説明

GaN基板の保存方法、保存された基板ならびに半導体デバイスおよびその製造方法

【課題】特性のよい半導体デバイスの製造が可能な主面の面方位が(0001)および(000−1)以外のGaN基板の保存方法などを提供する。
【解決手段】本GaN基板の保存方法は、平坦な第1の主面1mを有し、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点Pにおける面方位が、その任意の点Pにおける(0001)面または(000−1)面1cに対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面1aの面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角Δαを有するGaN基板1を、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造に用いられる主面の面方位が(0001)および(000−1)以外のGaN基板の保存方法、その保存方法で保存された上記GaN基板、そのGaN基板上に少なくとも1層の半導体層が形成されている半導体デバイスおよびその半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(Light Emitting Diode、以下LEDという)、レーザダイオード(Laser Diode、以下LDという)などの半導体デバイスの発光のブルーシフトを低減しまた発光効率を高く維持するために、これらの半導体デバイスの基板として、主面の面方位が(0001)および(000−1)以外の半極性または非極性のGaN基板が用いられるようになってきた。非極性のGaN基板とは、主面として非極性面を有するGaN基板を意味し、具体的には極性面である(0001)面または(000−1)面に対して90°傾斜した(すなわち垂直な)面方位の主面を有するGaN基板をいう。半極性のGaN基板とは、具体的には極性面である(0001)面または(000−1)面に対して0°より大きく90°より小さく傾斜した面方位の主面を有するGaN基板をいう。
【0003】
ここで、GaN基板を製造する工程と製造されたGaN基板を用いて半導体デバイスを製造する工程とは通常別工程であり、製造されたGaN基板は、一定期間保存されその後半導体デバイス製造のために用いられる。このため、製造されたGaN基板を収納し保存するための方法が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。しかし、GaN基板の従来の保存方法は、クリーンな大気中の雰囲気下で収納され保存されるものであるため、長期の保存により、GaN基板の表面が酸化され、特性のよい半導体デバイスを製造することが困難となっていた。
【0004】
このため、主面として極性面である(0001)面または(000−1)面を有するGaN基板を、大気中の酸素濃度および水蒸気濃度を制御した雰囲気中で保管する方法が提案されている(たとえば、特許文献2を参照)。しかし、上記の半極性または非極性のGaN基板を特許文献2に記載の方法で保存すると、保存後の半極性または非極性のGaN基板を用いて作製した半導体デバイスの特性に大きなバラツキが発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−355392号公報
【特許文献2】特開2007−335583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決し、特性のよい半導体デバイスの製造が可能な主面の面方位が(0001)および(000−1)以外のGaN基板の保存方法、その保存方法で保存された上記GaN基板、そのGaN基板上に少なくとも1層の半導体層が形成されている半導体デバイスおよびその半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平坦な第1の主面を有し、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、その任意の点における(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面の面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板を、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存するGaN基板の保存方法である。
【0008】
本発明にかかるGaN基板の保存方法において、酸素濃度を10体積%以下および水蒸気濃度を15g/m3以下とすることができる。さらに、酸素濃度を6体積%以下および水蒸気濃度を5g/m3以下とすることができる。また、雰囲気は、不活性ガスと酸素ガスと水蒸気とを含む混合ガスにより形成され、酸素濃度を0.05体積%以上および水蒸気濃度を0.1g/m3以上とすることができる。
【0009】
また、本発明にかかる保存方法により保存されるGaN基板において、第1の主面の平均粗さRaを20nm以下とし、第2の主面の平均粗さRaを20μm以下とすることができる。さらに、第1の主面の平均粗さRaを5nm以下とし、第2の主面の平均粗さRaを10μm以下とすることができる。
【0010】
また、本発明にかかる保存方法により保存されるGaN基板において、任意に特定される結晶面の面方位を{20−21}とすることができる。ここで、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−10°以上10°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有することができる。さらに、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−3°以上3°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−3°以上3°以下のずれ傾斜角を有することができる。さらに、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−0.5°以上0.5°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−0.5°以上0.5°以下のずれ傾斜角を有することができる。
【0011】
