説明

アルカリ剥離液の再生装置および方法

【課題】アミン系剥離液使用により蓄積するレジスト樹脂、炭酸アンモニウム塩、溶解金属を連続的に除去し、剥離液の再生装置、方法を提供する。
【解決手段】剥離装置1内で循環する使用済み剥離液2を配管経路3を通じて電解槽4の陽極ドラム5およびカチオン交換膜6間に導入する。一方で電解槽4には陽極ドラム5に対向する陰極7が、カチオン交換膜6を介して設置されており、陰極7は再生済みの剥離液8によって満たされている。陽極と陰極間の電気伝導は陽イオンの移動による電気伝導が可能となっているので電気的には隔離されていない。陽極ドラム5及び陰極には、電気給手段として電源9が接続されている。陰極及び陽極間に直流電流を通電することで、使用済み剥離液に含まれるレジスト樹脂を陽極ドラム5の表面上に電着でき、剥離液中からレジスト樹脂を除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線基板あるいは半導体パッケージ基板などの製造工程で用いられるフォトレジスト層のアルカリ剥離液の再生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器の高機能化、小型・薄型化に伴い、電子部品の高密度実装化が急速に進展しつつある。これらを受けてプリント配線板、半導体パッケージ基板においては配線の微細化による配線の高密度化の要求が年々高まっている。
【0003】
プリント配線板、半導体パッケージ基板の製造方法として主にサブトラクティブ法とセミアディティブ法の2つの方法があり、一般的にセミアディティブ法が微細配線形成に有利となっている。
【0004】
セミアディティブ法による配線形成方法の一部を例をもって説明すると、絶縁樹脂基板上に0.3〜3μmt程度の薄い給電層を無電解めっきにより形成し、給電層上にフォトレジスト層を形成した後に、所望の回路パターンが描画されているマスクを介して紫外線露光することによって、配線回路を形成すべき部分の給電層が露出し、形成しない部分はフォトレジスト皮膜によって被覆されたレジストパターンを形成する。さらに給電層に電流を印加し、フォトレジストパターンを型とすることにより、配線回路を電解めっきにより形成し、フォトレジストパターンをアルカリ剥離液にて除去し、給電層をエッチング除去することによって配線回路を形成する。
【0005】
セミアディティブ法で適用されるフォトレジストは、ドライフィルムレジストを用いることが一般的で広く適用されている。ドライフィルムレジストはアクリル酸あるいはメタクリル酸を構成単位とする酸性ポリマー(以下バインダーという)を主成分とし、さらにアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルモノマー、光ラジカル重合開始剤を含有する。フォトレジスト層のパターニング原理は、紫外線露光によりモノマー同士がラジカル重合することによって架橋硬化し、現像液に対して不溶化することを利用しているネガ型レジストである。その後の剥離工程では、必然的にモノマー同士が三次元架橋した部分を除去することになるので、レジストパターンは剥離液に対して溶解することができない。ドライフィルムレジストの剥離方法は、剥離液である熱アルカリ水溶液とレジスト樹脂バインダー中のカルボキシル基との中和反応により、カルボン酸塩に変換されイオン化することによる親水性増加と、それに伴うレジスト樹脂の膨潤・体積膨張を利用した膨潤剥離である。ドライフィルムレジストの剥離液は、苛性ソーダ、あるいは有機アミンの熱アルカリ性水溶液を用いることが一般的ある。
【0006】
剥離液は安価な1〜5重量%の苛性ソーダを用いることが多いが、近年配線の微細化によって配線ピッチが細かくなり、狭ピッチ配線間に挟まれたドライフィルムレジストを膨潤剥離することが困難となってきている。そこで苛性ソーダよりもレジスト層への浸透性が良く、剥離性が良好な有機アミン系剥離液を用いることが多くなってきた。
【0007】
しかしながら有機アミン系剥離液の価格は苛性ソーダと比較して高価で廃液コストも高い。さらに有機アミン廃液の増加は環境負荷の観点からも問題となっていた。有機アミン系剥離液においては再生による連続使用が望まれていた。
【0008】
アミン系剥離液は上述の適応例のみならず、アルカリエッチング工法用のレジスト剥離液、金めっき用レジスト等の難剥離性レジストの剥離、あるいは半導体プロセス、フラッ
トパネルディスプレイモジュールの製造と幅広く用いられている。よって効率的且つ安価な剥離液の再生システムがあればその適応範囲は広い。
【0009】
