説明

エンジン制御装置

【課題】エンジンの運転安定性や耐久性を確保しながら、燃費の向上を図ることが出来るようにする。
【解決手段】車両10の排気系21の特定部の定常温度T_constが出力される温度演算モデルに基づいてエンジン12の排気空燃比AFEXを制御するエンジン制御装置である。このエンジン制御装置は、仮想温度T_tempを前記の温度演算モデルの逆モデルである温度演算逆モデルMRA〜MRDにより演算する仮想温度演算手段45A〜45Dと、仮想温度T_tempに応じて排気系21の特定部の目標温度T_tgtを演算する目標温度演算手段46A〜46Dと、目標温度T_tgtに基づいて排気空燃比AFexを制御する空燃比制御手段49A〜49Dとを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ターボチャージャや排ガス浄化触媒といった、エンジンの排気系のある特定の部分における温度を推定するための技術が開発されている。このような技術の一例を示す文献としては、以下の特許文献1が挙げられる。
もっとも、温度センサを用いるようにすれば、直接的な温度検出が可能だが、コストの増大を招いてしまい、また、温度センサを取り付けるための手間や時間もかかってしまう。また、排気系には温度センサを設けるスペースが不足している場合もある。
【0003】
したがって、現実的には排気系の温度を推定するという手法が好ましい。
例えば、ターボチャージャの温度を正確に推定出来るとすれば、ターボチャージャ並びにターボチャージャよりも下流側の排気系部品が、過剰な熱により劣化したり損傷したりする事態を避けることが可能になる。
また、排ガス浄化触媒の温度を正確に推定出来るとすれば、排ガス浄化触媒の劣化や損傷を防ぐだけでなく、排ガス浄化触媒の浄化機能が好ましい状態になるように排ガス温度を制御することが可能となり、この結果、排ガス性能の向上に寄与することも出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2591203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような排気系の温度推定を行なうには出来るだけ簡素な手法によることが望ましい。その理由の一つとしては、コストの増大がある。つまり、過度に複雑な手法による温度推定では、当該演算を行なうプログラムのデータを記憶するメモリ(例えば、ROM(Read Only Memory))の記憶容量を比較的多く占有することとなってしまう。しかしながら、メモリの価格は、一般的に、その容量が増大するに連れて高くなる傾向があり、このため、演算を簡略化し、演算プログラムのデータ量を小さくすることが好ましいのである。
【0006】
一方で、簡素な手法により排気系の温度推定を行なったとしても、その推定結果の精度が低くなってしまっては、やはり、フィードバック制御自体の精度が低くなるという事態を生じさせてしまう。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、エンジンの運転安定性や耐久性を確保しながら、燃費の向上を図ることが出来る、エンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のエンジン制御装置は、車両に搭載されるエンジンの運転状態が入力され、前記車両の排気系の特定部の温度が出力される温度演算モデルに基づいて、前記エンジンの排気空燃比を制御するエンジン制御装置であって、前記温度演算モデルで用いられる仮想温度を前記温度演算モデルの逆モデルである温度演算逆モデルにより演算する仮想温度演算手段と、前記排気系の前記特定部の定常温度を演算する定常温度演算手段と、前記仮想温度演算手段で演算された前記仮想温度と前記定常温度演算手段で演算された前記定常温度に応じて前記排気系の前記特定部の目標温度を演算する目標温度演算手段と、前記目標温度演算手段で演算された目標温度に基づいて前記エンジンの排気空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明のエンジン制御装置は、前記温度演算逆モデルは、前記仮想温度を一次遅れ処理することで前記特定部の温度を出力する前記温度演算モデルの逆モデルであることを特徴としている。
また、本発明のエンジン制御装置は、前記目標温度演算手段は、前記仮想温度演算手段によって演算された前記仮想温度が所定のクリップ値以上である場合に、前記クリップ値を前記目標温度として設定することを特徴としている。
【0009】
また、本発明のエンジン制御装置は、前記目標温度演算手段は、前記仮想温度演算手段によって演算された前記仮想温度が所定のクリップ値未満である場合に、前記仮想温度を前記目標温度として設定するを特徴としている。
また、本発明のエンジン制御装置は、前記目標温度演算手段は、前記仮想温度演算手段によって演算された前記仮想温度が前記定常温度演算手段によって演算された前記定常温度がよりも小さい場合に、前記定常温度を前記目標温度として設定することを特徴としている。
【0010】
また、本発明のエンジン制御装置は、前記目標温度演算手段によって演算された前記目標温度に基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで事前処理後温度を演算し、前記事前処理後温度を前記特定部の温度の推定値である推定温度とみなす推定温度演算手段とをさらに備え、前記空燃比制御手段は、前記推定温度演算手段によって演算された前記推定温度に応じて前記排気空燃比を制御することを特徴としている。
【0011】
また、本発明のエンジン制御装置は、前記目標温度演算手段によって演算された前記目標温度に基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで事前処理後温度を演算する事前処理手段と、前記事前処理手段によって演算された前記事前処理後温度に基づいたさらなる一次遅れ処理を実行することで、前記特定部の温度の推定値である推定温度を演算する推定温度演算手段とをさらに備え、前記空燃比制御手段は、前記推定温度演算手段によって演算された前記推定温度に応じて前記排気空燃比を制御することを特徴としている。
【0012】
また、本発明のエンジン制御装置は、前記推定温度演算手段は、前記事前処理後温度に基づいたさらなる一次遅れ処理を複数回実行することを特徴としている。
また、本発明のエンジン制御装置は、前記目標温度演算手段によって演算された前記目標温度に基づいた一次遅れ処理を実行することで、前記特定部の温度の推定値である推定温度を演算する推定温度演算手段をさらに備え、前記空燃比制御手段は、前記推定温度演算手段によって演算された前記推定温度に応じて前記排気空燃比を制御することを特徴としている。
【0013】
また、本発明のエンジン制御装置は、前記車両の前記排気系には、複数の前記特定部が設けられ、前記目標温度演算手段は、複数の前記特定部ごとに前記目標温度を演算し、前記目標温度演算手段により演算された複数の前記目標温度のうちの最小値に基づいて目標空燃比を決定する目標空燃比決定手段をさらに備え、前記空燃比制御手段は、前記目標空燃比決定手段によって決定された前記目標空燃比に基づいて前記排気空燃比を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジン制御装置によれば、比較的簡素な手法を用いながらも高い精度で排気系の推定温度を演算し、この推定温度に応じた排気空燃比を設定することで、エンジンの運転安定性や耐久性を確保しながら、燃費の向上を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置の全体構成を示す、模式的なブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置において用いられる、定常温度マップを示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置において用いられる、変換ゲインマップを示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置において用いられる、変換オフセットマップを示す模式図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置において用いられる、第1係数マップを示す模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なタイムチャートであって、エンジンの負荷や回転速度が増大する場合を示す。
【図9】本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なタイムチャートであって、エンジンの負荷や回転速度が減少する場合を示す。
【図10】本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置の全体構成を示す、模式的なブロック図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置において用いられる、第2係数マップを示す模式図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図13】本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図14】本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置の全体構成を示す、模式的なブロック図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置において用いられる、第3係数マップを示す模式図である。
【図16】本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図17】本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図18】本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なタイムチャートであって、エンジンの負荷や回転速度が増大する場合を示す。
【図19】本発明の第4実施形態に係るエンジン制御装置の全体構成を示す、模式的なブロック図である。
【図20】本発明の第4実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【図21】本発明の第4実施形態に係るエンジン制御装置の動作を示す、模式的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図8を用いて、本発明の第1実施形態について説明する。
このエンジン12の吸気系13には、エアフィルタ14,ターボチャージャ11のコンプレッサ15,インタークーラ16,スロットルバルブ17および吸気マニホールド18が設けられている。
また、このエンジン12の排気系21には、排気マニホールド22,ターボチャージャ11の排気タービン23および浄化装置24が設けられている。
【0017】
エアフィルタ14は、エンジン12に導入される外気をろ過するものであって、吸気系13の外気導入口25の近傍に、着脱可能に設けられている。
ターボチャージャ11のコンプレッサ15は、エアフィルタ14の下流側に設けられ、回転軸26を介して排気タービン23と接続され、この排気タービン23とともに回転軸26を中心に回転するようになっている。つまり、エンジン12から排出された排ガスの流れを受けて回転する排気タービン23とともにこのコンプレッサ15は回転し、これにより、エンジン12の吸気圧を高めることが出来るようになっている。
【0018】
また、排気マニホールド22の出口とターボチャージャ11の入口(排ガス導入口)33aとは排気管36aにより接続されている。また、ターボチャージャ11の出口(排ガス排出口)33bと浄化装置34とは排気管36bにより接続されている。
そして、これらの排気管36a,36bの間はバイパス通路34により接続されている。また、このバイパス通路34にはウェストゲートバルブ35が設けられている。このウェストゲートバルブ35は、いずれも図示しない弁体と、この弁体を駆動するアクチュエータとを有しており、上流側の排気管36aからバイパス通路34内に流入し、その後、下流側の排気管36bへ流出する排ガス量を制御するものである。つまり、このウェストゲートバルブ35の開度を増大させることで、バイパス通路34中を流通する排ガス量を増大させ、ターボチャージャ11の過給圧を低減することが出来るようになっている。なお、ウェストゲートバルブ35の開度は、ECU40からの指令を受けたアクチュエータにより変更されるようになっているが、この点についてはECU40の説明の際に併せて説明する。
【0019】
インタークーラ16は、コンプレッサ15の下流側に設けられた放熱器であって、コンプレッサ15によって加圧された吸気の熱を大気に放出することで、吸気密度を向上させることが出来るようになっている。
スロットルバルブ17は、インタークーラ16の下流側に設けられたバタフライバルブであって、吸気マニホールド18に供給される吸気の量を調整することが出来るようになっている。
【0020】
吸気マニホールド18は、スロットルバルブ17の下流側に設けられた吸気管であって、スロットルバルブ17を通過した吸気をエンジン12の各シリンダ(図示略)の各吸気ポート(図示略)へ導くことが出来るようになっている。
排気マニホールド22は、エンジン12の各シリンダの各排気ポート(図示略)に接続された排気管であって、各排気ポートから排出された排ガスをターボチャージャ11の排気タービン23へ導くことが出来るようになっている。
【0021】
ターボチャージャ11の排気タービン23は、排気マニホールド22の下流側に設けられ、排気マニホールド22から排出された排ガスによって回転するものである。なお、この排気タービン23および上記のコンプレッサ15はターボチャージャ11のハウジング27内に収容されている。
浄化装置24は、ターボチャージャ11の排気タービン23の下流側に設けられ、排ガス中に含まれる、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)といった有害な物質を、窒素(N),二酸化炭素(CO)および水(HO)といった無害な物質に化学変化させることで排ガスを浄化する、いわゆる三元触媒である。
【0022】
また、吸気系13において、エアフィルタ14の下流側で且つコンプレッサ15の上流側にはエアフローセンサ28が設けられている。このエアフローセンサ28は、エアフィルタ14を通過した外気の量を吸気流量QINとして検出するものである。また、このエアフローセンサ28は、後述するECU(Electronic Control Unit)110と接続されており、検出結果QINがECU40に入力されるようになっている。
【0023】
また、スロットルバルブ17近傍には、このスロットルバルブ17の開度θTHを検出するスロットルバルブ開度センサ29が設けられている。このスロットルバルブ開度センサ29は、ECU40と接続されており、検出結果θTHをこのECU40に対して出力するようになっている。
また、吸気マニホールド18には、ブースト圧センサ31が設けられている。このブースト圧センサ31は、コンプレッサ15によって加圧された吸気圧、即ちブースト圧PTBを検出するものであって、検出結果PTBはECU40に対して出力されるようになっている。
