電荷注入特性が高い有機薄膜トランジスタ
【課題】トランジスタ特性が優れ、しかも大面積化が容易なボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタ、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】第1導電層及び第2導電層からなるソース・ドレイン電極を有するボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、該第1導電層は、塗布法を用いて形成されたものであり、該第1導電層の端部は該第2導電層の端部と比較して電極ブロックの内側に位置している有機薄膜トランジスタ。
【解決手段】第1導電層及び第2導電層からなるソース・ドレイン電極を有するボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、該第1導電層は、塗布法を用いて形成されたものであり、該第1導電層の端部は該第2導電層の端部と比較して電極ブロックの内側に位置している有機薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタに関し、特にボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、次世代薄膜能動素子の材料として、有機半導体、酸化物半導体、マイクロクリスタルシリコン半導体、溶液塗布可能な低温ポリシリコン半導体等が盛んに研究されている。その中で、有機半導体は曲げ等に対する機械強度が強く、低温で塗布法にて層形成することができ、フレキシブル基板を用いた素子の製造において、他の半導体材料に比べ優れている。
【0003】
図22は、有機半導体を使用したボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。この有機薄膜トランジスタには、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3上にチャネル部を挟んで形成されたソース電極7及びドレイン電極7と、ソース電極7及びドレイン電極7上に形成された有機半導体層8と、素子全体を被覆するオーバーコート10とが、備えられている。この構造は、ソース・ドレイン電極と有機半導体層のチャンネル形成部とが同一平面的に配置されており、コプラナー型とも呼ばれる。
【0004】
図23は、有機半導体を使用したボトムゲート・トップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。この有機薄膜トランジスタには、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3上に形成された有機半導体層8と、有機半導体層8上にチャネル部を挟んで形成されたソース電極7及びドレイン電極7と、素子全体を被覆するオーバーコート10とが、備えられている。この構造は、ソース・ドレイン電極と有機半導体層のチャンネル形成部とが異平面的に配置されており、スタガ型とも呼ばれる。この他、有機半導体を使用したスタガ型の構造としては、図23の構造とは層の配置が上下逆になった、トップゲート・ボトムコンタクト型の構造も使われている。
【0005】
スタガ型の素子では、キャリアはソース電極から有機半導体のバルク内を流れ、次いで、チャネル形成部が存在するゲート絶縁層と有機半導体との界面を流れ、次いで、有機半導体のバルク内を流れてドレイン電極に至る。そのため、短チャネルにすると高い有機半導体バルクの抵抗値が、トランジスタ特性を顕著に低下させる因子となる。一方、コプラナー型の構造には、有機半導体バルクの抵抗が0になる利点があり、微細な素子には、コプラナー型の構造が広く用いられている。
【0006】
コプラナー型の構造では、スタガ型と比較して、ソース・ドレイン電極と有機半導体のチャネル形成部との接触面積が小さく、両者間のコンタクト抵抗が特性を決めるクリティカルな因子となる。コンタクト抵抗の問題を解決する手法として、ゲート絶縁層の表面に、有機絶縁材料に対する密着性に優れた金属材料の層を形成し、その横部に有機半導体とオーミック接触を形成する金属材料の層を形成してソース・ドレイン電極とした素子が知られている(特許文献1)。しかしながら、該金属材料の層はリフトオフ法で形成されており、フォトリソグラフィ工程及びマスク総数が増加してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-147613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トランジスタ特性が優れ、しかも大面積化が容易なボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタ、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、ゲート電極と、該ゲート電極上に該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層上にソース電極及びドレイン電極とを有し、更に、該ゲート絶縁層上の該ソース電極と該ドレイン電極とに挟まれた領域を被覆し、かつ該ソース電極と該ドレイン電極の少なくとも一部とを被覆する有機半導体層を有する、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、
該ソース電極及びドレイン電極は、該ゲート絶縁層上の第1導電層及び第1導電層上の第2導電層からなり、
該第1導電層は、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、塗布法を用いて形成されたものであり、
該第1導電層の端部は該第2導電層の端部よりも内側に位置している有機薄膜トランジスタを提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記第2導電層の端部から第1導電層の端部までの間隔が1nm以上500nm以下である。
【0011】
ある一形態においては、該第1導電層は、酸化タングステン、酸化亜鉛及び酸化銀からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、該第2導電層は、金属又は合金を含む。
【0012】
ある一形態においては、前記第1導電層が、タングステンアルコキサイドからゾルゲル法により形成された、タングステンの価数が5価、又は5価と6価の組み合わせである酸化タングステン層である。
【0013】
ある一形態においては、前記第1導電層が酸化タングステンのみからなり、第2導電層が銀、銅又は銀と銅とパラジウムの合金のみからなる。
【0014】
ある一形態においては、ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層が銅からなり、ソース電極の第2導電層及びドレイン電極の第2導電層が、金からなる。
【0015】
ある一形態においては、ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層の膜厚が、同一又は相異なり、1〜100nmである。
【0016】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタを含む回路を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタを含む回路がマトリクス状に配置されたアクティブマトリクス型表示装置を提供する。
【0018】
また、本発明は、基板上に、ゲート電極、及び該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層を形成する工程;
該ゲート絶縁層上に塗布法を用いて、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む第1導電層を成膜する工程;
該第1導電層上に第2導電層を成膜後、ソース電極及びドレイン電極に応じたパターンに形成する工程;
該第2導電層で被覆されていない第1導電層の部分を除去する工程;
更に第1導電層をその端の部分から除去することにより、第1導電層の端部を該第2導電層の端部よりも内側に位置させる工程;
第1導電層が除去されて露出したゲート絶縁層とその両側のソース電極及びドレイン電極とが被覆されるように、有機半導体層を成膜する工程;
を含む有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタは、コプラナー型ではあるがスタガ型に近い素子構造にすることで有機半導体層と電極層とのコンタクト抵抗が低減され、トランジスタ特性が優れる。また、該有機薄膜トランジスタは製造過程でゲート絶縁層表面が損傷されないため、ゲート絶縁層を有機物質で構成するのに適する。更に、該有機薄膜トランジスタは大面積化が容易な方法で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である有機薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図2】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図3】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図4】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図5】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図6】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図7】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図8】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図9】実施例1で形成されたソース・ドレイン電極のSEMによる断面観察像を示す写真である。
【図10】実施例1で形成された有機薄膜トランジスタのSEMによる断面観察像を示す写真である。
【図11】実施例で形成された有機薄膜トランジスタI及びIIIの伝達特性及び出力特性を示すグラフである。
【図12】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの伝達特性及び出力特性を示すグラフである。
【図13】本発明の他の実施形態である有機薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図14】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図15】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図16】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図17】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図18】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図19】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図20】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図21】実施例で形成された有機薄膜トランジスタV及びVIの伝達特性及び出力特性を示すグラフである。
【図22】ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。
【図23】ボトムゲート・トップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。
【図24】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの特性のチャネル長依存性を示すグラフである。
【図25】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの特性のチャネル長依存性を示すグラフである。
【図26】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの特性のチャネル長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の有機薄膜トランジスタは、基板1と、該基板1上に配置されているゲート電極2と、該ゲート電極2上に配置されており、該ゲート電極2を被覆するゲート絶縁層3と、該ゲート絶縁層3上に配置されているソース電極及びドレイン電極を有し、更に、該ゲート絶縁層3の該ソース電極と該ドレイン電極とに挟まれた領域を被覆し、かつ該ソース電極と該ドレイン電極とを被覆する有機半導体層8を有する、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、該ソース電極及びドレイン電極は、該ゲート絶縁層3上の第1導電層4及び第1導電層4上の第2導電層5からなること、該第1導電層4は、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、塗布法を用いて形成されたものであること、及び該第1導電層4の端部は該第2導電層5の端部よりも内側に位置していることを特徴とする。
【0022】
図1は本発明の一実施形態である有機薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。この有機薄膜トランジスタは、ゲート電極2及び該ゲート電極2を被覆するゲート絶縁層3を有し、該ゲート絶縁層3上に、第1導電層4及び第2導電層5からなるソース電極及びドレイン電極7を有し、該ソース・ドレイン電極の間に有機半導体層8を有し、該有機半導体層8を被覆する保護層10を有する。
【0023】
ゲート電極2の材料としては、導電性の高い金属及びその合金が好ましく用いられる。
例えば、耐エレクトロ・ストレスマイグレーション性の高い高融点金属の合金、酸化物、窒化物である。また、金属表面の仕事関数を調整するため、必要に応じて、ゲート電極2を積層構造にしたり、表面改質の処理を実施してもよい。本発明において、高融点金属とは、融点が1000℃以上の金属を指す。
【0024】
ゲート電極2は、板状又はシート状材料を基板として用いて、その表面の全部又は一部に形成されてもよい。ゲート電極2は、例えばフォトリソグラフィ法、印刷法等のような、通常使用される方法によってパターニングされて、基板の表面の一部に形成される。
【0025】
有機薄膜トランジスタが折り曲げることが可能なフレキシブル素子である場合、基板1としてフレキシブルなシート状材料が使用される。フレキシブルなシート状材料としては、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)等の樹脂、ステンレススチール等の金属箔、エッチングにより曲げる事が可能な薄さにしたガラス等が挙げられる。
有機薄膜トランジスタが折り曲げることができない素子である場合、基板1に用いられる材料としては、ガラス、金属等が挙げられる。
【0026】
基板1に含まれる材料によるゲート電極2の変質を防止するため、必要に応じて該基板1とゲート電極2との間に保護層を設けてもよい。
【0027】
ゲート絶縁層3は誘電率が高い材料から形成する。ゲート絶縁層3が無機絶縁材料を含む場合、該無機材料としては、シリコンの熱酸化膜等が挙げられる。
【0028】
ゲート絶縁層3が有機絶縁材料を含む場合、該有機絶縁材料としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルフェノール、シアノエチルプルラン等のフッ素原子を有さない樹脂、旭硝子社製「Cytop」(登録商標)、Dupont社製の「TEFLON」(登録商標)等のフッ素系樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂に含まれる繰り返し単位を有する共重合体や該樹脂又は該共重合体を含む組成物を用いてもよい。該共重合体はスチレンから誘導される繰り返し単位等の分極を有さない繰り返し単位を含むことが好ましく、該組成物は、ポリスチレン等の分極を有さない高分子化合物を含むことが好ましい。
【0029】
有機絶縁材料を含むゲート絶縁層3は、例えば有機絶縁材料と溶媒とを含む溶液を塗布し乾燥させる方法等によってゲート電極2上に積層される。溶液の塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法等が挙げられる。