有機アミン系剥離液は特許文献1〜4に見られるように、アルカリ成分として水酸化4級アルキルアンモニウム塩、アルカノールアミン類を用いることが一般的である。剥離処理数の増加に伴い、剥離液中にレジスト樹脂が蓄積してくる。さらには空気中の炭酸ガスの吸収による炭酸アンモニウム塩の増加、基板の銅配線層がアンミン銅錯体として溶解・蓄積することによっても剥離性が低下してくる。この問題を解決する試みとして特許文献5に剥離液性分を蒸発分離する試みがなされているが、この方法では蒸発分離に使う熱量が必然的に多くなるためランニングコストが高くなってしまう。さらに本文献による方法では熱によるアミンの変性が懸念され、さらに水酸化4級アンモニウム塩には蒸発分離の適応は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−215736号
【特許文献2】特開2002−62668号
【特許文献3】特開2006−171357号
【特許文献4】特開2006−317714号
【特許文献5】特許第3409005号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は従来技術の課題を解決するためになされたものであり、アミン系剥離液使用により蓄積するレジスト樹脂、炭酸アンモニウム塩、溶解金属を連続的に除去し、剥離液の再生使用を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、レジスト樹脂、炭酸塩、金属イオンの何れかを含む使用済みの有機アミン含有のアルカリ剥離液を再生する装置であって、アルカリ剥離液中に浸漬される陰極、陽極の両電極及び両電極に電気的に接続される直流電源からなり、両電極間に直流電流を流すことによって、アルカリ剥離液中のレジスト樹脂を陽極に電着捕捉することによって除去し、且つ陽極にて水の電解により発生する酸により炭酸塩を中和し、炭酸を気化することによって除去し、金属イオンを陰極にて電析回収することによって、使用済みのアルカリ剥離液を再生することを特徴とするアルカリ剥離液の再生装置である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、レジスト樹脂、炭酸塩、金属イオンの何れかを含む使用済みの有機アミン含有のアルカリ剥離液を再生する方法であって、アルカリ剥離液中に浸漬される陰極、陽極の両電極及び両電極に電気的に接続される直流電源からなり、両電極間に直流電流を流すことによって、剥離液中のレジスト樹脂を陽極に電着捕捉することによって除去し、且つ陽極にて水の電解により発生する酸により炭酸塩を中和し、炭酸を気化することによって除去し、金属イオンを陰極にて電析回収することによって、使用済みのアルカリ剥離液を再生することを特徴とするアルカリ剥離液を用いる再生方法である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、レジスト樹脂を電着捕捉する陽極の形状が円筒あるいは円盤型であり、陽極はアルカリ剥離液再生中に円筒あるいは円盤の円中心を軸として回転する機構を有しており、円筒あるいは円盤型電極には使用済みのアルカリ剥離液と接触する部分と接触しない部分とを有し、接触する部分でアルカリ剥離液中のレジスト樹脂を電着回収し、接触していない部分で陽極上に電着付着したレジスト樹脂を除去することによってアルカリ剥離液を連続的に再生することを特徴とする請求項第1項に記載するアルカリ剥
離液の再生連続装置である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、レジスト樹脂を電着捕捉する陽極の形状が円筒あるいは円盤型であり、陽極はアルカリ剥離液再生中に円筒あるいは円盤の円中心を軸として回転する機構を有しており、円筒あるいは円盤型電極には使用済みのアルカリ剥離液と接触する部分と接触しない部分とを有し、接触する部分でアルカリ剥離液中のレジスト樹脂を電着回収し、接触していない部分で陽極上に電着付着したレジスト樹脂を除去することによってアルカリ剥離液を連続的に再生することを特徴とする請求項第2項に記載する再生方法である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、限外ろ過フィルタ、アニオン交換樹脂充填カラムにアルカリ剥離液を通液する設備を有することを特徴とする請求項第1項または第3項に記載するアルカリ剥離液の再生装置である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、使用済みのアルカリ剥離液に浸漬設置される陽極と陰極間とをカチオン交換膜により空間的に分断されていて、且つ電気的に分断されていない電解分離装置を有することを特徴とする請求項第1項、第3項または第5項のいずれかに記載するアルカリ剥離液の再生装置である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、再生に用いられるアルカリ剥離液に含有するレジスト樹脂がアクリル樹脂であり、金属イオンが銅である剥離液を再生することを特徴とする請求項第1項、第3項、第5項または第6項のいずれかに記載するアルカリ剥離液の再生装置である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、再生に用いられるアルカリ剥離液に含有するレジスト樹脂がアクリル樹脂であり、金属イオンが銅である剥離液を再生することを特徴とする請求項第2項または第4項に記載する、もしくは第5項、第6項または第7項のいずれかに記載されるアルカリ剥離液の再生装置を用いるアルカリ剥離液の再生方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、使用済みのアルカリ剥離液より不要成分であるレジスト樹脂、炭酸塩、金属イオンを連続的に除去することによって、アルカリ剥離液の連続再生・使用することができる。本発明により、高価であるアミン系剥離液の使用量を削減できるとともに、廃液コストを低減することが可能で環境負荷を大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】剥離液再生装置の模式図
【図2】剥離液再生装置の電極反応の模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によるアルカリ剥離液の再生装置の実施の形態を図を持って説明する。本発明によるアルカリ剥離液の再生装置は使用済みの有機アミン系剥離液を対象とする。苛性ソーダ等の無機系アルカリ剥離液にも適応できなくは無いが、苛性ソーダの場合は安価であるので再生使用する場合コストメリットを出しにくい。よってアミン系剥離液への適応が望ましい。本発明を適用することができるアミン系剥離液のアミンは、アンモニア、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、アミノエトキシエタノール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、コリン、モルホリン、1−アミノ−2−プロパノール、ジエチルエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンに適応でき
る。さらに4級アンモニウム塩であれば、テトラエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、N、N、N−トリエチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、N、N−ジエチル−N、N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムの水酸化物を用いることができる。これら有機アミンは本発明により限定されるものではない。図1に本発明の1例を示す。
【0023】
図1は本発明の一部であり、本発明によるアルカリ剥離液の再生装置は図1に限定されるものではない。図1を用いて本発明について説明する。剥離装置1内で循環する使用済み剥離液2を配管経路3を通じて本発明による電解槽4の陽極ドラム5およびカチオン交換膜6間に導入する。一方で電解槽4には陽極ドラム5に対向する陰極7が、カチオン交換膜6を介して設置されており、陰極7は再生済みの剥離液8によって満たされている。カチオン交換膜6によって両電極液は隔てられているので剥離液2‘と再生済みの剥離液とは直接混和することはない。しかし陽極と陰極間の電気伝導は陽イオンの移動による電気伝導が可能となっているので電気的には隔離されていない。陽極ドラム5及び陰極には、電気給手段として電源9が接続されている。陰極及び陽極間に直流電流を通電することで、使用済み剥離液に含まれるレジスト樹脂を陽極ドラム5の表面上に電着することによって剥離液中からレジスト樹脂を除去することが出来る。
【0024】
本発明で用いる電源9は直流あるいはDCパルス電源であることが望ましい。交流電源である場合、陽極ドラム上に溶解したレジスト樹脂を回収できない可能性がある。印加電圧は少なくとも水の電解電位0.83V以上であることが望ましい。水の電解電位以下である場合、陽極ドラム上にレジスト樹脂を電着することが不可能である。通電する電流密度は0.1A/m以上であることが望ましい。0.1A/dm以下である実質的な処理速度で使用済剥離液を処理できない可能性がある。さらに作業安全上と電源装置のコスト的観点より、40A/dm以下であることが望ましい。