また、本発明は、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存された、平坦な第1の主面を有し、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、その任意の点における(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面の面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板である。また、本発明は、上記GaN基板と、そのGaN基板の第1の主面上に形成された少なくとも1層の半導体層と、を含む半導体デバイスである。また、本発明は、上記GaN基板を準備する工程と、GaN基板の第1の主面上に少なくとも1層の半導体層を成長させる工程と、を含む半導体デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特性のよい半導体デバイスの製造が可能な主面の面方位が(0001)および(000−1)以外のGaN基板の保存方法、その保存方法で保存された上記GaN基板、そのGaN基板上に少なくとも1層の半導体層が形成されている半導体デバイスおよびその半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるGaN基板の保存方法の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明にかかるGaN基板の一実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明にかかるGaN基板の一実施形態を具体的に示す概略図である。ここで、(A)はGaN基板の概略平面図を示し、(B)は(A)のIIIB−IIIBにおける概略断面図を示し、(C)は(A)のIIIC−IIICにおける概略断面図を示す。
【図4】本発明にかかるGaN基板を含む半導体デバイスの一実施形態を具体的に示す概略図である。ここで、(A)はGaN基板の概略平面図を示し、(B)は(A)のIVB−IVBにおける概略断面図を示す。
【図5】本発明にかかる半導体デバイスの一実施形態を示す概略断面図である。
【図6】本発明にかかるGaN基板の製造方法を示す概略図である。ここで、(A)はGaN母結晶から複数のGaN母結晶片を切り出す工程を示し、(B)は複数のGaN母結晶片を横方向に互いに隣接させて配置する工程を示し、(C)は複数のGaN母結晶片上にGaN結晶を成長させてGaN基板を切り出す工程を示し、(D)はさらなるGaN結晶を成長させてGaN基板を切り出す工程を示す。
【図7】GaN基板の保存雰囲気の酸素濃度および水蒸気濃度と、半導体デバイスの特性との関係の一例を示すグラフである。
【図8】GaN基板の保存雰囲気の酸素濃度および水蒸気濃度と、半導体デバイスの特性との関係の他の例を示すグラフである。
【図9】GaN基板の保存雰囲気の酸素濃度および水蒸気濃度と、半導体デバイスの特性との関係のさらに他の例を示すグラフである。
【図10】GaN基板の保存雰囲気の酸素濃度および水蒸気濃度と、半導体デバイスの特性との関係のさらに他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
結晶幾何学においては、結晶面の面方位を表わすために(hkl)または(hkil)などの表示(ミラー表示)が用いられる。GaN母結晶、GaN母結晶片、GaN結晶、GaN基板などを形成するIII族窒化物結晶などの六方晶系の結晶における結晶面の面方位は、(hkil)で表わされる。ここで、h、k、iおよびlはミラー指数と呼ばれる整数であり、i=−(h+k)の関係を有する。この面方位(hkil)の面を(hkil)面という。また、(hkil)面に垂直な方向((hkil)面の法線方向)は、[hkil]方向という。また、{hkil}は(hkil)およびそれに結晶幾何学的に等価な個々の面方位を含む総称的な面方位を意味し、<hkil>は、[hkik]およびそれに結晶幾何学的に等価な個々の方向を含む総称的な方向を意味する。
【0015】
(実施形態1)
図1および図2を参照して、本発明にかかるGaN基板の保存方法の一実施形態は、平坦な第1の主面1mを有し、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点Pにおける面方位が、任意の点Pにおける(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下(図2において傾斜角α)で傾斜している任意に特定される結晶面1aの面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角(図2においてずれ傾斜角Δα)を有するGaN基板1を、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存する。
【0016】
上記GaN基板を酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気下で保存することにより、GaN基板の表面の酸化を抑制することができ、特性のよい半導体デバイスの製造が可能となる。かかる観点から、酸素濃度が10体積%以下および水蒸気濃度が15g/m3以下であることが好ましく、酸素濃度が6体積%以下および水蒸気濃度が5g/m3以下であることがより好ましい。一方、保存する雰囲気を形成するコストを低減する観点から、酸素濃度が0.05体積%以上および水蒸気濃度が0.1g/m3以上であることが好ましい。
【0017】
ここで、上記GaN基板を保存する雰囲気の酸素濃度を15体積%以下および水蒸気濃度を20g/m3以下にする方法には、特に制限はなく、たとえば、図1に示すような保存装置10を用いることができる。ここで、図1の保存装置10は、ガス導入管20、ガス導入弁29、ガス排出管40およびガス排出弁49を備えている。
【0018】
上記GaN基板を保存する雰囲気の酸素濃度を15体積%以下および水蒸気濃度を20g/m3以下とする方法としては、保存装置10内にGaN基板1を配置して、この保存装置10内に酸素濃度が15体積%以下かつ水蒸気濃度が20g/m3以下の低いガス23を導入し酸素濃度が15体積%より高くまたは水蒸気濃度が20g/m3より高いガス43を排出する方法(方法Iという、以下同じ)がある。また、保存装置10内にGaN基板1とともに脱酸素剤31と脱水剤32とを配置する方法(方法IIという、以下同じ)がある。また、方法Iおよび方法IIを併用することも可能である。
【0019】
ここで、酸素濃度および水蒸気濃度がそれぞれ15体積%以下および20g/m3以下のガスは、特に制限はないが、GaN基板の表面と化学反応を起こさない観点から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスの他、これらの不活性ガスと所定量以下の酸素ガスおよび水蒸気とを含む混合ガスなどが好ましい。特に、コストが低い観点から、上記の不活性ガスと酸素ガスと水蒸気との混合ガスであって、その酸素濃度および水蒸気濃度がそれぞれ15体積%以下および20g/m3以下の混合ガスであることが好ましい。また、脱酸素剤は、特に制限はないが、GaN基板の表面と化学反応を起こさない観点から、活性酸化鉄、活性炭などが好ましい。また、脱水剤は、特に制限はないが、GaN基板の表面と化学反応を起こさない観点から、シリガゲル、活性炭などが好ましい。
【0020】