【0030】
ゲート絶縁層3の積層時には、必要に応じて、ゲート絶縁層3にコンタクトホールを形成する等のパターニングを施してもよい。有機絶縁材料は光もしくは熱により架橋し硬化することが好ましく、上記パターニングを行う場合は、有機絶縁材料が感光性を有していることがより好ましい。有機絶縁材料としては、分極を有さない材料が好ましく、誘電率が1.5(F/m)以上の材料が好ましい。また、架橋により硬化する以外にも、有機絶縁材料を乾燥してフィルムを形成し、高い絶縁耐圧を確保してもよい。
【0031】
有機薄膜トランジスタの特性の観点からは、有機絶縁材料が、有機薄膜トランジスタの製造に用いられる溶媒に対して不活性であり、かつ、不溶であることが好ましい。
【0032】
次に、ソース電極及びドレイン電極について説明する。本明細書では両者を総称してソース・ドレイン電極という。ソース・ドレイン電極7は第1導電層4及び第2導電層5からなる積層構造をとる。ソース・ドレイン電極7を積層構造とすることでそれぞれの層に違った機能を持たせることが可能となる。例えば、第1導電層4の機能として、ゲート絶縁層3とソース・ドレイン電極7の密着性を上げる効果を持つ密着層としての機能や第2導電層5の金属原子がゲート絶縁層3へ拡散するのを防ぐバリア層としての機能を持たせたり、第1導電層4もしくは第2導電層5のどちらかに有機半導体層への電荷注入層の機能を持たせたりする事ができる様になる。
【0033】
有機絶縁層上に第1導電層4を成膜する(即ち、連続層として積層する)際には、塗布法、印刷法、無電解めっき法又は原子層堆積法を用いることが好ましく、塗布法を用いることがより好ましい。これらの方法を用いることにより、ゲート絶縁層3、特に有機絶縁材料を含むゲート絶縁層3に対するプロセスダメージが少なくなる。
【0034】
塗布法で第1導電層4を成膜するには、材料がインクで有る必要が有る。更に、本発明の効果を出すには、インク状態から後工程で不要箇所の除去が容易な無機の導電層になるのが良い。酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、銀塩、銀及び銅は、比較的低温焼成でインク状態から無機の導電層にする事ができ、フレキシブル基板等の樹脂基板への適用も可能となる。この中でも、酸化タングステンはゾルゲル液にしてゾルゲル法で150〜200℃程度で容易に膜を得る事が可能であり、酸化銀は成膜後、エタノール液に浸漬し超音波処理を行う事で還元反応が起きる事が知られており、更には、還元反応の強いアルコール(例えば、トリエチレングリコールなど)を溶媒として用い200℃未満の熱処理を行う事で還元されて銀になる事が知られている。更に最良の材料は、酸化タングステンであり第2導電層5で用いられる金属材料に対して比較的容易にエッチング選択比を取る事が可能である。
【0035】
本明細書でいうプロセスダメージとは、有機薄膜トランジスタを製造するための操作や処理がその構成部材を損傷することをいう。例えば、ゲート絶縁層上に直接金属等を物理気相成長(PVD)させると、ゲート絶縁層に含まれている絶縁材料は金属蒸気のエネルギーによって損傷される。特に、PVD法に含まれるスパッタリング法を用いた場合、損傷が顕著である。
【0036】
中でも、第1導電層4は、好ましくは、図2に示す様に、導電性材料と溶媒とを含む溶液を該ゲート絶縁層3上に塗布し乾燥させて成膜される。
【0037】
第1導電層4は、例えば、金属アルコキサイドからゾルゲル法により形成することができるポリメタロキサンを含む。金属アルコキサイドの金属としては、チタン、アルミニウム、タングステン、ニオブ、ジルコニウム、バナジウム、タンタル等が挙げられる。
【0038】
好ましい金属アルコキサイドは、タングステンアルコキサイドである。タングステン酸化物の層はゲート絶縁層3や第2導電層5に対して直交溶媒であるアルカリ溶液でエッチングしやすく、不用になった第1導電層4は、ゲート絶縁層3表面から容易に除去することができる。
【0039】
タングステンアルコキサイドとしては、タングステン(V)メトキサイド、タングステン(V)エトキサイド、タングステン(V)イソプロポキサイド、タングステン(V)ブトキサイド等が挙げられる。また、これらのタングステンアルコキサイドから得られる酸化タングステンにおけるタングステンの価数は5価である。タングステンアルコキサイドから得られる酸化タングステンは、アルカリ溶液に非常に良く溶ける為、エッチング時間を短くできるという利点もある。更に、エッチング時間が短かすぎる場合は、オゾンUVもしくはO2プラズマ等を当てることで酸化タングステンにおけるタングステンの価数を変えて溶解性を変化させることができるため、エッチング時間を長くすることも容易である。更には、塗布法に簡単なオゾンUV処理のみで価数を上げて6価にできるため、反応性スパッタリング法などを用いずとも塗布法でWO3の層を簡単に得ることができる。また、焼成温度も150℃と低温で処理出来るためフレキシブル基板等への適用も可能である。この様にして得られる第1導電層4の酸化タングステンにおけるタングステンの価数は、オゾンUV処理によるUV/O3の影響が強い第2導電層5の端部付近は6価の酸化タングステンであるWO3が多く、UV/O3の影響が殆ど無い電極下は5価の成分が多い。従って、最終的に得られる酸化タングステンの第1導電層4は、5価と6価の組合せとなる。
【0040】
従って、一つの好ましい態様において、前記第1導電層4は、タングステンアルコキサイドからゾルゲル法により形成された、タングステンの価数が5価、又は5価と6価の組み合わせである酸化タングステン層である。
【0041】
第1導電層4をゾルゲル法により形成する場合、用いられるゾルゲル液の溶媒は、使用する金属アルコキサイドを溶解又は分散し、室温で揮発性を示すものである。更には、下層であるゲート絶縁層3を溶かしたり膨潤させるなどのダメージを与えない直交溶媒(オルトゴナル溶媒)が好ましい。かかる溶媒には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以後、「PGMEA」ということがある。)、フッ素原子を有する芳香族化合物が含まれる。また、ゲート絶縁層3がフッ素樹脂を有する場合、表面自由エネルギーが30mN/m以下の表面に均一に平滑膜を塗布形成する必要が有る為、最良の溶媒は、低表面張力でありフッ素原子を有する芳香族化合物(例えば、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン(別名:パーフルオロトルエン))である。
【0042】
また、ゾルゲル液には、形成される層の均一性及び表面平滑性を向上させるために金属アルコキシドの安定化剤を含有させてもよい。金属アルコキシドの安定化剤は、例えば、α−ヒドロキシケトン化合物、α−ヒドロキシケトン誘導体、エタノールアミン化合物、α−ジケトン化合物、α−ジケトン化合物誘導体、α−ヒドロキシカルボン酸化合物、β−ジケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
【0043】
その他、第1導電層4に含まれる材料としては、金属、金属の化合物、金属を含む合金、半導体、半導体の化合物、半導体を含む合金が挙げられる。金属の化合物には、上記金属酸化物、酸化物半導体、塩化銀等の銀塩が含まれる。
【0044】
金属としては、Ti、Ta、Cu、Mo、W、Au、Ag等が挙げられる。金属の化合物としては、TiN、TaN、TiO2、WO3、MoO3、AgCl、Ag2O、CuO等が挙げられる。金属を含む合金としては、MoW、TiW、MoCr等が挙げられる。半導体としては、Si、Ge、Ga等が挙げられる。半導体の化合物としては、SiC、GaN、GaAs等が挙げられる。半導体を含む合金としては、WSi、MoSi、TiSi等が挙げられる。酸化物半導体としては、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、酸化亜鉛(ZnO)、亜鉛スズ酸化物(ZTO)、CdSnO、GaSnO、TiSnO、CuAlO、SrCuO、LaCuOS等が挙げられる。
【0045】
中でも、Ti、Mo、Cr、Ta、W、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Pt、Ir、Co、Fe、V、Zr、これらの金属の化合物、これらの金属のいずれかを含む合金、Si、B、Ge、これらの半導体の化合物、これらの半導体のいずれかを含む合金が好ましく、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀、銅がより好ましく、酸化銀がさらに好ましい。
【0046】
例えば、第1導電層4は、Ti、Al、W、Nb、Zr、V及びTaから成る群から選択される金属の酸化物又は窒化物を含有する。
【0047】
一つの態様において、該第1導電層4が、酸化タングステン及び酸化銀からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む。一つの好ましい態様において、前記第1導電層4が酸化タングステンのみからなる。
【0048】
第1導電層4に含まれる材料としては、高融点金属の微粒子、酸化物、窒化物がより好ましく、融点が1000℃以上である金属の微粒子、酸化物、窒化物がさらに好ましい。
ここで、金属の微粒子とは、粒径が1nm〜1000nmの金属をいう。好ましくは、平均粒径が3〜100nmのナノ粒子、更に好ましくは、3〜30nmのナノ粒子である。
【0049】
第1導電層4を形成するための導電性材料と溶媒とを含む溶液は、先に示した金属アルコキサイド以外では、例えば、ITO、IZO、IGZO、タングステン酸化物(WxOy)、チタン酸化物(TixOy)、チタンニオブ酸化物(TixNbyOz)、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀、銅のナノ粒子分散溶液又は銀塩である(式中、添え字のx、y及びzは0よりも大きい数である。)。又は、上記溶液は、これらの導電性材料の金属イオンを含有する無電解めっき液である。
【0050】
第1導電層4は、導電性材料と溶媒とを含む分散液又はゾルゲル液を用い、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法等の塗布手法により成膜することが好ましい。
【0051】
又は、第1導電層4は、上記導電性材料の金属イオンを含有する無電解めっき液を用い、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法でめっき触媒又はめっき触媒前駆体をゲート絶縁層上全面に塗布し、ゲート絶縁層等と共に該めっき触媒又はめっき触媒前駆体を上記無電解めっき液に浸漬して金属等を堆積させることにより形成してもよい。
【0052】
更には、第1導電層4と第2導電層5が金属同士で形成されていても良い。例えば、第1導電層4として塗布法で銅を形成し、その上に、金をスパッタリングで形成する。この後、金をソース電極およびドレイン電極と同じ形にパターニングし、その後、銅を金をマスクとしてパターニングする。金と銅や銀、銀合金ならばエッチング選択比が取れる。
【0053】
一つの好ましい態様において、ソース電極の第1導電層4及びドレイン電極の第1導電層4は銅からなり、ソース電極の第2導電層5及びドレイン電極の第2導電層5は金からなる。
【0054】
第1導電層4の積層方法は上記以外の方法であってもよく、ゲート絶縁膜へダメージを与えない方法ならば特に制限はない。また、原子層堆積(ALD)法等により成長させて積層してもよい。ALD法で積層する場合、第1導電層4に含まれる材料としては、Ti、Mo、Cr、Ta、W、Ni、Pd、Cu、Au、Pt、Ir、Co、Fe、V、Zr、これらの金属のいずれかを含む合金、これらの金属の酸化物又はこれらの金属の窒化物等が挙げられる。また、ALD法に使用する金属化合物前駆体としては、窒化チタン(TiN)の前駆体であるビス(ジエチルアミド)ビス(ジメチルアミド)チタニウム(IV)(Bis(diethylamido)bis(dimethylamido)titanium(IV))、窒化タンタル(TaN)の前駆体であるトリス(エミルメチルアミド)(tert−ブチルアミド)チタニウム(Tris(ethylmethylamido)(tert-butylimido)tantalum)等が挙げられる。
【0055】
さらに、第1導電層4のフェルミレベルは、有機半導体層8の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギーと同等かそれよりも深いことが好ましい。
【0056】
第1導電層4の層厚は、1〜100nmが好ましく、10〜50nmがより好ましい。一つの態様において、ソース電極の第1導電層4及びドレイン電極の第1導電層4の膜厚が、同一又は相異なり、1〜100nmである。
【0057】
第2導電層5は、好ましくは、図3に示す様に、導電性材料を第1導電層4上に成膜し、その後パターニングして形成する。
【0058】
第2導電層5は、例えば、Ag合金からスパッタリング法により成膜することができる。スパッタリング法を使用しても、パターニング前の第1導電層4がバリア層として機能するため、有機絶縁材料に対するプロセスダメージが小さくなる。Ag合金としては、例えば、Ag−Pd−Cu合金(APC)等が挙げられる。
【0059】
第2導電層5に含まれる材料は、Ag合金以外にも、導電性が高い金属、その合金、その酸化物、その窒化物を用いることができる。中でも、Ag、Al、Au、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zr又はこれらの金属のいずれかを含む合金が好ましい。これらの金属は非常に一般的な金属であり、導電性が高く比較的容易にスパッタリングターゲットを入手する事が可能である。さらに、これらの金属の合金、酸化物、窒化物を成膜する場合にも、反応性スパッタにより容易にこれらの物を得る事が可能である。有機薄膜トランジスタの第1の実施形態においては、該材料が低コストで高いエレクトロ・ストレスマイグレーション耐性を有することが好ましい。該材料としては、Cu等が挙げられる。
【0060】
一つの態様において、第2導電層5は、金属又は合金を含む。また、一つの好ましい態様において、第2導電層5が銀、銅又は銀と銅とパラジウムの合金のみからなる。
【0061】
第2導電層5に含まれる材料を、第1導電層4に含まれる材料との非限定的な組み合わせと共に、具体的に例示する。第2導電層5の導電性は第1導電層4の導電性よりも高くなることが好ましい。第2導電層5の導電性が第1電極層4の導電性よりも高くなることにより、第2導電層に、素子構成上不可欠なバスライン等、配線層としての機能を持たせることが可能となるためである。
【0062】
【表1】
【0063】
第2導電層5は、スパッタリング法以外に、物理気相成長(PVD)法、化学気相成長(CVD)法、無電解めっき法により積層してもよい。
【0064】
微細なパターンを形成する観点から好ましくは、第2導電層5のパターニングは、フォトリソグラフィ法を用いて行う。その場合、図4に示す様に、第2導電層5の上にマスク9を形成し、マスクに被覆されていない第2導電層5の部分はエッチングして除去する。
【0065】
また、パターニングを簡便に行うためには、例えば、金属ナノ粒子分散溶液のような導電性材料と溶媒とを含む分散液又はゾルゲル液を、印刷法により第1導電層4上の必要な領域に直接塗布して、パターン化された第2導電層5を形成してもよい。又は、無電解めっき法を用いて、第1導電層4上の必要な領域に直接めっき触媒又はめっき触媒前駆体を印刷してパターニングを行い、第1導電層4等と共に該めっき触媒又はめっき触媒前駆体を上記導電性材料の金属イオンを含有する無電解めっき液に浸漬して金属等を堆積し、パターン化された第2導電層5を形成してもよい。
【0066】
これらのパターニングにより、図5に示す様に、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造に適した所望の位置に第2導電層5を形成する。
【0067】
第2導電層の層厚は、10〜1000nmであることが好ましく、50nm〜500nmがより好ましい。
【0068】
次に、パターニングされた第2導電層5をマスクとして、第1導電層4のパターニングを行う。第1導電層4のパターニングは、まず、図6に示されるように、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分を除去し、更に、図7に示されるように、第1導電層4の端の部分を除去することにより行う。その結果、第1導電層4の形状は、第1導電層4の端部が第2導電層5の端部と比較して内側に位置するようなものになる。