【0025】
本発明によるアルカリ剥離液中のレジスト樹脂の電着機構について図2をもって説明する。本発明で再生される剥離液中のレジスト樹脂は、アクリル樹脂よりなる。先ずは剥離液中の水の電気分解によって、陽極表面では酸素発生を伴いながら、強酸であるプロトンが生成する。剥離液中のレジスト樹脂は、樹脂中のカルボキシル基と剥離液中のアミンとの中和反応によってカルボン酸アミン塩のイオン性化合物となって剥離液中に浮遊あるいは溶解している状態にある。水の電解によって発生した強酸であるプロトンによりレジスト樹脂アミン塩が中和され、共役酸であるアンモニウムイオンを放出しながらカルボキシル基の再生によるレジスト樹脂析出すなわち陽極上へのレジスト樹脂の電着が起こる(化1)。これによって浮遊あるいは溶解していたレジスト樹脂を剥離液中より除去することが可能となる。さらにアンモニウムイオンはカチオン交換膜6を通り、陰極液8に分配される。
(化1)
(1)Poly−COONHR+H→Poly−COOH(析出)+NHR(2)Poly−COONR’+H→Poly−COOH(析出)+NR’(1)はレジスト樹脂1〜3級アンモニウム塩の強酸による析出反応である。Rは窒素原子に結合した置換基あるいは水素原子を示す。窒素原子に結合した3つのRは互いに独立に異なる置換基であってもよい。(2)はレジスト樹脂の四級アンモニウム塩の強酸による析出反応である。R’は窒素原子に結合した水素原子以外の置換基を示す。窒素原子に結合した4つのR’は互いに独立に異なる置換基であってもよい。Poly−レジスト樹脂主鎖、−COO、−COOHレジスト樹脂中のカルボキシル基およびアニオンを示す。
【0026】
本発明によるアミン剥離液の再生装置によれば、陽極ドラム5は円筒軸を中心に回転し、液中浸漬部にて溶解あるいは浮遊するレジスト樹脂を電着しつつ、電極ドラム5上に電着された樹脂はドクターブレード10によってかき取ることによって剥離液2’中に溶解したレジスト樹脂を回収することが出来る。電極ドラム材料であるが、導電性があり且つ表面が腐食あるいは溶解あるいは陽極酸化が起こらない化学的、電気化学的に不活性であり且つドクターブレードに対して耐擦傷性がある材料であればよく、例えば不溶性電極であれば、酸化イリジウム電極、イリジウム-白金電極、チタン-白金電極、ルテニウム電極、鉛電極、鉛−チタン電極、二酸化鉛電極が上げられる。耐食性ステンレスではSUS304、SUS304L、SUS304LN、SUS309S、SUS316、SUS316L、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317J1、SUS317J2、SUS317J3L、SUSXM15J1、SUS329J3L、SUS329J4L等上げられる。貴金属を用いるとコスト高であるので、導電性のロールに貴金属めっきを施したものを用いてもよい。これらにより本発明が限定されることはない。電極ドラム5の形状であるが、回転軸に対して任意のすべての回転角で回転対照性であればよく、円盤状あるいは円盤状電極を円盤の回転軸で連結した形状であってもよい。さらに球形であってもよい。好ましくは円筒状のロールが複雑でなくて望ましい。さらにドクターブレードの材質、形状は本発明によって限定されるものではなく、一般的なドクターブレードを用いることが出来る。
【0027】
アミン系アルカリ剥離液は操業とともに空気中の炭酸ガスが溶解し、アミンの一部は炭酸塩に変換・蓄積する(化2)。炭酸塩濃度の上昇によってもレジスト剥離性が低下してくる為、剥離液再生には炭酸塩の除去も重要となる。
(化2)
(1)2NR+CO+HO→(NHRCO
(2)2NR’OH+CO+HO→(NR’CO
1)は1〜3級アミンと炭酸ガスとの反応である。Rは窒素原子に結合した置換基あるいは水素原子を示す。窒素原子に結合した3つのRは互いに独立に異なる置換基であってもよい。(2)は水酸化四級アンモニウムと炭酸ガスとの反応である。R’は窒素原子に結合した水素原子以外の置換基を示す。窒素原子に結合した3つのR’は互いに独立に異なる置換基であってもよい。
【0028】
本発明のアルカリ剥離液の再生装置によれば、電極ドラム5表面で水の電解によって発生したプロトンによって、炭酸イオンを炭酸ガスとして液中より除去することが可能である(図2)及び(化3)。電極ドラム5表面付近では強酸性雰囲気となる為、炭酸ガスは炭酸イオンあるいは炭酸水素イオンとして溶解することが出来ない。よって炭酸ガスとして液中より放出することができる。対イオンであるのアンモニウムイオンはカチオン交換膜6を通って陰極の電極液8中に泳動・分離することが出来る(化3)。