また、酸素濃度の測定は、特に制限はないが、ガルバニ式酸素濃度計などにより行なうことができる。また、水蒸気濃度の測定は、特に制限はないが、誘電率水分計、カールフィッシャー式水分計などにより行なうことができる。
【0021】
また、GaN基板を保存する雰囲気の温度は、特に制限はないが、GaN基板の表面との化学反応を起こさない観点から、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。また、結露を防止する観点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0022】
本実施形態の保存方法において保存されるGaN基板は、図2および図3を参照して、平坦な第1の主面1mを有し、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点P(たとえば、点PC、点P1、点P2、点P3、点P4など)における面方位が、その任意の点における(0001)面または(000−1)面1cに対して50°以上90°以下(図2において傾斜角α)で傾斜している任意に特定される結晶面1aの面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有する。
【0023】
本実施形態のGaN基板は、(i)平坦な第1の主面1mを有し、(ii)第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、その任意の点における(0001)面または(000−1)面1cに対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面1aの面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角Δαを有しているため、第1の主面1m上に少なくとも1層の半導体層を成長させることにより、発光のブルーシフトが小さく発光効率が高い半導体デバイスが得られる。特に、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位のずれ傾斜角Δαが小さいため、GaN基板の上記保存において、保存装置内の酸素および水蒸気とGaN基板の表面との反応が抑制され、またGaN基板の表面への酸素および水蒸気の吸着量が低減することにより、発光効率の高い半導体デバイスが得られる。
【0024】
また、本実施形態のGaN基板は、保存装置内の酸素および水蒸気とGaN基板の表面との反応の抑制、またGaN基板の表面への酸素および水蒸気の吸着量の低減の観点から、第1の主面1mの平均粗さRaが20nm以下で第2の主面1nの平均粗さRaが20μm以下であることが好ましい。かかる観点から、第1の主面1mの平均粗さRaが5nm以下で第2の主面1nの平均粗さRaが10μm以下であることがより好ましい。GaN基板1の第1の主面1mおよび第2の主面1nの平均粗さRaと、GaN基板1のそれらの主面1m,1nに対する酸素および水蒸気の反応性ならびに吸着性との関係は、明らかではないが、1つの原因として、面の平均粗さRaを小さくすることにより表面積が減少することが関係しているものと考えられる。ここで、第1の主面1mとはその上に半導体層を成長させる主面をいい、第2の主面1nとは上記第1の主面1mと反対側の主面をいう。また、面の平均粗さRaとは、JIS B 0601に規定する算術平均粗さRaをいい、粗さ曲面からその平均面の方向に所定の基準面積を抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の絶対値を合計してそれを基準面積で平均した値をいう。かかる面の平均粗さRaは、非接触式光干渉計、3D−SEM(立体映像走査型電子顕微鏡)、AFM(分子間力顕微鏡)などを用いて測定することができる。
【0025】
また、図2を参照して、本実施形態のGaN基板について、上記任意に特定される結晶面1aの面方位は、{20−21}であることが好ましい。GaN基板1の第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点Pにおける面方位が、{20−21}に対して−10°以上10°以下のずれ傾斜角Δαを有するGaN基板1は、その第1の主面1m上に結晶性の高い半導体層を安定に成長させることができるため、発光のブルーシフトが小さく発光効率の高い半導体デバイスが得られる。
【0026】
また、図2および図3を参照して、本実施形態のGaN基板について、保存装置内の酸素および水蒸気とGaN基板の表面との反応の抑制、またGaN基板の表面への酸素および水蒸気の吸着量の低減の観点から、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点P(たとえば、点PC、点P1、点P2、点P3および点P4)における面方位が、<1−210>方向に−10°以上10°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−10°以上10°以下のずれ傾斜角Δαを有することが好ましく、{20−21}に対して、<1−210>方向に−3°以上3°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−3°以上3°以下のずれ傾斜角Δαを有することがより好ましく、{20−21}に対して、<1−210>方向に−0.5°以上0.5°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−0.5°以上0.5°以下のずれ傾斜角Δαを有することがさらに好ましい。
【0027】
GaN基板1の第1の主面1m主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位と{20−21}との間のずれ傾斜角Δαと、GaN基板1の第1の主面1mに対する酸素および水蒸気の反応性ならびに吸着性との関係は、明らかではないが、1つの原因として、所定のずれ傾斜角Δαを有することにより、GaN基板1の第1の主面1mにおいて酸素および水蒸気と結合できる点の数が変化することが関係しているものと考えられる。GaN基板の第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位と{20−21}との間のずれ傾斜角は、XRD(X線回折)法により測定することができる。
【0028】
なお、図1を参照して、本実施形態において、GaN基板1を収納した保存装置10内の雰囲気を本願発明における保存条件(たとえば、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下)とした中で、酸素および水蒸気を遮断できる保存容器(図示せず)(たとえば、アルミニウム製の袋など)にGaN基板1を封入することにより、GaN基板1を保存することもできる。また、保存容器により密封されたGaN基板は、保存装置10から取り出して保存することも可能である。
【0029】
図6を参照して、本実施形態のGaN基板の製造方法には、特に制限はないが、GaN母結晶100から、GaN母結晶の(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下の傾斜角αを有する面方位{hkil}に対するずれ傾斜角が−5°以上5°以下の主面100pm,100qmを有する複数のGaN母結晶片100p,100qを切り出す工程(図6(A))と、GaN母結晶片100p,100qの主面100pm,100qmが互いに平行で、かつ、GaN母結晶片100p,100qの[0001]方向が同一になるように、横方向にGaN母結晶片100p,100qを互いに隣接させて配置する工程(図6(B))と、GaN母結晶片100p,100qの主面100pm,100qm上にGaN結晶110を成長させる工程(図6(C))と、成長させたGaN結晶110から実施形態1のGaN基板1を切り出す工程(図6(C))とを含む。
【0030】
上記工程によれば、GaN母結晶片100p上に成長するGaN結晶110の部分領域110pの主面の面方位と、GaN母結晶片100q上に成長するGaN結晶110の部分領域110qの主面の面方位との間のずれ角が−10°以上10°以下のGaN結晶110を成長させることができる。ここで、GaN結晶110の部分領域110p,110qは、GaN母結晶片100p,100qが互いに隣接する側面100pt,100qtをGaN結晶110内に伸長した面(以下、伸長面110tという)によって仕切られるGaN結晶の領域領域である。
【0031】
こうして得られたGaN結晶110を上記の面方位{hkil}の面に平行な面110u,110vで切り出すことにより、平坦な第1の主面1mを有し、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、その任意の点における(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面の面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板1が得られる。
【0032】
ここで、GaN基板1の上記任意の点におけるずれ傾斜角を小さくする観点から、複数のGaN母結晶片100p,100qの主面100pm,100qmの上記面方位{hkil}に対するずれ傾斜角は、−10°以上10°以下が好ましく、−3°以上3°以下がより好ましく、−0.5°以上0.5°以下がさらに好ましい。また、結晶性の高いGaN結晶を成長させる観点から、GaN母結晶片100p,100qの主面100pm,100qmおよび側面100pt,100qtの平均粗さRaは、50nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。
【0033】
また、GaN結晶110を成長させる方法は、特に制限はないが、結晶性の高いGaN結晶を成長させる観点から、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線エピタキシ)法などの気相法、フラックス法などの液相法が好ましい。結晶の成長速度が大きい観点から、HVPE法がより好ましい。HVPE法によりGaN結晶110を成長させる場合、GaN基板1の上記任意の点におけるずれ傾斜角を小さくする観点から、結晶成長条件は、結晶成長温度を950℃以上1200℃以下とし、結晶成長速度を30μm/hr以上300μm以下とすることが好ましい。
【0034】
本実施形態のGaN基板の製造方法において、成長させたGaN結晶110から面方位{hkil}の面に平行な面110u,110vで切り出したGaN基板1をGaN下地基板110sとして用いて、かかるGaN下地基板110sの主面110pm上にさらなるGaN結晶120を成長させる工程(図6(D))と、成長させたさらなるGaN結晶120から実施形態1のGaN基板1を切り出す工程(図6(D))と、をさらに含むことができる。
【0035】
上記工程によれば、GaN下地基板110sの部分領域110p上に成長するさらなるGaN結晶120の部分領域120pの主面の面方位と、GaN下地基板110sの部分領域110q上に成長するさらなるGaN結晶120の部分領域120qの主面の面方位との間のずれ角が10°以下のさらなるGaN結晶120を成長させることができる。ここで、さらなるGaN結晶120の部分領域120p,120qは、GaN下地基板110sの伸長面110tをさらなるGaN結晶120内に伸長した面(以下、伸長面120tという)によって仕切られるさらなるGaN結晶の領域である。
【0036】
こうして得られたさらなるGaN結晶120を面方位{hkil}の面に平行な面120u,120vで切り出すことにより、平坦な第1の主面1mを有し、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、その任意の点における(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面の面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板1が得られる。
【0037】
さらなるGaN結晶120を成長させる方法は、特に制限はないが、結晶性の高いGaN結晶を成長させる観点から、HVPE法、MOCVD法、MBE法などの気相法、フラックス法などの液相法が好ましい。結晶の成長速度が大きい観点から、HVPE法がより好ましい。HVPE法によりさらなるGaN結晶120を成長させる場合、GaN基板1の上記任意の点におけるずれ傾斜角を小さくする観点から、結晶成長条件は、結晶成長温度を950℃以上1200℃以下とし、結晶成長速度を30μm/hr以上300μm以下とすることが好ましい。
【0038】
(実施形態2)
図1〜図3を参照して、本発明にかかるGaN基板の一実施形態は、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存された、平坦な第1の主面1mを有し、第1の主面1m上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、任意の点における(0001)面または(000−1)面1cに対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面1aの面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角Δαを有するGaN基板1である。実施形態1の方法により保存された本実施形態のGaN基板は、表面の酸化が抑制されているため、第1の主面1m上に少なくとも1層の半導体層を成長させることにより、特性の高い半導体デバイスが得られる。
【0039】
(実施形態3)
図4および図5を参照して、本発明にかかる半導体デバイスの一実施形態は、実施形態の1の方法により保存された実施形態2のGaN基板1と、そのGaN基板1の第1の主面1m上に形成された少なくとも1層の半導体層210と、を含む。本実施形態の半導体デバイスは、表面の酸化が抑制されたGaN基板1の第1の主面1m上に、結晶性の高い半導体層210が形成されているため、特性の高い半導体デバイスが得られる。