【0069】
ここで、第1導電層4の端部が第2導電層5の端部と比較して内側に位置するとは、第1導電層4の底面と平行な平面に、該平面に対して垂直な方向から第1導電層4を投影して描かれた第1の投影図が、該平面に対して垂直な方向から第2導電層5を投影して描かれた第2の投影図よりも面積が小さく、該第1の投影図が該第2の投影図に内包されることをいう。
【0070】
このように、第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までに間隔を設けると、第2導電層5は底面部においても有機半導体に接することができ、有機半導体との接触面積が増大する。その結果、有機半導体層と電極層のコンタクト抵抗が低減されてソース電極及びドレイン電極には電流が出入りし易くなり、トランジスタ特性が向上する。
【0071】
本明細書において、トランジスタ特性とは、移動度μ、最大電流Id、スレッショルド電圧Vth、Swing Factor(サブスレッショルドスイング(S値))、On/Off比等の特性をいう。
【0072】
第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までの間隔は1nm以上500nm以下にすることが好ましく、より好ましくは50nm〜300nmである。この間隔が500nmを超えると、第2導電層5が著しく変形したり、有機半導体層形成時に有機半導体材料が該間隔の領域に十分に流れ込まず、空洞が大きくなる。
【0073】
第1導電層4を除去する方法としては、第2導電層5に対するエッチング選択比が高いアルカリエッチング液を用いた湿式エッチング法を用いることができる。例えば、エッチング液のエッチング選択比が、第1導電層4:第2導電層5=10:1の場合、第1導電層4が500nmエッチングされる場合には、第2導電層5は、50nmしかエッチングされない。この場合、より好ましくは、第2導電層が不溶であるエッチング液を用いる。
【0074】
図5に示されるように、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分は露出している。また、図6に示されるように、第1導電層4の端の部分は第2導電層5に被覆されておらず露出している。そのため、これらの部分はアルカリエッチング液に接触して溶出しうる。
【0075】
アルカリエッチング液としては、水酸化カリウム(KOH)の希釈水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)の希釈水溶液を用いてもよく、該溶液の濃度は、エッチングレートの調整のため如何ようにも変更が可能であるが0.1wt%以上であることが好ましい。また、市販のアルカリエッチング液を使用してもよく、具体例としては、メルテックス株式会社製「メルストリップ」(商品名)シリーズ等が挙げられる。より好ましいアルカリエッチング液は、金属イオンが無い水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)の希釈水溶液である。
【0076】
所望のエッチング選択比を得る材料の組合せとしては、第1導電層4に酸化タングステンを用いた場合、第2導電層5には、金、銀、銅、又は銀と銅とパラジウム合金を用いる事がより好ましい。第1導電層4の酸化タングステンはTMAHに可溶であるが、金、銀、銅、又は銀と銅とパラジウム合金は不溶である。従って、非常に高い選択比を取る事が出来る。また、エッチング選択比を取るだけならば第2導電層5は前記以外のAl、Cd、Co、Cr、Fe、Mg、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zr等でも良いがエッチングなどのプロセス的な側面や半導体層に対する電荷注入性の観点から好ましく無い。特に有機半導体への電荷注入性という測面では、金、銀、銅、又は銀と銅とパラジウム合金が好ましく、これらの金属は、塗布形成された有機半導体層8に焼成処理を行うことで、焼成を行わない場合と比べて有機半導体層8に対する高いホール注入性を得ることが出来る。
【0077】
つまり、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分及び第1導電層4の端部は、湿式エッチング法を用いて、同様にして除去することができる。両部分の除去は連続的に又は1回のエッチング操作によって行われてもよい。
【0078】
エッチング時間等の湿式エッチングを行う際のエッチング条件は、第1導電層4の材質及び厚さに依存して適宜決定される。また、第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までの間隔は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いてソース・ドレイン電極の断面を観察することにより測定できる。
【0079】
例えば、第1導電層4が厚さ約30nmのタングステンが5価の酸化タングステン層であり、アルカリエッチング液がTMAHの2.38%水溶液である場合、室温にて5秒以上の時間をかけてエッチングすることにより、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分及び第1導電層4の端部が一緒に除去されて、第2導電層5の端部が第1導電層4と接触せず、第2導電層5の端部の下が空洞になる。第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までの間隔を上記適当な範囲にするためには、例えば、エッチング時間を5〜120秒の範囲で適宜調節する。
【0080】
第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分の除去は、アルカリ性のレジスト剥離液等を用い、レジスト剥離と同時に第1導電層4を剥離することにより行ってもよい。
【0081】
パターニング前の第1導電層4は、第2導電層5を形成する際のプロセスダメージからゲート絶縁層3を保護する保護層としての機能を有している。また、第1導電層4は、ゲート絶縁層3と第2導電層5との密着性を高める機能を有している。更に、第1導電層4は、バリア層としての機能をも有している。
【0082】
第1導電層4の保護層としての機能とは、有機薄膜トランジスタの製造プロセス中で発生する物理的及び化学的な外的因子から、構成部材を保護する機能をいう。例えば、有機絶縁層の場合、表面にダメージを受けると接触角や表面ラフネスが変化するが、保護層を設ける事によりこれらの変化を抑制する事が出来る。
【0083】
第1導電層4のゲート絶縁層3と第2導電層5との密着性を高める機能は、スクラッチ試験法による定量的な評価や、より簡単に確認する手法として「JISG0202」に定められている碁盤目試験により確認することができる。
【0084】
第1導電層4のバリア層としての機能とは、金属分子の周辺膜中への拡散防止層としての機能、エレクトロマイグレーション、ストレスマイグレーション耐性を付与する機能をいう。該機能は、XPS、AES、TOF−SIMS等により層厚方向に対する組成分析を実施し、有機絶縁膜中に金属原子が拡散してないかで確認できる。また、エレクトロマイグレーション及び、ストレスマイグレーションについては、電極の抵抗値に大きな変化が無く、有機薄膜トランジスタが所望の動きをしていれば問題が発生してないと判断できる。
【0085】
ここで、エレクトロマイグレーションとは、大電流ストレスを受けた金属配線中の金属原子の移動が原因でボイド形成又は原子の蓄積が生じ、配線の抵抗値増加、断線及び配線間ショート等の故障を引き起こす現象をいう。また、ストレスマイグレーションとは、金属配線膜が保護層(パッシベーション膜)又は層間絶縁膜から受ける応力に起因して、高温処理又は温度サイクルによって配線内の原子移動が起こり、抵抗値が変動したり断線する現象をいう。
【0086】
有機半導体材料からなる有機半導体層8は、図8に示す様に、ソース電極とドレイン電極との間のゲート絶縁層3上に積層される。第2導電層5の端部は、有機半導体層8と接触していることが好ましい。第2導電層5の端部の有機半導体層との接触は、これらの端部全てが接触していても、端部の一部のみが接触し、空洞が生じていてもよい。
【0087】
有機半導体層8の積層方法としては、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法等の塗布手法が好ましい。
【0088】
また、有機半導体材料としては、溶媒に溶解し、有機半導体層8を塗布法で形成できる材料であれば特に制限は無い。該有機半導体材料としては、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(6,13-bis(triisopropylsilylethynyl) pentacene(Tips-Pentacene))、13,6−N−スルフィニルアセトアミドペンタセン(13,6-N-sulfinyl
acetamidopentacene(NSFAAP))、6,13−ジヒドロ−6,13−メタノペンタセン−15−オン(6,13-Dihydro-6,13-methanopentacene-15-one(DMP))、ペンタセン−N−スルフィニル−n−ブチルカルバマート付加物(Pentacene-N -sulfinyl-n -butylcarbamate adduct)、ペンタセン−N−スルフィニル−tert−ブチルカルバマート(Pentacene-
N -sulfinyl-tert -butylcarbamate)等のペンタセン前駆体、[1]ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン([1]Benzothieno[3,2-b]benzothiophene (BTBT))、ポルフィリン、可溶性基としてアルキル基等を有するオリゴチオフェン等の低分子化合物、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)等のポリチオフェン、フルオレンコポリマー(例えば、フルオレンジイル基とチオフェンジイル基とを有する共重合体)等の高分子化合物等が挙げられる。
【0089】
保護層10は、図1に示す様に、有機半導体層8上に有機絶縁材料と溶媒とを含む溶液をスピンコート法等により塗布して積層することができる。この時、必要に応じて、保護層10にコンタクトホール形成等のパターニングを施してもよい。パターン形成を行う場合は、保護層10に含まれる有機絶縁材料が感光性を有していることが好ましい。有機絶縁材料としては、分極を有さない材料が好ましく、誘電率が1.5(F/m)以上4.0(F/m)以下の材料が望ましい。また、架橋で硬化させてもよく、有機絶縁材料を乾燥してフィルムを形成し、高い絶縁耐圧を確保してもよい。
【0090】
有機絶縁材料としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド等のフッ素原子を有さない樹脂、例えば、旭硝子社製「Cytop」(登録商標)、Dupont社製の「TEFLON」(登録商標)等のフッ素系樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂に含まれる繰り返し単位を有する共重合体や該樹脂又は該共重合体を含む組成物を用いてもよい。該共重合体はスチレンから誘導される繰り返し単位等の分極を有さない繰り返し単位を含むことが好ましく、該組成物は、ポリスチレン等の分極を有さない高分子化合物を含むことが好ましい。
【0091】
本発明の有機薄膜トランジスタは、アクティブマトリックス表示装置、回路に用いることができる。尚、文中で挙げた印刷法とは、パターン塗布可能なスリットコート法、キャピラリーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、インクジェット法に代表される無版印刷法とフレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、マイクロコンタクト印刷、ナノインプリントに代表される有版印刷法である。
【実施例】
【0092】
合成例1
(高分子化合物1の合成)
スチレン(和光純薬製)2.06g、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン(アルドリッチ製)2.43g、2−〔O−[1’−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ〕エチル−メタクリレート(昭和電工製、商品名「カレンズMOI−BM」)1.00g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.06g、2−ヘプタノン(和光純薬製)14.06gを、50ml耐圧容器(エース製)に入れ、窒素をバブリングした後、密栓し、60℃のオイルバス中で48時間重合させて、高分子化合物1が溶解している粘稠な2−ヘプタノン溶液を得た。高分子化合物1は下記繰り返し単位を有している。ここで、( )の添え数字は繰り返し単位のモル分率を示している。
【0093】
【化1】
高分子化合物1
【0094】
得られた高分子化合物1の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、32800であった(島津製GPC、「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相=THF)。
【0095】
合成例2
(高分子化合物2の合成)
4−アミノスチレン(アルドリッチ製)3.50g、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン(アルドリッチ製)13.32g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.08g、2−ヘプタノン(和光純薬製)25.36gを、125ml耐圧容器(エース製)に入れ、窒素をバブリングした後、密栓し、60℃のオイルバス中で48時間重合させて、高分子化合物2が溶解している粘稠な2−ヘプタノン溶液を得た。
高分子化合物2は下記繰り返し単位を有している。ここで、( )の添え数字は繰り返し単位のモル分率を示している。
【0096】
【化2】
高分子化合物2
【0097】
得られた高分子化合物2の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、132000であった(島津製GPC、「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相=THF)。
【0098】
合成例3
(高分子化合物3の合成)
9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジ(エチレンボロネート)6.40g、及び5,5’−ジブロモ−2,2’−バイチオフェン4.00gを含むトルエン(80mL)中に、窒素下において、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.18g、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(Aldrich製、商品名「Aliquat 336」(登録商標))1.0g、及び2Mの炭酸ナトリウム水溶液24mLを加えた。この混合物を激しく攪拌し、加熱して24時間還流した。粘稠な反応混合物をアセトン500mLに注ぎ、繊維状の黄色のポリマーを沈澱させた。このポリマーを濾過によって集め、アセトンで洗浄し、真空オーブンにおいて60℃で一晩乾燥させた。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物3は、下記繰り返し単位を有している。nは繰り返し単位の数を示している。高分子化合物3の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、61000であった(島津製GPC、「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相=THF)。
【0099】
【化3】
高分子化合物3
【0100】
実施例1
(有機薄膜トランジスタIの製造)
本発明の実施例1の有機薄膜トランジスタの製造過程を、図2から図11を用いて説明する。
【0101】
まず、Si基板上に、高ドープSi層及びSi熱酸化膜が形成された積層体(以下、「高ドープp+Si基板」と称する場合がある。)を準備した。高ドープp+Si基板は、株式会社エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーションより入手した、「Boronドープ6inch p+Si基板」であり、抵抗率が0.1Ω/cm以下である。