(化3)
CO2−+2H→HCO+H→↑CO+H
【0029】
レジスト樹脂の電着により、中和放出されたアンモニウムイオン(化1)あるいは炭酸塩由来のアンモニウムイオン(化2)はカチオン交換膜を通り、陰極7に泳動し、電極液8に分配される(図2)。陰極近傍では水の電気分解による水素発生を伴いながら、水酸化物イオンが発生するので強塩基性雰囲気であり、この水酸化物イオンによってアミンあるいは水酸化アンモニウムの再生が完了する。
(化4)
(1)NHR+OH→NR+H
(2)NR’++OH→NR’OH
(1)は1〜3級アンモニウム塩の水酸化物イオンによる再生を示す。Rは窒素原子に結合した置換基あるいは水素原子を示す。窒素原子に結合した3つのRは互いに独立に異なる置換基であってもよい。(2)は四級アンモニウム塩の水酸化物イオンによる再生である。R’は窒素原子に結合した素原子以外の置換基を示す。窒素原子に結合した3つのR
’は互いに独立に異なる置換基であってもよい。
【0030】
本発明によれば、使用済みの未処理の剥離液である陽極液と再生済みの剥離液である陰極液とをカチオン交換膜によって隔離し、混和を回避することで効率のよい再生を可能にしている。本発明で適応可能なカチオン交換膜は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スルホン化ポリスチレン、スルホン化テトラフルオロエチレン、スルホン化ポリフッ化ビニリデン等があげられる。好ましくはスルホン化ポリスチレンであることが安価であることから望ましい。尚、これらは本発明により限定されるものでない。
【0031】
処理基板の銅配線層がアミンとの反応によって生成するアンミン銅錯体は、陰極側での銅還元析出によって除去することが可能である。(化4)に3級アミンのテトラアンミン銅イオンを例にとって説明する。2価のテトラアンミン銅錯体が2電子還元を受けて銅が電析し、フリーアミンの再生が可能になる。
(化5)
Cu(II)(NR2++2e→Cu(O)+4NR
【0032】
本発明によるレジスト樹脂が電着除去された剥離液2’は電解槽4から配管経路11をオーバーフローしてサブタンク12に送液される。サブタンク12にはフロートスイッチ13が設置されており、ある一定以上の水位になったときにシーケンサー14に信号を送りポンプ14が作動してサブタンク12内の剥離液2’を送液する。ある一定以下になったとき、フロートスイッチ13’とシーケンサーによりポンプ14がオフになる。剥離液2’はフィルタ15を通ることによって、剥離液中の比較的大きなレジスト樹脂浮遊物を除去することが可能となる。図1記載の本発明による再生装置の模式図では、フィルタ15は単体で用いた例を示してあるが、目の粗いものから細かいものまでを連結して用いてもよい。さらにろ過面積を増やすべく並列に連結してもよい。フィルタの配置方法について本発明によって限定されない。用いるフィルターメッシュは0.5μm以上、100μm以下であることが望ましい。100μm以上であると剥離液2’中に浮遊するレジスト樹脂を取り除くことが困難となり、その後の限外ろ過ユニット16でつまりを起こす可能性がる。0.5μmより小さい場合、ろ過が遅くなってしまうのみならず目詰まりを起こす危険性がある。
【0033】
フィルター15によって剥離液2’中の比較的大きなレジスト樹脂の浮遊物をろ過した後に、限外ろ過16によってさらに剥離液中のレジスト樹脂を除去する。限外ろ過では、剥離液中にエマルジョン化して分散するレジスト樹脂を除去することが可能である。エマルジョン化したレジスト樹脂は限外ろ過によって濃縮され、バルブ17を開放することによってドレイン18より系外へと排出することが出来る。
【0034】
限外ろ過16はろ過膜の構造から、中空糸円筒型、シート型、スパイラル型、チューブラー型、回転平模型型などがあげられるが、中空糸円筒型がろ過面積を大きくすることが出来るので、中空糸円筒型限外ろ過モジュールであることが望ましい。中空糸円筒型限外ろ過モジュールは、中空糸外側より懸濁液を加圧し、中空糸内側からろ液を採取する外圧式と中空糸内側から懸濁液を加圧し、ろ液を外側から採取する内圧式何れであっても適応できる。限外ろ過の膜材質は酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンなどがあげられる。本発明で使用される限外ろ過の膜材質はポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン樹脂であることが望ましい。さらにポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンであることが耐アルカリ性を確保できることからより望ましい。限外ろ過膜の区画分子量は1000〜20000の範囲であることが望ましい。1000以下である場合、実質的な処理速度が得られない場合があり、その場合は並列に多重連結する必要がありコスト高になってしまう。20000以上である場合、エマルジョン化したレジスト樹脂成分を有効に除去できない可能性がある。限外ろ過モジュー
