説明

FRP成形体の製造方法及び加熱装置

【課題】繊維強化プラスチック層の内層の高Vf化を抑制できるFRP成形体の製造方法及びそれに用いられる加熱装置を提供する。
【解決手段】FRP成形体の製造方法は、マンドレル10の周囲に樹脂含浸繊維層11を形成する工程(a)と、該樹脂含浸繊維層の厚さ方向に、外層側が高温で内層側が低温となる温度勾配を生じさせた状態で、樹脂含浸繊維層11を昇温させる工程(b)とを備える。また、加熱装置は、加熱炉30と、周囲に樹脂含浸繊維層11が形成されたマンドレル10を加熱炉内において支持する支持部32と、加熱炉内を加熱するヒータ31と、加熱炉内に配置されるマンドレル内に冷媒を循環させる冷媒循環機34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)成形体の製造方法及びそこで用いられる加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システムに用いられる高圧水素タンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度の確保や軽量化等の観点から、FRP製のガスタンクが有力視されている。
【0003】
図5は、一般的なFRP製ガスタンクの断面を示している。このFRP製ガスタンクは、ライナ(内容器)101と、繊維強化プラスチック(例えば、Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)層102と、ガラス層103とを含んでいる。
FRP製のガスタンクは、一般に、フィラメントワインディング法(以下、「FW法」という)を用いて製造される。即ち、未硬化(液体状又はゲル状)の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維(例えば、炭素繊維)を、ライナ101の周囲に数層から数十層巻きつけることにより樹脂含浸繊維層を形成し、この層を加熱炉において加熱して樹脂を熱硬化させる。それにより、繊維及び熱硬化樹脂からなる繊維強化プラスチック層102が形成される。
【0004】
関連する技術として、特許文献1には、ライナの内部及び外部から加熱して樹脂を硬化させる高圧タンクの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、ライナの内部を加熱/冷却可能な熱交換器を備えた高圧タンクが開示されている。
【特許文献1】特開2004−293571号公報
【特許文献2】特開2004−354039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6の(a)及び(b)は、図5に示す繊維強化プラスチック層102の内、比較的外面に近い部分(外層)と、比較的内面に近い部分(内層)とをそれぞれ拡大して示している。FW法によって作製されたFRP成形体においては、外層に比べて、内層の繊維体積含有率(fiber volume content:Vf)が高くなる傾向がある。以下において、このような傾向を、「高Vf化」ともいう。
【0006】
その主な理由として、次の3つが挙げられる。第1に、樹脂含浸繊維をライナに巻き付けていくに従って、即ち、積層が進むに従って、樹脂含浸繊維にかかる張力による巻き締め効果により、せっかく含浸させた樹脂が繊維から染み出してしまう。第2に、熱硬化樹脂を加熱すると、樹脂の粘度が一旦低下した後で熱硬化するので、その粘度低下の際に、繊維からの樹脂の染み出しが促進される。第3に、FW工程の間に受ける遠心力により、樹脂がライナの外層に向かって染み出しやすくなる。
【0007】
このような内層の高Vf化は、ガスタンクの使用圧力が高圧になるほど顕著となる。ガスタンクに強度を付与するために、樹脂含浸繊維を巻く層数を増やして、繊維強化プラスチック層を厚くする必要があるからである。
【0008】
ところが、ガスタンクにおいては内層に最も大きな応力がかかるため、内層のVfが高過ぎると疲労耐久性能が大幅に低下し、内層に亀裂が生じてしまうおそれがある。一方、単純にVfを小さくすると、繊維111に対して樹脂112が相対的に多くなり、その分、ガスタンクの外径が大きくなってしまう。従って、このような対策は、スペースの制約が多い自動車用の燃料電池システムの燃料ガスタンクを作製する場合には適切ではない。このような事情から、内層のVfを適切にコントロールし、特に内層のVfのみを下げることができるFRP成形体の製造方法が望まれている。
しかしながら、特許文献1及び2には、内層の高Vf化の問題やその解決策について、一切記載されていない。