【0102】
図2に示す通り、上記高ドープSi層をゲート電極2及びSi熱酸化膜をゲート絶縁層3として用いて、このゲート絶縁層3上に、5価の酸化タングステン(W2O5)のゾルゲル液をスピンコート法により塗布し、塗布層を形成した。この塗布層を5分程度大気中で乾燥させた後、200℃で30分の焼成処理を行い、パターニング前の第1導電層4を得た。このパターニング前の第1導電層4の層厚は、30nmであった。
【0103】
使用したW2O5のゾルゲル液は、タングステンアルコキサイドとしてタングステン(V)エトキサイド(tungsten(V)ethoxide)を、安定化剤としてβ−ジケトン化合物であるアセチルアセトンを含む溶液である。ゾルゲル液の溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を使用した。
【0104】
次に、パターニング前の第1導電層4上に、スパッタリング法により銅(Cu)膜を100nmの膜厚で成膜し、図3に示すパターニング前の第2導電層5を作製した。この後、パターニング前の第2導電層をフォトリソグラフィ法により、図4の形態を経て、図5に示す第2導電層5の形状へパターニングした。フォトリソグラフィにおいて、フォトレジストは、東京応化工業社製「TFR−H PL」を、現像液は、ナガセケムテックス社製「NPD−18」を、レジスト剥離液は、東京応化工業社製「106」を、Cuエッチング液は、関東化学社製の混酸「Cu−03」を使用した。
【0105】
フォトリソグラフィは、以下の工程により行った。Cu層上にフォトレジスト「TFR−H PL」の膜を形成し、フォトマスクを介して365nm UV光を照射した。次いで、現像液「NPD−18」を用いてフォトレジストの現像を行った。次いで、現像したフォトレジストをマスクとしてCuスパッタ膜を、Cuエッチング液Cu−03を用いて除去し、レジスト剥離液「106」を用いて残りのフォトレジストを剥離して、第2導電層5のパターニングを行った。
【0106】
次いで、パターニングされた第2導電層5をマスクとして、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH水溶液:濃度2.38%)で、図6に示されるように、パターニング前の第1導電層4の第2導電層5に覆われていない部分(露出している部分)をエッチングし、図7に示されるように、第1導電層4の端の部分をエッチングした。両部分のエッチングは連続して行い、エッチング時間は、合計90秒とした。最後に、ゲート絶縁膜3と第1電極層4、第2電極層5の密着性を向上させると共に、プロセス中に付着した水分を除去するために、最終焼成を窒素雰囲気のグローブボックス中で200℃10分実施した。
【0107】
図7に示す構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)で断面観察したところ、第1導電層4がサイドエッチングされており、第2導電層5の下に奥行き約250nmの空洞を観察した。図9に図7に示す構造体のSEM観察像を示す。この場合、第2導電層の端部から第1導電層の端部までの間隔は約250nmである。
【0108】
次に、キシレン溶液に0.5wt%の濃度で高分子化合物3を溶かし、窒素雰囲気下のグローブボックス内でスピンコート法によりゲート絶縁層3、ソース・ドレイン電極7上へ塗布し、塗布後直ぐに200℃10分の焼成処理を行い、有機半導体層8を形成した。
有機半導体層8の膜厚は約16nmであった。上記の工程により、図8に示す有機薄膜トランジスタIを製造した。
【0109】
なお、ゲート絶縁層3の表面処理、第2導電層5の表面処理は行わなかった。
【0110】
(有機薄膜トランジスタIのトランジスタ特性の評価)
製造した有機薄膜トランジスタIを、真空プローバーで、トランジスタ特性として20〜−40Vの範囲の伝達(Vg−Id)特性と出力(Vd−Id)特性を測定した。この時の真空プローバーの真空度は、約5×10−3Paであった。伝達特性及び出力特性を図11(a)、(b)に示す。また、移動度μ、最大電流Id、スレッショルド電圧Vth、Swing Factor(サブスレッショルドスイング(S値))、On/Off比は、伝達(Vg−Id)特性から求めた。評価結果を表2に示す。
【0111】
(有機薄膜トランジスタIのSEM観察)
トランジスタ特性測定後に、有機薄膜トランジスタIの断面2箇所を走査型電子顕微鏡(SEM)で断面観察した。この時のSEM観察像を、図10の(a)と(b)に示す。2箇所とも第2導電層5の端部の下に高分子化合物3が入り込んでいることが確認できた。図10の(a)に示す断面では、奥行き約250nmの第2導電層5の端部が、全て有機半導体層と接触していた。一方、図10の(b)に示す断面では、奥行き約250nmの第2導電層5の端部のうち、奥行き150nm〜180nm程度は有機半導体層と接触していたが、残り20nm〜50nm程度の空洞が残っていた。
【0112】
実施例2
(有機薄膜トランジスタIIの製造及びトランジスタ特性の評価)
第2導電層5の層厚を500nmにすること以外は実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタIIを作製し、トランジスタ特性を評価した。伝達特性及び出力特性を図12(c)、(d)に示す。評価結果を表2に示す。
【0113】
比較例1
(有機薄膜トランジスタIIIの製造及びトランジスタ特性の評価)
第1導電層4を形成せず、高ドープp+Si基板のゲート絶縁層3上に、スパッタ法によりCuスパッタ膜を直接形成すること以外は実施例1と同様にして、有機薄膜トランジスタIIIを製造し、トランジスタ特性を評価した。得られた伝達特性及び出力特性を図11(a)、(b)に示す。また、評価結果を表2に示す。
【0114】
比較例2
(有機薄膜トランジスタIVの製造及びトランジスタ特性の評価)
Cuスパッタ膜の層厚を500nmにすること以外は比較例1と同様にして有機薄膜トランジスタIVを作製し、トランジスタ特性を評価した。伝達特性及び出力特性を図12(c)、(d)に示す。評価結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2からわかるように、有機薄膜トランジスタIIIに対して有機薄膜トランジスタIは、移動度、最大電流、スレッショルド電圧Vth、サブスレッショルドスイング(S値)、On/Off比が向上していた。また、有機薄膜トランジスタIVに対して有機薄膜トランジスタIIは、移動度、最大電流、スレッショルド電圧Vth、サブスレッショルドスイング(S値)、On/Off比が向上していた。
【0117】
図11(b)及び図12(d)において、Vd=−5[V]以下の領域に、実施例の有機薄膜トランジスタと比較例の有機薄膜トランジスタとでは、大きな違いがあった。有機薄膜トランジスタIII、IVは、非線形特性のコンタクト抵抗特性を示したが、本発明の機薄膜トランジスタI、IIは、線形特性を示した。
【0118】
図24〜26に、有機薄膜トランジスタII及びIVのトランジスタ特性のチャネル長依存性を示す。図24〜26中、Lはチャネル長を示す。
【0119】
実施例3
(有機薄膜トランジスタVの製造)
本発明の実施例3の有機薄膜トランジスタの製造過程を、図14から図20を用いて説明する。
【0120】
まず、図14を参照して、洗浄済のガラス基板1上に、スパッタリング法でMo(モリブデン)層を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターニングして、ゲート電極2を形成した。フォトリソグラフィにおいて、フォトレジストは、東京応化工業社製「TFR−H PL」を、現像液は、ナガセケムテックス社製「NPD−18」を、レジスト剥離液は、東京応化工業社製「106」を、Moエッチング液は、関東化学社製の「S−80520」を使用した。
【0121】
フォトリソグラフィは、以下の工程により行った。Mo層上にフォトレジスト「TFR−H PL」の膜を形成し、フォトマスクを介して365nm UV光を照射した。次いで、現像液「NPD−18」を用いてフォトレジストの現像を行った。次いで、現像したフォトレジストをマスクとしてMoを、Moエッチング液「S−80520」を用いて除去し、レジスト剥離液「106」を用いて残りのフォトレジストを剥離して、ゲート電極2のパターニングを行った。
【0122】
次に、ゲート電極2を形成した基板をウエット洗浄し、その後、UVオゾン洗浄機にて300秒基板を洗浄し、その後、高分子化合物1、高分子化合物2及び2−ヘプタノンを含む溶液をゲート電極2上にスピンコート法により塗布して有機膜を成膜した。直ぐに、焼成処理を行い、ゲート絶縁層3を得た。この時の焼成処理は、220℃で25分焼成した。ゲート絶縁層の層厚は、約470nmであった。
【0123】
該ゲート絶縁層3上に、5価の酸化タングステン(W2O5)のゾルゲル液をスピンコート法により塗布し、塗布層を形成した。この塗布層を5分程度大気中で乾燥させた後、150℃で30分の焼成処理を行い、第1導電層4を得た。
【0124】
使用したW2O5のゾルゲル液は、タングステンアルコキサイドとしてタングステン(V)エトキサイド(tungsten(V)ethoxide)を使用し、安定化剤としてβ−ジケトン化合物であるアセチルアセトンを使用した。ゾルゲル液の溶媒は、2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエンを使用した。
【0125】
次に、第1導電層4上に、スパッタリング法により銅(Cu)膜を100nmの膜厚で成膜し、図15に示す第2導電層5を作製した。この後、第2導電層をフォトリソグラフィ法により、図16の形態を経て、図17に示す第2導電層5の形状へパターニングした。フォトリソグラフィにおいて、フォトレジストは、東京応化工業社製「TFR−H PL」を、現像液は、ナガセケムテックス社製「NPD−18」を、レジスト剥離液は、東京応化工業社製「106」を、Cuエッチング液は、関東化学社製の混酸「Cu−03」を使用した。
【0126】
フォトリソグラフィは、以下の工程により行った。Cu層上にフォトレジスト「TFR−H PL」の膜を形成し、フォトマスクを介して365nm UV光を照射した。次いで、現像液「NPD−18」を用いてフォトレジストの現像を行った。次いで、現像したフォトレジストをマスクとしてCuスパッタ膜を、Cuエッチング液「Cu−03」を用いて除去し、レジスト剥離液「106」を用いて残りのフォトレジストを剥離して、第2導電層5のパターニングを行った。
【0127】
次いで、パターニングされた第2導電層5をマスクとして、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH水溶液:濃度2.38%)で、図18に示されるように、第1導電層4の第2導電層5に覆われていない部分(露出している部分)をエッチングし、図19に示されるように、第1導電層4の端の部分をエッチングした。両部分のエッチングは連続して行い、エッチング時間は、第2導電層5の端部の下に奥行き約250nmの空洞を形成するため、合計90秒とした。最後に、ゲート絶縁膜3と第1電極層4、第2電極層5の密着性を向上とプロセス中に付着した水分を飛ばすため、最終焼成を窒素雰囲気のグローブボックス中で200℃10分実施した。
【0128】
次に、キシレン溶液に0.5wt%の濃度で高分子化合物3を溶かし、窒素雰囲気下のグローブボックス内でスピンコート法によりゲート絶縁層3、ソース・ドレイン電極7上へ塗布し、塗布後直ぐに150℃10分の焼成処理を行い、有機半導体層8を形成した。
上記の工程により、図20に示す有機薄膜トランジスタVを製造した。
【0129】
(有機薄膜トランジスタVのトランジスタ特性の評価)
製造した有機薄膜トランジスタVを、真空プローバーで、トランジスタ特性として20〜−40Vの範囲の伝達(Vg−Id)特性と出力(Vd−Id)特性を測定した。この時の真空プローバーの真空度は、約5×10−3Paであった。伝達特性及び出力特性を図21(a)、(b)に示す。また、移動度μ、最大電流Id、スレッショルド電圧Vth、Swing Factor(サブスレッショルドスイング(S値))、On/Off比は、伝達(Vg−Id)特性から求めた。評価結果を表3に示す。
【0130】
比較例3
(有機薄膜トランジスタVIの製造及びトランジスタ特性の評価)
第1導電層4を形成せず、ゲート絶縁層3上に、スパッタ法によりCuスパッタ膜を直接形成すること以外は実施例3と同様にして、有機薄膜トランジスタVIを製造し、トランジスタ特性を評価した。得られた伝達特性及び出力特性を図21(a)、(b)に示す。
また、評価結果を表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
表3からわかるように、有機薄膜トランジスタVIに対して有機薄膜トランジスタVは、移動度、最大電流、スレッショルド電圧Vth、サブスレッショルドスイング(S値)、On/Off比が向上していた。
【0133】
本発明の有機薄膜トランジスタは、図1及び図13に示す通り、保護膜10を最後に成膜するのがより好ましい。
また、本発明の有機薄膜能動素子は、アクティブマトリックス表示装置、回路に用いることができる。
【符号の説明】
【0134】
1…基板、
2…ゲート電極、
3…ゲート絶縁層、
4…第1導電層、
5…第2導電層、
7…ソース・ドレイン電極、
8…有機半導体層、
9…マスク、
10…保護層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタに関し、特にボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、次世代薄膜能動素子の材料として、有機半導体、酸化物半導体、マイクロクリスタルシリコン半導体、溶液塗布可能な低温ポリシリコン半導体等が盛んに研究されている。その中で、有機半導体は曲げ等に対する機械強度が強く、低温で塗布法にて層形成することができ、フレキシブル基板を用いた素子の製造において、他の半導体材料に比べ優れている。
【0003】
図22は、有機半導体を使用したボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。この有機薄膜トランジスタには、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3上にチャネル部を挟んで形成されたソース電極7及びドレイン電極7と、ソース電極7及びドレイン電極7上に形成された有機半導体層8と、素子全体を被覆するオーバーコート10とが、備えられている。この構造は、ソース・ドレイン電極と有機半導体層のチャンネル形成部とが同一平面的に配置されており、コプラナー型とも呼ばれる。
【0004】
図23は、有機半導体を使用したボトムゲート・トップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。この有機薄膜トランジスタには、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3上に形成された有機半導体層8と、有機半導体層8上にチャネル部を挟んで形成されたソース電極7及びドレイン電極7と、素子全体を被覆するオーバーコート10とが、備えられている。この構造は、ソース・ドレイン電極と有機半導体層のチャンネル形成部とが異平面的に配置されており、スタガ型とも呼ばれる。この他、有機半導体を使用したスタガ型の構造としては、図23の構造とは層の配置が上下逆になった、トップゲート・ボトムコンタクト型の構造も使われている。
【0005】
スタガ型の素子では、キャリアはソース電極から有機半導体のバルク内を流れ、次いで、チャネル形成部が存在するゲート絶縁層と有機半導体との界面を流れ、次いで、有機半導体のバルク内を流れてドレイン電極に至る。そのため、短チャネルにすると高い有機半導体バルクの抵抗値が、トランジスタ特性を顕著に低下させる因子となる。一方、コプラナー型の構造には、有機半導体バルクの抵抗が0になる利点があり、微細な素子には、コプラナー型の構造が広く用いられている。
【0006】