ルは単体であっても複数本用いてもよい。さらに図1には記載していないが、限外ろ過膜の洗浄ユニット(逆洗、薬液洗浄)本発明の再生装置に組み込んでもよくメンテナンス性が良いため望ましい。
【0035】
限外ろ過16後のろ液はアニオン交換樹脂カラム17を通ることにより、限外ろ過16で除去しきれないレジスト樹脂溶解成分あるいは低分子量物を除去する。溶解するレジスト樹脂は多価カルボキシルアニオンのアンモニウム塩として溶解しているので、アニオン交換樹脂により交換除去することが出来る(化6)。
(化6)
(1)Poly−COONHR+AXR−N(CHOH→AXR−N(CHPoly−COO+NR+H
(2)Poly−COONR’+AXR−N(CHOH→AXR−N(CHPoly−COO+NROH
(1)はレジスト樹脂1〜3級アンモニウム塩と強塩基性アニオン交換樹脂との交換反応例である。Rは窒素原子に結合した置換基あるいは水素原子を示す。窒素原子に結合した3つのRは互いに独立に異なる置換基であってもよい。(2)はレジスト樹脂の四級アンモニウム塩と強塩基性アニオン交換樹脂との交換反応例である。R’は窒素原子に結合した水素原子以外の置換基を示す。窒素原子に結合した3つのR’は互いに独立に異なる置換基であってもよい。(1)および(2)中AXRはイオン交換樹脂のポリマーマトリクスを示し、Poly−レジスト樹脂主鎖、−COO、−COOHレジスト樹脂中のカルボキシル基およびアニオンを示す。
【0036】
本発明で使用するアニオン交換樹脂は強塩基性アニオン交換樹脂であることが望ましい。強塩基性アニオン交換樹脂としては一般的なジビニルベンゼン架橋ポリスチレンをベースにイオン交換基としてトリメチルアンモニウム、ジメチルエタノールアンモニウム基を持つものが一般的にあげられ、これらを用いることが出来る。弱塩基性アニオン交換樹脂である場合、溶解するレジスト樹脂がテトラメチルアンモニウム塩である場合にレジスト樹脂アニオンを交換することが困難となる。アニオン交換樹脂カラムは交換容量があるため、定期的に交換あるいは再生することが望ましい。よってアニオン交換樹脂カラムの洗浄(NaOH洗浄による再生)モジュールを本発明の再生装置に組み込んでもよくメンテナンス性が向上するためむしろ望ましい。
【0037】
アニオン交換樹脂カラムを通った再生済み剥離液8は配管経路19を通り電解槽4の陰極液に送液される。陰極側には剥離液の有効成分であるアミンが電解再生によってカチオン交換膜を通過して濃縮されている状態にあるので、再生済みの剥離液8によって希釈され再生が完了する。再生された剥離液は配管経路20を通り剥離槽1に再び供給される。
【0038】
本発明のアルカリ剥離液の再生装置によればラインを休止することなく、操業により蓄積し、剥離性能を低下させる原因であるレジスト樹脂、炭酸塩、銅アンミン錯体を連続的に除去することが可能となる。図1を用いては本発明の剥離液再生装置を説明したが、図1は本発明の一例を模式的に図示したものであり、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
次に本発明によるアルカリ剥離液再生装置の実施の1例を図1を持って説明する。スプレー剥離装置に連結してある剥離槽1に建浴濃度でモノエタノールアミン5Wt%、水酸化テトラメチルアンモニウム1Wt%の混合水溶液である剥離液を300L作製した。スプレー剥離装置にてドライフィルムレジストUFG−255(商品名:旭化成イーマテリアルズ社製)を全面に貼り付けた基板を露光し、露光後の基板を剥離処理しながら3日間操業した。比較的大きな剥離片はスプレー剥離装置に設置して有る400メッシュのステンレス製の網によって捕手回収される。剥離処理を行うことによって剥離槽1に使用済み
の剥離液を作製した。使用済み液の分析結果を表1に記載する。成分分析手順は以下より定量した。
【0040】
(1)レジスト溶解量の測定