【0024】
また、エンジン12には、クランクシャフト(図示略)の角度θCLを検出するクランクシャフト角度センサ32が設けられている。このクランクシャフト角度センサ32は、ECU40に接続されており、検出結果θCLをこのECU40に対して出力するようになっている。
また、この車両10には、吸気温度を検出する吸気温度センサ(図示略)が設けられている。また、この吸気温度センサも、ECU40に接続されており、検出結果をこのECU40に対して出力するようになっている。
【0025】
そして、ECU40は、いずれも図示しないメモリ,インターフェースおよびCPU(Central Processing Unit)を有する電子制御ユニットである。
また、ECU40のメモリには、いずれもソフトウェアとして、エンジン回転速度演算部41,充填効率演算部(エンジン負荷演算手段)42,排ガス流量演算部43,定常温度演算部(定常温度演算手段)44A,仮想温度演算部(仮想温度演算手段)45A,目標温度演算部(目標温度演算手段)46A,推定温度演算部(推定温度演算手段)48Aおよびエンジン制御部(空燃比制御手段)49Aが記録されている。
【0026】
さらに、このECU40のメモリには、定常温度マップ51A,リーン側限界空燃比マップ52,変換ゲインマップ53A,変換オフセットマップ54Aおよび第1係数マップ55Aも記録されている。
これらのうち、エンジン回転速度演算部41は、クランクシャフト角度センサ32によって検出されたクランクシャフト角度θCLに基づいて、エンジンの回転速度NEを演算するものである。
【0027】
充填効率演算部42は、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINと、ブースト圧センサ31によって検出されたブースト圧PTBとに基づいて、エンジン12の負荷を示すパラメータである充填効率ECを演算するものである。
排ガス流量演算部43は、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン12の回転速度NEと、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINとに基づいて、エンジン12の排ガス流量QEXを演算するものである。
【0028】
具体的に、この排ガス流量演算部43は、以下の式(1)を用いて、排ガス流量QEXを演算するようになっている。
EX=VCYL × EV × NE / (2×60) ・・・(1)
この式(1)において、VCYLはエンジン12の各シリンダ(図示略)の行程容積(いわゆる排気量),EVは各シリンダの体積効率,NEはエンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン12の回転速度である。また、「2」はエンジン12が4ストローク方式のエンジンであって、クランクシャフトが2回転する毎に排気行程が行なわれることに基づいた定数である。また、「60」は、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン12の回転速度NEの単位時間が分であった場合に、秒へ変換するための定数である。
【0029】
なお、各シリンダの行程容積VCYLは、ECU110のメモリに記録されている。また、各シリンダの体積効率EVは、充填効率演算部42によって演算された体積効率ECに対して、吸気温度センサ(図示略)によって検出された吸気温度と、エンジン12が始動する前にブースト圧センサ31によって検出された大気圧とに基づく補正を行なうことで、充填効率演算部42が演算するようになっている。
【0030】
定常温度演算部44Aは、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとに基づいて、排気系21の任意の部分(特定部)の温度の定常値である定常温度T_constAを周期的に演算するものである。なお、第1実施形態においては、排気マニホールド22の表面を特定部とした場合について説明する。
【0031】
より具体的に、この定常温度演算部44Aは、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを、図2に示す定常温度マップ51Aに適用することで、定常温度T_constAを得るようになっている。なお、図2に示す符号T_constA1,T_constA2,T_constA3およびT_constA4は、いずれも定常温度T_constAの具体的な温度を例示するものである。
【0032】
つまり、この定常温度マップ51Aには、エンジン回転速度NEが増大するに連れて増大し、且つ、充填効率ECが増大するに連れて増大する定常温度T_constAが規定されている。
仮想温度演算部45Aは、排気マニホールド22の表面(特定部)の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するものである。
【0033】
この仮想温度演算部45Aには、温度演算逆モデルMRAがシュミレーションプログラムとして組み込まれている。そして、この仮想温度演算部45Aは、この温度演算逆モデルMRAを用いた処理を行なうことで、排気系21の特定部の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するようになっている。
この温度演算逆モデルMRAは、温度演算モデル(図示略)の逆モデルである。
【0034】
また、この温度演算モデルは、エンジン12の運転状態を示すパラメータ(例えば、排気空燃比AFEX,エンジン回転速度NE、充填効率Ecおよび排ガス流量QEX)に応じて変化する、排気系21の特定部(第1実施形態では排気マニホールド22の表面)の定常温度T_constAが入力されるようになっている。そして、この温度演算モデルは、入力された定常温度T_constAに基づいた演算処理を行なうことで、排気系21の特定部の現在の温度を出力するようになっている。なお、この温度演算モデルによる演算処理は、具体的には、一次遅れ処理である。
【0035】
したがって、この温度演算モデルの逆モデルとして設けられた温度演算逆モデルMRAは、定常温度T_constAが入力されると、この定常温度T_constAに基づいた演算処理を行なうことで、今回、特定部を定常温度T_constAとする場合の入力(仮想温度T_temp)を出力するようになっている。なお、この温度演算逆モデルMRAによる演算処理は、上記の一次遅れ処理の逆処理であって、一次進み処理とも呼ばれる処理である。
【0036】
換言すれば、この温度演算逆モデルMRAによって、定常温度T_constAを得るために、仮想温度T_tempをどの程度の値に設定すべきか、演算することが出来るようになっている。
そして、この温度演算逆モデルMRAによる演算処理(即ち、一次進み処理)は、以下の式(2)を用いて周期的に実行されるようになっている。
【0037】
_temp(n)={T_constA(n)−(1−K1A)×T_est(n-1)}/K1A ・・・(2)
この式(2)において、T_temp (n)は仮想温度T_tempの今回値であり、T_constA(n)は定常温度演算部44Aによって演算された定常温度T_constAの今回値である。また、K1Aは第1係数であり、T_est(n-1)は推定温度T_estの前回値である。
これらのうち、第1係数K1Aは、図5に示す第1係数マップ55Aに規定され、一次遅れ処理または一次進み処理において用いられる係数である。つまり、この式(2)で用いられる第1係数K1Aは、仮想温度演算部45Aが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Aに適用することで、得られるようになっている。
【0038】
また、推定温度(推定温度)T_exmanは、詳しくは後述するが、推定温度演算部49によって演算された、車両10の排気系21の特定部(第1実施形態では排気マニホールド22の表面)における温度の推定値である。
目標温度演算部46Aは、排気系21の任意の部分である特定部の目標温度T_tgtを演算するものである。上述のように、第1実施形態においては、特定部が排気マニホールド22の表面であるとしている。つまり、第1実施形態において、この目標温度演算部46Aは、排気マニホールド22の表面の目標温度T_tgtを演算するようになっている。
【0039】
より具体的に、目標温度演算部46Aは、エンジン12の実用上の運転に支障がない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化した場合の空燃比であるリーン側限界空燃比(限界空燃比)AF_limを周期的に演算するようになっている。なお、ここで、“エンジン12の運転上支障がない範囲”とは、例えば、エンジン12の出力トルクが極端に変動することがない範囲,エンジン12から排出される排ガスの成分が極端に増加することがない範囲,エンジン12が失火しない範囲等が挙げられる。
【0040】
また、この目標温度演算部46Aは、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、このリーン側限界空燃比AF_limを得るようになっている。
さらに、この目標温度演算部46Aは、リーン側限界空燃比AF_limでエンジン12を運転した場合における特定部の温度であるリーン側クリップ温度(クリップ値)T_aflimを演算するようになっている。なお、このリーン側クリップ温度T_aflimは、以下の式(3)を用いて得られるようになっている。
【0041】
_aflim(n)=G_aftA×AF_lim+O_aftA ・・・(3)
この式(3)において、T_aflim(n)はリーン側クリップ温度T_aflimの今回値である。G_aftAは変換ゲインである。また、上述のとおり、AF_limはリーン側限界空燃比である。O_aftAは変換オフセット値である。
これらのうち、変換ゲインG_aftAは、目標温度演算部46Aが、図3に示す変換ゲインマップ53Aに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
【0042】
また、変換オフセットO_aftAは、目標温度演算部46Aが、図4に示す変換オフセットマップ54Aに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
また、目標温度演算部46Aは、仮想温度演算部45Aにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim以上(即ち、T_temp ≧T_aflim の関係が成立する)場合、リーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0043】
また、目標温度演算部46Aは、仮想温度演算部45Aにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満(即ち、T_temp <T_aflim の関係が成立する場合)であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度演算部44Aにより演算された排気マニホールド22表面の定常温度T_constA以上である(即ち、T_temp ≧ T_constA の関係が成立する場合)場合、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0044】
また、目標温度演算部46Aは、仮想温度演算部45Aにより演算された仮想温度T_tempが定常温度T_constAよりも小さい(即ち、T_temp < T_constA の関係が成立する)場合に、定常温度T_constAを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
推定温度演算部48Aは、目標温度演算部46Aによって設定された目標温度T_tgtを用いた一次遅れ処理を行なうことで、排気マニホールド22の表面(特定部)の推定温度T_exmanを演算するようになっている。ここで、一次遅れ処理とは、以下の式(4)として示す処理であって、フィルタ処理とも呼ばれる処理である。
【0045】
_exman(n)=(1−K1A)×T_exman(n-1)+K1A×T_tgt(n) ・・・(4)
この式(4)において、T_exman(n)は推定温度T_exmanの今回値である。K1Aは一次遅れ処理に用いられる第1係数であって、図5に示す第1係数マップ55Aに規定されている。つまり、第1係数K1Aは、上述のように、仮想温度演算部45Aが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Aに適用することで得られたものである。T_exman(n-1)は排気マニホールド22表面の推定温度T_exmanの前回値である。T_tgt(n)は目標温度演算部46Aにより演算された排気マニホールド22表面の目標温度T_tgtの今回値である。
【0046】
エンジン制御部49Aは、排気空燃比AFEXを調整するべく、推定温度演算部48Aによって得られた排気マニホールド22の表面(特定部)の推定温度T_exmanに基づいて、エンジン12を制御するものである。
より具体的に、このエンジン制御部49Aは、以下の式(5)により、目標とする排気空燃比(目標空燃比)AF_tgtを演算することで、エンジン12における燃料噴射量を調整することが出来るようになっている。
【0047】
AF_tgt={T_tgt(n)−O_aftA}/G_aftA ・・・(5)
この式(5)において、T_tgt(n)は、目標温度演算部46Aによって演算された特定部の目標温度T_tgtの今回値である。O_aftAは、目標温度演算部46Aが、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを図4に示す変換オフセットマップ54Aに適用することで得られた変換オフセットである。G_aftAは、目標温度演算部46Aが、図3に示す変換ゲインマップ53Aに対して、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを適用することで得られた変換ゲインである。
【0048】
本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。なお、ここでは、主に図6および図7のフローチャートを中心に説明するが、併せて、図8および図9に示すタイムチャートについても説明する。
図6のフローチャートに示すように、まず、エンジン回転速度演算部41が、クランクシャフト角度センサ32によって検出されたクランクシャフト角度θCLに基づいて、エンジン12の回転速度NEを演算する(ステップS11)。また、充填効率演算部42が、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINおよび/または、ブースト圧センサ31によって検出されたブースト圧PTBに基づいて、エンジン12の負荷を示すパラメータである充填効率ECを演算する(ステップS11)。
【0049】
その後、排ガス流量演算部43が、上記の式(1)を用いて、排ガス流量QEXを演算する(ステップS12)。
