、コントローラ8からの制御信号に基づいて回生FETをオンする(ステップS4)。なお、デューティの定義からも明らかなように、回生FETオン時間tonは、デューティをDとすると、ton=D・Tで表される。
【0028】
続いて、コントローラ8は、電流センサ37,38から電流検出値を取得する(ステップS5)、その後、コントローラ8は、上述した式(2)または式(4)の計算を逐次行いながら、制御ゲインに基づく回生PWM制御を行う(ステップS6)。ここでの回生PWM制御には、デューティを初期値から変更する制御も含まれる。
【0029】
コントローラ8は、回生PWM制御を行いながら、所定のタイミングで負荷電流センサ7からの電流を取得し、キャパシタの充電/放電判定を行う(ステップS7)。この判定の結果、キャパシタが放電している場合(ステップS7,a)、電源装置1は力行制御へ移行する。一方、キャパシタ6が充電している場合(ステップS7,b)、電源装置1は、ステップS5に戻って回生制御を繰り返す。
【0030】
以上説明した電源装置1の回生制御方法では、コントローラ8が取得した電池電圧に応じて予め対応付けられたデューティを初期値として制御を開始した後、電流センサ37,38が検出した回生電流の大きさを用いたPWM制御を行うことにより、キャパシタ6の定格電圧を超えないようにしつつ、バッテリ2へ回生する最適解を算出している。したがって、回生時にキャパシタ6の電圧が急上昇してしまっても、応答性のよい制御を実現することができる。
【0031】
回生動作時にキャパシタ6の電圧が急上昇するのは、キャパシタ6の容量が小さい場合に生じやすい現象である。したがって、本実施の形態に係る回生制御方法は、キャパシタ6を小容量化する際に好適である。なお、キャパシタ6の小容量化は、キャパシタ6の小型、軽量化にもつながる。この意味で、本実施の形態に係る回生制御方法は、キャパシタを小型、軽量化する上でも大きな効果を奏するとともに、小型、軽量化に伴う部品点数減等による低コスト化も実現することができる。
【0032】
図7は、電源装置1の一適用例を示す図であり、具体的には、電源装置1が搭載されたバッテリ式フォークリフトの構成を示す図である。同図に示すバッテリ式フォークリフト100は、運転室101と、運転室101の前方に設けられ、荷物積載用のフォーク102と、フォーク102を昇降可能に支持するマスト103と、運転室101の内部に設けられ、電源コントローラ3に対して操作指令を出力する操作部であるレバー104およびアクセル105と、を備えた産業機械である。
【0033】
電源装置1のうち、バッテリ2は、運転室101の座席の下方に配置される。また、キャパシタ6は、フォーク102およびマスト103側である前方の車体内に配置される。モータ4は、車体の略中央底部付近に配置される。電源コントローラ3、インバータ5、およびコントローラ8は、車体後方側に配置される。
【0034】
上記のごとく、電源装置1は、バッテリ式フォークリフト100の車体の限られたスペースに構成要素が離間した状態で配置される。このため、バッテリ式フォークリフト100に搭載される電源装置1は、できるだけ小型軽量であることが望ましい。この点、本実施の形態に係る電源装置1は、キャパシタ6を小容量化し、小型軽量化を図っても、小容量化に伴う回生動作時のデメリットが顕在することなく、適確な回生制御を行うことができるので、バッテリ式フォークリフト100へ搭載するのに好適である。
【0035】
なお、電源装置1は、バッテリ式フォークリフト以外の産業機械および建設機械にも搭載することが可能である。
【0036】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、モータから電力を回収する回生動作時に、バッテリ電圧を取得し、この取得したバッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行うことにより、キャパシタの定格電圧を超えないようにして、バッテリへ回生する最適解を求めることができる。したがって、キャパシタの電圧の急上昇にも応答性よく対応することができ、キャパシタやバッテリの損傷を防止することが可能となる。
【0037】
また、本実施の形態によれば、キャパシタを小容量化してキャパシタ電圧が急上昇しやすくなっても回生制御を適確に行うことができるので、キャパシタの小容量化を実現することができる。この結果、電源装置の小型、軽量化を図ることができる。
【0038】
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を詳述してきたが、本発明は上述した一実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。すなわち、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電源装置の要部の構成を示す図である。
【図2】回生FETオン状態での等価回路を示す図である。
【図3】回生FETオフ状態での等価回路を示す図である。
【図4】スイッチングを繰り返し行った場合の電流の時間変化を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る電源装置の回生制御方法の処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】回生動作時の初期デューティを決定する際に参照する対応テーブルの構成例を示す図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る電源装置が搭載されたバッテリ式フォークリフトの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電源装置
2 バッテリ
3 電源コントローラ
4 モータ
5 インバータ
6 キャパシタ
7 負荷電流センサ
8 コントローラ
9,10 電圧計
21,22,25 電池
31 力行FET
32,33,39 コイル
34,35 回生FET
36 駆動回路
37,38 電流センサ
81 メモリ
100 バッテリ式フォークリフト
101 運転室
102 フォーク
103 マスト
104 レバー
105 アクセル
Tb 対応テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと負荷との間に並列接続されたキャパシタを有し、前記負荷に電力を供給する一方、前記負荷から電力を回収する電源装置であって、
前記負荷から電力を回収する回生動作時に、前記バッテリのバッテリ電圧を取得し、この取得したバッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行う制御手段
を備えたことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記バッテリ電圧と前記デューティとを対応付けた対応テーブルを記憶していることを特徴とする請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
バッテリ式フォークリフトに搭載されたことを特徴とする請求項1または2記載の電源装置。
【請求項4】
バッテリと負荷との間に並列接続されたキャパシタを有し、前記負荷に電力を供給する一方、前記負荷が発電した電力を回収する電源装置が、前記負荷から電力を回収する回生動作時に行う電源装置の回生制御方法であって、
前記バッテリのバッテリ電圧を取得し、この取得した前記バッテリ電圧に対応して予め定められたデューティを初期デューティとするPWM制御を行うことを特徴とする電源装置の回生制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−206299(P2008−206299A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39253(P2007−39253)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】