使用済み剥離液2を10mlを蒸発皿に採取し、200℃、1時加熱することによって加熱残分の重量測定によって求めた。尚この温度では水酸化テトラメチルアンモニウムおよびモノエタノールアミンは蒸発する。加熱残分をさらにテトラヒドロフラン中に溶解し、水酸化ナトリウムにて中和、電位差滴定により溶解したレジストの酸分を定量する。
【0041】
(2)炭酸塩濃度測定
炭酸塩濃度の定量は、使用済剥離液に対して大過剰の硫酸水溶液に加えて発生する炭酸ガスを蒸留し、水酸化バリウム水溶液に通気捕手し炭酸バリウムとして沈殿させた後に塩酸標準溶液にて逆滴定することによって求めた。
【0042】
(3)銅イオン濃度の測定
銅イオン濃度は酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液中でEDTA標準液にてキレート滴定して求めた。キレート滴定指示薬はMX試薬を用いた。
【0043】
(4)有効アミン濃度の算出
水酸化テトラメチルアンモニウムとモノエタノールアミンの量は陽イオン交換クロマトグラフィーにて液中の全アミン濃度を定量した。全アミン濃度とは、水酸化テトラメチルアンモニウムとモノエタノールアミンとの総量であり、炭酸塩およびアンミン錯体およびレジスト樹脂のアクリル酸アミン塩分を含む。有効アミン濃度をA[mol/L]とし、(1)の中和滴定にて求めた酸濃度をa[mol/L]、(2)炭酸濃度をb[mol/L]、(3)で求めた銅イオン濃度をc[mol/L]とすると、有効アミン濃度Aは(式1)より求めることができる。
(式1)有効アミン濃度A=全アミン濃度−2b−4c
【0044】
尚この式においては溶解したレジストは全てカルボン酸アミン塩として存在していること、全て炭酸はアミン炭酸塩として存在していること、銅はアミンと1対4で配位していることを前提に算出している。
【0045】
図1の本発明のアルカリ剥離液再生装置に20L/minの流量で使用済み剥離液2を電解層4の陽極ドラム-アニオン交換膜間に導き3時間再生装置に循環させることによって再生処理を行った。電極ドラム5は直径400mm、長さ500mmの円筒形のSUS316を母材とし、表面にイリジウム白金処理をして用いた。アニオン交換膜はネオセプタCMB(商品名、株式会社アストム製)を円弧状に加工した塩ビ製の多孔板二枚でゴムパッキンを用いて挟みこみ槽内に設置した。陽極7は板厚O.8mmのSUS304を円弧状に加工して図1のように設置した。電源装置はPWR−160OM(商品名、菊水電子製)を用いて、15A/dm2で定電流電解した。電極ドラムは10rpmで回転し、SUS304製のドクターブレードによって電析したレジスト樹脂を回収した。レジスト回収後の液をフィルタ15としてCUNOTMマイクロ・ワインドTMIIフィルターカートリッジフィルタ(商品名、3M製)50μm、5μm、O.5μmを直列に連結したフィルターユニットとし、さらに限外ろ過装置16はYHF−0430−E−W(商品名、ユアサメンブレンシステム製)を2本並列連結し用いた。アニオン交換樹脂カラムは容量10Lのカラムを2本並列に連結したユニットを作成し、強塩基性陰イオン交換樹脂としてアンバーライトIRA400J(商品名、オルガノ製)を総量20L充填した。本発明による再生処理に当り、交換アニオンである塩化物イオンを水酸化ナトリウム水溶液にて洗浄することで交換アニオンを水酸化物イオンとしてから用いた。使用済み剥離液を3時間再生後、先と同様な手法によって各種成分濃度を定量した。結果を(表1)に記載する。
【0046】
【表1】

炭酸濃度はCO換算。
N、D、は検出限界以下。
【0047】
建浴直後の濃度では0.928mol/Lの有効アミン濃度があったが、操業により空気中の炭酸ガスおよびレジスト樹脂の溶解と基材からの銅の溶出に伴い、有効アミン濃度の減少が確認できる。3時間再生後ではほぼ全ての不要な成分が除去できている。さらに有効アミン濃度が建浴直後に近い値となっている。再生効率は94.6%に達し、3日間操業分が3時間の再生により完了することができた。よって連続再生にも十分耐えうることが確認され、アミン剥離液中の不要成分を効率的且つ連続的に再生処理することが可能となった。
【0048】
(産業上利用の可能性)以上説明したように、本発明による有機アミン系アルカリ剥離液の再生装置によれば、剥離処理を行いながらも連続再生することが可能となる。すなわち、剥離工程の操業によって蓄積する炭酸塩、レジスト樹脂、銅錯体を剥離液中より直接除去することによって、有機アミン剥離液の薬液コスト、剥離液廃液の処理コストを大幅に低減することが可能となった。本技術は、セミアディティブ工法における微細配線間のレジスト剥離工程、アルカリエッチング工法用のレジスト剥離液、金めっき用レジスト等の難剥離性レジストの剥離、あるいは半導体プロセス、フラットパネルディスプレイモジュールの製造と広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 剥離装置