【0009】
そこで、上記の問題点に鑑み、本発明は、FRP成形体において、繊維強化プラスチック層の内層側の高Vf化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るFRP成形体の製造方法は、マンドレルの周囲に樹脂含浸繊維層を形成する工程(a)と、該樹脂含浸繊維層の厚さ方向に、外層側が高温で内層側が低温となる温度勾配を生じさせた状態で、前記樹脂含浸繊維層を昇温させる工程(b)とを具備する。
このように樹脂含浸繊維層に温度勾配を生じさせることにより、樹脂含浸繊維層の外層側に比べて内層側の樹脂粘度の高い状態が維持される。それにより、内層の樹脂が外層に流出するのを抑制しつつ昇温させることができる。
【0011】
工程(b)においては、前記マンドレルの内部を冷却しながら、前記樹脂含浸繊維層を外側から加熱することにより、樹脂含浸繊維層に上記温度勾配が生じる。
また、工程(b)において、前記樹脂含浸繊維層の外側が少なくとも樹脂の熱硬化温度に達した後で、前記マンドレルの内部の冷却を停止することにより、樹脂含浸繊維層の外層から確実に熱硬化を開始させることができる。
【0012】
さらに、工程(b)において、前記マンドレルの内部に冷媒を循環させることにより、樹脂含浸繊維層の昇温中であっても、樹脂含浸繊維層内における温度勾配が維持される。
また、工程(b)において、前記マンドレルの内部から導出された冷媒の温度及び/又は圧力に基づいて、前記マンドレルの内部に供給される冷媒の温度及び/又は圧力をフィードバック制御することにより、樹脂含浸繊維層内の温度勾配を制御できると共に、内層側の樹脂粘度を調節することもできる。
【0013】
或いは、工程(b)において、前記樹脂含浸繊維層の外側の温度を測定し、該測定値に基づいて前記樹脂含浸繊維層の外側の温度をフィードバック制御するようにしても良い。
さらに、工程(b)の後で、前記樹脂含浸繊維層を降温させることにより、FRP成形体が完成する。
【0014】
本発明の1つの観点に係る加熱装置は、FRP成形体を作製する際に用いられる加熱装置であって、加熱炉と、周囲に樹脂含浸繊維層が形成されたマンドレルを前記加熱炉内に保持する保持手段と、前記加熱炉内を加熱するヒータと、前記加熱炉内に配置される前記マンドレル内に冷媒を循環させる冷媒循環手段とを具備する。
【0015】
前記冷媒循環手段は、前記マンドレル内から導出された冷媒の温度及び/又は圧力に基づいて、前記マンドレル内に供給される冷媒の温度及び/又は圧力をフィードバック制御しても良い。
また、前記加熱装置は、前記加熱炉内に配置された温度センサと、前記温度センサの測定値に基づいて前記ヒータをフィードバック制御する制御手段とをさらに具備しても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、FW法によってマンドレルの周囲に形成された樹脂含浸繊維層を、層内に温度勾配を生じさせた状態で昇温させるので、外側に比べて内側の樹脂粘度が高い状態を維持することができる。それにより、内層側の樹脂の外層側への流出を抑制しつつ樹脂含浸繊維層全体を昇温して硬化させることができる。従って、内層におけるVfが低い、所謂、樹脂リッチな繊維強化プラスチック(FRP)層を有する成形体を作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係るFRP成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【0018】
まず、図1の工程S1において、FW法によりマンドレル10の周囲に樹脂含浸繊維層11を形成する。ここで、マンドレルとは、樹脂含浸繊維を巻き付ける芯体のことであり、本実施形態においては、内部にガスの貯留空間が画成されるように中空状に形成されたガスタンクのライナが用いられる。マンドレルの材質は、金属であっても良いし、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の硬質樹脂であっても良い。
【0019】
図2は、FW装置の概略的な構成を示す図である。このFW装置は、繊維12が巻かれたボビン20と、未硬化(液体状又はゲル状)の樹脂23が配置された樹脂槽22と、マンドレル10が取り付けられるシャフト25とを備えている。
【0020】