コプラナー型の構造では、スタガ型と比較して、ソース・ドレイン電極と有機半導体のチャネル形成部との接触面積が小さく、両者間のコンタクト抵抗が特性を決めるクリティカルな因子となる。コンタクト抵抗の問題を解決する手法として、ゲート絶縁層の表面に、有機絶縁材料に対する密着性に優れた金属材料の層を形成し、その横部に有機半導体とオーミック接触を形成する金属材料の層を形成してソース・ドレイン電極とした素子が知られている(特許文献1)。しかしながら、該金属材料の層はリフトオフ法で形成されており、フォトリソグラフィ工程及びマスク総数が増加してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-147613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トランジスタ特性が優れ、しかも大面積化が容易なボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタ、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、ゲート電極と、該ゲート電極上に該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層上にソース電極及びドレイン電極とを有し、更に、該ゲート絶縁層上の該ソース電極と該ドレイン電極とに挟まれた領域を被覆し、かつ該ソース電極と該ドレイン電極の少なくとも一部とを被覆する有機半導体層を有する、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、
該ソース電極及びドレイン電極は、該ゲート絶縁層上の第1導電層及び第1導電層上の第2導電層からなり、
該第1導電層は、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、塗布法を用いて形成されたものであり、
該第1導電層の端部は該第2導電層の端部よりも内側に位置している有機薄膜トランジスタを提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記第2導電層の端部から第1導電層の端部までの間隔が1nm以上500nm以下である。
【0011】
ある一形態においては、該第1導電層は、酸化タングステン、酸化亜鉛及び酸化銀からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、該第2導電層は、金属又は合金を含む。
【0012】
ある一形態においては、前記第1導電層が、タングステンアルコキサイドからゾルゲル法により形成された、タングステンの価数が5価、又は5価と6価の組み合わせである酸化タングステン層である。
【0013】
ある一形態においては、前記第1導電層が酸化タングステンのみからなり、第2導電層が銀、銅又は銀と銅とパラジウムの合金のみからなる。
【0014】
ある一形態においては、ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層が銅からなり、ソース電極の第2導電層及びドレイン電極の第2導電層が、金からなる。
【0015】
ある一形態においては、ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層の膜厚が、同一又は相異なり、1〜100nmである。
【0016】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタを含む回路を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタを含む回路がマトリクス状に配置されたアクティブマトリクス型表示装置を提供する。
【0018】
また、本発明は、基板上に、ゲート電極、及び該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層を形成する工程;
該ゲート絶縁層上に塗布法を用いて、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む第1導電層を成膜する工程;
該第1導電層上に第2導電層を成膜後、ソース電極及びドレイン電極に応じたパターンに形成する工程;
該第2導電層で被覆されていない第1導電層の部分を除去する工程;
更に第1導電層をその端の部分から除去することにより、第1導電層の端部を該第2導電層の端部よりも内側に位置させる工程;
第1導電層が除去されて露出したゲート絶縁層とその両側のソース電極及びドレイン電極とが被覆されるように、有機半導体層を成膜する工程;
を含む有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタは、コプラナー型ではあるがスタガ型に近い素子構造にすることで有機半導体層と電極層とのコンタクト抵抗が低減され、トランジスタ特性が優れる。また、該有機薄膜トランジスタは製造過程でゲート絶縁層表面が損傷されないため、ゲート絶縁層を有機物質で構成するのに適する。更に、該有機薄膜トランジスタは大面積化が容易な方法で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である有機薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図2】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図3】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図4】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図5】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図6】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図7】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図8】図1の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図9】実施例1で形成されたソース・ドレイン電極のSEMによる断面観察像を示す写真である。
【図10】実施例1で形成された有機薄膜トランジスタのSEMによる断面観察像を示す写真である。
【図11】実施例で形成された有機薄膜トランジスタI及びIIIの伝達特性及び出力特性を示すグラフである。
【図12】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの伝達特性及び出力特性を示すグラフである。
【図13】本発明の他の実施形態である有機薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図14】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図15】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図16】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図17】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図18】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図19】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図20】図13の有機薄膜トランジスタの製造過程で形成される積層体の構造を示す断面図である。
【図21】実施例で形成された有機薄膜トランジスタV及びVIの伝達特性及び出力特性を示すグラフである。
【図22】ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。
【図23】ボトムゲート・トップコンタクト構造の有機薄膜トランジスタの層構成を示す断面図である。
【図24】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの特性のチャネル長依存性を示すグラフである。
【図25】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの特性のチャネル長依存性を示すグラフである。
【図26】実施例で形成された有機薄膜トランジスタII及びIVの特性のチャネル長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の有機薄膜トランジスタは、基板1と、該基板1上に配置されているゲート電極2と、該ゲート電極2上に配置されており、該ゲート電極2を被覆するゲート絶縁層3と、該ゲート絶縁層3上に配置されているソース電極及びドレイン電極を有し、更に、該ゲート絶縁層3の該ソース電極と該ドレイン電極とに挟まれた領域を被覆し、かつ該ソース電極と該ドレイン電極とを被覆する有機半導体層8を有する、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、該ソース電極及びドレイン電極は、該ゲート絶縁層3上の第1導電層4及び第1導電層4上の第2導電層5からなること、該第1導電層4は、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、塗布法を用いて形成されたものであること、及び該第1導電層4の端部は該第2導電層5の端部よりも内側に位置していることを特徴とする。
【0022】
図1は本発明の一実施形態である有機薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。この有機薄膜トランジスタは、ゲート電極2及び該ゲート電極2を被覆するゲート絶縁層3を有し、該ゲート絶縁層3上に、第1導電層4及び第2導電層5からなるソース電極及びドレイン電極7を有し、該ソース・ドレイン電極の間に有機半導体層8を有し、該有機半導体層8を被覆する保護層10を有する。
【0023】
ゲート電極2の材料としては、導電性の高い金属及びその合金が好ましく用いられる。
例えば、耐エレクトロ・ストレスマイグレーション性の高い高融点金属の合金、酸化物、窒化物である。また、金属表面の仕事関数を調整するため、必要に応じて、ゲート電極2を積層構造にしたり、表面改質の処理を実施してもよい。本発明において、高融点金属とは、融点が1000℃以上の金属を指す。
【0024】
ゲート電極2は、板状又はシート状材料を基板として用いて、その表面の全部又は一部に形成されてもよい。ゲート電極2は、例えばフォトリソグラフィ法、印刷法等のような、通常使用される方法によってパターニングされて、基板の表面の一部に形成される。
【0025】
有機薄膜トランジスタが折り曲げることが可能なフレキシブル素子である場合、基板1としてフレキシブルなシート状材料が使用される。フレキシブルなシート状材料としては、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)等の樹脂、ステンレススチール等の金属箔、エッチングにより曲げる事が可能な薄さにしたガラス等が挙げられる。
有機薄膜トランジスタが折り曲げることができない素子である場合、基板1に用いられる材料としては、ガラス、金属等が挙げられる。
【0026】
基板1に含まれる材料によるゲート電極2の変質を防止するため、必要に応じて該基板1とゲート電極2との間に保護層を設けてもよい。
【0027】
ゲート絶縁層3は誘電率が高い材料から形成する。ゲート絶縁層3が無機絶縁材料を含む場合、該無機材料としては、シリコンの熱酸化膜等が挙げられる。
【0028】
ゲート絶縁層3が有機絶縁材料を含む場合、該有機絶縁材料としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルフェノール、シアノエチルプルラン等のフッ素原子を有さない樹脂、旭硝子社製「Cytop」(登録商標)、Dupont社製の「TEFLON」(登録商標)等のフッ素系樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂に含まれる繰り返し単位を有する共重合体や該樹脂又は該共重合体を含む組成物を用いてもよい。該共重合体はスチレンから誘導される繰り返し単位等の分極を有さない繰り返し単位を含むことが好ましく、該組成物は、ポリスチレン等の分極を有さない高分子化合物を含むことが好ましい。
【0029】
有機絶縁材料を含むゲート絶縁層3は、例えば有機絶縁材料と溶媒とを含む溶液を塗布し乾燥させる方法等によってゲート電極2上に積層される。溶液の塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法等が挙げられる。
【0030】
ゲート絶縁層3の積層時には、必要に応じて、ゲート絶縁層3にコンタクトホールを形成する等のパターニングを施してもよい。有機絶縁材料は光もしくは熱により架橋し硬化することが好ましく、上記パターニングを行う場合は、有機絶縁材料が感光性を有していることがより好ましい。有機絶縁材料としては、分極を有さない材料が好ましく、誘電率が1.5(F/m)以上の材料が好ましい。また、架橋により硬化する以外にも、有機絶縁材料を乾燥してフィルムを形成し、高い絶縁耐圧を確保してもよい。
【0031】
有機薄膜トランジスタの特性の観点からは、有機絶縁材料が、有機薄膜トランジスタの製造に用いられる溶媒に対して不活性であり、かつ、不溶であることが好ましい。
【0032】
次に、ソース電極及びドレイン電極について説明する。本明細書では両者を総称してソース・ドレイン電極という。ソース・ドレイン電極7は第1導電層4及び第2導電層5からなる積層構造をとる。ソース・ドレイン電極7を積層構造とすることでそれぞれの層に違った機能を持たせることが可能となる。例えば、第1導電層4の機能として、ゲート絶縁層3とソース・ドレイン電極7の密着性を上げる効果を持つ密着層としての機能や第2導電層5の金属原子がゲート絶縁層3へ拡散するのを防ぐバリア層としての機能を持たせたり、第1導電層4もしくは第2導電層5のどちらかに有機半導体層への電荷注入層の機能を持たせたりする事ができる様になる。
【0033】
有機絶縁層上に第1導電層4を成膜する(即ち、連続層として積層する)際には、塗布法、印刷法、無電解めっき法又は原子層堆積法を用いることが好ましく、塗布法を用いることがより好ましい。これらの方法を用いることにより、ゲート絶縁層3、特に有機絶縁材料を含むゲート絶縁層3に対するプロセスダメージが少なくなる。
【0034】
塗布法で第1導電層4を成膜するには、材料がインクで有る必要が有る。更に、本発明の効果を出すには、インク状態から後工程で不要箇所の除去が容易な無機の導電層になるのが良い。酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、銀塩、銀及び銅は、比較的低温焼成でインク状態から無機の導電層にする事ができ、フレキシブル基板等の樹脂基板への適用も可能となる。この中でも、酸化タングステンはゾルゲル液にしてゾルゲル法で150〜200℃程度で容易に膜を得る事が可能であり、酸化銀は成膜後、エタノール液に浸漬し超音波処理を行う事で還元反応が起きる事が知られており、更には、還元反応の強いアルコール(例えば、トリエチレングリコールなど)を溶媒として用い200℃未満の熱処理を行う事で還元されて銀になる事が知られている。更に最良の材料は、酸化タングステンであり第2導電層5で用いられる金属材料に対して比較的容易にエッチング選択比を取る事が可能である。
【0035】
本明細書でいうプロセスダメージとは、有機薄膜トランジスタを製造するための操作や処理がその構成部材を損傷することをいう。例えば、ゲート絶縁層上に直接金属等を物理気相成長(PVD)させると、ゲート絶縁層に含まれている絶縁材料は金属蒸気のエネルギーによって損傷される。特に、PVD法に含まれるスパッタリング法を用いた場合、損傷が顕著である。
【0036】
中でも、第1導電層4は、好ましくは、図2に示す様に、導電性材料と溶媒とを含む溶液を該ゲート絶縁層3上に塗布し乾燥させて成膜される。
【0037】
第1導電層4は、例えば、金属アルコキサイドからゾルゲル法により形成することができるポリメタロキサンを含む。金属アルコキサイドの金属としては、チタン、アルミニウム、タングステン、ニオブ、ジルコニウム、バナジウム、タンタル等が挙げられる。
【0038】
好ましい金属アルコキサイドは、タングステンアルコキサイドである。タングステン酸化物の層はゲート絶縁層3や第2導電層5に対して直交溶媒であるアルカリ溶液でエッチングしやすく、不用になった第1導電層4は、ゲート絶縁層3表面から容易に除去することができる。
【0039】