そして、仮想温度演算部45Aが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、図5に示す第1係数マップ55Aに適用することで、第1係数K1Aを演算する(ステップS13)。
【0050】
その後、定常温度演算部44Aが、ステップS11において演算されたエンジン回転速度NEと充填効率ECとを、定常温度マップ51A(図2参照)に適用することで、排気マニホールド22の表面における定常温度T_constAを得る(ステップS14)。
そして、仮想温度演算部45Aが、上記の式(2)として示す一次進み演算を、温度演算逆モデルMRAを用いて実行することで、仮想温度T_tempを演算する(ステップS15)。
【0051】
その後、目標温度演算部46Aが、ステップS11において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、リーン側限界空燃比AF_limを得る(ステップS16)。
そして、目標温度演算部46Aが、図3に示す変換ゲインマップ53Aに対して、ステップS11において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換ゲインG_aftAを得る(ステップS17)。
【0052】
さらに、この目標温度演算部46Aが、図4に示す変換オフセットマップ54Aに対して、ステップS11において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換オフセットO_aftAを得る(ステップS18)。
その後、この目標温度演算部46Aは、上記の式(3)によりリーン側クリップ温度T_aflimを演算する(ステップS19)。
【0053】
そして、図7のステップS20において、ステップS15で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS14において演算されたリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満であるか否かを、目標温度演算部46Aが判定する(ステップS20)。
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)以上である場合(ステップS20のNoルート)、目標温度演算部46Aは、リーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)を、目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS24)。
【0054】
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満である場合(ステップS20のYesルート)、ステップS15で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS14で演算された定常温度T_constAの今回値T_constA(n)以上であるか否かを目標温度演算部46Aが判定する(ステップS21)。
【0055】
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constA以上である場合(ステップS21のYesルート)、目標温度演算部46Aは、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS22)。
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constA未満である場合(ステップS21のNoルート)、目標温度演算部46Aは、ステップS14で演算された定常温度T_constAの今回値T_constA(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS23)。
【0056】
その後、目標温度演算部46Aが、上記の式(4)として示す一次遅れ処理を行なうことで、排気マニホールド22の表面の推定温度T_exmanを演算する(ステップS25)。
そして、エンジン制御部49Aが、上記の式(5)を用いて、目標とする排気空燃比(目標空燃比)AF_tgtを演算し、この目標空燃比AF_tgtに応じてエンジン12における燃料噴射量を調整する(ステップS26)。
【0057】
ここで、燃料噴射量に着目して、第1実施形態に係る本発明の作用について改めて説明する。
エンジン制御部49Aは、通常、排気空燃比がストイキ(理論空燃比)よりもある程度リッチになるように燃料噴射量を制御することで、未燃燃料の気化潜熱により、排ガス温度が過度に上昇する事態を抑制している。これにより、浄化触媒24やターボチャージャ11が過度に昇温されることで損傷したりする事態を防ぐことが出来るようになっている。
【0058】
一方、排気空燃比をリッチ化させるということは、燃費の低下を招くこととなってしまう。
そこで、このエンジン制御部49Aは、推定温度演算部48Aにより、高い精度で得られた排気系21の特定部(第1実施形態では排気マニホールド22の表面)の推定温度T_exmanが実現されるように、エンジン12の目標空燃比AF_tgtを設定することで、燃料噴射量の増大を出来るだけ抑制し、排気空燃比がリッチ化する期間を出来る限り短くすることが出来るようになっている。これにより、排ガスの過昇温を防ぎながら燃費向上を図ることが出来る。
【0059】
ここで、図8に示すように、エンジン12の負荷および/または回転速度が増大する場合のタイムチャートを用いて、第1実施形態に係る本発明の作用について改めて説明する。
図8におけるtの時点でエンジン12の回転速度NEおよび充填効率ECが変化し、これに起因して、排気系21の特定部における定常温度T_constAがステップ状に変化する(図中、線L1A参照)。
【0060】
このとき、排気系21の特定部の温度は、ステップ状の定常温度T_constAを一次遅れ処理することで、比較的簡易に求めることが出来る(図中、線L2A参照)。
ここで、線L2Aは、線L1Aに対して、時間の経過とともに収束してゆくが、少なくとも時点t〜時点tの間、線L2Aは、L1Aを下回っている。換言すれば、線L2Aが線L1Aに一致するまでは、エンジン12の排気空燃比を薄くする(即ち、燃料噴射量を減じる)ことで、エンジン12の運転に実質的な悪影響を与えることなく、燃費の向上を図ることが出来るのである。
【0061】
つまり、排気系21の特定部の温度(図中、線L2A)を、定常温度T_constA(図中、線L1A)に一致するようステップ状に変化させることが理想的であり、時点tにおいて、エンジン12の排気空燃比を大幅に且つ瞬間的にリーン化させ、排ガス温度を急変させることが出来るとすれば、排気系21の特定部の温度(図中、線L2A)を、ステップ状の定常温度T_constA(図中、線L1A)に一致させることが出来るのである。
【0062】
そこで、第1実施形態に係る本発明では、仮想温度演算部45Aが、温度演算逆モデルMRAを用いて、定常温度T_constA(図中、線L1A)に対して一次進み演算処理を行なうことで、特定部の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを演算するようになっている。つまり、この仮想温度T_tempは、排ガスを何度まで昇温するべきかという暫定的な目標を示すものである。
【0063】
そして、上述のように、未燃燃料の気化潜熱に着目し、排ガス温度を増大させる場合には、排気空燃比を薄くする(即ち、燃料噴射量を減じる)ようにすれば良く、逆に、排ガス温度を低下させたい場合には排気空燃比を濃くする(即ち、燃料噴射量を増やす)ようにすれば良い。
しかしながら、仮想温度演算部45Aによって演算された仮想温度T_tempが過度に高い(例えば、8000℃程度)場合、そのような仮想温度T_tempに対応した排気空燃比を設定することは事実上不可能である。つまり、排気空燃比をリーン化するにしても、おのずとその限界がある。また、仮に、排気空燃比を過度に変化させた場合には、エンジン12の出力トルクの変動,排ガス性能の低下,エンジン12の失火といった現象を生じさせることとなり、エンジン12の運転に悪影響を与えてしまうからである。
【0064】
したがって、第1実施形態に係る本発明においては、目標温度演算部46Aによってリーン側クリップ温度T_aflimを推定するようになっている。
そして、仮想温度T_tempがこのリーン側クリップ温度T_aflim以上になった場合、即ち、排気系21の特定部の温度を仮想温度T_tempに一致させるべく排気空燃比を大幅にリーン化したのではエンジン12の運転に悪影響を与えてしまう場合(図7のステップS20のNoルート)、目標温度演算部46Aは、仮想温度T_tempをそのまま目標温度T_tgtとするのではなく、仮想温度T_tempをリーン側クリップ温度T_aflimでクリップし、このリーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっているのである。なお、仮想温度T_tempをリーン側クリップ温度T_aflimでクリップすることで得られた目標温度T_tgtを図8中、線L3Aで示す。
【0065】
そして、仮想温度T_tempをリーン側クリップ温度T_aflimでクリップすることで得られた目標温度T_tgtに対応する排気空燃比AFEXとなるようにエンジン12を運転している場合、排気マニホールド22表面(排気系21の特定部)の推定温度T_exmanは、ステップ状の目標温度T_tgt(図中線L3A)を一次遅れ処理することで比較的簡易に求めることが出来る(線L4A参照)。
【0066】
なお、エンジン12の負荷や回転速度が減少する場合のタイムチャートは図9に示すとおりである。この図9において、線L6Aは排気マニホールド22表面における定常温度T_constAを示し、線L7Aは排気マニホールド22表面の定常温度T_constA(線L6A)を一次遅れ処理したものを示している。また、線L8Aは定常温度T_constA(線L6A)対して一次進み演算処理を行なうことで得られた仮想温度T_tempを示し、線L9Aは仮想温度T_temp(線L8A)対して一次遅れ演算処理を行なうことで得られた排気マニホールド22表面の推定温度T_exmanを示している。そして、線L10Aは、推定温度T_exmanに基づいて得られた排気空燃比AFEXとなるようにエンジン12を制御した場合における排気マニホールド22表面の実温度を示している。なお、線L8Aに対して一次遅れ処理を施すと線L6Aになる。
【0067】
また、排気マニホールド22表面の温度が許容温度範囲内であれば、エンジン12において余分な燃料を噴射する必要はない。この点を触媒24の観点から捉えれば、この触媒24を活性化させた状態の温度に保つ必要性があることから、エンジン12の負荷や回転速度が減少する場合には、特別な制御は行なわないことを原則としている。なお、この原則は、目標温度T_tgtを常に定常温度T_constAとして設定するものと仮定すれば、エンジン12の負荷や回転速度が増大する場合であっても適用可能である。
【0068】
このように、本発明の第1実施形態に係るエンジン制御装置によれば、目標温度演算部46Aが、仮想温度演算部45Aによって演算された仮想温度T_tempを用いて、排気マニホールド22の表面(特定部)の推定温度T_exmanを演算するようになっている。そして、エンジン制御部49Aが、この推定温度T_exmanに応じてエンジン12の目標とする排気空燃比AF_tgtを設定し、排気空燃比AFEXが目標空燃比AF_tgtと一致するようにエンジン12の燃料噴射量を制御するようになっている。
【0069】
したがって、比較的簡素な手法を用いながらも高い精度で排気マニホールド22の表面(特定部)における推定温度T_exmanを演算し、この推定温度T_exmanに応じてエンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上を図ることが出来る。
また、エンジン12の運転上支障がない範囲、即ち、エンジン12の出力トルクや、エンジン12から排出される排ガスの性能、または、エンジン12の失火といった、エンジン12の運転に好ましくない影響が生じない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化させた場合の空燃比であるリーン側限界空燃比AF_limを、リーン側限界空燃比演算部46が演算するようになっている。
【0070】
また、目標温度演算部46Aは、リーン側限界空燃比AF_limで、エンジン12を運転した場合における排気マニホールド22の表面(特定部)の温度であるリーン側クリップ温度T_aflimを推定するようになっている。
そして、仮想温度演算部45Aにより演算された仮想温度T_tempが、目標温度演算部46Aにより演算されたリーン側クリップ温度T_aflim以上である場合、目標温度演算部46Aは、このリーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
【0071】
また、仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度T_constA以上である場合、目標温度演算部46Aは、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
また、仮想温度T_tempが定常温度T_constA未満である場合、目標温度演算部46Aは、この定常温度T_constAを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
【0072】
次に、図10〜図13を用いて、本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置について説明する。
なお、上述の第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略し、ここでは第1実施形態との相違点に重点を置いて説明する。また、上述の第1実施形態を説明するのに用いた図を用いる場合もある。
【0073】
上述の第1実施形態においては図1を用いて上述したように、車両10にECU40が設けられている場合について説明したが、第2実施形態においては図10に示すように、車両10にECU60が搭載されている。
そして、このECU60においては、いずれもソフトウェアとして、エンジン回転速度演算部41,充填効率演算部(エンジン負荷演算手段)42,排ガス流量演算部43,定常温度演算部(定常温度演算手段)44A,仮想温度演算部(仮想温度演算手段)45B,目標温度演算部(目標温度演算手段)46B,推定温度演算部(推定温度演算手段)48Bおよびエンジン制御部(空燃比制御手段)49Bが記録されている。
【0074】
さらに、このECU60のメモリには、定常温度マップ51B,リーン側限界空燃比マップ52,変換ゲインマップ53B,変換オフセットマップ54B,第1係数マップ55Bおよび第2係数マップ56Bが記録されている。
ここでは、第2実施形態におけるECU60のメモリに記録された、仮想温度演算部45B,目標温度演算部46B,推定温度演算部48Bおよびエンジン制御部49Bを中心に説明する。なお、第2実施形態においては、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aを特定部とした場合について説明する。
【0075】