繊維12としては、例えば、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維といった無機繊維や、アラミド繊維等の合成有機繊維や、綿等の天然有機繊維が用いられる。これらの繊維は、単独で使用しても良いし、混合して(混繊として)使用しても良い。本実施形態においては、繊維12としてカーボン繊維を用いている。一方、樹脂23としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。本実施形態においては、熱硬化性エポキシ樹脂を用いている。
【0021】
ボビン20から繰り出された繊維12は、圧力調整部21においてその張力を調整された後で、樹脂槽22において樹脂23を含浸する。そして、樹脂23を含浸した繊維12は、供給ユニット24を介して回転するマンドレル10に供給され、マンドレル10の表面に巻き付けられる。繊維12の巻き方については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であっても良い。
【0022】
次に、図1の工程S2において、樹脂含浸繊維層11が形成されたマンドレル10を、図3に示す加熱装置に配置する。
図3は、本実施形態において樹脂含浸繊維層11を熱硬化させる際に用いられる加熱装置の概略的な構成を示す図である。加熱炉30の内部には、ヒータ31と、マンドレル10を支持する支持部32と、加熱炉30内の温度をモニタするための温度センサ33とが配置されている。また、加熱炉30の外部には、冷媒循環機34が設置されている。
【0023】
冷媒循環機34は、冷媒供給路35及び冷媒導出路36を介して、マンドレル10の内部に冷媒を循環させる。マンドレル10から導出される冷媒の温度、望ましくは温度及び圧力は、冷媒循環機34によってモニタされており、そのモニタ値に基づいて、マンドレル10内に供給される冷媒の温度、望ましくは温度及び圧力がフィードバック制御される。冷媒としては、所望の温度に冷却可能であり、且つ、適切な圧力を維持できる流体であれば、圧縮性流体及び非圧縮性流体のいずれを用いても良い。具体的には、エア(空気)や、窒素や、水等が用いられる。
【0024】
制御部37は、温度センサ33の出力値に基づいてヒータ31の動作をフィードバック制御する。また、制御部37は、所定の場合にマンドレル10内の冷却を停止するように、冷媒循環機34を制御する。
【0025】
次に、工程S3において、冷媒循環機34の運転を開始することにより、マンドレル10内に冷媒を循環させ、所望の温度まで冷却する。そして、その状態でヒータ31の運転を開始することにより、加熱炉30内を樹脂の硬化温度THまで昇温させる。この昇温中には、加熱炉30内の温度(温度センサ33の出力値)とマンドレル10内の温度(冷媒循環機34によるモニタ値)との間に常に所定の温度差が生じているように、マンドレル10内に冷媒を循環し続ける。
【0026】
次に、工程S4において、加熱炉30内の温度、即ち、樹脂含浸繊維層11の外層付近の温度が樹脂の硬化温度THに達した後で、冷媒循環機34からのマンドレル10内への冷媒の循環を停止する。
さらに、工程S5において、マンドレル10内の温度、即ち、樹脂含浸繊維層11の内層付近の温度が硬化温度THに達した後で、加熱炉30の加熱を停止し、マンドレル10及び熱硬化した樹脂含浸繊維層11を徐々に降温する。それにより、繊維強化プラスチック製のガスタンク本体が完成する。
【0027】
図4は、工程S3及びS4における樹脂含浸繊維層11の外層及び内層の温度変化を示している。工程S3において、マンドレル10内を冷却しつつ樹脂含浸繊維層11を外側から加熱することにより、図4に示すように、外層に遅れて内層が昇温するようになり、樹脂含浸繊維層11内に厚さ方向の温度勾配が生じる。それにより、マンドレル10により近い(即ち、温度がより低い)内層側では、外層側よりも樹脂の粘度が高くなるので、内層側の樹脂の外層側への流出が抑制される。また、樹脂含浸繊維層11は、上記温度勾配のため外層から内層に向かって徐々に熱硬化するので、先に熱硬化した外層によって、内層側の未硬化樹脂の外層側への染み出しも抑制される。
【0028】
以上説明したように、本実施形態においては、樹脂含浸繊維層を熱硬化させる際に、樹脂含浸繊維層の厚さ方向に、外層側において温度が高く、内層側において温度が低くなるような温度勾配を生じさせることにより、内層の樹脂の外層側への流出を防ぎ、内層におけるVfが低い、所謂、樹脂リッチな繊維強化プラスチック層を形成することができる。