タングステンアルコキサイドとしては、タングステン(V)メトキサイド、タングステン(V)エトキサイド、タングステン(V)イソプロポキサイド、タングステン(V)ブトキサイド等が挙げられる。また、これらのタングステンアルコキサイドから得られる酸化タングステンにおけるタングステンの価数は5価である。タングステンアルコキサイドから得られる酸化タングステンは、アルカリ溶液に非常に良く溶ける為、エッチング時間を短くできるという利点もある。更に、エッチング時間が短かすぎる場合は、オゾンUVもしくはO2プラズマ等を当てることで酸化タングステンにおけるタングステンの価数を変えて溶解性を変化させることができるため、エッチング時間を長くすることも容易である。更には、塗布法に簡単なオゾンUV処理のみで価数を上げて6価にできるため、反応性スパッタリング法などを用いずとも塗布法でWO3の層を簡単に得ることができる。また、焼成温度も150℃と低温で処理出来るためフレキシブル基板等への適用も可能である。この様にして得られる第1導電層4の酸化タングステンにおけるタングステンの価数は、オゾンUV処理によるUV/O3の影響が強い第2導電層5の端部付近は6価の酸化タングステンであるWO3が多く、UV/O3の影響が殆ど無い電極下は5価の成分が多い。従って、最終的に得られる酸化タングステンの第1導電層4は、5価と6価の組合せとなる。
【0040】
従って、一つの好ましい態様において、前記第1導電層4は、タングステンアルコキサイドからゾルゲル法により形成された、タングステンの価数が5価、又は5価と6価の組み合わせである酸化タングステン層である。
【0041】
第1導電層4をゾルゲル法により形成する場合、用いられるゾルゲル液の溶媒は、使用する金属アルコキサイドを溶解又は分散し、室温で揮発性を示すものである。更には、下層であるゲート絶縁層3を溶かしたり膨潤させるなどのダメージを与えない直交溶媒(オルトゴナル溶媒)が好ましい。かかる溶媒には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以後、「PGMEA」ということがある。)、フッ素原子を有する芳香族化合物が含まれる。また、ゲート絶縁層3がフッ素樹脂を有する場合、表面自由エネルギーが30mN/m以下の表面に均一に平滑膜を塗布形成する必要が有る為、最良の溶媒は、低表面張力でありフッ素原子を有する芳香族化合物(例えば、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン(別名:パーフルオロトルエン))である。
【0042】
また、ゾルゲル液には、形成される層の均一性及び表面平滑性を向上させるために金属アルコキシドの安定化剤を含有させてもよい。金属アルコキシドの安定化剤は、例えば、α−ヒドロキシケトン化合物、α−ヒドロキシケトン誘導体、エタノールアミン化合物、α−ジケトン化合物、α−ジケトン化合物誘導体、α−ヒドロキシカルボン酸化合物、β−ジケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
【0043】
その他、第1導電層4に含まれる材料としては、金属、金属の化合物、金属を含む合金、半導体、半導体の化合物、半導体を含む合金が挙げられる。金属の化合物には、上記金属酸化物、酸化物半導体、塩化銀等の銀塩が含まれる。
【0044】
金属としては、Ti、Ta、Cu、Mo、W、Au、Ag等が挙げられる。金属の化合物としては、TiN、TaN、TiO2、WO3、MoO3、AgCl、Ag2O、CuO等が挙げられる。金属を含む合金としては、MoW、TiW、MoCr等が挙げられる。半導体としては、Si、Ge、Ga等が挙げられる。半導体の化合物としては、SiC、GaN、GaAs等が挙げられる。半導体を含む合金としては、WSi、MoSi、TiSi等が挙げられる。酸化物半導体としては、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、酸化亜鉛(ZnO)、亜鉛スズ酸化物(ZTO)、CdSnO、GaSnO、TiSnO、CuAlO、SrCuO、LaCuOS等が挙げられる。
【0045】
中でも、Ti、Mo、Cr、Ta、W、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Pt、Ir、Co、Fe、V、Zr、これらの金属の化合物、これらの金属のいずれかを含む合金、Si、B、Ge、これらの半導体の化合物、これらの半導体のいずれかを含む合金が好ましく、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀、銅がより好ましく、酸化銀がさらに好ましい。
【0046】
例えば、第1導電層4は、Ti、Al、W、Nb、Zr、V及びTaから成る群から選択される金属の酸化物又は窒化物を含有する。
【0047】
一つの態様において、該第1導電層4が、酸化タングステン及び酸化銀からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む。一つの好ましい態様において、前記第1導電層4が酸化タングステンのみからなる。
【0048】
第1導電層4に含まれる材料としては、高融点金属の微粒子、酸化物、窒化物がより好ましく、融点が1000℃以上である金属の微粒子、酸化物、窒化物がさらに好ましい。
ここで、金属の微粒子とは、粒径が1nm〜1000nmの金属をいう。好ましくは、平均粒径が3〜100nmのナノ粒子、更に好ましくは、3〜30nmのナノ粒子である。
【0049】
第1導電層4を形成するための導電性材料と溶媒とを含む溶液は、先に示した金属アルコキサイド以外では、例えば、ITO、IZO、IGZO、タングステン酸化物(WxOy)、チタン酸化物(TixOy)、チタンニオブ酸化物(TixNbyOz)、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀、銅のナノ粒子分散溶液又は銀塩である(式中、添え字のx、y及びzは0よりも大きい数である。)。又は、上記溶液は、これらの導電性材料の金属イオンを含有する無電解めっき液である。
【0050】
第1導電層4は、導電性材料と溶媒とを含む分散液又はゾルゲル液を用い、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法等の塗布手法により成膜することが好ましい。
【0051】
又は、第1導電層4は、上記導電性材料の金属イオンを含有する無電解めっき液を用い、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法でめっき触媒又はめっき触媒前駆体をゲート絶縁層上全面に塗布し、ゲート絶縁層等と共に該めっき触媒又はめっき触媒前駆体を上記無電解めっき液に浸漬して金属等を堆積させることにより形成してもよい。
【0052】
更には、第1導電層4と第2導電層5が金属同士で形成されていても良い。例えば、第1導電層4として塗布法で銅を形成し、その上に、金をスパッタリングで形成する。この後、金をソース電極およびドレイン電極と同じ形にパターニングし、その後、銅を金をマスクとしてパターニングする。金と銅や銀、銀合金ならばエッチング選択比が取れる。
【0053】
一つの好ましい態様において、ソース電極の第1導電層4及びドレイン電極の第1導電層4は銅からなり、ソース電極の第2導電層5及びドレイン電極の第2導電層5は金からなる。
【0054】
第1導電層4の積層方法は上記以外の方法であってもよく、ゲート絶縁膜へダメージを与えない方法ならば特に制限はない。また、原子層堆積(ALD)法等により成長させて積層してもよい。ALD法で積層する場合、第1導電層4に含まれる材料としては、Ti、Mo、Cr、Ta、W、Ni、Pd、Cu、Au、Pt、Ir、Co、Fe、V、Zr、これらの金属のいずれかを含む合金、これらの金属の酸化物又はこれらの金属の窒化物等が挙げられる。また、ALD法に使用する金属化合物前駆体としては、窒化チタン(TiN)の前駆体であるビス(ジエチルアミド)ビス(ジメチルアミド)チタニウム(IV)(Bis(diethylamido)bis(dimethylamido)titanium(IV))、窒化タンタル(TaN)の前駆体であるトリス(エミルメチルアミド)(tert−ブチルアミド)チタニウム(Tris(ethylmethylamido)(tert-butylimido)tantalum)等が挙げられる。
【0055】
さらに、第1導電層4のフェルミレベルは、有機半導体層8の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギーと同等かそれよりも深いことが好ましい。
【0056】
第1導電層4の層厚は、1〜100nmが好ましく、10〜50nmがより好ましい。一つの態様において、ソース電極の第1導電層4及びドレイン電極の第1導電層4の膜厚が、同一又は相異なり、1〜100nmである。
【0057】
第2導電層5は、好ましくは、図3に示す様に、導電性材料を第1導電層4上に成膜し、その後パターニングして形成する。
【0058】
第2導電層5は、例えば、Ag合金からスパッタリング法により成膜することができる。スパッタリング法を使用しても、パターニング前の第1導電層4がバリア層として機能するため、有機絶縁材料に対するプロセスダメージが小さくなる。Ag合金としては、例えば、Ag−Pd−Cu合金(APC)等が挙げられる。
【0059】
第2導電層5に含まれる材料は、Ag合金以外にも、導電性が高い金属、その合金、その酸化物、その窒化物を用いることができる。中でも、Ag、Al、Au、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zr又はこれらの金属のいずれかを含む合金が好ましい。これらの金属は非常に一般的な金属であり、導電性が高く比較的容易にスパッタリングターゲットを入手する事が可能である。さらに、これらの金属の合金、酸化物、窒化物を成膜する場合にも、反応性スパッタにより容易にこれらの物を得る事が可能である。有機薄膜トランジスタの第1の実施形態においては、該材料が低コストで高いエレクトロ・ストレスマイグレーション耐性を有することが好ましい。該材料としては、Cu等が挙げられる。
【0060】
一つの態様において、第2導電層5は、金属又は合金を含む。また、一つの好ましい態様において、第2導電層5が銀、銅又は銀と銅とパラジウムの合金のみからなる。
【0061】
第2導電層5に含まれる材料を、第1導電層4に含まれる材料との非限定的な組み合わせと共に、具体的に例示する。第2導電層5の導電性は第1導電層4の導電性よりも高くなることが好ましい。第2導電層5の導電性が第1電極層4の導電性よりも高くなることにより、第2導電層に、素子構成上不可欠なバスライン等、配線層としての機能を持たせることが可能となるためである。
【0062】
【表1】
【0063】
第2導電層5は、スパッタリング法以外に、物理気相成長(PVD)法、化学気相成長(CVD)法、無電解めっき法により積層してもよい。
【0064】
微細なパターンを形成する観点から好ましくは、第2導電層5のパターニングは、フォトリソグラフィ法を用いて行う。その場合、図4に示す様に、第2導電層5の上にマスク9を形成し、マスクに被覆されていない第2導電層5の部分はエッチングして除去する。
【0065】
また、パターニングを簡便に行うためには、例えば、金属ナノ粒子分散溶液のような導電性材料と溶媒とを含む分散液又はゾルゲル液を、印刷法により第1導電層4上の必要な領域に直接塗布して、パターン化された第2導電層5を形成してもよい。又は、無電解めっき法を用いて、第1導電層4上の必要な領域に直接めっき触媒又はめっき触媒前駆体を印刷してパターニングを行い、第1導電層4等と共に該めっき触媒又はめっき触媒前駆体を上記導電性材料の金属イオンを含有する無電解めっき液に浸漬して金属等を堆積し、パターン化された第2導電層5を形成してもよい。
【0066】
これらのパターニングにより、図5に示す様に、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造に適した所望の位置に第2導電層5を形成する。
【0067】
第2導電層の層厚は、10〜1000nmであることが好ましく、50nm〜500nmがより好ましい。
【0068】
次に、パターニングされた第2導電層5をマスクとして、第1導電層4のパターニングを行う。第1導電層4のパターニングは、まず、図6に示されるように、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分を除去し、更に、図7に示されるように、第1導電層4の端の部分を除去することにより行う。その結果、第1導電層4の形状は、第1導電層4の端部が第2導電層5の端部と比較して内側に位置するようなものになる。
【0069】
ここで、第1導電層4の端部が第2導電層5の端部と比較して内側に位置するとは、第1導電層4の底面と平行な平面に、該平面に対して垂直な方向から第1導電層4を投影して描かれた第1の投影図が、該平面に対して垂直な方向から第2導電層5を投影して描かれた第2の投影図よりも面積が小さく、該第1の投影図が該第2の投影図に内包されることをいう。
【0070】
このように、第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までに間隔を設けると、第2導電層5は底面部においても有機半導体に接することができ、有機半導体との接触面積が増大する。その結果、有機半導体層と電極層のコンタクト抵抗が低減されてソース電極及びドレイン電極には電流が出入りし易くなり、トランジスタ特性が向上する。
【0071】
本明細書において、トランジスタ特性とは、移動度μ、最大電流Id、スレッショルド電圧Vth、Swing Factor(サブスレッショルドスイング(S値))、On/Off比等の特性をいう。
【0072】
第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までの間隔は1nm以上500nm以下にすることが好ましく、より好ましくは50nm〜300nmである。この間隔が500nmを超えると、第2導電層5が著しく変形したり、有機半導体層形成時に有機半導体材料が該間隔の領域に十分に流れ込まず、空洞が大きくなる。
【0073】
第1導電層4を除去する方法としては、第2導電層5に対するエッチング選択比が高いアルカリエッチング液を用いた湿式エッチング法を用いることができる。例えば、エッチング液のエッチング選択比が、第1導電層4:第2導電層5=10:1の場合、第1導電層4が500nmエッチングされる場合には、第2導電層5は、50nmしかエッチングされない。この場合、より好ましくは、第2導電層が不溶であるエッチング液を用いる。
【0074】
図5に示されるように、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分は露出している。また、図6に示されるように、第1導電層4の端の部分は第2導電層5に被覆されておらず露出している。そのため、これらの部分はアルカリエッチング液に接触して溶出しうる。
【0075】
アルカリエッチング液としては、水酸化カリウム(KOH)の希釈水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)の希釈水溶液を用いてもよく、該溶液の濃度は、エッチングレートの調整のため如何ようにも変更が可能であるが0.1wt%以上であることが好ましい。また、市販のアルカリエッチング液を使用してもよく、具体例としては、メルテックス株式会社製「メルストリップ」(商品名)シリーズ等が挙げられる。より好ましいアルカリエッチング液は、金属イオンが無い水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)の希釈水溶液である。
【0076】
所望のエッチング選択比を得る材料の組合せとしては、第1導電層4に酸化タングステンを用いた場合、第2導電層5には、金、銀、銅、又は銀と銅とパラジウム合金を用いる事がより好ましい。第1導電層4の酸化タングステンはTMAHに可溶であるが、金、銀、銅、又は銀と銅とパラジウム合金は不溶である。従って、非常に高い選択比を取る事が出来る。また、エッチング選択比を取るだけならば第2導電層5は前記以外のAl、Cd、Co、Cr、Fe、Mg、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zr等でも良いがエッチングなどのプロセス的な側面や半導体層に対する電荷注入性の観点から好ましく無い。特に有機半導体への電荷注入性という測面では、金、銀、銅、又は銀と銅とパラジウム合金が好ましく、これらの金属は、塗布形成された有機半導体層8に焼成処理を行うことで、焼成を行わない場合と比べて有機半導体層8に対する高いホール注入性を得ることが出来る。
【0077】
つまり、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分及び第1導電層4の端部は、湿式エッチング法を用いて、同様にして除去することができる。両部分の除去は連続的に又は1回のエッチング操作によって行われてもよい。
【0078】