また、定常温度マップ51Bは、第1実施形態で図2を用いて説明した定常温度マップ51Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。また、変換ゲインマップ53Bは、第1実施形態で図4を用いて説明した変換ゲインマップ53Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。また、第1係数マップ55Bは、第1実施形態で図5を用いて説明した第1係数マップ55Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。
【0076】
仮想温度演算部45Bは、ターボチャージャ11の排ガス導入口(特定部)33aの暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するものである。
この仮想温度演算部45Bには、温度演算逆モデルMRBがシュミレーションプログラムとして組み込まれている。そして、この仮想温度演算部45Bは、この温度演算逆モデルMRBを用いた処理を行なうことで、排気系21の特定部の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するようになっている。
【0077】
この温度演算逆モデルMRBは、温度演算モデル(図示略)の逆モデルである。
また、この温度演算モデルは、エンジン12の運転状態を示すパラメータ(例えば、排気空燃比AFEX,エンジン回転速度NE、充填効率Ecおよび排ガス流量QEX)に応じて変化する、排気系21の特定部(第2実施形態ではターボチャージャ11の排ガス導入口33a)の定常温度T_constBが入力されるようになっている。そして、この温度演算モデルは、入力された定常温度T_constBに基づいた演算処理を行なうことで、排気系21の特定部の現在の温度を出力するようになっている。なお、この温度演算モデルによる演算処理は、具体的には、一次遅れ処理および加重平均化処理である。
【0078】
したがって、この温度演算モデルの逆モデルとして設けられた温度演算逆モデルMRBは、定常温度T_constBが入力されると、この定常温度T_constBに基づいた演算処理を行なうことで、今回、特定部を定常温度T_constBとする場合の入力(仮想温度T_temp)を出力するようになっている。
換言すれば、この温度演算逆モデルMRBによって、定常温度T_constBを得るために、仮想温度T_tempをどの程度の値に設定すべきか、演算することが出来るようになっている。
【0079】
そして、この温度演算逆モデルMRBによる演算処理は、以下の式(6)を用いて周期的に実行されるようになっている。
_temp(n)=(K2B×T_tgt(n-1)−(1−K1B)×T_ingas(n-1)+T_constB(n))/(K1B+K2B) ・・・(6)
この式(6)において、T_temp(n)は仮想温度T_tempの今回値であり、T_tgt(n-1)は目標温度の前回値であり、K1Bは第1係数である。また、T_ingas(n-1)はターボチャージャ11の排ガス導入口33aの事前処理後温度T_ingasの前回値である。T_constB(n)は、定常温度演算部44により演算されたターボチャージャ11の排ガス導入口33aの定常温度T_constBの今回値である。
【0080】
これらのうち、第1係数K1Bは、第1係数マップ55Bに規定され、一次遅れ処理または一次進み処理において用いられる係数である。つまり、この式(6)で用いられる第1係数K1Bは、仮想温度演算部45Bが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Bに適用することで、得られるようになっている。
また、第2係数K2Bは、図11に示す第2係数マップ56Bに規定され、加重平均化処理またはその逆処理において用いられる係数である。つまり、この式(6)で用いられる第2係数K2Bは、仮想温度演算部45Bが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第2係数マップ56Bに適用することで、得られるようになっている。
【0081】
目標温度演算部46Bは、排気系21の任意の部分である特定部の目標温度T_tgtを演算するものである。上述のように、第2実施形態においては、特定部がターボチャージャ11の排ガス導入口33aであるとしている。つまり、第2実施形態において、この目標温度演算部46Bは、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの目標温度T_tgtを演算するようになっている。
【0082】
より具体的に、目標温度演算部46Bは、エンジン12の実用上の運転に支障がない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化した場合の空燃比であるリーン側限界空燃比(限界空燃比)AF_limを周期的に演算するようになっている。
また、この目標温度演算部46Bは、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、このリーン側限界空燃比AF_limを得るようになっている。
【0083】
さらに、この目標温度演算部46Bは、リーン側限界空燃比AF_limでエンジン12を運転した場合における特定部の温度であるリーン側クリップ温度(クリップ値)T_aflimを演算するようになっている。なお、このリーン側クリップ温度T_aflimは、上記の式(3)に準じた式で得られるようになっている。
式(3)のうち、変換ゲインG_aftBは、目標温度演算部46Bが、変換ゲインマップ53Bに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
【0084】
また、変換オフセットO_aftAは、目標温度演算部46Bが、変換オフセットマップ54Bに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
また、目標温度演算部46Bは、仮想温度演算部45Bにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim以上(即ち、T_temp ≧T_aflim の関係が成立する)場合、リーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0085】
また、目標温度演算部46Bは、仮想温度演算部45Bにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満(即ち、T_temp <T_aflim の関係が成立する場合)であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度演算部44により演算されたターボチャージャ11の排ガス導入口33aの定常温度T_constB以上である(即ち、T_temp ≧ T_constB の関係が成立する場合)場合、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0086】
また、目標温度演算部46Bは、仮想温度演算部45Bにより演算された仮想温度T_tempが定常温度T_constBよりも小さい(即ち、T_temp < T_constB の関係が成立する)場合に、定常温度T_constBを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
推定温度演算部48Bは、目標温度演算手段46Bによって演算された目標温度T_tgtに基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの事前処理後温度T_ingasを周期的に演算するものである。
【0087】
より具体的に、この推定温度演算部48Bは、以下の式(7)を用いて、事前処理後温度T_ingasを演算するようになっている。
_ingas(n)=(1−K1B)×T_ingas(n-1)+K1B×T_tgt(n)+K2B×(T_tgt(n)−T_tgt(n-1) ・・・(7)
この式(7)において、T_ingas(n)は、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの事前処理後温度T_ingasの今回値である。
【0088】
1Bは、上述のように仮想温度演算部45Bが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Bに適用することで得られた第1係数である。
_ingas(n-1)は、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの事前処理後温度T_ingasの前回値である。
_tgt(n)は、目標温度演算部46Bによって演算されたターボチャージャ11の排ガス導入口33aの目標温度T_tgtの今回値である。K2Bは、上述のように仮想温度演算部45Bが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第2係数マップ56Bに適用することで得られた第2係数である。
【0089】
_tgt(n-1)は、目標温度演算部46Bによって演算されたターボチャージャ11の排ガス導入口33aの目標温度T_tgtの前回値である。
さらに、この推定温度演算部48Bは、事前処理後温度T_ingasを、そのまま、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの推定温度T_ingasとみなすことで、排ガス導入口33aの推定温度T_ingasを得るものである。
【0090】
エンジン制御部49Bは、排気空燃比AFEXを調整するべく、目標温度演算部46Bによって得られたターボチャージャ11の排ガス導入口(特定部)33aの推定温度T_ingasに基づいて、エンジン12を制御するものである。
より具体的に、このエンジン制御部49Bは、以下の式(8)により、目標とする排気空燃比(目標空燃比)AF_tgtを演算することで、エンジン12における燃料噴射量を調整することが出来るようになっている。
【0091】
AF_tgt={T_tgt(n)−O_aftB}/G_aftB ・・・(8)
この式(8)において、T_tgt(n)は、目標温度演算部46Bによって演算された特定部の目標温度T_tgtの今回値である。O_aftBは、目標温度演算部46Bが、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを変換オフセットマップ54Bに適用することで得られた変換オフセットである。G_aftBは、目標温度演算部46Bが、変換ゲインマップ53Bに対して、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを適用することで得られた変換ゲインである。
【0092】
本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。なお、ここでは、主に図12および図13のフローチャートを中心に説明する。
図12のフローチャートに示すように、まず、エンジン回転速度演算部41が、クランクシャフト角度センサ32によって検出されたクランクシャフト角度θCLに基づいて、エンジン12の回転速度NEを演算する(ステップS31)。また、充填効率演算部62が、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINおよび/またはブースト圧センサ31によって検出されたブースト圧PTBとに基づいて、エンジン12の負荷を示すパラメータである充填効率ECを演算する(ステップS31)。
【0093】
その後、排ガス流量演算部43が、上記の式(1)を用いて、排ガス流量QEXを演算する(ステップS32)。
そして、仮想温度演算部45Bが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、第1係数マップ55Bに適用することで第1係数K1Bを演算する(ステップS33)。また、仮想温度演算部45Bが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、図11に示す第2係数マップ56Bに適用することで第2係数K2Bを演算する(ステップS33)。
【0094】
その後、定常温度演算部44が、ステップS31において演算されたエンジン回転速度NEと充填効率ECとを、定常温度マップ51Bに適用することで、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aにおける定常温度T_constBを得る(ステップS35)。
そして、仮想温度演算部45Bが、上記の式(6)として示す、一次遅れ処理および加重平均化処理の逆処理を、温度演算逆モデルMRBを用いて実行することで、仮想温度T_tempを演算する(ステップS36)。
【0095】
その後、目標温度演算部46Bが、ステップS31において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、リーン側限界空燃比AF_limを得る(ステップS37)。
そして、目標温度演算部46Bが、変換ゲインマップ53Bに対して、ステップS31において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換ゲインG_aftBを得る(ステップS38)。
【0096】
さらに、この目標温度演算部46Bが、変換オフセットマップ54Bに対して、ステップS31において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換オフセットO_aftBを得る(ステップS39)。
その後、この目標温度演算部46Bは、上記の式(3)に準じた式でリーン側クリップ温度T_aflimを演算する(ステップS40)。
【0097】
そして、図13のステップS41において、ステップS36で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS37において演算されたリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満であるか否かを、目標温度演算部46Bが判定する(ステップS41)。
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)以上である場合(ステップS41のNoルート)、目標温度演算部46Bは、リーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)を、目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS45)。
【0098】
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満である場合(ステップS41のYesルート)、ステップS36で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS35で演算された定常温度T_constBの今回値T_constB(n)以上であるか否かを目標温度演算部46Bが判定する(ステップS42)。
【0099】
