説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】 均一性が高く、短時間での硬化が可能で、さらに硬化後には、PCT試験での吸湿性が低いため、エポキシ樹脂組成物と基板の間での剥離を抑制する、耐湿信頼性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】 (A)液状エポキシ樹脂、(B)スルフィド構造を含むエポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含み、かつ(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(B)成分を1〜50質量部含むことを特徴とする、エポキシ樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリップチップ実装体向けのアンダーフィル剤、または非導電性接着剤として用いられる耐湿性に優れるエポキシ樹脂組成物に関し、特に、先供給型液状半導体封止剤向けのエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のさらなる配線等の高密度化、高周波化に対応可能な半導体チップの実装方式として、フリップチップボンディングが利用されている。一般的に、フリップチップボンディングでは、半導体チップと基板の間隙を、アンダーフィル剤と呼ばれる材料で封止する。
【0003】
パッケージの信頼性を高めるために、アンダーフィル剤の応力を緩和することを目的として、常温で液状のエポキシ樹脂、常温で固形状のエポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤を含有し、上記固形状のエポキシ樹脂が特定量であり、無機充填剤の平均粒径が1μm以下である、封止用液状エポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記の封止用液状エポキシ樹脂組成物は、硬化後に、PCT試験での吸湿性が高いため、エポキシ樹脂組成物と基板の間で剥離が発生し、耐湿信頼性に劣るので、改良する必要がある。
【0005】
また、通常、フリップチップボンディングでは、半導体チップと基板をはんだ付け等で接合した後、半導体チップと基板の間隙に、熱硬化性の半導体樹脂封止組成物であるアンダーフィル剤を充填する(以下、「後供給型」という)。しかしながら、近年では、まず、アンダーフィル剤を基板に塗布し、半導体チップを載せた後、アンダーフィル剤の硬化と、半導体チップと基板の接続とを同時に行うことにより、工程の短縮および硬化時間の短縮を可能とし、その結果、低コストかつ低エネルギーで作製できる、先供給型フリップチップボンディングプロセスが注目され、このプロセス向けの封止剤樹脂組成物(以下、「先供給型封止剤」という)への要求が高まっている。なお、後供給型の場合には、注入時間を短縮するときに、通常、基板等の温度を80℃程度に上げるため、この注入温度では硬化しないことが求められ、半導体樹脂封止剤の硬化時間の短縮とはトレードオフが生じている。
【0006】
先供給型封止剤には、作業性、ハンドリングの容易性、狭ピッチ化への対応から液状である、すなわち室温での粘性が低いこと、短時間(一例としては5秒以内)での硬化が可能であること、短時間で半導体チップ−基板間のボイドを無くすことが要求され、さらに硬化後には、PCT(Pressure Cooker Test)試験でのエポキシ樹脂組成物と基板の間の剥離を抑制するための耐湿信頼性も求められる。
【0007】
上記の封止用液状エポキシ樹脂組成物(特許文献1)は、上記のPCT試験での耐湿信頼性が劣るため、この先供給型封止剤として使用することができない。なお、この耐湿信頼性は、非導電性接着剤として使用するときにも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−29910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、均一性が高く、短時間での硬化が可能で、さらに硬化後には、PCT試験での吸湿性が低いため、エポキシ樹脂組成物と基板の間での剥離を抑制する、耐湿信頼性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決したエポキシ樹脂組成物に関する。
〔1〕(A)液状エポキシ樹脂、(B)スルフィド構造を含むエポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含み、かつ(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(B)成分を1〜50質量部含むことを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
〔2〕(B)成分が、一般式(1):
【化1】

(式中、R〜Rは、同一または異なってもよく、水素原子または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐の炭化水素基である)で示される、上記〔1〕記載のエポキシ樹脂組成物。
〔3〕さらに、(E)シランカップリング剤を含む、上記〔1〕または〔2〕記載のエポキシ樹脂組成物。
〔4〕さらに、(F)エラストマーを含む、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のエポキシ樹脂組成物。
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載のエポキシ樹脂組成物を含む、先供給型液状半導体封止剤。