エッチング時間等の湿式エッチングを行う際のエッチング条件は、第1導電層4の材質及び厚さに依存して適宜決定される。また、第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までの間隔は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いてソース・ドレイン電極の断面を観察することにより測定できる。
【0079】
例えば、第1導電層4が厚さ約30nmのタングステンが5価の酸化タングステン層であり、アルカリエッチング液がTMAHの2.38%水溶液である場合、室温にて5秒以上の時間をかけてエッチングすることにより、第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分及び第1導電層4の端部が一緒に除去されて、第2導電層5の端部が第1導電層4と接触せず、第2導電層5の端部の下が空洞になる。第2導電層5の端部から第1導電層4の端部までの間隔を上記適当な範囲にするためには、例えば、エッチング時間を5〜120秒の範囲で適宜調節する。
【0080】
第2導電層5で被覆されていない第1導電層4の部分の除去は、アルカリ性のレジスト剥離液等を用い、レジスト剥離と同時に第1導電層4を剥離することにより行ってもよい。
【0081】
パターニング前の第1導電層4は、第2導電層5を形成する際のプロセスダメージからゲート絶縁層3を保護する保護層としての機能を有している。また、第1導電層4は、ゲート絶縁層3と第2導電層5との密着性を高める機能を有している。更に、第1導電層4は、バリア層としての機能をも有している。
【0082】
第1導電層4の保護層としての機能とは、有機薄膜トランジスタの製造プロセス中で発生する物理的及び化学的な外的因子から、構成部材を保護する機能をいう。例えば、有機絶縁層の場合、表面にダメージを受けると接触角や表面ラフネスが変化するが、保護層を設ける事によりこれらの変化を抑制する事が出来る。
【0083】
第1導電層4のゲート絶縁層3と第2導電層5との密着性を高める機能は、スクラッチ試験法による定量的な評価や、より簡単に確認する手法として「JISG0202」に定められている碁盤目試験により確認することができる。
【0084】
第1導電層4のバリア層としての機能とは、金属分子の周辺膜中への拡散防止層としての機能、エレクトロマイグレーション、ストレスマイグレーション耐性を付与する機能をいう。該機能は、XPS、AES、TOF−SIMS等により層厚方向に対する組成分析を実施し、有機絶縁膜中に金属原子が拡散してないかで確認できる。また、エレクトロマイグレーション及び、ストレスマイグレーションについては、電極の抵抗値に大きな変化が無く、有機薄膜トランジスタが所望の動きをしていれば問題が発生してないと判断できる。
【0085】
ここで、エレクトロマイグレーションとは、大電流ストレスを受けた金属配線中の金属原子の移動が原因でボイド形成又は原子の蓄積が生じ、配線の抵抗値増加、断線及び配線間ショート等の故障を引き起こす現象をいう。また、ストレスマイグレーションとは、金属配線膜が保護層(パッシベーション膜)又は層間絶縁膜から受ける応力に起因して、高温処理又は温度サイクルによって配線内の原子移動が起こり、抵抗値が変動したり断線する現象をいう。
【0086】
有機半導体材料からなる有機半導体層8は、図8に示す様に、ソース電極とドレイン電極との間のゲート絶縁層3上に積層される。第2導電層5の端部は、有機半導体層8と接触していることが好ましい。第2導電層5の端部の有機半導体層との接触は、これらの端部全てが接触していても、端部の一部のみが接触し、空洞が生じていてもよい。
【0087】
有機半導体層8の積層方法としては、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、印刷法等の塗布手法が好ましい。
【0088】
また、有機半導体材料としては、溶媒に溶解し、有機半導体層8を塗布法で形成できる材料であれば特に制限は無い。該有機半導体材料としては、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(6,13-bis(triisopropylsilylethynyl) pentacene(Tips-Pentacene))、13,6−N−スルフィニルアセトアミドペンタセン(13,6-N-sulfinyl
acetamidopentacene(NSFAAP))、6,13−ジヒドロ−6,13−メタノペンタセン−15−オン(6,13-Dihydro-6,13-methanopentacene-15-one(DMP))、ペンタセン−N−スルフィニル−n−ブチルカルバマート付加物(Pentacene-N -sulfinyl-n -butylcarbamate adduct)、ペンタセン−N−スルフィニル−tert−ブチルカルバマート(Pentacene-
N -sulfinyl-tert -butylcarbamate)等のペンタセン前駆体、[1]ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン([1]Benzothieno[3,2-b]benzothiophene (BTBT))、ポルフィリン、可溶性基としてアルキル基等を有するオリゴチオフェン等の低分子化合物、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)等のポリチオフェン、フルオレンコポリマー(例えば、フルオレンジイル基とチオフェンジイル基とを有する共重合体)等の高分子化合物等が挙げられる。
【0089】
保護層10は、図1に示す様に、有機半導体層8上に有機絶縁材料と溶媒とを含む溶液をスピンコート法等により塗布して積層することができる。この時、必要に応じて、保護層10にコンタクトホール形成等のパターニングを施してもよい。パターン形成を行う場合は、保護層10に含まれる有機絶縁材料が感光性を有していることが好ましい。有機絶縁材料としては、分極を有さない材料が好ましく、誘電率が1.5(F/m)以上4.0(F/m)以下の材料が望ましい。また、架橋で硬化させてもよく、有機絶縁材料を乾燥してフィルムを形成し、高い絶縁耐圧を確保してもよい。
【0090】
有機絶縁材料としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド等のフッ素原子を有さない樹脂、例えば、旭硝子社製「Cytop」(登録商標)、Dupont社製の「TEFLON」(登録商標)等のフッ素系樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂に含まれる繰り返し単位を有する共重合体や該樹脂又は該共重合体を含む組成物を用いてもよい。該共重合体はスチレンから誘導される繰り返し単位等の分極を有さない繰り返し単位を含むことが好ましく、該組成物は、ポリスチレン等の分極を有さない高分子化合物を含むことが好ましい。
【0091】
本発明の有機薄膜トランジスタは、アクティブマトリックス表示装置、回路に用いることができる。尚、文中で挙げた印刷法とは、パターン塗布可能なスリットコート法、キャピラリーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、インクジェット法に代表される無版印刷法とフレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、マイクロコンタクト印刷、ナノインプリントに代表される有版印刷法である。
【実施例】
【0092】
合成例1
(高分子化合物1の合成)
スチレン(和光純薬製)2.06g、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン(アルドリッチ製)2.43g、2−〔O−[1’−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ〕エチル−メタクリレート(昭和電工製、商品名「カレンズMOI−BM」)1.00g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.06g、2−ヘプタノン(和光純薬製)14.06gを、50ml耐圧容器(エース製)に入れ、窒素をバブリングした後、密栓し、60℃のオイルバス中で48時間重合させて、高分子化合物1が溶解している粘稠な2−ヘプタノン溶液を得た。高分子化合物1は下記繰り返し単位を有している。ここで、( )の添え数字は繰り返し単位のモル分率を示している。
【0093】
【化1】
高分子化合物1
【0094】
得られた高分子化合物1の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、32800であった(島津製GPC、「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相=THF)。
【0095】
合成例2
(高分子化合物2の合成)
4−アミノスチレン(アルドリッチ製)3.50g、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン(アルドリッチ製)13.32g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.08g、2−ヘプタノン(和光純薬製)25.36gを、125ml耐圧容器(エース製)に入れ、窒素をバブリングした後、密栓し、60℃のオイルバス中で48時間重合させて、高分子化合物2が溶解している粘稠な2−ヘプタノン溶液を得た。
高分子化合物2は下記繰り返し単位を有している。ここで、( )の添え数字は繰り返し単位のモル分率を示している。
【0096】
【化2】
高分子化合物2
【0097】
得られた高分子化合物2の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、132000であった(島津製GPC、「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相=THF)。
【0098】
合成例3
(高分子化合物3の合成)
9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジ(エチレンボロネート)6.40g、及び5,5’−ジブロモ−2,2’−バイチオフェン4.00gを含むトルエン(80mL)中に、窒素下において、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.18g、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(Aldrich製、商品名「Aliquat 336」(登録商標))1.0g、及び2Mの炭酸ナトリウム水溶液24mLを加えた。この混合物を激しく攪拌し、加熱して24時間還流した。粘稠な反応混合物をアセトン500mLに注ぎ、繊維状の黄色のポリマーを沈澱させた。このポリマーを濾過によって集め、アセトンで洗浄し、真空オーブンにおいて60℃で一晩乾燥させた。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物3は、下記繰り返し単位を有している。nは繰り返し単位の数を示している。高分子化合物3の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、61000であった(島津製GPC、「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相=THF)。
【0099】
【化3】
高分子化合物3
【0100】
実施例1
(有機薄膜トランジスタIの製造)
本発明の実施例1の有機薄膜トランジスタの製造過程を、図2から図11を用いて説明する。
【0101】
まず、Si基板上に、高ドープSi層及びSi熱酸化膜が形成された積層体(以下、「高ドープp+Si基板」と称する場合がある。)を準備した。高ドープp+Si基板は、株式会社エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーションより入手した、「Boronドープ6inch p+Si基板」であり、抵抗率が0.1Ω/cm以下である。
【0102】
図2に示す通り、上記高ドープSi層をゲート電極2及びSi熱酸化膜をゲート絶縁層3として用いて、このゲート絶縁層3上に、5価の酸化タングステン(W2O5)のゾルゲル液をスピンコート法により塗布し、塗布層を形成した。この塗布層を5分程度大気中で乾燥させた後、200℃で30分の焼成処理を行い、パターニング前の第1導電層4を得た。このパターニング前の第1導電層4の層厚は、30nmであった。
【0103】
使用したW2O5のゾルゲル液は、タングステンアルコキサイドとしてタングステン(V)エトキサイド(tungsten(V)ethoxide)を、安定化剤としてβ−ジケトン化合物であるアセチルアセトンを含む溶液である。ゾルゲル液の溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を使用した。
【0104】
次に、パターニング前の第1導電層4上に、スパッタリング法により銅(Cu)膜を100nmの膜厚で成膜し、図3に示すパターニング前の第2導電層5を作製した。この後、パターニング前の第2導電層をフォトリソグラフィ法により、図4の形態を経て、図5に示す第2導電層5の形状へパターニングした。フォトリソグラフィにおいて、フォトレジストは、東京応化工業社製「TFR−H PL」を、現像液は、ナガセケムテックス社製「NPD−18」を、レジスト剥離液は、東京応化工業社製「106」を、Cuエッチング液は、関東化学社製の混酸「Cu−03」を使用した。
【0105】
フォトリソグラフィは、以下の工程により行った。Cu層上にフォトレジスト「TFR−H PL」の膜を形成し、フォトマスクを介して365nm UV光を照射した。次いで、現像液「NPD−18」を用いてフォトレジストの現像を行った。次いで、現像したフォトレジストをマスクとしてCuスパッタ膜を、Cuエッチング液Cu−03を用いて除去し、レジスト剥離液「106」を用いて残りのフォトレジストを剥離して、第2導電層5のパターニングを行った。
【0106】
次いで、パターニングされた第2導電層5をマスクとして、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH水溶液:濃度2.38%)で、図6に示されるように、パターニング前の第1導電層4の第2導電層5に覆われていない部分(露出している部分)をエッチングし、図7に示されるように、第1導電層4の端の部分をエッチングした。両部分のエッチングは連続して行い、エッチング時間は、合計90秒とした。最後に、ゲート絶縁膜3と第1電極層4、第2電極層5の密着性を向上させると共に、プロセス中に付着した水分を除去するために、最終焼成を窒素雰囲気のグローブボックス中で200℃10分実施した。
【0107】
図7に示す構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)で断面観察したところ、第1導電層4がサイドエッチングされており、第2導電層5の下に奥行き約250nmの空洞を観察した。図9に図7に示す構造体のSEM観察像を示す。この場合、第2導電層の端部から第1導電層の端部までの間隔は約250nmである。
【0108】
次に、キシレン溶液に0.5wt%の濃度で高分子化合物3を溶かし、窒素雰囲気下のグローブボックス内でスピンコート法によりゲート絶縁層3、ソース・ドレイン電極7上へ塗布し、塗布後直ぐに200℃10分の焼成処理を行い、有機半導体層8を形成した。
有機半導体層8の膜厚は約16nmであった。上記の工程により、図8に示す有機薄膜トランジスタIを製造した。
【0109】
なお、ゲート絶縁層3の表面処理、第2導電層5の表面処理は行わなかった。
【0110】
(有機薄膜トランジスタIのトランジスタ特性の評価)
製造した有機薄膜トランジスタIを、真空プローバーで、トランジスタ特性として20〜−40Vの範囲の伝達(Vg−Id)特性と出力(Vd−Id)特性を測定した。この時の真空プローバーの真空度は、約5×10−3Paであった。伝達特性及び出力特性を図11(a)、(b)に示す。また、移動度μ、最大電流Id、スレッショルド電圧Vth、Swing Factor(サブスレッショルドスイング(S値))、On/Off比は、伝達(Vg−Id)特性から求めた。評価結果を表2に示す。
【0111】
(有機薄膜トランジスタIのSEM観察)
トランジスタ特性測定後に、有機薄膜トランジスタIの断面2箇所を走査型電子顕微鏡(SEM)で断面観察した。この時のSEM観察像を、図10の(a)と(b)に示す。2箇所とも第2導電層5の端部の下に高分子化合物3が入り込んでいることが確認できた。図10の(a)に示す断面では、奥行き約250nmの第2導電層5の端部が、全て有機半導体層と接触していた。一方、図10の(b)に示す断面では、奥行き約250nmの第2導電層5の端部のうち、奥行き150nm〜180nm程度は有機半導体層と接触していたが、残り20nm〜50nm程度の空洞が残っていた。