【0040】
GaN基板1上に形成される半導体層210は、特に制限はないが、結晶格子の整合性が高い観点から、AlxGayIn1-x-yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)層などのIII族窒化物半導体層が好ましい。また、半導体層の形成方法には、特に制限はないが、GaN基板1上に結晶性の高い半導体層210を形成する観点から、HVPE法、MOCVD法、MBE法などが好ましく用いられる。GaN基板1上に形成される半導体層210の厚さおよび化学組成を精密に制御できる観点から、MOCVD法がより好ましい。
【0041】
図4および図5を参照して、本実施形態の半導体デバイスは、具体的には、実施形態2のGaN基板1の第1の主面1m上に、少なくとも1層の半導体層210として、n型GaN層211、In0.2Ga0.8N層212、Al0.2Ga0.8N層213、p型GaN層214が順次形成され、さらにGaN基板1の第2の主面1n上にn側電極221、p型GaN層214の主面上にはp側電極222が形成されており、発光230を発する。
【0042】
(実施形態4)
図3〜図5を参照して、本発明にかかる半導体デバイスの製造方法の一実施形態は、実施形態の1の方法により保存された実施形態2のGaN基板1を準備する工程と、GaN基板1の第1の主面1m上に少なくとも1層の半導体層210を成長させる工程と、を含む。かかる工程により、特性の高い半導体デバイスが得られる。
【0043】
図3〜図5を参照して、本実施形態の半導体デバイスの製造方法は、実施形態の1の方法により保存された実施形態2のGaN基板1を準備する工程を含む。かかるGaN基板1を準備する工程は、実施形態1および実施形態2に記載のとおりである。
【0044】
図4および図5を参照して、本実施形態の半導体デバイスの製造方法は、GaN基板1の第1の主面1m上に少なくとも1層の半導体層210を成長させる工程を含む。GaN基板1上に成長させる半導体層210は、特に制限はないが、結晶格子の整合性が高い観点から、AlxGayIn1-x-yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)層などのIII族窒化物半導体層が好ましい。また、半導体層の成長方法には、特に制限はないが、GaN基板1上に半導体層210を容易にエピタキシャル成長させる観点から、HVPE法、MOCVD法、MBE法などが好ましく用いられる。GaN基板1上に成長させる半導体層210の厚さおよび化学組成を精密に制御できる観点から、MOCVD法がより好ましい。
【0045】
図4および図5を参照して、本実施形態の半導体デバイスの製造方法は、たとえば、実施形態2のGaN基板1の第1の主面1m上に、少なくとも1層の半導体層210として、MOCVD法により、n型GaN層211、In0.2Ga0.8N層212、Al0.2Ga0.8N層213、p型GaN層214を順次成長させることにより、半導体層ウエハ200uが得られる。次いで、半導体層ウエハ200uのGaN基板1の第2の主面1n上にn側電極221を形成し、p型GaN層214の主面上にp側電極222を形成することにより半導体デバイスが得られる。こうして得られる半導体デバイス200は、発光230を発する。
【実施例】
【0046】
(実施例I)
1.GaN基板の作製
図6(A)を参照して、HVPE法により作製した直径が50.8mmで厚さが3mmのGaN母結晶100の両主面である(0001)面および(000−1)面を研削および研磨加工して両主面の平均粗さRaを5nmとした。ここで、面の平均粗さRaは、AFMを用いて測定した。
【0047】
次いで、両主面の平均粗さRaを5nmとしたGaN母結晶100を<20−21>方向に垂直な複数の面でスライスすることにより、幅が3.1mm、長さが20〜50.8mmで厚さが1mmの{20−21}の主面を有する複数のGaN母結晶片100p,100qを切り出した。次いで、切り出した各GaN母結晶片の研削および研磨加工されていない4面を研削および研磨加工して、これら4面の平均粗さRaを5nmとした。こうして、{20−21}の主面の平均粗さRaが5nmである複数のGaN母結晶片が得られた。それらのGaN母結晶片の中には、その主面の面方位が{20−21}と完全に一致していないGaN母結晶片もあったが、かかるGaN母結晶片のいずれについても、その主面の面方位は{20−21}に対するずれ傾斜角が−0.1°以上0.4°以下であった。ここで、ずれ傾斜角は、X線回折法により測定した。
【0048】
次に、図6(B)を参照して、HVPE装置の結晶成長容器内に複数のGaN母結晶片100p,100qの{20−21}の主面100pm,100qmが互いに平行になるように、かつ、それらのGaN母結晶片100p,100qの[0001]方向が同一になるように、横方向にそれらのGaN母結晶片を互いに隣接させて配置した。このとき、図1(C)も参照して、複数のGaN母結晶片100p,100qの互いに隣接する側面100pt,100qtの平均粗さRaは5nmであった。こうして配置した複数のGaN母結晶片100p,100q全体の外周に内接する円の直径が50.8mmであった。
【0049】
次に、図6(C)を参照して、HVPE装置の結晶成長容器内に配置した複数のGaN母結晶片100p,100qの{20−21}の主面100pm,100qmを10体積%の塩化水素(HCl)ガスと90体積%の窒素(N2)ガスの混合ガス雰囲気下、800℃で2時間処理した後、それらの主面100pm,100qm上に、HVPE法により、Ga融液と反応してGa原料ガスであるGa塩化物ガスを生成する塩化水素ガスの分圧が2.2kPa、窒素原料ガスであるアンモニア(NH3)ガスの分圧が15.6kPa、結晶成長温度が1080℃の条件で50時間GaN結晶110を成長させた。
【0050】
得られたGaN結晶110の厚さは、接触式厚さ計(株式会社ミツトヨ製デジマチックインジケータ)により測定したところ、4mmであった。すなわち、結晶成長速度は80μm/hrであった。図6(C)、図2および図3を参照して、このGaN結晶110を、{20−21}の面に平行な面110u,110vで8枚のGaN基板を切り出して、それらの両主面を研削および研磨加工することにより、直径50.8mm×厚さ400μm、第1の主面1mの平均粗さRaが3nm、第2の主面1nの平均粗さRaが8μmであり、第1の主面1m上の点PC、点P1、点P2、点P3および点P4のそれぞれの点における第1の主面と{20−21}面との間のずれ傾斜角であって、<1−210>方向(図3においてx軸方向)へのずれ傾斜角、および<20−21>方向および<1−210>方向に垂直な方向(図3においてy軸方向)へのずれ傾斜角が、それぞれ表1で表わされる8枚のGaN基板が得られた。