〔6〕上記〔5〕記載の先供給型液状半導体封止剤を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明〔1〕によれば、均一性が高く、短時間での硬化が可能で、さらに硬化後には、PCT試験での吸湿性が低く、耐湿信頼性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0012】
本発明〔6〕によれば、低コストで、低エネルギーの先供給型で製造でき、かつPCT試験での耐湿信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の溶解性評価で「○」となった試料の例である。
【図2】実施例の溶解性評価で「×」となった試料の例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)液状エポキシ樹脂、(B)スルフィド構造を含むエポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含み、かつ(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(B)成分を1〜50質量部含むことを特徴とする。エポキシ樹脂組成物は、作業性、ハンドリングの容易性、狭ピッチ化対応のため、液状であると好ましい。
【0015】
(A)成分としては、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、液状水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状脂環式エポキシ樹脂、液状アルコールエーテル型エポキシ樹脂、液状環状脂肪族型エポキシ樹脂、および液状フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられ、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂、および液状アミノフェノール型エポキシ樹脂が、低粘度性、硬化性、耐熱性、接着性、耐久性の観点から好ましい。(A)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0016】
(B)成分は、一般式(1):
【化2】

(式中、R〜Rは、同一または異なってもよく、水素原子または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐の炭化水素基である)で示されるものが、硬化後のエポキシ樹脂組成物の耐湿信頼性向上の観点から好ましい。R〜Rは、水素原子または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基であると、低粘度化の観点から、より好ましく、tert−ブチル基、メチル基であると、さらに好ましい。ここで、R〜Rの炭素数(水素の場合は0)は、NMR分析により、同定する。市販されている(B)成分としては、新日鐵化学製の品名:YSLV−120TEやYSLV−50TEが挙げられる。また、(B)成分は、通常、単体では室温で固体であるが、(A)成分と相溶性があり、エポキシ樹脂組成物中では液状であることが好ましい。なお、エポキシ樹脂組成物の均一性が劣ると、(B)成分が沈降したり、また、硬化時の硬化分布が不均一となり、エポキシ樹脂組成物の一部に応力が集中したりする等の不具合が発生しやすくなる。(B)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0017】
(C)成分としては、酸無水物、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤が挙げられ、良好な反応性(硬化速度)、適度な粘性付与、良好な耐湿信頼性の観点から、酸無水物が好ましい。酸無水物としては、3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルブテニルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、アルキル化テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、アルケニル基で置換されたコハク酸無水物、メチルナジック酸無水物、グルタル酸無水物等が挙げられ、3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物が好ましい。(C)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0018】
(D)成分としては、イミダゾール系、第三級アミン系、リン化合物系等が挙げられ、イミダゾール系が好ましい。イミダゾール系としては、例えば、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリルー(1’)]−エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分の質量割合が、99:1〜50:50、すなわち成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して、成分(B)を1〜50質量部含有し、好ましくは3〜50質量部、より好ましくは3〜40質量部含有する。1質量部より少ないと、吸水率が高くなり、一方、50質量部より多いと、(B)成分の(A)成分への相溶性が悪くなり、(A)成分に溶解した(B)成分が再結晶したり、エポキシ樹脂の均一性が悪くなったりとなる。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、良好な反応性、信頼性の観点から、(A)成分のエポキシ当量と(B)成分エポキシ当量の合計:1に対して、好ましくは(C)成分の酸無水当量が0.8〜1.1であり、より好ましくは0.804〜1.096である。0.8以上であると、反応性、硬化後のエポキシ樹脂組成物のPCT試験での耐湿信頼性、耐マイグレーション性が良好であり、一方、1.1以下であると、増粘倍率が高くなり過ぎず、ボイドの発生が抑制される。