2 使用済み剥離液
2’一部再生処理された剥離液
3 配管経路
4 電解槽
5 電解ドラム
6 カチオン交換膜
7 陰極
8 陰極液(再生済みの剥離液)
9 直流電源装置
10 ドクターブレード
11 配管経路
12 サブタンク
13、13’ フロートスイッチ
14 シーケンサー
15 フィルター
16 限外ろ過器
17 バルブ
18 ドレイン
19 配管経路
20 配管経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト樹脂、炭酸塩、金属イオンの何れかを含む使用済みの有機アミン含有のアルカリ剥離液を再生する装置であって、アルカリ剥離液中に浸漬される陰極、陽極の両電極及び両電極に電気的に接続される直流電源からなり、両電極間に直流電流を流すことによって、アルカリ剥離液中のレジスト樹脂を陽極に電着捕捉することによって除去し、且つ陽極にて水の電解により発生する酸により炭酸塩を中和し、炭酸を気化することによって除去し、金属イオンを陰極にて電析回収することによって、使用済みのアルカリ剥離液を再生することを特徴とするアルカリ剥離液の再生装置。
【請求項2】
レジスト樹脂、炭酸塩、金属イオンの何れかを含む使用済みの有機アミン含有のアルカリ剥離液を再生する方法であって、アルカリ剥離液中に浸漬される陰極、陽極の両電極及び両電極に電気的に接続される直流電源からなり、両電極間に直流電流を流すことによって、剥離液中のレジスト樹脂を陽極に電着捕捉することによって除去し、且つ陽極にて水の電解により発生する酸により炭酸塩を中和し、炭酸を気化することによって除去し、金属イオンを陰極にて電析回収することによって、使用済みのアルカリ剥離液を再生することを特徴とするアルカリ剥離液を用いる再生方法。
【請求項3】
レジスト樹脂を電着捕捉する陽極の形状が円筒あるいは円盤型であり、陽極はアルカリ剥離液再生中に円筒あるいは円盤の円中心を軸として回転する機構を有しており、円筒あるいは円盤型電極には使用済みのアルカリ剥離液と接触する部分と接触しない部分とを有し、接触する部分でアルカリ剥離液中のレジスト樹脂を電着回収し、接触していない部分で陽極上に電着付着したレジスト樹脂を除去することによってアルカリ剥離液を連続的に再生することを特徴とする請求項第1項に記載するアルカリ剥離液の再生装置。
【請求項4】
レジスト樹脂を電着捕捉する陽極の形状が円筒あるいは円盤型であり、陽極はアルカリ剥離液再生中に円筒あるいは円盤の円中心を軸として回転する機構を有しており、円筒あるいは円盤型電極には使用済みのアルカリ剥離液と接触する部分と接触しない部分とを有し、接触する部分でアルカリ剥離液中のレジスト樹脂を電着回収し、接触していない部分で陽極上に電着付着したレジスト樹脂を除去することによってアルカリ剥離液を連続的に再生することを特徴とする請求項第2項に記載する再生方法。
【請求項5】
限外ろ過フィルタ、アニオン交換樹脂充填カラムにアルカリ剥離液を通液する設備を有することを特徴とする請求項第1項または第3項に記載するアルカリ剥離液の再生装置。
【請求項6】
使用済みのアルカリ剥離液に浸漬設置される陽極と陰極間とをカチオン交換膜により空間的に分断されていて、且つ電気的に分断されていない電解分離装置を有することを特徴とする請求項第1項、第3項または第5項のいずれかに記載するアルカリ剥離液の再生装置
【請求項7】
再生に用いられるアルカリ剥離液に含有するレジスト樹脂がアクリル樹脂であり、金属イオンが銅である剥離液を再生することを特徴とする請求項第1項、第3項、第5項または第6項のいずれかに記載するアルカリ剥離液の再生装置。
【請求項8】
再生に用いられるアルカリ剥離液に含有するレジスト樹脂がアクリル樹脂であり、金属イオンが銅である剥離液を再生することを特徴とする請求項第2項または第4項に記載する、もしくは第1項、第3項、第5項、第6項または第7項のいずれかに記載されるアルカリ剥離液の再生装置を用いるアルカリ剥離液の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−79830(P2012−79830A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222068(P2010−222068)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】