【0051】
ここで、図3を参照して、点PCはGaN基板1の第1の主面1m上の中央の点であり、点P1、点P2、点P3および点P4はいずれも第1の主面上でその外縁から3mm離れた点であり、<1−210>方向に点P1、点PCおよび点P2がこの順に一直線上に並び、<20−21>方向および<1−210>方向に垂直な方向に点P3、点PCおよび点P4がこの順に一直線上に並ぶ。
【0052】
2.GaN基板の保存
上記で得られた8枚のGaN基板の内、7枚のGaN基板のそれぞれについては、洗浄後、不活性ガスである窒素ガスと酸素ガスと水蒸気との混合ガス雰囲気中であって、表1に示す酸素濃度および水蒸気濃度を有する雰囲気中で、6ヶ月間保存した(例I−1〜例I−6および例I−R1)。残りの1枚のGaN基板は、このような保存を行うことなく、GaN基板の上記作製および洗浄後、10分以内にMOCVD装置の結晶成長容器内に配置して、以下のようにして半導体デバイスを作製した(例I−S)。
【0053】
3.半導体デバイスの作製
図4および図5を参照して、上記の保存後の7枚のGaN基板(例I−1〜例I−6および例I−R1)および非保存の1枚のGaN基板(例I−S)のそれぞれを、MOCVD装置内の結晶成長容器に配置して、それぞれのGaN基板1の第1の主面1m上に、半導体層210として、厚さ5μmのn型GaN層211、厚さ3nmのIn0.2Ga0.8N層212、厚さ60nmのAl0.2Ga0.8N層213、厚さ150nmのp型GaN層214を順次成長させて、半導体ウエハ200uを得た。ここで、半導体ウエハ200uの半導体層210の主面上の点QC、点Q1、点Q2、点Q3および点Q4は、それぞれGaN基板1の第1の主面1m上の点PC、点P1、点P2、点P3および点P4における第1の主面の法線上に位置する。
【0054】
図4に示すように、半導体ウエハ200uの主面の外縁から3mm〜10mm離れた幅5mmの点Q1、点Q2、点Q3および点Q4の4つの近傍領域において、p型GaN層214の主面上に厚さ100nmのp側電極222を形成した後、GaN基板の第2の主面上に直径80μm×厚さ100nmのn側電極221を形成して、半導体デバイス200として、それぞれの近傍領域において各10個、合計40個の500μm×500μm形状のLEDを得た。こうして得られた40個のLEDについての発光強度を分光光度計により測定し、それらの平均発光強度を算出した。例I−Sの半導体デバイスの平均発光強度を1.00としたときの例I−S、例I−1〜例I−6および例I−R1の相対平均発光強度を表1にまとめた。
【0055】
【表1】

【0056】
表1を参照して、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点(たとえば、点P1、点P2、点P3および点P4)における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−0.5°以上0.5°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−0.5°以上0.5°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板の第1の主面上に少なくとも1層の半導体層が形成された半導体デバイスについて以下のことがわかった。酸素濃度が0.05体積%以上および水蒸気濃度が0.1g/m3から酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20までの範囲の雰囲気中で保存したGaN基板を用いた半導体デバイス(例I−1〜例I−6)の相対平均発光強度は、作成後非保存のGaN基板を用いた半導体デバイス(例I−S)の相対平均発光強度に対して、0.75〜1.00と高く維持されていた。
【0057】
(実施例II)
1.GaN基板の作製
実施例Iと同様にして、GaN母結晶から、複数のGaN母結晶片を切り出した。切り出されたGaN母結晶片のいずれについても、その主面の面方位は{20−21}に対するずれ傾斜角が−2°以上2°以下であった。次に、実施例Iと同様にして、複数のGaN母結晶を配置して、それらの主面上にGaN結晶をHVPE法により成長させた。GaN結晶は、Ga融液と反応してGa原料ガスであるGa塩化物ガスを生成する塩化水素ガスの分圧が3.3kPa、窒素原料ガスであるアンモニア(NH3)ガスの分圧が15.6kPa、結晶成長温度が1080℃の成長条件で、40時間成長させた。得られたGaN結晶の厚さは、5mmであった。すなわち、結晶成長速度は125μm/hrであった。次に、実施例Iと同様にして、GaN結晶から8枚のGaN基板を切り出し、それらの両主面を研削および研磨することにより、直径50.8mm×厚さ400μm、第1の主面の平均粗さRaが4.3nm、第2の主面の平均粗さRaが9.3μmであり、第1の主面上の点PC、点P1、点P2、点P3および点P4のそれぞれの点における第1の主面と{20−21}面との間のずれ傾斜角であって、<1−210>方向へのずれ傾斜角、および<20−21>方向および<1−210>方向に垂直な方向へのずれ傾斜角が、それぞれ表2で表わされる8枚のGaN基板を得た。
【0058】
2.GaN基板の保存
上記で得られた8枚のGaN基板の内、7枚のGaN基板のそれぞれについては、洗浄後、不活性ガスである窒素ガスと酸素ガスと水蒸気との混合ガス雰囲気中であって、表2に示す酸素濃度および水蒸気濃度を有する雰囲気中で、6ヶ月間保存した(例II−1〜例II−6および例II−R1)。残りの1枚のGaN基板は、このような保存を行うことなく、GaN基板の上記作製および洗浄後、10分以内にMOCVD装置の結晶成長容器内に配置して、以下のようにして半導体デバイスを作製した(例II−S)。
【0059】
3.半導体デバイスの作製
上記の保存後の7枚のGaN基板(例II−1〜例II−6および例II−R1)および非保存の1枚のGaN基板(例II−S)のそれぞれについて、実施例Iと同様にして、半導体デバイスである40個のLEDを作製した。例II−Sの半導体デバイスの平均発光強度を1.00としたときの例II−1〜例II−6および例II−R1の相対平均発光強度を表2にまとめた。
【0060】
【表2】

【0061】
表2を参照して、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点(たとえば、点P1、点P2、点P3および点P4)における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−3.0°以上3.0°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−3.0°以上3.0°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板の第1の主面上に少なくとも1層の半導体層が形成された半導体デバイスについて以下のことがわかった。酸素濃度が0.05体積%以上および水蒸気濃度が0.1g/m3から酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20までの範囲の雰囲気中で保存したGaN基板を用いた半導体デバイス(例II−1〜例II−6)の相対平均発光強度は、作成後非保存のGaN基板を用いた半導体デバイス(例II−S)の相対平均発光強度に対して、0.66〜0.97と高く維持されていた。