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constB以上である場合(ステップS42のYesルート)、目標温度演算部46Bは、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS43)。
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constB未満である場合(ステップS42のNoルート)、目標温度演算部46Bは、ステップS35で演算された定常温度T_constBの今回値T_constB(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS44)。
【0100】
その後、推定温度演算部48Bが、上記の式(7)として示す事前処理を行なうことで、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの事前処理後温度T_ingasを演算する(ステップS46)。
さらに、推定温度演算部48Bは、ステップS46において設定された事前処理後温度T_ingasを、そのまま、ターボチャージャ11の排ガス導入口33aの推定温度T_ingasとみなすことで、排ガス導入口33aの推定温度T_ingasを得る(ステップS47)。
【0101】
その後、エンジン制御部49Bが、上記の式(8)を用いて、目標空燃比AF_tgtを演算し、この目標空燃比AF_tgtに応じてエンジン12における燃料噴射量を調整する(ステップS48)。
このように、本発明の第2実施形態に係るエンジン制御装置によれば、目標温度演算部46Bが、仮想温度演算部45Bによって演算された仮想温度T_tempを用いて、ターボチャージャ11の排ガス導入口(特定部)33aの推定温度T_ingasを演算するようになっている。そして、エンジン制御部49Bが、この推定温度T_ingasに応じてエンジン12の目標とする排気空燃比AF_tgtを設定し、排気空燃比AFEXが目標空燃比AF_tgtと一致するようにエンジン12の燃料噴射量を制御するようになっている。
【0102】
したがって、比較的簡素な手法を用いながらも高い精度で排気系21の特定部における推定温度T_ingasを演算し、この推定温度T_ingasに応じてエンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上を図ることが出来る。
また、エンジン12の運転上支障がない範囲、即ち、エンジン12の出力トルクや、エンジン12から排出される排ガスの性能、または、エンジン12の失火といった、エンジン12の運転に好ましくない影響が生じない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化させた場合の空燃比であるリーン側限界空燃比AF_limを、リーン側限界空燃比演算部46が演算するようになっている。
【0103】
また、目標温度演算部46Bは、リーン側限界空燃比AF_limで、エンジン12を運転した場合における特定部の温度であるリーン側クリップ温度T_aflimを推定するようになっている。
そして、仮想温度演算部45Bにより演算された仮想温度T_tempが、目標温度演算部46Bにより演算されたリーン側クリップ温度T_aflim以上である場合、目標温度演算部46Bは、このリーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
【0104】
また、仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度T_constB以上である場合、目標温度演算部46Bは、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
また、仮想温度T_tempが定常温度T_constB未満である場合、目標温度演算部46Bは、この定常温度T_constBを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
【0105】
また、エンジン制御部49Bは、推定温度演算部48Bにより、高い精度で得られた排気系21の特定部(第2実施形態ではターボチャージャ11の排ガス導入口33a)の推定温度T_ingasに応じてエンジン12の目標空燃比AF_tgtを設定することで、燃料噴射量の増大を出来るだけ制御し、排気空燃比AFEXがリッチ化する期間を出来る限り短くすることが出来るようになっている。これにより、排ガスの過昇温を防ぎながら燃費向上を図ることが出来る。
【0106】
次に、図14〜図18を用いて、本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置について説明する。
なお、上述の第1または第2実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略し、ここでは第1または第2実施形態との相違点に重点を置いて説明する。また、上述の第1または第2実施形態を説明するのに用いた図を用いる場合もある。
【0107】
第1実施形態においては図1を用いて上述したように、車両10にECU40が設けられ、第2実施形態においては図10を用いて上述したように、車両10にECU60が設けられている。これらに対して、第3実施形態においては、図14に示すように、車両10にECU80が設けられている。
そして、このECU80においては、いずれもソフトウェアとして、エンジン回転速度演算部41,充填効率演算部(エンジン負荷演算手段)42,排ガス流量演算部43,定常温度演算部(定常温度演算手段)44,仮想温度演算部(仮想温度演算手段)45C,目標温度演算部(目標温度演算手段)46C,事前処理部(事前処理手段)47C,推定温度演算部(推定温度演算手段)48Cおよびエンジン制御部(空燃比制御手段)49Cが記録されている。
【0108】
さらに、このECU80のメモリには、定常温度マップ51C,リーン側限界空燃比マップ52,変換ゲインマップ53C,変換オフセットマップ54C,第1係数マップ55C,第2係数マップ56Cおよび第3係数マップ57Cが記録されている。
ここでは、第3実施形態におけるECU80のメモリに記録された、仮想温度演算部45C,目標温度演算部46C,事前処理部47C,推定温度演算部48Cおよびエンジン制御部49Cを中心に説明する。なお、第3実施形態においては、ターボチャージャ11のハウジング27の表面を特定部とした場合について説明する。
【0109】
また、定常温度マップ51Cは、第1実施形態で図2を用いて説明した定常温度マップ51Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。また、変換ゲインマップ53Cは、第1実施形態で図4を用いて説明した変換ゲインマップ53Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。また、第1係数マップ55Cは、第1実施形態で図5を用いて説明した第1係数マップ55Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。
【0110】
仮想温度演算部45Cは、ターボチャージャ11のハウジング27の表面(特定部)の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するものである。
この仮想温度演算部45Cには、温度演算逆モデルMRCがシュミレーションプログラムとして組み込まれている。そして、この仮想温度演算部45Cは、この温度演算逆モデルMRCを用いた処理を行なうことで、排気系21の特定部の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するようになっている。
【0111】
この温度演算逆モデルMRCは、温度演算モデル(図示略)の逆モデルである。
また、この温度演算モデルは、エンジン12の運転状態を示すパラメータ(例えば、排気空燃比AFEX,エンジン回転速度NE、充填効率Ecおよび排ガス流量QEX)に応じて変化する、排気系21の特定部(第3実施形態ではターボチャージャ11のハウジング27の表面の定常温度T_constCが入力されるようになっている。そして、この温度演算モデルは、入力された定常温度T_constCに基づいた演算処理を行なうことで、排気系21の特定部の現在の温度を出力するようになっている。なお、この温度演算モデルによる演算処理は、具体的には、一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる一次遅れ処理である。
【0112】
したがって、この温度演算モデルの逆モデルとして設けられた温度演算逆モデルMRCは、定常温度T_constCが入力されると、この定常温度T_constCに基づいた演算処理を行なうことで、今回、特定部を定常温度T_constCとする場合の入力(仮想温度T_temp)を出力するようになっている。つまり、この温度演算逆モデルMRCによる演算処理は、一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる一次遅れ処理の逆処理である。
【0113】
換言すれば、この温度演算逆モデルMRCによって、定常温度T_constCを得るために、仮想温度T_tempをどの程度の値に設定すべきか、演算することが出来るようになっている。
そして、この温度演算逆モデルMRCによる演算処理(即ち、一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる一次遅れ処理との逆処理)は、以下の式(9)を用いて周期的に実行されるようになっている。
【0114】
_temp(n)=(K2C×T_tgt(n-1)−(1−K1C)×T_tcsurfWAVE(n-1)+T_constC(n)−(1−K3C)×T_tcsurf(n-1))/K3C/(K1C+K2C) ・・・(9)
この式(9)において、T_temp(n)は仮想温度T_tempの今回値である。
また、K2Cは、第2係数マップ56Cに規定され、加重平均化処理またはその逆処理において用いられる第2係数である。つまり、この式(9)で用いられる第2係数K2Cは、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第2係数マップ56Cに適用することで、得られるようになっている。
【0115】
1Cは、第1係数マップ55Cに規定され、一次遅れ処理または一次進み処理において用いられる第1係数である。つまり、この式(9)で用いられる第1係数K1Cは、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Cに適用することで、得られるようになっている。
_tcsurfWAVE(n-1)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEの前回値であって、詳しくは後述する事前処理部47Cによって得られるものである。
【0116】
_constC(n)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の定常温度T_constCの今回値であって、定常温度演算部44によって演算されるものである。
3Cは、図15に示す第3係数マップ57Cに規定され、一次遅れ処理または一次進み処理において用いられる第3係数である。つまり、この式(9)で用いられる第3係数K3Cは、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを 第3係数マップ57Cに適用することで、得られるようになっている。
【0117】
_tcsurf(n-1)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfの前回値であって、詳しくは後述する推定温度演算部48Cによって演算されるものである。
目標温度演算部46Cは、排気系21の任意の部分である特定部の目標温度T_tgtを演算するものである。上述のように、第3実施形態においては、特定部がターボチャージャ11のハウジング27の表面であるとしている。つまり、第3実施形態において、この目標温度演算部46Cは、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の目標温度T_tgtを演算するようになっている。
【0118】
より具体的に、目標温度演算部46Cは、エンジン12の実用上の運転に支障がない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化した場合の空燃比であるリーン側限界空燃比(限界空燃比)AF_limを周期的に演算するようになっている。
また、この目標温度演算部46Cは、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、このリーン側限界空燃比AF_limを得るようになっている。
【0119】
さらに、この目標温度演算部46Cは、リーン側限界空燃比AF_limでエンジン12を運転した場合における特定部の温度であるリーン側クリップ温度(クリップ値)T_aflimを演算するようになっている。なお、このリーン側クリップ温度T_aflimは、上記の式(3)に準じた式で得られるようになっている。
なお、変換ゲインG_aftCは、目標温度演算部46Cが、変換ゲインマップ53Cに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
【0120】
また、変換オフセットO_aftCは、目標温度演算部46Cが、変換オフセットマップ54Cに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
また、目標温度演算部46Cは、仮想温度演算部45Cにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim以上(即ち、T_temp ≧T_aflim の関係が成立する)場合、リーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0121】
また、目標温度演算部46Cは、仮想温度演算部45Cにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満(即ち、T_temp <T_aflim の関係が成立する場合)であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度演算部44により演算されたターボチャージャ11のハウジング27の表面の定常温度T_constC以上である(即ち、T_temp ≧T_constCの関係が成立する場合)場合、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0122】
また、目標温度演算部46Cは、仮想温度演算部45Cにより演算された仮想温度T_tempが定常温度T_constCよりも小さい(即ち、T_temp <T_constC の関係が成立する)場合に、定常温度T_constCを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
事前処理部47Cは、目標温度演算手段46Cによって演算された目標温度T_tgtに基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEを周期的に演算するものである。