【0021】
(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、(D)成分を1.7質量部より多く10.3質量部未満含有し、好ましくは2.0〜10.0質量部、より好ましくは2.3〜9.3質量部含有する。1.7質量部以上であると、反応性が良好であり、10.3質量部以下であると保存安定性が良好である。
【0022】
エポキシ樹脂組成物は、さらに、(E)成分を含むことが好ましく、(E)成分としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランが、密着性の観点から好ましい。(E)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0023】
エポキシ樹脂組成物は、さらに、(F)成分を含むことが、エポキシ樹脂組成物の応力緩和の観点から好ましく、(F)成分としては、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴムが挙げられる。(F)成分は、固体のものを使用することができる。形態は特に限定されず、例えば粒子状、粉末状、ペレット状のものを使用することができ、粒子状の場合は、例えば平均粒径が10〜200nm、好ましくは30〜100nm、より好ましくは、50〜80nmである。(F)成分は、常温で液状のものも使用することもでき、例えば、平均分子量が比較的低いポリブタジエン、ブタジエン・アクリロニトリルコポリマー、ポリイソプレン、ポリプロピレンオキシド、ポリジオルガノシロキサンが挙げられる。また、(F)成分は、末端にエポキシ基と反応する基を有するものを使用することができ、これらは固体、液状いずれの形態であってもよい。(F)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0024】
エポキシ樹脂組成物は、さらに、(G)成分を含むことが好ましく、(G)成分としては、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、マイカ、ホワイトカーボン等が挙げられ、硬化後のエポキシ組成物の熱膨張係数の低下、およびコストの観点から、シリカが好ましい。シリカは、非晶質シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、粉砕シリカ、ナノシリカ等、当技術分野で使用される各種シリカを使用することができる。
【0025】
(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、(E)成分を、好ましくは0.1質量部より多く2.3質量部未満含有し、より好ましくは0.2〜2.0質量部、さらに好ましくは0.2〜1.8質量部含有する。0.1質量部以上であると、密着性が向上し、PCT試験での耐湿信頼性がより良好になり、2.3質量部以下であると、エポキシ樹脂組成物の発泡が抑制され、信頼性が良好である。
【0026】
(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、(F)成分を、好ましくは0.5〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜25質量部含有する。0.5質量部以上であると、エポキシ樹脂組成物の応力を緩和し、50質量部以下であると耐湿信頼性が低下する。
【0027】
(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、(G)成分を、好ましくは0.1〜150質量部、より好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは3〜60質量部含有する。0.1質量部以上であると硬化後の収縮率の低下を防ぎ、150質量部以下であると粘度増加を抑えることができる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じ、カーボンブラックなどの顔料、染料、消泡剤、酸化防止剤、レベリング剤、揺変剤、フィラー、応力緩和剤、その他の添加剤等を配合することができる。特に、カーボンブラックは、隠蔽性の観点から添加されることが好ましい。なお、ボイド抑制の観点から、有機溶媒、特に低沸点の有機溶媒は含有させないことが好ましい。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、(A)成分〜(D)成分およびその他の添加剤等を同時にまたは別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶融、混合、分散させることにより得ることができる。これらの混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。ここで、(A)成分と(B)成分を、例えば、まず、140〜160℃まで加熱して、溶解させ、手等で撹拌した後、再度、140〜160℃で30〜120分間加熱し、溶解させた後、他の成分と混合すると、均一分散性の観点から好ましい。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、温度:25℃での粘度が20〜200Pa・sであると、ボイド抑制の観点から好ましい。ここで、粘度は、Brookfield社製粘度計(型番:DV−1)で測定する。