【0062】
(実施例III)
1.GaN基板の作製
実施例Iと同様にして、GaN母結晶から、複数のGaN母結晶片を切り出した。切り出されたGaN母結晶片のいずれについても、その主面の面方位は{20−21}に対するずれ傾斜角が−5°以上5°以下であった。次に、実施例Iと同様にして、複数のGaN母結晶を配置して、それらの主面上にGaN結晶をHVPE法により成長させた。GaN結晶は、Ga融液と反応してGa原料ガスであるGa塩化物ガスを生成する塩化水素ガスの分圧が4.3kPa、窒素原料ガスであるアンモニア(NH3)ガスの分圧が15.6kPa、結晶成長温度が1080℃の成長条件で、40時間成長させた。得られたGaN結晶の厚さは、6mmであった。すなわち、結晶成長速度は150μm/hrであった。次に、実施例Iと同様にして、GaN結晶から8枚のGaN基板を切り出し、それらの両主面を研削および研磨することにより、直径50.8mm×厚さ400μm、第1の主面の平均粗さRaが2.3nm、第2の主面の平均粗さRaが3.1μmであり、第1の主面上の点PC、点P1、点P2、点P3および点P4のそれぞれの点における第1の主面と{20−21}面との間のずれ傾斜角であって、<1−210>方向へのずれ傾斜角、および<20−21>方向および<1−210>方向に垂直な方向へのずれ傾斜角が、それぞれ表3で表わされる8枚のGaN基板を得た。
【0063】
2.GaN基板の保存
上記で得られた8枚のGaN基板の内、7枚のGaN基板のそれぞれについては、洗浄後、不活性ガスである窒素ガスと酸素ガスと水蒸気との混合ガス雰囲気中であって、表3に示す酸素濃度および水蒸気濃度を有する雰囲気中で、6ヶ月間保存した(例III−1〜例III−6および例III−R1)。残りの1枚のGaN基板は、このような保存を行うことなく、GaN基板の上記作製および洗浄後、10分以内にMOCVD装置の結晶成長容器内に配置して、以下のようにして半導体デバイスを作製した(例III−S)。
【0064】
3.半導体デバイスの作製
上記の保存後の7枚のGaN基板(例III−1〜例III−6および例III−R1)および非保存の1枚のGaN基板(例III−S)のそれぞれについて、実施例Iと同様にして、半導体デバイスである40個のLEDを作製した。例III−Sの半導体デバイスの平均発光強度を1.00としたときの例III−1〜例III−6および例III−R1の相対平均発光強度を表3にまとめた。
【0065】
【表3】

【0066】
表3を参照して、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点(たとえば、点P1、点P2、点P3および点P4)における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−6.0°以上6.0°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−6.0°以上6.0°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板の第1の主面上に少なくとも1層の半導体層が形成された半導体デバイスについて以下のことがわかった。酸素濃度が0.05体積%以上および水蒸気濃度が0.1g/m3から酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20までの範囲の雰囲気中で保存したGaN基板を用いた半導体デバイス(例III−1〜例III−6)の相対平均発光強度は、作成後非保存のGaN基板を用いた半導体デバイス(例III−S)の相対平均発光強度に対して、0.59〜0.95と高く維持されていた。
【0067】
(実施例IV)
1.GaN基板の作製
実施例Iと同様にして、GaN母結晶から、複数のGaN母結晶片を切り出した。切り出されたGaN母結晶片のいずれについても、その主面の面方位は{20−21}に対するずれ傾斜角が−9°以上9°以下であった。次に、実施例Iと同様にして、複数のGaN母結晶を配置して、それらの主面上にGaN結晶をHVPE法により成長させた。GaN結晶は、Ga融液と反応してGa原料ガスであるGa塩化物ガスを生成する塩化水素ガスの分圧が6.4kPa、窒素原料ガスであるアンモニア(NH3)ガスの分圧が15.6kPa、結晶成長温度が1080℃の成長条件で、40時間成長させた。得られたGaN結晶の厚さは、8mmであった。すなわち、結晶成長速度は200μm/hrであった。次に、実施例Iと同様にして、GaN結晶から8枚のGaN基板を切り出し、それらの両主面を研削および研磨することにより、直径50.8mm×厚さ400μm、第1の主面の平均粗さRaが0.6nm、第2の主面の平均粗さRaが0.8μmであり、第1の主面上の点PC、点P1、点P2、点P3および点P4のそれぞれの点における第1の主面と{20−21}面との間のずれ傾斜角であって、<1−210>方向へのずれ傾斜角、および<20−21>方向および<1−210>方向に垂直な方向へのずれ傾斜角が、それぞれ表4で表わされる8枚のGaN基板を得た。
【0068】
2.GaN基板の保存
上記で得られた8枚のGaN基板の内、7枚のGaN基板のそれぞれについては、洗浄後、不活性ガスである窒素ガスと酸素ガスと水蒸気との混合ガス雰囲気中であって、表4に示す酸素濃度および水蒸気濃度を有する雰囲気中で、6ヶ月間保存した(例IV−1〜例IV−6および例IV−R1)。残りの1枚のGaN基板は、このような保存を行うことなく、GaN基板の上記作製および洗浄後、10分以内にMOCVD装置の結晶成長容器内に配置して、以下のようにして半導体デバイスを作製した(例IV−S)。
【0069】
3.半導体デバイスの作製
上記の保存後の7枚のGaN基板(例IV−1〜例IV−6および例IV−R1)および非保存の1枚のGaN基板(例IV−S)のそれぞれについて、実施例Iと同様にして、半導体デバイスである40個のLEDを作製した。例IV−Sの半導体デバイスの平均発光強度を1.00としたときの例IV−1〜例IV−6および例IV−R1の相対平均発光強度を表4にまとめた。
【0070】
【表4】

【0071】