【0123】
より具体的に、この事前処理部47Cは、以下の式(10)を用いて、事前処理後温度T_tcsurfWAVEを演算するようになっている。
_tcsurfWAVE(n)=(1−K1C)×T_tcsurfWAVE(n-1)+K1C×T_tgt(n)+K2C×(T_tgt(n)−T_tgt(n-1)) ・・・(10)
この式(10)において、T_tcsurfWAVE(n)は、ターボチャージャ11のハウジング17の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEの今回値である。
【0124】
1Cは、上述のように仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Cに適用することで得られた第1係数である。
_tcsurfWAVE(n-1)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEの前回値である。
_tgt(n)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の目標温度T_tgtの今回値であって、目標温度演算部46Cによって演算されるものである。
【0125】
2Cは、上述のように、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第2係数マップ56Cに適用することで得られた第2係数である。
_tgt(n-1)は、目標温度演算部46Cによって演算されたターボチャージャ11のハウジング27の表面の目標温度T_tgtの前回値である。
【0126】
推定温度演算部48Cは、事前処理部47Cによって設定された事前処理後温度T_tcsurfWAVEに対しさらなる一次遅れ処理を施すことで、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfを得るものである。
より具体的に、この推定温度演算部48Cは、以下の式(11)を用いて事前処理後温度T_tcsurfWAVEを演算するようになっている。
【0127】
_tcsurf(n)=(1−K3C)×T_tcsurf(n-1)+K3C×T_tcsurfWAVE(n) ・・・(11)
この式(11)において、T_tcsurf(n)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfの今回値である。
3Cは、上述のように、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第3係数マップ57Cに適用することで得られた第3係数である。
【0128】
_tcsurf(n-1)は、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfの前回値であって、推定温度演算部48Cによって得られたものである。
_tcsurfWAVE(n)は、ターボチャージャ11のハウジング17の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEの今回値であって、事前処理部47Cによって得られるものである。
エンジン制御部49Cは、排気空燃比AFEXを調整するべく、目標温度演算部46Cによって得られたターボチャージャ11のハウジング27の表面(特定部)の推定温度T_tcsurfに基づいて、エンジン12を制御するものである。
【0129】
より具体的に、このエンジン制御部49Cは、以下の式(11)により、目標とする排気空燃比(目標空燃比)AF_tgtを演算することで、エンジン12における燃料噴射量を調整することが出来るようになっている。
AF_tgt={T_tgt(n)−O_aftC}/G_aftC ・・・(11)
この式(11)において、T_tgt(n)は、目標温度演算部46Cによって演算された特定部の目標温度T_tgtの今回値である。O_aftCは、目標温度演算部46Cが、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを変換オフセットマップ54Cに適用することで得られた変換オフセットである。G_aftCは、目標温度演算部46Cが、変換ゲインマップ53Cに対して、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを適用することで得られた変換ゲインである。
【0130】
本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。なお、ここでは、主に図16および図17のフローチャートを中心に説明する。
図16のフローチャートに示すように、まず、エンジン回転速度演算部41が、クランクシャフト角度センサ32によって検出されたクランクシャフト角度θCLに基づいて、エンジン12の回転速度NEを演算する(ステップS61)。また、充填効率演算部62が、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINおよび/またはブースト圧センサ31によって検出されたブースト圧PTBとに基づいて、エンジン12の負荷を示すパラメータである充填効率ECを演算する(ステップS61)。
【0131】
その後、排ガス流量演算部43が、上記の式(1)を用いて、排ガス流量QEXを演算する(ステップS62)。
そして、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、図5に示す第1係数マップ55Cに適用することで第1係数K1Cを演算する(ステップS63)。また、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、第2係数マップ56Cに適用することで第2係数K2Cを演算する(ステップS64)。
【0132】
さらに、仮想温度演算部45Cが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、図15に示す第3係数マップ57Cに適用することで第3係数K3Cを演算する(ステップS65)。
その後、定常温度演算部44が、ステップS61において演算されたエンジン回転速度NEと充填効率ECとを、定常温度マップ51Cに適用することで、ターボチャージャ11のハウジング27の表面における定常温度T_constCを得る(ステップS66)。
【0133】
そして、仮想温度演算部45Cが、上記の式(9)として示す一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる一次遅れ処理の逆処理を、温度演算逆モデルMRCを用いて実行することで、仮想温度T_tempを演算する(ステップS67)。
その後、目標温度演算部46Cが、ステップS61において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、リーン側限界空燃比AF_limを得る(ステップS68)。
【0134】
そして、目標温度演算部46Cが、変換ゲインマップ53Cに対して、ステップS61において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換ゲインG_aftCを得る(ステップS69)。
さらに、この目標温度演算部46Cが、変換オフセットマップ54Cに対して、ステップS61において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換オフセットO_aftCを得る(ステップS70)。
【0135】
その後、この目標温度演算部46Cは、上記の式(3)に準じた式によりリーン側クリップ温度T_aflimを演算する(ステップS71)。
そして、図17のステップS72において、ステップS67で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS71において演算されたリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満であるか否かを、目標温度演算部46Cが判定する(ステップS72)。
【0136】
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)以上である場合(ステップS72のNoルート)、目標温度演算部46Cは、リーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)を、目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS76)。
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満である場合(ステップS72のYesルート)、ステップS67で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS66で演算された定常温度T_constCの今回値T_constC(n)以上であるか否かを目標温度演算部46Cが判定する(ステップS73)。
【0137】
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constC以上である場合(ステップS73のYesルート)、目標温度演算部46Cは、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS74)。
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constC未満である場合(ステップS73のNoルート)、目標温度演算部46Cは、ステップS66で演算された定常温度T_constCの今回値T_constC(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS75)。
【0138】
その後、事前処理部47Cが、上記の式(10)を用いた事前処理を行なうことで、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEを演算する(ステップS77)。
そして、推定温度演算部48Cは、ステップS77において設定された事前処理後温度T_tcsurfWAVEに対しさらなる一次遅れ処理を施すことで、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfを得る(ステップS78)。
【0139】
その後、エンジン制御部49Cが、上記の式(11)を用いて、目標空燃比AF_tgtを演算し、この目標空燃比AF_tgtに応じてエンジン12における燃料噴射量を調整する(ステップS79)。
ここで、第3実施形態において、エンジン12の負荷や回転速度が増大する場合のタイムチャートを図18に示す。
【0140】
この図18において、線L1Cは、ターボチャージャ11のハウジング27の表面における定常温度T_constCが、T1からT2へ変化した場合を示している。線L2Cは、ターボチャージャ11のハウジング27の表面における定常温度T_constC(線L1C)に対して事前処理(一次遅れ処理および加重平均化処理)を施したもの、即ち、事前処理後温度T_tcsurfWAVEを示している。線L3Cは、事前処理後温度T_tcsurfWAVE(線L2C)に対して、さらなる一次遅れ演算処理を施すことで得られた、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfを示している。
【0141】
また、線L4Cは、ターボチャージャ11のハウジング27の表面における定常温度T_constCが、上述の線L1Cで示す場合よりも大きく変化した場合(T1からT3(但しT3>T2))場合を示している。線L5Cは、ターボチャージャ11のハウジング27の表面における定常温度T_constC(線L4C)に対して事前処理(一次遅れ処理および加重平均化処理)を施したもの、即ち、事前処理後温度T_tcsurfWAVEを示している。線L6Cは、事前処理後温度T_tcsurfWAVE(線L5C)に対して、さらなる一次遅れ演算処理を施すことで得られた、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の推定温度T_tcsurfを示している。また、線L7Cは、目標温度T_tgtを示している。そして、線L8Cは、目標温度T_tgtを(線L7C)となるように排気空燃比を制御した場合における、ターボチャージャ11のハウジング27の表面の事前処理後温度T_tcsurfWAVEを示すものである。
【0142】
このように、本発明の第3実施形態に係るエンジン制御装置によれば、目標温度演算部46Cが、仮想温度演算部45Cによって演算された仮想温度T_tempを用いて、ターボチャージャ11のハウジング27の表面(特定部)の推定温度T_tcsurfを演算するようになっている。そして、エンジン制御部49Cが、この推定温度T_tcsurfに応じてエンジン12の目標とする排気空燃比AF_tgtを設定し、排気空燃比AFEXが目標空燃比AF_tgtと一致するようにエンジン12の燃料噴射量を制御するようになっている。
【0143】
したがって、比較的簡素な手法を用いながらも高い精度でターボチャージャ11のハウジング27の表面(特定部)における推定温度T_tcsurfを演算し、この推定温度T_tcsurfに応じてエンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上を図ることが出来る。
また、エンジン12の運転上支障がない範囲、即ち、エンジン12の出力トルクや、エンジン12から排出される排ガスの性能、または、エンジン12の失火といった、エンジン12の運転に好ましくない影響が生じない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化させた場合の空燃比であるリーン側限界空燃比AF_limを、リーン側限界空燃比演算部46が演算するようになっている。
【0144】
また、目標温度演算部46Cは、リーン側限界空燃比AF_limで、エンジン12を運転した場合におけるターボチャージャ11のハウジング27の表面(特定部)の温度であるリーン側クリップ温度T_aflimを推定するようになっている。
そして、仮想温度演算部45Cにより演算された仮想温度T_tempが、目標温度演算部46Aにより演算されたリーン側クリップ温度T_aflim以上である場合、目標温度演算部46Cは、このリーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
【0145】
また、仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度T_constC以上である場合、目標温度演算部46Cは、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
また、仮想温度T_tempが定常温度T_constC未満である場合、目標温度演算部46Cは、この定常温度T_constCを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。したがって、エンジン12の運転安定性を確保しながら、燃費の向上に寄与することが出来る。
【0146】