また、本実施形態においては、マンドレル10内に供給される冷媒の温度及び圧力を調節することにより、内層の樹脂の粘度を調整することもできる。それにより、繊維強化プラスチック層の内層を所望のVfに制御することが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態においては、ヒータ31及び冷媒循環機34の動作を制御部37によって制御しているが、加熱炉30内やマンドレル10内の温度のモニタ値に基づいて、それらの機器をマニュアルで制御しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るFRP成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】FW装置の概略的な構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る加熱装置の概略的な構成を示す図である。
【図4】樹脂含浸繊維層の外層及び内層の温度変化を示すグラフである。
【図5】FRP製のガスタンクを示す断面図である。
【図6】図5の繊維強化プラスチック層の一部を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10…マンドレル、11…樹脂含浸繊維層、30…加熱炉、31…ヒータ、32…支持部、33…温度センサ、34…冷媒循環機、35…冷媒供給路、36…冷媒導出路、37…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルの周囲に樹脂含浸繊維層を形成する工程(a)と、
該樹脂含浸繊維層の厚さ方向に、外層側が高温で内層側が低温となる温度勾配を生じさせた状態で、前記樹脂含浸繊維層を昇温させる工程(b)と、
を具備するFRP成形体の製造方法。
【請求項2】
工程(b)が、前記マンドレルの内部を冷却しながら、前記樹脂含浸繊維層を外側から加熱することを含む、請求項1記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項3】
工程(b)が、前記樹脂含浸繊維層の外側が少なくとも樹脂の熱硬化温度に達した後で、前記マンドレルの内部の冷却を停止することを含む、請求項2記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項4】
工程(b)が、前記マンドレルの内部に冷媒を循環させることを含む、請求項2又は3のいずれか1項記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項5】
工程(b)が、前記マンドレルの内部から導出された冷媒の温度及び/又は圧力に基づいて、前記マンドレルの内部に供給される冷媒の温度及び/又は圧力をフィードバック制御することを含む、請求項4記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項6】
工程(b)が、前記樹脂含浸繊維層の外側の温度を測定し、該測定値に基づいて前記樹脂含浸繊維層の外側の温度をフィードバック制御することを含む、請求項1〜5のいずれか1項記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項7】
工程(b)の後で、前記樹脂含浸繊維層を降温させる工程をさらに具備する請求項1〜6のいずれか1項記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項8】
FRP成形体を作製する際に用いられる加熱装置であって、
加熱炉と、
周囲に樹脂含浸繊維層が形成されたマンドレルを前記加熱炉内において支持する支持手段と、
前記加熱炉内を加熱するヒータと、
前記加熱炉内に配置されるマンドレル内に冷媒を循環させる冷媒循環手段と、
を具備する加熱装置。
【請求項9】
前記冷媒循環手段が、前記マンドレル内から導出された冷媒の温度及び/又は圧力に基づいて、前記マンドレル内に供給される冷媒の温度及び/又は圧力をフィードバック制御する、請求項8記載の加熱装置。
【請求項10】
前記加熱炉内に配置された温度センサと、
前記温度センサの測定値に基づいて前記ヒータをフィードバック制御する制御手段と、
をさらに具備する請求項8又は9記載の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−12341(P2009−12341A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177573(P2007−177573)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】