表4を参照して、第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点(たとえば、点P1、点P2、点P3および点P4)における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−10.0°以上10.0°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−10.0°以上10.0°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板の第1の主面上に少なくとも1層の半導体層が形成された半導体デバイスについて以下のことがわかった。酸素濃度が0.05体積%以上および水蒸気濃度が0.1g/m3から酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20までの範囲の雰囲気中で保存したGaN基板を用いた半導体デバイス(例IV−1〜例IV−6)の相対平均発光強度は、作成後非保存のGaN基板を用いた半導体デバイス(例IV−S)の相対平均発光強度に対して、0.51〜0.90と高く維持されていた。
【0072】
なお、上記の実施例I〜実施例IVにおいては、保存期間をいずれも6ヶ月としたが、保存期間が6ヶ月未満であっても6ヶ月以上であっても得られる効果が変わらないことを確認した。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 GaN基板、1a 結晶面、1c (0001)面または(000−1)面、1m,1n,100pm,100qm,110pm 主面、10 保存装置、20 ガス導入管、23,43 ガス、29 ガス導入弁、31 脱酸素剤、32 脱水剤、40 ガス排出管、49 ガス排出弁、100 GaN母結晶、100p,100q GaN母結晶片、100pt,100qt 側面、110,120 GaN結晶、110p,110q,120p,120q 部分領域、110s GaN下地基板、110t,120t 伸長面、110u,110v,120u,120v 平行な面、200 半導体デバイス、200u 半導体ウエハ、210 半導体層、211 n型GaN層、212 In0.2Ga0.8N層、213 Al0.2Ga0.8N層、214 p型GaN層、221 n側電極、222 p側電極、230 発光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な第1の主面を有し、前記第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、前記任意の点における(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面の面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板を、酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存するGaN基板の保存方法。
【請求項2】
前記酸素濃度が10体積%以下および前記水蒸気濃度が15g/m3以下である請求項1に記載のGaN基板の保存方法。
【請求項3】
前記酸素濃度が6体積%以下および前記水蒸気濃度が5g/m3以下である請求項1に記載のGaN基板の保存方法。
【請求項4】
前記雰囲気は、不活性ガスと酸素ガスと水蒸気とを含む混合ガスにより形成され、前記酸素濃度が0.05体積%以上および前記水蒸気濃度が0.1g/m3以上である請求項1から請求項3のいずれかに記載のGaN基板の保存方法。
【請求項5】
前記第1の主面の平均粗さRaが20nm以下であり、第2の主面の平均粗さRaが20μm以下である請求項1から請求項4までのいずれかに記載のGaN基板の保存方法。
【請求項6】
前記第1の主面の平均粗さRaが5nm以下であり、前記第2の主面の平均粗さRaが10μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のGaN基板の保存方法。
【請求項7】
前記任意に特定される結晶面の面方位が{20−21}である請求項1から請求項6までのいずれかに記載のGaN基板の保存方法。
【請求項8】
前記第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−10°以上10°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有する請求項7に記載のGaN基板の保存方法。
【請求項9】
前記第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−3°以上3°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−3°以上3°以下のずれ傾斜角を有する請求項7に記載のGaN基板の保存方法。
【請求項10】
前記第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、{20−21}に対して、<1−210>方向に−0.5°以上0.5°以下で、<20−21>方向および<1−210>方向に対して垂直な方向に−0.5°以上0.5°以下のずれ傾斜角を有する請求項7に記載のGaN基板の保存方法。
【請求項11】
酸素濃度が15体積%以下および水蒸気濃度が20g/m3以下の雰囲気中で保存された、平坦な第1の主面を有し、前記第1の主面上でその外縁から3mm以上離れた任意の点における面方位が、前記任意の点における(0001)面または(000−1)面に対して50°以上90°以下で傾斜している任意に特定される結晶面の面方位に対して、−10°以上10°以下のずれ傾斜角を有するGaN基板。
【請求項12】
請求項11のGaN基板と、前記GaN基板の前記第1の主面上に形成された少なくとも1層の半導体層と、を含む半導体デバイス。
【請求項13】
請求項11のGaN基板を準備する工程と、前記GaN基板の前記第1の主面上に少なくとも1層の半導体層を成長させる工程と、を含む半導体デバイスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−77309(P2011−77309A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227437(P2009−227437)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年 7月17日 社団法人応用物理学会 「Applied Physics Express 2(2009)082101」http://apex.ipap.jp/journal/APEX−2−8.html を通じて発表 平成21年 8月20日 日刊工業新聞社発行 「日刊工業新聞 平成21年8月20日付」に発表 平成21年 8月21日 社団法人応用物理学会 「Applied Physics Express 2(2009)092101」http://apex.ipap.jp/journal/APEX−2−9.html を通じて発表 2009年 8月24日 日経BP社発行 「日経エレクトロニクス 8月24日号」に発表
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】