また、エンジン制御部49Cは、推定温度演算部48Cにより、高い精度で得られた排気系21の特定部(第3実施形態ではターボチャージャ11の排ガス導入口33a)の推定温度T_tcsurfに応じてエンジン12の目標空燃比AF_tgtを設定することで、燃料噴射量の増大を出来るだけ制御し、排気空燃比AFEXがリッチ化する期間を出来る限り短くすることが出来るようになっている。これにより、排ガスの過昇温を防ぎながら燃費向上を図ることが出来る。
【0147】
次に、図19〜図21を用いて、本発明の第4実施形態に係るエンジン制御装置について説明する。
なお、上述の第1,第2または第3実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略し、ここでは第1,第2または第3実施形態との相違点に重点を置いて説明する。また、上述の第1,第2または第3実施形態を説明するのに用いた図を用いる場合もある。
【0148】
上述の第1実施形態においては車両10にECU40が設けられ(図1参照)、第2実施形態においては車両10にECU60が設けられ(図10参照)、第3実施形態においては車両10にECU80が設けられている(図14参照)。これらに対して、第4実施形態においては、車両10にECU100が設けられている。
そして、このECU100においては、いずれもソフトウェアとして、エンジン回転速度演算部41,充填効率演算部(エンジン負荷演算手段)42,排ガス流量演算部43,定常温度演算部(定常温度演算手段)44,仮想温度演算部(仮想温度演算手段)45D,目標温度演算部(目標温度演算手段)46D,事前処理部(事前処理手段)47D,推定温度演算部(推定温度演算手段)48Dおよびエンジン制御部(空燃比制御手段)49Dが記録されている。
【0149】
さらに、このECU100のメモリには、定常温度マップ51D,リーン側限界空燃比マップ52,変換ゲインマップ53D,変換オフセットマップ54D,第1係数マップ55D,第2係数マップ56Dおよび第3係数マップ57Dが記録されている。
ここでは、第4実施形態におけるECU100のメモリに記録された、仮想温度演算部45D,目標温度演算部46D,事前処理部47D,推定温度演算部48Dおよびエンジン制御部49Dを中心に説明する。なお、第4実施形態においては、排ガスを浄化する浄化触媒24を特定部とした場合について説明する。
【0150】
また、定常温度マップ51Dは、第1実施形態で図2を用いて説明した定常温度マップ51Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。また、変換ゲインマップ53Dは、第1実施形態で図4を用いて説明した変換ゲインマップ53Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。また、第1係数マップ55Dは、第1実施形態で図5を用いて説明した第1係数マップ55Aとは異なるマップではあるものの、その技術的な意義に大きな違いはないので、ここではその説明を省略する。
【0151】
仮想温度演算部45Dは、浄化触媒(特定部)24の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するものである。
この仮想温度演算部45Dには、温度演算逆モデルMRDがシュミレーションプログラムとして組み込まれている。そして、この仮想温度演算部45Dは、この温度演算逆モデルMRDを用いた処理を行なうことで、浄化触媒(特定部)24の暫定的な目標温度である仮想温度T_tempを周期的に演算するようになっている。
【0152】
この温度演算逆モデルMRDは、温度演算モデル(図示略)の逆モデルである。
そして、この温度演算モデルは、エンジン12の運転状態を示すパラメータ(例えば、排気空燃比AFEX,エンジン回転速度NE、充填効率Ecおよび排ガス流量QEX)に応じて変化する、排気系21の特定部(第4実施形態では浄化触媒24)の定常温度T_constDが入力されるようになっている。そして、この温度演算モデルは、入力された定常温度T_constDに基づいた演算処理を行なうことで、排気系21の特定部の現在の温度を出力するようになっている。なお、この温度演算モデルによる演算処理は、具体的には、一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる3回の一次遅れ処理である。
【0153】
したがって、この温度演算モデルの逆モデルとして設けられた温度演算逆モデルMRDは、定常温度T_constDが入力されると、この定常温度T_constDに基づいた演算処理を行なうことで、今回、特定部を定常温度T_constDとする場合の入力(仮想温度T_temp)を出力するようになっている。つまり、この温度演算逆モデルMRDによる演算処理は、一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる3回の一次遅れ処理の逆処理である。
【0154】
換言すれば、この温度演算逆モデルMRDによって、定常温度T_constDを得るために、仮想温度T_tempをどの程度の値に設定すべきか、演算することが出来るようになっている。
そして、この温度演算逆モデルMRDによる演算処理(即ち、一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる3回の一次遅れ処理との逆処理)は、以下の式(12)を用いて周期的に実行されるようになっている。
【0155】
_temp(n)=(K2D×T_tgt(n-1)−(1−K1D)×T_uccWAVE(n-1)+(T_constD(n)−(1−K3D)×(T_ucc(n-1)+K3D×T_u_t2(n-1)+K3D2×T_u_t1(n-1)))/K3D3)/(K1D+K2D) ・・・(12)
この式(12)において、T_temp(n)は仮想温度T_tempの今回値である。
また、K2Dは、第2係数マップ56Dに規定され、加重平均化処理またはその逆処理において用いられる第2係数である。つまり、この式(12)で用いられる第2係数K2Dは、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第2係数マップ56Dに適用することで、得られるようになっている。
【0156】
1Dは、第1実施形態において説明したように、第1係数マップ55Dに規定され、一次遅れ処理または一次進み処理において用いられる第1係数である。つまり、この式(12)で用いられる第1係数K1Dは、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Dに適用することで、得られるようになっている。
【0157】
_uccWAVE(n-1)は、浄化触媒24の事前処理後温度T_uccWAVEの前回値であって、詳しくは後述する事前処理部47Dによって得られるものである。
_constD(n)は、浄化触媒24の定常温度T_constDの今回値であって、定常温度演算部44によって演算されるものである。
3Dは、第3係数マップ57Dに規定され、一次遅れ処理または一次進み処理において用いられる第3係数である。つまり、この式(12)で用いられる第3係数K3は、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第3係数マップ57Dに適用することで、得られるようになっている。
【0158】
_ucc(n-1)は、浄化触媒24の推定温度T_uccの前回値であって、詳しくは後述する推定温度演算部48Dによって演算されるものである。
加重平均処理後に行なわれる3回のフィルタ処理のうち、1回目のフィルタ後出力がT_u_t1で、その前回値がT_u_t1(n-1)であり、事前処理部47Dによって実行されるようになっている。また、2回目のフィルタ後出力がT_u_t2であって、その前回値がT_u_t2(n-1)であり、推定温度演算部48Dによって演算されるようになっている。
【0159】
目標温度演算部46Dは、排気系21の任意の部分である特定部の目標温度T_tgtを演算するものである。なお、第4実施形態においては、特定部が浄化触媒24であるとしている。つまり、第4実施形態において、この目標温度演算部46Dは、エンジン12から排出される排ガスを浄化する浄化触媒24の目標温度T_tgtを演算するようになっている。
【0160】
より具体的に、目標温度演算部46Dは、エンジン12の実用上の運転に支障がない範囲で、エンジン12の排気空燃比を最大限にリーン化した場合の空燃比であるリーン側限界空燃比(限界空燃比)AF_limを周期的に演算するようになっている。
また、この目標温度演算部46Dは、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、このリーン側限界空燃比AF_limを得るようになっている。
【0161】
さらに、この目標温度演算部46Dは、リーン側限界空燃比AF_limでエンジン12を運転した場合における特定部の温度であるリーン側クリップ温度(クリップ値)T_aflimを演算するようになっている。なお、このリーン側クリップ温度T_aflimは、上記の式(3)に準じた式で得られるようになっている。
なお、変換ゲインG_aftDは、目標温度演算部46Dが、変換ゲインマップ53Dに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
【0162】
また、変換オフセットO_aftDは、目標温度演算部46Dが、変換オフセットマップ54Dに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで得られるようになっている。
また、目標温度演算部46Dは、仮想温度演算部45Dにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim以上(即ち、T_temp ≧T_aflim の関係が成立する)場合、リーン側クリップ温度T_aflimを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0163】
また、目標温度演算部46Dは、仮想温度演算部45Dにより演算された仮想温度T_tempがリーン側クリップ温度T_aflim未満(即ち、T_temp <T_aflim の関係が成立する場合)であり、且つ、仮想温度T_tempが定常温度演算部44により演算された浄化触媒24の定常温度T_constD以上である(即ち、T_temp ≧ T_constDの関係が成立する場合)場合、仮想温度T_tempを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
【0164】
また、目標温度演算部46Dは、仮想温度演算部45Dにより演算された仮想温度T_tempが定常温度T_constDよりも小さい(即ち、T_temp < T_constD の関係が成立する)場合に、定常温度T_constDを目標温度T_tgtとして設定するようになっている。
事前処理部47Dは、目標温度演算手段46Dによって演算された目標温度T_tgtに基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで、浄化触媒24の事前処理後温度T_uccWAVEを周期的に演算するものである。
【0165】
より具体的に、この事前処理部47Dは、以下の式(13)を用いて、事前処理後温度T_uccWAVEを演算するようになっている。
_uccWAVE(n)=(1−K1D)×T_uccWAVE(n-1)+K1D×T_tgt(n)+K2D×(T_tgt(n)−T_tgt(n-1)) ・・・(13)
この式(13)において、T_uccWAVE(n)は、浄化触媒24の事前処理後温度T_uccfWAVEの今回値である。
【0166】
1Dは、上述のように仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第1係数マップ55Dに適用することで得られた第1係数である。
_uccWAVE(n-1)は、浄化触媒24の事前処理後温度T_uccWAVEの前回値である。
_tgt(n)は、浄化触媒24の目標温度T_tgtの今回値であって、目標温度演算部46Dによって演算されるものである。
【0167】
2Dは、上述のように、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第2係数マップ56Dに適用することで得られた第2係数である。
_tgt(n-1)は、目標温度演算部46Dによって演算された浄化触媒24の目標温度T_tgtの前回値である。
【0168】
推定温度演算部48Dは、事前処理部47Dによって設定された事前処理後温度T_uccWAVEに対しさらなる一次遅れ処理を施すことで、浄化触媒24の推定温度T_uccを得るものである。
より具体的に、この推定温度演算部48Dは、以下の式(14)を用いて事前処理後温度T_uccWAVEを演算するようになっている。
【0169】
_ucc(n)=(1−K3D)×(T_ucc(n-1)+K3D×T_u_t2(n-1)+K3D2×T_u_t1(n-1))+K3D3×T_uccWAVE(n) ・・・(14)
この式(14)において、T_ucc(n)は、浄化触媒24の推定温度T_uccの今回値である。
3Dは、上述のように、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを第3係数マップ57Dに適用することで得られた第3係数である。
【0170】
_ucc(n-1)は、浄化触媒24の推定温度T_uccの前回値であって、推定温度演算部48Dによって得られたものである。
なお、T_u_t1(n-1)およびT_u_t2(n-1)については、式(12)の説明において上述したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
_uccWAVE(n)は、浄化触媒24の事前処理後温度T_uccWAVEの今回値であって、事前処理部47Dによって得られるものである。
【0171】
エンジン制御部49Dは、排気空燃比AFEXを調整するべく、目標温度演算部46Dによって得られた浄化触媒(特定部)24の推定温度T_uccに基づいて、エンジン12を制御するものである。
より具体的に、このエンジン制御部49Dは、以下の式(15)により、目標とする排気空燃比(目標空燃比)AF_tgtを演算することで、エンジン12における燃料噴射量を調整することが出来るようになっている。
【0172】
AF_tgt={T_tgt(n)−O_aftD}/G_aftD ・・・(15)
この式(15)において、T_tgt(n)は、目標温度演算部46Dによって演算された特定部の目標温度T_tgtの今回値である。O_aftDは、目標温度演算部46Dが、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを変換オフセットマップ54Dに適用することで得られた変換オフセットである。G_aftDは、目標温度演算部46Dが、変換ゲインマップ53Dに対して、エンジン回転速度NEと充填効率ECとを適用することで得られた変換ゲインである。
【0173】
本発明の第4実施形態に係るエンジン制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。なお、ここでは、主に図35および図21のフローチャートを中心に説明する。