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、揺変指数が1〜3であると好ましく、1〜2であるとさらに好ましい。ここで、揺変指数とは、エポキシ樹脂組成物の流れ易さを表す特性値であり、Brookfield社製粘度計(型番:DV−1)を用いて、毎分5回転の条件で求められた測定値を、毎分50回転の条件で求められた測定値で除した比率、すなわち、(毎分5回転での粘度)/(毎分50回転での粘度)で定義されるものである。エポキシ樹脂組成物の揺変指数が1〜3であると、基板に塗布してからボンディングまでの間でボイドを抑制ことができ、かつ基板の所定の位置に留めることができる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ディスペンサー、印刷等で基板の所望の位置に形成される。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化は、180〜250℃で、1〜10秒間行うことが好ましく、特に5秒以内で硬化させると、エポキシ樹脂封止剤として用いるときの生産性向上の観点から好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂組成物のゲルタイムの評価は、以下のように行う。200±2℃の熱板上に、約3mmφのエポキシ樹脂組成物をニードルで滴下し、エポキシ樹脂組成物にニードルを適当に接触させながら、エポキシ樹脂組成物が糸引きをしなくなるまでの時間を、ストップウォッチにより測定し、ゲルタイムとする。15秒以下でゲル化するものであれば実工程における硬化性として問題ないレベルであり、15秒より長ければに硬化性不足であり、好ましいとはいえない。
【0034】
硬化後のエポキシ樹脂組成物の吸水率の評価は、以下のように行う。離型剤を塗布したブリキケース(直径:50mm)に、約5.5gのエポキシ樹脂組成物を流し込み、硬化後の膜厚が1.8〜2.2mmになるように形成した後、送風乾燥機中で、150℃×30分で硬化させ、試験片を作製する。このとき、試験片に送風乾燥機の熱風が直接あたらないように、試験片を覆う。この試験片の質量をW(g)とする。この試験片をPCT試験装置に入れ、121±2℃、2気圧、湿度:100%で20時間経過した後、室温に戻し、室温で30分放置後の質量をW(g)とする。吸水率(単位:%)は、次式により算出する。
吸水率=(W−W)/W×100
【0035】
耐湿信頼性が要求されるアンダーフィル剤や非導電性接着剤では、吸水率が2%以上であると、PCT試験後に、樹脂−基板界面で剥離が発生しやすくなり、信頼性に悪影響を及ぼす。そのため、吸水率は2%以下であることが望ましい。
【0036】
硬化後のエポキシ樹脂組成物のPCT剥離試験は、以下のように行う。基板として、38μm厚のポリイミドフィルム上に、錫メッキされた8μmの銅配線が形成されており、チップ搭載部分以外の銅配線上にはソルダーレジストでコーティングされている2層フレキシブル銅張積層板を用意する。この基板のインナーリード幅は10μm、インナーリード数は1160本、インナーリード間の最少ピッチは25μmである。半導体チップとして、サイズが1.6×15.1ミリメートルmm、高さが0.55ミリメートルmmのAuメッキバンプTEG(Test Element Group)を用意する。この半導体チップのバンプ径は16μm×90μm、バンプの数は766個である。次に、基板のインナーリード上に、エポキシ樹脂組成物:5mgをディスペンスした後、半導体チップをエポキシ樹脂組成物の上に載せ、200℃×10秒で半導体チップをボンディングする。さらに、150℃×2時間の硬化を行なった試験片を、PCT試験装置(121±2℃、2気圧、湿度:100%)に載置する。PCT試験装置に載置してから、試験片の剥離が発生するまでの時間を測定し、PCT剥離試験の結果とする。この試験によって剥離が発生するまでの時間が長いほど耐湿信頼性に優れていると判断することができる。本試験の判定基準として放置時間が50時間未満で剥離が発生した場合は、好ましいとはいえない。
【0037】
このように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、均一性が高く、短時間での硬化が可能で、さらに硬化後には、PCT試験での吸湿性が低いため、エポキシ樹脂組成物と基板の間での剥離を抑制し、耐湿信頼性に優れる。このため、低コストで、低エネルギーの先供給型で製造でき、かつPCT試験耐性に優れた半導体装置を得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0039】
〔実施例1〜6、比較例1、2〕
表1に示す配合で、エポキシ樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」という)を調整した。このとき、まず、液状の成分(A)と固形の成分(B)を150℃まで加熱し、溶解させ、手撹拌した。再度、150℃で約1時間加熱し、均一化した。この後、常温で放置し、固形の(B)成分が再結晶しなかったものを「○」、再結晶したものを「×」と評価した。図1に、「○」となった試料の例を、図2に「×」となった試料の例を示す。図1、図2ともにビーカー中の試料の写真であり、図2では、再結晶物が観察される。表1に、溶解性評価の結果を示す。なお、実施例1〜6のエポキシ樹脂組成物は、すべて液状であった。なお、比較例3、4で用いたDIC製ビスS型エポキシ樹脂(型番:EXA1514)を、式(2)に示す。
【0040】
【化3】

【0041】