【0112】
実施例2
(有機薄膜トランジスタIIの製造及びトランジスタ特性の評価)
第2導電層5の層厚を500nmにすること以外は実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタIIを作製し、トランジスタ特性を評価した。伝達特性及び出力特性を図12(c)、(d)に示す。評価結果を表2に示す。
【0113】
比較例1
(有機薄膜トランジスタIIIの製造及びトランジスタ特性の評価)
第1導電層4を形成せず、高ドープp+Si基板のゲート絶縁層3上に、スパッタ法によりCuスパッタ膜を直接形成すること以外は実施例1と同様にして、有機薄膜トランジスタIIIを製造し、トランジスタ特性を評価した。得られた伝達特性及び出力特性を図11(a)、(b)に示す。また、評価結果を表2に示す。
【0114】
比較例2
(有機薄膜トランジスタIVの製造及びトランジスタ特性の評価)
Cuスパッタ膜の層厚を500nmにすること以外は比較例1と同様にして有機薄膜トランジスタIVを作製し、トランジスタ特性を評価した。伝達特性及び出力特性を図12(c)、(d)に示す。評価結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2からわかるように、有機薄膜トランジスタIIIに対して有機薄膜トランジスタIは、移動度、最大電流、スレッショルド電圧Vth、サブスレッショルドスイング(S値)、On/Off比が向上していた。また、有機薄膜トランジスタIVに対して有機薄膜トランジスタIIは、移動度、最大電流、スレッショルド電圧Vth、サブスレッショルドスイング(S値)、On/Off比が向上していた。
【0117】
図11(b)及び図12(d)において、Vd=−5[V]以下の領域に、実施例の有機薄膜トランジスタと比較例の有機薄膜トランジスタとでは、大きな違いがあった。有機薄膜トランジスタIII、IVは、非線形特性のコンタクト抵抗特性を示したが、本発明の機薄膜トランジスタI、IIは、線形特性を示した。
【0118】
図24〜26に、有機薄膜トランジスタII及びIVのトランジスタ特性のチャネル長依存性を示す。図24〜26中、Lはチャネル長を示す。
【0119】
実施例3
(有機薄膜トランジスタVの製造)
本発明の実施例3の有機薄膜トランジスタの製造過程を、図14から図20を用いて説明する。
【0120】
まず、図14を参照して、洗浄済のガラス基板1上に、スパッタリング法でMo(モリブデン)層を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターニングして、ゲート電極2を形成した。フォトリソグラフィにおいて、フォトレジストは、東京応化工業社製「TFR−H PL」を、現像液は、ナガセケムテックス社製「NPD−18」を、レジスト剥離液は、東京応化工業社製「106」を、Moエッチング液は、関東化学社製の「S−80520」を使用した。
【0121】
フォトリソグラフィは、以下の工程により行った。Mo層上にフォトレジスト「TFR−H PL」の膜を形成し、フォトマスクを介して365nm UV光を照射した。次いで、現像液「NPD−18」を用いてフォトレジストの現像を行った。次いで、現像したフォトレジストをマスクとしてMoを、Moエッチング液「S−80520」を用いて除去し、レジスト剥離液「106」を用いて残りのフォトレジストを剥離して、ゲート電極2のパターニングを行った。
【0122】
次に、ゲート電極2を形成した基板をウエット洗浄し、その後、UVオゾン洗浄機にて300秒基板を洗浄し、その後、高分子化合物1、高分子化合物2及び2−ヘプタノンを含む溶液をゲート電極2上にスピンコート法により塗布して有機膜を成膜した。直ぐに、焼成処理を行い、ゲート絶縁層3を得た。この時の焼成処理は、220℃で25分焼成した。ゲート絶縁層の層厚は、約470nmであった。
【0123】
該ゲート絶縁層3上に、5価の酸化タングステン(W2O5)のゾルゲル液をスピンコート法により塗布し、塗布層を形成した。この塗布層を5分程度大気中で乾燥させた後、150℃で30分の焼成処理を行い、第1導電層4を得た。
【0124】
使用したW2O5のゾルゲル液は、タングステンアルコキサイドとしてタングステン(V)エトキサイド(tungsten(V)ethoxide)を使用し、安定化剤としてβ−ジケトン化合物であるアセチルアセトンを使用した。ゾルゲル液の溶媒は、2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエンを使用した。
【0125】
次に、第1導電層4上に、スパッタリング法により銅(Cu)膜を100nmの膜厚で成膜し、図15に示す第2導電層5を作製した。この後、第2導電層をフォトリソグラフィ法により、図16の形態を経て、図17に示す第2導電層5の形状へパターニングした。フォトリソグラフィにおいて、フォトレジストは、東京応化工業社製「TFR−H PL」を、現像液は、ナガセケムテックス社製「NPD−18」を、レジスト剥離液は、東京応化工業社製「106」を、Cuエッチング液は、関東化学社製の混酸「Cu−03」を使用した。
【0126】
フォトリソグラフィは、以下の工程により行った。Cu層上にフォトレジスト「TFR−H PL」の膜を形成し、フォトマスクを介して365nm UV光を照射した。次いで、現像液「NPD−18」を用いてフォトレジストの現像を行った。次いで、現像したフォトレジストをマスクとしてCuスパッタ膜を、Cuエッチング液「Cu−03」を用いて除去し、レジスト剥離液「106」を用いて残りのフォトレジストを剥離して、第2導電層5のパターニングを行った。
【0127】
次いで、パターニングされた第2導電層5をマスクとして、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH水溶液:濃度2.38%)で、図18に示されるように、第1導電層4の第2導電層5に覆われていない部分(露出している部分)をエッチングし、図19に示されるように、第1導電層4の端の部分をエッチングした。両部分のエッチングは連続して行い、エッチング時間は、第2導電層5の端部の下に奥行き約250nmの空洞を形成するため、合計90秒とした。最後に、ゲート絶縁膜3と第1電極層4、第2電極層5の密着性を向上とプロセス中に付着した水分を飛ばすため、最終焼成を窒素雰囲気のグローブボックス中で200℃10分実施した。
【0128】
次に、キシレン溶液に0.5wt%の濃度で高分子化合物3を溶かし、窒素雰囲気下のグローブボックス内でスピンコート法によりゲート絶縁層3、ソース・ドレイン電極7上へ塗布し、塗布後直ぐに150℃10分の焼成処理を行い、有機半導体層8を形成した。
上記の工程により、図20に示す有機薄膜トランジスタVを製造した。
【0129】
(有機薄膜トランジスタVのトランジスタ特性の評価)
製造した有機薄膜トランジスタVを、真空プローバーで、トランジスタ特性として20〜−40Vの範囲の伝達(Vg−Id)特性と出力(Vd−Id)特性を測定した。この時の真空プローバーの真空度は、約5×10−3Paであった。伝達特性及び出力特性を図21(a)、(b)に示す。また、移動度μ、最大電流Id、スレッショルド電圧Vth、Swing Factor(サブスレッショルドスイング(S値))、On/Off比は、伝達(Vg−Id)特性から求めた。評価結果を表3に示す。
【0130】
比較例3
(有機薄膜トランジスタVIの製造及びトランジスタ特性の評価)
第1導電層4を形成せず、ゲート絶縁層3上に、スパッタ法によりCuスパッタ膜を直接形成すること以外は実施例3と同様にして、有機薄膜トランジスタVIを製造し、トランジスタ特性を評価した。得られた伝達特性及び出力特性を図21(a)、(b)に示す。
また、評価結果を表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
表3からわかるように、有機薄膜トランジスタVIに対して有機薄膜トランジスタVは、移動度、最大電流、スレッショルド電圧Vth、サブスレッショルドスイング(S値)、On/Off比が向上していた。
【0133】
本発明の有機薄膜トランジスタは、図1及び図13に示す通り、保護膜10を最後に成膜するのがより好ましい。
また、本発明の有機薄膜能動素子は、アクティブマトリックス表示装置、回路に用いることができる。
【符号の説明】
【0134】
1…基板、
2…ゲート電極、
3…ゲート絶縁層、
4…第1導電層、
5…第2導電層、
7…ソース・ドレイン電極、
8…有機半導体層、
9…マスク、
10…保護層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極と、該ゲート電極上に該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層上にソース電極及びドレイン電極とを有し、更に、該ゲート絶縁層上の該ソース電極と該ドレイン電極とに挟まれた領域を被覆し、かつ該ソース電極と該ドレイン電極の少なくとも一部とを被覆する有機半導体層を有する、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、
該ソース電極及びドレイン電極は、該ゲート絶縁層上の第1導電層及び第1導電層上の第2導電層からなり、
該第1導電層は、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、塗布法を用いて形成されたものであり、
該第1導電層の端部は該第2導電層の端部よりも内側に位置している有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記第2導電層の端部から第1導電層の端部までの間隔が1nm以上500nm以下である請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
該第1導電層が、酸化タングステン、酸化亜鉛及び酸化銀からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、該第2導電層が、金属又は合金を含む請求項1又は2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記第1導電層が、タングステンアルコキサイドからゾルゲル法により形成された、タングステンの価数が5価、又は5価と6価の組み合わせである酸化タングステン層である請求項3に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記第1導電層が酸化タングステンのみからなり、第2導電層が銀、銅又は銀と銅とパラジウムの合金のみからなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層が銅からなり、ソース電極の第2導電層及びドレイン電極の第2導電層が、金からなる請求項1又は2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層の膜厚が、同一又は相異なり、1〜100nmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタを含む回路。
【請求項9】
請求項8に記載の回路がマトリクス状に配置されたアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項10】
基板上に、ゲート電極、及び該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層を形成する工程;
該ゲート絶縁層上に塗布法を用いて、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む第1導電層を成膜する工程;
該第1導電層上に第2導電層を成膜後、ソース電極及びドレイン電極に応じたパターンに形成する工程;
該第2導電層で被覆されていない第1導電層の部分を除去する工程;
更に第1導電層をその端の部分から除去することにより、第1導電層の端部を該第2導電層の端部よりも内側に位置させる工程;
第1導電層が除去されて露出したゲート絶縁層とその両側のソース電極及びドレイン電極とが被覆されるように、有機半導体層を成膜する工程;
を含む有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項1】
ゲート電極と、該ゲート電極上に該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層上にソース電極及びドレイン電極とを有し、更に、該ゲート絶縁層上の該ソース電極と該ドレイン電極とに挟まれた領域を被覆し、かつ該ソース電極と該ドレイン電極の少なくとも一部とを被覆する有機半導体層を有する、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造の有機薄膜トランジスタであって、
該ソース電極及びドレイン電極は、該ゲート絶縁層上の第1導電層及び第1導電層上の第2導電層からなり、
該第1導電層は、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、塗布法を用いて形成されたものであり、
該第1導電層の端部は該第2導電層の端部よりも内側に位置している有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記第2導電層の端部から第1導電層の端部までの間隔が1nm以上500nm以下である請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
該第1導電層が、酸化タングステン、酸化亜鉛及び酸化銀からなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、該第2導電層が、金属又は合金を含む請求項1又は2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記第1導電層が、タングステンアルコキサイドからゾルゲル法により形成された、タングステンの価数が5価、又は5価と6価の組み合わせである酸化タングステン層である請求項3に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記第1導電層が酸化タングステンのみからなり、第2導電層が銀、銅又は銀と銅とパラジウムの合金のみからなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層が銅からなり、ソース電極の第2導電層及びドレイン電極の第2導電層が、金からなる請求項1又は2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
ソース電極の第1導電層及びドレイン電極の第1導電層の膜厚が、同一又は相異なり、1〜100nmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタを含む回路。
【請求項9】
請求項8に記載の回路がマトリクス状に配置されたアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項10】
基板上に、ゲート電極、及び該ゲート電極を被覆するゲート絶縁層を形成する工程;
該ゲート絶縁層上に塗布法を用いて、酸化タングステン、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、銀塩、銀及び銅からなる群から選ばれる1種以上の材料を含む第1導電層を成膜する工程;
該第1導電層上に第2導電層を成膜後、ソース電極及びドレイン電極に応じたパターンに形成する工程;
該第2導電層で被覆されていない第1導電層の部分を除去する工程;
更に第1導電層をその端の部分から除去することにより、第1導電層の端部を該第2導電層の端部よりも内側に位置させる工程;
第1導電層が除去されて露出したゲート絶縁層とその両側のソース電極及びドレイン電極とが被覆されるように、有機半導体層を成膜する工程;
を含む有機薄膜トランジスタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2012−109562(P2012−109562A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234971(P2011−234971)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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