図20のフローチャートに示すように、まず、エンジン回転速度演算部41が、クランクシャフト角度センサ32によって検出されたクランクシャフト角度θCLに基づいて、エンジン12の回転速度NEを演算する(ステップS91)。また、充填効率演算部62が、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINおよび/またはブースト圧センサ31によって検出されたブースト圧PTBとに基づいて、エンジン12の負荷を示すパラメータである充填効率ECを演算する(ステップS91)。
【0174】
その後、排ガス流量演算部43が、上記の式(1)を用いて、排ガス流量QEXを演算する(ステップS92)。
そして、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、第1係数マップ55Dに適用することで第1係数K1Dを演算する(ステップS93)。また、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、第2係数マップ56Dに適用することで第2係数K2Dを演算する(ステップS94)。
【0175】
さらに、仮想温度演算部45Dが、排ガス流量演算部43によって演算された排ガス流量QEXを、第3係数マップ57Dに適用することで第3係数K3Dを演算する(ステップS95)。
その後、定常温度演算部44が、ステップS91において演算されたエンジン回転速度NEと充填効率ECとを、定常温度マップ51Dに適用することで、浄化触媒24における定常温度T_constDを得る(ステップS96)。
【0176】
そして、仮想温度演算部45Dが、上記の式(12)として示す一次遅れ処理および加重平均化処理とさらなる一次遅れ処理の逆処理を、温度演算逆モデルMRDを用いて実行することで、仮想温度T_tempを演算する(ステップS97)。
その後、目標温度演算部46Dが、ステップS91において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを、リーン側限界空燃比マップ52に適用することで、リーン側限界空燃比AF_limを得る(ステップS98)。
【0177】
そして、目標温度演算部46Dが、変換ゲインマップ53Dに対して、ステップS91において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換ゲインG_aftDを得る(ステップS99)。
さらに、この目標温度演算部46Dが、変換オフセットマップ54Dに対して、ステップS91において演算されたエンジン回転速度NEおよび充填効率ECを適用することで、変換オフセットO_aftDを得る(ステップS100)。
【0178】
その後、この目標温度演算部46Dは、上記の式(3)に準じた式でリーン側クリップ温度T_aflimを演算する(ステップS101)。
そして、図21のステップS102において、ステップS97で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS101において演算されたリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満であるか否かを、目標温度演算部46Dが判定する(ステップS102)。
【0179】
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)以上である場合(ステップS102のNoルート)、目標温度演算部46Dは、リーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)を、目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS106)。
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)がリーン側クリップ温度T_aflimの今回値T_aflim(n)未満である場合(ステップS102のYesルート)、ステップS97で演算された仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が、ステップS96で演算された定常温度T_constDの今回値T_constD(n)以上であるか否かを目標温度演算部46Dが判定する(ステップS103)。
【0180】
ここで、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constD以上である場合(ステップS103のYesルート)、目標温度演算部46Dは、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS104)。
一方、仮想温度T_tempの今回値T_temp(n)が定常温度T_constD未満である場合(ステップS103のNoルート)、目標温度演算部46Dは、ステップS96で演算された定常温度T_constDの今回値T_constD(n)を目標温度T_tgtの今回値T_tgt(n)として設定する(ステップS105)。
【0181】
その後、事前処理部47Dが、上記の式(13)を用いた事前処理を行なうことで、浄化触媒24の事前処理後温度T_uccWAVEを演算する(ステップS107)。
そして、推定温度演算部48Dは、ステップS107において設定された事前処理後温度T_uccWAVEに対しさらなる複数回の一次遅れ処理を施すことで、浄化触媒24の推定温度T_uccを得る(ステップS108)。
【0182】
その後、エンジン制御部49Dが、上記の式(15)を用いて、目標空燃比AF_tgtを演算し、この目標空燃比AF_tgtに応じてエンジン12における燃料噴射量を調整する(ステップS109)。
以上、本発明の第1〜第4実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが出来る。その一例を以下に示す。
【0183】
上述の第1〜第4実施形態においては、エンジン12がガソリンエンジンである場合を例にとって説明したが、これに限定されるものではない。エンジン12として、アルコールとガソリンとを混合した燃料(混合燃料)を燃料とする混合燃料エンジンを用いても良いし、ディーゼルエンジンを用いても良い。
また、上述の第1〜第4実施形態においては、充填効率演算部42が、エアフローセンサ28によって検出された吸気流量QINとブースト圧センサ31によって検出されたブースト圧PTBとに基づいて、エンジン12の負荷を示すパラメータである充填効率ECを演算する場合について説明したが、これに限定するものではない。つまり、自然吸気タイプのエンジンにおいては、エアフローセンサによって検出された吸気流量のみに基づいて、充填効率ECを演算するようにしても良い。
【0184】
また、上述の第1〜第4実施形態においては、目標温度演算部46A〜46Dのいずれもが、上述の式(3)に準じた式でリーン側クリップ温度(クリップ値)T_aflimを演算する場合について説明したが、このような場合に限定するものではない。
例えば、エンジン回転速度NE,充填効率ECおよびリーン側クリップ温度(クリップ値)T_aflimをパラメータとする3次元マップを、リーン側限界空燃比AF_lim毎に設定するようにしても良い。この場合、複数の3次元マップの中からリーン側限界空燃比AF_limに応じたものを選択し、その後、選択した3次元マップに対して、エンジン回転速度演算部41によって演算されたエンジン回転速度NEと、充填効率演算部42によって演算された充填効率ECとを適用することで、リーン側クリップ温度T_aflimを演算すればよい。
【0185】
また、上述の第1〜第4実施形態において、リーン側限界空燃比マップ52は、エンジン回転速度Neの大小によらず、常にストイキとなるように設定しているが、これに限定するものではなく、リーン化を強化したり、リッチ化を強化したりする設定にすることも可能である。
また、上述の第1〜第4実施形態をどのように組み合わせることも可能である。
【0186】
ここで、第1〜第4実施形態の全てを組み合わせた場合を例にとると、排気マニホールド22表面,ターボチャージャ11の排ガス導入口33a,ターボチャージャ11のハウジング27表面および浄化触媒24のいずれもが、排気系21の特定部に該当することとなる。また、既に第1〜第4実施形態において説明したように、各特定部の目標温度T_tgtは、目標温度演算部46A〜46Dによって演算される。
【0187】
そして、この場合、演算された目標温度T_tgtのうちの最小値に基づいて目標空燃比AF_tgtを決定する目標空燃比決定手段を設けるようにすれば良い。
そして、この目標空燃比決定手段によって決定された目標空燃比AF_tgtに基づいて、エンジン制御手段が排気空燃比を制御するようにすれば良い。
これにより、エンジンにおいて燃料が余分に噴射される事態を抑制することが可能となり、燃費の向上に寄与することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明は、車両の製造産業などに利用可能である。
また、本発明は、自動車産業や動力出力装置の製造産業などにも利用可能である。
【符号の説明】
【0189】
10 車両
12 エンジン
21 排気系
45A〜45D 仮想温度演算部(仮想温度演算手段)
46A〜46D 目標温度演算部(目標温度演算手段)
47A〜47D 事前処理部(事前処理手段)
48A〜48D 推定温度演算部(推定温度演算手段)
49A〜49D エンジン制御部(空燃比制御手段)
AFEX 排気空燃比
C 充填効率
MRA 第1実施形態における温度演算逆モデル
MRB 第2実施形態における温度演算逆モデル
MRC 第3実施形態における温度演算逆モデル
MRD 第4実施形態における温度演算逆モデル
E エンジン回転速度
_temp 仮想温度
_tgt 目標温度
_constA 第1実施形態における定常温度
_constB 第2実施形態における定常温度
_constC 第3実施形態における定常温度
_constD 第4実施形態における定常温度
_exman 第1実施形態における推定温度
_ingas 第2実施形態における推定温度
_tcsurf 第3実施形態における推定温度
_ucc 第4実施形態における推定温度
_aflim リーン側クリップ温度(クリップ値)
_exmanWAVE 第1実施形態における事前処理後温度
_ingasWAVE 第2実施形態における事前処理後温度
_tcsurfWAVE 第3実施形態における事前処理後温度
_uccWAVE 第4実施形態における事前処理後温度
EX 排ガス流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるエンジンの運転状態が入力され、前記車両の排気系の特定部の温度が出力される温度演算モデルに基づいて、前記エンジンの排気空燃比を制御するエンジン制御装置であって、
前記温度演算モデルで用いられる仮想温度を前記温度演算モデルの逆モデルである温度演算逆モデルにより演算する仮想温度演算手段と、
前記排気系の前記特定部の定常温度を演算する定常温度演算手段と、
前記仮想温度演算手段で演算された前記仮想温度と前記定常温度演算手段で演算された前記定常温度に応じて前記排気系の前記特定部の目標温度を演算する目標温度演算手段と、
前記目標温度演算手段で演算された目標温度に基づいて前記エンジンの排気空燃比を制御する空燃比制御手段とを備える
ことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記温度演算逆モデルは、
前記仮想温度を一次遅れ処理することで前記特定部の温度を出力する前記温度演算モデルの逆モデルである
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記目標温度演算手段は、
前記仮想温度演算手段によって演算された前記仮想温度が所定のクリップ値以上である場合に、前記クリップ値を前記目標温度として設定する
ことを特徴とする、請求項1または2記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記目標温度演算手段は、
前記仮想温度演算手段によって演算された前記仮想温度が所定のクリップ値未満である場合に、前記仮想温度を前記目標温度として設定する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記目標温度演算手段は、
前記仮想温度演算手段によって演算された前記仮想温度が前記定常温度演算手段によって演算された前記定常温度がよりも小さい場合に、前記定常温度を前記目標温度として設定する
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記目標温度演算手段によって演算された前記目標温度に基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで事前処理後温度を演算し、前記事前処理後温度を前記特定部の温度の推定値である推定温度とみなす推定温度演算手段とをさらに備え、
前記空燃比制御手段は、
前記推定温度演算手段によって演算された前記推定温度に応じて前記排気空燃比を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記目標温度演算手段によって演算された前記目標温度に基づいた一次遅れ処理および加重平均処理を実行することで事前処理後温度を演算する事前処理手段と、
前記事前処理手段によって演算された前記事前処理後温度に基づいたさらなる一次遅れ処理を実行することで、前記特定部の温度の推定値である推定温度を演算する推定温度演算手段とをさらに備え、
前記空燃比制御手段は、
前記推定温度演算手段によって演算された前記推定温度に応じて前記排気空燃比を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記推定温度演算手段は、
前記事前処理後温度に基づいたさらなる一次遅れ処理を複数回実行する
ことを特徴とする、請求項7記載のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記目標温度演算手段によって演算された前記目標温度に基づいた一次遅れ処理を実行することで、前記特定部の温度の推定値である推定温度を演算する推定温度演算手段をさらに備え、
前記空燃比制御手段は、
前記推定温度演算手段によって演算された前記推定温度に応じて前記排気空燃比を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項10】
前記車両の前記排気系には、複数の前記特定部が設けられ、
前記目標温度演算手段は、複数の前記特定部ごとに前記目標温度を演算し、
前記目標温度演算手段により演算された複数の前記目標温度のうちの最小値に基づいて目標空燃比を決定する目標空燃比決定手段をさらに備え、
前記空燃比制御手段は、前記目標空燃比決定手段によって決定された前記目標空燃比に基づいて前記排気空燃比を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−117394(P2011−117394A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276889(P2009−276889)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】