固形の(B)成分が再結晶化すると沈降しやすくなるため、エポキシ樹脂組成物の均一性が悪くなる。均一性が悪くなることで硬化時の硬化分布が不均一となり、一部に応力が集中したりなどの不具合が発生しやすくなる。そのため、固形の(B)成分を用いるときは、再結晶化しないように十分に溶解されていることが望ましい。均一性は、(B)成分を溶解した混合物を目視で確認し、混合物に固形分がなく、透明であるか否かで判断し、透明な試料を「○」、透明ではない試料を「×」とした。表1に、均一性評価の結果を示す。
【0042】
〔ゲルタイムの評価〕
エポキシ樹脂組成物のゲルタイムの評価は、以下のように行った。200±2℃の熱板上に、約3mmφのエポキシ樹脂組成物をニードルで滴下し、エポキシ樹脂組成物にニードルを適当に接触させながら、エポキシ樹脂組成物が糸引きをしなくなるまでの時間を、ストップウォッチにより測定し、ゲルタイムとした。
【0043】
〔吸水率の評価〕
硬化後のエポキシ樹脂組成物の吸水率の評価を、以下のように行った。離型剤を塗布したブリキケース(直径:50mm)に、約5.5gの作製したエポキシ樹脂組成物を流し込み、硬化後の膜厚が1.8〜2.2mmになるように形成した後、送風乾燥機中で、150℃×30分で硬化させ、試験片を作製した。このとき、試験片に送風乾燥機の熱風が直接あたらないように、試験片を覆った。この試験片の質量をW(g)とした。次に、この試験片をPCT試験装置に入れ、121±2℃、2気圧、湿度:100%で20時間経過した後、室温に戻し、室温で30分放置後の質量をW(g)とした。吸水率(単位:%)は、次式により算出した。
吸水率=(W−W)/W×100
表1に、吸水率の結果を示す。
【0044】
〔PCT剥離試験〕
硬化後のエポキシ樹脂組成物のPCT剥離試験は、以下のように行った。基板として、38μm厚のポリイミドフィルム上に、錫メッキされた8μmの銅配線が形成されており、チップ搭載部分以外の銅配線上にはソルダーレジストでコーティングされている2層フレキシブル銅張積層板を用意した。この基板のインナーリード幅は10μm、インナーリード数は1160本、インナーリード間の最少ピッチは25μmであった。半導体チップとして、サイズが1.6×15.1ミリメートルmm、高さが0.55ミリメートルmmのAuメッキバンプTEG(Test Element Group)を用意した。この半導体チップのバンプ径は16μm×90μm、バンプの数は766個であった。次に、基板のインナーリード上に、エポキシ樹脂組成物:5mgをディスペンスした後、半導体チップをエポキシ樹脂組成物の上に載せ、200℃×10秒で半導体チップをボンディングした。さらに、150℃×2時間の硬化を行なった試験片を、PCT試験装置(121±2℃、2気圧、湿度:100%)に載置した。PCT試験装置に載置してから、試験片の剥離が発生するまでの時間を測定し、PCT剥離試験の結果とした。表1に、PCT剥離試験の結果を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
試験結果をまとめると、実施例1〜8の全てで、溶解性、均一性がよく、ゲルタイムが16秒以下と短時間での硬化が可能で、PCT試験での吸水率が2.0%以下、PCT剥離試験が50時間以上と耐湿信頼性に優れていた。これに対して、(b)成分を含有しない比較例1は、吸水率が2.6%と高く、(b)成分を多く含有する比較例2は、溶解性、均一性が悪いため、ゲルタイム、吸水率、PCT剥離試験を実施するに至らなかった。(B)成分の代わりに、ビスS型エポキシ樹脂を含む比較例3、4は、吸水率が高く、PCT剥離試験も40時間と短く、耐湿信頼性に劣る結果であった。
【0047】
上記のように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、均一性が高く、短時間での硬化が可能で、さらに硬化後には、PCT試験での吸湿性が低く、耐湿信頼性に優れており、特に、先供給型フリップチップボンディングプロセス向けに大変有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、(B)スルフィド構造を含むエポキシ樹脂、(C)硬化剤、および(D)硬化促進剤を含み、かつ(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(B)成分を1〜50質量部含むことを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分が、一般式(1):
【化4】

(式中、R〜Rは、同一または異なってもよく、水素原子または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐の炭化水素基である)で示される、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(E)シランカップリング剤を含む、請求項1または2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(F)エラストマーを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物を含む、先供給型液状半導体封止剤。
【請求項6】
請求項5記載の先供給型液状半導体封止剤を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する、半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−56979(P2012−56979A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198499(P2010−198499)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】